少女「お兄、すき」男「そうか」

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102 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:20:25.70 ID:UvSy/elD0

薬屋「悪いが、私も悠長にしていられないんだ。さっさと国から金を貰って、お前と遠くへ行かなければならないからな」

薬屋「何者にも邪魔されず、二人で、ずっと一緒に居られる所へ……」ウットリ

男「…俺はな、薬屋。少女と二人じゃなく、お前含めた三人でここを発とうかと考えていた」

薬屋「……あの子と……?」

薬屋「ダメに決まっているだろ!!私と男以外の存在は遍く異物でしかない!ましてあんな頭のいかれた生き物なぞ連れて行ってなるものか!」

男「……お前の妹なのだろうが……」

薬屋「…くふっ、そうだ、面白いことを教えてやろう」

薬屋「なぜあの子が男のことを兄と呼んでいたのか」

男「!」

薬屋「簡単さ。まだあの子が私の元に居た頃…」



ーー数ヶ月前ーー

薬屋「〜〜♪」

少女「…お姉、機嫌良いね?」

薬屋「うむ!今日は男の所在が確認出来たからな!あやつもこうして同じ空を見上げてるのだと考えていると……ふふふっ」

少女「本当に、あの傭兵さんのこと好きなんだね」フフッ

薬屋「あぁ。遠くないうちに伴侶にしてもらうつもりだ」

少女「気が早いなぁ」クスッ

薬屋「何とでも言え。やっと……やっと私の想いが叶うんだ…」

薬屋「……そうだな、そしたらお前には義兄(あに)が出来ることになるな」

少女「お義兄さん…」

薬屋「あぁ。無口な奴だが、話してみると意外と面白いぞ」

少女「へぇ…」

少女「じゃあその為にも、早くこの病気治しちゃわないとね」

薬屋「……そうだな」

少女「なんかお姉の嬉しそうな顔見てたら私も元気出てきたよ。今なら病気やっつけられちゃうかも!」

少女「ありがとう、お姉」

薬屋「……治してから言え」ワシャワシャ

少女「きゃー髪がー♪」

ーーーーー


103 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:22:16.19 ID:UvSy/elD0

薬屋「事あるごとに私が"義兄(あに)が出来る"と口にしていたからな」

薬屋「…全てを忘れていてもそれだけは頭に残っていたんだな。お前をお兄お兄と慕うその姿は……笑いをこらえるのに苦労したよ」ハハハッ

薬屋「考えてもみてくれ。男はあの子のことを娘として見ていたのに、あれはお前のことを異性として好きになりかけていたんだぞ?あんな歪で滑稽な関係、可笑しくてたまらないだろ!くはは!」

男「……」

男(……)



ーーーーー

少女「──おにぃ、すき」

ーーーーー



男(………)

薬屋「…あー、笑った」ククッ

薬屋「さて……一応訊いておこう」

薬屋「大人しく私に付いてくる気はあるか?」

男「………」

薬屋「…沈黙は肯定と受け取るが?」

男「……………」

薬屋「……まぁいいよ。元より一度眠ってもらうつもりだ」

薬屋「少し身体の自由はなくなるが…それも初めだけだ。すぐに慣れる」

男「………」

薬屋「………」

男(………)



ーーーーー

少女「──にししっ」



少女「──〜〜!」キラキラ



少女「──お兄っ!」

ーーーーー



男(……少女……)



ーーーーー

少女「──ありがとう」ニコ...

ーーーーー



男(………俺は………)
104 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:23:31.82 ID:UvSy/elD0

薬屋「」シュンッ



スサササッ!



薬屋「」フッ...

男「」スッ...





──グサッ





男「……」

薬屋「………あ………え………?」ヨロ..ヨロ..

薬屋(……お腹を……刺された…?)

男「……その短剣は、元々少女の護身用にしようと思っていたものだ」

男(女盗賊の寄越したものだがな)

男「これが、最善の使い道だろう…」

フラ...



ドサッ



薬屋「ぅ……がはっ…」ゴポッ

男「…油断していたのはお前の方だ。敵が手の内を全て明かす前に勝利した気でいるのは、愚者のすること」

薬屋「ケホッ……なんだ、結局私はお前に勝てないのか……」

男「……」
105 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:24:50.22 ID:UvSy/elD0

薬屋「……どうしてだろうな……」

薬屋「私は全てを投げ打って……お前を手に入れようとした」

薬屋「罪のない動物達。事情を知ってしまっただけの神父。……我が妹……」

薬屋「人として何が正常で何が異常なのか……そんなものとうに判断出来なくなっていたというのに……」

薬屋「それでも…お前をものにすることは叶わないんだな……ゲホッ……」

薬屋「…ははっ……世の中、思い通りにいかないことだらけだ……」

男「……お前は」

男「世界一、可哀想な人間だ」

薬屋「同情してくれるのか……?こんな私に…」

薬屋「……だったら……」

薬屋「私を哀れと思うなら……」

薬屋「──口付けをくれよ」

薬屋「……それくらい…望んでもいいだろう……?」

男「………」

薬屋「………」

男「………」

薬屋「………そう、かい」

薬屋「それが……答えか……」

薬屋(……あぁ……意識が遠のく……)

