夢見りあむ「7人が行く・EX1・エクストライニング」

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4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:21:17.12 ID:DKif905n0
・inning

名詞
・(野球) 回、イニング
用例:Extra inning (野球の)延長戦
・一生
用例:She’s had a good innings. 彼女は良い人生を過ごしました。

5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:21:54.46 ID:DKif905n0


ケラケラ……

夢を聞かれたような?

ケラケラ……

笑い声で目を覚まして。

あれ、どうして寝ていたのでしょう?

あれ?

もしかして、これは?

そう、目覚めると!

なんと、私は!

正義の力を手に入れていたのです!

序 了
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:22:35.09 ID:DKif905n0


8月中旬のとある金曜日

S大学・学生支援総合センター・学生相談室

S大学
由緒ある総合大学。歴史的に名家の御子息子息御息女が多いとか。

学生支援総合センター
煩雑な学生の手続きを簡略化するためにS大学が近年設置。悩みごとがあるなら、まずはここへ。

夢見りあむ「……」

財前時子「……」

夢見りあむ
S大学看護学科の1年生。目の前にいる人物の印象はドエスお嬢様、やむ。

財前時子
S大学の職員。見るからに厄介そうな学生が来たので、対応を押し付けられた。学生時代はSWOWというサークルの代表をしていた。

時子「はじめまして」

りあむ「は、はじめまして」

時子「大学職員の財前時子よ、今日はどうしたのかしら」

りあむ「大学職員……?」

時子「何故そこで首をかしげるのかしら」

りあむ「ぼくはスクールカウンセラーに会いに来たんだよ!やむちゃんのぼくを救って欲しいから!」

時子「そう」

りあむ「めっちゃ冷静!人間としての出来の差が大ダメージだよ、やむ……」

時子「後ろにポスターが貼ってあるわ、見てもらえるかしら」

りあむ「後ろ?」

時子「スクールカウンセラーのポスターよ、学内の掲示板に貼ってあるでしょう」

りあむ「もう見てるよ!これを見て縋りに来たんだから」

時子「スクールカウンセラーの勤務日が書いてあるから、読みあげなさい」
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:23:08.24 ID:DKif905n0
りあむ「スクールカウンセラーは予約不要、毎週火曜と木曜日!ん、火曜と木曜?」

時子「今日は何曜日かしら」

りあむ「……」

時子「そう、金曜日よ」

りあむ「お家で壁に向かって体育座り反省会ばっかりで曜日感覚がおかしくなった、わーん」

時子「それに、スクールカウンセラーは今週夏休みなのだけれど」

りあむ「知らない、連絡不行き届きだよ!」

時子「4月からこのポスターの横に貼ってあるわ。ホームページにも掲載している」

りあむ「まるで、ぼくはバカってこと?」

時子「でしょうね」

りあむ「わーん!職員さんもきっと思ってるんだ、脳と身長に行くべき栄養が胸に行ってるって!脳に行く栄養が胸に行ってる奴は絶滅すればいい、本当に、って!」

時子「そんなこと思わないし、言わないわよ。失礼ね」

りあむ「うわーん、もうダメだ……このまま大学からドロップアウトで、暗い部屋の中で一生を過ごすんだ……」

時子「そっちで勝手に話を進めないでちょうだい。話なら私が聞くわ」

りあむ「え?」

時子「スクールカウンセラーでなくても、話は聞けるでしょうに。それくらいで、あなたは満足しそうだもの」

りあむ「本当に?お悩み相談だよ?」

時子「いいわよ。どうにもならないようなら私からスクールカウンセラーに引き渡すわ」

りあむ「ぼくはクソザコメンタルのヘンテコリン野郎だよ、いいの?いけるの?」

時子「ヘンテコリンには慣れてるわ。あなたが人間なら驚くに値しないわ」

りあむ「……」

時子「学生を助けることが大学職員の仕事でしょう……何かしら、じっとこっちを見て。変なことでも言ったかしら」

りあむ「この大学職員、よく見たら……顔がいい」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:23:42.87 ID:DKif905n0
時子「ハァ?」

りあむ「スタイルもいい、服装のセンスもいい、育ちもいい、若い、そんな大学職員さんがぼくを味方してくれる!生きれる!」

時子「ハァ……?」

りあむ「名前、名前をもう一回教えて」

時子「財前時子だけれど」

りあむ「財前さん、財前教授、時子さん、いや、時子サマ!」

時子「様付けで呼ぶつもりのようね、この子は……」

りあむ「ぼくを救ってよ!」

時子「……まぁ、呼び方は好きにすればいいわ。ただし、あなたのことを話しなさい」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:25:51.04 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

時子「大体状況はわかったわ、確認するわ」

りあむ「うん」

時子「名前は夢見りあむ、看護学科の1年生、その髪は染めてる、であってるわね」

りあむ「うんうん」

時子「ここに来た理由は、もう学校続かなさそう、だから」

りあむ「そうそう!」

時子「そんなに元気に肯定されても困るわ。私も大学職員だから、退学者を増やしたくないの」

りあむ「でも、ぼくが辞めそうなのは事実!対応しないとマズイでしょ!」

時子「あなたが言うことではないわね。本題に入る前に」

りあむ「入らないの?」

時子「体の調子に異常はあるかしら」

りあむ「体?健康だよ?体だけね!代わりに脳も心もダメ!」

時子「あなたの好きな食べ物は」

りあむ「飲茶!大学の近くにある楊さんのお店よい」

時子「楊さんのお店はいいわね。私がご馳走するとしたら、食べるかしら?」

りあむ「もちろん!ご馳走してくれるの?時子サマ、神!?」

時子「食欲は問題なさそうね。検討してあげましょう」

りあむ「おごるは嘘?飲茶がないとやむよ?」

時子「脅迫ならもっと上手くやりなさい。今は独り暮らしかしら」

りあむ「実質独り暮らしだよ!」

時子「実質ね、どういう意味なのか教えなさい」

りあむ「おうちに誰も帰ってこないもん。だから実質独り暮らし!自由!自由万歳!」

時子「羨ましいとは思えない自由ね、私は自由ではなかったから」

りあむ「時子サマ、やっぱり良い家の出?お嬢様?ホンモノ?」

時子「今は私の話をする必要はない。さて、夢見りあむ?」

りあむ「なに、時子サマ、答えるよ、何でも!」

時子「大学に友達はいるかしら」

りあむ「……」

時子「無言は回答とするわ。何かサークルに所属してるかしら」

りあむ「わかってるでしょ、所属してたらこんなことにならないよ!」

時子「そんなものでしょうね、本題に入りましょう」

りあむ「うう、時子サマ、見かけ通りのエスだよ、エス!ガラスのハートにはハードだよ!」

時子「どうして、大学が続かないと思ったのかしら」

10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:27:06.35 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

りあむ「どうして?」

時子「ええ、何故かしら」

りあむ「どうして、どうして……どうして?」

時子「……」

りあむ「そんなのわからないよ!わからないから、ここにいるんだよ!」

時子「フムン……」

りあむ「時子サマはなかったの?」

時子「何が」

りあむ「大学辞めたい、とか」

時子「幸運なことになかったわ」

りあむ「やっぱり、ぼくの気持ちなんてわからないんだ……」

時子「ええ、わからないわ」

りあむ「やむ……」

時子「あなたがわかるべきよ、どうしたいのかを」

りあむ「どうしたいとか、そんなのないよう」

時子「ないの?」

りあむ「やりたいことがないと怒られる世の中は間違ってる!」

時子「それなら、何故看護学科に入学したのかしら」

りあむ「……チヤホヤ」

時子「何を言ってもいいから、ちゃんと言ってちょうだい。聞こえないわ」

りあむ「チヤホヤされたい!白衣の天使のタマゴはチヤホヤされるべき!」

時子「白衣の天使になりたいわけでもないのね。就職したいわけでもなさげ、と」

りあむ「時子サマ、ぼくはどうしたらいい?」

時子「……少し待ちなさい。二言三言飲み込むわ」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:27:48.89 ID:DKif905n0
りあむ「それ、どういう意味かな?」

時子「大学の授業を受けて卒業しなさい、というのが色々な人が言う意見でしょうね」

りあむ「そうなの?」

時子「薄々気づいていたけど、私が初めての相談相手なわけね」

りあむ「あっ、頼れる人がいない哀れな奴だって思ったな!」

時子「別の意見を聞いていないなら、好都合」

りあむ「ぼくは都合のいい女……」

時子「人聞きの悪い。あなた、やりたいことはあるのかしら」

りあむ「やりたいこと?」

時子「後期の授業が始まるまでしばらく夏休みは続くわ。何かしたいことはあるかしら」

りあむ「うーん、推しに会いに行きたい!」

時子「推し?」

りあむ「推しはぼくの推しだよ!アイドルだよ!生が一番!」

時子「それを栄養にして生きているタイプなのね」

りあむ「栄養、そう必須栄養素!時子サマ、理解度が高いよ!」

時子「夏休み中はそれをしていたのかしら」

りあむ「してないよ、毎日できないよ!お財布が足らないよう、わーん」

時子「自分で言っていたでしょう、曜日感覚が狂うほどに家にいた、と」

りあむ「そうだよ、金なし友達なしやる気なしのぼくがりあむちゃんだよ……」

時子「大学の夏休みは長いわ。他に予定は」

りあむ「ない、真っ白だよう」

時子「あなたにやりたいことがないのなら、私が命令するわ」

りあむ「命令、ゾクゾクする響き!」

時子「ちょっとだけ待っていなさい。宿題をあげるわ」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:28:53.93 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

りあむ「時子サマ、このファイルは何?」

時子「ここには色々なことを学生が言ってくるわ、その一部。俗にいうウワサよ」

りあむ「群馬県出身の学生が増えてる、って何?」

時子「あなたに調べてもらうのよ」

りあむ「調べる……ぼくが?」

時子「ええ」

りあむ「ムリだよ!」

時子「別に出来なくてもいいわ」

りあむ「へ?」

時子「解決なんて望んでいないわ。嘘か真かわからないもので、採点するなんて愚かなことはしない」

りあむ「それなら、安心……?」

時子「私が調べて欲しいウワサは、3つ」

りあむ「出来なくていい、うん、それならいい」

時子「一つ目は、群馬県出身の学生が『増えて』いること」

りあむ「それはどういう意味?」

時子「あなたが調べて意味を付けなさい。調べていけば、わかるわ」

りあむ「むぅ……」

時子「二つ目は、夜に人探しをしている少女が現れること」

りあむ「夜に少女?危なくない?」

時子「だから、話がこっちに来たのでしょう」

りあむ「なる」

時子「三つ目は」

りあむ「三つ目は?」

時子「吸血鬼の末裔がいるらしいわね」

りあむ「吸血鬼、フィクションだよ?」

時子「……」

りあむ「時子サマ?」

時子「あなたが見つけたことが真実よ、答えを自分で出すことがあなたの為ね」

りあむ「時子サマ、雰囲気の良さげなことを言って騙そうとしてない?」

時子「あなたを騙す価値なんてないわよ」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:29:38.66 ID:qERzXi2O0
りあむ「か、価値なし宣言!?」

時子「騙す価値がないだけ。夢見りあむ、確認よ」

りあむ「ぼくは、時子サマの宿題をやる。ウワサを調べる」

時子「よろしい。片言なのが気になるけど」

りあむ「出来なくても良い、出来たら褒めてくれる?」

時子「ええ、何もわからなくていいわ。月曜日にもう一度ここに来なさい」

りあむ「わかった!」

時子「夕方の5時までに。いいわね?」

りあむ「5時……」

時子「自身なさげね。もしかして、昼夜逆転してるのかしら」

りあむ「してない!ちょっと、遅寝遅起きなだけ!月曜日もこれぐらいの時間でいい!?」

時子「問題ないわ」

りあむ「絶対に向いてないけど、やるしかない!時子サマに捨てられたら、ぼくは本当におしまい!人生ゲームセット、人生バッドエンド!」

時子「脅迫が少し上手くなったわ。最初に調べるといいものを教えてあげるわ」

りあむ「あるの?」

時子「吸血鬼の末裔はS大学付属高校の前で待っていれば会えるわ、おそらく」

りあむ「え、そんなに簡単に会えていいもの?」

時子「別にいいわ、苦しむことに価値はないでしょう」

りあむ「その通り、苦労努力、ムダ!」

時子「それで、調べてもらえるかしら」

りあむ「うん!今日からやるよ!米粒ほどのやる気が消えないうちに!」

時子「それがいいでしょう、がんばりなさい」

りあむ「行ってくるよ、時子サマ!」

時子「ええ、行ってらっしゃい。曜日は間違えないように」

りあむ「わかってる、月曜日!」

時子「……」

時子「任せるべきでしょうけど……手は回しておきましょう。亜季なら上手くやってくれるわね」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:35:11.80 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

S大学付属高校
S大学の敷地内に併設されている付属高校。大学と同じく由緒ある高校とのこと。

りあむ「時子サマのメモ、吸血鬼の末裔は補習を受けてるってなに?おバカちゃんなの?」

多田李衣菜「凄い髪の人がいるけど……何だろう」

多田李衣菜
S大学付属高校の3年生。フォー・ピースのリーダーでGt&Vo。自主練の帰り道に厄介事を見つけてしまった。

りあむ「あ」

李衣菜「目があった」

りあむ「まずい、りあむちゃんは女子高生の出待ちをしてる不審者じゃん!」

李衣菜「しかも、独り言が大きいし……よし、声かけちゃおう。防犯には声かけだよね」

りあむ「ヘッドフォン外した!近づいてくる!」

李衣菜「こんにちはー、誰か待ってるんですか?」

りあむ「えっと……」

李衣菜「……」

りあむ「ここで聞かないと一生そのまま!ぼくは探してる!」

李衣菜「あはは……えっと、何を?」

りあむ「吸血鬼……吸血鬼の末裔を探してる!」

李衣菜「あー、吸血鬼の末裔か」

りあむ「知ってるの?」

李衣菜「うん。金髪で紅い眼で見ればわかるから、ここで待ってるといいよ」

りあむ「ホント?嘘ついてない?ぼくをあしらおうとしてない?」

李衣菜「嘘はついてないかな、うん」

りあむ「こんなぼくに話しかけてくれる、天使……エンジェルドリームだ……」

李衣菜「あはは……そういうわけだから、きっと会えると思うよ。それじゃ!」

りあむ「あ、えっと……ありがとう、ございます」

李衣菜「気にしないで!ばいばい!」

りあむ「話しかけてくれなかったらムリだった……1日で2人もぼくにかまってくれる聖人に会えるなんて良い日だ。よし、待とう。待つのは得意だもん!」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:37:06.02 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

りあむ「流石にそろそろ飽きてきて……あっ、いた!」

黒埼ちとせ「あら?」

白雪千夜「お嬢さま、どうされましたか」

黒埼ちとせ
S大学付属高校の3年生。今年も出席日数不足で補習を受けていた。

白雪千夜
S大学付属高校の2年生。補習を受ける必要はないが、ちとせと一緒に登校し下校も一緒。

りあむ「話を聞きたい!そこの顔が良い金髪に!」

ちとせ「ちっちゃいのに、ぷにぷにそうな子が話しかけてくれた」

りあむ「じゃあ、ぼくと話してくれる……?」

千夜「なりません」

りあむ「なんで!?」

ちとせ「いいじゃない、減るものでもないし」

りあむ「ほら、こう言って……」

千夜「近寄るな。お嬢さまと一言たりとも話すべきでない存在であることは説明するまでもありません」

りあむ「え……ひどくない?」

千夜「お帰りください」

りあむ「間違いだった……時子サマとヘッドフォンのエンジェルが奇跡だったんだ……ぼくに優しくしてくれる人なんて幻だったんだ……」

千夜「面倒な人ですね。行きましょう、お嬢さま」

ちとせ「まぁまぁ、千夜ちゃん。せっかく、声をかけてくれたんだから、ちょっとお話してあげましょ?」

りあむ「え、いいの?」

千夜「仕方がありません……お嬢さまの寛大なる心に感謝するのですよ、お前は」

りあむ「お前呼ばわり……やむやむ言ってられない、時子サマに褒められるためにも!」

千夜「そこから近寄るな。話してもいいが、それより近寄ることは許していない」

ちとせ「この子も強引だから、ごめんね」

りあむ「優しい……でも、なんか……」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:37:58.73 ID:qERzXi2O0
ちとせ「私の顔に何かついてる?」

