【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」

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221 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 00:50:22.31 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃー「待って」

沙織「でもっ!」

典子「ちょっとだけ、待ってください」


ねこにゃーと典子の覚悟のこもった表情に沙織と桃は何も言えなくなる。

そんな彼女たちの様子を気にも留めず、梓とみほは向かい合っていた。


みほ「……」

梓「……いきなりぶたれたのに何も言わないんですか」

みほ「……理由は、分かってるし、私が悪いのもわかってるから」

梓「……私は、エリカ先輩が大好きでした」


脈絡のない梓の言葉をみほは黙って聞く。


梓「強くて、凛々しくて、風になびく髪が雪みたいにキラキラしてて、本気で戦車道に臨んでる姿が、本気になれるものが無かった私には輝いて見えて」


強張っていた梓の表情が言葉が紡がれるたびに柔らかくなっていく。


梓「だから、エリカ先輩みたいになりたいって、あの人の力になりたいって。そう思ってました」


口ずさむように思い出を語る梓が今度は唇を噛みしめ、悔しそうに、悲しそうな表情をする。


梓「でも、そうやって憧れた人はもう死んでて、嘘をついてたあなたは、そんな姿で、私……馬鹿みたいですね」

みほ「……ごめんなさい」


力なく肩を落とす梓に、みほが力ない謝罪で返す。

そんなみほを梓は舌打ちでもするかのように鋭く睨む。


梓「ねぇ、ありもしない人に憧れて、もういない人を信じてた私の気持ちは、憧れは、想いはっ…どこに行けば良いんですか……?」


信じていた人に裏切られた。それならまだ良かった。憧れが怒りになるのなら、あるいはあんな人を信じた自分が悪かったと言えるのならば、こんなにも梓の心は乱されなかっただろう。

けれども、梓が信じていた人なんて最初からいなかった。

目の前にいるのは憧れの人を騙っていた偽物で、

何よりも、『本物』なんて知らない事が、梓はたまらなく辛く、歯がゆかった。

握りしめた拳が真っ白になっていく。


梓「なんで、なんであんな嘘ついたんですか。なんで、私にあんな優しい言葉をかけたんですかっ!?なんで私に微笑んだんですかッ!?」



222 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 00:55:13.01 ID:HjQKnQVP0



厳しくも暖かい言葉が、笑顔が、梓の脳裏に蘇る。

それがあったから戦おうと思えた。

それがあったから強くなろうと思えた。

なのに、美しいと思った白い髪が今は忌々しく思えてしまう。


みほ「……嘘ついて、ごめんなさい」


梓を見つめながらやはり、みほが力なく謝罪する。

その言葉に、梓の目が大きく開く。


梓「私が、嘘を吐いたことに怒ってると思ってるんですか……?」


呆然と、信じられないものを見るような目。

その理由が分からず、みほは瞳で疑問を表す。

その瞬間、準決勝の日からずっと燻っていた梓の怒りが爆発した。


梓「違う……違うっ!!私が怒ってるのはっ、許せないのはっ!!」


みほの胸倉を梓が掴む。

鼻先を噛みちぎらんばかりに顔を寄せ、怒りを吐き出す。


梓「あなたがッ!私からエリカ先輩を奪った事だッ!!」


その言葉にみほが色を失い、見開いた目がぐらぐらと揺れる。


梓「信じてたのにっ、大好きだったのにッ!!」


223 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 01:19:09.19 ID:HjQKnQVP0



胸倉を掴む梓の手にギリギリと首を絞めるかのように力が込められていく。

その小さく細い体が放つ怒りは、先ほどまで梓を止めようとしていた沙織たちまでも飲み込むほどだった。


梓「貫き通せない嘘なら最初からつかないでよッ!!」


そう叫ぶと、梓の手からゆっくりと力が抜けていく。

胸元を離れようとした手がトン、とみほの胸を打つ。


梓「……私はっ、大好きな人を失ったっ……あなたが、そうした」


涙交じりで所々掠れているその言葉は、けれども一番強い意味と感情が込められていた。

みほはもう、息をすることすら精一杯になっていた。


梓「勝手に憧れてたのは私で、私に文句を言う権利なんて無いのかもしれない。でもっ……やっぱり、私はあなたのした事が許せない」


胸を打った手をそのまま押し込み、みほを突き放す。

辛うじて倒れなかったみほは、動揺したまま呟くように声を出す。


みほ「……私は、私はあなたに、同じことを……」

梓「同じ……?」


怪訝な顔をする梓をみほはどこか焦点の合ってない瞳で見つめる。


みほ「大切な人を、失わせた。その気持ちがどれだけ辛いのか、私は知ってるのに。空っぽの自分を埋めるために、あなた達を、利用した」

梓「同じなんかじゃないっ!!」


みほの言葉が言い終わるや否や、梓が再び激昂する。


梓「私はっ、あなたとは違うっ!!」

224 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 01:38:28.65 ID:HjQKnQVP0


そう言い切った梓は、浅い呼吸を繰り返す自分を落ち着けるためゆっくりと呼吸をする。

そして、少し落ち着きを取り戻すと真っ赤な瞳のままみほを睨みつける。


梓「私は、エリカ先輩のおかげで本気になれるものを見つけました。負けて悔しいって思えて、勝って嬉しいって思えるものに出会えました」


戦車道の授業が再開すると聞いた時、初心者の自分が大会に出るなんて考えていなかった。

友人たちに流されるように履修することを選んだ。

その戦車道に本気で打ち込んでいる人を見た。

強くて、凛々しくて、美しいその姿に自分も近づきたいと思った。

だから梓は、ここにいる。


梓「例えあなたの全部が嘘でも、私が見つけたその気持ちだけは本当です。どれだけ辛くても、どれだけ大きなものを失ったとしても、私は――――空っぽなんかじゃないっ!!」


