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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 107 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2020/01/21(火) 21:23:39.49 ID:kZuWh2Jg0
- ――目の前に広がるは曇天。今にも雨が降りそうな黒いそれは、今の漢王朝の行く末を思わせる。
どんよりとした空気は重く、湿っぽい。ひょっとしたら薄く雨粒が落ちているのかもしれない。それくらいに粘つく空気だ。
それでも、それでも俺はこうして生きている。だったら歯を食いしばってでも生きるしかない。前に進むしかない。
などと珍しくシリアスさんと仲よくして雰囲気に浸(ひた)っている俺に声がかけられる。いや、人間暇だとロクなこと考えねえってことさね。
「旦那!あね……呂伯奢様がお呼びだ――ですぜ!」
あいよと軽く応えてどっからどうみてもごろつき寸前の男に手をひらひらとさせて持ち場を離れる。
今の俺は呂伯奢率いる商会の用心棒……ぽい感じで振舞っている。
呂商会は母流龍九商会がカバーできていない南皮から洛陽の北回りのルートを牛耳る商会だ。
その会頭たる呂伯奢と知り合ったのは俺が放浪している時にたまたま――って訳じゃあない。
「お呼びだそうで。入るぞ」
応えも聞かずに戸を開け、室に踏み込む。
「おや、お早いお着きだことで」
出迎えるのは着飾った妙齢の麗人。艶然と笑いながら俺を差し招く。優雅なその様は貴人のもの。漂う色香は成熟したそれであり、思わせぶりにしなをつくる。
まあ、普通に魅力的な麗人ではあるのだが、それどころではないのである。今の状況がね、それどころじゃないのですよ。
「うるせえよ。さっさと用件言えってば」
「つれないねえ。そんなんじゃ女にもてないよ……と言いたいところだけど、そうでもないみたいだしね。
ま、いいさね。南皮までの道程に敵影なし。明日払暁に発つことにする。
二刻もすりゃあ無事に我が家への帰還がかなう見込みさね」
くすり、と妖艶と言っていい笑みで呂伯奢――ええい、面倒だ。張燕がそう言う。
そう、俺が、俺たちが南皮までの道程を、身を任せたのは黒山賊であった。
「まあ、しかし驚いたよ。まさかアタシ達のとこに来るなんて思ってもみなかったからね」
艶然と、しかし苦笑気味に張燕は呟く。
「そうかい。お前さんがそうなら、他の誰にも読むことはできんってことだろうからな。そりゃあよかったよ」
洛陽を脱出した俺たちが身を寄せたのは薄汚い寒村。洛陽からほど近いそこは実は黒山賊の出先機関。
政局、機を見るに敏。その張燕は中央の動きには非常に高い関心を寄せており、いち早く動きを捉えるために村一つを買収していたのだ。
その、いわば隠れ里的なそれを俺が知っていたのは張燕に渡された一枚の地図。黒山賊のそのようなアジトを克明に記したそれのおかげだ。
「でもねえ、思わなかったのかい?アタシが、アンタたちを売る、ってことは」
挑発的なその言葉。
まあ、そうよねえ。でもね。
「ないね。生死を問わず、洛陽に俺たちを売ったとしたら黒山賊に未来はない。
面目にかけて袁家は本気で黒山賊を討つさ。それくらいは自明の理。そんな選択をするかね」
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