アスカ「かぐや様は告らせたい?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:40:50.16 ID:oKc73eVLO
【SS】アスカ・ラングレーは告らせたい
http://elephant.2chblog.jp/archives/52249297.html

アスカ・ラングレーは告らせたい 破
https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssr/1556959574/


一応続きものだけど、読まなくても分かるよ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1558600850
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:42:07.00 ID:oKc73eVLO
レイ「……」ペラ

レイ「……」ペラ

レイ「……フフッ」


ゲンドウ「何をしている、レイ」

レイ「……心理学の本を、読んでいます」

心理学。
人の行動原理を読み解く学問。
目に見えない人の心を理解しようという試みの道のりは古く、実に紀元前にまで遡る!
そこまで長い歴史をもっていながら、心理学は未だ学問として発展途上!
人の心の複雑さ・奥深さは筆舌に尽くし難いものなのだ!

ゲンドウ「人の心に興味があるのか?」

レイ「はい」ニコッ

ゲンドウ「……楽しいか?」

レイ「……よく、わかりません」

レイ「でも、読んでいると心がワクワクします」

ゲンドウ「……そうか」

魑魅魍魎にして奇々怪界ーーまさしく、人の心とはパンドラの匣そのもの!
そんな希望と災厄の入り混じった匣を、今まさに、一人の少女が開こうとしていたっ!
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:43:40.95 ID:oKc73eVLO
【綾波レイは学びたい】

ーー教室・朝


レイ「……」ペラ

レイ「……」ペラ

レイ(……ドア・イン・ザ・フェイス、ね)

【ドア・イン・ザ・フェイス】っ!
要求水準の落差を利用した話法の一つ!
人は他人の頼みごとを断ると罪悪感を抱き、次の要求を承認しやすくなるっ!
それを利用し、最初に難度の高い要求を出して相手に一旦拒否させておき、それから徐々に要求水準を下げていくのがこのテクニックであるっ!

レイ(……よく、わからないわ)

レイ(相手に認めてもらうために、相手に拒絶させる)

レイ(矛盾している。筋が通らない。一体どうやれば……)
4 : ◆MzoIYE0fBBRx [saga]:2019/05/23(木) 17:45:23.88 ID:oKc73eVLO
アスカ「だーかーらぁー。明日のお弁当にはステーキを入れろって言ってるのっ。霜降りで黒毛で和牛のやつっ!」

シンジ「無理だよアスカ。そんな豪華なもの、お弁当に入れても合わないよ……」

アスカ「はんっ、なんならキャビアかフォアグラで妥協してあげてもいいわよ?」

シンジ「余計に豪華になってるじゃないかっ」

アスカ「私には豪華すぎるくらいがちょうどいいの。……あっ、そうだ。それならブランドもののバック買ってよ。それで勘弁したげる」

シンジ「なんで僕がそんなもの買わなきゃならないのさ!?」

アスカ「どうせあんたは無趣味だから支給金持て余してるんでしょ? 私は派手に使い過ぎてミサトから制限かけられちゃったのよ」

シンジ「ダメだよ。僕たち、まだ中学生なんだよ? お金の使い方にも節度を持たないと……」

アスカ「あんたって無理だのダメだの否定してばっかりねぇ。ほんっと、つまんないヤツ」

シンジ「し、仕方がないだろ。アスカが無茶ばっかり言うんだから」

アスカ「ふんっ。……なら今日の放課後荷物持ちに付き合いなさいよ」

シンジ「荷物持ち?」

アスカ「そ。ちょうど買い物に行こうと思ってたから。これなら無茶でも何でもないでしょ?」



レイ「!」

レイ(最初に無理難題をふっかけて)

レイ(あえて拒否させて)

レイ(最後にハードルの低い要求を通す)

レイ(なるほど。こうやるのね)


シンジ「ごめん。今日の放課後は用事があるんだ」

アスカ「えっ」

レイ「えっ」
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:48:31.65 ID:oKc73eVLO
アスカ「……用事って、なんのよ」

シンジ「訓練だよ。ネルフの」

アスカ「……私は聞いてないけど、そんなの」

シンジ「個別訓練だからね。アスカだってたまに呼ばれてるでしょ?」

アスカ「だって私は天才だもん」

シンジ「僕は凡才だから、人一倍訓練しないとダメなんだよ」ハハッ

アスカ「……バックれなさいよ、そんなの」

シンジ「む、無理だよ。だってこれ仕事だよ?」

アスカ「仕事なんかより、私の荷物もつ方が大事に決まってんでしょ」

シンジ「ほ、本気で言ってるの!?」

アスカ「当っったり前よ! どーせ、バカシンジに成長する余地なんてないものっ。
 そんな青い鳥を探すより、私の荷物を持てる幸せ噛み締めた方がよっぽど有意義ってモンじゃない、このよわシンジっ!」

