夢見りあむ「7人が行く・EX1・エクストライニング」

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105 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:30:35.36 ID:ve+l2aZk0
千夜「お前は小さい子供が好きなのですか。気持ち悪い」

りあむ「ぼくも女の子なのに、子供好きで気持ち悪いって感想はおかしいよ!そうじゃなくて!」

千夜「そうじゃないなら、なんでしょうか」

りあむ「話しかけて!」

千夜「は?」

あかり「わかりましたっ!こんにちは!」

凪「話しかけられました。明るいお姉さんですね」

颯「こんにちは!大学生?」

あきら「これは大学生。他は付属高校の高校生」

りあむ「これ呼ばわり!?わーん、今時の子供は年上への敬意がないよう!」

凪「何かご用でしょうか?」

千夜「ほら、呼び止めましたよ。何かあるのですか」

りあむ「えっと、君!」

凪「はーちゃんを指ささないでください」

颯「なに?」

りあむ「この人から話があるって!」

千夜「は?お前の行動は意味がわからない」

りあむ「いいから、聞いて。たぶん、えっと、そんな気がする!」

千夜「こいつが怖がらせて申し訳ございません。人を探しています」

凪「おお、この人は信用できそうです」

りあむ「りあむちゃんは信用できない?」

凪「信用できないのではありません。面白そう、と」

りあむ「面白がられた!?」

千夜「この方を探しています。見かけませんでしたか」

凪「パツキンのちゃんねーです。美しい。凪は知りません」

颯「……」

千夜「私の顔に何かついていますか」

颯「あなたが千夜ちゃん?」

千夜「なぜ、私の名前を知ってるのですか」

颯「……」
106 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:31:25.23 ID:ve+l2aZk0
千夜「まさか、電話の相手ですか」

颯「ち、違うよ。はーは、その……」

千夜「答えてください。何か知っているのですか」

凪「はーちゃん、凪にも教えてください」

颯「えっとね、ちとせさんは無事だよ」

あかり「本当ですか!?」

颯「うん。ちゃんと眠ってるから平気」

千夜「どこにいるのですか」

颯「それは教えない。後でちゃんと連絡するって」

千夜「私はそんなことは望んでいません!」

颯「ちとせさんが、そう言ってたから」

千夜「お嬢さまが、ですか」

颯「心配しすぎちゃうから……って」

千夜「お気遣いは無用です、無事を確認できない今よりも不安になることはありません」

颯「……でも」

凪「はーちゃん、この人は引かないと思います」

あきら「たぶん、その通り」

りあむ「お嬢さま、だいだいだいすこ人間だからね!」

あかり「気持ちはわかるけど、見て安心したいんご!」

颯「……」

千夜「お願いします。お嬢さまはどちらにいるのですか」

凪「はーちゃん」

颯「……わかった。案内するね」
107 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:32:36.00 ID:ve+l2aZk0
61

出渕教会・1階・礼拝堂

あきら「#教会 #静寂 #雰囲気ある」

凪「ここに運び込まれた、と」

颯「うん。ちとせさんは地下2階にいるよ」

千夜「案内してください。早く」

あかり「千夜さん、そんなに焦らなくても」

奏「あら、今度は大勢なのね」

りあむ「む!シスター?シスターでしょ!?」

凪「違います」

りあむ「この貫禄!絶対に聖職者だよ!顔も良い!」

千夜「少し大人しくしていろ。お嬢さまをお前の声で起こすなどあってはならない」

りあむ「ただの感想を言っただけなのに……やむ」

奏「この愉快な人達はどうしたのかしら」

颯「ちとせさんに会いに来たんだ」

奏「ちとせ……あの子に?」

千夜「はい。お嬢さまのお世話をしている者です。保護されたそうなので、確認に参りました」

奏「ふーん……」

千夜「お嬢さまは、どちらですか」

奏「あなた」

りあむ「えっ、ぼく?」

奏「あなたは地下に行ってもいいわ。彼女に無事を確認してもらうのでいいかしら?」

りあむ「え?意味がわからないよ!」

あきら「……意味不明デス」

あかり「どういうことでしょう?」

奏「双子ちゃんはもちろんいいわ」

凪「話がわかる。はーちゃん、行きましょう」

颯「あっ、行っちゃった」

奏「どうかしら」

千夜「意味がわからない。なぜ、そこまで私をお嬢さまに会わせないのですか」
108 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:34:00.56 ID:ve+l2aZk0
颯「それは……」

千夜「それは、何ですか」

颯「その」

奏「あらあら、年下の子を怖がらせるのはダメよ?」

千夜「それならば、お前が答えろ」

奏「お望み通り、答えてあげようかしら。教会の地下はあなたの世界じゃない」

千夜「お嬢さまがいるのなら、私の場所です」

颯「……」

奏「あなたは太陽の下にいた方がいいわ。ここで引き返しなさい」

千夜「引き返しません」

奏「強情ね、あなた」

千夜「それしかありませんから」

奏「そうかしら……まぁ、忠告はしたわ。涼?」

涼「凪に言われて来た。フム……健康そうで何よりだ。アタシの仕事は増えない」

あきら「タイプの違う感じの人が出て来た」

あかり「えっと、こんにちは!」

千夜「責任者ですか」

涼「シスター不在の間はそうだ。アンタが白雪千夜か?」

千夜「はい」

涼「アンタのお嬢さまは、階段を降りてこないことをご所望だ」

千夜「何度も同じことを聞くな。お嬢さまに会わせてください」

涼「いつまでも会わせないわけじゃない。今日は戻らないか」

千夜「それも聞きました。戻りません」

涼「そうか。アンタらはどうする?」

あきら「大人数で押しかけると迷惑」

あかり「そうですね、ここで待ってます!」

涼「夢見りあむはどうする?」

りあむ「あれ、りあむちゃんの名前知ってる?」

涼「経緯は後で話すさ。回答は」

りあむ「ぼくは、見ないといけない気がする」
109 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:35:49.99 ID:ve+l2aZk0
涼「そうか。颯」

颯「なに?」

涼「2人とここで待っててくれ。いいか」

颯「うん」

奏「私もそうしようかしら。よろしく」

あかり「はい、自己紹介しないとですね!」

涼「2人は行こうか。心の準備は出来ているか?」

千夜「準備も何もありません」

涼「こちら側を覗く準備だ」

千夜「は?」

涼「そっちは……出来てるみたいだな」

りあむ「え……どういうこと?吸血鬼の末裔じゃないんでしょ?なんで?」

千夜「お前、どういうことかわかっているのか?」

りあむ「りあむちゃんにはわからないよう!でも、普通じゃない!」

千夜「わかりません。お嬢さまから直接お伺いします」

涼「答えられる状態ならいいが……そうだ、確認していいか」

千夜「まだ条件があるのですか」

涼「銀を身に着けていないな?そうなら、地下に案内するよ」
110 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:37:02.41 ID:ve+l2aZk0
62

出渕教会・地下2階

裕美「すぅ……すぅ……」

りあむ「あ……美女を探してた女の子がいる……」

千夜「お嬢さま!」

凪「お静かに。寝ています……寝苦しそうですが」

涼「凪は馴染み過ぎだ」

凪「よく言われます」

千夜「……ご無事で安心しました。何もしてませんね」

凪「凪は何もしてません。はーちゃんはどこでしょう」

涼「1階にいる」

凪「挨拶は改めて。それでは」

涼「マイペースだな」

千夜「お嬢さま、熱があるようですね……」

りあむ「熱発……体の痛みもある……かな?」

千夜「丁寧に扱われているようで感謝します。医者には見せましたか」

涼「医者には見せていない」

千夜「一刻も早く病院へ」

涼「それはできない」

りあむ「動かせない?脳卒中のおそれ?」

涼「違う。起き上がれるし、会話もできる」

りあむ「せん妄は?」

涼「ない」

りあむ「病院行こう。保険証ある?」

千夜「もちろんです。熱がある時にかかる医者も決まっています……が」

りあむ「が?」

千夜「違和感があります」

りあむ「違和感?なに?」

千夜「わかりませんが……どこか違うような……」
111 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:39:30.18 ID:ve+l2aZk0
りあむ「いつも見てるお医者サマならわかるはず」

千夜「タクシーを呼びましょう」

涼「会話が進んでいるところ悪いが」

千夜「何でしょうか」

涼「医者に見せてもムダだ。それに、この症状にもっとも詳しい人間はここにいる」

千夜「どういう意味でしょうか」

りあむ「誰?上にいた美人?」

涼「そこで寝てる裕美だ」

千夜「この少女に何がわかるのですか」

裕美「……わかるよ、全部」

りあむ「あっ、起きた」

千夜「……おはようございます」

裕美「微熱が続くのが潜伏期間、その後に強い発熱があるの。その時に、声がするの。それでも生きていたいかって」

りあむ「なにその病気?そもそも病気……?」

千夜「微熱?お嬢さまの体調は悪くありませんでした。少なくとも最近は」

裕美「うん、ちょっと特殊なの。最後に言った問いかけもないから、高熱が出てて息苦しいだけ」

りあむ「熱は何時下がるの?」

裕美「早ければ今晩には。明日の夜には必ず」

千夜「話はわかりました。あなたも眠そうですし、後はこちらで」

裕美「日光はもうダメだから、動かさないで」

千夜「日光?」

りあむ「日光アレルギーって、1日か2日でなるものだった?」

裕美「だから、病院に行っても意味はないよ」

りあむ「急激に体質が変わる……なに?魔法?」

涼「……」

裕美「魔法じゃないよ。私は素敵な魔法使いじゃない」

千夜「まどろっこしい。お嬢さまに何があったのですか」

裕美「……」

りあむ「言いにくいことだよ、この流れだし」

千夜「そんなことはお前に言われずともわかっています。それでも、教えなさい」

涼「……」

ちとせ「……話してあげて」
112 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:42:13.25 ID:ve+l2aZk0
千夜「お嬢さま!」

ちとせ「来ちゃったんだ、千夜ちゃん」

千夜「当たり前です。どれだけ心配したと思ってますか」

ちとせ「……」

千夜「お嬢さま?」

りあむ「熱で大変?寝てた方がいいよ?」

ちとせ「そうね……千夜ちゃん、もう少し寝かせて。大丈夫だから」

千夜「……はい。お望みとあれば」

ちとせ「裕美ちゃんも寝かせてあげて……だから、あなた、千夜ちゃんに話してあげて」

涼「アタシでいいのか」

ちとせ「前の私がどうだったかもわかる、でしょ」

涼「……ああ」

ちとせ「話を聞いてきて、千夜ちゃん」

千夜「はい、お嬢さま」

りあむ「ねぇ、ぼくがお嬢サマを見てようか?」

千夜「お前が?」

りあむ「その子も安心して寝れる!お嬢サマの寝顔を眺められる!一石二鳥!」

千夜「不安な言い方ですね」

ちとせ「見るだけなら……許してあげる」

りあむ「だって!褒めてくれる?」

ちとせ「良ければね……」

涼「任せていいか」

りあむ「うん!」
113 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:43:06.23 ID:ve+l2aZk0
涼「頼んだ。白雪千夜は上に行こう」

千夜「ええ。全てお話くださるのであれば」

涼「ああ。本人の望みならな」

ちとせ「おやすみ、千夜ちゃん」

千夜「おやすみなさいませ、お嬢さま」

涼「行くぞ」

千夜「わかりました」

裕美「ふわぁ……おやすみ……」

ちとせ「おやすみ……えっと……あなた、お名前は」

りあむ「夢見りあむ、覚えて」

ちとせ「あはっ、りあむ、ね……見ててね」

りあむ「うん、ずっと見てる」

ちとせ「ありがとう……おやすみ」

りあむ「おやすみ、いっぱいねるんだよ」
114 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:48:19.09 ID:ve+l2aZk0
63

出渕教会・地下1階

千夜「は?」

涼「まぁ、そういう反応になるよな」

千夜「お嬢さまと協力し、私をたばかっているのですか」

涼「アンタのお嬢さまは、そんなことをする性格か」

千夜「違います……ですが」

涼「信じろとは言ってない」

千夜「……」

涼「信じたくないのなら、アンタが知ったことを忘れさせることもできる。真実なんて、なかったことにできる」

千夜「忘れたら、お嬢さまは帰ってきますか。昨日までと元通りに、なりますか」

涼「太陽が嫌いなお嬢さまとの生活が始まるさ、昨日までそうだったかのように」

千夜「……あなたの話は本当ですか」

涼「アタシ?」

千夜「お嬢さまの命は……短かったのですか」

涼「信じるのか」

千夜「信じるかどうかは……聞いてから考えます」

涼「ああ。その通りだよ」

千夜「それはわかっています……お体が弱いのは、昔からですから」

涼「だが、ここ数ヶ月というわけじゃない。十数年といったところか」

千夜「つまり、襲われたのが原因ですか」

涼「ああ、命は奪われなかったが終わりまでは近づいた」

千夜「お嬢さまが、選んだのですね」

涼「裕美の意思は人間としての治療を受けることだった」

千夜「変質は……お嬢さまが選んだこと」

涼「選んだから、今も生きている。黒埼ちとせは吸血鬼に変わる。短かった人間の命ではなく、吸血鬼の命を生きる。そう、選んだ」

千夜「……はい」

涼「吸血鬼の末裔ではなく、ホンモノになる。それで、だ」

千夜「……」

涼「アンタはどうする?」

千夜「私は……」

涼「……」
115 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:49:27.62 ID:ve+l2aZk0
千夜「少し考えてもよいですか」

涼「それがいい。時間は、出来た」

千夜「お嬢さまを、見ていてくださいますか」

涼「わかった」

千夜「……また来ます」

涼「待て。話を聞いてくれた礼だ、これを」

千夜「お気遣いは結構です」

涼「受け取ってくれないとアタシが困る。受け取ってくれ、ほら」

千夜「投げないでください……これは」

涼「スーパーの商品券だ。たまには、お腹いっぱい食べるのもいいだろ?」

千夜「……受け取っておきます。失礼します」
116 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:51:32.21 ID:ve+l2aZk0
65

出渕教会・1階・礼拝堂

奏「へぇ、動画配信……」

颯「はーも興味ある!」

凪「凪もやぶさかではありません」

奏「顔も出すのかしら」

あきら「出さない。マスクはしたまま」

奏「不思議な文化もあるのね。顔を見せないで大丈夫だなんて」

あかり「奏さん、動画は見ないんですか?」

奏「私はお父さんと同じで映画だけ。インターネットの動画って面白いの?」

あきら「はい。たぶん」

奏「そう、私も見てみようかしら。お母さんも最近見てるみたいだし」

千夜「……随分と仲良くなっていますね」

あかり「千夜さん、お帰りなさい!」

あきら「ちとせサン、どうでしたか」

千夜「無事でした。安心してください」

颯「……」

あきら「なんか、あった?」

あかり「千夜さん、あんまり嬉しくみえません……」

凪「それはですね」

颯「なー、しー」

凪「もごもご」
117 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:52:09.47 ID:ve+l2aZk0
千夜「すみません」