みほに、皆に、梓は宣言する。

私は、私だと。

梓はみほの嘘の中で実(まこと)を見出した。


梓「だからっ、勝手に哀れまないでください。あなたなんかに、そんな顔される筋合いは無いっ!!」


その否定が、みほの中に響き渡る。

反響して、より強く心に刻みつけてくる。

みほの唇がゆっくりと弧を描いていく。

その瞳には目の前の後輩への尊敬と、敬意が込められていた。


みほ「……あぁ。あなたは、『強い』んだね」

梓「……私だけじゃないです。ここにいるみんな、同じ気持ちです」


225 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:03:25.13 ID:HjQKnQVP0


そう断言する。

みほが周りを見渡す。

二人の様子を固唾をのんで見守っていた皆の表情はどれも強張っていて、誰もがその瞳に強い意志があった。


空っぽなんかじゃなかった。


みほの表情が月を見つめていた時のように穏やかになっていく。

今まで見ていた『逸見エリカ』とは似ても似つかないその柔らかくどこか頼りなく見えるその姿こそが、『西住みほ』なのだと、皆は理解した。

そして、梓はようやく『本題』に入る。


梓「だから、答えてください。……あなたは、私たちと一緒に戦ってくれますか」


手を差し伸べたりはしない。

梓の瞳は突き放すかのように冷たく、鋭い。


みほ「……私は嘘つきだよ。あなたたちを、裏切ってたよ」

梓「知ってます。絶対に許しません」


欠片も温情を込めていないその言葉に、みほは安心感を覚えてしまう。

だから、もう一度訪ねる。


みほ「私は、エリカさんみたいに強くないよ。無様で、惨めなこの姿が、本当の私なんだよ。私は……あなた達の期待に応えられるような人間じゃないよ」

梓「わかってます。でも、あなたは私たちを本気にさせたんです。その責任を、果たしてください」


その言葉をみほは何度も何度も咀嚼するように頭の中で繰り返す。

ゆっくりと飲み込み、梓の目をまっすぐ見つめる。


みほ「……そうだね。それが、私に出来る事なら」


その答えを聞いた梓は、何も言わず皆の元へと歩いていく。

ねこにゃーと典子が、心配そうにみほを見つめる沙織たちの背中を押して、その中に連れていく。

残されたのは、みほ一人。

31人の視線がが、みほに注がれる。

それに気圧されそうになる心をぐっと抑えて、みほが皆と向き合う。


みほ「皆さん。私は……西住みほです。逸見エリカの名を騙って私は、あなたたちを騙していました。嘘をついていました。

   何を言われても返す言葉もありません。本当に……すみませんでした」


226 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:11:50.21 ID:HjQKnQVP0


そう言って頭を下げる。

罪悪感が胸の内で暴れる。

全部投げだして逃げ出したくなる。

そんな自分の心を、しっかりと抑え込む。


みほ「私にとって大洗(ここ)は、今でも他所です。私の世界は、今でも黒森峰です」


いつか、今日と同じように山頂で見た黒森峰の街並みは、今でもみほの中で輝いている。

数えきれないほどの思い出がそこにはあった。

思い出があった事だけは、覚えていられた。


みほ「この学園艦を守りたいなんて、私は言えない。そんな覚悟も決意も私には無い。だけど……」


きっともう、彼女以上なんてみつからないのだろう。

自身の贖罪の為に今度は大洗の皆を利用するのかと問われれば、否定はできないだろう。

それでも、


みほ「お願いします。私に、力を貸させてください。私に、戦車道をさせてください」


みほは、大洗(ここ)で戦うと決めた。


みほ「私に、何があるかなんてわからない。一番大切な人はもう、どこにもいない。それでも……こんな私が、力になれるのなら。私に、やらせてください」


『逸見エリカ』じゃない『西住みほ』には戦車道への誇りも、喜びも何も持っていない。

そんなものは最初から無かったから。

だからこれは、ただの『手段』だ。

自分にできるただ一つの、誠意の表し方だ。

本気で戦車道を楽しんでいる、本気で戦車道に向き合っている彼女たちと比べれば自分が戦車道をするだなんて、おこがましく、許されない事だとわかっている。

それでも今は、そうする事しか、みほには思いつかなかった。

227 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:21:37.04 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃー「西住さん。それが、キミの本音?」


深々と頭を下げるみほにねこにゃーが最初に声をかける。


みほ「……はい」


顔を上げないまま、みほが答える。


典子「西住さん、私たちじゃ、あなたの心を埋められませんか」


続けて典子が尋ねる。

やはり、みほは顔を上げないまま答える。


みほ「ごめん、なさい」


その様子にねこにゃーと典子は苦笑して顔を見合わせ、後ろを振り返る。


ねこにゃー「……そっか。みんな、どうする?」

カエサル「いや……どうするもなにも、決まってるだろ?」

典子「……これからもお願いします隊長!!」


ねこにゃーの問いにカエサルが答え、典子が勢いよく頭を下げる。

それを音頭に皆が頷いたり、そうだそうだと声を上げ同意を表す。

みほはゆっくりと顔を上げ、どこか信じられないといった面持ちで尋ねる。


みほ「……良いんですか?」

ナカジマ「良いも悪いも無いよ。元より君無しで勝てるとは思ってないし。……でも、ちょーっとだけ怒ってるかも?……ふふっ」


そう冗談めかすナカジマをそど子が肘で突く。


そど子「今さら一抜けたとか許さないわよ。ここまで来たんだから、ちゃんと最後までいなさい」

ねこにゃー「……澤さん」

228 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:22:49.09 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃーがじっと、みほを見つめていた梓に声をかける。

