【ノラとと】ノラと皇女と野良猫ハート Rainy Heart

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 22:52:40.81 ID:aR9QPQ1L0



ナレーション「――――これは、桜ヶ淵に遅めの梅雨が訪れた頃のお話」


ナレーション「春に、冥界の皇女パトリシアさんがやってきてからというもの、地上では色々な魔翌力が酷使され続けていました」

ナレーション「地上に死をもたらすためにあらゆる魔法を詠唱しては未遂に終わったり――」

ナレーション「一匹のネコを亡き者にする為に魔法で結界を張ったり――」

ナレーション「自在にコントロールできない未成熟な魔翌力を無闇矢鱈と爆発させまくったり――」

ナレーション「それはもう本当に、色々です」


ナレーション「その色々な魔翌力の発信源となっているここ――反田家では、今日もまたそんな魔翌力が悪戯に消費され続けていくのでした」


………
……


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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 22:58:08.08 ID:aR9QPQ1L0
ルーシア「ノラ、今日こそお前の年貢の納め時だ……!」

ノラ「にゃあにゃあ!(ちょ、ちょっと姉さん! 家で刃物は危ないですって! 一体俺が何をしたって言うんですか!)」

ルーシア「全くお前という奴は、少し気を許せば妹とキスをする……! 油断も隙もあったもんじゃない!」


 そんな俺の今の姿は人間ではなく、全身黒毛で覆われた猫の姿だった。
 ついさっきまでは人間の姿だったのだが、これには理由がある。


ノラ「にゃあにゃあ!(誤解ですって! あなたの妹が勝手に俺の唇を奪ってきたんですよ! 俺に罪はありません!)」

ルーシア「にゃあにゃあにゃあにゃあと、いちいち可愛い奴だな……! 判断が鈍るでは無いかッ!」

ノラ(この可愛さに免じて、ほら、剣をしまいましょう?)

ルーシア「はぁッ!!(剣を思い切り振るう)」

ノラ(あっぶね!)

ルーシア「くッ、流石に素早いな……!」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 22:58:42.73 ID:aR9QPQ1L0
 

ユウラシア「シア姉ー、私も手伝っちゃうよ〜!」

ルーシア「ユウ……!」


 ユウラシアがふわりと空に浮かぶと、先程まで月がくっきりと見えた星空が、途端に夜の闇よりも深い暗闇に覆われた。
 魔法を詠唱することで冥界の空を呼び寄せたのだ。


ユウラシア「――(詠唱)……えっと、その先は忘れちゃった〜〜! イグニス!」


 目の前のざらざらした空気がユウラシアの声と共に弾けて、オレンジ色の閃光が迸る。


ノラ「にゃあ〜〜!(間一髪避ける)」


 TVの衝撃映像でしか見たことのないような爆発が目の前で起きていた。


ユウラシア「ちょっと! すけべねこー! 避けてシャッチーに当たったらどうすんのー!?」

ノラ(おーい! 俺なら当たってもいいっていうのかよ!!)

ユウラシア「もー! 私のプリン食べたの、絶対許さないんだからぁー!」

ノラ(食べてねぇし! それきっとそこの姉さんだから! ねぇ!?)


ルーシア「……ユウ、早いところこのネコの口を封じてしまおう」

ノラ(あ、ぜってー今誤魔化した!)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 22:59:29.08 ID:aR9QPQ1L0
 

 くそ! 一対一なら眷属としての運動神経を駆使してなんとかかわし切れるけど、二対一ともなると話は別だ。なんとかして二人を宥めないと……。
 でも今の俺、猫だしなぁ! 言葉通じないしなぁ!


ルーシア「(詠唱)目をこらせば透き通る、黒い闇夜のぞろ目――――」

ノラ(げっ、この魔法は……!)


 詠唱が始まると途端に俺の足が鉛のように重くなる。
 姉さんお得意の魔法による結界だ!
 くそぅ……! これじゃ折角の運動神経も活かせないじゃんか!


ルーシア「ユウラシア、同時にやるぞ!」

ユウラシア「おっけー!」

ノラ(おっけーじゃねぇし! 加減考えて!)


