【オリロンパ】矛盾の希望とコロシアイ洋館生活RESTART

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71 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:32:47.32 ID:LVsG1Z3A0
【伊勢の部屋】

伊勢「朝食についてはこれでいいとして……おや、もうこんな時間か」

探索も兼ねて少し外に出るとするか……

ガチャッ

甲羅「うおっ!?」

伊勢「おや?」

扉を開けると驚いたような声が聞こえた。

覗いてみると洋子君が頬をかきながら立っている。

甲羅「よ、ようミノル」

伊勢「洋子君、すまない。僕の部屋の前にいたとは気がつかなかった」

甲羅「いや、オレが突っ立てたのが悪いしよ……気にすんなって!」

伊勢「むっ?僕の部屋の前に立っていたのかね?」

甲羅「まあな!」

伊勢「ふむ……何か話したい事でもあるのだろうか?」

甲羅「いや、なんつうかさ……」

甲羅「ミノル、牛乳飲んでねえよな?」

伊勢「……」

洋子君はなぜ僕に牛乳を飲ませたくないのだろうか……

甲羅「ま、まさか飲んでんのか!?オレは許さねえぞ!?」

伊勢「……飲んでないから安心したまえ」

甲羅「そ、そうか!だったらいいんだよ」

伊勢「……まさかそれを聞くためにわざわざ?」

甲羅「あっ、それだけじゃねえよ!ミノル、ちょっと手出せ」

伊勢「またか……こうだろうか?」

甲羅「サンキュー」

……僕の手を握る洋子君の眼が少々濁っているように見えるのは気のせいだろうか?

甲羅「へ、へへっ……」

伊勢「……」

本人がこれで満足なら、まあそれもいいだろう……
72 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:49:22.37 ID:LVsG1Z3A0
満足した様子の洋子君と別れて大食堂に行くと天童君が厨房で料理をしていた。

ふむ、いい香りが漂っているな……

天童「あっ、伊勢様。よろしかったらコーヒーをお飲みになりませんか?」

伊勢「いいのだろうか?」

天童「少々作りすぎてしまったので」

伊勢「それならばありがたくいただくとしよう」

※※※※

伊勢「ふむ、いい味だ……天童君はコーヒーを入れる才能もあるのだな」

天童「いえ、わたしなどまだまだですよ」

そうは言うがどことなく嬉しそうな顔をしている。

天童君はコーヒーに相当な自信があるのだろうな。

伊勢「そういえばその包丁、ここで見なかった気がするのだが」

天童「ああ、これは私物です。いつでもはやてお嬢様の要望にお応え出来るように一通り持ち歩いていたので」

伊勢「道具からこだわるか……さすがだな」

やはり天童君が優秀な執事である事に疑いはない。

だからこそ……僕は彼が発したあの時の発言が今でも引っ掛かっていた。
73 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 18:56:08.21 ID:LVsG1Z3A0
伊勢「……天童君に1つ聞きたい事があるのだが」

天童「なんでしょうか?」

伊勢「君は僕を知っているのだろうか?」

天童「はい?」

伊勢「昨日君と出会った時……」

※※※※

天童「あの、少しいいですか?」

伊勢「僕か?」

天童「はい。わたしは天童昴と言います」

天童「伊勢様、わたしの主人を知りませんか?」

※※※※

伊勢「あの時君は僕が名乗る前に、僕を伊勢様と呼んだ」

伊勢「つまり君は僕を知っていたという事になる……どうなのだろうか?」

天童「……さすが伊勢様ですね」

天童「ですが残念ながら自分でもわからないのです」

伊勢「わからない?」

天童「わたしがなぜ伊勢様のお名前を知っていたか……自分自身も不思議なのです」

天童「わたしははやてお嬢様以外に仕えてはいないはずで、その関係者も全て把握していますから……」

ふむ……天童君自身もわからない繋がりが僕達の間にはあるのか?

もしくは天童君も記憶喪失か……

どちらにせよ、僕の記憶の手がかりも彼が持っているかもしれないな……
74 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 23:15:00.58 ID:LVsG1Z3A0
中後「この壺は……」

倉庫を見回っていると中後君が壺を虫眼鏡で見つめているところに出くわした。

ふむ、どうやら鑑定しているようだが……

中後「んっ?ああ、伊勢君。君もお宝を探しに来たのかい?」

伊勢「僕は見回りに。随分とその壺を見ていたようだが」

中後「そうなんだ!まだ確定は出来ないけどこの壺は数千万はする代物みたいなんだよ!」

伊勢「ほう」

乱雑に置いてある壺にそんな値打ちがあるとは……

中後「これは鑑定士としての血が騒いでしまうね……ここにあるもの全て鑑定してみたい!」

伊勢「ふむ、だいぶ数があるが大丈夫なのだろうか」

中後「ボクにとってはこれぐらいなんて事ないさ!さーて、次はどの壺を調べようかな……」

やはりこういう環境では才能を思うがままに使えるというのはストレスがたまらないためにも必要な事なのだろう。

その証拠に中後君の瞳はイキイキしていて眩しいくらいだ。

中後「ふふふ……一番高い物は慰謝料に……」

……いや、中後君の場合違うのかもしれない。
75 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/23(月) 23:22:24.47 ID:LVsG1Z3A0
祭田「んしょ、んしょ」

奥寺「祭田さん、ぼくも手伝いますよ!」

祭田「……大丈夫?転んでお花さんばらまいたりしない?」

奥寺「し、しません!」

祭田「だったら……はい」

奥寺「ありがとう!ぼく頑張ります!」

あれは奥寺君と祭田君か……ふむ、確かに微笑ましいな。

伊勢「何をしているのかね?」

祭田「ミノルだ。お花さんを飾ってるの」

奥寺「ぼくはそのお手伝いです」

伊勢「花か。なるほど、皆の気を落ち着かせるにはいい方法かもしれないな。どこに飾るのだろうか」

祭田「食堂にエントランスに……みんなの部屋にも飾りたいな」

奥寺「それいい考えです!」

伊勢「花瓶などは足りるかね?」

祭田「倉庫にたくさんあったよ?」

奥寺「えっ、あれ花瓶じゃなくて壺……しかも中後さんがかなりの値打ち物だって……」

中後君はまだやっていたのか……

祭田「お花さんが住めるならみんな花瓶だよ?」

伊勢「ふむ、花を飾るのに花瓶にこだわる必要はないか……」

奥寺「い、いいんでしょうか……」

伊勢「構わないだろう、あれだけ倉庫に置いてあるのだからな。僕が取ってこよう」

祭田「お花さんたくさん飾れるのがいいな」

伊勢「ああ、わかった」

奥寺「あっ、中後さん、慰謝料に持って帰るから1番大きな壺には誰にも触らせないようにって言ってましたけど……」

伊勢「……ふむ、ならば2番目に大きな物にしよう」

その後倉庫にあった壺に祭田君が花を飾り付けた。

中後君が悲鳴をあげていたような気がするが……気のせいだろう。
76 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/24(火) 00:18:11.29 ID:B63Ww6tA0
ダヴィデ「直巳ちゃんが悲鳴をあげてたけど、何かあったのかしら?」

伊勢「ふむ、なぜだろうな」

時刻はお昼前……僕は昼食を作るダヴィデ君と紫乃君を手伝っていた。

一里塚君も先ほどまで厨房にいたが、今は食堂の方で準備をしている。

紫乃「実様、手際がよろしいですね」

伊勢「そうだろうか?」

ダヴィデ「あら本当!実君包丁の扱い上手じゃない!」

ふむ、意識してはいなかったが、この2人が言うのであればそうなのだろうな。

伊勢「僕は日常的に料理をしていた可能性があるという事か」

ダヴィデ「だったら今度料理を作ってみたら?身体が覚えてるかもしれないわよ?」

伊勢「ふむ、それもいいかもしれないな……」

紫乃「実様の手料理、楽しみにしていますね」

伊勢「期待に応えられるよう努力しよう」

ダヴィデ「そんな硬くなくてもいいのよもう!」

伊勢「いや、やるからには……全力を尽くしたい」

ダヴィデ「本当に真面目ねぇ」

紫乃「うふふ、それがいいところなんでしょうね」

さて、どんなものを作るとしようか……
77 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/24(火) 00:18:42.23 ID:B63Ww6tA0
今回はここまで。
78 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/25(水) 22:35:24.19 ID:j925u4vA0
野場「おかわりください!」

ダヴィデ君、紫乃君、一里塚君の料理は昼食会でも好評のようだ。

特に野場君の消費ペースは早い……しかし少々食べ過ぎなのではないだろうか?

伊勢「野場君、そんなに食べて大丈夫なのかね?」

野場「大丈夫です!なぜなら野場は野場なので!」

伊勢「よくわからないが……限界は本人が一番よく知っているか」

野場「お気遣い感謝します伊勢隊長!」

伊勢「……隊長?」

野場「野場はそう判断しました!」

伊勢「ふむ、隊長か……」

数多くの危険地帯にも足を踏み入れたであろう野場君がそう言ってくれるのであれば……それに恥じないよう努力しなければならないな。

伊勢「感謝する野場君。これでますます気が引き締まった」

野場「どういたしまして!それよりおかわりはまだですか!野場はお腹が空きました!」

伊勢「……消化が早すぎるのではないだろうか?」
79 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/25(水) 22:49:18.65 ID:j925u4vA0
伊勢「ふむ……」

13人分となると皿洗いも一苦労だな。

東「伊勢、1人で皿洗いしてるのか?」

伊勢「3人は手伝いを申し出ていたが、夕食会もあるので休憩を優先してもらった」

東「だったら俺も手伝うよ。まかせっぱなしっていうのも居心地悪いしな」

伊勢「ああ、すまない」

東「そういう時は謝罪よりお礼の方が嬉しいぞ」

伊勢「むっ、そうか……感謝する」

東「はは、まあ堅いけどそれでいいか」

それから東君と皿洗いを行った。

やはり2人でやるとスムーズに進むな。

伊勢「ふむ、これで最後だな」

東「ようやく終わった……経験ないから結構疲れるなこれ」

伊勢「確かに……」

最も僕は経験があるかないかもわからないのだが。

東「じゃあ俺は部屋に戻るよ。じゃあな伊勢」

伊勢「ああ、ゆっくり休んでくれたまえ」

しかし東君にも手間をかけさせてしまった……いずれ何かで返すとしよう。
80 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 21:58:29.73 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「……むっ?」

百鬼「てめえ、よく出てこれやがったな」

月ヶ瀬「はぁ……」

昼食会の後見回りをしていると、百鬼君と月ヶ瀬君の姿を見かけた。

ふむ……どうやら出てきた月ヶ瀬君を百鬼君が見咎めたといったところか。

月ヶ瀬「俺はただ昼飯取りに行くだけだ。通してくれないかねぇ?」

百鬼「けっ、どうだか……出来ればこのまま餓死させてやりてえぐれえだ」

月ヶ瀬「キハハ、そしたらお前がクロで死ぬってわけだ?モノクマに歯向かったのといい自殺願望でもあるのかぁ?」

百鬼「んだとてめえ!!」

月ヶ瀬「図星を突かれたからってキレんなよ、キハハ!」

まずいな、そろそろ百鬼君が月ヶ瀬君を殴ってしまいそうだ。

伊勢「そこまでにしたまえ」

月ヶ瀬「また増えやがったなぁ……」

百鬼「ああ?なんか文句あんのか!!」

伊勢「百鬼君、月ヶ瀬君を餓死させてしまえば彼の言う通り君がクロにされてしまう可能性がある」

百鬼「てめえも俺が自殺願望あるとでも言いてえのか!?」

伊勢「そうではない。言い方は悪いが、こんな人間のために君が命を散らす必要などない」

百鬼「……!」

月ヶ瀬「キハハ、はっきり言いやがる」

伊勢「月ヶ瀬君、食事を取るのはいい。だが見張りはつけさせてもらう」

月ヶ瀬「息苦しいなぁ、ったく」

伊勢「君はその気になれば毒を混入出来るからな。諦めるのを推奨する」

彼は煙草を所持している……つまりニコチンでの毒殺が可能という事だ。

そんな彼を厨房に1人で置くわけにはいかない。

月ヶ瀬「へーへー、わかりましたよ」

伊勢「百鬼君、不満があるなら君も見張りに来たまえ」

百鬼「……ちっ、わかったよ」

その後月ヶ瀬君が食事を取るのを百鬼君と監視した……ふむ、次からは1人でこなせるようにしなくてはな。
81 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 22:11:07.90 ID:AgDQ0RIA0
符流「……」

月ヶ瀬君が部屋に帰ったのを見届けた後、大浴場に向かうと脱衣場で符流君と出くわした。

ふむ、今は男子の入浴時間……1人で入りに来たのだろうな。

伊勢「符流君、入浴だろうか?」

符流「オレは脱衣場で料理をする趣味はない〜♪」

伊勢「ふむ、料理をする環境でもないから妥当ではあるな」

符流「……」

伊勢「どうかしたのかね?」

符流「ふん、なんでもない〜♪」

伊勢「ゆっくり入浴してくれたまえ。脱衣場と大浴場は殺人禁止……数少ない安全地帯なのだから」

符流「言われなくてもそのつもりだ〜♪」

大浴場に入っていく符流君を見送る……さて、僕は見回りを再開するとしよう。

【数十分後】

伊勢「……何やら騒がしいな」

符流「……」

伊勢「符流君、その顔の怪我はいったいどうしたのだろうか」

符流「ふん、安全地帯から追い出されただけだ〜♪」

……まさか今までずっと大浴場にいたのだろうか?
82 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:24:33.24 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「姫島君、調子はどうかね?」

姫島「……特に問題はない」

伊勢「そうか、ならばいいのだが」

姫島「……」

伊勢「……」

ふむ、姫島君と話す感覚をなかなか掴めないな……

姫島「……伊勢君」

伊勢「ふむ、なんだろうか?」

姫島「私と無理に話そうとしなくていい」

伊勢「むっ?」

姫島「私は脇役、置物みたいな物……だから放置してくれて構わない」

伊勢「……」

姫島君のプロ意識には頭が下がるが……

伊勢「それを聞くわけにはいかない」

姫島「……なぜ?」

伊勢「僕はこのコロシアイを乗り切りたいからだ」

伊勢「僕にとって主役も脇役も関係ない……誰も死なせたくないという気持ちの上では全員平等だ」

姫島「……」

伊勢「そのためにはまずコミュニケーションを取る事……故に君を放置するなど出来るはずもない」

姫島「……」

伊勢「理解してもらえただろうか?」

姫島「……好きにして」

伊勢「ああ、好きにさせてもらおう」

さて、次はどのような話題を話すべきか……
83 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:34:50.93 ID:AgDQ0RIA0
伊勢「ふむ……」

先ほど天童君が料理をしに厨房に入っていった……彼が離れている今が駆祭君と話す絶好の機会か。

ピンポーン

伊勢「駆祭君、話があるのだがいいかね」

ガチャッ

駆祭「なに。下等と話す時間はないのよ」

伊勢「そう言わないでくれたまえ。僕としても君をこのままにするわけにはいかない」

駆祭「なぜ」

伊勢「ふむ、簡単に言ってしまえば君が孤立無援になるのを避ける意味合いがあるな」

駆祭「昴がいるから無用な心配ね。そもそも月ヶ瀬がいる時点でそんな詭弁に価値はない」

伊勢「これは手厳しいな。だが月ヶ瀬君に関してもこのままにしておくつもりはない」

駆祭「あらそう。どのみちワタシは昴がいればそれでいい。失せなさい」

伊勢「1つ聞きたいのだが、このまま籠もって君はどうする気なのかね?」

駆祭「愚問ね。待ってるだけよ」

伊勢「待つ?脱出出来る時をかね」

駆祭「事件が起きるのをよ」

伊勢「それは、君が月ヶ瀬君と同じ考えと判断していいのだろうか」

駆祭「あんなゴミと一緒にしないで。ワタシはお前達とは違うのよ」

駆祭「何もかもがね」

伊勢「……なるほど。主張は理解した」

伊勢「ただ忠告だけはしよう」

伊勢「このままだと破滅しか君には待っていない。気が変わったらいつでも出てきたまえ」

駆祭「破滅するのはお前達よ」

バタンッ!!