梓は一瞬躊躇するかのように地面を見つめると、ため息をついてみほへと向き直る。


梓「……皆はどうか知りませんが、私はあなたを許しません。だから―――今度は、あなたの姿を見せてください。許すかどうかは、その時また考えます」

みほ「梓さん……」


みほに背を向けてつかつかと去って行く梓の手をねこにゃーが掴み、典子が首に手をまわす。

急に引き留められた梓の喉からうぇ、っと詰まったような音が漏れる。


ねこにゃー「頑張ったね、澤さん」

典子「よく言ったぞ!!その根性最高だ!!」

梓「根性とかそういうんじゃなくて……私はただ、言いたい事を言っただけですって」


そう言ってそっぽをむく梓の髪をわしゃわしゃと典子が撫でまわし、ねこにゃーがうんうんと、頷く。

そんな3人の様子を、みほがどこか羨ましそうな目で見つめていると、優花里たちが声を掛けてきた。


優花里「西住殿!!また一緒に戦車道をしてくれるんですねっ!!」

華「今度こそ、あなたの花を咲かせましょう。私たちと共に」

麻子「私も、ちょっと頑張ろうと思う。だから西住さんもあんまり気負いすぎるな」

みほ「皆さん……」


優花里が、華が、麻子が、口々にみほへの想いを口にする。

そんな3人から一歩下がった所で、沙織がぎゅっと胸の前で手を握ったまま、みほへと語り掛けてくる。


沙織「みほ……あなたにとってエリカさんがどれだけ大きいのか、私はきっとちゃんとわかってないんだと思う」


わかるわけがない。わかってもおうだなんて思っていない。

みほは言葉に出さず、瞳でそう伝える。

それを受け取った沙織は、一歩も退かない。目を逸らさない。


沙織「でも、それでも、私たちはあなたの友達だよ。それだけは、忘れないで」

みほ「……はい」


229 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:24:06.81 ID:HjQKnQVP0



みほの力ない返事に沙織は少し悲しそうな表情をする。

二人の間に重たい空気が流れる。

どうしようかと優花里たちが顔を見合わせていると、その間を割って、桃が飛び出してきた。


桃「西住ぃ!!」

みほ「うわっ!?」


突然頭を抱えられ、ぐりぐりと撫でられる。


桃「良いかっ!?辛かったらちゃんと言うんだぞっ!?今度は私が……守っでや゛る゛がら゛!!」


力強い言葉は最後まで持たず、最後はダラダラと泣き出して判別のつかない言葉になってしまう。

けれど、みほには桃の言いたい事が痛いほど伝わった。

いつだって、誰かのために泣いている彼女の姿が、似ても似つかないはずの『彼女』になぜか重なって、

みほの声が優しくなる。


みほ「……うん。お願い、桃ちゃん」

桃「桃ちゃん言うなっ!!」

柚子「そこは譲らないんだね……」


後ろにいた柚子が呆れたように笑い、泣きじゃくる桃の背中をさする。

それを見たウサギさんチームの面々が面白がって桃を慰めに行って、それがどんどんと他のチームにも連鎖していく。

いつの間にか騒ぎの中心から外れたみほとそんな騒ぎを尻目に杏が向き合う。


杏「西住ちゃん」

みほ「会長……?」

230 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:32:03.04 ID:HjQKnQVP0



杏は何かを言おうと口を開け、二度三度瞳を揺らす。

何を言うべきか、結局思いつく言葉は一つだった。


杏「……ありがとう」

みほ「……私こそ、無理やり引き込んでくれてありがとうございます」

杏「言い方ちょっと棘がない?」

みほ「……ふっ」


僅かに口から息が漏れる。

反射的なもので、別に大した意味のあるものじゃない。

みほも、自分が笑ったと気づいていない。


けれども確かにみほは笑った。

エリカを失った日から作り笑いしかしてこなかったのに。

それが兆しなのか、一度きりのものなのか、まだわからない。



あや「桃ちゃんせんぱーい、いい加減泣き止んでよー」

桃「うるさいっ!!桃ちゃん言うな!!あと泣いてないっ!!」

おりょう「目ぇ真っ赤にしてそれは無理があるぜよ……」

桃「うるさいうるさい!!」


もうみほの事なんか関係なく好き勝手に騒ぎ出した皆をみほは目を細めて見つめる。

決勝で勝てる見込みがあるかなんてわからない。

彼女たちのために空っぽな自分に何が出来るかなんてわからない。

結局自分に出来る事は昔と変わらず戦車道だけで、

それすら縋りつくには余りにも錆びついて、崩れている。

だけど、それしか無いのだから。それだけは、残されているのだから。



『強さも、戦車が好きって気持ちも持っているあなたなら、戦車道だって好きになれるわよ。……私は、そう思ってる』


いつかの夕焼け色が蘇る。

あの時、彼女はどんな顔をしていたのだろうか。

呆れていたのか、笑っていたのか、怒っていたのか。

結局、思い出せないまま、みほは空を見上げる。

記憶がどれだけ崩れていっても、月明かりの美しさが彼女と似ていた事だけは覚えているから。



見上げた月は大きくて、それが空っぽの自分には随分と眩しいと、みほは目を細めた。


231 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:32:50.58 ID:HjQKnQVP0
さぁ投稿しよう!って段階でやっべ直すかこれ…ってなるのはなんでなんでしょうね。

寝ます。また来週
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 02:55:15.69 ID:0TZfNVe9O
ワクワクすんぞ
にしても梓ビンタとは肝が冷えたぜ

お疲れさまでした
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/19(日) 02:59:26.32 ID:72xWTJkhO
乙でした。寝ないで待ってた甲斐があった。
色々と問題残ったままながら一歩前進か。このままだとお姉ちゃんとの和解は難しそうだけど。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 04:18:29.43 ID:ugb4GMJ+0
今更みほに戻りましたって言われたらお姉ちゃんさらにブチギレだね。理由なんて聞いた日にはまたぶん殴られそうだ。
そんなちょっとエリカと一緒に居た(そもそも本人じゃない)だけの小娘に怒られたくらいで戻るのか!私のエリカへの愛の方が大きいわボケ!的な感じで
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 05:55:05.13 ID:qTLb22lCO
そういえば大洗勢は西住の闇を知らんのやな
まほパンチまたありかもな
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 08:14:30.84 ID:mvl57EXXO
乙でしたー
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 13:11:40.32 ID:AICBd4d6O
乙でした!
みぽりんの問題は解決とは言い切れないけど、
一先ずそれはそれとしてつぎの試合にはいけそうやね
次の更新気長にお待ちしてますー
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/19(日) 21:29:37.24 ID:WIvzG8Io0
お疲れ様。明日も更新頼むね。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/19(日) 22:14:27.16 ID:9Kw/gcXM0
age荒らしって幼稚すぎるからやめたほうがいいよ
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/21(火) 05:53:05.59 ID:jzKWQp5I0
更新そろそろかと思ったらまだ来てなかったンゴ…
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/21(火) 05:58:57.58 ID:jzKWQp5I0
来てたけどスレ更新出来てなくて気づかなかった…
ごめんなさい…このスレ完走するまで頑張ってください。
応援してます。
しがないファンの1人より
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/22(水) 15:35:33.67 ID:+DyHfj7+0
みぽりんは今までずっと、自分本来の得意技を封印して、縛りプレイしてたんだよね。
つまりここからのみぽりんはリミッター解除の本気モード発動と言うわけだわに。

ワクワクしてきたわに。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/22(水) 18:11:01.40 ID:8wyfBQCsO
そろそろみほ杏の予感がする気がする
気のせいかな?
まあみほさおでもいいんだよ?
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/24(金) 10:05:50.87 ID:Rfx03BzxO
この世界線のダージリンとは一体なんなんだろう
もっとみほに迫っていくかと思ったがドラマの傍観者になったのか
いきなりズキューンっとやるような気がしたが
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/25(土) 03:01:55.07 ID:QPonFAp6O
土曜日だよ
やったぜ
246 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/05/25(土) 18:51:43.64 ID:StDOPFcY0
今日の投稿難しそうなので明日でお願いします。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/25(土) 18:55:51.51 ID:84FarmZH0
らじゃ
あとここで書くことでない気もするけど未央おめ!
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/26(日) 07:07:55.14 ID:QZ2B9VRaO
待ちきれないんだなもぉ
早くくれよ はあはあ ガタガタガタガタ
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/26(日) 09:55:00.45 ID:+FrznF41o
そう思ってんならいちいち書くなよボケ
250 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:29:08.09 ID:GNcdhecc0







生徒会室に置いてあるテレビに映画の終わりを示す『FIN』の文字が浮かび、消えていく。

それを見届けた優花里がリモコンの停止ボタンを押し、振り返る。


応接用のソファーに座っているのは優花里を除いたあんこうチームの面々と各チームリーダーたち。


沙織は乾いた笑い声を出しながら小さく拍手。

華は爪を見ている。

みほは決勝のための資料を纏めると言ってそもそも観ていない。

カエサルは沈痛な面持ち。

ねこにゃーはゴミを見るような目。

典子は寝ている。

梓は席を立って窓の外を見ている。

そど子は映画を見ているようで『世界の風紀を正すには』をテーマに脳内討論を重ねていた。

ナカジマは無の表情。

杏は口元は笑っているものの目は笑っていない。

柚子は開始10分でトイレに立ちたった今戻ってきた。

桃は『難解な映画だな……』と首を捻りながらうんうんと考えている。


そんな面々の様子に優花里はため息を堪えて尋ねる。


優花里「……感想をどうぞ」


そう告げて即座に質問タイムを打ち切ろうとするもそうはいかぬぞといった風に麻子が挙手をする。

優花里が一瞬舌打ちでもしそうに顔をしかめたものの、しぶしぶと言った様子で指名する。


優花里「……はい、麻子殿」


優花里の指名に麻子はゆらりと立ち上がり、こほんと咳ばらいをする。

251 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:41:51.92 ID:GNcdhecc0



麻子「……2作目は駄作の法則ってのがあるがそんなところまでリスペクトしなくてもいいんじゃないか?」

優花里「うぐぅっ!?」


大仰に胸を抑えるリアクションを意に介さず、麻子は更に優花里を刺し貫いていく。


麻子「というか『サンダーフォース』の2作目って銘打ってはあるが実質別物だろこれ」

優花里「な、何を言ってるんですかぁ?ちゃーんと続編ですよ?」

麻子「……秋山さんの持ち味は細かい事情なんてクソくらえだと言わんばかりの爽快な映画だったはずだ。なのに今回はやれ人種差別だやれ男女平等だやれ地球環境だ。挙句の果てには仲間内での喧嘩までおっぱじめる始末だ」

