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渋谷凛「最愛の人」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:00:23.71 ID:ed87VM3p0
アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作SSです
よろしくお願いします
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1563537621
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:01:56.46 ID:ed87VM3p0
──病院──
文香「『女か虎か』という物語をご存知ですか?」
文香「自分と他人の幸福を天秤にかけて、どちらかを選択しないといけないというお話です」
文香「病院の面会時間にはまだありますから、あなたが不在にしていたこの2週間についてお話をさせてください」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:03:05.16 ID:ed87VM3p0
──
キーン…
奈緒「あれプロデューサーさんが乗ってる飛行機かな」
加蓮「違うよ。朝の便で出たんだからもうとっくに日本にいないはずだよ」
奈緒「それにしても出張か。海外だなんて大変そうだ」
加蓮「確かに大変そう。お土産選びに手間取っちゃいそうで」
奈緒「全くお前は……なぁ凛、お前も心配だよな」
凛「……別に、どうとでもなるんじゃない」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:03:49.47 ID:ed87VM3p0
奈緒「……なんか凛のやつ妙に不機嫌じゃないか?」
加蓮「来週自分のミニライブがあるのに、このタイミングで出張に行かれたこと根に持ってるんでしょ」
奈緒「いわゆるやきもちか。可愛いところあるなあいつ」
加蓮「ね。私から言わせると少しあざといけど」
凛「……あのさ、全部聞こえてるから。そしてそんなこと思ってないからね」
奈緒「あはは、冗談だよ。お昼ご飯食べに行こうぜ」
加蓮「いいね〜どこ行く? マック、バーキン?」
奈緒「不健康だろ。せめてモスバーガーにしないか?」
凛「ロッテリアがいいな」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:04:47.90 ID:ed87VM3p0
イラッシャイマセー
加蓮「そういえば、卯月の話聞いた?」
奈緒「ん? なんのこと?」
加蓮「テレビのレギュラー決まったんだってさ」
奈緒「へぇ、すごいな! 凛は知ってたか?」
凛「うん。本人から聞いてたから」
オマタセシマシター
奈緒「おー、きたきた!」
加蓮「さっそく食べよう!」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:05:43.79 ID:ed87VM3p0
凛「いただきます」
パク …ピュッ
凛「あっ」
奈緒「あちゃ〜。ケチャップが襟に飛んじゃったな」
凛「どうしよう……この格好で午後のインタビュー受けるつもりだったのに」
加蓮「事務所に戻ればシャツの替えぐらい置いてあるよ」
奈緒「そういうことだ。気にせず食べようぜ!」
凛「う、うん」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:06:36.66 ID:ed87VM3p0
──事務所──
凛「シャツの替えを探してくるから、2人は適当にぶらついてて」
ガチャ
凛(とりあえず、端から順にロッカー見ていこうかな……)
凛(……一番最後まで見たけど見つからない。シャツぐらい備蓄してそうなものなのに)
凛(ちひろさんに聞けば一発なんだろうけど、今日はあいにくお休みだし、プロデューサーは海外……)
凛「……」
凛「……どうして出張なんてしたの、プロデューサー」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:07:49.91 ID:ed87VM3p0
楓「仕事だからじゃないですか?」
凛「わっ!?」ビクッ
楓「他に理由はないと思いますが……」
凛「驚いたのはそこじゃないから! 楓さん、いつからそこにいたの!」
楓「私は最初から事務所のソファにいましたよ。凛ちゃんが不審な動きをしてるので、こっそり偵察に来たというわけです」
凛「別に不審な動きなんか……単にシャツを探してただけだよ」
楓「プロデューサーのシャツをですか?」
凛「新品のシャツ!」
楓「うふふっ。冗談ですよ」クスクス
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:09:09.73 ID:ed87VM3p0
