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少女「お兄、すき」男「そうか」
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89 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:02:58.69 ID:UvSy/elD0
>>88
の最後の台詞は
男(だが抜かなければ確実に──やられていた)
です。??は私のミスです。
90 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:04:40.44 ID:UvSy/elD0
少女「」グググ
男「…どういうつもりだ…!」チキチキ
少女「お兄、ほしい」
男「なに…?」
男(く…凄まじい力だ)
パッ
...スタッ
少女「………」チラリ
男(一旦距離を取ったはいいが)
男「……少女」
少女「………」
男「刀を捨てるんだ、今すぐ」
少女「……」...テク..テク
男「返事はどうした?」
少女「」タタタッ
ブォン!
男「っ」サッ
男「少女!!」
少女「……」バッ
キン! キィン!
ズザァッ
男(聞く耳持たずか…!こうなったら無力化するしかない)
男(この競り合いの中で加減をするのは容易ではないが…)
男(出来る出来ないではない、やるんだ)
91 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:05:36.69 ID:UvSy/elD0
男「俺が欲しいのか、少女?」サッ
少女「……!」ササッ
男「フッ…なら俺から刀を奪ってみろ。お前の攻撃を防ぐすべがなくなる。そしたら降参だ」キン!
少女「お兄…もらう…!」ブン!
ザシュッ
少女「ん…」ググ...
スポッ
男「面白いな。地面を切る練習か?」
少女「……むー……」
ダッ!
ガキン キィン!
シュタッ...
男(霞むような動きに途轍もなく重い攻撃)
男(人間離れした異常な身体能力だ。正直付いていくので精一杯だが……)
男(それだけだ)
男「」シュバッ!
少女「!」サッ
...ヒュッ
少女「やっ…!」ピシッ
男「ただの礫だ」
男「良かったな、今のがナイフだったら勝負はついていた」
男(この子には圧倒的に経験が足りない)
男(動きは単調。効率の良い力の入れ方を知らない。この程度のフェイントも看破出来ない)
男(そして何より、得物を使いこなせていない)
男(……そうだな)
男「少女。刀というのはな、ただ振り回すだけでは意味がない。良い機会だ。俺が扱い方を稽古してやろう」
少女「……」
92 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:06:26.55 ID:UvSy/elD0
男(人が武器を手に取るその意味は様々だ。殺傷力の高さ、遠方への攻撃手段、演舞のための飾り)
男(…大切なものを守るため)
男(せっかく使うのだとしたらこの子にはそう、"守る"ために行使して欲しい)
男(かつて破壊することにしか使えなかった愚かな自分のようではなく)
男「」ズザッ!
少女「」ダッ
タッタッタッ
ヒュオッ..!
男「……」スッ
ギャリィ!
少女「っ!?」パッ
ススッ...
男「……後4、5回といったところか?同じことをやられれば、その刀は折れる」
男「相手を直接斬りつけるのではない。当てやすい武器の方を壊すんだ。そうすれば大抵敵の戦意は削がれる」
男「…有効な無力化手段の一つだ」
少女「……」ジッ
男(まだまだ強い意志を宿した目をしている)
男「……そんなに俺を倒したいのか?」
少女「…お兄、わたしの」
男「俺はお前のものになった覚えはないぞ」
男「…こんなにお前がわがままだったとはな。少女、これが終わったら説教だからな?」
少女「………」
男「………」
ダダッ!
.........
93 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:07:34.91 ID:UvSy/elD0
キン! キィン!
ガキィッ!
少女「っ!」ブンッ
男「おっと」サッ
ズサー...
少女「はぁ……はぁ……」
男「……」
男(息が上がるのが早いな。体力は相応のままか)
男「疲れたか?」
少女「はぁ……やー……」フルフル
男「強がりが見え見えだぞ」
男「……もう満足したろう?俺はお前の前から居なくなったりしない。だからこんなことはやめろ」
少女「……やっ!」ブンブン
男「この……分からず屋が!」ズパン!
ビュオッ
──パキィン!
