真美「ベランダ一歩、お隣さん」

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1 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:06:17.43 ID:MwWLOLhm0




あの日も、夏が始まったばかりの暑い日だった気がする。





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1560701177
2 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:07:58.12 ID:MwWLOLhm0

「真美ー、この段ボールこっちでいいのー?」

「うんむー、頼むー」


隣の部屋から、壁越しに亜美の声が聞こえた。



夏の頭、じりじりと日差しが強い日のお昼下がり。

亜美と一緒に、引越しの準備をしていた。


「やばっ、これちょっと懐かしすぎる!」

「え、何見っけたの?」

「これこれ」

「……って何見つけ出してるのさ!? 捨てて! 捨てて亜美!」

「えー」


荷造りをしながら懐かしの品を掘り出しては、手を止めて二人ではしゃぎ回る。

お陰で、作業は遅々として進まなかった。
3 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:09:50.41 ID:MwWLOLhm0

「もう、そういうことするなら手伝わなくていいよ」

「真美さんや、そう易々と拗ねるでないぞよ?」

「ふん、私はオトナの階段を着々と登ってるの」

「酒も飲めない歳で何を言うか」

「よっし、今度りっちゃんにこないだのタバスコジュースの真相をお伝えしてしんぜよう」

「あ゙っ!? 真美、それは卑怯っしょ! あの件は合意の上で闇に葬ったはずだよ!?」

「亜美クン……外交カードとは常にフトコロに忍ばせておくものなのだよ……」

「うあー! まじごめんっ!」


けらけらと笑いながら、いつものように漫才じみた掛け合いを繰り返す。

酒も飲めない歳、かぁ。

あと一年もしない内に合法になるのかと思うと、時の流れって早いなぁ。
4 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:10:21.94 ID:MwWLOLhm0

「……なぁんて、私もおばあちゃんじみてきちったよ……」

「真美さんや、ご飯はまだかいの?」

「亜美おばあちゃん、もう食べたでしょ」

「ううん、本当にまだ食べてないよ」

「……あれっ、そういや食べてないっけ?」

「真美……まさか若年性……」

「ちがうーーーっ!」


きーっ!と叫ぶ私を尻目に、亜美は「お昼持ってくるー」と、台所へ駆けて行った。

そういや、朝に菓子パンを食べたきりだった。

これじゃあ本当にボケ老人みたいだ。
5 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:10:48.94 ID:MwWLOLhm0

一人だけ作業をするのもなんだか癪だから、ぼーっと窓の外を眺める。

マンションの窓からは、前面に広々と青空が見える。


あー、夏の空っていいなー。

あの白い雲とか、すっごいもふもふしてそう。


「……でも、あ゙づい゙」


動きを止めると、途端に暑さがむわっと襲いかかってくる。

無理。これは耐えきれぬ。


「涼しい場所はいねがー……」


空を見ていた視線を少し下げると、ベランダが目に入った。

人が三、四人立てるくらいの、微妙な広さのベランダ。


「……涼も」

窓をがらりと開けて、ベランダへ出た。
6 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:11:28.42 ID:MwWLOLhm0

澄んだ風が吹いた。

夏の気だるさを吹き飛ばす。


「あー、いーぃ風ぇー……」


溶けたようにベランダの手摺りに身体を預け、だらーんと伸びる。

もー引っ越しの準備疲れたよー。

これならやよいっちにも手伝ってもらうんだった……。


「……お?」


そんな風にだれてた時、視界に手摺りの端が見えた。

その向こうにはもう一つ、別の手摺りがある。


「おー、そういやここ、こうなってたんだった」


私たちのベランダの端の向こうには、お隣の部屋の手摺り。

その距離は、ほんの子どもの一歩ほど。
7 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:11:56.28 ID:MwWLOLhm0

「久しぶりに、やっちゃいますかね?」


右足を手摺りにかける。

室外機のダクトに手をかけ、一呼吸で一気に登る。


「あらよっと!」


猫の子か何かのように、ひょいっと手摺りへ飛び乗る。

アイドルレッスンで鍛え抜かれた私のバランス力に、敵はないのだ!

……ダクト掴んでる時点でダメな気もするけど。


「うわー、やっぱり高いね、ここ」


眼下を見降ろせば、ちっちゃい人々がちらほら。

あれ? これ、スカートの中見える?


