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【荒野のコトブキ飛行隊】荒野の燕
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102 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:44:13.70 ID:2cqef2pX0
「・・・何故・・・コトブキを逃げたんです?なぜ誰にも言わずに消えたんですの?」
キリエの両手が震え出したのが傍目にも良く分かる。
また沈黙の時間に陥りキリエの鼻を啜る音だけが響く。
しばし思案し無理に答える必要はないと声を掛けようとしたところで口を開いた。
「・・・チカが死んじゃって・・・私のせいで死んじゃって・・・もうコトブキにいちゃいけないって思った・・・誰かと飛ぶ資格なんて私にはもうないって・・・だけど・・・コトブキを離れたくないってのも本音だった・・・大切な場所だったから・・・だから・・・」
唇を噛み締め涙をこぼすまいとぎゅっと目を閉じ嗚咽をあげるキリエを黙って見つめる
103 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:45:23.50 ID:2cqef2pX0
「・・・誰かに会ったら、離れたくないって思っちゃうんだもん・・・ここに居たいって思っちゃうんだもん!私のせいでチカが死んじゃったのに私だけ大好きな場所で大好きな人たちに囲まれて生きるのはダメだって思ったんだもん!」
無理やり吐き出すように喋るキリエの手を取り撫でる。
「さっきだって・・・逃げなかったら・・・また戻りたいって思っちゃうって・・・思って・・・」
手を撫でていた右手を彼女の頬に移し優しく触れる。
「あなたの本心は分かりましたわ。それではその上で聞かせてもらいます。あなたの今言った懸念事項。これらが解消されればあなたはコトブキ飛行隊に戻ってくる気はありますか?」
言っている意味が分からないという風にキョトンとこっちを見つめるキリエ。
背後からはスイングドアを押し新たな客が入ってくる音が聞こえる。
それに合わせ先ほどまでの表情とは一転してキリエの表情が驚愕へと変わる。
104 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:46:11.12 ID:2cqef2pX0
エンマの質問の意味が理解できないままじっと見つめているとその背後から新たな客がスイングドアを押し開け入ってきた。
私たちの姉かの様に時には厳しく、時には優しく導いてくれたザラだった。
だがその後ろに続いて入ってきた人物を見て頭が混乱する。
理解が追いつく前にその人物はこちらに駆けてくる。
手に持っている不気味な節足動物の様なぬいぐるみを思いっきり振りかぶりキリエの頭に振り下ろす。
「キリエ、バカ!バカ!大っ嫌い!帰ったら急にいなくなってて、どんだけ心配したと思ってんだよ!」
繰り返し何度もぬいぐるみを振り下ろし叩き続ける。
105 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:47:21.52 ID:2cqef2pX0
「私が墜とされたせいでキリエがいなくなったって知って!こっちがどれだけ悲しかったか!どれだけ寂しかったか!わかるか!?」
最後は感極まって泣きながら叫ぶ。
叩かれながらも意に介さず近づき飛び込むように抱きつく。
「チカが・・・!チカがいる・・・!チカ・・・チガぁぁ・・・」
そのまま床に押し倒し頬に顔を擦り付けながら「チカ」以外の言葉を忘れてしまったかのように泣きながら呼び続ける。
子供の喧嘩かと疑いたくなるばかりに良い大人二人が床でもつれ合いながら声をあげ泣いている。
そんな醜い光景をエンマとザラは優しい表情で見守る。
106 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:48:00.07 ID:2cqef2pX0
「キリエ、あなたは早々に逃げ出してしまったから知らないでしょうが・・・イケスカで判定してもらった結果あの焼死体はまったく無関係の別人だと確認されましたわ。」
「それから数日後ね。インノ近傍の病院にチカが入院してるって連絡が入ったの。」
「だって・・・だって・・・自警団の飛行・・・隊長も・・・今・・・コトブキ飛行隊には・・・4人しかいないって・・・」
鼻水としゃっくりで上手くしゃべれないがそれでも必死で喋る。
「4人っていうのはね、ケイトが半年前からアレンの研究を本格的に手伝うために一時離れているからよ。」
「まったく・・・何度も新聞の広告欄やラジオでチカは無事だ、帰ってこいってメッセージも流しましたのに・・・まったく音沙汰がないんですもの。」
107 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:48:40.49 ID:2cqef2pX0
チカが死んでしまったという確信を持ちたくなくてここ10か月メディアには一切触れないようにしていた。
それが全て裏目に出ていたのだと知って我ながら嫌になる。
だが今チカがここにいる。
ずっと会えないと思っていたチカが腕の中にいる。
それを考えればこれまでの10か月、多々あった嫌な事も全部どうでもよくなる。
もう一度ぎゅっと抱き締め大きく息を吸い込む。
チカの好きなシャンプーの匂い。
服から薫るお気に入りの柔軟剤の匂い。
数時間前までモヤが掛ったように思い出せなかったチカとの思い出が一気に思い出される。
「さて、先ほどの質問の答えですが・・・。懸念事項はなくなった様ですが・・・どうします?」
未だ泣きじゃくるチカの肩口に顔を埋めながら涙声で答える。
「・・・帰る。」
108 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:49:08.07 ID:2cqef2pX0
エピローグ 大空のテイクオフガールズ
見渡す限りの青空。
聞こえてくるのは機体が風を切る音と轟々と唸るエンジン音。