伊勢「ふむ」

困ったものだ。
84 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/28(土) 23:56:25.55 ID:AgDQ0RIA0
【大食堂】

一里塚「いや、本当に朝はごめんね!」

ダヴィデ「いいのよ。誰にでも得意な事と苦手な事があるわ」

紫乃「ニコ様の場合それが朝起きる事というだけですから」

一里塚「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ」

ダヴィデ「ちなみにアタシが苦手なのは鏡をずっと見る事よ!」

紫乃「そうなのですか?」

ダヴィデ「だって怖いじゃない……アタシの美しい顔をずっと見ていたら時間を忘れちゃうわ」

一里塚「本気……なんだろうなぁ」

野場「うまいうまい!」

符流「それはオレの分だ、箸を離せ……!」

百鬼「あっ、てめえ!俺の取るんじゃねえよ!」

伊勢「……ふむ」

賑やかでいいことだ。

東「……」

伊勢「むっ?どうしたのだろうか東君」

東「えっ、あっ、いや……実は1つ気になる事があってさ」

伊勢「何かね」


東「伊勢って……何の才能でスカウトされたんだ?」
85 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/09/29(日) 00:02:12.87 ID:KgdEyI1A0
伊勢「僕の才能?」

東「他の皆は有名だけどさ、伊勢に関しては全く聞いた覚えがないんだよ」

東「だからどんな才能なのか気になってたんだ」

中後「それはボクも気になるね。何というか、君はつかみ所がなくて鑑定しようがない」

中後「せめて才能ぐらいは知りたいところだよ」

伊勢「ふむ」

いつの間にやら周りも僕に注目している。

隠す事でもないか……そもそも洋子君は知っているしな。

伊勢「わからない」

百鬼「わからないだぁ?」

伊勢「僕には記憶がないからな」

奥寺「え、ええっ!?」

野場「今明かされる衝撃の真実!なんという事でしょう!」

甲羅「なんだ、オマエラ知らなかったのかよ?」

ダヴィデ「洋子ちゃんは知ってたのね」

姫島「……私も聞いてた」

一里塚「えっと、それ本当なの?」

伊勢「名前以外はまるで覚えていない。皆のプロフィールについてはパッと頭に浮かんだが」

祭田「そうだったんだ……」

紫乃「そのわりには、あまり焦っていらっしゃらないのですね」

伊勢「名前は覚えていたんだ。いつか他の記憶についても思い出すだろう」

符流「前向きなのか〜♪考えなしなのか〜♪」

伊勢「そういう事だから才能については覚えていない。君達の中にいたのならおそらく何かの才能はあるのだろうが」

モノクマの用意周到さを考えれば、僕だけ巻き込まれたとは考えにくい。

唯一才能に関する記憶がない……おそらく記憶があると都合が悪かったと推察は出来る。

最も、全て推測でしかないのが歯がゆいが……


東「…………」
86 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/02(水) 21:53:59.91 ID:QsdTKGBA0
明日クエストと合わせて更新します。
ちなみに以前とは被害者、クロを全く同じにはしないつもりですので。
87 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/03(木) 23:59:56.85 ID:gTu9NrYA0
【伊勢の部屋】

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜10時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「ふむ……もう夜時間か」

昨日は放送の後に眠ってしまった、今日は外に出てみよう。

1つ気になる事もあるからな……

【大食堂】

伊勢「ふむ、やはりか」

厨房への扉が閉まっていて、午前6時までは入れませんと札がかかっている。

食材補充の現場を見られたくないだろう事は予測していたが……

しかしもしも厨房にそのままいた場合はどうなるのか、気になる事も多い。

明日試してみるのも1つの手か……

伊勢「とにかく明日報告するとしよう……むっ?」

誰か来たようだ。

この時間にわざわざ現れた……ふむ、少し警戒が必要かもしれないな。
88 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:07:48.44 ID:M/sdoW+A0
姫島「……」

あの影は姫島君か。

ふむ、ここは声をかけて様子を見るとしよう。

伊勢「姫島君」

姫島「っ!?」

誰かがいることをまるで考慮していなかったのか、姫島君の表情が驚愕に染まる。

ふむ、普段が無表情だけに新鮮ではあるな。

伊勢「そこまで驚く事もないと思うのだが……」

姫島「……こんな時間に何を」

伊勢「それについてはお互い様というものだ。僕は厨房に用があったのだが」

姫島「厨房……」

伊勢「食材補充の現場を押さえたかったのだが……見ての通り入れないようだ」

姫島「入れない……」

伊勢「もしかして姫島君も厨房に用があったのかね?」

姫島「……そんなところ」

伊勢「そうか……ふむ、保存食ならば倉庫にもあるはずだからそちらを当たるのはどうだろうか」

姫島「そうする」

伊勢「ただ月ヶ瀬君の部屋が近い。念のためについて行ってもいいが」

姫島「大丈夫。護身術ぐらいは心得てるから」

姫島君はそう言って食堂から出ていく。

様子を見てみると、彼女はそのまま女子側の個室エリアに戻っていった。

伊勢「ふむ……」

夜時間にわざわざ厨房に来たわりには倉庫には行かずか……

どうやら、また1つ考えるべき事が増えたようだ。

伊勢「倉庫を見てから、部屋に戻るとしよう」
89 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:20:33.52 ID:M/sdoW+A0
【3日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「7時です!7時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

伊勢「さて朝の見回りも終わった……食堂に行くとしよう」

【大食堂】

伊勢「ふむ、一里塚君はやはりいないか」

夜行性と言うからには簡単にそのサイクルを直せはしないだろうが……どうしたものか。

伊勢「……今はそれについては保留か。たまには牛乳でも飲んで」

テーブルに置いてある牛乳に手を伸ばす。

しかしその手は牛乳に届く前に横から伸びた手に掴まれた。

甲羅「ダメだ」

伊勢「……目敏くないだろうか、洋子君」

甲羅「ミノルが悪いんだよ。オレの断りもなしに目を盗んで牛乳なんて」

伊勢「まさか許可がいるとは……」

ここまで頑なだと気になってしまうな……1つ聞いてみるとしよう。

伊勢「洋子君、1つ聞きたいのだがなぜ君はそこまで牛乳を飲ませたくないのだろうか」

甲羅「あん?なんでって、そりゃ……」

伊勢「……」

甲羅「そりゃ、まあ……」

伊勢「……」

甲羅「なん、つうか…………」カァァ

洋子君、なぜ頬を赤らめているのだ?

甲羅「あああっ!んな事女に言わせんじゃねえよこの変態野郎!」

……とんでもない濡れ衣を着せられた気がするのだが。

しかし周りは騒ぎの中心が僕と洋子君だとわかると途端に興味を失っているようだ……なぜなのだろう。

甲羅「とにかく牛乳はダメだからな!後食生活には気をつけやがれよ!!」

そう言って洋子君は離れていった……牛乳をしっかりと回収して。

伊勢「……」

洋子君は本当に謎だな……
90 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:30:39.52 ID:M/sdoW+A0
伊勢「洋子君が牛乳を飲ませたくない理由は変態的な物……ふむ」

しかし牛乳を飲ませたくない変態的理由……思いつかないな。

伊勢「むっ?」

東「だから符流だって本当はさ……」

符流「訳の分からない事を言うな〜♪」

洋子君の言う変態的理由を考えながら歩いていると、会話が聞こえてくる。

どうやら東君と符流君が言い争っているようだ……

東「でもだったらなんで……」

符流「それは違う……!」

ふむ、どうやら符流君が押され気味のようだが……話を聞いてみるとしよう。

東「あっ、伊勢。ちょうど良かった」

伊勢「どうしたのかね?」

東「いや、符流が本当はみんなと仲良くしたいんじゃないかって」

符流「そんなわけないだろう〜♪」

伊勢「なるほど、それが話の内容だったか」

符流君が本当は仲良くしたいのかどうか、か……今までの彼を考慮すると。

伊勢「確かに東君の見解には頷ける物があるな」

符流「どいつもこいつも〜♪勘違いするな〜♪」

伊勢「そうでなければ大浴場の話し合いで混浴に賛成したりはしない」

符流「……!」

東「やっぱりそう思うよな?」

符流「だからそれは違う……!」

伊勢「違うとは?」

符流「……どうでもいいから賛成しただけだ〜♪」

符流「断じて深い意味などない〜♪」

符流「いいな、絶対に勘違いするな……!」

ここまで否定していると逆に肯定とも思えるが……それにあの時君は紫乃君をわりと援護していたはずだが。

東「そうか……ごめんな。そこまで否定されたらさすがに信じるよ」

符流「わかればいい〜♪」

表情に安堵しているのがよく見える……どうやら符流君はかなりわかりやすい性格のようだ。
91 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:37:38.53 ID:M/sdoW+A0
2人と別れて再び歩く。

しかし符流君は群れるのを嫌っているが東君は仲良くしたいと判断した……

伊勢「東君は周りをよく見ているのかもしれないな……むっ?」

この煙草の臭いは……

月ヶ瀬「キハハ、ヌルイ事してやがるみたいだなぁ」

伊勢「月ヶ瀬君か」

月ヶ瀬「全くこんな事してる暇があったらトリックの1つや2つ考えた方が有意義だろうに……」

月ヶ瀬「キハハ、俺からしたら大助かりだがなぁ」

伊勢「わざわざそんな事を言うために出てきたのか。ご苦労な事だが、君は暇なのかね?」

月ヶ瀬「ただ飯を取りに来ただけだぁ。すぐ部屋に戻る」

伊勢「ああ、ならば見張らなければな」

月ヶ瀬「……余計な事言っちまった」

伊勢「しかしそのような露骨な態度では、事件が起きたら間違いなく君が疑われると思うが」

月ヶ瀬「キハハ、そんな事は承知の上だぁ」

月ヶ瀬「だけどそう考えていると、いつか足元をすくわれる結果になるんじゃないか?」

月ヶ瀬「キハハ、その時お前がどうなるか楽しみだ……」

伊勢「挑発のつもりだろうが、何を言ったところで君が望む結果にはならないだろう」

月ヶ瀬「キハハ、言ってろ」

月ヶ瀬君が何を考えていようと、僕は僕のやるべき事をする。

それだけだ。
92 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/04(金) 00:38:20.94 ID:M/sdoW+A0
今回はここまで。
93 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 22:39:28.87 ID:s+/u7QEA0
月ヶ瀬君はいずれ対処しないといけないが……どうしたものか。

伊勢「いざという時は手荒な手段も考える必要があるな……」

野場「姫島隊員!待ってください!」

姫島「……!」

伊勢「……」

ふむ、気の休まる暇がないとはこの事か。

逃げる姫島君、それを追いかける野場君をさらに追って僕は走り出した……

※※※※

姫島「はぁ、はぁ……」

野場「捕まえました!野場は野性動物にも勝ったので当たり前ですが!」

伊勢「……やっと追いついた」

野場「伊勢隊長!なぜここに!」

伊勢「君達がただならぬ様子だから追ってきたのだが……」

姫島「はぁ、はぁ……」

伊勢「姫島君は話せそうにないな……野場君、いったい何があったのかね」

野場「……?」

なぜ、野場君は首を傾げているのだろうか?

