【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」

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97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/20(土) 21:15:26.98 ID:sktzU6Ux0
>>96
フィルターも知らない初心者ならローカルルール確認してきたほうがいいよ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/20(土) 22:29:46.64 ID:o99WDEssO
あ、なるほど
律儀に○○を避けたのね

なんかもっと面白いワードが入ってるのかと
礼儀正しいのね
99 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/04/20(土) 22:46:05.23 ID:AaSZ+bzY0
あ、すみません。
今日ちょっと投稿できそうにないので明日でお願いします。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/21(日) 11:56:46.45 ID:mBsG8k4P0
今週はあるのかな?
生きがいだけど自分のペースで書いてください
楽しみにしてます
101 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/21(日) 23:49:45.00 ID:U8m/w75d0




大洗女子学園に点在する学生寮、その一つであるアパートの一室の前に沙織はいた。

扉の前でじっと何かを考えていた沙織だが、覚悟を決めたように扉の横のチャイムを押す。

鳴り響くチャイムの音が扉を通して沙織の耳にも届く。

しかし、扉が開く気配はない。


沙織「西住さん」


ノックと共に沙織が部屋の主の名前を呼ぶ。


沙織「私、武部沙織だよ!今日は練習だからさ、一緒に行こう?」


努めて変わらず、以前と同じように明るく声を掛けたつもりだったが、やはり沙織の声はどこか強張っていた。

結局、扉は開かず廊下に沙織の独り言が響き渡っただけになってしまった。


沙織はため息を一つつき、小さく謝りながらドアノブに手をかける。

何度か力を入れて、ドアノブを回そうとするも僅かに音を立てるばかりで開くことは出来ない。


いっその事ベランダの方から侵入してやろうかと沙織が内心で空き巣まがいの事を考えていると、携帯の着信音が鳴り響いた。

確認してみると、送り主は『えりりん』。

文面は、


『ごめんなさい。今日は体調が悪いから休むわ』


それを見た沙織は悔しそうに、悲しそうに唇を噛みしめると、また先ほどのように明るい声を出す。


沙織「……わかった。何かあったら呼んでね?すぐ駆けつけるから!」


そう言って、逃げるように扉の前から去った沙織を、学生寮の前で優花里たちが迎える。


優花里「どうでしたか……?」


恐る恐ると言った優花里の問いかけに沙織は無言で首を振る。


優花里「やっぱり、今はまだそっとしておいた方が良いのでは……」

麻子「だからといって何もせずにいるのも違うんじゃないか」

華「私たちは、私たちで出来る事を考えるべき、ですね……」


優花里、麻子、華がそれぞれ意見を述べる。


沙織「私たちに出来る事……」


ポツリと沙織はそうつぶやくと、そのまま学校へと向かっていく。

そのあとを3人は小走りで追いかけていった。

102 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:00:30.36 ID:jQ2XiiXS0






準決勝が明けて、休日を挟んだ後の練習。

既に学園は夏休みに入っているが、間近に迫った決勝の為に練習を怠るわけにはいかなかった。

既に作成されているメニューの通りに練習をこなし、朝から始まった練習が終わったのは夕方に差し掛かる頃だった。


杏「みんなお疲れー。もうすぐ決勝だし、色々詰めていこうね。それじゃあ解散ー」


相変わらずどこか気の抜けたよな声で締める杏に、各々思う様な顔を見せつつも、その場を離れていく。

残ったのは生徒会チームと、その前に立ちふさがった沙織だけだった。


柚子は何事かとおろおろして、桃はじっと表情無く沙織を見つめ、杏はわかっていたかのように微笑む。


沙織「会長」


いつもの明るさのかけらもない沙織の声に、杏は困ったように笑う。


杏「……やっぱり、隊長がいないとみんなどこかぎこちないね。やっぱり、隊長がいないと……」

沙織「会長……あなたは、どうするつもりですか」

杏「……西住ちゃんの事はなんとかしてあげたいと思ってる。でも私は……今は大会の事を考えるよ」

沙織「……あなたが、巻き込んだんじゃないですか」


苛立ちを隠しきれてない震えた声が杏に刺さる。

沙織の怒りに杏はそれでも笑顔で答える。


杏「そうだよ。それを咎められても私は何も言い返せない。悪いのは全部私なんだから」

沙織「開き直らないでくださいッ!!」


沙織の怒声が校庭に響き渡る。

杏に怒りをぶつけたところで何も変わらない。それは沙織もわかっている。

どうすればいいかわからない自分への苛立ちもその怒りには込められていた。



103 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:04:13.33 ID:jQ2XiiXS0



杏はやっぱり困ったように笑うと、顔を伏せる。


杏「……ごめんね。でも、私は最後までやらないといけないんだ。優勝して、廃校を阻止出来たら……どんな報いでも受けるよ」

沙織「出来なかったら。廃校が決まったら今度はどうするつもりですか」

杏「……」


杏は何も言わない。

言いたいのに言えないのか、何も考えてないから言えないのか。

どちらでもいい。沙織はそう吐き捨てるように顔をしかめる。


沙織「私はっ……大会とかどうでもいい。西住さんの事をなんとかしてあげたい」


悔しさをこらえるように強く手を握りしめる。

廃校は嫌だ。だけど今、沙織にとって大事なのはそのことじゃない。

みほが辛いのなら、苦しんでいるのなら、助けてあげたい。

それが沙織にとっての最優先事項だった。


沙織「どうすればいいかなんてわからない。でも、あんな状態が正常なわけがない。だからっ」

桃「出来るわけないだろ」


その時、ずっと黙っていた桃が口を開いた。


沙織「……」

杏「河嶋……」

柚子「桃ちゃん今は……」


引き留めようと袖を引く柚子の手を振り払い、杏を押しのけ桃は沙織に迫る。


桃「お前が、あいつの何を知ってる。どんな気持ちで『逸見エリカ』と名乗ってたのかわかるのか?」

沙織「……」

桃「わかるわけがない。そんなの分かる奴なんていないんだ。あいつ以外には」


沙織と桃の視線がぶつかり合う。


104 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:05:06.15 ID:jQ2XiiXS0


桃「なのに、他人が横から口を出すなんて、そんなの上手く行くわけがない」

沙織「だからっ!!試合の事よりもそっちの方を考えるべきだってっ」

桃「いい方法がある」

沙織「え……?」

桃「西住にまた、元気になってもらう方法だ」

沙織「……何」

桃「西住にまた隊長をしてもらえばいい」


名案だとでも言いたげな桃に沙織は舌打ちしそうになる。


沙織「それで解決するならこんな事に……」

桃「あいつの望みを叶えてやればいいんだ」

沙織「それって……」

桃「『逸見エリカ』に戻ってきてもらえばいい」

沙織「ダメだよ……それじゃあ何も変わらない」

桃「変わらなくたっていいじゃないか」


105 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:22:43.63 ID:jQ2XiiXS0


沙織「……西住さんのお姉さんは、西住さんの事を嫌ってる。ううん、憎んでるように見えた。決勝に行って平穏無事に終わるとは思えない」

桃「だったら私たちが守ってやればいい。既に西住の事はみんな知ってる。いまさら暴露したって動揺するやつはいないさ」

沙織「それで、その先はどうするの。エリカさんのままにして、その後はどうするのっ」

桃「……時間が解決してくれるさ」

沙織「本気でそう思ってるの?本気で、あのままにしておけば西住さんが元気になるって思るの!?そんなのっ、桃ちゃん先輩だってわかってるでしょっ!?」


沙織がこらえきれず怒鳴ると、両肩を桃が荒々しく掴んだ。


桃「あいつはっ!!ずっと自分を責めていたんだッ!!逸見の事だけじゃないッ、プラウダとの試合で追いつめられた事だってッ!!」



『……桃ちゃん、あなたは自分を嫌いになった事がある?』



ずっと桃の中で繰り返されたいつかの問いかけ。

その意味が、今なら痛いほどわかってしまう。



沙織の肩を掴む手が震える。

こぼれた涙が校庭を濡らす。


桃「なのに私たちは……何も知らずに、あいつに何もかも押し付けて、勝利を喜んで……」


106 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:25:47.19 ID:jQ2XiiXS0


桃は廃校が嫌だった。みんなと一緒にすごしてきた学校がなくなるなんて嫌だった。

だから、みほを巻き込んだ。

たとえ恨まれたって学園を守れればそれで良い。そう思っていた。

だけど、今は、


桃「私は、私はもう嫌だ……何もできないくせに、責任ばかり押し付けるだなんて真似、できない……」



『私は―――――――エリカさんになれないの? 』



雪のなかに崩れ落ち、呆然と自分を見つめる真っ白な姿。

夢に見る、脳裏に蘇る、その姿が、出会った日から今日までの彼女に重なっていく。


そんな彼女に自分がどれほどの重荷を背負わせていたのか。

その事実は桃にとって、学園よりも重く、許せない事だった。


桃が沙織を突き飛ばすように肩から手を離す。


桃「もういいんだ……負けたって構わない。戦車道が嫌だというのなら、それでも良い。あいつの、好きにさせてやってくれ……私にはもう、それしかできない……」


そしてとうとう桃は泣きじゃくってしまう。

その背中を柚子がさすり、杏はやはり動けなかった。

そして、そんな生徒会の姿を見て、桃の言葉を聞いた沙織は、


沙織「……嫌だ」


それでも、


沙織「そんなの、私は嫌だよ」


揺るがなかった。


107 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:27:11.64 ID:jQ2XiiXS0



沙織「もう現状維持なんて無理なんだよ。私たちが西住さんの事を知った時点で、『私たちが知った』事を西住さんが知ってしまった時点で」


どのみち、先なんて無かった。たとえみほの真実を知らなくても、終わりは近づいていた。

そして時は巻き戻せない。どれだけ自分たちが彼女を気遣おうと、どれだけ守ろうと、沙織たちの知ってる彼女は『西住みほ』なのだ。


沙織「今ここで私たちが『エリカさん』を認めちゃったら、『西住さん』から目を逸らしたら、もう誰もあの子の事を見ることが出来なくなる」


罪悪感を抱えているのは桃だけじゃない。

出会ってからずっとそばにいたのに気づかなかった沙織も、同じように罪悪感を抱えていた。

みほに触れたくない。触れて、これ以上傷つけたくない。

その気持は痛いほどわかってしまう。


だけど、だからこそ、沙織はその願いを否定する。


沙織「たとえ傷つける事になったとしても、引っ叩いてでも、私は『西住さん』の言葉が聞きたい」

桃「そんな事する権利、お前たちにあるのか」


赤くなった瞳で、桃がにらみつける。

沙織はその視線をまっすぐ受け止める。


沙織「無いよ。でも、私たちは―――――西住さんの友達だから」


理屈や論理ではなく、どこまでも真摯な感情論。

その言葉に桃がはっと目を見開く。

その様子に沙織はふっと微笑むと、


沙織「桃ちゃん、あなただってそうでしょう?」


そう言って走って行った。



108 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:41:18.94 ID:jQ2XiiXS0





結局、沙織はそのままみほの部屋の前まで走ってきた。

元より戦車道を始めるまで運動らしい運動なんて体育の授業でしかやってなかった沙織の体は悲鳴をあげ、

その痛みや息苦しさを乙女らしくないかな?なんて軽口を脳内で叩いて無理やりごまかす。

そして呼吸が整うのも待ちきれず、沙織は扉に向かって呼びかける。


沙織「西住さんっ」


返事は帰ってこない。

チャイムを鳴らしても、ノックしても同様。

だから、沙織はみほに呼びかけ続ける。


沙織「西住さんっ!!私、私あなたとちゃんと話がしたいの!!」


周囲の部屋への迷惑だなんてこの際気にしていられない。

沙織は疲れて息混じりの声で必死に声を上げる。


沙織「お願い、私と話をして。このまま終わりなんて、私……嫌だよ」


呼吸も整わない内に大声を出したからか、沙織の体はふらつき、前のめりに扉に寄りかかってしまう。


沙織「西住さんっ……」


その時、思わず手にかけたドアノブが抵抗しないことに気づく。

沙織は一瞬逡巡するように目を伏せるも、手に力を込め、引き剥がすように扉を開いた。


沙織「……西住さん」


109 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:47:42.61 ID:jQ2XiiXS0



廊下はもちろん、部屋も明かりがついていない。

部屋に向かって沙織はもう一度呼びかけるも、返事は帰ってこない。

物音一つせず、まだ少し荒れている沙織の呼吸がやかましいほどだった。


やはり、勝手に部屋に入るのは……と、踵を返そうとする自分の足を沙織は必死で引き止める。

ここまで来たのだから、後で謝って怒られよう。

沙織はそう、頭の中で言い訳をすると、靴を脱いでそっと、廊下に上がった。


沙織「……お邪魔するね」


薄暗い廊下を沙織は締め切られたカーテンからわずかに差し込む夕日を目印に恐る恐る進んでいく。

そうして、部屋にたどり着く。

けれども、


沙織「いない……」


そこには誰もいなかった。


沙織「留守……?」


明かりをつけ、部屋を見渡す。

沙織たちが以前来た時と変わらない、飾り気のなく、どこか生活感のない部屋。

床には飲みかけのペットボトルと、試合の時にも持ってきていたカバンが落ちている。

ふと、沙織の瞳がベッドへと向く。

そこには『前の学校の子から預かっていた』とみほが言っていた黒森峰の略帽をつけたクマのぬいぐるみが置かれている。

そのぬいぐるみはベッドの下に乱暴にしまわれていたのに、今はまるで話し相手にでもしていたかのように姿勢正しく置かれていた。

そしてその横には、投げ捨てられたかのように携帯も置かれていた。


沙織「西住さん……」


嫌な予感が、沙織の脳裏をよぎった。


110 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:50:00.40 ID:jQ2XiiXS0
ここまでー
すみません延期の上にガッツリ予定時間オーバーしました。
そして来週はお休みでお願いします。

色々と待たせてしまい申し訳ありません
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 06:11:43.13 ID:++kgM5VfO
乙 自分のペースで良いのよ
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 12:17:15.15 ID:0OfaWbl00

実の姉は何もしなかったどころか突き放して周りの友達ばかりが頑張ってるのみるとなんかなあ
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 13:08:14.79 ID:aiSBUNDN0


まぁまぽりんはまぽりんで追い詰められてたし支えもないしである程度仕方あるめぇよ
一番問題なのは戦車道公式や西住流の在り方とか姿勢が歪んでることそれ自体じゃんね
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 13:44:19.01 ID:NHXRg5sqO

現実から逃げてる人と向き合うには多少強引じゃないと話にすらならないから仕方ない
でもそれはそれとして大洗で「エリカ」として頑張った事は誰か認めてくれると良いんだけどなぁ
どんな形でもこれまでに頑張った事まで否定されるんじゃあまりにも辛すぎる
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/22(月) 21:53:05.40 ID:NuZJbFuZ0
乙。

