【安価】男「異世界転生しちゃった」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 17:46:53.20 ID:dnoqRDya0

「1階の写真が飾られてる部屋にさ……見知った顔があったんだけど」


「へぇ、どれかな?」


俺は3人の冒険者らしき者が写ったやつと説明する。


「ああ、三英雄か。懐かしいね」


「三英雄?」


「君は知らないよね。特別に教えてあげようじゃないか」


シェイドは得意気に語り出す。


「本を持っていたのは賢者アポロン。卓越した知識と魔法は、難解な術式も解き明かし、如何なる障害も吹き飛ばす」


「次に杖を持った女性。彼女は聖女とも呼ばれ、名をケイアと言う。
如何なる傷も癒し、聖光なる力は魔の軍勢を浄化へと導いた」


「そして最後は最強の剣士と謳われた男。剣聖ゲルム」


「なっ!?」


「彼の剣に斬れぬ物は無く、まさに斬鉄剣。大精霊レムの極光の力を駆使し、魔王の首を刎ねる事に成功した」


「え、ま、マジ…?」

303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/29(木) 18:08:37.00 ID:dnoqRDya0

「男君はゲルムと会ってるよね。昔のゲルムは強かったよ、ほんとに。でもねー…」


「でも?」


「ゲルムはね、魔王に呪われているんだよ。そのせいで今は戦えないんだ」


「戦えないって……どんな呪いなんだ?」


「不戦の誓いっていう呪いでね。戦う意思を持つと身体が脱力して、手足がに重りが付いたかのように地に吸い付いてしまうんだ」


「不戦の……それは解けないのか?」


「賢者を持ってしても解呪不可能の強力な呪いだ。方法はあるかもしれないが、まだ解明はされていないよ」


「……そうか。ゲルムさんは剣聖だったのか…」


「あはは、驚くのも無理ないさ。今はただの執事だからね。どうかな、他に無いならそろそろ見るかい?見るなら何処から見るか教えてくれ」






安価下
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 18:32:42.36 ID:MV8w+4gJo
気を失ったところから
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 20:10:28.64 ID:dnoqRDya0

「気を失った所から頼む」


「了解。じゃあここの玉座に座って、目を瞑って」


俺は窺わしくシェイドを睨みながら玉座まで歩いていき、言われた通りにする。


「何があっても目を開けちゃ駄目だよ。暗闇から映像が見えてくるから」


「…わかったよ」


「じゃあ行くよ」


シェイドから聞き取れない言語が放たれる。


「(何だ…?詠唱か…?)」


「……誘幻の二、イリュジオン」


暗闇が、フラッシュした。



〜メルヴィス湖


「……おや?」


着弾し発生した爆煙の中には、触手の塊があった。塊は蠢き、次第に中に居る本体を露わにしていく。


「…随分なご挨拶だな、人間」


「………」


白仮面は剣を振ると、男の身体は無数に切り刻まれ血が吹き出す。


「無駄だ。人間如きが我を傷付けるなど不可能」


「…君、さっきの奴じゃないね。何者?」


「フハハハハ!……頭が高いぞ、人間」

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 20:47:39.43 ID:dnoqRDya0

男が手を前に出し、下を指差す。


「なっ──がはっ!?」


白仮面は勢い良く地面に叩きつけられ、押し付けられたかのように地が凹む。


「あまり長い時間は居れぬでな…手短に終わらせるぞ」


触手が蠢き、禍々しい剣へと形状を変化させる。惨憺たるその様は、見ている者の心を打ち砕くには十分だ。


「な、何なんだ…!君は、一体…!!」


地に這いつくばり、身体を起こそうとする白仮面の抵抗は虚しく、張り付けられた如く微動だに出来ない。


「貴様が知る必要は無い。絶望を味わい、堕ちて逝け」


「くっ…!」


振り下ろされる禍々しい剣。だが、それは白仮面に届く事は無く、もう一つの剣によって受け止められた。


「ア、アレス……!」


「男さん!一体何があったんだ!?」


「貴様……何故邪魔をする。そいつは敵であろう」


「くっ…!お、重いっ…!」


「理解に苦しむな。何故敵を庇う」


「そんなに…くっ!知りたいなら…!周りをよく見てみる事だね…!」


「なに…?」


男は辺りを見渡し、顔を顰める。


「これはどういう事だ、倒れている死体は貴様の同胞ばかりではないか」


男の言う通り、辺りに倒れている死体はメリルの者ばかり。ノース帝国に属する死体は一人たりとも居ない。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/29(木) 21:05:46.37 ID:dnoqRDya0

