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346プロの奇怪な夏
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:09:48.46 ID:4nkCagHl0
これはモバマスssです
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1566198588
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:10:52.50 ID:4nkCagHl0
◯◯◯さん
「P.C.Sの三人が休み?」
夏も盛りの八月一日。
ほんの数日前までは雨と曇りの連続でそこまで暑くない日々が続いていたと記憶しているが、それが遠い彼方の事の様に感じられる程、猛暑がここ数日を無限に感じさせていた。
何処に潜んでいたのだろう蝉の大群が街を我が物顔でコンサート会場とし、空では太陽が何をそんなに張り切っているのかひたすらに存在感を主張している。
世間の学生はこの暑さに、休みに向けてワクワクしながら立てた予定に首を絞められ嫌気がさしている事だろう。
海やプールは何処も満員電車を超える混雑具合だろうと言うことは、現地に赴かなくても分かる。
友達との遊びの予定が立たず、かと言って家で何もせず過ごすのも勿体ないと思った小・中学生組はよく事務所に来て遊んでいた。
冷房は勿論の事、購買、知り合い、トレーニングルーム等々求める物はなんでも御座れ。
何より安全面・防犯面においてはそこらのアミューズメント施設とは比にならないレベルなので、親御さんも安心されている事だろう。
つい先ほど隣の部屋で、夏休みの宿題をやっている子と飽きて落書きしている子を見かけた。
まぁ、そんな夏が夏として続き、八月に入った今日この日。
アシスタント兼事務員の千川ちひろから、アイドルユニット『P.C.S』の三人が体調不良で休みと報告を受けた。
島村卯月、小日向美穂、五十嵐響子の三人が同時に体調不良となると、当然ながらレッスンも仕事も何も出来ない。
ありがたい事に今週は特に予定が無かった(とはいえレッスンの予定はあったが)ので、トレーナーさんに連絡するのみで済む。
「ここ最近暑かったですから……熱中症じゃないと良いんですけど……」
「レッスンルームのエアコン、調子悪かったりしましたっけ?」
「その様な報告はありませんけど……プロデューサーさん、彼女達のスケジュールの方は大丈夫ですよね?」
「はい、響子の誕生日ライブがある八月十日まではレッスン以外入っていません」
逆に言えばそれまでに体調を治して貰わないと、本当に大変な事になる訳だが。
特に病気や怪我でないただの体調不良ならば、そこまで心配しなくて大丈夫だろう。
普段から熱心にレッスンに取り組んでいた彼女達ならば、数日の休みでの遅れ程度なら、直ぐに取り戻せる筈だ。
……三人同時に、か。
一人でも体調が治るまで、暫くは完全にストップだな。
「……三人が最後にロケに行ったのっていつでしたっけ?」
「三人一緒に、ですか? 確か六月の『関東タピオカリポート』だったと思います」
「六月か……なら大丈夫そうですね」
「…………?」
それは原因とは関係なさそうだ。
いや、寧ろそういった可能性の方が圧倒的に低い事くらい理解している。
ロケに行ったからと行ってその都度何かあったのでは、芸能界なんてとうに滅びている。
首をかしげるちひろさんを放って、俺はパソコンに向き直った。
この後は外回りだが、どうやら外の気温は三十度をゆうに超えているらしい。
空調の壊れた日本には一刻も早くメンテナンスか秋に入って頂きたいが、まぁそうもいかないだろう。
