【荒野のコトブキ飛行隊】荒野の燕

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1 : ◆vPkNjiWzfsSW :2019/09/20(金) 18:57:14.37 ID:hPu5BDeR0
シリアス系SS初めてです。

書き溜めありなのでちょいちょい投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1568973434
2 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 18:58:52.11 ID:hPu5BDeR0
1 一人ぼっちの用心棒

見渡す限りの青空。
聞こえてくるのは機体が風を切る音と轟々と唸るエンジン音。
はるか眼下には一面褐色の大地が広がる。
その中によく目を凝らすと水色の機体が飛んでいるのが確認できる。
3 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 18:59:21.54 ID:hPu5BDeR0
ユーハング製一〇〇式輸送機だ。
水色の胴体には良く分からない赤い変な生き物の絵が描かれている。
確か「海のウーミ」という児童向け文学に出てくる飲んだくれのカニだったか。
子供の頃読んだ本の挿絵を思い出そうとするが、はたしてあの胴体に描かれた絵がそうなのか確認できるほど鮮明には思い出せない。
件の一〇〇式輸送機の護衛任務に就く度に仕事が終わったら図書館か書店に行ってあの赤い変な生き物の正体を確認しようと思うのだが、なんやかんや仕事が終わると報酬の受け取りであったり機体の整備であったり諸々の雑多な作業で毎度忘れてしまう。
手っ取り早く機体の持ち主に聞けば済むことではあるのだが、調べもせずに答えを確認してしまうのはなんだか負けた気がしてしまうのだ。
4 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:00:04.13 ID:hPu5BDeR0
10か月ほど前に飛行隊を離れフリーのパイロットになってから今まで自分が置かれていた環境がいかに恵まれていたものだったのかを痛感するようになった。
給料は出撃任務がなくても商会から最低賃金の保証だけはされていたし、出撃があれば出来高に応じて上乗せもされていた。
任務が終わった後も機体の整備は整備班が完璧にこなしてくれていたのでパイロットは[ピザ]リーフィングを終えたら何事もなければ船内のバーに気心の知れた仲間と繰り出したり、休息をとったりと思い思いの時間の過ごし方ができた。
しかしフリーランスとなるとそうはいかない。
仕事一つ受けるにも自分の足で稼がなければならないし、最低限の機体の整備も自分でやらなくてはならない。
それ以上の整備となると自腹を切って街の整備士に依頼をすることにだってなる。
幸いにも件の一〇〇式輸送機の持ち主に気に入られたのかここ半年くらいはずっとあの機体の護衛任務に専従しているおかげで方々に仕事を探して駆け回らなくて済むのはフリーランスとしてはかなり運が良い方だろう。
フリーになって最初の1、2か月はパイロット以外の仕事をしてみたり悪い時にはそれすら見つからず飛行隊時代の貯えで過ごす事も多かったことを思えば今の環境でもだいぶ恵まれている方かと飛行隊時代を思い出して羨んでいたさっきまでの自分を追い払う。
5 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:00:54.10 ID:hPu5BDeR0
ふぅ・・・と一息吐きもう一度眼下の一〇〇式輸送機に目をやる。
何かがキラキラと光りながら輸送機に向かって落ちていくのが見えた。
目を細め注視する。
単座の戦闘機が三機ほど輸送機に向かって急降下するのが確認できる。
来たか・・・と思いスロットルレバーを押し込み、操縦桿を左に倒しながら次いで手前に引き上げる。
風切り音が激しくなり、エンジンはさらに唸りを上げ、そこに機体の軋む音も加わる。
6 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:01:25.22 ID:hPu5BDeR0
目標は一〇〇式輸送機に向けて急降下する敵戦闘機。
機体をロールさせながらこちらも全開で急降下を始める。
そして彼女はボソッと呟く。
たった一人で飛ぶことになってもやはりあの頃が自分の最盛期なのだ。
あの頃を忘れないように。
最高の自分で戦えるよう毎度戦闘が始まるたびに一人呟く。

「コトブキ飛行隊、一機入魂・・・」
7 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:22:29.21 ID:hPu5BDeR0
2 さすらいのお独り様

