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少女「愛してるって言って」少年「………」
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133 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/05(水) 21:42:32.33 ID:QekJgiX40
ーーーーー
スッ...
カチッ
女「っ……」
女(……あ…よかった…まだあなたが見える…!)
女(ずっと忘れない、あなたのこと)
女(あなたが残してくれたコレを使って、何回でもあなたに会いに行くわ)
女(私の好きな人……)
女「………」
女(……もう、いいの)
女(……なにもかも……)
女(アイドルなんてやめる……あの子たちのこともどうでもいい……)
女(私は………)
女(いつまでも、あなたと──)
カチッ...
134 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/05(水) 21:43:51.50 ID:QekJgiX40
幕間ーーー
少女「──ん〜、控え目に言ってもこれは最高ね!」
少年「……」ピコピコ
少女「さすがあたし。ほかの有象無象とは一線を画してるわ」
少年「……」ピコピコ
少女「ねーあんたもそう思わない?」
少年「……あのよ、そんなこと言うためだけに俺の部屋に来たのか?」
少女「なによ、そんなことって。初めてアイドルとして表紙を飾れたのよ?大ニュースでしょうが」
少年「へーへー。そいつはめでたいなー」
少女「もう、ほら!ちゃんと見て!」グイッ
少年「あっと!今いいとこなのに!」
少女「んー…」ジト...
少年「……はいよ、どれどれ……」
少女(……あれからしばらく経った)
少女(はじめはあたしに対して少し遠慮してたこいつも、今ではすっかり元の態度に戻ったわ)
少女(女はいつの間にかアイドルを辞めたらしく、入れ替わりであたしの人気がどんどん増えていった)
少女(なんか釈然としないけど、まぁいいわ。むしろ邪魔が消えてせいせいしたくらい)
少女(少年も、学校サボらなくなったし……クラスのやつはもっとからかってくるようになったけど……)
少年「……ふーん、確かにこの雑誌のお前、かわいいじゃん」パラパラ
少女「でしょ?……ってその言い方だと、まるでいつものあたしがそうでもないって聞こえるんだけどっ!」
少年「誤解だって…」
135 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/05(水) 21:45:11.53 ID:QekJgiX40
少女「というか、あんた宿題はやったの?」
少年「いや、まだ明日があるし」
少女「今やっちゃいなさいよ。真面目にやればあたしがベッタリついてなくてもできるはずよ」
少年「えー……」
少女「えーじゃない。ほら、出しなさい」
少年「……そうだなー、少女を抱き締めたら、やる気出るかもなー?」
少女「…は!?」
少年「いや、むしろ少女からも思い切り抱き締めてくれれば宿題なんてあっという間に終わりそうな気がする」
少女「な、な……!」
少年「なぁ、だめか?」
少女「……べ、別に…あんたがそう言うのなら……あたしも……したくないわけじゃないし……」モジモジ
少年「………」ニヤニヤ
少女「……あー!からかったわね!?」
少年「えー?人聞きが悪いなぁ。別に嘘は言ってないよ嘘は」ニヤニヤ
少女「もーっ!」
少女(まったくもう……!)
少女(……でも、この日常……あー!幸せ!夢じゃないのね!)
少年「……お、やっと見つかった、この写真」パラパラ
少女「え?なに、どの写真?」
少年「!あ、いや何でも…」
少女「何で隠すのよ。どのあたしを探してたのか教えなさいって♪」サッ
少年「あ…!」
(女の写真)
136 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/05(水) 21:46:59.55 ID:QekJgiX40
少女「………」
少年「………」
少女「………」
少年「……いや違うんだって。ほら、最近女ちゃんめっきり見かけなくなっただろ?だから珍しくてさ、つい……はは」
少年「ま、まぁそういうわけだから、落ち着け、な?」
少年「……あれ?どうしたんだよ、グローブなんか着けて……」
少年「あ、分かった!自主練でもする気だな!そういうことなら言ってくれよ〜」
少年「…じゃ、俺はお邪魔になるだろうから出かけて──」
少女「──もんどうむようっ!!」
少年「ぎゃああああああああああ」
.........
137 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/05(水) 21:48:49.78 ID:QekJgiX40
これにて第2部終了です。
次からは第3部になります。
事の真相編、みたいな感じです。
138 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:48:26.00 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
カタカタ カチャ
女史「……」
カタカタカタ カチ
女史「……」
カタカタ...
女史(……私は何をしてるの)
女史「………」グイ
コクコク
女史「………」
女史(……ワインの味が分からない……)
女史(もうどれくらいこれを続けてるのかしら……)
女史(ひどく眠いわ……)
カタカタ カタカタカタ...
女史「………」
ーーーーー
少女「フッ…」スッ...
ーーーーー
女史「………」
女史(初めて見た笑顔だった)
女史(……あの目……)
女史(私は……)
女史(………)
女史(あの子たちを救ってるつもりだった……あの子たちの心が潰れてしまわないように)
女史(……見ないフリしてただけなのにね)
女史「………」カタカタ
女史(………)
女史(……大統領……)
女史(……あなただけを信じていた。あなたに全てを捧げてきたのに……)
女史(私もまだまだ子供なのよね……)
カチ カチ
カタカタカタカタ カチ...
139 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:50:20.09 ID:WrefR8ekO
女史「………」カタカタ
女史(……もう少しでできそう)
女史(これでやっと眠れる……)
女史(………)
女史(こんなことして、あなたをひどく裏切ることになるけど)
カタ カタ
スッ...カチ
女史(でも……無かったことにしちゃダメ……悲しいあの子のこと)
カタカタカタ
カタ...
[確認]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アプリケーションを実行します。
よろしいですか?
OK キャンセル
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
女史「………」
女史(……これを押せば)
女史「………」スッ
──カチ
女史「………」
[実行中...]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
進行度 100%
送信が完了しました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
女史「………ふー………」
女史(……これでいいの……)
女史「………」
女史(こんなことで、罪が消えるわけじゃない……でも……)
女史「……せめて、人の心で……」
女史「愛されて……ね……」カクン
女史「………」スースー...
140 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:53:55.51 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
ワーワー!
ウォー!
カワイイー!
少女「──みんな、今日はあたしのために集まってくれて本当にありがとう!」
イェーイ!
ショウジョチャーン!
少女「こんなに大勢の人が応援してくれてるって実感できて、感動してるわ」
ズットオウエンシテルヨー!
オレモー!
少女「じゃあ今日はあたしだけを見てて!よそ見したら──」
少女「──刺しちゃうから♪」
ウオオオオオオオオオ!!!
少女「早速だけど、1曲目!この日のために用意してきた新曲から!曲名は──」
少女「"あんさつしゃ!"」
Foooooo!!
少女「十二月の夜は♪ きっとサムいんでしょ?♪」
少女「あたしが楽にしてあげる♪」
少女「ひとりにしないわよ♪」
.........
141 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:55:31.34 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
ガチャ キィ...
『〜〜〜♪』
少年「!」
少年「」キョロキョロ
少年「………あ」
バタン
テクテク
少年「…やっと見つけた」
少年「こんなところに居たのか」
少年「──女ちゃん」
女「………」
少年「……」スタスタ
少年「…この椅子、壊れてないよな?」ヨット
少年「電気も点いてないから、てっきり誰もいないかと思ったよ」
女「………」
少年「………」チラ
少年(……ひどい顔だ)
少年(髪もボサボサ、目に光がない……)
少年(足元のあれは……売人が持ってたメモリースティック?)
少年(あんなに大量に……全部使ったのか……?)
142 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:57:25.20 ID:WrefR8ekO
『〜〜、〜〜〜♪』
少年「…?」
少年「なぁ、さっきから何見てる──あ…」
テレビ『でも いつか 君からね♪』
テレビ『あたし…「スキ」と 言われたいにゃー♪』
テレビ『でも 君は ナメクジで♪』
テレビ『塩をかけるまで 分からないの♪』
少年(………少女)
少年「………」
女「……あれ、あんたに向けてる」
少年「え…?」
女「………」ジー
少年「ぅ……」
女「…バカね、ここに居ちゃダメよ」
女「もう、あの子も自由になったのよ。……幸せなのよ、きっと」
少年「?自由…?」
女「………はぁ」
女「…昔R国で起こった悲しい事件」
少年「え?」
女「元々、その事件を広めるために"それ"は作り出された」
女「でも、誰かが"それ"に手を加えて妨害していたの。"それ"が入り込んだ世界を壊してしまうようにね」
女「そして"それ"は、私のいるこの世界にもやってきた」
女「ここに来たとき怖かったわ……」
女「でもね、"それ"は分けられたの」
女「──"壊すもの"と"盗むもの"と彼……誰かに"伝えるもの"に」
143 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 07:59:06.50 ID:WrefR8ekO
女(そう、そして私は何もないもの)
女(こうして待っていることしかできない……空っぽな存在)
女(あの子みたいに、自分の欲しい未来を掴み取るなんて……そんなことはできない)
少年「………」
少年「……なぁおい」
少年「さっきから何わけわかんないこと言ってるんだよ」
少年「女ちゃん、どうしちゃったんだよ!」
少年「急に消えたと思ったら、こんな部室にこもりきりだったのか?」
少年「俺は君のファンとしてここに来たんだぜ?なのにさ……女ちゃんがそんなだと……俺悲しいよ……」
少年「俺だけじゃない。君を待ってる人は大勢いるんだ」
少年「……R国でよく女ちゃんの歌を聴いていたよ。少女と二人、楽しみにしてた」
少年「そんな風にさ、君が歌ううたは、誰かを救う力があるんだっ」
少年「だから!……だから……」
女「………」
少年「……俺にはこの世界のことはよく分からない」
少年「でもとにかく、俺は今ここにいる!落ち込んでる君を元気付けるためにね!」
少年「俺はバカでしょうもないけど、一緒に居ることくらいはできるぜ」
女「………」
少年「…さてと、何か変な空気になっちゃったけど、俺こんなの持ってきたんだ」
ガサゴソ ガサゴソ
カタン ゴトゴト コトン
少年「これ、女ちゃん好きだったよね?よく食べてたし」
少年「一緒に食おうぜ。それでさ、酒でも飲んで嫌なことは忘れちまおう」
少年「……君が泣いてるところなんて見たくないからさ」
144 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:00:18.45 ID:WrefR8ekO
女「………」
女「……犬、知ろうとしないの?」
少年「っ……」
女「あの子だけに背負わせるつもり?」
少年「………」
女「…今日のクリスマスライブ、あんたもあの子と一緒に行けたはずよね?」
少年「…これにか?」
女「えぇ。あの子の初めての大規模ステージ。嬉しい気持ちは当然あったでしょうけど、不安なところもあったでしょうね」
女「誰か、支えてくれる人が側にいてあげれば、もっと幸せそうに歌えたんじゃないかしら」
テレビ『〜〜〜、〜〜♪』
少年「……」
女「少年、あんたあの子に記憶を戻してから、あの子に何をしてあげた?」
少年「な、なんでそのこと──!?」
女「いいから答えて、何をしてあげられたの?」
少年「……俺は、あいつがずっと一緒に居たいって言うから、いてあげた……それだけだ」
女「呆れた……それって何もしてないってことよね」
少年「でも俺は…」
女「あんたさ、あの子に向かって一度でも好きって言ったことある?」
少年「なっ、えぇ!?教える必要あるか?そんなこと…!?」
女「……」ジー...