はるか眼下には一面褐色の大地が広がる。
――――――――――――
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――
109 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:53:19.20 ID:2cqef2pX0
あの後大変な事も多かったがそれは今でも良い思い出。
羽衣丸に戻った私を温かく迎えてくれた船員達。
だけどレオナには再会した瞬間力一杯顔面を殴られた。
それでもちゃんとその後「お帰り」って抱き締めてくれたのは本当にうれしかった。
その後、1時間近く鼻血が止まらなかったけど・・・
ケイトには「誠に遺憾である。」って一言だけ言われてしばらく口を聞いて貰えなかった。
何となくだけど心なしかムスッとしているように見えた。
感情表現が少ないだけで、感情がないわけじゃないんだよね・・・
黙っていなくなってごめんね・・・
ナツオ班長には・・・
言うまでもなくしこたま説教された。
怒られてる筈なのに懐かしさやらなんやらで少し嬉しかったのは私だけの秘密。
110 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 19:55:48.45 ID:2cqef2pX0
そして昨日。
本当に久しぶりの6人での仕事を前にして私はチカにお願いをした。
「チカ、明日の仕事の前にさ、髪切ってくんない?」
「はぁ?なんで私?やったことないけど多分そんな上手くできないぞ?」
「上手くなんて出来なくっていいよ。前と同じくらいの長さになれば。ケジメみたいなもんだしさ。チカに切ってほしい。っていうかチカじゃないとダメな気がする。」
「なんか良く分かんないけど、そこまで言うんなら・・・失敗しても知らないよ?」
「うん・・・お願い。」
全てが色褪せて感じてどうでも良くなっていたこの10か月。
今日私は今までの死んでいた私にさよならを告げる。
かつては二度と会えないと思っていた相棒。大切な人。彼女にやってほしいと思ったのだ。
ケープ替わりにシーツを巻かれ不器用ながらもそれでも慎重にチカが髪を切っていく。
ハサミの心地良い音。
慣れ親しんだ羽衣丸の揺れ。
外を流れる真っ青な空。
そしてほのかに薫るやわらかなチカの匂い。
そのすべてが幸福だと感じ私は目を閉じる。
なんて気持ちいいんだろう・・・
この幸せがずっと続きますように・・・
そう願いながら私の意識は夢の世界へと誘われていく。
――――――――――――
――――――――
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111 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 20:01:08.52 ID:2cqef2pX0
「そぉんなギャーギャー文句言うんだったら最初っから私に頼まなけりゃ良かったろ!」
「うっさい、バカチ!前と同じような長さにしてくれって言ったのになんでこんなふうになるんだよ!これじゃアレンじゃんか!」
「アレンと同じだと何が不満なのか、理解しかねる。」
「だから最初に言ったろ!?私だってそんな上手くないんだからどうなっても知らないぞって!」
「だーかーらって!限度ってもんがあるでしょうが!なんでボブカットにしようとしてこんな風になるんだよ!これじゃ当分飛行帽脱げないよぉ・・・」
「もう、二人ともおやめなさい!せっかく久しぶりに6人揃っての仕事なんですから!」
「ついこの前まで二人ともしおらしくなっていたのが懐かしいわぁ。」
「キリエ、チカ。これ以上騒ぐようなら今すぐ羽衣丸に帰ってもらう。」
「・・・ふぇーい・・・」
112 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 20:02:50.11 ID:2cqef2pX0
「・・・キリエばっか文句言ってるけど私だって言いたい事あるんだからね。」
「・・・なにを?」
「キリエが持って帰ってきた飛燕、あれすっごく邪魔!あいつのせいで今まで格納庫入ったらそのまま一直線に隼に乗り込めてたのが大回りするか屈まないといけなくなっちゃったし。隼あるんだから持って帰ってくる必要なかったじゃん。」
「そっちこそ!邪魔って言えば何で久々に帰ってきたら私のベッドにあの気持ち悪いぬいぐるみが何匹もいるんだよ!一匹でも気持ち悪いのに、あんなのが何匹も私のベッド占領してるなんて悪夢かと思った!」
「あぁ!!マロちゃんの事気持ち悪いって言ったなぁ!」
「気持ち悪い以外何があるんだよ!」
「二人とも・・・いい加減にしろ!」
「「・・・ふぁーい・・・」」
「レオナ、2時方向上。太陽の方。」
ザラの指した方向から10機近くの戦闘機が急降下してくるのが見える。
113 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 20:03:36.04 ID:2cqef2pX0
彼らの目指すは呑んだくれのカニの描かれた水色のユーハング製一〇〇式輸送機。
おそらく狙いは先ほど仕入れたユーハング酒だろう。
「みんな、準備は良いか?」
「はい!」
「当然。」
「もちろんですわ。」
「準備オッケー!」
「とっとと行こう!」
「よし、コトブキ飛行隊!一機入魂!」
終
114 :
◆vPkNjiWzfsSW
[sage]:2019/09/21(土) 20:04:30.64 ID:2cqef2pX0
以上で終わりになります。
お目汚し失礼しました。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/12/01(日) 05:25:20.88 ID:85XI8bnE0
乙!
面白かった!
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[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
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