野場「……姫島隊員、何があったんでしょう?」

姫島「あなたが、はぁ、いきなり突撃してきたから、怖くなって、はぁ、逃げた……」

野場「……」

伊勢「……」

姫島「はぁ、はぁ……」

野場「……ああ、姫島隊員!奥寺隊員が呼んでました!」

姫島「…………それ、だけ?」

野場「はい!」

満面の笑みの野場君をしばし見つめて、姫島君が項垂れる。

気持ちは、よくわかるな……
94 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 22:51:38.66 ID:s+/u7QEA0
伊勢「野場君は少し落ち着いた方がいいのではないだろうか……」

奥寺「あっ、伊勢さん!姫島さん見ませんでしたか?」

伊勢「知ってはいるが……急用ではないのなら、後にした方がいいと思う」

奥寺「へっ?まあ、それは構いませんけど……」

伊勢「感謝する。そういえば奥寺君はプロデューサーとの事だが……やはり姫島君ともその関係で?」

奥寺「はい、そうですよ!姫島さんは昔ぼくがプロデュースをした1人なんです!」

伊勢「その口ぶりでは他にもプロデュースしているようだが」

奥寺「そうですね。才能があってもそれだけじゃ、あの世界ではやっていけません」

奥寺「だからぼくは少しでも皆さんの力になりたくて手助けをしてるんです!」

奥寺「企画、キャスティング、資金やスケジュールの管理……」

奥寺「大変ですけどやりがいはありますよ」

伊勢「それだけ仕事があると大変ではないかね?」

奥寺「まあ、眠れない事もありますね。そういえば普通に眠れたの久しぶりかも……」

伊勢「それでもやりがいがあるか。奥寺君は真面目なのだな」

奥寺「そ、そんな事ありませんよぉ」

奥寺君がなぜ慕われているか、少しわかる気がするな……
95 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 23:13:22.22 ID:s+/u7QEA0
中後「だからなぜあの壷を使ったんだい!」

祭田「お花さんが住めるからだよ?」

中後「それは散々聞いたよ!」

中後君と祭田君が何やら揉めているようだ。

しかし内容はだいたいわかるな……僕も関わっていたからには無視するわけにもいかないだろう。

伊勢「中後君、落ち着きたまえ」

中後「伊勢君か、聞いてくれ!ボクが目をつけていた壷を祭田君が花瓶に使ってしまったんだよ!」

祭田「お花さん飾りたかったから」

中後「それなら何もあの壷を使わなくても……!」

伊勢「祭田君を責めないでくれ、中後君。あの壷を彼女に渡したのは僕だ」

中後「なんだって!?君はあの壷にどれだけの価値があるのかわかっているのかい!」

伊勢「ふむ、一番大きな壷が数千万の値打ちがあるのは昨日君から聞いたな」

中後「だったら他の壷の値打ちも想像がつくだろう!」

伊勢「そうは言うが中後君、この館にあるものは君の所有物というわけでもない。そして僕と祭田君は花瓶にふさわしいと判断した」

祭田「お花さんたくさんだから寂しくないよ」

中後「ぐぐぐ……もういいよ!だけど一番大きな壷には触れないようにしてくれ!」

伊勢「ああ、それは約束しよう」

どこか疲れたような様子の中後君が去っていく……祭田君には悪い事をしたな。

祭田「お花さんにお水あげなきゃ」

伊勢「僕も手伝おう」

祭田「ありがとうミノル」

さほど気にしていない様子なのは、救いと言えるだろうか……
96 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/09(水) 23:31:11.85 ID:s+/u7QEA0
一里塚「ふあぁ……」

伊勢「眠そうだが、大丈夫なのかね」

一里塚「大丈夫大丈夫。ちょっとしたら完全に目覚めるから……」

しかしこれではいつ眠ってしまうかわからないな……ふむ、眠気覚ましにコーヒーでも入れるか。

百鬼「なんだそいつ、眠そうだな」

伊勢「百鬼君か。一里塚君は昼夜逆転の生活を送っていたらしいからな」

一里塚「ふあっ」

百鬼「危なっかしいな……ちっ、ちょっと待っとけ」

そう言って厨房に向かった百鬼君は、少ししてから皿を持って戻ってくる。

この匂いは、カレーだろうか?

百鬼「ほら、食ってみろ」

一里塚「あ、ありがと。いただきます……」

差し出されるまま寝ぼけ眼でカレーを食べる一里塚君。

しかしその表情は、一口食べた途端に一変した。

一里塚「甘っ!?いや辛っ!?えっ、何これ!なんか変な味するんだけど!?」

百鬼「んだよ、どんなもんかと思ったら外れかよ」

一里塚「人を毒味に使わないで!?」

ふむ、百鬼君なりに一里塚君を眠らせないようにしたのか……

伊勢「僕も困ったらそうするべきか」

一里塚「やめて!?」
97 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:28:59.14 ID:YHIou58A0
紫乃「ふうっ」

伊勢「疲れているようだな、紫乃君」

紫乃「あっ、実様……はい、やはり環境がよくないんだと思います」

伊勢「ふむ、野場君のように振る舞えればいいのだろうが、あれは誰にでも出来る事ではないからな」

紫乃「夕貴様はまた特殊な気もいたします……」

伊勢「ふむ……紫乃君は何か趣味などはあるのだろうか?」

紫乃「趣味、ですか?」

伊勢「ストレス解消にそういう事をするのもいいだろうと思ったのだが」

紫乃「……そうですね、やはり」

伊勢「やはり?」

紫乃「……いえ、これは人がいる事なのでまだ簡単には出来ませんね」

伊勢「ふむ?」

紫乃「でもいずれ……ふふっ、その時は実様もよろしくお願いいたしますね」

伊勢「それが僕に出来る事なら、協力しよう」

紫乃「……ふふっ」

紫乃君の趣味か……いったいどんなことなのだろうな。
98 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:43:43.44 ID:YHIou58A0
【大食堂】

中後「ふう」

ダヴィデ「どしたの直巳ちゃん」

中後「いや、もうここでの生活も3日目が終わるんだなと思ってね」

一里塚「そういえばそうだね……今頃外は大騒ぎしてるかも」

百鬼「ちくしょう!試合があるのにこのままじゃ不戦敗になっちまう!」

紫乃「わたくしも依頼人の方々が待っています……困りました」

奥寺「ううう、色々キャンセルだよね絶対……プロデューサーは信用第一なのに……!」

ふむ、やはり皆も不安を抱き始めたか……

このままいつになったら出られるかわからない……そんな漠然とした不安を。

これを放置すれば、不協和音を生み出しろくな展開にはならないだろう。

なんとか、しなくてはな。

伊勢「皆、落ち着きたまえ」

符流「これが落ち着いていられるか〜♪」

伊勢「ならばモノクマの誘惑に乗るのだろうか。人を殺し、その血塗られた手で外に出ていくという誘いに」

姫島「それは……」

伊勢「モノクマがどこまで本気にせよ、最終的に無事に帰れたなら全てはチャラだ」

伊勢「人を殺す重み、それをわざわざ抱える必要などない」

伊勢「それに命あっての物種……そう言うだろう?」

祭田「物種ってどんな花が咲くの?」

伊勢「ふむ……僕も見てみたいな」

伊勢「そのためにも無事に脱出する事を考えていこう」

伊勢「後の事はそれから考えるべきだ」

皆も渋々ながら頷いている。

ひとまずこれで抑止になればいいのだが……ふむ、何か打開案を考えなければならないな。
99 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:47:30.00 ID:YHIou58A0
伊勢「ふむ……」

さて、現状どうにかしなければならない人間は二人いる。

月ヶ瀬君と駆祭君だ。

月ヶ瀬君はともかくも駆祭君は部屋から全く外に出てこない。

それをこのままほうっているのはマズいだろう。

伊勢「ふむ」

これから駆祭君の部屋に行くとして……さて、1人で行くか、それとも。

ダヴィデ君に頼んでみるか……彼はなかなか冷静な判断が出来る人物だからな。

※※※※

ダヴィデ「いいわよ。アタシもあの子は気になってたから」

伊勢「助かる」

ダヴィデ「でも実君もすっかりリーダーね」

伊勢「僕がリーダー?野場君も僕を隊長と呼んでいたが……」

ダヴィデ「あら、みんなもうそのつもりよ?今日だって落ち着かせてくれたじゃない」

伊勢「みんなにもそんな風に見られていたのか僕は……着いたようだ」

ピンポーン

伊勢「駆祭君、ちょっといいかね?」

ピンポーン

ダヴィデ「はやてちゃん出てきなさい!」

伊勢「ふむ……出てこないな」

ダヴィデ「居留守ね!居留守なのね!」

伊勢「そうだろうな」

ダヴィデ「どうするの?」

伊勢「長期戦は覚悟の上だ。続けよう」

ピンポーン
100 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/16(水) 23:49:07.82 ID:YHIou58A0
ピンポーン

ガチャッ

駆祭「何」

伊勢「ふむ、思ったより早かったな」

ダヴィデ「全くね。でも夜更かしせずに済んだわ」

駆祭「ワタシは何と聞いているのよ下等」

伊勢「この3日君は全く外に出ていない。それについて話をしたいと思ったのでね」

駆祭「話す事なんてない。ワタシは今忙しいのよ」

ダヴィデ「ひきこもってるだけじゃない。一体何が忙し……ってちょっと!?」

伊勢「むっ?どうしたダヴィデ君」

ダヴィデ「部屋の中、ちょっと見て!」

伊勢「……これは」

駆祭君の身体に遮られていたが、少しの隙間からダヴィデ君が見ただろうモノを僕も見た。

それは……

服を脱いだ状態で、ボロボロの身体をした天童君だった。
101 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/22(火) 19:48:20.22 ID:r9blZRXA0
ダヴィデ「ちょっと昴君、しっかりしなさい!」

天童「うっ、くうっ……」

思わず飛び込んだダヴィデ君に続いて僕も部屋に入る。

天童君は上半身に服を着ておらず、その身体は皮膚が裂けたのか血がところどころ出て酷い状態だ。

そして部屋の隅にある鞭……ここで何が行われていたかはあまりにも明白だった。

駆祭「大げさな連中ね。昴はその程度で壊れるほど柔な家具じゃないわよ」

ダヴィデ「はやてちゃん、何てことをしてるのよ!昴君にこんな……」

駆祭「何勘違いしてるの。これは全部昴が自分で望んだのよ」

伊勢「天童君が、自分から?」

駆祭「それがワタシと昴の関係性。お前達には理解できないでしょうね」

ダヴィデ「理解したくもないわよ!」

伊勢「とにかく天童君を治療しよう。ダヴィデ君、肩を」

ダヴィデ「わかったわ」

気絶した天童君を抱えて駆祭君の横を通り過ぎる。

一瞬合った彼女の目はこちらへの侮蔑を隠さない冷めきったものだった。

駆祭「……くだらない。お前達が何をしても昴はワタシの所に戻るわ」

駆祭「だってワタシの家具だもの」

駆祭君の言葉を背に受けながら僕達は部屋を出て天童君の治療に向かう。

天童君……これが君の忠誠だとでも言うのか?
102 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/22(火) 20:44:26.56 ID:r9blZRXA0
ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「……」

あれから天童君を治療し、部屋のベッドに寝かせてからダヴィデ君と別れた僕は倉庫の見回りをしていた。

天童君の事は気がかりだが、それだけに意識を向けるわけにもいかない。

リーダーと認識されているというならその期待には応えなければ。

伊勢「……」

しかしなぜ僕はここまでしているのだろう?

ここにいる皆と出会ってまだ3日……それなのに僕は様々な事に気をかけ、こうして見回りまでしている。

記憶喪失である自分、本来なら自分の事だけ考えていてもおかしくないだろうに。

伊勢「……ふむ」

少し思案し……難しい事ではないとすぐに結論を出す。

僕は記憶喪失だ。

つまり僕にとってはこの館こそが世界であり、ここにいる皆こそが世界で共に生きる存在。

そんな存在を失いたくないと考えるのは当たり前の事。

伊勢「ふむ、納得も出来た。見回りを再開するとしよう」
103 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/23(水) 09:33:14.67 ID:2aUb99zA0
【4日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「七時です!七時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

伊勢「ふむ……」

天童君は目を覚ましただろうか。

しかし駆祭君と天童君……2人が普通の主従ではないと思ってはいたが……

伊勢「とにかく天童君の部屋に行ってみよう」

【天童の部屋前】

ピンポーン

伊勢「……いないようだな」

まだ目を覚ましていないという可能性もあるにはあるが……

そうでないとすれば、まさか本当に駆祭君の所に戻ったのだろうか……

伊勢「食堂に行ってみよう」



【大食堂】

伊勢「ここにもいない、か」

ダヴィデ「あら、実君」

伊勢「ダヴィデ君か」

ダヴィデ「ねぇ、昴君見なかった?部屋に行っても留守みたいなのよ」

伊勢「こちらも捜していたところだが……むっ?」

テーブルの上に置かれた1枚のメモ用紙。

昨日は確かになかったそれを手に取る。

【どなたか存じ上げませんが、ありがとうございました。
わたしは仕事に戻りますがご心配には及びません。
天童昴】

伊勢「……駆祭君の元に戻ったようだ」

ダヴィデ「嘘、あんな目にあったのに!?」

伊勢「……」

天童君の忠誠心も少し厄介な代物のようだな……
104 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/10/23(水) 09:55:36.69 ID:2aUb99zA0
天童君に関しては相当てこずりそうだと思案している内に、今日の朝食会は始まった。

ふむ、おそらく2人は普段からああなのだろうが……

野場「いらないのならいただきます!」

伊勢「むっ」

考え込んでいたら野場君に朝食を奪われてしまうな……

野場「今日も元気だ!ご飯が美味しい!」

にこやかに食事をする野場君を見ていると、どうもここがどういう場所か失念してしまいそうになるな……

伊勢「しかし本当に野場君は毎日元気だ。元気ではないという時はないのではないか?」

野場「野場ですから!野場=元気と言っても過言ではないです!」

伊勢「ふむ……」

野場君は自分に自信を持っているという事なのだろうか……

野場「いつか野場は未開の地などないほどに世界中を踏破し!その全てに元気を振りまくのです!」

伊勢「それはまた……随分と大きな夢だ」

野場「大きく持ったっていいじゃないですか!だって夢だもの!」

伊勢「ふむ、それは確かに言えているな……」

野場「だから野場は夢は大きく持ちます!叶うんですけどね!だって野場ですから!」

伊勢「全く、野場君のその自信は真似できないな」

野場「褒めないでください!照れます!」

僕も前向きな方だと思っているが、少しは野場君を見習うべきだろうか……

とはいえ、彼女のようにしていれば体力がもちそうにないが……
105 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/12(木) 23:46:04.40 ID:YWR//6NA0
伊勢「……むっ」

あそこにいるのは……

奥寺「あ、あの天童さん?」

天童「なんでしょうか奥寺様」

奥寺「なんだか、顔色が悪くないですか?」

天童「そうでしょうか?特に普段と変わりはないのですが」

伊勢「そんな事はないだろう天童君」

奥寺「あっ、伊勢さん」

天童「伊勢様……その様子では昨日お手を煩わせたのは伊勢様でしたか。申し訳ありません」

伊勢「そう思うのであれば、駆祭君を止めてほしいのだが……今日も彼女の所に行っていたのかね?」

天童「はい。はやてお嬢様はわたしの主ですので当たり前の事です」

伊勢「あんな事があっても、か」

天童「わたしは執事ですから」

奥寺「……?」

これは、やはり一筋縄ではいかないようだ。

伊勢「駆祭君は部屋から出る気はないのだろうか」

天童「今のところ、その気はないようです」

奥寺「今のところ、ですか?」

天童「はい。ですので、いつかは出てきてくださるはずです」

伊勢「いつかは……未定という事か」

駆祭君は部屋の中で天童君を痛めつけているようだ……そしてそれに彼は抵抗しようとしない。

最悪の事態を防ぐためにも、やはり彼女には部屋から出てきてもらいたいところなのだが……

どうしたものか……
106 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/13(金) 00:01:15.79 ID:UQjhmhiA0
伊勢「……ふむ」