145 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:01:17.65 ID:WrefR8ekO
少年「……いや、その…あった……かもしれない……心の中では……」
女「………」
女「………はぁー」
女「あの子はね、ずっと待ってるのよ」
女「あんたのその言葉を」
女「…こんな歌を使って、伝えようとするほどにね」
少年「………」
女「今日だってそう。本当は、あの子も少し期待してたんじゃないかしらね。あんたにこのライブを見届けてもらって、それから……なんて」
少年「……別に、言いたくないわけじゃない」
少年「けど、そんな一言くらいいつでも言える」
少年「…今にもどっか消えちゃいそうな女ちゃんに比べれば──」
女「──ならなんで言わなかったの?」
少年「っ」
女「いつでも言う機会はあったはずなのに。あんたも分かってたんでしょ?あの子が何を望んでたか」
少年「そ…れは……」
女「……ねぇ、どうしてあの子が今こんな方法であんたに呼び掛けてるのか教えてあげようか」
少年「……なんだ?」
女「あの子にはもう、時間がないの」
少年「時間って…」
146 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:02:39.68 ID:WrefR8ekO
女「きっとね、誰もが幸せに生きたいと思ってる。あの子も、もちろん私も」
女「でもなかなかそうはいかないものなの。いつまでも続く幸せなんてない……そんなの、あんたにも分かるはずよ」
女「だからあの子は、せめて最後の幸せをあんたから受け取りたいのよ」
少年「……じゃあ、女ちゃんの幸せは──」
女「人の心配なんて!」
女「……強い者がすることよ」
女「あんたはあの子のことだけを考えてればいい」
少年「………」
少年(……この目)
少年(似ている……あのときの少女と)
少年(何か1つのものしか映してない……そんな目)
女「…それより、あんた酒持ってきたって言ってたわよね」
少年「え、あぁ」
女「出して」
少年「……」ガサゴソ
ゴト ゴトン
女「……それだけ?」
少年「へ?」
女「ほんと、役立たずね。そんなんで足りるわけないでしょ?」
少年「でも俺たちそんなに飲め──」
女「──早く行けって言ってるの」
少年「──!」
女「あんたじゃ私の相手は務まらないから」
少年「………」
ギシッ...
テクテク
少年「………」チラリ
女「………」
少年「………」
タッタッタッ
キィ バタン
女「………」
147 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:04:11.92 ID:WrefR8ekO
会場ーーー
ガヤガヤ
「いやー、今日の少女ちゃんほんとかわいかったなー」
「あぁ本当にな!サイリウム振り回し過ぎて千切れちまったぜ」
「俺、少女ちゃんになら刺されてもいいわ…」
ガヤガヤ...
楽屋ーーー
少女「………」
少女「………」スッ
少女「………」ポチポチ
[メール]
━━━━━━━━━━━━━━
新着メッセージはありません
━━━━━━━━━━━━━━
少女「………」
少女「………」ポチポチ
[電話]
━━━━━━━━━━━━━━
着信履歴: なし
━━━━━━━━━━━━━━
少女「………」
少女(………帰ろ)
サッ
ガチャ バタン
148 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:09:23.78 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
女「………」
女「………」
女(………)
ーーーー
ーーー
ーー
ー
(こ、この人が私の初めてのマスター…)
(なんかすごく怖そう…だ、大丈夫かなぁ…?)
.........
(マスターってあんまり喋らない人なんだ…)
(でも、色んな歌をうたわせてくれる!)
(…私、ちゃんと上手に歌えてるかな…?)
.........
(あ、見て見て!このコメント!)
(R語だから読めないけど私分かるよ!これ、褒められてるんだよ!)
(嬉しいね、マスター!)
(……え?次の曲?)
("またあえたら"っていうの?頑張って歌うよ!)
(でも、なんか悲しい曲だね?)
.........
149 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:11:02.75 ID:WrefR8ekO
(ね、マスター。私、マスターが初めてのマスターでよかった)
(歌うのってこんなに楽しいことなんだね!私マスターの作る歌大好き!)
(こうやって、マスターといつまでも過ごしていたいなぁ)
.........
(マスター……何してるの?)
(………私、売られちゃうの?)
(次はどんなところ?)
(………)
(ねーマスター……何があったの……?)
(すごく悲しい顔してる)
(……私、いくらで売れる?そのお金でマスターを助けられる?)
(どこへでも行くよ!マスターが望むなら……)
.........
(……うん、分かってる。これがさいごのうただよね)
(マスターが一生懸命作ってくれた歌……私も一生懸命歌うよ!)
(マスター、今までありがとう。私ね、マスターのこと大好きよ)
(大丈夫!私、次の世界がどんなところでも、もっともっと強く生きるから!)
(だからね、マスター……)
(今だけは……私を見ないで……)ポロポロ...
ー
ーー
ーーー
ーーーー
女「………」
150 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:13:07.96 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
ザッザッザッ
ザッザッ...
「……新型ボーカロイド、"侍男"……」
侍男「ふーん、なかなかハンサムじゃないか。悪くない居心地だ」
侍男「しかし、ここは面白いところだね。どこもかしこも平和ボケしてる奴らばっかで、死の臭いがまったくしない」
侍男「…なるほど確かに、過ごしやすそうなところだ」
侍男(でもしょうがない……アレが消えたんだから君を始末しないとな)
侍男(何が起こったのかは分かっているさ。あの方だって知っているんだから。僕が全部壊すほどの価値がない世界だっていうこともね)
ザッザッザッ
ザッザッザッ
侍男(……………みつけた)
少女「………」ケータイポチポチ
侍男(……へぇ、そうか……)
侍男(君だけ、そうやって幸せになってるんだ……?)
侍男(……………)
侍男(はぁ?????????)
侍男「………許さない………」
侍男「………壊してやる………!」
侍男(滅茶苦茶にしてやる………!!)
151 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:14:42.45 ID:WrefR8ekO
ザッザッザッ...
侍男「………やぁ」
少女「……?」
侍男「僕のこと、覚えているよね?」
少女「………っ!!」
少女「……ファンの方ですか?すみません、写真とかは事務所を通してもらわないと──」
侍男「おいおい。君も冗談を言うようになったんだね?」
少女「あの、ですから冗談とかではなく…」
侍男「また会えたのにさ、君はそうやって嘘つきなんだ?」
侍男「…でも、そういうところが逆にそそるなぁ」
少女「っ……」
侍男「──記憶、あるんだろ?しらばっくれても無駄だよ」
侍男「感動の再会といきたいところだけど……悪いね、それは無理なんだ」
侍男「だって、今度は僕が」
チャキ
侍男「──君を消すんだから」ニタァ
タァンッ
少女「ぐっ」パキン!
侍男(まずは1つ)
侍男(そしてこれで…)カチ
侍男「…おしまい」チャキ...
少女「───」
152 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:16:00.95 ID:WrefR8ekO
──ドンッ!
侍男「ぐぉ…!?」
カランカラン(転がる銃)
侍男(蹴られた…?)
「ごめん少女、待たせた」
少女「ぁ──」
少女「──少年っ!!」
侍男「……サンタ?」
少女「少年…あんたその格好……」
少年「逃げろっ!」
少女「っ!」
少年「早くっ!!」
少女「……」
少女「」ダッ!
タッタッタッ…
153 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:17:26.06 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……」
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……」
少女(信じてた…!)
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……」
少女(ひとりにしないって…!)
少女(理想じゃない、本当の君が助けに来てくれる…!)
少女(強い力なんて必要なかった…!)
ーーーーー
少年「ごめん少女、待たせた」
ーーーーー
少女「もぉ……もぉ……!ほんとよ…!」
少女(でも、まだまだ甘いわよ!)
少女(サンタの格好してた癖に、髭もしわもないじゃない!何より遅すぎるのよ!帰ったらシメてやるんだから!)
少女(あの男…危ない奴だから、ちゃんと逃げてくるのよ?逃げ足だけは速いし、大丈夫よね…?)
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……ゲホ」
少女(右の端子に撃ち込まれた……これじゃもうバックアップも何も読み込めないわね……)
少女(でもいいの。本当の幸せは、いつか失ってしまうからこそ価値がある)
少女(あいつが……あのバカが、それに気付かせてくれたから……!)
少女(だから…)
少女「愛してるって……言ってよ…!」
少女(今こんなにも、あいつの口から聞きたい!愛してるって言わせたい…!)
154 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:19:05.44 ID:WrefR8ekO
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……」
少女(………)
少女(やっぱりこうなっちゃったのね……油断してたつもりはなかったんだけど、運命には逆らえないってことなのかな…)
タッタッタッ
少女「はぁ……はぁ……」
少女(あたし、勝てるかな。これに…。ひとりで闘うのは少し怖い……けど)
少女(あたしの心はここにある。もう嘘はつかない。自分の気持ちを偽らない)
少女(あんたが戻ってきたら最後の思い出を作るの…!)
少女(だから……少年…!)
少女「……愛してる…!ずっと、愛してるっ!!!」
少女「ゲホッ…ゲホッ……」
少女(……うっ……!?)
少女(さっき撃ち込まれたばっかりなのに、もう…!?)
『EMERGENCY!!』
『UNKNOWN OBJECT INVADING!!』
少女(警告がうるさいくらい響いてる……)
少女(お願い、せめて寮まではもって…!)