凛「邪魔するならソファーに座っててください」
楓「新品のシャツなら医務室に置いてあったはずです」
凛「え、それ本当?」
楓「本当です。楓さん嘘つかない」
凛「なぜ棒読み……少し不安ですけど、医務室行ってみます。ありがとう」
楓「いえいえ。お役に立ててよかったです」
バタン
楓「……凛ちゃん。寂しい時は寂しいと、ちゃんと伝えないとダメですよ」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:10:01.52 ID:ed87VM3p0
──医務室──
コンコン
凛「失礼します……ってあれ」
文香「……凛さん。お疲れさまです」
凛「なんで文香がここに?」
文香「体調がすぐれないので医務室に来たのですが、担当の方が席を外されてしまって」
凛「大丈夫?」
文香「ええ、お薬はもう貰いましたから。凛さんは何のご用で?」
凛「シャツの替えを探しに来たんだ」
文香「ああ、それならここに」ガララッ
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:11:21.48 ID:ed87VM3p0
凛「よかった。勝手に使っちゃっていいかな?」
文香「はい。後で私から報告しておきます」
凛「ありがとう文香。そっちのベッドスペースで着替えちゃうね」
ジャッ
凛「……」ゴソゴソ
文香「……凛さんは、卯月さんと仲が良いですよね」
凛「? どうしたの突然。そりゃまぁ仲良しだけど」
文香「さっき卯月さんが尋ねてきました。本のことで聞きたいことがあると」
凛「そうなんだ。たぶん新番組のことで勉強してるんだろうね」
文香「勉強?」
凛「卯月のコーナー、童話や逸話について紹介するものらしいから。……何について聞かれたの?」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:12:38.76 ID:ed87VM3p0
文香「『女か虎か』について聞かれました」
凛「なにそれ?」
文香「有名な逸話です。あらすじだけ話しますと……」
──
ある国の身分の低い若者が王女と恋をしました。
それに怒った国王はその国独自の処刑方法で若者を罰することにしました。
その方法とは2つの扉のひとつを選ばせることです。
ひとつの扉の向こうには餓えた虎がおり、扉を開けばたちまちの内にむさぼり食われてしまいます。
もうひとつの扉の向こうには美女がおり、そちらの扉を開けば罪は許されて彼女と結婚することが出来ます。
王の考えを知った王女は、死に物狂いで2つの扉のどちらが女でどちらが虎かを探り出しました。
しかし王女はそこで悩むことになります。
恋人が虎に食われてしまうなどということには耐えられない。
そして、自分よりもずっと美しい女性が彼の元に寄り添うのもまた耐えられない……。
王女は悩んだ末に結論を出し、若者に扉を指差しました。
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:13:33.19 ID:ed87VM3p0
文香「……」
凛「……王女はどっちを指差したの」
文香「うふふ。それは卯月さんの番組を見て確かめてください」
凛「……それもそうだね。……よしと。シャツの場所教えてくれてありがとう」ジャッ
文香「いえいえ。もう行かれるんですか?」
凛「うん。文香はまだ大丈夫なの?」
文香「はい。今日はもうレッスンはないので、担当の方を待ってから帰ろうと思います」
凛「そっか。じゃあお大事に」
バタン
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:14:24.89 ID:ed87VM3p0
──
ワンツー ワンツー
加蓮「はぁ……はぁ……」
奈緒「ふぅ……」
トレーナー「次回までに今日の振り付けを覚えてくるように。解散」
加蓮「はぁー……」ペタン
凛「はぁ、はぁ……水買ってくるけど欲しい人いる?」
加蓮「ごめん凛、頼むわ……」
奈緒「あたしも付いて行くよ、凛」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:15:19.28 ID:ed87VM3p0
テクテク
奈緒「加蓮は今日体育あったんだってよ。しかもランニング」
凛「え? トレーナーさん、そのこと知ってるはずだよね。時間割渡してあるから」
奈緒「いいや、何かの振替で急に体育になったんだと。加蓮のやつわざと報告しなかったんだ。負けず嫌いなんだから……」
凛「……」
奈緒「そういえば、来週のミニライブへの準備は順調なのか?」
凛「まあね。準備といっても既存曲を2曲歌うだけだから、喉の調整しかしてないけど」
奈緒「そうか。まあミニライブ自体、凛は何回もやってきてるもんな」
凛「うん」