やばい。滅茶苦茶嫌な予感がする。
エリカの「生きろ」というギアスがあるから、自殺は無いんだろうけど、みぽりんがはやまった事をしそうで怖いな。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/23(火) 10:00:47.66 ID:izdnD3YXO
自己愛クラスタC回避性人格障害なのか?
また復活可能な可能性が微レ存?
早く助けて、小梅ちゃん!
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/23(火) 23:25:38.81 ID:sGkDf/VaO
沙織「えりりんが引きこもってからもう8年がたったよ」
最終章
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/24(水) 07:57:45.80 ID:nZ1CiaW10
ああ嫌な予感がするぅ…実の親子や親友がどれだけ話しても聞く耳持たなかったのに、謎の大洗あんこうパワーで解決しちゃいそうな予感がするぅ…名作が一気に駄作になる予感がするぅ…
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/24(水) 10:19:22.50 ID:qZp83lJpO
>>118 言いたいことは分からんでもないがちょっと誘導してるみたいであまり良くない文章かなーって…
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/24(水) 22:23:57.45 ID:904RfJk/O
幽玄デスネワカリマス
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/24(水) 22:36:20.66 ID:Tyj0hOur0
>>118
でもこれくらいしかないよね実際
こっからさらにまた母親とか姉、親友の加わっての説得もあるかもだけど…あるいは夢のなかでエリカに諭されるとか
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 00:18:28.04 ID:VHZTgx0b0
逆だよ
むしろ姉や母だと近すぎる上にお姉ちゃんが今のみほの全てを拒絶してそこで終わらせようとしちゃってるから家族での話し合いのしようがないんだよ
親友も当事者の1人だから別の感情が混ざって落ち着いて話しづらい
その事件を本当に何も知らない子の方がかえって話しやすいんじゃないかな
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 01:57:14.54 ID:LjJzPGFO0
個人的な考えだけどガルパンSS読者って、黒森峰の誰かが大洗転校、そこで友情を育み過去の諍いにも試合にも打ち勝つ!っていう展開に食傷気味というか、飽きてる気がする。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/25(木) 10:30:04.38 ID:j1Lt1dk+O
小梅ちゃんに期待
具体的にはわからんがキスやろなあ?
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 14:30:03.66 ID:VyzvJ6FMO
二人は幸せなキスをして終了
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/26(金) 14:44:13.27 ID:H8EXA/hEO
エリカさんにはなれない→
エリカさん→エリカさん→エリカさん→エリカさん→エリカさん→ボコに相談→ひらめき→携帯で小梅ちゃんに連絡→エリカさんをよく知っている人をボコ(エリカさん)してやるぞ→沙織(いやな予感がする
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 17:24:42.97 ID:ZV2Brcv6O
もう一週間がたった...だと...?
(待機
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 19:56:53.79 ID:c3l2QhDg0
ごめんなさいつぎの更新来週なんですよ
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/27(土) 20:48:10.40 ID:kqI8flxqO
おぅ...
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/04/28(日) 11:15:30.51 ID:gpRQbwHz0
うわあああああん待てないもおおおおおおおおん
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 13:34:38.07 ID:dV8jAGFbo
あぁ…今日の更新ないのか…
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 21:20:30.58 ID:cifDZqHuO
平成の終焉をいかに過ごすか
やっぱりなんか食べたいなあ、なんて思ってたら、あれ?柚子みほってありじゃね?という新しい扉が開いた
...来週、楽しみにしてます。

アアッ、令和にイッちゃうううっ
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/30(火) 14:51:46.33 ID:SCSd2phU0
連休で時間あるんだから毎日更新してよ。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 15:20:43.77 ID:wHZIGjvU0
10連休とかファンタジーの話しないでくれませんかね…
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 07:09:03.81 ID:24NRmz3X0
10連休なんてあるわけないじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 10:42:01.36 ID:kAxkvJ7H0
続編で十連休出てくるフラグじゃねえか
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 10:45:31.63 ID:CEG37fc5O
「絶対に令和なんかに負けないッ」

10分後

「令和には勝てなかったよ...」

天ぷら
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 06:05:30.38 ID:1YLac5Q80
そもそも十連休なんて本当に実在するのでしょうか?
都市伝説の類では?
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 16:27:26.77 ID:J1KJrsCeO
公務員は10連休ゾ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 11:01:23.08 ID:GrUXEy4QO
ストパンでいうところのよしかちゃんとリーネ
もしくはエイラーニャ
そういえばそんなストパンssはなかったよね

久しぶりにガルパンからストパンに帰省したらえっちいすぎぞ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 12:01:46.31 ID:/GPm/OvSO
ようやく前スレ読み終わってリアルタイムで追いかけられるようになった
続きが楽しみだ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 22:49:30.53 ID:y1rSdSO4O
さーて今週のさおりんは
143 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/04(土) 23:46:53.35 ID:Ujk9qPiQ0






カーテンを閉め切って、電気も付けていない部屋には明りと呼べるものはカーテンの隙間からわずかに差し込む明りしかなかった。

部屋の主のはずのみほは、まるで虜囚かのように小さく膝を抱えて縮こまっている。

身じろぎ一つせず、時間が過ぎるのをただ待っていた時、チャイムの音が部屋に響き渡った。


その音にみほの肩がびくりと跳ねる。

けれども玄関には向かわず、じっと体育座りのまま動かない。

少しして、今度はノックの音がしてくる。


『西住さん』


それに合わせて聞き知った、なのに懐かしい声が自分を呼ぶ。

みほがぎゅっと目を閉じて震える体を抱きしめるように腕に力を籠める。


『私、武部沙織だよ!今日は練習だからさ、一緒に行こう?』


まるで何も気づいていないかのような明るい声。

そんな彼女の優しさが、みほにとってはどうしようもないぐらい辛く、苦しい。


だから、無造作に床に置いていた携帯を手繰り寄せ、


『ごめんなさい。今日は体調が悪いから休むわ』


震える指でなんとかそう打ち込んで送信する。

もう、『彼女』を保つのは文章ですら精一杯になっていた。


そして、どれほどの時間が過ぎたのか。

恐らく1分も経っていないだろう。

けれども、みほにとっては永遠のように感じた沈黙の末、


『わかった。何かあったら呼んでね?すぐ駆けつけるから!』


やはり、先ほどと同じような明るく、けれども気遣う様な声が聞こえてくる。

そして走り去って行くかのような足音が小さくなり、何も聞こえなくなる。

ようやくみほの震えがおさまる。


「……ごめんなさい」

144 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/04(土) 23:55:05.00 ID:Ujk9qPiQ0


