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【艦これ】山城「不幸のままに、幸せに」
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221 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/21(土) 11:28:07.67 ID:pQ00XHC/0
戦うことは大事なことだ。戦わずして、真に大切なものは守れない。しかしそれと同時に、同じくらい、誰かを助けることは重要なはずだった。
怒りが鎌首をもたげる。
「……免罪符になるとは思いませんが、艦娘になる人間などみぃんなワケありです。古株は、特に。あの態度が本心なのかそうでないのか青葉にはわかりませんが、偏屈で頑ななだけでは呉という大所帯を率いることはできないでしょう。
きっと、理由があるんだと思います。それとなく調べてみますよ」
「余計な詮索はしないほうがいいんじゃない」
「よく言われます」
青葉は頬を掻いた。
「それでも、ねぇ、山城さん。自分にもっと力があれば、だなんて、きっと殆どの人が思うことです。青葉だってそうです。
このまま作戦が何事もなく終わって――少なくとも表面上は――加賀さんとお別れした時、きっとモヤモヤが残るでしょう。青葉はそれが嫌なんですよ。もっとできたはずだと、うまくやれていればこんなことにならなかったのにと生きていくのは」
222 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/21(土) 11:30:12.03 ID:pQ00XHC/0
歌うように諳んじる青葉の口調は、どこまでも突き抜けていくほどあっけらかんとしていて、まるで彼女の言葉だけが重力から解放されているようだった。
どこを見て言っているのか。誰に向けて言っているのか。不明瞭なほど曖昧な言の葉。
「トラックも――」
「え?」
「や、や。なんでもありません。なんでも……」
そこでくるりと、踵を軸に一回転して見せる青葉。軽快なステップを踏み踏み、三叉路を私とは別方向、ドックへと向ける。
「そろそろ夜警が戻ってくる時間帯です。青葉、そっちに少し用があるので……今夜のことは、山城さん、あまりお気になさらず。引きずってもいいことはありませんよ」
「……ありがとう。わかっているわ」
わかっているのだけれど。
悔いて、嘆いて、人生を棒に振るとは言わないまでも、囚われて執着して、そんな生き方はしたくない。青葉の言うことは尤もだ。それでも、悔悟なしに幸せな人生は送れまい、とも思う。
223 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/21(土) 11:33:54.95 ID:pQ00XHC/0
「……ねえさま」
諦念に満ち満ちたあのひとの人生に、果たして悔悟はあったのだろうか。「そういうものだ」と割り切ることは、幸福を希求する一助になるのだろうか。
私は……。
「負けない。死なない」
幸せになってやる。
『連絡。全艦娘に連絡』
アラームが脳内へと響く。識別番号の主番は佐世保、枝番は00――つまり提督直々の通達である。
『夜の哨戒班が、敵哨戒群と思しき一団と接敵、及び交戦、これを撃退した。一時間後、緊急のブリーフィングを行う』
「……来たか」
224 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/21(土) 11:40:34.14 ID:pQ00XHC/0
―――――――――――――――
ここまで。
ラストバトル突入。
「ギャルゲー」「潜水艦泊地」と続いたお話も、もう少しでおしまいとなります。
最後までよろしくお願いします。
225 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 11:58:55.01 ID:0O6plnNPo
乙
そうか、もう長くないのか
最後まで付き合いますよ
226 :
◆yufVJNsZ3s
[sage saga]:2020/03/21(土) 12:40:01.07 ID:pQ00XHC/0
こっから無尽蔵に描写が増えて長くなります。
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 14:23:35.63 ID:g2tShfbyo
おつおつ
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 19:51:48.35 ID:H4IBT/zYo
お疲れ様です
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/21(土) 22:50:10.19 ID:scL0oBCpO
ギャルゲーから読んでますよ
どれも好き
だか待つぞ
230 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 13:55:14.92 ID:S0LjOGb+0
