【ミリマス】育「ドラマ おおかみ姫」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:02:07.45 ID:zmX2O7Gg0
※劇中劇的なお話になります。アイドルたちが役名で呼び合います。男役もいますので、苦手な方はご注意ください。




育「はぁ……はぁ……」ヨロ

育「ぼくは……どこまで逃げてきたんだろう……どこかの駅で貨物車を降りて、それから……」

ドサッ

育「もう……歩けないな……。マーガレット、みんな……どうか無事でいて……」

育(いちめん花でいっぱいだ。青い空に綿毛みたいな雲、やさしい風……。なんておだやかな場所なんだろう。そうか、ここはきっと天国に違いない…)


環「わ〜い待って〜!」

育(……ん?)

環「やったー! つかまえたぞー! くふふ♪」

育(女の子だ。ワンピース姿で走り回ってる……虫をつかまえてるのかな)

環「あれ? 誰かいるの?」トコトコ

育(長い髪が風にゆれてる……燃えさかる炎みたいな、きれいな髪――)

環「わあったいへん! ミランダー! 男の子がたおれてるぞー!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1562598127
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:03:27.15 ID:zmX2O7Gg0
育「……」

環「この子、顔が真っ青だぞ。病気なの?」

美也「いいえ。どうやらものすごくお腹が空いているようですね〜。姫様、彼の頭を少し起こしてくださいますか」

環「うん。ターニャのひざの上にのせるね。よいしょ……」

美也「――お水ですよ。飲めますか?」

育「ん……」ゴク…

美也「お〜。この調子なら、持ってきたサンドイッチのパンをふやかせて……これなら、食べられますか?」

育「ん……」モグ…

環「食べてくれたね。だいじょうぶかなぁ……ん? ミランダ、見て。この子、左手の甲にタトゥーしてる……?」

美也「花の紋様ですね。もしや、これは……」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:04:01.67 ID:zmX2O7Gg0
育「ぅ……」

環「あっ、起きた。よかった無事で」

育「女の子……そうだ。ぼくは死んで……天使が迎えに…」

環「ちがうよ。ターニャは天使じゃないし、君もちゃんと生きてるぞ」

育「ターニャ……君の名前かい」

環「うん! 君はなんていうの?」

育「ぼくは、イグナス……」

環「イグナス! すてきな名前だね。よろしくね、イグナス! くふふ♪」

美也「イグナスさん、まだ意識がはっきりしないようですね。とりあえずお屋敷まで運びますよ。ミランダにおまかせです〜」
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:04:31.50 ID:zmX2O7Gg0
――翌朝


美也「おはようございますイグナスさん。お加減はいかがですか〜?」

育「……メイドさん、きのうの……ここは?」

環「ここはターニャのおうちだぞ! イグナスは昨日ここに運ばれて、あれからずっと眠ってたんだ」

育「ふかふかのベッド……こんなの、いつ以来だろう。そっか、二人がぼくを助けてくれたんですね。ありがとうございます」

美也「どういたしまして。それより、朝ご飯はいかがですか? 食べやすいものをご用意しましたよ〜」

環「えんりょしないでいっぱい食べてね!」

育「ごくっ……いただきます」ぱくっ

育「……おいしい。すごくおいしいです」モグモグ

美也「それは良かったです〜」

環「すごいでしょ? ミランダはなんでもできちゃうすごいメイドさんなんだぞ」

美也「ところで――イグナスさんは、おうちはどちらですか? ご家族が心配されているかと思いまして」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:05:01.02 ID:zmX2O7Gg0
育「……ぼくに家族はいません。帰るところも、もう…」

環「え……」

美也「失礼しました。そうでしたか〜」

育「……そうだ! ミランダさん、ぼくのいた孤児院が大変なんです! 誰か助けを……えっと、ぼくの孤児院はジレールの街にあって――」

美也「ジレール……ここからだと列車で1時間はかかる都市ですね」

育「院長がずっと資金に困っていて、少しでも助けになればと、ぼくとマーガレット――同じ孤児院に住む仲の良い女の子が劇団のオーディションを受けることにしたんです」

育「だけどぼくはオーディションに落ちてしまって……マーガレットより先に孤児院に戻ってみると、ギャングが押し入っていて仲間のみんなを人身売買の取引にかけるって――」

