マミ「最後に残った道しるべ」

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1 : ◆do4ng07cO. [saga sage]:2019/08/09(金) 00:51:05.50 ID:akEPncPz0

以前落としてしまったスレの建て直しです
ttps://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420385746
叛逆前でマミさんと杏子が主役です。TDSみたいな感じです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1565279465
2 : ◆do4ng07cO. [saga sage]:2019/08/09(金) 01:03:33.80 ID:akEPncPz0
******************************


―――魔法少女。

たった一つの奇跡と引き換えに、この世の呪いと戦う使命を背負った少女達を、あたし達はそう呼ぶ。

そうしてあたしは今日も人知れず、魔女と戦い続けている



あたしが今戦っているのは、牛のような形をした魔女。

こいつは、あたしが魔法少女になってから初めて戦った奴だ。

自分のテリトリーで逃げられたもんだから、落とし前つけにわざわざ隣町にまで来たんだけど...

杏子「ったた...相変わらずなんて馬鹿力なやつ!」

あの時もそうだった。

あいつの斧での力任せの攻撃には手を焼いた。

悔しいが、力ではあいつに分があるようだ。

杏子「だけど、今回はいつぞやの二の舞にはならないよ!」

そうだ。あの時はこの魔法を使えなかったが、今は違う。

この幻惑の魔法があれば、こいつとも戦える筈だ。

あたしとあたしの幻影。各々槍を構え、二人で魔女へ突撃していく。

そのうち片方が魔女へ跳びかかる。

あいつは、それを斧であっさりと切り裂いた。

でも

杏子「残念!そっちはニセモノさ!」

今度は、隙だらけになった魔女を真っ二つに切り裂いてやった。
3 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:04:04.31 ID:akEPncPz0

魔女の姿は消え失せ、持っていた斧がカランと音を立てて地面に落ちた。

杏子「よしっ、やっとリベンジ果たせた!」

QB「杏子、まだだ!」

杏子「えっ?わっ!?」

突如纏わりついたもやに、あたしの身体の自由は奪われた。

杏子(駄目だ、このままじゃ―――)

あたしの嫌な予感は、魔女の姿が復元されると共に確信へと変わった。

魔女が、あたしを切り裂かんと斧を振り上げる。

杏子(―――――!)

迫りくる死の予感に、あたしは目を瞑ってしまった。

そんな時だった。


「なるほど...幻惑の魔法、面白い力だわ」

4 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:04:31.15 ID:akEPncPz0


声がした。

恐る恐る目を開けてみると、魔女の斧に黄色のリボンが巻きつき、あたしへの攻撃を防いでいた。

「だけど、魔女の方も同じ能力だったのはついていなかったわね」

杏子(魔法少女...?)

リボンを操っているその人は、巨大な拳銃を召還し、あたしに銃口を向けた。

杏子「ちょっ」

「ティロ・フィナーレ!」

その巨大な銃から放たれた砲弾は、あたしの顔の真横を通り過ぎていった。

杏子「な、なにすんだよ!?」

「ごめんなさいね。ちょっと荒っぽいやり方で」

杏子「謝るくらいなら最初から...あれ?」

きがつけば、あたしに纏わりついていたもやは綺麗さっぱり消えていた。

どうやら、彼女の砲撃で消しさられたようだった。

「間に合ってよかったわ。大丈夫?」ニコリ

いつの間にか尻もちをついていたあたしに、その人は微笑みながら手を差し伸べてくれた。
5 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:06:08.11 ID:akEPncPz0


杏子「そ、その...助かったよ。あんたは...?」

「挨拶は後よ。今は魔女を倒さなくちゃ」

そう言う彼女の眼光は、とても鋭かった。年齢はあたしとさほど変わらない筈なのに、なんていうか、本当の『ベテラン』ってやつを感じた気がした。

そしてそれは気のせいなんかじゃなくて

「あの魔女、本体はおそらく斧の方ね」

杏子「え?」

「だから身体の方を倒しても復活してしまうみたい」

この魔女と戦うのが二回目のあたしですらそんなこと思いつきもしなかったのに、この人は初見で、しかもたった数回のやり取りで見抜いていた。

「私は魔女の身体と使い魔を一掃するわ。その隙にあなたは本体を破壊してくれる?」

杏子「...わかった!」ニコリ
6 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:08:35.74 ID:akEPncPz0


