【ミリオン】大好き!クラウザー号!

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3 :伊丹 [sage]:2019/10/25(金) 23:58:33.65 ID:kwATUQp60



ーーとか言ってたら、早速ブログのコメント欄に反応が!


『のり子ちゃん、免許合格おめでとう!
新しいバイク楽しみにまってます!
……ところで、クラウザー号とはお別れになっちゃうのでしょうか?(´;ω;`)』



クラウザー号……アタシが付けた、今のバイクの名前。
アタシはこれまでツーリングの写真をブログにアップしてたんだ。

「ーーだそうだけど、どうするんだ?」

「…うん。バイクを買ったお店の人に相談したんだけどさ…」

クラウザー号の改造前の純正パーツはぜんぶ保管してて、目立つ傷もないし、
かなりいい査定額をだしてもらったんだ。

実家にも2台バイクを置くスペースなんかないし。
懐事情が厳しい今、アタシにはかなりおいしいハナシ。

でもアタシはどうしても気が晴れない。


4 :伊丹 [sage]:2019/10/25(金) 23:59:11.76 ID:kwATUQp60



「…でも、あの子は…クラウザー号は、アタシの初めてのバイクでさ。
正直、あんまり気乗りしないんだ…」

「そうか……
でも、買取の話が通っているのなら、お別れまで大事に乗ってやらないとな?」

おわかれ……アタシはそう聞いたとき胸がきゅっと締め付けられる。
でもそんな思いを振り払うように

うん、そうだね!と自分に活を入れるように立ち上がる。


「…落ち込んでてもしょうがないよね!
 じゃあ、お別れするならちゃんとしてあげたい!」



 だから……!




5 :伊丹 [sage]:2019/10/25(金) 23:59:57.37 ID:kwATUQp60





『クラウザー号お別れの会!?』


休日、アタシに呼び出された3人が口を揃える。

「えー、のり子これ売っちゃうのかよ!もったいねー!」
永吉昴はそう口を尖らす。

「のり子ちゃん新しいバイクを買うんだね!今度はびゅーん!って、
お空も飛べたらいいね♪」
北上麗花さんはスキップするような口調で話す。

「こ、こここんなすてきな集まりにあ、ありさもお呼ばれするなんて、
いいんでしょうかーー!!ふぉおおおお!」
そう叫びながら写真をパシャパシャと撮ってる松田亜利沙。


アタシは3人を見つめて話す。


6 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:00:29.15 ID:SXeAMA+D0


「さっき話したとおり、このクラウザー号とお別れすることになったんだ!
だから最後にこの子とキッパリお別れをしたくて、みんなに来てもらったんだ」

3人はそれを聞いてお互いに顔を見合わす。

「お別れするのはいいけどさ、具体的に何やるんだよ?
フライをバイクで取りに行くとか?」

昴はアタシに問う。


「いや、お別れの会とか言っちゃったけど、ただ遊びに行くだけだよ!」


でも1つだけやりたいことがあって!
と、アタシは人差し指を作って集めたみんなに言う。




「クラウザー号の写真を撮って欲しいんだよね!」




7 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:00:57.63 ID:SXeAMA+D0



「では、撮りますよー!」

麗花さんの運転するオープンカーの助手席から、後ろを2人乗りで走るクラウザー号の写真を撮る亜利沙。

アタシと昴は笑顔で片手を振る。


「なるほどなーーー!
たしかにバイクって自分が乗ってるときの写真とかってなかなか無いもんなーーー!」

「うん!!この子が元気に走ってるところ、撮ってあげたくてさーーー!!!」


風切り音に負けないように顔を近づかせて大声で話すアタシと昴。
前を走る麗花さんのオープンカーの助手席から亜利沙の
『いい画、撮れました!』の合図のサムズアップが送られる。


8 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:01:30.51 ID:SXeAMA+D0



アタシは前後に他のクルマがいないことを確認する。
追い越し車線に移って、麗花さんのクルマと並走する。



「あははは♪バイクと車で走るのって楽しいね!
追っかけっこしてるみたい!
ビューーーン!」


そう楽しそうにクルマを加速する麗花さん!
アタシも昴も、待てーーって笑いながら追従する!
モチロン、制限速度以内でね♪


9 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:02:28.74 ID:SXeAMA+D0


それから小一時間くらい走って、海沿いの街に来た。
今は海のよく見えるカフェのテラス席にクラウザー号を横付けして、
4人でケーキセットを食べてる。


「ふおおおお!!
海!おしゃれなカフェ!そしてアイドルちゃん!クラウザー号さん!
じょ、情報過多ですうううう!!!撮れ高はいただきですうううう!!」


「このプリンケーキおいしいなぁ♪
この前茜ちゃんのプリン食べちゃったけど、お返しに買っていってあげたいなぁ!
……でも、持ち帰りは無理そうだなぁ…。
そうだ!代わりにもずくを入れておいてあげよう♪」