ナレーション「冥界姉妹の強大な魔翌力の前に、抵抗することもかなわないノラ。絶体絶命のピンチです」

ナレーション「このまま為す術もなくKOされてしまうのでしょうか。ノラ、ゴングはまだなっていないぞ!」


ユウラシア「――――(詠唱してる)」

ルーシア「はぁぁぁぁ……ッ!」

ノラ(くる……!)

  
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:00:19.33 ID:aR9QPQ1L0
 

ルーシア「っ!(構える)」

ノラ「っっ!(避けようとする)」






シャチ「――――みなさん、晩ご飯の用意ができましたよ」


ユウラシア「わっ! やったー! シャッチーのごはーん!」


 途中までそらんじていた詠唱をあっさりと中断すると、ユウラシアはそのまま家の中に飛び跳ねて行ってしまった。


ルーシア「……」

ノラ「……」


 ユウラシアの魔翌力が離散することで冥界の空も消え去り、本来の夜空の輝きを取り戻していた。
 気がつけば鈍くなっていた俺の身体も軽くなっている。


ルーシア「シャチさんのご飯が出来たならば仕方ないな。冷めてしまっては失礼というもの」

ルーシア「ノラ、その命今日は預けておくぞ」


 手にしていた剣を庭先のほうき置き場へ立てかけてから、ユウラシアの後を追いかけて行く。


ノラ「……」


ナレーション「KO! 勝者、シャチの晩ご飯!」

  
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:01:05.34 ID:aR9QPQ1L0
 

ノラ(うぅ、さすがにご飯前に命がけの運動が過ぎる……)


 緊張が解け、腰が抜けたかのように倒れ込んでしまった。
 あぁ、地面がひんやりと気持ちいい。


パトリシア「ノラ、お疲れ様」

ノラ(パトリシア)


 ぐでんと仰向けに寝転がる満身創痍の俺を抱き上げると、パトリシアは自然と自分の口元に顔を寄せた。
 唇と唇が触れ合った瞬間、間の抜けた音と共に身体は瞬く間に人間へと――――生まれたまんまの赤ん坊の姿になる。


パトリシア「はい、服」

ノラ「おう」


 全裸状態の俺の姿を見ても、最早特別恥じらったりすることはない。
 俺は俺で着替えを受け取ってからの早着替えも慣れてしまったし、なんてことない日常そのものだ。
 毎度突っ込まれるのもあれだが、なんだかそれはそれで寂しい。

  
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:02:16.06 ID:aR9QPQ1L0
 

パトリシア「やはり眷属としてのノラの魔翌力は強大ね」

ノラ「強大って言ってもなぁ、別に何ができる訳じゃ無いぞ」


 せいぜい姉さんやユウの攻撃をかわし続けることぐらいだ。
 しかもそれも長くは続かないし。


パトリシア「それができることが凄いのよ」

パトリシア「お姉さまの実力は魔翌力こそ少ないけれど、その剣技は冥界でも折り紙付きなのよ?」

パトリシア「ユウだって、単純な魔翌力だけで言えば私をも超える程なんだから」

ノラ「それはまぁ分かるけど」


 少なくともさっきのアレを人間の状態で食らったりしていたらひとたまりも無いだろう。
 毎日、あの鋭利な剣で貫かれそうになったり、魔法で消し炭にされそうになっている身だからこそ分かることもある。難儀な境遇だ。
 