小さく呟いた謝罪はもちろん、伝えたかった相手には届かない、ただの自己満足だった。

そうしてまた、膝を抱いて小さくなる。みほの頭に浮かぶのは何故こうなってしまったのかという疑問だった。

そして、その疑問の答えはすぐに見つかってしまう。


「私は、何も変わってない」


エリカと出会った日から、エリカを失った日から、エリカになった日から。

みほは一歩も進んでいない。

それは当然の事で、何もかもから逃げている自分が変われるわけがないのだから。

そうみほは自嘲して乾いた笑いが口から洩れる。

そしてそっと顔を上げ周囲を見渡す。

瞳に写るのは薄暗い部屋だけで、みほは失望したかのようにまたうつ向く。


「ああ……やっぱり私は……」


大洗に来てから幾度とみほの前に現れていた栗毛の少女の幻は準決勝の時を最後に一度も現れていない。

自分を責め立ててきたその幻影は、まぎれもなくかつてのみほの姿で、その言葉はまぎれもない今のみほの本心だった。

その幻影が見えなくなった。

その理由もみほは理解していた。


「私は……もう……」


結論を口にするのが怖くてみほは口を閉ざす。

そのまま倒れこんでベッドの下に手を伸ばし、そこに隠すように置いてある略帽を被ったボコのぬいぐるみをゆっくりと引っ張り出した。


無造作に置いてあったぬいぐるみは、けれども埃一つ付いてない。

みほはボコをベッドの真ん中に座らせると、自身は床に座ったまま向き合う。


「エリカさん……私、どうすればいいのかな……」


目の前のぬいぐるみはもちろん何も答えない。

それでも、みほは続ける。


「私じゃ、やっぱりダメなのかな……」


そう問いかける事自体が答えなのだと、みほは気づいていた。

なら、それならば、


「私は……どうすればいいのかな」


何も答えないぬいぐるみに救いを求めるように手を伸ばし、その手は届くことが無かった。


145 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:05:27.41 ID:GKT/EkqT0





夕方の刻もだいぶ過ぎ、夕日に陰りが見え始めてきた頃、学園艦の町の中を戦車道チームの面々は必至に走り回っていた。

沙織から届いた『西住さんがいなくなった』というメール。

慌てて学校に集合するも、どういう事かと尋ねる暇もなく杏の指示により捜索が始まった。


大洗の学園艦は他校と比べて小さいが、それでも街一つを内包してる。

財布と携帯を持っていない事から飲食店やカラオケにいない事は想定できたが、それでも捜索範囲は広い。

圧倒的に人手が足りない中、頼れるのは自分たちの足だけだった。


カエサル「いたかっ!?」

エルヴィン「いやいないな……」


カエサル、エルヴィンが合わせて肩を落とす。

ならば残った二人はと、期待を込めておりょうと左衛門座を見つめる。

そんな二人をみておりょうは残念そうに首を振ると、親指で左衛門座を指し示す。


おりょう「さっき左衛門座が白髪のお婆ちゃんと西住さんを間違えていたぜよ」

エルヴィン「節穴!!」

左衛門座「あ、焦ってたんだからしょうがないだろ!?」



おりょうの告げ口にエルヴィンは思わず声を上げてしまう。

ふざけている場合かと左衛門座とおりょうに内心舌打ちをするも、すぐに首を振って苛立ちを追い出す。

今は言い争いをしている場合じゃない。早く西住さんを探さないと。

焦った所でしょうがない。わかっているが、それでも焦りは生まれてしまう。

みほがどこにいるのか、何をしているのかわからない現状は、皆にとって何よりもの不安要素だった。

146 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:12:19.91 ID:GKT/EkqT0





レオポンさんチームは街の中の探索ではなく、学園艦の外周を自動車部の愛車であるソアラで走っていた。

学園艦の外周に点在する広場を捜索するためだ。

いつも飛ばしに飛ばしている道路を今は陸での法定速度で速度で走っている。


スズキ「ナカジマ―見つかったかー?」

ナカジマ「いなーい!!」


助手席の窓から顔を出したナカジマが大声で後部座席のスズキに返事を返す。


ホシノ「ツチヤーやっぱもっとスピード落としてくれ」

ツチヤ「はーい」


ホシノの指示に合わせて運転しているツチヤがスピードを更に緩める。

長い直線にツチヤはついつい癖でアクセルをふかしてしまいそうになるが、一刻の猶予もないからこそ慎重にいかなくてはと、ペダルを踏みこもうとする自身の足を努めて制御していた。


