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エミリーが忘れた日
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◆AsngP.wJbI
[saga]:2019/06/10(月) 20:34:51.89 ID:9pdDfgPfo
プロデューサーとして、と己に豪語したくせ、その日の最後のユニットリハは自主練に変更した。
“Princess Be Ambitious!!”でもきっと同じ具合になることが分かりきっていたから。
やはりエミリーにこれ以上心の負担を感じさせたくはない。
俺はどっちつかずの頼りない指導者だ。
“だってあなたはプリンセス”の公演に関しては、やむなく休止の決定を下した。
徳川まつりとのデュエット曲。いくらなんでも二人いるうちの片方だけで歌わせるのは流石に不自然だ。
「残念ですが、まつりは我慢するのです」
「《ごめんなさい。 私もこの曲、本当は大好きなのに》」
「エミリーちゃんは何も気にすることはないのです。 姫はまたエミリーちゃんと二人で歌える日を楽しみに待つのです」
申し訳なさそうに何度も『ごめんなさい』を繰り返すエミリーの頬を、まつりがそっと撫でた。
「エミリーちゃんにそんな辛そうな顔は似合わないのです。 ほら、笑って。 ね?」
そのまま反対の人差し指で自分の口角をなぞり、「にっこり」を描いてみせる。
エミリーは後ろめたさを少しの間だけ忘れ、遠慮がちにふわりと笑った。
伊織も「ありがとう」と一言だけ添えてエミリーを連れその場を去っていく。
俺はその一部始終を離れて見ていた。
一人取り残されたまつりがさっきまでの優しい表情を途端にしかめて、「こんなのってないよ……」と沈んだ声を吐き出していた瞬間も。
決して甘く見積もったつもりはなかった。
けれどもエミリー・スチュアートを欠いて765ライブ劇場に空いてしまった穴は、俺が懸念した以上に大きいのかもしれない。
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