「……まぁ、大丈夫っしょ!」


それより、こっから落ちたらマミバーグケチャップソース添えになっちゃうから、気をつけないとね。

いま思うと、昔はこんなことをよくもまあ躊躇なくやってたなあ……。
8 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:12:37.86 ID:MwWLOLhm0


マンションの壁を伝うパイプを掴む。


そして、隣の手摺りへ一歩、足を伸ばした。


あの日と、同じように。

9 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:13:08.02 ID:MwWLOLhm0

――――――――

―――――

――




「っととぉ! めっちゃギリセーフ! 危なかったぁ……」


一歩で渡れるかびみょーな距離だったけど、まぁ真美の足にかかればこんなもんっしょ!

スリル満点で面白かった!


「で、渡ったはいいんだけど……」


隣のベランダに降りて、部屋の中をこっそりと覗く。


「ここ、誰の部屋?」


うーん、人がいる気配がしない。

誰もいないっぽい?


「そういえば真美、お隣さん会ったことないかも」


すれ違ったことくらいはあるのかな?

でも、エレベーターとかで会う中の誰なのかはわかんないや。
10 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:13:59.17 ID:MwWLOLhm0

と、その時急に。


「ん?」

「うあああああああんっ!?」


ととととと、突然横から声がしたぁ!

びっくりしてすぐ横を見ると、男の人が怪しむような目で真美を見ていた。


「……隣のベランダから幼女が侵入してきた」

「な、何をぉっ!?」


で、出会い頭によーじょとは失礼な!


「真美、これでも小五なんだかんね!」

「十分幼女じゃないのか……いや、幼女って歳じゃないか……」

「全く、シツレーだよキミィ!」

「……いや、いきなり人んちに不法侵入決め込んでるお前の方が失礼だからな?」

「……あり?」


どうやら、この部屋の人っぽい?
11 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:14:51.91 ID:MwWLOLhm0

「兄ちゃん、この部屋の人?」

「兄ちゃんて……まぁ、そうだな」

「ニート?」

「誰がニートだ誰が。大学生だよ」

「ほほう……エリートですな?」

「だと思うか?」

「思わない」

「本当に失礼な奴だなお前」


真美は気付いた。

この手摺りの影の部分、割と涼しい。

だからこの人もここに座ってんだね。


「隣座っていい?」

「いいけど……ほんと誰だお前……」


真美は真美ですが?
12 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:15:18.63 ID:MwWLOLhm0

暇だったから、兄ちゃんとだらだらとお喋りしてた。


兄ちゃんは大学四年生で、今は就活中だということとか。

就活があんまりうまくいっていないということとか。

というか、やりたいことが特にないということとか。

あんまり就活に身が入らず、だらだらと日々を過ごしてることとか。


「結局、実態はニートと大差ないじゃん」

「やめてくれ、耳が痛い」

「働けニート!」

「働かせてくれよ!」

「真美が子どもじゃなくて社長さんだったら良かったのにね」

「社長さんはまずベランダから侵入はしない」


だらだらと喋ってるだけだけど、なんか楽しかった。
13 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:15:45.43 ID:MwWLOLhm0

「あ、そろそろ戻らなきゃ」


手摺りによじ登ろうと手をかける。


「いやいやいやいや待てお前落ちたらどうする! 帰りは普通に玄関から戻れ!」

「だいじょーぶだって! 真美、うんどーしんけーには自信あるから」

「『大学生の部屋から少女が落下! 部屋へ連れ込んだ挙句、悪魔のような凶行!』とかワイドショーに躍るだろう!」

「『少女誘拐、二十代の男を逮捕! 部屋から逃げ出したところを近隣住民の通報により救われる!』とかニュース報道されてもいいの?」

「お前嫌な子どもだな……ちゃんと俺が表の様子見るから、合図したらとっとと戻りなさい」

「へいへい」


まぁ確かに、来るときベランダ危なかったしねー。

兄ちゃんがそう言うなら、仕方ないから言うことを聞いてあげよう。
14 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:16:13.39 ID:MwWLOLhm0

「そんじゃまた明日来るねー」

「また来るんですか!?」


兄ちゃんが玄関から顔を覗かせて固まった。

んっふっふ〜、こんな面白い秘密基地、使わない手はないじゃん!


