【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」

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9 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/03/23(土) 23:25:48.08 ID:cpswsJVq0


華はもう、何も言い返すことが出来ず、悲しみに目を逸らしてしまう。

先ほどまで支えていた優花里に、今度は支えられるようにその身を預けてしまう。

その様子にみほは満足げに頷くと、沙織たちの知っている『エリカ』のように優しい声を出す。


エリカ「大丈夫よ。決勝さえ勝てれば学園艦は守られるから。みんなだってそれはもう知っている。だからきっと私の事も受け入れてくれる。それで、いいのよ」


これでもう話は終わり。そう言わんばかりにみほはまた沙織たちに背を向ける。

しかし、


沙織「……西住さん。きっと、エリカさんはあなたにそんな事して欲しくないよ。ちゃんと、自分の人生を生きて欲しいって思ってるよ」


沙織の呆れたかのような、吐き捨てるかのような言葉がその背中に突き刺さり、みほが振り返る。

その顔に浮かぶのは、怒りだった。


「……あなたに、あなたに何が分かるの?あなたがエリカさんの、何を知ってるの?」

沙織「……私は、エリカさんと会った事無いよ。顔も知らない」


淡々と、何を分かり切った事をとでも言いたいかのような沙織の言葉にみほは更に苛立つ。


「ならっ……勝手な事言わないでっ!私のほうが、ずっと……ずっとエリカさんを良く知ってるっ!」

沙織「それなのに気づいてないからだよ。……ううん、きっと気づいてるはずなんだ。西住さん、あなたの見てきたエリカさんはホントにそんな人だった?」

「私よりも、エリカさんがいるほうが正しいんだよ」

沙織「そんな話していない。正しいとか、正しくないとか、そんなのどうでもいい。

   私は……西住さん、あなたの言葉が聞きたいの。あなたの知っているエリカさんは、あなたがエリカさんのフリをして喜ぶような人だった?

   あなたが、そこまでして生きていて欲しかったエリカさんは、本当にそんな人だった?」

「っ……」


沙織がみほに近づく。

鼻先がぶつかりそうなほど顔を寄せて、逃げる事も、誤魔化す事も許さないと言葉に力を籠める。


沙織「答えて」


沈黙が彼女たちの間に流れる。

みほを見つめる沙織の瞳は揺らぐことが無く、耐えきれなくなったみほは目を逸らす。

そして、絞り出すかのようにかすかな声で、


「……それでも、私にはもうこれしか無いんだよ」


そう言って今度こそみほは去って行く。

その背中は何もかも拒絶していた。きっと、他でもない自分自身も。

だから沙織は追わなかった。

今の彼女にこれ以上何を言っても通じないと思ったから。


10 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/03/23(土) 23:43:32.77 ID:cpswsJVq0



沙織「……私たちも帰ろう。それで、ちゃんと考えをまとめて、あと他のチームの人たちとも話し合って……」


沙織が今後の行動を確認も込めてみんなに伝えようとすると、沙織の後ろ、優花里と華の更に後ろから小さな影が出てくる。


優花里「麻子殿……?」


のそりと、まるで足を引きずるかのようにゆっくりと麻子は歩く。

どこか虚ろなその瞳は、沙織の後方、みほが去って行った方を見ていた。

学園艦に戻ってからずっと黙っていた幼馴染のおかしな様子に、沙織が心配そうに声を掛ける。


沙織「麻子、どうしたの?」


沙織はかがんで、麻子の顔をのぞき込むように見る。

麻子はちらりと沙織と視線を合わせると、再びみほが去っていった方向に視線を戻す。

いったい、どうしたのだろうかと沙織たちが心配していると、麻子がぼそりと口を開く。


麻子「……なぁ沙織」

沙織「何?」

麻子「いつっ……西住さんは、大切な人を失ってたんだな」

沙織「……そうだね」


みほにとって、逸見エリカという人間はどれほどの存在だったのだろうか。

それを推し量る事なんて誰にも出来ないだろう。

それでも、計り知れないほどの想いをエリカに持っている事は沙織にもわかる。

それでも、みほのしたことを理解できなかった。

その事に沙織が内心歯噛みすると、目の前で麻子が崩れるように膝をつく。


麻子「……なんで、私は気づけなかったんだろうな」


呆然と呟かれた言葉。大きく見開かれた瞳から涙が静かに流れだす。


麻子「なんで、私は西住さんの気持ちが理解できないんだろうな」


その表情が怒りと悲しみと、悔しさに歪む。


麻子「大切な人を失った気持ちは、一番、私が理解できるはずなのにっ」


その細い手が舗装された道を殴りつける。


麻子「私は……『友達』だって、言ったのに……」


11 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/03/23(土) 23:46:51.74 ID:cpswsJVq0



必死で声を押し殺し、それでも堪えきれない泣き声が漏れ出してくる。

その肩を沙織が抱きすくめようと手をのばすと、麻子が首を振ってそれを拒絶する。


麻子「なのに私は、わからないんだ。沙織、私は……西住さんに何をしてあげればいいのか、わからないんだ……」


沙織は知っている、麻子は不愛想なように見えて、誰よりも情に厚い子なのだと。

その麻子が、自分から友達だと言った『彼女』の事を、気にしていないわけがないと。

だから沙織は麻子をぎゅっと、正面から抱きしめる。

額を合わせ、かつて泣きじゃくる自分に母がそうしてくれたように、優しく語り掛ける。


沙織「……麻子、私もだよ。簡単に答えが見つかれば苦労しないよね」


麻子の潤んだ瞳が沙織の瞳と合わさる。


沙織「だから、一緒に考えよう。きっとみんなも、そう思ってくれてるから」


沙織はここにはいない人たちを想う。

今頃、彼女たちもみほの『真実』を聞いているのだろう。

それを今すぐ理解することなんてできないだろう。

それでも、同じ戦いを乗り越えてきた彼女たちとなら、仲間たちなら、

決して、考える事をやめないだろうから。

だから、自信を持って麻子に笑いかける。


その笑顔に麻子は苦笑して、大きく深呼吸する。

肩を貸そうとする沙織の気遣いを固辞して、ゆっくりと立ち上がる。


麻子「……すまない。ちょっと取り乱した」

沙織「良いんだよ。友達なんだから」

麻子「……ありがとう」

沙織「あれ?随分素直にお礼言うんだね」


気恥ずかしそうに頬をかく麻子に、沙織がからかうように笑いかける。


麻子「……善意には感謝で返せ。そう、教えてくれた人がいたからな」

沙織「……そっか」

優花里「でも、西住殿はどうすれば……」

華「彼女の心は深い底で、固く閉ざされてます。生半可な説得ではさらに頑なになるだけでしょう」


沙織がみほが去って行った先を見つめる。

先ほどみほを見つめた時のように揺るがず、強い決意を込めて。



沙織「だけど、このまま終わりになんて出来ない。終わりになんてさせない……絶対に」



その言葉に、ここにいる全員が問われずとも頷いた。



12 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/03/23(土) 23:49:34.47 ID:cpswsJVq0
今日はここまで。
さぁ新スレ開始です。また来週、と言いたい所なんですが…
すみません、仕事の都合でちょっと来週の投稿が難しいかもしれません。