薬屋(死とは、案外静かなものなのだな……)

薬屋(いや……愛する者の手でもたらされた死だからか……)

薬屋(………)

薬屋(………ごめんな………)





──妹





男「………」



薬屋「」



男「………」



少女「」



男「………」

男(………)



.........




106 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:25:32.21 ID:UvSy/elD0
ーーー翌日 斡旋所ーーー

依頼人「はい、確かに」

依頼人「間違いなく先日お伝えした対象達ですね。それでは…こちらが報酬金となります」ズシッ

依頼人「いやー、これほどの量です。運んでくるのも苦労しましたよ」ワハハ

男「……」スッ

依頼人「それで、その大金を何に使うのですか、男さん?」

依頼人「いいですよねぇ。もし私がそれほどのお金を手に出来たら……はぁ、こんな割りに合わない仕事も、辞めてやるんですが……」

依頼人「!おっと…今のは聞かなかったことにして下さい。……ちょっとした愚痴です」

男「……あぁ」

依頼人「そういえば、今日は少女ちゃんは留守番なのですか?珍しいものです、いつも男さんにぴったりくっついていましたから」

男「……」

男「」スクッ

依頼人「男さん…?」



テクテクテク...



依頼人「……何か怒らせるようなこと言ってしまいましたかねぇ……」




107 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:26:51.80 ID:UvSy/elD0
ーーー町外れの森ーーー



ザッザッザッ



男「……」ザッザッ

男「………」



手製の墓『薬屋姉妹 此処に眠る』



男「……薬屋」

男(俺はどうすれば、お前を救えたんだろうな)

男(……せめてあの時……お前と少女が姿を消す前、俺がお前の気持ちに向き合っていたなら……)

男(……違う結末になっていたかもしれない)

男「……」

男「……少女……」

男(これで……良かったのか?)

男(俺は結局、少女に何をしてあげられたのか、よく分かっていない)

男(これからたくさん教えていくつもりだったから…)

男(……俺に出来るのは……最後の"ありがとう"を信じて、お前が幸せを感じてくれていたと思うことくらいだ)

男「……」サッ、サッ(土を被せる)

男(墓を同じにするのはどうかとも思ったが……)

男(……あの世で仲直りでもしてくれよ)
108 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:28:08.57 ID:UvSy/elD0

サッ、サッ...

男「……」

(土に隠れた墓)

男「……行くか」



ザッザッザッ



男「……」ザッザッ





──お兄





男「!!」バッ



(鬱蒼とした森)



男「………」

男(………)

男「……こちらこそ、ありがとう」

男「そして……」





男「──さよなら」




109 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:29:29.97 ID:UvSy/elD0

男(………)

男「……」



ヒュン



男「」パシッ

女盗賊「さーすが。ぼやっと突っ立ってるように見えて周囲への警戒は怠らないか」ザッザッ

男「……報酬金ならくれてやる。好きなだけ持っていけ」

女盗賊「んー…それもあるけど、さ」

男「なんだ?」

女盗賊「……ウチにも、墓参りくらいさせてよ」

男「………」

女盗賊「……」ザッザッザッ

女盗賊「………」



(手を合わせ黙祷する)



女盗賊「……わけは聞いたよ。薬屋ちゃんからね」

女盗賊「昨日、薬屋ちゃんのお店物色してたら見つかっちゃってさ……薬で眠らされてぐるぐる巻きにされちゃったんだけど……その時に話してくれたわ」

男「よく生きていたな」

女盗賊「盗賊稼業舐めないで欲しいね。縄抜けなんて基本中の基本よ」

女盗賊「……誰が悪かったんじゃない。むしろ誰も悪くなかったからこうなっちゃったんじゃないかな」

女盗賊「そりゃ、薬屋ちゃんの"コウイ"は行き過ぎてたけどさ……あの子はああすることでしか自分を表現出来なかったのよ」

女盗賊「きっと誰よりも、愛に飢えていたんじゃないかねぇ……」



ーーーーー

薬屋「──私だって何事もなく生まれ、何事もなく好きな相手と過ごしていきたかったさ」

ーーーーー



男(……)
110 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:30:57.78 ID:UvSy/elD0