少女「ぁ……」
...カランカラン
男「……」スタ
男「…おしまいだ、少女」
男「それとも、素手で続けるか?」
少女「……」
94 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:09:45.65 ID:UvSy/elD0
男(この子が一体何者か、なぜ俺を襲ってきたのか、何一つとして分からない……だが、確実に分かることがある)
男(それはこの子の目)
ーーーーー
少女「──っ」シュンッ
ーーーーー
男(…打ち合いの間中ずっと、必死な目をしていた)
男(一心不乱に何かを追い求める目)
男(それは恐らく、俺──ではなく、この子が潜在的に飢えているだろう、"愛")
男(俺にはそう思えてならない)
男「……少女」
少女「………」
男「俺はお前を見捨てない。絶対に」
男(例え、世界がこの子を拒絶しようと)
男「こっちに来い。俺と一緒に行こう」
男「大丈夫。お前はちゃんと、俺達と同じ普通の人間なんだ」
男「──俺が愛してやる」
少女「…!」
男「…聞き分けのいい子は、好きだぞ」スッ(手を差し出す)
少女「……お兄……」
男「情けない声だな」フッ
少女「お…兄ぃ……!」
男「なんだ?泣きそうになってるのか。初めてだな、少女が泣いているところを──」
少女「」フラッ
──ドサッ
男「──見るの…は……?」
(地面に伏す少女)
95 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:11:14.23 ID:UvSy/elD0
男「……少女?」
男「おい……おいっ!」タッタッ
ボトン(刀を投げ捨て駆け寄る)
男「少女!」スッ
少女「……ゃ……」
男(息が弱い)
男(身体に危害を加えないよう立ち回ったつもりだったが…くそ、しくじったか…!?)
少女「……お、にぃ……」
男「無理して喋るな。苦しくなるぞ」
男(おまけに脈も不規則…)
男(ダメなんだ…この子の、まだ何も知らないこの小さな命を終わらせるなど、許してはダメだ!)
男(病院に連れて行こうか……いや、この町の連中は信頼出来ない)
男(なら他の町へ…今からでは時間がかかり過ぎる……)
少女「……す…き……」
男「!」
少女「おにぃ……すき……」
男「あぁ…!俺も好きだ。共に生きて行きたいと思う程な」
男「だから……死ぬな、少女…!」
男(──!そうだ、一人いる)
男(死人は生き返らせることは出来ないが、まだ息のあるこの子なら……!)
男「少し動かすからな」
男(頼む、店に戻っていてくれ)
少女「……お兄」
男「安心しろ。お前を助けてくれる人のところへ向かうだけ──」
少女「──ありがとう」ニコ...
カクン
男「少女…?」
少女「」
男「おい…返事をしろ……少女……!」
96 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:12:25.15 ID:UvSy/elD0
男(!取り乱すな、そんな無駄なことをしていてもこの子は救えない)
男(今はとにかく、動くのみだ…!)
