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春を売る、そして恋を知る
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24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/20(火) 19:41:06.38 ID:6vvZN4lBO
「珍しい人だね」
翌朝、起きて早々にユズさんの部屋を訪ねて報告をした。
「まどかを見て手を出さないなんて、不能なんじゃないの」
「そんな感じでもなかったけど」
彼女にお客さんに抱かれなかったことがあるかと尋ねると、返事はノーだった。
「だって、エッチするためにお金払って来てるわけでしょ? それで、ブスが来て萎えたとかなら分かるけど、あんたを見て耐えられるなんて男じゃないよ」
私が男だったら部屋に入るなり襲ってるわ、と彼女は笑った。
「ありがと。私も男だったらきっとそうだよ」
「うそ、両思い? 禁断の恋?」
おふざけモードに入ったので、そこからは反応しないように心がけた。ノってしまうと、キスでは済まないかもしれない。
「何、気になるの? その人」
「気になるっていうか……うーん」
何と言えば誤解が無く伝わるだろうか。彼女の言うところの気になるは、きっと異性として。
でも、私の抱いているそれは、そうじゃない気がする。そもそも、一度会っただけで異性を意識するなんてあるのだろうか。
「そういうのじゃ、ない」
「本当に?」
意地悪そうに、楽しそうに笑いながら、ユズさんは私に確認してきた。
「でも、また会えたら良いなとは思ってるでしょ?」
「それは……うん」
少なくとも、昨日の去り際に伝えた「楽しかった」は私の本心で。だから、彼に会いたいという気持ちは嘘じゃない。
それを耳にしたユズさんが嬉しそうに「初恋に期待だね」なんて言うもんだから、優しく頭を叩いてやった。いーっだっ。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/08/20(火) 19:42:15.07 ID:6vvZN4lBO
>>23
ありがとうございます。
コメント頂けるのが一番執筆意欲に繋がります……!
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/08/24(土) 00:57:23.01 ID:1gO4UVyBO
ユズさんに煽られはしても、一度来たお客さんにまた会えるとは限らない。
彼が来てくれたら良いな、とは思いつつも、少なくともそれは近い未来だとは思っていなかった。お金だってバカにならないだろうし。
だから、一週間後に彼が来たときは驚いた。
「や、お久しぶり」
初めて会ったときと同じ、軽薄な笑みでハルさんは扉の向こうから現れた。
「こんばんは。久しぶり……かな?」
首をかしげると「可愛すぎか〜」とネタのように笑われた。
「いやいや……あ、中にどうぞ」
また、手を繋いでも良いかなと悩みながら彼を眺めていると、その手には紙袋があって。
「お荷物、お持ちしますね」
と、それをこちらに渡すように手を伸ばした。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/08/24(土) 12:41:03.55 ID:1gO4UVyBO
「あ、これ、まどかちゃんに持って来たんだ。一緒に食べようよ」
そう言って、幾分大きな紙袋を渡された。袋の中を覗いてみると、小さな紙箱がいくつか入っていたけれど、重さはあまりない。
「これって……」
期待する目で彼を見ると、頬を掻いて照れ臭そうに言った。
「うん、タルトなんだけどさ。どこのが良いか分からないし、秘書の子たちにおすすめを聞いて手当たり次第」
「やったー! ありがとう!」
やっぱり、やっぱり!
タルトがいっぱいということも嬉しいけれど、彼が私のことを覚えてくれていたことが何より嬉しい。
「あ、おかけになってお待ちください! お飲み物は? ビールですか?」
「や、タルト食べるし……コーヒーある?」
「はーい! ホットですか? アイスですか?」
ユズさんが持ってきてくれたコーヒーメーカーのスイッチを入れて、豆を見ながら彼に問う。
「アイスで。ていうかすごいね、本格的だ」
彼はソファに腰掛けることなく、こちらに近づいて来て私の様子を眺める。ミルで豆を挽くところを見て、彼は感嘆していた。
「ペットボトルとか缶コーヒーじゃないんだ」
「ここ、どこだと思ってます?」
そこんじょそこらの風俗店じゃないんですよ、とは言えなかった。ここ以外のことは知らないけれど、ここじゃみんなそうしていると聞く。ここで飲むコーヒーは、もしかしたら日本で一番高いコーヒーかもしれない。
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/10/22(火) 23:41:37.15 ID:alVkC+dyO
「コーヒー屋さんなの?」
「それ、どこまで本気で言ってます?」
相変わらず、今日も行為をするつもりはないのだろうか。別に、それ自体は嫌いじゃないから求められても構わないのに。
「冗談だよ。でも、コーヒー楽しみだな。こんな可愛い子に淹れてもらうの、初めてだから」
「いれるのはコーヒーだけで良いんですか?」
冗談めいた口調で彼に下ネタを投げかけると、飄々とした口調のままに返された。
「うーん、あとはミルクもお願いしようかな」
「あはは、かしこまりました」
何とも掴めない人だ。グラスに氷を入れて、コーヒーを注ぐ。淹れたての香ばしい匂いがグラスから漂ってくる。
「お待たせしました」
店員さんを気取った言葉でカップを彼の前に置いて、私は隣に腰掛ける。
「何か変」
「えっ?」
「いや、ほら、普通こういう時って向き合って座らない?」
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