幸先悪くて申し訳ありませんが、一応続きは再来週ということでお願いします。
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 23:52:35.18 ID:rQNox2pLo
乙です
雨降って地崩れしてから固く固まると信じて!
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 00:03:17.36 ID:dxvpAy+g0
おつおつ
言われてみれば優花里は知ってて当然だよね
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 00:09:34.23 ID:Y0VT+zDu0

おばぁの一件、姉妹にどんな逡巡があったのか察するに余りあるな
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/24(日) 00:23:15.94 ID:rMsen74j0
乙乙
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 00:38:11.90 ID:ds1bDs1Fo
おつー
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 00:54:55.05 ID:oIZJVe410
長かった二週間だった!
続編ありがとうございます!
はてさてこれからどうなるやら楽しみで仕方ない
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 00:57:53.00 ID:suBUSAKDO
タイトルからして期待しかない、乙です
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 02:32:48.63 ID:cgXr2spQ0
過去作から飛んできた
楽しみです
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/24(日) 07:21:12.14 ID:Y13YIIykO
乙でした。再開待ち望んでました、ありがとうございます。
「」前にみほともエリカともないところにブレている心情が現れていて最高でした。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 07:23:19.91 ID:u+nWKRXo0
ほうお。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 07:48:47.56 ID:XeSoo5rAO
やはりみほちゃんの心を助けられるのは天使小梅ちゃんしかおらぬのだ
キッスなのだなあ(願望)
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 08:24:01.72 ID:zirrplUjO
さあホモセックスの始まりだ
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 08:47:40.44 ID:Lvna3DqAO
焦らされてたので四回読みました
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 18:35:21.47 ID:F3yubQgQ0
あんこうチームのおかげで改心って展開にはならないよな?一番観たくない展開だわ。
黒森峰のみんなで解決してほしい。じゃないと今までの暗黒時代が黒森峰かませ、あんこう大洗マンセーの前振りで、本編と一緒になっちゃう
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 20:09:42.86 ID:7jzjlItzo
予防線を張るのはやめろ
展開が気に食わないならお前がブラウザを閉じれば済む話
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 21:38:13.64 ID:F3yubQgQ0
お、おう
まだそこまで展開してないからそっ閉じ出来ないんだわすまん
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 22:33:32.59 ID:QKlkfdCy0
いちいちなになにな展開になるのは嫌とか書き込まなきゃいいんじゃない?
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 02:48:05.76 ID:scpHjIYm0
正直すまんかった
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 14:27:22.53 ID:mNbnwXcn0
しかしみほ以外にも、まほもカチューシャもまだ事故の当事者誰一人救われてないからな
小梅が比較的立ち直れてマシって程度、みほだけでなく全員が切に報われてほしくはある
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 21:07:53.10 ID:bHywcLJYO
相変わらずの無責任会長杏であるな
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/03/25(月) 21:46:31.89 ID:lbNYr2lZ0
早く続き書いて
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 23:58:34.20 ID:k/vYgwNh0
>>27
どう見ても予防線を張っているようには見えないんだが。
それにサイトから離れればいいだけなのにブラウザ閉じろって過激すぎない?
35 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/03/26(火) 00:48:34.78 ID:XeNwLY000
言うの完全に忘れてました。
このスレは、

1スレ目【ガルパン】エリカ「私は、あなたを救えなかったから」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514554129/

2スレ目【ガルパン】エリカ「私は、あなたに救われたから」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1527426841/

上記の続きの3スレ目になります。
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/30(土) 18:53:18.89 ID:xg/L9aJSO
今週はあるのか神よ
37 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 05:13:50.40 ID:HgdP4lk1O
イヤッハア
水だ水だあああああ
38 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/06(土) 06:01:34.09 ID:iDVpjZGT0
今日はあるのかな?
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 06:45:47.63 ID:H0T8z7Sw0
ふと思ったんだが、エリカの死体はちゃんと発見されたのかな?
40 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:05:20.69 ID:QSadOSIn0