「言っただろう…!僕達の勝利条件はヴァーダの戦闘不能…!殺すとは一言も言っていない!」


「愚かな……自を犠牲にして他を傷付けぬだと?生温いにも程が有る。その甘さはいつしか命取りになるぞ」


「それが僕達だ!戦争なんて望んでいないし、人を傷付けたい訳じゃない!甘くてもいい!馬鹿と言われてもいい!これが僕達…メリルに生きる者の意志だ!」


「愚かだ、愚かすぎるぞ。大将がこんな愚か者では散って逝った者達は無念極まりないであろうな」


「お前に何が分かる!そんなでも僕に付いてきてくれた!僕の意志に同調してくれた皆の意志を!」


「お前が勝手に決めるな!」


「なにっ!」


アレスは男の剣を押し返し、男はよろめいて後方へと下がる。


「はぁ…はぁ…!」


「…気に入らぬな……不快だ。貴様、不快であるぞ」


「ア、アレス…!逃げるんだ…!こいつは……私達ヴァーダでさえも…!」


「……こんな事を君に言うのは変だけど安心して、レオーネ」


「ア、アレス……」


「…ふぅー……」


アレスは身体の前で剣先を上に向けて構え、呼吸を整えながら目を閉じる。


「貴様、何をしている」

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:07:25.53 ID:dnoqRDya0

「貴方は男さんであって男さんではないよね。身体から溢れる霊力が男さんとは別物…強大過ぎる。誰だか知らないけど、手加減は出来ないよ」


「戯言を……立場を弁えよ、頭が高いぞ」


男はまた手を出して指を下に指す。だが、アレスに何も変化は起き無かった。


「……なに?」


「魔翌力結合解放……精装束『雷雨』…展開…」


アレスの周囲に小さい魔法陣が幾つも展開する。


「これは…!貴様!」


男が剣を突き出すと、グロテスクな剣身が伸びてアレス目掛けて加速する。アレスは微動だにせず、ものの数秒で突き刺さってしまう瞬間──その剣は弾かれた。


「ちぃ!死に損ないが!」


男の禍々しい剣を弾くのは、赤き剣。


「気を抜いたのが運の尽きだ!」


「邪魔だ!退けい!」


伸びた剣を縦横無尽に振り回すが、レオーネに尽く弾かれてしまう。


「ふん、剣に至っては素人だな。それではこの私には届かないぞ」


「人間風情がっ!」


男は手を横に薙ぎ払って何かをした様だが、レオーネには何も起き無かった。


「っ!!トールの加護か!」


「人が悪いなアレス、君のどこが三等級だ!」


309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:47:16.67 ID:dnoqRDya0

「吹荒ぶ豪雨、猛り狂う嵐、大地を砕く雷轟……ウロボロスの名において……纏雷せよ」


目を見開いたアレスの身体から激しい雷が解き放たれる。大地が揺れ、暴風が木々を揺らし、雷が轟き、雨を降らせ、メルヴィス湖全体に広がる雷雨を発生させる。


「これが、ヴァーダがヴァーダたる所以…天衣だよ」


「紛い物の分際で…何処までも我を虚仮にするか」


「これが天衣…特等級のヴァーダが使えるという…!」


「……行くよ。誰かさん」


アレスが前に剣を構えると、落雷が、暴風が、降り注ぐ雨が、アレスの剣へと収束する。


「なんと凄まじい…!くっ!剣を突かねば吸い込まれてしまう…!」


「……ククク…フハハハハ!!」


「……何が可笑しいのかな?」


「ククク…全く……くだらぬ。言った筈だ、紛い物だと。トールの一部に過ぎぬ魔獣の加護なんぞ、我に効くと思うたか」


「……貴方は一体、何者なんだ…?」


「ふん……時間切れだ。これ以上は主が持たぬ、今日の所は見逃してやろう」


「…………」


男は片膝を立て座り込み、顔を伏せてしまう。それを見たアレスは構えを解き、収束させた力を霧散させた。


「何をしているアレス!奴を仕留めないのか!?」


「あの強大な霊力が……消えた。今、そこに居るのは男さんだ」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/29(木) 22:57:48.90 ID:dnoqRDya0

「何だと…?」


「男さん……君は一体…何者なんだい…?」


『〜♪〜〜♪』


「え…?」


「……アレス…今のは君の鼻歌か?」


「いや、違うよ……これは……」



〜???


今の鼻歌は何だ?


「いっで!?」


突然顔を叩かれておもわず目を開けてしまう。どうやらシェイドが俺の頬をぶっ叩いた様だ、起こし方他にもあるだろ。


「はい、おしまい。さて、すぐにでも意識取り戻して貰うけど……どうだった?見た感想は」


「いや……どうって言われても…」


何がなんだか……整理がつかない。







感想、聞きたい事、行動安価
安価下
安価下2
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 22:59:12.37 ID:z0Pdc4qd0
すっげーファンタジー
いつか俺もあれくらいできるようになるの?
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 23:20:14.55 ID:FtSf+ZOp0
何故自分が選ばれたのか
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/29(木) 23:40:54.04 ID:dnoqRDya0

「なんつーか……すっげーファンタジー……だよな。いつか俺もあれくらい出来るようになるのかな?」


「天衣の事?……あはは!君が強くなれば天衣どころじゃない、もっと凄い力を手に入れられるよ」


「もっと凄い……あっ!さっき言ってた神衣の事か?」


「おっ、良く聞いてたね。その通りだよ…神衣は、天衣の上位展開術式だ」


「上位展開術式……」


さっきからだがこれまた新しい単語の怒涛攻めだ。


「天衣ってのは精装束を媒介に展開する術式の事でね。分かりやすく言うと、精装束に魔糸で封じ込まれた力を解き放つ事なんだ」


「う、うん…なるほど…?」


「そして神衣……これは精霊、或いは大精霊と契約した者のみに与えられる力。特に大精霊の神衣は比類無き強さを誇り、天衣なんて可愛い物だよ」


「あれで可愛い!?」


おいおい、神衣って相当やばいんじゃないか…?


