【ノラとと】ノラと皇女と野良猫ハート Rainy Heart

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80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:48:31.01 ID:8R1U/WPA0
 

ノラ「お前、カバンにそんなもの入れてんのか」

黒木「先生方からお借りしてきました」

明日原「あぁ……テーブルが土で汚れる」

ノブチナ「何の苗だ?」

田中ちゃん「これはキャベツですね」

井田「すげぇな田中。こんなの見ただけでわかんのかよ」

田中ちゃん「いつもおじいちゃんの畑のお手伝いしてますから」


 黒木は用意していたペットボトルを取り出して、蓋を開ける。
 なんだか妙な空気を感じるが、普通の水なんだよな……?


黒木「このペットボトルの中には、外で降っている雨が入ってます。純度100%。紛れもなく天然物です」

ノブチナ「本当に100%か? 洗った後の水が乾ききってなかったら100%とは言えないぞ」

井田「100%なんて俺は信じねーぜ」

明日原「オレンジジュースとかも果汁100%って言っておきながら、98%ぐらいだったりしますもんねー」

ノラ「え、そんなことある?」

黒木「いいですから! ちょっとは混じりっけあるかもしれませんが、99.99999999%位は天然ですから!」

明日原「お、おう」

黒木「ちゃんと目をしっかり開けて見てて下さいね。瞬きしたらダメですよ?」

ノラ「そんな一瞬で何かが起きるのか?」

明日原「あ、ちょっと待って、乾き目なんで目薬目薬……」


 黒木はゆっくりとキャベツの苗に、ペットボトルの水を注いでいく。
 すると――

 
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:49:44.26 ID:8R1U/WPA0
 

田中「わ、キャベツの苗が……!」

明日原「どんどん成長してますよ!」

黒木「うわわわわわわ!!」

井田「って、なんで黒木が驚いてんだよ」

ノブチナ「見たんじゃないのか?」

黒木「す、すみません。話で聞いていただけだったので、思わず」

シャチ「しかし、これは驚くのも無理ありません」

ノラ「だなぁ」


 先程まで手の平サイズだった苗は、見事にまんまるで大玉のキャベツに生まれ変わっていた。
 いや、瞬間的に成長したというのが正しいのだろうか?
 黒木に言われたとおり、一切瞬きをせず目を見開いていたが、異常な速さで育っていくのが分かった。
 俺の目の前にあるのは、紛れもなくキャベツそのものだ。


明日原「やばいっすねぇ」

黒木「ええ」

明日原「テーブル泥だらけでやば。店長に何て言おう」

黒木「あ、そっち!? い、いえ、その、すみません……」

田中ちゃん「みんなでゴシゴシすれば綺麗になりますよ」

明日原「ああ、大丈夫ですよー。あたしやっておくんで」

 
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:50:19.52 ID:8R1U/WPA0
 

井田「にしてもこれ、本当にこの雨が原因なのか?」

ノラ「にわかには信じられないな」

ノブチナ「このキャベツの苗になんか仕掛けられている可能性を疑うぞ」

黒木「そんなことして何になるんですか」

ノブチナ「黒木未知、一世一大のドッキリ!」

井田「てってれー!!」

明日原「いやー未知パイに一杯食わされましたよー」

黒木「Cクラスの人間じゃあるまいし、そんなことしません」

ノブチナ「言うじゃないか」

井田「本当のことだしな」

ノラ「ぐうの音も出ないな」

明日原「いえ、あたしは違うんすけど……」

田中ちゃん「それより、雨が原因でこのキャベツが成長したのだとしたら大変なことになりますよ!」

ノブチナ「そうだな、これは大変な事態だぞ」

井田「だな。うかうかしてらんねーぜ」

ノラ「何かするのか?」

ノブチナ「決まってるだろ! こんな不思議アイテム、金儲けのチャンスじゃないか!」

ノラ「え、マジ?」

井田「桜ヶ淵の雨ペットボトルに詰めまくって、一本5000円で売りつけようぜ」

ノブチナ「日照り続きの畑に、桜を。桜ヶ淵の雨、売ります」

黒木「完全に悪徳商法じゃないですか! ダメですよ! そういったお金稼ぎは校則で禁止されています!」


 校則の問題じゃないと思うが。
 っていうかそんな怪しい雨売れるかな。
 第一、そんな話が出回ってるなら誰かがすぐに目を付けそうな気も。

 
83 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:51:51.78 ID:8R1U/WPA0
 

明日原「あ、無理」

ノブチナ「なんだノリが悪いぞ明日原」

明日原「いやいや、ほら、見て動画サイト」

ノブチナ「んー?」

井田「桜ヶ淵の雨を使って実験してみたら、なんと野菜が……!」

井田「んだこれ?」

明日原「どうやら動画配信者のネタになってるっぽいですよ。噂が広がるのは早いっすねぇ」

ノブチナ「地元に住んでおきながらなんたる不覚! 折角の桜ヶ淵の特産をどこの誰とも知らない素人に奪われてしまうとは!!」

黒木「特産って、こんな急成長する雨危なっかしくて嫌ですよ。髪が濡れたらどうするんですか」

ノブチナ「もしかしたら増毛も期待できるかもしれんぞ?」

井田「むしろハゲんじゃね?」

ノラ「髪が薄い人にとってはテロみたいなもんだな」

田中ちゃん「この動画を見ると、人の身体には影響ないみたいですけど……」

明日原「うわー、すごー。植物の成長ぱないっすよ。切り株が木になってますもん」

ノラ「それ、やばくね? そんな雨がここらで降り続けてんのか?」

黒木「だから言ってるじゃないですか。休校になるくらいなんですよ」


ナレーション「ノラは思いました」

ナレーション「そんな環境にまで影響及ぼす雨、学校が休校になるレベルで済む事件な訳ないじゃないかと」

ナレーション「どう考えても、地球規模の大事件だぞと」

ナレーション「そこまで思考を巡らせて辿り着くのは、ある一人の少女の顔」

ナレーション「冥界の皇女、パトリシアさんでした」

 
84 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:52:31.37 ID:8R1U/WPA0
 

ノラ「あれ、そう言えばパトリシアは?」


 そう言えば学校を出てから顔を見ていない気がする。


明日原「今日は見てないっすけど。学校で一緒だったんじゃないんすか?」

ノラ「そうなんだけど」

ノブチナ「なるほど、いい推理だ」

ノラ「え?」

井田「なんのことだよ」

ノブチナ「この雨はおかしい」

黒木「さっきからずっとそう言ってるんですけど。異常気象だって」

ノブチナ「ただの異常気象じゃない。ノラはそう言っているんだ」

田中ちゃん「え、そうなんですか?」

ノラ「いや、まぁ……」

明日原「確かに、現実的じゃない現象ばかりっすよねーこの動画なんて特に」

ノブチナ「そう! 現実的じゃない!」

ノブチナ「いや……言い方を変えよう」

ノブチナ「異世界的だとッ!」

井田「まさか俺たち、流行りの異世界転生か!?」

ノブチナ「しッ――!!」

井田「ぶっほぉぉ!!」

ノブチナ「一人で勝手に転生してろ」

井田「……転生したら……ノブチナも一撃で沈められる……チートアイテムを……」


 転生しても尚凄い執念だった。
 転生した先にノブチナはいない気がするがな。

 
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:53:13.88 ID:8R1U/WPA0
 

ノブチナ「いるじゃないか。我々の身近に、異世界的なヤツが」

黒木「もしやそれは――」

田中ちゃん「それは――!」

明日原「ノラぱいっすか?」



………
……




ノラ「え」

ノブチナ「そういえばそうだな」

ノラ「えっ」

井田「猫になるしな」

黒木「身体能力も常軌を逸していますし」

ノラ「えっ、えっ」

ノブチナ「お前が犯人の雨男かッ!!」

ノラ「いや、ちげーし!」

ノラ「っていうかノブチナ、わかってて言ってるだろ」

ノブチナ「言われてみればそうだなと思ったからな」


 まぁ確かに。

 
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:54:10.24 ID:8R1U/WPA0
 

ノラ「というか、今言った俺の力の原因全部あいつだし」

明日原「あいつって、パトのことっすか?」

明日原「ああ、そう言えば昨日雨を降らせるとかなんとか言ってましたね」

ノラ「その昨日のことが原因であらぬ濡れ衣を着せられまくってるんだがな」

明日原「で、結局パトとヤッたんすか?」


 明日原、お前もか。


シャチ「……(赤い)」

ノラ「やってないよ。やってないからそういう顔しないでくれシャチ」

明日原「えーつまんなーい!」


 家でやってたら漏れなくシャチにバレそうな気がするのだが。


田中ちゃん「パトリシアさんが、この雨を?」

ノブチナ「その可能性が高いというだけの話だがな」

ノブチナ「話が余りにも異世界的、冥界的すぎる」

ノラ「冥界がどんなものか知らないけど」


 でも、今朝のパトリシアはそんな素振りを見せてなかったんだよなぁ。

 
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:55:23.84 ID:8R1U/WPA0
 

黒木「確か、パトリシアさんが魔法を使う時って、空が黒くなったりしてましたよね……?」


 空を見れば、どこまでも続くかと思うような黒雲と雨、雨、雨。


明日原「暗いっすねぇ」

井田「確定的だな」

シャチ「しかし……」


 シャチも俺と同じ考えなのか、不安そうな表情を抱えていた。
 本当にこの雨をパトリシアが……?


ノブチナ「ヤツを探し出せ!! パトリシアを引っ捕らえてこの雨の原因を追及するんだ!」

ノブチナ「そして我々だけに不思議雨を融通して貰えるように頼み込めー!!」

黒木「独占禁止法違反ですよ!!」

ノラ「そういう問題?」


カランコロン


明日原「しゃーせー」

パトリシア「こんにちわ」

パトリシア「ノラ、やっぱりここにいたのね」

ノブチナ「……」

井田「……」

田中「……」

黒木「……」

パトリシア「え、なに? そんな一斉に見つめられると流石に恥ずかしいわ……」

ノブチナ「確保ーーーーッ!!」


………
……


 
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:56:43.34 ID:8R1U/WPA0
 

パトリシア「違うわ、私じゃないわよ。失礼しちゃう」

ノブチナ「しかしこの異常気象だ。冥界で皇女的なパトリシアが疑われるのは仕方がないことだろう」

パトリシア「的ってなによ的って! 私は立派な冥界皇女です!」

ノブチナ「逆切れだ!! やっぱりコイツが犯人だ!! 有罪だー!!」

明日原「ノブチノブチ、どーうどう」

井田「証拠とかあんのかよ」


 この流れ、流行ってんのか……?


パトリシア「死を司る冥界の者にとって、命の源である水は正に水と油なの」

パトリシア「水を砂に変えることはできても、生み出すことはできないわ」

パトリシア「ほら、見なさい」


 黒木が持っていたペットボトルを奪い、中の水に向かって何かを念じている。
 どうやら前に俺に見せてくれたように、水を砂に変える魔法を使うらしい。


パトリシア「〜〜」


 しかし幾らペットボトル内の水をじっと見つめていても、変化が生まれることはなかった。

 
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:57:17.97 ID:8R1U/WPA0
 

黒木「何もおきませんね……?」

パトリシア「……? ヘンね」

ノブチナ「ふふふ、犯人は真相を突きつけられた時に苦し紛れの言い訳を言うらしいな」

ノラ「いや、前に俺も砂になる瞬間を見たことがあるから、パトリシアの言ってることは本当だよ」

田中ちゃん「魔法は凄いんですねぇ」

パトリシア「……」


 魔法が使えないことに納得ができないのか、パトリシアはなんとも言えない表情をしていた。
 どことなく顔が赤い……。


ノラ「もしかして、魔力が尽きたのか?」

パトリシア「いえ、そんな筈はないわ」

明日原「ってことは、それだけこの雨が凄いってことなんすかね?」

井田「魔法よりすげぇ雨って、やばくね?」

ノブチナ「魔法のその上を行く現象、それは最早……」

ノブチナ「天変地異!!」

明日原「やばーい! 地球がたいへーん!!」

黒木「そうだとしたら、なんかちょっと危機感が足りなくないですか!?」

田中ちゃん「みなさん、こういう時こそ避難訓練を思い出しましょう!」

田中ちゃん「合い言葉は"おかし"ですよ!」

明日原「おさない!」

井田「かけない!」

ノブチナ「死して屍拾うものなし!」

黒木「無慈悲! 友達の屍は拾ってあげてください!」

黒木「って、そうじゃなくて! 死んじゃ駄目ですってば! 生きてください!!」

明日原「未知パイ未知パイ、しゃべらない♪」

黒木「今じゃないでしょうー!?」


 どんな災害が起きてもこいつらだけは助かりそうだなぁ。

 
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:58:18.23 ID:8R1U/WPA0


パトリシア「それより、ノラ……」


 みんなが騒いでいる後ろで、パトリシアが控えめに声を掛けてくる。
 見れば表情が妙に熱っぽい。
 まさか、この雨の影響で風邪でも引いたか?
 冥界の皇女でも風邪を引くんだろうか。


ノラ「大丈夫か、パトリシア。熱あるんじゃないか?」

パトリシア「あ、ちょ……」


 おでことおでこを当てて熱を測ろうとする。
 うわ、額越しにでも分かる熱さだ。
 こりゃ完全に風邪引いたなぁ。


パトリシア「……ノラ」

ノラ「完全に風邪だな。とっとと帰って、身体を休ませ――」

パトリシア「――ん」

ノラ「!!」


 おでこを離そうとした瞬間に、ぐいと身体を引き寄せられ唇と唇が触れ合う。
 余りにも不意打ちだった為に、俺は反応することもできず為すがままになってしまった。
 パトリシアとのキス。それはつまり――



ぽん!