ナカジマ「……まずいなぁ。そろそろ日が沈む……」


不安げに呟くナカジマの視線の先で、街灯がぱっと明りを灯し始めた。


147 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:19:43.80 ID:GKT/EkqT0




そど子「そっちはどう?」

寄りかかっている自販機で今しがた買った緑茶の缶を持ちながらそど子は尋ねる。

尋ねられたゴモ代はクリップボードに留められた地図に×を付けながら答える。


ゴモ代「それらしき人物は見つからず」

そど子「……了解。そのまま捜索続行で。私ももう行くわ」


飲み干した缶を自販機横のゴミ箱に入れると、そど子はゴモ代が持っているのと同じ、地図が留められているクリップボードを片手に歩き出す。

そんなそど子の向かいから疲れた様子でパゾ美がやってきた。


パゾ美「そど子ー見つからないよー……」

そど子「もうちょっとだけ頑張ってよ。……でも、流石にそろそろ次の事を考えるべきかもね」

パゾ美「やっぱり警察に言った方がいいんじゃ……」


不安げなパゾ美にそど子はため息交じりに答える。


そど子「まだ明るいし、一人暮らししてる子がほとんどの学園艦で今日いなくなりましたーって言っても様子見が関の山でしょ。

    ほら、今は口よりも足を動かしなさい。……今日は門限破りになりそうね」

パゾ美「一人暮らしなのに門限とかあるの?」


パゾ美が首を傾げると、そど子は不満そうな顔をする。


そど子「私が決めたの。規則正しい生活は風紀委員として当然の事なんだから」


本当に真面目だなーとパゾ美が感心半分呆れ半分に思っていると、そど子はため息をついて、キッと前を見つめて歩き出す。


そど子「でも、今は後回しよ」

148 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:30:06.72 ID:GKT/EkqT0




ウサギさんチームの面々はバタバタと手足を振りながら走り回っていた。

探せども探せども、目当ての人物は見つからず、探した場所は地図に印を付けるという指示すら忘れて同じ場所を探してしまう始末であった。

それでもなんとか自分たちの持ち回りの場所を探し終えた一年生チームはあらかじめ決めておいた集合場所に集まってきた。


普段は元気の塊といったような少女たちの表情は随分とくすんでいて、そんな中半分泣きそうな表情であやが情けない声を上げる。


あや「見つかったー?もう疲れたー!!」

桂利奈「全然見つかんないよー!」

優季「私の方もダメだったぁ」

あゆみ「こっちもね」

紗希「……」

桂利奈、優季、あゆみが口々にそう告げて、それを紗希が無言の視線で締める。

声だけは普段の姦しさを残しているものの、自分たちの苦労が徒労にしかなっていない現状はどうしても堪えてしまう。

だからといって、捜索をやめるつもりは毛頭無い。

とりあえず次はどこを探そうかとあゆみがポケットにしまいっぱなしだった地図を広げると、紗希がきょろきょろと周りを見渡していることに気づく。


あゆみ「紗希、どうしたの?」

紗希「……」


紗希が小さく口を開けて何かを言おうとしたとき、隣にいた桂利奈が驚いた様子で声を上げた。


桂利奈「あれ!?梓ちゃんは!?」

あや「え?まだ戻ってないの?」

優季「紗希、梓見てない?」

紗希「……」


紗希が無言で首を振る。


あや「もー!!梓まで行方不明ー!?」


苛立ちを隠しもしないあやの声が薄暗い街中に響いた。


149 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:52:16.10 ID:GKT/EkqT0




ねこにゃー「あ、キャプテン」

典子「猫田か」


大通りから外れた街角で偶然、ねこにゃーと典子は鉢合わせた。


典子「そっちの様子はどうだ」

ねこにゃー「さっきチームのみんなと合流したけどまだみたい……とりあえずまたバラバラに探し回ってるけど……」

典子「こっちもだ。とりあえず会長に報告はしたが……」


典子が腰に手を当てため息を吐く。

いつも元気に満ち溢れている典子のそんな姿にねこにゃーもつられてため息を吐いてしまう。


ねこにゃー「……西住さん、どこ行ったんだろう……」

典子「……それを探してるんだ。口より足を動かそう」

ねこにゃー「うん……あれ?」


その時、ねこにゃーが視線の先に見慣れた影を見つける。

小さく、どこか頼りなさを感じるその影は不安そうな顔で周囲を見渡していた。

ねこにゃー達は顔を見合わせ、その影に近づいていく。


ねこにゃー「澤さん」


ねこにゃーの呼びかけに、梓はびくりと肩を震わせるも声を掛けてきたのがねこにゃーと典子である事に気づくと安心したようにため息を吐いた。


梓「猫田先輩に磯辺先輩……びっくりさせないでください……」

典子「澤、ウサギさんチームの捜索範囲はこっちじゃなかったはずじゃ」


典子の言葉に梓はキョトンと首を傾げる。

そしてすぐに自分がみんなからはぐれてしまった事に気づくと、恥ずかしそうに顔をそむけた。


梓「え?……あ、私いつのまにこんなところにまで」


梓はぺこりと頭を下げる。


梓「ごめんなさい、あっちにいるかも、こっちにいるかもってやってたらいつの間にかみんなからはぐれちゃったみたいです……」

ねこにゃー「あはは……」

典子「熱心なのはありがたいが、ちゃんと周りも見ておこうな」

梓「はい……」

典子「……澤、ちょっといいか?」

梓「え……?」

典子「まだ、隊長の事で怒っているのか」

ねこにゃー「キャプテン、今はそれどころじゃ……」



150 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:58:47.38 ID:GKT/EkqT0


ねこにゃーが少し焦った様子で止める。

梓がみほの事で動揺を未だに抑えられていないのは心配だが、だからといって当事者であるみほを探している今、その事を梓に尋ねるのは時期早々だと思ったからだ。

しかし、典子は梓を見つめたままキッパリと答える。


典子「いや、今話しておくべきだ」


その言葉に、典子にも考えがあるのだとねこにゃーは察すると、その視線を梓に向ける。

二人の視線に梓は視線を揺らすと、ぎゅっと手を握りしめる。


梓「……私、わかんないです。エリカ先輩が西住みほさんだって急に言われて。エリカ先輩はもう死んでるだなんていわれて」

ねこにゃー「……僕たちもだよ。急にいろんな情報が入りすぎて正直、今も混乱してる」

梓「隊長は……私たちを騙してたんですか?」


梓の声は震えていて、その瞳は否定を求めているかのように潤む。

ねこにゃーは、典子は、何も言わない。


梓「そんなわけない、そんなはずがないって何度も否定しても、心のどこかで思ってしまうんです。私たちに見せた姿は、

  私たちにかけてくれた言葉は、全部嘘だったんじゃって……」

ねこにゃー「……まぁ、そう思うのも無理はないかもね。亡くなった人の名前と姿で生きるって相当だもの」

典子「同感だ」

梓「っ……」


当然といった風に語るねこにゃーたちの言葉に梓は辛そうに顔を背ける。

そんな彼女の様子をねこにゃーは分厚いレンズ越しに優しく見つめると、その肩にそっと手を置く。


ねこにゃー「……だけど、私たちが見てきたあの人が、全部嘘だったかはわからないと思う」


梓にはその言葉の意味がわからず、どういう事かと視線で尋ねる。


ねこにゃー「澤さん、ボクたちはあの人に見つけてもらったんだよ」

梓「……はい」

ねこにゃー「戦車が好きで、だけど戦車道を履修するほどの度胸は無かった僕たちを見つけて、引っ張ってきてくれたんだ」


ついこの間の出来事なのにまるでずっと昔の事のようにねこにゃーは思い出を語る。


ねこにゃー「あの人は確かに僕たちに嘘をついていたんだと思う。それに傷つくのは仕方がないよ」


梓の気持ちが分からないなんて、ねこにゃーは言えなかった。

信頼していた人が嘘をついていたのは間違いなく、その事に傷つくななんてことを言えるわけが無かった。

だけど、


ねこにゃー「でもね、あの人が教えてくれたことに嘘は一つもなかった」


肩を掴むねこにゃーの手に力が籠められる。



151 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:02:30.73 ID:GKT/EkqT0


ねこにゃー「バレー部の特訓を受けさせられて、本当に大変だった。インドア派な僕たちがみんなについていくために必要だってわかっててもね」

典子「お前たちは鍛えがいがあったな!」


楽しそうに笑う典子にねこにゃーは「キャプテンは笑いながらボクたちを地獄に落としてたよね……」と小さく苦笑すると、そっと梓の肩から手を放す。

梓の顔をのぞき込むように屈んで、ゆっくりと、噛んで含めるように、


ねこにゃー「でも、あの人は特訓を乗り越えればもっと戦車を好きになれるって言った。……その言葉に嘘はなかったよ」


真っ直ぐなその言葉に、真っ直ぐなその瞳に、梓は視線をそらしてしまう。

そんな梓の姿にねこにゃーは一瞬悲しそうな顔をするも、今度は典子が口を開く。


典子「澤。私は、一度は八九式を信じられなくなった。足を引っ張るだけで、何も出来ないんじゃ……って。そしてその言葉を隊長は否定しなかった」


梓の頭に想起される聖グロとの練習試合の記憶。

