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美也「志保ちゃん、一緒に頑張りましょうね〜」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/24(水) 20:00:32.37 ID:9sBQSelB0
私は代行です
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1556103631
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:03:18.94 ID:AEVT7W6Z0
代行ありがとうございます。投下していきます。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:04:49.60 ID:AEVT7W6Z0
とある日、劇場
志保「おはようございます」
美也「おはようございます〜、志保ちゃん」
志保「美也さん……? もしかして、美也さんもプロデューサーさんに呼ばれたんですか?」
美也「はい〜。ということは、志保ちゃんもそうなんですか〜?」
志保「ええ、まぁ……。何か、用件は聞いていますか?
私はただ、話があるからってこの時間に呼び出されただけですけど」
美也「私も、志保ちゃんと同じですよ〜。どうして呼ばれたのかは、まだ聞いてないんです〜」
志保「そうでしたか。じゃあ、まずはプロデューサーさんが来ないと……」
P「おっ、二人とも来てるな。おはよう、美也、志保」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:06:34.92 ID:AEVT7W6Z0
美也「プロデューサーさん、おはようございます〜」
志保「おはようございます。呼ばれたのは私たちだけですか?」
P「ああ、今日呼んだのは美也と志保の二人だけだよ。
というわけで、早速本題に入ってもいいか?」
志保「もちろんです。お願いします」
P「よし、じゃあ早速……。実は今度の劇場公演で、二人に一曲頼もうと思ってるんだ」
美也「なんと、そうでしたか〜」
志保「今度の劇場公演……。それって確か、『ダンス』をメインテーマにした公演でしたよね」
P「ああ、その通りだ。だから他のステージは、真や響、それに歩や麗花たちのような、
ダンスが得意なアイドルが出演することになってる」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:10:20.59 ID:AEVT7W6Z0
美也「お〜。それはとっても素敵なステージになりそうですな〜」
志保「……」
P「と、いうわけでだ。どうだ、二人とも。引き受けてくれるか?」
美也「はい〜。私は、出てみたいです〜。志保ちゃんはどうですか〜?」
志保「……出ます。やらせてください」
P「二人ならそう言ってくれると思ったよ。それじゃ、頼んだぞ!
担当してもらう曲とダンスの振り付けはこのディスクに入ってるから、早速ここで見ていくといい。
見終わったら、レッスンを始めててくれ。もうレッスンルームは押さえてあるから」
志保「わかりました」
美也「ありがとうございます〜。志保ちゃん、一緒に頑張りましょうね〜」
P「俺はもう今から別の仕事があって今日は付き添えないけど、
くれぐれも張り切りすぎて初日から飛ばし過ぎないようにな!」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:11:27.70 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
志保「……」
プロデューサーさんが出て行ったあと、私と美也さんはすぐにダンスの映像を見た。
そしてその内容は、私の予想を大きく外しはしなかった。
予想通りの……難しいダンス。
再生を終え、更衣室でトレーニングウェアに着替えている今でも、あのダンス映像が頭から離れない。
……いや、一度見ただけの映像を頭にずっと残すことができるのなら、私はもっとダンスが得意なはずだ。
正確には、「難しい」という印象だけを映したおぼろげな映像が、繰り返し繰り返し頭の中で流れていた。
と、そんな繰り返し流れる映像に、声が割り込んできた。
美也「志保ちゃん、志保ちゃん」
顔を向けると、同じくトレーニングウェアに着替えようとしている美也さんが居た。
けれど、少し心配そうな表情を浮かべている。
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:12:45.75 ID:AEVT7W6Z0
志保「なんですか、美也さん。どうかしましたか?」
美也「いえ、志保ちゃんがなんだか、しかめっ面になっていたので……。
もしかして、お腹が痛いんでしょうか〜……」
言われて初めて、自分が険しい表情をしていたことに気が付いた。
けれど仕方のないことだ。
あのダンスを踊りこなさなくてはならないと考えれば、表情も険しくなる。
志保「大丈夫です。お腹は痛くないので、心配しないてください」
美也「そうでしたか〜。なら、良かったです〜。
でも、それならどうして、しかめっ面になっているんでしょう〜」
志保「……美也さんも、さっき私たちが担当する曲の振り付け、見ましたよね」
美也「はい〜。とっても、かっこよかったですね〜」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:14:51.07 ID:AEVT7W6Z0
『かっこよかった』……それだけ?