ノラ「……にゃあ」


 俺の身体が人間の姿から猫の姿になることを意味する。
 パトリシアの眷属である故の、悲しい性だ。

 
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 13:59:55.97 ID:8R1U/WPA0
 

ノブチナ「あ、公共の場で二人してなんてことしてるんだ!!」

明日原「ちょ、誰か写メ写メ! 決定的瞬間激写!!」

井田「んな瞬間的に撮れねーよ」

田中ちゃん「お二人とも、仲がいいんですねぇ」

黒木「仲がいいからって、お店の中でキスしないでください!!」

パトリシア「……」

ノラ(パトリシア……)


 急にキスなんてしてきてどうしたんだろう。
 最早、一回二回のキスじゃ動揺しないくらいに俺も大人になったものだが。
 今のキスは余りにも不意打ちすぎたというか、唐突過ぎたというか。


パトリシア「ノラ……」

パトリシア「〜〜」


パトリシア「赤ちゃん、作りたいです……」



………
……




ノラ(は?)


 
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:00:27.26 ID:8R1U/WPA0
 

ノブチナ「いきなり生とは贅沢な奴だ」

明日原「でも、最初にそれだとゴムありじゃ満足できなくなるんじゃないすか?」

井田「どっちでもいいよ、んなの」

田中ちゃん「反田さん、パトリシアさんのこと幸せにしてあげてくださいね」

シャチ「至急、婚姻届……。いえ、出生届を用意しなければ」

黒木「いえいえいえいえ! だから高校生なんだからダメですってば!!」

ノラ(ちょっと待てって、そんな急にできないよ)

ノラ(パトリシア、お前熱が出ておかしくなってるんじゃないのか?)

パトリシア「……そうよ、おかしいわ」

ノブチナ「おかしいのはお前だ!」


 ごもっともである。
 今のパトリシアは少しおかしい。


パトリシア「今朝から……いえ、昨日の夜から?」

パトリシア「ノラの匂いがするの」

明日原「は?」

ノラ(またそれか)

井田「おいおい、本当に病気かなんかじゃねーのか?」

ノブチナ「ノラ、お前なんかいかがわしい薬でもパトリシアに盛ったりしてないだろうな」

ノラ(そんなものどこで仕入れるんだよ)

パトリシア「みんなは感じないの? ノラの匂い……」

パトリシア「頭がクラクラする程に、強烈な……」


 姉さんや、ユウラシアにも朝に言われたけど、そんな匂いなんて全然分からないんだけどなぁ。

 
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:02:09.13 ID:8R1U/WPA0
 

明日原「そんな匂い、ノラパイからします?」

井田「男の匂いなんて嗅いだことねーよ」

ノブチナ「こんな節操の無い下半身を持つ男の匂いなんて嗅ぎたくもないな」


 うわ傷付く。
 って、友人の匂い嗅いでる奴なんていたら気持ち悪いのだが。


黒木「反田君からは、なんというかその……反田君の匂いって感じの匂いがしますけどね」

明日原「未知パイ、その発言少し危ないっすよ」

黒木「えぇ!? そ、そんな他意なんてありませんよ!」

黒木「昔、反田君の家で一緒に勉強してた時に感じた匂いがそのまま反田君からするっていうだけのことで……」

ノブチナ「それが危ないと言ってるんだがな」

田中ちゃん「黒木さんの言うこと、私は分かります」

田中ちゃん「反田さんの家って、どことなく素朴な感じの匂いがするというか……」

田中ちゃん「それを反田さんや、シャチさんから感じます」

シャチ「私もですか……?」

黒木「あ、どうなんだろ? シャチさんの匂いは嗅いだことないし……」

ノブチナ「なんだ、やっぱり男に反応してるだけじゃないか」

黒木「ち、ちが! だって、同性同士の匂いなんて嗅いでたらヘンじゃないですかぁ!」

明日原「普通、異性の匂いも嗅ぎませんって」

ノブチナ「やーい、黒木のヘンターイ! 反田君にいいつけてやーろ!」

黒木「ちょっと待ってください! そんなことされたら恥ずかしすぎて死んじゃいますぅ!!」

ノラ(目の前で直接聞かされてるんだけどな)

 
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:09:19.53 ID:8R1U/WPA0
 

ノラ(しかし、俺とシャチからはそんな匂いが)

ノラ(どれ)

シャチ「ノラさん?」

シャチ「あ、ちょ……んっ、ノラさん……」


 シャチの匂いを嗅ぐためにシャチの懐に飛び込んでみたのだが、そんな艶っぽい声を出されても困る。


ノブチナ「こいつ、同居人二人に手を出してそのうち本当にルーシアに殺されるぞ」

井田「あれ、そういや今日はこねーな」

田中ちゃん「ユウラシアちゃんもいませんねぇ」

ノラ(くんくん)

シャチ「ノラさん……」

ノラ(これがシャチの匂いかぁ)

ノラ(なるほど)

ノラ(分からん)

ノラ(なんか良い匂いがするなぁっていうのは分かるが、流石に自分の匂いと同じかどうかはさっぱりだ)

ノラ(っていうか、この匂いが俺からもするのか?)

ノラ(そうだとしたらすっげぇ良い匂いなんだけど)

ノラ(女の子かよ)

パトリシア「しません」

ノラ(儚い夢だった)

 
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:10:36.04 ID:8R1U/WPA0
 

パトリシア「ノラの匂いは、もっと……こう、身体が熱くなるような……」

ノラ(一体俺の身体からどんな匂いが発せられてるというんだ)

パトリシア「だ、ダメ。もう抑えられないわ」

パトリシア「ネコの姿のままでもいいの……ノラ」

パトリシア「赤ちゃん、作りましょう……!」

ノラ(ちょ、パトリシア! お前目がやばいぞ!)

ノブチナ「獣と人間が交わる時ー! 命の神秘が明かされるだろうー!」

明日原「いや、いくら何でも獣とはまずくないっすか? 第一犬はともかく、ネコのアソコってどうなんだろ」

井田「真面目に考えるなよんなこと。気分が悪くなるぜ」

黒木「そうですよ! ちゃんと真面目に止めてください! うぅ、頭が……」

ノラ(お前らも止めてくれ! 犯される!!)

田中ちゃん「ダメですよパトリシアさん!」

ノラ(田中ちゃん……!)

黒木「田中さん……!」

田中ちゃん「赤ちゃんを作るなら、人間同士でないと」

田中ちゃん「お母さんが困ってしまいますよ?」

黒木&ノラ「そういう問題!?」

ノブチナ「いくら冥界の母とはいえ、孫がネコで生まれたとあればショックのあまり世界崩壊も免れないかもしれんな」

井田「過激な母親だなぁおい!」

パトリシア「ふふふ……その前に私が地上に死をもたらしてあげるから安心して?」

パトリシア「でもその前に、ね?」

シャチ「逃げてください、ノラさん!」

ノラ(シャチ!?)


ノラ(くっ!(駆け出す))

パトリシア「あ、待ちなさい! ノラっ!(追いかける)」

 
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:11:14.89 ID:8R1U/WPA0
 

明日原「シャチパイ、急に大声出してどうしたんすか?」

田中ちゃん「びっくりしましたぁ」

シャチ「す、すみません。しかし、今のパトリシアさんの様子が少しおかしかったので……」

ノブチナ「確かに。いつも発言が浮世離れしているとはいえ、今日のアレは度を超していたな」

黒木「反田君の匂いが気になるって、ずっと言ってましたね」

井田「匂いとかそんなのわっかんねーよ」

田中ちゃん「匂い、と言えば……ずっと気になっていたことがあるんです」

井田「田中、お前もかよ」

明日原「田中ちゃん、匂いに強い」

ノブチナ「意外な特技だな」

黒木「静かに。田中さんの話を聞いて下さい」

田中ちゃん「実は……」


田中ちゃん「――――今朝から、雨の匂いがしないんです」


シャチ「雨の匂いが……?」


 
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/28(月) 14:11:52.66 ID:8R1U/WPA0
 



 ***


田中ちゃん「ノラと皇女と野良猫ハート、Rainy Heart」


 ***



 
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/28(月) 15:12:25.81 ID:9xt8O7RHO
再現率がすげえ
楽しみ
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:00:43.78 ID:9O6UAeFL0


ナレーション「地球の植物に影響を及ぼす雨が降りしきる中、一匹の獣と少女の追いかけっこが繰り広げられていました」

ナレーション「パトリシアさんによる容赦の無い冥界の魔力によって、辺りは漆黒の闇に覆われ生ける者の力を奪い去っていきます」

ナレーション「しかし、そのパトリシアさんの眷属であるノラも負けてはいませんでした」

ナレーション「あっちへひらり、こっちへひらり」

ナレーション「ネコである身軽さを最大限に利用し、パトリシアさんの魔法をいとも簡単にかわし続けるのでした」



パトリシア「さすがノラ。ネコになった状態では私でも簡単に捕まえられそうにないわね」

パトリシア「ふふ……それでこそ燃えるというものよ」

パトリシア「ノラの匂いが強くなる度に、私の身体が疼くの」

パトリシア「あなたを手に入れたいと――」

パトリシア「……」

パトリシア「臨むところだわ!」

パトリシア「ねぇ! ノラ!!」

パトリシア「捕まえられたら、私と命の魔道書を唱えて!! お願いします!!」



ナレーション「遥か空の上からの愛の告白――」

ナレーション「ですが、そんな愛の告白も逃げるのに必死なノラには届きませんでした」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:02:08.61 ID:9O6UAeFL0


ノラ(くそ、パトリシアのやつ無茶苦茶しやがる!)

ノラ(街中で遠慮無しに魔力ぶっ放しやがって……!)

ノラ(元に戻ったら、またみんなに謝りに行かせないといけねぇじゃんか!)

ノラ(ったく、あいつどうしちまったって言うんだ?)


パトリシア「〜〜!!(聞こえない)」


ノラ(なんか叫んでるけど、どうせロクなことじゃないだろうな)

ノラ(とにかく今は逃げるしか……!)

ノラ(くっそー、せめて人間ならなぁ!)


ナレーション「ノラは獣の四本の足で、桜ヶ淵の中をひたすらに駆けました」

ナレーション「その身体はまるで疲れを知ることなく、次第にパトリシアさんの視界から離れていくのでした」

ナレーション「ノラは思いました」

ナレーション「あれ? 俺の足早くね? 世界チャンピオンじゃね?」

ナレーション「幾ら眷属としての魔力が強力だとは言っても、いつもよりその力が増しているように感じたのです」

ナレーション「やべー、パトリシアだけじゃなく俺もおかしいのか……?」

ナレーション「そう思うのも無理はありません」

ナレーション「なにせ、彼は桜ヶ淵の街の端から端までを無意識のうちに走破してしまっていたのですから」

ナレーション「しかし、そんなおかしな脚力を持つノラを捉えられる一人の人物が目の前に現れました」




ルーシア「ノラ!」

ノラ(あ、姉さん!)


 姉さんが空から目の前に降ってくる。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:03:22.59 ID:9O6UAeFL0


ノラ(調度良かった。姉さん、パトリシアがおかしいんです。何とかしてください!)

ルーシア「……」

ノラ(姉さん?)


 姉さんは言葉を発せず、その場でぴくりともしなかった。
 見れば、表情はどことなく火照っているようで、何かを我慢するようでもあった。
 姉さんもこの雨のせいで風邪でも引いたのか……? それとも……。


ナレーション「ノラは肝心なことに気が付いていませんでした」

ナレーション「ルーシアさんを纏う衣服が、地上にいる時のような可愛らしい服ではなく、冥界の正装になっていることに」

ナレーション「それはつまり、何を意味するのかと言うと――」



ルーシア「――はぁッ!!」

ノラ「にゃにゃ!?」


 姉さんの持つ細身の長剣――ケルベロスの牙が真っ直ぐに俺の身体を貫き……そうになるが、すんでの所でかわす。


ノラ(何するんですか姉さん!)

ルーシア「……っ」

ノラ(姉さん……?)