最後の一手を任された自分たちの奮闘は届かず、敗北を喫した事は苦い思い出として今も梓の中にあった。

そして、いつだってやる気に満ちていた典子が自分たち以上にその敗北を気に病んでいたという事に梓は驚きを隠せなかった。

けれども、典子ははっと笑うと少し気まずそうに頬をかく。


典子「でも、結局私たちは八九式に乗ってる。正直、戦車道をやればやるほど性能差を嫌でも実感する。でも……それでも私たちはあの子で戦うって決めたんだ。

   正しさとか合理性とか、そういうのを無視して、それでも私たちは今のままで頑張ることを選んだ。そして、私たちの覚悟も隊長は否定しなかった。

   だから―――私は隊長に感謝しているよ」



典子の言葉に何も言えない梓に、ねこにゃーはそっと語り掛ける。


ねこにゃー「澤さん、逸見さんが西住さんだったとして、僕たちを騙していたとして、何もかも嘘だったってあなたは思える?」

梓「……わからない、わからないよそんなのッ!!」


二人の視線に耐えられなくなった梓が、泣き叫ぶように怒鳴る。


梓「私は、本当の逸見先輩に会ったことがないっ!!西住さんがどんな人かだなんて知らないっ!!なのに、一緒に戦った時間が全部嘘かだなんて、決められない……」


けれども、その声はどんどんと小さくなっていき、梓の瞳から涙が流れだし、最後には嗚咽としゃくりあげるような音だけがあたりに響いた。

ねこにゃーたちはそんな梓が落ち着くまで、何も言わずに待っていた。

152 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:07:39.15 ID:GKT/EkqT0





しばらくしてようやく泣き止んだ梓が、真っ赤な瞳を伏せたままポツリと声を出す。


梓「……ごめんなさい。急に泣き出しちゃって」

ねこにゃー「良いよ。ボクたちこそ、急に色々言っちゃってごめんね」

典子「……澤、隊長に会って何を聞くか決まってるか?」


梓は何も言わず頷く。

その様子に典子は満足そうに笑う。


典子「なら良い。さっさと隊長を見つけよう。それで、お前の気持ちをぶつけてやれ」

ねこにゃー「ちゃんと話して、ちゃんと聞いて、怒りたいなら怒って、それで……許すかどうか決めよう?」

梓「……はい」


今度はちゃんと声を出して、しっかりと二人を見つめて頷く。


典子「なら、捜索再開だなっ!走れっ!!」


典子の号令に、3人はまた走り出した。


153 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:09:13.09 ID:GKT/EkqT0
ここまでー
この三人の関係性は私の捏造ですけどなんというか結構会話させやすくて扱いやすいですね。

また来週。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 01:16:27.76 ID:d+TfAFjg0
うぉおおこの時を待っていたんだーっ!
更新ありがとうございます!
先が気になりすぎる…
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 02:23:45.12 ID:Uv9fbKNY0
乙です。

来週まで待てない!
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 02:29:53.96 ID:O7lK9e9U0

待ってて良かったです!
来週も楽しみにしてます!!
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 03:04:12.57 ID:TAyV8tIhO
こんなんさおりんが白髪になるわ

お疲れ様でした
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 04:50:18.76 ID:5TF6rN820
西住から逃げ、姉から逃げ、母から逃げ、エリカから逃げ、黒森峰から逃げ、今度は大洗から逃げようとするみぽりん
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga saga]:2019/05/05(日) 15:25:29.23 ID:zIk+tx2S0
それもここまでだ!

>>1−シャ
待ってた! 待ってたぞ!
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 15:45:43.68 ID:GhgZsxd60
sageろゴミカス
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/05/05(日) 16:10:46.45 ID:zIk+tx2S0
ミスってた
すまんカスゴミ
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 23:22:48.01 ID:PLZbuxBNO
梓、典子、ねこにゃーの3人は特に「エリカ」と話をして、それに助けられた人達だからね
あんこうの皆よりも「みほがなりたかったエリカ」を感覚的に理解出来てて、そこから話をしていけるのかもね
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/06(月) 02:34:16.84 ID:PEh0b2qSO
この騒動が小梅ちゃんに知れたら普通に心労で倒れるでコレ
仮に自殺未遂なんぞしよったらカチューシャはいよいよ罪悪感でカミーユだな
結果まほちゃんは最終的には狂ってしほを衝動的に殺害し、このスレは古畑任三郎スレになるだろうな...
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/07(火) 00:31:46.80 ID:4PPOw8SR0
おいww
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/08(水) 19:30:03.72 ID:69/WtYj2O
みほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみそみほみそみほみ
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 16:42:13.65 ID:sSBQlVWqO
>>165 みそが混じってますよ
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 08:38:47.36 ID:CpqS2DLbO
みそが混入されていた
国産有機みほ100%使用は嘘だった
やはり日本の未来は闇
汚い大人は恥を知れ
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 19:38:38.68 ID:tbpbH7rmO
愛じゃよ、愛、小梅ちゃん
あら治療な強○キスから始めましょう
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/10(金) 19:39:13.67 ID:400E/jcp0
早く更新してよ仕事なんていつでも休めるでしょ
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 00:35:14.59 ID:fEPBUA2eO
ミカ黒幕説(適当
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/11(土) 00:40:41.13 ID:fEPBUA2eO
西住流を潰すため島田流による陰謀説
(実はエリカは島田流のスパイ)
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 00:49:54.74 ID:Pj2QwDqX0
クソほどつまらんそのレスはageてまでするようなものだったの?
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 04:06:59.99 ID:pM4jEoC+O
はいはいミスです
すみませんね
適当かつセンスと内容のないクソレスでしたね
ご指導ありがとうございます
174 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/05/11(土) 13:52:44.47 ID:1lF84Ij30
ちょっと今日忙しくて投稿難しいと思うので明日投稿します。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:35:19.30 ID:TlRiRq0D0
そろそろ続きかな?
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:36:06.12 ID:TlRiRq0D0
そろそろ続き来る感じかな?
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:37:11.50 ID:TlRiRq0D0
175、176の連投すまぬ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/12(日) 04:58:03.79 ID:cnUdrhKzO
みほは一体どこに向かったのだろうな

