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このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。
絵里「例え偽物だとしても」
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820 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/09(水) 22:11:43.36 ID:fisWr3pto
いずれにせよ最後まで読みたいから待ってます
解決策が見つかるといいね
821 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/09(水) 22:51:59.14 ID:WSmBm0020
容量不足とかでは?
part2立ててみたらいいかも
822 :
◆iEoVz.17Z2
[sage]:2019/10/10(木) 18:41:47.84 ID:wesiesbo0
テスト
823 :
◆iEoVz.17Z2
[sage]:2019/10/10(木) 18:53:20.93 ID:wesiesbo0
昨日の八時にまで書き込みできなかったら他の板で立てるとはいいましたが、昨日だけで判断するには不十分だと思い一日待ってみましたがなんか今日はPCの方からでも書き込めました。
昨日書き込めなくなった、今日書き込めるようになった原因は不明ですが、昨日の寝る時にPCの更新をしたので、それが解決の要因になったのかな、と現時点では考えています。
そして、現在こうしてPCの方から書き込みが行えてる以上、別の板で立てる必要性はもう無くなったのでこのままここでえりちの物語を書こうかと思います。お騒がせしてすいませんでした。
824 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 18:58:27.46 ID:wesiesbo0
〜数時間後
絵里「………」
ルビィ「あれが……」
曜「オハラホテル…だね」
ことり「たかーい……」
穂乃果「あのホテルの最上階に……」
絵里「…待ってるのよ、鞠莉が」
絵里(夜景という名の人口宇宙の中で聳え立つホテルをビルの上から見つめる私たち)
絵里(あのホテルが瞳に映るだけで緊張が段々と漂い始めた)
825 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:00:37.17 ID:wesiesbo0
曜「…風が強いね」
穂乃果「でも雨が降る様子はないよ」
絵里(その風は歓迎であったのかしら、警告であったのかしら。そしてその風は追い風だったのかしら、それとも向かい風だったのかしら)
絵里(どちらにせよ、髪を常に靡かせる強い風は緊迫感を煽り黄昏を作りだした)
真姫『こちら真姫、こっちはいつでもおっけーよ』
絵里「ええ、了解」
曜「いよいよだね…」
ルビィ「緊張してきた…」
ことり「私も……」
絵里「…私も超緊張してるけどとりあえず作戦のおさらいをするわよ」
穂乃果「うん、了解だよ」
絵里(これがラストバトル)
絵里(強風に煽られれば煽られるほどそういう意識が出てくる。今私が背にしてるあの建物で終止符が打たれるのよね)
絵里「すう…はぁ……」
絵里(緊張を抑えるために一度大きく深呼吸をした。覚悟を決めてゆっくり目を見開けば自然と戦いの意識は研ぎ澄まされ、みんなの顔も引き締まったものになってた)
826 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:02:30.98 ID:wesiesbo0
絵里「まず前提条件として、無駄な殺傷は避けること」
絵里「鞠莉がいるここで事を大きくしてしまっては元も子もないわ、Y.O.L.Oは跡形なく消し飛ばしたから私たちの痕跡も消えてるけどここでは絶対に痕跡が残る。だから戦闘をしても殺すのは少し考えて」
曜「前から聞いてたけどすごいハードなミッションだよねー今回」
穂乃果「そうだねー」
絵里「ええ、それで今回は2と3の動きでいくわ、先行する二人と後衛、或いは追手の殲滅をする三人よ」
絵里「ルビィと私は2、それ以外が3ね。私たちは突貫するから3は注意を引いたりして」
曜「了解でありますっ!」
絵里「侵入に関しては真姫が用意してくれたこのカードキーでなんとかして」
絵里「…真姫、ありがとう」
真姫『いいわよ別に』
絵里「真姫がハッキングして大体のシステムはこのカードキーを認証場所にかざすだけでいけるはず、もしいけないようだったら……壊して進みましょう」
ことり「そんなんで大丈夫かなぁ…」
827 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:05:06.44 ID:wesiesbo0
絵里「大丈夫よ、というかプラン通りに事が進むわけないんだからそこは臨機応変に、そして柔軟に対応していきましょう」
穂乃果「そうだね、もう何やったってもいいんだから出来ることに全力を尽くそう」
絵里「…よしっじゃあ行きましょう」
「うんっ!」
絵里(もう後戻りはできない)
絵里(待つのは死か————それとも生か)
絵里(…それを決めるのは誰でもない私で、その未来を照らすのは他でもない私の銃)
絵里(————それじゃあ、銃弾で物語を語りましょうか?)
828 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:06:21.15 ID:wesiesbo0
〜
曜「うわー…分かってたけど人いっぱいだなぁ……」
穂乃果「…殺傷は極力避ける、か」
ことり「難しいね……」
ことり「私たちは揺動でしょ?どうすればいいのかなぁ?」
曜「簡単だよ、殺さずに揺動なんて“これ”を使えばいいんだよ」
穂乃果「これ?」
曜「スタンとスモークグレネード、これだけで視界と聴覚の情報が消える。後は様子見すればいいよ」
曜「せーのっと!!」ポイッ
829 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:07:57.01 ID:wesiesbo0
ピカーン!
曜「よしっ大成功、ちょっと様子見する位置を変えよう。ここにいたらさっきのグレネードの飛んでくる方角を見てばれると思うから」ダッ
穂乃果「了解」
ピッ
曜「こちら曜、とりあえず下はてんてこ舞いって感じだよ、そっちはどう?」
〜
絵里「絵里よ、曜の見立て通り二階に窓が空いてる部屋を発見したからそこから侵入したわ」
ルビィ「怖かった……」
絵里「…このラペリングってやつは意外にもスリリングね……ルビィは恐怖のあまり顔面蒼白よ」
830 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:09:36.36 ID:wesiesbo0
曜『あはは………とりあえず侵入出来たなら何よりだよ。こっちはこっちでやってるからそっちも頑張ってね』
絵里「ええ、もちろんよ」
絵里「それじゃあね」
曜『うん!それじゃあ』
ピッ
絵里「…よしっじゃあ行きましょうか」
ルビィ「うん、分かった」
絵里(侵入した部屋から出て周りを確認する、ここから先は見つかってはいけない、隠密行動を心掛けて用心深く歩みを進めていく)
絵里(…のだけど、下で陽動を行ってくれたおかげで上は筒抜け状態。流石一流ホテルの警備は報告が早いけど、早いせいで警備隊や宿泊客の移動も早くて私たちも早く行動できた)
831 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:11:16.36 ID:wesiesbo0
スタスタスタ
絵里「……待って」
ルビィ「!」ピタッ
絵里「………この角の先に足音がする」
絵里「人数は……おそらく一人ね、こっちへ来るわ」
絵里「…待ち伏せして気絶させましょう、この先に階段があるから迂回もできないわ」
ルビィ「………」コクコク
絵里(万が一のことを考えてゆっくり進む中で段々と聞こえるこの静寂をかき消し残響を伝わせる足音に私たちは一度足を止めた)
絵里(あくまで私たちは隠密行動をしてる、だからルビィも言葉を使わずに身振りや手振りで返事をしてて私もかなり声を抑えて喋ってたけど、足音が近づけば近づくほど緊張感が加速してたちまち口は開かずの扉になってしまった)
832 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:13:32.13 ID:wesiesbo0
スタスタスタ
絵里「………」
ルビィ「………」
スタスタスタ
絵里「…今!」ダッ
ルビィ「うん!」ダッ
「!」
絵里(足音の人物が角を挟んですぐそこまで来ただろうという時ルビィと一緒に飛び出した。まず私が相手のお腹に向けて肘打ちをし、そしてそれを食らい怯んだ相手の頭にルビィが跳び蹴りをかました)
絵里(————はずだった)
833 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:18:56.83 ID:wesiesbo0
「はっ!」
絵里「何っ…!?」
絵里(私の右肘で出した肘打ちを左回りに体を捻ることで攻撃を躱し、次に来るルビィの蹴りはしゃがんでよけた。そして更には蹴りの後隙で無防備なルビィの背中に入る肘打ち、続けざまに私の頭に飛んでくる回し蹴りと相手は回避からすぐさま攻撃に転じ私たちの進行は突然止まった)
ルビィ「ぐぇっ!?」
絵里「くっ…」
絵里(ルビィは背中に強く肘を打たれたことで近くの壁に叩きつけられ、私は私の頭に歯向かう蹴りを右上腕を使いヒット直前で受け止めた)
834 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:19:28.34 ID:wesiesbo0
「私に近接で勝とうなんて片腹痛いですわ」
ルビィ「!!!」
絵里「あなたは……」
ルビィ「……お姉ちゃん」
絵里「ダイヤ……」
ダイヤ「ルビィ…病院で聞きましたがやはり生きていたのですね……」
ルビィ「………」
835 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:20:14.35 ID:wesiesbo0
ダイヤ「…しかしどうしてですか?この絵里という方の下でつく意味を考えなかったのですか?」
ルビィ「…それはどういうこと?」
ダイヤ「この方は言ってしまえば反社会的勢力なのですよ?自分らの目的のために破壊の限りを尽くして人々に迷惑をかけたのですよ?」
絵里「………」
絵里(確かにその通りかもしれない、現状アンドロイドでテロリズムを心に宿すのはマイノリティであり反旗を翻す為に銃を持って行動を起こすのは確かに常識的じゃないし過激だ)
絵里(…だから正直ダイヤには返す言葉がなかった)
ルビィ「お姉ちゃん、それは違うよ」
ダイヤ「!」
絵里「ルビィ……」
絵里(だけど、ルビィは考える素振りもなく即答だった)
836 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:21:35.47 ID:wesiesbo0
ルビィ「私は小さい頃から善子ちゃんや絵里さん、そして千歌さんや果南さんとかアンドロイドと一緒に大きくなってきたからアンドロイドの気持ちはよく分かる」
ルビィ「だけどお姉ちゃんはアンドロイドの生活を知らない、だから好き勝手言えるんだよ」
ルビィ「アンドロイドだからっていう理由だけでいじめをうけた」
ルビィ「……そんなのをルビィの眼で見てきたらアンドロイドが何か行動を起こしたくなるのも分かるよ、だって理不尽なんだもん、納得できないもん、意味分からないもん」