あの人の戦いは凄かった。

ベレー帽を空に投げると、その中から振ってくる大量のマスケット銃。

それを撃っては持ち替え撃っては持ち替えて、次々に使い魔を消し去っていく。

残り一体だけとなった魔女が斧を彼女に振り下ろそうとするがもう遅い。マスケット銃を大砲に変え、砲弾は魔女に放たれ、その姿は消し去られていた。

そして、それを合図にあたしは斧へ向かって駆け出した。

杏子「はあああぁぁ!!」

あたしの槍が斧に突き刺さる。耐え切れなかった斧は、音を立てて粉々に砕け散った。

杏子「や...やった!」

「お見事ね!」

あたしは純粋に喜んだ。

やっとリベンジを果たせたことを。初めて他の魔法少女と共に戦ったことを。こんな凄い人と共に戦えたことを。

7 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:09:07.25 ID:akEPncPz0

彼女の名前は、巴マミ。

この町へ来た理由を話したあたしは、何故だか彼女の家に招待された。

杏子「」ジュルル

マミ「...涎、出てるわよ」

テーブルに置かれた、彼女手作りのピーチパイと紅茶。

食べてみると、これがまたウマイ。職人顔負けのウマさだった。

マミ「まだまだあるから遠慮しないでね。一人じゃ食べきれないから」

杏子「いいの!?」

がっつくように、テーブルから身を乗り出してしまったあたし。マミさんは、そんなあたしの様子をニコニコと笑顔で見つめている。

そんな自分の姿を省みて、ちょっぴり恥ずかしくなった。
8 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:09:50.01 ID:akEPncPz0


杏子「助けて貰ったうえにケーキまでご馳走になっちゃって、なんだか図々しいよね、あたしって」

マミ「招待したのはこっちなんだし気にしないで。私も魔法少女の子と一緒にお茶できてうれしいもの」

杏子「ならいいんだけど...」

そういえば、あたしと会ってからのマミさんはずっと笑顔だ。

あたしたち魔法少女は、毎日が戦いだ。無論、一般人を巻き込むわけにもいかないし、魔法少女同士だったら、グリーフシードの小競り合いばかり。

それを踏まえれば、嬉しくなってしまうのも当然かもしれない。

杏子「でも...あたしのほうこそ、今日マミさんと会えてよかったな」

マミ「えっ?」

杏子「あたし、魔法少女としてはまだ半人前だからさ、お茶しながら色んな話聞かせて貰って勉強になったよ」

杏子「何も考えずに闇雲に戦ってたあたしと比べて、マミさんはこれまでの魔女との戦いを自己分析してノートに纏めたり、魔法の使い方を研究したり...その上、戦いに必要な心構えもしっかり持ってて、実戦においても強くて頼りになる。こんな凄い魔法少女が隣町にいたなんてあたし驚いたんだ」

マミ「そ、そんなことないわよ///」テレ

杏子「だから...その、マミさん。お願いっていうか、図々しいついでっていうのもなんだけど...」



杏子「あたしを、マミさんの弟子にしてもらえないかな?」





――――これが、あたしと彼女の出会い。

あたしが憧れていた、彼女との出会い。
9 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:10:22.13 ID:akEPncPz0

************************************
マミさんの弟子にしてもらってから、ひと月ほど経った。

あたしの実力は、会ったばかりとは比べものにならないほど上達していた。

そして、あたしの実力に比例して、マミさんとの連携も格段によくなっていた。

マミさんとあたしのコンビだったら、向かうところ敵なし!心から、そう思えた。

だからか、自然とこんなことを口走っていた。

杏子「今のあたし達ならさ、ワルプルギスの夜だって倒せるんじゃないかな」

マミ「ワルプルギスって...あの?」

杏子「そう。魔法少女の間で噂されてる超弩級の大物魔女。こういっちゃ大袈裟かもしれないけど、あたし達だったらそんな大物の魔女だろうと目じゃないって」

杏子「世界だって救えるんじゃないかって...そう思うんだよね」

マミ「...ふふふっ、随分大きくでたわね」

杏子「調子に乗りすぎ?」

マミ「そんなことないわよ。目標は大きい方がいいんじゃないかしら」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/08/09(金) 01:10:41.75 ID:CpOWHSJ9O
皆騙されるな!
こいつ、スレ潰し乱立野郎だぞ!