美也さんからは、まったく焦りや緊張感を感じない。
私はまだこの人のことをよく知らないけれど……。
もしかしたら、普段の印象とは違って、本当はダンスが得意なんだろうか……?
志保「その……。美也さんは、もしかしてダンスは得意な方ですか?」
美也「いいえ、あまり得意な方ではないと思います〜。
振り付けを覚えていても、体が付いていかないことが多くて……」
……普段の印象どおりだった。
つまりこの人はただ、緊張感が無いだけなんだ。
それでは困る。
だって、私たちにとってこの仕事は、きっと……。
志保「美也さん、もっと真剣になってください。
私は、プロデューサーさんが私たちにこの仕事を任せたのは、一種の試験のようなものだと思ってます」
美也「試験?」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:15:33.26 ID:AEVT7W6Z0
志保「美也さんも私も、ダンスはあまり得意な方じゃありません。
そんな私たちに、プロデューサーさんは敢えてこの仕事を……。
ダンスをテーマにしたステージを与えたんです。
ただ公演を成功させるだけなら、もっと他に適役が居たはずなのに」
美也「ふむふむ……。つまりプロデューサーさんは、
ダンスが苦手な私たちが、もっとダンスが上手になれるように、
このお仕事をくれた、ということですね〜?」
志保「まぁ……そういう言い方もできますね」
美也「なるほど〜。そこまで考えられていただなんて、さすがはプロデューサーさんですな〜」
志保「……本当に分かってるんですか?
そんなのんきなことを言ってる場合じゃありません。
美也さんも、今回のダンスがとても難しいものであることは分かっているはずです。
本当に、本当に全力を尽くさないと、公演に間に合わないことだってあるかも知れないんですよ」
美也「そうですね〜。私も、とても難しいダンスだと思います〜」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:16:48.59 ID:AEVT7W6Z0
美也「でも、きっと大丈夫ですよ〜。頑張れば、ちゃんと公演には間に合いますよ〜」
志保「……」
美也さんは、まったく変わらない、のんきな声と表情でそう言った。
……これ以上話しても、時間の無駄だ。
志保「私、先に行ってレッスンを始めてますから。美也さんも早く着替えてください」
美也「お〜、志保ちゃん、早いですな〜。それでは、私も急いで……」
美也さんが言い切るのを待たずに、私は扉を閉めた。
この人に合わせていたら時間がいくらあっても足りない。
ただでさえ、公演まで十分な時間があるわけではないんだ。
この仕事が本当にプロデューサーさんからの試験のようなものだとすれば……。
いや、仮にそうじゃなくても、公演は絶対に成功させなければならないのだから。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:19:27.04 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
志保「はあ、はあ、はあ……!」
美也「はあ、はあ……」
あれから二人で、ずっと同じところを練習し続けてる。
ほんの数秒の振り付けを、何度も何度も。
なのに、まだ上手くいかない。
まず動きを理解するのに時間がかかるし、理解しても、体が付いて行ってくれない。
まだ初日とは言え、こんな数秒間の動きにここまで苦戦するなんて……。
志保「……もう一回、やりましょう……。さっきは足がもつれてしまいましたけど、次は……」
美也「し、志保ちゃん、待ってください〜……。少し、休憩にしませんか〜?」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:20:11.46 ID:AEVT7W6Z0
志保「休憩だなんて、そんな余裕は……」
美也「でも、疲れたまま練習していたら、怪我をしてしまうかも知れません〜。
それにプロデューサーさんも、『初日から飛ばし過ぎないように』と言っていましたし〜……」
志保「……わかりました。じゃあ、10分だけ」
私は隅に置いた飲み物を取り、一口飲む。
それを見て、美也さんは安心したように笑って、同じように自分の飲み物を口に運んだ。
私は休憩しながらも、頭の中ではやはりダンスのことでいっぱいだった。
さっき失敗した振り付け。
何度も同じところで間違ってしまう動き。
床に落として視線の先には何も映っておらず、ただ頭の中で同じ振り付けの映像が……。
美也「志保ちゃん、少しお話をしませんか〜?」
志保「……なんですか?」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:22:09.32 ID:AEVT7W6Z0
ダンスが上手くいかないことと反復を邪魔されたことに、ほんの少しだけ苛立ちながら、私は答えた。
ただ幸か不幸か美也さんはそんな私の感情に気付いていないようで、穏やかに微笑んだまま言った。
美也「私たちはまだ、お互いのことをよく知りませんから、自己紹介をしましょう〜。
私は、宮尾美也です〜。よろしくお願いします〜」
志保「名前ならもう知ってるじゃないですか……」
美也「お〜、そうでしたな〜。では、好きなことはなんですか〜?