環「ひ、ひどい……」

美也「国王陛下が体調を崩されて以来、ジレールをはじめとした大都市の治安は落ち、ギャングの闇取引が社会問題になっていますからね」

環「……」

育「それでぼくは隙を突いて奴らの馬車に火をつけてみんなを逃がして馬をうばい、怒って追ってきた奴らを振り切って、貨物車に忍びこんでこの近くの貨物駅まで…」
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:06:02.27 ID:zmX2O7Gg0
環「ってことはイグナス、乗馬ができるの?」

育「うん。両親が「ヴォルフスの紳士たるもの必要な技術は身に着けるべし」って方針で、色々と習っていたんだ。みんな三年前の冬に、汽車の事故で亡くなってしまったけどね」

美也「三年前の汽車の事故といえば、あの港町に向かう特急が、大雪の影響で脱線してしまった事故ですか……」

育「はい。祖父の発案で親戚総出で旅行に出かける途中に起きた事故で……親戚の中でぼくだけが生きのびて、知り合いのつてでジレールの孤児院に」

美也「そういうことでしたか」

環「それじゃあ今、イグナスはひとりぼっちってこと……?」

育「そうだね……だから、一刻も早くみんなの無事を確認したいんです。もしかしたらどこかで危ない目にあってるかもしれない……」

育「場所ならすぐに案内できます。ミランダさん、今すぐぼくを警察まで連れて行ってもらえませんか」

美也「大変な状態なのはわかりました。ですが落ち着いてくださいイグナスさん、今はまずあなた自身のお身体を大事にするときです」

育「でも……!」

美也「あなたが孤児院のみなさんを心配なさっているように、みなさんもきっとあなたを心配してらっしゃると思いますよ。勇敢な行動でギャングを怒らせてしまったわけですから」

育「わかりました……」

美也「お着替えをお持ちいたします。しばらくお待ちくださいね〜」

パタン…
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:06:39.40 ID:zmX2O7Gg0
環「じーっ……」

育「なんでそんなに見てるの? ぼくに何かおかしなところでもあるの?」

環「ねぇ、どうしてイグナスはターニャのことを天使とまちがえたの?」

育「えっ、何のこと?」

環「だってイグナスがターニャの前で目を覚ましたときに、そう言ってたぞ」

育「ああ……あのときのぼくは、きっと自分は死んだものと思ってたから。そんなときに目の前にきれいな女の子がいたら、誰だって――」

環「そうなの? ターニャ、今までそんな風に言われたことなかったから、ふしぎだなーって思ってたんだ。あっ、髪の毛はきれいってよくミランダにほめられるぞ」

育「言われたことないって、冗談でしょ? だって君はこんなに……しかもどこかのお嬢様なんだろう?」

環「お嬢様じゃなくて、お姫様なんだぞ。知らないの? ……あ、そっか。ターニャ、お城の式典とかもう何年も出てないから仕方ないよね」

育「お姫様って……まさか君が、病気でずっと療養してるっていうヴォルフス王国第三王女の!?」

環「そうだぞー。びっくりした?」

育(どうりで……でも、とても病気で伏せってるようには見えないけど……。って、そんなことよりぼく王女様相手に友達みたいにすごく失礼なことを!)

