千聖「賢者の憂鬱」

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1 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:33:35.14 ID:je40CgkU0
ーーレッスンスタジオ

千聖「……時間ね。今日はここまでにしましょうか」
彩「えっ、まだ1時間しかやってないよ?」
千聖「まさか彩ちゃん、貴方……自分の予定を忘れてるんじゃないでしょうね?」
彩「……あっ!?そうだった!私行かなきゃ!」ガチャ
千聖「落ち着いて、ここを出て香澄ちゃんと会うまでにまだ30分はあるわ。すぐ焦るのは彩ちゃんの悪い癖よ。まったく……」バタン

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2 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:34:34.35 ID:je40CgkU0
麻弥「なんというか、千聖さん……彩さんの扱いに手慣れてますね」
日菜「彩ちゃんもいつもあんな感じだよねー。なんかすっかり千聖ちゃんの掌の上って感じ」
日菜「でもなんで千聖ちゃん、彩ちゃんの予定知ってたんだろ?こっそり手帳でも見たのかな」
イヴ「なんと……チサトさんはシノビだったんですか!?」
麻弥「シノビ……と言えなくもないんですかね、それは」
日菜「もージョーダンだって!引っ掛かるの早すぎ〜」
麻弥「えぇっ!?……日菜さん、心臓に悪い冗談はやめてくださいよ……」

ガチャ

千聖「ごめんなさい、待たせてしまったわね。休憩したら、練習の続きをしましょう」バタン
3 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:35:25.50 ID:je40CgkU0
イヴ「でもさっき、トックンは終わりって……」
千聖「『彩ちゃんは』ね。ああでもしないと彩ちゃんは引きずってしまうもの」
麻弥「え、そうなんですか?」
千聖「えぇ。きっとライブ前だから、途中で練習を抜けるのに罪悪感を感じてしまうのね」
麻弥「よく見てるんですね」
千聖「……メンバーの心身の状態を気に掛けるのは当然でしょう?彩ちゃんは特に無理をしがちだし」
4 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:35:57.09 ID:je40CgkU0
千聖「そんなことはいいの。戻って休憩にしましょう」
イヴ「はいっ!」
日菜「……んー?んんー?今なんか……」
麻弥「……日菜さん?どうかしましたか?」
日菜「……うーん、なんでもない!麻弥ちゃん行こー?」
麻弥「日菜さんがいいならいいですけど……って日菜さん!?置いて行かないでくださいー!?」
5 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:36:31.09 ID:je40CgkU0
日菜(麻弥ちゃんに感心された時に見せた、若干引き攣った顔)
日菜(休憩に話が動いた後の、安心したような表情)
日菜「……これだけじゃまだ分かんないかなー。千聖ちゃん、何隠してるんだろ」

千聖(ちょっと強引だったわね。気付かれてはいないようだけど……)
千聖(みんな頑張っているんだもの。私もせめて、役に立てるようにしなきゃ)
千聖(そうでもしなければ、私だけ……)

千聖「……パスパレを……彩ちゃんを支えるって、誓ったはずなのに。つくづく自分が嫌になるわね」
6 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:37:21.47 ID:je40CgkU0
ーー練習後、事務所外

麻弥「みなさん自分のパートは出来てきたみたいですし、次からは全体で合わせてみましょうか」
日菜「やっと個人練終わりー?長かったぁ」
麻弥「……日菜さんは最初から完璧でしたからね。退屈に感じてしまうのも無理はないかも」
イヴ「ヒナさん、すごいです!それに比べて私は……」
麻弥「いや、日菜さんは別格というかなんというか……ですから落ち込むことは無いと思いますよ?」
イヴ「うぅ……」

千聖(みんな、個人練の時間が短くなってきてる。覚えが早くなって、いい傾向……のはずなんだけど)
千聖(……ダメね。私が合わせなきゃいけないのに、追い付ける気がしない。いつからかしら、みんなの背中が遠く見えるようになったのは)
千聖(レッスンの時間を増やさなければ。そして、早くみんなに追いつかなければ。……すぐ焦るのは彩ちゃんよりも、私の悪い癖ね)