ノラ(まさか、姉さんも――)





ルーシア「ノラ……! 貴様の匂いを嗅がせろッ!!」


ノラ(はぁ!?)
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:04:24.03 ID:9O6UAeFL0


ルーシア「い、いや、待て! くッ……! 今のは本心では……!」

ルーシア「はぁ、はぁ……ッ!」


ナレーション「ルーシアさんの身体はパトリシアさん同様、異常をきたしていたのです」

ナレーション「パトリシアさんとは違い、強靱な精神力でなんとか自我を保ててはいたのですが、時折心の声を発してしまうようでした」

ナレーション「それは、ノラへの求愛――」


ルーシア「そんなバカなことがあるか……!」

ルーシア「何故コイツの匂いがこんなにも頭から離れないんだッ!」

ルーシア「……ええい! 私の脳がおかしくなる前に、ノラ! 貴様を殺す……ッ!!」


ノラ(やべぇ! あの目はマジだ! いつもの冗談の感じじゃない!)

ノラ(いつも冗談かどうかはともかく!)


ナレーション「ルーシアさんの猛烈なアタックはパトリシアさんよりも速く、重く……」

ナレーション「さすがのノラもひとたまりもありません。実に、桜ヶ淵の端から端を二往復しても振り切ることが出来ませんでした」


ルーシア「はぁ……はぁ……ッ! 観念するんだノラ! おとなしく私の胸に飛び込んでこいッ! 抱き締めてあげてやるッ!!」

ノラ(日本語おかしい!!)

ノラ(保護しようとしてるのか殺そうとしてるのかどっちなんですか!?)
103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:05:23.51 ID:9O6UAeFL0


ナレーション「執拗なルーシアさんとの追いかけっこも、次第に限界を迎えます」

ナレーション「意外にも、先に息を上げたのはルーシアさんでした」


ルーシア「はぁ……はぁ……。ノラの体力は無尽蔵なのか……? 私の魔力をものともしないとは……」

ルーシア「ノラ……! 私はお前を……! 必ず私の物にするぞ……!」





ノラ(……追ってこない?)

ノラ(ようやく振り切れたのか……はぁ)


 後ろを振り返りつつ、ルーシア姉さんが追ってきていないのを確認すると少しずつ歩を緩める。
 そうすることで、疲れがどっと押し寄せてくるのが分かった。


ノラ(疲れたぁ……)

ノラ(姉さんと追いかけっこなんてするもんじゃない)

ノラ(……っていうか、よく振り切ることが出来たよな)

ノラ(いつもならすぐに回り込まれて、魔力で身体の自由も効かなくなるって言うのに)

ノラ(やっぱり俺、今日ちょっとヘンだよなぁ)


ナレーション「恐らく度合いで言えば、パトリシアさんやルーシアさんと良い勝負」

ナレーション「もしかしたら、それを遥かに超えるほどおかしいノラの身体能力でしたが……誰しも、自分の変化には鈍感な物なのです」

 
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:06:44.86 ID:9O6UAeFL0
 

ノラ(それにしても、パトリシアだけじゃなく姉さんもおかしくなってるのかよ)

ノラ(一体どうなってるんだ?)


 ふと、空から降り注ぐ雨を見上げる。
 こうして街中にいるだけでは気がつかないが、この雨のせいで植物は急成長しているらしい。
 しかも気象予報でも、シャチの予報にも引っ掛からない不思議な雨。


ノラ(それに、さっきからなんとなく気になってはいたけど……)

ノラ(この雨、やたら温かくないか?)


 身体に受けるその雨粒の一つ一つから、本来の雨の冷たさはまるで感じない。
 それどころかほんのりと温かいシャワーを浴びているような気分だった。


ノラ(ヘンな気分だよな……)


 今、この街はおかしなことだらけだ。
 俺の身体がヘンなのもそれと関係があるのか……?
 パトリシアと姉さんからはヘンな匂いがするって言われるし。




ユウラシア「あーっ! いたーすけべねこー!!」

ノラ(げっ、ユウラシア!?)


 
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:07:51.37 ID:9O6UAeFL0
 

ナレーション「そこに現れたのは、冥界三姉妹の末っ子――ユウラシアさんでした」

ナレーション「見ればユウラシアさんの表情もどこか熱っぽく、姉二人と同様に異常をきたしているのが分かります」


ユウラシア「もー! ずっと探したんだよーっ!!」

ノラ(まさか、お前も俺のことを……)

ユウラシア「どこ行ってもすけべねこの匂いがするんだもん! なんとかしてよーっ!」

ノラ(匂い?)


 また匂いか。みんなして一体なんなんだ。
 でもユウだけは姉二人みたいに俺に迫ってきたりしないんだな。
 それだけでも安心した。


ユウラシア「あーもー、すっごいいらいらするんだよー!」

ユウラシア「すっごいいらいらするし、匂いはするし、ぜんぶぜんぶすけべねこのせいーっ!」

ノラ(え?)


 そう言って、ユウラシアはふわりと浮かんだかと思うと一瞬で冥界の装束に身を包んだ。
 おいおい、それってつまり。




ユウラシア「だから死んじゃえーっ!!」



ナレーション「――それは姉のパトリシアさんもびっくりするほど威力の高い無詠唱魔法だったと言います」



ノラ「にゃぁぁぁぁぁ!!(吹き飛ばされる)」



 
106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:09:52.50 ID:9O6UAeFL0
 

ノラ(やっぱりこうなるのかよ! 三姉妹みんなだよ! 仲良いじゃねぇかよ!)

ユウラシア「なにいってるかわっかんないけど、とにかくすけべねこが悪いんだー!」

ユウラシア「今日はなんだか魔力がいつもより溢れてくるから、絶対逃がさないんだよー!!」

ノラ(魔力が?)


ナレーション「ユウラシアさんが一度手をかざせば、街のあちこちが爆発していきます」

ナレーション「本来はパトリシアさん同様、詠唱が必要な魔法も過程をすっ飛ばして、次、また次と、爆発を巻き起こしていました」

ナレーション「魔力が溢れているユウラシアさんは、パトリシアさんと同程度……もしくはそれ以上の素質を備えているのでした」


ノラ(くっ……そ! そんなぽんぽんぽんぽん爆発起こされたら逃げようにも……!)


 俺の身体は爆風で煽られて、自慢の運動神経が発揮できなくなってしまっていた。
 ネコの身体になって小さくなったのがここに来て災いしてしまっている。
 正に、弄ばれ放題だった。


ユウラシア「ふっふっふー! ねんぐのおさめどきってやつだよねー!」

ノラ(むずかしい言葉知ってんじゃねーかぁぁ……!(吹き飛ばされながら))

ユウラシア「あー、今バカにしたような気がするー!」

ユウラシア「ふふん! シア姉がみてた時代劇ってゆーの? で言ってたから覚えちゃった!」

ノラ(よし、気が逸れた! 今のうちに逃げよう!(体勢立て直して)


ユウラシア「うわっ、すけべねこ足はや」

ユウラシア「でも無駄だもんねー。今の私だったらどんな距離でもはずさないよー」

 
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:11:15.35 ID:9O6UAeFL0
 

ユウラシア「(詠唱)」


ナレーション「詠唱を必要とせずに爆発を巻き起こせるほど魔力が溢れている今のユウラシアさんが、改めて詠唱をしたならば――」


ユウラシア「〜ああ、もうその先はいらいらして忘れちゃった! ――イグニスッ!!」


ナレーション「辺りは真っ白な光に包まれ、音も全てが掻き消え、一瞬の静寂が生まれます」

ナレーション「そしてその数秒後に、耳をつんざくような轟音が聞こえ、後に全てを吹き飛ばす大爆発が巻き起こりました」

ナレーション「桜ヶ淵の遥か上空――」

ナレーション「ユウラシアさんも自身の魔力の程は理解していたのか、街に直撃させることは避けたのです」

ナレーション「しかしその威力は規格外なものであり、直撃を外していたと言っても街に残る人や獣が爆風に巻き込まれてしまうのです」

ナレーション「ノラも例外なく、その小さな獣としての身体を塵の一つと同じように空を舞ってしまうのでした」




ノラ「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(元々覚えてないだろーーーーーーーッ!)」




ナレーション「吹き飛ばされながらも、しっかりと突っ込むことは忘れません」


ユウラシア「あ、しまった。爆発させすぎて、すけべねこ見失っちゃった……」

ユウラシア「もー、あと一息だったのにぃー!」


ユウラシア「……でも、おもいっきり魔法使えたからちょっとすっきりー♪」


 
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:13:01.18 ID:9O6UAeFL0
 

ナレーション「爆風に乗って、飛ばされ、飛ばされ、も一つおまけに飛ばされて、ノラは自宅近くの公園まで飛ばされてくるのでした」


ノラ「にゃぁぁぁぁぁぁ――……」


ナレーション「パトリシアさん、ルーシアさん、ユウラシアさんに立て続けに攻められて、ノラの身体は満身創痍。このままでは身体は地面に叩き付けられて、無残な状態になってしまうかもしれません」


ノラ(――よっと)

ノラ(見事な着地。金メダルも容易いな)

ノラ(何のだよ)


ナレーション「まるで空に足場が存在するかのように空中で体勢を立て直し、難なく着地するノラでした」


ノラ(何とか逃げ切れて良かったけど、あいつら本当にどうしちまったんだよ)

ノラ(俺の身体もやけに元気だし)

ノラ(匂いも……)

ノラ(くんくん)

ノラ(やっぱわかんねぇわ)

ノラ(女の子に嫌われる匂いなのかな……)

ノラ(別に良いけどさ)

ノラ(……いや、やっぱつれぇわ)




レイン「あーー!! この匂い、ようやく発見したのーーーーーっ!!」




ノラ(だから臭くないって!)

ノラ(……って、この声?)

 
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:14:45.47 ID:9O6UAeFL0
 

ナレーション「甲高い声を響かせながら現れたのは、先日の雨乞い踊りを指導してくれた女の子――レインでした」

ナレーション「レインは一直線にノラ目がけて走ってきますが、肝心のノラの姿を発見できず戸惑ってしまいます」


レイン「あれ? 昨日の男の人は?」

レイン「匂いがしたからいると思ったのに……」

ノラ(ここだよここ)

レイン「あっ、猫さんなの」

ノラ(俺だよ俺、昨日一緒に踊った)

レイン「にゃあにゃあ可愛いの〜♪」

ノラ(ディスコミュニケーション)


レイン「うーん……昨日の男の人の匂いがしたからいると思ったのに」

レイン「でも猫さんしかいないの」

レイン「にゃあ♪」

ノラ(にゃあ♪)

ノラ(じゃねえ! 猫で遊ぶなよ)

ノラ(くっそー、ほぼ初対面の人間にも匂いとか言われるとか、マジもんじゃん……)

ノラ(そっか、俺って臭かったのか……)

ノラ(シャチや田中ちゃんは俺を気使ってくれてたんだな)

ノラ(ごめん……)

ノラ(ボディソープ変えようかな。前間違って買った高いヤツにしよ)

ノラ(金ねぇけど)

ノラ(でも匂うよりはマシだよな。金ねぇけど)

 
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:16:15.83 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「はっ、猫で遊んでる場合じゃなかったの!」

ノラ(ホントだよ。遊ぶなよ)

レイン「うぅ……昨日の人間を早く見つけなくちゃいけないの……!」

レイン「じゃないと、大変なことになっちゃうの……! っていうかなっちゃってるの……!」

レイン「私のせいで……私のせいで……!」

ノラ(俺を探してるのか?)

ノラ(おーい、昨日の人間は俺なんだって。分からないかもしれないけど)

レイン「うぅぅ……!」

ノラ(っていうか、なんかあったのか?)

ノラ(何があったかわからんが、元気出せよ)


ナレーション「ノラは言葉が通じないなりにも、うずくまって泣くレインの肩を肉球でぽむぽむと叩いて元気づけるのでした」

ナレーション「それは、今のノラにできる精一杯の優しさなのです」


レイン「うぅ……? ネコさん?」

レイン「励ましてくれてるの?」

ノラ「にゃあ」

レイン「……ありがとうなの」


 慰めてくれたお礼にと、彼女は俺の頭を優しく撫でてくれる。
 触れた手は冷たく、不思議と人の温もりを感じさせなかった。

 
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:17:26.70 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「……」


レイン「ねぇ」

ノラ(……?)


レイン「ネコさんは、雨、好き?」

ノラ(あんまりかな。濡れると毛はべったりするし)

レイン「好き? そっか、私も好きなの」

ノラ「にゃおーん」


 思わず鳴いてしまった。


レイン「雨は、お母さんの匂いがするから」

レイン「お母さんがすぐ側に……」

レイン「いつも一緒にいられる気がするから、私は好きなの」

ノラ(お母さんが……?)


ナレーション「ノラの頭を撫でながら、レインは降りしきる雨の先、遙か遠くを見つめていました」

ナレーション「ノラも同じように習い、空の彼方……どこにあるかも分からない冥界に想いを馳せていました」




レイン「――でも、この雨は違うの」




 急に手の平に力がこもるのを肌で感じ、レインのことを見る。


 
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:19:01.56 ID:9O6UAeFL0
 

ノラ(違う? どういうことだ?)