「君にもその片鱗はあるよ。ほら、漆黒の篭手だよ」


「あ……マジで?」


「男君じゃまだ到底無理だけどね。いつかは……いや、生きてたらそのうち出来るんじゃない?」


「おいおい……嫌な言い方するなよ……」

314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 00:05:25.20 ID:MTaFkg5j0

俺は自分の手を見て、神衣に期待を寄せてしまう。いつか…俺も。


「ん?待てよ?」


「どうしたのかな?男君」


そもそも何故俺はレヴァンテインと契約出来たんだ?あのヴァーダでさえ契約等はしていない。異世界転生補正?きっとそうなんだろうけど、理由がある筈だ。

そもそも俺は何で転生した?良く考えろ…あの時俺はまだ死んでいなかったはずだ。じゃあ何故?馬鹿な神様が間違えて俺を選んだのか?
でもそんなのには会ってないし……。


「なぁシェイド。俺は何で……レヴァンテインに選ばれたんだ?」


「……それは──」


「シェイド」


「…!お帰りなさいませ、レヴァンテイン様…」


シェイドが跪いた先に俺も顔を向けると、レヴァンテインと呼ばれる人物が居た。セミロングの黒髪に、後ろの丈が長い黒いタキシードを着用した強面の大男が居た。


「お前が……レヴァンテイン…なのか?」


「如何にも。我こそは大精霊レヴァンテイン。闇を司る神である」


「なんつーか……おっさんだな」


「ばっ!男君!レヴァンテイン様に失礼だぞ!」


「良い。男は我の主であるからな、どう思おうと構わぬ。お前の前に姿を現す為の我が力で作り上げた肉体だからな」


これがお前の趣味なんだ、とは言わずにそうなんだと納得してあげた。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 00:20:16.24 ID:MTaFkg5j0

「して……主よ、何故我に選ばれたかを知りたいのだりう?」


「ああ…そうだけど…」


「残念だが主よ、それは我々精霊の禁忌に触れる事になるのだ。何故主が我に選ばれ、何故この世界に来たのか……それは主自身で知らねばならぬ」


「お前……俺がこの世界の人間じゃないって知ってるのか…?」


「無論、承知している」


「……そうなのか…」


「時間だ。そろそろ戻れ、主よ」


「えっ」


「…そういう事だ、男君。君が強くなるのを期待してるよ」


「ちょ、待っ──」






「はっ!?」


ここは…メルヴィス湖か。


「…っ!アレス!レオーネ!」


「君…」


「男さん!大丈夫かい?」


「何か色々ごめん!この埋め合わせはする!」


「はは、それは有難いけど…ここから生きて帰れたらね」


「え……それはどういう意味──」


『〜♪』


「あっ!」


「気付いたか?この歌は…」


「セイレーンの歌…!」


「男さんも知ってたんだね。なら話は早い……来るよ」


「来るって…?」

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 00:44:11.15 ID:MTaFkg5j0

「太湖のヌシ…キュレウス!」


『オオオオオオオオオッ!!!!』


湖の中から巨大な蛇が出てくる。所々に小さな翼が生えていて、その巨体を湖の上に浮かばせる。


「おいおい……ははは…マジで言ってんの…?」


圧倒的な存在を前に、薄ら笑いが出てしまう。


「噂には聞いてたけどね…これは……魔獣クラスかな」


アレスもいつも通りの涼しい顔だが、目は鋭く巨大な蛇を睨む。


「お喋りはそこまでにしておけ!気を抜いたら共倒れだぞ!」


もう戦争なんてしている場合ではない。奥に居た冒険者は既に居なくなっていて、恐らく反対側に居る兵士も冒険者も退避しているだろう。逃げたいところだが、そうはいかない。

汚名返上ではないが、力を持っているのにここで手を貸さないのは男が廃るってもんだ。


「アレス!この巨大蛇を倒したら埋め合わせはチャラな!」


「ははは!良いね!じゃあそれでチャラにしようか!」


「呑気か君達……」


レオーネはやれやれといった感じで頭を振る。そうは言っても軽口を叩いてないと圧に呑み込まれてしまう。


「まずは奴の特性を見極める。僕が注意を惹くから、2人は左右で待機していてほしい」


「あいわかったぁ!」


「気を付けろよ、アレス」


317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 01:09:09.31 ID:MTaFkg5j0

「僕の技が発動したら作戦開始…行くよ!」


アレスは剣を掲げ──


「アグラヴァティオン!!」


アレスの持つ剣が光り輝く。キュレウスはその光に反応したのか、絶叫と共にアレスに突進する。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「行って!二人共!」


「ああ!」


レオーネと俺は反対方向へと走り、突進の範囲から逃れる。全力で走った後、後ろを振り向くと信じられない光景が目に入った。
アレスが突進してくるキュレウスの顎を下から剣でかち上げ、軌道を逸らしていた。


「嘘だろおい…お前1人で良いんじゃねぇの」


さっき見たアレスもそうだが、やはりヴァーダというのは規格外過ぎると痛感する。


『〜♪〜〜♪』


この間にもセイレーンの歌は聞こえ、湖を見やるがその姿は見えない。このキュレウスと関係があるのか?


「レオーネ!危ないぞ!」


アレスの声に振り向くと、キュレウスの胴体にレオーネが乗っていた。


「私とて二等級ヴァーダだ!下手は打たない!」

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 01:36:58.71 ID:MTaFkg5j0

レオーネは剣を胴体に突き刺すと、その剣身が燃え上がり、そのまま尻尾へと向かって切り裂いていく。


「ギュオアアアアアアアアアアアア!!!」


「すっげぇ…あれがレオーネの技か…」


アレスも受け流した胴体を切り裂き、キュレウスの白い巨体が段々と真っ赤に染め上がっていく。
突進した頭が転回し、再び襲うがアレスはそれをまた受け流して切り刻む。


「負けてらんねぇ…!俺もやってやる!」


アレスの受け流した頭は俺の近くに来たので、巨大な蛇の顔に一瞬ビビるが強化した足で跳躍して額に飛び乗った。


「男さん!?危険だ!まだ奴の特性が分からない!」


「分かってるって!おい蛇野郎!ここは効くだろ!!」


俺は短剣をキュレウスの片目に突き立てる。肉を抉る気持ち悪い感触が手に伝わって来るが、怖くはなかった。



「ギィアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「うお!?うおおおお!?」


キュレウスは頭部を振り回すので、俺はキュレウスの鱗に引っ付かまって何とか振り落とされ無いようにするのに必死になる。


「き、気持ち悪い!止まれ!止まれ蛇野郎!」


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「ちょ!うおおおあああ!?」


あまりに激しい為、ついには振り落とされてしまう。


「世話が焼けるね」


「ぶわっ!?」


隕石の如く突進してきたレオーネに激突され、近くの陸地に着地する。


「げほっ!!……さ、さんきゅ…」


「先程の君と違い、今の君は強くは無いんだ。無茶はするな」


「へ、へい……」


レオーネは颯爽と駆け抜けて、再びキュレウスへと接近する。

319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 02:06:31.60 ID:MTaFkg5j0

