千歌「白球を追いかけろ!!」2

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:52:13.81 ID:HGd5x8Sk0
田山「……」


千歌(狙いはきっと変化球)

梨子(初球はストレートで勝負)シュッ


 ストライク!


千歌「よしっ」

千歌(次はストライクからボールになるカーブ)


 ボール!


梨子(集中してるわね)
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:52:48.16 ID:HGd5x8Sk0
千歌(次の球、ストライクが欲しい――)

梨子(フォーク、ストライクゾーンに)


千歌(立波さんに打たれた記憶はある)

千歌(でもしっかり狙いをつけられていなかったら、簡単には打たれないはずだよ)


 シュッ


田山(フォーク!?)キンッ

 ファール!
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:53:17.92 ID:HGd5x8Sk0
千歌(次もフォーク? いやたぶん読まれてる)

千歌(このカウントだと余裕があるから、それでもいいけど――)


梨子「えっ」

梨子(ちょっと待って、それは1番危ない)フルフル


千歌(大丈夫、私を信じて)

千歌(今の梨子ちゃんなら大丈夫だよ)スッ


梨子(……分かった、信じるわ)コクッ
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 02:53:52.83 ID:HGd5x8Sk0
梨子(思い切り腕を振って、高めに――ストレート!)シュッ


田山「っ」キンッ


果南「打ち上げた」

曜「キャッチャー――千歌ちゃん!」


千歌「オーライ!」

千歌(落ち着いて、ちゃんと練習通り捕球)

 パシッ


 アウト!



【試合終了】 Aqours9−7A-RISE
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:10:06.89 ID:HGd5x8Sk0
 ―試合後・宿舎―


千歌「はぁ、疲れた……」

ダイヤ「千歌さん、お疲れ様です」

千歌「ダイヤさん」


ダイヤ「曜さんを知りませんか?」

千歌「曜ちゃんなら、善子ちゃんと一緒に会議中です」

千歌「やっぱり試合中、違和感があったみたいなんで」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:10:36.97 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「違和感――怪我ではないのですね」

千歌「はい」

ダイヤ「違和感……」


ダイヤ「試合中、明らかに様子はおかしかったですが」

千歌「ですよね……」

ダイヤ「突然の乱調、何があったんでしょうか」

千歌「怪我でないなら、やっぱり精神面」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:11:06.90 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「東洋戦の影響は否定できませんね」

ダイヤ「しかし、このまま乱調が続くようだと……」

千歌「曜ちゃんのことだから立て直してくれる、と思いたいです」

ダイヤ「そうですね、楽観視はできませんが」

千歌「……」


ダイヤ「次の試合は曜さんが先発」

ダイヤ「何事も、起こらないといいのですが」
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:11:31.72 ID:HGd5x8Sk0
千歌「私、ちょっと様子を見てきます」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「……」


鞠莉「ダイヤ」

ダイヤ「鞠莉さん、どうでした」

鞠莉「……駄目ね」

ダイヤ「そうですか……」


ダイヤ(それに、問題は試合だけではない)
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:32:14.64 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・曜の部屋―


曜「ふわぁ、いいねぇ」

善子「次、左側ね」

曜「ほいほい――んー、いいよぉ」


善子「変な演技臭いのはいらないわよ」

善子「見事に大根役者だし」

曜「あれ、そう?」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:32:54.00 ID:HGd5x8Sk0
曜「せっかくマッサージしてもらってるから、雰囲気出そうとしたんだけど」

善子「いらないわ、その雰囲気は」

曜「ノリ悪いな〜」


善子「今は真剣なのよ」

善子「大切な旦那の身体を触ってるんだから」

曜「えー、津島流マッサージ術とか言ってたのに」

善子「それも含めて真剣なの、私は」

曜「うむ、分かってるよ」
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:33:34.92 ID:HGd5x8Sk0
善子「――はい、終わったわよ」

曜「ありがとー」

善子「うん、とりあえず身体に異常はなさそうね」

曜「そりゃよかった、怪我だったら大会アウトだったかもだし」


善子「だけど、原因が分からないという意味でもあるわ」

曜「それなんだよねぇ」

善子「曜さん、心当たりはないの?」

曜「……まあ、あるっちゃある」
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:34:00.32 ID:HGd5x8Sk0
善子「東洋戦?」

曜「うん、そうだね」

曜「あそこで滅多打ちにされてから、感覚が少し狂ってる」

善子「イップス、ではないわよね」

曜「……違うとは、思いたい」


善子「一応、催眠術やっとく?」

曜「あはは、考えとく」

善子「まあ、曜さんには効かなそうよね」
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:34:33.89 ID:HGd5x8Sk0
曜「2回戦の先発は私」

曜「迷惑をかけるかもしれないけど、頼りにしてるよ」

善子「え、ええ」


曜「それじゃあ、私は部屋に戻るね」

曜「疲れたから、そろそろ休むよ」

善子「わ、分かった」

曜「そうだ、戻る前に――ハグッ」ギュッ


善子「それ、試合中もやってたわよね」

曜「落ち着くんだよ、人に抱き着くと不思議と」
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:35:03.20 ID:HGd5x8Sk0
善子「曜さん……」

善子(また、震えてる)

善子(今はもう、試合中じゃないのに)


曜「……私ね、怖いんだ」

曜「打たれるイメージが、頭から離れない」

曜「投げられない自分の姿を想像しちゃう」

曜「段々、マウンドに立つのが怖くなってる」

善子「……」
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:35:31.97 ID:HGd5x8Sk0
曜「ごめんね、変なところを見せて」パッ

曜「今のことは、忘れて」


善子「……大丈夫よ」

曜「善子ちゃん?」

善子「私が助けてあげる、支えてあげる」

善子「だから、怖がらないで」


曜「……ありがとう、善子ちゃん」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:36:07.82 ID:HGd5x8Sk0
 ―夏季全国大会・二回戦―


千歌(今日は初回から幸先よく4点を先制)

千歌(曜ちゃんも完璧なピッチング、その後も追加点を重ねて、4回表まで6−0とリードしていたのに――)


 ボールフォア!