誰だって友人の一人や二人いるだろう。

そして、特に仲の良い親友と呼べるような存在がいる者もいるだろう。

その友人を失って悲しみに暮れる気持ちがわからない者はいないだろう。

その原因が自分だと、そうこじつけられてしまうとしたら、そう考えてしまう気持ちもわかる者はいるだろう。

けれど、その果てに自身がその友人になろうとする。その気持ちを理解できる者は、いないだろう。


杏が語った一節は、つまりそういう事だった。


校門の前に並ぶ少女たちは、先ほどよりもずっと重く、暗く、ともすればそのまま夜の闇に消えてしまいそうなほど沈み込んでいた。

杏の口から語られたそれは、あまりにも理解を越えていた。いや、理解できる部分は確かにある。

みほに共感して瞳を潤ませるものも多数いた。だけど、みほが導き出した結論を理解できるものはいなかった。


梓「……嘘じゃないんですか」


そんな中、最初に口を開いたのは梓だった。


杏「嘘だったら私の笑えない冗談で済んで良かったんだけどね」

梓「……あなたは、このことを―――」

桃「会長は……最初から、全部知ってたんですか?」


梓の問いかけは杏の隣にいる桃の言葉にかき消された。

呆然と見開かれた瞳は、杏を見ているようで別の誰かを見ているかのように揺れている。

そんな桃を見つめ、杏は躊躇うように、諦めたように頷く。


杏「……うん」


41 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:07:46.41 ID:QSadOSIn0



その瞬間、桃が杏の胸倉を掴みあげる。元より腕力は人並み以上だった桃によって小柄な彼女の体は難なく吊り上げられ、その表情が息苦しさに歪む。


柚子「桃ちゃんっ!?」


突然の事に柚子が驚き、止めようと近づくも桃の鬼気迫る表情の前に彼女は動けなくなってしまう。


桃「なんでっ……なんで言ってくれなかったんですかッ!?なんでッ!?」


怒りと動揺がないまぜになった声に杏の瞳が大きく開き、揺れる。

けれど、すぐにその表情をかき消して代わりにいつもの様におどけたような、軽い笑みを作る。


杏「……そっちのほうが色々都合が良かったんだよ。それだけ」

桃「ふざけないでくださいっ!?あいつは私たちのために必死で戦ってたのにっ!!なのにっ、なのにっ……」


喉が裂けそうなほどの怒声がどんどんとその勢いを失っていく。

真っ白になるぐらい力の込められていた手から力が抜けていき、すり抜けるように杏の胸元から離れ、垂れ下がる。

それに合わせて崩れ落ちるように桃は膝をつくと、合わない焦点で地面を見つめながら呟くように声を出す。


桃「私は、逸見に……西住に……取り返しのつかない事を……」


桃の脳裏を駆け巡るのはただただ後悔の念だった。

自分がかけた期待が、激励が、我儘が、全てみほを傷つけていたのだと。

そしてみほを戦車道の場に引きずり出したのは杏で、そうした理由に桃は心当たりがあった。


桃「……私が、廃校を嫌がったからですか?私が、会長にそこまでさせてしまったんですか?」

杏「違う」


その言葉を杏は即座に否定する。

しゃがみ込んで、へたり込む桃に目線を合わせて、その瞳をまっすぐ見つめる。

42 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:12:57.09 ID:QSadOSIn0


杏「河嶋、悪いのは全部私だよ。事情を知ってて、いつかこうなる事もわかってたのに、私は西住ちゃんを引っ張り出したんだ」

桃「そんなのっ……」

杏「お前の気持ちなんか関係ない。廃校が嫌だったのは私も同じで、私は……私が、そのためなら何でもしようって思っただけなんだ」


桃が瞳を涙で潤ませ、悔しそうに歯を食いしばる。


桃「そうやって……あなたはまた全部一人で……」

杏「……ごめんね河嶋」

桃「謝らないで、ください……」


その言葉を最後に、桃はうつ向いて何も言わなくなった。

震えるその肩を杏は哀しそうに見つめると、二人の様子を見守っていた他の生徒たちに向き直る。

そして、強く瞼を閉じてゆっくりと開く。


杏「みんな、もう一度言うね。もう、帰ろう」


一人一人を見つめるように視線を配る。

最初に声をだしたのは、レオポンさんチームの車長であるナカジマだった。


ナカジマ「……わかったよ。みんな、帰ろっか」


数少ない最上級生であるナカジマの言葉に、少女たちはどこか納得できないという面持ちを抱えながらも各々の家路につこうとゆっくりと歩きはじめる。

しかし、その流れに逆らって梓が飛び出した。


典子「澤っ!!」


典子の声に、駆け出した影―――梓は引き留められる。


典子「どこに行く気だ」


梓は振り向かずに答える。


梓「……隊長のところです。あの人の口から、本当のことを聞いてきます」

典子「ダメだ」

梓「嫌です」

43 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:17:59.82 ID:QSadOSIn0



典子の説得に梓は頑なに首を振る。

見かねたチームリーダーたちも梓を諭そうと声を掛けてくる。


ナカジマ「澤さん、今隊長に話を聞いたって仕方が無いよ。お互いが動揺したままじゃ会話になんてならないんだから」

カエサル「急いては事を仕損じる。気持ちは分かるが、焦った所で拗れるだけだ」

そど子「とりあえず、落ち着きなさいよ」


ナカジマ、カエサル、そど子が次々に言葉をかけてくる。

しかし、梓はそれに我慢できないといったように怒りを露わにして叫ぶ。


梓「っ……みんなは納得できるんですかっ!?今日まで信じてきた人が、既にいない人で、私たちの知っているエリカ先輩は、そう名乗ってるだけの別人だったって言われてっ!!」