麻弥「そういえば千聖さんも比較的早い段階で出来てましたよね」
7 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:38:38.83 ID:je40CgkU0
千聖「……」
日菜「千聖ちゃーん?」ツンツン
千聖「あ……ごめんなさい、呼んだかしら」
麻弥「あぁいえ、千聖さんはやっぱり凄いなと」

千聖「ッ……」
千聖(思わず、顔が強張る。同じ位置に立てている安心感なんてなくて、あるのはいつまでここにいられるのかという不安感だけ)
千聖(……麻弥ちゃんは素直な感想を言っただけ。これは私の問題。だから落ち着いて、私)

千聖「……ありがとう。私も、みんなに負けてられないもの」
千聖(そうして私は、また嘘をつく。引き離された私に、今更負けたくないなんて思う余裕はないのに)

麻弥「流石です。ジブンも頑張らないと……」
日菜「……ふーん?」
千聖「どうかしたの?日菜ちゃん」
日菜「んー?ふふ、べっつにぃ〜?」
千聖「……なんだか気になるわね、その笑い方」
日菜「だからなんでもないってば〜」
千聖「相変わらず日菜ちゃんの考えは読めないわ……」

日菜(あたしからしたら、今の千聖ちゃんの方がわかんないけどね〜。さっきすっごく怖い顔してたし)
日菜(褒められてるのに怒るなんて、今日の千聖ちゃんはやっぱり変だなぁ)
8 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:39:31.32 ID:je40CgkU0
ーー翌日昼、練習後

彩麻弥イヴ「「「千聖ちゃんが悩み事?」」」

日菜「たぶん。千聖ちゃん何も言わないしわかんないけど、悩み事でもあるんじゃないかなー」
彩「な、なんでそう思ったの……?」
日菜「えっとねー……」

〜日菜説明中〜

彩「え、あの後みんな練習してたの!?」
日菜「あ、そっか。彩ちゃん知らないんだっけ」
彩「知らなかったよ〜!言ってくれれば私も残って練習したのに……」
麻弥「だからですよ……千聖さん曰く、『彩ちゃんは特に無理をしがち』と」
彩「あっ、そっか……ごめん」
麻弥「彩さんに非はないですから、気にしないでください……にしても、そういうことだったんですね」
9 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:40:06.10 ID:je40CgkU0
イヴ「何か分かるんですか?」
麻弥「あぁいえ。昨日日菜さんが気になっていたのはそういうことだったのか、と」
日菜「あの時はそうでもなかったけどねー。この前の舞台みたいなことになってなければいいけど」

麻弥「ん?あの時の舞台みたいな……?」
彩「麻弥ちゃん、どうかした?」
麻弥「ちょっと待ってくださいね……」

麻弥(あの時は、千聖さんには彩さんたちの応援の言葉が屈折して聞こえていたようだった)
麻弥(それは後に千聖さん自身がジブンたちに心を許しきれていなかったから……らしい)

麻弥(そして、今回も似たような状況……)
麻弥(日菜さん曰く、千聖さんを褒めた時にだけ顔を顰めていたそうだ)
麻弥(……あまりにも共通点が多すぎる。決めつけるのは早計だとしても、対処は始めた方がいいかもしれない)
10 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:40:51.22 ID:je40CgkU0
麻弥「……もしかしたら、その通りになっているかもしれません」
彩「どういうこと?」
麻弥「状況がほぼ一致しているんですよ。『この前の舞台』と」
彩「……まだ千聖ちゃんは私達を信じ切れてないってこと?」
イヴ「そんな……やっとチサトさんと仲良しになれたと思っていたのに……」
麻弥「まだそうと決まったわけではありませんが、可能性が高いことも事実です。こればかりは、どうしようもないかと……」

日菜「でもさー、それじゃ足りなくない?」
彩「足りない……?」
日菜「そ。麻弥ちゃんが言ってることが正しいとしてさ?その時は舞台の練習があったからじゃん」

日菜「まだ何かあるんじゃない?千聖ちゃんについて、知らないことが」
麻弥「……確かに、日菜さんの言うことも一理ありますね。その悩みを取り除かないと、根本的な解決は難しい……」
日菜「でしょ?結局それを探ってみるしかないよねー」