ルビィ「それを何も知らないお姉ちゃんの口からあーだこーだ言ったらアンドロイドの心には更に火はつくの分からない?」
ダイヤ「…!」
ルビィ「…お姉ちゃんは認めてくれなかったよね、ルビィがアンドロイドと関わるのを」
絵里「………」
ダイヤ「………」
ルビィ「お姉ちゃんみたいな人がいるからアンドロイド差別は収まらないんだよ」
837 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:22:28.08 ID:wesiesbo0
ルビィ「……でも、ルビィはお姉ちゃんのことが大好きだよ」
ルビィ「ただね」
ルビィ「アンドロイド差別をする人を好きになるなんて無理にも程があるよ」カチャッ
絵里「る、ルビィ……」
絵里(殺意と敵意丸出しでダイヤの顔に銃口を向けたルビィに思わず私は唾をのんだ)
ダイヤ「……ルビィ」
絵里(そして言うまでもなくそのルビィの言葉はダイヤにとって死刑宣告のようなものだった。何かを抑えるような力が拳に宿ると手がぷるぷると震え始めて不意に出たダイヤの“ルビィ”という呼び声は実に弱々しくてすぐに消えていった)
838 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:23:15.95 ID:wesiesbo0
ルビィ「絵里さん、お姉ちゃんはルビィに任せて先へ行って」
絵里「え、でも……」
ルビィ「いいの、黒澤家の問題は黒澤家の人だけで解決するよ」
ルビィ「…それに見て」
絵里「え?」
ルビィ「あそこ、監視カメラがあるのに誰一人ここへ来ない」
ルビィ「ルビィたちは今見られてるのに誰もこないんだから、きっと鞠莉さんは来るのを待ってるんだと思うよ」
ルビィ「だから絵里さんは往って、ルビィが思うに今最上階に上る資格があるのは絵里さんだけだと思うから」
絵里「……分かったわ、でも無理はしないようにね」
ルビィ「…うんっ!」ニコッ
絵里「…それじゃあね」ダッ
839 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:25:02.32 ID:wesiesbo0
タッタッタッタッ
絵里「………」
絵里(本当にこれでよかったのかしら、エレベーターに乗り、ドアが閉まってから思う)
絵里(…私がダイヤとルビィの話にどうこう言える話じゃないけど、もっと穏便に済ませられたんじゃないかって……)
絵里「……いや、無理ね」
絵里(…そう思ったけど無理そうね、私がダイヤの妹でルビィが善子のようにいじめられてるのを見たらルビィと同じ事をするでしょう)
絵里(アンドロイドを大切にしたい自分の一番近くにいるのがアンドロイドに差別意識を持ってる姉だなんて言ったらイヤになるし、嫌いになる)
絵里(それなのに好意で向こうからずりずり寄ってきてきちゃあルビィも銃口を向けたくなるわよ)
絵里(ダイヤに悪気がないのは分かってる、だけどルビィの意志とは対極の位置にあるダイヤの意志は残念だけど平行線で双方が永遠に理解出来ない交感になるでしょう)
絵里(…だからきっとここでも始まるんでしょうね、一方的な正義と一方的な正義の戦いが)
絵里(……いや、もし私の考えが外れていたならきっとルビィも違う行動を起こすのでしょうけど)
絵里(もし、ルビィと私の考えが同じだったらルビィは————)
840 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:27:25.66 ID:wesiesbo0
〜
ダイヤ「……さっきの跳び蹴り、驚きましたわ」
ダイヤ「鞠莉さんや果林さんなどから聞きました、ルビィは戦える子だというのを」
ダイヤ「…しかしですね、正直言うとルビィが力を隠しているのは知っていましたわ」
ルビィ「…!?」
ダイヤ「理由の方はお答えできませんが、やはりルビィの力は私の考えをいつも超越してくる」
ダイヤ「その力が……羨ましくて……憎いですわ」
ルビィ「………」
ダイヤ「…アンドロイドの件については謝罪しますわ、ごめんなさい」
ダイヤ「……しかし」
ダイヤ「今更考えを曲げたところでもう遅いでしょう?ルビィ、あなたから向けられたその銃口と殺意——それは殺し合いをお望みですか?」
ルビィ「…そうだよ、ルビィが絵里さんの下で就く以上、ルビィが善子ちゃんを忘れない以上、ルビィがアンドロイドの事を好きでいる以上はお姉ちゃんとは敵同士、ルビィだって今更お姉ちゃんに考えを改めてほしいなんて思ってないよ」
ダイヤ「…そうですか」
841 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:29:23.18 ID:wesiesbo0
ダイヤ「……私はルビィの事が大好きです、今も昔もずっと…」
ダイヤ「ルビィが長い眠りについた時に私は強くなろうと決心したのです、いつまでも刀に囚われてないで、現代を生き抜く為に銃を学ばないとと思い必死に勉強をして今では対アンドロイド特殊部隊という強さは指折りの人間しか入れないところに所属しました」
ダイヤ「…ですが、そうですよね。そういう問題じゃないではないのですよね」
ダイヤ「私が育むべきだったのは生き物を殺める為の物理的な強さではなくて、広い心を創る精神的な強さだったのですね…」
ルビィ「………」
ダイヤ「ただ、ここ数年で手にしたこの力が無駄だったとは思いません」
ダイヤ「……何故なら、今ここでルビィと対等に戦うことが出来るのですから」カチャッ
ルビィ「…!」
ダイヤ「侮るつもりはありませんわ」
ダイヤ「いくら大好きな妹だからとはいえそう易々と殺されるわけにはいきません、ここは東京————ルビィもここで育ったというのならその言葉の意味は当然分かるでしょう?」
ルビィ「……戦いで勝負をつける」
ダイヤ「その通り、だから容赦は致しませんわ」
ルビィ「…ルビィもだよ」
842 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:31:09.29 ID:wesiesbo0
ダイヤ「………ふぅ」
ルビィ「………」
ルビィ(お姉ちゃんの深い息を吐く姿はお姉ちゃんの近くにいた人なら誰だって知ってる、あれは武士としての精神統一みたいなものでもあって人を殺めることを全てに置いた証拠でもある)
ルビィ「……っ」
ルビィ(深い息を吐いたと同時に飛んでくる鋭い眼差しに思わず後ずさりした。長いこと眠ってたしお姉ちゃんのことはよく知らないけど、対アンドロイド特殊部隊に入れるのならきっと相当強く、それ以前に黒澤家として、武術を学んだ身としてその一つのハンドガンを両手で下げた時のスレンダーな姿はまるで刀を持っているかのような錯覚さえ感じてしまう)
ルビィ「……はぁ」
ルビィ(だけど、ルビィも黒澤家の人間だよ)
ルビィ(小さい頃からスナイパーを使っていたルビィの集中力を舐めないでほしい、ただ一点だけを————殺すことだけを考えて撃つまでの緊張感、ルビィはそれさえも振り払ってトリガーを引いてきた)
ルビィ(スナイパーで人を殺めるのに比べたらこの緊張だって可愛いものだよ、そう考えるルビィに宿るのは勝利への強い意志、この意志を持ってお姉ちゃんを————)
ルビィ(————殺すよ)
843 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:32:55.44 ID:wesiesbo0
ダッ
ルビィ「決めるっ!」バンッ!
ルビィ(狙いは心臓、頭という小さな的を狙おうとすると目線でばれる、ならそれよりお姉ちゃんと顔を合わせながら的が大きい胸を狙うのが得策。人間と人間の戦いはほぼ一瞬で決まる、アンドロイドなら話は違うけど、人間相手なら攻めたもん勝ち!)
ダイヤ「はっ!」シュッ
ルビィ(だけどそれを避けるお姉ちゃんにはもう驚かない、お姉ちゃんの靴にも曜さんの作ったアシストが施されてるんだよね、分かってるつもりだよ)
ルビィ(だから回避と同時に放たれたお姉ちゃんの銃弾の存在もなんとなく分かってた)
ルビィ「やあっ!」ズサー!
ルビィ(射線は見えてないけど銃口の向いてる位置が上向きだったのを確認してルビィはスライディングをして銃弾を避けた)
ダイヤ「お覚悟ですわ!」
ルビィ「望むところだよお姉ちゃん!」
ルビィ(お互いトリガーを一回引けば縮まるルビィとお姉ちゃんの物理的距離は近接戦闘の始まりの証。ここの戦いを制した人が勝ちだよ、だからこの一瞬の戦いにルビィの全てを注ぐ)
844 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:34:07.49 ID:wesiesbo0
ルビィ「せいのッ!」
ルビィ(近づいたのはルビィ、だから攻撃を仕掛けるのはルビィからで、そんなルビィの一発目は絵里さんもよく使ってる後ろ回し蹴り)
ダイヤ「くっ…」
ルビィ(苦しそうな顔はするけど普通に片腕で受け止めてくる様子を見るにやっぱり生半可な技じゃ攻撃は通らないし倒せないなと思う)
ルビィ「もう一回!」
ルビィ(だからこそルビィは用意してたよ、次の一手をね)
ルビィ(後ろ回し蹴りをガードされた後は逆さ回りでもう一回後ろ回し蹴り、そしてその後がガードされてようがされなかろうがそのまま回し蹴り、と反撃の隙も与えない連続攻撃をお姉ちゃんにお見舞いした)
ルビィ『お姉ちゃんに比べたらっ!』
ルビィ(ことりさんと戦った時にも似たようなことをした。後ろ回し蹴りからの後ろ回し蹴り————それは常識では考えられない動きだ)
ルビィ(それ相応の運動神経が必要で、その動きを完璧にこなすための勇気と瞬発力がいる。後バランス感覚とか色々)
ルビィ(でもそれ以前にルビィはそれを可能にするポテンシャルがあった)
845 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:35:26.12 ID:wesiesbo0
ダイヤ「ッ…!!」
ルビィ(体が小さいこと)
ルビィ(ルビィはお姉ちゃんのようにスレンダーな体には育たなくて、だからルビィに刀は似合わなかった。体が小さいと走る時もお姉ちゃんより大股にしないと追いつけないし、精神的に強気に生きていけない————つまりそれはマイナスだらけの体だった)
ルビィ(……だけど少なくともルビィのこの小さな体がプラスに働くこともあった。それが運動神経に関わることだったんだ)
ルビィ(ルビィは絵里さんやお姉ちゃん、ましてや穂乃果さんや曜さんと比べても手は小さいし足の長さが短い、だけどそれは蹴りや殴りを行う時の空気抵抗に関わってくる)
ルビィ(足が短ければ短いほど空気抵抗による重さのようなものを受けにくくなるし、例えそれがほんのごくわずかな差でもバカには出来ない。実際その影響でルビィはこの動きが可能だし、ことりさんはこの動きに驚いてた)
ルビィ(だからことりさんほどの体格だとあの動きは難しいのだと思う…多分……)
ルビィ(…まぁね、この動きはとにかく常識外れな動きでお姉ちゃんも流石に予想出来ないからこれに対して対策が出来るはずもなく、ましてや初めて見る動きだというのに)
ルビィ(避けれるはずないよね)
846 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:36:16.02 ID:wesiesbo0
ルビィ「これで終わりッ!!」
ルビィ(これもあの時と同じ、二回目の後ろ回し蹴りが頭にヒットしてここからずっとルビィのターン)
ルビィ(今回は二つ目に続き三つ目の蹴りもおまけとして入ったから結果的に、お姉ちゃんは頭に強力な蹴りを受けてその直後にお腹に同じように強力な蹴りを押し込まれた。そうすればお姉ちゃんは仰向けに倒れてそこで戦いは実質終わりを迎えた)
バァン!
