夢見りあむ「7人が行く・EX1・エクストライニング」

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1 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:17:56.77 ID:DKif905n0
あらすじ
夢見りあむは財前時子にウワサの真相究明を押し付けられました。


7人が行くシリーズの後日譚、その1。
設定はドラマ内のものです。

それでは投下していきます。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1558865876
2 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:18:54.22 ID:DKif905n0
過去話リスト

第1話
松山久美子「7人が行く・吸血令嬢」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403002283

第2話
伊集院惠「7人が行く・狐憑き」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1406552681/

第3話
持田亜里沙「7人が行く・真鍋先生の罪」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407499766/

第4話
大和亜季「7人が行く・ハッピーエンド」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410009024/

第5話
太田優「7人が行く・公園の花の満開の下」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418202792/

第6話
仙崎恵磨「7人が行く・偶像怪奇夜話」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421753841/

第7話
財前時子「7人が行く・トマル聖ヤ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424947286/

最終話
並木芽衣子「7人が行く・この旅の終わりに」(終)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1426071344/
3 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:20:46.98 ID:DKif905n0
メインキャスト

1・夢見りあむ
2・白雪千夜
3・辻野あかり
4・砂塚あきら
5・久川凪
6・久川颯
7・黒埼ちとせ

古澤頼子

関裕美
高垣楓

財前時子
4 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:21:17.12 ID:DKif905n0
・inning

名詞
・(野球) 回、イニング
用例:Extra inning (野球の)延長戦
・一生
用例:She’s had a good innings. 彼女は良い人生を過ごしました。

5 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:21:54.46 ID:DKif905n0


ケラケラ……

夢を聞かれたような?

ケラケラ……

笑い声で目を覚まして。

あれ、どうして寝ていたのでしょう?

あれ?

もしかして、これは?

そう、目覚めると!

なんと、私は!

正義の力を手に入れていたのです!

序 了
6 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:22:35.09 ID:DKif905n0


8月中旬のとある金曜日

S大学・学生支援総合センター・学生相談室

S大学
由緒ある総合大学。歴史的に名家の御子息子息御息女が多いとか。

学生支援総合センター
煩雑な学生の手続きを簡略化するためにS大学が近年設置。悩みごとがあるなら、まずはここへ。

夢見りあむ「……」

財前時子「……」

夢見りあむ
S大学看護学科の1年生。目の前にいる人物の印象はドエスお嬢様、やむ。

財前時子
S大学の職員。見るからに厄介そうな学生が来たので、対応を押し付けられた。学生時代はSWOWというサークルの代表をしていた。

時子「はじめまして」

りあむ「は、はじめまして」

時子「大学職員の財前時子よ、今日はどうしたのかしら」

りあむ「大学職員……?」

時子「何故そこで首をかしげるのかしら」

りあむ「ぼくはスクールカウンセラーに会いに来たんだよ!やむちゃんのぼくを救って欲しいから!」

時子「そう」

りあむ「めっちゃ冷静!人間としての出来の差が大ダメージだよ、やむ……」

時子「後ろにポスターが貼ってあるわ、見てもらえるかしら」

りあむ「後ろ?」

時子「スクールカウンセラーのポスターよ、学内の掲示板に貼ってあるでしょう」

りあむ「もう見てるよ!これを見て縋りに来たんだから」

時子「スクールカウンセラーの勤務日が書いてあるから、読みあげなさい」
7 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:23:08.24 ID:DKif905n0
りあむ「スクールカウンセラーは予約不要、毎週火曜と木曜日!ん、火曜と木曜?」

時子「今日は何曜日かしら」

りあむ「……」

時子「そう、金曜日よ」

りあむ「お家で壁に向かって体育座り反省会ばっかりで曜日感覚がおかしくなった、わーん」

時子「それに、スクールカウンセラーは今週夏休みなのだけれど」

りあむ「知らない、連絡不行き届きだよ!」

時子「4月からこのポスターの横に貼ってあるわ。ホームページにも掲載している」

りあむ「まるで、ぼくはバカってこと?」

時子「でしょうね」

りあむ「わーん!職員さんもきっと思ってるんだ、脳と身長に行くべき栄養が胸に行ってるって!脳に行く栄養が胸に行ってる奴は絶滅すればいい、本当に、って!」

時子「そんなこと思わないし、言わないわよ。失礼ね」

りあむ「うわーん、もうダメだ……このまま大学からドロップアウトで、暗い部屋の中で一生を過ごすんだ……」

時子「そっちで勝手に話を進めないでちょうだい。話なら私が聞くわ」

りあむ「え?」

時子「スクールカウンセラーでなくても、話は聞けるでしょうに。それくらいで、あなたは満足しそうだもの」

りあむ「本当に?お悩み相談だよ?」

時子「いいわよ。どうにもならないようなら私からスクールカウンセラーに引き渡すわ」

りあむ「ぼくはクソザコメンタルのヘンテコリン野郎だよ、いいの?いけるの?」

時子「ヘンテコリンには慣れてるわ。あなたが人間なら驚くに値しないわ」

りあむ「……」

時子「学生を助けることが大学職員の仕事でしょう……何かしら、じっとこっちを見て。変なことでも言ったかしら」

りあむ「この大学職員、よく見たら……顔がいい」
8 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:23:42.87 ID:DKif905n0
時子「ハァ?」

りあむ「スタイルもいい、服装のセンスもいい、育ちもいい、若い、そんな大学職員さんがぼくを味方してくれる!生きれる!」

時子「ハァ……?」

りあむ「名前、名前をもう一回教えて」

時子「財前時子だけれど」

りあむ「財前さん、財前教授、時子さん、いや、時子サマ!」

時子「様付けで呼ぶつもりのようね、この子は……」

りあむ「ぼくを救ってよ!」

時子「……まぁ、呼び方は好きにすればいいわ。ただし、あなたのことを話しなさい」
9 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:25:51.04 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

時子「大体状況はわかったわ、確認するわ」

りあむ「うん」

時子「名前は夢見りあむ、看護学科の1年生、その髪は染めてる、であってるわね」

りあむ「うんうん」

時子「ここに来た理由は、もう学校続かなさそう、だから」

りあむ「そうそう!」

時子「そんなに元気に肯定されても困るわ。私も大学職員だから、退学者を増やしたくないの」

りあむ「でも、ぼくが辞めそうなのは事実!対応しないとマズイでしょ!」

時子「あなたが言うことではないわね。本題に入る前に」

りあむ「入らないの?」

時子「体の調子に異常はあるかしら」

りあむ「体?健康だよ?体だけね!代わりに脳も心もダメ!」

時子「あなたの好きな食べ物は」

りあむ「飲茶!大学の近くにある楊さんのお店よい」

時子「楊さんのお店はいいわね。私がご馳走するとしたら、食べるかしら?」

りあむ「もちろん!ご馳走してくれるの?時子サマ、神!?」

時子「食欲は問題なさそうね。検討してあげましょう」

りあむ「おごるは嘘?飲茶がないとやむよ?」

時子「脅迫ならもっと上手くやりなさい。今は独り暮らしかしら」

りあむ「実質独り暮らしだよ!」

時子「実質ね、どういう意味なのか教えなさい」

りあむ「おうちに誰も帰ってこないもん。だから実質独り暮らし!自由!自由万歳!」

時子「羨ましいとは思えない自由ね、私は自由ではなかったから」

りあむ「時子サマ、やっぱり良い家の出?お嬢様?ホンモノ?」

時子「今は私の話をする必要はない。さて、夢見りあむ?」

りあむ「なに、時子サマ、答えるよ、何でも!」

時子「大学に友達はいるかしら」

りあむ「……」

時子「無言は回答とするわ。何かサークルに所属してるかしら」

りあむ「わかってるでしょ、所属してたらこんなことにならないよ!」

時子「そんなものでしょうね、本題に入りましょう」

りあむ「うう、時子サマ、見かけ通りのエスだよ、エス!ガラスのハートにはハードだよ!」

時子「どうして、大学が続かないと思ったのかしら」

10 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:27:06.35 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