環「くふふ♪ おどろいてるイグナスおもしろいぞー」

育「……ターニャ王女は、この屋敷でミランダさんと二人で暮らしてるんですか?」
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:07:07.67 ID:zmX2O7Gg0
環「むー。ふつうにしゃべっていいのに」

育「そういうわけには……」

環「ターニャはイグナスとお友達になれてうれしいんだ。だからふつうにしゃべってよ。お姫様めいれいだぞー」

育「お友達なのに命令って。ふふっ、そういうのをむじゅんしてるっていうんだよ」

環「やったぁ! ねぇイグナス、早く元気になってターニャといっぱい遊ぼうね。約束だぞ」

育「うん。わかったよ」

育(ターニャの気持ちはうれしいけど、お姫様の家でずっと遊んでばかりいるわけにもいかないよ)


美也「む〜ん…」

美也(ここ数日の新聞、特にジレールの地方版をあたってみましたが、それらしい事件の記事は載っていませんね)

美也(ジレールはヴォルフス王都に次ぐ第二の都市。そして国内で最も治安の悪い街でもある……)

美也(イグナスさんの話はきっと事実でしょう。けれどそれが公に出ていないのは気がかりです。調べてみる必要がありますね)
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:07:42.98 ID:zmX2O7Gg0
育「……」

ガチャ

環「よいしょっと」

育「どうしたの? 何冊も本を持ってきて」

環「ずっとねてばかりいたら退屈だと思って、ターニャが好きな本を持ってきたんだ。読んで聞かせてあげるね」

育「そっか。うれしいけど、ぼくどれも読んだことがあるよ。あっ、こっちは『昏き星、遠い月』だね」

環「うん。その本はミランダが好きなんだけど、ターニャにはむずかしくてよくわかんなかったんだ」

育「書き出しのせりふは――私たちは、旅をしています。どこまでも続く終わりのない旅です」

環「おおーっ」

育「次はミュージカルで有名なクリスとエドガーの出逢いのシーン…。――あんたみたいなお嬢さんが、こんな危ないとこで何してるんだ? うろうろしてると危ないぞ」

環「すごい。すごいよイグナス! ミュージカルの俳優さんみたいだぞ!」ピョンピョン

育「えへへ。俳優になるために練習してたからね。ぼくがエドガーで、クリスティーナの役はマーガレットがよく演じてたな…」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:08:18.51 ID:zmX2O7Gg0
環「マーガレット……その子とイグナスは仲良しだったんだよね」

育「うん。最初はぼくだけでオーディションを受けるつもりだったけど、マーガレットのことも誘ったんだ」

育「彼女はしっかりしてて、かわいいし、きっといい女優さんになれると思ったから。だから本人からいっしょにオーディションに出たいって言われたときはうれしかった」

環「……」

育「でも、いっしょにがんばろうねって励ましたのはぼくだったのに、先に落選しちゃって情けないな。おまけに帰りにあんな事件が起きて……」

環「……やっぱり本はやめにして、カードゲームでもしようよ。そうだ! ボードゲームはどう? ミランダがね、外国のチェスみたいなゲームが得意なんだ」

育「おもしろそうだね。ぼくにも教えてほしいな」

環「うん! じゃあ取ってくるから、待っててね」

……
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:08:51.22 ID:zmX2O7Gg0
――翌日


美也「ずいぶん顔色が良くなってきましたね〜。安心しましたよ〜」

育「おかげさまで。ミランダさんの作る料理はとってもおいしいから、きっと元気がない人もみんな元気になっちゃうと思います」

育(こんなおいしい料理を、孤児院のみんなにも食べさせてあげられたらいいのにな……)

美也「イグナスさん……?」

育「ミランダさん、やっぱりぼく、いつまでもこの屋敷でお世話になるわけにいきません。体調がもどり次第、ここを出るつもりです」

美也「孤児院のみなさんのことが心配なんですね」

育「はい。院にはぼくみたいに普通の家庭で生まれ育った子は珍しくて、読み書きが上手くできない子も大勢います。たとえ奴らから逃げ切れても、別の悪い大人に見つかってしまったら…」

美也「その件については既に私が一つ手を打っていますよ。心配なさらず、しばらくこちらでゆっくりなさってはいかがですか?」

育「いいえ、そういうわけには。元々ぼくは、孤児院の子たちみんなに勉強できる時間とお金を用意したくて、街の食堂で働いてたんです。とても足りなかったですけど」

美也「それでまとまったお金を得るために、劇団のオーディションを受けられたんですね」

育「はい。役者としてたくさんのお金をかせげれば、孤児院のみんなだって学校に通えるようになる。元々演技で人を喜ばせるのが好きだったというのもありますけど」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:09:44.30 ID:zmX2O7Gg0
育「だからこうして安全な場所に避難できたぼくが、ちゃんと稼いでみんなのためになれるようにしないと。元気になったらすぐに働きたいです」