1スレ立て: 2019年8月9日 00:54

マミ「最後に残った道しるべ」
http://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssr/1565279642/
11 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:10:46.51 ID:akEPncPz0

マミ「でも...本当にそうかもね。私達だったらきっと倒せると思うわ」

マミ「もしいつか、本当にワルプルギスの夜がやってくる時が来たら...一緒にこの町を守りましょう」

杏子「うん!」

こんなことは、戯言なのかもしれない。

でも、いつかは実現できたら、それはとっても嬉しいなって。

そんな甘い幻想をあたしは夢に描いていた。

12 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:17:33.41 ID:akEPncPz0
>>10
すみません、スレ建てた時はエラーと出ていたので他の場所なら建てられるのかなと思い、Rの方で建ててみたのですが、やはりそちらでもエラーと出ており
私のパソコンでは建てられないのかなと思い諦めかけていたのですが、更新してみたら普通に建っていたので、Rの方はHTML化申請致しました。
順序として先に更新しておけば重複しなかったので、完全にその辺りを怠った私の失態です。申し訳ありませんでした。
13 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:18:08.85 ID:akEPncPz0


夜、教会

魔女の反応を感じたあたしは、妹を起こさないようにベッドから飛び起きた。

反応の場所を追うと、そこは見慣れた場所。この教会の大聖堂だった。

扉に近づくと、鼻孔をつくような匂いが漏れてきた。

意を決して扉を開けてみるとそこには...

「俺たちには神様の教えなんて必要なかったんだ。そんなものに頼らなくても簡単に幸せになれる方法を知っているんだから」

「ええ、その通りですよ...」

生気を失くした虚ろな目をした父さんの信者たちが、聖書を中央に集め、それに大量の灯油をかけていた。

そんな信者たちの背後で踊る魔女に使い魔。

今まさに、魔女による宴が始まろうとしていた...
14 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:18:38.78 ID:akEPncPz0


信者の一人が、マッチ箱を取り出した。

大量の灯油に火をつけたらどうなるか...そんなこと、考えるまでもない。

杏子「させるかっ!」

あたしの魔法は幻惑の魔法。

そいつを使って、マッチ箱や聖書をお菓子に変える。

とはいえ、所詮は幻惑。そのままマッチを擦られれば何の意味もないが、一瞬だけでも気を惹ければそれで十分。

杏子「いただき!」

あたしは一気にかけだし、信者からマッチ箱を奪いとった。

魔女が、餌場を荒らされたことに気付き、あたしに攻撃を仕掛けてくる。

杏子「魔女なんかに、こんな場所で好き放題させてたまるかよ」

それに対して、あたしは分身の技、『ロッソ・ファンタズマ』で対抗する。

杏子「父さんの教会も、家族も、みんな...」

分身たちが魔女に消されていく。

その間をぬって、あたしは魔女に接近し

杏子「あたしが守るんだから!」

槍で、魔女の身体を貫いた。

15 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:19:08.73 ID:akEPncPz0


グリーフシードが床に落ち、魔女の魔力が消え失せた。

杏子「...厄介なもの残されたな」

床に転がる気を失った信者たちと大量の灯油まみれの聖書。

こんなことが世に広まれば騒ぎになるに違いない。

杏子(でも、夜明けまでには時間はある。それまでに片付けておけば...)

この時のあたしは、ひどく迂闊だった。

焦っていたのかもしれない。

魔女を倒せたこと、操られたみんなを助けられたこと、マミさんがいなくても一人で戦えたこと...

その事実に少しばかり気を抜いていたのかもしれない。

理由はどうであれ、とにかくあたしは迂闊だったんだ。

だから気付けなかった。

父さんが、すぐ傍にまできていることに。
16 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:19:50.54 ID:akEPncPz0

―――――――――――


マミ「佐倉さん、具合が悪いの?近頃顔色が優れないみたいだけど」

杏子「そう?平気だよ」

マミ「...何かあったんじゃないの?」

杏子「...マミさんはさ、魔法少女になったのが原因で仲の良かった人と衝突したことってある?」

マミ「...衝突とは違うけど、すれ違いなら多いかも。私たち、戦いの毎日だから遊ぶ時間もないでしょう?魔法少女のことを普通の人に相談できるはずもないし、クラスの子との係りも疎遠になってきていると思う」

マミ「けど、今の生き方に後悔はないわ。仲間だってできたしね」

杏子「......」
17 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:20:21.20 ID:akEPncPz0