千夜「早く終わらせましょう。お嬢さまに聞きに来たことはなんですか」

りあむ「聞きたいことはね……」

ちとせ「なーに?ふふっ♪」

りあむ「吸血鬼の末裔なの?」

千夜「何を言って……」

ちとせ「そうだよ」

りあむ「そう……だよ?」

ちとせ「バレちゃった。私、吸血鬼の末裔なの♪」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:39:44.42 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

りあむ「本当にきゅうけ……」

堀裕子「きゅ、吸血鬼ですか!」

堀裕子
S大学付属高校2年。千夜のクラスメイト。彼女は補習を受けていた。

りあむ「……誰?」

千夜「冗談ですよ、お嬢さまが幼い頃から言っているものです。堀さん、ご安心ください」

裕子「そうですか!そうですよね!それではまた会いましょう!」

千夜「さようなら、お気をつけて」

ちとせ「賑やかな子ね、千夜ちゃんのクラスメイト?」

千夜「はい。堀さんです。補習を受けているようですので、会えるかと」

ちとせ「そうね。次は千夜ちゃんがお世話になってます、って挨拶しておかないと」

千夜「そこまで気をつかわないでも結構ですよ、お嬢さま」

りあむ「あの……」

千夜「まだいたのですか。どこかに行ってくれればよかったのに」

りあむ「辛辣だよぉ……こんな口調でいいの?」

ちとせ「可愛いでしょ」

りあむ「あっ、ダメ親になるタイプだ!」

千夜「話は終わりです。しっし」

りあむ「いつもだったら逃げかえるところだけど、今日は逃げないよ!バックに味方がいるからね、無敵だよ!」

千夜「厄介な思考です」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:40:47.44 ID:qERzXi2O0
りあむ「吸血鬼の末裔って本当なのか、聞きたい」

ちとせ「本当かもしれないし、嘘かもしれないよ?」

りあむ「自分でわからないの?」

ちとせ「それは秘密の方がステキでしょ?」

りあむ「そうかなぁ……」

千夜「真偽のほどは不明です。私は冗談だと思っていますが、この美しさです。更に人を魅了するカリスマ性とあわせて、吸血鬼の末裔というウワサになるもの仕方がありません」

りあむ「きみ、実はぼくと近い人種?」

千夜「はっ、御冗談を」

りあむ「鼻で笑うってこういうことか……やむ」

ちとせ「そういうわけだから、質問の回答はこれでいい?」

りあむ「吸血鬼の末裔じゃないけど、ウワサになりそうな美人がいた」

ちとせ「ありがと♪」

りあむ「そのはず、でも、なんか、あれ?」

ちとせ「あはっ、私のこと好きになっちゃった?」

りあむ「うん、多分そうなんだよ……?」

千夜「お前は危険ですね」

りあむ「危険じゃないよ!人畜無害!人を傷つける能力があればぼくはこんなに苦しまないよ!」

古澤頼子「こちらにいましたか。黒埼ちとせさん、白雪千夜さん」

古澤頼子
S大学付属高校の女性教師。担当科目は国語。いわゆる教師としての情熱はないタイプ。
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:41:43.65 ID:qERzXi2O0
千夜「古澤先生でしたね、どうしましたか」

ちとせ「そういえば、呼びだされていたの忘れてた」

千夜「そういうことは言ってください。待っていますから」

ちとせ「千夜ちゃんも一緒だよ?」

千夜「何故私が呼び出されるのですか?」

頼子「他の生徒が待っていますし、私も早く帰りたいので。こちらへどうぞ」

ちとせ「そういうことだから、一緒に行こう?」

千夜「意味がわかりませんが、そうします」

頼子「そちらの方は……」

りあむ「なに?」

頼子「いいえ、なんでもありません。名前も事情も聞く気はありません。お邪魔しました」

ちとせ「ばいばーい、調べ物がんばってね」

りあむ「あっ……ばいばい」

りあむ「……」

りあむ「一つ解決した!時子サマ、褒めてくれる!もしかして、りあむちゃんは向いてる!?」

頼子「申し訳ありませんが、校内ではお静かに」

りあむ「あ、すみません……うるさかったです……失礼します……」

りあむ「……」

りあむ「他のも調べてみようかな、行ける気がする。がんばれ、りあむちゃん、時子サマとヘッドフォンのエンジェルがついてる!」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:43:22.89 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・空き教室

頼子「4人、揃いましたね」

千夜「要件は何でしょう」

頼子「その前に点呼をします、顔と名前が一致していませんので。黒埼ちとせさん」

ちとせ「はぁい」

頼子「白雪千夜さん」

千夜「はい」

頼子「砂塚あきらさん、でしたか」

あきら「はい、そーデス……」

砂塚あきら
S大学付属高校の1年生。返答はマスクによって小声になっている。

頼子「それと」

辻野あかり「山形から来ました、辻野あかりです!はじめまして!」

辻野あかり
S大学付属高校に9月から転校してくる1年生。転校の理由は親の仕事の都合らしい。

ちとせ「可愛い♪はじめまして、あかりちゃん」

あかり「黒埼さん、よろしくお願いします!」

ちとせ「ちとせでいいよ♪」

あかり「はい、ちとせさん!」

あきら「制服違う、転校生?」

あかり「はい、9月から」

あきら「ふーん……」

頼子「私は古澤です。担当は国語です」

千夜「お嬢さまに、マスクさんに、転校生と私。呼ばれる理由がわかりません」

頼子「部活に所属していたことはありますか」

千夜「部活?」

あきら「ないデス。バイトで忙しいので」

あかり「転校前は帰宅部でした!」

ちとせ「私は……参加しても、ね?」

千夜「……」

あかり「あっ、古澤先生の部活にお誘いですか?」

頼子「違います。私は顧問をしていません」

千夜「では、なんでしょうか」

頼子「黒崎さん、白雪さん、砂塚さんは学校に馴染めているのか、探りを入れてこいと。部活に入れさせればいいだろう、と」

あきら「余計なお世話デス」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:45:26.26 ID:qERzXi2O0
頼子「私もそう思いますが、面倒なことです」

あかり「私は、どうなんでしょうか」

頼子「転校生なので面倒を見ろと。2学期からはあかりさんのクラスで授業もしますから」

ちとせ「なるほど、先生は押し付けられちゃったのね」

千夜「フム……」

頼子「私も面倒は避けたいので。特に土日に駆り出されるのは嫌です」

あきら「やる気のない先生デスね」

頼子「先生として崇められることは望みませんが、人としての権利を望みます」

あかり「でも、せっかくなので、仲良くしたいです!」

頼子「ご自由にどうぞ。あきらさんは同学年なのでいかがでしょうか」

あきら「まー、少しくらいなら」

ちとせ「ふーん、古澤先生はどうしたら褒められるの?」

頼子「明日にでも、どこだろうが幽霊部員でもいいので、部活に所属してくだされば」

あきら「絶対デスか?」

頼子「強制なんて古臭いことはしません。古臭い上司の命令に従っていますが」

千夜「教師も大変ですね」

あかり「部活かぁ」

ちとせ「あかりちゃん、何か心配事でもあるの?」

あかり「せっかく引っ越してきたので、山形で出来ない部活がしたいです!」

あきら「あるんですか?」

千夜「わかりません」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:46:11.75 ID:qERzXi2O0
頼子「自分で探してください。私からは以上です、何かご質問は」

あかり「はい!」

頼子「どうぞ。辻野さんは後で連絡先を教えてください」

あかり「先生は、お休みの日は何をしてるんですか?」

頼子「お休み、ですか」

あかり「土日は部活に出たくないって言ってたので気になって」

頼子「美術館や博物館を巡っています。首都圏は数も多く、企画展も数が多いですから」

あかり「へぇー、素敵ですね!」

あきら「そうデスかね……」

千夜「美術館……」

ちとせ「千夜ちゃん、美術館にそんなに反応しちゃって。どうしたの?」

千夜「そんなに反応はしていません」

ちとせ「千夜ちゃん、美術館が好きだもんね」

千夜「それは否定しませんが」

頼子「……」

ちとせ「そうだなぁ……ねぇ、あかりちゃん?」

あかり「はい?」

ちとせ「皆とお出かけ興味がある?色々なところに行くの」

あかり「お出かけ……興味あります!」

千夜「お嬢さま、何か企んでいませんか」

ちとせ「せっかくだから、皆が幸せになる答えが欲しいでしょ?ねぇ、古澤先生」

頼子「何でしょうか、黒埼さん」

ちとせ「部活を作っちゃえばいいと思うの」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:46:56.07 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・空き教室

ちとせ「というわけ」

頼子「フム……美術館、博物館や史跡巡りの部活ですか」

ちとせ「そうそう。良い考えでしょ?」

あきら「なるほど」

ちとせ「先生の趣味を邪魔しないし、私達は部活に入るから、古澤先生は高評価!」

頼子「確かに、私には得ですね」

ちとせ「あきらちゃんは、バイトをしてても何も言われなくなるよ?」

頼子「私は何も言う気はありませんけれど」

あきら「これから色々言われなくて済むなら、ありデスね」

ちとせ「あかりちゃんは一緒にお出かけできるし」

あかり「わぁ、ぜひ行きたいです」

ちとせ「千夜ちゃんは、付き合ってくれるわよね?」

千夜「お嬢さまがそう言うならば従うのみです。美術館には興味もありますし」

ちとせ「決まりね。部活の顧問をしてない先生と生徒4人で、設立できるわよね?」

頼子「生徒は3人いれば、問題なかったと思いますが」

ちとせ「じゃあ、オッケー?」

頼子「はい、少し手間は増えますが、美術品に興味を持ってくれるなら許容しましょう」

あかり「それじゃあ……」

頼子「設立届を持ってきます。しばらく、待っていてください」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:47:57.38 ID:qERzXi2O0
10

S大学付属高校・空き教室

頼子「代表は年齢順で、黒埼さんでよろしいですね」

ちとせ「いいよ、1年多く高校生もやってるから最適」

あかり「そうなんだ、だから……」

ちとせ「あかりちゃん、だから何?」

あかり「な、なんでもないです!」

ちとせ「真っ赤になっちゃって可愛い♪」

あかり「ほっぺが赤くなりやすいんですー」

頼子「副代表は白雪さんで、よいでしょうか」

千夜「構いません」

頼子「顧問は古澤頼子と。部活名はどうしますか」

あきら「お出かけ部?」

あかり「美術館・博物館巡り部?」

ちとせ「頼子先生を囲む会とか?」

千夜「真面目にした方が目に着けられにくいかと」

あきら「先生が言い訳は考えてくれますよね?」

頼子「はい。面倒な部活の顧問を押し付けられたくないので」

あかり「うーん、それだと……うーん?」

千夜「文化部はありますか」

頼子「文化部は運動部の対義語です。文化部にするのは難しいかと」

ちとせ「もう少し、お出かけ感が欲しいわね」

千夜「フィールドワーク部は……胡散臭いですね」

頼子「学芸調査部とでもしておきましょう。美術館の職員を学芸員と言いますし」

あきら「先生にお任せで」

千夜「私も異論はありません」

頼子「部室はこことしておきます。使いたければ使ってください」

ちとせ「だって」

千夜「使うつもりはありませんが」

頼子「書類はこれでよいでしょう。皆様にはこちらを」

あかり「プリントですか?」

あきら「道案内デスね」

頼子「明後日、日曜日、行く予定だった美術館を教えておきます。参加はご自由にどうぞ。私はその時間のバスに乗りますので」

あかり「わかりました!楽しみです!」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:48:58.41 ID:qERzXi2O0
ちとせ「先生、ここオススメなの?」

頼子「はい。現代美術が豊富です、併設されている公園も綺麗ですよ」

ちとせ「じゃあ、千夜ちゃん、いこっか?」

千夜「わかりました。お弁当の準備もします」

ちとせ「やった♪」

あかり「砂塚さんはどうですか?」

あきら「あきらでいいデス」

あかり「それじゃあ、あきらちゃん、一緒に行きませんか?」

あきら「……ちょっと考える」

頼子「次回からは金曜日に土日の予定を伝えることにしましょう。その気があるなら、放課後にこの教室に来てください」

ちとせ「はぁい」

頼子「これで終わりにします。私の手間が増える行動は謹んでください」

あかり「手間が増える行動って?」

あきら「飲酒喫煙デスよ」

頼子「本当に面倒なので辞めてください」

あきら「冗談デス」

千夜「そんなことはしません」

ちとせ「ねー」

頼子「結構です。それでは、来られる方はまた日曜日にお会いしましょう」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:50:06.24 ID:qERzXi2O0
11



S大学構内

りあむ「はー、そんなに簡単じゃなかった……増えるって意味がわからないよう……おうちかえる……」

関裕美「あっ……いた」

関裕美
紅い瞳をした少女。彼女は夜に生きるホンモノ。

りあむ「ひっ!」

裕美「……怯えられちゃった」

りあむ「あれ?女の子だ、そんなに怯える必要ないな」

裕美「そうだよ、危なくないから」

りあむ「いや、あれ、どっちかな?」

裕美「大丈夫」

りあむ「そう言う大丈夫……じゃない!」

裕美「じゃない?」

りあむ「こんな時間に危ないよ!可愛い女の子はお家にいないと!」

裕美「そっちこそ」

りあむ「背は小さくても18歳以上だから!」

裕美「そういう意味じゃないんだけど……」

りあむ「うん、ぼくも帰るから帰ろう」

裕美「帰らないよ。目的があるから」

りあむ「目的?」

裕美「この人、知らないかな?」

りあむ「めっちゃ美人なオッドアイのお姉さんだ……」

裕美「探してるの」

りあむ「しらな……あっ!」

裕美「知ってる?」

りあむ「君だ!」
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:50:40.97 ID:qERzXi2O0
裕美「私?」

りあむ「ウワサの正体だ、夜に人探しをしている少女!」

裕美「……」

りあむ「えっと、名前は?」

裕美「……」

りあむ「え、変なこときいた?」

裕美「名前は必要ないよ。私が正体だから、そう伝えれば平気」

りあむ「……でも」

裕美「いいから」

りあむ「強い眼力!むり!勝てない!」

裕美「それで、この人見たことある?」

りあむ「ない。この人見てたら、ぼくは絶対に覚えるよ!」

裕美「そっか。ありがとう」

りあむ「どういたしまして!」

裕美「ねぇ、向こうを見て」

りあむ「え?」

裕美「ばいばい」

りあむ「何もないけど……あれ?」

りあむ「いない……つまり……」

りあむ「……」

りあむ「りあむちゃんも怪奇現象はごめんだよ!やっぱり、おうちにかえる!すぐに!」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:51:23.92 ID:qERzXi2O0
12

黒埼ちとせの自宅

黒埼ちとせの自宅
黒埼ちとせの両親は海外におり、ちとせは千夜と二人暮らし。千夜の料理は絶品らしい。

千夜「お嬢さま、どちらに……メモが机の上に」

メモ『少しお散歩してくるね』

千夜「いつもの、ですね。お早いお帰りを、お嬢さま」
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:52:43.36 ID:qERzXi2O0
13