まるでわからん
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/12(日) 20:22:36.98 ID:vYwGriwDO
どん底かな。どん底だけに。
180 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:31:22.43 ID:NXdKQUru0




同じ頃、あんこうチームと生徒会チームは校門前で合流していた。


沙織「会長!みんなからは!?」


焦りを隠す余裕も残っていない沙織に会長はゆっくりと首を振る。


杏「……まだだって」

沙織「っ……私、また探してくる!!」

杏「待って武部ちゃん」

沙織「そんな時間っ!!」

杏「分かってる。だから、聞いて」


どこか抑揚のない杏の声に引っ張られるように、沙織の中に冷静さが戻ってくる。

大きく息を吸って、吐く。


杏「ん。落ち着いたね」


沙織が落ち着いたのを確認すると、杏はいつものように歯を見せて笑う。

そして、直ぐに表情を引き締めて、額をとんとんと叩きながらフラフラと沙織たちの周囲を歩き出す。


杏「現状、出来る限り捜索はしている。艦内も河嶋の伝手で探してもらってる。……それでも見つからない」


考えながら喋っているのだろう、杏の言葉はどこか独り言のようだ。

そして、その歩みがピタリと止まる。


杏「なら、見落としがあると考えるべきだ」


時間が無いからこそ、現状への疑念を無視しない。

杏は一人一人の目を見て語り掛ける。


杏「みんな。何か、西住ちゃんのいそうな場所に心当たりはない?」

優花里「そう言われましても……」

麻子「そんなのわかっていたら、とっくに言っている」

華「学校は……もう探してますよね」


優花里たちが顔を見合わせて、そう答える。

杏は思わずため息を吐きそうになるも、ふと、沙織に顔を向けると表情が鋭くなる。


杏「……武部ちゃん」

沙織「え……?」

杏「私は、武部ちゃんならなにかわかるんじゃないかと思う」


それは単なる直感で、理屈じゃなかった。

過ごした時間なんて、あんこうチームの面々ならそう変わりはない。

それでも、杏は沙織なら何かわかるかもしれないと感じた。


181 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:44:22.18 ID:NXdKQUru0



杏「何か、何か聞いてない?なんてことない思い出話とか、他愛もない事でいいんだ」


杏の声に焦りが僅かに滲む。

その声に桃も焦りを露わに声を荒げる。


桃「武部!!何か知ってるのなら早く言え!!」

柚子「桃ちゃん落ち着いて……」

桃「っ……」


柚子がそれを抑え、桃は悔しそうに唇を噛みしめる。

自分が何も思いつけない、何も手助けが出来ない現状は桃にとってあまりにも辛く、歯がゆいものだった。

そしてそれはここにいる誰もが、今みほを探している誰もが感じている事だという事も桃は理解している。

焦って逸る自分を恥じ、桃はじっと沙織の答えを待つかのように見つめる。


沙織「……どこか、西住さんが行きそうなところ……私が、知ってる事……」


ぶつぶつと呟きながら必死で頭の中を覗きまわる。

みほと出会った時、一緒に戦車道をすると決めた時。

初めて乗った戦車に困惑した時、そんな自分にみほが落ち着いて指示してくれた時。

訳も分からないまま乗った戦車で、訳も分からないまま戦って、段々と戦車道が分かってきて、

段々と、戦車道が楽しいと思えてきて、

みほの言葉に怒りを覚え、みほの言葉に怒りを覚える自分に怒りを覚え、

仲直り出来て、

そして、みほの真実を知った。

182 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:58:09.37 ID:NXdKQUru0


沙織「っ……」


想起したみほとの今日までの記憶に涙がこみあげてくる。

それが零れ落ちないように沙織が空を見上げる。

その視線の先には薄っすらと月が浮かんでいた。

……今日は雲が無い。

きっと、月が綺麗に輝くんだろうなと、呑気な事を一瞬考えてしまう。


その瞬間、沙織の脳裏にいつかの記憶が蘇る。




沙織『えりりんっ!』

エリカ『沙織?』

沙織『こんなところで何してるの?』

エリカ『別に。……月がきれいだなって』

沙織『……ホントだ。高地だからいつもより大きく見えるね』

エリカ『……ええ。照らすものすべてが煌めいて見える銀色の光』




ついこの間の事なのに、もうずっと遠くの事のように感じる記憶。

アンツィオ戦後に、月を見上げていたみほ。

その横顔はいつものような張り詰めたような表情ではなく、嬉しそうな懐かしそうなもので、

その声色に宿る感情は、彼女にとって月がとても大きな意味を持つのだと、持っていたのだと、沙織は気づく。


沙織「山……学校の、裏山」


月を見上げながらうわ言のように呟いたその声に、杏が真っ先に反応する。


杏「そこに、西住ちゃんがいるの?」

沙織「わからない……でも、西住さん、月が綺麗って。嬉しそうに、言ってて……このあたりで一番高いところって艦橋か、裏山でしょ……?」


高さだけなら艦橋の方が高い。

しかし学園艦の環境は船舶科でも一部の人間しか入ることが出来ない。

少なくとも、普通科であるみほが入ることは出来ないだろう。

杏は納得したように頷く。


杏「……なるほど、なら」

桃「っ!!」

柚子「桃ちゃんっ!?」


杏が指示を出そうとする前に桃が柚子の制止も聞かずに裏山に向かって走り出す。


優花里「私たちも行きましょうっ!!」


優花里の言葉を合図に、皆桃の後を追いかけていった。


183 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:08:01.46 ID:bVfjB2rg0





日は沈み切り、月が空高く上がっている。

そんな月を、みほは一人裏山の山頂で見上げていた。

別に、何か目的があって山を登ったわけではない。

ただ、あの部屋にいるのが怖くて、飛び出した時最初に目についたのが裏山で、



『だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか? 』



遠く、色褪せた記憶が後ろ髪を引いたような気がしたから。

けれども、山頂まで来たところで何の感慨もなく、

みほはこうやって膝を抱えて日が沈み、月が昇るのを見つめていた。


「エリカさん、私は…」


結局、自分はまた逃げただけなのだ。

沙織が扉の前で何度も呼びかけてくれた時、みほの脳裏を埋め尽くしたのは、罪悪感よりも恐怖だった。

何者でもない、空っぽな自分を知られて、それでも自分を想って呼びかけてくる沙織が怖くてたまらなかった。

こんな価値のない自分にまだ、優しくしてくれる彼女が、理解できなくて怖かった。

だから、逃げ出した。


そうして制服のまま山を登り、体が悲鳴を上げても無視して、山頂にたどり着いた。

呼吸が落ち着くと、今度は自分を責めだした。

こんな自分に優しくしてくれる人たちを裏切って、恐怖を感じた自分自身が、嫌いでしょうがないと、膝を抱えて俯いていた。

そしていつの間にか日は沈み、月が出ていた。


「エリカさん……やっぱり、私じゃダメだよ。貴女がいてくれなきゃ、私は……何も出来ないよ……」


目元に涙をためながら月に向かってそう呟く。

いっその事あの時のように曇り空ならば月に縋る事すら出来なかったのに。

いつもより大きく見える月は否が応でもみほのエリカへの想いを掘り起こす。

そうやって、何度目かの泣き言を呟こうとしたとき、茂みから音がした。


「何……?」

184 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:17:28.64 ID:bVfjB2rg0



裏山に鳥や小動物以外の野生動物がいるだなんて聞いていないが、まさか……とみほの背中を冷たい汗がつたう。


どうする、逃げられる?流石に熊などはいないだろうが野犬の類ならばあるいは……

みほは周囲を見渡し、手のひらほどの大きさの石を掴む。

無論、これで撃退するなどとは考えてはおらず、一瞬でも隙が作れれば程度のものだ。

立ち上がり、周囲を見渡し退路を探る。

麓へ続く道は音のする茂みの傍にある。

……隙を見て一気に走るしかないか。

みほは覚悟を決め、茂みを注視する。


そして、茂みから黒い影が飛び出してくる。



みほが石を構えた時、その影を月明かりが照らす。

その見知った影に、みほは手の中の石をポトリと落とす。


「桃、ちゃん?」


桃の着ている制服には所々土埃や葉っぱがついていて、裾のあたりは枝でも引っかけたのだろうか、少し裂けていた。

ボロボロという言葉で充分表せる桃の姿に、みほは言葉を失う。

対して桃はみほの姿を認めると呆然とした表情のまま、ポツリと呟く。


桃「……西住」


そしてそのままヨロヨロとみほに近づくと、倒れこむように抱き着いてきた。


「え、ちょっ……」

