井村雪菜「高峯のあの事件簿・高峯のあの失踪」

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:15:40.24 ID:H1ozWFRS0
あらすじ

今日は街に前川みくが来る日です。高峯のあは喜びを隠しきれずに出かけて行きました。

前話
浅野風香『高峯のあの事件簿・佐久間まゆの殺人』
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1550664151/

あくまでサスペンスドラマです。
設定はドラマ内のものです。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1570101339
2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:16:30.85 ID:H1ozWFRS0
メインキャスト

木場真奈美
佐久間まゆ

服部瞳子

水木聖來

井村雪菜

大人気ネコちゃんアイドル・前川みく

前川みくのファン1・高峯のあ
前川みくのファン2・和久井留美
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:17:37.09 ID:H1ozWFRS0


遠くなっていく背中に問いかけます。

どうして。

あなたの向かう先はそっちじゃないのに。

序 了
4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:18:11.08 ID:H1ozWFRS0


高峯探偵事務所

高峯探偵事務所
高峯のあが営む探偵事務所。営業日も時間も決まっていないが、今日はお休みなことは決まっている。

木場真奈美「うーむ」

佐久間まゆ「真奈美さん、どうしましたかぁ?」

木場真奈美
のあの助手。日本に帰国後、高峯家で居候を始めた。本人曰く、器用貧乏らしい。

佐久間まゆ
のあの助手。東郷邸の事件後に、高峯家に住み始めた。手先は器用ですよぉ、とのこと。

真奈美「おや、佐久間君。宿題は終わりかい?」

まゆ「もう少しです、リビングの方が進む気がしたから降りてきました」

真奈美「部屋にこもるのも寂しいものだからな」

まゆ「そうですねぇ。ところで、真奈美さんは何か探し物ですかぁ?」

真奈美「のあを探しているんだ、見なかったか?」

まゆ「のあさんですか……お部屋には?」

真奈美「いなかった」

まゆ「待ちきれなくて、もう出かけたのでしょうか……?」

真奈美「荷物はそこにある。チケットも、そこにいれていたはずだ」

まゆ「本当ですねぇ……」

真奈美「まさか忘れていくとは考えにくい。あれだけ楽しみにしていた前川君のライブだ」

まゆ「はい、見るからにうきうきしてましたぁ」

真奈美「脳の半分を占めている以上、忘れるはずがない」

まゆ「のあさんでもそこまでじゃ……いいえ、そうかも……」

真奈美「冗談はともかく。そろそろ出ると言っていた時間だ、ちょっと確認したいことがあってな」

まゆ「確認したいことですかぁ?」

高峯のあ「ただいま」

高峯のあ
前川みくファンクラブ初代会員であるうちの1人とのこと。職業は探偵。
5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:19:59.84 ID:H1ozWFRS0
真奈美「ウワサをすれば、何とやらだな」

まゆ「のあさん、お帰りなさい……あら?」

のあ「ただいまと言ったけれど、すぐに出るわ」

まゆ「のあさん……お髪を……」

真奈美「下の美容室に行っていたのか?」

のあ「ええ、優にまとめてもらったわ」

太田優
高峯ビル1階の美容室勤務の美容師。のあの美しい髪を維持する責任者。

まゆ「珍しいですねぇ」

のあ「大変だもの」

真奈美「髪質が特殊だものな、流れること絹のごとし」

のあ「優も流石プロね、そんな私の髪もまとまったわ」

まゆ「素敵ですねぇ、まゆも優さんに教えてもらおうかな……」

のあ「いいわね、まゆならどんな髪型も似合うわ」

真奈美「佐久間君のではなく、のあの髪をいじるためだと思うが」

のあ「まゆ、そうなの?」

まゆ「どっちもですよぉ」

のあ「どちらにせよ、まゆが優をご飯に招待すれば教えてくれるでしょう」

まゆ「のあさんは、なぜお髪を直してもらったんですかぁ?」

のあ「私は女性としては背が高いわ」

真奈美「男性の平均近いものな」

のあ「真奈美よりは低いけれど」

まゆ「えっと……」

のあ「この髪も結構重さがあるのよ、揺れると視界に入ることがあるわ」

まゆ「のあさん……?」

のあ「かけがえのない一瞬を楽しむために、時には自分のスタイルを変えるわ」

真奈美「佐久間君、わかったか?」

まゆ「もしかして……みくちゃんのライブのためですか」

のあ「その通りだけれど。それしかないでしょう」

まゆ「やっぱり……」
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:20:29.97 ID:H1ozWFRS0
のあ「一瞬たりとも無駄にしないと決意してるの、会場が発表された、その時から」

まゆ「早すぎませんか……?」

のあ「語弊があるわね。ずっと、この時に備えて来たのよ」

まゆ「早すぎですよぉ……」

のあ「だから、そろそろ出るわ」

まゆ「はい、楽しんできてくださいねぇ」

のあ「もちろん、死力の限りを尽くすわ」

まゆ「大袈裟ですぅ……そう言えば、真奈美さんが探してましたよぉ」

のあ「真奈美?何か」

真奈美「そろそろ出ていく時間かと思ってな」

のあ「お見送りかしら」

真奈美「送って行こうか、清路市民ホールだろう?」

のあ「今日はバスで行くわ。渋滞の一因になってもイヤだもの」

真奈美「そうか」

まゆ「のあさん、お荷物はこれだけですか?」

のあ「ええ」

真奈美「今日は少ないな」

まゆ「法被は持って行きませんか?」

のあ「そんなものはなくても、愛は示せるわ。私の愛は絶対に伝わってるはずよ」

真奈美「うーん……良い方向に振り切ったのか?」

まゆ「どうでしょう……」
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:21:18.82 ID:H1ozWFRS0
真奈美「今日はグッズを買わないのか?」

まゆ「小さめのトートバッグですけど」

のあ「事前通販で買ってるわ。今日買い足す分にはこれで充分よ」

まゆ「そういえば……大きなダンボールが最近届いたような……」

真奈美「終わったらどうする?」

のあ「迎えに来てちょうだい、連絡するわ」

真奈美「わかった」

まゆ「のあさん、お夕飯はどうされますかぁ?」

のあ「偶には留美と一緒に食べるわ、ライブが終わった後に」

真奈美「それがいい。ゆっくりしてきてくれ」

のあ「ええ」

真奈美「行ってらっしゃい、存分に楽しんでくるといい」

のあ「もちろん、行ってきます」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:21:47.19 ID:H1ozWFRS0


高峯探偵事務所

まゆ「あの、真奈美さん」

真奈美「何か困りごとかな?宿題の力にならなれるはずだ」

まゆ「課題は終わりましたぁ」

真奈美「それでは、何かな?」

まゆ「真奈美さんはみくちゃんのライブは見に行かないんですかぁ?」

真奈美「のあとか?前には行ったこともあるが」

まゆ「お歌を教えてるんですよね?」

真奈美「ああ、そういうことか。そちらの立場で行ったことはないな」

まゆ「せっかくのお披露目の場なのに」

真奈美「私は演出家ではないからな、生徒の発表を見るのは気恥ずかしいのさ。それに……」

まゆ「それに?」

真奈美「少しだけ羨ましく思う時もある」

まゆ「……」

真奈美「まぁ、行く機会は幾らでもあるからな。今回は遠慮しただけだよ」

まゆ「あの……真奈美さん」

真奈美「気にしなくていい、私の夢は昔からスポットライトが当たる場所じゃない」

まゆ「……」

真奈美「私は好きでここにいるんだ。これでいいかな?」

まゆ「それはわかります、今はのあさんがいないのは珍しいですよねぇ」

真奈美「確かに、佐久間君と2人は珍しいな」

まゆ「だから、真奈美さんのこと……聞いてもいいですか?」

真奈美「そうか、佐久間君と話したことはなかったな」

まゆ「どうして、ここにいるのか、とか」

真奈美「のあがいない今のうちかな」

まゆ「うふふ……ヒミツですよぉ」

真奈美「そういうことにしておこう」

まゆ「それなら……このことを聞いていいですかぁ?」

真奈美「佐久間君、その前に」

まゆ「その前?」

真奈美「夕食の買い物にいくとしようか」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:23:26.34 ID:H1ozWFRS0


清路市民文化ホール前

清路市民文化ホール
本日のみくにゃんのライブ会場。梅木音葉によると音響が良いとのこと。

のあ「留美、待たせたかしら」

和久井留美「のあ、待ってはいないわ」

和久井留美
ネコちゃんの画像をインターネットで探していた時にみくにゃんと運命の出会いを果たしたとのこと。のあと同じくファンクラブ初代会員の1人。職業は刑事。

のあ「それならいいわ。こちらは」

三船美優「こんにちは……」

三船美優
留美の友人。大学時代からの付き合いとのこと。

留美「以前に会っていたかしら」

のあ「そうね、ランチをしていた時に」

美優「今日も一緒にお昼ご飯を食べていたので……」

のあ「一緒に待っていてくれていたのね。お人好しね」

美優「こんな時でもないと……捕まらないので」

のあ「確かに。留美ももう少し休むといいわ」

留美「十分に休んでいるわ」

美優「もっとです。趣味に時間をとっても……いえ、何もしない時間をとりましょう」

のあ「留美の趣味は仕事とトレーニング。正しい言い方ね」

留美「そうかしら」

美優「そうです……仕事の都合があるのもわかってますけど」

留美「……善処するわ」

美優「えっと、高峯さん、ですよね」

のあ「ええ」

美優「よろしくお願いします」

のあ「よろしくされるようなことはないと思うけれど、任されたわ」

美優「留美さん、また」

留美「またね、美優。今度はライブにも誘うわ」

美優「私は静かなところがいいです、失礼します」

のあ「ご丁寧にありがとう。留美は任されたわ」

留美「……」
10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:23:58.34 ID:H1ozWFRS0
のあ「みくにゃんに興味はないのかしら」