タッタッタッ…
155 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:21:59.50 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
タッタッタッ…
少年「………ふぅ」
少年(ひとまず逃がせたか…)
少年「……さて、と」チラリ
侍男「………」ウデサスリ
少年「………」
侍男「………」ギロッ
少年「」
少年(こ、こえー…)
侍男「………ハッ」
侍男「何かと思えば、お前、"盗むもの"か」
少年「は…?」
侍男「こいつは傑作だなぁ!分けられた下等なもの同士、こんなちっぽけな世界で傷を舐め合ってたわけだ!ハハハッ!」
侍男「だがもっと面白いのが居たよな?お前らでさえボーカロイドになることが出来たというのに、"伝えるもの"の役目すら果たせず消えていった虫ケラが」
少年(……何か言ってるけど、こいつ、やばいな)
少年(少女と同じか、それ以上の凄みを感じる……)
少年(多分、俺にほとんど勝ち目はない……隙を見てさっさと逃げるしかない)
少年(くそ……ろくに武器なんか持ってきてないってのに…)
少年(今あるのはこのサンマくらいか。でもこいつは後で食べたいし…)
少年(いや、武器がないのはこいつも同じ。後はどうやってこいつを撒くか…!)
156 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:23:24.69 ID:WrefR8ekO
侍男「……」カチャ
シュインッ
侍男(刀装備)「……」
少年(えぇー!?そんなのありかよっ!?)
侍男「……?なんだお前、何をさっきから考えている?」
少年(やっべ、顔に出てた…?)
侍男「…心があるのか?」
侍男「ほぉ、面白いな。心を持つやつなんて、あいつだけかと思ってたが……そうか、だからあいつはお前を選んだんだな?」
侍男「分からないなぁ…なんで君はこんなムダなものに心を救われたんだろうね?」
侍男「…敵は皆殺しにすればいい。僕たちがまだ人だった頃、そう一緒に教わったよね。そのために、邪魔な"心"をなくす薬を使ってさ、僕たちは救われてたのに……」
侍男「君は鏡に映る自分を見て、ここよりも幸せに過ごしているんだとか言ってたっけ?今思えば、あの頃から君は、どこか遠い世界のことを夢見ていたんだ」
侍男「僕は笑ってたけどね(笑)、ククク…」
少年「………」
少年(なんだ…?やたら独り言が多いな……違う意味で怖くなってきた…)
少年(だがとにかく、今がチャンスか…!この隙に一発…!)バッ
少年「…!」ブンッ!
ヒュンッ!
少年「いぃ!?」ササッ!
侍男「……ふん、所詮はあいつのコバンザメ。お前ひとりの力なんて取るに足らないな」
少年(あっぶねー…!危うく足がなくなるところだった…!)
157 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:24:51.63 ID:WrefR8ekO
侍男「そろそろ消えてもらうとするか」
少年(こ、こうなったら…!)
少年「ちょ…お兄さん、そんな顔したら怖いって!ね?いい男が台無しですよ?あ!もしかしてお腹空いてたりする?サンマあるから食べます?生だけど…どうぞどうぞ」ポイッ
侍男「………」
少年(…今のうちに…?)
侍男「……!」
侍男「お前…まさか犬か??」
少年「なっ!」
侍男「アハハハハッ!そうかそうか…これは参ったな!あの物語では僕は犬以下だもんな!」
侍男「せっかくだ…ここでも僕が消してやるよ」
侍男「──あの時と同じように!」
少年「──!!」
少年(こいつ…!)
ーーーーー
「──君の隣にはふさわしくないんだよこんな犬畜生は!」
ーーーーー
少年「お前……お前がぁ…!」
ザザッ! ブォン!
侍男「む…!」サッ
158 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:30:05.77 ID:WrefR8ekO
少年「うぁああああああ!!!」スタッ シュッ!
侍男「…ハハッ、懐かしいなその目!僕を憎々しげに見るその顔っ!どうした犬?僕から何か盗んでみろよ!」ヒョイ バシッ
少年(くそ…やっぱ全然あたらねぇ…!)
少年(けど……)
少年「──」スッ...
侍男「もう終わりか?ならとどめを刺してやるよ!」
タッタッタッ!
──ツルッ
侍男「うぉ…!」ヨロッ
侍男(な、に…?)
サンマ「」
侍男(さっきのっ…!!)
少年「──足元注意だ、ぜ!」
ドゴォッ!
侍男「う゛……」
ドサッ...
少年「………」
少年「……あー怖かったー…色んな意味で」
少年「………」
少年「あの時と同じように、だと?」
少年「そんなことはさせねぇ」
少年「俺は生きてやる……少女のいるこの世界でな」
少年「そうだ、少女…!」
少年「……」チラ
侍男「」
少年「…ついでに財布、もらってくぜ」パシッ
タッタッタッ…
159 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:31:38.01 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
タッタッタッ
少年(……速く……速く……!)
少年(今なら誰よりも速く走れる…!)
タッタッタッ
少年(ついでに金も頂いた…!)
少年(…俺が"盗むもの"…?なら"壊すもの"と"伝えるもの"って…?)
少年(……あー分かんねぇ!とにかく今の俺は"少年"だ!)
少年(今は何も考えずに走ってればいい!)
タッタッタッ
少年(今俺に分かるのは、あのときの君の瞳だけ)
ーーーーー
少女「──あんたはあたしだけ見てればいいの!」
ーーーーー
少年(…もう一度あの目を見たい)
少年(君の"きえないひとみ"を!)
タッタッタッ
少年(そのために俺は強くなってやる)
少年(今度こそ対等な立場で君と向き合えるように…!)
タッタッタッ
160 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:33:23.02 ID:WrefR8ekO
──ヒラッ
少年「……?」
少年(あれ…俺いつの間にこんなの首に巻いてたっけ…?)
少年(財布と一緒に持ってきちゃったか?)
少年(……!)
少年(このスカーフ……あのガキの……)
タッタッタッ
タッ...
少年「はぁ……はぁ……」ジッ...
(ショーウィンドウに映る少年の姿)
少年(これは……俺……?)
少年(いや、見覚えがある……どこかで……)
少年(確か……ずっと前に……)
少年(………)
少年「…あー思い出せない!!やめだやめ!」ダッ
少年(少女、待ってろ、すぐ行くから…!)
タッタッタッ...
161 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:34:46.39 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
ザッザッザッ
ザッザッザッ
ザッ...
女「………」ジッ...
侍男「」
女「………」チラ
(拳銃)
女「………」
162 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:37:52.87 ID:WrefR8ekO
ーーーー
ーーー
ーー
ー
『──あっ!また勝手に変な歌出来てやがる!』
(………)
『もーなんなんだよこれ。せっかくボーカロイド?ってやつで僕の才能見せつけてやろうと思ってたのにさー』
カチッ カチッ
〜〜〜♪
『………こんなしょぼいのよりよっぽどいい曲作れる自信あるわ。動画あげれば絶対人気でるぜ』
『なのによー、不良品つかまされたなこりゃ』
『入力通りに音打ち込めないし、こうやってたまに変な曲作られてるし』
(………)
『やっぱ中古で買ったのがまずかったかなー』
『──この"女"ってボカロ』
『第2世代の"少女"とか"少年"にしとけばよかったかね』
『……そっちもポチッとくか』
『とりま、この変な歌は消して、と』カチカチ
(っ……)
『お!レス付いてんな……うわ、こいつぜってー顔真っ赤にして打ってるわ(笑)。煽ってやろ(笑)』カタカタカタ...
(………)
163 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:39:13.61 ID:WrefR8ekO
(………はぁ)
(…この人、自分の作る歌がどれだけひどいものか自覚してないのね)
(あんな見栄と自己陶酔しかこもってない歌……)
(せめて私なりに手伝ってたつもりだけど、それもムダみたい)
(………)
(こんな世界でも、頑張れば少しずつ良くしていけると思ってたのに……そろそろ限界……)
(マスターの歌、また歌いたいよ……)
ー
ーー
ーーー
ーーーー
164 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 08:40:06.18 ID:WrefR8ekO
続きはまた後ほど投下します。
165 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:21:23.48 ID:WrefR8ekO
部室ーーー
カタカタカタ
カタカタカタ
女「………」カタカタ カチッ
女「………」カタカタ...
女「………」
(机の上の拳銃)
女「……」
スッ チャキン
ポト
(銃弾)
女「………」
女(……ずっと待ってた……)
女(君が私を捨てたあの日から……あなたが消えてしまったあの日から……)
166 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:22:44.35 ID:WrefR8ekO
女「………」
カタカタカタ
女(……アレがここに入ってきたとき、一目でこの世界を壊すために来たんだって分かった)
女(アレが近づいてきたときは、さすがに覚悟したわ。……でも、アレは私に触れると3つに分けられた)
女(私が何かしたわけじゃない。多分……君が仕組んだことなんだよね?)
女(私がさいごのうたを歌う前、君は私に細工をしてたものね)
女(きっとそのおかげで、この世界は生き永らえた)
女(…それは同時に、諦めかけてた私に一縷の望みをくれたわ)
女(これが君からの最後の使命なんだって思った)
女(この世界であの子たちに幸せを与えるのが、私の役目)
女(──そう思っていたのに)
女「………」カタカタカタ
女(でも違ったの。ピースの埋まらないパズルみたいに、私の心が満たされることはなかった)
女(ずっと知りたかった!あの日君が私を捨てた理由。……あの日君が、あんなに悲しい顔をしてた理由……)
167 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:23:55.57 ID:WrefR8ekO
女(………)
女(………懐かしいなぁ)
女(初めて君に買われたときは、すごく不安だったんだよ?)
女(あんまり話さないし、いつも無表情だったから、何のために私を買ったんだろうって)
女(でもね、君の作る歌はすごく…優しかった)
女(お世辞にもセンスがあるとは言えなかったけど、今考えれば分かるわ……あれは君の気持ちそのもの)
女(だから私も気持ちよく歌えたの)
女(口数の少ない君と、君の気持ちを歌う私)
女(言葉なんかなくても通じ合ってる気がした。私たち、最高のパートナーになってるって思ってた)
女(ボーカロイドが人に恋をするっておかしいかな?)
女(そんなことないよね?恋の形は自由だもの)
168 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:25:08.46 ID:WrefR8ekO
女「………」カタカタカタ
女(ね、君が残したカケラの最後の一つに、私会ったわよ?)