駆祭君と天童君の事は気がかりだが、そればかりに気をとられてもいられない。

月ヶ瀬「キハハ……そう睨まれたらやりにくいなぁ」

伊勢「日頃の行いというものだ。諦めたまえ」

今食事をしている月ヶ瀬君もしっかり見張らなければならない……この後は見回り、そして……

甲羅「よおっ、ミノル」

伊勢「洋子君か」

甲羅「見張りしてんのか?なんつうかミノルもよくやるよな」

伊勢「何も起こさないためだ。苦ではないさ」

甲羅「そんなもんかねぇ」

月ヶ瀬「……キハハ、人前でいちゃついてんなよなぁ」

伊勢「言いがかりはやめてほしいものだな月ヶ瀬君」

僕と洋子君は恋人というわけでもない、そもそも普通に会話しているだけでなぜ睦み合いと言われなければならないのか。

月ヶ瀬「キハハ……言いがかりねぇ」

甲羅「……」

伊勢「洋子君、どうしたのかね」

甲羅「いや、なんつうか……面白くねぇ」

伊勢「月ヶ瀬君の食事を見張っているだけだからな……退屈だと感じるのも無理はない」

甲羅「そうじゃなくて、ああ、わけわかんねえ!」

洋子君はどこか不機嫌そうに食堂から出ていった……ふむ。

月ヶ瀬「へっ」

伊勢「何がおかしいのかね」

月ヶ瀬「さぁねぇ、キハハ!」
107 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/13(金) 00:01:41.20 ID:UQjhmhiA0
短いですがここまでで。
108 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2019/12/23(月) 22:03:13.82 ID:mr57CQaA0
25日21:00より更新します。
109 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 21:37:44.69 ID:gpUR300A0
一里塚「ふああ……おはよう」

伊勢「おはよう一里塚君」

月ヶ瀬君を見張り、見回りを終えた昼少し前に一里塚君は起きてきた。

まだ眠いようで欠伸を何回もしているが……

伊勢「一里塚君、寝てしまわないように。ルール違反になってしまう」

一里塚「んうっ……わかってる……」

伊勢「本当に大丈夫なのだろうか……」

一里塚「大丈夫だって……ご飯作るから……」

どうも危ないな……

伊勢「一里塚君、僕が作ろう。君は個室で待っていたまえ」

一里塚「……はえっ?」

伊勢「ルールの事を除いても今の君は危なくて見ていられないからな」

一里塚「伊勢君……料理出来るの?」

伊勢「包丁の扱いはダヴィデ君と紫乃君のお墨付きだ。とはいえ記憶を失ってから料理をするのは初めてだが……」

一里塚「じゃあ、お言葉に甘える……もう少し部屋で寝てるね……」

一里塚君がフラフラと食堂から出ていくのを見送って僕は厨房に向かう。

伊勢「……さて、やってみるとしようか」

もしかしたら料理関係の才能かもしれない……何にしろ手がかりになるなら挑戦しなくてはな。
110 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 22:35:17.89 ID:gpUR300A0
【厨房】

伊勢「ふむ、まずはメニュー決めだが」

一里塚君は寝起きだ、昼とはいえ重い物は避けた方がいいだろう。

今冷蔵庫にある材料と照らし合わせると……

トントン

カチャカチャ

グツグツ

祭田「いい匂い」

伊勢「祭田君か、ちょうどいいところに来てくれた」

祭田「ミノル、お昼?」

伊勢「いや、これは一里塚君の朝食だ」

祭田「ニコ、今起きたの?」

伊勢「そのようだ。まだ眠そうだったが……それが一里塚君の日常だったのだろう」

祭田「ユナがお花さんのお世話するのと同じ?」

伊勢「ふむ、そうかもしれないな」

日常……それは自身に染み付いているものと言っても過言ではないだろう。

僕にもそういったものがあればよかったのだが……

祭田「それでちょうどいいって?」

伊勢「ああ、それを忘れていたな。味見をしてもらえないだろうか」

スープをよそった小皿を祭田君に差し出す。

小皿を受け取ってスープを口にした祭田君は、顔を綻ばせた。

祭田「美味しい……!」

伊勢「そう言ってもらえると、作り手としてはありがたいな」

もう少しダヴィデ君や紫乃君に感謝を示した方がいいかもしれないな……

余談だが、祭田君が希望したため僕の料理は昼にも出される事になった。
111 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 22:59:46.14 ID:gpUR300A0
伊勢「ふむ……なんとか完成したな」

一里塚君に持っていくとしよう。

…………

一里塚「…………」

伊勢「どうだろうか」

一里塚「お……」

一里塚「美味しすぎて、眠気が飛んだ……」

伊勢「気に入ってもらえたなら僕としても作った甲斐があるな」

一里塚「というか、自信がなくなった……何それ反則すぎるって……」

伊勢「一里塚君?」

一里塚「ごめんね、ちょっと一人にして……」

伊勢「……?」

何か気に障るような事をしてしまったのだろうか……

バタンッ

伊勢「ふむ……」

祭田君や一里塚君の反応から見ても僕の料理の腕は高いようだ。

つまり僕の才能は料理に関係するもの?

いや、日常的に料理をしていただけかもしれない……決めるのは早計か。

ダヴィデ「あら、実君じゃない。ニコちゃんにご飯届けてたの?」

伊勢「ダヴィデ君。一応僕が作った食事を渡したのだが」

ダヴィデ「あらやだ、実君!いつの間に料理なんてしたの!」

伊勢「一里塚君がフラフラだったのでな」

ダヴィデ「アタシも食べてみたいわねぇ、実君の手料理」

伊勢「まだ厨房に余っているから、それでもよければ」

ダヴィデ「ワオ!それはいい事を聞いたわ!それじゃあ行きましょ!」

その後ダヴィデ君からも美味であるとお墨付きをもらった。

ふむ、これで1つ自分を理解できたようだ……
112 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/01/18(土) 23:01:05.34 ID:gpUR300A0
短いですがここまでで。
113 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 10:24:12.60 ID:i3apzn5A0
伊勢「完食か、ありがたい事だ」

昼食に出した僕の料理は高い評価をもらえたらしい。

空になった鍋を洗いながら僕の心の中にはどこか達成感のような物が生まれていた。

姫島「伊勢君、手伝う」

伊勢「姫島君か。ありがたい話だがいいのかね?」

姫島「お礼でもあるから」

伊勢「お礼?」

姫島「今日のご飯」

ふむ、あれは一里塚君への朝食に手を加えた物だからお礼を言われると少々むず痒いな。

姫島「……伊勢君には記憶がないんでしょう?」

伊勢「ああ。だから料理が出来るという事実は僕にとって自分を知る手がかりになったと言えるだろう」

姫島「……」

伊勢「これからも少しずつ自分を知ればいずれ記憶も戻るはず。そう思いたいどころだな」

姫島「……私には理解できない。こんな環境で自分を失っているのにそこまで落ち着いていられるなんて」

伊勢「もしかしたら僕の元々の性格なのかもしれないな」

その後も姫島君と談笑?しながら洗い物を片付けた。

人と話す事も刺激になるかもしれない……こうして関わりを持つようにしなくてはな。
114 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 10:56:47.30 ID:i3apzn5A0
伊勢「ふむ、次の見回りは……」

「ちょっ!離れやがれ!!」

伊勢「……この声は百鬼君?」

何があったのか急いで行ってみると……百鬼君が紫乃君に押し倒されていた。

どうやら何かあったようだが……

伊勢「百鬼君、どうしたのかね」

百鬼「あっ、おい!この女何とかしろ!!」

紫乃「申し訳ありません、足を滑らせてしまって……」

百鬼「別にそこを責めてんじゃねえよ!いつまでも離れねえから離れろって言ってんだ!」

紫乃「そんなに拒絶されなくても……悲しいです……」

百鬼君に乗ったままシクシクと泣く仕草をする紫乃君……どうしたものか。

百鬼「……」

ふむ、百鬼君がなぜかこちらをにらみ出した……ここは動いた方がよさそうだ。

伊勢「紫乃君、百鬼君も困っている。僕が手伝うから起き上がった方がいい」

紫乃「はい……」

起こされた紫乃君は目に見えて沈んでいる。

そんなに百鬼君に離れろと言われたのがショックだったのだろうか……

百鬼「ったく、色々と危ねえんだよ……」
115 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 11:20:28.35 ID:i3apzn5A0
一悶着あったが見回りは問題なく終わったな……次は。

中後「はぁ」

伊勢「むっ?中後君、何かあったのかね?」

中後「ああ、伊勢君か。少し家の事をね」

伊勢「家か……」

そういった考えが出てくるのは、当然か……

中後「家がまた騙されてやしないか心配で心配で……」

伊勢「騙されて?」

中後「僕の父がね、もう言われるがままに贋作を買わされる人なんだよ」

中後「ボクがこうして鑑定士として働くようになってからはなくなったけど、今はどうなってるか……」

伊勢「ふむ……」

中後君も苦労しているのだな……

中後「あっ、だからといって殺人はしないから安心していいよ」

中後「確かに家は心配だけど……天秤にかけたらいけないものぐらいは理解しているつもりだからね」

伊勢「そう言ってもらえると助かる」

中後「それにここの調度品を慰謝料にいただければ借金チャラどころかお釣りが……ふふふ」

伊勢「……」

中後君はたくましいのか繊細なのかよくわからないな……
116 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/06(木) 12:28:07.59 ID:i3apzn5A0
符流「……」

符流君がテーブルを指で叩いている。

あの手つきは、イメージでピアノを弾いているようだな。

符流「ちっ……」

伊勢「符流君、もういいのかね?」

符流「……いつからそこにいた〜♪」

伊勢「今来たところだ。何か都合が悪かっただろうか?」

符流「……ふん、問題ない〜♪」

伊勢「今のはピアノのイメージトレーニングだろうか?」

符流「……話す必要はない〜♪」

伊勢「……」

軽く話すようにはなったが、相変わらず刺々しい態度は崩さないか。

最も駆祭君や月ヶ瀬君のような存在に比べればまだ問題はない。

伊勢「符流君、今日の夕食会には来るのだろうか?」

符流「……言ったはずだ、オレは参加しているのではない〜♪」

伊勢「ふむ、了解した」

さて、夕食会の準備をするとしよう。
117 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 20:49:57.84 ID:rVNxSG2A0
「いや、だからさ……今は皆で力を合わせて」

「……」

伊勢「んっ?」

夕食の準備をダヴィデ君達に引き継ぎ、夕食会前の見回りをしていた僕は思わず眉を潜める。

東「駆祭だって本当はこのままだと駄目だって思ってるんだろ?」

駆祭「……」

東君が駆祭君を説得、しているのだろうか?

いや、しかしあの駆祭君だ……何をするかわからな――

パンッ!

東「いつっ……!」

伊勢「東君!」

嫌な予感が的中した……初日の天童君にしたように東君の頬を駆祭君が殴り付け、東君が尻餅をつく。

伊勢「大丈夫かね、東君」

東「あっ、伊勢……変なとこ見られちゃったな」

駆祭「言いたい事は全部言えたかしら雑魚」

東「はは、駆祭はキツいなぁ……」

駆祭「気持ち悪い笑顔を見せるな!たかだか運が良かっただけの下等が!」

東「…………」

天童「な、何をなさっているんですか!?」

駆祭「昴!!今すぐその下等を追い払いなさい!」

バタンッ!!

駆祭君が乱暴に扉を閉め、その場には僕と東君、そして状況を掴みきれていない天童君が残される。

東「あー……」

伊勢「東君、頬が腫れている。今すぐ治療をしよう」

東「……わかった」

天童「あ、あの」

伊勢「すまない、天童君。駆祭君には僕から謝罪をしていたと」

天童「は、はい」

伊勢「立てるかね東君」

東「ああ、大丈夫だよ」

笑みを浮かべた東君が頬を押さえながら歩いていくのを僕も追いかける。

東「【たかだか運が良かっただけ】……か」

そう呟いた東君の表情は、僕からは見えなかった。
118 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 20:59:19.17 ID:rVNxSG2A0
【大食堂】

甲羅「ほらよ、治療終わりだ!」

東「いたた」

伊勢「ふむ……洋子君は治療も出来るのだな」

甲羅「人体も言っちまえば精密機械みたいなもんだからな!」

ダヴィデ「あら夕人君、その頬どうしたの!」

伊勢「駆祭君の所に向かって、な」

東「あはは、怒らせちゃったみたいだ」

奥寺「い、痛そうです……」

姫島「女王様相手に何をしたの……」

伊勢「女王様?駆祭君がかね」

東「ああ、駆祭はやての女王様っぷりは有名なんだ。家でも従者をよく痛めつけて楽しんでるって噂だし」

一里塚「見た限り本当っぽいよね」

東「きっと根は悪くないとは思うけどな。駆祭だけじゃなくて月ヶ瀬も」

百鬼「本気で言ってのかよてめえ」

中後「あの二人に関してそんな事が言えるなんて感心するよ」

東「根っからの悪人なんていないって思いたいだけだって」

伊勢「……だから説得を?」

東「まあな」

根っからの悪人なんていない。

僕もそう思いたいところではあるが……

ピンポンパンポーン

祭田「あれ?」

百鬼「あん、なんだ?」

モノクマ「オマエラ!今すぐホールに集合してください!」

モノクマ「うぷぷ、遅刻したらおしおきだからね!」

紫乃「いったい何なのでしょう……?」

野場「きっと飽きて帰してくれるのでしょう!」

符流「本気で言ってるのか〜♪」

伊勢「とにかく行くとしよう。遅刻厳禁のようだからな」
119 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:14:16.54 ID:rVNxSG2A0
【ホール】

ホールに行くと、既に三人が来ていた。

月ヶ瀬「キハハ」

駆祭「ふん」

天童「……」ペコリ

どうやらあの二人もこの状況では出てこざるを得ないようだな。

最も、それは状況の好転を意味しない……あの我の強い二人ですらモノクマには逆らえないという事なのだから。

モノクマ「やあやあ、集まったみたいだねオマエラ!」

甲羅「何の用だこの悪趣味野郎!バラバラにされに来たのか、オイ!?」

モノクマ「きゃー!バラバラなんてされたらボクの秘密が明るみになっちゃうじゃない!」

奥寺「か、帰してくれるとかですかぁ?」

モノクマ「んなわけないでしょ!いや、広義的な意味では正解かな?」

姫島「どういう事?」

モノクマ「ボクも反省したんだよ。オマエラは簡単にコロシアイなんて出来る訳ないチキンなのに、後押しもしないなんてさ」

伊勢「後押し……動機の提示でもする気かね」

モノクマ「正解です!」

動機……コロシアイを進めるための何かを仕掛けてきたというわけか。

伊勢「……」

恐れていた事態ではあった。

ただ帰れないという事ならいずれ助けが来るという希望を抱き、膠着状態に陥りやすい。

ならば背中を押す一手をモノクマ側が仕掛けてくるのは当然警戒すべき可能性だった。

伊勢「……」

いったいどんな動機で来る……

それによって立ち回りを考えなくては。
120 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:29:39.98 ID:rVNxSG2A0
モノクマ「さて、というわけですので……」

モノクマ「オマエラにはこれを差し上げます!」

伊勢「これは……」

モノクマが持ってきたのは封筒に入ったUSBメモリのような物。

封筒にはご丁寧に一人一人の名前まで書いてある。

モノクマ「オマエラはそれぞれ端末を持ってるよね?」

モノクマ「これを挿したら面白い物が見られるから……うぷぷ、楽しみにしてなよ!」

モノクマ「あっ、きちんと見ないとダメだからね!」

このUSBメモリの中にある映像が最初の動機というわけか……しかし面白い物が見られるとはどういう意味だろうか。

モノクマ「それじゃあそれだけなんで!うぷぷ、頑張ってコロシアイしてねー!」ピョーン!!