留美「みくにゃんに少なからず興味を持たない人間はいないわ。単に人が多い所が苦手なの」

のあ「そう。待ちぼうけせずに済んだみたいで安心したわ」

留美「待っていないけれど」

のあ「けれど?」

留美「待ちきれないわ」

のあ「気持ちは同じよ。待ちきれない」

留美「ええ」

のあ「しかし、残念なことに」

留美「時間に余裕があるわ」

のあ「絶対に遅れることは許されないもの」

留美「ええ」

のあ「グッズでも見に行きましょうか」

留美「そうしましょう」

のあ「そう言えば」

留美「何かしら」

のあ「この前の番組見たかしら」

留美「もちろん」

のあ「話したいことは」

留美「幾らでも」

のあ「それならいいわ」

留美「行きましょう」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:24:27.58 ID:H1ozWFRS0


高峯探偵事務所

まゆ「真奈美さん、ちょっといいですかぁ?」

真奈美「なにかな?」

まゆ「レシピ本のここなんですけど……」

真奈美「前に買った英語のレシピ本か。だいたい読めるようになったかい?」

まゆ「少しだけ。でも、ここがわからなくて……」

真奈美「どれどれ」

まゆ「何かをするみたいなんですけど……」

真奈美「また変な表現だな。いわゆる方言だ」

まゆ「方言?」

真奈美「丁寧に混ぜるくらいの意味だろう」

まゆ「郷土料理のレシピ本だから馴染みのある表現なんですね」

真奈美「おそらく。佐久間君ならいつも通りで問題ないよ」

まゆ「はぁい」

真奈美「そっちは任せよう。私はチーズの方を」

まゆ「ケーキ、ですか?」

真奈美「ああ。海外にいる頃に教わった。昔はよく作っていたよ」

まゆ「そうなんですかぁ」

真奈美「のあにも好評だった。佐久間君ははじめてかな」

まゆ「はい、楽しみにしてますねぇ」

真奈美「ああ、期待していてくれ」

まゆ「のあさん、そろそろ会場に入る頃ですね」

真奈美「そうだな。緊張しているかもな、楽しみ過ぎて」

まゆ「ふふっ、そうかもしれませんね」

真奈美「楽しんでいるならチーズケーキは佐久間君が先だ、のあにはお預けだな」

まゆ「はい、お先にいただいちゃいます」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:24:56.90 ID:H1ozWFRS0


清路市民文化ホール前

留美「20時まで電源を切るけれど、いいわね。ええ、柊課長にも連絡はしてあるわ」

のあ「……」

留美「任せたわ」

のあ「電話は終わりかしら」

留美「待たせたわね。何もないといいけれど」

のあ「そうね。でも、大和巡査部長も新田巡査も信頼できるでしょう」

留美「ええ。任せるのも上司の務めね、課長からも昔聞いたわ」

のあ「留美が教育した成果ね、今日はそのゴホウビだと思えば」

留美「……」

のあ「どうかしたのかしら」

留美「のあらしくない表現ね、ゴホウビって。欲しい物は欲しい時に手に入れるものだとばかり」

のあ「そうかしら?」

留美「昔の、ね。のあも変わったわ」

のあ「留美こそ」

留美「自分では変わったつもりはないけれど」

のあ「変わってなかったらグッズのネコミミをつけていないわ」

留美「変わってないわ。巡り合っただけよ」

のあ「留美」

留美「……」

のあ「わかるわ」

留美「でしょう」

のあ「私もケータイの電源は切りましょう。集中を」

留美「ええ」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:26:10.57 ID:H1ozWFRS0


高峯探偵事務所

真奈美「フムン……」

まゆ「パスタ、いかがですかぁ?」

真奈美「美味しいよ。独特な食感だ」

まゆ「よかったぁ。でも、再現できたでしょうかぁ……?」

真奈美「再現できたかはわかりかねるな、でも」

まゆ「でも?」

真奈美「どこかの家庭で食べる人を思って作られたのはわかる」

まゆ「そうですねぇ、地元の食材がたくさんで」

真奈美「ご馳走だったのかもな」

まゆ「ここで食べてるのも不思議ですねぇ」

真奈美「縁とはそういうものなのかもな」

まゆ「はい、きっと」

真奈美「こうして2人で食事をしているのも」

まゆ「のあさんが、みくちゃんのライブに行ってるのも」

真奈美「そうかもな」

まゆ「のあさん、楽しんでますかね」

真奈美「きっとな。今日お披露目の曲もある」

まゆ「新曲があるんですかぁ?」

真奈美「おっと、口を滑らせた。きっちり仕上げていたからな、ファンも満足するだろう」

まゆ「のあさん、喜びますねぇ」

真奈美「ああ。ジャズパートと同じ事務所のアイドルのカバーもあると言っていた」

まゆ「まぁ、カバー曲ですか?」

真奈美「確かNaked Romanceと2nd Sideだったかな」

まゆ「小日向美穂ちゃんと神谷奈緒ちゃんの曲ですね、素敵な恋の歌……みくちゃんが歌うとカワイイでしょうねぇ」

真奈美「佐久間君、意外と詳しいな」

まゆ「のあさんと一緒にライブの映像を見て気になって」

真奈美「そうか、のあは前川君が出てるなら持ってないはずがないな」

まゆ「でも、のあさんはみくちゃんのことをどうしてそんなに好きなんでしょう?」

真奈美「わからない。紹介した私が言うのも難だが、脳内で何かがスパークしたとしか思えない」

まゆ「のあさんの頭の中は色々起こってそう……真奈美さんはみくちゃんを昔から知っていたんですかぁ?」

真奈美「ああ。正確にいえば、所属している芸能事務所と付き合いがあった」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:26:37.07 ID:H1ozWFRS0
まゆ「事務所と?」

真奈美「のあも知ってはいるよ。前川君のファンに専念するために距離を取ってはいるが」

まゆ「ファンの鑑なんでしょう……か」

真奈美「ごちそうさま。美味しかったよ」

まゆ「ごちそうさまでした」

真奈美「約束通り、私のことを話そうか」

まゆ「はい、聞きたいです」

真奈美「初めてここに来た時の話をするとしよう、その前に」

まゆ「その前に?」

真奈美「ケーキと紅茶の準備をしようか」

まゆ「はぁい、雪乃さんから紅茶を貰ってきますねぇ」

真奈美「お願いするよ」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:27:40.17 ID:H1ozWFRS0


高峯探偵事務所

相原雪乃「お茶の準備ができましたわ。どうぞ」

相原雪乃
高峯ビル2階の喫茶St.Vのマスター。今日は紅茶を淹れに高峯探偵事務所まで来てくれた。

真奈美「ありがとう」

まゆ「雪乃さんも真奈美さんのお話を聞いて行きませんか?」

雪乃「ご遠慮しますわ。お2人でゆっくりしてください」

真奈美「そうか。チーズケーキだけお裾分けだ」

雪乃「まぁ、ありがとうございます。いただきますわ」

まゆ「また、遊びに来てくださいねぇ」

雪乃「もちろんです。今日は失礼しますわ、良い夜をお過ごしくださいませ」

真奈美「また、紅茶を貰いにいくよ」

まゆ「ありがとうございましたぁ」

真奈美「……」

まゆ「雪乃さんのお店はいつからここに?」

真奈美「私が来た後だよ。のあは相原君の喫茶店を仕事に使っていたらしいな」

まゆ「探偵のお仕事に?」

真奈美「張り込みの場所が前の店に近かったそうだ」

まゆ「そうなんですねぇ」

真奈美「のあは交友関係は広くはないが、必要なつながりは自然と手に入る」

まゆ「真奈美さんも、ですか……?」

真奈美「そうかもな。さて、何から話そうか」

まゆ「真奈美さんとのあさんは、どこで知り合ったんですかぁ?」

真奈美「ここだよ」

まゆ「探偵事務所ですか?」

真奈美「正確には外の階段だ。今思えば、偶然が重なった」

まゆ「偶然……?」

真奈美「私が帰国を早めなければ、住居がすぐに見つかっていれば、雨が降っていなければ、のあが丁度帰ってこなかったら、私はここにいない」

まゆ「それも縁……ですか」

真奈美「きっとな」

まゆ「……」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:28:45.41 ID:H1ozWFRS0
真奈美「ライブもまだ終わらなそうだ、聞いてくれるか」

まゆ「はい、聞きたいです」

真奈美「帰国して間もない雨の日だった。仕事はおろか住処も決まってない時に、のあが話しかけてきた」

まゆ「のあさんが話しかけて来たんですか?」

真奈美「階段に腰かけていたからだと思うよ。だけど、それが始まりだった」

まゆ「始まり……」

真奈美「そして、助手、あの頃はまだ助手ではないか、ともかく最初の事件はすぐに来た」

まゆ「最初の事件が舞い込んできたんですか?」

真奈美「いいや、既に始まっていたんだ」

17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:29:33.63 ID:H1ozWFRS0


回想1・のあと真奈美

高峯ビル・階段の入り口

のあ「……」

真奈美「……」

のあ「あなた、何をしているのかしら」

真奈美「この通りだ。わからないか?」

のあ「急な雨で雨宿りをしている。階段に腰かけて」

真奈美「邪魔にならないと思ってな。2階はテナントがなく、3階と4階は住居のようだからな」

のあ「邪魔にはならないは正解。3階については不正解」

真奈美「住居じゃないのか。君が経営している会社かな?」

のあ「間違ってはいない」

真奈美「この階段を使う数少ない人が来てしまったわけだな。運が悪い」

のあ「別に気にはしてないけれど」

真奈美「失礼した。次の場所に行くとしよう、物件選びの途中なんだ」

のあ「この雨で、傘も持っていないのに行くのかしら」

真奈美「やむどころか雷雨になってるな、前言撤回だ」

のあ「そう。ご自由に」

真奈美「待った」

のあ「何かご用かしら。依頼なら聞かないこともないけれど」

真奈美「少し話し相手になってくれないか。待っているのも退屈でな」

のあ「話相手になっている時間はないわ」

真奈美「そうか、残念だ」

のあ「代わりに場所を貸すわ。3階の事務所は使ってちょうだい」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:30:13.74 ID:H1ozWFRS0
真奈美「事務所?芸能事務所なのか?」

のあ「違うけれど」

真奈美「そうは上手くいかないか。君の風貌からして芸能関係者でもおかしくないと思ってな」

のあ「そう。それで、使うのかしら」

真奈美「ご厚意は受け取ろう」

のあ「そう。自由に使ってちょうだい。面白いものは何もないけれど」

真奈美「構わない。それで、何の事務所なんだ?」

のあ「探偵事務所」
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:30:56.38 ID:H1ozWFRS0


回想2・のあと真奈美

高峯探偵事務所

のあ「スペースだけはあるわ。ご自由に」

真奈美「そうするよ。探偵事務所というよりは、大きなリビングだな。自室は4階か?」

のあ「その通り」

真奈美「ここで暮らしているのか?」

のあ「ええ」

真奈美「他には、家族はいないのか?」

のあ「いないわ。今は1人よ」

真奈美「生活感がないな、ここは」

のあ「……」

真奈美「休ませてもらうよ」

のあ「どうぞ。私が気になるようなら上の部屋を使ってもいいわ。本なら幾らでもある」

真奈美「どんな仕事をしてるかは、聞かない方がいいかな」

のあ「基本的に。御想像通りの探偵業を細々とやってるわ」

真奈美「わかった。上で一休みさせてもらうよ」

のあ「ご自由に」

真奈美「さて、お部屋見学といこうか」

のあ「……」

のあ「……しまった」

キャー!