亜利沙と麗花さんもそれぞれにカフェの時間を楽しんでいる。
アタシもオシャレなケーキを食べやすいようにフォークで解体してもぐもぐしてる。
だって食べにくいんだもん!

10 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:03:15.85 ID:SXeAMA+D0


「…なんかさ、今日みたいに2人乗りしてると思い出すよな!
元旦に海沿い走って、初日の出見にいったりさ!」

昴は頬杖をつきながらストローの袋を弄びながら話す。

あったねぇそんなことも!
なんてふたりで寒かったー眠かったーと思い出を話しあう。

「…なんかバイクってさ、クルマと景色?が違うのかな。
濃いっていうか…
あのとき見た日の出、いつもよりすっげーキレイに見えた気がするんだよなぁ……
なんでだろう」


そう言って昴は横付けしているクラウザー号を見やる。


「……なぁのり子、ほんとにこれ手放しちゃうのか?」

「……うん。そのためにこうやって遊びに来てるけど」

「ふーん……そっか!
のり子が決めたんなら、しょうがないか…」

クラウザー号から目を離さずそう話す昴。




アタシも釣られるようにまじまじクラウザー号を眺める。
見慣れたカタチ
アチコチ弄ってある車体
ここのパーツは合いが悪かったな
あそこはパーツを外すのに苦労したんだったな
ここは探すのに苦労して…
…なんて取り付けた一つ一つのパーツをじっくり眺める。


そんなアタシたちの様子を、亜利沙はジーッと静かにカメラを向けてる。


11 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:03:51.86 ID:SXeAMA+D0



「わーーー!!バイクってすごいねーーー!ヒコーキみたい!!
風になったみたいに!!ビューーンって!!」


カフェで休憩したあとは、亜利沙と麗花さんをクラウザー号に乗せることになった。
海沿いの車通りの少ない道路を何度も往復して走行中の撮れ高を狙うんだって!


亜利沙は慣れないタンデムに戸惑いながら、
『近すぎですー!!』とか興奮して終始何かを叫んでた。
今は麗花さんを後ろに乗せてる。



「あはは!飛行機みたいって!麗花さんらしいねーー!」

麗花さんは長い髪をなびかせながら、心底楽しそうに話す。

「だってほら!!こうやって手を広げたら、
ホントに飛んでいけちゃいそうだよーーーー!!!!
ぶーーーーん!!!」

アタシの肩を掴んでいた両手を一瞬離され、ドキッとする。

「わわわ!危ないからやめてーーー!!」


「あははは!!」
透き通った声で麗花さんは爽快に笑う!



12 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:04:40.33 ID:SXeAMA+D0


ひとしきりはしゃいで会話が途切れた頃合いに、
アタシは麗花さんに伝える。

「……麗花さん!
今日は、ありがと!
クルマも出してくれてさーー!!!
アタシのワガママに付き合わせちゃってさーー!!」

「………」


それを聞いた麗花さんは少し考えるような間をおいて、
アタシにさらにピタッと体を密着させる。

アタシの耳に触れる寸前まで麗花さんは唇を近づける。
麗花さんの、息遣い、すごい聞こえる。
ちょっと、ドキドキ、するかな?

今までの大きな声ではなく、囁くように
でもよく通る声でアタシに問いかける。



「ねえ、のり子ちゃん。やっぱり…寂しい?」



短い問いかけにアタシは、えっ?と少し混乱する。
少し遅れて、それがクラウザー号のことだと理解が追いつく。
後ろの様子をミラーで伺うけど、麗花さんは顔が見えない角度にいる。