パトリシア「ふふっ、やはり猫の姿になるとノラの魔翌力は人間の時の何倍にもなるのね。興味深いわ」

ノラ「お前なぁ」

ノラ「そんな他愛のない興味で命を奪われそうになる俺の身にもなってみろ」

パトリシア「他愛なくないわよ」

パトリシア「これもノラを人間に戻すのに必要な研究よ、研究」

ノラ「本当か……?」


 やけに自信たっぷりな笑顔を見せてくる。
 しかしパトリシアのドヤ顔は不安しか誘わない。
 俺は苦笑いを返すことしかできなかった。


パトリシア「さ、晩ご飯を食べましょ。お腹が空いたわ」

ノラ「ああ、そうだな」

  
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:03:01.69 ID:aR9QPQ1L0
 

ナレーション「家に入っていく三姉妹それぞれの背中を見届けながら、なんて非日常な毎日だろうと改めて思うノラでした」

ナレーション「恐ろしいことに、日々繰り返される非日常にいつの間にか身体も心もすっかり慣れてしまい、最早それが普通と感じるようになってしまっていたのです」

ナレーション「しかし、この地上において魔翌力が酷使されている状況は異常でしかありません」

ナレーション「魔翌力による異常はノラや冥界三姉妹にも気付かれないままひっそりと。ですが明確に、この地上に異変を蓄積し続けていたのでした」



ノラ「……ん?」

シャチ「……」

ノラ「シャチ?」


 ふと縁側を見ると、不安げな眼差しで空を見つめるシャチの姿があった。
 

シャチ「オルキヌス」


 シャチの呼びかけに、どこからともなく機械の羽根が舞い降りてくる。


シャチ「――――明日の天気は全国的に晴れ。気温30度。少し早い夏日となるでしょう」


 明日の天気予報を淡々と一人言のように呟く。
 シャチの後ろで羽根のように浮くオルキヌスと呼ばれる機械は、地球上のあらゆる天候を観測し、その情報をシャチ自身にフィードバックすることを可能としていた。
 だからシャチがいればお天気お姉さんいらず。むしろ、シャチこそが本物のお天気お姉さんなのかもしれない。
 この地上でそんなことができるのはシャチだけだし、こんな空を浮く機械の羽根なんてものは他に見たことも聞いたこともない。
 しかし、出会った時から既にこうだったし、それを特別異常だと思うことはなかった。

  
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:03:56.57 ID:aR9QPQ1L0
 

シャチ「……」 


 シャチが目を瞑ると、役目を終えたオルキヌスはどこぞへと舞い戻って行ってしまった。


シャチ「また明日も晴れ」

シャチ「――――最後に雨が降ったのはいつでしょうか……」

ノラ「……」

ユウラシア「シャッチー! なにしてるの〜! 早くいただきますしよー!」

シャチ「あ、すみません、今行きます」



ナレーション「蓄積された異変は、少しずつ地球の天候に影響を及ぼしていたのです」

ナレーション「パトリシアさんが桜並木で倒れていたあの日から数ヶ月が経ちましたが、その間に降った雨は数えるほど」

ナレーション「一般的に梅雨と呼ばれる季節に入ってからは一度も降っていません」

ナレーション「しかし人間はこういう時、鈍感です」

ナレーション「多少の異常気象も、今年は雨が降らないわねぇ〜だの、洗濯物が干せて調度良いわぁ〜だの、通勤で濡れなくて助かる〜等という楽観的な考えで済ませてしまっていたのです」