シンジ「っ」イラッ

レイ(まずい、碇くんがムッとしてるわ)
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:49:34.70 ID:oKc73eVLO
シンジ「……なんかさ。最近のアスカって変にわがままだよね。ちょっとがっかりした」

アスカ「えっ」

レイ(ああ……)
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:50:59.84 ID:oKc73eVLO
シンジ「さっきだってそうさ」

シンジ「とつぜんステーキがいいだの、キャビアを入れろだの言いだして」

シンジ「こっちはわざわざアスカが好きなハンバーグを作ってるのに、それじゃ不満なんだ?」

シンジ「それにいきなりバッグを買えってなんだよ」

シンジ「ぼくはアスカの財布じゃないんだよ?」

シンジ「都合のいい道具でもない」

シンジ「そりゃ前からわがままだとは思ってたけどさ」

シンジ「なんというか、うん。今回はほんとうに、ガッカリした」

アスカ「……」





アスカ「うぅっ」グスンッ

レイ(いけない、泣いてしまう)
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:52:56.70 ID:oKc73eVLO
レイ「碇くん、待って」チョンチョン

シンジ「? どうしたの、綾波?」

レイ「……碇くんは、誤解しているわ」

シンジ「何を?」

レイ「セカンドに、悪気はなかったの」

シンジ「?」

レイ「……ただ、碇くんをショッピングに誘いたかっただけ」


アスカ「ーーっ!」ハッ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:54:37.67 ID:oKc73eVLO
シンジ「……そんなわけないじゃないか。さっきまでのやりとり聞いてただろ? 荷物持ちの件はあくまでアスカの妥協。数あるわがままの一つだよ」

レイ「違うわ。あれは【ドア・イン・ザ・フェイス】と言って……ムグッ!?」

アスカ「ちょっとこっち来なさい」

レイ「ん〜〜〜〜っ!」

シンジ「えっ、ちょ。どこに行くんだよ二人ともっ」



トウジ「おいおい。綾波のやつ、犬も食わへん夫婦喧嘩に飛び込みおったで」

ヒカリ「アスカ、大丈夫かな」

ケンスケ「……妙だな」
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:55:54.85 ID:oKc73eVLO


ーー廊下

レイ「……プハッ」

アスカ「……どういうつもり?」

レイ「? 質問の意味がよく、わからないわ」

アスカ「だから、どうして口を挟んで来たのよ」

レイ「……あなた、泣きそうだったから」

アスカ「泣くわけないでしょ。あの程度で泣かされてたら私は常時号泣よ」

レイ「……そう。普段から苦労してるのね」

アスカ「そ、そういう意味じゃないっ!」

レイ「ではどういう意味?」

アスカ「ぐっ……」
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:57:24.27 ID:oKc73eVLO
アスカ「……そもそも、違うから」

レイ「?」

アスカ「私は別に、バカシンジをショッピングに誘うつもりなんてなかったから」

レイ「……でも、【ドア・イン・ザ・フェイス】で碇くんを誘導しようとしていたわ」

アスカ「あれは偶然よ! ぐ・う・ぜ・ん! たまたまそういう段階を踏んじゃっただけで、別に狙ってやったわけじゃないの!」

レイ「……そう。でも【ドア・イン・ザ・フェイス】の意味は分かるのね」

アスカ「わ、分かるからって何だっていうのよっ!?」
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 17:59:15.75 ID:oKc73eVLO
レイ「碇くん、怒っていたわ」

アスカ「……ええ、そうね。らしくもなくキレちゃってさ。ああいう根暗ほど一度キレたら歯止めが効かなくなって、気持ち悪い醜態さらすのよね」

レイ「なぜ、誤解を解こうとしないの?」

アスカ「……誤解なんてないわよ。わたしは【ドア・イン・ザ・フェイス】なんか狙ってないし」

レイ「なぜ、認めようとしないの? あなたのやろうとしたことを、きちんと碇くんに伝えれば、きっと分かってくれるわ。彼、優しいもの」

アスカ「………」ピクッ

レイ「?」

アスカ「ーー仮に。仮によ。私が【ドア・イン・ザ・フェイス】を使ってバカシンジをショッピングに誘おうとしていたとして」

アスカ「『あなたに買い物に付き合って欲しくて回りくどいテクニックを使っていたんですぅ〜』だなんて正面きって言えると思う?」

レイ「……言ったら、いけないの? ほんとうのことでしょう?」

アスカ「……忘れてた。アンタもアンタでバカなんだっけ」
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:01:19.16 ID:oKc73eVLO
レイ「バカ……わたしが?」