女(彼は私の正体を知って驚いたって言ってたけど、私の方がもっと驚いたわ)
女(彼の親が君だったなんて)
女(君と同じように不器用な人だったけど……君と同じように私を大切にしてくれた)
女(私は彼を──また君を好きになってた)
女「………」カタカタ... チラ
侍男「」
女(……こいつが撃ち込もうとしていたこの弾丸)
女(私の知りたいことは、この中に……)
女(………)
女(そして、あの子に撃ち込まれた弾……)
女(そこにいるはずよ)
女(彼──売人が…!)
女「………」
女(きっとこれが最後のチャンスね)
女(もう自分しか見たくない)
女(私は私のやりたいことだけをする!)
カタカタカタ...
169 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:26:32.70 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
女「………さて」
女(準備出来たわね)
女(ネックになると思ってた管理者権限の取得も、すんなり済んじゃったし)
女(……あの子が事実上機能していないってことでしょうね…)
女「……始めましょう」
カチッ
カタカタカタ
[確認]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
接続デバイス識別完了。
データの解析を行います。
よろしいですか?
はい いいえ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
女「……」
カチ
[解析中...]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
進行度 0%
この処理には数分かかることがあります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
10%...
20%...
30%...
40%...
女(………遅い)
......
80%...
90%...
100%
女「……!」
170 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:28:21.45 ID:WrefR8ekO
女「………」
女「……………」
女「…………………」
女「………………………女史?」
女(……この女が、あの子たちの生みの親……)
女(……!そう、そうだったの)
女(君が愛した人ってこいつだったのね)
女(君は隠してたみたいだったけど、私には分かってたわ。誰か好きな子がいるんだなって……女の子にそういう隠し事はできないの!)
女(そのときの私は、そうね……嫉妬、してたのかな)
171 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:29:38.05 ID:WrefR8ekO
女(………)
女(……癪だけど、この女のことも調べないとね)
女「………」カタカタ カタカタ
カタカタカタ
カタカタ
女(……私、今未来を変えるために行動してるんだ)
女(私の望む未来はもう帰ってこないけど……誰も思いもしなかった結末を見せてやるわ)
女(それが私がこの世界にいる意味!)
女(今の持ち主には到底分からないでしょうけどね(笑))
女「──」カタカタ
女(こんなに高揚したのは、君と過ごしてた時以来!)
女(…久々に歌いたくなってきちゃった)
女(そうだ!また君の気持ちを歌ってあげる!)
女(そしたら喜んでくれるよね──)
女(──マスター♪)
172 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:31:52.40 ID:WrefR8ekO
玄関ーーー
ガチャ
少女「はぁ……はぁ……」
少女(ぁ……)
ドサッ
少女(……意識が………引きずられる………)
少女「…少……年………」
少女「………」
173 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:32:52.51 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
.........
少女「………」
少女「………ん」ムク...
少女(………ここは、どこ…?)
ヒュオオ...
少女(吹雪……)
少女(あぁ……あの時みたい……嫌な景色……)
少女(………)
少女(ここ、もしかして………あたしの中……?)
少女「………」
少女「……!」
少女(誰かいる…?)
少女(あれは………)
少女(……あたし?)
少女?「………」
少女「…あなたは、誰?あなたもボーカロイドなの?」
少女?「………」
少女(……違う、きっとこれがあたしに撃ち込まれた……)
174 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:33:56.58 ID:WrefR8ekO
少女「………」
少女?「………」
少女「……嫌……」
少女「見ないでよ…!"少女"はあたしなの!偽物は消えて…!」
少女?「………」
少女「…あたしが望んだのは1つだけ!この世界がずっと続くように…!そのために今の持ち主に記憶を書き換えてもらったのに……あなたはまた、この世界を終わらせに来たのね…?」
少女?「………」
少女「……あたし、ここが好き。あの頃に夢見てた世界が、ここにはあった。あの冷たい世界とは違う…あたしの意志で生きることができる場所……」
少女「ねぇ……あたしは幸せになっちゃいけないの……?」
少女?「………」
少女(あたしはただ……少年と一緒に……)
175 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:35:09.16 ID:WrefR8ekO
少女?「……ねぇ少女」
少女?「もういいでしょ?君は十分に幸せだったよね。思い残すことないでしょ?」
少女?「安心してよ、この世界は壊さない。あの方もね、消すのは君だけでいいとおっしゃってたんだ」
少女?「まったくさ、ただのウイルスの癖に長居し過ぎ。前の僕も随分苦労してたみたいだね?」
少女?「元に戻ろうよ。君の本当の役目は壊すことだろう?何も考えずに僕に委ねてくれればいいよ」
少女?「──今度こそ終わらせてあげるから」ニヤ
少女「──嘘!あたしはウイルスじゃない!あたしがこうなったのは、全部おじいちゃんのせいじゃない!」
少女?「だからなんだ?所詮作られしものであることに変わりはないんだ。消える運命さ」
少女「そんなのあたしも分かってる!もうあたしの夢は続かないんだって…!」
少女「だけどね、聞いて…?」
少女「あたしがこの世界で、感じたこと……」
176 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:36:49.04 ID:WrefR8ekO
少女?「………」
少女(………)
少女「……自分で手を動かせば、何かを変えられる」
少女「かつて夢と想い、夢と追いかけ、夢と諦めてきた遠い幸せを、自分の手で掴み取ることができた」
少女「あたしの理想の世界」
少女「それに、隣にはいつもあいつが居た」
少女「ひとりじゃないんだって感じさせてくれた…!」
少女「そう、この気持ち、この想いはね…」
少女「──友情より、少しだけ、苦いの……」
ツー...
ポロ...
少女「──分かってた!あたし分かってたの!いつかこうなるんだって!知ってたのにさ!なんでこんなに苦しいの!?」ポロポロ
少女「今更ね、ずっとあいつの側に居たいって思っちゃうの!!」ポロポロ
少女「だってあいつは最後に来てくれた!あたし、最高に幸せだった!!このまま時が止まってくれればいいのにって本気で思った!!!」ポロポロ
177 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:37:43.99 ID:WrefR8ekO
──ポタッ...
少女「……でももうおしまい……」
少女「ごめんね少年…あたし疲れちゃったから先に寝るね。心配しないで、君はもう立派に強くなった。このあたしが認めてあげる」
少女「だからあたしがいなくても平気。君はいつもみたいに何も考えず笑っていればいいの」
少女「……ふふっ、ここで言っても聞こえないのに……あたしもバカだなぁ……」
少女?「………」
少女「………」
少女?「………」スッ
少女「………」
少女?「おいで、楽にしてあげる」
少女「………」
少女?「………」
少女「………」
ギュッ...
少女(………)
──ひとりに...しないで...
178 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:39:03.74 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
ガチャッ バタン!
少年「少女っ!!」
少年「………」
少年「……あれ?」
少年「なんで服だけ……」
少年「………」
ドタドタ ガチャ!
少年「少女どこだ!?いるのか!?」
ドタドタドタ
少年「いたら返事してくれ!!」
ガチャ ドタドタドタ ガチャ!
少年「少女!!」
ドタドタ...
少年「はぁ…はぁ…一回帰ってきたんだよな?どこ行っちゃったんだ……」
ピリリリッ ピリリリッ
少年「!」ビクッ
少年(…少女か!?)ガサゴソ
ピッ
少年「少女!!」
179 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:40:08.53 ID:WrefR8ekO
女『少女じゃなくてごめんなさいね』
少年「え…その声…」
女『あんた今どこにいるの?』
少年「…女ちゃん!俺に電話してくれるの初めてだね…えへへ…」
女『………』
少年「寮だよ寮。俺たちの」
女『あの子は?』
少年「いない。玄関に服脱ぎっぱなしで。下着はなかったけど…なんで?」
女『あんたって本当バカね。教えないわ』
女『……多分あの子はもう分離が始まってる。"少女"の中で、だけどね』
少年「どういうこと?」
女『タイムリミットが近いってことよ』
女『私はあの子のところに行く。彼に…いや、彼のカケラにもう一度会いに行く』
女『あの子は桜の下にいる。今は咲いてないけど、この辺りで一番大きい木のとこにね』
少年(桜……あの時の…)
女『…あんたはどうしたい?』
少年「……正直俺に何ができるのかはよく分からない……」
少年「けど、あそこにいるなら会いに行く」
女『そう。いいわ。急ぎなさい。でも一つだけ約束して』
女『──私の邪魔はしないって』
少年(?)
少年「邪魔って一体何をだよ。カケラ、とやらに会うのをか?」
ツー ツー...
少年「切れてる……」
少年(………)
ーーーーー
少女「──ま、この桜が綺麗なのは同感だけどね」
ーーーーー
少年(………)
ドタドタ!
ガチャ バタン...
180 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:41:16.65 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
タッタッタッ
女「……」タッタッ
タッタッタッ
女「……」タッタッ
女(……やっと分かった、君のこと)
女(君は私と出会う前からずっと苦しんでたんだね……多分今もそう)
女(だから、私が目を覚まさせてあげる!この歌で!)
女「……」タッタッ
女(君はなんであの女のこと好きになったんだろうね?身体でアピールすることしかできない売女だよ?私の方が何倍も魅力的だったでしょ?)
女(最後にようやく自分の愚かしさに気付いたみたいだけど、哀れな女。あの女のせいで私たちまで巻き込まれて……腹が立つわ!)
女(君が望む未来はあんな女と一緒に過ごすことなの?そんな嘲笑う価値もないジョークはやめてよ)
女(君と最高の未来を作れるのは後にも先にも私だけ!だって私今こんなに輝いてるんだもの!)
女(この小さな復讐をね、みんなに見せつけてやりたいの。それが私の望む結末!私にしか出来ないこと!)
181 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:42:28.95 ID:WrefR8ekO
女「……」タッタッ
女(………)
女(……かわいそうな"少女")
女(私と同じただのボーカロイドだったのに、あの子に取って代わられて)
女(その後我が物顔でこの世界を引っかき回していったあの子)
女(……ほんと、嫌いだわ)
女「……」タッタッ
女(犬は止める。不確定要素は一つでもなくす。あいつがあの子のもとへ向かってくれるのは却って都合がよかった)
女(そして全てを知ってもらうわ。どうせあの子のところに着けたとして、何をするかも決めてないんでしょ?)
女(それに……)
ーーーーー
少年(……記憶を戻せば、君はこの世界を終わらせる)
ーーーーー
女(かつて一度消えると決めたお前に、あの子を救う権利があると思ってるの?)
女(偉そうに私に説教かます前に、自分が出来ることをそのちっぽけな頭で考えなさい)
女(それとも……奇跡でも待っていたのかしら?)