杏子「マミさん、前に言ってたよね。『誰かが魔女に憑りつかれて死んでしまったら、きっと悲しむ人がいる』って」

マミ「ええ」

杏子「でもさ、あたしたちが憑りつかれた人の命を救ったとして、それが必ずしも喜ばれる結果になるとは言えないんじゃないかな」

マミ「どういうこと?」

杏子「たとえばさ、魔女の呪いでくるった人が、おかしな行動で自殺しようとしているところを、偶然身近な人に見られていたらどうなると思う?たとえ自殺を免れても、身近な人はその人を普通の目で見ることはできるのかな。
もし喜ばれない結果になるんだとしたら、誰にも気づかれずに魔女に殺されて悲しまれるのと、気付かれたことで大切な人に避けられ続けて生き続けるの、どっちがマシなんだろう」

杏子「結局みんなが嫌な思いをするのなら、最初からあたしは人助けなんてするべきじゃなかったのかな?」

マミ「もしかして、あなた...」

杏子「そうじゃないんだ。たとえ話だよ」

杏子「ただ、マミさんが誰にも魔法少女のことを話せないように、魔女の存在を知らない人達にこっちの事情を理解させるのは難しいのかなってさ...」

マミ「...確かに、私たちのしていることを全て正しいと言い切るのは難しいかもしれないわ。でも、起こり得る結果を否定して、最初から救うべきじゃないという考えには賛成できないわ」

杏子「......」

マミ「...無理はしないでね。私でよければいつでも相談にのるから」

杏子「...うん」

18 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:20:59.44 ID:akEPncPz0

*************************************


...聞いて、父さん

今日もね、あたしは魔女を倒したんだよ。自殺しそうになってた人を一人救ったんだ

父さんがなくしたかった世の中の不幸や悲しみの芽を、あたしたち魔法少女は着実に摘んでいるんだ

これって、悪いことじゃないよね?

...あたしね、父さんの話いまでも好きだよ。だから、みんなが父さんに耳を傾けてくれたとき凄く嬉しかった

なによりさ、世の中の不幸に悲しみ続けた父さんの幸せそうな顔が見られたから。あたしは...

「全部お前が生み出した幻想じゃないか」

「私の下を訪れた者たちはみな信仰のためなどではなく、ただ魔女の力に惑わされ惹きつけられただけの哀れな人々だ」

「そうして惑わした人々をお前は手にかけるつもりだったのだろう?」

違う。

「あれは悪魔と交わした契約の生贄だったのだろう?教会の娘があろうことか悪魔に魂を売るなどと...」

あたしはそんなものなんかじゃない

「お前は最初から、私の話など聞く耳も持たれなくて当然の、誰の救いにもならない世迷言だと...そう思ってたんだろう?」

信じてよ父さん。

「ああ、全くその通りだ。私に世の中を救う力がないから、悪魔になど付け入る隙を与えてしまったんだ。お前が悪いんじゃない。全て私の責任なんだ...」

あたしは、魔女なんかじゃないんだ!

「なにが違うと言うんだ?」

「お前の力さえあれば、世の中の不幸や苦しみを着実に摘める?そんな当てつけがましい言い訳を聞かせるくらいなら、いっそ無力な父親だと罵ってしまえばいい!」

「今のお前がやっていることはなんだ?父親などいなくとも世の中は救えるのだと、信仰を踏みにじり、人を惑わし嘲り笑う悪魔の所業ではないか」



「それすらの自覚もなく嬉々として語るお前の姿を...魔女と呼ばずに何と呼ぶんだ」

19 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:21:58.46 ID:akEPncPz0

―――――――――――――――――――――――――

母さん...どうしたの、その怪我...

「あ、あはは。ちょっとドジしちゃって」

「大した傷じゃないから大丈夫よ。だから心配しないで」

...父さんなの?

「ッ!」

あたしのせいだ...

「違うわ、杏子」

父さんは悪くないんだ、あたしが...

「誰も悪くない。父さんも杏子も、みんなのためにってずっと頑張っていただけだもの」

「大丈夫よ。今を乗り越えれば、すぐに前みたいに戻れるから」

......