奈緒「あとは心構えぐらいか。なんてったって今回はプロデューサーさんがいないんだから」
凛「……別に、いつも通りやるだけだよ」
奈緒「あはは。やっぱり凛はたくましいぜ」
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:16:23.75 ID:ed87VM3p0
チャリン
奈緒「加蓮は水だったな。あたしはポカリにしようっと」ピッピッ
凛「私は……ん?」
凛(中庭のところで、卯月がベンチに座ってる……)
奈緒「卯月じゃん。1人で何してるんだろう」
凛「うん。休憩中かな」
奈緒「凛、行って話してこいよ。あたしは加蓮に水を届けてくるから」
凛「そう? ありがとね」
奈緒「またあとでな」
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:17:23.37 ID:ed87VM3p0
ザッ
凛「おはよう、うづ……」
卯月「はい。もしもし」
凛(電話中? 誰とだろう)
卯月「はい、卯月です。お久しぶりです、プロデューサーさん」
凛「!」サッ
卯月「?」
凛(な、何で私隠れたんだろう。でも、今から出ていくのも変だし……)
卯月「……あ、いえ。今後ろに誰かいたような気がして。でも気のせいだったみたいです」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:18:13.49 ID:ed87VM3p0
卯月「それで何かあったんですか? 急に電話をかけてくるなんて」
卯月「あぁ、番組の件ですね。今のところ順調です。さっきミーティングを終えてたところで」
卯月「初回収録ですか? 早くて2週間後ぐらいになると思いますけど……」
卯月「え? その時までになんとか間に合わせて帰るようにするって?」
凛「……!」
卯月「ふふ、ありがとうございます。詳しい日程が決まり次第連携しますね」
卯月「はい、プロデューサーさんもお体に気をつけて下さい。失礼します」ピッ
ガサッ
卯月「ん?」
凛「あ……」
卯月「あれれ、凛ちゃん?」
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:19:01.11 ID:ed87VM3p0
卯月「さっき誰かがいたような気がしたんですが、凛ちゃんだったんですね」
凛「あ、うん。……ごめん、話しかけるタイミング失っちゃって、電話の内容聞いちゃった」
卯月「うふふ、気にしませんよそんなこと。むしろ気を遣わてしまってすみません」
凛「……」
卯月「聞きました? プロデューサーさん、わざわざ私の初回収録の時間に合わせて帰ってきてくれるんだそうです」
凛「うん……」
凛(それだけ卯月は、プロデューサーから期待されて──)
卯月「きっと私、プロデューサーさんに信頼されてないんですね」
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:20:05.13 ID:ed87VM3p0
凛「……え?」
卯月「もっとしっかりしなくちゃ……島村卯月、頑張ります!」
凛「……」
卯月「凛ちゃん?」
凛(そんなことないよと言ってあげたかった)
凛(プロデューサーは卯月に期待してるから、大事にされてるから帰ってきてくれるんだよって)
凛(でも、その慰めの言葉の反対側は、私をないがしろにしているという意味でもあったから)
凛(だから私は凍りついてしまって、卯月に肯定も否定もできなかった)
卯月「……そろそろレッスンが始まるので、行かないと。また今度ゆっくりお話しさせてください。それでは」ペコリ
タタタ…
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:21:50.96 ID:ed87VM3p0
──翌日──
凛「……」スッ
凛「……」ポチポチ
凛「……」スッ…
同級生「さっきから電話帳を行ったり来たりしてばかりだね」
凛「……連絡先の整理してるだけだよ。ていうか画面勝手に覗かないで」
同級生「とか言って本当は彼氏なんじゃないの〜。きゃ〜、スキャンダルだ!」
凛「はいはい。想像にお任せするよ」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:23:03.47 ID:ed87VM3p0
同級生「でもぶっちゃけた話さ、アイドルなんてやってたら選び放題なわけじゃん。誰かと付き合おうとは思わないの?」
凛「お、思わないよ……」
同級生「どうして? 事務所が恋愛NGとか?」
凛「規約とか関係なく、今は興味ないから」
凛「……それに、もしかしたら悲しむファンがいてくれるかもしれないし」
同級生「……」
凛「じゃあ私、もう帰るから」スッ
同級生「……凛ってさ」
凛「?」
同級生「結婚できなさそうだよね」