りあむ「どうして?」

時子「ええ、何故かしら」

りあむ「どうして、どうして……どうして?」

時子「……」

りあむ「そんなのわからないよ!わからないから、ここにいるんだよ!」

時子「フムン……」

りあむ「時子サマはなかったの?」

時子「何が」

りあむ「大学辞めたい、とか」

時子「幸運なことになかったわ」

りあむ「やっぱり、ぼくの気持ちなんてわからないんだ……」

時子「ええ、わからないわ」

りあむ「やむ……」

時子「あなたがわかるべきよ、どうしたいのかを」

りあむ「どうしたいとか、そんなのないよう」

時子「ないの?」

りあむ「やりたいことがないと怒られる世の中は間違ってる!」

時子「それなら、何故看護学科に入学したのかしら」

りあむ「……チヤホヤ」

時子「何を言ってもいいから、ちゃんと言ってちょうだい。聞こえないわ」

りあむ「チヤホヤされたい!白衣の天使のタマゴはチヤホヤされるべき!」

時子「白衣の天使になりたいわけでもないのね。就職したいわけでもなさげ、と」

りあむ「時子サマ、ぼくはどうしたらいい?」

時子「……少し待ちなさい。二言三言飲み込むわ」
11 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:27:48.89 ID:DKif905n0
りあむ「それ、どういう意味かな?」

時子「大学の授業を受けて卒業しなさい、というのが色々な人が言う意見でしょうね」

りあむ「そうなの?」

時子「薄々気づいていたけど、私が初めての相談相手なわけね」

りあむ「あっ、頼れる人がいない哀れな奴だって思ったな!」

時子「別の意見を聞いていないなら、好都合」

りあむ「ぼくは都合のいい女……」

時子「人聞きの悪い。あなた、やりたいことはあるのかしら」

りあむ「やりたいこと?」

時子「後期の授業が始まるまでしばらく夏休みは続くわ。何かしたいことはあるかしら」

りあむ「うーん、推しに会いに行きたい!」

時子「推し?」

りあむ「推しはぼくの推しだよ!アイドルだよ!生が一番!」

時子「それを栄養にして生きているタイプなのね」

りあむ「栄養、そう必須栄養素!時子サマ、理解度が高いよ!」

時子「夏休み中はそれをしていたのかしら」

りあむ「してないよ、毎日できないよ!お財布が足らないよう、わーん」

時子「自分で言っていたでしょう、曜日感覚が狂うほどに家にいた、と」

りあむ「そうだよ、金なし友達なしやる気なしのぼくがりあむちゃんだよ……」

時子「大学の夏休みは長いわ。他に予定は」

りあむ「ない、真っ白だよう」

時子「あなたにやりたいことがないのなら、私が命令するわ」

りあむ「命令、ゾクゾクする響き!」

時子「ちょっとだけ待っていなさい。宿題をあげるわ」
12 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:28:53.93 ID:DKif905n0


S大学・学生支援総合センター・相談室

りあむ「時子サマ、このファイルは何?」

時子「ここには色々なことを学生が言ってくるわ、その一部。俗にいうウワサよ」

りあむ「群馬県出身の学生が増えてる、って何?」

時子「あなたに調べてもらうのよ」

りあむ「調べる……ぼくが?」

時子「ええ」

りあむ「ムリだよ!」

時子「別に出来なくてもいいわ」

りあむ「へ?」

時子「解決なんて望んでいないわ。嘘か真かわからないもので、採点するなんて愚かなことはしない」

りあむ「それなら、安心……?」

時子「私が調べて欲しいウワサは、3つ」

りあむ「出来なくていい、うん、それならいい」

時子「一つ目は、群馬県出身の学生が『増えて』いること」

りあむ「それはどういう意味?」

時子「あなたが調べて意味を付けなさい。調べていけば、わかるわ」

りあむ「むぅ……」

時子「二つ目は、夜に人探しをしている少女が現れること」

りあむ「夜に少女?危なくない?」

時子「だから、話がこっちに来たのでしょう」

りあむ「なる」

時子「三つ目は」

りあむ「三つ目は?」

時子「吸血鬼の末裔がいるらしいわね」

りあむ「吸血鬼、フィクションだよ?」

時子「……」

りあむ「時子サマ?」

時子「あなたが見つけたことが真実よ、答えを自分で出すことがあなたの為ね」

りあむ「時子サマ、雰囲気の良さげなことを言って騙そうとしてない?」

時子「あなたを騙す価値なんてないわよ」
13 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:29:38.66 ID:qERzXi2O0
りあむ「か、価値なし宣言!?」

時子「騙す価値がないだけ。夢見りあむ、確認よ」

りあむ「ぼくは、時子サマの宿題をやる。ウワサを調べる」

時子「よろしい。片言なのが気になるけど」

りあむ「出来なくても良い、出来たら褒めてくれる?」

時子「ええ、何もわからなくていいわ。月曜日にもう一度ここに来なさい」

りあむ「わかった!」

時子「夕方の5時までに。いいわね?」

りあむ「5時……」

時子「自身なさげね。もしかして、昼夜逆転してるのかしら」

りあむ「してない!ちょっと、遅寝遅起きなだけ!月曜日もこれぐらいの時間でいい!?」

時子「問題ないわ」

りあむ「絶対に向いてないけど、やるしかない!時子サマに捨てられたら、ぼくは本当におしまい!人生ゲームセット、人生バッドエンド!」

時子「脅迫が少し上手くなったわ。最初に調べるといいものを教えてあげるわ」

りあむ「あるの?」

時子「吸血鬼の末裔はS大学付属高校の前で待っていれば会えるわ、おそらく」

りあむ「え、そんなに簡単に会えていいもの?」

時子「別にいいわ、苦しむことに価値はないでしょう」

りあむ「その通り、苦労努力、ムダ!」

時子「それで、調べてもらえるかしら」

りあむ「うん!今日からやるよ!米粒ほどのやる気が消えないうちに!」

時子「それがいいでしょう、がんばりなさい」

りあむ「行ってくるよ、時子サマ!」

時子「ええ、行ってらっしゃい。曜日は間違えないように」

りあむ「わかってる、月曜日!」

時子「……」

時子「任せるべきでしょうけど……手は回しておきましょう。亜季なら上手くやってくれるわね」
14 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:35:11.80 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

S大学付属高校
S大学の敷地内に併設されている付属高校。大学と同じく由緒ある高校とのこと。

りあむ「時子サマのメモ、吸血鬼の末裔は補習を受けてるってなに?おバカちゃんなの?」

多田李衣菜「凄い髪の人がいるけど……何だろう」

多田李衣菜
S大学付属高校の3年生。フォー・ピースのリーダーでGt&Vo。自主練の帰り道に厄介事を見つけてしまった。

りあむ「あ」

李衣菜「目があった」

りあむ「まずい、りあむちゃんは女子高生の出待ちをしてる不審者じゃん!」

李衣菜「しかも、独り言が大きいし……よし、声かけちゃおう。防犯には声かけだよね」

りあむ「ヘッドフォン外した!近づいてくる!」

李衣菜「こんにちはー、誰か待ってるんですか?」

りあむ「えっと……」

李衣菜「……」

りあむ「ここで聞かないと一生そのまま!ぼくは探してる!」

李衣菜「あはは……えっと、何を?」

りあむ「吸血鬼……吸血鬼の末裔を探してる!」

李衣菜「あー、吸血鬼の末裔か」

りあむ「知ってるの?」

李衣菜「うん。金髪で紅い眼で見ればわかるから、ここで待ってるといいよ」

りあむ「ホント?嘘ついてない?ぼくをあしらおうとしてない?」

李衣菜「嘘はついてないかな、うん」

りあむ「こんなぼくに話しかけてくれる、天使……エンジェルドリームだ……」

李衣菜「あはは……そういうわけだから、きっと会えると思うよ。それじゃ!」

りあむ「あ、えっと……ありがとう、ございます」

李衣菜「気にしないで!ばいばい!」

りあむ「話しかけてくれなかったらムリだった……1日で2人もぼくにかまってくれる聖人に会えるなんて良い日だ。よし、待とう。待つのは得意だもん!」
15 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:37:06.02 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