小さな公園

小さな公園
今日はラーメンの屋台が出ている日で、醤油の香りがする。CG事務所の女子寮から近い。

佐藤心「よいしょー」

仙崎恵磨「よっ」

佐藤心
CGプロ所属のアイドル。愛称は名前からしゅがーはぁと♡。只今自主トレ中。

仙崎恵磨
CGプロ所属のアイドル。無事にCDデビューを果たし、インストアライブは盛況だったらしい。

ちとせ「ふー……ちょっと、疲れちゃった」

心「アイドルに必要なのは」

恵磨「柔軟性、心も体も口も」

心「いえーす☆」

ちとせ「ラーメンも美味しそうね……食べきれないから頼めないけど」

心「年齢一桁からいるアイドル業界、同じレッスンをこなしてもメンテの必要性が段違いなわけ」

恵磨「うんうん。でも、はぁとほど年取ってないし」

心「そこまで年寄りじゃないぞ☆」

ちとせ「あの人達なにしてるんだろう……あっ、逆立ちした」

恵磨「それ、ただのジャージだよね」

心「もち、これは鍛錬の成果」

恵磨「よし、アタシも!はぁと、ちょっと見てて……よっと!」

ちとせ「わぁ、凄い、ダンサーさんなのかしら?」

心「やるー」

恵磨「ダンスも一個上を目指したいんだよね」

心「うんうん、よい心がけだぞ☆はぁとにはムリ?年とか言うなよ?」

恵磨「何も言ってないんだけど」

ちとせ「お邪魔ね……千夜ちゃんも心配するから帰ろう」

恵磨「はぁと、もう少し柔軟体操してから帰ろっ」

心「そうする……ん?」

恵磨「どうしたん?」

ちとせ「目があった、よく見たら凄い髪型……テレビで見たような?」

心「……」

恵磨「あの子がどうしたの?綺麗だからスカウトする?」

心「いや、そういうわけじゃないけど」

恵磨「じゃあ、なに?」

心「話を聞いてみよう。こんばんは〜」

ちとせ「こんばんは」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:53:49.06 ID:qERzXi2O0
心「まどろっこしいのも難だし聞くけど」

ちとせ「なぁに?私に魅了されちゃった?」

心「その自覚ある?」

ちとせ「自覚って?」

心「あなた、チャーム持ちじゃない?」

ちとせ「チャーム?」

恵磨「チャームって何さ?」

心「わからないなら、この話はナシで!でも、お姉さんからのアドバイスだぞ、聞けよ☆」

ちとせ「よく話がわからないけれど、聞いてあげる」

心「あなたの周りには人が集まるわ、でも、望まない人も近づいてくるかも。気をつけて」

ちとせ「あなた、嘘はついてなさそう」

心「いい?」

ちとせ「ええ。だから、遅くならないうちに帰ることにする。またね」

心「気をつけて帰るんだぞ、ばいばい☆」

恵磨「じゃあねー」

心「……ふう、恵磨ちゃんはわかった?」

恵磨「何が?」

心「彼女、チャーム持ちよ、たぶん」

恵磨「さっきから言ってるけど、チャームって何さ?」

心「人に好かれる力、無意識のうちに相手に好意をすりこむ。好意なんて、主観的なものを変えちゃうわけ」

恵磨「アタシにはわからないけど、別に問題ないんでしょ?」

心「普通はねー。でも、好きの感情でおかしくなっちゃう人もいるから、さ」

恵磨「……そっか」

心「ま、忠告したから大丈夫のはず」

恵磨「フーン……でも、さ」

心「なに?」

恵磨「あの子、体が弱いんじゃない?裕美ちゃんみたいに」

心「……」

恵磨「ん、なんか変なこと言った?いや、思いつくままに言っただけなんだから当然か」

心「うん、恵磨ちゃんは思い付きは大切にした方が良いタイプ☆さ、柔軟やって寝よう!」

恵磨「オッケー。終わったら、ラーメン食べない?良い匂いするし」

心「アイドル的にはノーセンキュー!我慢する精神力がアイドル力だぞ☆」
31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:54:41.13 ID:qERzXi2O0
14

深夜

夢見りあむの自室

りあむ「かきかき……」

ノート『吸血鬼の末裔とウワサになってたのは、黒埼ちとせ!S大学付属高校の学生!金髪、紅い眼、顔よし、スタイルよし!』

りあむ「むふむふ……」

ノート『深夜に人探しをする少女は実在した!でも、幽霊の可能性あり!知らないといえば去っていくから思わせぶりは禁物!』

りあむ「でも、写真はホンモノだった?」

ノート『探してる人の写真はオッドアイの凄い美人でした。この世にいないような』

りあむ「いいよ、これで時子サマ、喜んでくれる……はず……」

ノート『明日からもう一つのウワサ探しーーーー』

りあむ「すぅすぅ……むにゃむにゃ……」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:56:00.81 ID:qERzXi2O0
15

翌日・8月中旬のとある土曜日

タコ公園

タコ公園
タコの形をした滑り台がおかれた公園。住宅街の真ん中にあり、子供の遊び場であり近隣住民の憩いの場。

りあむ「……」

姫川友紀「うーん、わからない!」

姫川友紀
公園で挙動不審だったりあむに声をかけたフリーター。バックから野球観戦グッズがはみ出ている。

りあむ「そっか……」

友紀「増えるなんて意味わからないよー」

りあむ「ぼくもそう思うけど……」

友紀「増えるなら人間じゃないよね!」

りあむ「……」

友紀「キャッツも勝ったし、人助けも出来た!美味しいお酒が飲める、それじゃ!」

りあむ「えっと、ありがとう、ばいばい……」

りあむ「上手くいかない!S大学から調べる範囲を広げてみたのに!やっぱり昨日が奇跡だったんだ……」

りあむ「……」

りあむ「でも、せっかく家から出て来たから夕ご飯まではがんばる。夕ご飯は楊さんのお店にするんだ。りあむちゃん、がんばりやでしょ……がんばりやじゃないな。惰性で動く……」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:56:59.95 ID:qERzXi2O0
16

久川家・前庭

久川家
タコ公園の近くにあることを、夢見りあむはまだ知らない。

コンコン!

久川颯「なー、ちょっと来て!」

久川凪「はーが庭から窓を叩いて呼んでいます。何でしょうか」

久川颯
はー。久川凪の双子の妹。明るく元気な周りの人を巻き込めるリズムの持ち主。

久川凪
なー。久川颯の双子の姉。独特なリズムと感性で生きているタイプ。

颯「一緒に来て、隣の家に」

凪「なんと、スタイル抜群のJCに空き家にお誘いされてしまいました。双子の妹ですが」

颯「おっけ、静かにね」

凪「静かにしているのは自信があります」

颯「ゆーこちゃんにも言わないで、いい?」

凪「いいです。だけど、ちょっと待ってください」

颯「なに?」

凪「玄関で靴を履きます。待っていてください」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:57:45.06 ID:qERzXi2O0
17

久川家隣の空き家・リビングダイニング

隣の空き家
持ち主不明の空き家。地元の不動産業者が持ち主を必死に探しているらしい。

凪「おー、入れるとは知りませんでした」

颯「怒られるから秘密だよ、いい?」

凪「秘密は蜜の味です、もちろん」

颯「しー、起きちゃうから静かに」

凪「起きる?起きることができるというと、動物でしょうか」

颯「まだ寝てる……ほら」

凪「なるほど、これは大物ですね」

高垣楓「……すー」

高垣楓
銀髪の美女は水の入ったペットボトルを抱きしめながら、台所で眠っている。

凪「生きてますか?人形のようです」

颯「うん、息はしてる」

凪「空き家に美女と美少女と一緒。たまらないシチュエーションかもしれません」

颯「凪もカワイイよ?」

凪「なるほど。自給自足というやつですね。パシャリ」

颯「なー、何してるの?」

凪「写真をスマホで撮りました。後で役に立つかもしれません」

颯「そうかなー」

凪「半分は趣味です。美少女を撮るチャンスはありますが、美女を撮るチャンスは少ないですから」

颯「どうしたらいいのかな、お腹とか空いてないかな?」

凪「満腹そうな顔をしています」

颯「あれ?確かにそうかも」

凪「はーちゃん」

颯「なー、どうしたの?」

凪「何かいるような気がしています」

颯「どこに?」

凪「この美女の後ろに、です。チューニングをしましょう」

颯「うん。はい、なー、両手を出して」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:58:22.42 ID:qERzXi2O0
凪「はーちゃん、これでよいです。あっちが見えるチャンネルにあわせましょう」

颯「目をつぶって……」

凪「カチリ」

颯「カチリ」

凪「カチカチカチ」

颯「カチッ、ピュイ」

凪「ハロー。こんにちは。ニーハオ」

颯「わっ!大きな口が浮いてる!」

凪「あっちも驚いているようです」

颯「ごめん、驚かせる気はなかったんだ」

凪「可愛いはーちゃんに免じて赦してください」

颯「私は久川颯、こっちは久川凪」

凪「よろしくお願いします」

颯「あなたはどなた?」

凪「口はあるようですが、話は出来ないようです。クチアリのクチナシです。クシナシの花言葉はとても幸せです」

颯「喋れないんだー、残念」

凪「しかし、このお口の正体はわかります」

颯「なー、わかるの?」

凪「ネットで読みました。この口は、なんとー」

颯「なー、もったいぶらないで教えて?」

凪「これは『捕食者』です」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:59:26.45 ID:qERzXi2O0
18

久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「『捕食者』って、食べられちゃうの?」

凪「いいえ。この通り、人間がいるチャンネルにはあっていませんので人間や私達の食べているものは食べません」

颯「へー、じゃあ何を食べてるの?」

凪「妖怪や幽霊を食べています。人間に害をなすものを食べてくれる良い存在とされています、と書いてありました」

颯「うーん、でもここで満腹そうに寝てるってことは?」

凪「ここに食べ物がいたのでしょう」

颯「あ、口をパクパクしてる!そうだよ、ってことかな?」

凪「そのようです。何が居たのかもうわかりませんね」

颯「ありがと!正義の味方だったんだ」

凪「しかし、気になります」

颯「気になる?」

凪「『捕食者』は人間と一緒になる必要はないです」

颯「そうなの?……うん、って動いたかな」

凪「普通の人や動物からは見えませんし、必要性はないかと」

颯「この人は、あなたの分身?」

凪「違うと思います、おそらく」

颯「はー達と同じ人間かな」

凪「そうだったみたいです」

颯「そうだった?」

凪「なんとなくですが、今の方がはっきりと見える気がします」

颯「人間から『捕食者』さんになってるってこと?」

凪「自分で言ったのですが、わかりません」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:00:00.76 ID:qERzXi2O0
颯「うーん、『捕食者』さんも困った口してる」

凪「凪に名案があります」

颯「なになに?思いついた?」

凪「この人が起きるのを待ちましょう」

颯「そうだね、二人で分担して見にこよっか」

凪「はい。それでは、失礼します」

颯「またねー」

凪「はーちゃん」

颯「なー、手出して?」

凪「はい。どーぞ」

颯「カチっとな」

凪「見えなくなりました」

颯「また見に来るね、ばいばい」

凪「また会いましょう」

楓「すぅ……すぅ……」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:00:54.55 ID:qERzXi2O0
19

楊さんの中華料理店

りあむ「疲れた……やむちゃが待ち遠しい……」

楊菲菲「お待たせ、飲茶セットダヨー」

楊菲菲
中華料理屋を営む楊さんの娘。S大学なら出前にも行くらしい。

りあむ「やむちゃ!ありがとう!」

フェイフェイ「いつもありがとうダヨー、今日は大学?」

りあむ「違うよ!調べ物をしてた、りあむちゃん偉い」

フェイフェイ「調べモノ?」

りあむ「ウワサを調べてる、でも、今日は収穫なし……やむちゃで回復しないと」

フェイフェイ「大学生はウワサが大好きネー」

りあむ「そうなのかな?」

フェイフェイ「前も調べてる人達がいたヨー」

りあむ「ふぅん、そんな変わった人達もいるんだ」

フェイフェイ「ガンバリ過ぎはダメ、やむちゃはお腹いっぱい食べて休むといいネ」

りあむ「うん、休む!日曜日は神様が休むと決めた日、休まないと」

フェイフェイ「追加があったら呼んでネ、ごゆっくりダヨー」

りあむ「いただきます、モグモグ。美味しい、勤労にこの味はきく……」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:02:06.80 ID:qERzXi2O0
20



久川家隣の空き家・リビングダイニング

楓「すぅすぅ……」

颯「起きないね」

凪「はい、やはり普通の人ではないようです」

颯「パンとお菓子を持って来たけど、食べるかな?」

凪「置いておきましょう。寝ていてもお腹は空きますか?」

颯「うん、お腹は空く」

凪「凪は戻ります」

颯「ここに置いておくからね、良かったら食べてね」

凪「おやすみなさい……既に寝ていますか」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:02:40.45 ID:qERzXi2O0
21

幕間

みんなが眠った夜。

こんな夜こそ、私の出番です。

さぁ、怪物に名乗りをあげましょう!

「我が名はスーパーレッド!」

おやおや、キョトンとされてしまいました。

ふっふっふっ、このスーパーレッドに恐れをなしているようですね!

さぁ、正義の力をお見舞いしましょう!

再びこの地に現れた、この怪物達に!

幕間 了
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:03:48.54 ID:qERzXi2O0
22

翌日・8月中旬のとある日曜日

某ターミナル駅・バス停前

あかり「おはようございます!」

頼子「おはようございます」

あかり「あきらちゃんも、挨拶するんご!」

あきら「おはようございまス……」

頼子「揃ってしまいましたね、想定外です」

あかり「あっ!ちとせさん、千夜さん!」

ちとせ「おはよう、あかりちゃん」

千夜「辻野さんでしたか、朝からお元気ですね」

頼子「まぁ……悪いことではありませんか」

ちとせ「先生、号令とかないの?」

頼子「到着後にしましょう。バスが来たら教えますので、バス停から離れないでください」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:05:32.50 ID:qERzXi2O0
23

久川家隣の空き家・リビングダイニング

凪「まだ寝ていますね」

楓「すぅすぅ……」

颯「なー、ここ見て」

凪「ゴミが落ちています。不法侵入でしょうか、私達もですね」

颯「違うって。昨日、はーが持って来たの食べたみたい」

凪「起きたということですね」

颯「うん」

凪「水も減っています。食事をしたのでしょう」

颯「でも、寝てるね」

凪「『捕食者』さんはまだお腹いっぱいのようですね、動いていないということは」

颯「寝かせてあげようか。また、見にこよう」

凪「はーちゃんのいう通りにします」

颯「またね」

楓「……」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:06:23.91 ID:qERzXi2O0
24

興梠美術館・バス乗り場

興梠美術館
都心からバスで1時間。親子3代で集めたコレクションは評価が高いらしい。

頼子「改めまして、おはようございます」

あかり「古澤先生、よろしくお願いします!」

千夜「この美術館はどのような美術館なのですか」

頼子「私は職員ではないので、説明はしません。自由に調べ、自由な感性で見てください」

千夜「そう言うのなら、そうさせていただきます」

頼子「私からは食事場所と帰りのバスについてだけ教えておきます」

ちとせ「私は千夜ちゃんが作ってくれたお弁当♪」

頼子「食事はそちらに併設のレストランがあります。少し行けば小さな食堂もありますのでご自由に」

あかり「あきらちゃん、どうする?」

あきら「来る前にコンビニで買ってきました。お店が周りになかったので」

あかり「え!どうしよう!?」

ちとせ「一緒に食べる?分けてあげようか?」

あかり「いいんですか……?」

ちとせ「千夜ちゃん、いいよね?」

千夜「私は構いません。作りすぎてしまったので」

あかり「わーい」

あきら「……」

ちとせ「あきらちゃんも一緒に、ね?」

あきら「ご一緒します。独りよりは良いデスから」

千夜「古澤先生はどうされますか」

頼子「私にはお構いなく。帰りのバスは一昨日配ったビラに書いています。本数が少ないので」

千夜「この路線は、往復1本しかないのですね」

ちとせ「行きはさっき乗って来たやつね」

あきら「別ルートで帰るのは大変デス、調べました」

あかり「乗り遅れないように覚えておかないと……」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:06:57.66 ID:qERzXi2O0
頼子「私からは以上です。私も自由にしますので、ご自由に」