ばたばた、ばたん。
階段を駆け上がる音、扉の開け閉め、あるいはクローゼットのそれ、壁越しの話し声。
蛍光灯は灯り、外の投光機は会議室までの道を照らす。購買に幾人も駆け足でやっていき、また駆け足で出ていく。
俄かな慌ただしさ。それも当然だろう。敵作戦群と思しき集団との邂逅が昨日の今日とは、運がいいのか悪いのかわからない。あまりにも生き急ぎ過ぎている。
緊急のブリーフィングは一時間後、大会議室で行われる予定となっていた。参加者は、呉、パラオ、CSARから六名ずつ、そして佐世保からの選抜六名。勿論佐世保はメインを張る都合上、その他部隊も指揮しなければならない。
通信が入った。佐世保の通信網に乗っていない、独自のもの。
231 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 13:56:29.95 ID:S0LjOGb+0
『点呼。番号を』
後藤田提督の声。野太く、低い。それだけ身が引き締まる。
『一番、大淀、います』
『二番、不知火』
『グラーフ・ツェッペリン。準備は万端だ』
『ポーラ、よーん』
『ご、ごぉっ! 大鷹、ここに!』
「山城。六番」
『よし。各自身だしなみを整え、適宜飲食を済ませてから、定刻五分前に会議室へ集合だ。艤装はひとまずいらない。質問は』
『哨戒班は無事だったのですか? 不知火たちが出張る必要は?』
『ひとまず無事らしい。小破が二名、と報告は受けている』
『了解しました』
232 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 13:59:38.39 ID:S0LjOGb+0
『後藤田提督』
『どうした、淀の字』
『今回の作戦目標は』
『会議次第だが、恐らく敵戦力の壊滅、あるいは特定期間の邀撃達成ということに――』
『失礼。遂行基準については、どうお考えですか』
空気を呑む音が通信越しでも聞こえてきそうだった。私にはそれが、後藤田提督のものなのか、はたまた他の隊員のものなのかわからない。
通信は傍受に強い秘匿通信を使っている。私たちは今回の作戦において、佐世保基地のローカルネットワーク上に構築された作戦用の通信網と、並行して我が「浜松泊地」の秘匿通信を使い分けなければならない。
『……淀の字、おめぇ』
『失礼。いじわるが過ぎましたかね』
『性格悪いって言われるだろ』
『えぇ、よく、あなたに』
『……?』
少しばかり流れの読めない会話が続く。それは単なる軽口とは違っていて……なんだか、どちらも苦虫を噛み潰しているよう。
233 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:01:16.70 ID:S0LjOGb+0
『……少し、考える。時間をくれ』
ともあれ内容は理解できた。大淀が言っているのは、つまりこういうことだ。「佐世保や呉、パラオの行動理念と、我々CSARの行動理念は違うのではないか」。
深海棲艦を撃滅せんとする彼女たちと、隊列から落伍した兵士を救わんとする私たちでは、当然倫理や規範、規準が変わってくる。作戦の大義の中にあってなお、我々が追求すべきは果たしていかなるものなのか、大淀は問うているのだ。
救助部隊と言えど、第一線に立って砲を打ち、機銃を構えることはできる。援護が一人でも欲しい場面は多いだろう。その場に私たちがいたとして、同時に負傷者が海に浮かんでいたとすれば、さてどちらの選択をとればいいのか。
銃後の存在と言えども、前線に立てるのがCSARの存在意義。追加の戦力として期待されるだけなら、別段「浜松泊地」でなくてもよくて、どこか他の基地から数人を引っ張ってくればいいだけの話なのだ。
後藤田提督は嘗て私に言った。今日を生き延びる気のない人間を仲間にはしないと。それは決して仲間を見捨てて逃げろと言う意味ではないはずだ。
234 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:01:46.16 ID:S0LjOGb+0
大淀は静かに了承の言葉を唱えた。あとに続くものはいない。
『……それじゃあ、各自、また会おう』
通信が切れる。
私は大きく呼吸した。
新鮮な空気を頭に取り込む。活性化させる。明朗化させる。始まってから、動き出してからおっつけたのでは間に合わない。微々たる準備でさえ大きな差が開く。私はそのことを知っている。
現状敵戦力の多寡や目標はわかっていない。ならば考えることは他にある。艦娘の運用方法、指揮系統、それらに対する心構えと交戦規定の再確認。
基本的に艦娘は出撃と休息を一定の間隔で繰り返す。作戦と動員の規模にもよるが、過去に私のいた泊地では、最も忙しいときで六時間ごとの交代頻度だった。人手が足りていたり敵の数が少なければ一日、もしくは一日半の休息を挟むこともあった。
今回はどうか。哨戒班が交戦したという敵群が本当に件の「イベント」のものなのであれば、規模は最悪で極大を想定してもよさそうだ。
大規模作戦の裏をかかれた本土襲撃は数年前であっても記憶に新しい。あれに匹敵するならば一日三交代、あるいは四か……?