あかり「えええ!謝らないでください!」

千夜「……お嬢さまはこちらのお世話になります。よろしくお願いします」

奏「お世話はしないけれど、お願いは聞くつもりよ。忘れたいのなら、そうしてあげる」

千夜「考えます。今日は、家に帰ります」

あきら「あ……千夜サン、待ってください」

あかり「私達も帰ります!お話できて楽しかったんご!さようなら!」

凪「さようなら」

颯「ばいばい」

奏「悩めるお年頃ね」

颯「奏さんは余裕だね。はー、千夜さんのこと心配」

凪「凪は逆です。きっと答えを出します」

奏「ええ」

凪「ところで、忘れさせられるのですか」

奏「あなた達にはまだヒミツ」

凪「残念。捕食者を見つけて教えてもらいましょう」

颯「うん。楓さん、早く見つけないとだね」
118 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:52:43.88 ID:ve+l2aZk0
66

出渕教会近くの路上

千夜「……」

あきら「……」

あかり「……」

あきら「あの、千夜サン」

千夜「自宅に帰るだけです。着いてこなくてかまいません」

あきら「そうじゃなくて……」

あかり「何があったんですか?」

千夜「……心配はありません。お嬢さまは無事です」

あきら「それじゃ一緒デス、あの人達と」

千夜「一緒ですか……その通りですね、あなた達には何も話していない」

あかり「話してくれませんか」

あきら「お願いします」

千夜「これは私の問題です。少し、時間をください」

あかり「違います!」

あきら「そーデスよ」

あかり「私達の部長ですから」

あきら「千夜サンが頼んできたのはそういう意味かと」

千夜「……」

あかり「付き合いの長さは違いますけど」

あきら「せっかくなので悩みます」

あかり「一緒に」

千夜「……お節介ですね、あなた達は」
119 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:53:16.97 ID:ve+l2aZk0
あかり「そうですか?」

あきら「そうかもしれないデス」

千夜「わかりました、ただ私も飲み込めていません。少し待ってくれませんか」

あかり「あきらちゃん、いいですか?」

あきら「はい」

千夜「ありがとうございます」

あかり「そうだ!」

あきら「はい?」

あかり「千夜さん、一緒にお家に行っていいですか?」

あきら「家庭訪問」

あかり「一人は寂しいかと思って」

千夜「寂しくはありません。お嬢さまがいない時もありましたから」

あきら「……」

千夜「来てくださるのならば、歓迎します。いかがでしょう」

あかり「はい!あきらちゃんもどうですか?」

あきら「行く。豪邸気になる」

千夜「マンションの一室ですし、豪邸というほどでもありませんが」

あきら「意外と質素?」

千夜「海外の黒埼邸はまごうことなき大豪邸ですよ。家というよりは城です」

あきら「イメージ通り」

あかり「はえ〜、お城は凄いんご!」

千夜「ご案内します。こちらです」
120 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:55:11.41 ID:ve+l2aZk0
67

出渕教会・1階・礼拝堂

りあむ「あれ?」

奏「どうしたのかしら」

りあむ「みんなは?」

奏「帰ったけれど」

りあむ「置いてかれた?」

奏「置いてかれたというよりは、誰も気にしてなかったわね」

りあむ「ひどい!巻き込んでおいて薄情者ども!」

奏「ふふっ」

りあむ「なんで笑うの!?」

奏「面白い人ね、あなた」

りあむ「面白い?笑わせるのと笑われるのは違うよ!笑われる側は辛いよ!」

奏「お嬢さまがいるから、また戻ってくるわ」

りあむ「そうだけど、一言くらい!」

奏「ワガママね」

りあむ「りあむちゃんはワガママだよ!チヤホヤされたい!しろ!」

奏「あなたが、私が望むものをくれるのであれば」

りあむ「何で近寄ってくるの?近いよ?」

奏「うふ……」

りあむ「あわわわ!あごクイはマズイ!あらぬ気持ちが湧きあがる!」

奏「……」

りあむ「このまま唇を差し出すしか……」

奏「なんてね」

りあむ「りあむちゃんの純情は守られたよ……」

奏「上に来たのだから、何か用事があるのかしら」

りあむ「そうだよ!りあむちゃんもノドが渇いた!飲み物!」

奏「キッチンは地下よ。案内しましょうか」

りあむ「うん!ところで、お姉さんは何してたの?」

奏「速水奏」

りあむ「速水さんは何してるの?」

奏「奏でいいわ。高校生だから年下でしょう」

りあむ「JKなの!?」

奏「高校に通ってるからそうね。少し掃除をしてたの、出入りさせてもらっているから」

りあむ「なんと……りあむちゃんより百倍オトナ……やむ……」

奏「……そうかしら」

りあむ「なに?」

奏「何でもないわ。私も何か飲もうかしらね、用意してくれるかしら」

りあむ「もちろんだよ!りあむちゃんは尽くすオンナだから!」
121 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:56:01.82 ID:ve+l2aZk0
68

黒埼ちとせの自宅・玄関前

あかり「ほー」

あきら「へー」

千夜「そこまで物珍しいでしょうか」

あかり「都会のマンションはオシャレだなって!」

千夜「防音に問題ないと思いますが、お静かに」

あきら「はい」

千夜「……先客がいるようです」

あい「待っていたよ。君のお嬢さまは見つかったかい?」

千夜「見つかりました」

あい「それは良かった。連絡が欲しかったよ」

あきら「連絡先……そっちも知ってるはず」

千夜「申し訳ありません。ご無事でしたのでご安心ください」

あい「それなら、何故帰ってこないのかな」

あきら「……」

千夜「体調を崩しています」

あい「近隣の病院には運ばれていないようだ」

千夜「調べているのですか」

あい「ああ。どうしたのかな」

千夜「信頼できる方に見てもらっています。心配は無用です」

あい「そうか。では、質問を変えよう」

千夜「まだあるのですか」

あい「1つだけにしよう。いいかい?」

千夜「どうぞ」

あい「何故体調を崩した?病院にいないような体調不良とは何だ?」

千夜「……お前もあちら側か」

あい「違うさ。私は犯人を捕らえて罰を与えたい、警察官だからな」

あかり「それでいいのかな……」

千夜「……」
122 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:57:00.32 ID:ve+l2aZk0
あい「どうかな、事件性があるなら協力しよう。例え、怪物の類でもだ」

あかり「えっと……」

あきら「うーん……」

千夜「その提案はお断りします。お嬢さまの件にご協力いただきありがとうございました」

あい「そうか」

肇「警部」

あい「やぁ、藤原君。追いついたね」

肇「これからどうなさいますか」

あい「事件性はなかったようだ。署に戻るとしよう」

肇「わかりました」

あい「失礼するよ。何かあったら相談してくれ」

肇「失礼いたします」

あきら「……ありがとうございました」

あかり「あ、ありがとうございました!」

千夜「……」

あきら「感じは良くないデスね」

あかり「良い人には思えないんご!」

千夜「ええ……」

あきら「千夜サン、何か気になる?」

千夜「あの刑事、どこから来ましたか」

あかり「私達と同じ入り口から」

千夜「追いついたと言ってました」

あきら「あ……」

あかり「あきらちゃん、どうしたの?」

あきら「あの若い方の刑事、つけてた」

あかり「つけてた?」

千夜「尾行されていたようです、私達は」

あきら「どこにいるか聞かなかった」

千夜「お嬢さまもどこにいるか、わかっているはずです」

あかり「それなら、どうしてここに?」

千夜「調査を進めるかどうか聞きに来ただけでしょう」

あきら「一応警察デスから」

千夜「忘れましょう。お嬢さまは無事でした、あの二人に頼むことはありません」

あきら「……そーデスね」

あかり「わかりました」

千夜「こちらです。どうぞ」
123 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:57:56.33 ID:ve+l2aZk0
69

夕方

久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「帰ってないか」

凪「現場に戻る、刑事の掟です」

颯「刑事じゃないし、犯人じゃないけどね」

凪「近所で隠れられそうな場所は訪ねました」

颯「でも、いない」

凪「フム、凪は考えました」

颯「なに?」

凪「考えましょう」

颯「考えることを考えた?」

凪「はい」

颯「楓さんの行きそうなところを考えるってこと?」

凪「はーちゃん、流石です」

颯「わかった。地図でも見て考えてみよっか」

凪「そうしましょう」

颯「なー、帰ろっか」

凪「帰りましょう。遠い我が家に」

颯「隣だよ?」

凪「冗談です。口が勝手に」

颯「口が勝手に?」

凪「凪の顔に何かついていますか?」

颯「ううん、なんでもない!いこっ!」

凪「置いて行かないでください。すねますよ」
124 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:58:52.91 ID:ve+l2aZk0
70



出渕教会・地下1階

涼「何してるんだ?」

りあむ「ご飯の準備だよ!吸血鬼ちゃんが起きてくるから!」

涼「そうか。ありがとな」

りあむ「一緒に作る?一緒に食べる?」

涼「少し出かけてくる。残しておいてくれたら、いただくよ」

りあむ「わかった!」

涼「ところで、作ってるのは」

りあむ「餃子だよ!ぼくが上手に作れる数少ないものだよ!ニンニクも入れるよ!」

涼「ははっ、吸血鬼に餃子を作るのか。ニンニク入りの」

りあむ「あっ!」

涼「というか、吸血鬼の話は聞いてるのか?」

りあむ「聞いた、お嬢さまから聞いちゃった!まさかニンニクはダメだった?」

涼「平気だよ、食べ物は。ニンニクがダメなら色々なものがダメだろう」

りあむ「よかった!ダメなのは?」

涼「日光と銀だな。理由はよくわからない」

りあむ「アレルギーとか?過敏症だよね?」

涼「過剰なアレルギー反応かもしれないな。燃えるというか溶ける感覚らしい」

りあむ「こわっ……気をつけないと」

涼「そういうことだから、餃子を振る舞ってあげてくれ。喜ぶよ、一緒の食事は」

りあむ「そうだよね!誰かとご飯するの美味しい!」

涼「ああ。出かけてくる、2人は任せたよ」

りあむ「うん!ここはりあむちゃんに任せて!いってくるといい!」

涼「まっ、頼もしいということにしておこうか」

りあむ「何しにいくの?」

涼「仕事さ。今日は長引いたりしないといいが」

りあむ「仕事?」

涼「アタシのことも後で話すよ。今は、お嬢さまだけ気にしててくれ」
125 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 21:59:35.79 ID:ve+l2aZk0
71

黒埼ちとせの自宅

千夜「こちらもどうぞ。冷製スープです」

あかり「あ、ありがとうございます!」

あきら「美味しいデスが……」

あかり「まだ出てくる……フルコース……」

あきら「今日はちとせサンをお世話したりないのかな……」

あかり「そうだと思います……」

千夜「私もいただきます。フム……狙い通り上手く出来ました」

あきら「思ったより一杯食べる人デスね……」

あかり「はい……こんなに細身なのに」

千夜「お二人はいかがでしょうか?」

あかり「とっても美味しいです!」

あきら「本当に料理上手デス。ちとせサンが羨ましい」

千夜「それは良かった。締めに素麺の小鉢とデザートをお持ちしますので、お待ちください」

あきら「助かった……」

あかり「食べきれるんご!」

あきら「あの、あかり」

あかり「なに?」

あきら「千夜サンの私物、ある?」

あかり「ううん、やっぱりないよ」

あきら「趣味とかないんデスかね……」

あかり「お料理と寝ることが好きって」

あきら「趣味かな、それ」

あかり「うーん……」

千夜「深刻そうな顔をしてどうしましたか」

あかり「いいえ、なんでもありません!」

千夜「そうですか。締めの素麺とデザートの」

あきら「アップルパイ……」

あかり「一人、3分の1切れ……」
126 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:00:22.32 ID:ve+l2aZk0
千夜「アップルパイは嫌いでしたか?辻野さんは好きかと」

あかり「そんなわけないんご!大好物んご!」

あきら「完食します」

千夜「そうですか。コーヒーかお茶はいかがですか、ご用意します」

あかり「それじゃあ、紅茶がいいんご!」

あきら「コーヒーで、ミルクと砂糖ありで」

千夜「かしこまりました。お待ちください」

あかり「このアップルパイは……」

あきら「お腹いっぱいですが……別腹を動かす」

あかり「すごい!」

あきら「あかり?」

あかり「丁寧に煮て柔らかそうなコンポート。皮の赤を残して綺麗な色どりに。焼き上がりを食後にあわせて、一番柔らかい時に食べられるんご!」

あきら「突然口が達者に……」

あかり「素麺も、だし!だし!」

あきら「出汁がどうかした?」

あかり「山形県のだしは夏野菜が入ってるつけ汁のこと!美味しい!千夜さんは凄いんご!」

あきら「この山形愛はあかりのどこから出てくるんデスかね……うん、美味しい」

あかり「お食事はごちそうさまでした!」

あきら「お腹いっぱいなのに入ってしまった……」

あかり「千夜さんにいつもお世話されたら真ん丸になっちゃう!」

あきら「本当デスね、でも」

あかり「あ……」

あきら「ちとせサンはあんまり食べられないみたいデス」

あかり「でも、かえって良かった?」

あきら「ムチムチぷくぷくなちとせサンは見たくないデス……雪だるま……」

あかり「あはっ、そうだね」

千夜「何の話をしてるのですか」
127 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:01:06.93 ID:ve+l2aZk0
あかり「お素麺美味しかったです!」

千夜「山形風にしてみました。喜んでいただきなによりです。お飲み物をどうぞ」

あかり「ありがとうございます」

千夜「私もご一緒します」

あかり「はい!」

あきら「いつもこんなに作るのデスか?」

千夜「いいえ。お嬢さまが残してしまうことも考慮した分しか作りません」

あかり「今日は?」

千夜「久しぶりの来客ですので、はりきりすぎました。無理して食べていませんか」

あかり「してないんご!」

あきら「美味しいから苦痛じゃない」

千夜「ありがとうございます」

あかり「いつもはちとせさんと一緒に食べてるんですか?」

千夜「ええ。一人なら適当に済ませてしまいますから」

あきら「……」

あかり「千夜さんの好きな物はなんですか?」

千夜「なんでしょうね……あかりさんはりんごですか?」

あかり「どうして、わかるんですか!?」

あきら「むしろ違ったらびっくり……」
128 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:01:58.33 ID:ve+l2aZk0
千夜「お嬢さまは美味しいものがお好きですよ……量は食べられませんが」

あきら「セレブは美食」

あかり「マナーとかも完璧そう!」

千夜「ええ。そう言えば、お聞きしておきたいのですが」

あかり「なんですか?」

千夜「今晩はお泊りになられますか」

あかり「え?」

あきら「あかり、ちょっと耳かして」

あかり「うん……」

千夜「?」
129 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:03:25.13 ID:ve+l2aZk0
あきら「思ったより、ちとせロスが大きいみたいデス……」