ちとせ「はーい」

頼子「……何故、ついてくるのですか」

ちとせ「ご自由に、って言ったから」

千夜「不慣れですので。参考にと」

あかり「せっかくだから、一緒がいいんご」

あきら「まずは真似デス」

頼子「わかりました、少しは案内します。まずは入場券を買いましょう、こちらです」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:07:56.40 ID:qERzXi2O0
25

興梠美術館・2階・広い展示室の真ん中・休憩用のソファ

千夜「お嬢さま、お体の様子は」

ちとせ「千夜ちゃんは大袈裟、ちょっと座りたくなっただけ」

千夜「ですが……」

あかり「ちとせさん、大丈夫ですか」

ちとせ「ありがと、あかりちゃん。じゃあ、お願いしていい?」

あかり「はい、何でも言ってください!」

ちとせ「それじゃあ、血を吸わせて」

あかり「はい……血?えええ!」

千夜「お嬢さま、冗談はほどほどにしてください」

ちとせ「ごめんね。でも、素直な子は好きよ」

あかり「す、すきって」

ちとせ「あはっ、可愛いー」

千夜「美術館はお静かに」

あきら「見てきました」

あかり「あきらちゃん、古澤先生はどうだったんご?」

千夜「あの真っ赤な絵の前から、動きませんか?」

あきら「#動かない #銅像 #聞いてない #まるで恋する乙女」

ちとせ「恋する乙女ね、それ以外に何も見えて無さそう♪」

あかり「どうしましょう?」

あきら「……お手上げデス」

千夜「思ったよりは、案内してもらいました。これからは自由行動でも良いでしょう」

ちとせ「そうね。千夜ちゃん達も自由に見て来ていいわよ?」

千夜「いえ、お嬢さまから離れるわけには」

ちとせ「あきらちゃんが一緒にいてくれるから、ね?」

あきら「急デスね……まー、疲れて来たのでちょうど良いデス」

ちとせ「だって」

千夜「では、お言葉に甘えて」

あかり「千夜さん、ご一緒していいですか?」

千夜「構いません」

あかり「はいっ」

ちとせ「いってらっしゃい〜」

あきら「……」
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:09:20.87 ID:qERzXi2O0
ちとせ「ふぅ、千夜ちゃんも自由にすればいいのに」

あきら「あの……」

ちとせ「なに?何でも聞いていいよ?」

あきら「じゃあ、聞きます。なんでお嬢さまと呼ばれてるのデスか?」

ちとせ「ああ、千夜ちゃんは私の僕ちゃんだから」

あきら「しもべちゃん……意味がわからない」

ちとせ「ちょっと理由があって、身の回りのお世話をしてもらってる。そういう建前で一緒に住んでるから、千夜ちゃんはお嬢さまって呼ぶようになったの」

あきら「……聞かない方が良かったデスか」

ちとせ「気をつかってくれてありがとう。大丈夫、恥ずかしいことや秘密にしたら千夜ちゃんを傷つけることになるから」

あきら「……」

ちとせ「私が体も弱いから、千夜ちゃんが一緒にいてくれて嬉しいの」

あきら「……重いデス」

ちとせ「ごめんね、話したいのは私の方」

あきら「聞いてしまったから、少しは助けます」

ちとせ「ありがと、優しいのね」

あきら「……急に倒れられたら面倒デス」

ちとせ「……そうね」

あきら「一緒に座ってます、いいデスか?」

ちとせ「うん、ここからでも展示物は見えるし」

あきら「それにしても……」

ちとせ「どうしたの?」

あきら「現代芸術は凄い大きいデスけど、#意味不明」

ちとせ「古澤先生は言ってたでしょう、意味はなくて自分から引き出された気持ちが全てだって」

あきら「言ってましたけど、わからない」

ちとせ「あはっ、私も。一緒に、あの黒い正方形の絵を眺めてみよっか」

あきら「そうします、黒い正方形が9つあるだけ……じゃないんデスよね」

ちとせ「きっとね。自分の中から何かが出てくるか試してみよっか」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:11:07.39 ID:qERzXi2O0
26

興梠美術館・2階・順路一番奥の展示室

千夜「私がお嬢さまにお仕えすることになった経緯はこんな所です」

あかり「えっと……」

千夜「秘密ではありません。お嬢さまと砂塚さんも同じ話をしているでしょう」

あかり「……」

千夜「私にはお嬢さまが全てです。それ以上の価値は……ありません」

あかり「そうかな……」

千夜「少し話し過ぎました。今は美術館をお楽しみください」

あかり「そう、楽しむんご!」

千夜「ただし、お静かに」

あかり「千夜さんは楽しくないですか?」

千夜「美術館ですか。お嬢さまは楽しそうなので、良いかと」

あかり「違います!千夜さんはどうですか?」

千夜「……」

あかり「楽しくないですか?」

千夜「興味深くはあります」

あかり「千夜さんにも楽しいこととか、やりたいことが見つかるかも」

千夜「やりたいことですか」

あかり「ないんですか?」

千夜「お聞きしますが、あなたにはありますか」

あかり「え、えっと……」

千夜「私は私が何かをなすことはないと思います……ですが、お嬢さまのためならそれは違うかもしれません」

あかり「でも」

千夜「展示はこれで終わりのようですね。お嬢さまの元に戻りましょう」

あかり「……はい」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:12:37.80 ID:qERzXi2O0
27

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「#冷房最高 #外は灼熱 #ピクニックじゃなくて苦行」

ちとせ「ここでお昼にしよっか。食事していいみたいだし」

千夜「はい。机と椅子もありますので良いかと」

ちとせ「それじゃあ、あかりちゃんとあきらちゃんも座って」

あきら「そうしま……」

あかり「私、飲み物を買ってきます!あきらちゃんも行くんご!」

あきら「ちょっと待って、ひっぱらないで……」

あかり「いってきまーす!古澤先生も呼んでくるんご!」

ちとせ「あきらちゃん、連れて行かれちゃった」

千夜「行ってしまいました。食後の紅茶は水筒で用意しているのですが」

ちとせ「可愛い後輩が気をつかってくれたんだから、楽しみに待ってましょう」

千夜「お嬢さまが言うならそうします。準備をしますので、お待ちください」

ちとせ「はぁい」

千夜「あの、お嬢さま」

ちとせ「千夜ちゃん、なに?」

千夜「砂塚さんと何かお話しになりましたか?」

ちとせ「体が弱いからちょっとだけ助けてね、って」

千夜「……そうですか」

ちとせ「千夜ちゃんはあかりちゃんと仲良くなれた?」

千夜「わかりません」

ちとせ「いいえ、じゃなくてわからないなんだ?」

千夜「……」

ちとせ「わかったら聞かせてね」

千夜「……はい」

ちとせ「千夜ちゃんは何か気になる美術品はあった?」

千夜「そうですね、私は屏風が気になりました。ムーランが題材のようでした」

ちとせ「へぇ、どうして?」

千夜「それはですね……」
49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:16:11.30 ID:qERzXi2O0
28

興梠美術館・バス停近くの自動販売機前

あきら「両親は海外、病弱なお嬢さま、一浪して高校3年生、僕ちゃんは可愛い、けど」

あかり「火事、お嬢さまと二人暮らし、お料理が得意、私は何もしない、って言ってましたけど」

あきら「つまりデスよ」

あかり「うん」

あきら「お嬢さまは僕ちゃんにやりたいことを見つけて欲しいのデス」

あかり「だよね、やっぱり」

あきら「ちとせサン、そんなにお世話が必要デスかね?」

あかり「ちょっと体は弱いけど、千夜さんがずっと傍にいなくてもいいですよね」

あきら「同感デス」

あかり「千夜さんが、ずっと近くに居たいんですよね。多分」

あきら「好きというか……」

あかり「うーん……」

あきら「あかりはどうしたらいいと思う?」

あかり「わからないんご……」

あきら「自分も同じ」

あかり「出来ることは……」

あきら「出来ることデスか……」

あかり「この部活に出ること、とか?」

あきら「ちとせサンが作ったような部活デスから」

あかり「そうしましょう!千夜さんは美術館が好きみたいだし、あきらちゃん、協力してください!」

あきら「バイトが入ってなければ。ちとせサンから事情も聞いたし」

あかり「えへへ、決まりですね!」

あきら「まー、良いデス。部活に入ることを何故か兄ぃも喜んでたし」

あかり「飲み物はこれでいいですか?」

あきら「トマトジュースも買いました、千夜サンは何が好きなんでしょう?」

あかり「後で聞いてみましょう!」

あきら「そーデスね。次は好きな物を買えます」

あかり「それじゃあ、古澤先生を探しにいきませんか」

あきら「どこにいるんデスかね?」

あかり「まだ美術館の中かな、それと聞きたいこともあるので」

あきら「聞きたいこと、デスか?」

あかり「古澤先生は事情を知ってるんでしょうか?」

あきら「どうなんデスかね。興味なさげデス」

あかり「でも、協力してもらわないと」

あきら「正直、この作戦は先生次第デス」

あかり「行きましょう!」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:17:03.23 ID:qERzXi2O0
29

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「飲み物を買ってきました」

ちとせ「おかえりー」

千夜「古澤先生もいらっしゃったのですね」

頼子「はい。昼食は自分で用意していますが、ご一緒します」

あかり「ちとせさん、トマトジュースをどうぞ!」

ちとせ「あかりちゃん、ありがと」

あきら「千夜さんは、この中だとどれが好きデスか?」

千夜「それでは、リンゴジュースを頂きます」

あかり「んご?」

千夜「辻野さん、どうしましたか」

あかり「いいえ、何でもないです!」

千夜「そうですか」

ちとせ「じゃあ、ご飯にしよっか。いただきます♪」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:17:32.97 ID:qERzXi2O0
30

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「アンテナショップ、デスか?」

あかり「うん。山形の物をいつも買えるんですよ」

頼子「学校から歩いて行ける距離にありましたね、そちらですか」

あかり「はい!いつでも来て欲しいんご!」

ちとせ「今度、千夜ちゃんと一緒に……あれ」

千夜「……」

頼子「お休みのようですね」

ちとせ「お弁当作るのに早起きしたから、寝ちゃったみたい」

あかり「静かにしないとですね」

あきら「#寝息小さい #動かない #美形 #人形」

頼子「ごちそうさまでした。私は美術館の方に戻ります」

ちとせ「あかりちゃんとあきらちゃんも行ってきていいよ?」

あかり「はい。古澤先生、一緒に行きませんか?」

あきら「ここの作品はちょっと難しいデス」

頼子「構いませんが」

ちとせ「千夜ちゃんの可愛い寝顔は独占しておくから、楽しんできてね」

あかり「はい、行ってきます!」

52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:18:12.80 ID:qERzXi2O0
31

夕方

久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「起きてるかな?」

凪「どうでしょうか」

楓「こんにちは」

颯「わっ、本当に起きてた!」

凪「おー、予想外です」

楓「お邪魔でしたか」

凪「いえ、ここは空き家です」

楓「そうですね、あれだけいたら人が住むには大変でしょうから」

颯「あれだけ、いた?」

楓「もういませんから、安心してください」

颯「そうだ、パンとお菓子食べた?」

楓「いただきました」

颯「美味しかった?好きな物だった?」

楓「……ええ。ありがとうございます」

凪「名乗っていませんでした。久川凪です、はーちゃんの姉です」

颯「久川颯だよ。なーの双子の妹!」

楓「双子ちゃんでしたか」

凪「お姉さんのお名前をお聞かせください」

楓「名前……ですか」

颯「うん」

楓「高垣楓です」

颯「楓さん、よろしくね!」

凪「颯と楓ですか。字面にすると紛らわしいですね」

颯「ねぇ、聞きたいことがあるんだ。楓さん、聞いてもいい?」

楓「私に、ですか?」

颯「うん」

楓「何かお困りごとでも?」

颯「困ってないよ、聞きたいだけ」

凪「よいでしょうか」

楓「ええ、私に答えられることなら」

凪「あなたは『捕食者』ですか、それとも人間ですか」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:20:11.38 ID:qERzXi2O0
32

久川家隣の空き家・リビングダイニング

楓「見えるのですか」

颯「うん。昔から、こうするとね」

凪「チャンネルが別になります」

楓「フム……こちら側に来れるということですね」

凪「こちら側とはどういう意味でしょうか」

楓「『シスター』にお会いしたことは」

颯「シスター?会ったことないよ?」

凪「クリスマスは祝いますが」

楓「……」

颯「楓さん?」

楓「質問にお答えしていませんでしたね。お答えします」

凪「……」

楓「私は人間です、ほとんど」

凪「ほとんど、ということは」

楓「少しだけ人間ではありません」

颯「……そうなんだ」

楓「『捕食者』に力をいただき、この体を維持しています。人間であるために、少しだけ人間でなくなりました」

颯「……」

凪「気になることは色々ありますが」

楓「私が選び、与えられた在り方です。そこに悔いはありません」

颯「帰るところはあるの?」

凪「不法侵入です。私達もですが」

楓「いいえ、ありません」

凪「その答えはオカシイです」

颯「うん、違うと思う。帰る所あるよね?」

凪「人間としての身なりがキレイです」

颯「服も幾つか持ってて、お風呂にも入ってそう」

凪「つまり、生活環境もしくはお金があります」

楓「嘘はつけませんね。帰る所はありますが、帰りません」

颯「なんで?ケンカしちゃった?」

楓「……」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:21:08.50 ID:qERzXi2O0
凪「事情があることはわかります」

颯「一緒に住んでる人はいるの?心配してると思うよ」

楓「ええ……だから、です」

凪「……」

楓「大丈夫ですよ、あなた方よりも大人ですから」

颯「そうかな」

凪「凪にはそうとは思えません」

楓「……」

凪「……」

楓「わかりました。お使いをお願いできます、か」

颯「お使い?」

楓「出渕教会という所に住んでいました。そこに、私の無事を伝えていただけますか……ふぁ……」

颯「楓さんは帰らないの?」

楓「まだ満腹です、もう少し休もうかと……」

凪「そんなに、たくさんいたのですか」

楓「はい、とっても……」

颯「うち、凄い所に家を建てちゃったんだね……」

凪「ラッキーです、助かりました」

楓「今日はもう遅いですから、明日にでも訪ねてください……いいでしょうか」

颯「わかった」

楓「それでは、おやすみなさい……」

凪「眠ってしまいました」

颯「途中から眠そうだったね」

凪「はい。少しだけ人間でないのは本当のようです」

颯「うん。明日、出渕教会だっけ、に行ってみようか」

凪「ええ。戻ることにしましょう」

颯「ゆーこちゃんのお手伝いしよう」

凪「はい。狙うはおかず一品追加です、ゆーこちゃんをその気にさせましょう」
55 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:23:16.77 ID:qERzXi2O0
33

某ターミナル駅・バス停前

頼子「それでは解散します、また金曜日に」

あかり「古澤先生、ありがとうございました!」

頼子「お気をつけてお帰りください」

あきら「相変わらず素っ気ない人デスね」

あかり「でも、良い先生かもしれないです」

あきら「そーデスね」

千夜「お嬢さま、帰りましょうか」

ちとせ「はぁい。みんな、バイバイ♪」

あかり「さようなら!あきらちゃん、途中まで一緒に帰るんご!」

あきら「はい、そーします」

あかり「駅の改札は」

あきら「あっちデス。それと、言いたいことが」

あかり「あきらちゃん、なんですか?」

あきら「語尾に、「んご」は初めて聞きました」

あかり「えっ……都会で流行ってるハズじゃ!」

あきら「ないデス」

あかり「んごぉぉ!恥ずかしいんご!」

あきら「あかりらしくて良いデス、たぶん」

あかり「そうかな?あきらちゃんが言うならそうするんご!」

あきら「まー、どっちでもいいデス。帰りましょう、一日いると疲れました」

あかり「うんっ。でも、次も楽しみだね」

あきら「……そーデスね」

あかり「帰ったらりんごを食べて休みましょう、電車に乗って帰るんご♪」

あきら「あかり、帰り道はそっちじゃないデス」
56 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:23:58.70 ID:qERzXi2O0
34



