真美「ベランダ一歩、お隣さん」

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1 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:06:17.43 ID:MwWLOLhm0




あの日も、夏が始まったばかりの暑い日だった気がする。





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2 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:07:58.12 ID:MwWLOLhm0

「真美ー、この段ボールこっちでいいのー?」

「うんむー、頼むー」


隣の部屋から、壁越しに亜美の声が聞こえた。



夏の頭、じりじりと日差しが強い日のお昼下がり。

亜美と一緒に、引越しの準備をしていた。


「やばっ、これちょっと懐かしすぎる!」

「え、何見っけたの?」

「これこれ」

「……って何見つけ出してるのさ!? 捨てて! 捨てて亜美!」

「えー」


荷造りをしながら懐かしの品を掘り出しては、手を止めて二人ではしゃぎ回る。

お陰で、作業は遅々として進まなかった。
3 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:09:50.41 ID:MwWLOLhm0

「もう、そういうことするなら手伝わなくていいよ」

「真美さんや、そう易々と拗ねるでないぞよ?」

「ふん、私はオトナの階段を着々と登ってるの」

「酒も飲めない歳で何を言うか」

「よっし、今度りっちゃんにこないだのタバスコジュースの真相をお伝えしてしんぜよう」

「あ゙っ!? 真美、それは卑怯っしょ! あの件は合意の上で闇に葬ったはずだよ!?」

「亜美クン……外交カードとは常にフトコロに忍ばせておくものなのだよ……」

「うあー! まじごめんっ!」


けらけらと笑いながら、いつものように漫才じみた掛け合いを繰り返す。

酒も飲めない歳、かぁ。

あと一年もしない内に合法になるのかと思うと、時の流れって早いなぁ。
4 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:10:21.94 ID:MwWLOLhm0

「……なぁんて、私もおばあちゃんじみてきちったよ……」

「真美さんや、ご飯はまだかいの?」

「亜美おばあちゃん、もう食べたでしょ」

「ううん、本当にまだ食べてないよ」

「……あれっ、そういや食べてないっけ?」

「真美……まさか若年性……」

「ちがうーーーっ!」


きーっ!と叫ぶ私を尻目に、亜美は「お昼持ってくるー」と、台所へ駆けて行った。

そういや、朝に菓子パンを食べたきりだった。

これじゃあ本当にボケ老人みたいだ。
5 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:10:48.94 ID:MwWLOLhm0

一人だけ作業をするのもなんだか癪だから、ぼーっと窓の外を眺める。

マンションの窓からは、前面に広々と青空が見える。


あー、夏の空っていいなー。

あの白い雲とか、すっごいもふもふしてそう。


「……でも、あ゙づい゙」


動きを止めると、途端に暑さがむわっと襲いかかってくる。

無理。これは耐えきれぬ。


「涼しい場所はいねがー……」


空を見ていた視線を少し下げると、ベランダが目に入った。

人が三、四人立てるくらいの、微妙な広さのベランダ。


「……涼も」

窓をがらりと開けて、ベランダへ出た。
6 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:11:28.42 ID:MwWLOLhm0

澄んだ風が吹いた。

夏の気だるさを吹き飛ばす。


「あー、いーぃ風ぇー……」


溶けたようにベランダの手摺りに身体を預け、だらーんと伸びる。

もー引っ越しの準備疲れたよー。

これならやよいっちにも手伝ってもらうんだった……。


「……お?」


そんな風にだれてた時、視界に手摺りの端が見えた。

その向こうにはもう一つ、別の手摺りがある。


「おー、そういやここ、こうなってたんだった」


私たちのベランダの端の向こうには、お隣の部屋の手摺り。

その距離は、ほんの子どもの一歩ほど。
7 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:11:56.28 ID:MwWLOLhm0

「久しぶりに、やっちゃいますかね?」


右足を手摺りにかける。

室外機のダクトに手をかけ、一呼吸で一気に登る。


「あらよっと!」


猫の子か何かのように、ひょいっと手摺りへ飛び乗る。

アイドルレッスンで鍛え抜かれた私のバランス力に、敵はないのだ!

……ダクト掴んでる時点でダメな気もするけど。


「うわー、やっぱり高いね、ここ」


眼下を見降ろせば、ちっちゃい人々がちらほら。

あれ? これ、スカートの中見える?


「……まぁ、大丈夫っしょ!」


それより、こっから落ちたらマミバーグケチャップソース添えになっちゃうから、気をつけないとね。

いま思うと、昔はこんなことをよくもまあ躊躇なくやってたなあ……。
8 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:12:37.86 ID:MwWLOLhm0


マンションの壁を伝うパイプを掴む。


そして、隣の手摺りへ一歩、足を伸ばした。


あの日と、同じように。

9 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:13:08.02 ID:MwWLOLhm0

――――――――

―――――

――




「っととぉ! めっちゃギリセーフ! 危なかったぁ……」


一歩で渡れるかびみょーな距離だったけど、まぁ真美の足にかかればこんなもんっしょ!

スリル満点で面白かった!


「で、渡ったはいいんだけど……」


隣のベランダに降りて、部屋の中をこっそりと覗く。


「ここ、誰の部屋?」


うーん、人がいる気配がしない。

誰もいないっぽい?


「そういえば真美、お隣さん会ったことないかも」


すれ違ったことくらいはあるのかな?

でも、エレベーターとかで会う中の誰なのかはわかんないや。
10 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:13:59.17 ID:MwWLOLhm0

と、その時急に。


「ん?」

「うあああああああんっ!?」


ととととと、突然横から声がしたぁ!

びっくりしてすぐ横を見ると、男の人が怪しむような目で真美を見ていた。


「……隣のベランダから幼女が侵入してきた」

「な、何をぉっ!?」


で、出会い頭によーじょとは失礼な!


「真美、これでも小五なんだかんね!」

「十分幼女じゃないのか……いや、幼女って歳じゃないか……」

「全く、シツレーだよキミィ!」

「……いや、いきなり人んちに不法侵入決め込んでるお前の方が失礼だからな?」

「……あり?」


どうやら、この部屋の人っぽい?
11 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:14:51.91 ID:MwWLOLhm0

「兄ちゃん、この部屋の人?」

「兄ちゃんて……まぁ、そうだな」

「ニート?」

「誰がニートだ誰が。大学生だよ」

「ほほう……エリートですな?」

「だと思うか?」

「思わない」

「本当に失礼な奴だなお前」


真美は気付いた。

この手摺りの影の部分、割と涼しい。

だからこの人もここに座ってんだね。


「隣座っていい?」

「いいけど……ほんと誰だお前……」


真美は真美ですが?
12 : ◆on5CJtpVEE [saga]:2019/06/17(月) 01:15:18.63 ID:MwWLOLhm0

暇だったから、兄ちゃんとだらだらとお喋りしてた。


兄ちゃんは大学四年生で、今は就活中だということとか。

就活があんまりうまくいっていないということとか。

というか、やりたいことが特にないということとか。

あんまり就活に身が入らず、だらだらと日々を過ごしてることとか。


「結局、実態はニートと大差ないじゃん」

「やめてくれ、耳が痛い」

「働けニート!」

「働かせてくれよ!」

「真美が子どもじゃなくて社長さんだったら良かったのにね」

「社長さんはまずベランダから侵入はしない」


だらだらと喋ってるだけだけど、なんか楽しかった。
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