──スチャン
男「っ!」フリムキ
薬屋「これはまた、随分重い物を持ち歩いてたんだね」シゲシゲ
男「薬屋…!」
男(俺の刀を拾って何を……いや)
男「本当に良いところに来てくれた。薬屋、この子の息が止まった。だがそれはたった今だ。目立つ外傷もない。あるとすれば内的要因だろう」
男「頼む、少女を助けてやってくれ…!」
薬屋「……」
男「……お願いだ……僅かでもいい、可能性があるなら……」
薬屋「……あーぁ。酷いねぇ」
薬屋「人の妹を殺すなんて」
男「……?」
薬屋「まぁでも、おかげで完成したよ。納期にはギリギリ間に合いそうだ。感謝するよ、男」
男「何の話だ…?」
薬屋「男の方も、これでようやく依頼が終わったじゃないか。祝杯に付き合ってやろうか?」
男「おい、だから──」
薬屋「まさか、気付いてないわけではないよな?」
薬屋「最後の殺害対象。そこに混じった一体の人間」
薬屋「それがさ──その子のことだってこと」
男「………は?」
男「…薬屋、お前…何を知っている?」
薬屋「そう怖い目を向けるなよ。私はただ、研究をしていただけなんだから」
男「研究?」
薬屋「そうさ」
97 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:13:40.88 ID:UvSy/elD0
薬屋「……男、この国は平和だよな?」
男「…?そのようだな…」
薬屋「国民なら誰もが口を揃えて言う評判だよ。間違っちゃいない」
薬屋「──表向きはね」
薬屋「なぁ、他者よりも優位に立とうとするのが人の性(さが)なのに、どうしてそれをしようとしない国があるのだろうな?」
男「……」
薬屋「…そんなわけがなかったんだよ。結局はこの国も同じだ。出来ることなら他所を蹴落としたい。自らが頂点に立ちたい」
薬屋「この国はね、戦争を始めるつもりなんだ」
男「…ここにまともな兵が居るようには見えないがな」
薬屋「その通り。そこで……」
薬屋「…私に白羽の矢が立ったのだよ」
薬屋「男に助けられ、この国で保護されてからすぐだった。ある時本国のお偉方が私を訪ねてこう言った」
薬屋「人間の肉体を極限まで強化する薬を作ってくれとな」
薬屋「お願いという体で来ていたが、あれは脅しだよ。断れば私の居場所は保証しない、というね」
男「……肉体の強化……」
薬屋「そう。お前も散々見てきただろ?異常に筋肉が発達したもの、理性を失い暴れ狂うもの……臨床実験の被験体どもを」
男「…なぜそんな奴らに手を貸す前に俺に言わなかったんだ。知っていれば、またお前を連れて…」
薬屋「お前には既に別の居場所があった!」
薬屋「お前の隣に立つ、女という名の居場所。そこに私の入る隙間など1ミリたりともない」
男「……」
薬屋「……だから私は、お前を買うことにしたんだ」
98 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:14:32.86 ID:UvSy/elD0
薬屋「幸い、薬の創造に成功すれば莫大な報酬は約束してくれたからな。傭兵を続けるお前を金で雇い、一生尽くしてもらおうとでも考えていたさ」
薬屋「…だけど5年前、状況は一変した」
薬屋「男、お前の家族が殺されたんだ」
男「………」
薬屋「生きる気力すら失くした痛々しい姿の男を見るのは私もキツかったが……同時にチャンスだとも思った」
薬屋「今度こそお前を手に入れようと」
薬屋「……けどやはり、お前の眼中に私はいなくて……いつの間にかふらっとどこかへ消えていた」
薬屋「だからこの前、男が戻ってきてくれた時は本当に嬉しかったよ。久々に顔を合わせたところでお前に対する気持ちは何も変わっていなかった」
薬屋「お前が好きだよ、男」
男「……薬屋……」
薬屋「まぁ、この再会は必然だったわけだけどね」
薬屋「長い年月をかけて研究してきた肉体強化薬。その投薬実験の最終段階では、実戦データを取る必要があった」
薬屋「何せお偉いさん方は戦争に使う気満々なものだからさ」
薬屋「だから適当な動物に投与をし、戦ってもらうことで、そのデータを採取したんだよ」
薬屋「相手には、確実に被験体を葬る実力を持つ人間……男、お前が選ばれた」
男「民間人に被害が出ているんだぞ。あまつさえ国際法規に反する実験だ」
薬屋「戦争を起こそうとしてる国が今更そんなことを気にするはずがなかろう」
薬屋「……この薬の最初の被験体はね、人だったんだよ」
男「……お前……」
99 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:15:48.48 ID:UvSy/elD0
薬屋「無論私自ら率先したのではない。……妹の存在を知った役人が、けしかけてきたんだ」