久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「あっ!」

凪「これは、一本取られましたね」

颯「楓さん、いなくなっちゃった」

凪「逃げられました」

颯「教会も嘘なのかな……」

凪「先ほど調べました、出渕教会は存在しています」

颯「無事は伝えて欲しいのに」

凪「本人は帰る気はない」

颯「うーん、素直に帰ればいいのに。ね?」

凪「しかし、凪は決まりました」

颯「なー、何を決めたの?」

凪「明日、出渕教会へ行きましょう。興味があります」

颯「うん、一緒に行こう」
57 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:25:09.43 ID:qERzXi2O0
35



楊さんの中華料理店

フェイフェイ「やむちゃ、今日も調べてた?」

りあむ「そんなにしてたら疲れるよ、昨日言った通り休み!おうちでダラダラ!料理も自分でしない!」

フェイフェイ「そうなのかー。やむちゃ、幸せネ」

りあむ「ねぇ、ぼくの名前知ってる?」

フェイフェイ「常連さんの名前は憶えてるネ!あなたは夢見やむちゃ!飲茶が大好き!」

りあむ「違うよ!?」

フェイフェイ「違ったカ?いつもやむやむ言ってる」

りあむ「いや、フェイフェイちゃんは自分の名前を語尾につけるの?」

フェイフェイ「つけるフェイフェイ。やむちゃはつけないフェイフェイ?」

りあむ「乗ってきた!全然語呂がよくない!」

フェイフェイ「冗談ネ、やむちゃも冗談はやめ」

りあむ「冗談じゃないから!ぼくは夢見りあむ!覚えて」

フェイフェイ「りあむ?りあむ、りあむ、覚えたヨー」

りあむ「うんうん、明日は時子サマに褒めてもらう!そうしたらここでご馳走してもらう!」

フェイフェイ「よくわかんないけど、がんばるといいヨー。やむちゃ、ごゆっくりダヨー」

りあむ「やむちゃじゃない!いや、呼んでくれるならやむちゃでもいいけど!」
58 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:26:35.29 ID:qERzXi2O0
36

翌日・8月中旬のとある月曜日

午前

出渕教会・玄関前

出渕教会
神戸在住のシスターが所有する小さな教会。シスターが滞在中の場合のみ、礼拝等が行われる。

颯「なー、ここであってる?」

凪「あっているはずです。ここを見てください」

颯「掲示板かな、出渕教会って書いてある」

凪「ここが出渕教会です」

颯「でも、シスター不在のため閉館中だって」

凪「住んでいると言っていました。シスター以外の誰かがいるはずです」

颯「うん、楓さんのことを伝えないとね」

凪「何が待ち受けているのでしょう」

颯「なー、そんなに怖がらなくても。楓さんも良い人そうだったよ」

凪「なるほど」

颯「何がなるほど、なの?」

凪「人とは限らないのかもしれません」

颯「人じゃなくても、大丈夫だって」

凪「心配していても仕方がないですね。行ってみましょう、藪をつついて蛇を出すのが得意です」

颯「うん。玄関の扉は開いてるよ」

凪「失礼します」

颯「お邪魔しまーす」

凪「祭壇があります。礼拝をする部屋のようです」

颯「あっ、人がいるよ!こんにちは!」

凪「こんにちは」

速水奏「あら、可愛らしい双子のお客様。天使の加護が欲しいのかしら?」

速水奏
N高校に通う高校生。去年は出席日数不足で留年してしまったらしい。
59 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:28:15.39 ID:qERzXi2O0
37

出渕教会・1階・礼拝堂

颯「え……?」

凪「おや……?」

奏「驚かせちゃったかしら。私は速水奏。出渕教会に何かご用事?」

颯「なー」

凪「はい、はーちゃん」

颯「手を出して」

凪「どーぞ。チャンネルをあわせます」

颯「カチ」

凪「カチ」

颯「はい、おっけ」

凪「見て見ましょう……おや」

颯「何も変わらないね」

凪「そんなことはないと思うのですが」

颯「うーん」

奏「2人で手を繋いだり離したりして、どうしたのかしら」

颯「あの、変なことを聞くかもしれませんけど」

奏「変なこと?何かしら?」

凪「あなたは人間ではないのですか」

奏「ふふっ。そうかもしれないわね」

颯「でも、何も見えないから……」

凪「正体がわかりません」

颯「教えてもらえませんか」

奏「それなら、何だと思うのかしら?」

凪「実体はあるようです」

颯「チャンネルをあわせても何も見えない」

凪「幽霊か人間以外の存在……妖精?」

颯「上手く隠してるとか?」

奏「残念。正解じゃないわね」

颯「うーん……」

凪「正体はわかりませんが、お姉様は凄い存在だと思います」

颯「女神様とか」

奏「口がお上手ね。でも、不正解」

松永涼「奏、その辺で辞めておけ」

松永涼
教会の奥から出て来たドクロのアクセサリーが目立つ女性。出渕教会に住んでいるとのこと。
60 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:29:04.36 ID:qERzXi2O0
奏「ここからが楽しみなのに」

涼「中学生くらいの女の子を惑わせても困るだけだ。しかも、出入りしているとはいえ奏は教会の住人じゃない」

奏「あら、せっかく仲間にしてもらったのに。酷い言い方ね」

涼「そこまで求めてはいないってことさ。アンタはアンタの生活を優先しろ」

奏「そこまで言うなら、カワイイ双子ちゃんの対応はお譲りするわ」

涼「そうしてくれ。さて、どうした?」

颯「なー、まただよ?」

凪「はーちゃん、私もそう思います」

涼「どうした?」

颯「あなたも、あちら側なの?」

涼「……」

奏「あなた達がこちら側、と言うのが正しいかしらね」

涼「なるほどな、奏」

奏「なにかしら」

涼「地下で話を聞こう。いいか?」

奏「私は構わないけれど、あなた達はどうかしら」

凪「凪は問題ありません」

颯「はーも話したいことがあって」

涼「決まりだな、こっちだ」
61 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:30:40.89 ID:qERzXi2O0
38

出渕教会・地下1階

出渕教会・地下1階
住人達の居間。涼の私物であるプロジェクターが備え付けられており、奏の目的はこのプロジェクター。

奏「へぇ、見えるのね」

涼「ラジオのようにチャンネルを変えるか。いつから見えるようになった?」

凪「生まれた頃からです」

颯「赤ちゃんの頃は何もしなくても見えてた、ような」

凪「今の方法は小学生になった頃に覚えました」

奏「自力で?」

凪「図書館で調べました」

颯「なーは頭がいいんだよ」

涼「普通は調べられないし、わかっても実践できない」

奏「生まれながらにこちら側と」

涼「そうみたいだな」

颯「お姉さん達は?」

涼「何か見えるか?」

凪「見えません、何も」

涼「アタシはそうだろうな。こっちは」

颯「ううん、何も見えないよ」

涼「羽は見えないか?」

颯「羽?」

凪「見えません、どのチャンネルでも」

奏「私は隠せるもの、誰にも見えないように」

涼「そうなのか?」

奏「そうじゃなかったら、狐の結界に入れないでしょう?」

涼「へぇ、そんな理屈だったのか」

颯「お姉さん、羽があるの?」

奏「ヒミツよ、大人になったら教えてあげる」

凪「おー、オトナですね」

涼「もう見せる必要もないだけだ。それで、楓の件だが」

凪「昨日までは隣の空き家にいました」

颯「うん、いなくなっちゃった」

涼「昨日の夜にはいなかったんだな?」

凪「イエス」

奏「遠くには行ってなさそうね」
62 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:31:28.03 ID:qERzXi2O0
涼「どこをふらついているんだか」

颯「楓さん、ここに住んでたの?」

涼「ああ」

颯「家出してる理由もわかる?」

奏「涼、どうなのかしら」

涼「理由に検討はついてる」

奏「それは、涼だからわかることなのかしら」

涼「……そういう部分もある」

凪「少し変でした」

涼「変?」

凪「ずれてました」

颯「その、楓さんがよく見えるチャンネルがね……」

凪「『捕食者』に近いほうでした」

奏「……そういうことね」

涼「それで、何を伝えに来てくれたんだ?」

凪「楓さんの無事を伝えに来ました」

涼「楓は帰ると言ってたか」

颯「ううん、帰らない、って」

涼「そうか……」

颯「はーにはね、それが良いとは思えないんだ」

凪「凪も同感です。わからなくてもすぐ近くにいる方が良いかと」

颯「なんで、楓さんは帰らないのかな」

涼「その理由もわかるよ」

奏「へぇ、そうなの?」

涼「奏にもわかるはずだ」

奏「私に?私は人間の気持ちなんて」

涼「速水奏の気持ちなら、わかるだろ」

奏「……そうね」

涼「理由もわかるからこそ、こことしては連れ戻したい。協力してくれるか?」

颯「うん!」

凪「やぶさかではない」

涼「夜は裕美が探してくれる」

颯「裕美?」

涼「今は下で寝てる。楓を、昼に探してもらえないか」

颯「いいよ。なーもいいよね?」

凪「夏休みの課題を探していました」

涼「お礼もしよう」

63 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:31:56.58 ID:qERzXi2O0
凪「凪は教えて欲しいことがあります」

涼「なんだ?」

凪「こちら側、そう言っていますが、興味があります」

奏「こちら側にいることが良いとは思えないけれど」

凪「興味です。それだけです」

涼「……まぁ、いい。楓を連れ戻してくれたら、アタシと奏の答え合わせをしよう」

奏「巻き込まれちゃった」

涼「別にいいだろ?」

奏「嫌とは言ってないわ」

凪「決まりですね」

奏「あなたが言うセリフかしら」

涼「どうにしても、こちらとしても楓を探す手掛かりが欲しい。可能な限り、早く連れ戻したい」

颯「なにか、理由があるの?」

涼「スーパーレッド、って知ってるか?」
64 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:33:26.47 ID:qERzXi2O0
39

出渕教会・地下1階

颯「スーパーレッド?戦隊ヒーロー?」

凪「今年の戦隊ヒーローにレッドはいません。色ではなく1号と呼ばれています。ジャスティスVならジャスティスレッドです」

奏「もちろん、そんな話じゃないけれど」

涼「スーパーレッドは自称さ。ソイツが自分で名乗ってる」

颯「あんまりカッコよくないね」

凪「同感です」

颯「何をしてる人なの?」

涼「わかると思うが、ここには人間じゃない存在もそれなりにいる」

凪「わかります。見てきました」

涼「厄介なことがあってさ、この辺りにそういう存在は増えていた」

奏「ええ……困ったものね」

颯「何があったの?」

涼「機会があったら教えるよ」

凪「増えた……?」

颯「そうかな?」

凪「増えているようには思えません」

涼「対処はした。普通にしていれば、気づくことはないさ」

奏「私は家に帰ることを許された。消されなくてよかったわ」

凪「消される?」

涼「そんなわけだ、スーパーレッドの出番はない」

颯「ごめん、わからなかった」

凪「スーパーレッドは、人間ではないものを狙っている」

涼「その通り」

奏「でも、もう敵はいないの」

涼「だが、昨日も被害者が出てる」

颯「正義の味方じゃないの?」

涼「正義の味方だよ、少なくともそいつの中では」

奏「人間ではないものを全て悪とするなら、ね」

颯「はー、スーパーレッドは正義の味方じゃないと思うな」

凪「凪達は見てきました」

颯「悪いものもあったけど」

凪「悪くないものがたくさんです」

涼「気持ちは同じだ。アタシ達の望まない争いが吹っ掛けられてる」

凪「まさか、凪とはーちゃんも狙われるのですか」

奏「残念だけど、可能性はあるわね」

颯「でも、はー達は人間だよ?ちょっと霊感みたいのがあるけど」

涼「それなんだが、スーパーレッドがどうやって対象を決めているかがわからない」

奏「あなた達も敵だと思われたら、狙われちゃうかも」
65 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:34:21.56 ID:qERzXi2O0
凪「迂闊に正体を明かすと危ないということですね。お約束です」

涼「スーパーレッドの能力は怪力とパイロキネシス、みたいだな」

奏「今、わかってるところではね」

颯「ぱいろきねしす?」

凪「発火能力です。何もないところから火をつけます」

颯「凄いパワーを持ってて炎を使える……ヒーローっぽいけど」

奏「正体は不明。ただの人間がやるトリックか」

涼「特殊な力に目覚めた、この世界の人間か」

奏「妖怪の類か」

涼「別の世界から紛れ込んだ存在か、わかってはいない」

凪「フム……スーパーレッド、実に面白い」

颯「あっ、わかった」

凪「はーちゃん、何がわかりましたか」

颯「楓さん、スーパーレッド知ってるの?」

涼「知らないはずだ」

颯「それじゃあ、危ない!」

奏「そういうこと。捕食者が次のターゲットかも」

涼「楓を見つけたい。意味は幾つかあるが、差し迫った理由はそれだ」

凪「話は読めた」

颯「探さないと」

凪「はい。写真を撮っていました」

奏「写真?」

涼「楓の写真があるのか?」

凪「はい。この通り。綺麗に撮れています」

涼「少し見せてくれ……まだ大丈夫そうだな」

凪「まだ、とは」

涼「スーパーレッドにやられても、そう簡単にくたばってしまうことはないさ。慌てずに探してもらえるか」

颯「どういう意味?」

涼「捕食者のおかげで回復力が上がってる。食べることさえできれば、楓は問題ない」

凪「食べることができない場合は」

奏「肉体が維持できないわ。でも、安心して」

颯「全然安心できない!」

奏「頭がバラバラになっていない限り平気よ」

颯「うえー。なーみたいなイヤなこという」

凪「はて?はーちゃんを困らせるようなことはしませんが」

颯「無自覚なの……薄々気づいてたけど」

涼「アタシ達は楓を探して欲しい。協力してくれるか」

凪「りょ」

颯「了解って意味だよ。はーも手伝うよ」
66 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:35:14.16 ID:qERzXi2O0
涼「ありがとよ。ただし、スーパーレッドの標的にならないように」

凪「もち」

奏「双子ちゃんのカワイイ顔に傷がついたらイヤだものね」

涼「さて、ここまで話を聞いてもらった。お礼をするよ」

颯「お礼なんて」

凪「受け取っておきましょう」

涼「受け取ってくれないとアタシが困るのさ。紅茶とお菓子を用意するよ」

凪「紅茶、好物です」

颯「いいの?」

涼「ああ」

奏「あら、私の分もお願いね」

涼「奏は準備に付き合え」

奏「はいはい、わかってるわ」

涼「待っててくれ」

凪「あの、凪は本を見たいです」

涼「本?ここにあるのなら自由にしてくれ。準備をしてくる」

凪「では、遠慮なく。珍しそうな本がたくさんあります」

颯「なー、はーも見る!」
67 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:37:41.82 ID:qERzXi2O0
40