りあむ「流石にそろそろ飽きてきて……あっ、いた!」

黒埼ちとせ「あら?」

白雪千夜「お嬢さま、どうされましたか」

黒埼ちとせ
S大学付属高校の3年生。今年も出席日数不足で補習を受けていた。

白雪千夜
S大学付属高校の2年生。補習を受ける必要はないが、ちとせと一緒に登校し下校も一緒。

りあむ「話を聞きたい!そこの顔が良い金髪に!」

ちとせ「ちっちゃいのに、ぷにぷにそうな子が話しかけてくれた」

りあむ「じゃあ、ぼくと話してくれる……?」

千夜「なりません」

りあむ「なんで!?」

ちとせ「いいじゃない、減るものでもないし」

りあむ「ほら、こう言って……」

千夜「近寄るな。お嬢さまと一言たりとも話すべきでない存在であることは説明するまでもありません」

りあむ「え……ひどくない?」

千夜「お帰りください」

りあむ「間違いだった……時子サマとヘッドフォンのエンジェルが奇跡だったんだ……ぼくに優しくしてくれる人なんて幻だったんだ……」

千夜「面倒な人ですね。行きましょう、お嬢さま」

ちとせ「まぁまぁ、千夜ちゃん。せっかく、声をかけてくれたんだから、ちょっとお話してあげましょ?」

りあむ「え、いいの?」

千夜「仕方がありません……お嬢さまの寛大なる心に感謝するのですよ、お前は」

りあむ「お前呼ばわり……やむやむ言ってられない、時子サマに褒められるためにも!」

千夜「そこから近寄るな。話してもいいが、それより近寄ることは許していない」

ちとせ「この子も強引だから、ごめんね」

りあむ「優しい……でも、なんか……」
16 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:37:58.73 ID:qERzXi2O0
ちとせ「私の顔に何かついてる?」

千夜「早く終わらせましょう。お嬢さまに聞きに来たことはなんですか」

りあむ「聞きたいことはね……」

ちとせ「なーに?ふふっ♪」

りあむ「吸血鬼の末裔なの?」

千夜「何を言って……」

ちとせ「そうだよ」

りあむ「そう……だよ?」

ちとせ「バレちゃった。私、吸血鬼の末裔なの♪」
17 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:39:44.42 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・玄関前

りあむ「本当にきゅうけ……」

堀裕子「きゅ、吸血鬼ですか!」

堀裕子
S大学付属高校2年。千夜のクラスメイト。彼女は補習を受けていた。

りあむ「……誰?」

千夜「冗談ですよ、お嬢さまが幼い頃から言っているものです。堀さん、ご安心ください」

裕子「そうですか!そうですよね!それではまた会いましょう!」

千夜「さようなら、お気をつけて」

ちとせ「賑やかな子ね、千夜ちゃんのクラスメイト?」

千夜「はい。堀さんです。補習を受けているようですので、会えるかと」

ちとせ「そうね。次は千夜ちゃんがお世話になってます、って挨拶しておかないと」

千夜「そこまで気をつかわないでも結構ですよ、お嬢さま」

りあむ「あの……」

千夜「まだいたのですか。どこかに行ってくれればよかったのに」

りあむ「辛辣だよぉ……こんな口調でいいの?」

ちとせ「可愛いでしょ」

りあむ「あっ、ダメ親になるタイプだ!」

千夜「話は終わりです。しっし」

りあむ「いつもだったら逃げかえるところだけど、今日は逃げないよ!バックに味方がいるからね、無敵だよ!」

千夜「厄介な思考です」
18 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:40:47.44 ID:qERzXi2O0
りあむ「吸血鬼の末裔って本当なのか、聞きたい」

ちとせ「本当かもしれないし、嘘かもしれないよ?」

りあむ「自分でわからないの?」

ちとせ「それは秘密の方がステキでしょ?」

りあむ「そうかなぁ……」

千夜「真偽のほどは不明です。私は冗談だと思っていますが、この美しさです。更に人を魅了するカリスマ性とあわせて、吸血鬼の末裔というウワサになるもの仕方がありません」

りあむ「きみ、実はぼくと近い人種?」

千夜「はっ、御冗談を」

りあむ「鼻で笑うってこういうことか……やむ」

ちとせ「そういうわけだから、質問の回答はこれでいい?」

りあむ「吸血鬼の末裔じゃないけど、ウワサになりそうな美人がいた」

ちとせ「ありがと♪」

りあむ「そのはず、でも、なんか、あれ?」

ちとせ「あはっ、私のこと好きになっちゃった?」

りあむ「うん、多分そうなんだよ……?」

千夜「お前は危険ですね」

りあむ「危険じゃないよ!人畜無害!人を傷つける能力があればぼくはこんなに苦しまないよ!」

古澤頼子「こちらにいましたか。黒埼ちとせさん、白雪千夜さん」

古澤頼子
S大学付属高校の女性教師。担当科目は国語。いわゆる教師としての情熱はないタイプ。
19 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:41:43.65 ID:qERzXi2O0
千夜「古澤先生でしたね、どうしましたか」

ちとせ「そういえば、呼びだされていたの忘れてた」

千夜「そういうことは言ってください。待っていますから」

ちとせ「千夜ちゃんも一緒だよ?」

千夜「何故私が呼び出されるのですか?」

頼子「他の生徒が待っていますし、私も早く帰りたいので。こちらへどうぞ」

ちとせ「そういうことだから、一緒に行こう?」

千夜「意味がわかりませんが、そうします」

頼子「そちらの方は……」

りあむ「なに?」

頼子「いいえ、なんでもありません。名前も事情も聞く気はありません。お邪魔しました」

ちとせ「ばいばーい、調べ物がんばってね」

りあむ「あっ……ばいばい」

りあむ「……」

りあむ「一つ解決した!時子サマ、褒めてくれる!もしかして、りあむちゃんは向いてる!?」

頼子「申し訳ありませんが、校内ではお静かに」

りあむ「あ、すみません……うるさかったです……失礼します……」

りあむ「……」

りあむ「他のも調べてみようかな、行ける気がする。がんばれ、りあむちゃん、時子サマとヘッドフォンのエンジェルがついてる!」
20 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:43:22.89 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・空き教室

頼子「4人、揃いましたね」

千夜「要件は何でしょう」

頼子「その前に点呼をします、顔と名前が一致していませんので。黒埼ちとせさん」

ちとせ「はぁい」

頼子「白雪千夜さん」

千夜「はい」

頼子「砂塚あきらさん、でしたか」

あきら「はい、そーデス……」

砂塚あきら
S大学付属高校の1年生。返答はマスクによって小声になっている。

頼子「それと」

辻野あかり「山形から来ました、辻野あかりです!はじめまして!」

辻野あかり
S大学付属高校に9月から転校してくる1年生。転校の理由は親の仕事の都合らしい。

ちとせ「可愛い♪はじめまして、あかりちゃん」

あかり「黒埼さん、よろしくお願いします!」

ちとせ「ちとせでいいよ♪」

あかり「はい、ちとせさん!」

あきら「制服違う、転校生?」

あかり「はい、9月から」

あきら「ふーん……」

頼子「私は古澤です。担当は国語です」

千夜「お嬢さまに、マスクさんに、転校生と私。呼ばれる理由がわかりません」

頼子「部活に所属していたことはありますか」

千夜「部活?」

あきら「ないデス。バイトで忙しいので」

あかり「転校前は帰宅部でした!」

ちとせ「私は……参加しても、ね?」

千夜「……」

あかり「あっ、古澤先生の部活にお誘いですか?」

頼子「違います。私は顧問をしていません」

千夜「では、なんでしょうか」

頼子「黒崎さん、白雪さん、砂塚さんは学校に馴染めているのか、探りを入れてこいと。部活に入れさせればいいだろう、と」

あきら「余計なお世話デス」
21 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:45:26.26 ID:qERzXi2O0
頼子「私もそう思いますが、面倒なことです」