ナレーション「桜ヶ淵に住むノラ達も例外では無く、そんな異常に特別な危機感を持ち合わせていませんでした」


ナレーション「――――ただ一人」


ナレーション「オルキヌスによって地上の天候を観測することのできるシャチだけが、ひっそりと進行する僅かな異変に気付き、不安な気持ちに駆られるのでした」


   
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:04:35.56 ID:aR9QPQ1L0
 



 ***


シャチ「ノラと皇女と野良猫ハート、Rainy Heart」


 ***



   
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:05:43.01 ID:aR9QPQ1L0
 

ユウラシア「いっただきまーす!」

シャチ「どうぞ、召し上がれ」


 我慢の限界だったのか、頂きますを言う前に既に箸を動かしていた。


パトリシア「お野菜が沢山で美味しいわ」

ルーシア「うむ。それにこの香ばしい匂いが食欲を掻き立てられるな」

シャチ「ごま油を使っていますので、それが効いているのかもしれませんね」

パトリシア「シャチさん、この料理の名前はなんていうのかしら?」

シャチ「これは八宝菜と言います」

パトリシア「はっぽうさい? あまり馴染みのない響きだわ……。これはきっと漢字ね!」

ノラ「お、漢字読めるようになったのか?」

パトリシア「バカにしないで頂戴。私ぐらいになれば漢字の一つや二つすぐに読めるようになるわ」


 漢字って一つ二つどころか、何千何万ってあるんだけどな。
 

パトリシア「それで? どういう字を書くのかしら」

シャチ「漢数字の八に、宝、そして野菜の菜と書きます」

パトリシア「う……」

ユウラシア「うわぁ、線がいっぱいー……」


 分かりやすく眉をしかめる二人。
 まぁひらがなも満足に読めないやつに漢字は難しいよなぁ。

  
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:06:43.63 ID:aR9QPQ1L0
 

シャチ「中国という余所の国の料理なので、少し難しいかもしれませんね」

パトリシア「……意味は理解できたわ!」


 マジかよ。嘘くせぇ。


パトリシア「八種類のお宝であるお野菜を混ぜた料理……ということね。素晴らしいわ」

ノラ「八宝菜をそんな意味で捉えられるのは凄いな」

シャチ「ちなみに八宝菜と言っても八種類野菜を使っているという訳では無く、単純に野菜を沢山使うことを意味するそうですよ」

ユウラシア「どうでもいいよーそんなこと、美味しければなんだってー」

ルーシア「こら、ユウ。肉ばかり食べてないで、野菜も一緒に食べるんだぞ」

ユウラシア「食べてるよー。でもピーマンだけは苦いからやーだなー」


 見ればピーマンだけ綺麗に皿の端に避けられていて、川の字を描いていた。


ノラ「好き嫌いしてると、姉さんみたいなスタイルになれないぞ」

ユウラシア「うーわ、ごはん中にどこみてんのすけべねこー」

ルーシア「ノラ、食事中は休戦しようと言った筈だが……?」

ノラ「いやいや、見てませんから」


 食事中なのに刃物が見え隠れして危ない。
 さっきほうきと一緒に仕舞われていたのにいつの間に持ってきたんだ。


パトリシア「でもノラの言うとおり、こんなに美味しいお宝を残すなんて勿体ないわ」

ユウラシア「えぇー……」

ノラ「そんな言い方されるとイマイチ美味しくなさそうに聞こえるな」

シャチ「……でも、あながちお宝であるということは間違いではないかもしれません」

ルーシア「どういうことだ?」

シャチ「最近、あまり雨が降らないせいでお野菜が徐々に高くなっているんです」

ノラ「雨が?」

TV『……明日の天気は雲一つない快晴です。これでまた連続晴れ日更新しちゃいますねー』

TV『みなさん、水分補給はしっかりしましょうねー!』


 付けっぱなしにしてあったTVから、お天気お姉さんの声が聞こえてくる。
 連続晴れ日更新……。確かに最近晴れ続きだったなぁ。
 あれ? 最後に雨が降ったのっていつだ?