あかり「そうみたい……」

あきら「あかり、泊っていける?」

あかり「家族にちゃんと連絡すれば大丈夫。あきらちゃんは?」

あきら「ちとせサンに頼まれたし、泊る」

あかり「決まりんご!」

千夜「何を相談してるのですか」

あかり「千夜さん、ぜひ泊まらせてください!」

あきら「よろしくお願いします」

千夜「わかりました」

あきら「でも、着替えを取りに一回帰る」

あかり「私もそうします」

千夜「はい。お待ちしております」

あかり「まずは、アップルパイを食べるんご!う〜ん、おいしい〜」

あきら「おいしい……ホントに」

千夜「我ながら美味しくできました」

あかり「千夜さん、体力ありそうだし山形のお嫁に欲しいんご!」

千夜「お断りします」

あかり「なしてや!何も言ってないし、冗談なのに!」

あきら「へへー、断られてる」

千夜「……」

あかり「千夜さん?」

千夜「冷める前に食べましょうか、一緒に」
130 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:04:20.77 ID:ve+l2aZk0
72

出渕教会・地下2階

りあむ「吸血鬼がニンニク多めの餃子を食べてる……」

裕美「どうしたの?」

りあむ「いや!お口にあったかなって!」

裕美「美味しいよ。りあむさん、料理上手だね」

りあむ「そうでもない!自分の好きな物だけ!」

ちとせ「いいな、私も食べたい」

りあむ「病人はダメだよ!体温測れた?」

ちとせ「ええ。はい、体温計」

りあむ「39℃、よく話せるね?凄いよ?」

ちとせ「慣れてるから、かな。りあむは?」

りあむ「りあむちゃんは健康優良児だよ!体は健康そのもの!心はズタズタ!」

裕美「ちとせさん、ご飯食べれる?」

りあむ「もうスルーされるように!」

ちとせ「少しだけ、食べようかな。りあむがお粥を作ってくれたから」

りあむ「食べれる?食べさせてあげようか?いや、ぼくにあーんをさせろ!」

ちとせ「それじゃあ、お願いしようかな」

りあむ「よしよし、はい、あーん」

ちとせ「あむ……」

りあむ「どうどう?もう一口、はい」

ちとせ「あむあむ……あれ?」

りあむ「どうしたの?」

ちとせ「味がないの」

裕美「私も味見……薄味だね」

りあむ「薄味だよ!塩分過多だからね!」

ちとせ「そう?」

裕美「このスポーツドリンクのせい?」

りあむ「そう!だから、安心して食べるんだよ!はい、あーん!」

ちとせ「あーん……」

りあむ「どう?美味しい?褒める?」

ちとせ「千夜ちゃんのご飯の方が美味しい」

りあむ「そこは美味しいって言っておくところ!」
131 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:05:10.59 ID:ve+l2aZk0
ちとせ「あはっ……」

裕美「まだ熱があるから無理しちゃダメだよ」

ちとせ「うん……りあむ、もう少しだけ食べさせて」

りあむ「もちろんだよ!ご奉仕得意だよ!」

裕美「言い方……」
132 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:06:31.36 ID:ve+l2aZk0
73

出渕教会・地下2階

ちとせ「ねぇ」

裕美「なに?寝てなくて平気?」

ちとせ「寝飽きちゃった」

裕美「ちょっと熱も下がったかな、少し起きてる?」

ちとせ「そうする」

りあむ「お嬢サマ!あかりちゃんから電話がきたよ!」

ちとせ「ちとせでいいよ」

りあむ「なんか恐れ多い!」

ちとせ「同い年みたいだから、いいよ」

りあむ「同い年なの?高校生じゃないの?」

ちとせ「出席日数が足らなくて高校3年生が2回目なんだ」

りあむ「同い年だ!大学は内部進学のつもりだった?」

ちとせ「そう。本当は同級生になれたの」

りあむ「ずるいよ!それならりあむちゃんも寂しくなかったかも!」

裕美「寂しいの?」

りあむ「友達もあんまりいないし!これからが不安だよう!」

ちとせ「大丈夫だと思うよ、りあむは」

りあむ「え?」

ちとせ「あかりちゃんから電話があったんでしょ?なんて言ってた?」

りあむ「お嬢サ……」

ちとせ「ちとせ」

りあむ「あー、うー……ちとせ……」

ちとせ「よし」
133 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:07:13.90 ID:ve+l2aZk0
りあむ「ちとせ、の家に泊まるって、3人で」

ちとせ「あきらちゃんと千夜ちゃんで?」

りあむ「そう言ってた!メイドちゃんがお腹パンパンになるほど料理を出してくれたって!」

ちとせ「メイドじゃない。白雪千夜、そう呼んであげて」

りあむ「白雪ちゃん、でいい?」

ちとせ「いいよ。苗字で呼ばれるのもキライじゃないから、あの子」

りあむ「なんで?」

ちとせ「そっか。りあむはまだ聞いてないんだ、裕美ちゃんも詳しくは話してないよね?」

裕美「うん。聞いていいのかな」

ちとせ「夜も長いから聞いてほしいな、いいでしょ?」

りあむ「聞くよ!りあむちゃんは夜更かしは特技だからね!」
134 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:07:51.38 ID:ve+l2aZk0
74

黒埼ちとせの自宅

あかり「あきらちゃん……」

あきら「しー……」

千夜「……」

あかり「千夜さん、寝ちゃった?」

あきら「うん……朝から起きてたみたいだから」

あかり「疲れちゃったのかな。お布団かけてあげましょう」

あきら「そうだと思う」

あかり「結局、何があったか聞けなかった」

あきら「話してくれる……かな」

あかり「話してくれますよ……多分」

あきら「……うん」

あかり「私達も寝ましょうか。来客用のお布団、ふかふかで気持ちよさそう」

あきら「同感デス。おやすみ、あかり」

あかり「おやすみなさい、あきらちゃん、千夜さん」
135 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:09:19.79 ID:ve+l2aZk0
75

深夜

出渕教会・地下2階

ちとせ「すぅすぅ……」

裕美「気持ちよさそうに寝てる……もうお日様のもとには絶対に出れないかな」

りあむ「うぅ……眠いよぅ」

裕美「寝ればいいのに」

りあむ「ちとせが見ろって言ってたから、見てる。夜は寂しいから」

裕美「そうだね。ご両親も海外らしいし」

りあむ「ぼくも一緒。親は海外。風邪を引くと、本当に絶望だから」

裕美「そうなんだ。ねぇ、りあむさん?」

りあむ「なに……」

裕美「どうして、看護学科を選んだの?」

りあむ「……」

裕美「りあむさん?」

りあむ「……」

裕美「寝ちゃった。意地でもベッドから離れなさそうだから、このままにしておこうかな」
136 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:12:41.38 ID:ve+l2aZk0
76

翌日・とある水曜日

早朝

黒埼ちとせの自宅

千夜「おはようございます」

あかり「千夜さん、早いですね。まだ朝焼けの時間ですよ?」

千夜「辻野さんもお早いですね」

あかり「農家の習慣が残ってるからかな?」

千夜「砂塚さんは……まだお休みのようです」

あきら「くーくー……」

千夜「私は出渕教会へ行ってきます」

あかり「また、教会に?」

千夜「今のうちに話を聞いておこうかと思います」

あかり「誰に、ですか?」

千夜「……吸血鬼ですよ」

あかり「へ?」

千夜「行ってきます。留守番をお願いします」
137 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:13:48.05 ID:ve+l2aZk0
77

出渕教会・地下1階

裕美「あ、白雪さん。おはよう……かな?私は寝るところだけど」

千夜「おはようございます」

裕美「ちとせさんを見にきたの?熱も下がり始めたよ、安心して」

千夜「いいえ。あなたに話を聞きに来ました」

裕美「私?」

千夜「はい。あなたが眠る前に」

裕美「いいよ、そこに座って」

千夜「はい。失礼します」

裕美「何が聞きたいの?」

千夜「単刀直入に聞きますが」

裕美「うん」

千夜「私は吸血鬼になれるでしょうか」
138 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:17:16.30 ID:ve+l2aZk0
78

出渕教会・地下1階

裕美「……」

千夜「あなたかお嬢さまに噛まれることで、私は吸血鬼になれますか」

裕美「……」

千夜「それならば、お嬢さまと一緒に居られます。ずっと」

裕美「……」

千夜「お答えください」

裕美「質問をしていい?」

千夜「どうぞ」

裕美「変わりたくないから、だよね」

千夜「……はい。私にはもうお嬢さましかいませんから」

裕美「わかった。あなたは変われないよ、だから噛まない」

千夜「やってみなければわかりません」

裕美「変質できないと死んじゃうから。私は噛まない」

千夜「変質の条件を満たせばいいのですね」

裕美「そうだけど……」

千夜「変質の条件は何ですか」

裕美「……」

千夜「答えてください」

裕美「執着と願望だよ」

千夜「執着と願望?」

裕美「怪物と化しても生きていたい、生きることへの執着と」

千夜「……」

裕美「自分を変えてしまいたい、変身への願いだよ」

千夜「……」

裕美「ある人は、復讐のために変質を選んだ」

千夜「……」

裕美「ある人は、大切な人と同じ世界を生きるために望んでいた」

千夜「……」

裕美「ある人は、胸に秘めていた変身への思いで変わった」

千夜「……」

裕美「ある人は……大切な人の人生を見届けるために変わった」

千夜「……」

裕美「肉体的な条件はないんだ、誰も知らなかったけどね。たまたま、私を変えた人も、私も、ちとせさんも瞳が紅いけど」

千夜「……」

裕美「あなたは変われないよ。目的が自分であることだから。健康だから生きることに疑問もなさそう。永い時間を生きたいとも思っていない」

千夜「……」

裕美「あなたの目的が変わらないと、変質はできないと思う」

千夜「それならば、私が変わる時は」

裕美「その時は、吸血鬼になる必要がない。変質の理由がなくなるから」

千夜「そういうこと……ですか」
139 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:19:25.95 ID:ve+l2aZk0
裕美「ちとせさん、言ってたよ」

千夜「お嬢さまが、何か」

裕美「夜更かしが苦手で、本当は早起きも苦手。夜に眠ることが大好きなあなたを、吸血鬼にはしたくないって」

千夜「……」

裕美「私の僕ちゃんだったけど、吸血鬼の僕ちゃんにはしない、って」

千夜「……」

裕美「質問の答えはこれでいいかな」

千夜「お答えいただき、ありがとうございます。そんな気は……していました」

裕美「うん。でも、ちとせさんはいなくなったわけじゃないよ」

千夜「ええ。私の大切なお嬢さまであることは変わりません」

裕美「これからどうするか、考えないとだね」

千夜「はい。だからこそ、決めました」

裕美「何を?」

千夜「吸血鬼を守る騎士の役目をします。それぐらいは許されるでしょう、今なら」
140 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:34:30.89 ID:ve+l2aZk0
79

黒埼ちとせの自宅

千夜「ただいま戻りました」

あかり「千夜さん、お帰りなさい!」

千夜「砂塚さんは起きましたか」

あかり「今さっき起きたんご!」

千夜「そうですか。朝食は取りましたか」

あかり「ううん、あきらちゃんが着替えたらと思って」

千夜「朝食にしましょうか。軽めにしておきます」

あかり「はい」

千夜「その時にお話します」

あかり「話?」

千夜「何があったか。それと私がどうしたいかを」
141 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:35:55.10 ID:ve+l2aZk0
80

黒埼ちとせの自宅

あかり「……」

あきら「非科学的デスね……」

千夜「その通りですが」

あきら「でも、千夜サンは信じてそうデス」

千夜「お嬢さまに何かあったのは間違いないでしょう」

あきら「確信ある?」

千夜「お嬢さまは発熱がありますが、お体の状態はむしろ良いかと」

あきら「ずっと見てる千夜サンが言ってるから、そうなのかな」

千夜「私に黙っていたのも、対処を間違えないためでしょう」

あきら「吸血鬼の対処なんてわからない」

千夜「相手はあちら側の人々ですが、お嬢さまに危害を与えようとはしていません」

あきら「教会の方は」

千夜「その通りです。問題は」

あきら「スーパーレッド?とかいう方」

千夜「ええ」

あきら「千夜サンは見つけておきたい」

千夜「行動理由からしても、再びお嬢さまの前に現れる可能性があります」

あきら「自分もそう思う」

千夜「そこだけは解決しましょう。お嬢さまが、あちら側に完全に行ってしまう前に」

あきら「うん。あかりはどう思う?」

あかり「……」

あきら「あかり?」

あかり「あっ、ちょっとボーっとしてました!」

あきら「話、聞いてた?」

あかり「はい。良かったり悪かったり色々ですけど、ちとせさんはきっと良い方になると思います」

あきら「……」
142 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:36:51.92 ID:ve+l2aZk0
あかり「千夜さん、私もお手伝いします!」

あきら「一緒に」

千夜「ありがとうございます」

あかり「でも、どうしましょう?」

あきら「普通の人間には敵じゃないみたいデスが」

千夜「協力を頼みましょう」

あかり「あの刑事さんにですか?」

あきら「やれそうだけど……」

千夜「警察にはこちら側にいてもらいましょう。頼むのは」

あきら「教会の方デスね」

千夜「はい。例え見つけたとしても、私達では対処もできませんから」

あかり「助けてもらうってことですね」

千夜「私達はあちら側ではありませんから」

あかり「でも、同じ世界で暮らしてます!仲良くするんご!」

千夜「教会にもう一度行きましょう。準備を」
143 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:38:43.15 ID:ve+l2aZk0
81

出渕教会・1階・礼拝堂

千夜「お邪魔します」

りあむ「白雪ちゃん!お見舞い!?」

千夜「相変わらず騒がしい奴ですね、お前は」

りあむ「相変わらず口調が強いよ!やさしくしよう!」

千夜「お嬢さまをずっと見ていてくれたことは聞いています……ありがとうございます」

りあむ「で……デレだ……耐性がなくて受け取めきれないよう……」

あきら「意味のわからないことを言ってますね」

あかり「りあむさんの言葉遣いは都会で流行ってるんですよね?参考にするんご!」

あきら「違う……あかり、今度よく話そう」

千夜「夢見りあむ、教会の人は誰かいますか」

りあむ「裕美ちゃんとちとせは寝ちゃったよ!」

千夜「は?」

あきら「ちとせ……」

りあむ「え……何で白雪ちゃんに睨まれてるの?なんで?なんか悪いこと言った?」

千夜「今は不問とします……」

りあむ「あと、涼さんがさっき帰って来た。何してたんだろ?」

颯「おはよー!」

凪「おはようございます」

奏「あら、皆お揃いで。暇なのかしら」

千夜「そちらこそ」

あかり「でも、仲間が増えたんご!」

あきら「一人でも多い方がいいデス」

奏「何の話かしら?」

千夜「松永涼でしたか、呼んできてください。話があります」

りあむ「ぼくに言ってる?」

千夜「早く」

りあむ「わかったよう!地下1階で集合だよ!」
144 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:39:25.25 ID:ve+l2aZk0
82