優花里「同じことやったって飽きられるだけですし、そういうテーマだって必要ですって!」

麻子「それらの要素が悪いという訳じゃない。そういうテーマを持って名作にしている映画はいくらでもある。

   だが今回の場合テーマが別にあるのにそればっか前面に押し出して結果的に本来のテーマがおろそかになるのはいかがなものかと思うぞ。ていうかなんであいつらあんなギスギスしてるんだ」

優花里「チーム内での諍いなんて前作でもあったじゃないですかぁ!」

麻子「あれは諍いというよりもじゃれあい。お互いがお互いを信頼しているが故に出る軽口であって、実際そういう部分はギャグとして描写してただろ」

優花里「は、はは……」


優花里の苦しい言い訳はどんどんと打ち返されて行き、とうとう乾いた笑いしかだせなくなってしまう。


麻子「そしてこれが一番の不満なんだが……なんで前作のメインメンバーを冒頭で殺した?」

優花里「い、いやそれは……」

麻子「理由があって殺すならまだしも大したドラマもなく本当にただの事故死って……何を考えているんだ」

優花里「……スポンサーからの要望がメインキャストの交代でして」


『やっぱりな……』と麻子がため息をつき、ポリポリと頭をかく。
252 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:45:34.86 ID:GNcdhecc0


麻子「いきなり知らん顔たちがさも『いつものメンバーだ!』みたいな顔で出てくるから『ケイさんあんな色黒だったか……?』って一瞬本気で混乱したぞ」

優花里「ま、まぁ、元より作品ごとにメインメンバーを変える予定でしたからね?」

麻子「……OK。その言い訳は認めよう」

優花里「言い訳なんかじゃ……」

麻子「だが他にも言いたい事は山ほどある。そうだな……予算の使い方がおかしくないか?」

優花里「え?」

麻子「キャスト変更もだが、やたら爆破してたな。あれサンダースの校舎の1/3くらい吹っ飛んでたぞ」


麻子は思い返すのも苦痛なレベルの映像を脳内で再生して苦い顔になる。

そんな麻子の内心を知ってか知らずか、恐らく知ったうえで優花里はおどけたように笑って見せる。


優花里「……爆破の豪快さは前作でも人気だったから必然的に増えただけですよ。爽快だったでしょ?」

麻子「……予算が増えたのはセットや爆破のド派手さでなんとなく察せるが肝心のストーリーがあれじゃな……爆破だけ見るなら花火みたほうがずっとマシだ」

優花里「なっ!?」

麻子「なんというか全体的に優花里さんらしくないというか……『こうすればユカリ・アキヤマっぽいだろ?』っていうのが透けて見えたな。そこに秋山さんのクレジットが前作までの監督から制作総指揮になってたのも考えると……」


麻子が優花里の隣に立ち、首に手をまわして屈ませる。

そしてその耳元でそっと呟く。


麻子「……秋山さん、あんまりタッチしてなかっただろ?」

優花里「う……」


優花里が視線を逸らすのを麻子は見逃さなかった。


253 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:46:45.66 ID:GNcdhecc0




麻子「撮影期間はどのくらいだ?準決勝前からあれこれしてたと考えても一ヵ月無いだろ?直接指揮するのはもちろん制作状況すらまともに把握できてなかったんじゃないか?」

優花里「そ、それは……」

麻子「人気が出て、絡む金も大きくなる。そうすると色んなしがらみも増える。私にだってそのぐらいはわかる。次回作をすぐに作るよう要求されたんだろ?」

優花里「……そ、そうです。お金はあっても時間は無くて……全国大会の事が第一ですしどうしても……だ、だから今回の出来は」

麻子「だからといって観客を蔑ろにするのはいただけないな」

優花里「ぐっ……」


優花里の甘えた態度に厳しく返す麻子。

まだ麻子のターンは終わらない。


麻子「興行収入や観客動員数は知らないがサンダースで人気だってのを考えると1000や2000じゃきかないだろ?それだけの観客を裏切った気分はどうだ?」

優花里「そ、それはちょっと恣意的な意見が過ぎると思います……」

麻子「キャストの変更は自分で告げたのか?どうせ代理に任せたんだろ?いきなり降板を告げられた挙句こんなのが続編だと言われたケイさんたちはどう思うだろうなぁ?」

優花里「そ、そんなの麻子殿に言われる筋合いはありませんよっ!!?」


開き直って声を上げる優花里を麻子は寂しそうに見つめると、そっと離れる。


麻子「……ああ、その通りだな。ならこう尋ねようか。……秋山さんはそれを許せるのか?」

優花里「うっ……」

麻子「初めて映画を撮った時の自分に今の映画を見せられるか?仕方ないんだって言い訳するのか?」

254 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:47:44.71 ID:GNcdhecc0



元々映画に興味なんかなかった。

たまたま友人が撮ってきた映画だったから見ていただけだった。

気づけば名作大作B級駄作問わず色んな映画を借りては見ていた。

麻子の趣味にいつの間にか映画鑑賞が加わっていた。

きっかけは間違いなく優花里で、だからこそ麻子は怒っていた。

夢と希望と趣味を大鍋で煮詰めたような優花里の作品は確かに粗も欠点も多かった。

だけど、確かに光るものがあった。

そんな優花里の最新作は駄作というのもおこがましいものだった。


麻子「小難しいお題目や色んな人に配慮した展開の挙句なんの爽快感も無い映画は秋山さんから見てどうだ?それが自分の名前で世に出された事はどうだ?――――世に出された作品は消すことが出来ないのにな」

優花里「う……うわあああああああんっ!!ごめんなさいいいいいいいいいっ!!」

沙織「もうやめて麻子!ゆかりん泣いてる!!」


とうとう我慢できなくなりわんわんと泣き出した優花里を見かねた沙織がレフェリーストップを入れる。

今ここに、秋山優花里のクリエイターとしてのプライドは粉々に砕かれた。


麻子「駄作がダメなんじゃない。クリエイターが好き勝手すれば良い物が出来るだなんてのは幻想だとわかってる。それでも、本気で取り組んだ結果の駄作なら次につながる。駄作としても中途半端なものは本当にただただ『無』なんだ。それだけは、忘れないでくれ」