薬屋「男には言っていなかったね。私の妹は、不治の病に冒されていてさ……その余命はひと月前」
薬屋「どうせ死ぬ人間なら有効活用した方がいいだろう、だと。正直はらわたが煮えくりかえるかと思ったが、それで薬の完成に近づけるなら──男を手に入れる道が近づくなら……そう考えたら、つい訊いていたよ」
薬屋「新しい治療薬の効果を見たいから協力してくれ、とね。妹は快く引き受けてくれた。お姉ちゃんの言うことなら間違いはないからと」
男「………」
薬屋「…結果は惨憺たるものだった。理性も記憶も失い、ただ暴れるだけの獣と化した。丁度手頃な犬と狼にも投与し、同士討ちをさせて沈静化をするはめになるほどだ」
薬屋「その後の処理は国に任せたが……ふっ、お前が連れ帰って来た時は心底驚いたよ」
薬屋「まさか右も左も分からないような頭になって戻ってくるとは!男と共に親子ごっこを始めている自分の妹を見るのは……実に可笑しな気分だったね」ククッ
男「………お前、自分が何を言ってるか分かっているのか?」
薬屋「理解しているよ。心配してくれたのか?平気だ、私は今世界で一番冷静な人間であると自負しているくらいだ」
薬屋「それに私を責めるのはお門違いだ。私のおかげでその子は予定よりも長く生きられた。感謝されこそすれ、非難される謂れはない」
薬屋「……もっとも、さっきの投薬が無ければまだ生きていられただろうけど」
男「少女をここまで連れ出したのはお前か」
薬屋「そうだよ。最後の最後、実験に付き合ってもらったんだ。よほど男のことが好きだったんだろうね、男がか弱いあんたを置いていこうとしていると唆したら真っ青になっていたよ」
薬屋「…もうすぐ命が無くなると教えた時よりも」
男「……」
ーーーーー
少女「──お兄、ほしい」
ーーーーー
男(あれは、そういうことだったのか)
男(じき、自らが消えると分かっていて最後に求めた…愛を向けてくれる存在)
100 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:17:02.60 ID:UvSy/elD0
薬屋「しかしなんとまぁ…図々しいよ。その子は男を欲しがったんだろう?男とこの町を出て行こうとするだけじゃ飽き足らず、心の中では独占すらしたいと思っていたわけだ」
薬屋「……そんなものは認めない。男は私のものだ」
男「……狂ったか、薬屋」
薬屋「かつてなく冷静だと、言ったばかりだが?」
男「正気で喋っているのだとしたら、俺は今のお前こそ人の皮を被った化け物としか思えない」
男「幾つもの命を弄んできた?自分の身内さえも手にかけた時の気分は…そんなに愉快なものだったかっ!」
薬屋「………」
薬屋「あっははは!私が化け物か!」
薬屋「数多の化け物を生み出してきた私自身が本当の化け物だって?そいつはなんとも面白い皮肉じゃないか!」
男「……」
薬屋「……全部お前が悪いんだよ、男」
男「なにを……」
薬屋「お前が私を見てくれないから……いつも私を置いてどこかへ行こうとするから…!」
薬屋「私はお前が欲しかった!たったそれだけ!それだけなのにさぁ!!」
薬屋「何がいけなかったんだい!?過ごした時間の長さが足りない!?性的魅力がないからか?もっと胸の大きい方が好みなのか!?」
薬屋「それとも……私がどこまでも厄介な存在だから…?国に狙われるような、面倒な人間だから……」
薬屋「好きでこうなったのではないのに……私だって何事もなく生まれ、何事もなく好きな相手と過ごしていきたかったさ」
薬屋「そうなればもしかしたら、男の隣に居たのは女ではなく──私だったかもしれない……」
男「…俺はお前を見ていなかったわけじゃない」
薬屋「よく言うよ。相手に伝わらない時点でそれは見ていないのと同じだ」
男「お前も人のことは言えない。それほどの想いをなぜ俺に直接ぶつけなかった。思ってるだけで伝わるはずがないだろう」
薬屋「……言ったさ、最初にな……」
男「…………!」
ーーーーー
薬屋「──これでお別れではないよな?私と…ずっと一緒にいてくれるよな?」
ーーーーー
101 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:18:57.72 ID:UvSy/elD0
薬屋「……もう後の祭り。今更何を言ったところで過去は過去だ」
薬屋「男。私はな、お前を手に入れるためなら、何だってする。それ以外は些末なこと……利用出来るものは自分の妹であっても、使い捨てる」
薬屋「私をこんな風にしたのはお前だ。だから責任は取ってもらうよ」
薬屋「──男、私のものになれ」
男「……」
薬屋「これから先、永遠に私と共に居ろ。二度と私から離れることなど許さない」
男「……俺が頷くとでも?」
薬屋「…そうしてくれたら、楽だったんだがな」
シュンッ
男(!)