のあ「珍しく来客がいるのを忘れていたわ」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:31:54.92 ID:H1ozWFRS0
10

高峯探偵事務所

真奈美「ということで、その日の先客に悲鳴をあげさせてしまった」

まゆ「のあさんの説明不足?」

真奈美「結果的にな。この時点でとあることもしてない」

まゆ「とあること?」

真奈美「まだ私ものあも互いに名乗っていない」

まゆ「それは、話せなくてもしかたないですねぇ」

真奈美「のあの性格からして必要以上には話さないだろう」

まゆ「でも、ここには招き入れてくれたんですよねぇ」

真奈美「ああ。不思議なところだな」

まゆ「真奈美さんを信頼できる人だと思ったから?」

真奈美「そこまで信頼できそうな感じはなかったと思うが。理由はのあにあると思う」

まゆ「のあさんに……」

真奈美「理由はこの場所だろうな」

まゆ「ここに人を招きいれたいから……でしょうか」

真奈美「私はそうだと思ってる」

まゆ「のあさんにとっては大切な場所だから」

真奈美「両親が健在だった頃は人の出入りが多かったのかもな」

まゆ「……」

真奈美「そういうわけで、悲鳴の持ち主と私はよろしくない出会い方をしたわけだ」

まゆ「その人はどうして、のあさんの部屋に?」

真奈美「彼女は部屋を借りて、私が入った時は寝ていた」

まゆ「ちょっと反応が大袈裟な気がします」

真奈美「ああ。理由があった」

まゆ「理由……」

真奈美「彼女が最初の事件の依頼者だ」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:32:39.76 ID:H1ozWFRS0
11

回想3・のあと真奈美

高峯探偵事務所

服部瞳子「お騒がせしてすみません……」

服部瞳子
高峯家の客室で眠っていた依頼人。綺麗で高い悲鳴が響き渡った。

のあ「防音だから問題ないわ」

真奈美「驚かせてしまってすまない」

のあ「この人に私が言うのを忘れていたわ。私の責任よ」

瞳子「いいえ……私も慌てすぎていて……」

のあ「落ち着いたかしら」

真奈美「落ち着くのも難しいだろう。お茶でも用意しようか。キッチンを使っていいか?」

のあ「どうぞ」

瞳子「あの……こちらの方は」

のあ「知らないわ」

瞳子「知らない……?」

真奈美「不安にさせるようなことを言わない方がいいと思うが」

のあ「そうね。雨宿りしてるだけ。名前は」

真奈美「木場だ」

のあ「だそうよ」

瞳子「そうなんですか……」

真奈美「フムン、不安がられているようだな」

瞳子「すみません、色々あって」

真奈美「理由がなければここにいないだろうからな。この粉茶でいいか。ポットのお湯もあるな。使っていいか」

のあ「かまわない」

真奈美「話したところで安心できるかはわからないが、少し話そう。このまま悲鳴をあげられたままで別れるのも嫌だからな」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:33:39.14 ID:H1ozWFRS0
12

回想4・のあと真奈美

瞳子「スタジオボーカリストですか……」

真奈美「過去形だがな。求職中だ」

のあ「歌手とは違うのかしら」

瞳子「表に出る立場ではありませんが、プロですよ。コーラスや仮歌が有名でしょうか」

のあ「へぇ」

真奈美「そんなところだ」

瞳子「……」

真奈美「歌の先生でもライブのコーラスでも早いうちに仕事に復帰しておきたいが……どうした?真剣な顔して」

瞳子「いいえ、何でもありません」

真奈美「そうか。私はこんなところだ」

のあ「木場真奈美。海外帰り。特に犯罪歴なし。私は格段に注意が必要な人物だとは思わない」

瞳子「私もそう思います」

真奈美「ありがとう。君らのことも聞いていいか」

瞳子「構わないけれど……」

のあ「名前は高峯のあ。職業は探偵」

真奈美「のあ?」

のあ「平仮名で、のあ。何か言いたいことでも」

真奈美「君はどう思う?」

瞳子「えっと……良い名前だと。雰囲気にあっているかと」

真奈美「概ね同感だな。何故探偵をやっている?」

のあ「私のことを聞いても意味はない。彼女のことを聞いてあげなさい」

真奈美「秘密主義か。それじゃあ、君のことを聞こうか」

瞳子「私、ですか」

真奈美「ああ。どうしてここにいるのかな」

のあ「私の依頼人だからよ」

真奈美「依頼人?」

瞳子「はい。服部瞳子と申します」

真奈美「依頼人が探偵の家にどうして泊っているんだ?」

のあ「あなた」

真奈美「木場でいい。私に言いたいことでもあるのか?」

のあ「ええ」

真奈美「言ってみたまえ」

23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:34:09.77 ID:H1ozWFRS0
のあ「拙速」

真奈美「拙速?」

のあ「知りたいことを知るために段階を飛ばすことは、結果的には拙速になる。落ち着きなさい」

真奈美「はは、落ち着けと言われたのは久しぶりだな」

のあ「余計なお世話ね。忘れてちょうだい」

真奈美「肝に銘じておくよ。忠告は貴重だ」

のあ「そう」

真奈美「私には自分の仕事に矜持がある。君らもだろう」

瞳子「……」

真奈美「探偵の話は本職が話すのがいい。聞いていいかな」

のあ「私から話してもいいかしら」

瞳子「はい、私も事情を知っている人が増えると頼もしいです」

のあ「わかったわ。話しましょう」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:35:03.07 ID:H1ozWFRS0
13

高峯探偵事務所

まゆ「ふふっ、怒られちゃいましたね」

真奈美「暇つぶしにしか思っていなかったからな、当たり前だが」

まゆ「あれ?考え方を注意されたのではないんですかぁ?」

真奈美「態度の方だったよ、今思えばな」

まゆ「まだ、のあさんの助手じゃないですものねぇ」

真奈美「ああ」

まゆ「だから、のあさんにお任せしたんですね」

真奈美「そういうことだ。実際のところ、のあが他人に期待しているのはそうじゃない」

まゆ「順番を守って、事実を明らかにする……のではなく」

真奈美「のあに見えないものに気づき、のあが辿り着かない直感を提示することだな」

まゆ「なるほど……」

真奈美「それと日常生活のサポートかな。ハッキリ言って、この頃はまともな生活していたとは思えない」

まゆ「そうみたいですねぇ。真奈美さんが来てくれてよかった」

真奈美「それに……」

まゆ「それに?」

真奈美「いや、これは後にしよう。瞳子君の件についての続きだ」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:36:12.48 ID:H1ozWFRS0
14

回想5・のあと真奈美

高峯探偵事務所

真奈美「……」

のあ「服部瞳子、これまでの話に相違はあるかしら」

瞳子「間違いはない、と思います」

のあ「木場さんはどう思うかしら」

真奈美「ストーカーの犯行のように思えるが、違うのかな?」

瞳子「……わかりません」

のあ「現状ではわからない、その認識が正しい」

瞳子「私の勘違いかもしれないです、もしかしたら」

真奈美「明確な被害が出ている、というわけではない」

のあ「郵便物が荒らされている、不審者を目撃している、おかしな物音、それと」

瞳子「部屋に入った可能性が……明確な証拠はないのですが」

真奈美「探偵、聞いていいかな」

のあ「構わない」

真奈美「この場合に被害者がすべき、正解はなんだ?」

のあ「正解ね……」

瞳子「私は警察に相談しました」

のあ「近くの交番に。2回目に不審者を見かけた直後」

真奈美「これでいいのか」

のあ「私は間違いだとは思わない」

瞳子「警察も見回りを増やしてくれました」

のあ「交番のお巡りさんは親切だったということね」

真奈美「つまり」

のあ「ストーカー対策のような部署は動かなかった。事件性もないとの判断」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:36:51.65 ID:H1ozWFRS0
真奈美「それで解決しなかった」

のあ「ええ。悪化しているわけではないけれど」

真奈美「次の選択は、探偵に依頼すること」

瞳子「はい。警察の方が紹介してくれました」

真奈美「この判断は正解か?」

のあ「少なくとも安心して眠ることができたわ」

瞳子「はい、思った以上に疲れていたみたいで」

真奈美「反応が過剰だった理由はわかった。部屋があってよかったな」

瞳子「はい、助かりました」

真奈美「探偵か……」

瞳子「どうか、しましたか?」

真奈美「何でもない。探偵、解決の糸口は見えたか」

のあ「いいえ」

瞳子「そうですよね……」

のあ「服部瞳子、確認だけれど」

瞳子「何でしょうか」

のあ「職場の方には不審者は」

瞳子「そちらでは見ていません」

真奈美「職場?」

瞳子「喫茶店で働いているんです、落ち着いた良いお店ですよ。お客さんも優しくて」

のあ「先ほど話を聞いてきたわ」

真奈美「聞き取りの帰りだったのか」

瞳子「何か、わかりましたか?」

のあ「私の情報は増えた。解決への手掛かりは見つからなかった」

瞳子「そうですか……」

真奈美「いや、安心していいんじゃないか?」

瞳子「え?」

のあ「職場は安全そうね、協力してくれるそうよ」

瞳子「そういうこと、ですか」

のあ「喫茶店のご主人、記憶力がいいそうね」

瞳子「はい、一度来たなら覚えられると」

真奈美「へぇ、昔ながらの職人気質だな」

のあ「あなたに付きまとう客や関係者はいない、と」

瞳子「それは、安心しました」

のあ「そうなると、調べる場所は自ずと決まる」

真奈美「自宅か」

瞳子「そうなりますね……」

27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:37:18.99 ID:H1ozWFRS0
真奈美「まだ彼女の自宅は見ていないのか?」