あかり「私は、どうなんでしょうか」

頼子「転校生なので面倒を見ろと。2学期からはあかりさんのクラスで授業もしますから」

ちとせ「なるほど、先生は押し付けられちゃったのね」

千夜「フム……」

頼子「私も面倒は避けたいので。特に土日に駆り出されるのは嫌です」

あきら「やる気のない先生デスね」

頼子「先生として崇められることは望みませんが、人としての権利を望みます」

あかり「でも、せっかくなので、仲良くしたいです!」

頼子「ご自由にどうぞ。あきらさんは同学年なのでいかがでしょうか」

あきら「まー、少しくらいなら」

ちとせ「ふーん、古澤先生はどうしたら褒められるの?」

頼子「明日にでも、どこだろうが幽霊部員でもいいので、部活に所属してくだされば」

あきら「絶対デスか?」

頼子「強制なんて古臭いことはしません。古臭い上司の命令に従っていますが」

千夜「教師も大変ですね」

あかり「部活かぁ」

ちとせ「あかりちゃん、何か心配事でもあるの?」

あかり「せっかく引っ越してきたので、山形で出来ない部活がしたいです!」

あきら「あるんですか?」

千夜「わかりません」
22 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:46:11.75 ID:qERzXi2O0
頼子「自分で探してください。私からは以上です、何かご質問は」

あかり「はい!」

頼子「どうぞ。辻野さんは後で連絡先を教えてください」

あかり「先生は、お休みの日は何をしてるんですか?」

頼子「お休み、ですか」

あかり「土日は部活に出たくないって言ってたので気になって」

頼子「美術館や博物館を巡っています。首都圏は数も多く、企画展も数が多いですから」

あかり「へぇー、素敵ですね!」

あきら「そうデスかね……」

千夜「美術館……」

ちとせ「千夜ちゃん、美術館にそんなに反応しちゃって。どうしたの?」

千夜「そんなに反応はしていません」

ちとせ「千夜ちゃん、美術館が好きだもんね」

千夜「それは否定しませんが」

頼子「……」

ちとせ「そうだなぁ……ねぇ、あかりちゃん?」

あかり「はい?」

ちとせ「皆とお出かけ興味がある?色々なところに行くの」

あかり「お出かけ……興味あります!」

千夜「お嬢さま、何か企んでいませんか」

ちとせ「せっかくだから、皆が幸せになる答えが欲しいでしょ?ねぇ、古澤先生」

頼子「何でしょうか、黒埼さん」

ちとせ「部活を作っちゃえばいいと思うの」
23 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:46:56.07 ID:qERzXi2O0


S大学付属高校・空き教室

ちとせ「というわけ」

頼子「フム……美術館、博物館や史跡巡りの部活ですか」

ちとせ「そうそう。良い考えでしょ?」

あきら「なるほど」

ちとせ「先生の趣味を邪魔しないし、私達は部活に入るから、古澤先生は高評価!」

頼子「確かに、私には得ですね」

ちとせ「あきらちゃんは、バイトをしてても何も言われなくなるよ?」

頼子「私は何も言う気はありませんけれど」

あきら「これから色々言われなくて済むなら、ありデスね」

ちとせ「あかりちゃんは一緒にお出かけできるし」

あかり「わぁ、ぜひ行きたいです」

ちとせ「千夜ちゃんは、付き合ってくれるわよね?」

千夜「お嬢さまがそう言うならば従うのみです。美術館には興味もありますし」

ちとせ「決まりね。部活の顧問をしてない先生と生徒4人で、設立できるわよね?」

頼子「生徒は3人いれば、問題なかったと思いますが」

ちとせ「じゃあ、オッケー?」

頼子「はい、少し手間は増えますが、美術品に興味を持ってくれるなら許容しましょう」

あかり「それじゃあ……」

頼子「設立届を持ってきます。しばらく、待っていてください」
24 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:47:57.38 ID:qERzXi2O0
10

S大学付属高校・空き教室

頼子「代表は年齢順で、黒埼さんでよろしいですね」

ちとせ「いいよ、1年多く高校生もやってるから最適」

あかり「そうなんだ、だから……」

ちとせ「あかりちゃん、だから何?」

あかり「な、なんでもないです!」

ちとせ「真っ赤になっちゃって可愛い♪」

あかり「ほっぺが赤くなりやすいんですー」

頼子「副代表は白雪さんで、よいでしょうか」

千夜「構いません」

頼子「顧問は古澤頼子と。部活名はどうしますか」

あきら「お出かけ部?」

あかり「美術館・博物館巡り部?」

ちとせ「頼子先生を囲む会とか?」

千夜「真面目にした方が目に着けられにくいかと」

あきら「先生が言い訳は考えてくれますよね?」

頼子「はい。面倒な部活の顧問を押し付けられたくないので」

あかり「うーん、それだと……うーん?」

千夜「文化部はありますか」

頼子「文化部は運動部の対義語です。文化部にするのは難しいかと」

ちとせ「もう少し、お出かけ感が欲しいわね」

千夜「フィールドワーク部は……胡散臭いですね」

頼子「学芸調査部とでもしておきましょう。美術館の職員を学芸員と言いますし」

あきら「先生にお任せで」

千夜「私も異論はありません」

頼子「部室はこことしておきます。使いたければ使ってください」

ちとせ「だって」

千夜「使うつもりはありませんが」

頼子「書類はこれでよいでしょう。皆様にはこちらを」

あかり「プリントですか?」

あきら「道案内デスね」

頼子「明後日、日曜日、行く予定だった美術館を教えておきます。参加はご自由にどうぞ。私はその時間のバスに乗りますので」

あかり「わかりました!楽しみです!」
25 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:48:58.41 ID:qERzXi2O0
ちとせ「先生、ここオススメなの?」

頼子「はい。現代美術が豊富です、併設されている公園も綺麗ですよ」

ちとせ「じゃあ、千夜ちゃん、いこっか?」

千夜「わかりました。お弁当の準備もします」

ちとせ「やった♪」

あかり「砂塚さんはどうですか?」

あきら「あきらでいいデス」

あかり「それじゃあ、あきらちゃん、一緒に行きませんか?」

あきら「……ちょっと考える」

頼子「次回からは金曜日に土日の予定を伝えることにしましょう。その気があるなら、放課後にこの教室に来てください」

ちとせ「はぁい」

頼子「これで終わりにします。私の手間が増える行動は謹んでください」

あかり「手間が増える行動って?」

あきら「飲酒喫煙デスよ」

頼子「本当に面倒なので辞めてください」

あきら「冗談デス」

千夜「そんなことはしません」

ちとせ「ねー」

頼子「結構です。それでは、来られる方はまた日曜日にお会いしましょう」
26 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:50:06.24 ID:qERzXi2O0
11



S大学構内

りあむ「はー、そんなに簡単じゃなかった……増えるって意味がわからないよう……おうちかえる……」

関裕美「あっ……いた」

関裕美
紅い瞳をした少女。彼女は夜に生きるホンモノ。

りあむ「ひっ!」

裕美「……怯えられちゃった」

りあむ「あれ?女の子だ、そんなに怯える必要ないな」

裕美「そうだよ、危なくないから」

りあむ「いや、あれ、どっちかな?」

裕美「大丈夫」

りあむ「そう言う大丈夫……じゃない!」

裕美「じゃない?」

りあむ「こんな時間に危ないよ!可愛い女の子はお家にいないと!」

裕美「そっちこそ」

りあむ「背は小さくても18歳以上だから!」

裕美「そういう意味じゃないんだけど……」

りあむ「うん、ぼくも帰るから帰ろう」

裕美「帰らないよ。目的があるから」

りあむ「目的?」

裕美「この人、知らないかな?」

りあむ「めっちゃ美人なオッドアイのお姉さんだ……」

裕美「探してるの」

りあむ「しらな……あっ!」

裕美「知ってる?」

りあむ「君だ!」
27 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:50:40.97 ID:qERzXi2O0
裕美「私?」

りあむ「ウワサの正体だ、夜に人探しをしている少女!」

裕美「……」

りあむ「えっと、名前は?」

裕美「……」

りあむ「え、変なこときいた?」

裕美「名前は必要ないよ。私が正体だから、そう伝えれば平気」

りあむ「……でも」

裕美「いいから」

りあむ「強い眼力!むり!勝てない!」

裕美「それで、この人見たことある?」

りあむ「ない。この人見てたら、ぼくは絶対に覚えるよ!」

裕美「そっか。ありがとう」

りあむ「どういたしまして!」

裕美「ねぇ、向こうを見て」

りあむ「え?」

裕美「ばいばい」

りあむ「何もないけど……あれ?」

りあむ「いない……つまり……」

りあむ「……」

りあむ「りあむちゃんも怪奇現象はごめんだよ!やっぱり、おうちにかえる!すぐに!」
28 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:51:23.92 ID:qERzXi2O0
12