アタシは意識を前に戻して、ゆっくり、 問いかけに答える。



13 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:05:08.25 ID:SXeAMA+D0



「正直、わかんない。
今まで一緒にいるのが当たり前だったこの子がいなくなるのなんて、
あんまり想像できないんだ。

現実味、ないよ」




「……そっか。
この子はのり子ちゃんに…
とっても、とーーっても大事にされてきたんだね♪
……たぶん、いままでも…これからも!」


これから?
どういうこと?だってこの子はもう……
そういいかける前に、カメラを構えた亜利沙と、手を振っている昴が見えた。




14 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:05:45.12 ID:SXeAMA+D0








お別れ会を開いてから、2週間ほど経った。
今日は、クラウザー号の引き取り日。


あれだけ毎日乗っていたクラウザー号。
今日が最後だなんで、ほんとに信じられない。
それくらい、当たり前の存在。


改造で取り外した純正パーツは着払いで店に送ってある。
実家の一角を占めていたパーツ置き場はすでにからっぽ。


アタシはバイク屋へ行くためにクラウザー号のカバーを外す。
最後にカバーを掛けたときから変わらない姿が、そこにある。

エンジンを掛ける。
あっけなくエンジンは掛かって、
微振動を伴いながら歯切れのいいトトト、という排気音を響かせてる。


いつもの音。落ち着く音。
バイク店までの短い道のりが、アタシとクラウザー号の最後のツーリングになる。


15 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:06:26.26 ID:SXeAMA+D0




「お待たせしました福田さん!
ただいま、スタッフがバイクのチェックをしています」


そう柔和な笑みを浮かべて女性店員が奥から出てくる。
店にクラウザー号を預けて、店の事務所で待たされていた。


「査定額通りの金額で買取させていただきます。こちらの金額でよろしいですか?」


「……はい」


「ありがとうございます!
では、こちら買取金額になりますね。ご確認ください」

お金の確認を店員と確認してから、
現金が入った封筒をアタシはたしかに受け取る。


「…えー、今回とても良い車両状態だったので、
当店まで送っていただいた純正パーツを付けて、店頭に並ぶ予定です!

……あの子なら、まだまだ走れます。
きっとすぐ買い手が見つかると思いますよ!」


アタシを気遣ってか、フォローするように話す店員さん。
そんなに顔に出てるのかな?



16 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:07:05.98 ID:SXeAMA+D0


それから次の車両の入荷日の話をぼんやりと聞いて、
アタシの店への用事は終わった。







店員に見送られながらヘルメットを抱えて店をあとにしたとき、
背後の店の整備ピットの中から聞き慣れた排気音が響く。


クラウザー号のエンジンの吹け上がりのチェックかな。
アタシが運転しているときには聞こえない、
ラフなスロットルワークの甲高い排気音―――!




物言わぬ、機械のはずなのに
ただの、排気音のはずなのに
その音は、アタシの耳にひどくこびりつくように残響する。



17 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:07:31.88 ID:SXeAMA+D0



アタシにはそれがクラウザー号の悲痛な悲鳴に聞こえる。




自分をお金と交換したことを責めるように

行かないで!おいて行かないで!とすがるように

また一緒に走ろうよ!今度はどこへ行く?と健気に誘うように





その音はアタシに何かを訴えかけるように、鳴り響く。




あの子を売ったお金を受け取った自分が、急に卑しい人間に感じられる。


その声を聞くのが辛くて、
身を切られるように、
心を…ぎゅっと締め付けられるように感じて―――



気づけば、アタシはヘルメットを抱えて逃げるように走り出していた。




アタシがどれだけ息を切らして走っても。
店からどんなに遠く離れても。
あの声が…



遠くでまだ鳴き続けているように感じた―――――


18 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:08:32.35 ID:SXeAMA+D0






「……あ、のり子!
いまちょっといいか?この前のクラウザー号のお別れ会の写真だけどさ…!」

「……」

「おーい、のり子?」

「ハッ、えっ!ヘルメットはもう決めてあるよ!買い直さないとね!」

「なんの話してんの…?
なんかのり子、ここのところ様子が変だぜ?」

クラウザー号を手放してからというもの、アタシはボーっとしている時間が増えた。

「はは…!なんでかな?多分、寝不足かな!ははは!」


そうアタシはムリに笑顔を作って話す。
大学の友人と会いに行くにも、無意識にバイクで向かう想定の時間で約束して遅刻したり。

家に帰るとクラウザー号が停まっていた場所の、
周りと色が違うコンクリートの色をじっと見つめていたり。

もう無いのはわかっているはずなのに。
無意識に、クラウザー号の残り香を探してしまう。



19 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:09:15.72 ID:SXeAMA+D0



「おいおい、ちゃんとしろよな!
…で、本題な。これから時間ある?亜利沙がさ!」

この前のお別れ会の写真の編集が終わったので、みんなで集まって鑑賞会しないか、という話。


自分で言い出しておいて…
しかも編集は亜利沙に任せきりで、
こんなことは口が裂けても言えないケド。


あまり気乗りしない。
今あの子の姿を見ても、つらくなるだけな気がして。



それでも言い出しっぺだし、アタシもケジメをつけたくて誘いを受けた。



20 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:10:02.27 ID:SXeAMA+D0


案内された部屋では、スクリーンとプロジェクターが用意してあった。
写真の鑑賞会なのに、大げさじゃないかな?