曜「……」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:37:20.20 ID:HGd5x8Sk0
↑修正


 ―夏季全国大会・2回戦―


千歌(今日は初回から幸先よく4点を先制)

千歌(曜ちゃんも完璧なピッチング、その後も追加点を重ねて、4回表まで6−0とリードしていたのに――)


 ボールフォア!


曜「……」

善子「曜さん!」

曜「……どうしよう、また入らなくなった」


千歌(この回、初めて出した四球)

千歌(そこから突然崩れ出して、さらに2連続四球)

千歌(さらに2点タイムリー、そしてまた四球で満塁)


曜「感覚がおかしいんだ。ストライクが入らない」

曜「カーブをきちんと投げられる感覚がない」

善子「ワイルドピッチの連続、置きにいくストレートを狙い撃ちされて……」

千歌(いくら曜ちゃんでも、全国上位クラスの相手には、抜いたストレートだけじゃ打たれる)
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:38:07.30 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「その、もう限界、かな」

曜「……ごめん、そうかも」

千歌「梨子ちゃんに代わる?」

曜「うん」


善子「曜さん……」

曜「ごめんね善子ちゃん。君は悪くないから気にしないで」

善子「……うん」

千歌「……」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:38:34.82 ID:HGd5x8Sk0
 ―試合後・宿舎―


善子母「……」


果南「あっ、コーチ」

善子母「松浦さん、久しぶりね」

果南「どうしたんですか、こんなところに」

善子母「呼び出されたのよ、あなたのお友達たちに」

果南「ああ、鞠莉とダイヤに」
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:39:40.77 ID:HGd5x8Sk0
善子母「私に用、おそらくは渡辺さんのことでしょうけど」

果南「ああ……」


善子母「あんなに分かりやすく、調子を崩した姿を見るのは初めてよ」

果南「ですよね、波はある方でしたけど」

善子母「このままだとマズい、それは確かね」

善子母「この大会中、調子を取り戻せないと、桜内さんは3戦連続1人で投げ切らなければならなくなる」

善子母「線の細い彼女に、炎天下の中でそれはなかなか酷でしょう」

219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:40:33.44 ID:HGd5x8Sk0
果南「本当は、私が投げられればいいんですけど」

善子母「……そうね」


善子母「もし私が監督で、渡辺さんが今後投げられないと仮定したら、次の試合はあなたを先発で使う」

果南「私を?」

善子母「優勝する、それが唯一の目標ならね」

善子母「スタミナのない桜内さんだけでは、最後まで持たないでしょう」

果南「それは……」


善子母「まあ、参考にしておいて」

善子母「最後の大会、あなたたち3年は気合も違うでしょう。それなりに通用はするはずよ」

果南「……ですね」
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:41:00.45 ID:HGd5x8Sk0
善子母「ところで、渡辺さんは?」

果南「曜なら、部屋にこもっちゃったみたいで」


善子母「試合には勝ってるし、自分でも打ってるんだから、気にすることないのに」

果南「完璧主義者なんですよ、あの子は」

善子母「ああ。そういえば松浦さんも渡辺さん、高海さんと幼馴染だったわね」

果南「そうです。だから姉貴分として、助けてあげたい部分もあって」

善子母「それならなおさら、あなたが先発かしらね」

果南「うーん、本気で考えて――」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:41:26.80 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「ごめんなさい、遅くなって」

ダイヤ「お待たせしました」


果南「鞠莉、ダイヤ!」

善子母「遅かったわね」

ダイヤ「……申し訳ありません。少し、手間取ってしまって」

果南「なにかあったの?」

鞠莉「…………」

果南「鞠莉?」

ダイヤ「それは、後で話します」

果南「そう?」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:42:03.20 ID:HGd5x8Sk0
善子母「今、待っている間にね、明日の先発について話していたの」

果南「そうそう。コーチは私が投げるのがいいんじゃないかって」

ダイヤ「果南さんが、先発?」

果南「うん」

善子母「優勝するためには、ここで桜内さんを休ませるべきだという提言よ」

果南「どうかな」

ダイヤ「それは……」


鞠莉「……いいと思うわよ――思い出作りの為にも」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:42:31.17 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「ま、鞠莉さん」

善子母「思い出作り?」

果南「何を言ってるの?」

鞠莉「そのままの意味よ」

果南「いや、それじゃあ――」


ダイヤ「……果南さん」

果南「ダイヤ?」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:42:59.57 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「話さなければならないことが、あります」

果南「えっ」

ダイヤ「コーチに来ていただいたのも、それを聞いていただく為」

コーチ「……」

果南「ちょっと待って、それは――」


鞠莉「お願いだから、最後まで、聞いて」

ダイヤ「先ほど、私たちは一つの決定を告げられました」

善子母「……」


鞠莉「……浦の星女学院は、正式に、沼津の高校との統廃合が、決まりました」
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:43:35.34 ID:HGd5x8Sk0
果南「統廃合、決定」

