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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 108 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/01/21(火) 21:24:05.25 ID:kZuWh2Jg0
- 張燕は、フン、と何か拗ねたように口を尖らせる。
「ああ、そりゃあ勘弁願いたいねえ。あたしゃ大きな博打は勘弁さね。
一世一代の大博打に勝ったんだからさ、あとはこつこつと積み重ねていきたいものだよ」
そして、打って変わったようにけらけらと軽やかに笑う。
そう、そうだからこそ。それが分かっていたからこそ俺は黒山賊を選んだのだ。表面的には不倶戴天の黒山賊――実際は馴れ合いも甚だしいのだが――に身を預けたのだ。
それは成算あってのこと。張燕という女傑を高く評価しているからこそ、である。
「まさかに、黒山賊を率いる女傑がなあ。言行不一致甚だしいとはこのことだろうな」
「おやおや、アンタがそれを言うのかい。袁家という巨大な組織を牛耳るアンタがそれを言うかね。
まったく。重ねて言うけどね。あたしゃ分の悪い賭けは大嫌いでね。アンタだってそうじゃないのかい?」
フン、と一つ笑って俺は言う。
「賭け事は、胴元に限る」
その言に呵呵大笑する張燕。いつぞやもこうだったな、と思い出す。
黒山賊の本拠地に身を寄せた時に、裂帛の気迫をひた隠しにしながら問われた時だ。
――曰く、アンタの目指すところはどこだ、と。
無論、応えてやったよ。さっさと隠居したい、ってね。隠居した後にあれこれ悩むのも面倒だから、世は平らかでないといけないと。
だから、俺はさっさとのんびり隠居したいだけだと。そのために色々やっていると。
いや、張燕みたいな麗人が呆けた顔というのは中々見れないから、ある意味眼福であったのだろう。艶姿の今よりもきっとね。
まあ、張燕が恐ろしいのはそれだけではない。いつまでも野盗なんかやってられないとばかりに母流龍九商会に目端の利く者を数十名送り込んできた。
そしてでっちあげたダミーカンパニーの呂商会。これにより直接物流に携わる。南皮から洛陽までの最短ルートはもともと黒山賊が押さえていたこともあり、これが莫大な利益を生む。
張燕がしたたかなのは、これを呂商会独占としなかったことだ。他の商会もそのルートを使う。ただし護衛料がマージンとして上乗せされるので、価格的優位性はダントツ。
野盗まがい、というよりほとんど野盗の集団であった黒山賊を、一部とはいえそうして使いこなし、十万とも言われるその数をきっちり養う。しかも合法的に。
その、ソフトランディングのための調整能力というか、統率能力というか、先見性に俺は感嘆しきりなのである。
「まあ、黒山賊と袁家は不倶戴天の敵だけどな」
ぴしり、とそれでも馴れ合うつもりはないと一応主張してもまあ、蛙の面になんとやらである。
「ま、固いことはいいっこなしさ。そら、一献」
いつのまにか手にした酒を、これまたいつのまにか掴ませた酒杯に注いで張燕はにんまりと笑う。俺もしょうがないから、笑う。
「そうだな。できることなら、長いお付き合いであってほしいね」
「おや、嬉しいことを言っておくれでないかい。そうだね、どうせならより親しくなっとくかい?」
むわり、と成熟した女の色気が俺を取り巻く。肌を重ねるか、と露骨に問うてくる。
「いや、俺は情に流されるからな。それはやめとく」
あらそうかい、と残念そうに身をひるがえす。
「ま、きっちり南皮まで送り届けてやるよ。姫さんたちと一緒にね。
今後とも。どうぞお引き立てのほどを」
その言葉を聞き流し、思う。
明日だ、明日には帰れる。南皮に帰れる。
それから、どうするんだ?決まっている。でも、気が進まない。それは許されない。
室に一人。
酒精を呷りながら、意識が混濁していくのを心地よく迎えて、沈む――。
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