「わー!なんだか、映画の上映みたいだね!ホラーかな?恋愛かな?」

「ええっ!?まじ?あの日の写真でそんなの作れるなんて編集ってすげぇな!」

と、特大のポップコーンをボリボリ食べている麗花さんと昴

「クラウザー号さんのお別れには間に合いませんでしたが…亜利沙、頑張りました!
では、の……のり子さん、いいですか?」


目の下にクマを作った亜利沙が、アタシのサインを待つ。
意を決してアタシは…大きくうなずく。



「では…!」



亜利沙は部屋の明かりを消して、
スクリーンに画像が映し出される。






軽快なBGMとともに映し出される、あの日の画像…




21 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:11:33.07 ID:SXeAMA+D0



――――と思っていたのに。





映し出されたのは、クラウザー号と…!
聞こえてくる、あの子の端切れのいい、排気音!

そして、生き生きとアタシを乗せて、走っている…鮮明な、映像だった!!




クラウザー号を出発前にローアングルから狙う亜利沙を呆れるアタシ。

クラウザー号に乗っているアタシと昴がカメラに向かって手を振っている。

クラウザー号の脇で美味しそうにスイーツを食べる4人。

クラウザー号に乗った麗花さんとアタシが楽しそうに歌ってる。

クラウザー号を海がよく見える場所に停めて、アタシ、麗花さん、昴が3人乗りできるかふざけあっている。

クラウザー号と一緒に写真を… 
クラウザー号がよく見えるような…
クラウザー号と夕日が…



終始軽快で、どこかおどけたようなBGMと一緒に、
たのしそうにはしゃぐアタシ達と、クラウザー号の1日が鮮明な映像で流れ続けて。

10分ほどの短い映像がおわり、画面に大きくfinの文字が映し出される。



22 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:12:31.71 ID:SXeAMA+D0


亜利沙は部屋の明かりをつける。


「そのえっと……まずは……
のり子さん!すいませんでした!

今回のお別れ会で、
クラウザー号さんに乗っている写真を撮って欲しいということでしたが……
じ、実はあの日は、写真ではなく動画を中心に撮影していました!

写真も撮っていたんですが、
ありさ……やっぱり、動いてるクラウザー号さんをどうにか残したくて!

のり子さんに編集の相談をしようと思ったんですが、
ここの所、元気がないようで、ありさ言い出せなくて…。


勝手に…PV風にしてしまいました!


も、もし修正点があったら言ってください…。
明日には、直してきますから!

こ、コレがベータ版のDVDで………!」


亜利沙が緊張と不安からそう早口に喋る。
DVDを渡すため、恐る恐る、アタシの顔を覗き込む。


23 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:13:32.93 ID:SXeAMA+D0



あの子を手放してから、
ずっと恋しかったあの子の、声。

最後に聞いたあの悲痛な叫びじゃない。
いつもの、あの子の声。


あの子に乗っている間、アタシ、あんな顔していたんだ。


お別れ会を開いて、キッパリ別れを告げるはずだったのに。
映像の中のアタシ達は、まったく別れを感じさせる雰囲気じゃなくって……
あの子となら、別れすらも楽しい思い出になってしまっていて。


今、こうしてあの子が走っている姿を見て、
濁流のように一緒に走った思い出が脳裏を駆け巡る。


レッスンが上手く行ったとき、
失敗して落ち込んだとき、
急な雨に打たれたとき、
昴とツーリングしたとき……


その全てのアタシの時間に、いつもクラウザー号がいたことを、たしかに思い出す。


あの子は、たしかにもう居ない。
でも、あの子と走った 距離(きおく) は、絶対に消えない。
少なくともこの映像の中ではたしかに、あの子はイキイキと走り続けてる。


探す必要なんか、なかった。
ずっと、いてくれてたんだ。


アタシの瞳から、雫が落ちるのを止められない。



24 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:14:19.44 ID:SXeAMA+D0




「……う、うわ!の、のり子泣いてる!?
大丈夫か、どっか痛むのか!?