アスカ「そうよ。そういってんの」

レイ「なぜ?」

アスカ「もう少し人の心の機微について勉強しなさいなってこと」

レイ「……心の勉強なら、してるわ。だからこそ、あなたの狙いに気付けたのだから」

アスカ「いや、だからそういうことじゃなくて……あー、もうしゃらくさい」

アスカ「要するにっ。あんたのしようとしたことはただのありがた迷惑なのっ! 気持ちは嬉しいけど、もうやめてよねっ! でもありがとうっ! それじゃっ!」プイッ

レイ「あっ……」

レイ(行ってしまった)
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:02:24.97 ID:oKc73eVLO
レイ「……」

レイ(セカンドは【ドア・イン・ザ・フェイス】を使って、碇くんをショッピングに誘おうとしたーーそこに間違いはないはず)

レイ(なのになぜ、隠そうとするの?)

レイ(なぜ、彼女は怒ったの?)

レイ(人の心の機微って……なに?)

レイ「……よく、わからないわ」

綾波レイ。
肉体年齢14歳。
しかし彼女はわけあって直近5年ほどの記憶しか有しておらず、実質的な精神年齢は5歳相当に過ぎない。
その上人間社会で生活を送るようになったのはおよそ2年前ーー他人と積極的に関わるようになった期間に至っては半年に満たないのだ。
そんなハンデキャップを抱える彼女に、『心の機微』を理解しろというのは土台無茶な話であり、むしろよく健闘しているといえるだろう!

ケンスケ「簡単だよ。あれはただの照れ隠しさ」
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:03:48.77 ID:oKc73eVLO
レイ「あなたは……」

ケンスケ「同じクラスの相田だよ。覚えてないかな?」

レイ「……知ってるわ。碇くんの友達。でも、何故ここに?」

ケンスケ「そんなことどうでもいいじゃないか。それより、心の機微が知りたいんだろう? さっきも言ったけど。ただの照れ隠しだよ、あんなもの」

レイ「照れ、隠し……?」
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:05:19.76 ID:oKc73eVLO
ケンスケ「そうそう。ツンデレって言っても伝わらないだろうからね。本当は素直になりたいけど、恥ずかしいから素直になれない。そんな心理状態を照れ隠しっていうの」

レイ「……なるほど。その気持ちなら、分からなくもないわ」

ケンスケ「意外だね。綾波さんなら、そういうのも分からないって答えるかと思ってた」

レイ「私も、面と向かって言うには恥ずかしい言葉を……手紙に書いたことが、あるから」

ケンスケ「……ふうん? ま、いいや。ともかくさ、ここで肝心なのは”本当は素直になりたい”って部分なんだよね」

レイ「素直に、なりたい? ……つまり、セカンドは本当は素直に碇くんをショッピングに誘いたいってこと?」

ケンスケ「そうさ。それが出来ないから回りくどい手段に頼ったってわけ」

レイ「……ああ、だから彼女は怒ったのね。私は、彼女が隠そうとした気持ちを、暴こうとしただけ。……余計なことを、してしまったわ」シュン


ケンスケ「……」



ケンスケ「いや、そんなことはないと思うよ?」ニヤッ
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:07:26.63 ID:oKc73eVLO
レイ「どういう、こと?」

ケンスケ「言ったろ? 本音は碇をショッピングに誘いたかったんだ、って。
 それを代わりに綾波さんが伝えてくれたんだ。向こうだって感謝してるに決まってる」

レイ「……でも、彼女は怒っていたわ」

ケンスケ「それこそ照れ隠しさ。あんなのは前フリだよ。ツンデレにありがちだね。怒ったふりしてほんとは綾波さんに感謝してんの。ありがとうって言ってたろ?
 だから言葉を額面通りに捉えちゃダメだよ。あれは次も私を助けてねって意味だから」

レイ「前フリ? ツンデレ? ……よく、わからないけど。また同じような場面に出くわしたら、私はさっきと同じように口を挟むべきなの?」

ケンスケ「ああ、そうさ。照れ隠しを真に受けちゃいけない。隙があったらガンガンフォローに行くべきだ。ガンガンね」

レイ「……あなた、優しい人だったのね」

ケンスケ「そんなことないよ。僕はただ、あの二人にもっと仲良くなって欲しいだけなんだ」ニコッ

嘘である。
この男、レイを利用して日頃の鬱憤を晴らすことしか考えていないっ!
ケンスケとて、アスカが”本気で”レイの口出しを”嫌がっている”ことを理解している。
分かった上で、レイに誤ったアドバイスを伝えているのだ!