典子「澤……」


典子の呟くような声には梓への理解と同情が込められていた。


おそらく、この中でみほを、いや『エリカ』を最も信頼し、尊敬し、その背中に憧れていたのが梓だった。

未経験で何も知らないからと自主練に励み、初心者用の教科書まで買って読み進めていた。

プラウダとの試合、追いつめられ、教会に立てこもっていた時、自身の無力さに涙を流していた。

それらは偏に尊敬する隊長の力になりたいという一心からであり、それを知ってるからこそ、皆は何も言えなくなってしまう。


梓「私は、私は納得できませんっ!!ちゃんと、ちゃんとあの人の口から本当の事を聞きたいんですっ!!」


目元を真っ赤にして吐き出すようにそう叫ぶと梓は再びみほたちが走っていた方に向かおうとする。

その手をアリクイさんチームのリーダーであるねこにゃーが掴む。

梓は振り払おうとするが、バレー部の過酷な練習に放り込まれた事により鍛えられたねこにゃーの手はびくともしない。


44 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:23:01.27 ID:QSadOSIn0



ねこにゃー「……澤さん。それはボクたちも同じだよ。あの人から本当のことを聞かないと納得なんてできないよ」

梓「ならっ!」


必死の形相で訴えてくる梓の目をねこにゃーは厚いメガネのレンズ越しにじっとみつめる。

あえてすぐには答えず、梓の呼吸が落ち着くまでぎゅっとその手を握りしめる。

やがて、梓の息が落ち着くと微笑んで語り掛ける。


ねこにゃー「だから、ここは帰ろう?帰ってご飯食べて寝て、それでちゃんと言いたい事、聞きたい事を決めてまた話そうよ。だよね?ナカジマ先輩」

ナカジマ「うん、そういうこと」


振られたナカジマがテンポよく同調し、他の生徒達もそれに頷く。

これ以上強情を張っても仕方がない。

梓はそう理解し、ゆっくりと肩の力を抜いていく。

その様子にねこにゃーは安心したように手を離すと、入れ替わるように典子が梓の肩を叩く。


典子「さ、帰ろう。何か食べてくか?」


典子は気安く、気遣いを見せないように誘ったつもりだったが、梓はその手をそっと払うと先ほどとは逆の方へと走っていく。


あや「ちょ、待ってよ!!」

あゆみ「梓ってば!!」

優季「私疲れてるんだけどぉー!」

桂利奈「置いてかないでってばー!!」

紗希「……」


その後をウサギさんチームの面々が叫びながら追いかけていく。

小さな背中達が去って行くのをねこにゃーと典子はどこか悲しげに見送った。

45 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:29:26.85 ID:QSadOSIn0


カエサル「……私たちも帰るか」

そど子「疲れたわね……」


カエサルのため息交じりの号令とそど子の同意を合図に今度こそ生徒たちは去って行った。


残されたのはカメさんチーム……生徒会の三人だった。


未だうずくまったままの桃を柚子が心配そうに見つめる。

見かねた杏が肩をかそうと手を伸ばす。


杏「ほら、河嶋」

桃「っ!!」


その手を拒絶するかのように払い除け、桃はゆらりと立ち上がり、どこか覚束ない足取りで去って行こうとする。

杏はその背中に手を伸ばすも、その手は空を掴む。

そして届かなかった背中は揺らめくようにゆっくりと、闇夜に消えていった。


柚子「……ごめんね杏。桃ちゃんも色々分からなくなってるんだと思う」


その痛ましい姿を見かねたのか、柚子は友人としての立場で、杏を気遣う。


杏「……いいんだ。河嶋が怒るのも無理ないんだから。ううん、むしろ嬉しいのかもね。河島が怒ってくれて」


柚子から見えるのは杏の小さな背中だけで、彼女がどんな表情をしているのか見えなかった。

だけど、杏が今にも泣きそうな顔で笑っている事だけはわかった。

46 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/06(土) 18:34:09.38 ID:QSadOSIn0
ここまでー
私が文章で同時に動かせる人数は3〜4人が限度ですね。
一箇所に大人数が集まってると描写しきれませんわ。
また来週です。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 18:42:45.14 ID:iDVpjZGT0
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 19:53:12.93 ID:zmO4td5Co
お疲れサマー
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 21:34:37.93 ID:63ZTzvKSO
誰が助けられんだよこの世界のみほ
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 22:49:36.06 ID:I4lZqqsS0
自分を救えるのは自分だけですかねー?
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/06(土) 23:31:25.21 ID:4+ROjNzRO

俺は今でもエリカが生きてるって信じてるから・・・でもそれはそれとして呪縛からは自分で立ち上がらないとね
52 :sage :2019/04/07(日) 01:46:14.53 ID:muo+OenoO
確かにどっかの日本昔話な老夫婦に助けられているかもしれない...
もしくは何かの陰謀だ
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 05:09:04.61 ID:PzYkFQvzO
まほちゃんが怖いね
なんかしてきそう
54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 08:28:49.25 ID:jQ486gHP0
>53
つ「劣化ウラン弾」
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/07(日) 11:35:54.59 ID:tLsfCJGv0
一回の更新で更新される量が少なすぎる。もっと読みたい。もっと一回の更新で多く書かないと一流のss書きにはなれないぞ。
56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/07(日) 11:42:11.54 ID:kd1KJnbb0
句読点ageカスお客様思考のやつに発言権はないぞ
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/07(日) 21:10:18.55 ID:oPsaAwii0
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 00:16:37.17 ID:99g93nrQo
>>54
特殊カーボンさん「楽勝」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 10:29:30.03 ID:+UyCgx+WO
天使小梅ちゃんがまほちゃんを処する展開に張った
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/08(月) 10:30:48.85 ID:+UyCgx+WO
具体的にはぶん殴る
61 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/09(火) 00:46:07.66 ID:ksBG2Nys0
既に姉にぶん殴られてるんですがそれは…
62 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/09(火) 03:53:33.93 ID:IRjkOWhw0
確かにみほさんは救われてしかるべきですが、偉大なる同志カチューシャが差し伸べた手を払いのけるという愚を犯しました
まずは大天使カチューシャにこうべを垂れ真摯に謝罪し、過ちを認め我らがプラウダの軍門に下ることを受け入れてからです
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/09(火) 23:04:03.00 ID:G8LZxItl0
ノンナ夜更かしすんな
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/10(水) 01:15:37.83 ID:Heo/5F7+O
実は生きてた逸見ヱリカ「あばばばばばば」
65 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 02:25:16.16 ID:BcjxPm5uo
このssを実はエリカが書いていてみほに見つかりドン引きされるってオチはありますか?
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 09:44:24.71 ID:GcW/IMdhO
逆に
死なせてしまったみほになりきっちゃう小梅ちゃんのいる世界線もあるだろう
悲しいね
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/12(金) 17:25:49.70 ID:BTObDfQj0
>>66

小梅「私は西住みほ。」

まほ「黙れ!!」 バキッ
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 00:39:31.36 ID:LusCfUGfO
<<67
いやそこはエリカさんやろ

エリカ「...」ギロ
小梅「エリカ、さん」
エリカ「驚いたわ、あんたがまだ戦車道をやっているだなんてね」
まほ「...」(ハイライト無しまほ
小梅「ぁ、お姉ちゃん」
エリカ「!?あんた!いい加減にっ」ギリッ
勇者優花里「あ!あの!やめてください!お願いしますッ」バッ
麻子「その通りだ。なんなんだ、お前らは」
エリカ「うるさい!部外者は黙れッ」
まほ「...いいんだ、エリカ」ハイライトなし
エリカ「隊長!!でも、コイツは」ワナワナ

みたいな
やべえな、どうにもならない
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 01:57:13.24 ID:AuUvvz1bO
いやいっそ
エリカ「...」ギロ
小梅「エリカ、さん」
エリカ「驚いたわ、あんたがまだ戦車道をやっているだなんてね」
まほ「...」(ハイライト無しまほ
小梅「ぁ、お姉ちゃん」
エリカ「!?あんた!いい加減にっ」ギリッ
勇者優花里「あ!あの!やめてください!お願いしますッ」バッ
麻子「その通りだ。なんなんだ、お前らは」
エリカ「うるさい!部外者は黙れッ」
まほ「...いいんだよ、エリカさん。赤星さんは悪いんですから」ハイライトなし
エリカ「隊長!!でも、コイツは」ワナワナ
小梅「お姉ちゃん。私、みほ、だよ?」
エリカ「あなたねえ!そんなふざけた真似で!お姉ちゃんが悲しんでるのが解らないの!?」ドンガラガッシャーン
勇者優花里「うわあああっ」ゴロゴロ
沙織「ひいっ、ゆ、ゆかりん大丈夫っ!?」
華「っ、この!!」飲み物ビシャアアア
エリカ「っ.........」ビシャビシャ...
小梅「え、エリカさん?!だ、大丈夫?」
まほ「...エリカさん、もういいよ。今日は帰ろうよ」ハイライトなし
エリカ「く...あなたたち、覚えてなさい!今度会ったらボコボコにしてやるわっ!」
麻子「...のぞむところだ」ギロ
沙織「わけわかんないー!やだもー」
華「...いやな感じです(死なす)」
勇者優花里「...(小梅殿は私が守るっ)」

だな
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/13(土) 02:17:41.39 ID:uRk6AVWf0
展開予想はやめようよ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 02:41:49.83 ID:AuUvvz1bO
え、あ、はい(どっひああああ)
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 10:56:20.62 ID:6yvr79aLO
オマエノコトガスキダッタンダヨ!
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 12:23:38.84 ID:ONsu7FrT0
>>67-69
これ小学生?
こういうのよく恥ずかしげもなく書き込めるよね
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 13:44:49.20 ID:m4Lu0QpLO
そこまでいうか普通?
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 14:24:41.64 ID:m4Lu0QpLO
でもまあ、いわれてみればやばいかも