ダイヤ「鞠莉さんのお父様から、報告がありました」


果南「そんな、大会中に、なんで」

ダイヤ「一時的に生徒が増えても、継続は現実的ではないという判断です」

果南「いやでも、こんなタイミングで」

鞠莉「これでも、頑張って伸ばしてもらっていたほうなの」

果南「鞠莉……」


鞠莉「本当は、私が戻ってきた時点。ううん、この4月には、廃校はほぼ決まっていた」

鞠莉「それでもあきらめきれずに、無駄にあがこうとして、失敗して」

鞠莉「ごめんね。変な期待を持たせて」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:44:03.92 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「もう優勝する必要もないの。この後は、ただの消化試合」

果南「だからって、そんな!」


鞠莉「ごめん、果南」

果南「鞠莉……」

鞠莉「ごめんなさい。頑張ったけど、もうどうしようもないの」

ダイヤ「鞠莉さん……」

鞠莉「ごめんなさい、ごめんなさい……」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:44:29.74 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「あなたのせいではありません。だから、自分を責めないで」

鞠莉「……」


ダイヤ「鞠莉さんは、よく頑張りました。それは私がよく知ってます」

ダイヤ「元はといえば、内浦に残りながら何もできなかった私の責任です」

鞠莉「……そんなこと」


ダイヤ「……果南さん、鞠莉さんをお願いできますか」

果南「あ、ああ、うん――行こう、鞠莉」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:44:56.15 ID:HGd5x8Sk0
善子母「……あなたも、大変ね」

ダイヤ「慣れています、この立場は」

善子母「大人の前でぐらい、弱音を吐いてもいいわよ」

ダイヤ「気持ちはありがたいですが……」


善子母「……他の子たちには、話すの?」

ダイヤ「……どうすれば、いいのでしょうか」

ダイヤ「コーチは、どう思いますか?」
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:45:27.25 ID:HGd5x8Sk0
善子母「間違いなく、知れば動揺は広がるわね」

善子母「少なくとも、次は試合どころではなくなる」

善子母「あの様子だと、小原さんはもう厳しそうだけど……」

ダイヤ「……」


善子母「……個人的な意見としては、話すべきよ」

善子母「外部から聞くより、信頼できる人間――特にあなたから聞く方が、ダメージは小さいはずだから」

ダイヤ「そうですね……」

善子母「だけど、無理なくね」

善子母「あなただって、まだ高校生なんだから」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:45:55.24 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・曜の部屋―


曜「うーん」

梨子「曜ちゃん、どうしたの」

梨子「ビデオとにらめっこなんて、珍しいね」


曜「ちょっと、変化球を勉強」

梨子「変化球?」
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:46:33.30 ID:HGd5x8Sk0
曜「1つでいいから、今から使える球を投げられないかなって」

曜「カーブもスライダーも、全然駄目そうだし」


梨子「短期間には、難しいんじゃないかな」

梨子「今投げられるのも、割と基本的な二つだよね」

曜「そうなんだよね〜」


曜「過去にチェンジアップとか、練習したことはあるけど、全然だめだったし」

梨子「無理しないのが一番じゃないかな」

梨子「カーブの調子が戻れば、きっと十分だよ」

曜「だけどこの大会中に、それは難しいし……」

梨子「新しい変化球を覚える方が、大変な気もするけど」

曜「まあね……」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 03:47:01.03 ID:HGd5x8Sk0
曜「……でもさ、梨子ちゃん」

梨子「ん?」


曜「一応、握り教えてくれない。今投げられる球の」

曜「復調のヒントぐらいには、なるかもしれない」

梨子「……分かった、いいよ」

曜「ごめんね」

梨子「ううん、私もいつもみんなに助けてもらってるから、これぐらいはね」

曜「うん、ありがとう」
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:06:00.18 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎内―


千歌「あれ、果南ちゃん」

果南「あっ、千歌」


千歌「どうしたの、元気ないね」

果南「いや、別に……」

千歌「もしかして今日は練習できないとか?」

千歌「もう大丈夫だよ、捕球はできるようになったし――」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:06:28.92 ID:HGd5x8Sk0
果南(どうしよう、誤魔化す?)

果南(でも嘘をつくのは、気が引けるな)

果南(ひとまず、廃校のことだけは隠して)


果南「次の試合さ、私が先発するかもしれないんだ」

千歌「果南ちゃんが?」

果南「ほら、曜は難しそうだし、梨子の3連投も避けたいからさ」

千歌「ああ、そっか」
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:06:55.75 ID:HGd5x8Sk0
千歌「それで緊張してるんだね」

果南「うん、まあそんな感じ」


千歌「ちょっと練習する? 付き合うよ」

果南「いや、大丈夫」

果南「千歌と練習していたおかげで、ある程度投げ込めてはいるし」

千歌「そう?」

果南「私に気にせず、千歌は休みなよ」

果南「ちゃん寝ないと、この時期は持たないよ」

千歌「う、うん」


果南「じゃあね千歌、おやすみ」

千歌「おやすみ……」


千歌(果南ちゃん?)
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:07:28.40 ID:HGd5x8Sk0
 ―準々決勝当日・ロッカー


ダイヤ「それでは、先発の果南さん、しっかりお願いしますね」

果南「うん」


千歌「よーし、じゃあ行こう!」

曜「おー!」

ダイヤ「……」


ダイヤ(結局、廃校のことは言いだせないまま)

ダイヤ(何かの冗談ではないか、もしかしたら覆るのではないか)

ダイヤ(そんな希望を持って、そして……)
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:07:54.29 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ(いや、違いますね)

ダイヤ(結局、私の弱さ)