のあ「急な事態ではない。休ませることが先決」

瞳子「……すみません」

のあ「別に謝る理由はないわ」

瞳子「……お願いします」

のあ「さて、出かける準備しましょうか」

真奈美「雨はマシになったか。私も出るとしよう」

のあ「ところで、木場さん」

真奈美「なんだ?」

のあ「運転は得意かしら」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:37:58.31 ID:H1ozWFRS0
15

高峯探偵事務所

真奈美「ということで、最初の仕事は運転手だ」

まゆ「のあさん、運転得意じゃないですものねぇ」

真奈美「しかし、雨宿りしていただけの人物に頼むか?」

まゆ「頼みます、きっと」

真奈美「その理由は」

まゆ「ビジネスだから」

真奈美「正解だ。契約書はこの時も信じてる」

まゆ「真奈美さんが契約してくれそうだから、以外はないと思います」

真奈美「そうだな」

まゆ「だから、複雑ですね」

真奈美「ああ」

まゆ「……」

真奈美「私は日雇いの契約書にサインして、運転手になった」

まゆ「そして、服部さんのお部屋に」

真奈美「その通り。そろそろ、のあもライブが終わる頃かな」

まゆ「ケータイに連絡してましょうか?」

真奈美「今日はいいだろう。片づけをしてしまおうか」

まゆ「はぁい、続きはそれからですね」

29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:38:47.37 ID:H1ozWFRS0
16

清路市民文化ホール

のあ「……良かったわ」

留美「ええ」

のあ「やはり出待ちに……留美?」

留美「ケータイの電源を入れるわ」

のあ「仕事熱心ね」

留美「約束だもの……あら」

のあ「着信があるみたいだけれど」

留美「そのようね。新田巡査、ご苦労様」

のあ「……」

留美「10分前?タイミングが良いのだか悪いんだか、現場に直行します。ちょっと待って」

のあ「事件かしら」

留美「そのようね。のあ、ごめんなさい」

のあ「構わない。私が行ってもいいけれど」

留美「探偵の出番はないわ。出待ちするんでしょう?私の分もお願い」

のあ「わかったわ」

留美「後で食事に誘うわ。感想もその時に」

のあ「暇な時にまとめておくわ。そっちこそ時間を作りなさい」

留美「もちろん。新田巡査、簡単に報告を。車を出す位置も指示するわ」

のあ「電話しながら走って行ったわね……元気ね、私は疲れたのだけど……はしゃぎすぎかしら」

のあ「……」

のあ「真奈美に連絡をしておこうかしら……ケータイはカバンの中に……」

井村雪菜「あらぁ?」

井村雪菜
のあとは希砂二島の洋館で出会った。その時と変わった様子は見えない。

のあ「こんにちは、お久しぶりね」

雪菜「あの……私のこと覚えてますかぁ?」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:39:40.49 ID:H1ozWFRS0
のあ「井村雪菜。あの時は大変だったわね」

雪菜「はい……」

のあ「この話はやめましょう。あなたもみくにゃんのライブを?」

雪菜「はい。カワイイですよねぇ」

のあ「ええ、とても」

雪菜「出待ちをしたいんですけど……高峯さんはわかりますかぁ?」

のあ「私もそのつもりよ、一緒に行きましょうか」

雪菜「はい、ご一緒させてください」

31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:40:23.24 ID:H1ozWFRS0
17

回想6・のあと真奈美

服部瞳子のアパート

服部瞳子のアパート
質素な感じを受けるアパート。通りに面しておらず、オートロックで防犯は悪くないように見える。

のあ「普通ね」

真奈美「私にもそう見える」

のあ「部屋はどちらかしら」

瞳子「302号室です。こちらです」

のあ「ありがとう」

瞳子「狭い部屋ですけれど、どうぞ」

のあ「お邪魔するわ」

真奈美「私も入っていいか」

瞳子「そこまでは狭くないと、思います。海外に慣れていると狭いかもしれませんが」

真奈美「そういう意味はないんだが。まぁ、お邪魔するよ」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:41:27.09 ID:H1ozWFRS0
18

回想7・のあと真奈美

服部瞳子のアパート・302号室

瞳子「どうぞ、粗茶ですが」

真奈美「ありがとう」

瞳子「探偵さん、お茶はいかがでしょうか……」

のあ「結構。ベランダに出ていいかしら」

瞳子「どうぞ」

のあ「失礼」

真奈美「何を見ているんだろうか」

瞳子「わかりません」

真奈美「謎だな、色々と」

瞳子「謎、ですか」

真奈美「所有していたのも高級車だった、生活に困っている様子もない」

瞳子「ビルのオーナーらしいですよ、探偵事務所の入っている」

真奈美「そういうことか」

瞳子「他にも色々と仕事をしているみたいです」

真奈美「なるほどな」

瞳子「探偵のお仕事はそこまでお金にはならないそうで」

真奈美「探偵業は趣味か」

瞳子「そんな態度には見えませんが……」

真奈美「態度は真剣だな。ただ、あの見かけだからなぁ」

瞳子「最初に見た時は驚きました」

真奈美「どこか異国の血が流れているのだろうか」

瞳子「そうかもしれませんね」

のあ「お話のところ、申し訳ないけれど」

真奈美「戻ってきた」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:41:59.97 ID:H1ozWFRS0
瞳子「何かわかりましたか」

のあ「結論を出すには早い。管理人に話を聞いてくるわ」

瞳子「一緒に行きましょうか」

のあ「1人でいいわ。お話を続けていて」

真奈美「そうか」

のあ「ひとつだけ」

瞳子「なんでしょう?」

のあ「私は曽祖父の代まで日本人よ、それより前は知らないけれど」

真奈美「聞いていたのか」

瞳子「行ってしまいましたね」

真奈美「マイペースだな」

瞳子「はい。少しだけ羨ましい」

真奈美「大丈夫なのか?」

瞳子「何がでしょうか」

真奈美「部屋の中、見られても問題ないのか?」

瞳子「はい。物も多くありませんから」

真奈美「物が少ないな、昔からか」

瞳子「引っ越しの時に物を整理したので。熱帯魚の水槽も小さくしました」

真奈美「引っ越してきてから間もないのか」

瞳子「4ヶ月くらいでしょうか。前のアパートには8年くらいいたので、整理は大変でした」

真奈美「随分と長くいたんだな」

瞳子「あそこに見えるビルも改装が終わっていなかったんですよ」

真奈美「……」

瞳子「木場さん、何か」

真奈美「ちょっと失礼。私もベランダに出てもいいか」

瞳子「いいですけど……」

真奈美「……フムン」

瞳子「あの……」

真奈美「なるほどな」

瞳子「何かありましたか」

真奈美「見られているのは確かのようだな」

瞳子「え?」

真奈美「カーテンは閉めておこう、いいかな」

34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:42:34.70 ID:H1ozWFRS0
19

回想8・のあと真奈美

服部瞳子のアパート・302号室

のあ「レンズ?」

真奈美「そうだ」

のあ「服部瞳子も見たのかしら」

瞳子「いいえ、私は見ていませんが」

のあ「先ほどじゃなくてもいい。以前には」

瞳子「あったような気がします」

のあ「同一人物かしら。木場さん、場所は特定できるかしら」

真奈美「難しいが、反射が見えるくらいだった」

のあ「ベランダから見える正面近く。該当する建物は幾つか」

真奈美「やはり、服部君が標的か?」

のあ「そうでしょうね」

瞳子「え……?」

のあ「どの程度か、というところでしょうね。不安にならなくてもいいわ」

瞳子「あの……言っていることがあまり」

真奈美「理解できない」

のあ「理解するほどの情報を与えていない。当たり前のこと」

瞳子「えっと……」

真奈美「つまり、話をしてくれるのかな」

のあ「いいえ。私の推論には仮説が多い。証拠を集めたい」

真奈美「逆か?」

瞳子「聞きたいことがあるのですか」

のあ「ええ、答えてくれるかしら」

瞳子「もちろんです」

のあ「301号室の住人について聞かせてちょうだい」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:43:15.52 ID:H1ozWFRS0
20

高峯探偵事務所

まゆ「話が飛びましたねぇ」

真奈美「ここでのあに置いて行かれた。のあのスピードを甘く見ていた」

まゆ「速いですから。追いつけましたか?」

真奈美「答えはノーだ。間違ったな」

まゆ「管理人さんに話を聞きにいかないとでしたね、一緒に」

真奈美「本当にな。のあの調査は推理と同時並行だからな」

まゆ「推理はのあさんに任せても」

真奈美「情報は同時に集めるべきだ」

まゆ「のあさんのお仕事が円滑に進むように」

真奈美「その助けができればいいと思うが」

まゆ「みくちゃんの方がリフレッシュになってるかも?」

真奈美「それは私達には出来ない領分だ、諦めよう」

まゆ「真奈美さんもネコミミをつければ」

真奈美「辞めておくよ」

まゆ「のあさんもお食事をとったでしょうか?」

真奈美「出待ちを終えたぐらいだろう。これからだな、きっと」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:44:15.72 ID:H1ozWFRS0
21