黒埼ちとせの自宅

黒埼ちとせの自宅
黒埼ちとせの両親は海外におり、ちとせは千夜と二人暮らし。千夜の料理は絶品らしい。

千夜「お嬢さま、どちらに……メモが机の上に」

メモ『少しお散歩してくるね』

千夜「いつもの、ですね。お早いお帰りを、お嬢さま」
29 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:52:43.36 ID:qERzXi2O0
13

小さな公園

小さな公園
今日はラーメンの屋台が出ている日で、醤油の香りがする。CG事務所の女子寮から近い。

佐藤心「よいしょー」

仙崎恵磨「よっ」

佐藤心
CGプロ所属のアイドル。愛称は名前からしゅがーはぁと♡。只今自主トレ中。

仙崎恵磨
CGプロ所属のアイドル。無事にCDデビューを果たし、インストアライブは盛況だったらしい。

ちとせ「ふー……ちょっと、疲れちゃった」

心「アイドルに必要なのは」

恵磨「柔軟性、心も体も口も」

心「いえーす☆」

ちとせ「ラーメンも美味しそうね……食べきれないから頼めないけど」

心「年齢一桁からいるアイドル業界、同じレッスンをこなしてもメンテの必要性が段違いなわけ」

恵磨「うんうん。でも、はぁとほど年取ってないし」

心「そこまで年寄りじゃないぞ☆」

ちとせ「あの人達なにしてるんだろう……あっ、逆立ちした」

恵磨「それ、ただのジャージだよね」

心「もち、これは鍛錬の成果」

恵磨「よし、アタシも!はぁと、ちょっと見てて……よっと!」

ちとせ「わぁ、凄い、ダンサーさんなのかしら?」

心「やるー」

恵磨「ダンスも一個上を目指したいんだよね」

心「うんうん、よい心がけだぞ☆はぁとにはムリ?年とか言うなよ?」

恵磨「何も言ってないんだけど」

ちとせ「お邪魔ね……千夜ちゃんも心配するから帰ろう」

恵磨「はぁと、もう少し柔軟体操してから帰ろっ」

心「そうする……ん?」

恵磨「どうしたん?」

ちとせ「目があった、よく見たら凄い髪型……テレビで見たような?」

心「……」

恵磨「あの子がどうしたの?綺麗だからスカウトする?」

心「いや、そういうわけじゃないけど」

恵磨「じゃあ、なに?」

心「話を聞いてみよう。こんばんは〜」

ちとせ「こんばんは」
30 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:53:49.06 ID:qERzXi2O0
心「まどろっこしいのも難だし聞くけど」

ちとせ「なぁに?私に魅了されちゃった?」

心「その自覚ある?」

ちとせ「自覚って?」

心「あなた、チャーム持ちじゃない?」

ちとせ「チャーム?」

恵磨「チャームって何さ?」

心「わからないなら、この話はナシで!でも、お姉さんからのアドバイスだぞ、聞けよ☆」

ちとせ「よく話がわからないけれど、聞いてあげる」

心「あなたの周りには人が集まるわ、でも、望まない人も近づいてくるかも。気をつけて」

ちとせ「あなた、嘘はついてなさそう」

心「いい?」

ちとせ「ええ。だから、遅くならないうちに帰ることにする。またね」

心「気をつけて帰るんだぞ、ばいばい☆」

恵磨「じゃあねー」

心「……ふう、恵磨ちゃんはわかった?」

恵磨「何が?」

心「彼女、チャーム持ちよ、たぶん」

恵磨「さっきから言ってるけど、チャームって何さ?」

心「人に好かれる力、無意識のうちに相手に好意をすりこむ。好意なんて、主観的なものを変えちゃうわけ」

恵磨「アタシにはわからないけど、別に問題ないんでしょ?」

心「普通はねー。でも、好きの感情でおかしくなっちゃう人もいるから、さ」

恵磨「……そっか」

心「ま、忠告したから大丈夫のはず」

恵磨「フーン……でも、さ」

心「なに?」

恵磨「あの子、体が弱いんじゃない?裕美ちゃんみたいに」

心「……」

恵磨「ん、なんか変なこと言った?いや、思いつくままに言っただけなんだから当然か」

心「うん、恵磨ちゃんは思い付きは大切にした方が良いタイプ☆さ、柔軟やって寝よう!」

恵磨「オッケー。終わったら、ラーメン食べない?良い匂いするし」

心「アイドル的にはノーセンキュー!我慢する精神力がアイドル力だぞ☆」
31 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:54:41.13 ID:qERzXi2O0
14

深夜

夢見りあむの自室

りあむ「かきかき……」

ノート『吸血鬼の末裔とウワサになってたのは、黒埼ちとせ!S大学付属高校の学生!金髪、紅い眼、顔よし、スタイルよし!』

りあむ「むふむふ……」

ノート『深夜に人探しをする少女は実在した!でも、幽霊の可能性あり!知らないといえば去っていくから思わせぶりは禁物!』

りあむ「でも、写真はホンモノだった?」

ノート『探してる人の写真はオッドアイの凄い美人でした。この世にいないような』

りあむ「いいよ、これで時子サマ、喜んでくれる……はず……」

ノート『明日からもう一つのウワサ探しーーーー』

りあむ「すぅすぅ……むにゃむにゃ……」
32 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:56:00.81 ID:qERzXi2O0
15

翌日・8月中旬のとある土曜日

タコ公園

タコ公園
タコの形をした滑り台がおかれた公園。住宅街の真ん中にあり、子供の遊び場であり近隣住民の憩いの場。

りあむ「……」

姫川友紀「うーん、わからない!」

姫川友紀
公園で挙動不審だったりあむに声をかけたフリーター。バックから野球観戦グッズがはみ出ている。

りあむ「そっか……」

友紀「増えるなんて意味わからないよー」

りあむ「ぼくもそう思うけど……」

友紀「増えるなら人間じゃないよね!」

りあむ「……」

友紀「キャッツも勝ったし、人助けも出来た!美味しいお酒が飲める、それじゃ!」

りあむ「えっと、ありがとう、ばいばい……」

りあむ「上手くいかない!S大学から調べる範囲を広げてみたのに!やっぱり昨日が奇跡だったんだ……」

りあむ「……」

りあむ「でも、せっかく家から出て来たから夕ご飯まではがんばる。夕ご飯は楊さんのお店にするんだ。りあむちゃん、がんばりやでしょ……がんばりやじゃないな。惰性で動く……」
33 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:56:59.95 ID:qERzXi2O0
16

久川家・前庭

久川家
タコ公園の近くにあることを、夢見りあむはまだ知らない。

コンコン!