薬屋「」...スッ
男(目の前…!)
ドゴォッ!
男「ぐっ……!」ズサ...
薬屋「今のに反応するか……一撃で終わらせるつもりだったんだが」
男(瞬間移動…ではない。そう見紛う程の速度。咄嗟に腕で庇ったものの…)
薬屋「さすがだよ男。そうやすやすとはいかないか。……だからこそ、余計に欲しくなる」
男「……」
薬屋「どうだい?完成した肉体強化薬の効能は?一個人の力で言えば、今の私は誰よりも強い人類と言えるのではないかな」
薬屋「別に殺そうというんじゃない。多少痛め付けたら、大人しくしてくれるだろう?」
薬屋「…あぁ、いいね、男を力ずくで支配するっていうのもさ…!この上なく興奮してくるよ…!」
男「……お前はもう、俺の知る薬屋ではない」
薬屋「何を言う。私は最初から私だ。それ以上でもそれ以下でもない」
薬屋「……正直これでも刀を握ったお前を上回れるかは賭けだったが……今は丸腰だからね」
薬屋「油断はしちゃいけないよ、男。その左腕、もう使えないんだろ?」
男「………」
男(こいつの言う通り、粉砕骨折でもしたか、腕の感覚が無い)
男(……薬屋……)
102 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:20:25.70 ID:UvSy/elD0
薬屋「悪いが、私も悠長にしていられないんだ。さっさと国から金を貰って、お前と遠くへ行かなければならないからな」
薬屋「何者にも邪魔されず、二人で、ずっと一緒に居られる所へ……」ウットリ
男「…俺はな、薬屋。少女と二人じゃなく、お前含めた三人でここを発とうかと考えていた」
薬屋「……あの子と……?」
薬屋「ダメに決まっているだろ!!私と男以外の存在は遍く異物でしかない!ましてあんな頭のいかれた生き物なぞ連れて行ってなるものか!」
男「……お前の妹なのだろうが……」
薬屋「…くふっ、そうだ、面白いことを教えてやろう」
薬屋「なぜあの子が男のことを兄と呼んでいたのか」
男「!」
薬屋「簡単さ。まだあの子が私の元に居た頃…」
ーー数ヶ月前ーー
薬屋「〜〜♪」
少女「…お姉、機嫌良いね?」
薬屋「うむ!今日は男の所在が確認出来たからな!あやつもこうして同じ空を見上げてるのだと考えていると……ふふふっ」
少女「本当に、あの傭兵さんのこと好きなんだね」フフッ
薬屋「あぁ。遠くないうちに伴侶にしてもらうつもりだ」
少女「気が早いなぁ」クスッ
薬屋「何とでも言え。やっと……やっと私の想いが叶うんだ…」
薬屋「……そうだな、そしたらお前には義兄(あに)が出来ることになるな」
少女「お義兄さん…」
薬屋「あぁ。無口な奴だが、話してみると意外と面白いぞ」
少女「へぇ…」
少女「じゃあその為にも、早くこの病気治しちゃわないとね」
薬屋「……そうだな」
少女「なんかお姉の嬉しそうな顔見てたら私も元気出てきたよ。今なら病気やっつけられちゃうかも!」
少女「ありがとう、お姉」
薬屋「……治してから言え」ワシャワシャ
少女「きゃー髪がー♪」
ーーーーー
103 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:22:16.19 ID:UvSy/elD0
薬屋「事あるごとに私が"義兄(あに)が出来る"と口にしていたからな」
薬屋「…全てを忘れていてもそれだけは頭に残っていたんだな。お前をお兄お兄と慕うその姿は……笑いをこらえるのに苦労したよ」ハハハッ
薬屋「考えてもみてくれ。男はあの子のことを娘として見ていたのに、あれはお前のことを異性として好きになりかけていたんだぞ?あんな歪で滑稽な関係、可笑しくてたまらないだろ!くはは!」
男「……」
男(……)
ーーーーー
少女「──おにぃ、すき」
ーーーーー
男(………)
薬屋「…あー、笑った」ククッ
薬屋「さて……一応訊いておこう」
薬屋「大人しく私に付いてくる気はあるか?」
男「………」
薬屋「…沈黙は肯定と受け取るが?」
男「……………」
薬屋「……まぁいいよ。元より一度眠ってもらうつもりだ」
薬屋「少し身体の自由はなくなるが…それも初めだけだ。すぐに慣れる」
男「………」
薬屋「………」
男(………)
ーーーーー
少女「──にししっ」
少女「──〜〜!」キラキラ
少女「──お兄っ!」
ーーーーー
男(……少女……)
ーーーーー
少女「──ありがとう」ニコ...