「くっそ……やっぱ役に立たねぇな俺…」


キュレウスは次第に落ち着くと再び空へと浮かび上がる。傷をだらけの巨体は、勝ちを確信させるには十分だった。


アレスとレオーネは俺の元へと駆け寄って、傷の確認をする。


「これ、もう一押しって感じじゃね?」


「そうだと良いけどね…まだ油断は出来ないよ」


「アレス、君はどうだった?」


「レオーネも気付いたようだね」


「え、え、何が?」


「斬った感じが……ちょっとね」


「え?どういう────」


「ギヤアアアアアアアアアアアアア!!!!」


キュレウスは絶叫を上げると体が発光する。


「な、なんだ!?」


「………ちっ…やはり召喚獣か」


発光が終えると、キュレウスの体は元取り白い胴体へと変化した。


「え!?脱皮!?」


「多分違うと思うけど…まぁ合ってるんじゃないかな」


「ガアアアアアアアアアア!!!」


「これどうすんの!?逃げる!?」


「そうしたいのは山々だけど……多分無理だね」


「巫山戯ている場合じゃない、術者を探すぞ」


「術者って……もしかしなくてもセイレーン?」


「だね。歌だけが人を伝って噂になったからね、姿を見た者は居ないんだ」


「絶望的じゃね!」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 02:27:45.73 ID:MTaFkg5j0

「セイレーンと言うからには、湖の何処かに居るのでは…」


「ギィガアアアアアアアアアア!!!」


「うわっ!またこっち来るぞ!」


キュレウスが俺達目掛けて突進を繰り出してくる。逃げようとしたが、アレスは動かずにレオーネが前に出る。


「次は私の番だ、下がっていろ」


レオーネは剣を回転させ、剣を逆手に持ち下に向けて高く持ち上げる。


「クラウディア流剣術、第一秘剣……炎柱」


地に剣を突き立てると、レオーネの正面広範囲に巨大な火柱が地面から噴出する。吹き出る火から高熱を浴び、思わず顔を隠す。


「あっつ!ちょっと!派手過ぎんですけど!」


やっぱレオーネもバケモンだわ、こいつ。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


キュレウスは顔面を火に焼かれ、再び暴れ出す。


「ここは私が引き受ける!君達はセイレーンを探せ!」


「分かった。頼んだよ、レオーネ」


「…当然!」


「よっしゃ!俺も探すくらいは出来るだろ!」


俺はレオーネから全速力で離れ、セイレーン探しを始める。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/30(金) 02:52:15.52 ID:MTaFkg5j0

「とは言ったものの…」


何処を探す?湖?森?もっと着眼点を広げて別の所?もっとよく考えろ…セイレーンが居る、それらしい所は…!




集中して探す箇所
安価下
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 08:30:13.89 ID:R/0m9RkE0
セイレーンは死ぬと岩だったかな
岩になってもおかしくなさそうな湖の浅瀬あたりを
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/30(金) 13:45:59.31 ID:MTaFkg5j0

たしかセイレーンの物語を調べた事がある。概要は詳しくは思い出せないが、たしか最期は岩礁になるんだったか。
俺は湖の浅瀬となる場所を探す。

湖のほとんどは数十センチの段差になっているが、浅瀬も確かにある。視界が悪い中、暴れるキュレウスを他所に湖を見渡していると浅瀬を発見する。


「見つけた!浅瀬!」


おあつらえ向きに浅瀬があり、到着してすぐに調べるが──。


「これか?……いや、違うか」


浅瀬の岩礁を手当り次第に叩いたりしてみるが、特に反応は無い。


「所詮は伝承された物語って訳か、手掛かりだと思ったんだが……」


何か、大事な部分を見落としている気がする。


「岩礁になったのは死亡後…だよな」


ならもし…生きているとしたら?そもそもこの世界のセイレーンが出現する条件は──


「男!」


「えっ────おわっ!?」


レオーネの声に岩礁から顔を上げ、真横から見えた影に反応して咄嗟にしゃがみ、頭の上を轟音が駆け抜ける。どうやらキュレウスの尾が俺の真上を掠めたらしい。


「あっぶね!」


「流石にそっちまで面倒は見れない!気を付けて探してくれ!」


「了…解!」


砂を蹴り、浅瀬から離れる。俺は走りながら情報を整理し、確信を持ってその方向を見据える。


「そこに居るんだろ!セイレーン!」





何処を見た
安価下
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 13:52:37.34 ID:604ZW92P0
空中(満月が重なっている箇所?)
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 15:00:13.69 ID:MTaFkg5j0