ルビィ(ルビィが二回目のトリガーを引いたのが最後、大きな銃声が鳴った直後にその世界から音が消えた)
ルビィ(倒れたお姉ちゃんは目を開けたまま動かない、立ってる私も目を開けたまま動かない)
847 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:38:32.94 ID:wesiesbo0
ルビィ「………」
ルビィ(ルビィはただお姉ちゃんから広がる赤を無感情で見つめてた)
ルビィ(結局ルビィがお姉ちゃんの気持ちを理解することはなかった。ルビィだって薄情じゃない、お姉ちゃんがルビィの為に強くなってくれたのはとても嬉しいし、こうして終わりを迎えてはお姉ちゃんは一生報われない存在だ)
ルビィ(だからそこに同情は出来るし、今となっては一緒に生きる道も存在してたのかもしれない)
ルビィ(でも、時間は巻き戻せない)
ルビィ「………」
スタスタスタ
ルビィ「……終わったんだね」
ルビィ(お姉ちゃんに近づいて脈を確認して放った言葉はすぐに消えた。止まった鼓動はいうまでもなく死の証拠、今も広がり続けるこの血だまりは終わりの証拠)
848 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:41:17.78 ID:wesiesbo0
ルビィ「…これでよかったのかな」
ルビィ(ふと呟いたその言葉。これでよかったっていったらウソになるけど、これが当然の結果といっても納得はできる)
ルビィ(……ただ、ルビィの足元を飲む血だまりに落ちる涙はどうにもこうにもルビィが後悔を感じてる証拠だった。昨日涙は枯れたはずだったのに、また無限に溢れ出るのはどうしてだろう)
ルビィ(あぁ…これなんだね…あの時の亜里沙ちゃんの気持ちって……)
ルビィ(殺すまでは出来るけど、殺した後がどうしようもないんだ。どちらかというとそれは“自分が殺されるから抵抗するしかない”というところから始まる殺意なわけで、決して相手を殺したくて殺したわけじゃない)
ルビィ(…ルビィ、この気持ちを抱いてる亜里沙ちゃんを殺したんだ)
ルビィ(……最低だなぁ)
ルビィ「……んん」
ルビィ(…でも、こんなとこで泣きじゃくってるだけの弱いルビィにはなりたくない。お姉ちゃんに勝った今、お姉ちゃんより強く生きていかないといけないのがルビィの務め)
ルビィ(絵里さんが死んだ時も残りのメンバーだけでなんとか頑張っていこうって決めて自分を強くもったんだ、だからルビィは涙を拭って手に持ってたハンドガンを強く握った)
849 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:43:34.09 ID:wesiesbo0
ルビィ「……あれ?」
ルビィ(ふとしてお姉ちゃんの死体を見つめると、お姉ちゃんの持ってるハンドガンに目がいった)
ルビィ「これ……?」
ルビィ(そのハンドガンは普通の人からすれば何もおかしくないただのハンドガン、だけどルビィから見ると何かがおかしい)
ルビィ「ぶろーにんぐはいぱわー…?」
ルビィ(お姉ちゃんの銃に刻まれたこのハンドガンの名前らしきもの。手にもってモデルを確認すれば更に疑問符は増えていった)
ルビィ「……こんなハンドガンあったっけ」
ルビィ(ルビィが持ってるのはブローニングというハンドガンで、このお姉ちゃんが持ってるのは次世代モデルにあたるのかな。でもこんなハンドガンあったっけ……銃にはすごく詳しいけど、こんなハンドガン知らなくてちょっと違和感を覚えた)
ルビィ「…あるよね」
ルビィ(それは今気にすることじゃない、そう判断したルビィはお姉ちゃんの形見としてこのブローニング・ハイパワーを持ってそこを後にした)
850 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:44:59.46 ID:wesiesbo0
ルビィ「……絵里さん」
ルビィ(流石高級ホテルといえるような近未来エレベーターの前につくと、現在エレベーターがある位置は最上階を示していた)
ルビィ(きっと絵里さんはもう鞠莉さんと会ってる、そこでは絵里さんは何を知るのだろう。予想も出来ないや)
ルビィ「……よしっ」
ルビィ(深呼吸をして、エレベーターを押した。けどエレベーターが動かなかった)
ルビィ(疑問に思いながら数回エレベーターで上がるためのボタンを押してるけど反応しない。だから気付いた)
ルビィ(上で何か起こってる、これは————罠だということに)
851 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:45:30.71 ID:wesiesbo0
ルビィ「ッ!!!」ダッ
ルビィ(そう思ったルビィはエレベーターのすぐ近くにあった階段へ突っ走った、短い脚じゃ階段も一つ飛ばしでしか登れないし絵里さんや曜さんと比べちゃそもそも速度が遅い)
ルビィ(だけど走らなきゃ。今本気で走らないでいつ本気で走るんだ、何十階とあるこの階段は本気で走らなきゃ間に合わない!)
ルビィ(そう自分自身の戒めや、昂る感情が奮いを立てて汗も一瞬で過ぎ去ってしまうほどルビィは焦ってた。足音の残響すら置いていかれて、時々つまずきそうになっても無理矢理足をねじって前へ進む)
ルビィ(待つのは生か死、それを確かめる為に今は真実への階段を上る)
ルビィ(そうしてルビィは————)
852 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:47:08.06 ID:wesiesbo0
〜
曜「穂乃果ちゃん後ろ!」
穂乃果「なっ…!」
ことり「せやぁっ!」ドカッ!
ことり(スタンとスモークを投げてから約二十五分後くらい経った今、下は大騒乱だった)
ことり(スタンとスモークは時間が経てば効果も薄くなるしそれは有限、だから私たちが見つかるのも時間の問題で見つかれば見つかったで今度は組手のようなものが始まった)
穂乃果「た、助かったよ」
ことり「いいよ、気にしないで」
ことり(十数人、それも全員拳銃を持ってる相手に近接だけでやり合うのは辛くて、いくら私たちが上手く立ち回れるからとはいえ数の暴力もあるし、武器の性能差を経験だけで埋めるのは無理に近かった)
853 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:49:11.71 ID:wesiesbo0
バンッ!
穂乃果「! はぁっ!」シュッ
ことり「ほっと!」シュッ
ことり(三人全員殴りと蹴りだけを駆使して相手に近づいて一人ずつ無力化していく、だけど伊達に最上級ホテルの警備をしてるだけあって統率はかなり取れてて全員が射撃に集中するのではなくてそれぞれ近接か射撃かの役目を持って行動してる)
ことり(そんな相手に三人だけで挑むのは正直荷が重い、戦いながら何度もそう感じた)
穂乃果「よい…しょっと!」ドカ!
ことり「後は任せて!」ダッ
タッタッタッタッ!
ことり「ふんっ!とりゃー!」ドカッ!
ことり(いつも穂乃果ちゃんは最前線にいる人で、どんな相手でも恐れずに立ち向かう勇敢な人だ)
ことり(だからこの戦いでもまず穂乃果ちゃんが先行する、だから私はその穂乃果ちゃんのカバーをする。穂乃果ちゃんが相手のお腹に肘打ちを入れた後は、私が大きな踏み込みと一緒に掌底をかまして相手を吹っ飛ばした)
854 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:50:41.17 ID:wesiesbo0
曜「スタン投げるよー!」
ことり「! うんっ!」
穂乃果「了解だよ!」
ことり(そうして後ろから飛んでくるスタングレネードはここ周辺全ての人間の視界を奪う。私と穂乃果ちゃんで殲滅を行って曜ちゃんは追撃がこないように辺りをかき乱す役目をやってもらってる)
タッタッタッタッ
穂乃果「悪いね!私たちも本気でやってるから!」
ことり「痛いと思うけどごめんねっ!」
曜「二人とも殺さないようにね…」
ことり(フラッシュに備えた特殊なゴーグルをつけてる私たちには曜ちゃんの投げたスタングレネードは効かない、だから相手の視界を奪ってる間に近づいて殴り、或いは蹴り飛ばす)
855 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:52:12.49 ID:wesiesbo0
ことり「よしっ」
穂乃果「ふう」
ことり(穂乃果ちゃんと連携して数人を殴って蹴って吹っ飛ばしたら、背中を寄せ合って周りを見渡した)
ことり「…囲まれたね」
穂乃果「どうしようか…」
曜「はいはーい!そんな時は渡辺曜にお任せ!」バンッ!
ことり(そういいながら曜ちゃんは天上に向かって銃を発砲、そうすると銃声に反応した数人が曜ちゃんの方を向いたので、私たちはその間を使って曜ちゃんの方向にいる警備員一人に、穂乃果ちゃんはスライディングで相手を宙に浮かせて私はその宙に浮いた相手に飛び膝蹴りをしてそこからどかした)
856 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:53:57.22 ID:wesiesbo0
曜「ぃよしっ!いいね二人とも!残りの人もだいぶ少なくなってきたよ!」
穂乃果「このくらい余裕だよ」
ことり「ねっ」
曜「よーし!後の人たちをちゃちゃっと片付け——————」
ドカーン!
ことり「……え?」穂乃果「え?」
ことり(一歩、二歩、三歩と進んだ曜ちゃんが眩い赤い爆発と共に突然消えた。もう少し近かったら肌が焼けていたかもしれないし、そうでなくても火傷をしてしまいそうな熱が私に伝わってきて、私と穂乃果ちゃんを吹き飛ばす爆風は困惑の声を出してからやってきた)
857 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:56:01.29 ID:wesiesbo0
ことり「ぐっ……」
穂乃果「急に何…!?」
ことり(後ろに数m吹き飛ばれたけど空中で体勢を立て直して着地は怪我無く出来た。だけどそのすぐに飛んでくるモノに私は顔を青くした)
ことり「ッ!?!!!?」
穂乃果「よう……っ!」
曜「……っぁ」
ことり(私たちの前まで飛んできて見せたその姿————頭から血を流して顔の一部が黒く変色してる。ころころと転がって仰向けの状態で止まると見える曜ちゃんのその顔はあまりにも絶望に満ちていて、口が空いたままであまりにも厭世的でトラウマになりそうだった)
曜「…あっ………」
ことり(倒れる曜ちゃんの場所からはじわりじわりと血が広がっていって、首の皮一枚繋がってる状態で生きてはいるみたいだけど、ほぼ死んでるようなものだった)
ことり「曜ちゃん!!!?」
ドカーン!