冷感スプレーとボディペーパーに全てを託し、覚悟を決めるまでの時間稼ぎにキーボードを叩き続けた。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:11:42.90 ID:4nkCagHl0
「暑い……ダメだ、夏滅べ……」
結論から言って、夏の暑さは人類の手に負える範疇を超えていた。
自然と悪くなる口をそのままに、冷房の効いた事務所の部屋でソファに座り込む。
事務所は良い、蝉も鳴いてないし陽炎も無い。
このままソファの住人になりたいなどと間抜けな事を本気で検討しつつ、バテない様にお茶と飴玉を摂取する。
「あ、良いもの持ってますね〜。私にも一つ頂けませんか?」
「ん、鷹富士さんか。お疲れ様」
「お疲れ様です、プロデューサー。すっごくお疲れみたいですね〜」
「なんで喜んでるんだ」
「弱ってるプロデューサーも可愛いなぁ、なんて思ってませんからっ!」
なるほど、なかなか性格がひん曲がっている。
隣に腰を下ろしてきた鷹富士さんに、飴玉を一つ渡す。
そろそろストックがきれそうだ、はやいうちに補給しておかないと。
「……食べないのか?」
「プロデューサーにプレゼントして貰ったものですから、とっておこうかなーって考えてました。可愛らしくありませんか?」
「自分で言うのか」
まぁ別にあげたものだからいつ食べようが何も言わないが。
プレゼントが飴玉ってどうなのだろう。
いや、喜びそうなアイドルも何人かうちの事務所に居るけれども。
「お仕事の調子はどうでしたか〜?」
「絶不調。打ち合わせ相手も暑さでグダグダだったよ」
喫茶店に入ってしばらく、お互い愛想笑いを浮かべつつもシャツをパタパタやっていた。
アイスコーヒーを何杯飲んだか、お互いの合計が6を超えてから数えるのをやめた程だ。
「そんなにコーヒーばっかり飲んだら、体調崩しちゃいますよ? ええと……コカイン中毒でしたっけ?」
「カフェイン中毒な、そんな危ないものはコーヒーに含まれてない」
ん、そうだ。
体調を崩すで思い出した。
「鷹富士さん、複数人が同時に体調を崩したらどう思う?」
「熱中症ですね〜。最近は暑いですから、ロケ中に水分補給を怠ると大変な事になっちゃいそうです」
「まぁそうだよなぁ」
「あとは……それって、事務所のアイドルのお話ですよね?」
「そう。まぁ多分本当にただ体調が悪いだけなんだろうけどな」
ふむふむ、と言った様に顎に手を当てる鷹富士さん。
時折チラチラこちらに視線を向けてくるが、どうしたのだろう。
「……集中してる女の子の横顔って、こう、グッときませんか〜?」
成る程、何も考えていなかった、と。
「そろそろ帰るか。明日もあるし」
「明日が無かったら大問題ですからね〜」
よし、帰ろう。
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:12:14.28 ID:4nkCagHl0
帰宅してシャワーを浴び、即缶ビールを一本空ける。
それから一応今日休んだ三人に『大丈夫そうか?』と、それから『トレーナーさん達にも伝えてあるから、ゆっくり休んでくれ』とのラインを個別に送る。
普段の行いの良さもあり、三人同時に体調不良というサボりに疑われそうな事態でもトレーナーさん達は微塵も疑わなかった。
まぁその分、今後のレッスンは多少厳しくなるだろうが。
ピロンッ
卯月から返信があった。
卯月『ご迷惑お掛けします。出来るだけ早く治して頑張ります!』
画面の向こうで両腕でガッツポーズをする卯月の姿が浮かぶ様だ。
P『お大事に』
既読は着いたが、それ以降のやりとりはなかった。
おそらく寝たのだろう、と信じたい。
電話が好きな彼女の事だ、もしかしたら他の誰かとお喋りしている可能性もあるが。
それこそユニットメンバーである美穂や響子と喋っているかもしれない。
それから暫くして、今度は響子から返信があった。
響子『迷惑かけちゃってすみません。ご飯もしっかり食べたので、直ぐに治ると思いますっ!』