ーーーーー
男(………俺は………)
104 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:23:31.82 ID:UvSy/elD0
薬屋「」シュンッ
スサササッ!
薬屋「」フッ...
男「」スッ...
──グサッ
男「……」
薬屋「………あ………え………?」ヨロ..ヨロ..
薬屋(……お腹を……刺された…?)
男「……その短剣は、元々少女の護身用にしようと思っていたものだ」
男(女盗賊の寄越したものだがな)
男「これが、最善の使い道だろう…」
フラ...
ドサッ
薬屋「ぅ……がはっ…」ゴポッ
男「…油断していたのはお前の方だ。敵が手の内を全て明かす前に勝利した気でいるのは、愚者のすること」
薬屋「ケホッ……なんだ、結局私はお前に勝てないのか……」
男「……」
105 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:24:50.22 ID:UvSy/elD0
薬屋「……どうしてだろうな……」
薬屋「私は全てを投げ打って……お前を手に入れようとした」
薬屋「罪のない動物達。事情を知ってしまっただけの神父。……我が妹……」
薬屋「人として何が正常で何が異常なのか……そんなものとうに判断出来なくなっていたというのに……」
薬屋「それでも…お前をものにすることは叶わないんだな……ゲホッ……」
薬屋「…ははっ……世の中、思い通りにいかないことだらけだ……」
男「……お前は」
男「世界一、可哀想な人間だ」
薬屋「同情してくれるのか……?こんな私に…」
薬屋「……だったら……」
薬屋「私を哀れと思うなら……」
薬屋「──口付けをくれよ」
薬屋「……それくらい…望んでもいいだろう……?」
男「………」
薬屋「………」
男「………」
薬屋「………そう、かい」
薬屋「それが……答えか……」
薬屋(……あぁ……意識が遠のく……)
薬屋(死とは、案外静かなものなのだな……)
薬屋(いや……愛する者の手でもたらされた死だからか……)
薬屋(………)
薬屋(………ごめんな………)
──妹
男「………」
薬屋「」
男「………」
少女「」
男「………」
男(………)
.........
106 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:25:32.21 ID:UvSy/elD0
ーーー翌日 斡旋所ーーー
依頼人「はい、確かに」
依頼人「間違いなく先日お伝えした対象達ですね。それでは…こちらが報酬金となります」ズシッ
依頼人「いやー、これほどの量です。運んでくるのも苦労しましたよ」ワハハ
男「……」スッ
依頼人「それで、その大金を何に使うのですか、男さん?」
依頼人「いいですよねぇ。もし私がそれほどのお金を手に出来たら……はぁ、こんな割りに合わない仕事も、辞めてやるんですが……」
依頼人「!おっと…今のは聞かなかったことにして下さい。……ちょっとした愚痴です」
男「……あぁ」
依頼人「そういえば、今日は少女ちゃんは留守番なのですか?珍しいものです、いつも男さんにぴったりくっついていましたから」
男「……」
男「」スクッ
依頼人「男さん…?」
テクテクテク...