出渕教会・地下1階

涼「待ってますよ、失礼します」

りあむ「涼さん!」

涼「どうした?」

りあむ「誰と電話してたの?黒電話とか使い方わかるの?」

涼「『シスター』から電話だ。こっちに来るらしい」

りあむ「シスター?」

涼「教会の持ち主だよ。りあむ、何か用事か?」

りあむ「白雪ちゃんから話があるって!」

涼「白雪千夜か。ちょうどいい、案内してくれ」
145 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:40:23.08 ID:ve+l2aZk0
83

出渕教会・地下1階

千夜「私からの話は以上です」

涼「フム」

千夜「私はお嬢さまの安全を望んでいます」

奏「あなたの私怨もあるでしょう?」

千夜「否定はしません」

奏「怨みと愛は近い場所にいる感情。私は責めないわ」

凪「つまり、話をまとめると」

あかり「スーパーレッドを見つけて」

あきら「何とかする」

颯「そっちを見つければ、楓さんも安心だよね」

千夜「しかし、普通の人間ではありません」

りあむ「ちとせのために、ぼくも手伝うよ!」

颯「でも、どうするの?」

あかり「見つけないとですね!」

あきら「どうやって?」

凪「おびき出すのはどうでしょう。囮を使って」

奏「私に囮を頼んでるのかしら」

凪「一案です」

奏「まぁ、既にやってるのだけれど」

あきら「収穫は」

奏「なしね。裕美も涼も私にも釣られてこない」

涼「闇雲にやっても見つかる相手じゃない」
146 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:41:00.96 ID:ve+l2aZk0
りあむ「うーん?あれ?むむむ?」

千夜「変な声を出して、どうしましたか」

りあむ「ちょっと考える!みんなで情報交換しよう!」

凪「賛成です」

涼「考えるのはそれからだ」
147 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:41:58.55 ID:ve+l2aZk0
84

出渕教会・地下1階

涼「日下部若葉の話は私も聞いてる」

あかり「5人で1人?」

颯「5つ子じゃなくて?」

凪「はーちゃんと凪は別人です。その人は5人が同一人物なのですね」

りあむ「うーん?」

奏「スーパーレッドの狙いは明確にこちら側の存在」

りあむ「そう、それだ!」

あきら「それってなに?」

りあむ「おかしいよ!おかしい!」

あかり「何がおかしいんですか?」

千夜「このままだとお前がおかしいということに」

りあむ「ちとせが狙われる理由がない!襲われるはずないのに!」

凪「フム」

りあむ「ちとせ、普通の人だったでしょ?」

千夜「おそらく、そのはずです」

奏「私が見る限りもそうね。チャーム持ちだけど、人間の範疇」

涼「アタシも同意見だ」

りあむ「それなのに何でちとせが狙われるの?どうして?」

凪「これまでにスーパーレッドに襲われた履歴を見せてください」

涼「ほら」

凪「ありがとうございます。やはり」

颯「なー、やはり何?」

涼「凪に言われるまでもない。スーパーレッドの能力がわかった」

凪「正確にいえば逆です」

颯「逆?」
148 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:42:35.97 ID:ve+l2aZk0
りあむ「ない能力がわかった?」

凪「そういうことです。必要な力がない」

涼「スーパーレッドには、こちら側を見分ける力がない」

奏「人でないものと」

りあむ「人が見分けられない……?」

あきら「つまり……」

あかり「ちとせさんは」

千夜「狙われたこと自体が、間違いだった」

奏「そういうことね。今なら正解だけど」

颯「それじゃあ、楓さんも狙われない?」

凪「捕食者は見えません。急ぐ必要はないと凪は思います」

颯「良かった。でも、早めに見つけようね。どっちも」

凪「同感です」

あきら「囮作戦も意味ないわけデスね」

あかり「勘違いなんて、そんなの酷いんご!」

千夜「つまり……相手は」

凪「怪力とパイロキネシスを使える……」

颯「超能力者?」

凪「凄い力持ちな人くらいかもしれません。つまり、ただの人間」

奏「こちら側とは言えない存在なのね」

りあむ「味方を襲う?りあむちゃんは現場のオタクは襲わないよ!いや、仲違いすることもあるけど!ネット上でね!」

あきら「確かに。あちら側だと思ってるなら、襲う必要ない」

涼「なるほどな……シスターの話とも整合がとれる」
149 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:43:25.44 ID:ve+l2aZk0
奏「シスターから連絡があったの?」

千夜「シスター?」

颯「誰?」

涼「その話は本人から聞いてくれ。人間にも特殊な能力を持つ人間がいる」

颯「はーとなー?」

凪「そういうことでしょう」

涼「霊感が強いとか、驚異的な勘だ。あるいは魔術の類」

凪「お二人は」

奏「私は人間じゃないけど」

涼「アタシも人間とは言えないな、もう」

あかり「そうなんだ……」

あきら「へー……」

りあむ「そうじゃないかと思ってた!」

凪「地下の吸血鬼も人間ではありません」

千夜「スーパーレッドは違うと言いたいのですが」

涼「そうだ」

りあむ「スーパーレッドは人間?変な能力を持った?」

涼「ああ」

あきら「怪力と」

凪「パイロキネシスを持ってしまった」

奏「ただの人間」

あかり「だから、わからない?」

千夜「私達があなた方の正体がわからないように」

涼「ああ」

りあむ「でも、いきなり能力に目覚めたりしないよ?」

涼「普通はな」

凪「普通じゃない、と」

颯「普通じゃない?」

奏「双子ちゃんは産まれつきだと思うわ。偶にいるみたいよ、心配しないで」

千夜「つまり……何か要因があるということですか」

涼「ああ。シスターの要件はそれだ」

千夜「スーパーレッドは普通の人……」

あかり「普通の人だった?」

あきら「目的はあるのに能力がないということデス」
150 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:44:18.27 ID:ve+l2aZk0
千夜「いずれにせよ、お嬢さまを間違えて襲撃したことに変わりはありません」

涼「つい先日まで普通の人間がスーパーレッドの正体という可能性がある」

颯「それじゃあ、スーパーレッドが誰かわからない?」

凪「候補者が多すぎます。人間全ては難しい」

涼「襲われたちとせからもあまり情報は得られていない」

りあむ「……いや、わかる」

千夜「何か言いましたか?」

りあむ「わかるよ!ぼくと白雪ちゃんはわかる!」

千夜「どういう意味でしょう?」

りあむ「狙ったのは見てわかる存在だけ。見なくてもわかるには、どうしたらいい?」

颯「本人に教えてもらう?」

凪「変な行動を取ってた?」

あきら「もっと単純に、知ってるから。知ってればいいだけ」

りあむ「そうだよ!」

千夜「お嬢さまは吸血鬼ではありませんでしたが」

凪「話は読めました。スーパーレッドの情報が間違ってました」

りあむ「そういうことだよ!吸血鬼と勘違いした!」

千夜「……」

りあむ「ちとせを吸血鬼だと思って退治しないといけないと思ってた!スーパーレッドの時にちとせを見つけたから行動に移した!」

千夜「夜の散歩は最近始まった習慣ではありません……つまり」

あきら「最近、知った」
151 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:45:12.23 ID:ve+l2aZk0
千夜「言っていることがわかりました。ですが、一言だけ」

りあむ「そうでしょ!あの子しかいないよ!」

千夜「お前の……お前が来なかったら起こらなかったことですか」

凪「話が読めません」

りあむ「……」

千夜「……」

りあむ「そうだよ……たぶん……ごめん」

涼「……」

千夜「……すみません。お前の責任ではありません」

りあむ「八つ当たり必要!幾らでも八つ当たりするといい!」

千夜「それは不要です。スーパーレッドを止めに行きましょう。居場所はわかっています」

涼「わかってるのか?」

千夜「ええ。能力を封じる術はありますか」

涼「おそらくただの人間だ。暗示で記憶ごと封じ込めればいい、奏行けるか」

奏「協力してもいいわ。でも、私の暗示は問題があるのだけれど」

涼「知ってる。最適な奴もわかっているが、今は行けない。体調が良くなったら行かせるよ」

奏「それならいいわ。さて、案内してくれるかしら」

千夜「はい。夢見りあむも着いてきてください」

りあむ「え?ご指名?いいよ!いくよ!」

凪「凪は」

奏「待っていて。すぐに終わるわ」

凪「はーちゃん、どうしますか?」

颯「そっちは任せる!楓さん、探そう?」

凪「わかりました」

あかり「私達はちとせさんの様子を見てますね」

あきら「お気をつけて」

涼「任せた」

奏「ええ。さて、どこに行くのかしら」

千夜「S大学付属高校です」
152 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:46:21.06 ID:ve+l2aZk0
85

S大学付属高校・校庭

りあむ「……」

奏「……」

千夜「来ました」

裕子「お待たせしました!いやー、補習が長引きました!」

奏「本当にこの子?」

りあむ「多分……」

裕子「白雪さん、何かご用ですか?」

千夜「はい。お聞きしたいことがありまして」

裕子「なんでしょう!正直が取り柄ですから、お答えしますよ!」

千夜「では単刀直入に。あなたが、スーパーレッドですか」

りあむ「本当に単刀直入だ……」

奏「答えるのかしらね……」

裕子「……ふっふっふ!」

千夜「どちらでしょうか」

裕子「世を忍び正義を行ってきましたが、バレては仕方がありません!」

千夜「あなたがスーパーレッドなのですね」

裕子「いかにも!私が正義のサイキック美少女、エスパーユッコです!」
153 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:47:11.22 ID:ve+l2aZk0
りあむ「白状したよ?正気なの?」

奏「私に聞かれても」

千夜「そうでしたか」

りあむ「白雪ちゃんは冷静だ……」

奏「慌てても仕方がないもの」

裕子「いやー、ばれてしまいましたか!」

千夜「スーパーレッドではないのですか?」

裕子「それは世を忍ぶ仮の名前!」

千夜「なぜ、仮の名前を」

裕子「正義はひけらかすものではありませんからね!偽名、ヒーローネームです!」

千夜「そうですか。サイキックとは何ですか」

裕子「ふっふっふ、正体もバレてますし、見せてあげましょう!」

奏「見せるのね……」

りあむ「見せるんだ……」

裕子「ここに鉄のスプーンが!これを、へい!」

りあむ「曲がった!」

裕子「更にこうで、こうで、こう!」

りあむ「ぐにゃぐにゃだ……けど」

奏「どう見ても腕の力で曲げてるわね」

千夜「凄いですね」

裕子「そうでしょう!他にもありますよ!」

千夜「パイロキネシスがあると聞いております」

裕子「パイロキネシスですか!これはこうです!」

奏「小石を手に取ったわ」

りあむ「小石で火花がついたよ!」

裕子「学校に火をつけるわけ行きませんからね!ここまでです!」

りあむ「……ただの火打石だ。凄い指の力だけどさ……」

奏「パイロキネシスはないということね、安心したわ」

りあむ「つまり……」

奏「全部、力技ね」
154 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:48:11.40 ID:ve+l2aZk0
千夜「どこで、この力を身に着けたのですか」

裕子「わかりません!気づいたら、正義の力に目覚めていたのですよ!」

りあむ「えっと……厄介ってやつだ」

奏「流行り言葉には疎いけれど、なんとなく意味がわかったわ」

千夜「どうして、スーパーレッドとして活動していたのですか」

裕子「目覚めたサイキックパワーを人のために使おうかと!この世には、人非ざるものが多いようですから!」

奏「……」

千夜「それをどうやって知ったのですか」

裕子「天のお告げです!力に目覚めた直後でしょうか?」

りあむ「入れ知恵した人がいる?」

奏「そういうことでしょうね」

千夜「どうやって、相手を探していたのですか」

裕子「夜回りです!正義のサイキック美少女は地道な作業も得意ですから!」

千夜「……」

りあむ「あれ?」

奏「流石にちょっと冷静じゃなくなってきたかしら」

りあむ「白雪ちゃん、落ち着いて!」

千夜「吸血鬼については」

裕子「吸血鬼については知っていました!去年も事件がありましたから!」

千夜「見分ける方法はあるのですか」

裕子「ありません。地道に目撃情報を合わせていきました!紅い眼の夜中に出回る吸血鬼!」

奏「人違いね」

りあむ「裕美ちゃんの方だ……」

千夜「私との会話を聞き、夜の散歩をしているお嬢さまを見かけたのですね」

裕子「私は悪を滅ぼす圧倒的な正義は好きではありません!ちょっと警告しただけです!」

千夜「……」

りあむ「白雪ちゃん……ステイステイ……」
155 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:49:03.50 ID:ve+l2aZk0
千夜「残念ですが、お嬢さまは吸血鬼ではありません」

奏「下がっていて」

りあむ「うん、お願い」

奏「お願い、聞いたわ」

裕子「吸血鬼ではない?どういうことですか!?」

千夜「所詮はウワサです。お嬢さまは人間です……体の弱い私の大切な人です」

裕子「ははーん、私を騙そうとしていますね!吸血鬼の使いですか!?」

千夜「違います。私は、ただの……」

りあむ「……」

千夜「ただの白雪千夜です。堀裕子さん、あなたは間違えました」

裕子「何をです?」

千夜「正義の名のもとに間違った標的を狙いました。それを悪事以外の何だというのですか」

裕子「間違えた?そんなはずは!」

千夜「話は終わりです。その力ごと、忘れてください」

裕子「忘れるわけにはいきません!目覚めた力、活用してみせます!」

りあむ「あっ!危ない!」

千夜「くっ……」

裕子「え、なんですか!なにが起こってますか!体が動きません!」

奏「お疲れ様。聞きたいことは聞けたかしら?」

千夜「助かりました。お願いします」

りあむ「白雪ちゃん、こっちこっち!」

裕子「どういうことですか!何かに抑えつけられてる?体が言うことを聞かない?わかりません!」

奏「何が起こったかも理解できないなんて、人間は弱いわね」

裕子「ひっ、何者ですか!」

千夜「……」

りあむ「白雪ちゃん、あれ見える……?」

千夜「見えました……背中に羽?」

りあむ「真っ白……」
156 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:50:25.33 ID:ve+l2aZk0
奏「最後に聞くわ。あなたの力を目覚めさせて、人非ざる者について教えたのは誰かしら?」