空に浮かぶ月、そこにセイレーンが居る。はっきり姿は見えないが、薄らと空中で椅子に座っている女性のシルエットがある。


『〜♪』


「アレス!!月だ!!」


遠くに居るアレスに聞こえるように大声で叫ぶ。了解の合図なのか、アレスの剣から光が放たれている。


「場所が分かればこっちのもんだ!やっちまえアレス!」


その直後アレスの所から真っ白な刃が無数に月へと向かって飛んでいく。


「ガアアアアアアアアアア!!!」


その刃は届く事は無く、レオーネに構っていたキュレウスはセイレーンを庇うように捻れて取り巻いていく。


「おしい!」


「男!あそこにセイレーンがいるのか!」


注意を惹いていたレオーネが駆け寄って来る。


「間違いない、キュレウスが庇ったのが良い証拠だ」


「なるほど。だが、どうしてあそこにセイレーンが居るとわかった?」


「俺が知る情報を整理したら、一番居そうなのはあそこかなって」


「情報?セイレーンの事を他に何か知っていたのか?」


「ちょっとね。ってそんな事は良いじゃん!ほら、早くぶっ倒しちまおう!」


「本当に君は……ふふふ、そうだな、そうしよう」

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 16:34:23.04 ID:pHSCvi0vO

戸愚呂を巻くように浮かぶキュレウスを睨みつけていると、その胴体は光り輝き小さくなっていく。


「な!?小さくなっていくけど!?」


「狼狽えるな。ここからが正念場だぞ、男」


レオーネは剣を構え、俺も遅れて短剣を身構える。小さくなっていくキュレウスは次第にある物に形を成していく。
小さくなったそれをセイレーンが掴むと、薄らと見えていた身体の色が濃くなっていく。


「ハープだ!キュレウスがハープになった!」


「奴が、セイレーンか…!」


顕現したのはハープを弾く美しい女性。黄金の髪を全身に這わせ、頭から髪と同じ色の羽根を生やし、手首や手足からも小さな羽根が生えている。何より全裸な事と、下半身が魚じゃない事に俺は特に驚いた。


「予想とは違ったけど…すっげぇ美人」


「見蕩れて惚けるなよ、あれでも魔獣だ」


「わ、わかってるよ」


『〜〜♪』


歌声と共に、今度は弦から奏でられる音も乗ってくる。


「呑気に弾きやがって…余裕ってか」


「男さん!レオーネ!」


「アレス…無事のようだな」


「うん。ここからはセイレーンの特性に気を付けて、何が起きるか分からないから」


「特性……アレスの雷雨みたいなやつだよな」


「そうだね。恐らく音関係だと思うけど、いつ仕掛けて来るかが分からないね」


「おっかねぇなぁ……」


327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 19:38:35.36 ID:siYda0EzO
風呂敷を広げ過ぎて畳めなくなる気がしてきた
この話し終わったら一旦打ち切るかも
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 19:42:04.05 ID:KpQstiBT0
楽しみに読んでたから残念だけど>>1の判断を尊重します
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/30(金) 21:38:49.63 ID:MvCeme9J0
マ?
楽しいからもしこれを畳んでも別の世界でもいいからまたやってほしいな
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 00:41:11.78 ID:CnCEYShv0

セイレーンは俺達に構う素振りすら見せず、ただひたすらに弾き続ける。


「なぁアレス…さっきの天衣は使わないのか?」


「残念だけど……術式を展開する魔翌力を蓄積しないといけないからね、しばらくは……」


「そっか。俺のせい…だよな、すまん」


「気にしないで。また溜めれば良いんだしね、男さんのせいじゃないよ」


「アレス……男だけど惚れちまいそうだ」


「そう言われると悪い気はしないね」


「はぁ…もうツッコまないからな…」


魔獣と対峙してるとは到底おもえない雰囲気。だが、軽口が叩けるのはまだ余裕があるという事だ。


「さて、どう攻めようかな」


「あんな所に居られちゃぁなぁ……」


「まずは試してみるか」


「試す?」


「射抜け」
「貫け」


2人はいきなり、ほぼ同時に魔法を放つ。アレスの手からは雷の槍、レオーネからは火の槍。セイレーン目掛けた魔法が近くまで行くと、あらぬ方向へと逸れてしまう。


「お前らさ…やるならやるって言ってくれよ…」


「ごめんごめん。でも…魔法障壁か、厄介だね」


「全く面倒だな、直接斬るしかないか」

331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/31(土) 01:08:29.36 ID:CnCEYShv0

「斬るったってなぁ…どうにか下に降ろさないと駄目じゃないか?」


「そうだね。セイレーンの攻撃手段も分からないし、挑発して遠距離攻撃されたら無事じゃ済まない」


「男、君はセイレーンに詳しいんだろ?何か知らないのか?」


「え?そうなの?男さん」


「いや詳しくは無いって。たまたま知ってる事があっただけなんだよ」


「そうだったのか。むむ…それでは打つ手がないな」


「真空刃は?魔法じゃないし、ここから撃ちまくるとか」


「アリだけど、それだと威力が相当堕ちてしまうよ」


「そうかぁ……じゃあ逃げる?何か俺達に興味無さそうだし」


「無理だ。セイレーンを倒さなくては退路は無いぞ」


「うん。もう僕達は、セイレーンの領域に閉じ込められてるんだ」


「領域…?」


「魔獣はね、敵対する獲物を自分の領域に閉じ込める事が出来るんだ。男さんには見えるかな?広範囲を覆う魔力結界が」


「ん〜?」


全く見えない。


「あ、そうだ」


俺は魔眼を発動してみた。その効果はあり、ドーム状に薄い幕か張ってある。


「見えたわ、なるほどね。逃げる選択肢は無いって訳か」


「男さん……その目は?」


「私と始め対峙した時にも、その目になっていたな?」


「ああえっと……あははは…」

332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/08/31(土) 01:21:46.95 ID:CnCEYShv0