レイン「この雨は……」

レイン「私の未熟さが生み出した、まがい物の雨だから……」

レイン「お母さんの代わりは、私にはまだ無理だったの」

レイン「私が余計なことしなければ、こんな雨は降らなくて済んだのに……」

レイン「うぅ……」

ノラ「……」


レイン「本当の雨はね、もっと冷たくて、透き通ってて……」

レイン「だけれど、何処か温もりがあって、雨音は人の心を優しく包みこんでくれるの」

レイン「負の心を浄化し、作物には生命を……」

レイン「人の世に寄り添う、絶対必要不可欠の命の水」


 それまでのぽわんぽわんとしたレインの表情が、言葉を紡ぐのと一緒に段々と締まっていくのが分かった。
 今のレインはどことなく浮世離れした……女神、であるかのような威厳を持っているような気がした。


ノラ(レイン……)






レイン「――でも、この雨には命とは相反する死の力が宿っている」



ノラ(死の力?)


 
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:20:39.82 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「命と死は決して相容れることの無い存在」

レイン「命の先に死があって、死の先にまた命がある」

レイン「そう順序よく輪の中をぐるぐる回って。追いつきも、追い越せもしない。絶対的なルール」

レイン「……そう、お母さんに教えて貰ったの」

ノラ(……)


 お母さんという言葉が混じる時だけ、レインは年相応の可愛い表情を見せる。
 それが何だかやたらと愛しく感じる気がした。


レイン「そんな二つの力が交わる時どうなるか……」

レイン「命は異常な促進を続け、輪廻の果てに待つ消滅へと向かうのみ」

レイン「ただひたすら、止まることなく、滅びを迎えてしまう」

ノラ(それって……)



ナレーション「死ではなく、消滅」

ナレーション「それは一体どういうことなのか。パトリシアさんたちの言う死とは別なのか」

ナレーション「聞き慣れない言葉に、ノラは酷く動揺するのでした」




レイン「――だから、消滅を止めるために私が何とかしなくちゃいけない」



ノラ(私がって、お前は一体……)

 
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:21:59.71 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「って、こんなことネコさんに言ってもしょうがなかったの」

ノラ(……)


 くるりと振り向いたレインの顔は、さっきまでの神妙なものとは打って変わった屈託の無い少女の笑顔だった。
 でも、その顔はどこか儚げで、今にも消え入りそうな……そんな悲しい笑顔だったような気がした。


レイン「あはは、私ったらさみしがり屋さんなの」

レイン「ホント、お母さんがいないとダメダメなの」

レイン「うぅ……」

ノラ(……)

ノラ(そっか)

ノラ(事情はよく分からないけど、辛いんだろうな)

ノラ(母さんがいない寂しさは俺もよく知ってるからな)

ノラ(俺にはシャチが傍にいたから、少しは違ったかもしれないけど)

ノラ(それでも――)


 俺はうずくまるレインの足下に行き、足をペロペロと舐めてみた。

 
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:22:43.79 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「あはは、慰めてくれるの?」

レイン「ネコさんは優しいの……」

ノラ「にゃあ」

レイン「……? 抱いて欲しいのかな?」

レイン「んしょ…っと」

ノラ(やっぱ手の平と同じで、身体も冷たいんだな)

ノラ(これじゃあ辛いよな)

ノラ(俺の自慢のもふもふの毛で暖めてやるよ)

ノラ「にゃにゃ♪」

レイン「わぁ♪」

レイン「ふふ、暖かいの……」

ノラ(……)



ナレーション「少女に優しく抱かれる中で、ノラは思いました」

ナレーション「人とは違う冷たさを持つ身体の筈なのに、彼女の胸の中にいると心が落ち着くなぁと」

ナレーション「なんだか家にいるかのような安心感をノラは感じていたのです」



ノラ(懐かしい感じがする匂い……)

ノラ(――そう、この匂いだ)



ナレーション「それは、遠い昔の記憶――」

ナレーション「早くに亡くした母親の匂いに近い何か、だったのかもしれません」


 
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:23:28.29 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「……」


ノラ(良い匂いだなぁ)

ノラ(――そっか)

ノラ(黒木や田中ちゃんが言ってた俺の匂いってのは、もしかしたらこんな感じなのかな)

ノラ(すっかり忘れてたなぁ)


ノラ(ふわぁ……)

ノラ(眠くなってきた)


ノラ(……)

ノラ(zzz……)




レイン「……あれ?」

レイン「ネコちゃん?」

レイン「ふふ、寝ちゃったの」

レイン「可愛いの……よしよし♪」

ノラ「にゃあ……」

 
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:24:20.15 ID:9O6UAeFL0
 

レイン「……」



レイン「……うん」

レイン「可愛いネコちゃんの為にも、この星が消滅するのは防がないといけないの!」

レイン「それにはまず、昨日の人間を見つけなきゃなの!」

レイン「……なんで普通の人間にあんな魔力があったのかは謎だけど」

レイン「まさか、死の雨を降らせることになっちゃうなんて……」

レイン「"雨の精霊"失格なの……!」

レイン「見習いでも、雨の精霊として……この雨を何とかしてみせるの!」



レイン「お母さん見ててなのっ!!」


 
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/29(火) 14:24:46.70 ID:9O6UAeFL0
 



 ***


レイン「ノラと皇女と野良猫ハート、Rainy Heart」


 ***



 
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:37:32.35 ID:AlXk0RAl0


ノラ(……)


ノラ(ん……)

ノラ(寝ちまった)

ノラ(ふわぁーあ)

ノラ(相変わらず生温い雨だなぁ)

ノラ(おかげで寒くないけど)

ノラ(……?)

ノラ(あれ、なんで俺こんなとこで)


………
……



ノラ(あっ!)

ノラ(そうだよ、地球が消滅するんだった! こんなところで寝てる場合じゃねぇじゃん!)

ノラ(あの子……レインを探さねぇと!)




ユウラシア「あ、やっと見つけたよすけべねこー!!」

ノラ(げ、またユウラシア!?)


 最悪なタイミングで二度目の再会を果たしてしまった。
 今のこいつからはそう簡単に逃げられそうにねぇからなぁ。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:38:20.31 ID:AlXk0RAl0


ユウラシア「もーどんどんすけべねこの匂いが強くなって、なんかとにかくムカムカするー! なんなのコレー!」


 そんなの俺が知りたいよ。


ノラ(それよりユウラシア聞いてくれ! 大変なんだ! 雨が! 命じゃ無くて死なんだ! 消滅する!)

ユウラシア「もう! 何言ってるかぜんぜんわっかんないー!」


 自分でも何言ってるのか分からなかった。
 焦りすぎだ。


ユウラシア「にゃあにゃあうるさいー! いらいらしてるから余計ムカツクー!」


 あ、そう言えばネコのままだったな。そりゃあ言葉通じるわけねぇじゃん。
 くそー、やっぱり不便だよなぁ。でもネコの身体じゃなきゃこいつらの攻撃を避けきることなんてできないんだけどさ。
 大体レインも俺を探してたんだよな。
 なんで探していたのかは知らないけど、さっきの話を聞くためにも改めて人間の姿でもう一回会わないと……!
 でもどこに行ったんだ?
 さすがにこの広い街の中、手がかりなしで探すのは……。




ルーシア「見つけたぞ」


ユウラシア「シア姉!」

ノラ(わお、姉さんまで来ちゃったよ)


 やっべぇ、ユウラシア一人でも手強いってのに姉さんまで合流したら確実に殺される気がするぞ。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:40:10.63 ID:AlXk0RAl0


ルーシア「ユウ、何をやってる。早いところノラを生け捕りにするんだ」

ユウラシア「はーい、今夜は丸焼きだね!」

ノラ(マジかよ)


 あの鋭利な剣で刺されて、翼竜の如く真下から火で炙られる運命なのか……。
 なんてこった。どうせならもっと簡単に、一思いに命を奪ってくれ。


ルーシア「その唇を奪ってやる!!」

ノラ(マジかよ)

ユウラシア「シア姉? どうしたの? 顔赤いよー」

ルーシア「この匂いを嗅いでいると頭がクラクラして、どうにかなってしまいそうなんだ……!」

ルーシア「ああっ……ノラが欲しいっ!」

ユウラシア「重傷だね、こりゃ」


 こえぇ。マジでこえぇ。控えめに言っても恐ろしい。
 俺が欲しいとか(食欲的な意味で)
 鳥肌がとまらねぇ。いや、ネコ肌か?
 一体俺の匂いがこの姉妹にどんな悪影響を及ぼしているって言うんだ。

 ……ん? 匂い?

 ……。


※回想

ノラ(懐かしい感じがする匂い……)

ノラ(――そう、この匂いだ)

ノラ(良い匂いだなぁ)



ノラ(そうか! 匂いか!)


 その場に這いつくばって、辺りの匂いを嗅いでみた。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:40:53.09 ID:AlXk0RAl0
 

ユウラシア「うわ、すけべねこが私たちの匂い嗅いでるよー! このヘンタイねこー!」

ルーシア「や、やめろ! そんなことされたら余計に感じてしまうではないか……ッ!」


 いや、違うし。あんたらじゃないし。
 っていうか、ユウラシアはともかく姉さんどんどん顔赤くなっているけど大丈夫か?


ノラ(くんくん。くんくん)

ノラ(……やっぱり、分かるぞ)

ノラ(犬でも無いのに、あの子の匂いが分かる)

ノラ(あの家の匂い――)

ノラ(母さんのような匂い――)

ノラ(今まで気にも止めていなかったのに、今ならはっきり分かる)


ノラ(……)


ノラ(こっちだ!(駆け出す)

ユウラシア「あ、逃げたー!!」

ユウラシア「逃がさないんだからー!!」

ルーシア「ゆ、ユウ! 待て!」

ユウラシア「へ? どーしたのシア姉ー。早くしないとすけべねこが逃げちゃうよー」

ルーシア「そ、その……すまない」

ルーシア「身体が敏感になりすぎていて……動けないんだ……」

ユウラシア「えー……本当に大丈夫ー……?」


………
……


 
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:41:27.28 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ(……?(駆けながら))

ノラ(追ってこないし、魔法を詠唱してる気配も無いな)

ノラ(助かった)

ノラ(なんなら、またユウラシアの爆風に乗っていっても良かったけど、あんま生きた心地がしないからな)

ノラ(……)


 とにかく急ごう。
 早いとこあの子を見つけないと。


レイン『あはは、私ったらさみしがり屋さんなの』

レイン『ホント、お母さんがいないとダメダメなの』

レイン『うぅ……』


 ……レインは寂しそうにしていた。
 あの子が何者で、一体どんな不安を抱えているのか、それは分からないけれど。
 雨のことといい、この街がおかしくなった事情を知っているなら、俺が聞き出さないと。
 そして、元気づけてやらないとな。
 母さんがいないという寂しさを、俺は知っているから。
 俺ならあの子を励ましてやれる気がするんだ。
 次はもう一度、人間の姿で。
 そしたらまた雨乞い踊りでもなんでも踊ってやるさ!

 
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:42:14.84 ID:AlXk0RAl0
 



ナレーション「ノラは走りました」


ナレーション「生温かな死の雨が降る桜ヶ淵を駆け抜けました」

ナレーション「桜ヶ淵と共に眠る母親にも似た匂いを嗅ぎながら、当時の記憶を思い出すのでした」

ナレーション「母親と一緒に過ごした日々――」

ナレーション「泣き虫だった自分のこと――」

ナレーション「シャチがやってきた日のこと――」

ナレーション「様々な思い出が脳裏を駆け巡りました」


ナレーション「この桜ヶ淵には色々な記憶が、その匂いと共に根付いています」

ナレーション「生まれ育った街というものはどこか特別で、遠方に出向いても一度戻ってくれば家に帰ってきたなぁと感じる感覚」

ナレーション「それは自分という匂いが街に染みついた証拠なのです」



ナレーション「……長年住んだこの街には私の匂いも記憶も残されていて、きっとノラにはそれが分かるのでしょうね」



 
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:43:06.15 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ(匂いはこっちから!)

ノラ(海の方からだ!)


 匂いは一直線に海岸の方へと伸びている。
 潮の香りも強くなるが、それ以上にあの子の匂いが強い。
 間違いない。レインはいる!

 雨はどんどん強くなってきていた。
 普通ならばこんな雨の中打たれながら走ってたら風邪でも引いてしまうかもしれない。
 しかし、不気味なぐらいに温かい雨はむしろ身体に元気を漲らせていた。
 おかげで俺も休むことなく走ることができるのだが。
 ふと、横を振り向くと木々が植物がやたらと成長しているのが見て取れた。
 黒木に見せてもらったあのキャベツと一緒だ。
 そして、一部では既に枯れ果て散っていってしまっているようだった。
 あれがレインの言っていた成長させすぎた結果による、死――消滅。
 やばい。かなりの速さで死が迫っているのを感じた。
 急にあんな小さな女の子から突飛な死を告げられて信じる方がおかしいが、いざ目の当たりにしてしまったら否定することも出来ない。
 それに、死は俺らにとって余りにも身近すぎる存在だからな。
 慣れちまったもんだよなぁ。
 って、慣れたからと言って、死にたくないから俺は走るんだけどな……!
 俺たちは今を生きているんだから――

 
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:43:37.54 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ((堤防に飛び乗り)――――レイン!)