「もっちろん! なんか面白いもの用意しといてねー!」

「えぇ……この後飲み会だから明日は一人でゆっくりしたいんだが……」

「そんじゃ、ばいばーい!」

「来るなよ、絶対来るなよ!?」


ほほう、兄ちゃん、出来るヤツと見た。

真美知ってるよ、それ振りってやつでしょ?
15 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:16:41.37 ID:MwWLOLhm0

次の日。

昨日みたいに、ベランダの手摺りを伝って兄ちゃんの部屋に行く。


「ふっ、この真美様も手慣れたものよ……」


今日は、ベランダに兄ちゃんはいない。

ゆっくりしたい、とか言ってたから、部屋にいるはず……。


「あ、いたいた。なんかパソコン弄ってる」


窓越しに兄ちゃんを確認。窓の鍵は開いてるっぽい。

ならば……やることは一つ。


「こっそり……音をたてないよーに……」


今の真美は忍者。忍者なのだ。ニンニン!
16 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:17:07.62 ID:MwWLOLhm0

音をたてないように、静かに窓を開けて侵入する。


「ククク……兄ちゃん、気付いていないようだな……」


そろぉりそろぉり。

静かに忍び寄って……。


「わぁっ!」

「どわぁっ!?」


兄ちゃんの肩が、漫画みたいに跳ね上がった。

胸を押さえながら、慌てて真美の方へ振り返った。


「ななななんだいきなり!」

「いやっはーー! ドッキリだいせいこー!」


真美隊員、ミッションコンプリート!
17 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:17:39.23 ID:MwWLOLhm0

「お前、またベランダ渡ってきたのか! 危ないっつっただろうが!」

「だって正面から行っても驚かせらんないじゃん」

「驚かせることに義務感を持てとは誰も言ってないからな?!」

「もう一人の真美に言われたのさ」

「何がもう一人の真美だ……って」


兄ちゃんが思い出したような顔をした。


「お前の名前、真美っていうんだな」

「え!? 昨日から何回も言ってんじゃん!」

「いやぁ、あまりにも自然に言われてたから、意識してなかった」


そういや、確かにちゃんとじこしょーかいってしてなかったかも。


「双海真美! ぴちぴちないすばでーの超美女だよ!」

「ガキが何を言う」

「なんだとー!」


ダメな兄ちゃんだ。

れでぃーの扱いがなってない!
18 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:18:05.31 ID:MwWLOLhm0

「まぁいいや……っと、もう十五時か」

「真美は学校に行ってるっていうのに、兄ちゃんは今日も引きこもってるんだね」

「今日は講義がないんだよ。レポート書いてんだ」


兄ちゃんのパソコンを覗くと、なんかちっちゃい文字がいっぱい書いてある。

ええと、けーざいじょーほーのなんたらかんたら?

後ろの漢字は読めないや。


「……つまんない」

「本当にな、最高につまらん。でも俺、コレやんないと卒業できないわけよ」

「ねーねー、そんなつまんないの放っといて、面白いことやろーぜー」

「お前なあ……」


真美はそういうの求めてないの。

兄ちゃんのシャツをひっつかんで、ぐいぐい揺さぶる。
19 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:18:31.41 ID:MwWLOLhm0

「しゃーない、補給タイムだ」

「ほきゅーたいむ?」


兄ちゃんは立ち上がって、キッチンの方へ行った。

冷蔵庫を開けて、何やらごそごそやってる。


「お前、黒と白、どっちが好き?」

「え? んーと、白かなー」

「なるほど」


ばたんと冷蔵庫を閉めて、兄ちゃんが戻ってきた。

なんか手に持って……って!!


「ケーキだあああああああああ!!!!!」

「近所迷惑だ黙れ!」

「はい」
20 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:18:57.48 ID:MwWLOLhm0

ぴっ!とその間一秒足らず。

真美はそっこーで正座して兄ちゃんをお迎えした。


「ほれ、ショートケーキ」

「うわああぁ……白いやつだぁ……!」


真っ白な生クリームで綺麗に包まれて、その上にちょこんと赤いイチゴが……。

うわぁ……美味しそう……!


「た、食べていいの!?」

「いいから黙って食え」

「うん!」


兄ちゃんからショートケーキとフォークを受け取る。

ちょんっとつつくと、生クリームにフォークの穴が開いた。


「ふぉぉぉおおお……!」

「いいから食え」


いっただきまーす!
21 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:19:24.62 ID:MwWLOLhm0

ぱくっ。

さらり。

しっとり。


「おぉ……生クリームが舌で溶けて、続いてスポンジの柔らかな食感が……!」

「黙って食え」

「はい」


ぱくぱく。

おいしー!

真美ってば、こんなに幸せでいいのかな!


「このケーキどうしたの?」

「貰いもんだよ」


ふむふむー、どこの誰だか知らないけどありがとう!