桃「良かったっ……良かったあああああああああああああっ!!」

「え?え?何、何?」


何で桃がこんなところに。

何で抱き着いてきたのか。

何で登山道ではなく茂みから飛び出してきたのか。


何がどうしてこうなったのか全く分からないみほの胸の中で、桃は声を上げて泣き出す。

わけがわからずオロオロと周囲に視線を彷徨わせるみほの耳に、また別の声が聞こえてきた。


沙織「こっちから桃ちゃん先輩の声が!!」


その声が途切れるやいなや、先ほど桃が飛び出してきた茂みから今度は4つ、いや6つ、見知った影が出てくる。

最初に出てきたのは沙織、その後を優花里、華、麻子が。

更にその後を杏と柚子が続いて出てくる。


桃の事を処理しきれていないみほの頭は今度こそパンクする。


「え?みんな?なんで?」

185 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:23:58.63 ID:bVfjB2rg0


疑問符がとめどなく浮かび続けるみほに対して、先頭の沙織はみほの姿を見るとうっ、と口元をおさえて目を潤ませる。


沙織「西住さんっ……よかった、無事だったんだね……」


優花里たちも同じように目に涙をため、杏と柚子は安堵のため息をもらす。


「みんな……」


一体何事なのだろう。

みほがまわりの反応に全くついていけず、胸の中で泣きじゃくる桃→沙織たちと視線をフラフラと移動させていると、

泣いてばかりで言葉になっていなかった桃がガラガラになった声で喋りだす。


桃「ごめんっ!!ごめんなあ西住いいいいいっ!!」

「あの……え?桃ちゃんなに謝って……」

桃「全部全部っ!!私たちが悪いんだっ!!お前に廃校なんか押し付けて、お前の事情なんか考えもしなくてっ!!」


桃の肩を掴んでいた手がピクリと反応する。


桃「お前に負担をかけていることなんてわかっていたのにっ!!お前がっ……辛い気持ちを隠していた事に気づいていたのにっ!!」

「……」


桃がみほの胸元を握りしめる。


桃「だからお前はっ、何にも悪くないんだっ!!廃校の事だって、なんだってみんなみんな、私たちのせいにしていいんだ!!」


涙を拭いもせず、桃はみほを見上げる。


桃「だから、だから……死ぬなんて考えるなっ!!」


額がぶつかりそうなほどの距離で桃はそう叫んだ。



「……そっか」


ようやく、みほはこの状況を理解する。

みんな、自分を心配して探してくれていたのだと。

186 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:27:19.27 ID:bVfjB2rg0


「桃ちゃん、私が変な気を起こしたと思ったの?」

桃「だって、だって……」


慌てている人を見ると冷静になるというが、胸の中で泣きじゃくる桃の姿を見てみほはようやく自分のした事に気づく。


ずっと嘘をついていた人間がその嘘を暴かれ、狼狽した姿を見せた挙句にどこかに消えた。

……勘違いするのも当然だろう。

そんな事すら気づけなかった自分はやっぱり、自分の事しか見ていないのだなと、みほは内心自嘲する。

けれども今、桃に聞きたい事があった。

桃の肩を掴んでいた手を腰に回し、顎を肩に乗せる。

耳元で囁くように、問いかける。


「桃ちゃん、私が死んだら悲しい?」

桃「当たり前だっ!!」


一瞬の躊躇もなく答えた桃に、みほは嬉しそうに口元を緩め、ぎゅっと、先ほどの桃のように強く抱きしめる。


「……そっか。私、私ね。大切な人を助けられなかったの。大好きな人、私を、救ってくれた人を」


耳元で桃が息をのむ音がした。


「だから私が死ねばよかったんだって。私の人生を、エリカさんに生きてほしかった。だから、私がエリカさんになろうと思ったの」


それが、ついこの間までのみほの行動原理だった。

そうすることでしか、みほは生きる事が出来なかったから。


「でも、そんなことできなかった。見た目を変えても、話し方を変えても、考え方を変えようとしても、どうやってもエリカさんになれなかった」


一人の時、そうじゃない時、何でもない言葉選びに、ちょっとした仕草に、みほは『自分』がいる事を感じてしまった。

あの人ならばこうする。あの人ならこう言う。

結局のところそれはみほの主観でしかなく、水が低いところへと向かってしまうように、自分が演じやすい『逸見エリカ』へと変質していっている事に、みほは気づいていた。


「いつだって、私の前に『私』が現れた。私を、嘲笑ってた。……それは、私の本心だったんだ」

187 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:34:43.71 ID:bVfjB2rg0



聖グロとの練習試合、サンダースとの一回戦、プラウダとの準決勝。

目の前に現れた栗毛の少女の幻影は、いつだってみほを蔑んで、嘲笑っていた。

その意味にみほは最初から気づいていた。だから、拒絶し続けた。


「それがもう見えなくなった。私は……もう、エリカさんのフリも出来なくなった」


自分を否定する幻が見えなくなった。それはつまり、もう否定する必要すら無くなってしまったという事だ。

エリカでいられなくなった自分はもう、嘲笑う価値すら無くなったのだと。

なのに、そんな自分をこんなボロボロになってまで探してくれた。

それが、嬉しかった。


「桃ちゃん、あなたは私に廃校を背負わせたっていうけど、私本当に嬉しかったんだよ?戦車道は私の、何にもない私の唯一の取柄で、エリカさんに褒めてもらった事だから」


戦車道が無い学校でも戦車道を続ける。母親にそう吐き捨てたものの、結局みほ自身ではどうしようも出来なかった。

転校して、何もできずただ『エリカ』のフリをし続けてた日々に、確かな光が灯ったように感じた。


「きっと、あなたたちが声をかけてくれなかったら、私は……」


その先は言葉にならなかった。

桃がぎゅっと、胸元を掴む手に力を込めたから。

『その先は言わないでくれ』と、瞳で訴えてきたから。

みほは桃の髪をそっと手で梳く。


「だから、会長もそんな顔しないでください」


そして、辛そうにこちらを見つめる杏に、微笑みかける。

けれども杏の表情が緩むことは無い。

むしろ、先ほどよりも辛そうに顔を歪める。


杏「西住ちゃん、私は……」

「まぁ、確かに最初はムカッとしたけどでも……どのみち、私には戦車道しかなかったんですから」


軽くおどけてみたものの、やっぱり杏は辛そうにしたままで、みほも困ったように笑う。


188 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:35:34.38 ID:bVfjB2rg0



杏「……ごめんね」

「謝らないでください。……覚悟して、やった事なんでしょ?」

杏「……うん」


頷く杏の顔はとても、納得している様にも、気に病んでいないようにも見えず、そんな彼女の様子にみほは自嘲を込めて息を吐く。


「ああ……私は、やっぱり貴女みたいには出来ないや。貴女ならきっと……もっと……」


そうしてまた、月を見上げた時沙織が一歩前に出てくる。


沙織「西住さん」


先ほどまでの嬉しそうな、泣きそうな顔ではない、決意を込めた表情にみほも何かを感じ、

桃をそっと立ち上がらせて、離れる。

果し合いでもするかのように向き合うと、沙織が口を開く。


沙織「私はね、ショックだったよ。あなたがエリカさんじゃないって知って」

「……」

沙織「私だけじゃない、みんなそう。今日まで一緒に戦ってきた人が別人だって言われてショックを受けない人なんていないよ」

「……うん。そうだよね」


当然だ。自分のしたことはそういう事なのだから。

気づかなかった。そうなるとは思わなかったなんて事言えるわけがない。

この事態は全部、自分勝手な自分が招いた事なのだから。

沙織が怒るのならそれは当然の事なのだからと、みほは覚悟していた。

だけど、釣りあがった眉は落ち、沙織の表情に優しさが戻る。


沙織「……でもね、だからって私たちがあなたと過ごしてきた今日までが無くなるわけじゃない」


まるでいつものように、なんてことのない食事時の世間話をするかのように、沙織は微笑む。


沙織「辛かったことも、楽しかったことも、『逸見エリカ』じゃなくて、『あなた』と過ごした時間なんだよ。だから、」


結局、沙織は答えなんて見つけられていない。

みほがエリカを騙る事が間違いだとわかっていても、それを咎めるつもりは沙織には無かった。

大事なのは、助けたいのはみほだから。

だから、みほに伝える。

みほの過ごした大洗での日々は、偽物なんかじゃないと。

『西住みほ』が紡いできた絆なのだと。

189 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:36:32.82 ID:bVfjB2rg0



沙織「西住さん。……ううん、みほ。私は、私たちは、あなたの友達だよ。エリカさんだったあなたと出会った日から、今日までの全部が私たちにとって、あなたとの大切な思い出なんだよ」