ダイヤ(皆に発覚して、動揺が走ることを恐れてる)


ダイヤ(どうしてこんなことになったんでしょうか)

ダイヤ(隠し通せるわけがないのに)

ダイヤ(情けない、これでまとめ役気取りなんて)

ダイヤ(しかし、弱音は吐けない)


鞠莉「……」


ダイヤ(少なくとも、鞠莉さんの分まで、私が――)
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:08:21.80 ID:HGd5x8Sk0
『あっ、出てきた!』
『頑張れー!』
『私たちがついてるよ!』


ルビィ「ピギッ!?」

千歌「えっ、な、なにこれ」

曜「お客さん、いっぱいだね」

梨子「相手の応援? だけど――」


『浦女〜!』
『頑張って沼津の星!』


善子「どう考えても、私たちの方ね」

花丸「ずら」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:08:57.40 ID:HGd5x8Sk0
千歌「だ、だけど、どうして」

梨子「準々決勝だから? だけど音ノ木坂の試合でも、こんな満員には……」

曜「そうだよね――んっ、なんか弾幕を掲げている人が?」


【廃校決定でも有終の美を】

【最後まで駆け抜けろ!】


千歌「廃校――」

曜「決定?」

ダイヤ「あっ……」
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:09:24.88 ID:HGd5x8Sk0
善子「ちょ、ちょっと待って! 廃校決定って……」

ルビィ「ど、どういうこと?」

花丸「き、聞いてないずら」


千歌「ド、ドッキリとかじゃないよね?」

曜「ダイヤさん、なにか知ってます?」

ダイヤ「それは、その……」


ダイヤ(ああ、なんてことでしょう)

ダイヤ(もう、世間に広まっていたなんて)

ダイヤ(ひとまず、ここは誤魔化さないと)
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:09:54.26 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「……おそらく、廃校の可能性があるという情報が、歪んで世間へ伝わったのでしょう」

ダイヤ「どこが発信したのか、早めに抗議しなくては……」


ルビィ「そ、そうだよね、ビックリしたぁ」

花丸「安心したね、ルビィちゃん」

善子「まったく、人騒がせな」


果南「ダイヤ……」

鞠莉「……」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:10:22.34 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「とにかく、目の前の試合に集中していきましょう」

ダイヤ「詳細については試合後、きちんと調べて報告しますから」


ダイヤ(卑怯な女)

ダイヤ(だけど、ここはこうするしかない)

ダイヤ(あとでどれだけ罵られても構わない)

ダイヤ(だから今は、嘘をつくことを許してください)
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:10:59.15 ID:HGd5x8Sk0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 準々決勝〕

【浦の星女学院『Aqours』(後攻)VS 公園高校『あしも☆えーる』(先攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:ニ・ルビィ
2:中・善子
3:遊・曜
4:投・果南
5:捕・鞠莉
6:三・千歌
7:左・ダイヤ
8:右・梨子
9:一・花丸


あしも☆えーる

1:遊・中之島
2:中・東川
3:左・近畿
4:一・ショー
5:三・寿司
6:二・田井
7:右・太田
8:捕・志水
9:投・ドーシー
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:12:00.95 ID:HGd5x8Sk0
【1回表】 Aqours0−0あしも☆えーる


『1番ショート中之島さん』


果南(鞠莉は今のところ、何とかプレーはできそう)

果南(だけどいつもみたいな捕球は期待できない)

果南(だからとにかく、ランナーを出さないこと)


果南(出したら最後)

果南(私のノーコンと乱れた精神状態の鞠莉)

果南(バッテリーエラーが止まらなくなるのは目に見えてる)
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:12:26.72 ID:HGd5x8Sk0
果南(だけど……)


中之島「……」


果南(小さな)

果南(150cmもない? 正直、投げにくい)シュッ


 ボール

 ボール 

 ボール


果南(先頭でこれは、凄く嫌だ)

果南(くそっ)シュッ


 ボールフォア!
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:12:53.69 ID:HGd5x8Sk0
果南「あぁ……」

果南(これだから、私は)


曜「果南ちゃん、ドンマイ!」

果南「うん」


『2番センター東川さん』

果南(とにかく、これ以上はランナーを出さないように)

果南(ストライクゾーンに投げ込まないと!)シュッ


 キンッ!
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:13:20.55 ID:HGd5x8Sk0
果南(打たれた――けどサード)


千歌「あっ」ポロッ

果南「げっ」

曜「どっちか――無理か」

ルビィ「1・2塁……」


千歌「ご、ごめん」

果南「ドンマイドンマイ」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:13:46.97 ID:HGd5x8Sk0
『3番レフト近畿さん』


果南(この人はバットコントロールに優れた選手)

果南(三振は、期待できない)

果南(それならゲッツー、は難しいかな)シュッ


 キンッ


果南(転がった!)

果南「ショート!」
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:14:12.90 ID:HGd5x8Sk0
曜「ルビィちゃん!」パシッ――シュッ

ルビィ「わっ」パシッ


 アウト!


ルビィ「え、えい!」シュッ

花丸「そ、逸れたずら!」パシッ


 セーフ!


ルビィ「あ、あわわ」

果南「る、ルビィまで……」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:15:22.25 ID:HGd5x8Sk0
果南(マズイ、みんな動揺してる)

果南(どうしても、疑念を拭いきれてない)

果南(廃校問題の方に気を取られて、集中しきれてない)


果南(リーダーで責任感の強い千歌は駄目。精神的に脆い1年生も同様)

果南(鞠莉は相変わらずだし、ダイヤも予想外の展開で揺らいでいる)

果南(比較的まともそうなのは、良くも悪くもドライな曜と、転校生で比較的地元への思い入れが少ない梨子だけ)



『4番ファーストショーさん』


果南(とにかく、私が抑えないと)

果南(これでも三振は取れる方なんだ、なんとか――)シュッ
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:15:49.31 ID:HGd5x8Sk0
ショー「しゃっ!」カキ―――――――ン!!!