穂乃果「くっ……一度逃げよう!!」
ことり(曜ちゃんをおんぶした穂乃果ちゃんはそう言った。驚く暇も与えてくれない爆撃がことりたちを襲うもので事態は一気に形勢逆転を迎えた)
858 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 19:58:43.39 ID:wesiesbo0
タッタッタッタッ
ピッ
ことり「真姫ちゃん!」
真姫『こちら真姫、どうかした?』
ことり「曜ちゃんが死んじゃう!!!」
真姫『どういうこと?落ち着いて状況を説明して」
ことり「爆発を受けて曜ちゃんがっ!」
真姫『出血は?』
ことり「もう酷いよ…このままじゃ死んじゃう!というかなんで生きてるのかが分からないくらいだよ!」
真姫『ならいい?まず頭の出血を止めなさい、そうしてすぐにこの位置へ向かって』
ことり「…!ここは……」
ことり(フラッシュに備えたゴーグルに浮かび上がる電子地図に目を丸くした、どこだろうこれ……)
859 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:00:47.49 ID:wesiesbo0
真姫『私の今いる位置よ、黒い車の中にいるからすぐに来て』
ことり「ち、近くない?なんでこんなところに……」
真姫『私の提案よ、あの家からじゃ電波も届きにくいからね、それに私にだって出来ることはあるし』
真姫『そう、例えば治療とか』
ドカーン! ドカーン!
ことり「この爆撃は何!?」
穂乃果「グレネードランチャーだよ!多分後二発か三発は来るよ!」
ことり「そんなここはホテルの立地でしょ!?なんでそんな…!」
穂乃果「私たちが危険な存在として認識されたのかもね…」
860 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:03:22.81 ID:wesiesbo0
ことり「…矢澤にこでももっと考えて撃つと思うけどなぁ」
穂乃果「にこちゃんは堅実だもんね」
穂乃果「…それで真姫ちゃん、話は聞いてたけど今すぐ向かうのは無理だよ、追手が来るんだもん。このまま真姫ちゃんのところへいったら真姫ちゃんも一緒に巻き込まれちゃう」
真姫『それは……そうね』
穂乃果「仮に今から戦って20分で決着がついたとしたら曜ちゃんは助けられる?それとも死んじゃう?」
真姫『…それは曜を見てないから何とも言えないけど、曜がどれだけ耐えられるのかにもよるわ』
861 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:04:54.96 ID:wesiesbo0
穂乃果「…曜ちゃん」
曜「……ぁ」
穂乃果「20分耐えられる?」
曜「………」フルフル
ことり「…!」
ことり(ごくわずかだけど、死にかけの曜ちゃんは首を横に振った)
穂乃果「…じゃあ十分は?」
曜「………」フルフル
穂乃果「五分」
曜「………」フルフル
穂乃果「……三分」
曜「………」フルフル
862 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:06:14.23 ID:wesiesbo0
穂乃果「……二分、二分もつ?」
曜「………」コクコク
穂乃果「…そっか、なら制限時間は二分だよ」
真姫『…えっ二分…?』
ことり「……分かった」
穂乃果「二分後にそっちに行くね、真姫ちゃん」
真姫『えっちょっと待っ————』
プツンッ
863 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:08:04.88 ID:wesiesbo0
穂乃果「……ねえことりちゃん」
ことり「何?」
穂乃果「どうして制限時間は二分って私が言ったのに、驚かないの?」
穂乃果「普通そこは無理でしょって驚く場面じゃない?それなのにことりちゃんはあたかも当然のように受け入れてくれた」
ことり「………」
穂乃果「…ラブライブ」
ことり「…!!」
穂乃果「記憶を失っても、何故かこの言葉だけは覚えてた。この言葉だけは記憶を失う前の言葉だってことが分かった、そしてそれが忘れちゃいけない言葉だって強く自覚が持てた。その名の通り業務用アンドロイドである私が生きることを愛す、私が変化を望もうとした証拠なんだって思ってる、ラブライブっていうのは」
穂乃果「だからそれだけ記憶を失う前の私はその言葉に強い想いを抱いてるんだって思った、記憶を失っても失われない私に沁み付いた何かが私の心にはあったんだ」
864 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:09:33.96 ID:wesiesbo0
穂乃果「ことりちゃん、手を貸してよ」
ことり「えっ」
ギュッ
穂乃果「……ほら、やっぱりことりちゃんは私の知ってる温もりとそっくりなんだもん。機械的に判断して、純度100%の温もり」
ことり「………」
穂乃果「最初に会った時からおかしいって思ったんだ、私はことりちゃんの事知らないのにことりちゃんは何故か私の事をよく知ってた」
穂乃果「絵里ちゃんと話す時は鼓動のスピードが遅いのに、私と話した途端鼓動のスピードが加速する、なんで私と話すことに緊張してるんだろうって」
穂乃果「他にも色々あるよ、初めて会ってからあの家の図書室で話をした時、ことりちゃんは儚そうな淡い笑顔をしてた。それが儚いって分かったのは花丸ちゃんも同じ笑顔をよくしてたからね、そしてそれは間接的に過去に何かを抱えてる人なんだって私は確信したよ」
ことり「………それで?」
865 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:10:51.93 ID:wesiesbo0
穂乃果「あの時手を握った時には明らかな手応えがあった、ここまで私の探してる人の温もりと合致する人…いやもう本人なんじゃないかって思うほどの人は初めてだったよ」
穂乃果「希ちゃんの合致率は63パーセント、花丸ちゃんの合致率は41パーセント、せつ菜ちゃんの合致率は18パーセント、念のためと思って握ったにこちゃんに関しては3パーセントだったよ」
穂乃果「だけどことりちゃん自身が否定をするからきっと違うんだって思ってたよ」
穂乃果「…だけど、今確信したよ」
穂乃果「ことりちゃん、あなたは私が記憶を失う前にずっと一緒にいた人でしょ?」
ことり「……!」
穂乃果「私のペアでもないのにことりちゃんはせつ菜ちゃんと同じくらい…いやそれ以上に息のあった動きが出来てる、私の行動癖を知ってて、私がやるであろう行動をもう知ってての動きをしてる」
穂乃果「それはつまり私が記憶失うずっと前から戦線を共にしてきた人なんだよね?ことりちゃんは初期型、私も初期型、昔から一緒でも何もおかしな話じゃないんだよ」
866 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:12:09.41 ID:wesiesbo0
ドカーン!
ことり「……気付いちゃったんだね、穂乃果ちゃん」
ことり(爆発が近くで起きても動じない私たちがそこにはいた)
ことり(例え記憶を失っても、私の事をどこかで覚えていてくれるのは何とも穂乃果ちゃんらしかった)
ことり(別にばれたくないって思ってたわけじゃない、だけど秘密にしておいた方が悲しまずに済むと思ってずっと逃げてた。前の穂乃果ちゃんとは別人だって思ってても、ニッコリとした笑顔や最前線を突っ走るあの姿は何も変わらなくてもどうしても昔の穂乃果ちゃんと重なってしまう)
ことり(穂乃果ちゃんと喋ると緊張する、心があたふたする。昔の穂乃果ちゃんより真面目で笑顔の数も減った穂乃果ちゃんといると心が苦しくなる)
ことり(だけどやっぱり穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんのまま。記憶を失ってもどこか冷静だし戦う時に見せる背中はとても大きく感じる、笑ってなくてもなんだかんだ優しいし、軍神としての強さも失ってない)
ことり(だからそっと傍で穂乃果ちゃんを見てるのがことりにとって幸せだった。もう悲しくなりたくないから、もう何も起こってほしくないから私は進展よりも停滞を望んだんだ)
ことり(それなのに穂乃果ちゃんは私のことに気付いちゃったんだね……)
ことり(別にイヤなわけじゃないよ、でも…ことりの心が揺れだすのはもはや避けられないことだよ)
867 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:15:18.30 ID:wesiesbo0
ことり「…当たり前じゃん、穂乃果ちゃん動きを知ってるんだから連携が取れないわけないじゃん」
穂乃果「……やっぱり」
ことり「だって…ずっと昔からいた人のこと忘れられるわけないじゃん!どんなに辛い思い出抱えてたってことりにとっては大切な思い出なんだもん!」
穂乃果「…穂乃果だってそうだよ!今は記憶を失って何もわかんないけどことりちゃんの事大切にしてたっていうのは覚えてる!この体で感じてる!!」
穂乃果「穂乃果にとってことりちゃんは運命の人だったもん!!!」
ことり「!!」
穂乃果「……会いたかった」
ギューッ
ことり「………ことりもだよぉ!!」ポロポロ
ことり(穂乃果ちゃんに“運命の人”って呼んでもらえるだけでもうこの上ないくらいに幸せだった)
ことり(気付いたら笑えるようにもなってて、それもこれも全て絵里ちゃんのおかげだよ。幸せを運んでくれることりたちのリーダーに、穂乃果ちゃんの主に)
ことり(東京を変える人物として相応しい人だよ)
868 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:17:45.28 ID:wesiesbo0
穂乃果「…さて、ことりちゃん」
ことり「んん…」ゴシゴシ
ことり「何?」
穂乃果「真姫ちゃんから無線を切ってからもうすぐ一分半だけどどうする?」
ことり「……三十秒もあれば充分だよ」
ことり「倒す必要なんてないんだから」
穂乃果「うん!そうだね!」ダッ
ことり「行こう!」ダッ
ことり(そう言って穂乃果ちゃんは曜ちゃんを背負いながら走り出し、後に続くことりは残った全てのスモークとスタンを一定の間隔をあけて投げた)
ことり(するとどうだろう、後ろで大きな煙幕が上がった途端に飛んでくるグレネードランチャーの弾二発に対しては、私たちがほぼ同じタイミングで後ろを向きそれぞれ別々の弾を撃って空中爆破させた)
869 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:19:09.18 ID:wesiesbo0
穂乃果「えへへっやっぱり分かってるね」
ことり「元相棒だからね♪」
ことり(穂乃果ちゃんが右にいるにも関わらず撃ち落とすのは左のグレネード弾っていうのは知ってる、こういう局面に陥った時、穂乃果ちゃんは自分の方向とは逆の方を撃ち落としてクロスファイアを作りたがる、その方がかっこいいからって言ってたのを覚えてる)
ことり(そうして前を向いて走り出せばすぐに左へ大きく曲がって相手の視界から外れた。ここで左に行くのはずっと昔から困ったら左に行こうって根拠も無しに胸張って言ってたから)
ことり「はっ」ピョーン
穂乃果「ほっと!」ピョーン
ことり(横に橋があっても飛び越えられる川ならジャンプで飛び越えるのも知ってる、その方が風が当たって気持ちいいからって言ってるのも覚えてる)
タッタッタッタッ
ことり「真姫ちゃん!」
真姫「二人共!大丈夫?」
穂乃果「追手は撒いた、後は曜ちゃんをよろしくね」
真姫「ええ、任せない」