 海岸の方を見る。
 雨ではっきりとは見えないが、波打ち際に誰かがいる気がした。
 間違いない。あの小さな人影はレインだ。
 青髪に特徴的な民族衣装は遠くからでも目立つ。
 ……と、よく見れば一緒にもう一人傍に誰かがいるのが分かった。


ノラ(あれは……?)


レイン「〜〜」

シャチ「あ、あの、レイン……さん?」


 一緒にいるのはどうやらシャチのようだった。
 シャチのふくよかな胸の中にレインは顔を埋めていた。
 羨ましい。


レイン「すりすりぃ〜」

シャチ「あ……んっ、ちょ、そこは……」


 一体何をやっているんだあの二人は。


レイン「はぁ〜お母さんの匂いなのぉ♪」


 ああ、そっか。そう言えば田中ちゃんがシャチからも同じ匂いがするって言ってたっけ。
 同じ家でご飯を食べて、同じ家で風呂に入って……。
 例え血は繋がっていなくても、同じ母親を持つ兄妹みたいなもんだしな、おれらは。

 
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:44:36.55 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ(レイン)

シャチ「あ、ノラさん……」

レイン「……? あ、さっきのネコさんなの」

レイン「ノラネコさんなの?」

シャチ「いえ、その……。えっと、なんと言いましょうか。このネコさんは……」


 説明しづらい状態故に口ごもるシャチ。
 まぁそうだよな。昨日会った男が実はネコになるなんて言ったら頭おかしいやつだと思われる。


レイン「あれ? このネコさんとお姉さん、やっぱり同じ匂いがするの」

シャチ「匂い、ですか?」

ノラ(マジかよ)


 シャチからは決してヘンな匂いはしないからな。


レイン「あと、昨日お姉さんと一緒にいた男の人も同じ匂いがしたの」

レイン「だからその匂いを辿ってきたんだけど……」

シャチ「そう、なのですか?」


 やっぱり、匂いがキツすぎるんだな俺……。
 ネコの状態になっても分かるとか。

 
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:45:20.81 ID:AlXk0RAl0
 

シャチ「私には正直、匂いのことは分かりませんが……」

レイン「レインをなめたらいけないの! これでも一応雨の精霊だから、匂いには敏感なの!」

ノラ(雨の……)

シャチ「精霊、ですか?」


 なんだか聞こえちゃいけないワードが聞こえた気がする。


レイン「あっ」

ノラ(あっ?)


レイン「し、しししししまったなのぉぉぉぉ!! 人間には内緒だったのぉぉぉぉ!!」

レイン「嘘! 嘘なの! えへへ、えへへへ♪ なーんちゃってなの!」

レイン「子供の可愛らしい冗談なのぉ〜♪ てへぺろ♪」

レイン「そ、そそそんな恥ずかしいこと信じたらダメなの〜! ね! ね?」

ノラ(……)

シャチ「……」

ノラ(…………)

シャチ「…………」

レイン「な、なんか言ってなのぉ〜〜! そうですよねぇ、あははぁ、えへへぇ、うふふぅとか言って欲しいのぉぉ〜〜!!」


 いや、そんな気持ち悪い笑い方しないし。
 でも確かになぁ。いくら何でも雨の精霊とか、そんなおとぎ話の様な話簡単に信じるわけ……。


パトリシア「(空から降ってきて)ノラっ! 見つけたわ! 赤ちゃん! 作ってッ!!」


 うん、雨の精霊いるわ。間違いない。100%。信じる。

 
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:46:13.41 ID:AlXk0RAl0
 

パトリシア「ノラぁ! わたしもう我慢ができな……!」

パトリシア「(レインを見て)……こちら、どちら様でしょうか?」

レイン「ふぇぇ!?」

ノラ(意外に冷静なんだな)


シャチ「――――もしかして」

シャチ「この雨はレインさんが……」

レイン「びっくぅ!」


 シャチもレインの話を疑ってはいないようだった。
 そりゃまぁ、本人も不思議な出生な上、地上の天候を観測できるなどの不思議体質を持ち、尚且つ、自宅で冥界三姉妹をほぼ養っているような状態だからな。
 実際問題、俺なんかより遥かに不思議耐性ついているよなぁ。


レイン「あわわわわわわなの……!」

シャチ「ずっとおかしいと思っていました」

シャチ「今まで外れたことのない私の天気予報が、まるで意味をなさないこの雨……」

シャチ「きっと、パトリシアさんたちが住む冥界のような何か知らない力が働いているんじゃないかと疑ってはいましたが」

シャチ「まさか、雨の精霊さんの仕業だったとは……」

シャチ「素直に驚きです」

シャチ「レインさん、一体何故このような雨を……?」


 終始顔は穏やかではあるのだが、僅かばかりに怒気を含ませた声だった。

 
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:46:55.41 ID:AlXk0RAl0
 

レイン「ちちちち違うの! 私の仕業じゃないの!!」

レイン「あ、えとえと、ある意味では私の仕業だけど……そうじゃないの! 誤解しないで欲しいの!!」

ノラ(どういうことだ?)

レイン「私は……"見習い"の雨の精霊なの」


 少し俯いて、ばつが悪そうに答えた。


レイン「私の力だけじゃ、まだ一人で地上に雨を降らせることはできないの……」

レイン「本当はレインのお母さんが、この地上に雨を降らせる役割を持ってる偉大な雨の精霊なの!」

ノラ(お母さん……)

レイン「でもお母さん、ちょっと前から病気で寝込んじゃってて……」

シャチ「雨の精霊さんも風邪を引いたりするのでしょうか」

ノラ(医者の不養生的なやつか)

レイン「当たり前なの! レインたちだって生きてるの! 人間たちの排気ガスとかでいっつもゴホゴホしてるの! 気をつけるの!」

シャチ「す、すみません」

レイン「体調が悪いと魔力が暴走して嵐とか呼び寄せちゃうの……。だから地上で突然台風とか嵐が来た日は、お母さんが体調崩している時なの」

ノラ(マジかよ。お母さん荒れてんな)

レイン「ちなみにゲリラ豪雨の時は便秘だったりするの」

ノラ(その情報はいらん)

パトリシア「辛いわね」

シャチ「ええ」


 女性一同は何故か共感していた。いや、そんな情報マジでいらないから!

 
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:48:10.65 ID:AlXk0RAl0
 

シャチ「それではこの天気は、体調の悪いお母様の魔力の暴走……ということでしょうか?」

レイン「ち、違うの! そうじゃないの! お母さんは悪くないの!!」

ノラ(なんだ、便秘って訳じゃ無いのか)

パトリシア「ノラ」


 パトリシアにすげぇ睨まれた。なんで?


レイン「……いつもだったら寝込んだら魔力が暴走したりするんだけど、今回は何故か違ったの」

レイン「むしろその逆だったの」

レイン「お母さんの魔力の蓋が閉じてしまったかのように、雨が降らなくなってしまったの」

レイン「いくら魔力を使おうとしても、全く雨が降らないの……」

シャチ「なるほど……」

シャチ「お母様が倒れられたのは、もしや春先のことではありませんか?」

レイン「……そう、だったと思うの」

シャチ「やはり……」

ノラ(それが雨が降らない原因ってことか)

レイン「お母さん、寝込んだまま全く目を覚まさないの」

レイン「春から、ずっと……お母さんの声を聴いてないの……」

ノラ(レイン……)

シャチ「……」

 
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:49:41.90 ID:AlXk0RAl0
 

レイン「レインはどうしたらいいか分からなくて……」

レイン「見習いだから代わりに雨を降らせることもできない……」

レイン「だから、お母さんの傍で泣いてることしかできなかったの……」

シャチ「レインさん……」

レイン「でも、このままお母さんが目を覚まさないのは……」

レイン「それだけは絶対イヤだったから……」

レイン「お母さんがいなくなったら、レインは何もできなくなっちゃうから……」

レイン「レインは、ひとりぼっちになっちゃうから……!」

レイン「だから!」

レイン「お母さんが目を覚ましてくれるように、レインが雨を降らせようと地上にやってきたの!」

ノラ(じゃあ、やっぱりレインがこの雨を……?)

レイン「レインが雨を降らせるには、雨の精霊としての魔力が足りてないの」

レイン「本当はもっともっと勉強して、もっともっと努力して蓄えてくものなの」

レイン「だから、今のレインにはどうしようもなかったの……」

 
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:50:50.91 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ(それじゃあどうやって?)

レイン「前に、お母さんから聞いたことがあったの」

レイン「――――遙か昔、人間から魔力を供給してもらっていた時代のお話」

パトリシア「人間から?」

レイン「大昔の地上では、精霊は人間に宿る僅かな魔力を糧にして、雨を生み出していたらしいの」

レイン「けれど人間一人一人の魔力は余りにも些細なもの」

レイン「だから大勢の人間の魔力を一つにして、捧げさせていたらしいの」

レイン「その方法が――――」

ノラ(もしかして……)

シャチ「雨乞い踊り、ですか?」

レイン「そう、なの」

ノラ(マジかよ。あんなアナログな踊りで俺らの魔力が吸収されているとは……)


 古くから人間の世界に伝わる雨乞い踊りは、雨の精霊直伝のものだったのか。
 なんという歴史の答え合わせ。
 どんな不思議な物事にも、必ず答えが隠されているという例なのかもしれない。


レイン「黙っていてごめんなさいなの」

レイン「結果的に、勝手に人間の魔力を奪うことになっちゃったの……」

シャチ「いえ、それは構いませんが……」

ノラ(俺らの魔力を使って降ってきたのがこの雨ってことか? んなバカな)

レイン「そうなの。おかしいの。こんな雨が降るはずがないの……!」

パトリシア「……」

 
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:51:41.25 ID:AlXk0RAl0
 

レイン「――――雨は命の源」

レイン「雨の精霊が生み出す雨は、生き物に命を分け与える役割を持つ」

レイン「でも、水だけでは人も植物も育たない」

レイン「だから、太陽と雨が交互に力を与え、そうして生き物は進化を遂げてきた……」


レイン「けれど、この雨には……」



レイン「――――退廃させる力がある」


レイン「命の力が暴走して、無闇矢鱈に成長を促し、そして迎えるのは……"死"なの」

パトリシア「……」


レイン「こんなこと、普通じゃ起こりえないの」

レイン「ただの人間の魔力を吸収して得た力で生み出した雨が、退廃の力を持つなんて……」

パトリシア「……」


レイン「そんなの、昔お母さんに教えて貰ったことのあるおとぎ話で出てくる冥界の人間だけなの!」

パトリシア「……」

ノラ(……)

シャチ「……」


 退廃の力。冥界。そして、今となっては聞き慣れた"死"という言葉。
 今正に、俺たちの思いは一つとなっていた。
 そう、つまりそれは……。







パトリシア「――――謎は全て解けたわ!」


レイン「ひゃい!?」


 
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:52:22.17 ID:AlXk0RAl0
 

 急に声を荒げるパトリシアに飛び跳ねるぐらい驚くレイン。


ノラ(何でサスペンスドラマ風?)

パトリシア「ごほん。その、一度やってみたかったのよ」

パトリシア「本当は向こうの崖の上が良かったんだけれど」

ノラ(お約束か)

レイン「さっきから気になっていたけど、あなたは一体誰なの……?」

パトリシア「ふふ……(髪を翻して)」

パトリシア「私の名前は、パトリシア・オブ・エンド」

パトリシア「冥界の皇女、やっています♪」

レイン「……へ?」

レイン「冥界!? 皇女!?」


 レインは誰の目にも分かるくらいに身体を震わせて動揺していた。


レイン「あわわわ……レイン、もう死んじゃったの……!?」

ノラ(生きてるよ。落ち着け)


 しかしまぁ、驚くよなぁ。
 伝え聞いていたおとぎ話の存在が目の前に立ってたら。

 
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:54:32.62 ID:AlXk0RAl0
 

パトリシア「ずっとおかしいと思っていました」

ノラ(お前もかよ)

パトリシア「ノラの匂いがキツすぎることが」

ノラ(っておーい。この後に及んで俺の匂いのことかーい)

パトリシア「寝ても覚めても、傍にノラがいるかのような感覚」

パトリシア「ノラに抱かれてぎゅーってされながら、いい子いい子されて、甘い吐息で囁かれてる感じでどうにかなりそうでした」

シャチ「……」

レイン「はわわ……」


 シャチもレインも、パトリシアの変な話を聞かされて耳まで真っ赤になっていた。


パトリシア「恐らく、姉様やユウも同じだったに違いないわ」

ノラ(あいつらも?)