清路市民文化ホール・通用口側の裏道

雪菜「行ってしまいましたねぇ」

のあ「ここは出る所も見えるし、車の通り道だから」

雪菜「穴場ですねぇ。手も振ってくれました」

のあ「満足したわ、あなたは」

雪菜「私はこれからですよぉ、ここに来るのも、あなたが悲鳴を上げないのも知っています」

のあ「何を言って……くっ……」

雪菜「車に載せましたか?」

渋谷凛「問題ないよ。軽かった、どんな骨格してるんだか」

渋谷凛
頼子達に協力している。かつては花屋の一人娘だった。

雪菜「見られていませんよねぇ」

凛「うん。すぐに発車しよう。詩織」

瀬名詩織「はい。乗ってください、『化粧師』」

瀬名詩織
交通機動隊員。リスクを冒すために、彼女達に協力している。

雪菜「迎えに来てくれてありがとうございますぅ」

凛「こっちの人はどうすんの?」

美優「一応来ましたけれど……」

雪菜「保険はいりませんでしたねぇ。うかれぽんちさんでしたぁ、あなたの言う通り」

詩織「乗りますか」

美優「いいえ。歩いて帰ります……お疲れ様でした」

雪菜「また、お会いしましょうねぇ」

美優「……会うことがあるなら」

雪菜「うふふっ、出してください」

詩織「はい」

雪菜「気づいてくれるかなぁ、早く」

凛「……」

雪菜「何か言いたげですねぇ」

凛「別に。あんたの邪魔はしないから」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:44:48.50 ID:H1ozWFRS0
22

回想9・のあと真奈美

服部瞳子のアパート・302号室

瞳子「301号室、ですか?」

のあ「ええ。どんな人物が住んでいたのかしら」

瞳子「女性でした、二十代後半くらいでしょうか」

のあ「職業は」

瞳子「会社員をやっていると言っていました」

のあ「面識は」

瞳子「引っ越しの際に挨拶をしたくらいです。後は廊下ですれ違ったり」

のあ「その301号室だけれど」

真奈美「……」

のあ「今は誰も住んでいないわ」

瞳子「え?」

真奈美「知らなかったのか」

瞳子「え、ええ。引っ越しした様子もありませんでしたし」

のあ「当然。管理人も夜逃げのようにいなくなった、と言っていたわ」

真奈美「夜逃げか」

のあ「301号室に上がったことはないわね」

瞳子「はい」

のあ「実際は夜逃げしたわけではないわ。引っ越しの手間がかからなかっただけ」

瞳子「どういう意味でしょう……?」

のあ「住居ではなかったようね」

真奈美「目的が住むことではない、か」

のあ「何のために部屋を借りていたのか」

瞳子「あの」

のあ「何かしら」

瞳子「301号室に住んでいた人が犯人なのですか」

真奈美「それなら、もう解決しているのか」

のあ「解決はしていないと思うわ」

瞳子「そうですか……」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:45:20.83 ID:H1ozWFRS0
のあ「同時に目的も果たされていないのでしょう」

真奈美「目的?」

のあ「だから尻尾を掴むチャンスはある。服部瞳子?」

瞳子「……」

のあ「聞いているかしら」

瞳子「すみません、何でしょうか」

のあ「あなたが引っ越してきてから4ヶ月。301号室が空き部屋になってから2週間。変わったことは」

真奈美「ストーカー以外のことか」

のあ「その通り。あなたではなく、周囲のこと」

瞳子「それなら、あそこです」

のあ「どこかしら」

瞳子「ベランダから見えるビルの改装が終わりました」

のあ「そこに行ってみましょうか」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:47:00.60 ID:H1ozWFRS0
23

幕間

清路市内某雑居ビル・1階・空き店舗

大和亜季「警部補殿!」

大和亜季
刑事一課和久井班所属の巡査部長。今日は予定を入れていなかったとのこと。

留美「お疲れ様。新田巡査、来てちょうだい」

新田美波「はい!大和巡査部長、お疲れ様です!」

新田美波
刑事一課和久井班所属の巡査。留美が不在時に起きた事件だが、士気は落ちていないようだ。

留美「報告を」

亜季「やはり事件発生時間は18時半から19時45分の間でありますな」

留美「警備員の巡回時間ということかしら」

亜季「その通りであります。同じ警備員が巡回に来ているであります」

留美「目撃者は」

亜季「おりません。同じ警備員でなければ、異変に気付かなかったかもしれませんな」

留美「監視カメラは」

亜季「店舗内にはありませんが」

美波「建物側の監視カメラにも不審な人物は映ってませんでした」

留美「それで、被害者は見つかったのかしら」

亜季「残念ながら、見つかっておりません」

留美「被害者なき刑事事件、と」

美波「そうなりますね……」

亜季「残っていたのは血だけであります」

留美「登場人物は目撃者だけ。増やしましょうか」

美波「はい」

亜季「関係者を全てあたるであります」

留美「良い心意気ね。大和巡査部長はこの建物の関係者を」

亜季「了解であります!」

留美「新田巡査は近隣の関係者と目撃者を」

美波「はいっ!美波、行きますっ!」

留美「頼むわ」

亜季「警部補殿はどうするでありますか?」

留美「血そのものを調べるわ」

亜季「わかりました!大和巡査部長、行って参ります!」

留美「ええ……長い夜になりそうね、今日は」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:48:05.27 ID:H1ozWFRS0
24

回想10・のあと真奈美

CGプロダクション・2階・応接室

CGプロダクション
改装中だったビルに入居した芸能事務所。旗揚げして間もない新しい会社とのこと。

真奈美「今度こそ芸能事務所だな」

瞳子「そうですね……」

のあ「彼女が戻ってきたわ」

千川ちひろ「申し訳ありません、やはり皆出払っていまして」

千川ちひろ
CGプロダクションのアシスタント。この時点で数少ない社員の1人。

のあ「そう」

ちひろ「なにせ新しい事務所ですから、来客があるとは思わなくて」

のあ「別にいいわ。今は誰かいるのかしら」

ちひろ「私の他に、トレーナーさんと候補生の方が1人います。3階のレッスンルームです」

瞳子「……」

のあ「今いる人物に話が聞ければいいわ」

ちひろ「どのようなご用件でしょうか?」

のあ「質問を。一つだけで良いと思うわ」

真奈美「一つだけでいいのか?」

のあ「改修工事、何が目的だったのかしら」
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:49:14.06 ID:H1ozWFRS0
25

回想11・のあと真奈美

CGプロダクション・3階・レッスンルーム

トレーナー「はじめまして。CGプロでレッスントレーナーをやっています、青木明です」

トレーナー
CGプロダクションに雇われた青木4姉妹の3女で、名前は明。家族経営のスタジオごとCGプロダクションが買収したらしい。

のあ「はじめまして。こちらの方は」

トレーナー「ご紹介しますね、候補生の島村さんです」

島村卯月「島村卯月です、こんにちは!」

島村卯月
CGプロダクションのアイドル候補生。彼女は知らないが、デビューまでの入念な計画がある期待の星。

瞳子「笑顔が眩しい……」

トレーナー「おふたりのお話というのは?」

のあ「ふたり?」

瞳子「木場さんは先ほどの事務員さんと何か話していまして」

のあ「揃う必要もない。大した用事ではないわ。私はこういう者よ」

卯月「名刺……高峯探偵事務所?」

トレーナー「探偵さんが何故芸能事務所に?」

のあ「理由は色々と」

卯月「こちらの綺麗な人はどなたでしょう?」

瞳子「……」

のあ「服部瞳子、質問されているけれど」

瞳子「え、私……ですか」

卯月「もしかして、事務所に所属する新しい人ですか?」

トレーナー「何人か移籍する方も含めていると聞いています」

瞳子「いいえ、私は違います」

のあ「私の依頼人よ」

瞳子「近所に住んでいるので、よろしくお願いします」

卯月「はいっ」

のあ「質問をしていいかしら。下でも同じことを聞いたのだけれど」

トレーナー「何でしょうか、答えられることなら」

のあ「改装工事をしていたけれど、何をしていたのかしら」

卯月「改装工事ですか?最近終わったばっかりですよね」

トレーナー「外壁の塗装を塗り替えたと聞いています。それと」

のあ「窓ね」

トレーナー「はい。窓が開いていても外から見えないように」

卯月「芸能事務所らしいですね」

のあ「そういうことね」

瞳子「私の部屋からは何も見えませんでした」

のあ「私が聞きたいことはそれだけね。がんばってちょうだい」

真奈美「おっと、もう終わりかな」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:50:09.96 ID:wT2tO75h0
のあ「こちらは終わりよ」

真奈美「ほう、立派なレッスンルームだな」

瞳子「そうですね、本当に」

のあ「木場さんは何か別の話でも」

真奈美「まぁ、仕事の話だな」

プルルル……

のあ「私の電話ね。こちら高峯……ええ、メールで送ってちょうだい。感謝するわ」

真奈美「どちらからかな」

のあ「不動産屋。調べてもらった結果が出たわ」

真奈美「不動産屋?」

のあ「さて、そろそろ終わりにしましょう。少しご協力をお願いしていいかしら」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:50:52.94 ID:wT2tO75h0
26

回想12・のあと真奈美

CGプロダクション近隣・路上

真奈美「……」

のあ「こちらには反応なし。青木さん、ありがとう。戻って良いわ」

真奈美「聞いていいか」

のあ「どうぞ」

真奈美「君の中では結論は出ているよな」

のあ「そうね」

真奈美「その結論は教えてくれないのか」

のあ「頭の中の推論より見える結果。今は結果が見えるのだから、それでいい」

真奈美「推理を楽しむようなことはしないのか」

のあ「仕事だから。道楽に近い収支だとしても」

真奈美「……」

のあ「変なことを言ったかしら」

真奈美「いいや、言ってはいない」

のあ「そう……服部瞳子、ベランダに出てもらえるかしら」

真奈美「……」

のあ「……」

真奈美「かかった、みたいだぞ」

のあ「そのようね。さて、お話を伺いましょうか」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:51:50.24 ID:wT2tO75h0
27