午後

S大学構内

りあむ「壊れてる理由はわからない?」

江上椿「一昨日の夜に何かあったらしいですよ、何かが暴れたのでしょうか」

江上椿
S大学の学生。裁縫部所属。声がけができずにウロチョロピョンピョンしていた、りあむの写真を満足するまで撮ってから、声をかけた。

りあむ「暴れる!?怪獣でも暴れてないとこんなのにならないよ?2階の壁が壊れるなんて!」

椿「その通りですね。でも、建築機械とか使えば出来たりしないでしょうか」

りあむ「運んで来たらわかるよ、たぶんだけど!」

椿「なるほど。何かに役立つかもしれないので、写真を撮っておきましょう」

りあむ「……うーん」

椿「そう言えば、自己紹介を忘れていました。江上椿です、よろしくお願いします」

りあむ「……夢見りあむ」

椿「夢見りあむ、さんですね。裁縫部に興味はありませんか?」

りあむ「裁縫部?ぼくは裁縫に興味ないよ」

椿「裁縫に興味はなくてもいいのです、私のおも……」

りあむ「おも?」

椿「ゴホン。自分のサイズにあう服装を着せたいなぁ、と思いまして」

りあむ「えーん、へんちくりんな体形していると言われた!」

椿「へんちくりんだなんて!もっと自信を持ってください!」

りあむ「ほんと?」

椿「綺麗に写真を撮るのは得意です!裁縫部に来てぜひ写真を撮らせてください!」

りあむ「これは褒めてない!」

椿「それはさておき、夏休み中ですがどうしてこちらに?」

りあむ「さておかれた……時子サマに会いにきたんだ。ちょっと時間が早いけど」

椿「時子サマ?」

りあむ「相談センターにいる時子サマ。顔も良いし性格も良い……はず」

椿「ああ、財前さんですね。私も在学中にお世話になりました」

りあむ「お姉さんも?時子サマ、やっぱりいい人?」

椿「振袖を着せたかったです」

りあむ「はい?」
68 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:39:43.64 ID:qERzXi2O0
椿「セーラー服とかも似合うと思います。思いませんか?」

りあむ「え、同意するけど……この人、やばい人なんじゃ……」

椿「りあむさん」

りあむ「は、はい!」

椿「チャイルドスモックに興味はありませんか?採寸させていただければ、私が作ります。被写体のために衣装を作るのも悪くありません」

りあむ「ダメだ!ダメな人だ!チャイルドスモックを18歳以上に着せるなんてロクな人間がいない!」

椿「写真を撮るだけでいいんです。人に見せるのが嫌なら、私が個人的に楽しむだけにしますから。ね?」

りあむ「ますますダメだよ!あ、そうそう!時子サマと約束の時間だから、バイバイ!」

椿「足元に気をつけてくださいねー」
69 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:41:11.27 ID:qERzXi2O0
41

S大学・学生支援総合センター・学生相談室

りあむ「どうかな!?りあむちゃん、ちゃんとできてた?合格?」

時子「合格の基準がないわ。強いて言うなら、この報告を聞けているだけでいいわ。ご丁寧にレポート付きで、大学生レベルの」

りあむ「やった!時子サマ、褒めてくれた!」

時子「……フムン」

りあむ「時子サマ、他にはないの?ぼくは時子サマの言うことなら聞くよ!」

時子「幾つか質問させてちょうだい、いいわね」

りあむ「もちろん!」

時子「黒埼ちとせというS大学付属高校の生徒が吸血鬼の末裔と呼ばれている理由は」

りあむ「外見!ヨーロッパ系のハーフかクオーターだと思う!」

時子「本当にそれだけかしら」

りあむ「うん、そうだよ!」

時子「10秒数えるから、もう一度だけ思い出しなさい」

りあむ「思い出す…」

時子「……」

りあむ「……」

時子「10秒。どうかしら」

りあむ「理由は外見だよ、やっぱり。それと、自分で冗談として昔から言ってたから?」

時子「あるじゃない。他には」

りあむ「後はね、あれ、えっと」

時子「言ってみなさい。何でもいいわ」

りあむ「すこ」

時子「すこ?」

りあむ「好きになった!顔も良いし、優しいし、それと!」

時子「それと?」

りあむ「それと……わからない。けど、すこなものはすこ!」

時子「……そう。調べてもらってありがとう。あなたの結論は」

りあむ「吸血鬼の末裔はいない!」

時子「そうでしょうね。吸血鬼は生殖で増えないもの」

りあむ「ん?時子サマ、今なんて?」

時子「次の質問を良いかしら」

りあむ「いいよ!時子サマ!」

時子「探す対象はわかったわ。探している側の特徴を教えてちょうだい」
70 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:42:39.76 ID:qERzXi2O0
りあむ「女の子だった、でも、いきなりいなくなった!幽霊だったかも!」

時子「どんな髪型をしてたかしら?」

りあむ「髪型、髪型、そう、でこちゃん!おでこを出してて、ウェーブがかかってた!」

時子「服装は」

りあむ「うーん、思い出す……」

時子「特徴的な服装だったかしら」

りあむ「違うよ!パステルカラーの服だった!ブランドとかわからない!」

時子「マイディアヴァンパイアではないと」

りあむ「ぼくの専門じゃないけど、それじゃコスプレだよ!そんな人いないよ!」

時子「ありがとう。最後の群馬出身の学生については」

りあむ「わからなかった!土曜日1日中調べたのに!」

時子「日曜日は」

りあむ「お休みした!がんばりすぎ、よくない!働き方改革!」

時子「まぁ、辿りつかないことを望んでいたから良いわ」

りあむ「時子サマ、それどういう意味?」

時子「夢見りあむ、ありがとう。思った以上だったわ」

りあむ「ほんと?嘘じゃないよね?」

時子「ええ」

りあむ「生きれる!もっと褒められたい、求められたい!時子サマ、頼む!」

時子「だから、ひとまずはこれで終わりよ」

りあむ「えっ!酷いよ!期待を持たせてから落とすなんて!時子サマの鬼!悪魔!」

時子「鬼にも悪魔にも会ったことはないから、悪口とは取らないでおくわ。申し訳ないけれど、危ないわ」
71 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:43:33.22 ID:qERzXi2O0
りあむ「危ない?なにが?」

時子「状況は週末で変わった。それだけよ」

りあむ「説明不足だよ!教えてよ!匿名掲示板のS大学スレに悪口雑言書くよ!いいの?」

時子「……」

りあむ「う……」

時子「ハァ、巻き込んだのはこっちね。知りたいかしら」

りあむ「うん!」

時子「良くも悪くも変わるわよ、これからの学生生活が」

りあむ「何言ってるの?変えるために来たんだよ!」

時子「駒を増やすのも手ね……ひとつ、聞いていいかしら」

りあむ「なに?まさか、りあむちゃんを試そうとしてる!?時子サマのお眼鏡にかからなかったら……即闇落ち!」

時子「前期の単位は取れたのかしら」

りあむ「必要な分はね!実習ないから!実習始まったらアウトだよ!」

時子「どうしてかしら」

りあむ「どうして?何が?」

時子「夢見りあむ」

りあむ「なに?」

時子「私の仕事が終わる頃にまた来てちょうだい。あなたの世界を広げるわ」
72 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:44:49.56 ID:qERzXi2O0
42

タコ公園

凪「見つかりませんね」

颯「なんでだろー?」

凪「まさに雲隠れ。ニンジャインヤブ」

南条光「どうしたんだ、二人とも!」

南条光
タコの形をした滑り台の上から凪と颯に声をかけた。久川姉妹とは同い年。

颯「光ちゃんだ、やっほー」

凪「やほー」

光「そっちに行くから待ってて!」

凪「はい、凪は待ちます」

光「待たせたな!」

凪「ほぼ待っていません」

光「困ったように見えた、何かあったのか?」

颯「人を探してるんだ。でも、見つからなくて」

光「人探し?」

凪「はい。この写真の美女を探しています」

颯「見なかった?」

光「この公園で見た!」

凪「本当ですか」

光「もちろん!ベンチで寝ているのを見たぞ!」

凪「いつでしょうか」

光「うーん、3日前とか?」

颯「3日前?」

光「うん。昨日とか一昨日じゃなかった」

颯「それだと」

凪「隣の空き家に来る前です」

颯「ねぇ、昨日とか今日で見てないんだよね?」

光「ああ!ヒーローは嘘をつかないからな!」

凪「残念です」

光「少し遅かったか」

凪「いいえ。近くにいないことがわかること、素晴らしい」

颯「教えてくれて、ありがとう!」

光「どういたしまして!」

颯「もう少し探してみようか?近くにはいないみたいだから、ちょっと遠くで」

凪「はい」

颯「光ちゃん、またね」

光「またなっ!困ったことがあったら呼んでくれ!」
73 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:47:01.31 ID:qERzXi2O0
43

S大学付属病院

S大学付属病院
名前の通り、S大学医学部付属の病院。時子の職場からはすぐ近く。

りあむ「付属病院に用事があるの?」

時子「ええ。対処をしてくれたのが看護師だったから、助かったわ」

りあむ「どういうこと?」

望月聖「あ……時子」

望月聖
S大学病院の入院患者。体調が良ければ外出もできるほどに回復したらしい。

時子「聖。どうしたのかしら」

聖「時子……呼びに来た……」

りあむ「時子サマ、この子誰?知り合い?」

時子「知ってるわ。とても」

聖「うん……知ってる。深く」

りあむ「?」

時子「体調は良さそうで安心したわ。柳清良からお使いを頼まれたのね」

聖「そう……部屋はこっち……ついてきて」

時子「案内してちょうだい。着いてきなさい、夢見りあむ」
74 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:48:44.80 ID:qERzXi2O0
44

S大学付属病院・某個室前

聖「清良さん、連れて来たよ……」

柳清良「ありがとう、聖ちゃん」

柳清良
S大学付属病院に勤務する看護師。S大学医学部看護学科卒、つまり、りあむの先輩。

聖「わたしは戻るね……」

時子「またお見舞いにいくわ」

聖「時子、またね……」

清良「こちらは?」

時子「夢見りあむよ」

りあむ「えっと、はじめまして……?」

清良「そう、あの……」

りあむ「あの?まさか変なところで有名になってないよね?」

時子「私が話しただけよ」

清良「夢見さん、よろしく」

時子「S大学の卒業生だから、頼るといいわ。参考にもなるでしょう」

りあむ「……」

時子「どうしたのかしら?」

りあむ「いやいやいや、こんな見るからに白衣の天使は参考にならないよ!?」

清良「あらあら」

りあむ「スタート地点が違うよ、もっと低い所を用意してくれないと!」

時子「終始こんな感じだから、相手してもらえるかしら」

清良「もちろん、何でも相談してちょうだい」

りあむ「ううう……逆に優しさがぼくを傷つける!」

時子「柳清良、中にいるのかしら」

清良「ええ。大人しくしてるみたい」

時子「何人かしら」

清良「本人曰く、1人よ」

時子「本人はそう言うでしょうね」

清良「ええ」

時子「夢見りあむ、準備は出来たかしら」

りあむ「……はっ、時子サマに呼ばれた!落ち込んでる場合じゃない!」

清良「大丈夫そうね」

時子「ええ。見ればわかるでしょうから、入りましょう」
75 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:50:19.77 ID:qERzXi2O0
45

S大学付属病院・某個室

りあむ「へ?」

時子「こんにちは。はじめまして……かしら?」

日下部若葉「うぅ、どなたですかぁ?」

日下部若葉
S大学の学生。時子と知り合いの日下部若葉ではないらしい。

時子「はじめまして。財前時子よ」

清良「先ほど、お話した協力してくれる人よ」

若葉「『私』を追い出したりしないですかぁ?」

りあむ「むぅ……」

時子「追い出したりなんてしないわ」

若葉「本当?」

若葉「本当に?」

若葉「都会は怖いです〜」

若葉「騙されないようにしないと」

時子「信じてちょうだい。あなたは悪いことをしていないようだし」

若葉「もちろん、前の若葉さんとは違います!」

若葉「品行方正ですよ〜」

りあむ「ねぇねぇ、時子サマ!」

時子「疑問があるなら本人に聞きなさい」

りあむ「う……白衣の天使サマは驚かないの?」

清良「傷ついた人を見捨てるわけにはいけませんから」

りあむ「微妙に回答をはぐらかされた!」
76 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:51:12.00 ID:qERzXi2O0
時子「聞かないのかしら」

りあむ「聞くよ!どうして、5人いるの!?」

若葉「5人?」

若葉「5人じゃありません!」

りあむ「もっと、いるの!?」

若葉「違います〜」

若葉「私は1人です」

若葉「そうです!」

りあむ「ひとり……わかった!」

時子「何がわかったのかしら?」

りあむ「群馬出身?そうでしょ?」

若葉「はい〜」

若葉「良い所ですよ〜」

若葉「ちょっと山奥ですけど」

若葉「私達が歓迎します〜」

若葉「追い払わないでくださいねぇ〜」

りあむ「増える群馬の学生だ!そうでしょ、時子サマ!」

時子「それは正解ね。ひとりでいるなら簡単にはわからない」

りあむ「5人じゃなくて1人なんだよ!」

時子「どういう意味かしら」

りあむ「分裂してるけど、1人なんだよ!」

時子「……」

りあむ「時子サマ、ぼくは変なこと言った?」
77 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:52:27.62 ID:qERzXi2O0
時子「勘がいいのか、それとも。それは、どういうことかしら」

りあむ「5つ子がここまで似るなんてあり得ない!」

清良「ええ。人間ならば」

りあむ「うん。でも、人間じゃないなら……え?」

清良「……」

時子「先に結論に到達するタイプなのね、あなた」

りあむ「君達……じゃなかった、君は人間じゃないの?」

若葉「……」

時子「答えてあげてくれないかしら」

若葉「……そうです」

りあむ「時子サマ」

時子「なに?」

りあむ「世界を広げるってこういう意味!?聞いてないよ!」

時子「言ってないもの」

りあむ「りあむちゃんは怪奇現象はダメだよ!ムリだよ!耐え切れないよ!向いてないよ!」

若葉「怪奇現象……」

若葉「ムリ……」

若葉「耐え切れない……」

若葉「向いてない……」

若葉「やっぱり……」

若葉「ここにいちゃいけないんだ……」

りあむ「あ、えっと、その!違うよ!違うから!ぼくの口が悪いだけ!」

清良「あらあら、泣かせちゃった」

若葉「うわーん」

若葉「うわーん」

若葉「うわーん」

りあむ「ぼくも泣きたいよ!うわーん!」

時子「あなたは泣かないでちょうだい」

りあむ「時子サマ、ぼくに何をさせたいの!?答えてよ!」

時子「私の望みは、学生が安心して学生生活を送ることだけよ」

りあむ「それとこれと何の関係があるの?」

時子「彼女もあなたもS大学の学生だからよ。どんな形であれ」

清良「……」
78 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:54:14.01 ID:qERzXi2O0
時子「学生生活が停滞してそうなあなたを変えるのには良いと思ったわ」

りあむ「時子サマ……」

時子「それに、扱いやすそうだったもの」

りあむ「時子サマ!」

時子「日下部若葉、話を聞いていいかしら」

若葉「話?」

若葉「話すだけ?」

若葉「追い出しませんか?」

時子「ええ。夢見りあむ、あなたも決心はついたかしら」

りあむ「いいよ!この場を自分の意思で逃げ出せるほど、りあむちゃんは強メンタルじゃない!」

清良「逃げ出さないのは、看護師向きかもしれないわね」

時子「いいでしょう、始めましょうか」
79 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:55:29.88 ID:qERzXi2O0
46