お陰で真美は幸せだよ!
22 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:19:50.90 ID:MwWLOLhm0

「さて、じゃあ俺は黒いのを食おう」

「チョコケーキ?」

「ああ」


兄ちゃんもケーキを口に運ぶ。

もぐもぐ。

ちょっと口元が緩んでる。


「……ああ、糖分最高」


何度も何度も噛みながら、兄ちゃん、なんか幸せそう。

……チョコケーキも美味しそーだなー。


「……兄ちゃん、それ美味しい?」

「ん? めっちゃ美味い」
23 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:20:16.86 ID:MwWLOLhm0

「……」


じーっ。


「……食いたいのか?」

「とうっ!」


ざくっ。


「あぁっ!? 俺のチョコケーキ!」

「んぐ……びたーあまーい!」

「おのれ重ね重ねこのガキめ……!」


やっぱりチョコもめっちゃおいしー!

あまあまなショートケーキよりもちょっとオトナの味で、びたあまですなー。
24 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:20:43.24 ID:MwWLOLhm0

「兄ちゃん、ごちそーさま!」

「へいへい……言えばちゃんとあげるってのに……」


ちょっと不満そうに、兄ちゃんはお皿を片づけに行った。

いいなー兄ちゃん。ケーキくれる知り合いがいるんだ。

……あれ? でも、普通一人暮らしの人に二個もあげるかな?

箱に書いてあった賞味期限、今日だったよね。


「なんでケーキ二個あったの?」

「ん? そりゃお前が来るから――」


そこまで言って、兄ちゃんは眉間にしわを寄せて黙った。

ぷいっと真美から視線を逸らして、また皿を洗いだす。


「……たまたま貰った」

「えー」


そっかぁ。

兄ちゃん、わざわざ買っておいてくれたんだね。
25 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:21:09.62 ID:MwWLOLhm0

「ねね、兄ちゃん」


くいくいと、シャツの裾を引っ張る。


「なんだよ」


ちょっとむすっとしてる兄ちゃん。

んっふっふ〜、なんかちょっと可愛いかも。


「ありがと!」

「………………ん」


皿を洗いながら、やっぱり真美の方は見てくれない。

でも、真美の見間違いでなければ。

けっこー、満更でもないような顔をしてたかも。
26 : ◆on5CJtpVEE [sage]:2019/06/17(月) 10:17:09.37 ID:MwWLOLhmo
初めましての方は初めまして。
お久しぶりの方はお久しぶりです。

三年ほど前、私生活がひどかった時期に落としてしまい、その際は本当に申し訳ありませんでした。
今回は原稿が書き上がっておりますので、最後まで投稿いたします。

ただ、時間の関係で一日に投下し切ることはできないので、一日あたり多くて数十レス分くらいになるかと思います。
日刊感覚でお読みいただけると幸いです。
よろしくお願いしまかぶとがに。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/17(月) 12:19:44.38 ID:Z8Cxn72wO
おつおつ
久しぶり
楽しみにしてるぞ
28 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:10:49.78 ID:MwWLOLhm0

次の日。

昨日はケーキを食べた後、レポート書いてる兄ちゃんの横でだらだらして帰った。

そして本日は、また新たな手を考えたのだ。


「こっそりこっそり……」


慎重にベランダへしんにゅー。

そして同じように、鍵がかかっていない窓を開ける。

今日も兄ちゃんは、部屋に引きこもってレポートか何かを書いてるみたい。


「くっくっく……」


そろーりそろーりと背後に忍び寄ると……。


「ふっ、そう毎回、俺を驚かせられると思うなよ」


兄ちゃんがこっちを向いた。
29 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:11:27.74 ID:MwWLOLhm0

「んっふっふ〜」

「やっほ〜」

「……」


ぽかんと口を開けたまま、兄ちゃんが固まった。


「あれ? 兄ちゃんどったの?」

「顔色悪いけど、だいじょーぶ?」

「ま……」


ま?