優花里「は、はいぃ………」


床に手を着き涙を流す優花里に麻子がそっと寄り添い思いを伝える。

次があるかなんてわからない業界だ。

それでも、次こそは良い物を、面白いものを。

その気概が、決意こそが明日の名作を作るのだと、麻子は信じている。


255 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:50:15.03 ID:GNcdhecc0


杏「それで決勝だけどさー、どうする?」


そんな優花里と麻子のコントを見届けた杏が干し芋を齧りながらみんなを見渡す。


カエサル「今の一幕必要だったか?」

ねこにゃー「ゴミクソ映画見せられて無駄に時間の浪費しただけなんだけど」

優花里「うぁーーーーーーんっ!!」


カエサルとねこにゃーの辛辣かつ的確な意見に再び優花里が床に突っ伏して泣き出してしまう。


沙織「お願いっ!!今はゆかりんをそっとしといてあげて!!」

杏「えっと……とりあえず西住ちゃん、お願い」

みほ「あ、はい」


おいおいと泣きじゃくる優花里の背をさする沙織を尻目に、杏の指示を受けみほが皆の下へとやってくる。

なんとなく、空気が引き締まるのを感じ、皆の背筋が伸びる。


みほ「えっと、決勝戦で戦う黒森峰は高火力にして堅牢な重戦車を中心とした編成を好んでとっています」

優花里「硬くて強い!質実剛健こそがドイツ戦車の華ですね!!」

沙織「あ、復活した」


立ち直りの早い優花里にみほは苦笑して説明を続ける。


みほ「そこに厳しい訓練と厳格な規律によって維持される隊列が加わることで正面からの勝負では無敵と言っても過言じゃありません」

沙織「なら、どうするの?」


沙織の疑問にみほは一瞬考え込むように押し黙ると、覚悟を決めたように口を開いた。


みほ「……私が提案できる最善の策は、フラッグ車を孤立させて撃破する」

沙織「それって……」

みほ「はい。サンダース戦で本来とる予定だった作戦です」


結局、サンダース戦では作戦通りにはいかず、そもそも作戦通りに行った試合など一度もない。

けれども、これしかないのなら、やるしかないのだ。

256 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:52:20.97 ID:GNcdhecc0



みほ「……結局のところ戦力に乏しい私たちが出来る戦術はこれしかありません。真正面から戦って勝てる相手なんてアンツィオぐらいでした」

沙織「その言い方はちょっと聞こえが悪いかなーって……」

華「ですが、それが最善なのでしたら」

優花里「……勝てますか?」


優花里がおそるおそる尋ねると、みほはゆっくりと首を横に振る。


みほ「……勝てるだなんて、とても言えません。黒森峰は、あの人たちは強いです」


他でもないみほがそれを一番よく知っている。


みほ「戦車だけじゃない、積み重ねてきたものが違います。鍛え上げてきた実力があります」


4年間、ここにいる誰よりも近くで見てきたから。どれほどの努力を積み上げ、どれだけ挫折してきた人がいるのか、

そして―――そんな黒森峰を誰よりも愛していた人を知っているから。


みほ「断言します。黒森峰は、今大会……いいえ、高校戦車道最強の学校です。そして私の……大切な場所です」


たとえもう戻れなくても、疎まれ、恨まれていたとしても、かつての母校は今でもみほの中で輝いている。

それでも、


みほ「それでも、私はあなたたちを勝たせたいです。嘘だらけの私を受け入れてくれた恩に報いたいです。だから……私を、信じてください」


それでも今は、彼女たちの為に。

全てが終わった後、どんな報いでも受けるとしても。

……元より、私はもう終わった身なのにね。

みほが頭を下げながらそう内心で自嘲する。


257 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:55:47.64 ID:GNcdhecc0


沙織「……信じるよ。あなたと、私たちならきっと勝てるって」

華「ここまで来たのですから、最後まで美しく走り抜けましょう」

麻子「信じているさ、頑張ろう西住さん」

優花里「私はまぁ、戦車に乗れただけで満足な所ありますから……あ、でも勝ちたいのは同じですよ!!優勝して凱旋パレード目指しましょう!」


沙織たちがそう笑いかける。


カエサル「ここまでこれた事自体が奇跡みたいなものなんだ。だったらもう一回ぐらいならいけるさ」

そど子「あなたに対しては風紀的に色々言いたい事あるけど、今はやめておくわ。……頑張りましょう」

ナカジマ「今さら疑う様な事しないよ。君たちの努力と頑張りと本気さは君たちの戦車が何よりも教えてくれたからね」

杏「西住ちゃん、巻き込んだのは私なんだからそんなに気負わなくていいよ」


カエサル、そど子、ナカジマ、杏がそう言ってみほの肩を叩いていく。


すると、みほの事を窓際の梓がじっと見つめている事に気づく。


梓「……あなたが一番戦車道に詳しいんですから、言われた事には従いますよ」


そう言ってまた窓の外に目を向ける背中を、典子が苦笑しながらポンポンと叩く。


典子「澤はこう言ってるが、ちゃんと隊長の言葉を信じていますよ。私も」

ねこにゃー「後悔とかそういうのは全部終わってからにするよ。今は……西住さん、キミを信じるよ」


信頼が揺らいだことがあった。あの人を信じて良いのかわからなくなった事もあった。それでも、典子もねこにゃーも今はみほを信じることにした。

きっと、梓もそうであると信じて。


258 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:57:17.85 ID:GNcdhecc0


桃「やるしかないんだっ!!だから……やるしかないんだっ!!」

柚子「桃ちゃんおんなじこと言ってるよ?」

桃「う、うるさいっ!!いいか西住!!私たちはお前を信じるぞっ!!」


みほの言葉にやっぱり目元を赤くした桃が勢いのままがなり立てる。

それを柚子が宥めるも、火に油を注ぐ形となり桃は更に声を上げて、そしてみほをしっかりと抱きしめる。


桃「でもっ……気負うな、背負うなっ……何があっても、自分のせいだなんて思うなっ」

みほ「……うん。わかったよ桃ちゃん」


そっと桃の肩を押し、みほは微笑む。

その笑顔が嘘なのだと、桃にはわかった。

けれど今は、その言葉が聞けただけで良しとするしかなかった。

そんな桃の気遣いもみほは気づいていた。

だから、みほはまた頭を下げる。

桃だけではなく、ここにいる全員への感謝を込めて。


みほ「……ありがとうございます。それじゃあ作戦を詰めましょう。黒森峰が使ってくるであろう戦車はティーガー、ティーガーUそれに――――」


全てが終わった後、自分がどうなったって構わない。

だけどせめて……この学校は救いたい。


かつて大切な人の手を掴みきれなかった右手をぎゅっと握りしめて、みほはそう決意した。


259 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/26(日) 23:58:42.32 ID:GNcdhecc0
ここまでー。
もうすぐ最終章2話公開ですね。
私の家の近くの映画館でやってくれるので大変ありがたいです。
ドラマCDも発売しますし色々と新しい情報が出てくるのが楽しみですね。

また来週。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 00:41:51.15 ID:BVdRhBbb0
乙、来週が待ち遠しい…。
ワイは公開日に茨城に帰って見てくるやで、楽しみや
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 02:19:40.80 ID:c7MrEbnH0
ほんと桃ちゃん好き

今の梓に対してウサギさんチームはどう想ってるんだろう
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 03:17:00.29 ID:VUxwFWi2O
まほ怖い
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 06:57:11.55 ID:c7MrEbnH0
このSSのまほなら1対1にわざわざ付き合ってあげることはしないだろうなあ
妹への温情なんてこれっぽっちも持ち合わせてないから、大洗が勝つビジョンが全く見えない
軍神覚醒でワンチャンってぐらいか
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 09:58:47.77 ID:rEEuyaMDo
むしろこのまほのほうが自分の手で引導渡すとか私情思いっきり挟みそうだと思うわ
一対一になったのは意図した訳じゃないしそこから味方くるまで逃げるなんてことはしないでしょ
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 12:34:59.23 ID:vxAjsEEbO
来週のガルパンは...