高峯探偵事務所

真奈美「のあは犯人まで辿り着いた。傍から見れば簡単そうに」

まゆ「のあさんだからこそ、ですね」

真奈美「そういうことだな」

まゆ「最初に犯人が顔見知りかそれ以外か、アタリをつけてました」

真奈美「私が初めて会った時には、犯人は顔見知りではないと考えていた」

まゆ「服部さんの職場とかを先に調べて」

真奈美「そうなると、瞳子君のアパート周りを調べることになる」

まゆ「301号室に怪しい動きがあったことがわかったら」

真奈美「CGプロダクションが目的だったのもすぐにわかるな」

まゆ「はい。ストーカー行為があるのではないかと不安に思ったのも」

真奈美「同じアパートなら当然だな。郵便物を物色しても怪しまれにくい」

まゆ「301号室から別の部屋に移動したなら、のあさんなら簡単に調べられる」

真奈美「資産家だものな。簡単に引っ越した人物は割り出せる」

まゆ「あまり帰らない住人もわかるかも」

真奈美「後は罠をはるだけだ」

まゆ「CGプロの人と服部さんに協力してもらって」

真奈美「のあなら難しくない」

まゆ「はい、知ってます」

真奈美「最初から高峯のあは興味深い人物だ。なおさら驚いたよ」

まゆ「でも、真奈美さん?」

真奈美「何かな」

まゆ「話していないこと、ありませんかぁ?」

真奈美「おや、気づいたかな」

まゆ「のあさんの2番目の助手ですから」

真奈美「話していないことは何かわかるかな、この時点では私もわかっていない」

まゆ「のあさんは、あえてまだ聞いてないと思います」

真奈美「そうだな。ここに帰ってきてから、のあは聞いていたよ」

まゆ「真奈美さんは今、その人を下の名前で呼んでいますし」

真奈美「おっと、これは気をつけていなかった」

まゆ「服部瞳子さん、ってこの人ですかぁ?」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:52:53.65 ID:wT2tO75h0
28

回想13・のあと真奈美

高峯探偵事務所

瞳子「パパラッチ、ですか」

真奈美「芸能ネタを扱うゴシップ誌の記者だった」

のあ「実績あるスタッフが大手事務所から独立、新事務所設立、移籍のウワサあり、記者が狙うには十分な理由ね」

真奈美「残念ながら成果はゼロだったみたいだな」

のあ「色々と私も掴んでいる。安心していいわ」

真奈美「強制的に借りを作らせた。なかなか、やり手だよ」

のあ「ないでしょうけれど、何かあったら連絡してちょうだい。何とかするわ」

瞳子「そこまでは……でも、ありがとうございます」

のあ「最後に確認していいかしら」

瞳子「何か、ありましたか」

真奈美「それを聞くのか?」

のあ「結論に至るまでに知ったこと、秘匿するのは私の主義に反する」

瞳子「……?」

のあ「あなた、何者かしら」

瞳子「私、ですか。私は……」

のあ「……」

瞳子「調べてます、よね」

のあ「ええ、申し訳ないけれど」

瞳子「……」

のあ「……」
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:53:55.31 ID:wT2tO75h0
瞳子「……高校1年生の時に大分から上京してきました」

のあ「目的は」

瞳子「芸能界でお仕事をするために」

真奈美「単身で、かな」

瞳子「はい。遠い昔のようですね、本当に」

真奈美「……」

瞳子「最初だけ順調でした。1年も経たないうちにデビューが出来て、CDも出して……」

のあ「ごめんなさい、部屋に置いてあったのを見たわ。本名ではなかったけれど」

瞳子「本名でないのは、今思えば……きっとこうなるとわかっていたのかもしれませんね」

真奈美「……」

瞳子「こうして静かに暮らせているのは、そのおかげ」

のあ「ゴシップ誌の記者は気づいたけれど」

瞳子「売れないアイドルを追いかけていたのね、昔から」

真奈美「……」

のあ「あなたの過去がわかれば、全ての話が通る」

真奈美「新しい事務所を張っていたら、隣に元芸能関係者が引っ越してきた」

のあ「何か関係があると思っても、おかしくはない」

瞳子「ストーカーではなかったのね、記者さんが少し調べていただけ」

のあ「ええ。もう危険はないでしょう」

瞳子「安心したわ……また喫茶店の店員としての生活に戻れる」

のあ「……」

瞳子「探偵さん、ありがとうございました」

のあ「伝えておくわ。その記者があなたも調べていた理由だけれど」

真奈美「……」

のあ「静かに芸能界を去ったあなたを追っていた理由は、望んでいたからよ」

瞳子「望んでいた……」

のあ「あなたが、表舞台に戻ることを」

瞳子「そんなことは、ないと思います」

のあ「私にはわからない。人の心は難解で、私はあなたの歌を聞いたこともないのだから」

瞳子「……」

のあ「あなたの歌は経験によって磨かれていった」

真奈美「これからだと、思っていたそうだ」

のあ「だから、気づき、祈った」

真奈美「君が新天地の門戸を叩くことを」

のあ「挫折からの復活は人間に深みを与える、きっとシンデレラの夢物語に必要な材料になると」

瞳子「……」

のあ「私からは以上よ」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:55:07.78 ID:wT2tO75h0
瞳子「あの、探偵さん、私は」

のあ「その回答を私は求めていない。ご自由になさい」

瞳子「……はい」

のあ「請求はまだ後日。木場さん、送ってあげて」

真奈美「構わない。今日は雇われ運転手だからな」

のあ「ありがとう」

瞳子「ありがとうございます、探偵さん」

のあ「お礼の言葉は受け取っておくわ」

瞳子「少しだけ……考えてみます」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:55:50.19 ID:wT2tO75h0
29

回想14・のあと真奈美

高峯探偵事務所

真奈美「失礼するよ、服部君を送ってきた」

のあ「ご苦労様。そこの封筒」

真奈美「これか?」

のあ「約束通りの額が入っているわ。相違なければおい、そこの書類にサインを」

真奈美「フム、確かに受け取った」

のあ「ご協力感謝するわ」

真奈美「それにしても、意外だった」

のあ「何のことかしら」

真奈美「最後のことは伝えなくてもよかっただろう?」

のあ「伝えたことに問題はあったかしら」

真奈美「いいや、ないよ」

のあ「それならいいでしょう。私の言葉程度で変わるなら、本当は変わりたかっただけ」

真奈美「……」

のあ「そうでなければ、あなたの仕事を聞いた時にあんな反応はしないわ」

真奈美「なるほどな」

のあ「何か、彼女は言っていたかしら」

真奈美「言っていないよ、何も。私からも何も言っていない」

のあ「そう」

真奈美「どんな道でも悪くはない、大丈夫さ」

のあ「ええ。あなたも仕事が見つかったかしら」

真奈美「目ざといな」

のあ「探偵だから」

真奈美「仕事が来るかはわからないが、ツテは出来た。運転手もするものだな」

のあ「……」

真奈美「後は部屋探しだな」

のあ「……その」

真奈美「雨も止んだ、いい時間つぶしになった」

のあ「木場真奈美、話があるのだけれど」

真奈美「何かな」

のあ「部屋が空いているわ」

真奈美「はい?」

のあ「ここに住むのは、どうかしら」

49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:56:30.14 ID:wT2tO75h0
30

高峯探偵事務所

まゆ「のあさんからの提案だったんですねぇ」

真奈美「ああ。佐久間君もそうだろう?」

まゆ「はい。のあさんが、言ってくれました」

真奈美「まぁ、そんな提案を飲む私も私だがな」

まゆ「ふふっ」

真奈美「結果としては正解だったな。のあのツテは私にも得だったし、何より退屈はしていない」

まゆ「そうですねぇ。瞳子さんはすぐに芸能界に戻ったんですかぁ?」

真奈美「ああ。CGプロのスカウトが直々に来たらしいからな」

まゆ「まぁ……」

真奈美「のあもお節介だな。私達もお節介を受けている側だが」

まゆ「ふふっ……」

真奈美「誰かと暮らすのは良いことだな。のあと張り合うのも偶にはいい」

まゆ「はい、とっても」

真奈美「きっとだが……」

まゆ「……」

真奈美「私達がここにいるだけで、のあのためになっている」

まゆ「……」

真奈美「のあはここを離れられないから、誰かを招き入れるしかない」

まゆ「それが、善意なら提案しやすいから」

真奈美「ああ。ここにいるのは、のあが望んだからだ」

まゆ「のあさんも言っていました」

真奈美「本当は両親さえ生きていれば、違う性格だったのかもな。人助けが心の底に根付いた、良家の御息女だものな」

まゆ「……それは」

真奈美「もしも、の話は残酷だな。そうだったら、こうして話していることもない」

まゆ「そうですねぇ、今を否定する理由なんてないのに」

真奈美「ああ。幾つか偶然があって、ここにいる」

まゆ「ありがとうございます、真奈美さん」

真奈美「どういたしまして。他にも聞きたいことはあるかな」

まゆ「それなら、前から聞きたいことがあったんです」

真奈美「なにかな」

まゆ「みくちゃんを紹介した時のことが聞きたいです」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:57:48.29 ID:wT2tO75h0
31

清路市内某所

のあ「ん……」

雪菜「おはようございますぅ」

のあ「鉄格子の扉の向こうに井村雪菜、体は拘束されていない……気絶した理由はスタンガンかしら」

雪菜「挨拶は大事ですよぉ」

のあ「……おはよう」

雪菜「良く出来ましたぁ、うふふっ」

のあ「油断していたわ、こんな時を狙うなんて卑怯な」

雪菜「そうでもないと隙がありませんからぁ。そして、私じゃないと」

のあ「西島櫂の事件はあなたが黒幕だった、古澤頼子ではなく」

雪菜「ええ、やっと気が付きましたか。遅いですよぉ」

のあ「色々と足らない部分が埋まったわ、あなたの行動が西島櫂の犯行にも影響していたのね。気づかなかった」

雪菜「気づかないから、こんな事になったのですよ?」

のあ「留美もいない時……いや、そういうことね」

雪菜「ちょっとお出かけしてもらいました」

のあ「計画的ね。要求は」

雪菜「要求ですかぁ、とりあえず一晩ここにいてくださいねぇ」

のあ「……それだけかしら」

雪菜「そうですよぉ。お食事もご用意しましたぁ」

のあ「机の上にサンドイッチとインスタントのスープ」

雪菜「ポットにお湯が入っていますので、ご自由にお使いくださいな」

のあ「インスタントのコーヒーもあるわね、歓迎されているのかしら」

雪菜「大切なお客様ですからぁ」

のあ「もう一度聞くわ、要求は」

雪菜「ここにいてください」

のあ「他にもあるはずよ」

雪菜「それ以外はありませんよ?」

のあ「みくにゃんで釣れば一晩くらいは付き合うのに、誘拐したのは何故かしら」

雪菜「うふふ、面白いこといいますねぇ」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:58:19.14 ID:wT2tO75h0
のあ「ケータイは、そこね」