870 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:20:51.04 ID:wesiesbo0
曜「……ぅ」
真姫「あなたたちは今からどうするの?」
穂乃果「絵里ちゃんがどうなってるか知ってる?」
真姫「絵里からはとうとう最上階に上るっていう連絡が最後、ルビィはそもそも連絡がないわ」
ことり「絵里ちゃん最上階に行ったんだ……」
真姫「……無事だといいわね」
穂乃果「………」
真姫「どうする?行くのもよし、ここに残るのもよしだと私は思うわよ」
ことり「……二人に応答を入れられない?」
真姫「………無理ね、電波の届かないところにいるみたいだわ」
ことり「うーん………」
871 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:22:36.65 ID:wesiesbo0
穂乃果「……待とう、絵里ちゃんが生きてるのを祈って私たちは待とう」
穂乃果「今ここで出てもまた見つかって辺りが騒然とするだけだよ、確かに私たちが最上階に行くことで変わることもあるだろうけどハイリスクすぎる、そしてそこにリターンがあるのかすら分からない。今鞠莉ちゃんと一対一の状態の絵里ちゃんを邪魔するわけにはいかない」
穂乃果「だからここは待とう」
ことり「……分かった」
真姫「…そうね、賢明な判断だと思うわ」
穂乃果「………」
ことり「………」
真姫「………」
「何もないといいけど……」
872 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:24:03.37 ID:wesiesbo0
〜
絵里「……うん、お願いね、うん、それじゃあ」
真姫『ええ、それじゃあね』
絵里「……はぁ」
絵里(もしかしたらこれが最後の応答になるかもしれない、そう感じながら真姫に最上階に行くと連絡をした)
絵里(果たして何が待ってるんだろう、考えたくないような気がして思考を停止させ興味のままで終わらせたけど、もうすぐしたらイヤでも見ることになる)
絵里「十二…十三…十四…」
絵里(現在の階を示す数字が増えるにつれ増していく緊張感)
絵里(これが最上階まで来たらとうとう私の目標地点にまで到達する)
873 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:25:24.37 ID:wesiesbo0
絵里「………三十」
絵里(長かった。このエレベーターに乗るのにどれだけ苦労したんだろう、様々な死線を超えて、たくさんの感情が巡って、絶望をイヤと味わって、自殺までした)
絵里(だけど、こうして私は真実を知る者としてこのエレベーターに乗っている)
絵里(————ここからが本番)
絵里(ゴールが終わりじゃない、ゴールに何があるかが重要だ)
874 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:27:21.27 ID:wesiesbo0
絵里「……四十六」
ピコンッ♪
絵里「………」
絵里(最上階である四十六階につくと鳴る軽快な効果音。しかし扉は開かない)
絵里「…ここに当てるのね」
絵里(エレベーターの階を入力するところの上に、カードを読み取るっぽい場所があった。だからここに真姫が用意してくれたカードをかざした)
『————コード613、機密ID認証をしました。ウイルス、スパイウェアの確認無し』
『ロックを解除、扉が開きます』
ウィーン
絵里「………」
絵里(セキュリティによる何重にもかけられたロックの解除が終わると、扉が開いた)
875 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/10(木) 20:31:22.86 ID:wesiesbo0
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(その先はとても広く、奥は全面ガラス張りの社長室。床はロイヤリティ溢れる絨毯が敷かれていて、入って斜め左にあるテーブルには分厚い本の束がいくつもあって、右の壁には様々な資料が貼り付けられている)
絵里「……ようやくなのね」
絵里(私の目線の先にあるイスに座る誰か。私が声を発することで外を向いていたイスがゆっくりとこちらを向き始めた)
絵里(あぁ、ようやくなのね)
絵里(やっとこそで私は————)
876 :
◆iEoVz.17Z2
[sage saga]:2019/10/10(木) 20:38:47.45 ID:wesiesbo0
今日はここで中断。
昨日は色々ありましたが今日はこうして何事もなく投下できていて安心しています。
再開は明日か明後日、おそらく次が最終回になります。
877 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/10(木) 20:45:51.89 ID:CGlVK3gD0
いよいよラストかー
あの子が序盤以来出てきてないのが気になるな・・・
878 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/11(金) 16:01:33.03 ID:HR93flPJ0
なんというかFPSの知識で書いてるんだなって感じ
879 :
◆iEoVz.17Z2
[sage]:2019/10/12(土) 21:42:52.71 ID:U3SzFWDY0
すいません、台風の影響もあってちょっと今日は投下厳しいので明日か明後日にやります。
880 :
◆iEoVz.17Z2
[sage]:2019/10/12(土) 21:43:27.21 ID:U3SzFWDY0
すいません、台風の影響もあってちょっと今日は投下厳しいので明日か明後日にやります。
881 :
◆iEoVz.17Z2
[sage]:2019/10/12(土) 21:44:23.95 ID:U3SzFWDY0
なんか連投しちゃいましたけど気にしないでください
882 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/10/13(日) 18:47:34.05 ID:u5IEOG0O0
名残惜しいけどもう終わっちゃうのか…
ことりが穂乃果に対してそっけないと感じてたけどこういう理由があったんだな。
883 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 19:50:32.02 ID:raJY7OxV0
鞠莉「…待っていたわ」
絵里「鞠莉……」
鞠莉「海未とにこに銃弾を放った時からあなたは絶対にここに来ると思ってた」
鞠莉「アンドロイドの生みの親にしてアンドロイドの差別を作り上げた私のところに来るのはもはや分かっていたこと」
絵里「………」
鞠莉「…でも、ここに来るまでのあなたは様々なDifficultyに遭遇してきた」
鞠莉「対アンドロイド特殊部隊との衝突、仲間の突然の裏切り、大切な仲間の死、自殺、愛すべき妹との殺し合い」
鞠莉「それを全て乗り越えてここまで来たのよ、まずは私からおめでとうを言いたいわ」
絵里「…ふざけないで、私の今までのしてきたことはおめでとうなんて綺麗な言葉で収められるものじゃないし収めていいものでもない」
絵里「そもそもなんで鞠莉が果南が裏切ったことや私が亜里沙と戦ったことを知ってるの?ましてや自殺まで知ってるのはおかしいんじゃない?」
884 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 19:53:09.04 ID:raJY7OxV0
鞠莉「私は常に私でありなさい」
絵里「……!」
鞠莉「聞き覚えない?」
えりち『私は常に私でありなさい』
絵里「まさかあなた…!!」
鞠莉「そうよ?」フフフッ
鞠莉「私がえりち、あなたの二代目になる予定だった記憶よ?」
絵里「…どういうことよ、あなたは死んで終わりの人間じゃない。仮にアンドロイドが機械的に記憶の移動が出来たとしてもあなたは機械仕掛けの記憶を有していないから記憶の移動が出来ないわ」
鞠莉「ええ、人間の脳を有してる私だけじゃ出来ない。けどそれを補助する機械を使えば記憶の移動も可能になるっていったら信じてくれるかしら?」
絵里「そんなこと出来るの…!?」
885 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 19:59:50.65 ID:raJY7OxV0
鞠莉「——ええ、私はそれをソウルボックスと名付けた。それは脳に存在する意識という概念の発生源を見つけた時に私は考えた」
鞠莉「テキストやワードにはコピー&ペーストなんて便利な機能があるじゃない、それと同じ原理よ、意識の源が分かったのならその意識の源をスキャニングして、解析する。そして解析して得たデータを元に、私の脳にあるニューロンをアンドロイドを作ったのと同じ方法で人工的に再現して、機械的に私の記憶をコピーした」
鞠莉「するとどうなる?機械化された私の記憶がそこには出来て、ソウルボックスを埋め込んだアンドロイドの機械化された記憶が私の今この胸に刻まれているソウルボックスへやってくる、それを他のアンドロイドと連携させれば私はそのアンドロイドを乗っ取ることが出来る。そうして私はもはや半永久的な不死身になったのよ」
絵里「そんな馬鹿げた話が————」
鞠莉「あるのよ」
絵里「!!」
鞠莉「これを使えばクローンだって作れる、もちろんそんなことはしないけどね」
鞠莉「元々アンドロイドは私が作ったのではなくて私と希で作ったのよ、その中で私たちは相手が特定の行動をすることでそれを読み取りこちらも特定の行動をする、という人間とロボットが差別化されるようなものにはしたくなかった」
鞠莉「希には強いこだわりがあった、まるで人間みたいなんじゃなくて、人間そのものとして機能させたいという強い思いがあった」
鞠莉「だから私たちはここのホテルのスタッフに脳のスキャンを協力してもらってをニューロンの可視化をして、意識の源を発見した。アンドロイドの脳は機械仕掛けよ、意識はあるけど記憶の保存は全て機械で行ってる。だから私たち人間の脳に存在する細胞や神経は別に要らなくて、記憶の移動に関しては記憶の機械化が出来た時点で十分に可能だった」
鞠莉「そうして長い年月を経てソウルボックスという機械があるのだけれど、実際の成功例をあなたはもう知っているでしょう?凛を殺したのは誰?」
絵里「……!!!」
886 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:01:56.38 ID:raJY7OxV0
鞠莉「そう、私よ?」
鞠莉「あなたの身体を借りて私があの戦場に立ったわ、あの時は死ぬかと思ったわ。だって目覚めたら背中にナイフが突き刺さってるんだもの」
絵里「な、なんで…凛は対アンドロイド特殊部隊でしょ?仲間じゃない……」
鞠莉「凛という人物とあなたという人物を天秤にかけた結果よ?私にとってあなたの方が重要だったの」
絵里「…それはどうして?」
鞠莉「————標準型アンドロイドX、聞いたことある?」
絵里「!!!」
鞠莉「その様子だと聞いたことあるのね、どこから漏れたかは知らないけどアンドロイドを作っていく中で私はとあるアンドロイドにそういう特殊な呼称をつけた」
鞠莉「標準型アンドロイドXという特別性を持たせるためにね」
887 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:04:54.34 ID:raJY7OxV0
鞠莉「第一に、それは人間でなきゃいけなかった」
鞠莉「目に見えて強い戦闘型でもなければ、目に見えて人間とはまた違う業務型でもない。人間に最も近い標準型でなきゃいけなかったの」