久川颯「なー、ちょっと来て!」

久川凪「はーが庭から窓を叩いて呼んでいます。何でしょうか」

久川颯
はー。久川凪の双子の妹。明るく元気な周りの人を巻き込めるリズムの持ち主。

久川凪
なー。久川颯の双子の姉。独特なリズムと感性で生きているタイプ。

颯「一緒に来て、隣の家に」

凪「なんと、スタイル抜群のJCに空き家にお誘いされてしまいました。双子の妹ですが」

颯「おっけ、静かにね」

凪「静かにしているのは自信があります」

颯「ゆーこちゃんにも言わないで、いい?」

凪「いいです。だけど、ちょっと待ってください」

颯「なに?」

凪「玄関で靴を履きます。待っていてください」
34 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:57:45.06 ID:qERzXi2O0
17

久川家隣の空き家・リビングダイニング

隣の空き家
持ち主不明の空き家。地元の不動産業者が持ち主を必死に探しているらしい。

凪「おー、入れるとは知りませんでした」

颯「怒られるから秘密だよ、いい?」

凪「秘密は蜜の味です、もちろん」

颯「しー、起きちゃうから静かに」

凪「起きる?起きることができるというと、動物でしょうか」

颯「まだ寝てる……ほら」

凪「なるほど、これは大物ですね」

高垣楓「……すー」

高垣楓
銀髪の美女は水の入ったペットボトルを抱きしめながら、台所で眠っている。

凪「生きてますか?人形のようです」

颯「うん、息はしてる」

凪「空き家に美女と美少女と一緒。たまらないシチュエーションかもしれません」

颯「凪もカワイイよ?」

凪「なるほど。自給自足というやつですね。パシャリ」

颯「なー、何してるの?」

凪「写真をスマホで撮りました。後で役に立つかもしれません」

颯「そうかなー」

凪「半分は趣味です。美少女を撮るチャンスはありますが、美女を撮るチャンスは少ないですから」

颯「どうしたらいいのかな、お腹とか空いてないかな?」

凪「満腹そうな顔をしています」

颯「あれ?確かにそうかも」

凪「はーちゃん」

颯「なー、どうしたの?」

凪「何かいるような気がしています」

颯「どこに?」

凪「この美女の後ろに、です。チューニングをしましょう」

颯「うん。はい、なー、両手を出して」
35 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:58:22.42 ID:qERzXi2O0
凪「はーちゃん、これでよいです。あっちが見えるチャンネルにあわせましょう」

颯「目をつぶって……」

凪「カチリ」

颯「カチリ」

凪「カチカチカチ」

颯「カチッ、ピュイ」

凪「ハロー。こんにちは。ニーハオ」

颯「わっ!大きな口が浮いてる!」

凪「あっちも驚いているようです」

颯「ごめん、驚かせる気はなかったんだ」

凪「可愛いはーちゃんに免じて赦してください」

颯「私は久川颯、こっちは久川凪」

凪「よろしくお願いします」

颯「あなたはどなた?」

凪「口はあるようですが、話は出来ないようです。クチアリのクチナシです。クシナシの花言葉はとても幸せです」

颯「喋れないんだー、残念」

凪「しかし、このお口の正体はわかります」

颯「なー、わかるの?」

凪「ネットで読みました。この口は、なんとー」

颯「なー、もったいぶらないで教えて?」

凪「これは『捕食者』です」
36 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 19:59:26.45 ID:qERzXi2O0
18

久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「『捕食者』って、食べられちゃうの?」

凪「いいえ。この通り、人間がいるチャンネルにはあっていませんので人間や私達の食べているものは食べません」

颯「へー、じゃあ何を食べてるの?」

凪「妖怪や幽霊を食べています。人間に害をなすものを食べてくれる良い存在とされています、と書いてありました」

颯「うーん、でもここで満腹そうに寝てるってことは?」

凪「ここに食べ物がいたのでしょう」

颯「あ、口をパクパクしてる!そうだよ、ってことかな?」

凪「そのようです。何が居たのかもうわかりませんね」

颯「ありがと!正義の味方だったんだ」

凪「しかし、気になります」

颯「気になる?」

凪「『捕食者』は人間と一緒になる必要はないです」

颯「そうなの?……うん、って動いたかな」

凪「普通の人や動物からは見えませんし、必要性はないかと」

颯「この人は、あなたの分身?」

凪「違うと思います、おそらく」

颯「はー達と同じ人間かな」

凪「そうだったみたいです」

颯「そうだった?」

凪「なんとなくですが、今の方がはっきりと見える気がします」

颯「人間から『捕食者』さんになってるってこと?」

凪「自分で言ったのですが、わかりません」
37 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:00:00.76 ID:qERzXi2O0
颯「うーん、『捕食者』さんも困った口してる」

凪「凪に名案があります」

颯「なになに?思いついた?」

凪「この人が起きるのを待ちましょう」

颯「そうだね、二人で分担して見にこよっか」

凪「はい。それでは、失礼します」

颯「またねー」

凪「はーちゃん」

颯「なー、手出して?」

凪「はい。どーぞ」

颯「カチっとな」

凪「見えなくなりました」

颯「また見に来るね、ばいばい」

凪「また会いましょう」

楓「すぅ……すぅ……」
38 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:00:54.55 ID:qERzXi2O0
19

楊さんの中華料理店

りあむ「疲れた……やむちゃが待ち遠しい……」

楊菲菲「お待たせ、飲茶セットダヨー」

楊菲菲
中華料理屋を営む楊さんの娘。S大学なら出前にも行くらしい。

りあむ「やむちゃ!ありがとう!」

フェイフェイ「いつもありがとうダヨー、今日は大学?」

りあむ「違うよ!調べ物をしてた、りあむちゃん偉い」

フェイフェイ「調べモノ?」

りあむ「ウワサを調べてる、でも、今日は収穫なし……やむちゃで回復しないと」

フェイフェイ「大学生はウワサが大好きネー」

りあむ「そうなのかな?」

フェイフェイ「前も調べてる人達がいたヨー」

りあむ「ふぅん、そんな変わった人達もいるんだ」

フェイフェイ「ガンバリ過ぎはダメ、やむちゃはお腹いっぱい食べて休むといいネ」

りあむ「うん、休む!日曜日は神様が休むと決めた日、休まないと」

フェイフェイ「追加があったら呼んでネ、ごゆっくりダヨー」

りあむ「いただきます、モグモグ。美味しい、勤労にこの味はきく……」
39 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:02:06.80 ID:qERzXi2O0
20



久川家隣の空き家・リビングダイニング

楓「すぅすぅ……」

颯「起きないね」

凪「はい、やはり普通の人ではないようです」

颯「パンとお菓子を持って来たけど、食べるかな?」

凪「置いておきましょう。寝ていてもお腹は空きますか?」

颯「うん、お腹は空く」

凪「凪は戻ります」

颯「ここに置いておくからね、良かったら食べてね」

凪「おやすみなさい……既に寝ていますか」
40 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:02:40.45 ID:qERzXi2O0
21

幕間

みんなが眠った夜。

こんな夜こそ、私の出番です。

さぁ、怪物に名乗りをあげましょう!

「我が名はスーパーレッド!」

おやおや、キョトンとされてしまいました。

ふっふっふっ、このスーパーレッドに恐れをなしているようですね!

さぁ、正義の力をお見舞いしましょう!

再びこの地に現れた、この怪物達に!

幕間 了
41 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:03:48.54 ID:qERzXi2O0
22

翌日・8月中旬のとある日曜日

某ターミナル駅・バス停前

あかり「おはようございます!」

頼子「おはようございます」

あかり「あきらちゃんも、挨拶するんご!」

あきら「おはようございまス……」

頼子「揃ってしまいましたね、想定外です」

あかり「あっ!ちとせさん、千夜さん!」

ちとせ「おはよう、あかりちゃん」

千夜「辻野さんでしたか、朝からお元気ですね」

頼子「まぁ……悪いことではありませんか」

ちとせ「先生、号令とかないの?」

頼子「到着後にしましょう。バスが来たら教えますので、バス停から離れないでください」
42 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:05:32.50 ID:qERzXi2O0
23

久川家隣の空き家・リビングダイニング

凪「まだ寝ていますね」

楓「すぅすぅ……」

颯「なー、ここ見て」

凪「ゴミが落ちています。不法侵入でしょうか、私達もですね」

颯「違うって。昨日、はーが持って来たの食べたみたい」

凪「起きたということですね」

颯「うん」

凪「水も減っています。食事をしたのでしょう」

颯「でも、寝てるね」

凪「『捕食者』さんはまだお腹いっぱいのようですね、動いていないということは」

颯「寝かせてあげようか。また、見にこよう」

凪「はーちゃんのいう通りにします」

颯「またね」

楓「……」
43 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:06:23.91 ID:qERzXi2O0
24