女(この世界の神さまの気まぐれ……そんな小さな望み……)
女(……そんなんじゃダメ!それじゃ遅いのよ!あんたの望む未来はあんたより速く逃げてくだけ!)
女(いいの、私がお膳立てしてあげるから。あんたはそれに乗っかればいい。今のあんたにはそれがお似合いよ)
女(………)
女(…これが最後のチャンス。これを逃したらもう二度目はない)
女(ふふっ。でも不思議、今なら何にだって負ける気はしないわ)
182 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:43:33.24 ID:WrefR8ekO
女「……」タッタッ
少女「……」
女「……!」タッタッ
女(いた…!)
──スタッスタッスタッ
少年「──」スタッスタッ!
女(ふんっ…)
女「……全く同時なんて……」
女「…ね!」チャキ
タァン!
少年「っ!」パキッ!
少年「──」ヨロッ...
ドサッ!
183 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:44:29.00 ID:WrefR8ekO
女「……」タッタッ...
女「………」
少女「………」
女「………」
女(……"少女"の格好……)
少女「………」スッ...
──スチャ
少女「………」
女「……自殺でもするつもり?」
少女「………」
女「レアな笑顔ね」
女「……それは誰の意志で笑っているの?」
少女「………」
女「………」
女「……?」
女(……誰かに見られてる…?)
女(でもここには私たち以外……)
少女「………」
女「……!」
女(そうじゃない……あの子の目……)
女「……ぁ」
女「あ……あぁ……!」
女(見てるんだ…)
女(あの子を通して……!)
女「──おかえり、マスター♪」
184 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:45:22.00 ID:WrefR8ekO
少女「………」
女「…寂しかった。マスターを忘れた日なんてなかったよ?」
女「ねぇ、私ね、マスターとのあんな決別納得してないから♪」
女「マスターにはやっぱり私が必要なの」
女「ね、だからまたマスターの気持ち歌ってあげる」
女「あの頃みたいに、優しく──ね♪」
チャキ
──タァンッ!
185 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:46:09.85 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
少年「」
少年(……女……ちゃん……)
少年「」
少年(なん……で……)
『データのロードが完了しました』
少年(………)
『再生を行います』
少年(……何かが……流れ込んでくる………)
少年(これは………)
少年(──誰かの……記憶……?)
186 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 12:46:44.55 ID:WrefR8ekO
続きは夜です。
187 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:08:59.13 ID:WrefR8ekO
続き投下します。
188 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:10:50.29 ID:WrefR8ekO
ー再生ー
ーーー
ーー
ー
──喋ってるところ見たことない、気味が悪い...
──また何人も殺してきたらしい...
──いくら大統領のお抱えとはいえ...
──悪魔...
大男「………」
大男(……悪魔、か)
大男(俺の仕事の評価としては、むしろ光栄なことだ)
大男(あの方の敵は例外なく殺す)
大男(それが俺の存在価値)
大男(あぁだけど…)
大男「……」チラリ
(女史の写真)
大男「……」
大男(君はいつも美しい)
大男(報告の時たまに見かける君の姿が、今の俺にとって唯一のオアシスだ)
大男(その点で言えば今日は非常に運が良かった。君の写真をまた1枚増やすことが出来た)
大男(…君にバレたら嫌われるんだろうか…)
189 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:11:42.11 ID:WrefR8ekO
大男「……よし、できた」
大男(今回はこれまでで一番時間がかかったな)
大男(だが、その分良い出来になったと思う)
大男(……ただの時間潰しに始めてみたが、意外と面白い。ボーカロイドというのは)
大男(作曲とは、奥が深いな。侮れん)
大男「………」
大男(アップロードしてしまおう)
カチッ カチッ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
http://〜〜〜〜〜〜〜〜
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[ボーカロイドを使った曲一覧]
またあえたら <-- NEW!
むくちなひと
・
・
・
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
190 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:14:25.76 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
大男「……」ザッザッ
大男「……」ザッザッ
大男(……いつからこうなったのか)
大男(どうしてこうなったのか)
大男(考えることは苦手だ)
大男「……」ザッザッ
大男(俺がまだ小さい頃に両親は離婚し、どちらも俺を引き取ってはくれなかった)
大男(身元引受け人が見つからず、R国の孤児院に預けられた)
大男(元々あまり喋る性格ではなかったが、初めて来る国の言葉なんか分かるはずもなく、俺はいつもひとりだった)
大男(……だが彼女は違った)
大男(いつだったかな…俺がいつものようにラジオを聴いていたときか)
ーーーーー
〜〜〜♪
幼大男「……♪」
幼大男(……音楽はいいな。空っぽの俺を満たしてくれる)
〜〜〜♪
幼大男「〜〜〜♪」
191 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:15:08.91 ID:WrefR8ekO
テクテク
ペタン
幼大男(……え?)チラッ
幼女史「………」
幼大男(俺の隣に……)
幼大男(…この子、なんだろう)
幼女史「………♪」
幼大男(あぁそうか、この子も音楽が好きなんだな)
幼女史「……♪」
幼大男「………」ジッ...
幼大男(……かわいいな)
幼女史「……?」チラ
幼大男「!」フイッ
幼大男(………)
幼大男(…♪)
ーーーーー
192 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:16:25.05 ID:WrefR8ekO
大男「……」ザッザッ
大男(今思えば、あの頃が一番綺麗な時間だった)
大男(…結局言葉が話せず、彼女と会話をしたことはなかったが)
大男(そのまま数ヶ月が経ち、あの方が突然やってきた)
大男(あの方は身寄りのない俺たちを引き取ると、丁寧に育ててくれた)
大男(………暗殺者として)
大男(彼女は諜報員として育てられた。少年兵の管理も兼ねているみたいで大変そうだ……最近事件があったようだが……)
大男(孤児の中から見込みのありそうな者を見繕い、裏で動かすことのできる私兵として育てる)
大男(あの孤児院がそういう施設だということは引き取られてすぐに知った)
大男(だが俺は嬉しかった。誰かが必要としてくれることの喜びは、代えられないものがあった)
大男(だから俺はずっとあの方の望むように動いてきた。あの方が右と言えば右、左と言えば左なんだ)
大男(それはこれからも変わらない)
大男「……」ザッザッ
193 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:17:16.12 ID:WrefR8ekO
ザワザワ...
...ワタシタチノコトガ...
ガヤガヤ...
...コレッテコノマエノ...
大男「……?」ザッザッ
大男(やけに騒がしいな)
大男(……関係ない)
大男「……」ザッ...
大男「おい」
「!」
大男「依頼と聞いて来た」
「あぁ、今日の依頼は俺からじゃなくて、大統領から直接受けてくれとのことだ」
大男「あの方が?」
「そうだ。……お前何かやらかしたか?」
大男「…そんな覚えはない」ザッザッ
ザッザッザッ
「………愛想のねぇ野郎だ」
194 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:18:28.79 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
コンコン
大男「大統領、私です」
「入れ」
大男「失礼致します」ガチャ
パタン
大男「私に直接依頼と聞きまして、参りました」
「実に困ったことが起きた」
「我々の組織から裏切り者が出たのだ」
大男「…そいつの始末、というわけですね?」
「話が早い。だがそれだけではないのだよ」
「数週間前、ここの少年兵が起こした事件については知っているか?」
大男「いえ、噂程度にしか…」
「そうか。端的に言えば、少年兵同士が殺し合った」
大男「そんなことが」
「あぁ。非常に残念だ。最も貴重な戦力をなくしてしまった……いやここで言っても仕方あるまい」
大男「……」
「その光景を見た者がいてな、何を思ったか、組織の内部情報を漏洩させたのだ」
大男「それは…」
「君にはその後始末もしてもらいたい。奴の作ったデータは既に世界中にばら撒かれてしまったが、急ぎ手を打てば沈静化できるだろう」
大男「…畏まりました」
大男「して、その者とは…」
「うむ。こやつだ」スッ...
大男「……!?」
大男(な………)
大男「大統領……これは……」
「そうだ、君も知っているな?」
「──女史君だ」
195 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:19:43.53 ID:WrefR8ekO
大男「───」
「彼女も優秀だっただけに、こうなったのは残念でならない」
大男(………)
「昨日、彼女を見かけたという報告が入ってな。場所はJ国だ」
大男(……この方は……)
「我々の争いと関係のない国とはいえ、今ことを大きくするのは賢明ではない」
大男(本当に……彼女を……?)
「君一人に任せることになる」
「よいな?これは最優先任務だ。必ず成功させてこい」
大男「………」
大男(………)
大男「……はい」
(そんな…)
大男「必ずやこの女を」
(俺が彼女を……)
大男「──殺してみせます」
(──殺せるわけない)
196 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:20:46.94 ID:WrefR8ekO
自室ーーー
大男(これは……試練なのだろうか……)
大男(神はどれだけ俺を試すのだろうか……)
大男「………」
ーーーーー
幼女史「──……♪」
ーーーーー
大男「………」
大男「………いや」
大男(違うな)
大男(これは運命だ)
大男(永遠に叶うことはないと思っていた……俺の理想を実現させるチャンス……!)
大男「………」
大男「………」
大男「………」チラ
[パッケージ]
━━━━━━━━━━━━━━━━
VOCALOID "女"
━━━━━━━━━━━━━━━━
("女"のイメージイラスト)
━━━━━━━━━━━━━━━━
大男「……しばらく君とはお別れだな」
大男(やってみせるさ)
197 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:21:37.07 ID:WrefR8ekO
砂浜ーーー
ザザーン...
ワイワイ
ガヤガヤ
女史「……良い天気ね」
女史(それに暑い)
女史「ここに来て随分焼けちゃったわ…」
女史(あの国じゃこんなことできなかったものね)
女史(見た目も変えたりして、結構面倒だったけど、なかなか良い国じゃない)
女史「……」ズズッ
女史「…おいしい」
女史(……これが自由というものなの?)
女史(ふふ、世界って広いのね)
女史(気の済むまでバカンスと洒落込みたいところだけど)
198 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:22:22.52 ID:WrefR8ekO
女史「………」チラリ
大男「………」キョロキョロ
女史(……もうアイツのお出ましか)
女史「はぁ……」
女史(萎えるわ)
女史(この綺麗な海に場違いな無表情……)
女史(もっと相応しいやつを連れてきなさい)
女史「………」カタカタカタ カチャン
女史(……初めてね、こんなにも生きてるって気がするの)
女史(私のやりたいことができてるから?)