S大学付属病院・某個室

若葉「こんなところです〜」

若葉「聞きたいことはありますか〜?」

若葉「スーパーレッドは誰かわかりません〜」

若葉「お願いですから、ここに住ませてください〜」

若葉「私は退治されたくないです〜」

時子「フム。夢見りあむ、つまりどういうことかしら」

りあむ「えっと、えーっと……」

清良「大丈夫?」

りあむ「うん、わかってる!ただ話すのが苦手なだけ!」

清良「それなら、ゆっくりと少しずつ」

りあむ「うん。日下部若葉はここにいる全員で1人」

若葉「そうですよ〜」

りあむ「でも、別の人もいる!その人はオイタをして退治されちゃった」

若葉「はい〜」

若葉「私はしてませんよ〜」

若葉「人間を襲ったりしてません〜」

時子「わかってるわ」

りあむ「人間に退治されないように、人間と同じように暮らしてる」

若葉「はい」

りあむ「でも、本当は一緒にお出かけしたい」

若葉「はい〜」

若葉「私は1人なんです〜」

若葉「一緒にいないと不安なんですよぉ〜」

りあむ「ちょっといいかと思って、真夜中にお散歩したら……」

時子「スーパーレッド、と名乗る人物に襲われた」

若葉「……はい」

若葉「怖かったです〜」

若葉「建物を少し壊しちゃいました〜」

時子「S大学の建物が破損していたのは、そのため」

りあむ「スーパーレッドってなに?知ってる?」

若葉「わかりません〜」

若葉「見たことないマスクをしてました〜」

りあむ「清良サマは?」

時子「柳清良に様は付けなくてもいいのに。私にもいらないけど」

清良「私も聞いたことはありません」
80 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:56:45.78 ID:qERzXi2O0
りあむ「悪いことしてない?」

若葉「してません〜」

若葉「品行方正です〜」

りあむ「それじゃあ、なんで襲われちゃったの?おかしいよ?」

若葉「それは……」

若葉「私が」

若葉「妖怪……だから」

清良「……」

りあむ「違う、そっちじゃないよ!」

時子「そっちじゃない?」

りあむ「スーパーレッドが悪い!自分で自分を悪く言うと生きて行けない!」

若葉「どういう意味ですか?」

時子「そうね、スーパーレッド側の理由でしょう」

りあむ「言ってたんでしょ、目的!」

時子「目的は人間でないものを退治すること」

りあむ「たまたま見かけたから、戦いに来ただけ!ただの乱暴な奴だよ!」

若葉「そうですか……?」

若葉「私、いてもいいですか?」

時子「あなたならいいでしょう」

りあむ「変な奴でも生きていい!生きて良くなかったらりあむちゃんがまず襲われる対象だよ!即死だよ!」

時子「夢見りあむも、こう言ってるわ」

りあむ「あっ!」

時子「どうしたのかしら」

りあむ「もしかして、ぼくも妖怪に思われる?そうしたら、退治される!」

時子「言ったじゃない。だから、辞めさせようとしたのに」

りあむ「時子サマ……」

時子「なにかしら」

りあむ「優しい!神!こんなぼくの身を案じてくれる!」

清良「ですって」
81 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:57:35.32 ID:qERzXi2O0
時子「ハァ……そんなことで感謝されなくてもいいけど」

りあむ「よし!隠れよう!夜中は歩かない!」

若葉「そうします〜」

時子「そうするのがいいわね。柳清良、この部屋は借りられるかしら」

清良「ええ。この部屋じゃなくても、どこかに」

時子「日下部若葉はしばらくここにいなさい。いいかしら」

若葉「はい〜」

若葉「そうします〜」

りあむ「時子サマ、どうするの?」

時子「まずはスーパーレッドに出会わないこと」

りあむ「うん!得意!」

時子「出来れば、スーパーレッドの犯行を止めたい所だけれど」

清良「話を聞く限りは危険ね」

時子「ええ。こちらが仲間だと思われるのは避けたい」

若葉「それじゃあ……」

時子「直接探すのは危険でしょうね」

りあむ「うーん、打つ手なし?」

時子「私達には。でも、方法はあるわ」

りあむ「方法?」

時子「スーパーレッドに狙われる側なら、調べられるわ」
82 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:58:33.10 ID:qERzXi2O0
りあむ「えっ、いるの?」

時子「いるわよ。あなたも会ったでしょう」

りあむ「あの……人探ししてた子がそうなの?」

時子「ええ」

りあむ「時子サマ、もしかして、全部知ってた?」

時子「白状すると、察しはついていたわ」

りあむ「やっぱり!それならぼくに調べさせる必要あった!?」

時子「あるわ、欲しいのは答えとは限らない」

清良「そうね、理由は色々と」

りあむ「わからない……大人の会話はわからないよ!」

時子「いずれわかるわ、嫌でも」

清良「ええ」

時子「日下部若葉、大人しくしていなさい」

若葉「はい〜」

若葉「スーパーレッド捕まえてくださいねぇ〜」

時子「夢見りあむ、今日は帰りましょう」

りあむ「うん、お腹も空いたし帰る!時子サマ、ご馳走して欲しい!」

時子「今日は大人しく帰りなさい。また後にしましょう」

りあむ「むー、時子サマがそういうなら帰る!」

若葉「さようなら〜」

若葉「また来てくださいね〜」

りあむ「若葉ちゃん、また来るよ!ぼくの相手をしてよ!」
83 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:01:33.49 ID:qERzXi2O0
47



出渕教会・地下1階

涼「気をつけて帰るんだぞ。ああ、いつでも遊びに来てくれ。またな」

裕美「涼さん、誰から電話?」

涼「裕美、起きたのか。おはよう」

裕美「おはよう」

涼「まだ日は落ち切ってない。今日は早いな」

裕美「そうなんだ。夏だもんね」

涼「電話の相手は楓を見つけてくれた双子の、妹の方だったかな。裕美と同い年くらいの」

裕美「楓さん、見つかったの?」

涼「ああ。どこかの民家で食事後に眠っていたらしい」

裕美「そうなんだ、迎えに行かないと」

涼「残念だが、どこかに行ってしまったそうだ。無事らしいが」

裕美「……帰ってくればいいのに」

涼「ああ。探すのにも協力してもらったんだが、どこに行ったかはわからない」

裕美「どこかに隠れてるのかな」

涼「おそらくな。捕食者も食事を探している状態じゃなさそうだ」

裕美「わかった、探してみるね」

涼「ああ。楓がいた場所を教えるよ」

裕美「うん」

涼「その前に」

裕美「ご飯にする?」

涼「ああ。アタシも裕美も本当は必要じゃないけどな」

裕美「楽しみは大切だもんね。味覚もあるし……私達は」

涼「……そうだな」

裕美「今日は他に誰かいないの?奏さんは?」

涼「来てたが帰ったよ。夕ご飯の手伝いをしないとだと、嬉しそうに言ってたよ」

裕美「奏さんも変わったね」

涼「本当にな」

裕美「芳乃さんは島で修行中だし、小梅ちゃんは?」

涼「小梅はしばらくお休みだ。家族旅行らしい」

裕美「家族ってどういう意味かな」

涼「それは聞いてない」

裕美「シスタークラリスも美由紀ちゃんもいないし、はぁとさんは全然来ないしちょっと寂しい」

涼「寂しい、か」

裕美「今は皆が居てくれるから大丈夫。亜季さんも来てくれるし、洋子さんみたいにはならないよ」

涼「今はいいが」

裕美「涼さん、大丈夫だよ。私は強いから」

涼「……ああ、そうだな」

裕美「うん。涼さん、今日は私が作るよ。何かリクエストある?」

涼「残り物を片付けるとしよう。アタシも手伝うよ」
84 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:02:30.70 ID:qERzXi2O0
48

S大学近くのアンテナショップ

あかり「ありがとうございました!いらっしゃいませ……あ!千夜さん!」

千夜「近くを通りましたので、寄ってみました」

あかり「ちとせさんは一緒じゃないんですか?」

千夜「お嬢さまは家にいらっしゃいます。私は買い忘れたものがありましたので」

あかり「そうなんですね!」

千夜「夜遅くまでアルバイトとは精が出ますね」

あかり「私の出来る少ないことだし、山形が好きですから。平気です!」

千夜「なら……」

あかり「千夜さん?」

千夜「聞くのは野暮でした。お嬢さまと後でゆっくりと来ます。辻野さん、がんばってください」

あかり「あっ、そうだ!千夜さん、ちょっと待っててください!」

千夜「行ってしまいました……戻って来ましたね」

あかり「これ、ちとせさんと食べてください!よもぎ餅です!」

千夜「いいえ、受け取るわけには」

あかり「いいんです、賞味期限が近くて廃棄しちゃうので。栄養もいっぱいあるんご!」

千夜「それなら、お嬢さまといただきます。ありがたく受け取ります」

あかり「おいしいんですよ、山形に住んでいた時は近くに住んでたおばあちゃんがよく作ってくれました」

千夜「お嬢さまも喜ぶでしょう」

あかり「千夜さんは嫌いですか?」

千夜「いいえ。私も食べさせていただきます」

あかり「ふふっ」

千夜「なぜ、笑うのですか」

あかり「なんでもないんご!」

千夜「そうですか。それでは、失礼します」

あかり「千夜さん、また金曜日に!」

千夜「はい。また金曜日に、辻野さん」
85 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:03:55.48 ID:qERzXi2O0
49

夢見りあむの自室

りあむ「りあむちゃんは咳をしてもひとり……」

りあむ「若葉ちゃんみたいにりあむちゃんも5人いたら……」

りあむ「……」

りあむ「大惨事だよ!厄介事5倍だよ!ムリムリ!ぼくは1人で限界!1人で充分!」

りあむ「……」

りあむ「ぼくは1人でいいけど……近くに人がいるといいな、人じゃなくてもいい……」

りあむ「……」

りあむ「ちょっと早いけど、寝よう。若葉ちゃんには、明日も会いに行くんだ」

りあむ「時子サマが会わせてくれたから、行くんだよ……」
86 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:05:44.89 ID:qERzXi2O0
50

黒埼ちとせの自宅

千夜「ただいま戻りました。お嬢さま、辻野さんからよもぎ餅を頂きました」

千夜「……お嬢さま?」

メモ『ちょっと夜風をあびてくるね』

千夜「最近は多いですね。お茶を用意して待っています、お早いお帰りを」
87 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:06:56.71 ID:qERzXi2O0
51

夜には散歩をする。

眠るのが怖かったから始めたことだけれど。

今は、夜は私のもの。

夜は私を自由にしてくれる。

夏のお日様は散歩も自由にさせてくれない。

人の目は私を自由にしてくれない。

私の体も、私を自由にはしてくれない。

だから、夜は私のもの。

夜がつくあの子は、私のものじゃないけどね。

私のものになりたがっているけど。

夏の夜風は心地がいい。

お月様は眩しすぎない。

大きく息を吸って、伸びをして。

だけど、今日は。

夜は、私のものじゃないことを思い知る。
88 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:07:44.51 ID:qERzXi2O0
「見つけましたよ!吸血鬼!」

変なマスク。そのマスクに変成器が入ってるみたいで、歪んだ高い声。

「我が名はスーパーレッド!」

スーパーレッド。確か熱帯魚の名前だったような。

「人の世界にいないもの!成敗します!」

私は吸血鬼じゃないよ、というワンフレーズ。

「はっ!」

言う暇もなかった。

「ウワサほどではありませんね!」

強烈な胸の痛み。息が止まる。

「吸血鬼、スーパーレッドの敵ではありません!」

戻った息をすると、血が混じった。そんな私を見ていない。

「これに懲りたら、人間の世界に出てこないことです!さらば!」

ねぇ、違うでしょ、どう見たって病弱な人間……怪物なんかじゃないでしょ。

違うよ、違うの、本当は、特別でもなんでもないの。

私、死んじゃうかな、思ったより早かったな。

そんなことを考えられるから……まだ平気。

殺す気はなかったのかな……でもね。

私は……この傷で命を減らしてしまう。

月が助けてくれないかな、と思って顔をあげると。

月は誰かの影に隠れた。

前髪をあげていて、紅い瞳が良く見えた。

ああ、血の匂いにつられてきたのかな。

「大丈夫!?」

うん……大丈夫。

「救急車を呼んで……それだと間に合わないかな、私が病院に運ぶね」

平気……だから、落ち着いて。

「でも!」

ねぇ、私の目を見て。

「目……」

さぁ、私を好きになって、なんて。

「あなた、はぁとさんが言ってたチャーム持ちの人?」

効かなかった。だから、正直に話す。この傷が私の命を削ることを。

そんなことをしなくても、私の短い命だということを。

「でも、それなら少しでも長く生きないと」

あはっ、優しい。優しいから、お願いを聞いて。

「お願い?」

噛んで、吸血鬼さん。
89 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:08:46.20 ID:qERzXi2O0
53

吸血鬼の路地裏

裕美「あなた、私の正体がわかるの……?」

ちとせ「話を聞いてきたから……こんなに可愛い子だったんだ」

裕美「……」

ちとせ「血を吸っていいよ、お腹がすいてそうな……顔してる」

裕美「私は噛まない、病院に連れて行く」

ちとせ「ちょっと待って。ねぇ、あなたの名前は?」

裕美「……関裕美」

ちとせ「裕美ちゃんね、あのね……」

裕美「話すの辛いよね、後で聞くから……」

ちとせ「私……変わりたいの」

裕美「……え」

ちとせ「やっぱり……私ね、生きていたい」

裕美「……」

ちとせ「自由にならないこの体も、イヤ」

裕美「……」

ちとせ「長生きもできないのに、千歳なんて名前は嫌い」

裕美「……」

ちとせ「魔のものにしか見えないこの瞳も、そんなに好きじゃない」

裕美「そんなこと……」

ちとせ「今が楽しければいいなんて言い訳、本当はキライ」

裕美「……」

ちとせ「生きていたい、あの子を独り置いてないんていけない……」

裕美「……」

ちとせ「あの子の行く末を見届けて、また……」

裕美「また……」

ちとせ「太陽の下でお日様に負けないくらい笑うあの子を見たいのに……」

裕美「……!」
90 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:09:32.21 ID:qERzXi2O0
ちとせ「あは……どうしたの、目尻を釣り上げてちゃって。誰か思い出した……?」

裕美「そうだよ……」

ちとせ「吸血鬼に関係する人……みたいだね」

裕美「……」

ちとせ「ねぇ……私、美味しいと思うよ。不健康だけど」

裕美「そんなこと……」

ちとせ「わかってる……裕美ちゃんは強いね……でもね……」

裕美「……聞いていいかな」

ちとせ「うん……いいよ」

裕美「吸血鬼になったら、きっと色んなものを失うよ」

ちとせ「……ええ」

裕美「夜は長くて寂しいよ」

ちとせ「……知ってる」

裕美「それでも、あなたは」
91 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:10:36.82 ID:qERzXi2O0
ちとせ「怪物になったとしても……私は生きていたい」

裕美「私も同じだったよ。生きていたかった」

ちとせ「このままなんて……イヤなの」

裕美「わかった……人を噛んだことはないけど」

ちとせ「あはっ……はじめてになれて嬉しい」

裕美「……」

ちとせ「……吸血鬼の目になった。私を食べ物としか思ってない」

裕美「……」

ちとせ「首筋とか胸がいいよ……柔らかいから」

裕美「本当にいいの?」

ちとせ「うん……おいで」

裕美「……」カプリ

ちとせ「あは……不意打ちは……」

裕美「……」

ちとせ「あ……ふふ……はぁ……私の血は吸われて……あなたの血がこっちに入ってくる…わかるよ……」

裕美「……」チュウチュウ

ちとせ「ああん……必死に吸ってる……可愛い……」

裕美「……ごちそうさま」

ちとせ「……美味しかった?」

裕美「あんまり。やっぱり不健康みたい」

ちとせ「酷いなぁ……あ、なんか気分が」

裕美「あれ、顔が赤い……もう熱があるの?」

ちとせ「そんな感じ……でも、体が痛くなくなった」

裕美「もう変質が始まってる?私の時は潜伏期間があったのに」

ちとせ「……そっか。もう、人間としては……いなくなりかけてたんだ」

裕美「大丈夫?」

ちとせ「ごめん……ちょっと眠らせて……お願い」

裕美「うん。私の目を見て」

ちとせ「キレイ……」

裕美「眠れ」

ちとせ「……」

裕美「変えちゃった……とりあえず、出渕教会に連れて帰ろう。変質までは見届けないと」

裕美「……」

裕美「こんな綺麗な人に噛みついたの恥ずかしいな……」
92 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:12:05.79 ID:qERzXi2O0
54