美也「む〜ん、そうですか〜。姫様もイグナスさんと仲良くなれてとても嬉しそうだったので、残念です〜」

育「いえ。ここを出てもターニャとは友達でいたいです。ずっとこの屋敷や庭園でばかり過ごすのは、さみしいと思うし」

美也「はい〜。ぜひそうしてください」

育「それでおねがいがあります。この近くで、住み込みで働かせてもらえるようなお店や農家さんを知っていたら、教えてください」

美也「働くことも立派ですが、イグナスさんご自身もお勉強をされてもいいんですよ。姫様も、一緒にお勉強するお友達がいれば嬉しいでしょう」

育「だけど、ぼくだけが楽をするわけには……」

美也「頑なですね〜。でも、そこがイグナスさんの素敵なところなのでしょう。わかりました。少しご近所を当たってみますね。ですがお勉強の件は、ぜひご検討ください」

育「ありがとうミランダさん。お気持ちは受け取っておきます」

美也「ところで……差し支えなければ、イグナスさんのその左手の甲の紋様について教えていただけますか?」

育「あ、これですか。ぼくにもよくわからないんです。劇団のオーディションを受ける前に気づいて……」

美也「そうですか。なら、そちらについても調べる必要がありそうですね」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:10:26.14 ID:zmX2O7Gg0
――さらに翌日


育「きれいなちょうちょ……こんなの初めて見たよ。ジレールの街では普通のちょうちょを見かけることだって珍しいのに」

環「そうなの? この辺りにはいっぱいいるぞ。あっ、ほらあっちにも!」

育「ほんとだ。やっぱり空気がすんでるからかな」

美也「む……お二人とも、お静かに」

環「ミランダ? どうしたの」

美也「イグナスさん、こちらの植え込みの影に隠れてください。姫様も。声を立てないように…」


黒服の男A「おい、いたか?」

黒服の男B「いえ。さっぱりっス。クソッあのガキどこへ隠れやがった。空き家や廃屋にいねぇなら、やはりこの辺りの誰かに匿われてるんスかね」

黒服の男A「ああ。ここらは田舎だが別荘地でもある。ガキ一人匿うだけの余裕のある家も多いだろうからな」

黒服の男B「この屋敷とか、どうっスかね」

黒服の男A「おい馬鹿。あの狼の紋章を見てみろ。ここは王室の土地だ。下手に近づくのはマズい」

黒服の男B「マジっスか!? なら尚更こんなところにあのガキはいるはずないっスね…」

黒服の男A「だな。とりあえず他を当たるぞ。あるいはとっくに農家の荷馬車にでも紛れ込んでトンズラした後かもしれねえからな」

タタタ…
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/07/09(火) 00:10:56.01 ID:zmX2O7Gg0
育「……」

美也「……行ったようですね」

環「あいつら、イグナスのことを追ってきたの?」

美也「どうやらあれが、昨日ご近所の酪農家さんたちが噂していた不審な輩のようですね」

育「やっぱり、感づかれていたんだ」

美也「イグナスさん、住み込みでの働き口をご紹介するお話ですが、なかったことにさせてください。あなたの身を危険にさらすわけにはいきません」

育「だけどぼくがここにいたらあいつら、近くのみなさんにまで迷惑を――」

美也「今から他の町に行ってもまた感づかれるでしょうし、その町の人を怖がらせることにもなります。ここより安全な場所はありません。いいですね?」

育「……わかりました」

環「だいじょうぶだよイグナス。あいつらのことだって、きっとマリーナお姉様ならすぐ調べて捕まえてくれるぞ」

育「マリーナお姉様って、マリーナ第二王女のこと?」

美也「はい〜。マリーナ様は警察省の特別顧問をされていますから」
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