裕子「は、離してください!」

奏「真実を話しなさい」

裕子「知りません!何も覚えてないんです!公園で誰かにあって、ケラケラ笑い声が聞こえて!そうしたら、正義の力を得て……」

奏「そう。それじゃあ、忘れて」

裕子「うっ……」

りあむ「羽が……」

千夜「消えましたね」

奏「起きて」

裕子「はっ!何を話していたんでしたっけ?」

奏「他愛もない話よ。補習、がんばって」

裕子「そうでした!」

千夜「最後に聞いていいですか」

裕子「なんです?」

千夜「吸血鬼の末裔がいるというウワサを聞いたことがありますか?」

裕子「いるんですか!?初耳です!」

千夜「冗談ですよ。忘れてください」

裕子「そうですよね、吸血鬼なんていません!白雪さん、また新学期で!」

千夜「はい、また新学期に」

りあむ「……」
157 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:51:02.92 ID:ve+l2aZk0
奏「これでいいかしら。犯した罪を覚えていないということは、償いの気持ちもないということ」

千夜「構いません。償いの気持ちで、お嬢さまは帰って来ません」

奏「そうね」

千夜「……」

りあむ「白雪ちゃん、これからどうする?」

千夜「お嬢さまの身を危ぶむ存在はいなくなりました。これまでです、ご協力感謝します」

りあむ「そうじゃなくて……」

奏「お嬢さまとこれからどうするの、って聞きたいみたいよ」

りあむ「そうだけど……」

千夜「時間はできました。お嬢さまの体調が良くなったら……決めます」

奏「明日にはその時が来そうよ。大丈夫かしら」

千夜「問題ありません。私は帰ります、お嬢さまによろしくお伝えください」

りあむ「うん、伝えておく!」

千夜「失礼します。辻野さんと砂塚さんにも伝えておいてください」

りあむ「白雪ちゃん、ばいばい!」

奏「あなたはどうするの?」

りあむ「うーん、まずは時子サマに伝えにいく!褒めてもらおう!」

奏「そう」

りあむ「そうしたら、ちとせを見に行く!白雪ちゃんのこともちゃんと話さないと!」

奏「ええ、それがいいわ。私は教会に先に戻るわ、また会いましょう」
158 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:51:55.44 ID:ve+l2aZk0
86

S大学・学生支援総合センター・相談室

りあむ「っていうことだったんだよ!」

時子「……そう」

りあむ「これで、時子サマの課題は全部解決!褒めて!」

時子「……」

りあむ「時子サマ、何か不満だった?りあむちゃん、時子サマにも見捨てられちゃう?」

時子「いいえ。あなたはよくやってくれたわ、夢見りあむ」

りあむ「ホント?嘘じゃないよね?」

時子「本当よ。楊さんのお店でご馳走もするわ」

りあむ「やった!時子サマにご馳走してもらえるなんて最高すぎる!」

時子「名前を確認していいかしら、黒埼ちとせと白雪千夜、であってるわね」

りあむ「うん。そうだよ!」

時子「私の方からも会うわ」

りあむ「会いたいの?」

時子「会っておかないと示しがつかないでしょう。今となれば」

りあむ「時子サマ、白雪ちゃんが言ったこと気にしてる?」

時子「そうね。大元は私が作ったことだもの」

りあむ「ちとせも白雪ちゃんも気にしてないと思うよ!スーパーレッドを止めない限り、いつか起こったと思うから!」

時子「私の気分が晴れないから行くのよ。それだけよ」

りあむ「……そっか」

時子「夢見りあむ」

りあむ「なに?」

時子「あなたの世界は広がったわ。何か見えたかしら」

りあむ「思い出した!学校どうしよう!?」

時子「少し考えてみなさい。夏休み中には食事に誘うわ。その時に聞かせてちょうだい」

りあむ「……うん」

時子「それと」

りあむ「なに?」

時子「明後日に頼みたいことがあるのだけれど、いいかしら」

りあむ「もちろんだよ!なに?またウワサについて調べる?りあむちゃん、チヤホヤされちゃう?」

時子「そんなところね。約束よ」
159 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:52:47.31 ID:ve+l2aZk0
87

夕方

某空きビル

楓「……」

颯「見つけた!」

凪「はーちゃん、お手柄です」

楓「あなた達は……」

颯「楓さん、心配したんだよ?」

凪「はい」

楓「どうして、ここに?」

颯「涼さんに手伝って貰ったんだ」

凪「捕食者が食事の対象としうるものがいそうなところを」

颯「たぶん、無意識のうちに動いてると思ったから」

凪「久川家から通りそうなところを辿り、見つけました」

颯「うん」

楓「……そうですか」

颯「楓さん、帰ろう?」

凪「教会の皆が心配していました」

楓「ですが……」

颯「楓さんが気を使ってるのかもしれないけど」

凪「そっちの方が心配を増やします」

颯「帰ろうよ。裕美ちゃんも寂しそうだよ」

楓「……」

凪「同居人も一人増えましたし」

楓「そうなの……ですか」

颯「うん。ちとせさんって言ってね、凄い綺麗なんだよ!」

凪「はい。一見の価値はあるかと」
160 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:53:25.28 ID:ve+l2aZk0
颯「帰ろう、一緒にご飯を食べようよ?」

楓「食事……ですか」

颯「うん」

楓「……」

颯「楓さん、ご飯に何かあるの?」

凪「食べれない、ということはなさそうですね」

楓「いえ……そういうわけでは」

颯「一緒に食べると寂しくないよ!楓さん、帰ろう」

凪「はーちゃんは頑固ですよ。今日は絶対に連れて帰ります」

楓「きっと悲しい思いをさせてしまいます。私の事で」

颯「よくわからないけど、黙っていなくなるよりも悲しいことじゃないと思うな」

凪「はーちゃんの言う通りです。たぶん。あまり理解してませんが」

颯「はい、楓さん。手をつなご」

凪「ずるい。凪ともつなぎましょう」

颯「一緒に行こうよ、ね?」

凪「かわいい、いえ可愛すぎる妹のお願いを聞いてください」

楓「……はい。案内してくださいね」
161 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:54:47.17 ID:ve+l2aZk0
88



出渕教会・地下1階

りあむ「来たよ!ちとせはまだ地下かな?」

楓「こんばんは」

りあむ「わっ、裕美ちゃんが探してた美女だ!思ったよりデカい!」

楓「こちらの方はどなたでしょう?」

裕美「夢見りあむさん。紹介するね、高垣楓さんだよ」

楓「よろしくお願いします」

りあむ「こちらこそ!教会に通う理由が増えるよ!」

裕美「ちとせさんは地下2階にいるよ」

りあむ「うん。あかりんごとかは?」

裕美「帰ったよ。千夜さんは、明日来ると思う」

りあむ「明日?」

楓「変質が終わるでしょうから」

裕美「ちとせさんは起きてるよ、様子を見て来てあげて」

りあむ「うん!またね!」

裕美「お願い」

楓「……」

裕美「ねぇ、楓さん」

楓「なんでしょう」

裕美「亜季さんが映画をレンタルしてきてくれたんだ。一緒にみる?」

楓「……ええ、お供します」
162 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:55:43.13 ID:ve+l2aZk0
89

出渕教会・地下2階

ちとせ「どう?」

りあむ「熱は下がった。他に症状ある?」

ちとせ「ほとんどないけど、手先が冷えるかな」

りあむ「手とか足ちゃんと動く?」

ちとせ「動くよ。実はね……」

りあむ「噛まれる前よりいい?」

ちとせ「うん。肌の調子とかも良いかな」

りあむ「吸血鬼になる途中の症状?裕美ちゃんにも聞いた?」

ちとせ「そうかも、って。人間の時に体が弱かったから、そのせいかも」

りあむ「運動しよう!これからは心配もいらないし!」

ちとせ「そうする。夜の街を飛び回るのは楽しそう」

りあむ「ちとせ、他に吸血鬼の症状でてる?」

ちとせ「わからない、けどね」

りあむ「けど?」

ちとせ「もう太陽の元には出ない方が良いって」

りあむ「そうなんだ……」

ちとせ「千夜ちゃんと一緒に犯人、見つけてくれたんでしょ?」

りあむ「うん。もう夜に散歩しても大丈夫だよ」

ちとせ「そっか」

りあむ「ちとせ、これからどうするの?」

ちとせ「これから?」

りあむ「家に帰る?白雪ちゃんと一緒に暮らす?」

ちとせ「……」
163 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:56:31.43 ID:ve+l2aZk0
りあむ「ちとせ?」

ちとせ「帰らないつもり。ここの方が安心だから」

りあむ「白雪ちゃん、寂しがるよ?」

ちとせ「あの部屋ね、日当たりがいいの。千夜ちゃんはカーテンを開けて、私を目覚めさせてくれた」

りあむ「……」

ちとせ「あの子、寝ることが好きなの。本当は早起きも苦手。だから……夜の世界には連れていけない」

りあむ「そっか……」

ちとせ「りあむ、お願いがあるの」

りあむ「なに?食べたいものある?」

ちとせ「火事で何もかも失ってしまって、独りにしたら、このまま手を差し伸べなかったら、消えてしまいそうだったの」

りあむ「……白雪ちゃんの話?」

ちとせ「だから、役割をあげた。私の傍にいることを命じて、千夜ちゃんは役割を必死に演じた」

りあむ「演じてないよ……たぶん」

ちとせ「わかってる。今の千夜ちゃんがニセモノだとは思ってない、千夜ちゃんの気持ちを否定したりしない」

りあむ「……」

ちとせ「私はずっと千夜ちゃんに役割を与えられない。遅かれ早かれ、変えないといけなかった」

りあむ「ちとせの体が弱くて……長くないから」

ちとせ「そう」

りあむ「でもでも!ちとせはもう生きてられるよ……ずっと」

ちとせ「私は千夜ちゃんの行く末は見れるけど、一緒にはいられない。あの子は、人間の世界を生きるの」

りあむ「……」

ちとせ「だから、りあむ、お願いがあるの」

りあむ「……聞くだけなら」
164 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:57:43.01 ID:ve+l2aZk0
ちとせ「千夜ちゃんをお願い。独りで沈んでいくまえに、あなたが可能性を引き出して」

りあむ「……」

ちとせ「あの子には色々な可能性がある。吸血鬼の使いはもったいない。だから、私の僕ちゃんじゃなくしてあげて」

りあむ「……」

ちとせ「あの子を、あの子らしくしてあげてほしいの」

りあむ「……」

ちとせ「それが何か、私にもまだわからないけどね」

りあむ「ねぇ、ちとせ」

ちとせ「なに?」

りあむ「間違ってるよ!人違いだよ!りあむちゃんに頼むことじゃない!」

ちとせ「え?」

りあむ「あかりんごの方がよっぽど頼りになるよ!そもそも!ぼくがぼくらしくなってない気がする!そうでしょ!?」

ちとせ「ふ……」

りあむ「むしろ、ぼくを白雪ちゃんに面倒見てもらいたいよ!」

ちとせ「あはは♪確かにその通りね、りあむに頼むことじゃないかった!あはは、熱のせいかな」

りあむ「う、自分で言ったことを人に言われるのは……やむ」

ちとせ「だから、りあむが良い」

りあむ「ちとせ、さっきの話聞いてた?」
165 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:58:44.68 ID:ve+l2aZk0
ちとせ「うん。りあむ、あなたが良い。あなたがあなたを千夜ちゃんより先に見つけて。そうしたら、千夜ちゃんも自分で見つけられる」

りあむ「……」

ちとせ「私は一緒にいられない。私は吸血鬼にならなくても、見つける手本を示せなかったかも。でもね、りあむならできるよ」

りあむ「本当かなぁ……?」

ちとせ「私は信じてる……そうじゃなかったら……」

りあむ「ちとせ……?大丈夫?どこか痛むの?」

ちとせ「千夜ちゃんの近くから離れた意味がないから……だから……」

りあむ「えぇ……いきなり、泣くなよう……」

ちとせ「私は……こちら側で……千夜ちゃんの無事を祈るだけにしないと……」

りあむ「ちとせ、怖かったんだ。自分が死ぬのも、白雪ちゃんと別れるのも」

ちとせ「……うん」

りあむ「うん。さっきの約束もがんばる。ちとせが信じてくれるなら、ぼくは出来る。たぶん。きっと。おそらく」

ちとせ「ありがと……」

りあむ「ぼくは泣くのを止められないよ。それに、ここで泣かないと……人間のちとせはいなくなっちゃうよ」

ちとせ「うん……」

りあむ「出てくね、泣いてるのを見られるの恥ずかしいよね」

ちとせ「ううん、いて……そうじゃないといつまでも振り切れなそうだから」

りあむ「……うん。ちとせがそう言うなら、そうする」

166 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 22:59:39.66 ID:ve+l2aZk0
90

翌日・とある木曜日

出渕教会・地下1階

りあむ「ぐーぐー……」

颯「なんで、りあむさんがソファで寝てるの?」

凪「口を開けて寝ています。何かを入れたくなりますね」

奏「それは同感ね」

颯「だめだよ!りあむさんは年上なんだから」

涼「昨日、ちとせと一緒に朝まで起きてたみたいだからな。寝かせてやれ」

颯「そうなんだ。りあむさん、結構優しいよね」

凪「本人に言ってあげると喜びますよ、ましてや、はーちゃんに言われたら」

涼「それで約束の件だったか」

颯「はーはどっちでもいいけど、凪が聞きたいって」

凪「はい。お2人の答え合わせを」

涼「奏は大丈夫か」

奏「私は問題ないわ。涼こそ、どうなのかしら」

涼「アタシも問題はない。いつか協力してもらうことになる、知っていて損はない」

奏「そうね」

凪「教えてくれますか?」

奏「ええ」

凪「はーちゃん、どっちから聞きましょう」

颯「どっちでも。なーが決めて」

凪「そうします。では、速水奏さんから聞かせてください」

涼「奏、選ばれたぞ」

奏「そうみたい。約束だし、教えてあげるわ」

颯「奏さんは、人間じゃないの?」

奏「それは正解。何だと思うかしら」

颯「なー、わかる?」

凪「皆目見当もつきません」

颯「女神様でもないし、なんだろう?」

涼「あながち間違ってもいないよ、それは」

凪「そうなのですか」

奏「高い所から降りて来たわ。名前はお父さんとお母さんがくれたの」

颯「高いところから?」

凪「降りて来た?」

奏「私は天使よ」

颯「天使?」

凪「天使?」

りあむ「天使!?」

颯「あっ、起きた」
167 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:00:24.40 ID:ve+l2aZk0
凪「天使ですか?にわかには信じがたい」