教室で日々繰り広げられる夫婦漫才がごときやり取り。
彼女が出来た途端付き合いの悪くなった親友。
女子と縁のない自分。

ーーケンスケのストレスは、今や趣味で発散できないほどに膨れあがっていたっ!
故に。
彼はこの際、シンジ・アスカ両名を徹底的にからかい倒すことを決意していたのだ!

ケンスケ(ーーだからリア充はみんな、爆発すればいいんだ)
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:10:54.12 ID:oKc73eVLO


ーー教室・昼休み

アスカ「……シンジ」

シンジ「なんだよ」ムスッ

アスカ「さっきは、その……言いすぎたわ。悪かったわね」

シンジ「えっ」

謝罪。
それはすなわち、自分の立場を相手より低い位置に置くということを意味している。
とりわけプライドの高いアスカにとって謝罪のハードルは高く、さながら断崖絶壁を駆け上るが如き難易度を誇るっ。

しかしっ。

一度その峠を越えさえすればーーアスカの”謝罪”は”不意打ち”に昇華するっ!
断崖絶壁からの奇襲っ!
一の谷の合戦にも匹敵する意外性っ!

結果ーー謝られ、優位を手にしたはずのシンジの方が戸惑うこととなるっ!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:12:10.08 ID:oKc73eVLO
シンジ「や、やめてよアスカ。僕は別に、気にしてなんかないんだから」

アスカ「私の気が済まないのよ」

シンジ「い、いや。アスカこそ気にすることなんかないよ。……むしろ僕の方が言い過ぎたくらいだったし。こっちこそ、さっきはごめん」

アスカ「……ほんとに?」

シンジ「え?」

アスカ「本当に申し訳ないって思ってる?」

シンジ「う、うん」



アスカ「いいわ、許したげる。その代わりに私のわがまま一つきいてもらうわよ」

シンジ「……はい?」
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:13:05.95 ID:oKc73eVLO
アスカ「まっ、私にも非があるから。特別に二択のうち好きな方を選ばせてやってもいいわ」

シンジ「え、いや、でもそれはーー」


アスカ「選択肢1.今日が終わるまで私の言うことに絶対服従する」

アスカ「選択肢2.やっぱり放課後は私の荷物持ちに付き合う」


シンジ「ちょ、待ーー」

アスカ「さあ、好きな方を選んでいいわよ」



シンジ「……じゃあ、選択肢1で」

レイ「!」
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:14:26.88 ID:oKc73eVLO
レイ(……これは【ダブル・バインド】ね)

【ダブル・バインド】

別名 不自由な二択。
アメリカの文化人類学者『グレゴリー・ベイトソン』が研究し生み出した概念っ!
いっけん相手に選択権を与えているようで、相手がどちらを選んでも自分の利になる二択に誘導するテクニックであるっ!
アスカはシンジが動揺している隙をみごとに突いてみせたのだっ!
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:15:46.18 ID:oKc73eVLO
アスカ「……へぇ。そんなに私の荷物持ちするの、嫌なんだ」

シンジ「だって今日は用事があることになってるし……」

アスカ「……ま、いいわ。じゃあ、まずは一つ目の命令」

アスカ「今日の放課後、荷物持ちに付き合いなさい」

シンジ「えぇっ!?」
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:16:24.19 ID:oKc73eVLO
アスカ「あんたが選んだんじゃない、私に絶対服従するんでしょ?」

シンジ「無理だよっ。放課後は訓練があるって言ってるじゃないかっ!」

アスカ「そんなの私の知ったことじゃないわよ」

シンジ「なんだよそれっ!?」
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:18:13.92 ID:oKc73eVLO
シンジ「……酷いよ、アスカ」

アスカ「なにが」

シンジ「さっきアスカから謝ってくれた時、じつは嬉しかったんだ」

シンジ「アスカがああいうことを素直に口にすることなんて、滅多にないし」

シンジ「だからちょっとぐらいのわがままなら聞こうと思った」

アスカ「……」

シンジ「でも結局はこうやって僕をからかうためのものでしかなかったんだね」

アスカ「……別に、私はそんなつもりじゃ」

シンジ「関係ないよっ」

シンジ「アスカは僕の気持ちを裏切ったんだっ」

シンジ「誰がアスカの荷物持ちなんかするもんかっ。もう絶対に許さないからね!」

アスカ「はあっ!?」

ーー『何いきなり逆ギレしてんのよあんた!』と言わんばかりの表情だが、シンジの怒りはもっともである。

ダブル・バインドを行う際に最も気をつけなければならないのは、”相手に不公平感を与えない”ことっ!
その点、アスカの二択はあまりに理不尽!
露骨に不公平!
どう足掻いても荷物持ちっ!