寝不足って言ってたもんな…!
お、オレどうしたら…。

そうだ!

風花!風花呼んでくるな!
ちょっと待っててな、のり子!

ふーーかーー!!ふーーかーー!!」



そう血相を変えて飛び出す昴。


DVDを差し出そうとした亜利沙は泣いているアタシをみて固まってる。
アタシは涙を流しながら、亜利沙を思い切り抱きしめる。


「……はへ?え? ええええ!!!
あわわわ!あ、ありさ……なんか編集を間違え……
いや、それより…なんで泣いて…!!っていうか抱きしめられて……
むふ…むふふぅ!
いやいや、ち、近すぎですぅううう!!」


「ホント…ありさぁ…、ホントに……ありがと!
アタシ、分かったんだよぉ……!
アタシにとってあの子は……あの子はさっ!」


泣きながらアタシにしかわからないことをうわ言のように呟き、
わんわん泣く!

25 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:15:01.83 ID:SXeAMA+D0



亜利沙は混乱しながらも、行き場をなくした手をアタシが落ち着くように、
腰へ回して弱々しく引き寄せてくれる。



麗花さんも、優しく目を細めてアタシの背中をさすってくれてる。


「このDVD……大事にする……!
アタシ、これからずっと大事にするからっ…!」




単純だった。
失くして気づいた、予想よりずっと、ずっとずっと大きかったあの子への気持ち



アタシにとってクラウザー号は……



26 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:15:31.67 ID:SXeAMA+D0






劇場へ野太い排気音が響く。



今日はアタシの新しいバイクの納車日!
真っ先に劇場のみんなへ見せたくて慣れないバイクを慎重に走らせてお披露目に来たんだ!



「スッゲーー!!
なんかゴツくて、でっかくて、バイク!って感じで超カッコイイな!!」

「へへー!でしょー!そぉれ!」


ボボボッ!とお腹に響く重低音を鳴らして、昴がきゃっきゃと喜ぶ。



スクーター型のクラウザー号とは全く性格が違うバイク。
マフラーも2本出しで、丸目のベッドライト。
全体がスチール製で車重も倍以上になった。



27 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:16:02.96 ID:SXeAMA+D0



亜利沙はバイクとアタシの写真を撮りながら聞いてくる。



「そういえば、このバイクさんの名前は決めたんですか?
決まっているのなら、ぜひ聞きたいです!」



アルバムに名前をつけたいので!と話す。
アタシはニカッと笑ってハッキリ、応える。





「うん!決まってるよ!この子の名前は……」






『クラウザー号』だ!!






「なんだ一緒なのかよ!『新』とか『2世』とか付けないのか?」

そう昴は笑う


28 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:16:38.94 ID:SXeAMA+D0


「あはは!それも考えたんだけどね。


……でも、やっぱりアタシが乗るバイクは、
これからもずっと『クラウザー号』なのかなって!」




忘れたりしない。変えたりしない。



アタシは、乗り換えるんじゃない。
アタシは、『乗り継いで』いくんだ。


今までの思い出も、これからの思い出も、
全部、この名前に乗せて、継いでいくんだ。



だから、アタシが走り続ける限り、
クラウザー号のストーリーは、これからも、ずっとずっと、ずっと続いていくんだ!




それが、あたしにとっての『乗り継ぐ』というコト!



29 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:17:06.17 ID:SXeAMA+D0



「そうそう!新しいバイクを取りに行ったときに聞いたんだけどさ。
なんと前のクラウザー号、もう売れたんだって!」


免許取り立ての若い学生の女のコがひと目見て、即決で決めてくれたんだって!


「そっかぁ……!
あの子もこれから新しいオーナーさんと、
ビューーーンって新しい思い出をつくるんだね!」


麗花さんはいつもの調子で話す。


「……どうかなぁ?
あの子、アタシより若い女の子に乗られて鼻伸ばしてるかもねぇ?」

「あははは!象さんバイクだ!」


麗花さんとアタシはそう冗談を言い合い、笑い合う。




走り続けてたら、いつかまた道で会えるときが来るのかな?
だとしたら、こんなにワクワクすることってないよね♪


アタシがバイクに乗る、
楽しみがまた増えたんだ♪



30 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:18:13.83 ID:SXeAMA+D0



「そうそう!新しいバイクを取りに行ったときに聞いたんだけどさ。
なんと前のクラウザー号、もう売れたんだって!」


免許取り立ての若い学生の女のコがひと目見て、即決で決めてくれたんだって!