イヴ「?」
彩「えーっと、つまり、どういうこと……?」
麻弥「さっき千聖さんがジブンたちを信じ切れていない可能性について話しましたよね」
彩「うん」
麻弥「でも前例からするに、それだけでなく何かしらの原因が無いと起こり得ない状況なんです」
イヴ「チサトさんは私達が知らない悩みを抱えている……ということですか?」
麻弥「そういうことです。……その悩みについては、分かりませんが」
彩「千聖ちゃんに聞いてみるのはダメなの?」
麻弥「千聖さんがジブンたちに話してくれるとは思えません。……何より、直接聞くことで信頼を失ってしまう可能性がありますから」
麻弥「対策は、ジブンの方でも考えてみます。彩さんとイヴさんも、何か分かったら教えてください」
彩「……わかった」
イヴ「わかりました……」
11 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:41:33.20 ID:je40CgkU0
日菜(このまま千聖ちゃんが動くのを待ってもいいけど。それまで千聖ちゃんがあんな感じじゃつまんないしなー)
日菜(直接聞かない……悩んでいることを知っていると伝える……うーん……)
日菜(……思い付いたっ♪これならいけるかも)
日菜(明日は練習もないし……早速始めなくちゃ!)
12 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:42:25.72 ID:je40CgkU0
ーー美竹宅


ピリリリリリ……

蘭「あれ、電話だ……」
巴「ん……今の電話、蘭か?誰から?」
蘭「えっと……え、日菜さん?」
ひまり「日菜先輩から!?珍し〜」
モカ「いつかの曲提供の話以来ー?」
蘭「いや、あれからメールのやり取りはしてたけど」
つぐみ「蘭ちゃん、曲作りは私達で進めておくね」
蘭「ありがと、つぐみ。……もしもし?」

蘭「え、突然どうしたんですか」
蘭「……なるほど。え、明日?……大丈夫ですけど……」
蘭「……わかりました。それじゃ、また明日」

モカ「何の話〜?」
蘭「別に。ちょっとした野暮用。ごめん、あたし明日午後から用事出来たから」
つぐみ「日菜先輩と?」
蘭「そ。『花について教えて』だってさ」
ひまり「確かに、蘭詳しいもんね〜。でも急にどうしたんだろ?」
蘭「知らないけど。贈り物か何かじゃない?……ごめん、待たせた。曲作り再開しよう」
巴「そうだな。んで、ここのところなんだけどさーー」



ーー同日夕方、氷川宅、紗夜の部屋

コンコン

日菜「おねーちゃーん!」ガチャ
紗夜「日菜?ノックしたら返事を待ってと言って……」
日菜「そんなことはどうでもよくてー!」
紗夜「……その調子だと深刻な話みたいね。どうしたの?」
日菜「えっとねー……」

〜日菜説明中〜

紗夜「なるほどね……それで、白鷺さんに手紙で伝えたいと」
日菜「うんっ。手紙は明日蘭ちゃんと用意するから、学校でおねーちゃんから渡してくれない?」
紗夜「二人とも白鷺さんとは別の学校だものね。渡すのは構わないわ。……美竹さんと関わりあったのね」
日菜「一回曲作ってもらったことあったでしょ?あれからよくメールしてるんだー。蘭ちゃんなら花言葉とか詳しいし」
紗夜「そういうことね。……日菜、私も同行していいかしら」
日菜「たぶんいいと思うけど、なんでー?」
紗夜「美竹さんが心配なのよ」
日菜「んー……わかったー。明日よろしくねー」ガチャ

バタン

紗夜「さて……」

ピッピッ

紗夜「もしもし、つぐみさん?夜分遅くにすみません」
紗夜「明日の件、申し訳ありませんが急用が出来てしまいまして……」
紗夜「……あぁ、ご存知でしたか。……えぇ、そうです」
紗夜「……つぐみさんも?いえ、ありがたいのですがご迷惑では……」
紗夜「……ありがとうございます。では、そのように」