試合前日に乱闘騒ぎ!?
まほパン再び!!
か、会長がケガ?!
ええっ!?大丈夫!?
怒りのアフガンと化すみぽりん!!
心揺れ動く赤星小梅さん、
パ、パイプイス攻撃い!?
や、やだもー!!

あんこう、ご期待ください。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 12:43:07.68 ID:wJcbgv3TO
更新乙です!
なんか懐かしい流れだと思ったら、ゆかりん最後の潜入がプラウダ戦前だからか
あれからあんこうチーム内で喧嘩があって、プラウダ戦があって大作過去編を経て今に至るわけだし
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 12:59:51.68 ID:qQQSo+hm0
正直原作だとちょっとあれな桃ちゃんがここまで立派になってくれるとは…
今のまほは逆に私情挟みまくりでプラウダみたいなことしそう
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 13:05:28.08 ID:jLc8cevKO
事故以前だとまほが一番病んでたからなぁ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/27(月) 18:47:05.07 ID:zEwgBFOJO
みほは結局どうするべきなのか
救いは無いのか
そもそもレズなのかどうなのか
教えてくれごひ
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 01:27:03.42 ID:gwoBHDW1O
お前らもう少し大人な書き込みができないのかね
正直小学生かと疑うレベルだぞ
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/29(水) 22:37:37.58 ID:3j5+UAP8o
ねこにゃー辛辣過ぎて笑った
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/01(土) 13:20:17.30 ID:NFL+VbLY0
早く書いて
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/01(土) 21:40:54.18 ID:vFV/lg1c0
本当に毎度毎度楽しみすぎて、週末になると意識せずとも指が自然とこのスレを開いてしまう
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/01(土) 22:29:11.45 ID:5c1QZ6ocO
この世界線のエリカは神格化されて神話になったのだ
275 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:04:08.76 ID:z9x6Xcan0





決勝が二日後と迫ったある日の昼下がり、いつも戦車たちが出番を待つばかりで静かな車庫の中は騒々しい賑わいを見せていた。

全チームが各々の車輛の整備、清掃に奔走して、来るべき決勝へと備えている。


優花里「マークWスペシャル!それにヘッツァーも!!良いですねぇ!!」


そんな賑やかな車庫の中でも一際大きな優花里の歓声が響き渡った。

優花里の目の前には砲身の換装とシュルツェンを増設したW号戦車と、『元』38tが並んでいた。


38tはその車体上部を丸々交換し、元々の戦車然としたシルエットから四角錐台に砲塔が生えているといったような見た目へと変貌を遂げ、その名もヘッツァーへと変わっていた。


強化された二輌をじっと見つめるみほの後ろに杏と柚子と桃がやってくる。


杏「決勝進出が決まって義援金が結構集まってねー。ヘッツァー改造キット買っちゃった」

柚子「その義援金ももうすっからかんだけどね……」

桃「だが、それでも何もしないよりはマシだ。打てる手は全て打っておく、最善を尽くすのが今の私たちに出来る事なのだから」


杏は一歩前に出てみほの隣に並ぶ。


杏「ホントはさ、西住ちゃんに相談するべきだったんだろうけどね。時間が無くてさ、悪いけどこっちで勝手に決めちゃったんだ。ごめんね」

みほ「いえ、これで正解だと思います。戦車が増えても乗員を探している暇はありませんし、なら今ある戦車の強化に努めるべきです」

杏「そっか。なら良かった」


それで、会話が途切れる。

金属が鳴らす音、慌ただしく動く足音、あれこれと話す声。

騒がしい車庫内なのに、二人の間には静寂が流れる。

それが耐えられなかったのか、杏はヘッツァーを見つめながらいつもの様に気の抜けた声を出す。


杏「にしてもヘッツァーって面白い形してるねー。実物を見ると猶更そう思うよ。これ上手い事突っ込めばジャンプ台にならない?」

みほ「それはちょっと厳しいかなーって……」

杏「うーん、残念」


しかしながら杏の小ネタではみほとの間に会話のラリーを繋げられず、また黙り込んでしまう。

いい加減どうにかするべきだろうかと柚子と桃が心配になってきた辺りで、また杏が声を出す。

今度は、真面目に、静かに。


杏「……色々あったけどさ、それでもここまでこれたのは西住ちゃんのおかげだよ」

みほ「……それでも、私のしたことが許される訳じゃありません」

杏「……それも、私のせいだから」

みほ「違います。私がやったことは、全部私のせいなんです。あなたの思惑は私がみんなを騙した事とはなんの関係もありません」


先ほどとは真逆に、間を置かず即座に返球されたことに杏は内心で苦笑する。


杏「……西住ちゃんは頑固なんだね」

みほ「……」


その言葉に、みほは返答しなかった。

276 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:15:40.37 ID:z9x6Xcan0





そんな二人をM3の整備をサボってあやが見つめていた。

みほの正体が判明したあの日以来みほと杏はいつも重い空気を纏っていて、正直言って辛気臭いとあやは思っていた。

事情は分かったが、だからといってあんな風に陰鬱とした雰囲気は一年生らしい後先考えず目の前の出来事を軽く受け止め大いに楽しんでいるあやには随分と奇異で、近寄りがたく写っていた。

そして、そんな辛気臭い空気を纏った人が身近にいる事もあやの頭痛の種となっている。


埃と煤に汚れたメガネを拭きながら、一心不乱に整備をしている梓に声を掛ける。


あや「梓―いい加減隊長と仲直りすれば?」


その言葉に、梓以外の面々も手を止め、目を合わせて同意する。


優季「そうだよーせっかく頑張ろう!ってなってるのに空気悪くなっちゃうー」

梓「別に、仲直りしなくても試合は出来るから」

桂利奈「あいぃ……」


優季の同調に梓は手を止めず抑揚のない声で拒絶する。

その冷たい声に桂利奈が恐れ慄き口から怯えた声が漏れてしまう。


あゆみ「まぁ梓だって好きでツンケンしてるんじゃないからさ。今はそっとしておこうよ」


これ以上突っ込んでもケンカになるだけだと判断したあゆみが、そう言って皆を宥めるも、

あやは納得いかないといった様子で唇を尖らせ、ため息をつく。


あや「はぁ……あんなに先輩!先輩!って懐いてたのに」

梓「私が好きだったのはエリカ先輩だから。あの人は違う」


若干嫌味を込めた言葉も梓には響かなかったようで、ただただ冷たい拒絶だけが帰ってくる。

もちろん、あやも梓の気持ちは分かっている。

なんだかんだ今日まで6人でつるんできた仲で、彼女が逸見エリカという先輩にどれだけ入れ込んでいたのかも近くで見てきたのだから。

その気持ちが裏切られたと思うのも当然で、簡単には仲直りなんてできないだろうというのもあやには分かっているが――――だからと言ってそのせいで自分に被害が出るのは御免被りたいというのが本音だ。