P『何食べたんだ?』
響子『ハンバーグです!』
ヘヴィ過ぎる。
まぁハンバーグが食べられるくらい体調は回復しているのだろう。
響子『ところでプロデューサーはちゃんと三食食べてますか?』
目の前のテーブルに視線を移す。
缶ビールが一本、以上。
P『食べてるぞ、夏バテしたら大変だからな。今も一汁三菜のしっかりした夕飯を食べてたところだ』
響子『ちゃんと食べずに嘘吐いて誤魔化そうとする悪い子のお世話も慣れてますから大丈夫ですよっ!』
何故バレた。
イタズラを隠していたが母親に普通にバレていた息子の様な気持ちになる。
P『今インスタントだけど味噌汁作り始めたよ』
響子『信じますからね?』
P『おう、響子も早く休むんだぞ』
そう返信して、俺はお湯を沸かし始めた。
後ろめたいと言うかなんと言うか。
響子相手に嘘をついても見抜かれてしまうし、何より母親に嘘をついているような罪悪感がする。
ビールと併せて胃袋がちゃぷちゃぷになってしまいそうだが、案外合うかもしれない。
それからその夜は、美穂からは返信は無く。
少し、嫌な予感がして。
ビールと味噌汁は想像通り合わず。
床に着いてから二回、お手洗いに向かう羽目になった。
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:13:09.27 ID:4nkCagHl0
翌日。
結局今日も、P.C.Sの三人は体調不良で休みだった。
昨日の今日で治らない場合もあるだろうし、予想の範囲内ではある。
けれど未だに美穂からの返信は無い事は、多少の気がかりだった。
ちひろさんの方には体調不良で休むという旨の連絡が行っているだけに、少し凹む。
「卯月ちゃんは少し熱が出ちゃってるみたいです。もしかしたら明日も休む事になるかもしれない、と言っていました」
「了解です。俺からもゆっくり休む様に言っておきます」
窓の外では今日も今日とて、腹が立つくらい眩しい太陽が空を埋めていた。
改めて、夏と言う季節が嫌になる。
昔はあれだけ待ち焦がれた季節だと言うのに。
今ではもう、他の季節に比べて長い陽は、拷問時間の延長としか思えなくなってしまった。
夏、か。
海や山等のレジャー。
夏休みの宿題、自由研究。
ホラー特番や特別ロードショー。
懐かしさで、あの頃は良かったという感情で胸が締め付けられる。
「あ、プロデューサー! おはようごぜーます!!」
「ん、おはよう仁奈。あの頃は良かったよな」
「……? プロデューサー、頭沸いてるでごぜーますか?」
「……最近暑いからな、ちょっと茹だっちゃってたかもしれないな」
おそらく一切悪意の無いであろう発言だと言う事は分かるが、九歳の女の子に笑顔で言われるとくるものがある。
前日の夜に見たドラマか映画にでも影響されているのだろう。
市原仁奈は夏休みに入ってから女子寮にお泊りしていると聞いているが、他のアイドルの口調に影響されたとは考え難い。
タヌキの着ぐるみの様な服に身を包んだ仁奈は、そのままソファへと沈み込んだ。
「お外は暑くて焼き狸になっちまうです……」
「今日も35度超えてるからな。外で遊ぶのは厳しそうだ」
「じゃあプロデューサーの秘密を暴くでごぜーます!」
「……わ、悪い事なんてしてないぞ。本当だぞ」
「プロデューサーさん?」
ちひろさん、ニコリと笑顔で圧力を掛けないで頂きたい。
俺だって突然秘密を暴くとか言われてビビったのだから。
ガサゴソと着ぐるみのポッケから、一冊の本を取り出す仁奈。
それポッケあったんだ、と少し興味が湧く。
頭は沸いていない。
「質問するから、素直に答えやがって下さい!」
「取り調べが始まった」
「目の前に花壇があります! どのくらいの広さでやがりますか?」