話がこじれるのは必然である



レイ「待って、碇くん」
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:20:36.80 ID:oKc73eVLO
シンジ「綾波?」

レイ「……碇くんは、また誤解している」

シンジ「僕が、誤解?」

レイ「ええ」

シンジ「どういうこと?」

レイ「今のは【ダブルバインド】といって、相手に二者択一を迫ることで自分の都合のいい要求を通すテクニックなの。つまりセカンドはただ碇くんをショッピングに誘いたーームグッ」

アスカ「……はい。廊下行きましょ、廊下」

レイ「ん〜〜っ!」ズルズル

シンジ「な、なんなんだよ。二人してっ!?」
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:21:32.43 ID:oKc73eVLO


アスカ「……さっき口出すなって言ったわよね?」

レイ「よく分からなかったわ」

アスカ「じゃあもう一度、はっきり言っておく」

アスカ「口 を 挟 ま な い で ね」

アスカ「いい、分かった?」

レイ「分かったわ」
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:22:39.29 ID:oKc73eVLO


アスカ「ねぇ、バカシンジ」

シンジ「……なに」

アスカ「あんたってさ。出る釘打たれるのを嫌がるっていうの? 平々凡々を望むっていうの? なんていうか、ほんと特徴がなくてつっまんないやつよね」

シンジ「……なんなんだよ、いきなり。また悪口を言いに来たの?」

アスカ「被害妄想もはなはだしいわねぇ。ただの世間話じゃない。あんたって普通に固執しすぎよねってハナシよ」

シンジ「……いいじゃないか、普通で。普通を目指してなにが悪いんだよ」

アスカ「でもふつーの中学生ってさ。一度や二度は非行をやらかすものじゃない? ズル休みしたり、授業バックれたり」

シンジ「……それもそうかもね」

アスカ「なら訓練ぐらいサボってもいいんじゃない?」

シンジ「またその話ぶり返すの?」

アスカ「あんたがピリついてるからでしょ。わたし、そういうギスギスした空気はさっさとどうにかしたいタイプなの。停滞と後退は同義なんだから」

シンジ「……僕だって。ギスギスしてるのは、嫌だよ」

アスカ「じゃ、ちゃっちゃとどうにかしちゃいましょ。いいじゃない、一日くらいサボったって」

シンジ「…………ごめん。でも僕は訓練をサボる気にはなれないや」

シンジ「アスカもさ。今日くらい僕をこき使うの、諦めてよ」

レイ「違うわ、碇くん」

シンジ「こんどはどうしたの、綾波?」

レイ「今のは【ポジティブフレーミング】といって、交渉が解決に向かっていることをアピールすることで要求を通しやすくするためのテクニックなの。あと【一般化】も使っているわ。つまりセカンドはただあなたと買い物にーームグッ」

アスカ「もっかい廊下行きましょうか?」
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:23:48.78 ID:oKc73eVLO


アスカ「口出すなって言ったじゃん」

レイ「ごめんなさい」

アスカ「あんたも分かったって頷いてたじゃん」

レイ「つい」

アスカ「つい、じゃないわよ。何考えてんの」

レイ「次は気をつける」

アスカ「……絶対よ? 絶対だからね?」

レイ「分かってるわ」
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:25:55.51 ID:oKc73eVLO


アスカ「ねぇ、バカシンジ」

シンジ「……今度はなに?」

アスカ「エヴァを上手く操る方法ってなんだと思う?」

シンジ「なんでそんなこと聞くの?」

アスカ「いいから、答えて」

シンジ「シンクロ率をあげる、とか?」

アスカ「じゃあシンクロ率をあげるにはどうしたらいいと思う?」

シンジ「……分からないよ。トレーニングをたくさんこなせばいいんじゃないかな」

アスカ「違う。正解は精神を安定させること」

シンジ「精神を、安定……?」

アスカ「そ。エヴァを操るA10神経が、幸福や快感をつかさどることくらいは知ってるでしょ? シンクロ率をあげるにはね、A10神経を活性化させればいいの」

シンジ「A10神経を活性化……? もっと幸せを感じろってこと?」

アスカ「そう。ほんとうに強くなりたいならね、トレーニングなんてせせこましぃーことをするより、楽しい日常を謳歌するべきなのよ。例えば荷物持ちとか、荷物持ちとかね!」