―――――――――――――――

「お姉ちゃん...今日もいっちゃうの?」

モモ。あたしがいない間、父さんと母さんを頼んだよ

「...今度はいつ帰ってくるの?」

...父さんは、あたしが家にいない時は大人しいんだ。だから

「やだよ...どこにもいかないで。わたし、我慢するから。絶対に泣かないから...だから!」

...ごめん、モモ


――――――――――――――――


「今日はまた随分と戦ったね」

...まだだ。こんなものじゃ足りない。

「そうは言っても、これ以上の戦いは命に関わることになるよ」

それでいいんだ。命がけで戦ってれば、父さんだっていつか信じてくれる。

「せめて、マミと一緒に戦えばいいじゃないか」

マミさんには迷惑をかけられない。こいつは、あたしの責任なんだ。

「なにを怯えているんだい?」

うるさい...いまはあんたの顔なんて見たくない!どっかにいけ!


20 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:22:30.67 ID:akEPncPz0


あたしは、臆病者だった。

次第に家にいる時間も少なくなり、マミさんと一緒に闘うこともなくなった。

壊れてしまった父さんに魔女と罵られるのが怖くて。

マミさんや母さんとモモも、今は優しくても、いつかは見捨てるんじゃないかって怯えて。

誰とも向き合おうとしなかった。

傷つくのが怖くて、ずっと逃げていた。

もし、父さんともっと真正面から向き合っていれば。

もし、マミさんを本当に信頼できていれば。

もし、家族を守ることから目を背けていなければ。

きっと、こんなことにはならなかったかもしれない。

21 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:23:01.07 ID:akEPncPz0

杏子「ただいま...!?」

久しぶりに家に帰ってきて気がついたのは、鼻孔をつく匂いだった。

その匂いは、普段から戦い続けているあたしにもなじみ深い、血の臭いだ

そして、その原因となるものが、床に倒れていた。

血だまりに沈んでいるのは、父さんと母さんとモモだった。

杏子「なんで...?」

わかりたくない。嘘だと思いたい。

でも、充満する血の匂いがこれは現実だとあたしに訴えかけている。




杏子「なんでなの...マミさん」

あたしの家族の血だまりの中に、黄色の魔法少女が一人立っていた。

22 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:23:48.94 ID:akEPncPz0


マミ「あら、お帰りなさい佐倉さん」

血に塗れた身体のまま、いつもの声音で挨拶をしてきた。

杏子「ね、ねえ...嘘でしょ?」

そうだ。こんなの、なにかの冗談に決まっている。

マミ「ん?ああ、これね...」

きっと、倒れているみんなの治療をしてくれたから、マミさんは血塗れなんだろう。

もう、父さんってば、どんなおっちょこちょいしたのさ。ちゃんと母さんとモモに謝っておきなよ。

マミ「酷いのよ、この人。私たち魔法少女を魔女だって罵るんだもの。あなたなんて、この人のために祈ったようなものなのにね」

ああ、そうか。マミさんは父さんを説得してくれたんだ。やっぱりすごいな、マミさんは。

マミ「何度説明しても聞いてくれないからね、もう面倒になっちゃって」

そういう時もあるよね。あたしだって、モモがワガママ言って言う事聞かない時は軽いゲンコツくらいはしたもん。

だからさ、謝らなくていいよマミさ



マミ「つい、殺しちゃったの」
23 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:24:21.23 ID:akEPncPz0

息が止まる。全身を針で縫い付けられるような感覚がした。

マミ「これで私たちを否定する邪魔者はいないし、早速魔女を倒しにいきましょうか」

あの人がなにか言っているが、もう何も聞こえない。

モモ「うぅ...」

マミ「あら、まだ死んでなかったのね」

あの人が、モモの頭を踏みつける。それでも、身体は動いてくれない。

モモ「ぁぐ...」

マミ「んー、あなたは別に魔法少女をバカにしてはなかったけど...」

あの人が、マスケット銃を創り、銃口をモモの頭に突きつける。

マミ「一人だけ残しても可哀想だし...それに佐倉さんには私がいるから別にいいわよね」

あの人は、銃をモモに突きつけたまま、クルリと顔をこちらに向けた。




マミ「ねえ、佐倉さん」

あいつの満面の笑顔を見た時、あたしは弾けるように駆け出した。

24 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:24:49.85 ID:akEPncPz0

―――殺す

マミ「ちょっと、なにをそんなに怒ってるのよ」

あいつがリボンであたしの槍を防ぐ。

そのままリボンごと突き刺そうとするが、あいつの蹴りが腹に入り、あたしが吹き飛ばされる。

―――殺してやる!