依頼人「……何か怒らせるようなこと言ってしまいましたかねぇ……」
107 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:26:51.80 ID:UvSy/elD0
ーーー町外れの森ーーー
ザッザッザッ
男「……」ザッザッ
男「………」
手製の墓『薬屋姉妹 此処に眠る』
男「……薬屋」
男(俺はどうすれば、お前を救えたんだろうな)
男(……せめてあの時……お前と少女が姿を消す前、俺がお前の気持ちに向き合っていたなら……)
男(……違う結末になっていたかもしれない)
男「……」
男「……少女……」
男(これで……良かったのか?)
男(俺は結局、少女に何をしてあげられたのか、よく分かっていない)
男(これからたくさん教えていくつもりだったから…)
男(……俺に出来るのは……最後の"ありがとう"を信じて、お前が幸せを感じてくれていたと思うことくらいだ)
男「……」サッ、サッ(土を被せる)
男(墓を同じにするのはどうかとも思ったが……)
男(……あの世で仲直りでもしてくれよ)
108 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:28:08.57 ID:UvSy/elD0
サッ、サッ...
男「……」
(土に隠れた墓)
男「……行くか」
ザッザッザッ
男「……」ザッザッ
──お兄
男「!!」バッ
(鬱蒼とした森)
男「………」
男(………)
男「……こちらこそ、ありがとう」
男「そして……」
男「──さよなら」
109 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:29:29.97 ID:UvSy/elD0
男(………)
男「……」
ヒュン
男「」パシッ
女盗賊「さーすが。ぼやっと突っ立ってるように見えて周囲への警戒は怠らないか」ザッザッ
男「……報酬金ならくれてやる。好きなだけ持っていけ」
女盗賊「んー…それもあるけど、さ」
男「なんだ?」
女盗賊「……ウチにも、墓参りくらいさせてよ」
男「………」
女盗賊「……」ザッザッザッ
女盗賊「………」
(手を合わせ黙祷する)
女盗賊「……わけは聞いたよ。薬屋ちゃんからね」
女盗賊「昨日、薬屋ちゃんのお店物色してたら見つかっちゃってさ……薬で眠らされてぐるぐる巻きにされちゃったんだけど……その時に話してくれたわ」
男「よく生きていたな」
女盗賊「盗賊稼業舐めないで欲しいね。縄抜けなんて基本中の基本よ」
女盗賊「……誰が悪かったんじゃない。むしろ誰も悪くなかったからこうなっちゃったんじゃないかな」
女盗賊「そりゃ、薬屋ちゃんの"コウイ"は行き過ぎてたけどさ……あの子はああすることでしか自分を表現出来なかったのよ」
女盗賊「きっと誰よりも、愛に飢えていたんじゃないかねぇ……」
ーーーーー
薬屋「──私だって何事もなく生まれ、何事もなく好きな相手と過ごしていきたかったさ」
ーーーーー
男(……)
110 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:30:57.78 ID:UvSy/elD0
女盗賊「だからウチは別にあんたを責める気も、説教垂れる気もない」
女盗賊「たださ……ほら」ヒョイッ
男「…?」パシッ
男「……葡萄酒?」
女盗賊「いつまでも暗い顔してんなよ?少女が見たら不安がっちゃうでしょうに」
ーーーーー
少女「──お兄、かなしい…?」
ーーーーー
男「……そうかもな」
女盗賊「…辛気臭いのは元からかね」
男「言いたい放題だな」
女盗賊「やっと言い返してくれた。そうこなくちゃ、あんたらしくない」ニシシ
男「……ブレない奴め」
男(皆が皆、こいつのように生きているわけではない)
男(何かを守る事に生き甲斐を感じる者)
男(何かに依存しなければ生きていけない者)
男(俺やこいつがそうだからと言って、一人で生きていける人間など稀だ)
男(……そういうことか、薬屋)
男(長いこと独りで生きることの歪さが、お前を変えてしまったんだな)
111 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/09/24(火) 04:32:28.80 ID:UvSy/elD0
女盗賊「……ところで」
男「ん?」
女盗賊「ウチら、狙われてるよ」
男「………」
女盗賊「当然っちゃ当然か。この国のやばいとこ知っちゃってるわけだから……裏で口封じでもしようっていう魂胆なんだろうね」
男「……俺はどこが戦争を起こそうが気にしないがな」
男「せいぜい死なないように逃げるとするか。お互い」
女盗賊「あぁ……」
女盗賊「…ってちがーう!」