シンジ「……じゃあなんでアスカは訓練をサボらないの?」

アスカ「そ、それは大人の面子を立ててやってるだけよっ」

シンジ「……へぇ。アスカは僕を出し抜いて、自分だけ訓練を積むつもりなんだね。そんなに一番になりたいんだ?」

アスカ「はぁ!? なんでそうなるのよ、あんたバカぁ!?」

シンジ「悪いけど、その手には乗らないよ」


レイ「待って、碇くん」
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:26:48.41 ID:oKc73eVLO
シンジ「どうしたの、綾波?」

レイ「今のは初歩的な【合理化】よ。つまるところ彼女はただ碇くんとーームグッ」

アスカ「廊下、来い」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:28:00.27 ID:oKc73eVLO


アスカ「おいゴラ、ファースト」

レイ「……碇くん、どうして理解してくれないのかしら」

アスカ「まずはアンタがこっちの言いぶん理解しろや」

レイ「……もう何度も、繰り返し同じことを言ってるのに」

アスカ「こっちも同じ注意を繰り返してるんだけど?」

レイ「どうすれば碇くんは聞く耳を持ってくれるのかしら」

アスカ「どうすればファーストさんのお耳に私の言葉が届くのかしらねぇ?」イライラ

レイ「? ちゃんと、届いてるけど?」キョトン

アスカ「…………オーケー。もう口挟んでくんじゃないわよ。次やったらマジでキレるから。これ、最後通牒だから」

レイ「分かったわ」
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:29:39.36 ID:oKc73eVLO


ヒカリ「あの……碇くん? アスカ、ヘコんでたわよ。よかったらショッピングに付き合ってあげてもーー」

シンジ「……どうせアスカにそういえって頼まれたんでしょ?」

ヒカリ「そ、そんなことないわよ」

シンジ「……アスカとヒソヒソ話してたの、見てたよ。今度は委員長と二人して僕をからかうつもりなんだっ」

レイ「違うわ、碇くん。これは【ウィンザー効果】と言って他人越しに情報をつたえてもらうことで説得力をーームグッ」

アスカ「廊下来なさい」
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:30:37.27 ID:oKc73eVLO


アスカ「だぁーかぁーらぁーーっ!」

アスカ「口挟んで来んなって言ってんでしょおっ!?」

レイ「分かったわ」

アスカ「あんたそう言って分かってないじゃないっ」

レイ「いえ、分かってるわ」

アスカ「嘘つけぇ!」

アスカ「あんたもしかして反抗期ぃ!? 私の言葉に逆らいたいだけだったりするぅ!?」

ーー惜しい
当たらずも遠からずであるっ!

『照れ隠しは思っていることと、正反対の言葉を口にする』

ケンスケから誤ったアドバイスを受けたレイの脳内ではアスカの言葉はおおむねこのように変換されていたっ!

『も う 口 を 挟 ま な い で ね』



『ま た 助 け て ね』


レイ「大丈夫よ、ちゃんと分かってるから」

アスカ「ほんとでしょうねぇ!?」
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:32:20.38 ID:oKc73eVLO


アスカ「ねぇ、シンジ。さっきの話なんだけど」

シンジ「やだ。アスカが何言おうが僕は荷物持ちなんかしないよ」

レイ「待って、碇君。そうやって嫌なことからーームグッ」

アスカ「廊下ね」



アスカ「ねぇ、シンジ」

シンジ「やだ」

レイ「待って、碇くん。彼女はただーームグッ」

アスカ「廊下」



アスカ「……」

シンジ「……」

レイ「碇くん。荷物持ちの件だけどーームグッ」

アスカ「ろうかぁっ!」
35 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:34:16.49 ID:oKc73eVLO


アスカ「だから何のつもりよっ! 何回私の邪魔すれば気がすむのよ!! なんなのよっ! もおおおお!」

レイ「見て、られなくて……」

アスカ「あんたのせいでバカシンジ如きに誘いをことごとく断られた感じになっちゃったじゃないっ! 別に誘ったわけじゃないけどっ。バカシンジなんか誘いたくもないけどっ!!」

レイ「……私が口を挟まなくても、碇くんはあなたの誘いをぜんぶ断ってたと思うわ」

アスカ「うっさいうっさいうっさい! ホントのことでも、言っていいことと悪いことがあるでしょおっ!?」

レイ「ごめんなさい……」

アスカ「ほんとお願いだからっ! もう何でもするからっ! 次こそ口出してくんのやめてよおっ!」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:35:46.00 ID:oKc73eVLO
アスカ「……って。どのみちもう昼休みも終わりじゃないっ」