235 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:04:55.67 ID:S0LjOGb+0
しかし、とはいえ、ここは佐世保鎮守府。何も総勢二十四名でことにあたらなければならないわけではない。そもそも私たちは救難救助がメイン、出撃のスパンは異なるだろう。
「山城」
壁に背中を預けながら、こちらへと手をひらひらさせるのは不知火だった。ゼリーの袋を咥えて、もう中身はないのだろう、空気を送り込んでぺこぺこ音を鳴らし遊んでいる。
「いっきに騒がしくなったわね」
「仕方がありません。やっこさんも、せめて昼に出会ってくれればいいものを」
夜の戦闘は聊か勝手が違う。空母の大半は夜目が効かないし、照明弾や探照灯がなければ誤射の可能性も上がる。そして私たちだって、捜索に悉く難儀するだろう。
この騒がしさや慌ただしさが杞憂とまではいかなくとも、せめて一時のものであればどんなにいいか。
「当たりを引いたってことよ。それとも、外れ?」
「ま、早く帰られるならそれに越したことはありませんね」
236 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:05:40.80 ID:S0LjOGb+0
「それもそうだけれど」私は唇を湿らせて、宙を仰ぐ。「最初のブリーフィングのときに説明された海域の図を覚えている?」
「台湾とフィリピン……東シナ海からインド洋まで」
「かなり広範に渡るわ。それをローラー作戦で絞り込んでいくと言う話だったはず」
「そうですね」
「随分と接敵が早かったと思ってね。そもそも、交戦した敵群が本当に『イベント』の作戦群だという根拠はあるのかしら?」
「事前調査はパラオと佐世保が行っていたはずです。本部の主導で。本来当該海域には出現しないと目されているタイプの深海棲艦、それが発見されたために優先度が上がったと聞きましたが」
「聞いた? 誰から?」
「青葉です」
ぺこっ、ぺこっ。不知火は膨らませたり凹ませたりをやめる気配がない。
「……不快ですね。実に、不快です」
「不知火?」
「失礼。不知火と大鷹は、重要な作戦というものに嫌な過去がありまして」
237 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:07:16.21 ID:S0LjOGb+0
「……私だって、そうよ」
裏切られたり、いいように使われたり。そんなものには飽き飽きしている。
結局のところ私たちなぞ一介の兵士でしかないのだろう。大局的な視点を持たず、右往左往するだけの愚かな生き物。少なくとも、一部の上層部はそう考えているに違いない。
そうでなければ、私も、不知火も、大鷹も、ここにはいない。
「腹が立つわね」
零れた言葉に、不知火が怪訝な目でこちらを窺ってくる。
業腹だった。実に、業腹だった。それは。
この世にはどうしようもないことが数多く、本当に夥しいほどあって、だから古今東西問わずにこの世の理不尽や不条理を描いた絵、唄った詩が山積している。それらは時代と人によってさまざまで、社会構造や身分階級、性別、成功と失敗、
……幸運と不幸。
どうしようもないことをどうしようもないとして生きていくのは、実に簡単なことだった。全てのあらゆる困難に立ち向かうことは、恐らく、熱量的に不可能だから。
それでも――それだからこそ、私は幸せを求める。
238 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:07:43.55 ID:S0LjOGb+0
「時間です」
不知火がついに空き容器をゴミ箱へ放り込んで言った。空中を二度タップするとログイン画面が表示され、その右隅には現在時刻が示されている。
いきましょう。不知火に促されて私たちは会議室へと向かった。指示通り、定刻の五分前。
既に会議室はごった返していた。佐世保、呉、パラオ。一通りそろっている。CSARの面々も、一塊になって席を陣取っていた。大淀と青葉がまだ来ていないようだ。
私たちの姿を見つけてポーラはひときわ大きく手を挙げた。さすがに酩酊はしていないようだ。柔らかな美少女の姿がそこにある。
後藤田提督は軽くこちらに目をやっただけで、腕を組んで何か難しい顔をしていた。そんな彼の様子を察してか、グラーフと大鷹もまた落ち着かないふうに見える。
加賀もいた。目を瞑って微動だにしない。隣には呉の杉崎提督がいて、後藤田提督と同じような思案顔。
パラオの霧島はまだ来ていなかった。空席を隣において、敦賀提督が忙しく爪を噛んでいる。苛立っている? 焦っている? わからない。
夕立と三神提督は何やら話し込んでいた。どちらも和気藹々としていて、この二人の周囲だけが少し空気を変質させている。佐世保というホームだからなのか、緊張というものと無縁なだけなのか。
239 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:08:40.65 ID:S0LjOGb+0
時間になった。ベルが鳴る。
いつの間にか来ていた青葉、大淀、そして霧島の三名が、扉を閉める。
「さて、皆さん」
大淀が一際とおる声を投げかけると、それまで喧噪に包まれていた会議室内が、しぃん、水を打ったように静まり返る。だがそれは、不思議な静けさだった。誰もが大淀の言葉を待っているというよりは、寧ろ……。
「どうして、大淀が……?」
不知火が呟く。
そうだ。その通りだ。
この会議室の殆どの人間が、だからこそ、その思いで大淀を見ていることは明白だった。
即ちこの静寂の正体は困惑。
240 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:09:06.89 ID:S0LjOGb+0
「――たった今この部屋の通信網を一時的に隔離しました。外部と連絡はできません。拳銃もセーフティはおりません」
は?
「青葉さん」
「はいっ!」
青葉は鋭く応じて、
「みなさん、我々は嵌められています。この作戦は仕組まれたものです」
と、言った。
241 :
◆yufVJNsZ3s
[saga]:2020/03/22(日) 14:10:27.32 ID:S0LjOGb+0
―――――――――――――
ここまで
速度あげてこ
待て、次回。
242 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/22(日) 18:00:17.44 ID:1XPuRI6Lo
お疲れ様です
舞ってる次回
243 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/23(月) 03:55:07.81 ID:ATBK6/9Vo
乙。
ファッ!?
何か陰謀の臭い!
244 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/17(日) 15:45:49.76 ID:qcEHSx0So
まつわ
245 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/12(土) 22:02:42.15 ID:U5lsmz7k0
もうこないのか……
246 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/14(月) 15:04:09.52 ID:7v6ZoaRyo
来て欲しいが、主にも色々あるんだろう
信じて待つしかない
247 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/09/14(月) 23:07:56.51 ID:tUnmGxVro
他のSSで一から書き直してるっていってたからゆっくりかな。
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