果南「あっ」

ダイヤ「これは、追うだけ無駄ですわね……」


曜「スリーランホームラン、か」


果南「くそっ」


果南(駄目だ、球に力がない)

果南(動揺しているのは、私もか)

果南(落ち着かないと、なんとか落ち着かないと……)
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:16:36.97 ID:HGd5x8Sk0
【5回裏】 Aqours0−6あしも☆えーる


 バッターアウト!


果南「くそっ」


千歌「ドーシーさん、打てないね……」

曜「制球は滅茶苦茶だけど、球の威力は凄い」

梨子「みんな焦ってる所為で、ボール球に手を出して凡退している……」

善子「なによもう、試合前はスマホばっかり弄ってたのに!」

ルビィ「あの人、Twitter中毒で有名な人だから……」

花丸「だけど、鞠莉ちゃんなら――」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:17:05.76 ID:HGd5x8Sk0
 バッターアウト!


善子「あっさり見逃し三球三振……」

ルビィ「うゅ……」

鞠莉「……」


ダイヤ「鞠莉さん、今のは流石に……」

鞠莉「……いいでしょ」

ダイヤ「いや、しかし」

鞠莉「廃校になるんだから、もういいでしょ!」

ダイヤ「鞠莉さん……」
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:17:55.61 ID:HGd5x8Sk0
花丸「廃校?」

ルビィ「今の言い方だと、もしかして、本当に」

善子「わ、分からないでしょ」

善子「ただ打てなくてイライラしてるだけ、かも……」


果南「鞠莉……」

果南(最悪だ……)

果南(もうこれは、どうしようも――)
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:18:29.13 ID:HGd5x8Sk0
曜「ねえ、果南ちゃん」

果南「曜?」


曜「やっぱり、廃校は決まったの?」

果南「それは……」

曜「……分かるよ、3年生の反応をみる限り」

果南「……ごめん」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:18:59.48 ID:HGd5x8Sk0
曜「……私は嫌だな」

果南「曜?」


曜「廃校になるのは辛い」

曜「私だって地元っ子だし、思い出もたくさんある、大好きな学校」

曜「だけどさ、それは負けていい理由にはならないよね」

曜「私は勝ちたい。どんな状況でも」

曜「負けるより、勝つ方が嬉しい」


曜「ねえ、鞠莉ちゃん」

曜「鞠莉ちゃんはさ、負けたいの?」

鞠莉「それは……」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:19:26.54 ID:HGd5x8Sk0
曜「梨子ちゃんは、勝ちたいよね」

梨子「ええ」

曜「1年生のみんなも」

ルビィ「う、うん」

花丸「もちろん」

善子「当たり前でしょ!」


曜「果南ちゃんだって、同じだよね」

果南「それは、もちろん」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:19:58.20 ID:HGd5x8Sk0
曜「だったら、今は集中しよう」

曜「余計なことは考えずに、試合に勝つことだけを考えて、進もう」

曜「本来の力を出せれば、私たちならここから十分に逆転できる」

果南「曜……」


 ボールフォア!

千歌「よしっ」


曜「今、千歌ちゃんがやったまま」

曜「しっかり見極めて対処すれば、私たちなら崩すのは難しくない投手」

曜「とにかく諦めないで、食らいついていこう」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:20:29.96 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「でも、私は……」


『7番レフト黒澤ダイヤさん』


曜「……ねえ、鞠莉ちゃん」

曜「ここで負けたら、ダイヤさんはどうなるかな」

曜「きっと、責任を感じるよね」

鞠莉「……でしょうね」

曜「それに、優勝をするという条件で野球をすることを許してもらえたんだ」

曜「もし、それを叶えられなかったら」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:21:06.96 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……煽るわね」

曜「そうかな」

鞠莉「先輩への経緯はないのかしら」

曜「勝ちたいんだよ、それだけ」


 カキ―――ン


ルビィ「あっ、お姉ちゃん打った!」


曜「ほら、ダイヤさんも諦めてない」

曜「きっと鞠莉ちゃんと同じぐらい、動揺しているはずなのに」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:21:33.57 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……そうね」

果南「鞠莉」


鞠莉「ごめんなさい。確かに私は集中できていなかった」

鞠莉「試合後、みんなにちゃんと詳しいこと、なにが起こったかは話す」

鞠莉「私も余計なことを考えるのは止める」


鞠莉「だから今は、集中しましょう」

鞠莉「まず勝って、先へ進みましょう」

曜「――うん!」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:21:59.20 ID:HGd5x8Sk0
『8番ライト桜内さん』


梨子(無事、解決したみたいね)

梨子(さて、そうなるとあとは――逆転を目指すのみ!)


 カキ――ン!


果南「センター前ヒット!」

鞠莉「梨子!」

曜「ナイス梨子ちゃん!」

善子「満塁よ!」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:22:27.44 ID:HGd5x8Sk0
『9番ファースト国木田さん』


ルビィ「マルちゃん、お願い」

花丸「うん」


花丸(この人は元々制球に難がある)

花丸(打てなくても、手を出さずに見極めれば――)


 ボールフォア!