すまんの、特にここの空気感忘れてたわ

しばらく黙るわ
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 20:55:36.03 ID:U+vZyEeaO
そろそろか
ワクワクすんぞ
77 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:17:41.75 ID:xS+etstB0






プラウダ高校はその校風というべきか気質というべきか、比較的高緯度の海域を航海する。

故にプラウダの気温はいつだって低く、集まる生徒たちも東北から北海道にかけて寒さになれた者が集まってくる。

とはいえ、流石に今日のように雪が吹雪いている中、外に出るような生徒はおらず暖房をガンガンにつけた部屋に籠っていた。

そして、そんなプラウダの中にある談話室にカチューシャはいた。

暖炉がパチパチと音を立て、窓を打つ雪の音がどこか心地よい。

いつもならそれらを子守歌に昼寝でもしているカチューシャであったが、今日は目の前にいる来客を迎えるためにあくびをこらえていた。

その来客とは、聖グロの隊長であるダージリン。

いつだって人を食ったような言動をして、それを咎めたところでどこ吹く風でおしゃべりを続けるダージリンだが、今日はどうも様子がおかしい。


カチューシャ「まったく、あなた自分の学校が負けて暇だからって遊びすぎよ。……私が言えた義理じゃないけどね」


カチューシャはそう言って、ペチーネを齧る。

目の前の来客はわざわざ吹雪に見舞われている中やってきた。

突然の訪問にカチューシャは訝しむも、ダージリンの様子にただならぬものを感じ、腹心であるノンナですら部屋に入れず一人でダージリンと机を挟む事にした。

だというのに、先ほどからダージリンは一言も口にせず、好物であるはずの紅茶にすら口を触れていない。

そんなダージリンの殊勝な態度を最初は面白がっていたカチューシャだが、流石にそろそろ飽きてきてしまった。

せっかく自分が入れてあげた紅茶が冷めてしまうのはもったいないし、何よりもこのまま沈黙が続いてしまうと睡魔に意識を持っていかれてしまいそうだから。

いくらなんでもダージリンの前で惰眠を貪るような無様は見せたくない。

そう思い、カチューシャは今一度、ダージリンに声を掛ける。



78 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:24:29.47 ID:xS+etstB0


カチューシャ「それで?いきなり来たと思ったらだんまり?お茶とお菓子の分ぐらいは私を楽しませてくれてもいいんじゃない?」


黙り込んだままのダージリンが顔を上げ、カチューシャを見つめる。

その碧眼はカチューシャを見つめようとしているのかそれとも目を逸らそうとしているのか、どうにも落ち着かない。

そんなダージリンをカチューシャはめんどくさそうに見つめ、ジャムを口に含んで紅茶を飲む。

紅茶が喉を通り抜け、その温度をカチューシャの小さな体に行き渡らせても、まだダージリンは口を閉ざしていた。


いい加減追い出そうかしらと、寒風吹きすさぶ窓の外に目をやると、そっとダージリンが口を開く。


ダージリン「……カチューシャ、あなたはなんであんな事をしたの」

カチューシャ「……あなたにどうこう言われるような事したかしら?」


ダージリンの曖昧な言葉の意味をカチューシャは理解していた。

元より、ダージリンがプラウダに来る理由と言えば一つしかないのだから。


先日行われた準決勝で、まさかの勝利を収め決勝へ駒を進めた大洗女学園。

その隊長である逸見エリカの『真実』を、カチューシャは大洗の生徒たちの前で告げた。

逸見エリカは、西住みほだと。

ダージリンが聞きたいのはその事なのだろう。


79 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:33:34.51 ID:xS+etstB0



ダージリン「エリカさ……みほさんの事情はあなたが一番知っていたはずでしょ」

カチューシャ「そうよ?死んだ奴の影に隠れていつまでも情けないったらありゃしない」

ダージリン「……その理由もあなたは知っていたはずでしょ」

カチューシャ「ええ、知ってたわ。だからやったの」


ダージリンの責めるような声に、カチューシャは一向に悪びれる様子が無い。

元より、カチューシャは正しい事をしただなんて思っていないのだから。

どれだけ恨みを買おうともそれでも、やらなければならないと思ったのだから。

そんなカチューシャの気持ちをダージリンも理解しているのだろう、今度は自分を恥じるかのようにうつ向く。


ダージリン「……そうね、本当はもっと早く誰かが伝えなければいけなかったのかもしれないわ」


あの時、大洗との練習試合で初めてみほと会った時、言うチャンスはいくらでもあった。

たとえそれでみほや大洗の生徒たちが傷つくことになったとしても、あの時ならばまだ傷は浅かったかもしれない。

そんな結果論に過ぎない後悔を割り切る事も出来ず、ダージリンは自らを苛む。


ダージリン「ケイさんやアンチョビさんや私が。あるいは杏さんが。誰か一人でも、もっとはやく踏み込んでおけば……」

カチューシャ「あなたちがどうこうする義理はないでしょ」

ダージリン「……カチューシャ、あなたが去年の事を悔やんでいるのはよく知っているわ」

カチューシャ「なんのこと?」


シラを切るカチューシャに構わずダージリンは続ける。



80 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:37:33.25 ID:xS+etstB0


ダージリン「……あれは、誰の責任でもない、不幸な事故。それで決着がついているし私もそうだと思っている。

      だけど、そう簡単に割り切れるものではないわ」

カチューシャ「あなたに、何がわかるのよ」


苛立ちを露わに、ペチーネを口に放り込んで乱暴にかみ砕く。

そんなカチューシャの抗議にダージリンは申し訳なさそうにうつ向く。


ダージリン「……ごめんなさい。口が過ぎたわ」

カーチュシャ「いつもの事ね」


そして、ようやくダージリンが紅茶に口をつける。

カチューシャが以前教えた『ジャムを口に含んでから飲む』というロシアンティーの作法を忘れたわけではないのだろう。

しかし、今のダージリンにはそんな余裕はなかった。

紅茶を楽しむためではなく、ただ乾いた口内を潤すためだけにわずかに口に含んで飲み込む。

何よりも紅茶に対してうるさいダージリンのそんな様子に、彼女がそれほどまでに心を疲弊させているのだとカチューシャは察した。

なんとか話を続ける事が出来るようになったのだろう。ダージリンは再び口を開く。


ダージリン「私は、みほさんと直接会った事は無いわ。だけど、知ってはいた。……次代の黒森峰を率いるであろう一人だったんだから」

カチューシャ「知らないほうが難しいでしょ。西住流の姉妹だなんて」

ダージリン「……優しく、思いやりがあって、どこか頼りなさを感じるけど戦車に乗っているときは冷静であのまほさんの意志を誰よりも理解して行動できる副隊長。

      私が知ってるみほさんは、そういう人だった」


ティーカップを持つダージリンの手がカタカタと震える。


81 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:39:57.18 ID:xS+etstB0



ダージリン「でも、私が会ったみほさんは、『逸見エリカ』だった」


言いたくなかった事、信じたくなかったことを吐き出すように伝えると、あとはもうため息のように言葉が続いていく。


ダージリン「信じられなかった。あの子が持っていたであろう柔らかく、穏やかな雰囲気が全て失われていたから」

カチューシャ「失われていた。じゃなくて、捨てたのよ。あいつは」


切り捨てるようなカチューシャの言葉にダージリンは悲しそうに目を細める。


ダージリン「……私には、みほさんの気持ちを理解する事は出来なかったわ」

カチューシャ「できるわけないでしょ。私だって理解できないわよ」