「そっかぁ……!
あの子もこれから新しいオーナーさんと、
ビューーーンって新しい思い出をつくるんだね!」


麗花さんはいつもの調子で話す。


「……どうかなぁ?
あの子、アタシより若い女の子に乗られて鼻伸ばしてるかもねぇ?」

「あははは!象さんバイクだ!」


麗花さんとアタシはそう冗談を言い合い、笑い合う。




走り続けてたら、いつかまた道で会えるときが来るのかな?
だとしたら、こんなにワクワクすることってないよね♪


アタシがバイクに乗る、
楽しみがまた増えたんだ♪



31 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:19:09.43 ID:SXeAMA+D0





「……よし、いいな!
のり子の言葉で書いた、気持ちが伝わるいい記事だと思う。これで行こう!」



アタシは書いてきたブログ記事の、投稿前のチェックをPにしてもらってる。


これまでと、これからのクラウザー号のこと。
みんなと開いたお別れ会のこと。
全部アタシはブログに載せることにしたんだ!



「…そっか、よかったぁー!
自分でもちょっと固かったかなって思ったんだけどさ!」


アタシはちょっと照れるけど、
ファンの人にちゃんとアタシと、クラウザー号のことを知ってほしくてさ!


32 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:20:04.52 ID:SXeAMA+D0


「うん。きっとファンの人たちも受け入れてくれると思う。

…これで投稿したいんだが、肝心の記事のタイトルがまだだな?」



あ、ホントだ!
本文にチカラを入れてたからつい、とアタシは頭をかく。
うーん…パッとは思い浮かばない。


Pと頭をひねる。
Pは、ひとまず思いついたことを話す。




「うーん、クラウザー号の記事だし、
 『さよなら!クラウザー号!』とか
 『バイバイ!クラウザー号!』とかかな?」




それを聞いて、
アタシはある言葉が湧き上がってくる。




アタシにとって『クラウザー号』は2台のバイクのこと。
それぞれが別の場所で、今も走り続けてる。
さよならも、バイバイも別れる時に言うコトバ。
アタシにとっては、そうじゃない。

33 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:20:39.41 ID:SXeAMA+D0



前のクラウザー号のこと。
手元を離れた今、不思議と乗っていたときよりどんどん好きになっていくんだ。


写真やDVDを見れば、いくつもの思い出が湧き出てくる。
同じ車種が町中で走っていると、目で追うようになったり。


そのたび、今どこで、どんなところを走ってるのかな?
ってあの子を想うようになった。





きっとアタシは、
これまでのクラウザー号も大好きで、
これからもクラウザー号を大好きになっていくんだろうな




だからこれはある意味、アイの告白。





子供っぽいかな?
でも、そんなの関係ないよね
アタシの、ココロからの気持ちだから!








この記事のタイトルはーーー









34 :伊丹 [sage]:2019/10/26(土) 00:24:44.64 ID:SXeAMA+D0
ありがとうございました。
途中、書き込みが重複してしまい、失礼しました。

クラウザー号、という名前をつけるほど愛着のあるバイク。
ずっと欲しかったバイクを購入し、事情からクラウザー号を手放さなければいけなくなったとき、
のり子はナニを考え、どう乗り越えていくのか。
そこのところを、自己解釈たっぷりにお話にしてみました。

皆様のお暇つぶしになれれば、幸いです。



また、私の過去作のまとめです。
お暇でしたら、ぜひ。
https://www.pixiv.net/member.php?id=4208213
35 : ◆NdBxVzEDf6 [sage]:2019/10/26(土) 00:40:38.54 ID:NF2IAkqR0
乗り換える時はこれぐらいドラマあるといいな
乙です

>>2
福田のり子(18) Da/Pr
http://i.imgur.com/NmGswZv.png
http://i.imgur.com/uKB4dkF.jpg

>>5
永吉昴(15) Da/Fa
http://i.imgur.com/WHFrVr5.jpg
http://i.imgur.com/2TS1u0V.jpg

北上麗花(20) Da/An
http://i.imgur.com/YchHYk5.jpg
http://i.imgur.com/dstb6yE.jpg

松田亜利沙(16) Vo/Pr
http://i.imgur.com/EK0mf87.png
http://i.imgur.com/hJ7TF2j.png
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/27(日) 05:17:12.23 ID:B5uEE5N5O
SATSUGAIせよの人が出てきちゃう
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