「心理テストだった」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:13:35.20 ID:4nkCagHl0
心理テストか……学生時代に流行ったものだ。
クラスが変わった直後や修学旅行の電車の中で。
やれあいつはスケベだの、お前はバカだの。
「うーん……ちひろさんは?」
「私は今仕事に熱中しているので巻き込まないで下さい」
そう言いつつも俺の回答に耳を傾けないで欲しい。
寮の皆んなと一度やった心理テストだろうから、変な問題ではないだろうが。
「……それじゃ、すっごく広い花壇だな。学校のプールくらい」
「そんな花壇あるですか?」
「もうお花畑ですよね。あ、花壇の話であってプロデューサーさんの頭の事ではありませんよ?」
各方面からフルボッコである。
心理テストの回答でここまで言われる必要はあるのだろうか。
「で、これで何が分かるんだ?」
「あなたの……よっきゅーふまんど? でやがります!」
「…………」
なんつーテストをしてやがるんだ寮の子達は。
いや、年頃の女の子だけだからこそこう言う問題で盛り上がれるのだろうが。
どうやら仁奈は欲求不満の意味を分かっていない様で、首を傾げている。
「仁奈、他の質問にしないか?」
「プロデューサー、よっきゅーふまんどって何でごぜーますか?」
「助けて下さいちひろさん」
「えっ、こっち見ないで下さいよ変態欲求不満プロデューサーさん」
心理テストだから。
結果を間に受けないで頂きたい。
「……りょ、寮でも流行ってるのか? 心理テスト」
「はい! テレビでやってたでごぜーます!」
まあ、このシーズンだからな。
心理学者をお呼びして芸能人の恋愛観等をテストしたり、霊能者をお呼びして芸能人の恋人関係を暴いたり。
夏休みで夜に暇を持て余す学生の心を掴むにはもってこいだろう。
インチキを暴く番組が昔流行り、今は一周回ってそういうのが流行り出した感じもする。
「小梅さん達はテレビでやってた……なんとか村? に行ってみたいって言って旅行に行きやがったでごぜーます」
村と言う時点で嫌な予感しかしないが、白坂小梅がいるなら大丈夫だろう。
おそらく連れて行かれたであろう輿水幸子には両手を合わせる他無い。
「じゃあ、次の質問でやがります!」
「ばっちこい」
欲求不満から話を逸らせるのであれば何でも良い。
「プロデューサーは誰が好きでごぜーますか?!」
思ってたのと違う質問をされた。
余りにもど直球過ぎる。
「……ち、ちなみにそれで何が分かるんだ?」
「プロデューサーの好きな人でごぜーます!」
それはそうだろう。
と言うかこれ、心理テストか?
「……アイドルの皆んなだよ」
「日和りましたね」
「絶対そう言いやがるだろう、って寮の皆んなが笑ってたでごぜーます」
……信頼されてるのだと思おう。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:14:01.67 ID:4nkCagHl0
「欲求不満プロデューサー、そろそろ帰りませんか〜?」
「なんで知ってるんだ鷹富士さん」
夕方、窓の外が紅く染まる頃。
蝉の鳴き声が小さくなる中、鷹富士さんは悪戯っ子の様にニヤニヤしながら覗き込んで来た。
無視をしてディスプレイに向き直る。
「あんまり根を詰めるのも良くありませんよ〜?」
「P.C.Sの三人が復帰した時に少しでも負担を減らせる様にな」
「流石、好きな人を聞かれて『アイドルの皆んな』って答えちゃうアイドル大好き人間ですね」
「なんか棘ないか?」
カタカタとキーボードの音が鳴り響く中、ディスプレイに反射して映った鷹富士さんの顔は、少し唇を尖らせていた。
良いだろう、本当の事なのだから。
「……美穂ちゃんから、連絡はまだ無いんですか?」
「無い。卯月からは『熱が下がってきた』って連絡があったけど」
「卯月ちゃんは大丈夫そうですね〜」
「多分な。響子も大丈夫……だとは思うんだが、美穂に関しては全く分からん」