雪菜「こちらですぅ。ケータイ依存症でも我慢してくださいねぇ」

のあ「どこかを脅迫しているのかしら」

雪菜「してませんよぉ」

のあ「本当かしら」

雪菜「私は正直ですよ、きっと」

のあ「……」

雪菜「逃げないでくださいねぇ」

のあ「命の危険はなさそうね、そうするわ」

雪菜「聞いてくれてありがとうございますぅ」

のあ「……」

雪菜「疲れたでしょうから、ゆっくり休んでくださいねぇ」

のあ「……行ってしまった」

のあ「さて……考えましょうか。ここはどこか。何が目的か。逃げる方法はあるか。彼女は何者か」
52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 20:58:58.55 ID:wT2tO75h0
32

回想15・のあと真奈美

真奈美が来て数ヶ月後

高峯探偵事務所

真奈美「帰ったぞ」

のあ「おかえりなさい。仕事は順調かしら」

真奈美「ぼちぼちだな。生活には困っていない、悠悠自適さ」

のあ「そう」

真奈美「君は……いつも通り、ファイルと本の山に埋もれているな」

のあ「推理小説は毎日のように増えるし、事件は幾らでも起こる。私が暇をするようなことはない」

真奈美「柊警部補から資料が貰えるとはいえ、間がな隙がな事件を考えているのはどうなのか」

のあ「研鑽は怠らないわ。探偵だもの」

真奈美「他に趣味はないのか」

のあ「そうね、天体観測は好きよ」

真奈美「そうなのか?空を見ている覚えはないが」

のあ「道具はあるわ。でも、ご無沙汰ね」

真奈美「出かけている様子もないな、どこか星を見に行くか?」

のあ「提案はありがたく受け取るわ。今は大丈夫よ」

真奈美「そうか。音楽は聞く……のは見たことがないな。聞くのか?」

のあ「聞かないわね」

真奈美「だろうと思った。テレビも見ていないしな、少しは世間の流れに興味を持て」

のあ「好奇心は強いつもりだけど」

真奈美「もう少し偏りをなくせ。まぁ、その一歩手前じゃないが、これでも聞いてくれ」

のあ「CD、市販はされていなそうね。どのようなものかしら」

真奈美「プロモーションのために関係者に配布したり、イベントで売っているものだ」

のあ「そう」

真奈美「他の事務所から移籍してきて、すぐにデビューになったんだが、プロモーション不足だったらしい」

のあ「なるほど、移籍の条件だったのね。そういうわけで、真奈美がこれを持っているのね」

真奈美「これも何かの縁だ、聞いてやってくれないか」

のあ「聞いてみるわ」

真奈美「アイドルの曲なんて聞かないだろうが、気分転換にはいいだろう」

のあ「そうね。名前は……」

真奈美「前川みく」

のあ「ネコちゃんアイドルねぇ……」

真奈美「言っておくが、こう見えて色物じゃないぞ?ジャズが得意なんだ」

のあ「色眼鏡をかけることは損。聞いてから考えるわ」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:00:12.78 ID:wT2tO75h0
33

回想16・のあと真奈美 (了)

数日後

高峯探偵事務所

真奈美「帰った……え?」

のあ「おかえりなさい」

真奈美「一応聞くが、これは何かな」

のあ「みくにゃんのポスターだけれど」

真奈美「それは見ればわかるが……」

のあ「CDショップから譲ってもらったわ。真奈美、ご紹介ありがとう。人生が豊かになった気がするわ」

真奈美「それは、いいこと……なのか?」

回想・のあと真奈美 了
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:01:16.27 ID:wT2tO75h0
34

高峯探偵事務所

まゆ「うふふ、心変わりが早いですねぇ」

真奈美「私の方が驚いた。すぐに前川君のファンクラブが出来て、それにも入っていたな」

まゆ「のあさんは、みくちゃんの何が好きになったのでしょう?」

真奈美「私にはわからない」

まゆ「のあさんは運命とか言っちゃうので……」

真奈美「それが真実なくらいに唐突だったからな。私が勧めた以上、少しの奇行は許してくれ」

まゆ「もちろんです」

真奈美「犯罪やマナー違反はしないだろうとは思っているが」

まゆ「のあさんだから大丈夫ですよぉ」

真奈美「そうだな」

まゆ「のあさんから、連絡はありましたかぁ?」

真奈美「まだだな」

まゆ「留美さんとお話がはずんでいるんでしょうかぁ」

真奈美「そうかもな。もうこんな時間だ、のあは待っているから佐久間君は休みたまえ」

まゆ「はぁい。真奈美さん、話してくれてありがとうございますぅ」

真奈美「いやいや。むしろ遅くなったな」

まゆ「次は海外にいた時のこと、聞かせてくださいねぇ」

真奈美「もちろんだ。日本に帰って来た理由も後でな」

まゆ「お風呂、お先に頂いていいですか」

真奈美「ああ。ゆっくりしたまえ」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:02:13.37 ID:wT2tO75h0
35

清路市内某所

のあ「……」

古澤頼子「……」

古澤頼子
井村雪菜が部屋から出てからしばらくして入室してきた。椅子に腰を下ろすと、一言も話さずに美術書を読み始めた。

のあ「古澤頼子」

頼子「どうかなさいましたか」

のあ「質問には答えてくれるのかしら」

頼子「構いませんよ」

のあ「……」

頼子「ないのなら、読書に戻りますが」

のあ「わからない。あなたが井村雪菜を動かしているのではないのかしら」

頼子「主従関係ではありません」

のあ「あなたが私を見張っている理由は何かしら」

頼子「時間があるからです」

のあ「あなたの目的は」

頼子「私の目的はいつも同じです」

のあ「そういうことにしておくわ。井村雪菜の目的は」

頼子「私にはわかりません」

のあ「わからない、目的もなく協力しているのかしら」

頼子「協力しているのでしょうか?」

のあ「私に問われてもわからないわ」

頼子「その程度ですか、あなたは」

のあ「……ここはどこかしら」

頼子「答えるな、と」

のあ「井村雪菜はどこにいるのかしら」

頼子「こちらも答えるな、と」

のあ「答えてくれることはあるのかしら」

頼子「私の一存で決めます」

のあ「……そこにあるケータイは」

頼子「あなたのものですよ」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:02:48.38 ID:wT2tO75h0
のあ「電源は入っているかしら」

頼子「ええ」

のあ「連絡をしてもいいかしら」

頼子「それは許されていません」

のあ「電話をかけることは」

頼子「許されていません」

のあ「ならば、かかってきた電話にでることは」

頼子「私が出ます。伝言があるのなら伝えてもかまいません」

のあ「それはあなたの意思かしら」

頼子「彼女の意思です。私は彼女の邪魔はしません」

のあ「つまり、電話がかかってくればいいのね」

頼子「条件があります」

のあ「条件?」

頼子「事態を理解した人でなければ、電話には出ません」

のあ「……」

頼子「今晩はこちらで本を読みます。おくつろぎください」

のあ「つまり、私が失踪していることに気づかないといけないのね」

頼子「それが彼女によるルールです」

のあ「古澤頼子」

頼子「……」

のあ「あなたは何者なのかしら」

頼子「いずれわかることですよ、ここにいることも。何もかも」

のあ「私にはわからない。あなたの行動原理も何も」

頼子「わからなくても構いません」

のあ「……」

頼子「お休みですか」

のあ「助手と友人を信じるわ、今はそれしか出来ないのだから」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:04:07.67 ID:wT2tO75h0
36

高峯探偵事務所

真奈美「電話には出ないな」

まゆ「真奈美さん」

真奈美「のあはまだ帰ってこないようだ」

まゆ「はい。私はお部屋に戻りますねぇ」

真奈美「おやすみ」

まゆ「おやすみなさい」

真奈美「さて、何時連絡が来ることやら」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:05:34.86 ID:wT2tO75h0
37

清路市内某雑居ビル・1階・空き店舗

一ノ瀬志希「留美にゃん〜」

一ノ瀬志希
科捜研所属。近くにいたのか、科捜研の誰よりも先に現場に駆け付けた。

留美「一ノ瀬さん、血液についてわかったことは」

志希「志希ちゃん聞きたいんだけどー、いい?」

留美「構わないわ。どうぞ」

志希「この部屋、18時30分から誰か入った?」

留美「今のところ、警備員だけよ」

志希「それなら、志希ちゃん、わかっちゃった。聞きたい〜?」

留美「ええ、聞かせてちょうだい。大和巡査部長と新田巡査から新しい情報もないし」

志希「留美にゃんも勘付いてるかな?さっすが〜」

留美「一ノ瀬さんのわかったこと、とは何かしら」

志希「犯人は警備員だよ〜、他には誰もいないから調べても何にもでない」

留美「可能性としては考えていた。あなたに聞きたいのは」

志希「被害者の方?」

留美「ええ。被害者は」

志希「いないよ?この血はどこかに保管されてたんじゃないかな?」

留美「被害者はいないのね、つまり」

志希「血は安全に抜かれて、ここに撒かれた」

留美「撒いたのは警備員ね」

志希「そーゆうこと」

留美「血の持ち主は」

志希「それはわからないな〜。B型の女の人なのはわかるよ?たぶん若い?」

留美「何もわからないと同義ね」
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:06:26.23 ID:wT2tO75h0
志希「留美にゃんは帰れるよ?」

留美「警備員に全てを確認すれば、ね」

志希「にゃはは、刑事は大変だね〜」

留美「そうでもないわ」

志希「みくにゃんのライブ後なのにお仕事……余韻に浸りたくない?」

留美「記憶力は悪くはないわ、お気遣いありがとう」

志希「どういたしまして〜」

留美「しかし……」

志希「気持ちはわかるよ〜、なんでだろう?」

留美「動機がわからないわね」

志希「留美にゃん、問いただすのは得意でしょ?」

留美「ええ。そうするわ」
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:07:44.47 ID:wT2tO75h0
38