「真美が二人に増えたぁ!?」


驚いた兄ちゃんは、思いっきり後ろへ仰け反った。

置いてあった本の山を崩しながら、真美達を交互に見てる。
30 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:12:02.28 ID:MwWLOLhm0

「えっ、あれっ、えっ、単細胞分裂?!」

「遠まわしにすんごい失礼なこと言われてるよ、真美」

「兄ちゃんにはデモクラシーってものがたりないよね、亜美」

「で、デリカシーのことか? って、亜美って……」


ここで兄ちゃん、ようやくタネに気付いたっぽいね。


「そう、何を隠そう……」

「真美達は、双子なのだー!」


そう、兄ちゃんに高らかに宣言する。

少しの間黙り込んだ後、兄ちゃんは驚いた表情のまま、ぱちぱちと拍手をした。


「というわけで、次からケーキは三つ用意してね」

「えぇ……幼女が更に増えるのか」

「亜美は幼女じゃないってのー!」


ちなみに、実は三つ子だって言ったら、また驚かれた。

嘘ですって言ったらゲンコツされた。
31 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:12:54.82 ID:MwWLOLhm0

「おっと、十五時か」

「兄ちゃん! 今日もケーキある?」

「えっ、ケーキ!?」

「たかりに来たのかお前ら……はいはい、ケーキじゃないけどあるよ」


兄ちゃんが溜息をつきながら冷蔵庫を漁る。

いやっほーう!

やっぱり兄ちゃんはできるやつだぜ!


「あ」


その時、兄ちゃんの動きがぴたりと止まった。


「? 兄ちゃん、どったの?」

「……あー、あるにはある、ん、だが……」


兄ちゃんが、なんか言いづらそうな顔でこっちを見る。
32 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:13:21.14 ID:MwWLOLhm0

十秒後。

テーブルの上に置かれたのは、なんと二つのゴージャスセレブプリン!


「兄ちゃんありがとー!」


亜美は目をきらきらと輝かせながら、スプーンを片手に握りしめている。

でも兄ちゃん……二個ってこれ、片方はきっと自分の分のつもりだったんだよね。


「はぁぁぁぁ……。たんと召し上がれ、ガキ共……」

「いよっしゃぁーー! いっただっきまーーす!!」


待てをされていた犬が、よし!と言われたかのように、一気にプリンに躍りかかる亜美。


「ゥンまああ〜いっ! こっこれは〜!」


口に運んだ瞬間、ほっぺたを押さえながら高らかに叫んだ。

おおお、おいしそう!

でも……これ、兄ちゃんも食べたいよね、甘いの好きそうだし……これ買うの大変だし……。

目に見えてしぼんだフーセンみたいな顔でしょぼくれてるし……。
33 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:13:51.07 ID:MwWLOLhm0

「うー……」

「ほら、真美も食べな」

「え、でもこれ……」


真美が喋ろうとすると、兄ちゃんはそっと人差し指を、真美の口に当てた。


「いいから。子どもは黙って美味しそうに食べてりゃいいの」

「……兄ちゃん」

「ほら、折角冷蔵庫で冷やしてたんだから。温くなるぞ」

「うん……」


兄ちゃんがそう言うなら。

ふたを外して、スプーンでプリンをすくう。

お、おおおお!

や、柔らかい! 口に運ぶ前からテンションマックスっしょ!

そして、口に運ぶと……。
34 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:14:19.27 ID:MwWLOLhm0

「ゥンまああ〜いっ!」


口の中を駆ける稲妻!

舌を襲う甘みの衝撃!


「双子はリアクションも一緒なのか」

「これっ、これめちゃおいしいよ!」

「そりゃあ良かった」


兄ちゃんはそう言うと、隣で食べ終わってた亜美のスプーンとかを片づけ始めた。

空になったプリンの容器をキッチンへ持っていく後ろ姿は、なんだか寂しそうだった。


「……」


真美はプリンとスプーンを持って、兄ちゃんのとこへ行った。
35 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:15:09.01 ID:MwWLOLhm0

兄ちゃんは真美が近づいてきたのに気付くと、ちょっと不思議そうな顔をした。


「あれ? 実はプリン苦手だったか?」

「ううん、大好きだけど」


ぱくっ。

やっぱりおいしー!


「くそう、旨そうに食うじゃないか」

「苦手とかじゃなくて、えっと」


えっと、その……。

真美達ばっかり食べちゃ、なんかふこーへーだよね。


「兄ちゃん、プリン食べたいんでしょ?」

「ばっ……そそそそそんなことはない!」

「そんな見栄はんなくてもいいのにー」


だからね、兄ちゃん。
36 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 20:15:37.61 ID:MwWLOLhm0

「はいっ、あーん」

「……えっ?」


こんなに美味しいプリンだもん。

みんなで食べなきゃだめっしょ!


「兄ちゃんも食べよ?」

「えっ、いや、その」

「はい、あーん」

「それ、真美がもう口つけたやつ」

「あーん」

「……あーん」


ぱくり。

もぐもぐ。

ごくん。


「……ゴージャスセレブプリンめっちゃくちゃ旨い」

「うんっ!」


これでみんな、びょーどーだかんね!