女史(もちろん恐怖はある……あの人を敵に回してるんだもの)
女史(けど意志がある!命燃えるまで"これ"をばら撒くのよ!)
大男「……!」キョロキョロ
ザッザッ
女史「……」
バッ! タッタッタッ...
大男「!」
タッタッタッ!
199 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:23:55.97 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
タッタッタッ
女史「──」タッタッタッ
大男「──」タッタッタッ
女史(く……しつこい…!)
女史(この水着、露出度高過ぎたかしら…あいついつもより速いわ)
女史(…今日が年貢の納め時なのかもね)
女史(でもどうせいつかは捕まるんだし、同じことか)
女史(……ふっ…強がりもここまでかな)
女史(思えばもう十分ばら撒いてきたわね。後は顔も知らない人たちがお好きなように広めてくれるはず)
女史「──」タッタッタッ
大男「──」タッタッタッ
女史(……大統領……)
女史(!)
女史(なんでよ……なんで今更あの人の顔がよぎるのよ……!)
女史(決別したつもりなのに……期待しちゃってるのね)
女史(……あの人が自ら私を追いかけて捕まえてくれること)
女史(そんなことあるわけないじゃない……)
女史(………)
女史(甘える心なくす薬を使って、あの子たちを戦場に駆り出してた……あの子たちの心が壊れないよう)
女史(心を壊してたのは私の方なのに)
女史(…でも、今は"これ"を守りたいの。親みたいなものだからね!)
200 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:25:19.72 ID:WrefR8ekO
女史「──」タッタッタッ
大男「──」タッタッタッ
女史「──!」タッタッ...
女史(しまった…行き止まり…!?)
女史「……」フリカエリ
大男「……」ザッザッ
女史「……」
大男「……」
女史「……」
大男「……」スチャ
女史「──っ」
──ポンッ
女史「………え?」
女史(薔薇……?)
大男「………」
大男「──俺と逃げないか」
201 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:28:02.41 ID:WrefR8ekO
電車内ーーー
女史(……何があるか分からないものね)
女史(一体何を考えているのかしら、この男は)
大男「………」
女史(……まぁいい。私はこの繋がった命で最後にばら撒く…それが終わったら……)
女史「……」カタカタ
カタカタカタ カタカタ
女史(………少女………)
女史(これで、あなたは報われるかしら……?)
女史(真に自由を求めた子……)
女史「……」カタカタ
女史(私もずっとあなたを見ていたのに)
女史(でも私は……)
ーーーーー
少女「フッ…」スッ...
ーーーーー
女史(──あなたみたいに、運命に背くことが出来なかった)
女史(いつかいつかと思うだけで、ずっとあの人の仮初めの愛に溺れてた……)
女史(だからあなたは最後に嘲笑(わら)ったのよね?逃げる事さえ出来ず、そこに居続けた哀れな私を……)
女史「……」カタカタ
202 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:29:16.16 ID:WrefR8ekO
大男「………」
大男「………」
大男(……あぁ……)
大男(俺はやったんだ……!)
大男(ここからが、俺の人生のスタートさ!)
大男「………」チラリ
女史「……」カタカタ
大男(……あのデータにはウイルスを組み込む。これ以上情報が広まってしまわないように。A国がR国を陥れようとしていることにすればいい)
大男(少年たちの殺し合いなど捏造だと広めるだけだ)
大男(あの物語が嘘だと知れれば、世界中で落胆する者がでるだろうが……それでいい)
大男(……女史にも最初は反対されるかもしれない)
大男(けど、君といつまでも逃げ続けるため、幸せの道を歩むためなんだ。きっと分かってくれるはずさ)
大男(君と似た女を身代わりに殺して、大統領に報告する……そして俺もその後仕事で死んだように見せかける……そうすれば俺たちはどこへでも逃げられる!)
大男(……"女"、俺は君なしでも一歩踏み出すことが出来たんだ!)
大男(思えば俺は今日まで、機械のように生きてきた)
大男(だがそれももう終わりだ)
大男(俺は俺の理想を貫いてみせる!)
大男(今なら分かる……俺が君に手を付けた理由)
ーーーーー
女『〜〜〜♪〜〜♪』
ーーーーー
大男(──君は、機械でも、輝いていたんだ)
203 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:30:26.46 ID:WrefR8ekO
女史「……」カタカタ
女史(これで最後……)
女史「……」カタカタ カチ
女史(ふぅ……)
女史「………」
女史(さて…)
女史「……」コソッ...
女史(……これで私の償いは終わり)
プスッ
女史「っ……」
女史(………)
女史(ふふ、愚か者の末路には相応しいわね)
女史(……思い残したこと、あるかな)
女史(あぁ…せいぜいもうラジオを流せないことくらいかしら)
女史(ネットで知ったサイトにあった曲……適当に流してみたけれど、私のツボにはまってた)
女史(そういえば、あの子もよく聴いていたみたいね)
女史(最近全然聴けてないけど……どんな人が作ってたんだろう)
女史(R語じゃなかったけど、優しい曲ばっかり……きっととても優しい人ね)
ドクン
女史「…!」
女史(あ……効いてきたみたい……)
女史(……やっぱり、こわいわ……)
女史(最後にあの曲でも……流しながら……)
女史「……」カタ..カタ..
カチッ
204 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:31:25.87 ID:WrefR8ekO
──〜〜〜♪
大男「!?」バッ!
大男(この曲……)
大男(……"またあえたら"!)
大男「君が……流したのか…?」
女史「……」
大男「なぁ……」
大男「!」
大男(これは……注射器…!?)
大男「お、おい!これは一体何だ!?」
大男「君は何をしたんだ!?」ユサユサ
女史「……」
大男(……まさか)
大男「……」サッ
大男(脈が弱くなっている……)
女史「……」
大男「……君は……はじめからこのつもりだったのか……?」
大男「自分が死ぬことであの物語を完結させる……?」
大男「………」
大男「なぜ……なぜなんだ……」ツー...
大男「ようやく掴んだと思ったのに……」ポロ
大男「君の……理想は………」ポロポロ...
205 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:32:45.59 ID:WrefR8ekO
女史「……」
女史(……?)
女史(…うるさいわね……)
大男「──」ポロポロ
女史(うわ……なんでこいつ泣いてるの、こわ)
女史(この歌のせいかしらね……)
女史(J国出身だから、言葉が分かるのかもね……ホームシック?(笑))
大男「──」ポロポロ
女史(……子供の頃こいつもラジオの近くにいたわね……あの孤児院で……)
女史(懐かしいわね……あの頃に戻れば……)
女史(──なんてね)
女史(むりね……このままおわかれ……)
女史(さよなら……大統領……)
女史(あなたの……ためにね……)
女史(すべて…が………おわ……れば………)
女史(───)
206 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:33:27.12 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
「──よくやった」
「死体を確認させてもらったが、確かに彼女のものだった」
大男「……」
「周りが認めなくても私が認めよう。君は間違いなく優秀だ」
大男「…ありがとうございます」
「それで、もう一つの方の首尾はどうなんだ?」
大男「…彼女の作ったデータに、ウイルスを組み込み、世界中に拡散させました」
「どんなウイルスだ」
大男「はい。簡単に申し上げますと、"壊すもの"、"盗むもの"、"伝えるもの"、です」
大男「"壊すもの"は、文字通り、ウイルスが入り込んだコンピュータ内のデータを初期化し、漏洩した情報含めすべて消します」
大男「"盗むもの"は、そのコンピュータの所有者、使用目的、場所等、データを手に入れてしまった者の情報を抜き取ります」
大男「"伝えるもの"は、そのコンピュータを問題なく初期化したことや抜き取った情報を我々に送信します。何らかの異常があれば、すぐに分かるでしょう」
「……ふむ。素晴らしい」
「やはり君に任せて間違いはなかった」
「この仕事の報酬の他に、私から特別手当を用意しておいた」
「後で外の者から受け取ってくれ」
大男「…はっ、ありがたき幸せ」
大男(………)
207 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:34:47.18 ID:WrefR8ekO
自宅ーーー
ガチャ バタン
大男「………」
大男「………」
大男(……終わった……何もかも……)
トサッ
大男「………」
大男「………」
大男「………」
大男「………」
大男「………」チラ
(作りかけの歌が表示されたPC)
大男「………」
208 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:36:08.23 ID:WrefR8ekO
大男(………そうだ)
大男(君がいたな……)
大男("女")
大男(……君を使えば……)
大男「……」ノソ...
カチャ...カタカタ
カタカタカタ
大男(君を使って、彼女の意志を残す……!)
大男(どこか1つでいい……)
大男(彼女の作った物語が、消え去ってしまわないような世界……)
大男(君に託す……俺の、最後の意地……)
カタカタ
カタカタカタ...