レイ「……一つ、聞かせてもらってもいいかしら?」

アスカ「何よっ。もうなんでも答えてやるわよ。ちくしょうっ」

レイ「どうして、素直に碇くんを誘わないの?」

アスカ「っ! だから、それはっーー」

レイ「ごめんなさい。あなたがこのことを口にしたくないのは、私にも分かってる」

レイ「でもやっぱり納得できなくて……」

レイ「……だから。あなたの本音が、知りたいの」ジッ

アスカ「……」




アスカ「はぁ。しっかたないわね」

レイ「!」
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:38:43.96 ID:oKc73eVLO
アスカ「……いい?」

アスカ「仮にあんたの言う通りに、バカシンジをストレートに買い物に誘ってみたとする」

アスカ「でも考えてみなさいな、もしそんなことしようものならーー」



シンジ『……へぇ、アスカはただ僕とショッピングに行きたかったんだ』

シンジ『それであんなにも回りくどいことをしてたんだね』

シンジ『でもそれってつまりさあ。僕のことが好きってわけじゃない?』ニヤァ

シンジ『僕のことが好きで好きでたまらないから、あれだけ手の込んだ真似をしてたんだよねえ?』ニヤニヤ



シンジ『……お可愛いんだね』ニタァ




アスカ「ーーって言われちゃうじゃない!」

レイ「えっ」
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:40:10.46 ID:oKc73eVLO
アスカ「この私がバカシンジごときに見下されるわけには行かないの。つまりこれは矜持の問題ね、分かった?」

レイ「……いえ。さっぱり」

アスカ「はあ!? どうしてよ!?」

レイ「……だって碇くんはそんなこと言わないもの」

アスカ「そんなの分からないでしょっ。言うかもしれないじゃないっ!」

レイ「……碇くんは他人を見下すような人じゃないわ」
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:41:03.78 ID:oKc73eVLO
アスカ「 あんたバカァ!? 人間は誰しも自他の優劣を測りながら生きてんのっ!」

レイ「?」

アスカ「よーするに他人を見下さない人間なんて存在しないってことよっ。親子だろうが恋人だろうが、本質的には動物どうしの原始的な接触の延長でーー」

レイ「???」

アスカ「ーーかくかくしかじか、ってことなの。分かった!?」

レイ「いえ、さっぱり」
40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:43:52.32 ID:oKc73eVLO
レイ「あなたが何にムキになっているのか、私には理解できない」

レイ「でも、このままだと碇くんを怒らせたままだわ」

アスカ「……構やしないわよ、そんなの」

レイ「ダメよ」

アスカ「なんであんたが決めるのよ」

レイ「だってポカポカしないもの」

アスカ「あのねぇ……」

レイ「……」ジィィ

アスカ「……」

レイ「……」ジィィ

アスカ「……はぁ」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:44:48.04 ID:oKc73eVLO
アスカ「……そもそも私はね、バカシンジが意地を張り続けるならそれはそれで構わないのよ」

レイ「嘘ね」

アスカ「ほんとだっての」

アスカ「私がムキになってんのはね、単にバカシンジごときに逆らわれるのが気にくわないだけ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

アスカ「あんたがヤキモキする必要なんてないの」

レイ「でも」

アスカ「デモもストライキもないっ」

レイ「……それでも私は、あなたと碇くんにポカポカしてもらいたいわ」
42 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:45:45.66 ID:oKc73eVLO
アスカ「……前から思ってたんだけど。あんたのその、ポカポカするってどういう意味?」

レイ「私にも、よく分からない」

レイ「ただ、碇くんやあなたといるとポカポカするの。だから、あなたたちにも同じようにポカポカして欲しい。それだけ」

アスカ「……」
43 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:46:30.68 ID:oKc73eVLO
アスカ「……っとに。アンタって、つくづくウルトラ馬鹿ね。自分が何口走ってるのか分かってんの?」

レイ「?」

アスカ「……ま、いいか」

アスカ「あんたの盛大な取り越し苦労に免じて」

アスカ「あとでいっぺんだけバカシンジにストレートでかましてみるわ」

レイ「!」

アスカ「じゃ、さきに教室戻ってるから。あんたも授業に遅れないようにしなさいよ」

スタスタ

レイ「……よかった」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:48:22.93 ID:oKc73eVLO
ーー放課後・教室

シンジ「……」

アスカ「……」


ーー廊下

レイ(……空気が重いわ)
45 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 18:59:47.62 ID:oKc73eVLO
アスカ「……ねぇ、ばかシンジ」