花丸「よしっ、押し出し」

千歌「これで1点!」

花丸「ルビィちゃん、続いて!」

ルビィ「うん!」
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:23:05.83 ID:HGd5x8Sk0
『1番セカンド黒澤ルビィさん』


ドーシー「くそっ」イライラ


ルビィ(動揺してる)

ルビィ(とにかく見極め、甘く入った球だけを――)


ルビィ「叩く!」カキ――ン!


千歌「右中間抜けた!」

果南「ツーベース! 2塁ランナーまで帰ってきて、もう2点!」
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:23:32.25 ID:HGd5x8Sk0
善子(3点差……)

曜「善子ちゃん、この流れに乗るよ!」

善子「ええ!」


『2番センター津島さん』


善子(一発出れば同点)

善子(公式戦初ホームランは、チームを救う一打)

善子(ふっ、私に相応しい――)


 ドスッ
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:24:00.30 ID:HGd5x8Sk0
千歌「よーし、また満塁!」

梨子「善子ちゃん、よくやったわ!」


曜「善子ちゃん、大丈夫?」

善子「え、ええ……」

善子(……今は個人よりチームよ)


善子「曜さん、私をホームまで導いてよ」

曜「任せて!」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:24:28.69 ID:HGd5x8Sk0
『3番ショート渡辺さん』


曜(ホームランで逆転)

曜(だけど私はここまで2打席凡退)

曜(一発を狙うより、もっと確実な結果を)


 カキ――ン!


千歌「左中間だ!」

梨子「大きいわよ!」


 ドンッ


千歌「フェン直!」

梨子「花丸ちゃん、ルビィちゃんは帰ってきて――」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:24:57.57 ID:HGd5x8Sk0
善子(私は――)

むつ「善子ちゃん行ける!」

善子(よしっ)ダッ


花丸「ずらっ!?」

ルビィ「3塁回った!」


善子(間に合うでしょ!)ズザッ

志水「ちっ」パシッ


 セーフ!
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:25:27.78 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「や、やった!」

花丸「同点ずら!」


善子「ふぅ……」

善子(あ、危なかった)

善子(コーチャーのむつさんが迷わず回してくれたから、何とか間に合ったわね)


果南「善子! ナイスラン!」ハグ

善子「か、果南さん」

果南「私も続くよ!」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:26:13.84 ID:HGd5x8Sk0
曜(おっ、良い光景)

曜(割と距離のあった3年と1年なのに)


むつ「曜、ナイスラン」

曜「ん」

むつ「さりげなく3塁まできたのは流石だね」

曜「あはは、敵も味方も、みんなホームしか見てなかったからさ」

曜「むっちゃんもナイス判断、流石だよ」

むつ「まあね」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:26:41.89 ID:HGd5x8Sk0
『4番ピッチャー松浦さん』


果南(この人は制球がアバウトなんだ)

果南(1球ぐらい、甘い球だって)


 ドスッ


果南「いてっ……」

果南(甘くはないか、うん)


ルビィ「で、デッドボール」

花丸「痛そうずら……」

善子「ねえ、なんか私の時と反応が違くない?」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:27:09.02 ID:HGd5x8Sk0
花丸「だって善子ちゃんの場合、悲惨過ぎてもう笑うしかないし……」

ルビィ「うゅ……」

善子「言わないでよ!」

善子「というかどうしよう。今の死球、ハグして私の悪運が移った所為かも……」

花丸「それは気にし過ぎずら」


よしみ「大丈夫ですか?」

果南「うん、へーき」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:27:35.04 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「果南……」

果南「鞠莉、逆転打は任せたよ」

鞠莉「……」コクリ


『5番キャッチャー小原さん』


鞠莉(みんな、強いわね)

鞠莉(私は弱い、いつも年上のお姉さんぶってるくせに)


鞠莉(……やっぱり、野球はいいな)

鞠莉(みんなで助け合える、1つのチームとして支え合える)


鞠莉(廃校は、阻止できなかった)

鞠莉(だけど戻ってきて、この素敵なチームメイトたちと野球ができた)

鞠莉(それだけで、十分幸せ――)


 カキ――――ン!
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:30:51.42 ID:HGd5x8Sk0
 ―準々決勝後・宿舎、千歌の部屋―


千歌(試合は、見事に勝利)

千歌(鞠莉ちゃんの豪快な一打で逆転)

千歌(その後は果南ちゃんをリリーフした梨子ちゃんが相手打線を見事に抑え込んだ)


千歌(困難な状況の中、みんなの力で掴んだ、会心の勝利)

千歌(試合後、他の事は忘れて、大はしゃぎだったな)
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:31:22.53 ID:HGd5x8Sk0
千歌(そして、宿舎に戻ってから)

千歌(鞠莉ちゃんとダイヤさんから説明された)

千歌(正式に廃校が決まったということを)


千歌(みんな、動揺は少なかった)

千歌(試合前の雰囲気、3年生の様子……、覚悟はできていたから)

千歌(ルビィちゃんは少し泣いてたけど、結果的にみんな試合で吹っ切れたおかげで、傷は浅く済んだかもしれない)


千歌(だけど、私は)
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:32:15.35 ID:HGd5x8Sk0
千歌(……喉乾いた、何か買いに行こうかな)ガチャ

千歌(みんな、どうしてるんだろ)

千歌(今日は各自、気持ちの整理をするために部屋で休んで、明日の朝にミーティング)

千歌(ルビィちゃんは花丸ちゃんが付き添ってくれて、あとは)


『違うかな』

『そっちの方が現実的じゃない?』

『リリーが言うなら、まあ』


千歌「ロビーの方から、声?」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:32:41.89 ID:HGd5x8Sk0
千歌「誰かいるの?」