鞠莉「そして第二に、それは識別コードが私の誕生日でなきゃいけなかった」
絵里「!」
鞠莉「あなたの識別コードを今のうちに確認しておきなさい?」
鞠莉「第三に、それは私が死んだ時に自動で記憶が飛ぶ対象でなきゃいけなかった」
鞠莉「ソウルボックスは近年に開発された代物よ、そんなものを有象無象のアンドロイドが有してるわけもなく、標準型アンドロイドXという呼称をつけるにあたってはそのアンドロイドの胸にソウルボックスを埋め込んで、私が死んだ時自動で私の胸のソウルボックスに入っている私の記憶がその標準型アンドロイドXに転移するように作った」
絵里「……!」
鞠莉「最後第四に、それは私とそっくりなアンドロイドでなきゃいけなかった」
鞠莉「私の分身であるような、そしてそれが作られる頃には私がソウルボックスを利用してそちらの身体に移動しても違和感のないようなアンドロイドでなきゃいけなかった」
888 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:06:11.74 ID:raJY7OxV0
絵里「……それが私?」
鞠莉「そうよ、識別コードF-613、名前は絢瀬絵里、高校三年生」
絵里「………」
鞠莉「あ、そうそう、なんであなたに絵里って名前がついたか知ってる?」
絵里「…知らないわ」
鞠莉「あなたは私————私の分身、そしてもう一人の私。そういうコンセプトで作られたアンドロイドなのよ」
鞠莉「Electric Loot Identity」
鞠莉「その頭文字を取ってELI、そう…だからあなたは絵里なのよ」
絵里「…意味が分からないわ、その単語に込められてる意味がまるで分からないんだけど?」
889 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:08:53.15 ID:raJY7OxV0
鞠莉「さっき言ったわよね、あなたは私だと」
鞠莉「あなたの特徴は何?」
絵里「特徴…?」
絵里「………」
鞠莉「…そうね、あなたはちゃんと言われるまで自覚しない人だもの。私とそっくりだわ」
鞠莉「あなたは一度見た動きを即座にコピーする」
絵里「!」
鞠莉「……私がそうだったの」
鞠莉「テレビで見たプロレスの技や時代劇の剣捌き、サスペンスでやってた犯行の手口、実際に見たプロのタイピング、他にも色々見てきたわ」
鞠莉「そうしてく中で私は歳をとればとるほどやれることが多くなってることに気付いた、それも全てが職人レベルでね」
鞠莉「だから私は七年前というまだ中学生でもない時にアンドロイドの開発に成功した」
絵里「………」
890 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:10:18.75 ID:raJY7OxV0
鞠莉「私もね、希に言われるまでは気付かなかったわ。自分のこの才能に」
鞠莉「私はこの才能を誇りに思った、けどね、私のやってることがいくらすごくてもそれって率直に言ってしまえば」
鞠莉「他人の個性を盗んでるだけに過ぎないのよ」
絵里「…!!」
鞠莉「気付いた?Electric Loot Identity、それぞれを直訳して電子、盗む、独自性————その三つの単語のうち、後ろの二つから形成される人物が私なのよ」
鞠莉「この才能が人を傷つけるっていうのを知ったのは運動会の時、クラスで一番速い子のフォームを見て覚えてそれを真似て学年一位の座についた」
鞠莉「そのクラスで一番速い子、泣いてたわ。それはもう大泣き」
鞠莉「他にも中学の美術はプロのを見て先に覚えてたからダントツで上手かった、私が上手すぎたせいでクラスで絵がとっても好きだった子の熱意を殺してしまった、差を見せつけすぎて現実を直視させてしまった」
鞠莉「料理番組を意図せずとも数百と目にしてきたから私は料理がものすごく上手かった、調理実習は私の料理が上手く出来過ぎて逆に上手く出来なかった子がバカにされてた」
鞠莉「私のこの才能は色々な人を傷つけすぎた、だからこの才能はプラスではなくてマイナスのニュアンスとして扱われるべきだと思って私はElectric Loot IdentityのLの部分をLootにした」
鞠莉「…これで分かったでしょう?ELIという名前の意味が」
891 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:10:46.32 ID:raJY7OxV0
絵里「……ええ、よく分かったわ。この力はあまりにも人間離れしすぎてる、それは鞠莉と戦ってる時によく分かった」
鞠莉「…そうよ、この才能は恐ろしすぎるの」
鞠莉「希はこの才能を才能とは呼ばなかった、多分希の優しさかしら」
鞠莉「行動記憶体質って、希はそう言ってた」
絵里「行動記憶体質……」
鞠莉「そう、あなたもその体質なのよ」
892 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:11:48.12 ID:raJY7OxV0
絵里「……じゃあ私が頭を撃ち抜かれても生きてるのは何故?記憶保存領域が壊れてるはずでしょ?」
鞠莉「あなたの死は私の死と同義だからよ、事実あなたの命はもう消えた。だけど私の命が残ってる」
鞠莉「私の胸に埋め込まれたソウルボックスが私の心臓の鼓動を検知しなくなったら自動的に機能を停止してあなたも死ぬわ」
絵里「…じゃあ今の私はゾンビなの?」
鞠莉「いや死に至る痛みを感じたらあなたのシステムが自動でシャットダウンするから死ぬわよ、今は死を誤魔化してる状態にすぎないの」
絵里「……今ここで鞠莉を殺せば私も死ぬのかしら?」
鞠莉「ええ、その通りよ」
カチャッ
鞠莉「……私を殺すつもり?」
絵里「ええ、あなたを殺すわ」
893 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:13:28.42 ID:raJY7OxV0
鞠莉「私を殺したらあなたも死ぬのよ、それでもいいの?」
絵里「いいわ、元々はない命だもの、もうどう使ったって後悔なんてないわよ」
鞠莉「……やっぱりあなたは私と同じね、その頑固な感じは私を見てるみたいだわ」
絵里「…それは嬉しくないわね」
鞠莉「素直に喜んでもいいのよ?」フフフッ
絵里(最上階に上ってから様々な情報が私の脳へ伝達した。えりち————いや、鞠莉が言ってたその“真実”ってやつはパンドラの箱だった)
絵里(アンドロイドの抱える過去のその全貌が見えたような気がして、私というアンドロイドと、鞠莉という人間の関係がよく分かった)
絵里(…そして、それが分かった上で取った行動は鞠莉を殺すこと)
絵里(今ここで鞠莉を殺して、私も死ぬ)
894 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:15:13.33 ID:raJY7OxV0
絵里「……!その武器は…!」
鞠莉「ええ、あなたと同じ武器よ、スコーピオンEVO A1とPR-15、さいっこうにcoolな武器構成だと思うわ」
鞠莉「私も生きとし生ける東京を知ってる人間だからね、抵抗空しく殺される気はないわよ」
絵里「…そう」
絵里(…きっと鞠莉の立場に私がいたらきっと私は鞠莉と同じ事を言っていた、そのことに少し驚いてしまった)
絵里(東京が好きでここにいる私、どんな相手でも抵抗をする私、どんな相手でも勝てないとは思わない私がいる。そんな私がいう言葉はきっとその鞠莉の言葉なんでしょう)
鞠莉「last battleに相応しいわね、あなたと私」
鞠莉「最強対最強の戦いよ?」
絵里(そういいながら鞠莉は曜がいつも使ってる射線が見えるゴーグルをかけ、スコーピオンを下げて戦闘態勢に入った。これがラストバトル、これが天下の分け目)
絵里(泣いても笑ってもこれで最後)
絵里「すぅ…はぁ…」
絵里(鞠莉から目を離さず呼吸を整える為に息を吸って吐いた。私の人生の集大成——秘められた私の想いと宿る強き思いを乗せて私は————)
絵里(————ラストバトルへのトリガーを引いた)
895 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:18:24.21 ID:raJY7OxV0
絵里「はっ!」ダッ
絵里(発砲と同時に鞠莉に近づいた、願わくばこれで終わってほしいけどやっぱり鞠莉はスコーピオンのトリガーを引いた分すべての弾を回避してきて、跳躍の際に靴の裏がほんのり光ってるのを見て鞠莉も曜と同じで跳躍アシストを使ってるのを確認出来た)
鞠莉「あなたはこれを避けられるかしら?」
バリバリバリバリ!
絵里「っ!?」シュッ
絵里(とんでもない数の射線が私の瞳に映る。果南のアンダーバレルショットガンや希のショットガン二丁の射線に劣らないその手数の多さに目を丸くした)
曜『そんなことないよ、絵里さんが強みを実感できないのはスコーピオンを相手にしたことがないからなんだよ、相手にするとその凄まじい発射レートに驚くことになると私は思う』
絵里「ちっ……」
絵里(曜の言う通りだ、トリガーを引くことで鳴る恐ろしい銃声は恐怖の権化で、それと共に飛んでくる数えきれない銃弾は一発自体は小さいもののトリガーを引きっぱなしなら弾の全てが連なった状態で飛んでくる、そんなのを受けたらひとたまりもない)
絵里(スコーピオンの弾丸を初めて見た私は左へ大きく跳躍、動き自体はよかったものの驚きで少し反応が遅れて結果的に上腕に銃弾一発が掠った)
896 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:23:16.50 ID:raJY7OxV0
タッタッタッタッ
鞠莉「あの時の再戦といきましょう!」
絵里「ええ、そうねっ!」
絵里(私が走り出せばまるで鏡のように同じスピード、同じ体勢、同じタイミングで鞠莉も走り出し、結果的な距離の縮まりは近接戦闘の始まりの証だった)
鞠莉「ふっ!」
絵里(しかし攻め方は少し特殊で大体ここで飛んでくるのはストレートやフックなんかの殴りなんだけど、鞠莉が行ったのは私の前で止まって上段蹴りで、どうやら鞠莉は私が一度見たものをコピーするという特性を知っている以上みんながしてるような行動では攻めてこなさそうだった)
絵里「はっ!」ガシッ
絵里(でも、上段蹴り自体は見たことある。それをしゃがんでよければ第二の蹴りが飛んでくるのでしょう?それは知ってる、だから私は避ける選択をしたのではなくて鞠莉の足首を掴んで受け止める選択をした)
絵里(そうして私は掴んだ足首を引っ張って鞠莉のお腹に膝蹴りをして、そのまま怯んだ鞠莉の足首をもう一度強く引っ張り後ろに流し鞠莉の後頭部目掛けて蹴りを————)
鞠莉「はい、残念」ドカッ
絵里「ッ…!?」
絵里(——入れることが出来なかった)
897 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:25:47.94 ID:raJY7OxV0
鞠莉「受け止められるのは想定済み、この場合希みたいに反撃するためのコラテラルダメージを受けるのがいいのよね、私は希の動きを何十回と見てきたからこれには自信があるの」
鞠莉「私、受け手なものでね」フフフッ
絵里「ぐっ…うぅううう…!!」
鞠莉「ごめんなさいね絵里、私はあなたより戦闘経験豊富だから」
絵里(鞠莉は後ろに流され私の視界から外れた瞬間にバランスを元に戻しもう片方の足で私の横っ腹に蹴りを入れてきた)
絵里(アンドロイドにも劣らない蹴りの威力はおそらく後二発でも受ければ体がおかしくなる、だからもう食らえない、食らっても一発…だから次攻撃する時はちゃんと行動を選んでやらないといけない)
鞠莉「そんなゆっくり起き上がってたら死ぬわよ?」バリバリバリバリ!