プツッ

紗夜(仲間への信頼……私はそれを疑ったことなんて一度もない)
紗夜(湊さん、今井さん、宇田川さん、白金さん……彼女らの性格はよく知っているし、演奏技術も高く評価している。これこそ信頼と言い換えてもいいかもしれない)
紗夜(いくら結成が自分達の意志でないとは言え、Pastel*Palettesも私達と同じくらい長く活動を続けているはず。それでありながら白鷺さんは、彼女らの何かに疑念を抱いた)
紗夜(白鷺さん……あなたは一体、何に怯えているの……?)
13 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:43:14.18 ID:je40CgkU0
ーー白鷺宅、千聖の部屋

千聖(今日の練習は、結局個人練のみで終了した)
千聖(理由は、彩ちゃんの練習時間だけ不足していたことへの配慮。……それだけなら、良かったのだけれど)

千聖(彩ちゃんはまだ私と同じ位置にいる。そう考えて安心すると同時に、演奏技術の停滞を求めてしまった自分に嫌気が差す)

千聖「……はぁ」

ぎゅっ……

千聖(ベッドに転がっていたクラゲの人形を抱き締め、重い頭を預ける)
千聖(確か花音とお揃いで買ったもの。その時を思い出すと人形から彼女の香りがするかのように感じられ、ふわふわとした感覚に包まれる)
千聖(彼女の笑顔と言葉を思い出して、混雑していた思考が綺麗にまとまったような気がした)

千聖(……相談、してみようかしら)ピッピッ

千聖「……もしもし、花音?ちょっと話したいことがあるんだけど、今空いているかしら」
千聖「えぇ。せっかくだから、つぐみちゃんのところでお茶でもどう?」
千聖「……ありがとう。先に行って待っているわ」

プツッ

千聖「結局、最後に頼れるのは花音だけなのね」
千聖「……ありがとう、花音」
14 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:43:54.22 ID:je40CgkU0
ーー羽沢珈琲店

つぐみ「いらっしゃいませー……って千聖さん!」
千聖「つぐみちゃん。久しぶりね」
つぐみ「お久しぶりですっ。……いつもの組み合わせでいいですか?」
千聖「えぇ。お願い」
千聖(『いつもの組み合わせ』はケーキと紅茶の組み合わせであると同時に、私と花音の組み合わせということ。流石に覚えられちゃったわね)
千聖(窓際の二人席の片方に座り、すっかり暗くなった空を眺める)
千聖(『空を見ていると、自分の悩み事がちっぽけに感じられる。』誰かがそう言ったけれど、もしそうなら私の悩みもその広大な姿で呑み込んで欲しいものね)

千聖(そんなことを考えていると、無音だった空間にドアが開かれる音が鳴る)

花音「千聖ちゃん、お待たせ」

千聖(求めていた人の姿を見て、空っぽの心が喜びで少しだけ満たされる)

千聖「来てくれてありがとう、花音。注文は済ませてあるから、そろそろ来ると思うわ」
花音「ほんと?ありがとう……それで、話したいことって……?」
千聖「それがね……」

〜千聖説明中〜

花音「……そっか」
千聖「私自身、整理がついてなくて。麻弥ちゃんの言葉に動揺したのも、焦っていたからなんでしょうね……」
花音「うん。……辛いよね。自分だけ実力不足みたいに感じて、追い付こうとしても追い付けなくて」
千聖「まだ辛うじて近くに立てているけど、もうそれも時間の問題。今同じ場所にいる彩ちゃんだって、すぐにでも先へ行ってしまうわ」
15 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:45:00.60 ID:je40CgkU0
つぐみ「お待たせしました。いつもの組み合わせ、お持ちしました」
花音「あ、来たよ」
つぐみ(……ちょっと聞こえちゃったけど、そういうことだったんだ……)
花音「つぐみちゃん?」
つぐみ「……はっ。いえ、何も……相談なら私も乗りますから、遠慮なく言ってくださいね」
千聖「……ありがとう。そうね、悩み事でも出来たら相談させてもらおうかしら?」
つぐみ「はいっ」