興梠美術館・バス乗り場

興梠美術館
都心からバスで1時間。親子3代で集めたコレクションは評価が高いらしい。

頼子「改めまして、おはようございます」

あかり「古澤先生、よろしくお願いします!」

千夜「この美術館はどのような美術館なのですか」

頼子「私は職員ではないので、説明はしません。自由に調べ、自由な感性で見てください」

千夜「そう言うのなら、そうさせていただきます」

頼子「私からは食事場所と帰りのバスについてだけ教えておきます」

ちとせ「私は千夜ちゃんが作ってくれたお弁当♪」

頼子「食事はそちらに併設のレストランがあります。少し行けば小さな食堂もありますのでご自由に」

あかり「あきらちゃん、どうする?」

あきら「来る前にコンビニで買ってきました。お店が周りになかったので」

あかり「え!どうしよう!?」

ちとせ「一緒に食べる?分けてあげようか?」

あかり「いいんですか……?」

ちとせ「千夜ちゃん、いいよね?」

千夜「私は構いません。作りすぎてしまったので」

あかり「わーい」

あきら「……」

ちとせ「あきらちゃんも一緒に、ね?」

あきら「ご一緒します。独りよりは良いデスから」

千夜「古澤先生はどうされますか」

頼子「私にはお構いなく。帰りのバスは一昨日配ったビラに書いています。本数が少ないので」

千夜「この路線は、往復1本しかないのですね」

ちとせ「行きはさっき乗って来たやつね」

あきら「別ルートで帰るのは大変デス、調べました」

あかり「乗り遅れないように覚えておかないと……」
44 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:06:57.66 ID:qERzXi2O0
頼子「私からは以上です。私も自由にしますので、ご自由に」

ちとせ「はーい」

頼子「……何故、ついてくるのですか」

ちとせ「ご自由に、って言ったから」

千夜「不慣れですので。参考にと」

あかり「せっかくだから、一緒がいいんご」

あきら「まずは真似デス」

頼子「わかりました、少しは案内します。まずは入場券を買いましょう、こちらです」
45 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:07:56.40 ID:qERzXi2O0
25

興梠美術館・2階・広い展示室の真ん中・休憩用のソファ

千夜「お嬢さま、お体の様子は」

ちとせ「千夜ちゃんは大袈裟、ちょっと座りたくなっただけ」

千夜「ですが……」

あかり「ちとせさん、大丈夫ですか」

ちとせ「ありがと、あかりちゃん。じゃあ、お願いしていい?」

あかり「はい、何でも言ってください!」

ちとせ「それじゃあ、血を吸わせて」

あかり「はい……血?えええ!」

千夜「お嬢さま、冗談はほどほどにしてください」

ちとせ「ごめんね。でも、素直な子は好きよ」

あかり「す、すきって」

ちとせ「あはっ、可愛いー」

千夜「美術館はお静かに」

あきら「見てきました」

あかり「あきらちゃん、古澤先生はどうだったんご?」

千夜「あの真っ赤な絵の前から、動きませんか?」

あきら「#動かない #銅像 #聞いてない #まるで恋する乙女」

ちとせ「恋する乙女ね、それ以外に何も見えて無さそう♪」

あかり「どうしましょう?」

あきら「……お手上げデス」

千夜「思ったよりは、案内してもらいました。これからは自由行動でも良いでしょう」

ちとせ「そうね。千夜ちゃん達も自由に見て来ていいわよ?」

千夜「いえ、お嬢さまから離れるわけには」

ちとせ「あきらちゃんが一緒にいてくれるから、ね?」

あきら「急デスね……まー、疲れて来たのでちょうど良いデス」

ちとせ「だって」

千夜「では、お言葉に甘えて」

あかり「千夜さん、ご一緒していいですか?」

千夜「構いません」

あかり「はいっ」

ちとせ「いってらっしゃい〜」

あきら「……」
46 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:09:20.87 ID:qERzXi2O0
ちとせ「ふぅ、千夜ちゃんも自由にすればいいのに」

あきら「あの……」

ちとせ「なに?何でも聞いていいよ?」

あきら「じゃあ、聞きます。なんでお嬢さまと呼ばれてるのデスか?」

ちとせ「ああ、千夜ちゃんは私の僕ちゃんだから」

あきら「しもべちゃん……意味がわからない」

ちとせ「ちょっと理由があって、身の回りのお世話をしてもらってる。そういう建前で一緒に住んでるから、千夜ちゃんはお嬢さまって呼ぶようになったの」

あきら「……聞かない方が良かったデスか」

ちとせ「気をつかってくれてありがとう。大丈夫、恥ずかしいことや秘密にしたら千夜ちゃんを傷つけることになるから」

あきら「……」

ちとせ「私が体も弱いから、千夜ちゃんが一緒にいてくれて嬉しいの」

あきら「……重いデス」

ちとせ「ごめんね、話したいのは私の方」

あきら「聞いてしまったから、少しは助けます」

ちとせ「ありがと、優しいのね」

あきら「……急に倒れられたら面倒デス」

ちとせ「……そうね」

あきら「一緒に座ってます、いいデスか?」

ちとせ「うん、ここからでも展示物は見えるし」

あきら「それにしても……」

ちとせ「どうしたの?」

あきら「現代芸術は凄い大きいデスけど、#意味不明」

ちとせ「古澤先生は言ってたでしょう、意味はなくて自分から引き出された気持ちが全てだって」

あきら「言ってましたけど、わからない」

ちとせ「あはっ、私も。一緒に、あの黒い正方形の絵を眺めてみよっか」

あきら「そうします、黒い正方形が9つあるだけ……じゃないんデスよね」

ちとせ「きっとね。自分の中から何かが出てくるか試してみよっか」
47 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:11:07.39 ID:qERzXi2O0
26

興梠美術館・2階・順路一番奥の展示室

千夜「私がお嬢さまにお仕えすることになった経緯はこんな所です」

あかり「えっと……」

千夜「秘密ではありません。お嬢さまと砂塚さんも同じ話をしているでしょう」

あかり「……」

千夜「私にはお嬢さまが全てです。それ以上の価値は……ありません」

あかり「そうかな……」

千夜「少し話し過ぎました。今は美術館をお楽しみください」

あかり「そう、楽しむんご!」

千夜「ただし、お静かに」

あかり「千夜さんは楽しくないですか?」

千夜「美術館ですか。お嬢さまは楽しそうなので、良いかと」

あかり「違います!千夜さんはどうですか?」

千夜「……」

あかり「楽しくないですか?」

千夜「興味深くはあります」

あかり「千夜さんにも楽しいこととか、やりたいことが見つかるかも」

千夜「やりたいことですか」

あかり「ないんですか?」

千夜「お聞きしますが、あなたにはありますか」

あかり「え、えっと……」

千夜「私は私が何かをなすことはないと思います……ですが、お嬢さまのためならそれは違うかもしれません」

あかり「でも」

千夜「展示はこれで終わりのようですね。お嬢さまの元に戻りましょう」

あかり「……はい」
48 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:12:37.80 ID:qERzXi2O0
27

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「#冷房最高 #外は灼熱 #ピクニックじゃなくて苦行」

ちとせ「ここでお昼にしよっか。食事していいみたいだし」

千夜「はい。机と椅子もありますので良いかと」

ちとせ「それじゃあ、あかりちゃんとあきらちゃんも座って」

あきら「そうしま……」

あかり「私、飲み物を買ってきます!あきらちゃんも行くんご!」

あきら「ちょっと待って、ひっぱらないで……」

あかり「いってきまーす!古澤先生も呼んでくるんご!」

ちとせ「あきらちゃん、連れて行かれちゃった」

千夜「行ってしまいました。食後の紅茶は水筒で用意しているのですが」

ちとせ「可愛い後輩が気をつかってくれたんだから、楽しみに待ってましょう」

千夜「お嬢さまが言うならそうします。準備をしますので、お待ちください」

ちとせ「はぁい」

千夜「あの、お嬢さま」

ちとせ「千夜ちゃん、なに?」

千夜「砂塚さんと何かお話しになりましたか?」

ちとせ「体が弱いからちょっとだけ助けてね、って」

千夜「……そうですか」

ちとせ「千夜ちゃんはあかりちゃんと仲良くなれた?」

千夜「わかりません」

ちとせ「いいえ、じゃなくてわからないなんだ?」

千夜「……」

ちとせ「わかったら聞かせてね」

千夜「……はい」

ちとせ「千夜ちゃんは何か気になる美術品はあった?」

千夜「そうですね、私は屏風が気になりました。ムーランが題材のようでした」

ちとせ「へぇ、どうして?」

千夜「それはですね……」
49 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:16:11.30 ID:qERzXi2O0
28