  
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:11:45.54 ID:aR9QPQ1L0
 

ノラ「そういや梅雨の季節なのに全然雨降ってないんだなぁ」

シャチ「そうなんです……」

パトリシア「梅雨、とは何?」

ノラ「本当はこの時期になると毎日のように雨が降り続けるんだよ。それが梅雨」

シャチ「正確には梅雨前線が活発化して、日本では調度6月〜7月の時期に上空に停滞するから雨が降りやすくなることを言います」

ユウラシア「なんだかむつかしい言葉ばっかりでよくわかんない……」

ノラ「まぁ俺も詳しいことなんてわかんないけどな」

ノラ「ただこの季節は雨ばっかで、子供の頃なんか遊べなくてすげぇ嫌だったわ」

シャチ「梅雨にも役割があります」

シャチ「この時期にしっかりと地上に雨を降らせないと作物は育ちませんし、お野菜を食べることが出来なくなってしまいます」

パトリシア「それは困るわ……」

パトリシア「こんなに美味しい金銀財宝が手に入らなくなるなんて」

ノラ「最早野菜ですらないぞ」

パトリシア「ユウ、そんな大切なお宝残しちゃダメよ」

ユウラシア「えー……」

パトリシア「今のユウが食べているのは七菜よ。ななさい!」


 宝が消滅して、代わりに低学年の女の子みたいになった。


ルーシア「七宝菜じゃないのか?」

パトリシア「いいえお姉さま、八種類しっかり食べてこその八宝菜よ」


 しかも勝手に八宝菜の定義を変えやがった。

  
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:12:14.40 ID:aR9QPQ1L0
 

パトリシア「この……豚肉、エビ、イカ、しいたけ、タケノコ、ニンジン、白菜、タマネギ、ピーマン、ウズラの卵……全部食べて初めて八宝菜になるの!」

ノラ「今、余裕で八種類以上あったぞ!」

シャチ「ひーふーみー……」

シャチ「そうですね、十種類入ってますね。私も余り気にしていませんでした」

パトリシア「いいえ、これは八種類です。八宝菜なのですから」

ルーシア「そうだな、パトリシアの言うとおりだ。私の目の前にあるのは八種類の八宝菜だ」


 姉妹揃って頑固だった。


パトリシア「だからユウ、このピーマンを食べてあなたも宝を得るのよ」

ユウラシア「わ、わかったよー」


 ほとんど脅迫に近かった。
 まぁ、好き嫌いはあまり感心しないし、これぐらい強引でもいいのかもな。
 逆に苦手になんなきゃいいけど。


ユウラシア「はむはむ……」

ユウラシア「あ、このピーマンそんなに苦くないね。おいしい♪」

シャチ「一応、苦みの少ないものを選んで調理していますので。食べられて良かったですね」

ユウラシア「やっぱりシャッチーのごはんはおいしいよー。これで私も八宝菜になれたかなぁ」

ルーシア「ああ。ユウも七菜ではなく、立派な八宝菜だ」


 いつの間にか野菜になってた。

  
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:12:59.77 ID:aR9QPQ1L0
 

ノラ「しかし、最近そんなに雨降ってなかったんだなぁ」

ノラ「雨なんか降らなければそれに越したことはないから、全然気がつかなかったよ」

シャチ「そうですね。普通に生活する分には晴れの方が洗濯物もよく乾きますし、特に困ることはありませんから」

ノラ「だよなぁ……」

ノラ「でもそっか、シャチは天気が分かるからずっと気になってたってことか?」

シャチ「はい……。最後に降ったのは春の終わりの頃でしょうか」

シャチ「その日から一月経っても降らない辺りで少し違和感を覚えていたのですが、まさかこの時期に差し掛かっても雨が降らないとは思いませんでした」

ノラ「春の終わりの頃……かぁ」


 春と言えば、調度パトリシアたちが地上にやってきた頃だ。


ナレーション「そう言ってノラは、いつのまにか反田家で家族のように食事を共にする三姉妹のことをまじまじと見つめました」

ナレーション「こんな風に何気なく過ごしてはいても、彼女たちは地上とは異なる異世界――――冥界から来た存在」

ナレーション「まさかなぁ、雨が降らない原因はこいつらにあるんじゃ……? そんな考えがノラの頭をよぎりました」


ユウラシア「私、ちゃんと食べられてえらい?」

ルーシア「ああ、よく頑張ったな」

ユウラシア「好き嫌いしなければ、胸ももっと大きくなるかなぁ?」

ルーシア「胸は……その、多分きっと大丈夫だろう」


ナレーション「しかし、食べ物の好き嫌いで一喜一憂するようなごく普通の姉妹のやり取りをする二人を見て、そんな訳ないかぁと楽観視するのでした」


ナレーション「そして、パトリシアさんはと言うと――――」

  
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:13:54.91 ID:aR9QPQ1L0
 

パトリシア「梅雨……雨の季節……」

ルーシア「どうしたパトリシア?」

パトリシア「水は命の象徴よお姉様」

パトリシア「つまり、それが降り続ける梅雨とは――」

ユウラシア「とは……?」

パトリシア「赤ちゃんが生まれちゃう季節!!」


 どんな季節もその一言で台無しだ。


ユウラシア「えー!? 人間はみんな雨から生まれちゃうのー!?」

シャチ「6月はジューンブライドとも言われますし、あながち間違ってはいないかもしれませんが……」

ノラ「できるの早くないかなぁ!?」


 一足飛びにも程があるだろ。
 でき婚とかあるっちゃあるけど、さすがに赤ん坊はまだ早くないか……?