花音「……いいの?」
千聖「……いいのよ。こんな話、知らない方がいいんだから」
花音「……そっか。でもね、パスパレのみんなはきっと知りたがってると思うよ」
千聖「そんな訳ないでしょう。こんな酷い話、本人達にしてしまえば恨まれたっておかしくないのに」
花音「そんなことないよ。……千聖ちゃんの笑顔が見たいから、千聖ちゃんを笑顔にしたいから。悲しい顔してほしくないし、悩み事だって相談してほしい。きっとそう思ってる」
千聖「……そうかしら」
花音「私だってそうだもん。千聖ちゃんに悲しい顔してほしくない。だって、『友達だと思ってるから』」
16 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:45:56.81 ID:je40CgkU0
千聖「……!」
花音「千聖ちゃんは、どう?私のこと、友達だと思ってくれてる?」
千聖「そうね。花音が悲しい顔をしていたら助けたいと思うし、相談に乗りたいと思う。友達だもの」
花音「……あの子達は?」
千聖「……経験が無いから分からないけど。今の私ならきっと、同じことを思うかもしれないわね」

千聖(結局のところ、私が彼女達を信じていなかっただけ。『友達だと思えていなかっただけ』。この期に及んでまだ壁を作ってるなんて、私は馬鹿ね)

千聖「こんな私でも……受け入れてもらえるのかしらね」
花音「きっと大丈夫だよ、みんな千聖ちゃんのこと大好きだもん」

花音「『勇気なら私があげる』。だからもっと友達を、千聖ちゃんを……信じてあげてね」
千聖「……ありがとう、花音。ところで、その言葉は誰かの受け売りかしら?」
花音「え?えっと……こころちゃん、から……」
千聖「ならその人にも伝えておいて。……『あなたが勇気をあげた人は、あなたと同じ勇気をあげられる人になれた』とね」
花音「……うんっ。伝えておくね」

つぐみ(ふふ。解決とはいかなくても、なんとかなりそうで良かった)
つぐみ(日菜先輩のお手紙がきっと、彩さん達の心を確かなものにしてくれるはず)
つぐみ(そのためにも、明日は頑張らないとっ)
17 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:46:39.41 ID:je40CgkU0
ーー白鷺宅、千聖の部屋

千聖(……明日……は練習が無いから、明後日。明後日の練習の後に、全てを打ち明ける)
千聖(不安はある。それでも私は、こんなところで止まっているべきではない。そう気付かされたから)
千聖(そして……壁を取っ払って。『偽りの私』を壊す)
千聖「……そんなの、簡単なことでしょう?」

千聖(不安を振り払うために、強気に呟いてみる。それでもやはり拭えないものはある)
千聖(心が読めれば。不安が消えれば。色々な幻想が脳内を巡っては消えていく)
千聖(出来ることと言えば、せめて何も考えないようにすることだけだった)
18 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:47:40.39 ID:je40CgkU0
ーー翌日、羽沢珈琲店前

つぐみ「お待たせ、蘭ちゃん」
蘭「ん、つぐみも来るの?」
つぐみ「うんっ。それに……昨日悩んでる千聖さんを見かけちゃって、何か力になりたいなって」
蘭「……日菜さんが言ってたのは、そういうことだったんだ」

紗夜「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
日菜「蘭ちゃんと……つぐちゃんだ!やっほー」
蘭「来たね」
つぐみ「私達も今集まったところですから。行きましょうか」
紗夜「日菜。何を伝えるかは決めているの?」
日菜「決めてるよー。歩きながら話すね」



ーー商店街、花屋

紗夜「……なるほど。日菜が感じた白鷺さんの気持ちと、他のメンバーの気持ちを花で贈る、と」
つぐみ「良いと思いますっ。メンバーの気持ちを伝えることが出来れば、千聖さんも安心出来ると思いますし」
蘭「ネガティブな意味の花を贈るってのはちょっと聞いたことないですけど。こういう贈り方なら悪くないと思います」
19 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:48:38.32 ID:je40CgkU0
日菜「それで蘭ちゃん、そーゆー感じの花って何?」
蘭「そうですね。例えばラベンダーとか。花言葉は主に『期待・清潔』そして『疑惑・不信感』」
蘭「あとはホオズキとかでしょうか。花言葉は『偽り』『ごまかし』『半信半疑』」
日菜「なるほどー。まさに今の千聖ちゃんって感じ」
蘭「あまり他人に贈るものではないですけどね……逆に好意を伝えるなら、ニリンソウとか。花言葉は『友情』『協力』『ずっと離れない』」
蘭「あとはゼラニウムもありですね。花言葉は『尊敬』『信頼』『真の友情』。赤いゼラニウムは『君ありて幸福』という意味も持ちます」
日菜「……よし、じゃあそれにしよっかなー。全部ある?」
蘭「ここなら、多分全部あると思います」
つぐみ「……ふふっ。友情、かぁ」
蘭「つぐみ?どうしたの」
つぐみ「いや、私達にはニリンソウが似合ってるかもって」
つぐみ「この夕焼けの下で、どこにいてもずっと一緒。だったよねっ」
蘭「……そうだね。せっかくだし買って行こうかなーー」
20 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:49:13.81 ID:je40CgkU0
ーー氷川宅、リビング