シンジ「やだよ」

アスカ「まだ何も言ってないじゃない」

シンジ「どうせ荷物持ちに付き合えっていうんでしょ? でも僕には用事があるから」

アスカ「そういう割には悠長に居残ってんのね?」

シンジ「……時間の微調整だよ。ちょっと時間を潰してるだけ」

アスカ「あっそ」

シンジ「……」

アスカ「……」


レイ(ああっ、また……) オロオロ
46 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:04:03.07 ID:oKc73eVLO
アスカ「……今日は悪かったわね、色々と」ボソッ

シンジ「……どうせそれも嘘なんでしょ。二度も同じ手は喰わないよ」

アスカ「…………けっ」


レイ(違うわ。間違っているわ、碇くん……) ハラハラ
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:07:00.84 ID:oKc73eVLO
レイ(このままじゃ……二人のギスギスが深まるだけ……)

レイ(私は碇くんとセカンドに、ポカポカしてもらいたかったのに……)

レイ(どうしよう)

レイ「……」

レイ(心の機微。ほんのわずかな心の揺らめき。言語化し辛い微妙な心理。時には本人すら自覚できない、心の在り方)

レイ「…………わたしには、難しすぎたのね」

レイ(でもこうなったら、私が直接二人の間に割って入るしかーー)グッ


「ちょっと待った」


レイ「! あなたは……」
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:07:50.54 ID:oKc73eVLO
アスカ「嘘、ねぇ。あんたがそう思うなら別にいいけど」

シンジ「でも、嘘なんでしょ? ……アスカが僕に謝るはずがないんだ」

アスカ「さて、どうだか。……そうね。なら今度は宣言してあげる。『今からわたしは嘘をいう』」

シンジ「……なに言いだすんだよ、アスカ。さきに宣言したら嘘つく意味がないじゃないか」
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:08:20.81 ID:oKc73eVLO
アスカ「いいから、聞きなさいよ」

アスカ「わたし、今日はあんたに『荷物持ちに付き合ってほしい』って言ったじゃない?」

シンジ「うん、たしかに言ってたね」

アスカ「あれ、じつは嘘よ」

シンジ「……え?」

アスカ「ほんとはただ単に、あんたと一緒に買い物に行きたかっただけなの」

アスカ「荷物持ちなんてのは、ただの口実だから」

シンジ「!?」
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:12:22.25 ID:oKc73eVLO
シンジ「え、いや、その……嘘、なんだよね?」

アスカ「ええ、最初から言ってるでしょ? 『嘘』だって」

シンジ「ど、どっちなの?」

シンジ「『荷物持ちに付き合って欲しい』って言葉が『嘘』で、僕と買い物に行きたかったって言葉が本当なのか」

シンジ「それとも『僕と買い物に行きたかった』って言葉のほうが『嘘』なのか」

シンジ「分からないよ」


アスカ「……さあ。それくらい自分で考えたら?」
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:19:18.63 ID:oKc73eVLO
アスカ「ま、私から言いたいことはそれだけ」

シンジ「……」

アスカ「もう帰るわ」

シンジ「……」

アスカ「精々訓練で醜態晒さないように気張んなさい。あんた底なしのバカなんだから。……それじゃ」

シンジ「……待ってよ、アスカ」
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:19:54.37 ID:oKc73eVLO
アスカ「なに?」

シンジ「その……今日は用事が入ってるから、無理だけど」

シンジ「良かったら明日、させてくれないかな。荷物持ち」


アスカ「!」
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:20:33.14 ID:oKc73eVLO
アスカ「……あらあら。私の嘘を真に受けてそんなこと口にするなんて。シンちゃんったらバカみたいにお優しいのねぇ?」

シンジ「別に、アスカの言葉は関係ないよ。僕がやりたいと思ったから言ってみただけ」

アスカ「な、なに言ってんのよ。きょうび荷物持ちなんてやりたがるヤツがいるわけないでしょっ。
 はんっ、ほんとはこの私とショッピングにいきたいだけなんじゃないの?」

シンジ「そうだね。『荷物持ちをしたい』って部分は『嘘』だよ」

アスカ「!?」
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/23(木) 19:28:20.84 ID:oKc73eVLO
アスカ「わ、私を騙くらかして惑わそうたってそうはいかないんだから」

シンジ「別にアスカを騙すつもりなんてないけど」

アスカ「……じゃあ嘘って、どっちの意味よっ」

シンジ「さあ。それくらい自分で考えたらいいと思うよ?」

アスカ「っ……このバカシンジ!! なにしょうもない屁理屈こねてんのよっ!」

シンジ「……お互い様じゃないか」
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