凛「はぁ?」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:24:02.59 ID:ed87VM3p0
バイバーイ
凛「今日は仕事もないし、これからどうしようかな」
凛「……買い物でもするか」
──渋谷駅前──
凛(といっても、特に欲しいものもないんだけどね)ウロウロ
?「ぐへへ、かわいらしいお嬢ちゃん」
凛「……」
?「1人でお買い物? よかったらお姉さんとデートしない?」
凛「……何やってるんですか、楓さん」
楓「うふふっ、ばれましたか」パカッ
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:25:11.21 ID:ed87VM3p0
アリガトウゴザイマシター
楓「うっかりナンパしちゃったお詫びに、チョコレートアイスクリームをあげます」
凛「あ、ありがとう……そのお面はなんなの」
楓「商店街の福引きで当てたんです。欲しいならこれもあげます」
凛「絶対いらない……」
楓「それよりも、本当に1人で買い物していたんですか?」
凛「うん。別に誰かを付き合わせるようなことでもないしさ」
楓「お〜。凛ちゃんは考えが大人っぽいですねぇ」
楓「……しかし、子供らしく振舞うのも時には悪くない。大人のお姉さんはそうも思いますよ」
凛「? なんの話ですか?」
楓「うふふ、なんでしょうね……この後アクセサリーショップに行くのですが、凛ちゃんもご一緒にどうですか?」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:25:53.33 ID:ed87VM3p0
──ショップ──
楓「このピアス、凛ちゃんにとってもよく似合いそう」
凛「んー、ちょっと子供っぽくないかな。私はもっとシンプルな方が」
楓「子供っぽいことの何が悪いんですか。ほらほら、絶対に似合いますよ」
凛「そうかなぁ」
楓「お姉さんが買ってあげるから、騙されたと思って明日つけてきてっ。店員さん、これひとつー!」
凛「ちょ、ちょっと」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:26:52.56 ID:ed87VM3p0
──翌日・事務所──
凛「おはよう」ガチャ
奈緒「おっす凛」
加蓮「おはよー……ん? 今日はやけに可愛いピアスしてるんだね」
凛「これ? 昨日買った、ていうか買ってもらったんだ。こういうのあんまりつけないんだけど……どうかな?」
奈緒「すごくいいよ、凛の意外な一面って感じで!」
凛「そう? ありがと」
アハハハ…
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:27:43.17 ID:ed87VM3p0
──
加蓮「じゃあね、お疲れ様〜」
奈緒「また明日な!」
凛「うん。じゃあね2人とも」
テクテク
凛「あ、レッスンルームに水筒忘れてきちゃった。取りに戻らないと」
ガチャ
卯月「……」ブツブツブツ
凛「卯月?」
卯月「あっ、凛ちゃん!」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:28:36.27 ID:ed87VM3p0
凛「こんな時間にレッスン室で何してるの?」
卯月「収録に備えて発音の練習をしていたんです。えへへ……」
凛「電気ぐらいつけなよ。びっくりするじゃん」パチッ
卯月「すみません。練習に夢中になってたら暗くなってるのに気がつかなくて」
凛(昼からずっと練習してたってことか。私たちが使い終わったあと、今までずっと……)
卯月「ここ使うんですか? すみません、すぐに移動するので」
凛「卯月。このあと暇?」
卯月「えっと、まだ練習を……」
凛「練習のしすぎは逆効果になるよ。いいから私についてきて」
卯月「は、はい……」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:29:23.43 ID:ed87VM3p0
──カフェ──
凛「アイスコーヒーひとつください」
卯月「あ、私はミルクティーを……」
ゴユックリドウゾー
卯月「……」
凛「どしたの。飲みなよ?」
卯月「あ、はい」ゴク…
凛「……元気ないね。いつものおしゃべりな卯月とはえらい違いだよ」
卯月「そ、そう見えますか? 私、元気ないですか?」
凛「うん、少なくとも私にはそう見えるよ。全く、自分の体調に鈍感なのは相変わらずみたいだね」クス
卯月「えへへ、凛ちゃんには全部見抜かれちゃうなぁ」
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:30:04.05 ID:ed87VM3p0
卯月「……実は、悩んでることがあるんです」
凛「何?」
卯月「新番組のことです……前にも少しお話しましたが、童話や逸話の紹介をするコーナーの担当をするんですけど」
