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未来「未来に吹く風」
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1 :
◆Zg71aiNoxo
[sage]:2019/05/23(木) 21:37:23.29 ID:mKt9f9jP0
去年の夏コミで出したものを投げます。時期はずれてますが、一応未来ちゃんの誕生日絡みです
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1558615042
2 :
◆Zg71aiNoxo
:2019/05/23(木) 21:40:16.70 ID:mKt9f9jP0
地上に出ると、潮風が肌を突き刺してきた。
風に混じった潮の匂いは、お世辞にも心地いいものだとは言えないけれど、
その香りはなぜか不快には感じられなかった。
その場所から少し歩いた海沿いの公園のそばに
「765プロライブシアター」と書かれた建物はある。
ここに来たばかりの頃には一面に広がる桜の花が春を
大げさに主張していたのに、今では木々にも地面にも
すっかり緑の葉だけが広がっている。その緑に溶け
込んでいるとはとてもじゃないが言えない、コンク
リート造の「765プロライブシアター」は建てられてから
まだそんなに月日が経っていないこともあって、その外装は
潮風にさらされていると思えないほど綺麗だ。
一つ深呼吸をして、その建物に入ったところで後ろから声がした。
3 :
◆Zg71aiNoxo
:2019/05/23(木) 21:42:18.94 ID:mKt9f9jP0
「プロデューサーさん、おはようございます!」
「ああ、星梨花か。おはよう」
その声の主は、この「765プロライブシアター」に所属する
アイドルであり、かつプロデューサーである自分が担当している
アイドルである箱崎星梨花だった。まだ知り合ってそれほど月日も
経っていないというのに、星梨花は自分に対して、ある程度は
打ち解けてくれているらしい。それは自分の仕事の面から
見ればとても好都合なのだが、自分の性格からすればあまり
望ましいことではない。
というのも、「シャイ」だというレッテルを子供の頃から
貼り付けられていた私は、他者とのコミュニケーションに対して
あまり能動的かつ積極的になれないのだ。
けれども、そんなジレンマを抱えているとは知る由もない
星梨花は、楽しそうに話を続けた。
4 :
◆Zg71aiNoxo
:2019/05/23(木) 21:43:37.52 ID:mKt9f9jP0
「プロデューサーさん! 実は私、今朝いいことがあったんです!」
「お、どうしたんだ?」
「ここに来る途中に、ファンの人に声をかけられちゃいました!
『頑張ってね』って言ってもらったんです!」
「そうか、それはよかったじゃないか。じゃあ今日も頑張らないとな」
「はい!」
自分が駆け出しのプロデューサーであるように、星梨花もまた
駆け出しのアイドルで、今現在そんなに知名度があるわけではない。
だからこそ身近なところで応援を貰える機会というのもそんなにない
わけで、星梨花はそんな貴重な体験を、満面の笑顔を浮かべながら話した。
5 :
◆Zg71aiNoxo
:2019/05/23(木) 21:45:13.59 ID:mKt9f9jP0
「このシアターって大きいですよね」
「ああ、そうだな」
私と星梨花は劇場の奥へ向かって並んで歩いていた。
劇場の中にはたくさんの部屋がある。
もちろん公演を行うホールや入口のロビーなんかは
一般的な劇場にもある施設だが、この劇場は様々な
機能を兼ね備えているので、中にはレッスンルームや事務室、
その他にも様々な用途の部屋が存在している。
公演を毎日毎週行えるほど、金銭的余裕も時間的余裕も
人手も知名度もあるわけではないので、普段は事務室や
レッスンルームだけが使われていることが多いというのは
少し物悲しいことではあるが。
「星梨花って、今日はボイスレッスンだけだったよな?」
「はい! そのあとは育ちゃんと桃子ちゃんと一緒に遊びに行く予定なんです!」
「そうなのか。楽しんで来いよ」
どうやら星梨花は育と桃子と仲がいいらしい。
歳も近いし、波長も合うのだろう。
世間一般に蔓延っているような芸能界の暗いイメージと違って、
アイドル達はとても仲が良くて、こちらとしてはすごく助かっている。
6 :
◆Zg71aiNoxo
:2019/05/23(木) 21:47:54.53 ID:mKt9f9jP0
レッスンに向かう星梨花を見送ってから、いつも通りに
事務室に行き、自分のデスクに向かった。
壁に掛けられた真っ白の予定表を見ながら、
「もっと頑張らないとな」と気合を入れ直し、作業を進めていく。
作業が一段落したところで、手元にコーヒーの入った
マグカップが置かれていることに気づいた。
顔を上げると、事務員の美咲さんが立っていた。
「あの、お疲れ様です!」
「ああ、お疲れ様です。コーヒー、ありがとうございます」
事務員の美咲さんも、例に漏れず新人だ。
最初はおっちょこちょいな性格を存分に発揮して
数え切れないほどのミスをしていた。
だが、最近は事務仕事も立派にこなせるようになっており、
今となってはとても信頼の置ける人だと思っている。
ただ、そのような偉そうなことは、自分の立場では
到底言い出せることではない。
「それは、次の公演の企画書ですか?」
美咲さんは、私のパソコンの画面を覗き込みながら問いかけてきた。
「ええ、まあ。まだほとんど何も決まってないんですけどね……」
その言葉通りに、パソコンの画面には「企画書」という仰々しい
文字以外には、本決まりでない一部出演者の名前と、
会場がここであることの情報が載っているだけだった。
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