「…言いにくいみたいだね、なら僕は詮索しないよ。僕も目に関しては人のこと言えないしね」


「私も深くは聞かない。隠し事の一つや二つある方がら魅力があって良いものだ」


「え、まさかレオーネ…」


「斬るぞ」


「こっっわ、冗談じゃん…」


「あははは。まぁ、男さんが話せる時に話せば良いさ」


「ああ、ありがとう」


「本題に戻るぞ。セイレーンの気を引く方法だ」


「うーん……あいつさっきから歌って弾いてるだけだけど、領域はしっかり張ってるんだよなぁ…」


『〜♪』


「うん、でも綺麗な歌声だよね」


「これから戦う相手を褒めるなよ、分かるけど」


「だよね!」


「君達は…はぁ…」






セイレーンの気を引く手段

安価下
安価下2

333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 01:39:05.22 ID:W1KtYq4n0
一緒に歌ったり踊ったり草笛を吹いてみたりする
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 08:04:48.97 ID:D/71nJ2PO
容姿をほめる
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 12:57:11.63 ID:cQqGR5EEO

「なら…女性を煽てるみたいに容姿を褒めてみない?」


「え?」


「何を言っているんだ君は、奴は魔獣だぞ」


「でも他に策も無いだろ、何でもやってみようぜ!」


「本気で言ってるのか…君は」


「突拍子も無い案だけど、魔獣は未知な事が多い。もしかしたら本当に気を引けるかもね」


「だろ〜?そうと決まれば早速褒めちぎろうぜ!」


『〜〜♪』


「セイレーン!綺麗!美しいー!可愛いぞぉぉ!!」


「端麗なるセイレーンよ!貴女の麗しき姿容を、僕の目に留める事を差し許してほしい!」


『……』


「おい、セイレーンの手が止まったぞ!」


『〜〜♪』


「駄目か!ほら、レオーネが言わないから!セイレーンが機嫌を損ねた!」


「なっ!馬鹿を言うな!私はやらないからな!」


「でも何故手を止めたのかな、本当に効果があったとか?」


「ほら、やっぱ魔獣でも中身は女性って訳よ。レオーネは分かってねぇなぁ……」


「この…!」


「うおぉ!剣を向けるな!」


「まあまあ……うーん、容姿を褒めるのは駄目みたいだね」


「良い案だと思ったんだけどなぁ」


「私は良いとは言ってないぞ」

336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/08/31(土) 13:50:30.38 ID:cQqGR5EEO

「……お、ならこれはどうだ?」


俺は近くの森から固めの木の葉を広い、先から軽めに巻いていく。


「それは何だい?男さん」


「巻き笛って言ってな──」


筒状になった片方を潰し、口に咥える。息を吐くと、低くて大きな音が鳴る。


「おお、凄いね!葉でそんな事が出来るんだ!」


「…そんなものをどうするんだ?」


「セイレーンの歌と演奏に同調しよう作戦」


「え?」


「なに…?」


「一緒に歌って踊って演奏して、セイレーンの気を引いてやろうぜ!」


「それ良いね!」
「何をまた………アレス!?」


「だろ〜?」


「レオーネも良いと思わない?」


「思わない。やらないからな」


「巻き笛くらい吹いてくれよ〜」


そう言うとレオーネは黙って自分の顔を指す。


「仮面の下は見せられない的な?」


「いや、レオーネの──むぐっ!?」


アレスの口をレオーネは無理矢理閉じる。


「見せられないんじゃない、見せたくないだけだ」

337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 04:23:19.83 ID:tL+iWivA0

「じゃあ後ろ向いてて良いから協力してくれよ」


レオーネはアレスの口から手を離し、少し考える素振りをする。


「…僕からも頼むよ、レオーネ」


「…………はぁ…絶対に見るなよ」


仮面の下は、醜いのか傷だらけか。男か女かハッキリしないしイケメンか美人の可能性もある。いつか見てみたいな。


「OK。じゃあ頼む。アレスは踊れるか?」


「クレアと良く踊っていたよ。一人では踊った事はないけど、やってみる」


「よし。じゃあ俺は歌ってみる、DAMで90点以上取ったことあるし!」


「ダム…?」


「河川や渓流を堰き止める巨大な建造物の事だろう。点数の意味は分からないが」


「ごめん、気にしないで…」


338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 14:55:46.24 ID:c8TdHkXWO

役割を決めたら俺は発声練習を、アレスは軽くステップを踏み、レオーネは背を向けて巻き笛を鳴らす。
準備が整ってきたのでセイレーンの歌や音を無視して、アレスは踊り、レオーネは適当に鳴らし、俺はセイレーンの声に負けない声量でアニソンを歌う。


『…………』


数分やっていると、セイレーンの動きが止まった。俺達を見るその表情は不思議そうで、気を引くのには成功したようだ。
作戦は功を奏し、セイレーンが降りてくる。

ものの数歩で剣の間合いに入る距離、地面からほんの少し浮いた状態で俺達と一緒にセイレーンは歌い、奏で始めた。
俺はアレスに目線を送り、アレスも頷く。


「ラスティア流……」


アレスは踊り流れから背に差した大剣に手を伸ばし、抜剣の構えに移行する。レオーネも仮面を付けて既に巻き笛は捨てていた。


「…紫電一閃」


雷が落ちる音と共に紫色の電光がセイレーンを突き抜ける。その背後には大剣を振り抜いたアレスが居た。


「すっげ…」


『〜〜〜…』


切り裂かれた筈のセイレーンは何かを呟き、悲しそうな顔をする。


「効いてない…のか?」


「アレスならばと思ったが…やはり魔獣を一振で倒すのは難しいか」


レオーネは俺の前に出て、構える。


『〜〜…〜〜〜』


「…!マズい!何か来るよ!」


アレスはセイレーンから飛び退き、俺とレオーネは様子を窺って息を呑む。

339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/01(日) 15:12:50.44 ID:c8TdHkXWO