凛「知ってる。今はそれに向けて色々勉強中なんでしょ?」
卯月「はい」
凛「準備がうまくいってないとか?」
卯月「い、いえ、準備自体は今の所順調に進んでいて。でも、その、プロデューサーさんから……」
凛「プロデューサー?」
卯月「プロデューサーさんから、毎日のようにメールが届くんです」
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:31:03.49 ID:ed87VM3p0
カラン
卯月「夜の19時になるとほとんど必ずメールが来て、今日の進捗とか、悩み事がないかとかをご報告するんです」
卯月「それ自体は全然嫌じゃなくて、むしろありがたいな、優しいなぁって思っているんですけど」
卯月「でも逆に言えば、それは私のことをあんまり信頼していないってことなのかもって……」
卯月「私に任せておいたら、絶対に失敗しちゃうって思われてるのかなって……」
卯月「でも、プロデューサーさんが本当は私のことをどう思っているのかなんて、直接聞けないから」
卯月「だから不安をなくすために、できる限りいっぱい練習してるんですけど」
卯月「凛ちゃんの言う通り、練習すればするほど事態がよくなるわけじゃないってことは分かってて」
卯月「……凛ちゃん」
卯月「私は、どうしたらいいんでしょう……」
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:31:58.14 ID:ed87VM3p0
凛「……」
卯月「……」
凛「……卯月。きっとプロデューサーは」
プルルルル
卯月「あっ、プロデューサーさんから……」
凛「……電話、出なよ」
卯月「す、すみません……はい、もしもし」ピッ
卯月「お疲れ様です。卯月です。はい、大丈夫ですよ」
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:33:08.03 ID:ed87VM3p0
卯月「今日はピンチェのレッスンと、少し自主トレをしてました」
卯月「あ、いえ、番組の方とはお話ししてないです。そちらに特に動きはありませんでしたので」
卯月「時間の詳細もまだ決まってなくて。はい。はい……」
凛「……」ゴク…
卯月「……そうですね。もし聞かれたらそうお伝えしておきます。いいえ、こちらこそありがとうございます」
卯月「え、お土産? ……うふふ、そんなことありませんよ、嬉しいです。ありがとうございます」
卯月「はい、期待しちゃいますっ。はい、はい……それではまた明日。おやすみなさい」
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:33:56.58 ID:ed87VM3p0
ピッ
卯月「……ごめんなさい。話の途中だったのに」
凛「ううん。プロデューサーはなんて?」
卯月「収録の話と、お土産の話を少し。なんでもすごく美味しいお菓子を見つけたそうで」クスクス
凛「そっか……よかったね卯月」
卯月「? 凛ちゃんはお菓子楽しみじゃないんですか?」
凛「……私の分もあるのかな」ボソ
卯月「すみません。今なんて?」
凛「なんでもない……話を戻すよ」
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:34:55.28 ID:ed87VM3p0
凛「私からは単なるアドバイスになるんだけど……もっとコミュニケーションをとっていけばいいんじゃないかな」
凛「今みたいに電話とか、メールでもやり取りしていけば、だんだんあの人の本音がわかってくると思うよ」
卯月「コミュニケーション……」
凛「うん。仕事の話とかじゃなくプライベートの話とかもたくさんして、今まで以上に仲良くなってみなよ。そしたら今まで見えてなかった部分が見えるかもしれない」
凛「プロデューサーのことを分かった上で、最後は卯月が自分で決めなくちゃ」
凛「相手にどう思われているかっていうのも、突き詰めれば、自分がどう思われたいかってことなんだからさ」
卯月「……」
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:35:49.73 ID:ed87VM3p0
凛「私に言えるのはそのぐらいかな。……ごめん、なんか説教くさくなっちゃったね」
卯月「そんなことないです。とても勇気の出る言葉で、その、私……」ウルウル
凛「ちょ、ちょっと卯月。なんで泣いてるの?」
卯月「だって……今までこんなこと誰にも相談できなかったから……こんなに真剣に考えてくれたことが、本当に嬉しくて……」
凛「卯月……」
卯月「ぐすん……ふふふ、やっぱり凛ちゃんはすごいです。頼りになるなぁ」
凛「……別に、すごくなんかないよ」
凛(だってこれは、自分が実現できない理想ごとを、偉そうに卯月に言っただけなんだから)