何かあったのなら、相談来てくれると助かるのだが。
相談しづらい事か、相談するまでも無い事か。
「……嫌な予感がするな」
「そうですか?」
「悪い、言ってみたかっただけだ」
けれど、不味い事態になりそうなのは事実だ。
ライブが近かった為に撮影等を入れてなかったのは幸いしたが、これでライブにすら出れなかったら元も子もない。
大丈夫だ、明日には事務所に来るだろう。
そう自分に言い聞かせるも、嫌な予感は一切緩和される事はなかった。
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:14:28.92 ID:4nkCagHl0
悪い予感というのは的中しやすいものである。
これに関しては『稀によくある』というやつと同じで、そう言った事を考えていたからこそ記憶に残り易く、結果として強く印象に残っているパターンが多いものでもあるが。
急いでいる時程信号に引っかかりやすい、当たり前だ、急いでいない時は信号に引っかかっても気にしていないのだから。
ただ、もちろんそうでないパターンもある。
それは『笑う門には福来る』の逆パターンと考えれば良い。
詰まる所、マイナスな事ばかり考えているからマイナスな事が起こりやすい。
プラスな事が起きても気付けていないだけと言われればそれまでだが、それに関しては身に覚えがある方も多いだろう。
ネガティブな事ばかりを考えている時、調子が悪い時、ほんとうに嫌な事ばかりが重なるのだ。
『呼び込む』という言い方は好きではないが、実際俺が神様だったら凹んでしょげて怒り散らしてる様な奴より、笑ってるポジティブな人間に幸運をお届けする。
まぁ、閑話はおいておいて。
結果として、『P.C.S』の三人は翌日も、事務所に来る事は無かった。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:15:01.77 ID:4nkCagHl0
「プロデューサーさん、間に合うと思いますか?」
「そろそろ不味いと思います」
「ですよね……」
響子の誕生日ライブまで、あと一週間。
この三日間殆ど音沙汰無しと言って良い美穂と他の二人が、このまま休みを続ける可能性も高い。
勿論それは彼女達が不真面目だと言っている訳ではない事を重々承知して頂きたい。
強いて言うなら俺に休むと言う旨の連絡が来なかった事に関して少ししょげている程度だ。
「私、三人の家に電話掛けてみます」
「卯月は実家暮らしだから繋がるかもしれませんけど、美穂と響子は寮暮らしだからなぁ……」
「寝てるかもしれませんけど、何もしないよりは動いた方が安心出来ると思いますから」
そう言って、ちひろさんは部屋を出て行った。
扉が開いた一瞬、隣の部屋から笑い声が聞こえて来た。
おそらく隣の部屋で、暇を持て余した小・中学生が遊んでいるのだろう。
と言うことは、今日も外はめちゃくちゃ暑い、と。
「……どう思う?」
「生理だと思います」
それは確かに男性の俺には連絡しづらいだろうけれども。
出来れば自身も女性である鷹富士さんの口からそんな単語は聞きたくなかった。
「とまぁ悪ふざけはおいておいて……まずは誰か一人でも話を聞くべきだと思います」
「多分これ、原因同じだよな」
「でしょうね〜。どうします?」
「多分鷹富士さんの力を借りる事になると思う」
分かってますよ〜なんて笑いながら、鷹富士さんはニマニマとこちらを見つめてきた。
「指輪とかがプレゼントされたら嬉しいんですけどね〜」
「美味しい定食屋さんに招待するくらいなら」
「……今回はそのくらいで手打ちにしてあげましょう」
「それじゃ」
この暑い中事務所から出るのは正直本当に嫌だが、そうも言っていられない。
卯月の家には何度か訪れた事がある。
車で行きたいところだが、あの辺りに駐車場は無かったと記憶している。