りあむ「聖職者は当たりだったんだ……聖職者よりも上?でもなんか……」

奏「神様達に仕えていたのよ。とても美しくて、愛に溢れていて……とても退屈な世界だった」

りあむ「どちらかといえば……」

凪「魔王ですね」

りあむ「それだ!羽は真っ白で綺麗だったけど」

奏「まぁ、失礼ね」

涼「実際、この世界じゃ魔王に近い序列だからな。本来の天使の加護は使えないらしいが」

奏「だから、今はただの速水奏。映画好きの両親のもとに遅れて来た一人娘」

りあむ「いいなぁ」

奏「いいでしょう。手荒だったけれど魔法使いが目を覚ませてくれたおかげ」

りあむ「天使だからそんなに顔がいいの?」

奏「私がいた世界では並だったかしら。羽には自信があるけれど。女神様には叶わない」

颯「行ってみたいような」

りあむ「行くのが躊躇われる……恐れ多いよ!」

凪「フム。凪は好奇心が抑えられません。涼さんは何者でしょう」

涼「アタシか?」

凪「特に能力があるようには見えません、凪には」

りあむ「仕事には行ってたよ!何かわからないけど!」

颯「仕事?」

涼「アタシは死神だ」

りあむ「今度は神様だ……」

颯「奏さんと同じ世界から来たの?」

奏「違うわ。涼はこの世界で産まれた人間だった」
168 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:01:27.25 ID:ve+l2aZk0
凪「だった、とは」

涼「正確には死神じゃない。死神の使いをしている人間だった何かだよ」

奏「死神も私の世界の神様じゃないわね。この世界に元々いたんじゃないかしら」

りあむ「どういうこと?」

涼「死神の小間使いにされてんのさ。死なない代わりにな」

りあむ「死なない代わりに?」

凪「具体的に何をしているのですか」

涼「基本的にはお見送りだ。命の時計に抗う奴は一定数いるからな」

颯「涼さんが来たら、死んじゃうの?」

涼「忠告にもいくさ。無駄にはするなよ」

颯「うん、そうする」

涼「アタシはそんなに能力はないが……」

りあむ「ないが?」

涼「本当の死神は時計を回すこともできる。会うことはないと思うが、無礼はないようにな」

りあむ「ねぇ、ちとせの時計も見えてたの?」

涼「ああ。答えは想像通りだよ」

りあむ「……そっか」

凪「天使、死神の使い、捕食者、吸血鬼が2人ですか」

颯「より取り見取り?」

凪「それに見える双子が仲間入りです」
169 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:02:10.54 ID:ve+l2aZk0
涼「ネクロマンサーと退魔師もいる、今は不在だが」

奏「魔法使いもいるわね。あまり協力はしてくれないけど」

りあむ「あれ?聞いていい?」

颯「りあむさん、なに?」

りあむ「ぼく、ここにいてよかったの?ここで寝てたのが悪いんだけどさ!」

凪「うーん、いいんじゃないでしょうか」

颯「だって、普通じゃなさそう」

りあむ「普通じゃないのは理解してるよ!でも、ぼくは人間だよう!」

奏「実際のところ、あなたは何か能力がありそうね」

涼「同感だ」

りあむ「え?本当に?」

涼「残念だが、能力の詳細はわからない」

奏「意図的に出せるものでもなさそうね」

涼「役に立つかもよくわからないな」

凪「ピンチの時に能力が目覚めるというヤツですか」

颯「へー、カッコイイ!」

りあむ「ポーズを決めたら使える方が便利だよう!なんだよう、そのほわほわした能力は!」

颯「りあむさん、これからも仲良くしようね」

りあむ「え?うん!もちろんだよ!カワイイ女の子に言われたら断らない!」

凪「はーちゃんに近寄るな。もう少し害虫かどうか見極めたい」

りあむ「言い方がひどい!それに、なんか最近同じこと言われた気がする!?」
170 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:02:41.13 ID:ve+l2aZk0
涼「それともう1人」

凪「もう1人ですか」

涼「この教会の持ち主がいる」

奏「シスターね」

りあむ「シスター?電話の相手の?」

涼「ああ。シスタークラリスと呼ばれている」

颯「どんな人なの?」

奏「優しい人よ、とても」

涼「知識も能力も格別だ。金髪のキレイな人だよ」

りあむ「見たい!凄く見たい!」

涼「目を見ることはできないけどな」

りあむ「……なんで?」

涼「明日の夜には来るそうだ。後で、挨拶にくるといい」

颯「わかった。挨拶にくるね」

凪「凪もそうします」

涼「楓を連れ戻してくれてありがとう。感謝するよ」

凪「どういたしまして」

颯「……」

凪「はーちゃん、何か言いたいことがありますか」

颯「え?ううん、何でもないよ。また来るね、涼さん、奏さん。楓さん、よろしくね」

涼「ああ」

凪「失礼します」

颯「またね!」

りあむ「りあむちゃんも帰るよ!ばいばい!」

涼「これから、白雪千夜が来るんじゃないのか」

奏「いなくていいの?」

りあむ「うん。2人の方がいいから」

涼「そうか」

りあむ「うん!ちとせが寂しがるからまた来るよ!りあむちゃんにも構って!」

涼「ああ」

奏「少しなら遊んであげる」

りあむ「やった!ばいばーい!」
171 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:04:15.04 ID:ve+l2aZk0
91



出渕教会・玄関前

千夜「……」

あきら「ここまでのつもりでしたけど」

あかり「やっぱり、一緒に行きましょうか」

千夜「……」

あきら「千夜サン?」

千夜「いいえ。着いてきてくださり、ありがとうございました」

あかり「……はい」

千夜「お嬢さまと話してきます」

あきら「……うん」

千夜「明日は部活の日ですね」

あきら「え?」

あかり「はい、そうです!」

千夜「また明日お会いしましょう。行ってきます」

あかり「いってらっしゃい!」

あきら「……」

あかり「……」

あきら「あかり、帰ろう。千夜サン、多分平気」

あかり「うん……あきらちゃん、都会の買い食いがしてみたいんご!案内して!」

あきら「詳しくないデスけどね……案内するよ」
172 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:05:25.36 ID:ve+l2aZk0
92

出渕教会・地下2階

千夜「こんばんは。お邪魔します」

裕美「こんばんは」

楓「こんばんは」

千夜「お嬢さま、会いに来ました」

ちとせ「千夜ちゃん」

裕美「出て行こうか?」

ちとせ「うん、2人にさせて」

裕美「わかった。楓さん、行こう」

楓「はい。ごゆっくり」

ちとせ「ありがとう」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃん、元気だった?」

千夜「会わなかったのは昨日だけです。変わりはしません」

ちとせ「私は変わった」

千夜「……もうお熱はありませんか」

ちとせ「ないよ。だから、私はもう吸血鬼。末裔ではなくて本物の」

千夜「お嬢さまが言っていた吸血鬼の末裔というのは全て嘘だったのですね」

ちとせ「吸血鬼は繁殖しないから。でも、全てが嘘じゃない」

千夜「そうなのですか」

ちとせ「吸血鬼との関わりがあったんじゃないかな、ご先祖様は」

千夜「なるほど。何時しか混同、いえ、あえて混同したのかもしれませんね」

ちとせ「そうだったら、末裔が吸血鬼になったら喜ぶかも♪」

千夜「……ええ。お嬢さま、お手を」

ちとせ「手?」

千夜「温かいですね。冷たいものだとばかり」

ちとせ「そうね。身も心も血が通ったまま。凍ったりしてないよ」

千夜「お顔に触れてもよろしいですか」

ちとせ「うん」

千夜「熱は下がりましたね。肌の調子も良さそうです……」

ちとせ「千夜ちゃん……?」

千夜「お嬢さまは生まれ変わったのですね」

ちとせ「そう。人間の人生は終わって、なかったはずの延長戦。少しだけ終わるのが早かったけれど」

千夜「こんなに体調の良さそうなお嬢さまを初めて見ました。私にも誰にも与えられなかったのに」

ちとせ「そうね。予想しなかった、贈り物」

千夜「お嬢さま、家に戻りますか」

ちとせ「どっち?」

千夜「それは、どのような意味でしょうか」

ちとせ「私の希望を聞いている?それとも、千夜ちゃんが帰って来てほしいの?」

千夜「……」
173 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:06:22.57 ID:ve+l2aZk0
ちとせ「どっち?」

千夜「戻っていただけませんか。私には……」

ちとせ「……」

千夜「お嬢さましか、いませんから」

ちとせ「ねぇ、千夜ちゃん」

千夜「お願いします、お嬢さま」

ちとせ「本当かな」

千夜「本当……」

ちとせ「千夜ちゃんにはいるよ、孤独じゃない」

千夜「違います、私には」

ちとせ「ずっと、吸血鬼の僕として生きて行くの?」

千夜「生きて行けます。お嬢さまがいる限り」

ちとせ「ねぇ、千夜ちゃん、お願いがあるの」

千夜「なんでしょうか、お嬢さま」

ちとせ「私の人生はずっとずっと長くなった。見ないことが出来る世界が見えるようになったの。千夜ちゃんが、私の所から離れて生きる所をずっと見届けられる」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃん、私が死んじゃったら、その後はどうするつもりだったの?」

千夜「……考えてもいません」

ちとせ「とっても悲しいお別れはなくなった。千夜ちゃんを泣かせずに済んだの。この世に置いていかなくて済んだ」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃん、聞いて」

千夜「はい、お嬢さま」

ちとせ「スーパーレッドを見つけてくれてありがとう。安心して、私は夜の世界を生きていられる」

千夜「はい」

ちとせ「千夜ちゃんは、お日様の世界を生きて」

千夜「それは……」

ちとせ「ここに残るわ。夜、話相手になってくれる子もいるし」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃんの生活は何とかするから。吸血鬼の最初の仕事は、身内に暗示をかけることなんだって」

千夜「お嬢さま……それは」

ちとせ「私ね、もとから魅了の魔力を少し持っていたみたい。暗示も強いのが使える可能性が高いって。だから……」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃんの頭の中から、私を忘れさせることもできる」
174 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:07:31.63 ID:ve+l2aZk0
千夜「やめてください」

ちとせ「……わかってる」

千夜「どうして、私から奪おうとするのですか」

ちとせ「……」

千夜「どうして、世界は私の持つものを失わせようとするのですか」

ちとせ「……」

千夜「もう何も失いたくありません……」

ちとせ「わかってる。記憶を失わせたりしない。千夜ちゃんとの記憶は私にも大切な記憶だから」

千夜「それなら……」

ちとせ「失うだけじゃない。手に入れて。失うことを恐れずに」

千夜「……」

ちとせ「千夜ちゃんが手に入れたもの、私に見せて」

千夜「……イヤです」

ちとせ「千夜ちゃん、急に抱き付いてどうしたの?」

千夜「置いて行かないで……ちとせちゃん」

ちとせ「元気なあなたに置いて行かれるのは、いつも私の方だったよ」

千夜「お願い……」

ちとせ「良かった」

千夜「何がです……か」

ちとせ「やっぱり、あなたを置いてあの世にはいけない。死ななくて良かった」

千夜「……」

ちとせ「ずっと見守ってるから。寂しかったら、会いに来て。夜更け前か太陽が沈んだ後に」

千夜「昔から……あなたはワガママでした。私の意見なんて聞かない」

ちとせ「そう。私はワガママなお嬢さまだから」

千夜「はい……」

ちとせ「もう抱き付かなくて平気?もう少し抱きしめてあげようか?」

千夜「いつでも機会はあります。お嬢さまが選んでくれたおかげです」

ちとせ「そっか」
175 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:08:27.95 ID:ve+l2aZk0
千夜「お嬢さま」

ちとせ「なに?」

千夜「吸血鬼のことはわかりませんが、お大事に。欲しいものがあったら、ご連絡ください」

ちとせ「うん。いつでも遊びに来てね、夜なら私からも遊びに行ける」

千夜「それで……」

ちとせ「なに?」

千夜「私は、何かになれますか。何かをなし遂げられますか」

ちとせ「わからない」

千夜「そこは、嘘でもいいから肯定することころではありませんか」

ちとせ「お料理も得意で、勉強も運動も出来るし、気も利くから何でも出来るよ。きっと」

千夜「今更付け加えなくても構いません」

ちとせ「私が決めることじゃないのは確か。千夜ちゃんが決めるの、いい?」

千夜「……はい」

ちとせ「そうだ、伝言があるの」

千夜「伝言?」

ちとせ「ここに行ってみて。お願い」

千夜「わかりました。お嬢さまの頼みであれば」

ちとせ「うん。千夜ちゃん、寂しくない?」

千夜「家は寂しいですが、今生の別れではありませんから」

ちとせ「そうね、そのために選んだんだから。後悔したくない」

千夜「お嬢さま、おやすみなさい……は違いますね」

ちとせ「これからは私の時間だから」

千夜「そうですね……お嬢さま、良い夜を」

ちとせ「千夜ちゃんは、いってらっしゃい」

千夜「……はい。いってきます」

ちとせ「おやすみなさい、千夜ちゃん」
176 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:10:11.59 ID:ve+l2aZk0
93

翌日・とある金曜日

S大学・部室棟・空き部室

空き部室
活動実績のないサークルが数年にわたり占拠していたが、財前時子が職員となって半年で跡形もなく綺麗になった。今はどこからか持って来た椅子が7つ、テーブルが1つだけある。

千夜「……先客がいますね」

凪「こんにちは」

千夜「こんにちは。久川凪さん、でしたか」

凪「そうです。私が凪です」

千夜「どうして、こちらに」

凪「凪は興味があるので参加しようと思いました」

千夜「意味がわかりません」

凪「千夜さんは、ここに来た理由は」

千夜「お嬢さまに頼まれましたので。理由は聞いていません」

凪「そうですか」

千夜「部活がありますので、またの機会に」

凪「いえ、ここにいればよいです。問題ありません」

千夜「私に、ここにいろと?」

凪「はい」

千夜「意味がわかりません」

りあむ「時子サマが言うには、ここに協力してくれる人がいるって……部屋も使っていいとか……あ!」

千夜「……こいつは」

凪「夢見りあむです。スリーサイズはでっかい、ふつう、たぶんふつう、凪調べ」
177 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:11:12.06 ID:ve+l2aZk0
千夜「名前は知っています。なぜ、お前がここに来るのですか」

りあむ「色々と扱いが雑だよ!ぼくに協力してくれるんじゃないの!?」

千夜「私はお嬢さまに言われて来ただけです」

凪「凪はそのつもりです」

りあむ「ほら!白雪ちゃんはどうなの?りあむちゃんを助けてくれる?調べものはりあむちゃんひとりじゃ無理だよ?」

千夜「つまり、お前の調査に協力することを誰かが約束したわけですね」

凪「そういうことです」

りあむ「白雪ちゃん、一緒にやろう!やるべき!」

千夜「誰の意思ですか」

りあむ「ぼくの意思だよ!なんならS大学に進学しろ!知り合いの後輩を確保したい!勉強もみよう!かてきょもする!」

凪「無料ならはーちゃんにお願いしたいが、こいつは危険か」

千夜「お嬢さま、ではないのですか」

りあむ「え?ちとせが知ってるの?」

千夜「お嬢さまに紹介されましたから、当然です」

りあむ「わかった!決まりだよ!ちとせが言うなら一緒にやろう!」

千夜「何をするかも聞いていませんし、部活があるので失礼します」

凪「それは問題ないです。だって」

あきら「あかり、千夜サンいた」

あかり「ここだったんですね!千夜さん、こんにちは!」

凪「ほら」
178 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:12:33.93 ID:ve+l2aZk0
千夜「久川さんの言うことはわかりましたが、どうしてお二人がこちらに」