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:36:36.39 ID:ed87VM3p0
──帰り道──
凛「私この道まっすぐだけど……1人で大丈夫? 家の前までついていこっか?」
卯月「ありがとうございます。でも大丈夫ですっ」ニコッ
凛「ふふ……やっと見れた、卯月のその笑顔」
卯月「ご心配をおかけしました。島村卯月、復活です!」
凛「ふふっ。また何か悩みができたら、私に相談してくれていいからね」
卯月「はい。ありがとうございますっ」パアアッ
凛「ふふ……それじゃあ、ばいばい」クルッ
テクテク
卯月「……凛ちゃんは本当にすごいです」
卯月(凛ちゃんはいつも私の一歩先を行っています)
卯月(私より年下なのに私よりずっとしっかりしてて、プロデューサーさんともずっと仲良しで、お互いのことを理解してて……)
卯月(私も、凛ちゃんのように……)グッ
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:37:30.15 ID:ed87VM3p0
──翌日──
凛「……」ジー
加蓮「どしたの。スマホを凝視して」
凛「……なんでもない」スッ
加蓮「ふーん? 変な凛」
コンコン
文香「失礼します」
加蓮「あれま、珍しいお客さんだ。ここトライアドの控え室だよ?」
文香「はい。凛さんに用事がありまして。来ていただけますか」
凛「え、私?」
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:38:36.14 ID:ed87VM3p0
──
凛「何の用事?」
文香「実は、卯月さんから手紙を預かっていまして。これを渡してくださいと」
凛「卯月が? なんだろう……」スッ
卯月『凛ちゃんへ。先日は本当にお世話になりました。とても気持ちが軽くなりました。凛ちゃんのおかげです』
卯月『そのお礼に、私が選んだピアスをプレゼントします。楓さんに聞いたんです、凛ちゃんは最近、ちょっとかわいめのアクセサリーに凝ってるって』
卯月『気に入ってくれたら嬉しいです。また今度、お茶にご一緒させてください。卯月より』
凛「……」ポロッ
文香「あら、可愛らしいピアスが入っていましたね。モチーフはお花でしょうか?」
凛「うん。多分リンゴの花だ。卯月らしい可愛いチョイスだね」
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:39:18.59 ID:ed87VM3p0
凛「でもなんで文香がこれを?」
文香「卯月さんは今日の朝から明日の夜まで、楓さんと一緒に地方でロケなのだそうです。どうしても早く渡したいというので、私がお預かりしたんです」
凛「そっか、ありがとう文香」
文香「いいえ。お礼は卯月さんに。そんな素敵なプレゼントをしてくれたのですから」
凛「うん……」
文香「……やっぱりお2人は、仲がよろしいのですね」
凛「え?」
文香「お互いのことを信頼し、自分以上に相手のことを大切にしている。そんな強い友情を感じます」
文香「卯月さんはこうも言っていましたよ。明後日のミニライブは、何があっても絶対見に行くと」
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:40:29.99 ID:ed87VM3p0
──地方・旅館──
カポーン
楓「う〜ん。仕事終わりの温泉はやっぱり最高ですねぇ」
卯月「はい。癒されますー」フニャー
楓「そしてここで日本酒! これこそ旅館の一番の醍醐味ってものです。どうですか卯月ちゃんも一杯……」
卯月「もう楓さん。冗談でもそんなこと言っちゃダメですよ」
楓「えへへ、怒られちゃいました。では1人だけ申し訳ありませんが、いただきます♪」
卯月「はい。いただいちゃってくださいっ」
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/19(金) 21:41:16.19 ID:ed87VM3p0
楓「……卯月ちゃん。今日は元気みたいで安心しました」
卯月「え?」
楓「どうも最近元気がないようで、心配していたんです。しかしそれは杞憂だったみたいですね」
卯月「……いいえ。本当に元気がなかったんだと思います。私の自覚がなかっただけで。でも凛ちゃんとお話しして、前向きになることができたんです」
楓「凛ちゃんが……うふふ。それは何よりです」
卯月「はい。凛ちゃんってやっぱり凄いんです。私がずっと悩んでいたことを、聞いてすぐにアドバイスしてくれて……」
楓「……」
卯月「えへへ。私も凛ちゃんみたいになりたいって思いました。凛ちゃんのようなしっかり者に……」
楓「……なるほど。確かに凛ちゃんはしっかり者ですね」
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