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タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7

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165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2020/03/02(月) 19:17:40.28 ID:VBQn1btn0
>>74「海底の花火」

 ――聞こえるか? おい、返事ができるやつは返事をしろ。

 …………いいや、やめだ。点呼だ、点呼を取る。番号!

 ――いち!

 ――に!
 
 ――…………………………

 ――よん!

 ――…………………………

 ――…………………………

 ――…………なな。

 ――…………………………

 ――きゅう!

 そうか、半分しかいないか。みんな、艦内前方に集まってくれ。真っ暗だから、壁を伝ってな。



 明かりは全滅、計器類はほとんどダウン。動いてるのは酸素メーターと深度計、あとは酸素供給系統か……。

くそっ、通信、レーダー、発信機はことごとくだめか! ハッチもいかれてて脱出も試みられやしない!

なまじ生きられるだけあって、かえって地獄だな、これは……。

 ちくしょうめ、と手の中でライターを揉んでいる。彼は艦員の中で一番若く、短絡な男だった。整髪剤で逆立てた髪の乱れを気にしている。

 焦っても仕方ないさ、と壮年の男がたしなめるような優しい声で言った。こちらは三十代前半の整備士である。

左手の薬指にはプラチナの指輪がきらめきを待ちつつはめられている。指の背に触れるところには、Hirochika Yanaseの文字が刻まれている。

 その彼の背中にしがみついているのは髪の長い、三十路ちょうどくらいの若い女だ。

こちらも左手の薬指にリングがあって、やはりMasano Yanaseと刻印されている。二人は夫婦で、結婚してから三か月だった。

出航した直後には、二人向かい合って笑い、早く子供が欲しいな、などといちゃついて桃色の関係を披露していた。

 航海士は生存こそしているものの、全身を打って衰弱甚だしい。すでに意識はもうろうとし、へし曲がった腕はタオルで簡易的に縛られている。

舌の周りが随分と悪い。急性硬膜下血腫だろうか?

 艦長は動けない航海士の代わりに操舵を担っているが、動かないものはどうしようもないから、レンズをのぞきあたりを見回している。

見えるのは青ざめた砂である。のっぺりとした感触に思われ、おそらくはかき回す存在がまれなのだろう。

 うっすらとした影が見えた。オオグチホヤである。透明な口をばっくり開け、流れてくる微細な餌を飲み込んでいる。

近くには小さなエビ。長いひげを垂らして歩いていた。従容とした態度が艦長には気に入らなかった。

エビごときがあんなに悠々としておいて、どうしておれたちがこれほどに静かに絶望しなければいけないのか?

 明かり、使っていぞ。動ける三人の艦員はそろって顔を上げた。

闇のヴェールがかかった輪郭しかわからず、どんな表情をしているのか知ることはできない。

ただ確かなのは、Yanase夫妻が濃厚なキスをしようとしていたことだけだ。

二人は見つめ合うと、MasanoはHirochikaの首に手を回し、曖昧な香りの息をして顔を寄せた。そして吸いつくように二つの唇を重ねたのである。

 今さら愛するものたちが絡み合っても、場が華やぐということは決してなかった。

そうなるためには、機能をほとんど停止し、生殺しに処されている潜水艦内はあまりに希望がなかった。

その証拠に――Yanase夫妻は涙を流しながら舌を絡めあっている!

「あっ」と艦長が声を上げた。艦員は――航海士はわずかに首を傾けたのみだが――一斉に艦長のほうを振り向いた。「火山が揺れている」

「噴火ですか」「ああ、海底火山の噴火だ」「でも火口は」「いや……低い。かなり深いところから裾野はつながっているみたいだ」「では火山灰は我々の上に積もるのでは」「そうなるだろう」「わたしたちは移動することができないんですよね」「無論」「灰に埋まってグッド・バイですか」「そうなるな」「じゃあ、僕らは二度度発見されないというわけですか! 結婚したばかり、可憐な子供が生まれたかもしれないのに」「残念だ」「いやですよ、そんなの……」「もっと、燃えるように生きたかったぜ、馬鹿野郎が! ナナ、ちくしょう!」

 あ、と航海士が細い声を上げた。モニターが点灯していた。「外が見える……」

 マリンスノーが、彼らを葬らんばかりに美しく振っていた。桜吹雪が散るみたいに……そして奥の海底火山が二度、三度震えて火を噴いた。

 赤いマグマは瞬間的に冷えて黒くなる。そのわずかな光の繚乱さを彼らは認めないわけにはいかなかった。

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