日菜「できたーーっ!」
紗夜「私にも見せて頂戴」

紗夜(紙の左にラベンダーとホオズキ。右にはニリンソウとゼラニウムの花。中央に左向きの矢印)
紗夜(ここまですれば白鷺さんも気付くでしょうか。それは明日分かることだし、私が知ることではない)
紗夜(私が出来るのは、花が枯れないようにいち早く届けることだけ……か)

紗夜「それじゃあ明日、この手紙は白鷺さんに届けておくわ」
紗夜「……頑張って」
日菜「……うんっ!」
21 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:49:46.80 ID:je40CgkU0
ーー翌日、花咲川女子学園、3年A組教室

千聖(いよいよ、この日がやってきた)
千聖(今日の放課後。私の全てを伝え、壁を壊す日)
千聖(心の準備はした。……拒絶される覚悟も、済ませた)
千聖(後戻りは出来ない。前に進むしかーー)

紗夜「ーー白鷺さんですね。少しお話が」
千聖「……私に?」
22 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:50:43.76 ID:je40CgkU0
ーー3年廊下

千聖「それで、私に何か用ですか?風紀委員長さん」
紗夜「勘違いさせてしまったのならすみません。風紀委員としてではありませんよ」
紗夜「今回は氷川日菜の姉として。日菜から渡すようにと」スッ
千聖「手紙……中を見ても?」
紗夜「どうぞ」

千聖「四枚の……花?それと、矢印……」
紗夜「意味はご想像にお任せします」
千聖「……ありがとう。それと、日菜ちゃんに一つ伝言を頼まれてもらえますか?」
紗夜「……何と?」
千聖「『今日の放課後、全てを話すから』と」
紗夜「伝えておきます。……頑張って」
千聖「……えぇ。よろしければ、次はゆっくりお茶でもしましょう」
紗夜「楽しみにしておきます。それでは」

千聖(四枚の花……込められた意味……花言葉)
千聖「……蘭ちゃん辺りなら分かるかしら?」
23 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:51:31.91 ID:je40CgkU0
ーー羽丘女子学園、2年A組教室

ピロン

蘭「……メール?」
つぐみ「もしかして、また日菜先輩から……?」
蘭「いや、違うよ……ふふっ」
つぐみ「どうしたの?」
蘭「つぐみも見てみなって……ほら」
つぐみ「……なるほど。千聖さんからだったんだね」
蘭「『知らない花を贈られたんだけど、花言葉とか分かる?』だってさ。おっかし……!」
ひまり「ん、どうしたの?蘭」
蘭「いや、なんでも。ちょっとメールの文面見て吹いただけ」
つぐみ「なんて返すの?」
蘭「とりあえず、『見なきゃ分からないので、写真を送って下さい』っと」

ピロン

蘭「返信早っ……何々……こんな感じになったんだ。なんか日菜さんらしいかも」
つぐみ「花を四枚並べて矢印だけ……確かに日菜先輩らしいかもね。ふふっ」
蘭「分かりやす過ぎでしょ、マジ面白い……えーっと、『その花の花言葉はーー』」
24 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:52:15.67 ID:je40CgkU0
ーー花咲川女子学園、3年A組教室

千聖(……左に『不信感』と『偽り』、右に『ずっと離れない』と『信頼』)
千聖(そして、右から左へ向く矢印。左が対象で、右は向けられる気持ちと言ったところかしら)
千聖(『不信感』と『偽り』を持つ人物が、『ずっと離れない』と『信頼』の気持ちを向けられている……)