でも、なんで兄ちゃん、ちょっと気まずそうな顔してるんだろ?
37 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 22:58:37.77 ID:MwWLOLhm0

「小学生ってそろそろ、こういうの気にしだす歳じゃないのか?」

「え? 気にするって?」


ぱくり。

んー! やっぱりプリン美味しいよー!


「いや、その……なんでもない」

「??」


ほんとに兄ちゃん、どうしたんだろ?

真美、なんか変なことしたかな。

真美がしたことと言えば、兄ちゃんにプリンあげたくらい――
38 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 22:59:26.75 ID:MwWLOLhm0

「……あれ?」

「あ。その顔、今更気付いたっぽいな」

「えっとえっと、真美は今、兄ちゃんにプリンあげて」

「うん」

「このスプーンで」

「うん」

「真美が食べたこのスプーンで」

「そうだな」


……。

えっ、それってつまり……。


「……うあぁぁぁあっ!?!?」

「何も考えてなかったのか……」


うあうあ〜!!? 真美、なにはずいことしてんの!?

や、やばいよ、今顔真っ赤だよ!
39 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 22:59:54.66 ID:MwWLOLhm0

「あ、亜美! 帰ろ!」

「真美、どったのー?」

「な、なんでもないよ! なんでもないから!」

「……兄ちゃんに変なことでもされた?」

「ち、ちがっ……えっと、変なことしたのはむしろ真美で、その……!」

「えっ、真美なにしたの!?」


自分でもわかるくらい顔が熱くなってるよ!

真美のバカ! あんぽんたん! 美少女!


「おーい、真美。大丈夫か?」

「大丈夫じゃないっしょ!! ま、また明日っ!」

「えー、もう帰るのー?」

「お、おう、また明日」


まだ残っていたそうな亜美の手を無理やり引っ張って、兄ちゃんの部屋から飛び出した。

うああああん!!
40 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:00:44.60 ID:MwWLOLhm0

――そんなことがあってから、真美は事あるごとに兄ちゃんの部屋に遊びに行くようになった。

時々亜美も一緒に来たけど、基本的には真美一人だけ。

兄ちゃんの部屋に行って、おやつもらって、だらだらと漫画読んだり一人でゲームしたり。

兄ちゃんは大体レポート書いたり就活のなんか紙を書いてたり。

時々一緒に遊んだりもして。


「ねえ、今日のおやつは?」

「緊縮財政でカットです」


「昨日の試験、どーだったのー?」

「……聞くな、聞かないでくれ。頼むから」


「1Pは真美ね! コントローラー取ったぁ!」

「はいはい」


暑い夏の日から始まった、真美と兄ちゃんのおかしな毎日。

本当に兄ちゃんができたみたいで、とっても楽しい!
41 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:01:25.25 ID:MwWLOLhm0

そんな毎日がちょっと変わったのは、外が寒くなり始めた秋の終わり。

いつものように兄ちゃんの部屋に行くと、なんか兄ちゃんが踊ってた。


「……兄ちゃん、何してんの? 頭おかしくなったの?」

「これは喜びの舞いだ!」


真美の言葉にツッコミも入れず、兄ちゃんは嬉しそうに一枚の紙を見せてきた。


「えーっと……ないてい……つうちしょ?」

「その通り! 就職先が決まったんだよ!」

「えっ……ええええええ!?」


兄ちゃん、てっきり就職できないかと思ってた……。

話を聞くと、どーやら夏の終わりに、街中で変なおじさんに声をかけられたっぽい。


「ねぇ、そこ大丈夫なの? 怪しくない?」

「一応調べたら、大きくはないけどちゃんとしたとこだったよ」

「それって何するとこなの?」


真美の質問に対する兄ちゃんの答えは、けっこー予想外なものだった。
42 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:01:54.09 ID:MwWLOLhm0

「アイドル事務所のプロデューサーやるんだよ」

「……あいどる?」


アイドルって……あれかな?

あの歌って踊って、バラエティでわーきゃー言ってる、あれ?


「アイドルって、あのアイドル?」

「そう、あのアイドルだ」

「えっ、日高舞とか?」

「お前そういう世代じゃないだろ……事務所違うし」


日高舞ってそんな前の人だったっけ。

でも、そっかぁ。

真美が知ってるアイドルってそれくらいだからなー。
43 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:02:21.40 ID:MwWLOLhm0

「俺がプロデューサーやる事務所のアイドルっていうと……秋月律子とか」

「んー、聞いたことない」

「まぁ、世間一般にすごく有名ってわけじゃないからなー」


そんなことを言いながら、少し得意げな兄ちゃん。

おぉ、なんかギョーカイジンっぽい!