梨子「千歌ちゃん」

千歌「梨子ちゃん?」


善子「あら」

曜「どうしたの?」

千歌「曜ちゃん、善子ちゃんも」

千歌(3人だと、珍しい組み合わせ?)
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:33:37.50 ID:HGd5x8Sk0
千歌「なにやってるの?」

曜「DVDデッキ借りてさ、ビデオ観てるの」

曜「例の変化球について、梨子ちゃんとか、聖良さんとか、参考になるところはないかなって」


千歌「諦めてなかったんだ」

曜「諦めの悪さは私の取り柄の1つだから」

千歌「……凄いね、あんな話を聞いた直後に」


梨子「……千歌ちゃん、大丈夫?」

千歌「どうして?」

梨子「少し、様子がおかしかったから」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:34:21.35 ID:HGd5x8Sk0
千歌「……まあね」

曜「やっぱり、ショックだった?」

千歌「うん」


千歌「私は、廃校を阻止するためにまた野球を始めた」

千歌「3人でもう一度野球をやるという目的も持っていた3年生」

千歌「純粋に勝利を目指している他のみんなとも違う」

千歌「廃校阻止は、私の原動力そのもので」

千歌「だから、その目的がなくなって、どうしたらいいか分からないんだ」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:35:03.27 ID:HGd5x8Sk0
善子「大切な先輩――ダイヤの為じゃ、駄目なの?」

千歌「それでも、いいんだけど」

千歌「どうしても、ぽっかり穴が開いて」

千歌「前みたいに、勝ちに対するこだわりが薄れてきちゃう、そんな気がして」


曜「いいんじゃないかな」

千歌「曜ちゃん?」

曜「千歌ちゃんは野球が好きでしょ」

千歌「それは、もちろん」


曜「好きだから、ただ野球を出来れば満足。以前の私はそれに反抗した」

曜「だけど、今の千歌ちゃんは昔とは違う」

曜「きっと今なら、大丈夫」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:35:56.50 ID:HGd5x8Sk0
善子「そうよ」

善子「たとえば今日、曜さんがみんなに渇を入れてるときに、1人打席でボールに喰らいついて、四球を奪った」

善子「あの姿は、あの場にいた誰よりも勝利への執念を感じたわ」


千歌「いや、あの時は夢中で」

曜「そんなことないよ」

曜「廃校になると分かっていても、大量点差で負けていても、最後まであきらめようとしなかった」

曜「それは千歌ちゃんが本気で勝ちたいと思っていたから」

曜「以前とは違う何かが、千歌ちゃんの中に芽生えたから」

千歌「曜ちゃん……」

梨子「自信を持って、千歌ちゃんならできるよ」

千歌「……うん!」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:37:05.59 ID:HGd5x8Sk0
梨子「曜ちゃんはどうして浦の星で野球をやってるんだっけ」

曜「もちろん、千歌ちゃんと一緒に野球をするため」

梨子「ふふっ、正直ね」


善子「ちなみに私は、野球を極める為――」

梨子「あっ、善子ちゃんはいいわ」

善子「なんでよ!」



千歌「梨子ちゃんは」

梨子「最初は、大好きな野球を続けて、音ノ木坂の人たちを見返す為」

梨子「だけど、今はみんなと優勝する、それが一番の目的」
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:37:32.88 ID:HGd5x8Sk0
曜「でも、音ノ木坂に勝ちたい気持ちは、変わってないんでしょ」

梨子「もちろん」


千歌「じゃあ、勝とう」

善子「まずは音ノ木坂、その次の聖泉女子」

曜「絶対に負けない」


千歌「最後まで、私たちで駆け抜けよう」

梨子「ええ!」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:38:08.48 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・ルビィの部屋―


花丸「……落ち着いた?」

ルビィ「うん」

花丸「そっか、よかった」


ルビィ「ごめんね、また迷惑かけて」

花丸「いいんだよ」

花丸「マルはルビィちゃんの力になれるのが、嬉しいから」

ルビィ「ありがと、マルちゃん」
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:38:35.78 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「廃校、なんだよね」

花丸「……うん」

ルビィ「お姉ちゃんたち、どうしてるかな」

花丸「……大丈夫、みんな強い人たちずら」


ルビィ「……本当は、3年生には廃校なんて関係ない問題のはずなんだ」

花丸「そうだね、今年で卒業なんだから」

ルビィ「それなのに、お姉ちゃんも、鞠莉ちゃんも、果南ちゃんも」

ルビィ「廃校を阻止するために、ルビィ達のために、本当に頑張ってくれて」


ルビィ「だから、辛かった」

ルビィ「みんなの悲しそうな顔を見るのも、自分が何もできなかったのも」

花丸「……」
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:39:14.25 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「あと、2試合だね」

花丸「うん」


花丸「Aqoursとしては、冬の大会までは活動できる」

ルビィ「だけどお姉ちゃんは、最後の大会」

ルビィ「鞠莉ちゃんだって、きっとアメリカに戻る」

ルビィ「それに、もしかしたら他にも離脱するメンバーはいるかもしれない」

花丸「少なくとも、このメンバーでできるのは最後」

ルビィ「うん」


ルビィ「だから、私は最後まで進みたい」

ルビィ「絶対に、勝ちたい」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:54:23.35 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・鞠莉の部屋―


鞠莉「全部、伝えたわね」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「とてもいい子たち」

ダイヤ「私は彼女たちを欺いていたも同然だというのに、責めることもなく、むしろ励ましてくれて」

果南「いい仲間だよね」

鞠莉「うん、本当に――」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:54:59.23 ID:HGd5x8Sk0
果南「鞠莉」