寮の場所は言わずもがな。
「行きますか」
「行ってらっしゃい」
ニコリと微笑む鷹富士さんの目は、『絶対事務所から出たくない』と語っていた。
……成る程、一人で行け、と。
事務所から出る前に隣の部屋を覗いてみる。
寮暮らし勢の小学生組みが何やら遊んでいる様だ。
色鉛筆やらコインやらを囲い、わいわいはしゃいでいた。
手持ちのアイテムだけで遊びを作り出すのは、子供の特権の様な気がする。
……全力で混ぜて貰いたい(と言うか事務所から出たく無い)気持ちを抑えつけ、何とか俺は歩き出した。
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:15:43.52 ID:4nkCagHl0
ピンポーン
インターフォンを鳴らしてから、全力で額の汗を拭う。
案の定と言うかなんと言うか、都会のアスファルトの洗礼は非常に厳しいものだった。
暖かいなんて言葉じゃ文字通り生ぬるい空気が、むわりと揺れ、シャツ越しに身体を加熱する。
ハンカチは一瞬で絞っていない雑巾の様になってしまった。
『はーい……えっ? プロデューサーさんっ?!』
「突然来て悪い。少し心配になってさ」
『ちょ、ちょっとだけ待ってて下さい!』
暫く(と言っても一分に満たない程度の時間だっただろうが、この炎天下だと体感十分を超えていた様な気がする)間があって、島村家の扉が開く。
迎え入れてくれた卯月は私服に着替えていたが、髪の毛は申し訳ないがぼさぼさだった。
結んでいない卯月の姿はレアで普通に可愛いとは思うが、突然訪れてしまった事に対して今更申し訳なくなる。
「暑い中お疲れ様です」
「卯月は……体調の方はどうなんだ?」
家中が冷えている事から、家できちんと休んでいた事が分かる。
髪が整っていないのは、ついさっきまでベッドから出ていなかったからだろう。
服にシワがないのも、いまさっき私服に着替えた跡(と言うのはおかしい気もする)と認識出来る。
まぁつまり、普通に体調不良で普通に休んでいただけ、と。
「え、えへへ……昨日よりはだいぶ良くなったんですけど、まだ身体がちょっぴり重くって……あっ、でも明日には絶対良くなってると思いますっ!」
その笑顔は、無理している様子は一切なかった。
体調が悪い時は本当に多少でもちゃんと休んだ方が良い、と言ったのは俺だ。
それは他のメンバーに迷惑が掛かるのもそうだし、それで無理して余計体調が悪くなってしまっても大変だから、と。
昔の卯月なら無理をしてしまう事があったかもしれないが、今はこうして休んでくれて安心する。
「そうか、なら良かった」
「本当は今日行きたかったんですけど、なかなか治らなくって……夏風邪か夏バテかもしれないですけど……」
「あぁいや、無理する必要は一切ないから。病み上がりだしな」
この調子だと、美穂と響子も単にバテているだけかもしれない。
だとしたらより一層、一応医者に診て貰う方がいいかもしれないが。
「……響子ちゃんと美穂ちゃんもお休みしてるんですよね?」
「あぁ。あ、でも卯月が心配する事じゃ……ってのは難しいだろうけど、大丈夫だから卯月はしっかり休んでくれ」
「勿論ですっ! 二人に迷惑掛ける訳にはいきませんから」
なら、大丈夫そうだ。
……さて、ここからが本題だ。
杞憂に済んでくれれば、それに越した事はないが。
「……三人同時に体調不良って事で、ロケとかレッスンで何かあったのか心配してたんだけど……虫とか食中毒とか。何かなかったか?」
「うーん……最後に三人でロケに言ったのはだいぶ前だし……レッスンはいつも通りだったと思います」
「じゃあ、それ以外は?」
「えっ?!」
聞かれると思っていなかったから、だろうか。
不意を突かれた様に、卯月は目を見開いた。
「三人で何かしたりとか。例えば何処か遊びに行ったり、例えば……俺に何か内緒にしてる事とか」