もう一度あいつとの間合いを詰め、槍を突き出すが、あいつにはただの一掠りもしない。

ならばと槍を本来の形である多節根に変え、あいつの全身を絡め取り、壁に叩き付けた。

そして、今度こそはと槍を突き出す。しかし右肩を撃たれ、槍を手離しはしなかったが威力と勢いを殺がれ、あいつにまた躱された槍は空しく壁を壊すだけだった。

マミ「乱暴な戦い方ね」

―――絶対にお前を許さない!

痛みを無視して、あたしはあいつのもとへ駆け出す。

そして―――




ドン


銃声が、響いた。

25 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:25:40.79 ID:akEPncPz0


どれくらい経ったのだろうか。

あたしは、まだ生きているみたいだった。

あいつにもそれなりの手傷は負わせれたようだが、もう姿が見えないことから、動ける程度のものだったのだろう。

杏子「...父さん」

名前を呼ぶが、返事はない。

杏子「...母さん」

辛うじて動く左腕だけで、床を這う。

杏子「...モモ」

全力を出しているが、まだ遠い。

杏子「......」

やっとみんなのところへ辿りついたと思ったら、眠くなってきた。

もう、なにをする気も起きない。全部投げ出したい。

そう思い、意識を手放そうとしたその時





かすかに聞こえる呼吸の音に、ちょっとだけ安心した。
26 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:26:08.41 ID:akEPncPz0


――――――――――――――


「教祖様が死んだ」

「なぜだ?」

「殺された」

「誰に?」

「わからない」

「この前教祖様は魔女を見せてくれた」

「そうだ、きっと魔女に殺されたんだ」

「探そう、魔女を」

「「「みんなで探そう」」」

――――――――――――――
27 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:27:05.02 ID:akEPncPz0
――――――――――――――

杏子「うっ...」

医者「目が覚めたかい?」

杏子「ここは...」

医者「病院だよ。教会に重傷人がいるって通報があったんだ」

杏子「教会...っ!」

思い出した。あたしは、マミさ...あいつにやられて、父さんたちも...!

杏子「と、父さんは!?母さんは!?モモは!?」

医者「お、落ち着いて...」

杏子「早く教えろ!どうなんだおい!?」

医者「落ち着いて!」

杏子「いいから教えろ!」

わかっている。あいつは確かに自分の口で『殺した』って言ったんだ。

だから、みんなはもう...



モモ「うへへ〜おねえちゃん〜」zzz

医者「そ、そこに...」

杏子「」
28 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:27:38.23 ID:akEPncPz0


世間では、あたしたちは強盗事件の被害者として扱われている。

一命を取り留めた母さんとモモがそう証言したらしい。

医者が言うには、母さんとモモに大した怪我はなかったらしく、むしろあたしの方が何倍も重傷だったらしい。それでも、普通の人でも一生は残らない程度だったらしいが。

ただ、父さんだけは助からなかった。

死因は、幾分かの失血と、大きな衝撃を受けたことによるショック死。

多分、あいつが殺したというのは本当だろう。

あいつは、父さんを殺したやつなんだ。

なのに、あたしは居場所も手の内も知り尽くしているあいつを殺しに行く気にはならなかった。

もし、この訳の分からない気持ちにケリをつける方法があるとすれば、それは...
29 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:28:04.40 ID:akEPncPz0

病室

杏子「母さん、身体は大丈夫?」

杏子母「ええ。元々大した怪我じゃなかったみたいだから」

杏子「そっか。よかった...」

杏子母「......」

沈黙が訪れる。

母さんは気まずそうに、あたしから目を逸らす。

あたしはあたしで、いつ切り出そうか迷っていた。

だが、もう覚悟を決めるしかない。

杏子「母さん、教えてくれないかな。あの日、何があったのか」

今度こそ、自分の罪と正面から向き合うために。

30 : ◆do4ng07cO. [saga]:2019/08/09(金) 01:28:32.80 ID:akEPncPz0

見た目には、大分酷い怪我のようだったが、そこはやはり魔法少女。

回復魔法は得意ではないが、ものの三日ほどで傷は治ってしまった。

入院費もバカにならないため、あたしたちは早々に退院させてもらうことにした。

それでも、しばらくは今あるお金でやりくりするしかない。

これからは、生きるだけでも大変な試練となるだろう。

でも、その前に

杏子「...ごめん、二人とも。先に帰ってて」

杏子母「...ええ。夕飯の支度をして待ってるからね」

モモ「行ってらっしゃい、おねえちゃん!」

杏子「ああ、行ってきます」

ケリを着けなければならない。

あたしの、魔法少女としての罪に。
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