あきら「古澤先生に言われました」

あかり「学外の人と交流を持つようにするって言ってました!」

あきら「大学生と大学職員の方が、面倒を見てくれるそうデス」

りあむ「職員?時子サマかな?」

千夜「時子……そういえばそう名乗っていました。要するに古澤先生が誰かに押し付けた、ということですか」

あきら「違います。そんな面倒な交渉する人じゃないデス」

あかり「今日の資料と明日の計画は建ててたみたいですよ?」

凪「その先生に、むしろ凪は会ってみたくなりました」

りあむ「時子サマから頼まれた?きっとそうだよ!あかりんごとあきらんらんも協力してよ!」

あきら「何デスか、その呼び方……」

千夜「どなた様かが介入して、古澤先生の望み通りになった。しかし、何をするつもりなのでしょうか。聞いていますか」

あきら「聞いてないデス」

あかり「何かを調べるとかお出かけするのには変わらない、って」

千夜「フム……」

若葉「こんにちは〜。はじめまして〜」

りあむ「若葉ちゃんだ!今日は1人なの?」

若葉「1人?あっ、わかりました、そういう意味なら1人です〜」

あかり「こんにちは!どこから来たの?」

若葉「ここの大学生ですよ〜。最近の高校生は大きいですね〜」

あかり「先輩だったんご!ごめんなさい!」

若葉「いいですよ〜。仲良くしましょうね〜」

千夜「面倒を見てくれる大学生とは、あなたですか」

椿「はい。こんにちは」

りあむ「ぐえぇ!どうしてここに!?」
179 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:13:20.35 ID:ve+l2aZk0
凪「面白い鳴き声ですね」

椿「また会いましたね。りあむさん♪」

千夜「うぅ……面倒見は良さげなお姉さんなんだけど……その」

椿「財前さんと古澤先生からお話は聞いてます。はじめまして、江上椿です。こちらは」

若葉「日下部若葉です〜。よろしくお願いします〜」

あきら「はじめまして」

椿「皆さんのお世話をしますので、よろしくお願いしますね」

あかり「江上さん、日下部さん、よろしくお願いします!」

りあむ「待った!聞いていい?」

椿「りあむさん、なんでしょう?」

りあむ「若葉ちゃんが5人いることは知ってるの?」

千夜「5人?」

凪「興味深いことを口走りました」

椿「付き合いは長いのですが、最近初めて知りました」

りあむ「知ってるんだ……いいの?非現実を認めて良いの?」

椿「もちろんですよ。なぜなら」

若葉「皆さんには後で私を紹介しますね〜」

あかり「私が5人……?」

椿「この通り可愛らしい若葉さんが5人もいるんですよ。最高だと思いませんか」

あきら「……愉快な人みたいデスね」
180 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:18:10.07 ID:ve+l2aZk0
椿「あれこれ着せたことも覚えていないみたいですし、都合がいい……ゴホン、なんでもありません」

りあむ「ほら、ヤバイ人だよ。この人」

千夜「どんな人であれ、大学の先輩です。先輩には敬意を持つべきです」

りあむ「りあむちゃんも先輩だよ?ぼくに敬意はないの!?」

千夜「……」

りあむ「黙るなよう!沈黙は肯定、白紙委任!」

椿「写真を撮るのが趣味ですので、活動の記録を撮らせてくださいね」

あかり「はい!写真くらいならいくらでも」

あきら「あかり……安請け合いしない方が」

椿「ファッションに興味はありませんか、裁縫部所属なのでツテがあるんです」

あきら「魅力的な提案デスね……」

りあむ「さっそく買収されてる!チョロいよ!」

若葉「椿さん、本題に入りましょうか〜」

椿「そうですね、活動内容をお教えします」

若葉「みなさん、座ってくださいね〜」
181 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:19:03.43 ID:ve+l2aZk0
94

S大学・部室棟・空き部室

千夜「活動内容は、郊外学習と調査ですか」

あきら「あまり変わりませんね」

あかり「皆とお出かけできて嬉しいんご!」

若葉「はい〜。私も自由にできそうです〜」

りあむ「若葉ちゃんが自由にできるように考えないと……」

千夜「しかし、調査する対象が問題です」

凪「凪はそちらに興味があるので来ました」

あかり「不思議なことを調査するんですね!」

千夜「大学生の先輩方はわかりませんが、集められた人選からしても妥当です。ああ、お前は違いますよ、先輩方に入っていません」

りあむ「そこは言う必要ないよ!そもそもなんでそんなにつらくあたるのさ!」

千夜「……私だって気が置けない同級生になってみたいですよ」

りあむ「え?なんて言ったの?」

若葉「聞こえちゃいましたけど、秘密にします〜」

りあむ「いいよ!白雪ちゃんから直接聞きだして見せる!親愛度ボーナス狙い!」

凪「おお。凪もデレを狙います、親愛度アップです。キュートクッキーです」

千夜「言っている意味がわかりませんが、ご自由にどうぞ」

りあむ「あれ?許可がでた?」

凪「結果的に。ハートドリンクかもしれません」

あきら「あかりはどう思いますか」

あかり「良いと思います!ちとせさんのためにもなりますし!」

千夜「お嬢さまのために、ですか」

若葉「私みたいな立場で安心して暮らすためには大切ですよ〜」

千夜「なるほど……」

凪「調べるアテはあるのですか」

りあむ「あるよ!時子サマからファイルを貰って来たからね!大学に連絡されるウワサをまとめたものだって!」

あきら「分厚いデス」
182 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:20:54.17 ID:ve+l2aZk0
椿「真偽不明、色々な情報がありますから」

りあむ「ぼく達で調べよう!そして、時子サマにチヤホヤされよう!」

凪「チヤホヤも魅力的ですが、それ以上に好奇心があります」

あかり「私は賛成です。皆、幸せに暮らせるといいですから」

あきら「まー、いいデスよ。ゲームクリアがあるほうが好みだし」

椿「私は面白い写真が取れそうなので」

若葉「私は今度こそ人間の世界で幸せに暮らします〜」

千夜「……」

あきら「千夜サンはどうする?」

千夜「お嬢さまには自分の道を探せと言われましたが、そう簡単には変われません」

りあむ「……」

千夜「だから、まずはお嬢さまの世界を守ります。私も参加させてください」

椿「はい。よろしくお願いしますね」

千夜「私もそろそろ進路を考える時期です。先輩方、ご相談にのってくだされば。内部進学を考えていますので」

若葉「もちろんです〜」

椿「ええ。頼ってくださいね」

りあむ「白雪ちゃん……」

千夜「なんですか、その目は」

りあむ「うん!そうしよう!ぼくを頼るといい!」

千夜「……」

りあむ「そこはお世辞でもいいから、肯定しておこうよ……やむ」

あかり「やむ?」

凪「飲茶が好きなので、語尾にやむとつけるそうです。中華料理屋の娘さんから聞きました、凪調べ」

りあむ「まちがいだよ!その子、りあむちゃんで遊んでるよ!」

あかり「カワイイ響きですね……かわいいやむ!真似するやむ!」

あきら「いや……あかり、それはやめよう。んごのほうがマシ」

りあむ「それに!やっぱり、白雪ちゃんはりあむちゃんと似てるよ!ぼくを頼れ!」
183 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:22:18.73 ID:ve+l2aZk0
千夜「意味がわかりません」

りあむ「他人に褒められたいのは一緒!特にちとせに!」

千夜「……そうなんでしょうか」

椿「自分のためじゃないのは、素晴らしいと思いますよ」

若葉「そうですよ〜、椿ちゃんなんて優しそうに見えて自分の欲望最優先ですから〜」

椿「あらー、褒めないでいいですよ。当然ですから」

あきら「全く褒めてないデス……」

凪「むしろ逆。ただ、凪は面白いお姉さまは大好きです」

りあむ「白雪ちゃん、一緒にチヤホヤを目指そう!」

千夜「ああ、そうか……そういうことですか」

りあむ「ん?どうしたの?」

千夜「お前とは似ていますね、確かに」

あきら「似てますか?」

あかり「似てないと思います!中身も外見も!」

椿「私は似ていると思いますよ、少しだけ」

若葉「私もそう思います〜」

千夜「お嬢さまとの約束を守るために、お前が必要かもしれません。これも何かの縁です……私に縁が手に入るなんて思いませんでしたが」

あきら「……千夜サン」

千夜「よろしくお願いします。皆さん」

あかり「はい!」

あきら「はい」

凪「中学生ですが、力になります」

椿「ええ」

若葉「がんばりましょう〜」

りあむ「うん!よろしく、白雪ちゃん!」

千夜「今日は私も暇です。活動をはじめましょうか」
184 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:23:22.16 ID:ve+l2aZk0
椿「はい。サークル名はおいおい考えましょう」

若葉「SWOWにしないんですか?」

椿「それは時子さんが代表じゃないといけませんから。7人から増えるかもしれませんし」

若葉「少し考えてみます〜」

凪「凪も考えます」

りあむ「それじゃあ、りあむちゃんがファイルから最初の調べ物を見つけるよ!」

椿「りあむさん、慌てずに」

りあむ「なにかすることがあるの?」

椿「せっかくなのでお話しましょう、ゲームでもしながら」

あきら「ゲーム?」

椿「ツイスターゲーム……」

りあむ「ダメだよ!煩悩まみれすぎるよ!暑いし!」

椿「冗談ですよ。ちゃんと準備をしました」

若葉「オセロです〜」

椿「統計学的に差が出るまでやると仲が深まるそうです」

あきら「そうなんデスかね……?」

凪「凪は受けて立ちましょう。はーちゃんよりは強いですよ」

あかり「私もがんばるんご!」

りあむ「りあむちゃんも1人オセロは得意だったよ!」

椿「それでは、やりましょうか」

若葉「お茶でも飲みながらゆっくりと」

千夜「それでは、お茶の準備をします。キッチンはありますが、お茶道具はありませんね」

椿「お茶の葉と一緒にお茶道具も買ってきてもらえますか?」

りあむ「白雪ちゃん、ぼくも着いて行くよ!」

千夜「お前ですか……まぁ、いいでしょう」

若葉「お願いします〜」

凪「凪とどなたかやりましょう」

あきら「なら、自分が」

千夜「行って参ります」
185 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:25:04.63 ID:ve+l2aZk0
95

S大学構内

千夜「夢見りあむ」

りあむ「え!お前と呼ばれてない!ちょっとビックリした!」

千夜「いちいち大袈裟ですね……聞きたいことがあります」

りあむ「なに?趣味?特技?家族構成?」

千夜「そんなことは聞きません」

りあむ「じゃあ、なに?」

千夜「お嬢さまに、何か言われましたか」

りあむ「……」

千夜「構いません。おそらく、同じことを言われています」

りあむ「……簡単にいうと、ちとせ離れできるように面倒を見ろって」

千夜「お前は要約が下手過ぎる……」
186 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:26:32.13 ID:ve+l2aZk0
りあむ「それは出来るかわからない!期待しないほうが精神衛生上いい!」

千夜「自分で言わなくても。実際期待などしていませんが」

りあむ「それも言わなくていいよ!やさしい世界で生きたいよ!」

千夜「私はゆっくりとやります。お前は、お嬢さまと仲良くしてください」

りあむ「うん。ねぇ、白雪ちゃん」

千夜「なんでしょう?」

りあむ「寂しくない?ぼくはこれから寂しくなさそうだよ!」

千夜「……ええ」

りあむ「チヤホヤされたいコンビでがんばろう!」

千夜「それは拒否しますが、お前も学生生活をがんばってください。お前が留年して、同級生になるのはイヤですよ」

りあむ「え!?誰から聞いたの!?」

千夜「財前時子さんに決まってるでしょう」

りあむ「新学期……思い出すだけでやむ……」

千夜「何故、お前はそんなに自信がないのですか」

りあむ「だってそうだよう……看護師なんてホントは向いてないよう……」

千夜「私は、そうは思いませんが……」

りあむ「え!?本当に!?どこが?詳しく!」

千夜「暑苦しい。くっつくな、無駄にデカい乳を当ててくるな!」

りあむ「白雪ちゃん!教えろ!頼む!」

千夜「せっかく教えたのに損しました……ふふっ」

りあむ「ふふ?なんで笑ってるの?」

千夜「やっと離れた。なんでもありません。行きますよ」

りあむ「白雪ちゃん!おいてかないで!りあむちゃんは保護が必要な生物なんだよ!」

EDテーマ
Twilight Sky


フォー・ピース
187 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:27:13.54 ID:ve+l2aZk0
96

エピローグ

出渕教会・地下1階

ちとせ「……ねぇ、聞いていい」

裕美「なに?」

ちとせ「何故、シスターは眼帯をしてるのかしら」

裕美「時期にわかるよ」

柳瀬美由紀「クラリスさん、来たみたいだよ」

涼「こっちは揃った」

奏「ええ」

美由紀「楓さんは?」

涼「捕食者が食事後だ。下で眠ってる」

クラリス「お揃いのようですね」

クラリス
『シスター』。出渕教会の持ち主であり、あちら側の有力者。

柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。生活で視覚を使うことができないクラリスを手伝っている。

クラリス「先ほどのお声は、黒埼ちとせさんですか」

ちとせ「はい。シスター、はじめまして」

クラリス「触れさせていただけますか」

ちとせ「うん、いいよ」

美由紀「ちとせさん、こっちに来て」

ちとせ「ここでいい?」

美由紀「クラリスさん、ここだよ」

クラリス「失礼します……」

ちとせ「ちょっとくすぐったい」

クラリス「前髪は目を隠すようにしているのですね」

ちとせ「そうだけど……」

クラリス「裕美さんとは違いますね。美しい瞳をしていると聞いています」

裕美「うん、すっごくきれい。ちとせさんもおでこを出そうよ」

ちとせ「うーん、私の趣味じゃないかな」

裕美「おでこもきれいだよ、大丈夫」

ちとせ「そういう意味じゃないんだけどなー」

クラリス「迷い悩み苦しんだでしょう。その決断が報われるよう祈ります」

ちとせ「……はい、シスター」

クラリス「ありがとうございました」

美由紀「ありがとー」

ちとせ「どういたしまして」

クラリス「もう1人、いらっしゃるようですが」
188 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:28:57.95 ID:ve+l2aZk0
涼「颯、そんなに隠れなくていい」