そう、理解なんてできるわけがない。

過去を求めて現在さえ歪めて、未来を捨てる。

そんなみほの気持ちを理解するだなんて事ができるわけがない。

どれだけ失われた命を悼んでも、どれほど自身の無力さを悔やんでも。


それでも、それでもみほはそうする事を選んだのだ。

きっと、誰かの理解なんか求めていなくて、だからこそ、それほどまでの決意が、絶望が、みほにはあったのだと、二人は感じていた。


ダージリン「それでも、もっと……やり方があったんじゃないの?」


82 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:45:21.24 ID:xS+etstB0

それは、咎めるというよりも縋りつくような言葉。

ダージリンはカチューシャなら、自分以外の誰かならもっと誰も傷つかない、方法があったのではないかと、そう思いたかった。

だから、カチューシャははっきりと告げる。


カチューシャ「その『やり方』を探しているうちに、あの子は決勝で西住まほと対面することになってたでしょうね」


ダージリンは納得と悔しさを沈黙で表す。


まほは間違いなくみほの真実を詳らかにする。

その確信がダージリンたちにはあった。

まほが持つみほへの怒りを、ダージリンは試合の中で感じていた。

もしもみほが何食わぬ顔で『逸見エリカ』として決勝の場に立とうとしたのならば、まほは躊躇なくその足元を崩しただろう。

そして、大洗の生徒たちが決勝という大舞台で自分たちの隊長の真実を知ったらどうなるのか、その先は考えるまでもない。


ダージリン「……そうね。カチューシャ、あなたが正しいのかもしれない」


カップをソーサーに置き、ダージリンはスカートの裾をぎゅっと握りしめる。


ダージリン「私は……逃げていたのよ。みほさんから、エリカさんから」

カチューシャ「それこそ、あんたたちがどうこうすることじゃないでしょ。そもそも、ダージリンは無関係なんだから」


カチューシャの正論にダージリンは唇を噛みしめる。

そしてそれを解くようにそっとため息をついた。

83 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:50:09.92 ID:xS+etstB0



ダージリン「そうかもしれないわね……私の心配は、ただのお節介で、ともすれば傲慢なのかもしれないわ……」


ダージリンが何も見たくないと言うかのように両手で顔を覆う。

その両手をそっと離して、潤んで、揺れる瞳でカチューシャを見つめる。


ダージリン「ああそうよカチューシャ。私は、善意や正義感であの子をそっとしておいたんじゃない。私は、私はただ……怖かったのよ」


それは、ずっと言うべきだった、ずっと言いたかった本心。


ダージリン「みほさんに触れることが怖かった。あの子の笑顔が怖かった。当たり前のように他人を演じる彼女が、怖くてたまらなかった」


大洗で初めてみほと会った時、ダージリンは内心動揺を隠すことで必死だった。

みほの現状は知っていたのに、覚悟していたはずなのに。


ダージリン「指先で触れるだけで壊れてしまいそうな彼女をただ、遠巻きにして、偉そうに心配して、それで自分を納得させていたのよ。何もしないくせに、できもしないくせに、それが、あの子のためだって」


仕方がない。自分に出来る事なんて無い。そうつぶやくたび安堵してしまい、同じくらい自身への嫌悪が押し寄せた。

そんな自問自答なんて何の意味もない自己満足だという事なんて気づいていたのに。



ダージリン「あの子が逸見エリカでいたいのであれば、それで良いのだと。時間がいつか解決してくれると。私は、そう思いたかった」

カチューシャ「私は、そうは思わなかった」


その独白を、カチューシャが打ち切る。


カチューシャ「誰かがやらないといけなかったのよ。最悪の結末なんてとっくに迎えているのだから。あとは、どれだけ傷が広がるのを防げるか。

       たとえ最後に深い傷をつけることになるとしても、やらないといけなかった。そしてそれが出来るのは、やるべきだったのが私だった。それだけよ」

ダージリン「……答えなんて、あったのかしら」

カチューシャ「……わかんないわよ。それでも私は――――覚悟して選んだわ。あの子を『壊す』選択肢を」

84 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/13(土) 22:51:05.89 ID:xS+etstB0
ここまでー
また来週。
85 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 23:25:44.18 ID:gbnDvCPA0
>>1ーシャ
カチューシャ健気
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/13(土) 23:32:52.48 ID:Dr3Nsb8pO
ダージリンでも怖い。
それはどれだけの事なのかな?(ポローン


((お疲れ様でした))
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 00:17:06.78 ID:P48Igsup0
ダー様よりカチュンのほうがメンタル強いパターン初めて見た。

88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 00:44:17.60 ID:A4qqAVm00
>>73
他人を罵倒するようなことをよく書き込めるよね、感心するわ。
89 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 01:07:10.99 ID:ElM5WkWw0

はっきり言って周りの人にみほの事を白雪姫と言いふらすばかりで自分から何とかしようとみほに行動はしてなかったからねダージリン
彼女の状況を外から見るだけで放ったらかしにして、それを見て楽しんでるだけのように見えてもおかしくないレベルで
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 03:05:56.15 ID:eJWKlhT50
>>1さんは黒森峰黄金期√とカチューシャ「私は、あなたたちを…編と書かないといけないものが増えちゃったね(ニッコリ
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 17:26:06.31 ID:0TuYqce20
>>90
黄金時代編……まぽりんがベヘリット使ってえりりんが精神崩壊してみぽりんがヤバい戦車乗りになるんやな!
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/14(日) 20:24:39.38 ID:mg106RrVO
最終章でエリカ活躍してエリみほssまた流行らないかな〜
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/15(月) 13:30:11.49 ID:leBAutci0
娘の不安定な面に気づかなかったしぽりん
妹が不安定な面に気づいていたのになにもしなかったまほ
自分の不安定な面の意味を理解できていなかったみほ
西住という家がおかしかったんだ
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/17(水) 00:30:57.55 ID:mCcLQ5q7O
確かに一般的にいわれるパーソナリティ障害まっしぐらな家庭環境はボコなり不器用感なり心の純粋さなりに公式で現れている気がしてるね
うん
ユニークではあるけどこりゃ戦車道止めらんないわ
西住流の宿業やね
島田流はどうなんだろうか
愛里寿ママはしほよりママ感あるけどパパ感かないよなあ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/19(金) 11:03:21.00 ID:9P+14MeH0
みぽりんは二度と自分には戻れなかった。
みほとエリカの中間の生命体となり永遠に大洗をさまようのだ。