 確かに二人とも俺の匂いがキツイからと言って襲ってきたけれど。


パトリシア「今も尚、ノラの匂いはどんどん強くなっていってるわ」

パトリシア「いえ、もうホント我慢の限界」

パトリシア「いますぐにでもノラに抱かれたい。命の魔道書を唱えたい」

パトリシア「赤ちゃん作りたい。セックスしたいッ!」

ノラ(やべぇ、目がマジだ)

ノラ(頼むから一旦落ち着いてくれ)

シャチ「ぱ、パトリシアさん……」

レイン「あわわわわわ……」


 ほらみろ、シャチですら耳を真っ赤にしてるぞ。
 レインのような小さな子もいるんだから健全な教育を心がけてくれ。

 
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:56:41.99 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ(お前の性欲のことはいい)

ノラ(結局何の謎が解けたんだよ。なんにも解決してないじゃないか)

パトリシア「だから! ノラが原因なのよ!」

ノラ(は?)

パトリシア「この雨が! ノラの匂いの元凶なのッ!!」

レイン「雨が……」

シャチ「ノラさんの匂い……?」

パトリシア「この雨に打たれ続けている今も、私は濡れ続けて絶頂してしまいそうになるのッ!!」

ノラ(……は?)


 何がとは言わなかっただけマシだが、危ない発言なのには変わらない。
 いや、ちょっと待て。どういうことだ?
 この雨が俺の匂い?
 それって、つまり……?


パトリシア「この雨は、ノラの魔力から生み出されたもの」

パトリシア「強大な私の眷属としての魔力ごと、そこの雨の精霊が吸収して雨に変換されたものなのよ!」

パトリシア「だからこれは……この雨は、ほとんどノラそのもの!」

パトリシア「いえ、今のここにいる本体以上にノラなのよ!!」


 衝撃の事実だった。
 この雨が俺より俺?
 雨に負けるのか、俺?
 俺の存在意義って……。
 俺は一体どうすれば……。


ノラ「にゃあ」


 思わず鳴いてしまった。

 
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:57:37.29 ID:AlXk0RAl0
 

レイン「どういうことなの? ネコさんは冥界の生き物だったの……?」

シャチ「あ、それは……」


 知らない人間に……いや、精霊に俺の身の丈話をしようとすると面倒なことになってしまう。
 俺もシャチもどうしたものかと悩んでいると……。


パトリシア「ノラ!」

ノラ「にゃ!?」


 パトリシアに無理矢理身体を掴まれて、強引に唇を奪われる。
 なんだか普段とは違うやたら乱暴なキスに、妙にドキドキしてしまう自分がいた。


ぽん!


 すると、いつもの間の抜けた音と共に俺の目線がいつもの高さに戻る。
 無論、生まれたままの姿でだ。


レイン「ふぇぇぇぇぇ!!? 裸の男の人が突然出てきて冥界皇女とキスしてるのーーーー!!?」


 もう慣れてしまった二人とは対照的に、実に新鮮な驚きを見せてくれるレインに感動すら覚える。

 
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:58:22.00 ID:AlXk0RAl0
 

パトリシア「ノラ……この場でもいいから……」


 キスの体勢から自然に足と下半身とを絡ませてくる。
 妙に濡れているのは雨に濡れているからだと信じたい。


ノラ「いや、待てパトリシア! 何考えて……!」

パトリシア「赤ちゃん……」

レイン「はわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ノラ「だ、ダメだっての! こらっ!」

シャチ「パトリシアさん、すみません――」

パトリシア「え?」


 シャチが後ろからパトリシアを羽交い締めにする。
 すると俺の身体は自由になり、なんとか逃げ出すことに成功した。


ノラ「ナイスだシャチ!」

パトリシア「シャチさん! 離して! 私はノラと! ノラとー!!」

シャチ「はやる気持ちは分かりますし、パトリシアさんがその気ならばすぐにでもノラさんをお婿さんとして出してあげたいのですが……」


 やめてくれ、縁起でもない。


シャチ「今は状況が状況ですし、少し静かにして頂けると」

パトリシア「いやっ! このままじゃおかしくなっちゃうわ! シャチさん! ああっ、この際シャチさんでもいいわ! シャチさんからもノラを感じるっ!!」

シャチ「そ、それは流石に……」

ノラ「いいわけないだろ」


 っていうか女性同士で子作りはできないだろ。
 あ、いや、IPS細胞を使えばどうとかっていう話を聞いた覚えが……。
 って、んなアホなこと今考えている場合じゃないな。

 
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/30(水) 23:59:21.88 ID:AlXk0RAl0
 

ノラ「さて、ようやく人間の身体に戻れたんだ……」


 シャチに渡された衣服に着替えながら、これからどうするかを頭の中でまとめていた。
 この雨は俺の眷属としての魔力をレインに吸収させてしまったことが原因なのは分かった。
 その影響でパトリシアを始め、冥界の人間が狂ってしまったのも理解した。
 そして、今のままだと地上の生命が進化しすぎて最後には崩壊してしまう……。
 なら、話は早い。

 
ノラ「この雨をなんとかしなきゃだろ? レイン」

レイン「ふぇ!?」

レイン「え、あ……そう、ですね……」

ノラ「なんだ? 急におとなしくなってどうした?」

レイン「……!」

レイン「な、ななななななんでもないの!! 人間の男の人のアレを間近で見て恥ずかしいなんて思ってないの!! 思ってないのぉぉぉぉっ!!」

ノラ「あ……」


 ごめん。なんか、ホントごめん。


ノラ「ま、まぁとにかく、この雨のこともそうだし、パトリシアの状態的にも時間がなさそうだ」


パトリシア「シャチさん……(唇を奪おうとしてる)」

シャチ「だ、ダメです……! 口づけは男性とするべきです……!(羽交い締めを強くしながら)」


 シャチ、なんとか耐えてくれ……!
 下手をすればシャチの貞操が奪われてしまいそうだ。
 どうやってかは知らん。

 
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:00:55.21 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「でも、レインにもどうすればこの雨を止められるのか、方法が分からないの……」

レイン「むしろその方法を知りたくて二人を探していたの……」

ノラ「それもそうか」


 だからこそ俺たち人間から魔力を借りたんだもんな。
 くそ、じゃあどうすればいいんだ……?
 結局の所、俺自身の眷属としての魔力が膨大なのがいけないんだよな。
 俺の魔力が変換されたものがこの雨……。
 だったら……。


ルーシア「簡単なことだ」

ノラ「げ、姉さん!?」


 雨と共に降ってきた姉さんは華麗に着地を決めた。
 もう追いついてきたのか……! 姉さんもパトリシアと同じ状態なら最高にやばいじゃんか!


ルーシア「話は聞かせて貰ったぞ」

ルーシア「解決方法はただ一つ。魔力の根源を絶てば良いだけの話だ」

ルーシア「ノラ、つまりお前の命を絶てば全て丸く収まるのだッ!!」

ノラ「うお!?」


 何の躊躇いもなく全力で振るわれる剣を俺はネコの反射神経で避ける。
 やっべぇ。やっぱり姉さんもどんどんおかしくなってるのか……!?

 
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:01:59.21 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「ちょ、姉さん! 今はそれどころじゃ……!」

ルーシア「……!」

ノラ「……?」


 見れば姉さんは内股でなんだかもじもじしていた。
 なんだ? トイレでも我慢してるのか?


ルーシア「……お前を……この匂いを消さないと……」

ルーシア「私はどうにかなってしまいそうなんだ……ッ!」

ルーシア「ノラ! キスさせろッ!!」

ノラ「えぇ……」


 ああ、やばい。これはガチのマジでやばいやつだ。
 あの姉さんがパトリシアと同じようなこと言うなんて。
 早くなんとかしよう。


ユウラシア「シア姉! ダメだよすけべネコとなんてキスしたら! そんなことしたら一生後悔するんだからね!」


 ユウラシアまで追いついてきてしまった。
 またあの爆風で吹き飛ばされるのはごめんだぞ……。

 
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:03:16.21 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「私も話は聞かせてもらったよー」

ユウラシア「なんだかイライラするのはすけべネコの魔力のせいだったんだねーサイッテー」

ノラ「しょうがねぇだろ」


 不可抗力すぎて、俺にはどうしようもないぞ。
 しかし、ユウラシアは他の二人に比べて理性を保っているように見えるな?


ユウラシア「そーなんだよねぇ。うー、頭はがんっがんするんだけどねぇー」


 その理由はやはり、姉二人より性の目覚めが遅いからなのだろうか?
 ユウラシアが赤ちゃん作りたいとか言ってたら、それはもう歩く犯罪だ。


ノラ「でも、話は通じるようでよかったよ」

ユウラシア「ぜんっぜんよくないよー。もー、サイアクー。できれば魔法ですけべねこを吹っ飛ばしてやりたいけどね!」


 言葉こそ攻撃的であれど、それはいつものユウラシアに間違いなく、妙にほっこりする。

 
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:04:27.09 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「でも話を聞いてて分かったよー。要は、そこの子供の魔力が足りてないからいけないってことでしょー?」

レイン「む……!」

ノラ「子供って……。お前等、見た目ほとんど変わらないじゃないか」


 所詮俺も大人から見ればガキではあるのだが、それ以上に二人の容姿は子供だ。
 それこそ塾に来てる子供たちとそう大差ないだろう。


レイン「バカにするなのですっ!」
ユウラシア「バカにすんなーっ!!」

ユウラシア「きんてきーっ!!」

ノラ「おわっ、あぶね!」

レイン「人間と一緒にするななのです! これでもレインは百は超えてるのです!」


 出た、異世界的年齢差現象。


ユウラシア「ふっふーん、私だってとっくの昔に百の誕生日過ぎたもんねー!」


 こちらも例に漏れることなくご長寿。
 え、ちょっと待て、ってことはパトリシアとかも……?


レイン「ちょっと、年齢こっそり教えるの」

ユウラシア「いいよー。こしょこしょ……」

レイン「やっぱりほとんど変わらないのです! バカにするなですー!!」

ユウラシア「へっへーん! ざーんねんでしたー! 私はもう魔法使えるもんねー!!」

レイン「ぐぬぬなのですぅ……!!」


 なんというか、子供同士のケンカというか。
 妙にほほえましいやり取りだった。

 
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:05:19.82 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「っていうかなんでこそこそすんだよ。年齢ぐらいはっきり言えばいいじゃねぇか」

レイン&ユウラシア『女の子の年齢知りたがるなんてサイッテー!!(なの!!)』

ノラ「ぶほぁ!?」


 二人のグーパンチが顔面に見事に炸裂した。
 なんだ……仲良いじゃねぇかよ……。


ユウラシア「安心していいよー。魔法なんてそのうち、すぐ使えるようになるから」

レイン「そう……なの……?」

ユウラシア「そうだよ! 私だって気がついたらお姉ちゃんみたいなすっごい魔法使えるようになってたもん!」

ユウラシア「まぁ詠唱は覚えてないし、意味も理解してないから中途半端でパト姉にいっつも怒られてるんだけど……」


 あの威力で中途半端だと言うんだから、冥界皇女の妹は伊達じゃないらしい。


レイン「……」

ユウラシア「だから、今は魔力を誰かから借りちゃえば良いんだよー」

レイン「借りる?」

ノラ「そんなことができるのか?」

ユウラシア「でっきるよー! ちょっと足りなかったらお母さんやお姉ちゃんたちに、明日返すから貸してー? って言えば簡単にもらえちゃうよー」


 随分フランクな魔力共有だった。
 まさか魔力の貸し借りができるなんて思ってもみなかった。
 いや、人間から吸い上げる方法があるんだから、友人同士で貸し合うなんてことがあってもおかしくないか?