興梠美術館・バス停近くの自動販売機前

あきら「両親は海外、病弱なお嬢さま、一浪して高校3年生、僕ちゃんは可愛い、けど」

あかり「火事、お嬢さまと二人暮らし、お料理が得意、私は何もしない、って言ってましたけど」

あきら「つまりデスよ」

あかり「うん」

あきら「お嬢さまは僕ちゃんにやりたいことを見つけて欲しいのデス」

あかり「だよね、やっぱり」

あきら「ちとせサン、そんなにお世話が必要デスかね?」

あかり「ちょっと体は弱いけど、千夜さんがずっと傍にいなくてもいいですよね」

あきら「同感デス」

あかり「千夜さんが、ずっと近くに居たいんですよね。多分」

あきら「好きというか……」

あかり「うーん……」

あきら「あかりはどうしたらいいと思う?」

あかり「わからないんご……」

あきら「自分も同じ」

あかり「出来ることは……」

あきら「出来ることデスか……」

あかり「この部活に出ること、とか?」

あきら「ちとせサンが作ったような部活デスから」

あかり「そうしましょう!千夜さんは美術館が好きみたいだし、あきらちゃん、協力してください!」

あきら「バイトが入ってなければ。ちとせサンから事情も聞いたし」

あかり「えへへ、決まりですね!」

あきら「まー、良いデス。部活に入ることを何故か兄ぃも喜んでたし」

あかり「飲み物はこれでいいですか?」

あきら「トマトジュースも買いました、千夜サンは何が好きなんでしょう?」

あかり「後で聞いてみましょう!」

あきら「そーデスね。次は好きな物を買えます」

あかり「それじゃあ、古澤先生を探しにいきませんか」

あきら「どこにいるんデスかね?」

あかり「まだ美術館の中かな、それと聞きたいこともあるので」

あきら「聞きたいこと、デスか?」

あかり「古澤先生は事情を知ってるんでしょうか?」

あきら「どうなんデスかね。興味なさげデス」

あかり「でも、協力してもらわないと」

あきら「正直、この作戦は先生次第デス」

あかり「行きましょう!」
50 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:17:03.23 ID:qERzXi2O0
29

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「飲み物を買ってきました」

ちとせ「おかえりー」

千夜「古澤先生もいらっしゃったのですね」

頼子「はい。昼食は自分で用意していますが、ご一緒します」

あかり「ちとせさん、トマトジュースをどうぞ!」

ちとせ「あかりちゃん、ありがと」

あきら「千夜さんは、この中だとどれが好きデスか?」

千夜「それでは、リンゴジュースを頂きます」

あかり「んご?」

千夜「辻野さん、どうしましたか」

あかり「いいえ、何でもないです!」

千夜「そうですか」

ちとせ「じゃあ、ご飯にしよっか。いただきます♪」
51 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:17:32.97 ID:qERzXi2O0
30

興梠美術館・庭園にある休憩所

あきら「アンテナショップ、デスか?」

あかり「うん。山形の物をいつも買えるんですよ」

頼子「学校から歩いて行ける距離にありましたね、そちらですか」

あかり「はい!いつでも来て欲しいんご!」

ちとせ「今度、千夜ちゃんと一緒に……あれ」

千夜「……」

頼子「お休みのようですね」

ちとせ「お弁当作るのに早起きしたから、寝ちゃったみたい」

あかり「静かにしないとですね」

あきら「#寝息小さい #動かない #美形 #人形」

頼子「ごちそうさまでした。私は美術館の方に戻ります」

ちとせ「あかりちゃんとあきらちゃんも行ってきていいよ?」

あかり「はい。古澤先生、一緒に行きませんか?」

あきら「ここの作品はちょっと難しいデス」

頼子「構いませんが」

ちとせ「千夜ちゃんの可愛い寝顔は独占しておくから、楽しんできてね」

あかり「はい、行ってきます!」

52 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:18:12.80 ID:qERzXi2O0
31

夕方

久川家隣の空き家・リビングダイニング

颯「起きてるかな?」

凪「どうでしょうか」

楓「こんにちは」

颯「わっ、本当に起きてた!」

凪「おー、予想外です」

楓「お邪魔でしたか」

凪「いえ、ここは空き家です」

楓「そうですね、あれだけいたら人が住むには大変でしょうから」

颯「あれだけ、いた?」

楓「もういませんから、安心してください」

颯「そうだ、パンとお菓子食べた?」

楓「いただきました」

颯「美味しかった?好きな物だった?」

楓「……ええ。ありがとうございます」

凪「名乗っていませんでした。久川凪です、はーちゃんの姉です」

颯「久川颯だよ。なーの双子の妹!」

楓「双子ちゃんでしたか」

凪「お姉さんのお名前をお聞かせください」

楓「名前……ですか」

颯「うん」

楓「高垣楓です」

颯「楓さん、よろしくね!」

凪「颯と楓ですか。字面にすると紛らわしいですね」

颯「ねぇ、聞きたいことがあるんだ。楓さん、聞いてもいい?」

楓「私に、ですか?」

颯「うん」

楓「何かお困りごとでも?」

颯「困ってないよ、聞きたいだけ」

凪「よいでしょうか」

楓「ええ、私に答えられることなら」

凪「あなたは『捕食者』ですか、それとも人間ですか」
53 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:20:11.38 ID:qERzXi2O0
32

久川家隣の空き家・リビングダイニング

楓「見えるのですか」

颯「うん。昔から、こうするとね」

凪「チャンネルが別になります」

楓「フム……こちら側に来れるということですね」

凪「こちら側とはどういう意味でしょうか」

楓「『シスター』にお会いしたことは」

颯「シスター?会ったことないよ?」

凪「クリスマスは祝いますが」

楓「……」

颯「楓さん?」

楓「質問にお答えしていませんでしたね。お答えします」

凪「……」

楓「私は人間です、ほとんど」

凪「ほとんど、ということは」

楓「少しだけ人間ではありません」

颯「……そうなんだ」

楓「『捕食者』に力をいただき、この体を維持しています。人間であるために、少しだけ人間でなくなりました」

颯「……」

凪「気になることは色々ありますが」

楓「私が選び、与えられた在り方です。そこに悔いはありません」

颯「帰るところはあるの?」

凪「不法侵入です。私達もですが」

楓「いいえ、ありません」

凪「その答えはオカシイです」

颯「うん、違うと思う。帰る所あるよね?」

凪「人間としての身なりがキレイです」

颯「服も幾つか持ってて、お風呂にも入ってそう」

凪「つまり、生活環境もしくはお金があります」

楓「嘘はつけませんね。帰る所はありますが、帰りません」

颯「なんで?ケンカしちゃった?」

楓「……」
54 : ◆ty.IaxZULXr/ [saga]:2019/05/26(日) 20:21:08.50 ID:qERzXi2O0
凪「事情があることはわかります」

颯「一緒に住んでる人はいるの?心配してると思うよ」

楓「ええ……だから、です」

凪「……」

楓「大丈夫ですよ、あなた方よりも大人ですから」

颯「そうかな」

凪「凪にはそうとは思えません」

楓「……」

凪「……」

楓「わかりました。お使いをお願いできます、か」

颯「お使い?」

楓「出渕教会という所に住んでいました。そこに、私の無事を伝えていただけますか……ふぁ……」

颯「楓さんは帰らないの?」

楓「まだ満腹です、もう少し休もうかと……」

凪「そんなに、たくさんいたのですか」

楓「はい、とっても……」

颯「うち、凄い所に家を建てちゃったんだね……」

凪「ラッキーです、助かりました」

楓「今日はもう遅いですから、明日にでも訪ねてください……いいでしょうか」

颯「わかった」

楓「それでは、おやすみなさい……」

凪「眠ってしまいました」

颯「途中から眠そうだったね」

凪「はい。少しだけ人間でないのは本当のようです」

颯「うん。明日、出渕教会だっけ、に行ってみようか」

凪「ええ。戻ることにしましょう」

颯「ゆーこちゃんのお手伝いしよう」

凪「はい。狙うはおかず一品追加です、ゆーこちゃんをその気にさせましょう」
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