そして死にたいと思っても[ピーーー]ないので 、そのうち、みほは考えるのをやめた。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/20(土) 17:59:06.13 ID:vZ/ksHWuO
その[ピー]がわからないのは俺だけなんやろか?
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/20(土) 21:15:26.98 ID:sktzU6Ux0
>>96
フィルターも知らない初心者ならローカルルール確認してきたほうがいいよ
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/20(土) 22:29:46.64 ID:o99WDEssO
あ、なるほど
律儀に○○を避けたのね

なんかもっと面白いワードが入ってるのかと
礼儀正しいのね
99 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/04/20(土) 22:46:05.23 ID:AaSZ+bzY0
あ、すみません。
今日ちょっと投稿できそうにないので明日でお願いします。
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/21(日) 11:56:46.45 ID:mBsG8k4P0
今週はあるのかな?
生きがいだけど自分のペースで書いてください
楽しみにしてます
101 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/21(日) 23:49:45.00 ID:U8m/w75d0




大洗女子学園に点在する学生寮、その一つであるアパートの一室の前に沙織はいた。

扉の前でじっと何かを考えていた沙織だが、覚悟を決めたように扉の横のチャイムを押す。

鳴り響くチャイムの音が扉を通して沙織の耳にも届く。

しかし、扉が開く気配はない。


沙織「西住さん」


ノックと共に沙織が部屋の主の名前を呼ぶ。


沙織「私、武部沙織だよ!今日は練習だからさ、一緒に行こう?」


努めて変わらず、以前と同じように明るく声を掛けたつもりだったが、やはり沙織の声はどこか強張っていた。

結局、扉は開かず廊下に沙織の独り言が響き渡っただけになってしまった。


沙織はため息を一つつき、小さく謝りながらドアノブに手をかける。

何度か力を入れて、ドアノブを回そうとするも僅かに音を立てるばかりで開くことは出来ない。


いっその事ベランダの方から侵入してやろうかと沙織が内心で空き巣まがいの事を考えていると、携帯の着信音が鳴り響いた。

確認してみると、送り主は『えりりん』。

文面は、


『ごめんなさい。今日は体調が悪いから休むわ』


それを見た沙織は悔しそうに、悲しそうに唇を噛みしめると、また先ほどのように明るい声を出す。


沙織「……わかった。何かあったら呼んでね?すぐ駆けつけるから!」


そう言って、逃げるように扉の前から去った沙織を、学生寮の前で優花里たちが迎える。


優花里「どうでしたか……?」


恐る恐ると言った優花里の問いかけに沙織は無言で首を振る。


優花里「やっぱり、今はまだそっとしておいた方が良いのでは……」

麻子「だからといって何もせずにいるのも違うんじゃないか」

華「私たちは、私たちで出来る事を考えるべき、ですね……」


優花里、麻子、華がそれぞれ意見を述べる。


沙織「私たちに出来る事……」


ポツリと沙織はそうつぶやくと、そのまま学校へと向かっていく。

そのあとを3人は小走りで追いかけていった。

102 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:00:30.36 ID:jQ2XiiXS0






準決勝が明けて、休日を挟んだ後の練習。

既に学園は夏休みに入っているが、間近に迫った決勝の為に練習を怠るわけにはいかなかった。

既に作成されているメニューの通りに練習をこなし、朝から始まった練習が終わったのは夕方に差し掛かる頃だった。


杏「みんなお疲れー。もうすぐ決勝だし、色々詰めていこうね。それじゃあ解散ー」


相変わらずどこか気の抜けたよな声で締める杏に、各々思う様な顔を見せつつも、その場を離れていく。

残ったのは生徒会チームと、その前に立ちふさがった沙織だけだった。


柚子は何事かとおろおろして、桃はじっと表情無く沙織を見つめ、杏はわかっていたかのように微笑む。


沙織「会長」


いつもの明るさのかけらもない沙織の声に、杏は困ったように笑う。


杏「……やっぱり、隊長がいないとみんなどこかぎこちないね。やっぱり、隊長がいないと……」

沙織「会長……あなたは、どうするつもりですか」

杏「……西住ちゃんの事はなんとかしてあげたいと思ってる。でも私は……今は大会の事を考えるよ」

沙織「……あなたが、巻き込んだんじゃないですか」


苛立ちを隠しきれてない震えた声が杏に刺さる。

沙織の怒りに杏はそれでも笑顔で答える。


杏「そうだよ。それを咎められても私は何も言い返せない。悪いのは全部私なんだから」

沙織「開き直らないでくださいッ!!」


沙織の怒声が校庭に響き渡る。

杏に怒りをぶつけたところで何も変わらない。それは沙織もわかっている。

どうすればいいかわからない自分への苛立ちもその怒りには込められていた。



103 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:04:13.33 ID:jQ2XiiXS0



杏はやっぱり困ったように笑うと、顔を伏せる。


杏「……ごめんね。でも、私は最後までやらないといけないんだ。優勝して、廃校を阻止出来たら……どんな報いでも受けるよ」

沙織「出来なかったら。廃校が決まったら今度はどうするつもりですか」

杏「……」


杏は何も言わない。

言いたいのに言えないのか、何も考えてないから言えないのか。

どちらでもいい。沙織はそう吐き捨てるように顔をしかめる。


沙織「私はっ……大会とかどうでもいい。西住さんの事をなんとかしてあげたい」


悔しさをこらえるように強く手を握りしめる。

廃校は嫌だ。だけど今、沙織にとって大事なのはそのことじゃない。

みほが辛いのなら、苦しんでいるのなら、助けてあげたい。

それが沙織にとっての最優先事項だった。


沙織「どうすればいいかなんてわからない。でも、あんな状態が正常なわけがない。だからっ」

桃「出来るわけないだろ」


その時、ずっと黙っていた桃が口を開いた。


沙織「……」

杏「河嶋……」

柚子「桃ちゃん今は……」


引き留めようと袖を引く柚子の手を振り払い、杏を押しのけ桃は沙織に迫る。


桃「お前が、あいつの何を知ってる。どんな気持ちで『逸見エリカ』と名乗ってたのかわかるのか?」

沙織「……」