 
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:06:23.10 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「そんな方法があるなんて知らなかったの……」

ノラ「で、どうやるんだ?」

ユウラシア「キスするんだよー」

レイン&ノラ『は?』


 一瞬、時が止まったかと思った。


レイン「……」


 実際、レインは顔を真っ赤にして動きを止めていた。


ノラ「えっと、もう一回聞いても良いか?」

ユウラシア「だーかーらー、キスだってばー!」

ノラ「き、キスってつまり――」


 俺がネコになる原因。その発動条件。
 キス。口づけ。


ノラ「キスかよ!?」

ユウラシア「同じこと何度も言って、すけべネコ頭だいじょうぶー?」


 もしかしたら俺もこの雨に打たれ続けて頭をおかしくしているのかもしれない。

 
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:07:40.43 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「だって、パト姉と眷属の契約結ぶ時もキスだったでしょー?」

ユウラシア「あたしもよくわかんないんだけど、口と口が一番魔力を受け渡しやすいんだってー」

ノラ「え、それって、お前ら姉妹でキスしあってるってことか……?」

ユウラシア「えー、家族なら普通じゃないのー?」

レイン「……!」


 隣で爆発音が聞こえた。
 レインの頭の中だろうか。


ノラ「お、お前、俺とキスする時はあんな嫌がったくせに……」

ユウラシア「ば、バッカじゃないの! すけべネコは他人だし、男でしょー!? イヤにきまってんじゃん!!」


 基準が分からん……。
 あれか。海外の人は挨拶代わりにキスすると言うが、それに近い何かなのか……?
 にしても、パトリシアや姉さんがいっつもキスしあってたのか。
 なんというか、こう、想像すると何か来る物が……。


ユウラシア「あー! すけべネコすけべな顔してるー! 想像すんのきんしーっ!!」

ノラ「おまえじゃねぇし」

ユウラシア「それはそれでムカツクー! きんてきーっ!!」

ノラ「ちょ、やめろ!!」

レイン「あわわわわ……」


 遠慮の無い金的攻撃をかわしている横で、レインはとにかく慌てふためいていた。

 
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:08:12.71 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「わ、わわわ私も、誰かとき、キキキキスしなくちゃなの……?」


 ユウラシアとは正反対で、こっちは純真ぴゅあぴゅあな反応だった。
 いや、まぁ普通はそうなんだろうけどな。


ノラ「ほら、ユウラシア。お前がキスしてやれよ。それで魔力問題は万事解決だろ」

レイン「ふぇぇぇ……!」


 首を折れるんじゃないかってぐらい勢いよく振っている。
 同性同士でも恥ずかしいらしい。当たり前か。


ユウラシア「うーん……そうしてあげたいんだけどさ」

ユウラシア「あたしの魔力も、今すけべネコから供給されてるものなんだよね」

ユウラシア「だから本来の私の魔力を貸してあげれないと思うんだ」

ノラ「この雨のせいってことか?」

ユウラシア「そうだよー。だから多分、今の私の魔力を雨ちゃんにあげたら、きっとこの雨と同じことになっちゃうと思うの」

レイン「あ、雨ちゃん……?」

ノラ「じゃあ誰がレインに魔力を貸してやるんだ? パトリシアや姉さんはあんな状態だし……」


 この地上に他に魔力なんてまともに持ち合わしてるやつはいないぞ。

 
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:08:55.20 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「すけべネコバカなの?」

ユウラシア「すけべネコしかいないじゃん」

ノラ「俺?」


 俺が? 魔力を貸す? レインに?


ノラ「でもそれって結局同じことじゃないか? この雨の原因が俺の魔力ってことは……」

ユウラシア「だからだよー」

ユウラシア「今のこの雨は、すけべネコの魔力を不完全な形で吸収して雨に変換したから、冥界の魔力が混ざって退廃の力を持ってるんだよ」

ユウラシア「でも、その魔力を雨ちゃんに直接渡して、雨ちゃんがその魔力を使って雨をコントロールすれば大丈夫のはず」

ノラ「本当か……?」

ユウラシア「まぁパト姉の魔力もすけべネコの魔力もすっごい強いから、雨ちゃんがヘンになっちゃうかもしんないけど……」

レイン「へ、ヘン!?」

ユウラシア「でもすけべネコがちゃんとしてあげれば、多分大丈夫だよ」

ノラ「ちゃんとって……」


 イマイチ信憑性に欠ける話だ。
 大体ちゃんとキスするって、どうすればいいんだ?
 普通にキスすればいいのか? それとも……。

 
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:10:32.29 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「レイン?」

レイン「びっくぅ!?」


 振り返る俺の顔を見て、心臓でも止まるんじゃないかという勢いでびっくりしていた。


ノラ「お前に魔力を貸すにはキスするしかないみたいだけど、大丈夫か……?」

レイン「だ、大丈夫じゃないの! きききき、キスとか! なんでそんな平然と言葉にできるのぉぉぉ!?」


 さっきのユウラシアとの反応よりも一層強く首を振ってみせる。明日は筋肉痛に違いない。
 にしても、歳は百以上らしいがそういう知識は皆無なのだろうか。
 いや、それこそ見た目通りだから、安心するが……。
 つまり、冥界のやつらは全員ビッチというこ――


ユウラシア「なんか失礼なこと考えてたら爆発させちゃうよー?」


 一瞬だけ、命が軽くなった気がした。

 
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:12:40.66 ID:rXtTeI+J0


レイン「うぅぅぅ……!」

ユウラシア「大丈夫だよ、雨ちゃん」

レイン「うぅ……?」

ユウラシア「すけべネコとのキスなんて、ぜーんぜん大したことないから」

レイン「だ、だだだって、男の人とのキス……!」

ユウラシア「雨ちゃんもさっきの見てたでしょー? 平気平気ー、キスしたってネコになっちゃうんだから」

レイン「ね、ねこ……?」

ユウラシア「そ。ネコとのキスならぜーんぜん気にならないでしょー?」

レイン「ねこさんとのキス……」


 俺とのキスって、そういう認識だったのか……?
 いやまぁ、確かにキスしたらネコになるんだけどさ。


ノラ「……」

レイン「で、ででででも! 目の前にいるのは男の人……!!」


 なんかここまで拒絶されると男として傷付くなぁ。
 相手は(見た目)子供だからしょうがないけどさ。
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:13:14.17 ID:rXtTeI+J0


ユウラシア「……雨ちゃん」

レイン「……?」

ユウラシア「雨ちゃんが今、すけべネコとキスしなかったら」

ユウラシア「地上は、ずっとこのままなんだよ?」

レイン「ぁ……」

ユウラシア「色んな理由があってこうなっちゃったのかもしれないけど、雨の精霊である雨ちゃんがこの雨を降らしているのは変わりは無いんだよ?」

レイン「……」


 急に、いつものユウラシアとは思えないような説得力のある言葉がレインに投げ掛けられる。
 レインを諭している姿は、本人曰く百を超えた威厳のある女性のそれだ。


ユウラシア「だから、雨ちゃんが自分で責任を取らなくちゃいけないんだよ」

レイン「責任……」

ユウラシア「あたしも、パト姉やシア姉に責任をもって行動しなさいーってよく言われてるんだけどさ」

ユウラシア「お姉ちゃんたちがいつも頑張ってくれてるから、あたしはこんな風に遊び回っていられるんだけど」

ユウラシア「きっと、一人っ子だったら……ちゃんと勉強して、皇女になるための責任をもっと学んでいたんだと思うんだ」

レイン「……」

ユウラシア「だからね、そんなあたしよりも一人で頑張ってる雨ちゃんならさ、大丈夫だから」

レイン「……」


 ユウラシアのやつが、こんなにも立派に見えるとは思わなかった。
 いつもの子供のように遊び回っている姿を見ていたら、まるで想像もつかないけれど。
 やっぱり、なんだかんだ言っても冥界皇女の血筋ということなんだろうな。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:13:54.30 ID:rXtTeI+J0


レイン「わかったの……」

ノラ「レイン?」


 くるりと振り向いて、俺の目をまっすぐ見つめる。
 意を決したのか、その瞳はとても力強い輝きを放っていた。


レイン「……お、お願いします」

レイン「キス……してくださいっ!!」


 頬を真っ赤に染め、唇も震わせながら叫ぶ姿は、健気で愛おしさすら感じられた。
 見た目は一回りも小さい女の子のようだけれど、実際は俺よりも何倍も生きている雨の精霊だ。
 本来は俺がリードされる側な気もするが……。


レイン「……っ」


 目をぎゅっと閉じて小刻みに震える少女の姿を見ていたら、決してそんなことは口に出せず。
 俺は人間として、男として、精一杯リードして見せようと心に誓った。


ノラ「ああ。よろしくな、レイン」

レイン「はい……っ!」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:14:24.57 ID:rXtTeI+J0



ナレーション「そうしてノラは、怯える小動物のように震えるレインの手を取り、ぐいと自分の胸の中に引き寄せました」

ナレーション「人間とは違った冷えたその身体を、人間の温もりで包みこみます」

ナレーション「ノラとは頭二つ分も小さく華奢なレインは、身体相応の子供のようで」


ナレーション「身体から伝わってくる心臓の鼓動の速さは、ノラを酷く動揺させました」

ナレーション「ですが、ノラも男です」

ナレーション「決意をした女子の行動を踏みにじることなどは、母親にも許されない悪辣非道な行為なのです」

ナレーション「肩に手を回し、見上げる少女の顔に徐々に近付いていきました」

ナレーション「そして――――」


ぽん!


ナレーション「互いの唇が触れ合えば、いつもの間の抜けた音と共に目線は低くなり」

ナレーション「今度はノラが頭四つ分くらいは小さなネコの姿になってしまいます」

ナレーション「キスをした瞬間、ノラは思いました」




ナレーション「ああ、雨の匂いがする――――と」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:15:14.32 ID:rXtTeI+J0


ノラ「にゃあ」

レイン「ホントにまたネコさんに戻っちゃったの……」

ノラ(だからイヤなんだよな。感動も何もあったもんじゃないし)

レイン「……あぅ」


 レインは先程していたことを反芻するかのように、自分の唇を指でなぞっていた。


レイン「……っ」


レイン「ね、ネコだからノーカンなの!」

ノラ(ひでぇ)


 まぁそれで平静を保ってくれるならいいんだけどさ。
 でもなんだか人間的には釈然としねぇ。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:16:17.22 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「いったでしょー? すけべネコとのキスなんて大したことないってー」

レイン「た、大したことなかったの! キキキキスなんてへっちゃらなの!」

ノラ(めっちゃ動揺してんじゃん)

ユウラシア「どう? 魔力は溢れてきた?」

レイン「あ……う、うん」


 両手を胸に当てて、自分の身体に流れる魔力を確認しているみたいだった。


レイン「わ、凄いの……身体の中に熱いのが流れ込んでくるの……」

ノラ(……)


 頬を上気させてそんな言葉を吐かれたら、健全で健康な男の子は辛抱たまりません。


ユウラシア「なんかやーらしいこと考えたでしょ、すけべネコー」

ノラ(考えてません)


 考えたけど。

 
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:17:08.62 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「……」


 空に手をかざして左右に一振りする。
 すると、大気中の雨がほんの一瞬だがぴたりと動きを止めたかのように見えた。


レイン「……うん。使えるの。雨の精霊の力……!」

ユウラシア「やったね! これでばっちり、雨の精霊としての責任果たせるね雨ちゃん♪」

レイン「うん……なの♪」

ノラ(……)

レイン「ネコさん……」

ノラ(ノラだよ)

ユウラシア「このすけべネコ、ノラってゆーんだよ」

レイン「ノラ……さん?」


 俺の背に合わせるように屈み、ネコの俺の目をじっと見つめられる。


レイン「ごめんなさいなの」

レイン「勝手に魔力を使っちゃって……」

レイン「地上に、こんな雨を降らせちゃって……」

レイン「でも、ノラさんの魔力のおかげで、レインは……」

レイン「お母さんの代わりができそうなの……!」

レイン「だから……」





レイン「――――ありがとうなの!」



 
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:18:30.50 ID:rXtTeI+J0
 


ナレーション「ふわりと少女の身体が宙に浮かぶと、あっという間に彼女は雨の中に溶け込んでしまいました」


ナレーション「雨の精霊の本分でもあるかのように、天高く、空へ空へと昇っていきます」


ナレーション「そして、レインは雨の魔法を唱えます」


ナレーション「本来は恵みの雨を降らせるための魔法ですが、今は違います」


ナレーション「地上から死を取り除く為に、雨を止ませるのです」



 
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:19:15.74 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「んー、まぁ……冥界の人間的にはこのままでも良かったんだろうけどねー」


ユウラシア「地上に死を呼び覚まさせるために、数多の死を――――っていうのが、お母さんの口癖だもんね」


ユウラシア「パト姉はすっかり忘れてるみたいだけど」


ユウラシア「でも、それだとパト姉やシア姉がおかしいままだし……」


ユウラシア「何より……」


ユウラシア「雨ちゃんが可哀想だもんね」


ユウラシア「また会えるかなぁ♪」


 
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:20:19.14 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ(会えるだろ。地上にいる限り)


ノラ(……)


ノラ(まぁ、なんにしても良かったよ)


ノラ(雨の精霊として仕事を全うできたんならな)


ノラ(……)


ノラ(……つーか)



ノラ(俺、巻き込まれ損じゃね!?)

ノラ(勝手に魔力吸われたり貸したり!)

ノラ(魔力もタダじゃねぇし!)



ノラ(おーい! レインー!!)


ノラ(貸しただけだかんなー!!)



ノラ(必ず返しに来いよーーーーっ!!)




