【デレマス】 偶像ルネッサンス

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80 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 00:49:49.36 ID:uFnZQdOAo
 
「知ってます! すっごく大きなトーナメントのオーディション大会ですよね?」
「そうなんですか?」

プロデューサーが頷く。

「あぁ。初開催は2000年、そこから毎年行われてた。
 IUで優勝したアイドルは、どれをとっても名実共にトップアイドルと言って差し支えない、どでかい存在ばっかりだ」
「そうですそうです! 私、日高舞が3連覇を決めた瞬間テレビで見てましたもん!! もうホントにホントにすごくて……
 でも、最後の2010年大会を境になくなっちゃったんですよね。
 皆がLIVEバトルで対戦してるところ、すっごくワクワクして、とっても面白かったのに……って、待ってください」
「そういうことだ、驚くなよ。 そのIUが……今年、7年ぶりに開催されることになったってワケ」

プロデューサーの報せを聞いて、菜々は飛び上がった。

「ウソ……ホントですかっ!?」
「そうなんですよ。 おかげで今アイドル業界は大騒ぎです」

ちひろがデスクのPC画面を見せてくれた。
“Idol Ultimate2017”と大きく題のつけられたページに、今年度の復活開催についてのお知らせ文が掲載されていた。

「そうだったんですか……そんなにすごい大会なんですね」
「7年間の沈黙があったぶん、今回のIU2017は注目度も比較にならないだろうな」
「へぇー……」

蓮実も、よく分からないなりに一生懸命になってホームページの文面とにらめっこしている。

「待って下さい。 あの、つまり、ナナたち……」
「その通り、お前らには―――」

二人してPC画面を覗く中、プロデューサーが告げる。

「復活開催の決まったこのIU2017に出てもらう」
81 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 00:53:25.66 ID:uFnZQdOAo
 
がんばってください、とばかりに小さく拍手するちひろとは裏腹に、蓮実と菜々は黙りこくる。
しばらく考えてみたあと、ようやく菜々が口を開いた。

「で、でも……IUって、すっごく厳しい大会なんですよね……ナナたちみたいな新人が、簡単に勝てるとは思えないんですが」
「確かに」

プロデューサーはあくまで否定せず、

「ほんっとうに厳しい言い方をするとだな──お前ら二人は」

蓮実を指さし、

「古いアイドルの価値観にとらわれた“時代遅れ”」
「うっ……」

そして菜々を指し、

「地下劇場上がりの風変わりなアイドル、業界の“はみ出し者”」
「ぎくっ」
「……とまあ、そういう風に見られるもんだ」

呆然とする二人に、きっぱり言い放った。

「それででいいのか──ってことだよ」
82 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 00:54:02.66 ID:uFnZQdOAo
>>81訂正
「それででいいのか──ってことだよ」

「それでいいのか──ってことだよ」
83 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 00:56:34.37 ID:uFnZQdOAo
 
「「…………」」

──よくないに決まってる、けど。
ネガティブな反論を押し殺して、菜々は蓮実の顔をちらと覗いた。
じっとプロデューサーを見つめている。

「お前らはまだ二人揃ってようやくアイドルになれたばっかの、アイドル界の序列における底辺中の底辺。 しかも癖の強い“ワケあり”のアイドル、ってとこかな」
「そりゃ、そうですけど……」
「それが想像してみろ。 そんなワケありの底辺アイドルが……IUの大舞台で勝ち上がって、優勝して、正真正銘のトップアイドルになる様をさ」
「…………」
「そうなったとき、お前たちの立場は変わる」

立場が変わる──
今までの薄暗いアイドル人生の記憶一つ一つが頭の中を通り抜けていくような気がした。

「それってさ、めちゃくちゃ面白いと思わないか?」
「……面白いと、思います」
「だろ」

息を込めて、菜々が答える。
プロデューサーはニヤリとした。
84 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:04:35.68 ID:uFnZQdOAo
 
「これはお前たちにとっての、『復活』の始まりだぜ」
「『復活』……」

以前、彼に名刺を差し出されたときも『復活』という言葉を聞いたような気がする。
菜々にとっての理想の復活。
諦めかけていたのに、諦めきれず、惰性でアイドルを続けていた日々からの復活。
そして隣にいる少女は、その言葉に何を思ったのか。
蓮実にとっての『復活』とは何なのか?
きっと彼女にも、譲れない思いがあるのかも知れない。
まだよくは知らないけれど。

「なるほど……プロデューサーさんの言っていた『材料』って、菜々さんのことだったんですね」
「そう。 似たもの同士、協力し合ってってことだよ」

自分はまだいいとして、蓮実はどうだろう?
彼女こそこのあいだアイドルになったばかりといっていた。
全くの未経験ということならば、尚のこと大会優勝なんて目標はプレッシャー以外の何物でもないんじゃないか?
彼女の表情を読み取ろうと真横を見ると、

「なんだか、 すごいことになりましたね……でも、ちょっと楽しそうです」

ニコリとしていた。
85 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:12:04.68 ID:uFnZQdOAo
 
「菜々さん、優勝、できたらいいですね」
「……蓮実ちゃん、意外と肝が据わってるんですね」
「小心者で本番に弱いタイプよりは、長富くらい大らかでドンと構えててくれたほうがよっぽど助かるね」