「え、ええっと……えへへ……」
目を逸らす。
それは、余りにも分かりやすい誤魔化しだった。
「…………な、内緒ですよ? 私が言ったって言わないで下さいね?」
「あぁ、約束する」
「実は、その……だいぶ前、プロデューサーさんと四人で旅館に泊まった時に……」
ごくり、と息を飲む。
それから卯月は、恥ずかしそうに呟いた。
「プロデューサーさんが戻って来る前に、お夕飯に手をつけちゃいました」
成る程、大丈夫そうだこれ。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/19(月) 16:18:12.15 ID:4nkCagHl0
無駄足の匂いがする。というかこれだけ歩き回っていたら文字通り足が臭くなっている事だろう。
電車を乗り継いで女子寮に向かう。降りる度に、このまま涼しい車内に居たいと本気で思いながらなんとか降りて。
女子寮のインターフォンを鳴らし、寮監さんに挨拶して中に入る。
毎度の事ながら、女子寮というのはなんだか緊張する。
男子禁制、本来であれば入ってはいけない場所と言うのはどこか居心地の悪いものだ。
なんとなく見てはいけない、居てはいけない気分になる。
「あれ? えっ、プロデューサーがどうして……お、おはようございますっ!」
廊下の奥から、響子が姿を現した。
一瞬、居てはいけないと咎められているかの様に心が跳ねた。
良いだろ男性が女子寮に居たって……いや、良くはないのだが。
「あ、あはは……その、何もせずに寝てるとなんだか落ち着かなくて……廊下のお掃除を……」
「寝てなさい」
「ごめんなさい……」
しゅん、とされると此方も申し訳なくなる。
悪い事をしてないのに、みたいなアレ。
……やはり女子寮は居心地が悪い。
多少は慣れてきたと思っていたが、別にそんな事はなかった。
「卯月ちゃんと美穂ちゃんは大丈夫でしたか?」
「美穂はこれからだけど、卯月はさっき会って来たけど大丈夫そうだったよ。美穂響子の方は、体調はもう大丈夫なのか?」
「はい。ちょっぴり身体が重い気もしますけど、慣れちゃえばお米を担いでる時と変わりませんからっ!」
お米を担ぎながら廊下を掃除するな。
無理やり響子を部屋へ戻して、必ず一日三食食べる事を約束する代わりに寝て貰う。
さて、響子も心配していたし美穂の調子も確認しないと。
早足で美穂の部屋に向かう。
コンコン
「おーい美穂ー。俺だー俺俺」
オレオレ詐欺の様になってしまった。
返事は無い、眠っているのだろうか。
『……プロデューサーさん、ですか……?』
扉の向こうから、弱々しい美穂の声がした。
どうやら彼女のみ、本格的に体調が悪いらしい。
「おはよう美穂。悪いな、寝てるところ」
『いえ……その……プロデューサーさんだけ、ですか?』
「……そうだけど?」
成る程、美穂だ。
今回の件は、どうやら此処に何かがある様だった。
「……しっかり休めてるか?」
『…………はい……』
嘘だ、声色で分かる。
彼女は何かに怯えて、しっかりとした休息を取れていない。
『ご、ごめんなさいっ! わたしが休んじゃってるせいで、レッスンが遅れちゃって……』
「いや、大丈夫だ。美穂は心配せずゆっくり休んでくれ」
『はい……その、本当にごめんなさい……』
「大丈夫だって。卯月と響子も」
『っ!』
瞬間。
部屋の中の美穂が、大きく息を吸うのが分かった。
『……ご、こめんなさい……咳が出そうで……』
「……邪魔して悪かった。ゆっくり休んでくれ」
これ以上居ても、美穂に迷惑だろう。
それに恐らく、これである程度は推測が付くだろう。
涼しい寮から炎天下へと出なければいけないのは嫌だが、かと言って夜まで留まる訳にもいかない。
意を決して扉を開け、俺は再度事務所へと向かった。
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