 
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:21:12.41 ID:rXtTeI+J0
 


ナレーション「ノラの鳴き声は、遥か遠く空の彼方まで――」


ナレーション「噂では、冥界まで届いたとか何とか」


ナレーション「その声に返事をするかのように、雨はぽつりぽつりと小降りに変わっていき」


ナレーション「次第に、雲の切れ目から眩しい太陽の光が顔を覗かせました」


ナレーション「僅か一日の出来事ではありましたが、久しぶりの日射しは地上の人間に安心を与えました」


ナレーション「その日、静かに忍び寄っていた地上の死は、小さな精霊と小さなネコによって食い止められたのです――――」



 
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:21:48.73 ID:rXtTeI+J0
 



 ***


ユウラシア「ノラと皇女と野良猫ハート、Rainy Heart」


 ***



 
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:22:28.31 ID:rXtTeI+J0
 

シャチ「本日の天気は――――」

シャチ「晴れのち曇り。ところにより、雨が降るでしょう」

シャチ「ふふ、レインさん頑張っているようですね」



ノブチナ「で、先日の雨は結局ノラが原因だったんだろ?」

明日原「マジっすか。遂にノラぱい、天気の子になっちゃったんすか?」

井田「猫になったり天気になったり、忙しいやつだなテメェはよ」

ノラ「んな訳あるか。俺がって言うか、俺の魔力を利用されただけだよ」

田中ちゃん「反田さんも魔法が使えるようになったんですか?」

ノラ「あー、なんていうか人間はみんな魔力を蓄えてるらしいぞ。俺の場合はパトリシアの影響でそれが強くなってるってだけで」

ノブチナ「マジか。それじゃ私も明日には魔法少女になれる訳だ」

井田「魔女の間違いだろ?」

ノブチナ「しッ――!」

井田「へっ! 甘いな。俺の魔力でテメェのパンチの軌道変えてやったぜ」

ノブチナ「なんだと……?」

明日原「ヤンキーすごい」

ノラ「嘘つけよ」

ノブチナ「なら私は、魔法で井田の鳥頭を豚足に変えてやろう」

井田「てめノブチナ! やめろ! せめて豚頭にしろ!!」

田中ちゃん「そんな魔法ないから、二人ともやめよ……?」

 
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:24:07.26 ID:rXtTeI+J0
 

明日原「それにしても、雨の精霊なんてのが地球の雨をコントロールしてたなんてびっくりですよ」

シャチ「全くですね。この地上はまだまだ私たちの知らないことが沢山あります」

ノラ「まぁ、冥界なんてものがあるくらいだからなぁ……」


 チラリと部屋の隅に目をやると、姉さんが体育座りしてうずくまっていた。


明日原「ん? 姉パイはどうしたんすか? すっごい落ち込んでるように見えますけど」

ノラ「己の欲望に負けたから落ち込んでるんだってさ」

明日原「欲望……?」


ルーシア「……なんで私は……ノラ等に……」

ルーシア「ああっ……!」

パトリシア「お姉さま、あれは不可抗力というやつよ。決してお姉さまの性癖じゃないから安心して」

ルーシア「性癖とか言うな! それではまるで私が……! ああっ……!」

ユウラシア「もーめんどうだなー。別にいいじゃんー、シア姉がどんな趣味しててもあたしは気にしないしー」

ルーシア「私が気にする!!」

ルーシア「こんな変態の私はお前たちに合わせる顔などない!!」

ユウラシア「めっちゃ合わせてるし」

パトリシア「困ったわね」

 
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:25:28.47 ID:rXtTeI+J0
 

ノブチナ「なるほど。つまり、ノラの雨に打たれすぎた結果、感じてびしょ濡れになってしまったということだな」

ルーシア「赤毛……! 貴様、はっきりと言うな!」

ノブチナ「ヘンタイだな」

ルーシア「あぁぁぁぁぁ!!」

パトリシア「ちょっと! お姉さまを虐めるのはやめて頂戴!」

ノブチナ「ルーシアがここまで弱っているのは珍しいからな。つい」

ノラ「鬼畜かよ」

ルーシア「ノラ! 元はと言えばお前が悪いのだ!」

ノラ「なんでですか! 俺は全力で被害者じゃないですか!!」

ルーシア「ええい! うるさい! 貴様が安易に魔力を貸そうとするからいけないのだ!」

ルーシア「やはりノラ、貴様はこの手で殺す……!」

ノラ「ちょ! 魔力を使うのは禁止ですって!! あと、ネコの時じゃないとシャレになんないっすから!!」

ルーシア「問答無用ッ!!」


明日原「……まぁ、雨の見習い精霊ちゃんが魔力足りなくて、ノラパイの魔力を借りたらそれが死の雨になっちゃったーっていうのは理解しましたけど」

明日原「結局、雨の精霊のお母さんはなんで倒れちゃったんですか?」

パトリシア「さぁ……?」

シャチ「そう言えば、理由までは聞いていませんでしたね」

 
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:26:47.01 ID:rXtTeI+J0
 

ルーシア「――――(詠唱)」

ノラ「姉さん! 魔法! 止めて!」

ノブチナ「ノラー、がんばれー。魔法でうちらも身体重いからなんとかしろー」

井田「これ、重力20倍とかそういうやつじゃね? 今筋トレとかすれば、バッキバキになるんじゃね?」

ノラ「お前らも見てないで止めろって!!」

ルーシア「観念して、私の剣の餌食になれッ――!!」





レイン「ダメなのーーーーーーー!!」





ルーシア「な……! 私の魔法が……!」

パトリシア「お姉さまの魔法を相殺するなんて……」


 魔法によって制限されていた身体の自由が効くようになる。

 
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:27:36.96 ID:rXtTeI+J0
 

ユウラシア「雨ちゃん!」

レイン「ユウちゃんー!」


 見ればレインがユウラシアと手を取ってきゃいきゃい仲睦まじくしていた。


田中ちゃん「仲良しさんですねぇ」

ノラ「レイン、助かったよ」

レイン「えへへなのです……」


ノブチナ「ノラのやつ、アレの唇を奪ったのか」

井田「ロリコンじゃねぇか」

明日原「警察に通報したほうがいいっすかね」

田中ちゃん「じ、事情があったんですから……」

 
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:28:55.17 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「レイン、どうしたんだ? 雨の精霊の仕事はいいのか?」

レイン「そ、そうなのです! 今日は仕事でやってきたのです!」

ノラ「仕事?」

レイン「ルーシア・オブ・エンド!」

ルーシア「な、なんだ……?」

レイン「それに、パトリシア・オブ・エンド!」

パトリシア「なにかしら?」

レイン「……あと、ユウちゃんも」

ユウラシア「雨ちゃん、どしたのー?」

レイン「地上で冥界の魔力を無闇矢鱈に使わないで欲しいのです!」

パトリシア「何故?」

レイン「冥界の魔力は、地上の精霊にとって一番悪影響なのです! お母さんが寝込んだのも冥界の魔力が地上で使われすぎてて空気が悪くなってたせいなの!」

ノラ「それって……」


 聞けば、パトリシアたちの使う魔力は精霊達の魔力に大いに干渉するらしく、上手くコントロールできなくなってしまうのだとか。

 
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:31:05.32 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「……ってことは」

ノラ「結局お前等が原因だったんじゃねぇか! この迷惑皇女!!」

パトリシア「しょ、しょうがないじゃない! 迷惑皇女って何よ! 私たちだって魔力を使わないと暴走しちゃうんだから!」

ノラ「人んち(地上)に来て使うことないだろ! 自分んちで使えよ!」

パトリシア「それじゃ意味がないじゃない! 私の目的は地上に死をもたらすことなんだから!」

ノラ「あー、今までそんなこと忘れてた癖に! 急に言い訳がましく言うなし!」

パトリシア「言い訳なんかじゃないわよ! 皇女だもん!!」

ノラ「だもんじゃねぇし! 可愛いかよ!」

パトリシア「か、可愛いなんて言わないで恥ずかしいっ!!」


明日原「なんすかあの痴話喧嘩」

ノブチナ「痴話喧嘩は犬も食わないとはよく言ったもんだ。……いや、鳥か」

井田「俺を見て言うんじゃねーよ」

明日原「さっさと二人でヤッちゃえばいいんすよー」

黒木「だから不純異性交遊は禁止ですってば!」

 
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:32:19.44 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「あ、あの、その。魔力は……無闇に……」


ノラ「こうなったら腕尽くでもお前等に魔力を使わせねぇからな!」

パトリシア「ちょ、い、痛いわノラ……!」

ルーシア「ええい、ノラ! パトリシアを手籠めにしよう等と……! 許さん!!」

パトリシア「お姉さま……」

ノラ「してねぇし! しねぇし!」

シャチ「ノラさん、陵辱行為だけは私も見過ごせません」

ノラ「だからしないから!」


レイン「も、もう〜〜!! 聞いてなのーーー!!」

ユウラシア「雨ちゃん、ごめんねぇ」

レイン「ユウちゃん……」

ユウラシア「私たちの魔力がそんな影響及ぼしてるなんて知らなかったからさ」

レイン「うん……」
 
ユウラシア「これからは地上でできるだけ魔力を使わないよう努力するよー。パト姉やシア姉にもちゃんと言い聞かせておくから」

レイン「ありがとう、ユウちゃん……!」

 
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:33:35.17 ID:rXtTeI+J0
 

ルーシア「はぁぁぁぁッ!!(剣を振るう)」

ノラ「(避けながら)だからやめましょうって!」



ユウラシア「うーん、シア姉はすけべねこを殺すまではやめてくれそうないかもなぁ」

レイン「こ、こここここ殺すって……!」

田中ちゃん「大丈夫ですよ。言葉や態度は乱暴に見えますけど、ルーシアさんは優しい人ですから」

レイン「本当なの……?」


ノラ「くっ……(掴まれて)」

ルーシア「ふふふ……この一突きで冥界行きだなノラ。苦しまず、一瞬で楽にしてやろう」


ノブチナ「優しすぎて涙が出るな」

明日原「ああいうのって、本当に痛みも感じずにぱーってあの世に行っちゃうもんなんすかね?」




レイン「だめぇぇぇぇぇ!!!」

ノラ「れ、レイン?」


 姉さんに一思いにやられそうになってるところに割って入ってくるレイン。
 助かった……のか?

 
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:34:09.18 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「……っ」

レイン「借りてた魔力を返すまで、死んじゃったらダメなの……!」

ノラ「借りてた魔力って……」

レイン「……あの日に借りた魔力」

レイン「ちゃんと返しに来たの」


 まさかちゃんと返しに来てくれるとは。
 律儀な雨の精霊だった。


ノラ「え、でも……大丈夫なのか? 俺の魔力がなければ、まだ精霊の魔法が使えないんじゃ」

レイン「そう……だけど、この魔力があると、お母さんに嫌な顔されちゃうの……」

ノラ「えぇ……」


 確かに冥界の力なんてものが傍にあったら、精霊的にはたまったもんじゃないかもしれない。

 
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:35:01.42 ID:rXtTeI+J0
 

レイン「だから、今度はちゃんと自分の力で雨の精霊の力を使えるように、努力するの!」

レイン「誰の力も借りないで、一人で魔法をコントロールできるようにするの……!」

レイン「でも一人だと上手くできるか分からないの……」

ノラ「レイン……」

レイン「ノラ……さん」


レイン「その……」


レイン「まだ、一人だと魔力も足りないし、未熟な雨の精霊のままなの……」

レイン「けど、ノラさんが手伝ってくれれば、一人前の雨の精霊になれる気がするの……」

レイン「だから……!」


レイン「私が一人前の雨の精霊になるまで、傍にいさせてくれませんか……?」

ノラ「あ……」


 俯きながらもじもじしているレインは、上目遣いに俺を見た。

 
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:35:49.67 ID:rXtTeI+J0
 

ノラ「……うん」

ノラ「俺で良ければ、付き合うよ」



レイン「ぁ……!」


レイン「ありがとう……なの」





ナレーション「――そして、レインさんはほんの少し背伸びをしてノラの唇を奪いました」

ナレーション「それは単純な魔力の交換、貸りた物を返す行為の筈……」

ナレーション「ですが、レインさん以外にその真意は分からないのです」





明日原「110番110番!」

ノブチナ「その前にやってしまえ!」

井田「おっしゃあ!!」

田中ちゃん「ダメですよ!!」





ノラ(――――あーあ、またネコに逆戻りだよ)


 
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:36:27.19 ID:rXtTeI+J0
 



ナレーション「かくして、梅雨が明けるまでの短い期間、ノラの家にはパトリシアさん冥界三姉妹の他に、雨の精霊のレインさんまでもが同居してしまうことになるのでした」



ナレーション「――――気がつけば夏も、もうすぐそこまで来ています」



ナレーション「夏に雪が降る不思議な事件の前に起きた、ほんの小さな破滅の物語はこれにておしまいです」



 
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/10/31(木) 00:39:05.38 ID:rXtTeI+J0
 


以上になります。

マニアックな作品のSSなんでどれだけの人が読んでくださってるかはわかりませんが、ここまでお付き合い頂けた方は本当にありがとうございます。
途中レスくれた方も本当にありがとうございました。


 
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/31(木) 12:33:10.45 ID:rzXXFIXbo
おつかれ
公式Twitterからとんできたわ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/31(木) 12:49:14.45 ID:rRee3HUJO
おもしろかった
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/10/31(木) 16:57:11.76 ID:h1byleqNo
乙でした
控えめに言って最高だった
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