プロデューサーは遠まわしに菜々をからかうような口ぶりで言った。

「それに、ダメだったらユニットを考え直すみたいなことは今確かに言ったが、実際そんな心配も必要なさそうだし」

蓮実と菜々が、互いの顔を見合わせる。

「お互い尊重しあえる部分があると思った。お前らなら良いコンビになれるよ」
「ですって、 菜々さん」
「…………」

もしかしたら、思った以上にこの子、大物なのかもしれない。

「私は本当の新人ですので……ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「……こちらこそ、よろしくお願いします。蓮実ちゃん」

握手は3度目なのに、差し出された右手を握り返すのが今回は少し緊張した。
――まだ何処までいけるか分からないけれど、彼女のことは、これから少しずつ知っていこう。

「つーわけで、コンビ名は……」

どのみち挑戦するしか『復活』の術はないようだ。
だったら崖っぷちアイドルらしく、ぶつかって行くしかないじゃないか。

こうして3人で話し合った結果決定した、「ウサミン&ハスミン」という名の急造ユニットで、蓮実と菜々は鳴り物入りのIU参加を決めた。
86 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:15:00.59 ID:uFnZQdOAo
 
 *

その日、IU2017のエントリー会場は都内の比較的小規模なホールで行われ、菜々の予想よりは少し控えめな人数がそこには集まっていた。
とはいえこの会場は関東圏内に居を構える芸能事務所からのみやってくるようだったので、
全国規模で言えばまだまだ大勢の未だ見ぬライバルがいるということなのだろう。

実際に参加するアイドルだけではなく、各事務所関係者、報道陣など様々な人だかりができあがっている。
プロデューサーが所用で少しの間だけ離れてしまった間、蓮実と菜々はお互いがはぐれないようにぴたりとくっついて移動していた。

「あの、346プロダクションさんですか?」

そんな中、いつの間にか数名の記者やカメラマンが二人を取り囲んでいた。しまった、とも言えぬ間に矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「歴史ある346プロからついにIUエントリーですね!」
「えっ、あ、はい」
「超大手事務所が放つIUユニット、期待の新人コンビとして既に噂になっていますよ」
「そ、そうなんですか? 緊張しますね……」
「過去に絶大な人気を誇ったIUの復活開催ということで、346プロさんとしてどういう結果を残していきたいですか?」
「えっ? あ、あの……ごめんなさい、ナナはそういうことはよく分からなくて……」

困惑してしどろもどろになりながら、なんとか一つ一つ答えていく。
87 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:15:57.65 ID:uFnZQdOAo
 
「では、あなた自身の是非今後の意気込みをどうぞ!」

「わっ……」

そう言って一人の記者が菜々に向かってマイクを向けた。
テレビカメラには、最近流行っているらしいネットTV番組のロゴが貼り付いている。
芸能界、特にアイドル関連の最新情報を届けてくれる珍しいチャンネルだ。

「菜々さん、アピールするチャンスですよ! せっかくですし、ほら、ね」
「……で、でっ、ですよね! ……ごほんっ」

カメラを向けられることは悪い気分ではない。蓮実に後押しされ、思い切って画面の向こう側へめいっぱいの気持ちを届けようと努めた。

「……あっ、あの! 故郷のウサミン星の皆さん、観ていますか!? ナナです!
 IU優勝目指して全力で頑張りますので、是非是非! 応援よろしくお願いしま〜すっ! キャハッ☆」
「「「………………」」」

とたんに、菜々を取り囲む人々の間に沈黙が走った。

「……あれ、ナナ何かおかしなこと言いました?」
「いや、そんなことは……いえ、ありがとうございました……!」

そそくさと撤収する記者とカメラマン。
88 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:16:59.23 ID:uFnZQdOAo
 
「…………うぅ、今のは、ちょっと失敗だったかも……?」

「いえ、ナナさんらしくてとっても良かったと思います」
「……ありがとうございます、蓮実ちゃん……」

カメラを向けられるのは初めてだったので思わず浮かれてしまって、
本気で失敗してしまったかと気が気でなかったが、蓮実だけは褒めてくれたので良しとした。

その直後、プロデューサーと合流した蓮実と菜々はそそくさと会場を後にする。
IU2017、ゼロからの優勝という大それたビジョンを掲げて、346プロの看板を背負ったワケありアイドルたちはとうとう進み出したのだ。
89 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:19:22.74 ID:uFnZQdOAo
 
 *

数日後、IU2017開催決定の報せと共にエントリー会場での様子がインターネット上で放映された。

『……あっ、あの! 故郷のウサミン星の皆さん、観ていますか!?』

そして「個性的でインパクトがある」という理由で採用された菜々の決意表明のインタビューが、
とある電機店のテレビコーナーの、端にある一台に映し出されている所を、一人の女性が目撃し足を止めたのだ。

『ナナです! IU優勝目指して全力で頑張りますので、是非是非! 応援よろしくお願いしま〜すっ! キャハッ☆』

かすかにウェーブのかかった栗色のロングヘアーがふわりと揺れる。



女性は──服部瞳子は、うさ耳のアクセサリーをつけたそのアイドルが意気揚々と語るその瞬間を、画面越しにじっと眺めていた。
90 : ◆AsngP.wJbI [saga]:2019/04/29(月) 01:20:44.67 ID:uFnZQdOAo
ここまで
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/07/01(月) 08:01:02.92 ID:O7+RsEGBo
続きまだ
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