その内、テレビにいっぱい出てる人と仲良さそうに話したりするのかな?


「でも兄ちゃん、いきなりプロデューサーとかできんの?」

「できる!」

「やけに自信満々じゃん」

「できる、と社長が言っていた!」


そう言って胸を張る兄ちゃん。

……ねぇ、プロデューサーってホントにそんなに楽なの?

騙されてない?
44 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:02:48.82 ID:MwWLOLhm0

そんな話をされてからしばらくすると、兄ちゃんは事務所でバイトをするようになった。

プロデューサー業のべんきょーも兼ねて、アイドルこーほせい?のレッスンとかを見てるんだって。

といっても、教えるのは専門の人で、兄ちゃんは雑用的なことをやってるだけらしいけど。


「顔見せも兼ねてるんだよ」

「どんな人たちがいるの?」

「中学生から高校生くらいか。一人だけ短大生がいたかな?」

「いーーーっぱいいるの?」

「十人くらいだよ」


んー、けっこーいるような気もするけど、事務所全体でそれは少ないのかな?


「女の子ばっかりのとこ行って、避けられたり嫌がられたりしない?」

「んー、男が苦手だって子とか、飄々としててあまり喋らない子とかはいるけど、基本的には歓迎してくれてるよ」

「そっかぁ」


じゃあ、いじめられたりはしてないんだね。

思ってたよりは良さそうな場所っぽくて、ちょっと安心したかも。
45 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:03:18.28 ID:MwWLOLhm0

「お前、なんでホッとしたような顔してるんだ?」

「え? えーっと……なんでもないよ」


真美がそっぽを向くと、兄ちゃんはおかしそうに小さく笑った。


「な、なんで笑うのさ!」

「俺のこと心配してくれてるのか?」

「ち、違うよ! そんなんじゃないから!」

「あはは。ありがとな、真美」


そう言うと、兄ちゃんの右手が真美の頭をくしゃくしゃと撫でた。

うあー。

そんな風にされると何も言えないじゃーん……。


「まぁなんか困ったことがあったら言うから、そんな心配すんなよ」

「……約束だよ? 無理しちゃダメだかんね」

「はいはい」


兄ちゃんは真美を見て、もっかい笑った。
46 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:03:45.89 ID:MwWLOLhm0

会ってから半年近く経ったけど、兄ちゃんのこと、いっぱい分かってきた。


時々意地が悪いこと。

子どもっぽいとこがあること。

見栄っ張りなこと。

すぐに無理をすること。

辛いのをあまり見せようとしないこと。

それに、とっても優しくていい人なこと。


だからね。

真美、兄ちゃんのことが時々心配になるよ。

兄ちゃんに良くないことがあったら、

部屋で遊べないし、

おやつ食べれないし、

いたずらできないし、

さっきみたいに、頭ぽんぽんってやってもらえないし。


だからね。
47 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:04:12.97 ID:MwWLOLhm0

「ねえ、兄ちゃん」

「ん?」

「ヤバい橋だけは渡らないでね」

「お前どこでそんな言葉を覚えてきた」


……。

んっふっふっふ〜!

ちょっと黙ってから、二人で一緒に笑った。

これからも、こんな感じで笑っててね。

ゼッタイゼッタイ、約束だかんね!
48 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:05:01.36 ID:MwWLOLhm0

時間はどんどん過ぎていく。

あっという間に、秋が終わって冬が来る。


真美、いつの間にか兄ちゃんと一緒に居るのが当たり前になってきちゃったね。

暇なときは、大体兄ちゃんの部屋。

でも、バイトが始ってからは遊べる時間も減ってきた。

年が明けるころには、兄ちゃんはほとんどバイトばっかりだった。


「ねぇ兄ちゃん、そんなんで卒業できんの?」

「出来る! はずだ!」

「この前、卒論が終わる気がしないとか言ってなかったっけ」

「そこは抜かりない。教授には貢いである」

「うわぁ……」


こんな調子で、兄ちゃんはバイトバイトバイトバイト……。

もうバイトってかしゅーしょくしてるよね?
49 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:05:28.29 ID:MwWLOLhm0