あや「梓ー……」

紗希「……」


不満を露わに梓の名前を呼ぶと、その肩をポンポンと紗希が叩く。

振り向くと、ゆっくりとその首を横に振りあやに意見する。

それでもう、あやはお手上げとなった。


あや「……わかった。もう言わないってば」


あやとしては心残りではあるものの、今ある友情にヒビをいれてまで解決したい問題ではないのだ。

まぁ、時間が解決してくれるよね。

そう、後回しにしてあやは綺麗に拭き終わったメガネを装着し、再び整備へと挑んだ。

277 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:44:47.32 ID:z9x6Xcan0




夕暮れの車庫でみほは一人W号と向き合っていた。

履帯のゆるみが無いか、増築したシュルツェンに不備はないか。

W号だけではなく、ほかの戦車も見回って不備が無いかチェックしていた。


沙織「まだやってるの?」

みほ「え……?」


突然後ろからかけられた声に振り向くと、そこには呆れたような顔でこちらを見つめる沙織と、

心配そうに見つめる優花里たちがいた。


沙織「整備、皆頑張ってたし大丈夫じゃない?」

みほ「別に、それを心配しているわけじゃありません。ただ……」

沙織「ただ?」

みほ「……何もせずにいられないだけです」


その呟くような声に、優花里がため息交じりに感嘆する。


優花里「西住殿は真面目ですねぇ……」

みほ「違うよ。ただ、こうやって無心で戦車をいじっている時だけは、私がしたことを考えなくて済むから」


そういうと沙織たちから視線を外し、再び目の前のW号の点検を始める。


みほ「罪悪感に潰されるのも、自分への怒りへ飲み込まれるのも、全部終わってからにしたいから。だから……」

沙織「ねぇみほ。明後日、決勝が終わったら何しよっか」

みほ「え?」


そんなみほの目の前に割り込むかのように沙織がW号に腰かける。

何をしているのというみほの視線をあえて無視して、沙織は小首をかしげて思案する。


沙織「私は……うーん、どうしよう。とりあえずお風呂入って、ご飯食べてー……」

優花里「それいつもの事じゃないですか」


優花里が即座に突っ込んで沙織はそれにむー!と頬を膨らませる。

すると、今度は華が両手の指先を合わせて思い付いたように頭頂部のくせ毛を揺らす。

278 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:46:49.70 ID:z9x6Xcan0


華「決勝後なんですからもっとこう、いつもと違う事がしたいですね」

麻子「寝る」

沙織「それこそいつもの事じゃん……」


相変わらずな麻子に沙織はジト目で呆れると、その視線を未だ状況を理解してないみほに向ける。


沙織「ねぇみほ。何がしたい?」

みほ「……そんなの、考えてられませんよ。だって、決勝で勝てなかったら……」

沙織「それでも、だよ」


みほの言葉が言い終わる前に沙織は言葉をかぶせてくる。


沙織「勝っても負けても明日は来るんだから。だから、何をしようか考えるの」


車庫の天井を見上げて、沙織は嬉しそうに語る。


沙織「勉強でもいいし、遊びでもいいし、とにかく予定を立てるの」

華「なら私、行ってみたいレストランがあります」

優花里「それたぶん一人前が4人分とかそういうところですよね?」

麻子「打ち上げするならちゃんと予約しないとな」

優花里「あー生徒会に頼んで良いところ予約してもらいますか」

華「アンツィオの皆さんに頼めたら良いですね……料理、とっても美味しかったですから」

優花里「頼めばやってくれそうなのがあの学校の凄いところですね……」


あれやこれやと好き勝手に語りだす面々に沙織は再び頬を膨らませる。

279 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:54:41.02 ID:z9x6Xcan0


沙織「もー!ご飯の事ばっかじゃなくてさー!!ほら、旅行とかそういうの!!」

麻子「めんどくさい」

華「あまり、どこに行きたいというのは……」

優花里「あ、自衛隊の総火演行きたいです決勝後にありますし。プロが動かす戦車は迫力満点です!!」

沙織「また戦車ぁ?」

優花里「聞いたの沙織殿じゃないですかっ!」

沙織「はぁ……ま、いっか。とりあえずその方向で」

優花里「やったー!!」


蚊帳の外のままいつのまにか話が纏まっている事にみほがオロオロとしていると、

沙織は悪戯っぽく微笑んでみほに語り掛ける。


沙織「みほ、決勝頑張ろうね」

みほ「……私に出来る事なんてたかが知れてますけどね」

沙織「もぉ……」


相変わらず自虐的なままのみほをどうしたものかと沙織が腕を組むと、優花里が拳を握って力説しだす。


優花里「西住殿の力があったからこそ、ここまでこれたんですってば!」

麻子「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ」

みほ「……ごめんなさい。でも……」


申し訳なさそうに頭を下げるものの、一向にその表情に明るさが灯る事は無く、

沙織はもういいと言わんばかりに、ジェスチャーで頭を上げるよう伝える。


沙織「わかったわかったから!そんな落ち込まないでよ」

華「気落ちしたところで芽吹くものはありませんよ」

みほ「はい……」


気遣われるばかりで、何も出来ない自分をみほが恥じて俯く。

それを見かねて沙織たちが口々に励ましの言葉をかける。

ようやくみほが顔を上げようとした時―――――コンクリの床を何かが打つ音がした。

280 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:57:18.45 ID:z9x6Xcan0


その音がした方にみほたちが振り向くと、夕日を背負って立つ人影があった。

その顔は影になって見えない。


「ここにいたのか」


けれども、その声を、その姿を、みほは良く知っている。


みほ「え……?」


知っているが、だけどその人物はここにいるはずのない人のはずだ。


また一つ、床を打つ音がする。

その音は、影が履いているローファーの底が鳴らしていた。


「勘というものもバカにならないな。まぁ、お前がいそうな場所なんて見当がつくが」


ふっと、鼻で笑う音が聞こえる。

その声色は嘲るかのように上ずっている。

そしてその言葉とは対照的にみほがどんどんと青ざめていく。

281 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 00:59:51.59 ID:z9x6Xcan0




みほ「なん、で……」

「ん?ああ、せっかくだからな。決勝で戦う隊長さんと話をしようと思って」


呆然と、息も絶え絶えなみほの姿をまるで気にせず、影は世間話でもするかのように返答する。

そんなみほの姿を見て影はまた一つ、鼻で笑う。


「どうした。そんな驚く事ないだろう?試合前じゃゆっくり話せないだろうからな。……まぁ、なんにしても」


その靴底が、最後だと言わんばかりに大きく音を刻む。

倉庫の明りに照らされその表情が露わになっていく。

光に照らされ、夕日を背負うその影は、



まほ「久しぶりだなみほ。元気そうで何よりだよ」




侮蔑と、怒りを露わにするように牙を剥いて笑った。




282 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/02(日) 01:01:39.19 ID:z9x6Xcan0
ここまでー。
アマプラにガルパンのシリーズ全部来てたのでまたマラソン始めてしまいました。
来週はまほさん大暴れ回です。