セイレーンはハープを今までの心地の良い音色とは違い、身体の芯を刺激する様な音色を奏で始める。


「っ!!?」


頭を鈍器で殴られた様な痛みが走る。立っていることも出来ず、俺達は字面に膝をつく。


「頭が割れそうだ…!何だこれ…!」


「ぐっ…!これが…奴の特性か!」


頭痛は収まらず、継続する。このままでは気が気で無くなり、狂ってしまう。すぐそこに居るセイレーンがとても遠くに感じられ、焦りが生まれる。


「気を付けて皆…!───ぐあっ!!」


すぐ近くに居たアレスはセイレーンに蹴飛ばされて遠くへと吹き飛んで行った。


「アレス!……ぐぅっ!!……くそっ!動けね…!」


身体を動かそうとすると、ただでさえ激痛なのに更に上回る激痛で動きが止まってしまう。この中動いたら意識が切れるのは間違いない、気絶するという事は死を意味する。


『〜〜…』


「何言ってっか…!わかんねぇって……!!」


ついには地面に這いつくばってしまう。その時見えたセイレーンの、アレスに斬られた傷は既に癒えていた。


「うそ…だろ…!?」

340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/01(日) 15:46:46.52 ID:c8TdHkXWO

「くっ!!……ここまでだと…言うのか!」


「馬鹿言うな!…まだ!……まだ…何か…!」


「身動きが…取れなくては…!どうしようもない……だろう!」


「そうだと…しても!!」


俺は這いつくばったままレヴァンテインの力を解放する。意味が無いと分かっていても、何もしないよりは良いからだ。


「訳も分からずこの世界に来て…!」


身体が軽くなっていく。


「その答えも知らないまま……さぁ!」


全身を震わせながら、次第に身体を起こす。


「男…!?」


『…………!』


「まだ、死ねねぇんだよ!!」


俺は、立ち上がった。右手にはリネル村で見た、漆黒の篭手が装着されている。


「男……やはり君は……伝説の…!」


「はぁ…はぁ……!」


『〜〜!』


セイレーンはハープを更に強く弾くが、俺には効かなかった。


「効かねぇよ…!」


俺は地を蹴り、飛び付くようにセイレーンのハープを掴む。


「まずは…こいつから!」


『〜〜〜!!』


セイレーンは振りほどこうと抵抗するが、俺は篭手に力を込めるとハーフは粉々に砕け散る。


『〜〜!?』


「…まだ終わりじゃねぇぞ!」


俺は力いっぱい手を握ってセイレーンの横っ面を殴り、湖の中央までセイレーンを吹き飛ばす。

341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/01(日) 15:58:41.60 ID:c8TdHkXWO

「はぁ…はぁ…!」


水面に浮かぶセイレーンは微動だにせず、脱力している様子だ。


「やった…のか?男。それにその腕の篭手は…」


ハープの音が消えたことによってレオーネは立ち上がれる様になっていた。顔を抑えて所を見ると、まだ頭痛がするのだろう。


「レオーネ……言っちゃ駄目な事言ったね」


「…は?」


激しく水面を叩く音がした。セイレーンは生きていて、空へと逃げるように飛び去っていく。


「ほらね」


「いや…意味が…」


「男さん!レオーネ!」


吹き飛ばされたアレスも立ち上がって、こちらへと駆け寄ってくる。


「大丈夫か?蹴られただろ」


「これが無かったら…危なかったかもね」


アレスはボロボロになった鎧を叩く。たったの一撃で鎧がこんなにも大破するのか、直で受けたら……想像したくもない。


「奴の武器は潰したが…どうする。もう降ろすのは無理だ」


「俺に任せて」


「男さん…?」

342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 16:16:54.00 ID:c8TdHkXWO

セイレーンは武器を破壊され、怯え、震え,恐怖に呑まれた事だろう。ならばこそ、俺のもうひとつの必殺技が光るのだ。
俺は飛び上がるセイレーンを見据えて、手を向ける。


「何を…?」


「…じゃあな、セイレーン」


ぐっ、と手を握ると、セイレーンの身体は闇に呑まれてしまう。


「なっ!?」


「今…何をした…?」


「俺の…必殺技、的な」


闇が消え去り、セイレーンは湖へと落下する。覆われていた領域も消え去り、絶命したのを確信した。


「……ふぅ…勝った……な」


安心から、ドッと疲れが押し寄せてくる。俺は膝から地面に倒れ込んでしまった。


「男さん!?」


「男!!」


アレスとレオーネが俺の名を呼ぶが、返事は出来そうにない。視界が閉じていき、次第に何も聞こえなくなった。







「……んん……あれ…寝てたのか……俺」


セイレーンに勝利した後、すっかり寝てしまっていたみたいだ。


「んん?…ここは……何処だ?」


いつの間にか、俺は知らない部屋のベットで寝ている。メルヴィス湖からここに来るまで寝てたって事か。
内装を見て思ったのは豪華絢爛という言葉が似合う室内に、俺は何となく思い当たる節があった。


「……クレアの…家?」


確証は無かったが、王族王家の部屋はこんななのだろうという何となくイメージがあったので、もしかしたらと思ったのだ。

343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 15:00:02.49 ID:AgdoFnGlO