私は、囲碁や将棋が好きなんですよ〜」
志保「……自己紹介なんかして意味なんてあるんですか?
私たちはアイドルとして一緒にステージに立つだけです。
アイドルに関係ないところまで、お互いを深く知る必要はないと思いますけど」
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:22:45.92 ID:AEVT7W6Z0
美也「むーん……そうでしょうか〜……」
美也さんは、少し落ち込む様子を見せる。
……やっぱり私は、少し苛立っていたみたいだ。
こんな自己紹介に意味がないと思うのは本心だけど、別に答えても良かったはずなのに。
けれど、これで無駄話が終わって、少しでも美也さんがレッスンに目を向けてくれれば……
と思ったのと同時だった。
美也「あっ、それでは、アイドルに関係あるお話をしましょう〜。
志保ちゃんは、アイドルのことでどんな目標を持っていますか〜?」
どうやら、あくまで話を続けるつもりらしい。
仕方がない……。
でもここで、私の真剣さを改めて伝えておくのもいいかも知れない。
志保「私の目標はもちろん、トップアイドルになることです。
そのために、この公演も絶対に成功させたいと思っています」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:28:28.00 ID:AEVT7W6Z0
美也「お〜。素晴らしい目標ですな〜」
志保「けど公演を成功させるには、私だけの力では無理です。
二人でステージに立つ以上、美也さんにも、もっと真剣になってもらわないと」
美也「はい〜。もちろんです〜。私の目標も、志保ちゃんとちょっと似ていますから〜」
志保「……私と、似てる……?」
美也「私の目標は、国宝級アイドルになって、歴史の教科書に載ること、ですからね〜。むふふ♪」
……ダメだ、やっぱり伝わってない。
私がどれだけ真剣か……こののんびりした雰囲気の人には、伝わらなかった。
私には、冗談に付き合っている暇なんてないんだ。
志保「……もういいですね。練習を再開しましょう」
立ち上がった私の背に向けて美也さんはまた何か言っていたようだったけど、私はもう聞く耳を持たなかった。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:30:06.35 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
翌朝、私は早い時間から劇場近くの広場に来ていた。
目的はもちろん早朝練習だ。
早朝練習自体はいつもやっていることだけど、今日はいつもよりずっと早い。
あのダンスを公演までに身に付けるには、普通にレッスンをしていたのでは到底足りない。
朝に練習をして、できれば夜にも居残りで練習しなければならない。
とは言え、居残りは難しい日もある。
だから朝の、この時間にしっかり集中して練習に取り組まないと。
志保「はあ、はあ、はあ……」
振り付けが一区切りして、呼吸を整えているとき、ちょうどアラームが鳴った。
もう時間だ。
この後は、プロデューサーさんと他の出演者を交えて公演の打ち合わせがある。
着替える必要もあるからそろそろ行かないと。
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:37:34.59 ID:AEVT7W6Z0
美也「志保ちゃん、おはようございます〜」
着替えを終えて控室に入ると、もう美也さんは来ていた。
集合時間にはまだずっと早いはずだけど、こういうところはきちんとしているらしい。
美也「昨日は、ちゃんと寝られましたか〜?