千聖「……なんだ、バレバレじゃない。全然隠し通せてなんかいなかったのね」
25 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:52:46.67 ID:je40CgkU0
花音『きっと大丈夫だよ、みんな千聖ちゃんのこと大好きだもん』
花音『勇気なら私があげる。だからもっと友達を、千聖ちゃんを……信じてあげてね』

千聖(……本当に花音の言う通りだったみたい。みんな私を『信頼』し、『ずっと離れない』でいてくれる……それに)

蘭『ゼラニウムの花言葉は、尊敬・信頼・真の友情。また赤いゼラニウムには、君ありて幸福という意味もあります』

千聖「……ここまで言われてしまったら、信じない方が無理な話よね?」
26 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:53:29.99 ID:je40CgkU0
千聖(不思議。さっきまでの不安がスッと消えて、全部が期待に入れ替わってしまったよう)
千聖(人を信じるって、こんなに簡単なんだと思った。こんなに簡単で、こんなに幸福なことなんだと)
千聖(今日前に進む一歩。不安で震えていたはずのその一歩も、今なら安心して踏み抜けそう)
千聖(ーー待っていて、みんな。事務所に着いたらすぐにでも伝えるわ。みんなも早く聞きたくてそわそわしているかもしれないけれど、私も早く伝えたくて高翌揚しているのよーー)
27 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:54:01.75 ID:je40CgkU0
ーー芸能事務所

ガチャ

彩「あ、千聖ちゃん!お疲れ様っ」
日菜「お、来たねー」
イヴ「ヒナさんから、大事なお話があると聞きました」
千聖「えぇ、大事な話よ。とっても大事な話」
麻弥「……何か良いことでもありましたか?」
千聖「あら、そう見える?」
麻弥「はい、とても。先程から笑顔が隠せていないようですし」
千聖「そうね……殻を破る幸せを知った、といったところかしら?」
イヴ「……?チサトさんには、殻があるんですか?」
日菜「イヴちゃんが間に受けちゃってるー。人間に殻があるわけないでしょ」
28 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:54:31.00 ID:je40CgkU0
彩「……千聖ちゃんのお話、いっぱい聞かせて欲しいな」
彩「これまで見てきたこと、考えてきたこと、全部。千聖ちゃんのこと、もっと知りたい」

千聖「もちろん、聞かせてあげるわ。私も早く話したくてウズウズしているの。私が殻に閉じ籠って見てきた世界と、殻を破った時の話」
千聖「そうね、何から話しましょうかーー」
29 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:55:01.19 ID:je40CgkU0
千聖(私の見てきた世界について、何時間も語り聞かせた。みんな嫌な顔をしないどころか、最後まで嬉しそうな表情で聞いていてくれた。まるで待ちわびていたかのように)
千聖(練習の後に話す予定だったのに、私も待ちきれなかった。途中で練習の始まりを告げようとスタッフさんが入ってきたけど、この時だけは空気を読んですぐに出て行ってくれた)
千聖(これが友情なんだと。これが幸福なんだと。これがーー友達なんだと。昔の私に、殻の外から言ってやりたいわ)
30 : ◆bncJ1ovdPY [sage]:2019/07/30(火) 05:55:44.51 ID:je40CgkU0
麻弥「いやー……にしても日菜さん、裏でそんなことしてたんですね……」
日菜「だってあんな千聖ちゃん見てるのつまんなかったしー。早く解決出来るならした方が良くない?」
イヴ「流石ヒナさんですっ」
彩「日菜ちゃんのそういうところ、本当凄いと思う……」
千聖「そうね。まさかあんな形で伝わるとは思わなかったけれど」
麻弥「あんな形……?」
彩「え、どういうこと?」
千聖「これよ」スッ

彩「わぁ……キレイな手紙」
イヴ「手紙なのに文字が書いてありません……?」
麻弥「花……矢印……ありそうなのは花言葉辺りでしょうか」
千聖「えぇ、その通りよ。この四枚の花全てに意味が込められていて、この矢印は気持ちの方向を示しているのね」
日菜「意味は分かった?」
千聖「もちろん。思わず気分が高翌揚してしまうほどに、ね」
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