ルーシア「なるほど。ここのところ身体が重いと思ってはいたが……命の力が強い季節だからなのか。道理で」

ルーシア「つまり、私の身体の中にも赤ちゃんが……?」

ノラ「いませんよ」


 雨が降っただけで赤ちゃんができるなら、世の女性がみんな大変なことになってしまう。

 
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:15:22.88 ID:aR9QPQ1L0
 

ユウラシア「ねぇねぇー、ジューンブライドってなぁにー? たべものー?」

パトリシア「フライドポテトの仲間かしら」

ノラ「違うよ。なんでだよ」


 この姉妹はどれだけ食い意地が張ってるんだ。


ノラ「えぇっと、6月に結婚すると良いことが起きるからジューンブライドって言うんだっけか?」

ユウラシア「なんでー? なんで6月なのー?」

パトリシア「命が集まる季節だから、みんな赤ちゃんを作りたくなっちゃうのね」

ノラ「いやいや、別に結婚=赤ちゃんが全てじゃないからな」


 っていうか、ユウラシアにそんなことを教えるな。


シャチ「諸説あるようですが、古くはギリシャ神話に登場する結婚や出産を司る女神ジュノが守護するのが6月であることから、6月に結婚をすると生涯幸せに暮らせるとされていたようですね」

パトリシア「なるほど……地上に伝わる女神様も6月に赤ちゃんを生んだのね」

ノラ「女神をヘンな想像で汚すなよ」

パトリシア「でも後世に残る伝承なのですもの」

パトリシア「少なからず、そういうことがあったのは間違いないでしょう?」

ノラ「そりゃあそうかもしれないけど」

パトリシア「きっとこの梅雨の時期になると、男の人は性欲が強くなるのね」

シャチ「そうなのですか、ノラさん?」

ノラ「答えづらい質問振らないでくれるかなぁ!?」

ユウラシア「すけべねこー最低ー」

パトリシア「きっと今なら命の魔道書を唱えることだって……ノラ!」

ノラ「唱えないよ」

パトリシア「何故!? 神様だって赤ちゃんを作るのに、ノラは一体何してるの!?」


 エライ怒られた。なんで?

 
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:16:06.20 ID:aR9QPQ1L0
 

ノラ「だって神様だって結婚してから赤ちゃん作ってたんだろ? それじゃあ結婚してない俺は作れないよ」

シャチ「仰るとおりですね。であるならば、至急ノラさんの結婚相手を見つけなければなりません」

ノラ「あ、いや、別に婚活宣言とか、そういうつもりはないからね?」

パトリシア「……」



ナレーション「パトリシアさんは考えていました」

ナレーション「雨が降る梅雨。命の集まるこの季節ならば、もっと命のことについて学べるのでは無いかと」

ナレーション「私もノラと結婚をすれば、新たな命の誕生を迎えられるのではないかと、純粋な気持ちで考えていたのです」



ナレーション「そして、翌日――――」






パトリシア「ノラと結婚します!!」

黒木「(立ち上がり)えぇぇぇぇぇぇーーーーーーー!!?」


   
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/10/24(木) 23:16:55.39 ID:aR9QPQ1L0
 

明日原「未知パイ……店内ではもうちょっと静かにお願いできますか?」

黒木「いや、大声だって出ますよ!」

黒木「結婚ですよ!? 結婚! しかも反田君とっ!」

ノブチナ「若い男女一つ屋根の下だ。何もない方がおかしいと言うものだろう」

黒木「そ、それはそうかもしれませんが……」

黒木「いえ! そうであっては困りますよ! 倫理的に! 風紀委員的に!」

明日原「あっはは、未知パイはピュアですからねぇ」

明日原「パトもそんな冗談ばっかり言ってると、未知パイに本気で怒られますよー?」

パトリシア「私は冗談なんて言いません」

ノブチナ「マジか」

パトリシア「赤ちゃんを、産みます」

明日原「おめでた――――――っ!!」

黒木「おめでた――――――っ!! じゃないですよっ!」

黒木「そんな、高校生で赤ちゃんなんて……! 大体それって、つまり……?」

ノブチナ「ノラとヤッたってことだろ」

黒木「あ、ダメ……」

井田「おーい、風紀委員が目回してんぞ」

田中ちゃん「黒木さん〜〜! しっかりして下さい〜〜!」

明日原「え、っていうかその話ガチなんすか?」

パトリシア「……そんなに驚くことかしら?」

パトリシア「人間はみな、6月になると結婚をして赤ちゃんを作ると聞いたのだけれど」

井田「おいおい、誰だよそんないい加減な情報吹き込んだヤツは」

ノブチナ「いやしかし、確かに世のリア充共は6月に毎晩毎晩パコパコヤりまくっていることは間違いないからな」

田中ちゃん「の、ノブチナちゃん、もうちょっと言葉えらぼ……?」

  
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