私はとても疲れていたので、9時には寝てしまいました〜。
でもおかげで、今日はばっちり、目が覚めましたよ〜」
志保「そうですか」
一言だけ返して、私はスマートフォンに目を落とす。
美也さんはそんな私にそれ以上声をかけることはなく、
次に控室のドアが開くまでの間、沈黙が続いた。
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:41:00.48 ID:AEVT7W6Z0
それからしばらく経って、
プロデューサーさんや他の出演アイドル達が集まり、打ち合わせが始まった。
打ち合わせを通したことで、当然ながら私の中で、公演の存在感が大きく増すことになった。
他の出演者のダンスに対する想い……。
私との能力の差から生まれる意識の違い、と言っていいかも知れない。
みんな本当にダンスが好きで、この公演にかける想いも、
私とはまた違う形でとても強いものだった。
……負けていられない。
ダンスが苦手だなんてことを言い訳にして、負けたくない。
経験にも身体能力にも差はあるけれど、私だってアイドルなんだ。
彼女たちに追いつくには時間がかかるかも知れないけど、それでもいつか必ず追いつく。
そのためにもまずは絶対に……絶対に、この公演を成功させるんだ。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:41:33.67 ID:AEVT7W6Z0
その日から私は、早朝練習だけでなく、
夜も母が帰って来てから毎日練習するようにした。
その甲斐あって、順調だと胸を張って言えるほどではないけれど、
あの難しいダンスも着実に踊れるようになってきていた。
それは美也さんも同じだった。
彼女もレッスンのたびに、少しずつ少しずつ踊れるようになっていた。
あののんびりしている美也さんが私と変わらない早さで成長しているというのは、
私の身体能力の低さを再認識させられるようで少し複雑だったけれど。
でも、美也さんも踊れるようになっていること自体は私にとっても良いことだ。
これならきっと公演までには間に合う。
私はこのステージを成功させることができる。
そう思った矢先のことだった。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:45:30.43 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
P「どうだ、二人とも。順調に進んでるか?」
志保「プロデューサーさん……。はい、大丈夫です。問題ありません」
美也「私も志保ちゃんも、良い調子ですよ〜」
P「そうか。二人ともよく頑張ってるんだな!」
志保「頑張るのは当然です。それにまだ公演が成功したわけじゃありません。
最後まで気を抜かずに、努力を続けないと」
P「っと、そうか。その通りだな。けど、今日はもうずいぶん長くやってるだろ?
そろそろ終わりにしておかないと、明日に疲れを残してしまうぞ」
志保「……そう、ですね。私も、弟の迎えがあるので」
美也「では、最後にもう一度、二人で踊りましょう〜」
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:46:01.08 ID:AEVT7W6Z0
私たちが位置に着いたのを確認して、プロデューサーさんが再生ボタンを押す。
音楽が流れ始める。
動き出し――揃った。
次のステップ、大丈夫、上手くいってる、腕を回して、それから、ターン――
まだ少し考えながらの部分もあるけれど、大丈夫、追いついてる。
次はジャンプして、二人の立ち位置を……
美也「あっ……!」
志保「っ!」
突然聞こえた声。
その方に反射的に顔を向けたのと同時に、プロデューサーさんの声も聞こえた。
P「美也!」
駆け寄る足音、流れ続ける音楽。
美也さんは尻もちをつくようにして床に倒れ、プロデューサーさんがその隣に屈む。
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:46:41.92 ID:AEVT7W6Z0
P「大丈夫か、美也! 今、足を……!」
美也「だ……大丈夫ですよ〜。ちょっと、つまずいてしまっただけで、なんとも……っ……!」
立ち上がろうとした美也さんの表情が歪む。
私は未だ流れ続ける音楽を止めて、微かな望みを込めて、聞いた。
志保「まさか……足を捻った、なんてことは、ありませんよね……?」
美也「……それは……」
P「美也、すまない。少し触るぞ……」
美也「痛っ……」
P「……! 間違いない、捻挫だ。どの程度かは、病院に行かないと分からないけど……」
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:47:18.80 ID:AEVT7W6Z0
……何?
捻挫……?
美也さんが……私と一緒にステージに立つ予定だった人が、こんな時期に?
それじゃあ……私はどうなるの?
まさか、私もステージに立てなくなる……?
あんなに必死に練習して、せっかくここまで踊れるようになったのに……。
それが、全部無駄に……?
志保「っ……プロデューサーさん、すぐに美也さんの代役を立ててください!」
P「! 志保……」
美也「志保ちゃん……でも、私……」
志保「美也さんの気持ちは分かります。でも仕方ありません……!
公演まで、もう時間がないんです!
美也さんが怪我をしたのなら、誰かに代わりに出てもらうしかないじゃないですか!」
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:47:55.22 ID:AEVT7W6Z0
そうだ、代役さえ立てられれば。
美也さんが無理でも、誰か……。
ダンスの得意な人なら、今からでもきっと……!
だから今すぐに美也さんの代わりを……!
美也「が……頑張って、公演までに治せたら……」
志保「何を言ってるんですか……!? まだちゃんと踊れるようになってもいないんですよ!?