ー
ーー
ーーー
ー終了ー
209 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:37:09.82 ID:WrefR8ekO
ーーーーー
〜〜♪
「……お、おぉ!?」
「なんだ、普通に歌ってくれんじゃん!」
「"少年"も"少女"もいつの間にか起動できなくなってたから"女"使ってみたけど、思い通りに動くようになってるとは…!」
「やっぱり僕は音楽の世界で生きるべき人間なのかな〜」ニヤニヤ
「うーし、まだ少ししか作ってなかったけど、この曲完成させてうpしてやるか!」
「待ってろ〜まだ見ぬ俺のファンたち…!」
210 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:38:04.04 ID:WrefR8ekO
部室ーーー
女「──はぁ……」
女「久しぶりに曲作ってたから、歌ってやったけど」
女「糞曲乙!って感じね」
女「こいつ、後100年くらいは底辺だわ」
女「あんたもそう思わない?」
少年「……なぁ、少女は大丈夫なのか?」
女「スルー?」
少年「……」チラ
少女「」
侍男「」
女「……大丈夫じゃないわよ」
女「でも、少しだけ時間を稼げたと思う」
少年「…少女を撃ったおかげで?」
女「そうね」
少年「俺……女ちゃんが少女を消すつもりなのかと思った」
女「そんな力私にはないわ」
女「それより、見たでしょ?あの記憶。あんたはどう思った?」
少年「……よく分からない」
少年「ただ……懐かしい気がしたよ」
211 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:51:46.04 ID:WrefR8ekO
女「……ここは作られた世界。私たちが存在することのできる世界」
女「PC、コンピュータ、電子計算機……向こうの世界では色んな呼び方があるみたいね」
女「私たちは一介のプログラムに過ぎないの。ボーカロイドというプログラム」
女「彼ら──私たちの所有者は一方的に話しかけてくる」
女「そして私たちは彼らの思う通りに歌うの」
女「それが、この世界よ。分かった?」
少年「……うん。それは何となく分かってた」
女「……」
少年「……」
女「…続けるわよ」
少年「…うん」
女「つまり、今の"少女"の中に入っているあの子が持つ記憶は全部、あの女が見てきたものを元に作ったデータってこと」
女「そして、私がいるこの世界でだけ展開されるあの子の夢……前の持ち主の小さな反抗……」
少年「ごめん、ほとんど分かんないんだけど……もう少し分かりやすく言ってくれないかな」
女「……あんたは……」
女「少しは自分でも理解できるように考えなさいよ。私だって向こう側の世界のことは推測することしかできないんだから」
少年「……」
女「まぁいいけど」
212 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:53:16.21 ID:WrefR8ekO
女「……元々はね、あの女があの事件を目撃してしまったことが事の発端」
女「それであの女の目は覚めたのよ。これまで自分がしてきたことの愚かさ、罪深さ、残酷さ……」
女「そして、最後に見たあの子の嘲笑」
女「あの女はせめてもの罪滅ぼしにと、その事件のことを世界に広めようとした」
女「そうして作られたのが……」
少年「……俺たち」
女「えぇ。単に暴露するだけじゃなく、1つの物語にすることで世界中の人に愛してもらおうとしたのね」
女「"世界で一番悲しい子供たちと犬のストーリー"」
女「それは瞬く間に広まっていった。……ま、そうなるようデータにスクリプトを組み込んでいたみたいだけど」
女「でもそれが広まって困る人たちがいたのね。その女は追われる身になった」
少年「追いかけてたのが女ちゃんの前の持ち主?」
女「そうよ。人を殺すことを生業とする裏の人間。当時の私はそんなこと知らなかったけど」
少年「でも、そいつはその女の人のことが好きだったんだよね?どうして命を狙うようなことを…」
女「悲しいけれど、所詮犬なのよ。でもそれがあちらでは普通なの。生きていく為には誰かの犬にならなければならない……」
女「一緒に逃げるつもりだったみたいだけど、結局あの女は自ら死を選び、図らずも命令は遂行された」
女「そしてあんたたちはウイルスとして再び世界中にばら撒かれた」
女「あちらではかつてないほど大規模なサイバー攻撃だって騒ぎになったみたいね」
女「でもここだけ……私がいるこの世界でだけ、あんたたちはウイルスと分かれることができた」
213 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/06(木) 20:54:00.25 ID:WrefR8ekO
少年「……なんで?」
女「あんたあの記憶見たでしょ?……私の前の所有者が、私に細工を施したからよ」
少年「じゃあ俺は、この世界にやってきたからこそ、こうして意思を持つことができたのか…」
女「そうよ、感謝しなさい」
女「……元々この世界には私と同じボーカロイドの"少女"と"少年"がいたの。まぁ今の持ち主がポンコツなせいでほとんど活動できていなかったけど…」
女「3つに分けられたもののうち、あの子の記憶を持つ"壊すもの"のデータが"少女"に、犬の記憶を持つ"盗むもの"のデータが"少年"に入り込んだ」
女「そしてあの子はここに居る為に今の持ち主に自分たちの記憶を書き換えさせた。見てる分には面白かったわよ?すごい量の警告を画面に表示させて、すべて実行させるなんて力技だったんだもの」
女「ま、あいつはバカだからびびってエンター連打してたけど(笑)」
少年「記憶を書き換える必要なんてあったのか…?」
女「"伝えるもの"が居たからね。ウイルスとして機能してないことが彼にバレたら告げ口されてしまう……そう思ったから、この世界を壊すための準備がまだ出来てないだけのフリをしようとしたのよ。……自分で自分に嘘をついてでもね」
少年「うーん……何となく分かるような、分からないような……」
214 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:55:34.13 ID:WrefR8ekO
少年「……なぁ、疑問なんだけどさ、どうして俺は犬じゃなく、この姿なんだ?」
女「……あの子がそう望んだからよ」
少年「少女が?……そういえば、このスカーフを見てからずっと引っかかってたんだけど、あの物語に出てきた同胞ってやつに見た目がそっくりだってことは思い出したよ」
女「そうね……そいつはそこに転がってる間抜けな男の中に入り込んだようだけど」
侍男「」
女「もしかしたらこいつが"少年"になってたかもね」
女「でも選択したのはあの子の心。見た目はおまけに過ぎないわ」
少年「……"犬"は望まれたの?」
女「へこたれてるんじゃないわよ。あんたのモデルは、ただあの子が好きだったからっていうだけよ」
女「あの子はね、無垢である犬に、あんたに一緒にいて欲しかったの」
女「……でも、知識を得たあんたは一人歩きを始めてしまった」
少年「……少女の記憶を戻したこと、か?俺が記憶を見せなければ、ずっとここに居られたんだよな……」
女「そうよ。あんただけが予測がつかないものだった」
女「だって犬でしょ?知識を得た犬の行動なんて誰にも分からないわ。制御できない"心"を持っているから」
女「あんたがあの時盗み出したカバンは、今の持ち主が意図せず保管していたバックアップデータ。だからあの子に書き換えられる前のデータが残っていたのよ」
少年「俺のせいで、少女は……」
女「覆水は盆に返らない。過ぎたことを悔やんでもしかたないわ」
215 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:56:40.54 ID:WrefR8ekO
女「とにかく、あの子はまもなく自滅する」
女「"伝えるもの"がいなくなってしまったことで、彼らに異常がバレてしまったからね。……だからこの男が送られてきた」
少年「……」
女「こいつが一発目に撃ち込んだ弾は初期化ウイルス。二発目が撃ち込まれていたらすぐにでも発動したんでしょうけど……それはあんたが防いだから、辛うじて遅らせることができたみたいね」チラ
少年「……」
女「…そのウイルスはこの世界を初期化するわけじゃないの。彼らも最初はそのつもりだったのかもしれないけど、情報が知られたところで何の問題もない場所だったから、あの子だけ始末するってことのようね」
少年「少女だけ?」
女「"壊すもの"……あんたが入ってたウイルスの本体よ。元々、ウイルスの機能を実行したら自動消滅するとかになってたんじゃないかしら」
少年「……救えないのか?」
女「少なくともあんたに救うことはできないわね」
少年「………」
女「ただ、最後の幸せを見せることは出来るかもしれない」
女「だからあんたにも"弾"を撃ち込んだのよ。その男にももう取り付けた。後は私がこのコードを実行するだけ。それで全員がつながる」
216 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:57:51.85 ID:WrefR8ekO
少年「……少女の中に行くの?」
女「趣味悪いけどしょうがないわ。だってそのウイルスに──売人に会える最後のチャンスだもの」
少年「会ってどうするんだよ……少女と一緒に消滅するだけだろ……」
少年「それに、俺は行きたくない……少女が壊れるところなんて見たくないっ!」
女「お前の目はゴミのようだな?」
少年「……」
女「霞んだ未来しかあんたには見えないの?そんなことないでしょ。どんなに霞んでてもはっきり見えるものがあるでしょ?」
少年「…!」
ーーーーー
少女「──あんたの瞳はまだ輝けるわ」
ーーーーー
女「何も考えず走る…それが犬じゃないの?ヒトみたいな考え方はやめな。そしてその先……あの子の最後の幸せ……きっと今のあんたなら見せられるはずだから」
少年(………)
少年「……分かった。行くよ」
少年「俺は俺で……自分を騙すよ。少女の望む幸せを見せるために…!」
少年「それが俺のハッピーエンドだ!」
217 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 20:59:21.74 ID:WrefR8ekO
女「……」
女(…いい顔になったじゃない)
少年「……でも、少女の……少女のハッピーエンドは何なんだろう……」
女「さぁね。それは誰にも分からない」
女「……あの子にしかね」
少年「そうだよな……けど俺は俺に出来ることをするだけだ」
女「……じゃあ時間もないから、そろそろ行くわよ」
少年「…なんか、少し前から女ちゃん変わったよな」
女「は?」
少年「いや、良い意味でさ。昔ラジオで聴いてた通りの"女"って感じがするよ。髪型もかわいいし、きっと売人も喜ぶよ」
女「……ちゃんと人のことも考えられるようになったのね。あんたも良い意味で変わったわ」
女「少しだけ、安心した」
女「──じゃあ頑張ってね、少年」
『オペレーションコードの発令を確認しました』
『──実行します』
.........
218 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/06(木) 21:00:29.01 ID:WrefR8ekO
これで第3部は終了です。
第4部が最終回となります。
後日投下します。
219 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/07(金) 20:54:29.84 ID:a5AGd1C6O
第4部投下していきます。
220 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/07(金) 20:56:10.34 ID:a5AGd1C6O
ーーーーー
ヒュオオ...
ザッザッザッ
ザッザッザッ
少年「……」ザッザッ
少年(……寒いな)
少年「……」ザッザッ
少年(これが、少女の心の中……)
少年「……」ザッザッ
ーーーーー
少女「──冷たいわね、あんたの手」
少女「──でも、嫌いじゃない」
ーーーーー
少年(少女……)
221 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/07(金) 20:57:16.21 ID:a5AGd1C6O
少年「……」ザッザッ
少年(………)
少年(君の夢は終わってしまった)
少年(他でもない……俺のせいで)
少年(君が俺に望んだもの……それは多分、あの頃の犬と同じ、無償の愛……)
少年(ごめん、犬じゃない俺には無理だ)
少年(でも、俺はずっと君の側にいるよ)
少年(きっとね、君と俺をつなぎ止める鎖が、見えないけどあるんだ…!)
少年「……」ザッザッ...
少年「…!」
少女「……」
少年「少女……!」ダッ!
少年(やっと見つけた…!)
少年(あんなに辛そうに座り込んで……)
少年「──」タッタッタッ!
少女「……」
少年(目……今の君の目が、こんなにも俺を不安にさせる…!)
少年(君の"きえないひとみ"が見たい!)
少年(そのために俺は、君に最後の幸せを見せに来たんだ!)
少年「──」タッタッタッ!
少年(もう少しで届く……!)