ダイヤ「鞠莉さん」

鞠莉「……もう、いいわよね」

鞠莉「もう、我慢しなくても」


ダイヤ「……ええ」

果南「……頑張ったね、鞠莉」

ダイヤ「私たちの前では、無理をしないで」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:55:37.77 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……私ね、自分が子どもだって思い知らされた」

鞠莉「現実的に、無理だと分かっている」

鞠莉「口ではそう言っても、心のどこかでは本気で考えていた」

鞠莉「自分だったら、廃校を阻止できる」

鞠莉「認めたくない現実を、変えることができると」


鞠莉「本当に、恥ずかしい。馬鹿みたい」

鞠莉「ただの世間知らずのお嬢様の我が儘」

鞠莉「みんなに迷惑をかけて、ダイヤや果南を巻き込んで」

290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:56:06.95 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そんなことは」

果南「そうだよ――」


鞠莉「だけどね、我が儘を言って、よかった」

鞠莉「2人とまた野球ができて、大切な仲間が9人も増えて」

鞠莉「素敵なライバルたちとも出会えて、本当に、楽しくて、輝いていて」


鞠莉「そんな風に考えているのは、私だけなのかな」

鞠莉「みんなにはやっぱり、迷惑だったかな」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:57:07.62 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そんなこと、ありません」

ダイヤ「私も同じ考え」

ダイヤ「きっかけを作ってくれた鞠莉さんに感謝することはあっても、恨むなんてあり得ません」


果南「そうだよ」

果南「私だって、野球は諦めていたのに」

果南「野球部ができたおかげでうちの店に資金的な余裕までできて、感謝しかない」


果南「それに1番は、鞠莉と一緒に野球をできたこと」

果南「それは私とダイヤが、何よりも、ずっと望んでいたことだよ」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:57:33.81 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……2人とも」

果南「あと、2戦」

ダイヤ「私たちが共にプレーできる、試合」


果南「鞠莉は、大会が終わったらアメリカに帰るんだよね」

鞠莉「ええ、廃校が阻止できなかった時点で、それは決定よ」

果南「ダイヤは野球ができないし、来年には受験で東京」

ダイヤ「はい」

果南「私がここに残ったとしても、3人バラバラだね」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:58:03.67 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「残酷よね、せっかく再会できたのに」

果南「きっともう、一緒にプレーすることはない」

ダイヤ「だからこそ、最後に思い出を作りましょう」

ダイヤ「永遠に消えない輝きを持った、最高の思い出を」

鞠莉「ええ」

果南「そうだね」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:58:47.85 ID:HGd5x8Sk0
 ―準決勝当日―


【浦の星女学院、廃校決定】


鞠莉「……」

千歌「正式に、通知も来たね」


ダイヤ「……勝ちましょう」

ダイヤ「勝って、私たちの名を、浦の星女学院の名を、Aqoursの名を、歴史に刻み込むのです」


全員「「「おー!」」」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:59:26.52 ID:HGd5x8Sk0
『浦の星〜!』

『頑張れ!』

『音ノ木坂なんか敵じゃないぞ!』


ここあ「うわぁ、完全アウェー」

板本「一応私ら、地元なのにな」


こころ「仕方ないでしょう。廃校寸前の母校を救うために結成された野球部」

こころ「しかもナインには、世代のヒーロー的存在の渡辺曜や、挫折から立ち直り音ノ木坂への恩返しを誓うかつての天才、桜内梨子がいる」

こころ「廃校決定というニュースが流れた今、大衆の心理は彼女たちを支える方へ向くのは自然なこと」

こころ「ただでさえ、人は弱者が強者を飲み込むカタルシスを味わうことを期待するのです」

こころ「絶対王者は即ち、絶対的なヒールでもある」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 04:59:54.89 ID:HGd5x8Sk0
笠野「今日の先発は桜内か」

板山「梨子が、先発ね」


ここあ「えー、曜の球を打ちたかったのに〜」

こころ「最近調子を崩していましたからね」

こころ「連投とはいえ、仕方なかったんでしょう」


こころ「気を引き締めていきますよ」

こころ「この前におこなわれた第1試合の結果、決勝はあの鹿角聖良擁する聖泉女子」

こころ「ここは通過点ではありますが、気を抜かずに、叩き潰します」

板本「ああ」

ここあ「もちろん!」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 05:00:33.19 ID:HGd5x8Sk0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 準決勝〕

【浦の星女学院『Aqours』(先攻)VS 音ノ木坂学院『μ's』(後攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:ニ・ルビィ
2:中・善子
3:遊・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:捕・千歌
7:左・ダイヤ
8:投・梨子
9:一・花丸

μ’s

1:中・長崎    
2:捕・矢澤こころ 
3:遊・板本    
4:一・岡野    
5:左・ぺゲロ   
6:三・村田    
7:投・矢澤ここあ 
8:ニ・吉田    
9:右・立本    
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/05/19(日) 05:01:00.25 ID:HGd5x8Sk0
【1回表】 Aqours0−0μ's


『1番セカンド黒澤ルビィさん』


ルビィ「お、お願いしましゅ」


 プレイボール!


千歌「ルビィちゃん、顔面蒼白だったよ」

梨子「流石に準決勝になるとプレッシャーが段違いだもんね」

花丸「でも今のルビィちゃんなら――」


 バッターアウト!


ダイヤ「あっさり3球三振ですわね」

花丸「ずら……」
309.99 KB Speed:0.3   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)