仮に治ったとしても間に合いません!
美也さんがステージに立つのはもう無理じゃないですか!」
美也「……でも……」
志保「プロデューサーさんも分かっていますよね……!
今すぐ、美也さんの代役を立ててください!
ダンスの得意な人なら、今からでも間に合うはずです……!」
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:48:29.40 ID:AEVT7W6Z0
プロデューサーさんはしばらく黙って、思案するように目を伏せた。
けれど、プロデューサーさんが何か言うより先に、
美也「ま、待ってください、プロデューサーさん……」
P「! 美也……?」
志保「美也さん、何を……」
美也「もう少しだけ……もう少しだけ、待ってもらえないでしょうか〜……?
もしかしたら、あんまり大したことがなくて、明日には治るかも知れませんし〜……」
志保「何言って……そんなはずないじゃないですか!
明日には治る? ふざけないでください!
さっきの痛がり方を見ればそんなのあり得ないって、素人の私にだってわかります!」
この期に及んでまだのんきなことを言っている美也さんに、私は明らかに苛立っていた。
せっかく練習してきたのだから、公演に出たい。
そんな気持ちがきっと彼女にもあるんだろう。
でも、そんなことは関係ない。
公演のために、美也さんは諦めるべきなんだ……!
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:49:06.90 ID:AEVT7W6Z0
P「……わかった。まずは病院に行って診察してもらおう」
志保「プロデューサーさん……!?」
P「志保の言う通り、明日に治るなんてことはまず無いと思う……。
だけど志保、一週間だけ待ってくれないか?」
美也「……!」
志保「一週間って……そんなに待って、大丈夫なんですか!?
ただでさえ余裕はないのに……!」
P「正直なところ、もし一週間で治ったとしてもそれだけのロスはかなり厳しいと思う。
でも……公演に出たいという美也の想いも、できるだけ尊重したいんだ」
志保「っ……」
美也「プロデューサーさん……ありがとうございます〜……」
P「ただし、待つのは一週間だ。
一週間経っても痛みが引かなければ代役を立てて、美也には諦めてもらう。それでいいな?」
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:49:52.98 ID:AEVT7W6Z0
志保「っ……わかりました。そのときは、くれぐれもお願いしますね……」
美也「ごめんなさい、志保ちゃん……。私、頑張って治しますね〜」
志保「謝ってもらう必要はないです。
それより、もし本当に一週間で治ったときのために、できるだけのことはしておいてください」
P「わかってくれて助かるよ、志保。それじゃあ、俺は美也を病院に連れて行くから……」
志保「私はレッスンを続けていていいですよね? 後悔したくありませんから」
P「……ああ。行ってくる」
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:51:34.99 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
それからしばらく経って、プロデューサーさんと美也さんは戻ってきた。
診断の結果は、やっぱり捻挫だった。
ただ、とても一週間で治る程度の捻挫ではなかったらしい。
それでも美也さんは諦めていないようだった。
毎日劇場に来て、私のレッスンを見ていた。
……正直、居心地が悪かった。
だって美也さんが公演に出られる可能性は、もうほとんどないのに。
それなのに美也さんは、時々メモを取ったり、腕だけでも振り付けに合わせて動かしたり、
私が上手く踊れたらまるで自分のことのように嬉しそうに笑って、拍手をしたり……。
そんなことをしても意味なんてないのに。
仮にこの一週間のうちに治ったとしても、もう間に合うことなんてないのに……。
それでも美也さんは毎日レッスンを見に来た。
そして……一週間が経った。
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:53:31.98 ID:AEVT7W6Z0
P「――どうだ、美也。正直に答えてくれ。まだ痛みはあるか?」
プロデューサーさんが真剣な顔で美也さんに確認する。
美也さんは俯いて、何度か片足に重心をかけて、
美也「……ごめんなさい、プロデューサーさん、志保ちゃん……」
P「……まだ、痛むんだな」
美也さんは黙って頷いた。
それを見たとき私は、ほっと胸をなでおろした自分に気が付いた。
まるで、美也さんの怪我が治らないことを願っていたかのように。
……いや、そんなはずはない。
それがあまりに酷い考え方であることくらい、私にだって分かる。
そうだ、私は美也さんに治って欲しくなかったわけじゃない。
私はただ公演を成功させたいだけなんだ。