深夜

清路市内某雑居ビル・1階・空き店舗

亜季「これで一段落でありますな」

美波「はいっ、お疲れ様でした」

留美「警備員は犯行を自白」

美波「血を撒いたのも通報したのも、犯人によるものでした」

亜季「動機はお金でありますな」

留美「報酬を得るため」

美波「前金は既に受け取っています。同額が明日には振り込まれる約束とのことでした」

亜季「ですが、依頼者の方は見つかっておりません」

留美「血液は今日送られてきたもの」

美波「送り元は清路市内でしたが、何者かはわかっていません」

亜季「依頼人と同一人物でありましょうか?」

留美「可能性はあるわね」

美波「血の持ち主は未だに不明です」

亜季「特定は難しいでありましょうな」

留美「同感ね。方法があるとすれば」

亜季「依頼人か送り人を見つけることでありますな」

留美「その通りね」

美波「これからどうしましょうか」

留美「大和巡査部長、後日報告書をまとめてちょうだい」

亜季「了解であります!」

留美「引きつづき、依頼人と送り人の調査を続けましょう」

美波「目的がわかりませんから」

留美「金銭のやり取りがあるのだから、何らかの目的があるはず。探しましょう」

美波「はいっ!」

留美「今日は休みましょう。お疲れ様」

美波「帰り支度をしますねっ、車で自宅にお送りします!」

留美「ありがとう」

亜季「警部補殿?」

留美「何かしら」

亜季「ケータイが鳴っているようであります。私用の方かと」

留美「本当ね……真奈美さんから?どうしたのかしら」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:08:25.20 ID:wT2tO75h0
39

高峯探偵事務所

留美『もしもし?』

真奈美「和久井警部補、こんな時間にすまないな」

留美『構わないけれど、何かあったのかしら』

真奈美「楽しんでいるところだったら済まないが、のあは一緒にいるか?」

留美『のあ?いないけれど』

真奈美「そうか、まったくどこに行っているんだか」

留美『ごめんなさい。仕事が入ったからライブの後、すぐに別れたの』

真奈美「そうなのか?」

留美『ええ』

真奈美「わかった。もしかして、まだ仕事中かい?」

留美『ご察しの通り。ゆっくりできなくて大変だわ。また何か見つかったみたいね、呼ばれてるわ』

真奈美「お疲れ様」

留美『ありがとう。また、伺うわ』

真奈美「……」

真奈美「いや……違和感がある。和久井警部補と別れてから連絡がないのもらしくない、それに電話には必ず出るよな」

真奈美「……」

真奈美「低い可能性でも潰しておくか」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:09:43.19 ID:wT2tO75h0
40

清路市内某所

ムネノオクキュントスル……

頼子「……」

のあ「電話の着信があるわ」

頼子「はい。木場真奈美さんからですよ」

のあ「……」

頼子「留守電に切り替わりました」

ケータイ『木場だ。そこに誰かいるなら出てくれないか』

頼子「木場真奈美さんからです」

のあ「失踪には気づいているわ」

頼子「そうでしょうか」

のあ「真奈美、決定打ではないわ」

ケータイ『出ないか。それなら、伺うよ。電話の発信元から場所はわかる。待っていろ』

のあ「出なさい、約束よ」

頼子「そうします。こんばんは、木場真奈美さん」

真奈美『つながったか。のあ、じゃないな』

頼子「伝言を預かっています。お伝えします」

真奈美『話しているのは誰かな』

頼子「明日の夜12時までは高峯のあの無事を保障します」

真奈美『それは、安心だな』

頼子「夕食も取りました。怪我もしていません。睡眠もとれていました」

真奈美『誘拐か。目的は』

頼子「同じことを聞くのですね。目的はわかりません」

真奈美『わからない?』

頼子「私はただの見張りですから。本題をお伝えします、3つです」

真奈美『……』
63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:10:26.48 ID:wT2tO75h0
頼子「1つ目、警察には連絡しないこと。その場合、高峯のあの安全は保障しません」

のあ「電話の発信元を辿るのは無理ね……」

頼子「ご了承いただけますか。警察内部に手の物がいることはご存知かと」

真奈美『……承知した』

頼子「2つ目、ケータイのGPSは切っています。そこから追うことはできません」

のあ「周到ね」

頼子「3つ目です。要求をお聞きください」

真奈美『聞こう、なんだ?』

頼子「その前に、高峯のあさんから伝言はありますか?」

真奈美『のあがそこにいるのか?』

のあ「主犯格の名前は伝えてくれるかしら」

頼子「それは許されていません」

のあ「それなら、私からは一つだけ。真奈美、寝なさい。私は無事よ」

頼子「真奈美、寝なさい、私は無事、とのことです」

真奈美『本当に、のあはそこにいるのか』

頼子「いますよ。おつなぎは出来ませんが」

真奈美『なら、聞いてくれ。ライブの最後の曲は何だったか』

頼子「はい。高峯のあさん、ライブの最後の曲は何でしたか」

のあ「前川みくのにゃんにゃんぱらだいす」

頼子「前川みくのにゃんにゃんぱらだいす、だそうです」

真奈美『確かにいそうだな、そこに』

頼子「3つ目をお伝えします」

真奈美『要求か』

頼子「探してください。待っています、とのことです」

のあ「……」

真奈美『のあを誘拐した目的は何だ、古澤頼子』

頼子「私にはわかりかねます。おやすみなさい」

真奈美『待て!き……』

頼子「電源はオフにしておきます。助手を信じて良かったですね」

のあ「ええ。かまをかけることを教えておいてよかったわ」

頼子「気づかれてしまいました、名乗ってもいないのに」

のあ「隠す気はないでしょうに」

頼子「はい。大石泉さんから聞いているでしょうから」

のあ「……ええ。古澤頼子、聞くわ。答えなさい」

頼子「許される範囲であれば」

のあ「目的がわからない。真奈美に探させる理由がわからない」

頼子「私にはわかりません。わからないから、面白いのですよ」

のあ「あなたが答えられる質問にするわ。あなたは何が目的なのかしら、古澤頼子」

頼子「今はお話することはできません。あなたは探偵ですから答えに辿り着きます、きっと」

のあ「……そう」

頼子「もうお話することはありません。良い夜をお過ごしください」
64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:11:39.79 ID:wT2tO75h0
41

翌朝

清路市内某所

頼子「おはようございます」

のあ「……おはよう。早起きなのね」

頼子「よく眠れたでしょうか」

のあ「思考が回るほどには。どうやら私は無事のようね」

頼子「私の仕事もこれで終わりです。高峯さん、こちらを向いてください」

のあ「……写真を撮ったのかしら」

頼子「はい。木場真奈美さんに送っておきます」

のあ「無事を知らせる、と」

頼子「それでは、失礼いたします」

のあ「……」

のあ「真奈美は寝たかしらね。アドバイスは聞いているといいけれど」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:12:26.33 ID:wT2tO75h0
42

高峯探偵事務所

まゆ「……」

真奈美「現状は話した通りだ。のあはいない」

まゆ「……わかりました」

真奈美「のあの言う通り、睡眠はとった。頭は動く」

まゆ「まゆは準備ができてませんよぉ……」

真奈美「すまない。聞いていたら眠れないだろうからな」

まゆ「……」

真奈美「今の所はのあは無事だ。ご丁寧に時間データ付きで写真が送られてきた」

まゆ「探すことが相手の要求なんですよね?」

真奈美「不可解なことにな」

まゆ「うーん……」

真奈美「私達はのあの助手だ。見つけ出すぞ」

まゆ「はい、必ず」

真奈美「警察に連絡はするな、と言われたが」

まゆ「本当に内通者がいるんですねぇ……」

真奈美「警察以外は流石に捉えられまい」

まゆ「誰かに協力をお願いしたんですかぁ?」

ピンポーン……

真奈美「来たな」

雪乃「お邪魔しますわ。真奈美さん、お連れしました」

まゆ「あら……」

安斎都「おはようございます!依頼と聞きましたので飛んできましたよ!」

安斎都
希砂二島で起こった連続殺人事件を解決に導いた探偵。のあとは連絡を取り合っていたようだ。
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/10/03(木) 21:13:39.08 ID:wT2tO75h0
43

高峯探偵事務所

都「フム……」

雪乃「のあさんはご無事ですのね」

真奈美「そのようだ」

都「犯人からの連絡はありますか?」

真奈美「ない。のあが関係する会社にも連絡はない」

都「つまり、誘拐しているのに要求がないのですね」

まゆ「はい……」

真奈美「要求は探せ、という指示だけだ」

雪乃「のあさんの他に失踪した方はいるでしょうか?」

真奈美「他?」

雪乃「私も目的とは関係なく人質に取られたことがありますので」

まゆ「ショッピングモールのことですね……」

都「真夏のクリスマス、話は聞いています」

真奈美「いないと思うが、都君はどう思う?」

都「わかりません。でも、のあさんを人質に取るのは大変だと思います」

まゆ「のあさん、柔道は有段者ですから」

雪乃「護身術も習っていたと聞いていますわ」

真奈美「警戒感は強い方だ」

都「難しい相手をわざわざ隠れ蓑にはしないと思います」

まゆ「のあさんを人質にする理由がある……?」

都「そう推理しています。だから探すキーは、高峯のあ、その人です」

真奈美「のあが鍵なのはわかるが、切り口がわからない」

都「高峯のあといえば、何者でしょうか」

まゆ「探偵?」

雪乃「のあさんのご職業ですわね。自己紹介にも使うのを聞いたことがありますわ」

都「探偵に勝負をしかける愉快犯は小説の王道です、が」

真奈美「のあは身動きを封じされているな」

都「勝負ではないでしょう」

まゆ「逆怨み……とか」

都「それだと疑問が残ります、誘拐が成功しているのですから」

真奈美「そんな人物なら警戒しないとは思えない」

まゆ「みくちゃんのライブで浮かれていても、です」

真奈美「そうか、警戒しないような人物か」
151.39 KB Speed:0   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)