「……ん?」


どこからか話し声がする。次第に声は大きくなり、声の主はドアを空けてきた。


「だから、別にそんなんじゃないって言ってるでしょ!」


「分かったよ。クレア怒ってる?」


「怒ってない!」


部屋に入ってきたのはアレスとクレアだった。


「あ、男さん!目が覚めたんだね!」


「お、おう…なんとかな」


「ようやくおきたのね、丸一日寝てたわよ」


「マジで?そんなに?」


「急に倒れて目を覚まさないから心配したよ。身体は大丈夫?」


「ああ、特に問題は無さそうだ」


俺は肩を回して見せ、それを見たアレスは安堵の息を漏らす。


「あれからどうなったんだ?戦争とか」


「勝ったよ。男さんが倒れた後すぐレオーネが手当てしてやれって言ってくれてね、決着はどうするのか聞いたら自分の負けでいいって」


「へぇ〜…レオーネがそう言ったんだ。まぁでも…勝ったのか……魔獣も相手して…生きてるのが不思議だな」


「…大活躍だったみたいね、私からもお礼を言うわ。ありがとう、男」


「何かクレアに言われるとくすぐったいな」


「あはは!わかるわかる!」


「ちょっと!どういう意味よそれ!」

344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 15:19:33.65 ID:AgdoFnGlO

「ごめんごめん。クレア、少し外してもらえるかな?男さんと2人で話したい事があるんだ」


「私には聞かせられない話なの?」


「そうだね、内緒のお話」


「……ふん。好きにしなさい、私は外で待ってるわ」


クレアは踵を返し、部屋を退出する。二人きりになると、アレスは椅子を俺の居るベットまで持ってきて座った。


「で、話ってなんだ?」


「まず話しておく事があるんだ、良いかな?」


「ああ、良いけど…」


「ありがとう。実はね、ある御伽噺の事なんだけど」


「御伽噺…?」


「これは誰もが知ってる物語なんだけど、全部話すと長いから要約しちゃうね」


「あ、ああ…」


「カンタンに言うと、災厄が蔓延る世界に、異質なる者が世界を救うって話なんだ」


「……へぇ」


「その物語の主人公、異質なる者にはある特徴があったんだ」


「……異世界から来たとかか?」


読めてきた。今俺にこんな話をするって事は間違いない。


「…正解。でも、もうひとつある」


「もうひとつ…」


「……大精霊の力を借りて初めて可能となる御業。上位展開術式、神衣」


「……!」


345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/02(月) 15:30:45.85 ID:AgdoFnGlO

「男さんの装備していたあの篭手……この世のあらゆる物質から出来た物じゃない……あれは…あの悍ましい程強大な霊力は……あの時の……」


「……」


「改めて聞くよ。男さんは何者?……そしてあの篭手は、もしかして神衣なのかな?」


「いや…あれは不完全だ。まだ俺には神衣は出来ない」


「…!やっぱり…男さんは……」


「悪い、俺の知ってる事を話すよ」


アレスは手を突き出して、俺の話を制止させる。


「いや、話さなくて良いよ。聞きたい事が聞けた、僕はそれで十分。男さんが異質なる者だとしても、男さんは男さんだからね」


「でも…」


「ひとつやふたつ、秘密がある方が魅力的だよ?」


「お前……ははは、そう言われちゃあ仕方ないな…」


「うん。それで、男さんはこれからどうするんだい?」


「……そうだな…」






今後の目的、方針
安価下
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 15:37:00.42 ID:MeTDsCSy0
世界中を巡る
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 16:27:02.79 ID:AgdoFnGlO

「まずは…世界を巡るよ。俺には知らないよね事が多すぎるからな」


「…そっか。うん、良いね。僕も男さんの旅路の無事を祈るよ」


「大袈裟だよ、ただの旅行みたいなもんだって──おんっ!?」


突然アレスが俺の手を握るので、変な声が出てしまった。


「せっかく男さんと出会えたけど、寂しくなるね。助けが居るならいつでもメリルに来てね、協力するよ」


この爽やかイケメンが…こうやってクレアも落としたのか?不覚にもドキッとしてしまった。


「あ、ありがとう……」


アレスは嬉しそうに微笑むと手を離す。


「あ、外に男さんの馬を用意してあるからね。支度ができたらいつでもどうぞ」


「そうか。色々とすまないな」


「これくらいお安い御用だよ。それじゃ、またいつか……何処かで」


「俺もお前達には世話になった。またいつか会おうぜ」


「うん。楽しみにしてるよ」





身体に異常無し、着替えを済ませて荷物を確認し、旅立つ準備をする。使用人から話を聞くと、ここはメリル町の近くにあるクレアの別荘らしい。

クレアの計らいで食事をさせてもらい、俺は外に停めてある馬の手綱を外す。


「良い天気だなぁ…」


馬を引きながら、空を見上げる。


348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/02(月) 16:37:04.32 ID:AgdoFnGlO

「冒険にはもってこいの日だな」


俺は馬に跨り、果てしない旅へと向かう。




ここまで本当に色々あった。



死にかけた俺は、何故転生したのか



意味は、きっとある



でもそれは、俺自身でしか見つけられない



なら、探すしかないよな



この広大な世界を回り





その答えを、見つけるんだ。





…………………………

……………………

………………

…………

……







「君は何者なんだ?」





「俺は異世界から転生した者だ」








349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/09/02(月) 16:40:08.97 ID:AgdoFnGlO
投げっぱなしで申し訳ない
ここまで読んでくれた肩、ありがとうございました
しばらくは二次創作の安価かSSをやりたいと思います
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 16:55:07.16 ID:PzDzX3us0
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 17:40:36.33 ID:fRuvRfgwO
乙です。次回作楽しみに待ってます。
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 20:40:30.53 ID:FoQdilsBo
おつおつ
楽しかった
まちのむ
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/02(月) 21:39:08.97 ID:MeTDsCSy0
おつ
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/03(火) 18:26:34.55 ID:R6WenyLDO
おつ
セイレーンがちょっと可哀想だった
闇に飲まれた先があの城だったとか
いつか続きが読んでみたい
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