店内に流れる音楽。
賑わう客の喧騒。
それは笑い合う声であったり、涙する誰かを慰める声であったり、はたまた客同士が喧嘩する声であったり。
ユーハングの言葉で大酒呑みの意を冠する、バー「シュグゥ」はいつも通り盛況の様だ。
店の外まで聞こえてくる喧騒を聞きながら彼女はいつものようにスイングドアを押し開ける。
オリーブ色のツナギにカーキ色のマント。
鼻までフェイスマスクで隠しゴーグルを掛けた顔にはフードをすっぽりと被る。
そんなある種異様な出で立ちの彼女だが見慣れた光景なのか店内の客は誰も気にする様子もない。
8 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:25:36.57 ID:hPu5BDeR0
カウンターまでドカドカと歩き中にいる男性に声を掛ける。
「・・・マスター、お疲れ様。」
マスターと呼ばれた男性はこちらに気付くとニカッと笑いながら答える。
「おう、来たか。今日は助かったぜ。向こうの席空けてあるから待っててくれ。何か注文あるか?」
「ん・・・じゃあアホウドリの唐翌揚げとビールで。」
「おうよ。すぐ用意するからな。」
大きな体躯に浅黒い肌。短く刈り込んだブラウンの髪。
分厚い胸板に捲ったシャツから見える腕はそこらの女子の太ももくらいはあるのではないかと思うくらい逞しい。
護衛なんて必要ないだろうと冗談を言いたくなるような風体だが当人曰く喧嘩の方はからっきしらしい。
そんないつも通りの事を考えながら促された方向に歩を進める。
9 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:47:37.21 ID:hPu5BDeR0
店の一番奥に向かうとテーブルがいつも通り空いている。
この店に初めて来た時酔い潰れた席。
醜態を晒す羽目になったのは今でも恥ずべき思い出だが、あの一件のおかげで仕事を貰えるようになったことを思えば晒した甲斐もあったというものだろう。
「御予約」と書かれた札を隅にやりながら席に腰を下ろし一息つくとまずは店内を一通り見回し昔馴染みの知った顔がないか確認する。
知り合いが誰もいないのが確認できるとフェイスマスクとゴーグルを首元まで下げフードを下ろし長く伸びた髪を両手で掴み上げ後頭部で一まとめに束ねる。
ラハマから遠く離れたこの町で知った顔に会うことはかなり稀ではあろうが用心するに越したことはない。
理由はどうあれ今の自分は・・・
10 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:54:12.07 ID:hPu5BDeR0
「ほいよ。今日の報酬、確認してくれ。あと、とりあえずビールな。」
ドンッと乱暴に封筒とジョッキを置かれ思考を現実に引き戻される。
どうもこの店主は愛想はいいが給仕は恐ろしく苦手らしく今も零れたビールで封筒がぐっしょりと濡れている。
無言で封筒の中を確認した後、訝しげにマスターの方に目をやり口を開く。
「これ・・・多くない?」
「なぁに、お前のおかげで今日は貴重なユーハング酒も大量に仕入れられたし安いもんよ。」
「それにしたって、ちょっと・・・」
「あとな、お前さんの仕事っぷりが良いってんで他の町の連中が金積んで引き抜こうって話も出てるみたいだからな。うちの町としてもあんたみたいに優秀な用心棒にいなくなられたら困るんだ。だからこれはうちの店だけじゃなくて町としての報酬だと思ってもらえば良い。」
「・・・ん・・・ありがとう・・・」
11 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:55:19.69 ID:hPu5BDeR0
自分はそんな人から持て囃されるような人間じゃない。
自分はそんな価値のある人間じゃない。
それは自身が一番わかっている。
それだけにこの町の人の温かさが心にチクチクと突き刺さる。
お前だけ楽しく暮らすのか?
お前だけ幸せに生きていくのか?
誰にかにそう責められたわけではないのに、自分で自分を責めずにはいられない。
12 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 19:56:05.94 ID:hPu5BDeR0
「大金貰ってなぁに辛気臭い顔してるんだよ!そんなもん私の実力なら当然だぁ!!って自慢気な顔してりゃ良いんだよ!天下に名だたる名パイロット、元コトブキ飛行隊、一心不乱の・・・」
「ごめん、マスター。その名前はもう聞きたくない・・・」
「・・・あぁ、そうだったな。すまねぇ・・・。なんにせよ、うちの店でそんな辛気臭い顔はなしだ!酒が不味くなっちまう。ちょっと待ってろ。腕によりかけて特別美味い唐翌揚げ持ってきてやるからよ。」
こちらを指さしながらドカドカとカウンターに戻っていく店主を見送り、封筒を胸元に仕舞いながらビールを一口、二口と胃袋へ流し込む。
目に滲む涙は、きつい炭酸のせいだ。そうに違いない。
自分にそう言い聞かせながら残ったビールを一気に流し込む。
13 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 20:00:23.36 ID:hPu5BDeR0
3 『終わらない長い日』

見渡す限りの青空。
聞こえてくるのは機体が風を切る音と轟々と唸るエンジン音。
はるか眼下には一面褐色の大地が広がる。
そして目の前には僚機とそれを追う敵機。
14 : ◆vPkNjiWzfsSW [sage]:2019/09/20(金) 20:01:10.04 ID:hPu5BDeR0
五式戦闘機か。
手強い相手だが格闘戦の土俵に乗ってくれる甘い相手ならさほど苦労する相手でもない。
空賊が一体どこで手に入れたのか知らないが、機体の特性を熟知していない相手ならどうとでもやりようはある。
以前相手にしたシロクマ団もそうだったが元々手に入りやすい九六式艦上戦闘機や九七式戦闘機、良くて一式戦闘機や零式艦上戦闘機を駆る事が多かった彼らは、自由博愛連合の手引きで三式戦闘機や四式戦闘機、紫電改等を手に入れるようになっても今までのように低速域での格闘戦を挑んでくる傾向があった。
今日の相手も例によって低空、低速域での格闘戦に乗ってきてくれた。
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