沙織の言葉に皆が頷く。

それを見て、みほが遠くを見るように目を細める。


「……そっか。私達は、友達になれてたんだね」


そして、一人一人を見つめる。


  「麻子さん」

麻子「おう」

  「優花里さん」

優花里「はいっ」

  「華さん」

華「はい」

「沙織さん」

沙織「うんっ」


みほの声に4人が嬉しそうに返事をする。

その音をみほは目を閉じて何度も何度も頭の中で繰り返し、そしてゆっくりと目を開く。


「私、こんなにもたくさんの友達ができたんだ」

沙織「そうだよ、みほ。だから、だからあなたも……自分を、許してあげて。ちゃんと、前を向いて。あなたは……西住みほなんだから」


みほの言葉に、沙織が微笑んで伝える。

『逸見エリカ』のフリをする必要なんて無いのだと。

私たちと一緒に、前に進んでいこうと。

みほに向かって手を差し出す。


その手をみほはじっと見つめ、微笑む。


「……そうだね。私はもう、エリカさんにはなれない。だって、エリカさんはもういないから。そんなエリカさんに、なれるわけがないんだから」


みほが、ゆっくりと沙織に近づく。

優花里たちが涙ぐんでその様子を見つめる。

沙織も、泣き出しそうな自分を必死に抑えて笑顔をみほに向ける。

そして、みほは沙織の差し出す手に手を伸ばすと――――沙織の手を、ゆっくりと下ろさせた。

190 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:37:05.10 ID:bVfjB2rg0


沙織「みほ……?」


どういう事なのかと、沙織が動揺を隠せずに問いかける。

みほは先ほどと同じように微笑みながら、沙織の瞳を見つめる。


「でもね……ううん、だから」


みほの微笑みが、どんどん崩れていく。いや、変質していく。

口元は微笑んだまま、その瞳に喜びではない感情が宿っていくのを沙織は感じる。


「だから、だから」


沙織が感じたその感情は、


「私は、私を許せない」




怒りだった。




191 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:38:30.84 ID:bVfjB2rg0



「私が自分を許しちゃったら、私が、自分の罪を忘れちゃったら、きっとエリカさんの事も忘れちゃう」


先ほどまでの穏やかな空気は消え去り、みほはくしゃりと、自分の髪を荒々しく掴み、瞳孔の開ききった目で、微笑んだままで、怒りを表す。


「優しいあなた達と一緒にいたら、そんな未来を受け入れたら、きっと毎日が楽しくて。エリカさんを失った事が過去になっちゃう」


みほの瞳はどこでもない虚空を、かつてエリカといた過去を見つめ続ける。


「そうなったらもう、私は……私じゃなくなっちゃう」


微笑んだまま、瞳に怒りを宿したまま、今度は涙が流れだす。

ごちゃ混ぜになった感情は、けれどもみほにとっては当たり前の、変わりのない事実を核に纏まっていた。


「エリカさんからたくさんの事を教えてもらったのに、エリカさんが私を形作ってくれたのに、エリカさんに、私は救われたのに」


蘇るのはエリカとの日々。

自分の人生と等価な銀色の時間。

それはもう、永遠に過ぎ去った時間で、それをみほも理解していた。


「エリカさんはもう戻ってこない。私がやってたのはただただ自分を慰めるための馬鹿げた真似事だって、わかってた」


どうなるかなんてわかっていた。

姉を憎悪に狂わせ、母の心を擦り減らし、友達の優しさを裏切り、新しい友達を欺き、裏切る。

結論なんて、結末なんてわかりきっていたのに、それでもみほは選んだ。


「だけど、やっとわかった。私は……エリカさんじゃなくても生きてしまうんだって」



『生きて』



その呪いが、みほを生かし続けている。

その微笑みだけは、未だに色褪せずに残っている。

彼女の声も、姿も、美しさも、全部掠れているのに。


最期の瞬間だけは刻みつけられたかのように思い出せてしまう。

だからみほは今日まで生きてきた。

嘘を暴かれ、空っぽの中身を晒されても、それでも生きてきた。



192 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:39:18.30 ID:bVfjB2rg0



「だけどね、エリカさんのいない世界は真っ白なんだ」


大洗での日々は楽しかった。それは嘘ではない。

確かな絆があった。それを否定するつもりは無い。

ただ、それでも、


「私にとって、エリカさんのいない世界は真っ白で、痛くて、悲しくて。エリカさんを救えなかった私が、憎くて、許せなくて、たまらないんだ」


揺るぎない想いがみほの中にある。

エリカへの想いと、そして――――自らへの憎悪が。



「この悲しみが、怒りが、憎しみだけが、私を証明してくれるの」


193 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:39:57.56 ID:bVfjB2rg0





みほ「私は、西住みほなんだって」





194 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:53:20.24 ID:bVfjB2rg0


誰もが沈黙し、動揺する中最初に口を開いたのは桃だった。


桃「違うだろっ……そんなの、おかしいだろっ!?」


桃が泣き叫ぶように怒鳴る。


桃「お前は、何も悪くないっ!!お前がそんな苦しんで良いはずがないっ!!」


みほの手を掴み振り向かせ、感情をぶつける。


桃「お前はっ!!救われて良いんだっ!!」


涙ながらに訴える桃に、みほは本心からの笑顔と、感謝を向ける。


みほ「……ありがとう、桃ちゃん。やっぱり私、あなたの事が好きだよ」


感謝と、好意を表したその言葉に込められた意味は、拒絶だった。

桃は絶句し、そんな彼女を悲しそうに見つめるとみほは沙織たちに向き直る。


みほ「桃ちゃんだけじゃない。沙織さんたちの事も、みんなみんな、大好きだよ」


みほは今にも泣きそうな笑顔で微笑みかける。

沙織も、優花里も、華も麻子も、何も答える事が出来ない。


みほ「それでも……みんな、ごめんね。私は……今ここにいるあなたたちよりも――――エリカさんとの過去の方が大事なんだ」


大洗での日々は楽しかった。

紡いだ絆は確かにあった。

それでも、みほにとっての『世界』はエリカと共に過ごした日々のままだった。


みほ「エリカさんはもう、いない。全部全部過去で、今も、未来にも、あの人はもういない」


残った記憶さえ崩れていく。それでも、エリカと過ごした日々以上は無いと、みほは断言する。


みほ「だから私は、あの人がいた過去を、あの人を過去にしてしまった自分への怒りを失うわけにはいかないの」


みほが自身の胸元をかきむしるかのように掴む。

そこに宿った怒りは、憎しみは、痛みは、いつだってみほを苛み、みほを生かしている。


みほ「エリカさんを失った『痛み』まで失ったら私は……死ぬことさえできなくなるから」


みほにとってそれは死ぬことよりも怖いものだった。

例え全てを失っても、家族も、友も裏切っても、それでも、守らなければいけない決意だった。


みほ「私は生きるの。生きないといけないの。死ねない代わりに、生き続けるの。それが、エリカさんの望みだから」


大きな月の銀色の光の下、みほの静かな慟哭が響き渡った。


195 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:59:00.09 ID:bVfjB2rg0
ここまでー。

描写する隙間が無かったので書きませんでしたが、桃ちゃんたちが茂みから現れたのは桃ちゃんが山頂までの最短距離を突っ走った結果です。

凄いですね大洗生。


また来週。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 01:21:03.10 ID:fG+jbbwI0
おつー
来週も楽しみにしてますねー
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