絵里「!」
絵里(鞠莉の蹴りの痛みが全然消えなくて起き上がるのが辛かった、でもそんなゆっくりしてたら死ぬのは確かに間違ってない)
絵里(しかし幸いにも片足はもう既に立ってる状態だったからなんとかすぐ回避行動に移れた。ただ、これじゃあ跳躍の勢いが足りなくて銃弾をもろに受ける、だからとりあえず右に跳躍をした後すぐに左へスライディングして、あの時の果南のようなジグザクの形で避けた)
898 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:28:47.53 ID:raJY7OxV0
絵里「今度こそ行くわっ!」タッ
鞠莉「ええかかってきなさい!!」
絵里(そうして回避すれば自然と痛みは消えていく、そうなればたちまち起こる近接戦闘は今まで戦ったどの相手よりもハイレベルなものだった)
絵里(右ストレートを繰り出せば体を捻って避けられすぐに反撃の後ろ回し蹴りが飛んでくる、それを少し姿勢を低くして回避し私も負けじと振り返り鞠莉の顎にアッパーカットを入れる、けどそれも体を少し反って回避され、それはもう回避をしたら反撃をして、反撃されたら回避をするの繰り返しだった)
絵里「はぁ…はぁ…本当に人間なの…?」
鞠莉「ん、んん……私はあなただからね…」
絵里(一進一退の攻防を続けて汗も出始め息も切れ始める、しかしアンドロイドの体力についていける鞠莉という人間は一体何者なんだ、どれだけすごい人間なんだと不思議になってくる)
899 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:30:31.18 ID:raJY7OxV0
鞠莉「そんなことより…早く決着をつけましょうか…長期戦にでもなったら私が負けちゃうからね!」ダッ
絵里(私の問いに答えてすぐに鞠莉は動き出す、いくらアンドロイドの体力についていけてるとは言ってもやはり人間であるのは変わりなく、長期戦に持ち込まれて不利になるのは既に分かっているみたいだった)
絵里「…ええそうね!」ダッ
絵里(だけど、それが分かったところで私の戦法は変わらない。逃げに徹するわけでもないし攻めることをやめるわけでもない)
絵里(私だってすぐに決めたい、だって正直私だってこのまま持久戦をしてたら動けなくなって負ける未来しか見えない。なら鞠莉が望むように、私が望むように私も鞠莉と同じように突っ走った)
絵里「はっ!」
鞠莉「食らって!」
絵里(お互いスコーピオンの弾をリロードする暇なんてなく、この期に及んでは考えることが一緒。前へ走りながらスコーピオンの残弾を相手に向かって発砲、そしてその後する行動も全く同じで、お互い射線で心臓を狙ってるのが確認出来てるからそこはスライディングで一気に距離を詰めながら回避)
900 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:31:57.94 ID:raJY7OxV0
絵里「…!!」
絵里(蹴りが届く位置まで来て鞠莉が次にする行動はさっきと同じ上段蹴り、それが分かったのはさっきのフォームを見てたから)
絵里「………」
絵里(上段蹴りを初めて見た時はしゃがんでよけた、けどそれだと追撃が来てしまう)
絵里(だからさっきは足首を掴んで反撃に転じた、けどそれでも鞠莉には通用しない)
絵里(ならこの攻撃はどうする?安定択で攻撃に付き合わない?それともまた受け止める振りをしてフェイント?)
絵里(……いや、違う)
絵里「っ!」タッ
絵里(ここで弱気になっても勝負はつかない、鞠莉は私、なら私は鞠莉だ。如何なる状況においてもコンディションはほとんどが同じ)
絵里(鞠莉が体力切れなら私も体力切れだし、鞠莉の限界が私の限界だ)
絵里(…でも違う)
901 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:34:20.55 ID:raJY7OxV0
絵里(私と鞠莉の決定的な違いで私は勝負にいかなきゃいけないみたいだ)
絵里(確かに私は鞠莉で、鞠莉は私。そこは素直に認めよう)
絵里「だけど違う!!!」
鞠莉「!」
絵里「鞠莉!これが私と鞠莉の違いよ!!!」
絵里(ここが勝敗の分かれ目だった)
絵里(鞠莉の上段蹴りと私の上段蹴りが交わった直後に発生する小さな衝撃波を感じた瞬間、鞠莉の蹴りは私の蹴りの威力に負け体勢を崩した)
絵里(そうして私は追撃にフルパワーの飛び後ろ回し蹴りを鞠莉のお腹にヒットさせ、吹き飛ばし壁に叩きつけた)
902 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:38:32.74 ID:raJY7OxV0
鞠莉「がっ…けはっ…!うっぷっ……」
絵里「はぁ…はぁ…はぁ……」
絵里(————私と鞠莉の違い、それはアンドロイドか人間であるかの違い)
絵里(アンドロイドは人間より運動神経がよくて、力は強い、例え戦いで人間がアンドロイドと並べてたとしてもそれは表面上に過ぎなくて、武器という小細工がない戦いで交えれば力の差はすぐに出てくる)
絵里(鞠莉、あなたはきっと見たことがないのでしょう?)
絵里(色んな人の動きを見て最強を積み上げてきたけど、鞠莉と同じ立場にいる私の力を見たことがないでしょう?)
絵里(文字通り鞠莉は最強だ、だけどその最強のコピーであり、戦闘的な意味で人間の上位互換種族であるアンドロイドの私の力は、見るだけじゃ分からないでしょう?)
903 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:40:46.23 ID:raJY7OxV0
絵里「………」
スタスタスタ
鞠莉「あ…ぅ……」
絵里(口からよだれを垂らす鞠莉にハンドガンの銃口を近づけた)
絵里(このトリガーを引けば全てが終わる。そう、何もかも全てが終わるのよ)
絵里(始まればいつかは終わる、それが今日なんだとしたら随分と長いようで短い日々だった)
絵里(様々なモノを失った、鞠莉を殺して得るものがあったとしてもきっと失ったモノの数に勝ることはない)
絵里(この戦いで数多くの命が失われた、果たしてその全てが失う必要のある命だったのかしら。今となってはもう分からない)
絵里(振り返ってみればあのままずっと多少の差別を受けながらも平和な暮らしをしていればよかったのかもって思う、だけどレジスタンスになってから得たものには値段とか価値とかそんなものじゃ推し量れない最高のモノだってあったはず)
絵里(ことりや穂乃果、曜やせつ菜————出会いだってたくさんあった)
絵里(だけど、そのレジスタンス生活も今日でおしまいね)
絵里(目を見開いた私はゆっくりとトリガーに指をかけた)
904 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:41:48.47 ID:raJY7OxV0
プルプルプル
絵里「……!」
鞠莉「……ぅ?」
絵里(……まただ)
絵里(鞠莉に銃口を向け、トリガーに指をかけた瞬間に手が震えだした)
絵里『私が…私が…!』
絵里『……なんで』
絵里(何回目だろう、この手の震えは)
絵里(震えた手に力を込める為にもう片方の手を絡めて、無理矢理トリガーを引こうとした)
905 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:42:31.21 ID:raJY7OxV0
絵里「くっ……なんで…なのっ…!!」
絵里(トリガーが引けない、怖い、怖い、怖い)
絵里(これを引いたら人が死ぬ、私は人を殺すことになる。鞠莉という忌々しい相手を前にしても、今までずっと殺すつもりでいた相手を前にしても、殺すことへの恐怖心が拭えてなかった)
絵里(どうして私は人が殺せないのかしら、どうして私は殺すことが怖いのかしら)
絵里(……それはいつまで経っても分からない永遠の謎みたいだった)
906 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:53:52.83 ID:raJY7OxV0
鞠莉「……ふんっ!」
絵里「あっ!?」
鞠莉「はぁッ!」
絵里「ぐふっ…!?」
絵里(あの時のように堂々巡りをしてれば下る甘々な覚悟を持ってた私への天罰)
絵里(尻もちをつき壁に寄り添っていた鞠莉は突然私の足に突き蹴りをいれてきて、トリガーに対して戸惑っていた私は避ける術なく命中するけど、アンドロイド特有のバランス感覚はこれだけじゃ決壊せず怯むだけに留まる)
絵里(だけど間髪入れずに飛んでくる追撃の更なる突き蹴りに対してはどうなるのかしら?)