そして封筒だけ残してモノクマは姿を消した。

一里塚「えっと、どうする?」

伊勢「とにかく自分の分を取って部屋で見た方がいいだろう」

中身によっては動揺が生まれ、その動揺が伝わってパニックを引き起こす可能性もある。

何より動揺した人間を見て【この人物は誰かを殺すかもしれない】と思わせてしまうのは一番避けたい。

【誰かがやるなら自分も】……この異常な空間で動くきっかけなど、それで十分なのだから。

見た瞬間の様子を確かめられないのは痛いが……

東「それが無難だな……」

皆は封筒を手に取って部屋に戻っていく。

さて、特に問題なく済むのが一番なのだろうが……
121 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 21:45:42.32 ID:rVNxSG2A0
伊勢「ふむ……皆行ったか」

全員がいなくなったのを確かめて電子端末にUSBメモリを挿す。

いったい何が映るのか……

伊勢「…………」

おかしい。

いつまで経っても、何も映らない。

伊勢「……!」

まさかこれは……

モノクマ「うぷぷ、どう?最初の動機はお気に召したかな?」

伊勢「モノクマ……これはもしや他の皆の物は外の世界が映っているのか……それも個人個人に関わる映像が」

モノクマ「よくわかったね!今回は皆の家族からビデオレターってやつだよ!」

モノクマ「伊勢君は記憶がないから仕方なく今回の動機はなし!」

モノクマ「まあ、他の人はコロシアイをしちゃうかもしれないけど!」

モノクマ「うぷぷ、さてどうなるかなー!」ピョーン!!

……動機は家族からの声か、これは痛いな。

いつまで続くかわからない生活の中での、家族に会いたいという気持ちは毒物に近い。

早く出たい早く出たいと逸る気持ちに負けてしまう人間が出るのを、モノクマは期待しているという事なのだろうな。

伊勢「ふむ……」

説得するにしてもこの動機がないに等しい僕の言葉など皆には軽いものでしかないだろう。

となれば……

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「……食堂は閉まった、包丁などを取りに即座に動く人間はいないだろうが」

明日は、少し警戒を強くする必要があるな。

いや、警戒だけでは意味がない。

ジワジワと効いてくる毒を何とかしなくてはならない……そのために僕が打つべき一手。

伊勢「…………」

よし、ここは……
122 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 22:02:24.47 ID:rVNxSG2A0
【五日目】

ピンポーンパンポーン…

モノクマ「七時です!七時です!」

モノクマ「生きてたらおはよう!死んでたらさようなら!」

モノクマ「オマエラはどうかなー?うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……」

【大食堂】

百鬼「なんだこりゃ……!?」

ダヴィデ「あらあら!今日の朝食は豪華なのね!」

伊勢「おはよう、既に朝食は出来ているから座ってくれたまえ」

紫乃「あの、これは全て実様が……?」

皆が驚くのも無理はない、今日の朝食はいつもより豪勢に作ったのだから。

しかし三人や一里塚君以外が集まってくれたのは幸先がいい……話もスムーズに進められる。

伊勢「無論毒などは入れていないから安心してくれたまえ」

符流「信じられると思うのか〜?」

中後「昨日の今日、だからね」

ふむ、こういう意見が出るのも当然と言えば当然だろうが……

野場「……いただきます!」

東「お、おい野場!?」

野場「こんなに美味しそうなご飯を前に我慢など出来ません!美味し!美味し!」ムシャムシャ

甲羅「……おい!一人で全部食うんじゃねえ!」

野場君が食事を始めたのを皮切りに、皆も少しずつ食事に手をつけていく。

野場君の明るさに助けられたな……ありがたい。

伊勢「皆、食事をとりながらでいいから少しいいだろうか?」

奥寺「ど、どうしたんですか?」

伊勢「昨日の事もあって不安もあるだろう……そこで、僕から一つ提案がある」

祭田「提案?」

伊勢「そうだ。今日の夕方五時から」

殺人を起こさせない、そのために僕が打つ一手をここに示そう。
123 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 22:02:51.55 ID:rVNxSG2A0






伊勢「パーティーを執り行いたいと思う」






124 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/02/07(金) 22:03:22.68 ID:rVNxSG2A0
今回はここまでで。
125 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/02(月) 20:38:22.25 ID:XRbaOYIA0
東「パ、パーティー?」

伊勢「そうだ。少なくともここにいるメンバーには参加してほしい」

百鬼「正気かてめえ!?動機が昨日配られたばかりなんだぞ!?」

伊勢「だからこそだ」

中後「意図を聞かせてもらってもいいかな?」

伊勢「昨日僕達には動機が配られた。詳しい内容は聞かないが、大なり小なり全員がそれに対して不安を感じているだろう」

紫乃「それは……」

伊勢「このまま一人で不安を抱えていてもいい事は何もない。そのためのパーティーだ」

ダヴィデ「まあ、確かにね……不安を少しでも和らげる事が出来るならいい事よね」

最も狙いは他にもあるが……これは口に出さない方がいいだろう。

奥寺「ぼ、ぼくはいいと思います!やりましょう、パーティー!」

野場「パーティーならこの野場におまかせあれ!さぁ、今から始めましょう!」

姫島「少し落ち着いて……」

不安を抱えていたくないのは、誰でも同じだ。

故にそれを忘れられるなら……その機会を逃したくはないだろう。

そういう心理もあってか、パーティーの開催は思ったよりも順調に受け入れてもらえそうだった。
126 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/02(月) 20:54:32.53 ID:XRbaOYIA0
甲羅「パーティーはいいけどよ、絶対来ない連中はどうすんだ?」

奥寺「た、頼めば来てくれませんかね……」

中後「不安を解消するためのパーティーに不安の種を呼んでどうするんだい」

奥寺「ううっ」

祭田「ミノル……どうするの?」

伊勢「まず駆祭君達だが、彼女は部屋に籠もり、天童君もその世話にかかりきりだ」

例えば天童君が殺された場合、疑われるのは間違いなく駆祭君だ。

その状況で軽率に動く事をおそらく彼女はしないだろう……最も感情的な彼女の性質を踏まえれば、さらに一手打っておきたいところだが。

天童君はあれだけの忠誠、駆祭君を殺すような真似は出来ないはず。

一番問題なのは二人が共犯になる可能性だが、それには天童君が誰かを駆祭君の所まで連れて行かなければならない……部屋から出てこない駆祭君が外に出てきたらそれだけで目立つのだから。

これについては必ず複数で行動させる事で防ぐとしよう。

月ヶ瀬君は少なくとも今回は動かずに様子を見るだろう……彼は人数が減る事を一番いい展開としているようだからな。
127 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/02(月) 21:05:56.36 ID:XRbaOYIA0
符流「オマエ自身が〜♪何かを企んでいる可能性はないのか〜♪」

伊勢「ならばパーティー開始までホールに見張りを一組立てよう。ホールに誰かが来たら毎回身体検査をしてもらう」

伊勢「そして料理は必ず大皿か鍋にしてもらいたい。最初に僕が食べ、毒味しよう」

伊勢「皿や箸などについても見張りをつけてもらい、僕が洗おう」

伊勢「他に何かあるだろうか」

皆、困惑しているようだが反対意見は出ない。

ふむ……まだまだ穴がないわけではないが、納得はしてもらえたようだ。

伊勢「僕からは以上だ。後で班を決めたいからホールに集まってほしい」

さて、パーティーの準備をするとしよう。

この先何も起きないように……全力を尽くさねばな。
128 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/02(月) 21:48:39.82 ID:XRbaOYIA0
【ホール】

伊勢「……」

今回の準備ではこのホールの見張りは重大な役割と言える。

厨房から包丁などの凶器を持ち出されないようにするためだ。

準備という事で今厨房にはダヴィデ君と紫乃君がいるが……二人の目を盗む可能性もないわけではないからな。

一里塚君が合流すればさらに厨房の物を持ち出す危険性は減るだろうが。

百鬼「よりによってこいつとかよ……」

野場「百鬼隊員!パーティーはまだ始まりませんか!?」

百鬼「見張りに立ったばかりだろうがよ!」

その重大な役目を僕はこの二人に任せた。

百鬼君は口調こそ荒いが冷静に物事を見る事ができ、なおかつ運動部としていざという時に対処が出来る。

野場君は冒険家という才能から女子の中では荒事を任せられると判断した……何より、動きが予測しにくい彼女を一ヵ所に留め置きたかった。

伊勢「二人共、何か変わった事はあったかね」

百鬼「何人か通りやがったな。調べても何もなかったけどよ」

野場「伊勢隊長!パーティーはまだですか!」

百鬼「それよりこいつなんとかしろよ!さっきからパーティーはまだかパーティーはまだかってうるさいったらありゃしねえ!」

伊勢「ふむ……野場君はそんなに楽しみなのかね」

らしいと言えば、らしいが……

野場「もちろん!野場はパーティーに参加できなかったので!」

伊勢「参加できなかった?」

何か事情があったのだろうか……

百鬼「まさか初日みてえに風呂に入ってなかったからとか言わねえだろうな」

野場「その通り!」

伊勢「……百鬼君、身体検査を頼めるだろうか」

百鬼「おう」

野場君はやはり色々と読めないな……
129 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 08:04:07.41 ID:SnH8gZYA0
部屋に戻って、メモを書く……ふむ、そろそろ新しい物が欲しいところだな。

伊勢「倉庫にあったはずだな……むっ?」

符流「……」

部屋を出たところで一人で廊下を歩く符流君を見つける。

彼は確か、奥寺君とペアだったはずだが……

伊勢「符流君、なぜ一人でいるのかね」

符流「……一人ではない〜♪アイツが遅いだけだ〜♪」

奥寺「ま、待ってくださ〜い」

伊勢「ふむ……」

危惧はしていたがやはりこうなったか……

奥寺「ふぅ、はぁ……符流さん足が速いですねぇ」

符流「オマエが遅いだけだろう〜♪」

伊勢「歩幅にだいぶ差があるからな。だから祭田君と一緒の方がいいと言ったのだが……」

当初奥寺君は祭田君とペアにする予定だった。

しかし奥寺君が符流君とのペアを希望した……おそらく未だに距離のある彼を考えての事だろう。

奥寺「だ、大丈夫です!これぐらいいつもの仕事に比べれば!」

だがこれでは奥寺君の考えも、ペアにした意味もない。

伊勢「符流君、奥寺君に合わせてあげてくれないだろうか」

符流「なぜオレがそんな事を〜♪」

伊勢「符流君、君は自分がどれだけ危険な真似をしているかわかっていないようだな」

符流「なに?」

伊勢「今の君はもはや単独行動と変わらない。もし事件が起きた場合君は真っ先に疑われる事になるだろう」

符流「……」

伊勢「さらに一人で動く君は格好の獲物にもなりえる……現にさっき僕が声をかけた時の君は隙だらけだった」

奥寺「あ、あの、伊勢さん」

伊勢「奥寺君、君も君だ。獲物にもなりえるという面では君はより危険だと言えるのだから、符流君のこの行動を許してはいけない」

奥寺「あうう」

符流「……」

伊勢「最も符流君が立場を悪くしたい、もしくは自殺願望があるのならば……」

符流「待て〜♪」

伊勢「なにかね?」

符流「……最低でも見失わない程度にしよう〜♪」

伊勢「ふむ、そうしてくれたまえ」

符流「行くぞ〜♪」

奥寺「は、はぁい」

伊勢「ふむ」

符流君は案外御しやすいな。
130 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 08:41:51.18 ID:SnH8gZYA0
【倉庫】

中後「ふふふ、やはりこの皿は素晴らしい!」

東「おーい、中後……」

倉庫を覗くと東君と中後君がいたが……中後君はいつも通りに鑑定しているようにしか見えないな。

伊勢「東君、どうかしたのかね」

東「ああ、伊勢。食器が足りるかわからないから取りに来たんだけど、中後が皿を見たまま動かなくてさ」

やはりそうだったか……中後君にも困ったものだな。

中後「ああ、この皿も値打ち物だ!こんな無造作に置いてあるなんて信じられない……!」

伊勢「中後君」

中後「……うわっ!?」

声をかけると自分の世界から戻ってきたらしい中後君が尻餅をつく。

皿を放さないのはもはや賞賛の域だな。

中後「きゅ、急に声をかけないでほしいな!ビックリするじゃないか!」

伊勢「それはすまなかった。だがパーティーの準備をしないで何をしているのだろうか」

中後「うっ」

東「あはは、中後らしいけどな」

中後「うぐぐっ、鑑定士としての血が騒ぐんだ、仕方ないじゃないか……」

伊勢「熱心なのを悪いとは言わないが、今は我慢してもらいたい」

中後「……わ、わかったよ。東君、待たせてごめん」

東「いやいや、気にしなくていいよ」

東君は少し甘いのではないだろうか……?
131 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 08:54:53.39 ID:SnH8gZYA0
天童「あっ、伊勢様」