そのためには今回は美也さんに諦めてもらって、代役を立てた方が確実だと、
客観的にそう判断していただけだ。
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:55:33.93 ID:AEVT7W6Z0
志保「……今回は、仕方ありません。今はとにかく、怪我を治すことを考えてください。
公演の方は、私がちゃんと成功させますから」
美也「志保ちゃん……。ごめんなさい、ありがとうございます〜。
私、たくさん迷惑をかけたのに……志保ちゃんは、優しいですね〜」
罪悪感をごまかすためにかけた言葉に、美也さんは優しく笑った。
私はほとんど無意識にその笑顔から目を逸らした。
志保「それで、プロデューサーさん。
美也さんの代わりにステージに立つ人はもう決まっているんですか?」
P「ああ、もう声はかけてある。今から連絡して来てもらうよ」
そう言ってプロデューサーさんは、どこかに電話をし始めた。
電話の相手が来てくれるまで、私と美也さんは、ずっと無言で待っていた。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:56:55.23 ID:AEVT7W6Z0
美也さんの代役として来てくれたのは、星井美希さんだった。
美希さんは本当にすごかった。
私たちが何日もかけて覚えた振り付けを、ほんの数回映像を見ただけで覚えてしまった。
これなら、美也さんの代役についてはなんの心配もいらない。
寧ろ私の方が美希さんに置いて行かれないようにしないと。
そんな風に、美希さんがあまりにすごかったことが私の集中力を上げた。
美希さんに引っ張られるように、
日々のレッスンで私自身のダンスのレベルもそれまで以上に上がっていった。
それから順調にレッスンは進み……とうとう公演の当日を迎えた。
美也さんもリハーサルから見に来ていた。
ただ、私はこの日、美也さんとほとんど会話を交わしていない。
朝に挨拶をした時、いつも通りのおっとりとした笑顔で、
美也「志保ちゃん、頑張ってくださいね〜。リラックスして、ファイトー、ですよ〜」
そう言われたきりだ。
それ以降はお互い話しかけることはなかった。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:57:55.66 ID:AEVT7W6Z0
けれど、ふと目を向けると美也さんは常に、少し離れた位置に立っていた。
目が合うとにっこり笑い、私を激励するように両手の拳をぐっと握ってみせたりもした。
そして今、公演が始まってからも、
ステージ裏で出番を待つ私と美希さんを少し離れた位置から見ていた。
……彼女は、どんな思いでここに立っているのだろう。
悔しい気持ちはないのだろうか。
公演を諦めなければならないと知った時の彼女は、確かに残念そうな顔をしていた。
けど、もう残念な気持ちも薄れていて、だからあんな風に穏やかに笑っていられるのだろうか。
美希「志保? どうかしたの? もしかして、緊張してる?」
志保「え? あ……いえ、大丈夫です。少しだけ緊張はしていますけど、問題ありません」
いけない。
今は余計なことを考えている暇はない。
もうすぐ前のステージが終わる。
私のステージが始まるんだ。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:58:37.84 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
美也「……」
P「美也、座らなくて大丈夫か?」
美也「! プロデューサーさん……。はい、もうほとんど痛くないので、大丈夫です〜。
心配してくれて、ありがとうございます〜」
P「……志保たちのステージ、始まったな」
美也「はい〜。志保ちゃんも美希さんも、かっこいいですな〜。
あんなに難しかったダンスも、ばっちりです〜」
P「ああ……そうだな」
美也「…………もっと…………」
P「……美也?」
美也「……二人とも、かっこいいですね〜」
P「……ああ」
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/04/24(水) 20:59:39.17 ID:AEVT7W6Z0
・
・
・
志保「はあ、はあ、はあ……」
美希「志保、お疲れさまー。ミキ的には、今日のダンスが一番決まってたって思うな!」
志保「……! は、はい、ありがとうございます……!」
P「二人ともお疲れ様。ステージは大成功だったな」
美希「プロデューサー! ねぇねぇ、ミキかっこよかったでしょ?
プロデューサーから頼まれたお仕事、ちゃんと出来てたよね!」
P「ああ、ばっちりだったよ。急な頼みだったのに、よくやってくれた。ありがとうな」
美希「じゃあ約束通り、今度のお休みにデートしてね! あはっ☆」
P「あ、ああ、買い物に付き添う約束だよな。わかったよ」
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