絵里(……答えはとっても簡単、それに対応できずお腹に強烈な蹴りがめり込んで私はさっきの鞠莉と同じように吹き飛ばされた)
絵里「かっ……なんで…ッ!」
鞠莉「殺さないなら私が殺してあげる、私を殺す時間はたくさんあったのよ、それなのにあなたは殺さなかった」
鞠莉「だから恨むのなら私を殺すことが出来なかった自分を恨むことね」
絵里「……くっ」
絵里(仰向けに倒れる私に向けられた鞠莉のハンドガンの銃口。私自身動けなくはないけどここで動いたら撃たれて死ぬでしょう)
絵里(鞠莉の瞳にはちゃんとした殺意がある、数秒前に私もその瞳の影を宿してれば鞠莉を殺せたのかしら)
907 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:54:25.78 ID:raJY7OxV0
鞠莉「じゃあね、絵里」
絵里(トリガーにかけた指に力が加わるのを感じた私は力強く目を瞑った)
絵里(こんな最後は不甲斐ないけど、ある意味私らしい最後だ)
絵里(東京で人一人殺せないんじゃきっとこうであるべきだったのよ、甘い考えを求めているなら東京から離れるべきだったのよ)
絵里(私の人生を起動修正できるポイントはいくつもあった、そこで私は東京を選んだ)
絵里(殺される直前になって、今更鞠莉を恨むなんてことはしない)
絵里(……もう、悪いのは私なんだから)
908 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:55:30.26 ID:raJY7OxV0
スカッ
絵里「………?」
鞠莉「………」
絵里(だけどどうしてかしら、鳴り響くのは弾が込められていない空の発砲音だけ)
絵里「…ん、ま、鞠莉……?」
絵里(ゆっくり目を見開けば、既にハンドガンを下げてる鞠莉がそこにはいて、瞳を大きく揺らしながら私を見ていた)
鞠莉「………わけないじゃない」
絵里「…え?」
鞠莉「殺せるわけないじゃない!!」
絵里「!!」
鞠莉「あなたは私とかそれ以前にあなたは私の作ったアンドロイドなのよ…?そんな私のアンドロイドを私が殺せるわけないじゃない……」
鞠莉「だから殺しは対アンドロイド特殊部隊の人に任せてたのよ……」
絵里「鞠莉……」
909 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:57:12.67 ID:raJY7OxV0
鞠莉「やっぱりあなたは私よ、誰かの為って時にしか人を殺せなくて、だけどいざ殺せる状況になっても相手を殺せないの、殺すことが出来ないの」
鞠莉「絵里、あなたはここに来るまで人を一回でも殺した?凛は私が殺したのよ、それ以外であなたは人を殺せたの?」
絵里「……殺せてない、殺せなかった」
鞠莉「…知ってるわ、だってあなたは私なんだもん」
絵里「………」
絵里(私はゆっくりと立ち上がった)
絵里(鞠莉のハンドガンは最初から弾が入ってなかった。そして鞠莉も私と同じで理由も無しに人を殺せない人だった)
絵里「…あなたは一体何者なの?仲間なの?敵なの?」
鞠莉「……仲間よ」
鞠莉「私も希も気持ちは同じだった、アンドロイドと仲良くしたい。アンドロイドを人間として扱ってほしい。私たちはアンドロイドの味方なのよ」
910 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:57:48.03 ID:raJY7OxV0
絵里「なら————」
鞠莉「待って、一つ昔話をさせてくれない?」
絵里「昔話…?」
鞠莉「ええ、一番初めに作られた識別コード1のアンドロイドのお話よ」
絵里「…いいわよ、聞いてあげる」
鞠莉「ありがとう」
鞠莉「そうね…どこから話しましょうか」
鞠莉「じゃあアンドロイドを作った理由から話しましょう」
絵里「アンドロイドを作った理由…」
鞠莉「ええ、実は梨子にはちょこっとだけ話したことがあるの、その時にはアンドロイドを作った理由は言わなかったんだけどね」
鞠莉「アンドロイドを作った理由、それは————」
鞠莉「————海未の為だった」
911 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 20:59:51.94 ID:raJY7OxV0
絵里「…海未?あの青い髪の…」
鞠莉「ええ、海未は産まれてすぐに事故で家族全員を失った孤児だったのよ。きっと親の顔も覚えてないでしょうね」
鞠莉「元々私と海未が出逢ったのは海未が十歳の時———いえば私がアンドロイドを作った年だった)
鞠莉「海未はとっても臆病で人見知りが激しくて知らない人じゃ会話もまともに出来ないくらいに弱い子だった、元々孤児ということもあって小原家が海未を引き取ったのだけど、それでも会話が出来たのは私だけだった」
鞠莉「なんでかって?それは私の親はとても厳しい人だったからよ」
鞠莉「臆病な海未が厳しい私の親とまともに会話が出来るはずがなかったのよ」
絵里「………」
鞠莉「だから私は海未を強くしてあげたかった、私以外とも喋れるようになってほしかった」
鞠莉「だから私はアンドロイドを作ったのよ」
鞠莉「人間と瓜二つ、ちゃんと意識があって自我がある。一番最初に作ったアンドロイドの名前はしずくという名前だったわ、海未のように礼儀正しく優しい子だった。けどね、アンドロイドは何もないと破壊を生み出すことに気付いたの」
絵里「破壊?」
鞠莉「ええ、当時のアンドロイドっていうのは標準型だとか戦闘型だとかそういうタイプにわけられてたわけじゃなくて普通に人間として造っただけのアンドロイドだった」
鞠莉「結果しずくは一日で海未と友達になったの、ここまでならよかったねって言えるでしょ?」
912 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:01:42.72 ID:raJY7OxV0
絵里「…何かあるの?」
鞠莉「…そうよ、タイプもわけられてなかった初期型のアンドロイドには課した目標があまりにも簡単すぎたのよ」
絵里「課した目標?」
鞠莉「戦闘型には戦うっていう目標がある、業務型には業務をこなすっていう目標がある、標準型には人間らしく生きるっていう目標がある」
鞠莉「この三つは死ぬまで達成できない目標なのよ、争いは無限に発生するし、業務だって減ることはない。人間らしく生きるなら死ぬまで人間らしく生きなきゃ達成できない。そういう永久的な目標があるの」
鞠莉「でも初期型にはそれがなかった、海未と友達になるっていう目標を課しただけで、それを一日で達成してしまったしずくは後に破壊的衝動を自発的に生み出した」
鞠莉「それから何度と試行錯誤してもその破壊的衝動を抑えることが出来なかった、何故か人を殺すし身の危険を感じると何らかの過激な対抗手段を持って反撃してくる」
鞠莉「いえばアンドロイドはイレギュラーな存在なの、私が作ったにも関わらずまだ謎の多いミステリーな存在なの」
絵里「………」
鞠莉「…そう、それでなんで私がアンドロイドの味方なのにアンドロイドを差別するような発言するのか、それはね—————」
913 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:08:06.05 ID:raJY7OxV0
ルビィ「絵里さん!!!」
絵里「!」
鞠莉「!」
絵里(鞠莉の話を聞いていたら突然階段へ続く扉があいてルビィが大きな声で私を呼んだ)
絵里(その声に私も鞠莉も反応して首をかしげた?)
ルビィ「あ、う…えっと……邪魔しちゃった…かな…?」
絵里「いえ、いいわ。それより来てくれたの?」
ルビィ「もちろんだよ!絵里さんを助ける為だもん!」
絵里「…そう、だけどその必要はないらしいわ」
ルビィ「えっ……」チラッ
絵里「…今の鞠莉は大丈夫よ」
ルビィ「そ、そうなの?」
絵里「ええ」
絵里(警戒するルビィをなだめる私だけど、こんなにも鞠莉を受け入れるのが早いんだなって我ながら不思議に思ってしまった)
絵里(こんな平和的な私がいるんじゃ、今まで戦ってきた私がバカみたいじゃない……)
914 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:12:15.00 ID:raJY7OxV0
ルビィ「あ、だ、だったらえっと、聞いてほしいことがあるの!」
絵里「ん?どうしたの?」
ルビィ「かよさんが!かよさんが狙撃されちゃうよ!!」
鞠莉「花陽が?どうして?」
ルビィ「えっと…かよさんのライブ、今日やっててここの階段からライブ会場が見えてたんだけどその数百m離れたビルの屋上にスナイパーのスコープに反射してる光っぽいものがあったの!」
鞠莉「Really?勘違いじゃない?」
絵里「……いや、ルビィはスナイパーで戦線を潜り抜けた猛者よ、スナイパーのことなら私や鞠莉より詳しいはずよ」
鞠莉「…ならいいわ、今花陽の防衛任務についてる果林と梨子に連絡するまでだわ」
鞠莉「果林、梨子、応答して」
ザー…ザー…ザー……
ルビィ「……応答しないね」
絵里「………」
鞠莉「果林、梨子、緊急事態よ、今がどんな状況でもいいから応答しなさい」
ザー…ザー…ザー…
鞠莉「…ウソでしょ」
ルビィ「やっぱり向こうで何かあったんじゃ……」
915 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:13:43.69 ID:raJY7OxV0
絵里「…!スナイパーに狙撃されるかもしれないんでしょ!?なら今すぐにでも向かわないと助けられないじゃない!」
鞠莉「!!!」
ルビィ「う、うん…」
鞠莉「なら今すぐにGoingでしょ!?そうよね絵里!?」
絵里「え?ええ!」
鞠莉「花陽は守らないといけないわ、あの子を死なせることは————」
絵里「…?」
絵里(鞠莉って花陽の事知ってたのね、どうでもいいかもだけどそう思った)
花陽『はい、私、鞠莉さんに気に入られてるみたいで、鞠莉さん直属の対アンドロイド特殊部隊っていうのは対アンドロイドの前に特殊部隊であるので、SPみたいなボディーガードをすることもあるんですよ』
絵里「……!」
絵里(…いや、既に布石はあった。だからつまりはそういうことなんでしょう)
絵里(私も花陽の事は助けたい、その気持ちは鞠莉と一緒。人が死ぬのを分かっててそれを見捨てるなんてことは)
えりまり「絶対にしたくない!!」
916 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:15:13.48 ID:raJY7OxV0
鞠莉「行きましょう!!」
絵里「ええ!ルビィも行くわよ!」ダッ
ルビィ「う、うん!」ダッ
鞠莉「どこ行ってるのよ!」
絵里「え?だってエレベーターで下に降りるんでしょ?」
鞠莉「何言ってるのよ!それじゃあ時間がかかるじゃない!」
絵里「…まさか」
絵里(喋りながら何かを手に持って私を招く鞠莉を見て私は何かを察した)
鞠莉「そうよ!このパラシュート一つでここから飛び降りましょう!」
ルビィ「え、ええ!?」
鞠莉「時間がないの!」
絵里「……んあぁもうどうなっても知らないわよ!?」
鞠莉「come on!」
絵里「ルビィ、怖いかもだけど耐えなさいよ」ダッ
ルビィ「えっ……」
917 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:17:19.04 ID:raJY7OxV0
ダッ
絵里(急いでパラシュートバッグを背負い、ルビィを抱っこして、そして強く鞠莉の手を握って私は走り出した)
絵里「鞠莉!あの硝子撃って!」
鞠莉「了解よ!」バンッ!
パリーン!
絵里「行くわよー!!!」ピョーン
ルビィ「ぴぎぃいいいいいいいいいいいいい!?」
鞠莉「シャイニー!!」
絵里(摩天楼に響くルビィの悲鳴と鞠莉の楽しそうな一声。銃弾で散る硝子と共にこの重力場へ飛び出した)
絵里(ルビィは抱っこしてるからいいけど、鞠莉とは手を繋いだ状態ってだけで、パラシュート無しのスカイダイビングをしてるようなもの、だからこの手は離してはならない)
918 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:18:10.55 ID:raJY7OxV0
鞠莉「…私が離さないわ」
絵里「!!」
絵里(以心伝心とはまさにこの事なのかしら、それとも鞠莉と繋いだ手が力んでしまって悟られたのかしら)
絵里(風の音で声も一瞬でかき消されてしまう中で鞠莉の声は風に邪魔されることなく透き通って聞こえた)
絵里「着地するわよ!鞠莉はルビィに掴まって!」
鞠莉「ええ!」ギュッ
ルビィ「ぴぎっ…」
絵里「よっと」
絵里(そうして風に揺られながら着地。パラシュートを開いた為にもうこのバッグやパラシュートは邪魔でしかないので急いで外してすぐに花陽のライブ会場に向かう体勢を整えた)
絵里「る、ルビィ大丈夫?」
ルビィ「あ、足が震えて動かない……」
絵里「じゃあ私がおんぶするわ…」
ルビィ「ご、ごめんなさい……」
919 :
◆iEoVz.17Z2
[saga]:2019/10/14(月) 21:19:46.32 ID:raJY7OxV0
絵里「よしっ行くわよま————」
鞠莉「これに乗りなさい!二人とも!」
絵里「——って、え?」
ルビィ「なにあれ……」
鞠莉「車に決まってるじゃない、これで向かう他ないでしょ?」
絵里「車って鞠莉、運転免許証持ってるの?」
鞠莉「当たり前じゃない!ゴールド免許よ!」
絵里「…なら大丈夫か」
絵里(車なんて聞いて悪寒しかしなかったのだけど、ゴールド免許って胸張って言ってるから安心した)
絵里「ひゃああああああああああ!?」
ルビィ「ぴぎいいいいいいいいいいいいい!!」
鞠莉「かっ飛ばすわよおおお!!!」
絵里(……そう錯覚してたみたいだったわ)
絵里(さっきまでのシリアスはどこにいったのか、天井のない超高級車に乗った矢先、ゴールド免許なのかと疑う荒すぎるドライビングに私もルビィも絶叫だった)
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