ホールに戻ると天童君と出くわした。

おそらく駆祭君の部屋にいたのだろう……また痛めつけられていたのだろうか。

伊勢「天童君、駆祭君は相変わらずかね」

天童「はい……申し訳ありません」

伊勢「いや、天童君のせいではないだろう」

天童「そう言っていただけると……ところで今日は皆様、慌ただしいようですが」

伊勢「今日はパーティーを行おうと思っているのでな」

天童「パーティーですか?」

伊勢「色々考えてそういう事になった。コロシアイを防ぐためにもな」

天童「なるほど……いい事だと思います。微力ながらお手伝い出来ればよろしかったのですが」

伊勢「君は駆祭君の執事だ、無理をする事はない」

天童「はい、ありがとうございます」

伊勢「ところで天童君、駆祭君は動機を貰ってどんな様子だっただろうか?」

天童「動機……伊勢様は動機の内容はご存知ですか?」

伊勢「家族からのビデオレターと聞いたが」

天童「はい……もしかすると予想されているかもしれませんが、くだらないと一蹴されました」

伊勢「なるほど……やはり、か」

駆祭君の様子からして予測出来る話ではあったが。

天童「はやてお嬢様はああいうお方ですから……今回の動機とやらには心動かされないかと」

伊勢「そうか……話してくれてありがとう」

天童「いえ。それでは私はお嬢様の昼食を作りたいと思いますので」

伊勢「ああ、念のために出てきたら身体検査だけはさせてもらいたい。あそこで百鬼君と野場君がしている」

天童「はい」

……くだらない、そんな反応をする者も当然いるか。

もし記憶があったら僕はどんな反応をしていたのだろうか。
132 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 18:08:58.57 ID:SnH8gZYA0
【大食堂】

祭田「お花さん、お花さん♪」

甲羅「なぁ、マツリダはどっからこんなに花持ってきてんだ?」

祭田「ユナの部屋にたくさんあるよ?」

大食堂の飾り付け、それを担当しているのは洋子君、祭田君、東君、中後君の四人だ。

ふむ、二人はまだ倉庫から戻っていないか……

祭田「ヨウコはお花さん好き?」

甲羅「好きか嫌いか考えた事もねえな」

祭田「どうして?」

甲羅「オレは機械弄くってる方が性に合ってんだたよ。マツリダみてえに花育てるより機械ばらしてんのがお似合いだしな」

ふむ、洋子君の普段の言動を考えたら無理もないか……

祭田「そんなことない」

甲羅「おわっ、なんだこれ花冠?」

祭田「ヨウコ、よく似合ってるよ?」

甲羅「あー……」

祭田「本当だよ?」

甲羅「ったく、ミノルの奴やりにくい奴と組ませてくれたもんだぜ」

伊勢「ふむ、そのわりには悪い雰囲気ではなかったが」

甲羅「どわぁ!?ミノル、いつからそこにいやがった!」

伊勢「洋子君が祭田君に花の所在を聞いた辺りからだな」

甲羅「声かけろや!」

伊勢「すまない、話が弾んでいたようだったのでな……ああ、洋子君」

甲羅「なんだよ」

伊勢「僕もその花冠、似合っていると思う」

甲羅「……」

祭田「ね?」

甲羅「うっせえ!」

その後なぜか怒った洋子君に食堂を追い出されてしまった……
133 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 18:51:32.21 ID:SnH8gZYA0
【厨房】

一里塚「いや、まさかパーティーをするなんて……」

伊勢「事後承諾になってしまったのは申し訳ない。しかしこのままではいけないと思ったのも事実なのでな」

厨房担当はいつも食事を作ってくれているダヴィデ君、紫乃君、一里塚君……そして僕と姫島君だ。

紫乃「ニコ様は反対だったのですか?」

一里塚「いや、反対とまでは言わないけど……正直みんな心配してるのにこんな事してていいのかなって思ってる自分もいるんだよね」

伊勢「ふむ……」

一里塚「あっ、いや、別に誰かをどうこうしようとか思ってるわけじゃないよ!だけど……」

紫乃「いいじゃないですか、楽しめば」

一里塚「えっ?」

紫乃「別にわたくし達が自分からここに来たわけではないんです。この生活で何をしたところで責められる謂れはないでしょう?」

一里塚「それは……」

紫乃「ニコ様は深刻に考えすぎなんです。家族からの声を聴いてしまったのですから焦りが出るのも無理もないでしょうが」

一里塚「……」

伊勢「一里塚君、君の不安をわかるとは言えない。しかし……自分自身を責めないでほしい」

一里塚「……いいのかな、楽しんで」

紫乃「はい」

伊勢「そうしてほしい」

一里塚「……うん、わかったよ!そうと決まればより一層気合い入れなきゃね!」

ふむ……紫乃君に助けられたな……

紫乃「ふふっ」
134 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 20:44:00.99 ID:SnH8gZYA0
ダヴィデ「あらー、在留ちゃん手際いいじゃない!」

姫島「……」

一里塚君と紫乃君とは別に料理をしているダヴィデ君と姫島君の様子を窺う。

ふむ、確かにいい手際だ……

ダヴィデ「在留ちゃんってよく出来るのにそれをひけらかしたりしないのよねぇ……」

姫島「私は脇役だから」

ダヴィデ「ああ、もう謙虚なんだから!」

伊勢「ダヴィデ君、調理中に抱きつくのは危ない」

ダヴィデ「あら、ごめんなさいね!」

姫島「……」

姫島君はいきなり抱きつかれたにも関わらず無表情……こんな時でも脇役を貫いているのだろうか。

ダヴィデ「そんな顔じゃダメよ在留ちゃん!せっかく素材はいいんだからパーティーの時くらい笑わないと」ムニムニ

姫島「にゅ……」

しかしダヴィデ君も諦めないな……少しでも打ち解けてくれるならこちらとしても助かるが。

姫島「……!」

ダヴィデ「あらら、逃げられちゃったわ。待って、在留ちゃん!」

……前途多難だな。
135 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 22:00:20.30 ID:SnH8gZYA0
伊勢「ふむ」

今回のパーティーで気がかりなのはやはり駆祭君と月ヶ瀬君の動向だ。

月ヶ瀬君は様子を見るだろうし、駆祭君は動機をくだらないと一蹴しているにしても何もしないわけにはいかない。

ピンポーン

伊勢「……」

僕は駆祭君の部屋を訪ねる事にした。

天童君の話が本当なら問題はないだろうが……

ガチャ

駆祭「またお前?」

伊勢「駆祭君、調子はどうかね?昨日動機を配られたから気になっていたのだが」

駆祭「動機?はっ、あんなものでこの駆祭はやてが動くわけないでしょう」

伊勢「ふむ、家族からのビデオレターは動機になり得ないと?」

駆祭「家族なんてこのワタシにはいない、あれらはただの奴隷よ」

伊勢「奴隷……」

駆祭君が他者を見下しているのは理解していたが……家族さえもその対象とはな。

駆祭「用がそれだけなら消えなさい。お前と話す事なんてないわ」

バタンッ

伊勢「ふむ……」

駆祭君はやはり動機には心動かされないようだが……

警戒は継続する必要がある、な。
136 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 22:05:07.70 ID:SnH8gZYA0
伊勢「……」

月ヶ瀬「キハハ、また何かしてるみたいだな」

伊勢「月ヶ瀬君か。何か用かね」

最もこちらから様子を見に行くつもりではあったが……

月ヶ瀬「つれないな……暇なだけだ。ちょっとぐらい話し相手になってくれよ」

伊勢「ふむ……いいだろう」

月ヶ瀬「キハハ、甘ちゃんだなお前」

伊勢「君の足止めが出来るのならば悪くない話だからな」

月ヶ瀬「言うね、全く」

伊勢「君は今回の動機についてどう思っただろうか」

月ヶ瀬「悪くはない。最も俺には無関係ってやつだ」

月ヶ瀬「ちなみに俺の映像は砂嵐だったよ」

伊勢「ほう?」

月ヶ瀬「当たり前さ。これでも追われてる身だからなぁ、家族なんざとっくに首くくってる」

月ヶ瀬「キハハ、だから俺には動く理由がないんだよ」

月ヶ瀬「金でもくれんなら考えたんだがなぁ」

伊勢「……」

ふむ、犯罪者としての彼のあり方が今回の動機に対する月ヶ瀬君の抑止として働いているのか……

最も……どこまで信用出来るかはわからないがな。

彼の場合、無意味というそれを逆手に取る可能性もある。

駆祭君と同じように、こちらも警戒は継続だな。
137 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 22:16:55.53 ID:SnH8gZYA0
伊勢「……ふむ、そろそろ時間か」

駆祭君と天童君、月ヶ瀬君以外の皆も既に大食堂に入っている。

伊勢「行くとしようか」

【大食堂】

ダヴィデ君達が見ている中で皿を洗い、大皿や鍋の料理を一口ずつ食べていく。

伊勢「ふむ、問題ない」

毒見も済んだ、後は……

伊勢「今日は参加してくれて感謝する。このような状況ではあるが、出来る限り楽しんでもらいたい」

伊勢「これからもコロシアイに屈しないためにも、今日という日がいい日であるように願う」

伊勢「パーティーを、始めるとしよう」
138 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/03(火) 22:17:31.49 ID:SnH8gZYA0
今回はここまでで。
139 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/03/15(日) 22:45:29.02 ID:AU/xexYA0
パーティーが始まった。

開催を宣言した時こそ戸惑っていた皆だが、こうして実際始まってみれば笑顔を浮かべそれぞれ楽しんでいる。

ふむ、これだけでもやった意味はあるというものだな……

百鬼「おい」

僕が感慨に耽っていると百鬼君が飲み物片手に話しかけてくる。

ふむ、どうやら話があるようだな……

伊勢「何だろうか」

百鬼「てめえの狙いが一種の膠着状態を作るってのはいい。パーティーって形はどうなんだとは思うけどよ」

ふむ、百鬼君は僕の隠していた狙いに気づいていたか……

百鬼「だけどな、今日だけこんな事して本当に意味あんのか?まさか明日も明後日もパーティーやるとか言わねえだろうな?」

伊勢「それは現実的ではないな……確かに百鬼君の意見も最もだ。だが僕としては、それ以外にもこのパーティーに狙いがないわけではない」

百鬼「……躊躇させてえんだろ」

伊勢「そちらも気付いていたか……そう、僕は交流から殺人に手を染めるのを躊躇わせたい」

おそらく家族というものには勝てない、ここにいる人間とどちらかを選べと言われればまず家族を選ぶ者が大半だろう。

伊勢「無論他にも手はいくつも打たねばならないだろう。その下地に……信頼関係を作らねばなと思っていた」

ならば少しでも躊躇させたい、殺したくないと思わせたい。

そのための手段として記憶のない僕には、これしか思い付かなかった。

百鬼「上手くいくと思ってんのか」

伊勢「思うか思わないかは重要ではない」

伊勢「やらなければならない……違うだろうか?」

百鬼「……そうかよ」

百鬼君はそれ以上何も言わなかった。

理解してもらえたならば、助かるのだがな……
140 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/02(木) 18:14:50.66 ID:El9wSZfA0
東「それにしても伊勢の料理は美味しいよな」

一里塚「そうだよね。きっと伊勢君は〔超高校級の料理人〕だったんだよ……というかそう思わないと凹んじゃうというか」

東「俺は一里塚の料理好きだぞ?」

一里塚「あはは、ありがとう」

伊勢「……」

【超高校級の料理人】か……果たして本当にそうなのだろうか。

確かに料理に関しては好評だ、手際もいいとお墨付きをもらっている。

しかし僕の才能がそうだとするならば、なぜわざわざモノクマが僕の記憶を奪ってまで隠しているのかという疑問。

それが解決しない。

東「ここまで美味しいとなるべく機会が欲しいよな……ダメ元で明日も作ってもらうか?」

一里塚「それいいかも!後で頼んでみようか?」

……どうやら僕が明日の食事当番に決まりそうだ。

ふむ、予定を調整する必要があるかもしれないな……
141 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 13:26:17.82 ID:e39Nie7A0
姫島「……プロデューサー、ソースついてる」

奥寺「あっ、ありがとうございます!」

あそこにいるのは姫島君と奥寺君か。

ふむ、ああして見ると姉弟のようだ……奥寺君に直接言えはしないが。

伊勢「楽しんでくれているだろうか」

奥寺「伊勢さん!はい、楽しませてもらってます!」

姫島「……」コクッ

伊勢「それならば何よりだ。この後も楽しんでほしい」

奥寺「はい!でもパーティーって聞くと昔を思い出しますね……」

伊勢「プロデューサーともなると、やはりそういう機会に恵まれるものなのだろうか」

奥寺「そうですね……でもこんなに楽しいパーティーは久々ですよ!えっと……ああ、まるで四年前――」

姫島「っ!」

むっ?

奥寺「むぐっ!?ひ、姫島さ、いきなり何を……」

姫島「プロデューサー、これ好きでしょ?」

奥寺「た、確かに好きですけど……いきなりはビックリしますよー」

伊勢「……」

なんだ、今の姫島君の反応は?

