理樹「この間、いきなり知らない人に抱きつかれてさ」恭介「なに?」

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/06(土) 01:20:46.20 ID:udBvOBhl0


理樹(その日の夜、街へ買い物に出かけた帰り道のことだった)

トコトコ・・・

男性「・・・・・・」

理樹「・・・・・・」

理樹(駅へ向かっていると、反対側の道からサラリーマン風の男の人がやってきた。年齢は40代くらいで、清潔感があるが、目はどこか虚ろだった。その普通ではなさそうな様子がちょっと気になってしまい、失礼かなと思いつつもその男の人に視線を向けていると、あと5mくらいですれ違うといった所で視線が合ってしまった)

理樹「・・・っ」

理樹(慌てて目を逸らしたけど、その人は見なくても分かるくらい僕へ視線を向けていたのが分かった。とうとう横に並ぶくらいの所でその人は立ち止まった。てっきり怒って僕を呼び止めるかなと思ったけど、その声は意外にも柔らかいものだった)

男性「なあ君」

理樹(他に誰もいないので明らかに僕にかけられたものだった。本当はその場からすぐ立ち去りたいくらいだったけど、僕にも悪い所があったので素直に向き直って応じることにした)

理樹「な、なんですか?」

男性「とても非常識なお願いだとは分かっているんだが・・・」

理樹(その人の次の言葉を待っていると、その人のまるで何かを耐え忍ぶような顔つきが、今度はどんどん情けないようなものに変化していき、しまいには目から涙をこぼしてしまっていた)

理樹「えっ、ど、どうしました!?」

理樹(大人の人が泣くのを見るのは映画やテレビだけだったから僕は凄く動揺した。それもまったく理由が分からないんだから当たり前だ)

男性「何も聞かないでくれ。後で不審者が現れたとでも警察に届けてもいい」

理樹(明らかに嗚咽が出ないように我慢した声だった。心配になってその人の傍に近寄ると
、彼は僕の上着のポケットの辺りをぐいっと掴んで僕の前に跪くようにすすり泣いた)

理樹「あっ、あの……」

理樹(どうしていいか分からずに服を掴まれたまま立っていると、その人はか細い声で呟いた)

男性「少し、挫けそうなんだ・・・」

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2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 01:29:32.33 ID:udBvOBhl0
理樹(その人は今度は体勢を変えないまま、その腕を僕の腰に巻きつけた。最初はそういう人なのかと思って身構えたけど、なんだかそういう雰囲気でもなくて、どちらかというと子供がお母さんに甘えるそれに近かった)

男性「ううっ・・・」

理樹「・・・・・・」

理樹(異様な状況だった。たまたま近くを通りかかる人がいなかったから良かったけど、大の大人が高校生に泣きついているところなんて見られたらどう思われるか。ともかく泣きつかれてしばらくした後、その声が聞こえなくなったかと思うと、その人はすくっと立ち上がって言った)

男性「すまなかった。ありがとう」

理樹「え、ああ・・・」

理樹(その人は涙目のまま口をへの字にしてヨロヨロと立ち去っていった。僕は何が起きたのか分からず、ポカンとしばらくその場で突っ立っていた)
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 01:41:35.79 ID:udBvOBhl0
・・・・・・・・・・・


・・・・・・


・・

恭介部屋


理樹「・・・ってことがあったんだ」

恭介「ううむ・・・」

理樹(なにか非日常な事件が起きたら大体恭介に相談するのが僕ら幼馴染のお約束となっていた。理由は簡単で、そうすれば恭介は何かしら納得できる答えを出してくれるからだった。しかし、この日の恭介はそうという訳にもいかなさそうだった)

恭介「他に変わったことはなかったのか?」

理樹「うん・・・別に何も盗まれてなかったし、その人自身も普通そうにしてたらどこにいてもおかしくないどころか、むしろ人並み以上に身嗜みはちゃんとしてたよ」

恭介「その人に見覚えは?」

理樹「うーん・・・」

恭介「そうか・・・わざわざ相談しにきてくれて悪いが、あまり理樹を満足出来る答えは用意出来なさそうだなぁ」

理樹「いや、まあ、どのみち恭介には話しておこうと思ってさ」

恭介「一応似たような事をされた人がいないか調べておくが、またそのおっさんが理樹に近づいてきたときは連絡してくれ」

理樹「うん、そうするよ」

理樹(恭介は不審者だと暗に思っているようだったが、僕にはあまりあの人の事を怪しいとは思わなかった。むしろ、あの苦しそうな姿はどこか他人事とは思えないようなものがあった)
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/04/06(土) 02:04:22.68 ID:udBvOBhl0
次の日

表庭

理樹「いただきます・・・」

理樹(今日の昼御飯は真人が野球部の助っ人でいなかったので表庭のベンチで食べることにした)

佳奈多「あら・・・直枝ね?」

理樹「あっ、二木さん」

理樹(二木さんはバス事故のあと、葉留佳さん経由で少し話すようにはなったけどまだまだ『ちょっと気まずい知り合い』って感じの人だった。しかし、彼女は御構い無しといった様子で隣にストンと腰を下ろした。右手に弁当箱を持って)

佳奈多「あなたも昼御飯?」

理樹「まあね」

佳奈多「ここに昼御飯を食べに来る人って結構少ないのよね。日差しは良いし、静かなのに」

理樹(そう言って二木さんは弁当箱を開けた)

理樹「まあ、教室から少し遠いしね。それに静かなのは人が少ないからだと思うけど」

佳奈多「ふふっ、確かにその通りね」

理樹(少し言い方にトゲがあったかなと思ったけど、二木さんは構わず笑った。事件の前の冷たい感じがした彼女からは考えられない事だと思った)

理樹「いつもここでお昼ご飯を?」

佳奈多「気が向いた時はね。普段はちょっと行儀が悪いけど寮長室で仕事の片手間に済ませているわ」

理樹「そっか」

理樹(それを最後に会話らしい会話をするでもなく二人並んで昼御飯を食べた。我ながら気が利かないとは思っていたけど、特に話す話題も無かったからしょうがない。それに彼女は沈黙を苦にするような人でもないようだったし)
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