女盗賊「だからウチは別にあんたを責める気も、説教垂れる気もない」

女盗賊「たださ……ほら」ヒョイッ

男「…?」パシッ

男「……葡萄酒?」

女盗賊「いつまでも暗い顔してんなよ?少女が見たら不安がっちゃうでしょうに」



ーーーーー

少女「──お兄、かなしい…?」

ーーーーー



男「……そうかもな」

女盗賊「…辛気臭いのは元からかね」

男「言いたい放題だな」

女盗賊「やっと言い返してくれた。そうこなくちゃ、あんたらしくない」ニシシ

男「……ブレない奴め」

男(皆が皆、こいつのように生きているわけではない)

男(何かを守る事に生き甲斐を感じる者)

男(何かに依存しなければ生きていけない者)

男(俺やこいつがそうだからと言って、一人で生きていける人間など稀だ)

男(……そういうことか、薬屋)

男(長いこと独りで生きることの歪さが、お前を変えてしまったんだな)
111 : ◆YBa9bwlj/c [saga]:2019/09/24(火) 04:32:28.80 ID:UvSy/elD0

女盗賊「……ところで」

男「ん?」

女盗賊「ウチら、狙われてるよ」

男「………」

女盗賊「当然っちゃ当然か。この国のやばいとこ知っちゃってるわけだから……裏で口封じでもしようっていう魂胆なんだろうね」

男「……俺はどこが戦争を起こそうが気にしないがな」

男「せいぜい死なないように逃げるとするか。お互い」

女盗賊「あぁ……」

女盗賊「…ってちがーう!」

女盗賊「元はと言えばあんたがウチをこんなことに巻き込んだんでしょ!?責任持ってウチと一緒に逃げなさいよ!」

男「…初めはお前から突っかかってきただろう…」

女盗賊「つべこべ言わない!」ガシッ

グイッ

男「何をする…」...タッタッ

女盗賊「どこに追手がいるか分かったもんじゃないからね!こんな町さっさとズラかっちまわないとさ!」タッタッ

女盗賊「それと…」





女盗賊「あんたのその辛気臭い顔、ウチが直したげる」ニコッ





男「──!」

男(……ふっ)

男「余計なお世話だ、馬鹿者」

女盗賊「あっ!?またバカって言った!?それ少女にも教えてたよね?ウチの数々の功績も知らないくせにさ──」



タッタッタッ...





ー終わりー
112 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/24(火) 04:34:37.43 ID:UvSy/elD0
これにて完結となります。

オリジナルって難しいですね。
なんだか第二章に続く的な終わり方になってしまいました。

読んで下さった方、ありがとうございました。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/24(火) 05:30:23.10 ID:eQpi9i8Bo
おつおつ
続きを書いてもいいのよ?
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/24(火) 07:57:22.35 ID:fNq86j7LO
そういや男って妹の存在知らなかったのか
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/24(火) 07:59:00.22 ID:fNq86j7LO
連レスすまん
数年もたってれば容姿なんて変わってるしわからないか
おつおつ
116 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/24(火) 08:17:50.13 ID:A8Zhnd/+O
>>115

病に伏す妹の存在は知っています。
>>7で自ら言及してますよ。
ただ、姿はまともに見たことがなく、逆に妹の方は薬屋を助けた傭兵をチラッとだけ目にしたことがある…程度ですね。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/24(火) 10:42:23.29 ID:6O4PGPEKO
たしか全10章からならんだよね?
はよ続き
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/24(火) 11:01:58.05 ID:fNq86j7LO
>>116
連レスしてから気づいたすまん
次作か続き待ってるぞ
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/24(火) 11:11:00.78 ID:qk00l8Bb0
最初から最後まで男がバカだった話としか読めないけどこれなんなの?
120 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/24(火) 12:18:02.35 ID:A8Zhnd/+O
>>117 >>118
ありがとうございます。
次回作はもう何を書くか決めているため、続編を書くとしたらまたどこかのタイミングになると思います。

>>119
その通りです。男だけではありません、薬屋も然り。人はどこかしらバカなところがあるんです。だから過ちを犯すし、成長の余地もあるのだと私は思ってます。
とまあつらつらそれっぽいことを書いてみましたが、それをあなたに伝え切れなかったのは私の描写力が足りないからですね。もっと上手くなりたいものです。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/09/24(火) 12:25:00.57 ID:4mpqes9VO
ただの煽りカスに反応することないぞ
とりあえずおつ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/24(火) 12:59:10.65 ID:6O4PGPEKO
続編書くとしたら別にスレ立てるの?それともこのスレを使うのかな?
123 : ◆YBa9bwlj/c [sage saga]:2019/09/24(火) 21:11:06.49 ID:A8Zhnd/+O
>122

書くとしたら別スレッドを立てて、ですね。
というより、このままでは誰も幸せになってない終わり方ですので、いずれ続編は書こうと思います。
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