まるで奥寺君にその先を口にしてほしくないと言わんばかりの行動だったが……

奥寺「伊勢さん、どうしました?」

伊勢「……いや、何でもない」

気のせいではないだろうな……ふむ、記憶があればわかったのかもしれないが……


姫島「…………」
142 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 13:49:18.00 ID:e39Nie7A0
符流「……」

先ほどの姫島君について考えながら歩いていると、符流君が壁に寄りかかっているのが見える。

ふむ、せっかくのパーティーなのだからもう少し交流してもらいのだが……

伊勢「符流く――」

野場「符流隊員見習い!」

符流「ぐっ!?」

声をかけようとした僕を横切って野場君が符流君に突撃する……どうやらいいところに当たったのか、蹲ってしまった。

野場「おやお腹を押さえてどうしました?ポンポン痛いんですか?」

符流「貴様、何のつもりだ……!」

野場「寂しいようだったので!あっ、これ食べますか!?」

符流「話を聞け……!」

伊勢「ふむ……」

野場「伊勢隊長!いつの間に!」

符流「ちょうどいい……こいつを何とかしろ〜♪」

伊勢「野場君、符流君は先ほど君が腹部に突っ込んだから痛みを感じているようだ」

野場「つまりは野場のせい!?申し訳ありません符流隊員見習い!」

符流「……おい、さっきからその見習いとはなんだ〜♪」

野場「符流隊員見習いはまだ素直じゃないので隊員はお預けです!」

伊勢「つまり符流君が名実共に僕達と友好を深めれば隊員になると?」

野場「その通り!」

符流「ふざけるな……!見習い扱いされる筋合いはない……!」

野場「そう言わないでください、符流隊員見習…………」

伊勢「どうしたのかね?」

野場「長くて言いにくいです!とにかく頑張りましょう見習い!」

符流「本当にふざけるなよ!?」

伊勢「ふむ」

野場君に任せれば大丈夫か。

符流「おい待て!こいつを引き取れ!」
143 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 14:09:32.93 ID:e39Nie7A0
紫乃「実様、楽しんでらっしゃいますか?」

符流君の叫びを聞き流して、パーティーの喧騒に戻ると紫乃君に声をかけられる。

笑みを浮かべるその姿は非常に楽しそうだ。

伊勢「ああ、紫乃君はどうだろうか」

紫乃「うふふ、とても楽しいですよ。ところで実様」

伊勢「むっ?」

紫乃「他の方にも声をかけているのですが、このパーティーの後わたくしなりの催しをしたいと思っているんです」

伊勢「紫乃君主催でかね?」

紫乃「はい。よろしければ実様もいかがですか?」

伊勢「ふむ……」

紫乃君なりに現状を何とかしようと考えての事だろう。

参加出来るならばしたいが、しかし……

伊勢「すまないが僕は明日朝食当番になりそうなのでな。またの機会でもいいだろうか?」

紫乃「そうですか……残念です」

紫乃「わたくし、いつでもお待ちしてますから……うふふ」

伊勢「……」

ふむ……少し様子がおかしかったが紫乃君は酔っているのだろうか?

酔うようなものはなかったはずなのだが……
144 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 14:53:44.38 ID:e39Nie7A0
ダヴィデ「結奈ちゃんは可愛いわねぇ、食べちゃおうかしら」

祭田「むぎゅ」

祭田君がダヴィデ君に抱き締められている……異性だというのにそう感じさせないのはやはりダヴィデ君だから、だろうか。

伊勢「ダヴィデ君、祭田君が苦しそうだ」

ダヴィデ「あらごめんなさい」

祭田「ダヴィデ、力強い……」

ダヴィデ「もう、そんな事言っちゃ嫌よ!」

伊勢「ふむ……」

そうは言うものの、祭田君もダヴィデ君を拒否しているというわけでもなさそうなのが幸いか。

ダヴィデ「アタシもお仕事でパーティーには結構出てたんだけどいるのは大人ばかりでねぇ。だからこうして同世代とワイワイやるのは初めてで、ついついテンション上がっちゃったわ」

伊勢「それだけ楽しんでくれているなら、ありがたい事だ」

ダヴィデ「だからこうして可愛いものを愛でるのも仕方ないの!」

祭田「むむうっ……」

かといって、もう少し加減を覚えてほしいものだ……
145 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 16:09:05.63 ID:e39Nie7A0
中後「甲羅君!君に是非とも頼みたい事があるんだ!」

甲羅「んだよ」

中後「君は修理屋なんだろう?だから色々修理してほしい物があるんだ……」

甲羅「やんのはいいけどよ、いったい何をやりゃあいいんだ」

中後「ああ、今ここにはないんだ。だからここを出たらという事になるんだけれど」

甲羅「まっ、いいけどよ。オレは安くねえぞ?」

中後「うっ、ちなみにいくらぐらいが相場だい?」

甲羅「そうだなぁ。普段のもんで……これぐらいか?」

中後「んなっ!?も、もう少し安く……」

甲羅「払えねえなら話はなしだな」

中後「む、むむ……じゃあ、伊勢君を好きにしていいから」

甲羅「よっしゃ、受けた!」

伊勢「待ちたまえ」

込み入った話だからだろうと聞くだけにしていたが、自分の身に関わる事なら話は別だ。

伊勢「中後君、僕を交渉に使うのはやめてくれないだろうか」

中後「し、しかしこの値段は……」

甲羅「オレはなんでもいいんだぜ?ミノルを好きにしていいなら特別にただで」

中後「それでお願いするよ!」

伊勢「却下だ」

その後何とか諦めさせる事が出来た……全く、僕はお金ではないのだがな……
146 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 16:45:53.95 ID:e39Nie7A0
パーティーも盛り上がりを見せている。

最初こそぎこちなさもあったが、今では自然な笑顔が……

「キハハハッ」

伊勢「……むっ?」

月ヶ瀬「楽しんでやがるみたいだなぁ」

食堂の入り口にもたれ掛かるように立つ月ヶ瀬君……なぜここに。

符流「月ヶ瀬だと……!」

甲羅「いったい何の用だ、ああん!?」

月ヶ瀬「おいおい、そんないきり立つなよ。俺はパーティーに来ただけだぜ?」

ダヴィデ「パーティーに?どういう風の吹き回しかしら」

中後「まさか参加できると思っているのかい?」

月ヶ瀬「仲間外れはよくないんじゃないか?」

野場「むむ、確かに!」

姫島「……納得しない」

奥寺「月ヶ瀬さん!」

月ヶ瀬「なんだよ」

奥寺「やっと皆と仲良くする気になったんですね!ぼく嬉しいです!」

百鬼「まさか信じる気か!?」

祭田「キセキ、らしいね」

月ヶ瀬「キハハ、受け入れられたようだしせいぜい楽しもうじゃないか、パーティーってやつを」

伊勢「……」

まさか月ヶ瀬君がパーティーに来るとは……いったい何を企んでいる?
147 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 16:53:35.79 ID:e39Nie7A0
それから僕の、そして周りの予想に反して月ヶ瀬君は何もしなかった。

本当にただ参加しに来ただけなのか、パーティーを楽しんでいる。

奥寺「はい、月ヶ瀬さん!」

月ヶ瀬「キハハ、サンキューだ」

人を疑う事を知らないのか奥寺君は月ヶ瀬君によく話しかけ、いつの間にかそんな彼に影響されたのか……何人かは月ヶ瀬君に話しかけている。

これではまるで疑っている僕が、悪者のようだ。

百鬼「あの野郎、何考えてやがる……」

符流「……」

最も何人かも同じ気持ちか、パーティーどころではなくなってしまったようだが……

そしてその微妙な空気のまま……時計は9時半を示した。

伊勢「ふむ、片付けもある。そろそろお開きとしようか」

イレギュラーこそあったが、パーティーはその後も問題なく進み……概ね成功とみていいだろう。

後片付けを行い、包丁などがなくなっていないか確認、そして全員がホールから戻ったのを確認し……僕は一息ついた。

伊勢「これで少しでも、事件の抑止力となればいいのだが……」

さぁ、見回りの時間だ。

あの笑顔を、失うわけにはいかないからな。
148 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 17:04:33.45 ID:e39Nie7A0
見回りを終わらせて、ホールに戻る。

すると、男子側個室に繋がる扉が開き……符流君が姿を現した。

符流「……」

伊勢「おや、符流君」

符流「いたのか〜♪」

伊勢「ああ、見回りをしていたのだが……君はどこに?」

符流「……あの霊能力者の部屋だ〜♪」

伊勢「紫乃君の?ああ、何かをすると言っていたな……」

僕のように他にも声はかけているはず……ならば、問題はないか。

伊勢「わかった。僕は今回参加を見送っているが、楽しんできてくれたまえ」

符流「……」

伊勢「符流君?」

符流「なんでもない〜♪」

伊勢「ふむ」

なんでもないと言うわりには何か言いたげだったが……
149 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 17:21:45.03 ID:e39Nie7A0
そのままホールに留まるが、符流君は戻ってこない。

ピンポーンパンポーン……

モノクマ「夜十時になりました!」

モノクマ「今から夜時間とさせていただきます」

モノクマ「うぷぷ、生きてたらまた明日」

伊勢「ふむ……」

まだ紫乃君の部屋にいるのだろうか。

少しを様子を見るべきか……そう思って女子側個室へ向かおうと扉を開いた僕の前に。

甲羅「っ!?」

洋子君が立っていた。

その手には、いつも着けているのとは違う指まで隠す手袋を着けて。

伊勢「……」

甲羅「……ミノル、オマエ、まだいたのかよ」

伊勢「洋子君……もし良からぬ事を考えているなら戻りたまえ。僕は全力で阻止するつもりだからな」

甲羅「なっ!?」

伊勢「僕を殺すというなら全力で抵抗しよう。必ず証拠を残す……ただ死ぬだけの結果になるだけだ」

甲羅「っ、うるせえ!!」

洋子君に突き飛ばされて、ホールに戻される。

彼女の瞳は揺れて、このまま放置すれば何をするかは明白だった。

甲羅「ミノルにはわかんねえだろうよ!動機、テメエにはなかったんだろ!?」

伊勢「……聞かれていたか」

甲羅「動機に映った顔が、頭から離れねえ……だけど問題はそこじゃねえんだ」

甲羅「問題はあの野郎が家族に接触出来るって事実だ!オレだけじゃねえ、他の奴だって……きっとそれが一番怖えんだよ!」

甲羅「だから、だからオレは……!」

伊勢「……確かに僕には今回の動機は渡されていない。故に君達の気持ちを、わかるとは言えない」

伊勢「だが洋子君、一つ訂正させてもらう。記憶のない僕にも顔が離れず、失う事に恐怖するほど大切な物はあるつもりだ」

甲羅「なんだよ、言ってみろ!」

伊勢「君達だ」
150 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 17:27:18.78 ID:e39Nie7A0
甲羅「……は、あ?」

伊勢「コロシアイが起きれば僕は必ず君達という大切なものを失う事になる」

伊勢「故に僕は、コロシアイが起きる事に恐怖しているのだ」

伊勢「そうでなければ、誰がこんな役割を進んで行うものか」

甲羅「ミノル、オマエ……そんな風に思ってたのかよ」

伊勢「僕がただ責任感だけでこんな事をしていると思うなら、買い被りという物だ」

伊勢「この数日、短い時間であれ僕は君達を好ましく思っている」

伊勢「たった数日と笑うだろうか?いいや、記憶のない僕だからこそ、この数日の価値を誰よりも理解している」

伊勢「だから僕はコロシアイを起こさせるわけにはいかない」

伊勢「……絶対に」

甲羅「……」

伊勢「君達の抱える恐怖には及ばないかもしれない、納得も出来ないかもしれないが……わかってほしい」

伊勢「僕は、君達を死なせたくないと」

甲羅「……」

伊勢「……」

甲羅「……っ、わかったよ!!ちくしょう、短気なオレがここで引き返すなんて滅多にねえんだからな!?」

伊勢「ありがとう、洋子君」

甲羅「うっせえ!」

伊勢「……」

記憶のない僕には今しかない、だから僕は全てを費やせる。

今日のパーティーや、この見回りがどれだけ微々たる物でも……少しでも最悪の可能性を減らせるならば。

僕は全力で取り組むとしよう。

文字通り、命を懸けて。
151 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 17:41:21.47 ID:e39Nie7A0
【紫乃の部屋前】

伊勢「紫乃君、少しいいだろうか?」

……

ガチャッ

紫乃「なんで、しょうか?」

伊勢「ああ、符流君は来ているかね?」

紫乃「ケン様なら、はいこちらに」

伊勢「そうか。ホールにいたのだが少し帰りが遅かったのでな」

紫乃「ああ、ケン様は今日お泊まりになられるので……」

伊勢「むっ?君の部屋に、かね?」

紫乃「個室以外での就寝は禁止ですが、自分のとは言われていませんから……」

伊勢「紫乃君が構わないのなら、いいのだが……」

異性の部屋に泊まるとは、符流君も大胆な真似をするものだ。

伊勢「わかった。しかしあまり夜更かしはしないように」

紫乃「はい」

パタンッ

伊勢「さて……僕も一度部屋に戻るか」

先ほどの洋子君とのやり取りで理解した。

眠っておかなければ、いざというとき動けない。

まさか洋子君に押されてあそこまで下がるとは思わなかったからな……

【伊勢の部屋】

伊勢「ふむ、それにしてもまさか月ヶ瀬君がパーティーに来るとはな……」

正直なところ、いまだに疑念は晴れない。

しかし、もしも本当にただ参加しに来ただけなら……

伊勢「希望はあるのかも、しれないな」
152 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 18:54:57.75 ID:e39Nie7A0
【6日目】

伊勢「ふむ、六時半か……」

朝食当番になってしまったからな、行くとしようか。

ガチャッ

ダヴィデ「あら、実君じゃない」

伊勢「ダヴィデ君か。今日は僕も朝食当番に参加しよう」

ダヴィデ「あらやだ、嬉しいけど大丈夫なの?」

伊勢「仮眠はとったが……無理はしないようにしよう」

ダヴィデ「わかったわ、じゃあ行きましょうか」

伊勢「ああ」

【ホール】

紫乃「うふふ……ダヴィデ様、実様、おはようございます」

ダヴィデ「おはよう美月ちゃん。あら?ちょっと疲れてない?」

紫乃「少し夜更かししてしまいまして」

伊勢「ふむ、昨日言っただろうに……」

紫乃「うふふ、すみません」

ダヴィデ「昨日?」

伊勢「ああ、紫乃君が昨日……そういえば符流君はまだ?」

紫乃「ケン様もお疲れでしたので」

ダヴィデ「……ははあ、そういう事」

【大食堂】

伊勢「むっ?」

大食堂に入った僕達だったが……なんだ、何かがおかしい。

ダヴィデ「どうしたの実君」

伊勢「いや……気のせいだろう」

違和感を抱えたまま厨房に入って……僕達はその惨状を目の当たりにした。
153 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 18:59:35.97 ID:e39Nie7A0






【厨房は、昨日の夜見た時とはまるで違っていた】

【転がる鍋、割れた食器……】

【しかし何よりも違うのは】

【その惨状の中心に転がる血塗れの身体……】

【ああ、それは見間違いようもない】






154 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 19:05:53.99 ID:e39Nie7A0






【あの駆祭君や月ヶ瀬君さえ根は悪い人間ではないと信じていた彼】

【誰よりも結束を固めようとしていた超高校級の幸運】

【東夕人君】

【彼は包丁を胸に突き立てられて、息絶えていた】






ピンポンパンポーン!!
155 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 19:07:01.74 ID:e39Nie7A0