「昨日もやよいがな」

「ふーん」


やよいって、真美よりちょっと年上の人だっけ。

兄ちゃんは特に話すことがないと、真美に事務所の話をしてくれる。

楽しそうに話す兄ちゃんを見てるのはいいんだけど……。


「……仲間はずれみたいでふくざつー」

「ん? なんか言ったか?」

「んーん、なんでもないよ」


兄ちゃん、どんどん遠くに行っちゃう気がする。

せっかくこれからは兄ちゃんと一緒に、いっぱい楽しいこと出来ると思ってたのに……。
50 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:05:55.17 ID:MwWLOLhm0

帰ってから部屋でぐでーっとしてたら、亜美がちょこちょこ寄ってきた。


「ねーねー真美、なにふてくされてんの?」

「……別にー」

「兄ちゃんと喧嘩でもしたの?」

「ううん」

「なになに、なんか悩んでるの?」

「えっと……」


兄ちゃん、最近あんま構ってくれない。

というか、構ってはくれてるけど、なんか前よりも遠い、気がする。

なんかむかむかするし、なんか……だし。


「んっふっふ〜、真美ってば、兄ちゃん取られて寂しいんだ?」

「うっ……ち、ちがーわいっ!」

「あまり双子を甘く見ないことですぜ?」


亜美がなんでもお見通し!って顔でにやにやしてる。

ぐぬー、双子なんて大っきらいだ!
51 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:06:42.71 ID:MwWLOLhm0

「そーなんでしょ?」

「……ごめーとー」


白旗降参。


「だってさー、いっつもいっつも事務所の女の子のことばーっかり! 兄ちゃんのむっつりスケベー!」

「真美さんや、許してやんな……兄ちゃんだって男の子なのさ……」

「う、うぐぐ」


そりゃね?

別にいいよ、女の子といちゃいちゃしててもさー。

でも、もーちょっと真美に構ってくれてもいいんじゃないのー!?


「兄ちゃんのばーーーか!」

「言ったれ言ったれ!」

「ばぁぁぁぁぁぁあか!!!」


ドンッ!


「ゔっごめんなさい!」

「……聞こえてたみたいだね、兄ちゃん」


心の狭い地獄耳……。
52 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:07:11.80 ID:MwWLOLhm0

「ねぇ、亜美」

「ん?」

「どーしたら兄ちゃん、構ってくれるかなー」

「えー? どーしたらって言っても……」


急にそんなことを聞かれて、亜美は答えに困ったみたい。

そりゃそうだよね。

真美だっていきなり聞かれても何にも言えないもん。


「だって、会える時間も少ないんでしょ? 最近、帰り遅いことも多いみたいだし」

「うん。バイトが休みの日とか、帰りが早い日にちょっと遊べるくらい」

「もーそっからして不利だよねー」

「ホントだよもー。真美もバイトに連れてってくれればいいのになー」

「さすがにそれは無理っしょー。一応お仕事だし」


あーあ、いいなー。

話聞いてると、寂しいけど、確かに事務所楽しそうだもん。


「真美も兄ちゃんと一緒に行けたらなー……ぜーったい毎日楽しいのに」
53 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:07:39.24 ID:MwWLOLhm0

と、口にした時。

真美も亜美も二人とも、同時にぴくっと動いて目が合った。


「……一緒に」

「行けたら?」


…………。

……そっか!


「そっかそうだよ! 簡単じゃん!」

「気付いたか……気付いてしまったか、真美よ!」

「んっふっふ〜! もうこーなったら、この手しかないっしょ!」


そうと決まれば……!
54 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 23:08:06.23 ID:MwWLOLhm0

「亜美! 真美は……やりとげるよ!」

「ふっ、真美……一人で抜け駆けしようったって、そうはさせないぜ!」

「亜美?! まさか、お前……!」

「ふしょー、この双海亜美、真美殿にお供するしょぞんでござる!」

「よくぞ言ってくれた!」

「だってこんな面白そーなこと、真美だけやるなんてずるいじゃん」


最後の最後で、ふつーに亜美の本音が出てきた。

うん。立場が逆だったとしたら、真美もそう言う。

だってこれ、兄ちゃんのこと抜きにしても、絶対面白いじゃん!


「まずはパパとママに言わなきゃね」

「あれこれお稽古やらせよーとしてたし、それと同じよーなもんだからだいじょーぶっしょ?」

「多分だいじょーぶだとは思うけどねー」


そのまま亜美と二人で、コソコソゴニョゴニョ。

まずはパパとママの砦を陥落させるべく、作戦を練り始めた。
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