桃「わかるわけがない。そんなの分かる奴なんていないんだ。あいつ以外には」


沙織と桃の視線がぶつかり合う。


104 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:05:06.15 ID:jQ2XiiXS0


桃「なのに、他人が横から口を出すなんて、そんなの上手く行くわけがない」

沙織「だからっ!!試合の事よりもそっちの方を考えるべきだってっ」

桃「いい方法がある」

沙織「え……?」

桃「西住にまた、元気になってもらう方法だ」

沙織「……何」

桃「西住にまた隊長をしてもらえばいい」


名案だとでも言いたげな桃に沙織は舌打ちしそうになる。


沙織「それで解決するならこんな事に……」

桃「あいつの望みを叶えてやればいいんだ」

沙織「それって……」

桃「『逸見エリカ』に戻ってきてもらえばいい」

沙織「ダメだよ……それじゃあ何も変わらない」

桃「変わらなくたっていいじゃないか」


105 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:22:43.63 ID:jQ2XiiXS0


沙織「……西住さんのお姉さんは、西住さんの事を嫌ってる。ううん、憎んでるように見えた。決勝に行って平穏無事に終わるとは思えない」

桃「だったら私たちが守ってやればいい。既に西住の事はみんな知ってる。いまさら暴露したって動揺するやつはいないさ」

沙織「それで、その先はどうするの。エリカさんのままにして、その後はどうするのっ」

桃「……時間が解決してくれるさ」

沙織「本気でそう思ってるの?本気で、あのままにしておけば西住さんが元気になるって思るの!?そんなのっ、桃ちゃん先輩だってわかってるでしょっ!?」


沙織がこらえきれず怒鳴ると、両肩を桃が荒々しく掴んだ。


桃「あいつはっ!!ずっと自分を責めていたんだッ!!逸見の事だけじゃないッ、プラウダとの試合で追いつめられた事だってッ!!」



『……桃ちゃん、あなたは自分を嫌いになった事がある?』



ずっと桃の中で繰り返されたいつかの問いかけ。

その意味が、今なら痛いほどわかってしまう。



沙織の肩を掴む手が震える。

こぼれた涙が校庭を濡らす。


桃「なのに私たちは……何も知らずに、あいつに何もかも押し付けて、勝利を喜んで……」


106 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:25:47.19 ID:jQ2XiiXS0


桃は廃校が嫌だった。みんなと一緒にすごしてきた学校がなくなるなんて嫌だった。

だから、みほを巻き込んだ。

たとえ恨まれたって学園を守れればそれで良い。そう思っていた。

だけど、今は、


桃「私は、私はもう嫌だ……何もできないくせに、責任ばかり押し付けるだなんて真似、できない……」



『私は―――――――エリカさんになれないの? 』



雪のなかに崩れ落ち、呆然と自分を見つめる真っ白な姿。

夢に見る、脳裏に蘇る、その姿が、出会った日から今日までの彼女に重なっていく。


そんな彼女に自分がどれほどの重荷を背負わせていたのか。

その事実は桃にとって、学園よりも重く、許せない事だった。


桃が沙織を突き飛ばすように肩から手を離す。


桃「もういいんだ……負けたって構わない。戦車道が嫌だというのなら、それでも良い。あいつの、好きにさせてやってくれ……私にはもう、それしかできない……」


そしてとうとう桃は泣きじゃくってしまう。

その背中を柚子がさすり、杏はやはり動けなかった。

そして、そんな生徒会の姿を見て、桃の言葉を聞いた沙織は、


沙織「……嫌だ」


それでも、


沙織「そんなの、私は嫌だよ」


揺るがなかった。


107 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:27:11.64 ID:jQ2XiiXS0



沙織「もう現状維持なんて無理なんだよ。私たちが西住さんの事を知った時点で、『私たちが知った』事を西住さんが知ってしまった時点で」


どのみち、先なんて無かった。たとえみほの真実を知らなくても、終わりは近づいていた。

そして時は巻き戻せない。どれだけ自分たちが彼女を気遣おうと、どれだけ守ろうと、沙織たちの知ってる彼女は『西住みほ』なのだ。


沙織「今ここで私たちが『エリカさん』を認めちゃったら、『西住さん』から目を逸らしたら、もう誰もあの子の事を見ることが出来なくなる」


罪悪感を抱えているのは桃だけじゃない。

出会ってからずっとそばにいたのに気づかなかった沙織も、同じように罪悪感を抱えていた。

みほに触れたくない。触れて、これ以上傷つけたくない。

その気持は痛いほどわかってしまう。


だけど、だからこそ、沙織はその願いを否定する。


沙織「たとえ傷つける事になったとしても、引っ叩いてでも、私は『西住さん』の言葉が聞きたい」

桃「そんな事する権利、お前たちにあるのか」


赤くなった瞳で、桃がにらみつける。

沙織はその視線をまっすぐ受け止める。


沙織「無いよ。でも、私たちは―――――西住さんの友達だから」


理屈や論理ではなく、どこまでも真摯な感情論。

その言葉に桃がはっと目を見開く。

その様子に沙織はふっと微笑むと、


沙織「桃ちゃん、あなただってそうでしょう?」


そう言って走って行った。



108 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/04/22(月) 00:41:18.94 ID:jQ2XiiXS0





結局、沙織はそのままみほの部屋の前まで走ってきた。

元より戦車道を始めるまで運動らしい運動なんて体育の授業でしかやってなかった沙織の体は悲鳴をあげ、

その痛みや息苦しさを乙女らしくないかな?なんて軽口を脳内で叩いて無理やりごまかす。

そして呼吸が整うのも待ちきれず、沙織は扉に向かって呼びかける。


沙織「西住さんっ」


返事は帰ってこない。

チャイムを鳴らしても、ノックしても同様。

だから、沙織はみほに呼びかけ続ける。


沙織「西住さんっ!!私、私あなたとちゃんと話がしたいの!!」


周囲の部屋への迷惑だなんてこの際気にしていられない。

沙織は疲れて息混じりの声で必死に声を上げる。


沙織「お願い、私と話をして。このまま終わりなんて、私……嫌だよ」


呼吸も整わない内に大声を出したからか、沙織の体はふらつき、前のめりに扉に寄りかかってしまう。


沙織「西住さんっ……」


その時、思わず手にかけたドアノブが抵抗しないことに気づく。

沙織は一瞬逡巡するように目を伏せるも、手に力を込め、引き剥がすように扉を開いた。


沙織「……西住さん」


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