翌日・8月中旬のとある火曜日

早朝

黒埼ちとせの自宅

千夜「……はっ」

千夜「ソファで寝てしまいました」

千夜「もうこんな時間ですか……うたた寝という程度ではありませんね……お嬢さまも起こしてくださればいいのに」

千夜「お嬢さま……?」

千夜「お嬢さま!どちらにいらっしゃいますか!」

千夜「帰ってきていない……まさか」

千夜「そうだ、ケータイに連絡は……ありません」

千夜「……電話をかけましょう」

千夜「お嬢さま……出てください」

『もしもし?』

千夜「出ました!お嬢さま、どちらにいらっしゃいますか!?」

『お嬢さま……家の人かな』

千夜「お前、何者ですか」

『お嬢さまは無事だよ、今は寝てる。でもね』

千夜「そこはどこですか。向かいます」

『必ず帰るから、少しだけ任せて。また連絡するから』

千夜「待て!電話を切るな!」

『ツーツー……』

千夜「無事のようですが……探さないと、一刻も早く」
93 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:13:22.55 ID:qERzXi2O0
55

S大学付属高校・空き教室

あきら「眠いデス……」

あかり「千夜さん!」

千夜「お呼びたてして申し訳ありません」

あきら「ちとせサン、見つかってないデスか」

千夜「はい……ケータイは繋がりません」

あきら「警察には連絡しましたか」

千夜「はい。しかし、あまり真剣には……」

あかり「千夜さん、大丈夫です!私達で探しましょう!ね、あきらちゃん!」

あきら「そうするしかない」

千夜「ありがとうございます」

東郷あい「失礼するよ」

藤原肇「白雪千夜さんは、いらっしゃいますか」

東郷あい
刑事課の警部。美貌の女刑事だが、署内では敬遠される存在らしい。

藤原肇
刑事課の巡査。東郷あいのバディ。少なくとも外見は落ち着いている。

千夜「私ですが……どちら様でしょう」

あい「刑事の東郷だ。こちらは藤原君」

肇「通報があったということですので、お訪ねしました」

あきら「ケーサツの人が来ました」

あかり「ちとせさん、探してくれるんですか?」

あい「私達は、な」

千夜「つまり……警察は取り合ってないのですか」

肇「その通りです」

あい「だが、好ましい事実もある」

あきら「回りくどい言い方デスね」

あい「本来刑事が来るタイミングではないということさ」

肇「はい」

あかり「……?」

あきら「事件に巻き込まれた、とは違う?」

あい「そういうことだ。誘拐の類ではなさそうだよ」

千夜「それならば、何故ここに」

あい「厄介事がはみ出し者に流れて来たのさ。慣れたものだよ」

肇「黒埼ちとせさんを探すにあたって、お話を聞かせてください」
94 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:14:04.66 ID:qERzXi2O0
千夜「わかりました。協力します」

あい「黒埼ちとせさんに恋人はいないな」

千夜「おりません」

あい「衝動的に一夜を共にするような性格かな」

千夜「ム……お嬢さまはそのような方ではありません」

あい「電話に見知らぬ他人が出たそうだが」

肇「心当たりはありますか」

千夜「ありません」

あい「口調はどうだったかな」

千夜「落ち着いていました。年齢は中学生くらいの女の子かと」

あい「さて、聞くとしよう」

肇「何故、その相手は電話に出たのでしょう」

千夜「何故……?」

あきら「無事と伝えたかったから、デスか?」

あかり「悪いことはしてないとか?」

あい「おそらくな」

千夜「それならば、隠す必要はないはずです」

あい「別の理由がある」

肇「あなたに隠しておきたい事情」

千夜「私に隠し事など……」

あい「同居人にも秘密はある」

肇「戸籍上は姉妹となっていてもおかしくないとはいえ」

あい「そういうものさ」

あきら「姉妹……?」

千夜「……何故、知っているのですか」

あい「調べたてるのが私の仕事だからさ。火元の心配が少ない住居を選んでくれたそうじゃないか」

千夜「お前……それ以上話すな」

あかり「ち、千夜さん……」

あい「おやおや。撤退するとしようか」

肇「はい。知人や親族は私達の方で調べてあります。黒埼ちとせさんのご両親に連絡は不要です」

千夜「それは、どうも」

あい「話すなと言われてしまったが、一つだけアドバイスだ。この世に突発的な事件なんてそうは起こらない」

肇「そのような事件は痕跡が残るものです」

あい「何か兆候があるはずだ」

あきら「兆候……」

あい「さて、自由に調べさせてもらおう。藤原君、連絡先を渡しておいてくれ」

肇「何かありましたら、ご連絡ください」

あい「失礼するよ」

肇「お邪魔しました」
95 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:15:29.30 ID:qERzXi2O0
千夜「……」

あかり「あ、ありがとうございました!」

あきら「失礼な人達デスね」

千夜「いいえ……構いません。事実ですので」

あかり「……」

千夜「しかし、これでわかりました」

あきら「何がデスか?」

千夜「警察は頼れません。まともでない刑事二人に押し付けたのですから」

あきら「感想は同じデス」

千夜「あかりさん、あきらさん、ご協力ください」

あかり「はい!もちろんです!」

あきら「でも、あの刑事凄そうデス」

千夜「それはわかりますが」

あきら「兆候って言ってた」

あかり「前触れ……」

あきら「検討もつかないけど」

千夜「兆候……」

あきら「……」

千夜「そういえば……」

あかり「何かありましたかか」

千夜「変な奴が会いに来ました、お嬢さまに」

あきら「変な奴……」

千夜「お嬢さまが吸血鬼の末裔かどうかを聞きに来ました」

あかり「何か関係があるかも!」

あきら「どうでしょうかね……」

あかり「でも、このままだと何も始まりません!」

千夜「期待は薄いですが……探してみましょう」

あきら「どんな人デスか」

千夜「ピンクに髪を染めていました。毛先だけ水色。背が低いのに胸だけは大きかったです。変なTシャツを着ていました」

あきら「……とんでもない奴デスね」

あかり「私でも見つけられそうです!」

千夜「探しに行きましょう。静かに終わりを待つのは……今ではありません」
96 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:16:31.03 ID:qERzXi2O0
56

出渕教会・地下1階

颯「こんにちは!」

涼「よう、今日も来たんだな。姉はどうした?」

颯「今は別行動!大学の図書館に行くって。楓さん、見つかった?」

涼「いいや」

颯「そっか。楓さん、夜は寝てるの?」

涼「夜に起きている時もある……いや、夜に起きている時がほとんどだった。最近は」

颯「昼間は寝てるなら、寝ている所を見つけられるかな」

涼「まったく……どこに行ったんだか」

颯「……!」

涼「どうした?」

颯「うめき声みたいのが聞こえたよ、凄く苦しそうな」

涼「病人、とは言わないか、いずれにせよ昨日から看病してる」

颯「苦しそう……大丈夫かな」

涼「ああ。時計の針は止まった、死を恐れることはない」

颯「はー、やっぱり心配。見に行ってもいい?」

涼「優しいな。でもな」

颯「でも、何?」

涼「こちら側に関わるのか、これ以上」

颯「奏さんが言ってたでしょ、産まれからずっとこちら側なんだって。楓さんも心配だし、はーはね、皆の味方だよ」

涼「わかったよ。水とタオルを持って行こう。それと」

颯「それと?何かお買い物に行ってこようか?」

涼「血が必要だ」
97 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:17:48.84 ID:qERzXi2O0
57

出渕教会・地下2階

颯「暗いね、この部屋。誰が住んでるの?」

涼「楓と裕美だ」

颯「裕美?」

涼「そこにいるだろ。裕美、大丈夫か」

裕美「うん、平気だよ。硬化も起こってない」

颯「硬化?」

涼「いいや、裕美のことだ。眠らなくていいか?」

裕美「大丈夫、大人しい時は寝てるから」

ちとせ「は……ああ……」

涼「少し飲め。血が入ってる」

ちとせ「あはは……本当に怪物みたい……美味しい……」

裕美「……」

ちとせ「私……なれる……?」

涼「ああ。アンタの命はこれからだ」

ちとせ「ないはずの延長戦……良い響ね……はぁ…」

涼「良い子だ。裕美、体を拭いてやろう。手伝ってくれ」

裕美「うん」

颯「……」

涼「颯も手伝ってくれるか」

颯「う、うん!」

裕美「涼さん、この子は」

涼「久川颯だ。見えないものが見える、霊能力者といったところか」

裕美「そうなんだ、よろしくね。私は関裕美」

颯「こちら側の人……なんだよね」

裕美「私は、吸血鬼だよ」

颯「吸血鬼……」

ちとせ「私も……すぐに……」

涼「ムリするな、いいか」

ちとせ「はぁい……」

裕美「……怖い?」

颯「ううん!ちょっとびっくりしただけ!同い年くらいかな?お友達になれる?」

裕美「うん」

颯「良かった!久川颯だよ!後でなーも連れてくるからね」
98 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:19:17.38 ID:ve+l2aZk0
裕美「なー?」

涼「双子の姉だ。こちら側の知識もありそうだった」

ちとせ「双子ちゃんね……うふふ……楽しみ……」

颯「ねぇ、お姉さんは吸血鬼になるの……?」

ちとせ「……そうだよ」

颯「怖くないの?」

ちとせ「怖くないよ……この可愛い吸血鬼さんが私を変えてくれる……自分で選んだことだから……怖くない」

颯「わかった、応援するね」

ちとせ「ありがと……」

颯「涼さん、タオルかして」

涼「ああ」

颯「お背中失礼しまーす。うわぁ、背中綺麗すぎ……すべすべ……」

ちとせ「触った……?」

颯「うん。くすぐったかった?」

ちとせ「ううん……」

裕美「まだ感覚が鈍いだけだと思う。ちゃんと変質できれば直るよ」

颯「はい。おしまい」

ちとせ「ねぇ……聞いていい?」

裕美「なに?」

ちとせ「味覚も……なくなっちゃうの……?」

涼「……」

颯「味がしなくなる……」

裕美「ううん、すぐには無くならないと思うよ」

ちとせ「そっか……ちょっと安心した……」

涼「少し落ち着いたか」

颯「しっかり休んでね」

ちとせ「うん……そうする」
99 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:20:15.90 ID:ve+l2aZk0
涼「裕美、頼む」

裕美「わかってる」

ちとせ「ねぇ……千夜ちゃんに連絡した……?」

裕美「してないよ。朝の電話以降は何も」

ちとせ「良かった……今の私を見たら心配しすぎで死んじゃうかも……」

涼「……」

ちとせ「……見ててね……おねがい」

裕美「うん、見届けるよ」

ちとせ「私のご主人様は優しい……」

裕美「眷族にはならないよ。ちとせさんは自由だよ……吸血鬼として」

ちとせ「あはっ……やっぱり私は人間だったんだ……おやすみ……」

裕美「おやすみなさい」

颯「……」

涼「颯」

颯「あっ、なに?」

涼「戻ろうか。ゆっくり寝させてやろう」
100 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:21:34.43 ID:ve+l2aZk0
58

午後

S大学構内

あかり「あっ!」

あきら「千夜サン、あれ!」

りあむ「あれだけ行きたくなかったのに……今日も学校にいる……不思議!」

千夜「見つけた!そこのお前!」

りあむ「ひぃ!」

千夜「待て、逃げるな!」

りあむ「わーん、高校生にカツアゲされる!いやだよう!」

千夜「バカなことを言うな!」

りあむ「バカって言った!どうせ、ぼくはバカだよ、大バカだよ!」

千夜「お前……面倒な奴だな」

りあむ「面倒な奴って言われた!初対面で……あれ。初対面じゃない?」

あきら「まーまー、落ち着いて」

あかり「そうですよ!はい、リンゴジュースをどうぞ!」

りあむ「え、なに?優しくされた?詐欺の手口?」

千夜「違います。妄想力たくましいですね、お前は」

りあむ「リンゴジュースはおいちい……」

あかり「当たり前です!なんていっても山形産ですから!」

千夜「お前に聞きたいことがある」

りあむ「リンゴジュースに免じて聞いてあげよう!」

千夜「何故上から目線……」

あきら「落ち着いて。こういうヤツとは正面衝突はムダ」

千夜「確かにそうですね。お嬢さまについて聞きたい」

りあむ「お嬢さま!思い出した!お嬢さまの失礼なメイドだ!」
101 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:22:52.35 ID:ve+l2aZk0
あかり「メイド……」

あきら「正解?」

千夜「間違ってはいませんが、お前に言った覚えはない。言われる筋合いもない」

りあむ「口を開けば失礼!やっぱり、りあむちゃんをバカにしてるんだ!」

千夜「ちっ……」

あかり「二人とも落ち着きましょう!」

あきら「それが良いデス」

あかり「お外は暑いですから、中に行きましょう!ね!」
102 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:25:15.56 ID:ve+l2aZk0
59

S大学・食堂

あきら「そういうわけデス」

あかり「何か知りませんか?」

りあむ「話は分かったけど……何も知らないよ?」

千夜「何でもいい。探す手掛かりが欲しい」

りあむ「知らないものは知らないよ!」

千夜「なら、どうしてお嬢さまについて調べていたのですか」

りあむ「頼まれたから!ウワサが本当かどうか知りたかっただけ!行方不明なのとは何も関係ないよう!」

あかり「知らないみたいです」

あきら「振り出しに戻る」

りあむ「そうだよ!りあむちゃんは無実!」

千夜「別に、お前が犯人だとは思っていません」

りあむ「きっと平気だよ!そのうち、ひょっこり出てくるよ!」

千夜「何も知らないくせに、適当なことを言うな」

あかり「……」

りあむ「だって、無事って」

千夜「名前も知らない相手が言っていただけです。信用しろと?」

りあむ「お嬢さまが無事じゃないことを望んでる?」

千夜「そんなこと、あるわけないでしょう!お嬢さまの無事が私の全てです!」

あきら「……全て」

りあむ「そんなにお嬢さまのことが好きなの?」

千夜「おかしいですか」

りあむ「お嬢さまに褒められたいの?チヤホヤされたい?りあむちゃんと一緒?」

千夜「違います。お前と一緒にするな」

りあむ「それなら、どうしてそんなに必死なの?」

千夜「必死ですか……ええ、そうです」

あきら「……」

千夜「私にはもうお嬢さましか、いないのです。何もなすことができないなら、せめて、あの、美しい人のために捧げます。それが、私です」

りあむ「はぇー」

千夜「なんですか、その気の抜けた声は」
103 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:26:21.32 ID:ve+l2aZk0
りあむ「凄いよ!滅私奉公だよ!善性!りあむちゃんとは大違い!」

あかり「……」

りあむ「推しのために生きる!自分のためじゃない!」

千夜「お前は何を言っているのですか」

りあむ「やっぱり、同じ人種だよ!」

千夜「聞きますが、誰がですか」

りあむ「ぼくときみが」

千夜「……」

りあむ「ちょっとだけ、りあむちゃんの方が自己愛強いけど!」

千夜「ちょっとではありません」

りあむ「ひどい!」

あきら「自分で言ってたのに……」

千夜「お前がどう思おうがかまいません……今はお嬢さまを探してください。お願いします」

りあむ「りあむちゃんに頭を下げる価値ないよ!過剰評価だよ!」

あきら「言い方が悪いデス」

あかり「夢見さんにも協力してもらいましょう!いいですよね?」

りあむ「うん!ぼくもあのお嬢さますこだし!」

千夜「お前に好かれるのはいいのか悪いのか……まぁ、礼を言っておきます。ありがとうございます」

あきら「探しにいきますか」

あかり「でも、どこを?」

千夜「お前は何も知らないのですね」

りあむ「うん」

千夜「吸血鬼の末裔がヒントにはなりませんか」

りあむ「うーん、知らない!お嬢さまのことしか知らない!」

千夜「仕方がありません。地道に探しましょう」
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