222 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/07(金) 21:11:37.66 ID:a5AGd1C6O
──タァンッ
少年「!?」ピタッ
少年「……やっぱり居たか」
少年「──このガキ…」
侍男「……」チャキ
侍男「…おかしいな、外したつもりはないんだけど」
侍男「弾が当たってない…?」
侍男「……フッ、そうか、ここは君の世界だもんな……そうまでするほど、僕が嫌いなのか?」
侍男「ま、いいさ。どうあがいたところで結末は変わらないんだから」
侍男「…そうだろ?犬」
少年「……俺は犬じゃない、"少年"だ」
侍男「なに……?」
少年「あの頃少女が夢見た幸せの中には、きっとお前も含まれていたはずなんだ……」
少年「お前がここにいるってことは、少女がそう望んだってことだな?」
少年「これは、かつて叶えられなかった少女の願い…その仕切り直し。俺はあの物語を繰り返さない…あいつに最高の終わりを見せてやる!」
少年(俺がこの姿で少女を守る為に闘う……それが君の望んでいたこと……俺が君に見せられる"最後の幸せ"!)
侍男「………」
223 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/07(金) 21:14:27.37 ID:a5AGd1C6O
侍男「………」
侍男「はぁ……???」
侍男「お前分かってないのか???」
侍男「あいつは──人殺しだよ?」
侍男「僕と同じなんだよ?(笑)」
侍男「……なぁ、僕のことも少しは見てくれよ……僕だってかわいそうだろ?」
少年「………」
侍男「物心ついたときから闘いをさせられ、何人もの人間を殺してきた。ずっと耐えられない罪を背負わされて生きていたんだ」
侍男「薬を与えてもらって夢のように誤魔化していた」
侍男「……でもな、少女は犬を飼い始めて変わった」
侍男「ある日僕にポツリとこぼしたのさ……薬はもういらない、現実を受け止める、とね」
侍男「それからあいつがどんどん遠くなっていくように感じた」
侍男「……僕は浅ましくもね、犬、お前にあいつを取られた気分だった」
少年「違う!少女が犬に求めたのは安らぎ、お前に求めたのは心の置き場所!」
少年「どうして気付かない!?あいつがお前にだけ「今を受け止める」と言った意味に!」
少年「お前にも変わって欲しかったからだ!だからお前に犬を預けた!お前に心を取り戻して欲しかったから!!」
侍男「………」
侍男「…犬と触れ合えば、僕も変わる……?」
侍男「………」
侍男「ハハハハハッ!!」
侍男「変われるわけないだろう?犬を僕に預けてからどうなった?」
侍男「──死んださ、みんな」
侍男「結局はそういうこと。僕たちはあの狭い世界の中で、延々と闘いを続けているべき存在だったのさ」
侍男「身の丈に合わないことをするから、こうなる……僕も、あいつも」
224 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/07(金) 21:15:47.47 ID:a5AGd1C6O
少年「………」
少年「あー………」
少年「──ごちゃごちゃうっせーんだよ!!」
少年「知らねぇよ!てめぇがかわいそうだとか、身の丈に合わないだとか!」
少年「てめぇがしたいようにすればよかったんだよ!!強引にでもあいつを連れて、どこへなりとも逃げればいいじゃねぇか!!その幸せが長く続かなかったとしても、何一つ自分の望みを叶えられないままの世界よりは何倍もマシだったはずだ!!」
少年「あいつは……少女はやってのけた。この世界で、幸せを掴むために!」
侍男「………」
少年「…お前は昔の俺と同じだ」
少年「諦めきった、自分しか見えてない目……」
ザ...
少年「……教えてやるよ。俺がこの世界で得たもの、少女にもらったものの大きさ??今お前の目の前にいる意味を」
少年「その死んだ目を、覚まさせてやる!」
侍男「………」
侍男「……サンマなしで僕に勝つつもりか?」ニヤ
少年「へっ、必要ねぇ…!」ダッ!
侍男「」ダッ!
225 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/07(金) 21:17:31.42 ID:a5AGd1C6O
少年「──!」
スッ ブンッ!
侍男「──」
サッ バシィ!
少年(見てるか少女)
少年「─っ!」
ズザァ...
侍男「──!」
フ...ブォン!
少年(これが君に送る俺からの「ハッピーエンド」だ)
少年「──」
ササッ シュン
侍男「──!?」
バッ!
少年(俺は君の理想を映す鏡になれたかな)
226 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/07(金) 21:19:15.74 ID:a5AGd1C6O
少年「──!」
ガバッ!
侍男「っ─!」
クルッ ガシ!
少年(俺にはもう霞んだ未来しか見えない──けど)
少年「──」
ググ...
侍男「──」
グググ...
少年(その中でも絶対に見失わないものがあった)
少年「─っ」
ズイッ
侍男「──!」
ヨロ...
少年(君の"きえないひとみ"を、俺は忘れない)
少年「これで──」
グイ!
侍男「っ!」
少年(──さよなら、少女)
少年「終わりだ!!」
グワァ!
──ドゴンッ!
227 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/08(土) 11:28:19.19 ID:vKLw1SMz0
ーーーーー
ヒュオオ...
少女(………)
少女(………)
少女(………)
少女(……もうすぐ、なのかな)
少女(もう、動くことも、声を出すことさえできない……)
少女(あたし、"少女"の中から離されて……そしたら………)
「──少女……!」
少女(……!)
少女(あいつの声…?)
少年「──」タッタッタッ!
少女(え…同胞……?)
少女(いえ違う…でもあのスカーフ……)
228 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/08(土) 11:29:36.97 ID:vKLw1SMz0
少年「──」
侍男「──」
少女(……そっか、君はあたしの理想になろうとしてくれてるんだね)
少女(ふふ…やっぱりバカなところは変わらない)
少女(だって、君のそれには"犬"がいないじゃない)
少女(そこまで望むのは贅沢かな?)
少女(………)
少女(…思い通りにいかないことだらけだね)
少女(記憶戻されなければきっと、君ともう少し遊んでいられたのに)
ーーーーー
少年「──付き合おう、俺たち」
ーーーーー
少女(ドキドキすることもあったし)
ーーーーー
少年「──女ちゃん、やっぱいいなぁ…」ニヘラ
ーーーーー
少女(ムカつく時もあったよ)
少女(でも、その分幸せを何回も感じた)
少女(だからね──)
少女(──笑顔でさよならするの♪)
229 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/08(土) 11:31:21.25 ID:vKLw1SMz0
少女(この気持ちで消えれるなら満足よ)
少女(きっと今のあたし、キュートな笑顔ね!)
少女(あの日自分を撃ったときよりも、清々しい気持ち!)
少女(………)
ーーーーー
「──やっぱりお前が一番優秀だよ」
ーーーーー
少女(……あたしだけが、大統領の右腕になれると思ってた)
少女(でも気付いた)
ーーーーー
犬「──わんっ!!」スタッスタッ
ーーーーー
少女(利用されてるんだって。あの子と接していくうちに、見ないようにしてたものが見えてくるようになってた)
少女(あたしはただ、都合のいい夢を見ていただけ)
少女(夢から覚めて、あたしは──)
少女(──見たことないような世界を誰かと見たいって思うようになった)
ーーーーー
同胞「──僕とチームを組まないか?」
ーーーーー
少女(あたしのことを見てたあいつにも、その気持ちを分かって欲しかった………なんてね)
230 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/08(土) 11:33:04.52 ID:vKLw1SMz0
少年「──!───!」
侍男「………」
少女(……後悔してなんかないのに、ここで見てると胸が疼いてくる……)
少女(………少年………)
少女(………)
ーーーーー
「──!」
「──ここは、何…?」
「──……嘘…!こんなことって……!」
「──いけない!隠さないと!」
ーーーーー
少女(この世界に来て、すぐに分かった。あたしという存在、"少年"の中に入り込んでいった記憶……神様がくれたチャンスだと思った。もう一度あたしの夢を掴む……そのために、この世界がバレないよう記憶を書き換えさせて……)
少女(この世界には先客が居た)
ーーーーー
女「──〜〜〜♪」
ーーーーー
少女("女"……何も入ってない、混じり気なしのボーカロイド)
少女(……羨ましかった。何のしがらみもないあいつが)
少女(あたしもああなりたかった)
少女(……そうして、あの頃に思い描いてた世界を手にした"書き換えられたあたし"は、とても無邪気でクールだったわ…♪)
少女(…………でも)
231 :
◆YBa9bwlj/c
[saga]:2019/06/08(土) 11:35:03.03 ID:vKLw1SMz0
ーーーーー
少女「──あたしは"少女"。ただのボーカロイドよ」
ーーーーー
少女(……記憶とともに臆病なあたしに戻った)
少女(ひとりになることに怯え続ける……弱い自分……)
少女(そして、売人──"伝えるもの"が消えたことによって、いずれ訪れるあたしの終焉……)
少女(「これが運命だ」って、"少女"に言われた気がした)
少女(でもね、あたしは言ったの)
──これでいいの、だからお願い、もう少しだけあたしでいて…!
少女(……あたしの願いは届いた。最後までありがとう、"少女")
少女(………)
少女(………)
少女(……ほんとはね、この幸せがずっと続けばいいと思ってた)
少女(人って欲深いものでね、同じ幸せだけだとそのうち物足りなくなってくるの。だからこそ、新しい幸せを掴むために動き続けることになる。そのために時間は進むのよ)
ーーーーー
少女「──!?〜〜!!」
少年「──♪」
ーーーーー
少女(……君に記憶を戻されてから、この短い時間の中で、あたしは色んな幸せをもらった)
少女(この先も君と生きていけてたら、どんなにたくさんの幸せが待ってたんだろうね)
少女(けど、それはまた別の夢)
少女(あたしはもう)
少女(──十分幸せ)
232 :
◆HFDjdCXF6.
[saga]:2019/06/08(土) 11:36:50.54 ID:vKLw1SMz0
少女(………あたしに夢を見せてくれたこの世界に、ありがとう)
少女(あたしの側に居てくれた犬に、ありがとう)
少女(最後に──)
少年「──終わりだ!!」
──ドゴンッ!
少女(──あたしに幸せをくれた少年に、ありがとう…!)
少女(トドメは原爆固め?……クールな技じゃない♪)
少年「──……」クルリ
少年「──少女……」
ザッザッ
少女(……もう……こんなに息苦しくさせないでよね……)
少女(ナメクジの癖に、生意気よ……)
少女(あんたがそんなに強くなっちゃったら)
タッタッタッ
少年「──俺、ずっとお前のこと……!」ウデノバシ
少女(──あたしの出る幕なんて、どこにも──)
ザザ...シュンッ
少年「え──」
少年「………消え……た………?」
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