女盗賊「元はと言えばあんたがウチをこんなことに巻き込んだんでしょ!?責任持ってウチと一緒に逃げなさいよ!」
男「…初めはお前から突っかかってきただろう…」
女盗賊「つべこべ言わない!」ガシッ
グイッ
男「何をする…」...タッタッ
女盗賊「どこに追手がいるか分かったもんじゃないからね!こんな町さっさとズラかっちまわないとさ!」タッタッ
女盗賊「それと…」
女盗賊「あんたのその辛気臭い顔、ウチが直したげる」ニコッ
男「──!」
男(……ふっ)
男「余計なお世話だ、馬鹿者」
女盗賊「あっ!?またバカって言った!?それ少女にも教えてたよね?ウチの数々の功績も知らないくせにさ──」
タッタッタッ...
ー終わりー
112 :
◆YBa9bwlj/c
[sage saga]:2019/09/24(火) 04:34:37.43 ID:UvSy/elD0
これにて完結となります。
オリジナルって難しいですね。
なんだか第二章に続く的な終わり方になってしまいました。
読んで下さった方、ありがとうございました。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/24(火) 05:30:23.10 ID:eQpi9i8Bo
おつおつ
続きを書いてもいいのよ?
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/24(火) 07:57:22.35 ID:fNq86j7LO
そういや男って妹の存在知らなかったのか
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/24(火) 07:59:00.22 ID:fNq86j7LO
連レスすまん
数年もたってれば容姿なんて変わってるしわからないか
おつおつ
116 :
◆YBa9bwlj/c
[sage saga]:2019/09/24(火) 08:17:50.13 ID:A8Zhnd/+O
>>115
病に伏す妹の存在は知っています。
>>7
で自ら言及してますよ。
ただ、姿はまともに見たことがなく、逆に妹の方は薬屋を助けた傭兵をチラッとだけ目にしたことがある…程度ですね。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/24(火) 10:42:23.29 ID:6O4PGPEKO
たしか全10章からならんだよね?
はよ続き
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/24(火) 11:01:58.05 ID:fNq86j7LO
>>116
連レスしてから気づいたすまん
次作か続き待ってるぞ
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/24(火) 11:11:00.78 ID:qk00l8Bb0
最初から最後まで男がバカだった話としか読めないけどこれなんなの?
120 :
◆YBa9bwlj/c
[sage saga]:2019/09/24(火) 12:18:02.35 ID:A8Zhnd/+O
>>117
>>118
ありがとうございます。
次回作はもう何を書くか決めているため、続編を書くとしたらまたどこかのタイミングになると思います。
>>119
その通りです。男だけではありません、薬屋も然り。人はどこかしらバカなところがあるんです。だから過ちを犯すし、成長の余地もあるのだと私は思ってます。
とまあつらつらそれっぽいことを書いてみましたが、それをあなたに伝え切れなかったのは私の描写力が足りないからですね。もっと上手くなりたいものです。
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/09/24(火) 12:25:00.57 ID:4mpqes9VO
ただの煽りカスに反応することないぞ
とりあえずおつ
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/24(火) 12:59:10.65 ID:6O4PGPEKO
続編書くとしたら別にスレ立てるの?それともこのスレを使うのかな?
123 :
◆YBa9bwlj/c
[sage saga]:2019/09/24(火) 21:11:06.49 ID:A8Zhnd/+O
>122
書くとしたら別スレッドを立てて、ですね。
というより、このままでは誰も幸せになってない終わり方ですので、いずれ続編は書こうと思います。
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