モノクマ「死体が発見されました!」

モノクマ「一定時間の捜査を行った後、学級裁判を開きます!!」






156 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/04/21(火) 19:07:33.87 ID:e39Nie7A0
今回はここまで。
157 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 21:58:55.99 ID:JH32qSnA0






CASE.1【花開く絶望の種】非日常編






158 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:01:13.46 ID:JH32qSnA0
伊勢「東、君……!」

とうとう恐れていた事態が、コロシアイが起きてしまった。

倒れたままピクリとも動かない東君の身体が、それを逃げようもない形で突きつけてくる。

ダヴィデ「そんな、夕人君……」

紫乃「あ、ああっ……」

共にこの惨状を目の当たりにしたダヴィデ君や紫乃君も、まるで根が張ったかのように動く事が出来ず。

そのまま続くかと思われた停滞は、いくつもの足音によって破られた。

甲羅「お、おい!今のアナウンスって……」

野場「この臭い……血ですか!」

一里塚「えっ、あ、東君……?」

奥寺「うわああああああああっ!?あ、東さ…………あ」バタンッ

姫島「プロデューサー!」

祭田「ユ、ユウト、そんな……やぁ、やだぁ……!」

アナウンスに呼ばれて集まってきた皆が東君の遺体に悲鳴をあげ、泣き叫び、息をのむ。

当たり前だろう、コロシアイが起きたのだから……

昨日まで話していた人間がもう何も言わない屍になったという事実を、即座に飲み込めというのが無理な話なのだ。

だが、今の僕達には東君の死を嘆き悲しむその時間すら……おそらくない。
159 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:05:57.43 ID:JH32qSnA0
伊勢「……モノクマ、どうせ見ているのだろう?」

モノクマ「うぷぷ、呼んだ?」

百鬼「出やがったなくそが……!」

モノクマ「いやー、まさかあんなに楽しいパーティーの次の日にこうなるとはね!ボクもビックリ仰天!」

中後「ほ、本当に東君は殺されたのかい……?」

モノクマ「これで生きていたらむしろホラーだよ!東君は確かに死んだ、殺されたの!」

モノクマ「そしてその犯人はオマエラの中にいるんだよ!」

空気が凍り、誰もが周りに視線を向ける。

僕達の中に東君を殺した人間がいる……それは恐怖、疑念、ありとあらゆる負の感情を抱かせるには余りあるもの。

そんな中でもはしゃぐモノクマと僕達の間には……埋めようのないものがあるのだと改めて理解した。
160 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:07:43.20 ID:JH32qSnA0
モノクマ「うぷぷ、それではまずこれを差し上げましょう!」

モノクマ「ザ・モノクマファイルー!」

ダヴィデ「モノクマファイル……何よそれは」

モノクマ「オマエラは基本素人だからね!死体に関するデータをまとめておいたファイルをサービスしてあげるよ!」

モノクマ「うぷぷ、ほらほら捜査時間は始まってるよ!死にたくないならさっさと行った行った!」ピョーン!

伊勢「……」

悔しいが、モノクマの言葉は正しい。

僕達はこれから学級裁判を行わなければならない……それを乗り越えるためには一秒だとしても惜しい。

伊勢「皆……やれる限りでいい。捜査をしよう」

伊勢「悲しむのも、嘆くのも……悔やむのも、後回しだ」

伊勢「僕達の今やるべき事は、生き抜くために戦う事だ」

自身に言い聞かせながら、僕は東君の遺体に目をやる。

東君……君はいったいなぜ殺されなければならなかった?

そして君は誰に殺された?

それを知るために……僕は全力を尽くそう。

      【捜査開始】
161 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:10:55.24 ID:JH32qSnA0
まずやるべき事は……

伊勢「誰か今いない者を呼んできてくれないだろうか?」

今この場にいないのは符流君、天童君、駆祭君、月ヶ瀬君の四人。

こうして事件が発生した以上、彼らにも捜査をしてもらわなければならないだろうからな。

一里塚「そ、それじゃあ駆祭さんの部屋には私が行くよ……天童くんも多分一緒だよね?」

伊勢「おそらくは……」

百鬼「……月ヶ瀬の野郎はともかく符流はどうしやがった」

中後「ま、まさか符流君も……!?」

紫乃「あっ、いえ……ケン様はまだ寝ていらっしゃると思います……」

伊勢「ふむ、つまり後は……」

月ヶ瀬「キハハ、うるせえなぁ」

伊勢「月ヶ瀬君……」

月ヶ瀬「なんなんだ、変なチャイムが鳴ったかと思ったら、ギャーギャー騒がしい……んっ?」

月ヶ瀬君が東君の遺体を捉えたのか黙り込む。

サングラス越しの瞳はいったい何を思っているのか……

月ヶ瀬「……」

中後「なんだい?急に黙り込んで……」

月ヶ瀬「…………」ドサッ

百鬼「……はあ!?」

甲羅「倒れやがったぞコイツ……」

奥寺君のように、月ヶ瀬君が倒れた……ずれたサングラスから見える瞳は焦点が合っていない。

これはまさか……遺体を見たショックで、気絶したのか?

ダヴィデ「い、意外に、繊細だったのね……」

姫島「……」
162 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:17:16.82 ID:JH32qSnA0
奥寺君と月ヶ瀬君を食堂に運び、再び厨房に戻る。

百鬼「ちっ、まずは現場を見張る役だな……二人決めんぞ」

どうやら見張りについて話し合っているようだな。

野場「二人!一人では駄目なんですか!」

百鬼「アホか、その一人が犯人だったらどうすんだよ。捜査に出払ってる間に襲われる可能性だってあんだぞ」

野場「なるほど!」

さすが百鬼君だな……彼は大きな助けになりそうだ。

……彼が犯人でなければ、だが。

伊勢「話は聞いた、見張り役を立候補する者はいるだろうか」

姫島「……やる」

ダヴィデ「在留ちゃんが?大丈夫なの?」

姫島「……」コクッ

ダヴィデ「……わかったわ、じゃあもう一人はアタシに任せてちょうだい」

伊勢「わかった。姫島君とダヴィデ君に見張りを任せよう」

甲羅「……オイ、ミノル」

伊勢「どうかしたかね?」

甲羅「このモノクマファイルだったか?正しいか検死する必要があんだろ……オレがやってやんよ」

伊勢「それは助かるが、いいのかね?」

甲羅「昨日の事も、あるからな……やらせやがれ」

洋子君なりに、昨日の事に罪悪感があるのだろうか……

伊勢「……では、お願いしよう」

甲羅「おう」
163 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:19:05.60 ID:JH32qSnA0
洋子君が東君の遺体を調べ始めるのを見てから、僕は手元にあるタブレットを起動する。

モノクマファイル……いったいどれだけの情報が載っているのだろうか。

【被害者は東夕人。
死体発見現場は厨房。
死因は左胸を刺された事によるショック死。
被害者は腹部を数ヶ所刺されている】

伊勢「ふむ……」

東君が左胸を刺されて死亡したのは見た通りか……

しかし、この腹部を数ヶ所刺されているとはいったい……

それに一つ気になる部分もある……これは洋子君の検死待ちか。

コトダマ[|モノクマファイル1>を手に入れました。
【被害者は東夕人。
死体発見現場は厨房。
死因は左胸を刺された事によるショック死。
被害者は腹部を数ヶ所刺されている】
164 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:27:40.19 ID:JH32qSnA0
一里塚「あ、あの……天童君連れてきたよ」

天童「東様が、亡くなられたと聞きました。微力ながらわたしもお手伝いします」

伊勢「……駆祭君はどうしたのかね」

天童「はやてお嬢様は、捜査をわたしにお任せになられました」

一里塚「自分では調べないのって聞いたんだけど……必要ないって。後、あの」

伊勢「……何か言われたのだろうか?」

天童「伊勢様にはやてお嬢様からの伝言を……よろしいでしょうか?」

伊勢「ああ、構わない」

天童「【破滅したのはどちらかしら】、との事です」

伊勢「…………心に、刻んでおこう」

一里塚「あっ、それでね伊勢君。こっちがパーティー始めた頃から今朝まで天童君と駆祭さんは一緒にいたって」

天童「はい、はやてお嬢様とわたしは共にいました」

伊勢「……なるほど」

コトダマ[|天童と駆祭のアリバイ>を手に入れました。
【天童と駆祭は昨日のパーティー開始頃から今朝まで一緒にいたらしい】
165 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 22:53:16.66 ID:JH32qSnA0
伊勢「しかし、この惨状は酷いな……」

遺体のインパクトが大きいが、厨房の変化はそれだけではない。

散乱した調理器具、割れた皿やグラス……

下手に動けば怪我をしかねないな……

ダヴィデ「昨日は、こんな風じゃなかったわよね」

伊勢「間違いない。9時半に片付けを始め、最後にチェックをした時にはこんな状況ではなかった」

姫島「……」

伊勢「その後見回りをしたが……昨日はパーティーの相互監視もあったため5分もかけていない」

伊勢「その後10時のチャイムまで僕はホールにいたが……その時会ったのは紫乃君の部屋に行く符流君だけだ」

ダヴィデ「5分でこれは無理よねぇ……見るからに夕人君と争ったって感じだし」

伊勢「つまり、東君は僕達が厨房に行く6時半過ぎまでの間に殺されたという事になるのだろうか……」

コトダマ[|厨房の惨状>を手に入れました。
【厨房は調理器具が散乱し、皿やグラスが割れていた。
昨日伊勢がチェックした時にはそうなっていなかったため、東と犯人が争ったと思われるが……】

コトダマ[|ホールの見張り>を手に入れました。
【伊勢は10時のチャイムが鳴る頃ホールにいたが、その時食堂を出入りした人間はいなかった】

コトダマ[|犯行時間>を手に入れました。
【厨房の状況から犯行が行われたのは厨房の開く6時から6時半頃までの可能性が高い】
166 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 23:08:38.60 ID:JH32qSnA0
符流「……なんだこれは〜♪」

捜査をしていると符流君が厨房に入ってきた。

どうやら今起きたようだな……

伊勢「コロシアイが起きてしまった……符流君は今まで紫乃君の部屋に?」

符流「そうだ〜♪さっきあの女に起こされるまで寝ていた〜♪」

伊勢「ふむ」

紫乃君と符流君が共犯でない限りアリバイ成立の可能性が高いな。

伊勢「昨日紫乃君の部屋に行ったのは符流君だけなのだろうか?」

符流「そうだ〜♪」

伊勢「やはりそうか……紫乃君は僕にも声をかけていたから他に行った人間がいればまとめてアリバイ成立だったのだが」

そうはうまくはいかないか……

符流「それとあの女から伝言だ〜♪」

伊勢「伝言?」

符流「霊能力を使う準備をするから部屋にこもるそうだ〜♪」

紫乃君の霊能力か、それは事件の解決に大きく近づきそうだ……

コトダマ[|符流と紫乃のアリバイ>を手に入れました。
【符流と紫乃は昨日の夜から一緒にいたようだ】
167 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 23:18:07.44 ID:JH32qSnA0
甲羅「ミノル、終わったぞ!」

伊勢「ありがとう洋子君、それでどうだろうか」

甲羅「まず死因は間違いなく胸の包丁だ。腹にもぶっ刺された傷がいくつかありやがった」

伊勢「なるほど……モノクマファイルは正しいか」

甲羅「だけどおかしい事がありやがる」

伊勢「おかしい事?」

甲羅「こいつが死んだの、多分深夜だ」

伊勢「深夜?」

甲羅「オレの知識じゃ詳しい事は言えねえけど、少なくとも日を跨ぐか跨がねえかってとこだと思うぜ」

伊勢「……」

だとすれば、なぜ東君の遺体はここにあるのだろうか……

甲羅「後刺されたのは腹が先だ。殺された後腹を刺されたわけじゃねえっぽい」

伊勢「ふむ……」

コトダマ[|甲羅の検死>を手に入れました。
【東が殺されたのは夜0時前後の可能性が高い。
刺されたのは腹部が先のようだ】
168 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/05(火) 23:31:48.79 ID:JH32qSnA0
伊勢「東君、調べさせてもらおう」

東君の遺体の左胸には包丁が深く突き刺さっている。

腹部の傷も深いな……これではどちらにせよ東君は……

伊勢「……むっ?」

この包丁……厨房にあっただろうか?

伊勢「それに東君の眼鏡がないな」

いったいどこに……

野場「むむっ!伊勢隊長!こんなところに眼鏡が!」

野場君が持ってきたのは、間違いなく東君のかけていた眼鏡。

レンズは砕けてしまっているようだ……床に散らばっている。

コトダマ[|東の遺体>を手に入れました。
【東の刺傷は胸、腹部両方が深くどちらだけでも死亡していたと思われる】

コトダマ[|東の眼鏡>を手に入れました。
【東がかけていた眼鏡。
レンズが砕けて床に散らばっていた】
169 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/06(水) 00:05:46.56 ID:pnUXjKRA0
東君の胸に刺さっていた包丁……あれはどうも普段僕達が使っている包丁とは別物のような気がする。

伊勢「……」ガチャ

棚を覗くと包丁は他の物とは違い、全て揃っていた。

伊勢「……」

棚の包丁はそのまま……しかし東君の胸にも包丁。

これが意味する事は……

コトダマ[|凶器の包丁>を手に入れました。
【東の胸に刺さっていた包丁。
厨房にあるものとは違うと伊勢は感じた】

コトダマ[|厨房の包丁セット>を手に入れました。
【厨房の棚にある包丁は全て揃っていた】
170 : ◆5IONXlxNzTMN [saga]:2020/05/06(水) 00:42:40.13 ID:pnUXjKRA0
百鬼「んっ……?」

食堂に出てみると百鬼君が首を傾げている。

何かあったのだろうか?

伊勢「百鬼君、どうかしたのかね」

百鬼「いや、昨日のパーティーでよ……奥寺の奴がジュースこぼしやがったんだよ」

伊勢「ふむ、それで?」

百鬼「その時はもう遅えし、明日掃除すりゃいいって事になったんだが……その染みがなくなってやがる」

伊勢「染みがなくなっている……?」

少なくとも、昨日ここの床を掃除してはいない。

ならばなぜ染みが消えたのか……

コトダマ[|消えた染み>を手に入れました。
【昨夜食堂の床にこぼされたジュースの染みがなくなっていた】
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