颯「なんか思ったより凄そうだし……はーが会っていいの?」

クラリス「もちろん、構いません。お話は聞いています、久川颯さん」

颯「は、はい!久川颯です!」

クラリス「こちら側の世界が見えるそうですね」

颯「うん」

クラリス「必ずしも恐ろしいものではありません」

颯「知ってるよ。優しいものがいることも、恐ろしいものがいることも」

クラリス「黒埼ちとせさん、久川颯さん、ようこそこちら側へ。歓迎しますよ」

ちとせ「こちら側かぁ。遠くに来ちゃった気分」

クラリス「今日はご挨拶までといきたいところですが、被害者もいますので集まっていただきました。ここでお話を」

ちとせ「被害者って、私のこと?」

奏「話はスーパーレッドのことかしら」

クラリス「違います。彼女は人間です、怪力に目覚めただけの」

裕美「目覚めた、ということは」

クラリス「先日まではただの人間でした」

ちとせ「変身もしてないし、最初からこちら側でもなかった」

クラリス「はい。昔から特殊な力を得る人物は一定数います」

颯「はーとなーみたいに?」

クラリス「はい。元を辿れば私も同じです」

涼「トラベラーも、か」

クラリス「はい。類のない異質な能力ですから、本人の意思と素質によって得たものでしょう、突発的に」

奏「他にいたら困るわ」

涼「いたら、わかるはずだ」

颯「トラベラー、って何?」

裕美「えっと……知らなくていいかな」

クラリス「しかし、今回は違います」

ちとせ「違う?」
189 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:29:44.06 ID:ve+l2aZk0
クラリス「能力は先天的なものを自覚するか、あるいは人でない者に付加されることがほとんどです」

ちとせ「私は後の方かな」

裕美「ちとせさんは両方だよ」

涼「……」

クラリス「スーパーレッド含め、突如として能力を得た人間がこの地域で増えています」

裕美「能力を目覚めさせることが出来るから」

奏「スーパーレッドは力を得る前に誰かに会ったと言っていたわ」

涼「誰か、か」

ちとせ「……」

クラリス「私達は『チアー』と呼んでいます」

裕美「チアー?チアリーディングのチアー?」

クラリス「歴史を紐解けば、複数の存在が確認されています」

颯「前にもいたの?」

クラリス「はい。この能力により、時の指導者となった人物もいます」

奏「へぇ……」

クラリス「能力の強度は様々です。自他共に気づかない程度の場合もあります」

涼「例えば、どんな感じなんだ?」

クラリス「才能を伸ばす程度の場合もあります」

裕美「それなら、先生とかにもいるのかな」

クラリス「そうかもしれませんね。勉学の才能を少しだけ伸ばすなら気づかれません」

涼「だが、今回の相手はそういう類ではないな」

クラリス「ええ」

ちとせ「スーパーレッドは怪力だった」

裕美「人の才能を伸ばす、だけじゃないよね」

涼「人の枠を外れるまでに能力を高めるのか」

奏「それとも、能力を付加しているのかしら」

ちとせ「あるいは、眠っている力を目覚めさせるとか?」

クラリス「詳細はわかりませんが、こちら側に対抗できるような『チアー』の能力であることは間違いありません」

ちとせ「シスター、聞いていい?」

クラリス「どうぞ」

ちとせ「その『チアー』はどうして私達を狙うの?」
190 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:30:36.10 ID:ve+l2aZk0
涼「問題はそこだな」

奏「そこまでの能力があるのなら使いようは幾らでもあるわ」

ちとせ「今の世でも教祖様になれる」

颯「どうしてなんだろう……」

裕美「でも、こちら側を敵視しているのは間違いない」

クラリス「ええ。『チアー』は普通の人間を目覚めさせ、こちら側を脅かしています」

颯「でも、能力を手に入れた人は」

奏「むしろ、こちら側じゃないのかしら」

颯「そうだよね……」

裕美「動機がわからないね」

奏「ええ、シスターの立場を奪いたいようには思えないし」

涼「そもそも、その知識があるとも思えない」

クラリス「そうであれば、接触してくるでしょう」

奏「真実はまだ闇の中」

裕美「ただ、わかってることがある」

ちとせ「私達が狙われていること」

涼「アタシらだけじゃない」

颯「はーみたいな人も狙われるかも」

クラリス「ええ。だから、ご協力ください」

裕美「うん」

クラリス「今回の『チアー』の脅威は2つです」

颯「2つ……」
191 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:31:25.15 ID:ve+l2aZk0
クラリス「1つ目は、望まない人が望まない能力を得て巻き込まれること」

ちとせ「普通の人が巻き込まれちゃう、ってことね」

クラリス「2つ目は、こちら側が脅かされること」

奏「私達はまだいいけれど」

涼「隠れて暮らす存在も危ないってことか」

クラリス「『チアー』と共に脅威を排除し、この地に平穏をもたらしましょう」

ちとせ「わかった。千夜ちゃんに近づかれたらイヤだもの」

颯「はーも協力する」

奏「私も静かに暮らしたいわ」

クラリス「よろしいでしょうか」

涼「ああ」

裕美「わかってるよ。夜なら負けないから」

クラリス「吸血鬼が2人いる場で祝詞を唱えるのも不思議なものですが。美由紀さん、お手伝いを」

美由紀「はーい、立てる?」

クラリス「ありがとうございます。夜に生きていても、私達は神に疎まれし存在ではありません」

ちとせ「……」

クラリス「孤独に飲まれぬように。あなた方のこれからに光あらんことを」
192 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:35:17.18 ID:ve+l2aZk0
97

幕間

タコ公園

友紀「おっ、良いボール投げるね!」

光「そうか?」

友紀「うんうん!将来有望だよ!よしっ、力一杯投げてみよう!」

光「よし!いくぞっ!」

友紀「ナイスボール!」

光「へへっ」

友紀「あたしもいくよ!腰落して!」

光「いいぞ!」

友紀「ピッチャー姫川、投げた!」

光「おお!100キロは出てたぞ!たぶん!」

友紀「……そんなもんだよね」

光「どうした?」

友紀「ねぇ、何か憧れはある?」

光「憧れ?」

友紀「そう、憧れ」

光「アタシはヒーローになりたい!」

友紀「ヒーロー?日曜日の朝にやってるような?」

光「ああ!」

友紀「憧れのためには何でもできる?」

光「ん?」

友紀「どんな状況でも強く願える?絶望的な状況でも?」

光「ヒーローは諦めないものだ!絶対に悪には負けない!」

友紀「悪じゃないよ、勝つのは」

光「どういうことだ?」

友紀「ま、いっか!こっち来て」

光「ああ、どうしたんだ?」

友紀「願うんだよ、自分が得たい力を。人間には可能性があるんだ、どんな可能性でも」

光「え、なんか……意識が」

友紀「がんばれ。夢はきっと叶うから」

光「……」
193 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:35:42.33 ID:ve+l2aZk0
友紀「あれ?」

光「ちょっと、ボーっとしてた。なんだったんだ?」

友紀「あー、そっか。力は要らないんだ、必要なのはハート、結構リアリストなんだね」

光「ぶつぶつ言って、どうした?疲れたのか?」

友紀「もう大丈夫。なんでもない」

光「そうか?」

友紀「……補強できそうだったのに残念」

光「何か言ったか?」

友紀「何も言ってないよ!もう少しだけキャッチボールに付き合ってよ!」

光「ああ!」

友紀「君のヒーローの魂はホンモノだよ!小さな正義の味方、これからもがんばって!」

幕間 了


製作・ブーブーエス
194 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:36:21.06 ID:ve+l2aZk0
次回予告

凪「はーちゃん、凪は許しません」

次回
久川颯「7人が行く・EX2・涙酒」
195 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:37:06.55 ID:ve+l2aZk0
オマケ

P達の視聴後

CoP「ちとせさんはヴァンパイアのイメージですよね」

PaP「直球だな、珍しく」

CuP「そうですか?」

PaP「そうだろ、丸一日太陽を浴びせなくても暴れない感じだし」

CoP「はい。太陽が苦手そうですよね」

PaP「水と深夜の食事は平気か?」

CoP「アイドルなので深夜の食事は避けましょう。さすがに水で変身することはないと思います、たぶん」

CuP「なんですか、うちのアイドルをグレムリンみたいに」

PaP「お前が言いだしたことだぞ?」

おしまい
196 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 23:42:17.82 ID:ve+l2aZk0
あとがき

せっかく7人が新登場しましたので、7人が行くの延長戦です。
2015年3月以来の続編です。この機会に読み返していただくと嬉しい。

時子を大学に残した時点でこの展開は頭にあったのだけれど、アイドル新登場を機に書いてみた。実は亜季と惠も在学中なので裏で色々動いていたりする。

既に予定の倍の長さですが、書きたいことも書ききれないので続きます。

次回は、
久川颯「7人が行く・EX2・涙酒」
です。

高峯のあの事件簿優先ですので、気長にお待ちください。
更新情報は、ツイッター@AtarukaPで。

それでは。

それと、7人が行くはフォー・ピースを応援しています。
復刻ロックスター アイチャレをぜひ。
197 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2019/05/26(日) 23:43:22.31 ID:ve+l2aZk0
資料

7人が行く・登場人物紹介

夢見りあむ
S大学看護学科の1年生。勉強はできるが、学校を続ける自信がない。何やら能力があるらしいが、今のところ詳細不明。

白雪千夜
S大学付属高校の2年生。家族を火事で亡くしたため、黒埼家に引き取られた。文武両道でお料理上手の秀英。

辻野あかり
S大学付属高校の1年生。父親が都内で働くことになったので、9月から転校してきた。いつでも明るく元気に振る舞える。

砂塚あきら
S大学付属高校の1年生。バイトとゲームに明け暮れている。やや冷めた性格だが、気遣いもできるタイプ。

久川凪
颯の双子の姉。幼い頃からあちら側の世界について調べていた。つかみどころのない性格。

久川颯
凪の双子の妹。幼い頃からあちら側の世界を受け入れて来た。素直で壁を作らない性格。

黒埼ちとせ
S大学付属高校の3年生。1年留年しているため、学年はりあむと同い年だった。吸血鬼に変質し、一足早く人生の延長戦に入った。
198 : ◆ty.IaxZULXr/ [sage saga]:2019/05/26(日) 23:45:30.57 ID:ve+l2aZk0
過去作からの引き続きの登場人物

財前時子
S大学の職員。同級生曰く、大学入学当初から性格はかなり軟化したとのこと。就任1年目ながら、強烈な手腕を発揮している。
学生時代はSWOW代表。全話に登場。第7話は彼女のメインストーリー。

江上椿
S大学の学生。カメラも好きだが、可愛い被写体はもっと好き。
裁縫部所属。第1話では若葉と同時に初登場した。第1話からあまり変わっていない。最終話ではSWOW解散時の写真も撮っている。

日下部若葉
S大学の学生。5体で1人の血を吸う怪物。実は植物としての特性も持つらしい。
第1話・第4話・第7話で登場した日下部若葉とは別人。故郷にはまだ別の日下部若葉がいるようだ。
ちなみに、あの美食公演は7人が行くより後。

多田李衣菜
S大学付属高校の3年生。フォー・ピースのリーダー。
第5話に登場。瞳子との出会いと別れを乗り越え、最終話ではEDテーマを披露。

望月聖
S大学付属病院に入院している患者。容態は劇的に回復しているとのこと。
第7話に登場。巻き戻る時間から時子と共に脱却し、前に進み始めた。

佐藤心
CGプロ所属のアイドルであり、魔法使い。自身の作った衣装に魔力を込められる。
第6話に登場。裕美にも衣装を提供しているが、それがマイディアヴァンパイアだったのは彼女の趣味。

仙崎恵磨
CGプロ所属のアイドル。CDデビューも果たし、上々なスタートを切った。
元SWOWのメンバー。全話に登場。鋭い勘と行動力で活躍していた。

クラリス
『シスター』。豊富な知識とアバドンと呼ばれる強力な能力であちら側の安定を保っている。
第4話以降で登場。視認したものを全て消滅させるというシンプルかつ強大な能力を持つ。

柳瀬美由紀
クラリスのアシスタント。子供のような見かけと言動をしている。
クラリスと共に第4話以降で登場。

松永涼
死神。死神から死を遠ざける条件と引き換えに、死神の仕事をしている。
第2話から登場。第4話では若葉に首を飛ばされても復活していた通り、死ねないようだ。

速水奏
天使。芽衣子によってこの世界に連れてこられたが、改心したようで人間の夫婦の元で穏やかに暮らしている。
第2話では殺人鬼を眺める傍観者、第5話では魂を奪う黒幕、最終話ではトラベラーへの復讐を狙っていた異世界の天使様として登場。

高垣楓
捕食者。自分より格下の相手は問答無用で捕食できる、あちら側の掃除屋。
第1話から登場。食べているか寝ているかのどちらかといった様子。

関裕美
吸血鬼。この世界に土着で存在する中では最高クラスの存在。
第4話に登場し、吸血鬼に変質した。家族には暗示をかけ、自分だけは夜の世界で暮らしている。

柳清良
S大学付属病院の看護師。内科病棟勤務。S大学看護学科卒なのでりあむの先輩にあたる。
第1話から登場。優と知り合いだったために、あちら側への関わりが増えて行った。

楊菲菲
中華料理屋を営む楊さんの娘さん。りあむには妙に懐いている。
楊さんのお店については第1話から言及がある。S大学には出前に来てくれる。

東郷あい
刑事課の警部。歪なほどに刑事としての使命に燃える美貌の女刑事。
第4話から登場。悪人ではないが、敵に回してはいけない人物。優からは初対面で嫌われていたりする。

藤原肇
刑事課の巡査。東郷あいのバディ。東郷あいと長く続く珍しい存在とのこと。
第4話から登場。あいとツーカーで時には強引に調査をすすめていく。

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藤居朋「占い師探偵!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1515500359/

東郷あいと藤原肇は同様な役柄でこちらの短編にも登場。全く同じ役柄ですが、7人が行くと同一世界ではありません。

資料 終わり
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 16:25:12.70 ID:qQQSo+hm0
まさかの続編が読めるとは思ってなかった
財前メンタルクリニックにかかればりあむも立派なお姉さんだな
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 16:39:20.29 ID:Pp8Lqk8OO
そういや時子様公式に心理学やってたな……
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/30(木) 00:38:31.51 ID:zU4ecYb90
続編が出るとは・・・
高峯のあの事件簿も、楽しみにしています!
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 22:14:44.27 ID:7oUf/fEq0
この作者のssは実際にアイドルの声でやり取りを聞きたくなるんだよなぁ
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/03(月) 17:32:52.74 ID:iTZ3DSbLO
何だかんだで7人が行くが一番好きだったかなあ
担当は櫂くんが主役のシリーズに出てたけどw
また読めるのが嬉しい
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/05(水) 23:34:47.13 ID:N9dpt1TvO
久美子が出てこねぇ〜。
それはともかく、普通に面白くて最高です。
ちとせと千夜って、モバマスみたいなゲームではキャラ立て難しいと思う。
しかし、その半面物語となっているとはまるタイプだと思う。
次回作、首を長くして待っています。
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