また来週。
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 01:33:36.44 ID:z3Diwbcy0
お姉ちゃん……流石に皆の前で殴ったりはしないよね……?いや、今のお姉ちゃんは何でもしそうだからな……来週が楽しみだ
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 06:12:54.15 ID:EXBiv0+F0
お姉ちゃんが悪者扱いされそうでもう心が痛い…
みほのエリカ猿まね遊びの1番の被害者お姉ちゃん説
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 07:53:37.59 ID:z/zqS1uAO
口調がもどってるの即バレるなあ...
もうしらね

お疲れ様でした!
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/02(日) 17:53:51.70 ID:Sctsnb2w0
決勝戦が終わった後にみほが行方不明になるなんて、あのガルパンssみたいなオチはやめてくれよ。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/02(日) 22:12:08.17 ID:iuAmQCzF0
お姉ちゃんからしたら弱いままでいられたみほをずっと許せなかっただろうからな
とはいえみほがエリカになった時点でまほがどうにか出来た問題でも無かっただろうしどうなるかなぁ
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/06/04(火) 14:28:07.80 ID:y4Z24JuV0
ヒェッ……
>>1ーシャ
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/08(土) 19:01:03.25 ID:bb7UCRFU0
まだ?早く更新してほしいんだけど。
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/06/09(日) 00:19:20.78 ID:yV50ERjy0
まあまあ……ドリタンでもやって落ち着けよ……
おすすめは10式でセンチュリオンをひたすらボコり続けることだ 心が洗われるぞ
291 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 00:23:40.17 ID:r9PzCrqV0




昼下がりの隊長室。

黒森峰の戦車道チームをまとめ上げる者のみが使える部屋で、まほは一人机についていた。

片手でペンを弄びながら気だるそうに書類を眺めていると、に荒々しく扉を開く音がこだました。


まほ「ノックぐらいしたらどうだ?」


手元の書類から目を離さず、まほは来客に向かって声を掛ける。


「堅苦しい事言うなよ。私とお前の仲だろ?」

「ごめんなさい突然……でも、私たち隊長に言いたい事があってきたの」


入ってきたのは二人。一人は短髪の活発そうな少女。もう一人はお淑やかな長髪の少女だった。

普段の彼女たちを知っている者ならばその様子が決して穏やかなものでは無いと察することが出来ただろう。

片方は目じりを険しく吊り上げ、もう片方は憔悴したように、心配している様に陰を写していた。


まほ「決勝の事なら心配ない。万全を期している。それはお前たちもよくわかっているだろう?」

「とぼけんなよ。私たちが言いたいのはそんな事じゃねぇ。お前……最近無茶しすぎだ」


短髪の少女はそういって爪先で床を叩く。

その音にまほは苛立つように眉根を寄せるものの、やはり書類からは目を離さず答える。


まほ「……練習量の事なら決勝前なのだから多少負荷をかけるのは仕方が無い。お前たちも納得してるだろう」

「私たちの事じゃねぇ。お前の事だ。それと……赤星も」

まほ「……どうしてだ」

「お前の乗員が訴えてきたよ『隊長がこのままじゃ倒れちゃう』って。あんま乗員に心配かけさせるものじゃないぞ」

292 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 00:36:02.50 ID:r9PzCrqV0


小さく舌打ちが聞こえた。


まほ「……余計な事を」


忌々しさ、苦々しさを隠さず顔をしかめるまほにたち短髪の少女が前に出ようとするも、その肩を長髪の少女が掴んで止める。

そして入れ替わるように前に出ると、優しく、気遣う様な声をかける。


「あなたが一生懸命なのはよくわかるけど、だからって今のやり方はおかしいわよ」

まほ「……私が乗るフラッグ車のメンバーなんだ。私の指示についてこれるよう他の隊員以上に練習するのは仕方がない」

「だからっ!!そうじゃねぇって言ってんだろっ!?」


我慢できなくなった短髪の少女が机を叩いて体を乗り出す。

額同士がぶつかるほどの距離でも、まほはまったく表情を変えない。


「お前、昨日はいつ寝た?食事はちゃんとしてるのか?」

まほ「……お前には関係ない」

「目元、クマが酷いぞ」


その指摘の通り、まほの目元にはクマが濃く表れている。

目は充血し、髪はツヤが無く、短く切りそろえているからこそ辛うじて人前に出られる程度には整えられている。

そんなまほの様子に長髪の少女が懇願するように両手を胸の前で握りしめる。


「お願い隊長、ちゃんと休んで……みんな、心配して……」

まほ「問題ない。この程度なら決勝でも問題なく戦える」

「お前っ……」

「……なら、せめて赤星さんを止めて。あの子はある意味……あなた以上に危ういわ」


今にも殴り掛かりそうな短髪の少女を手で制しながら、長髪の少女がそう訴える。

今のまほには説得が届きそうにはない。ならせめて、後輩の事だけでもなんとかしておきたい。

そんな彼女の考えを知ってか知らずか、まほはまるで心配した様子もなく、


まほ「……普段の練習はしっかりやってる。副隊長としてもまぁ……及第点だ。私から言う事は無い」

「お前の目は節穴か?あいつ、今にもぶっ倒れそうだぞ」

まほ「……まぁ、それならそれで仕方ないさ」

「あ?」


まほが軽く、まるで明日の天気でも伝えるかのように言った言葉に、低く唸るような短髪の少女の声がぶつかる。


まほ「言って聞くようならそもそもあそこまでにはならないだろう。それに……」




まほ「別に、副隊長なんていてもいなくても変わらないさ。私がいれば充分なんだからな」



293 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 00:43:04.61 ID:r9PzCrqV0


殴り掛かろうとしたその拳はまほの目の前で掴み止められた。

短髪の少女は震える拳を更に握りしめて、それを遮った長髪の少女を睨みつける。

けれどもその視線に返事はなく、長髪の少女はまほをじっと見つめている。


「……隊長、いえ西住さん。今のは聞かなかったことにするわ」

まほ「……」


その言葉には返事をせず、まほは席を立つ。

掴む手を振り払って短髪の少女がその背中を声で引き留める。


「おい、どこ行く」

まほ「悪いがおしゃべりはここまでだ。実家に行く用があってな」

「んなもん後にしろ。まだこっちの話が終わってないんだ」

まほ「私は最初からお前たちと話すつもりは無いよ」

「っ……」


ドアノブに手をかけたまま、まほは振り返らず答える。


まほ「安心しろ、ちゃんと優勝させてやるさ」

「……お前は、それでいいと思ってるのか」

「西住さんあなただってわかってるでしょ?このままじゃ……」

まほ「お前たちに、私の何がわかる」


声色が変わる。

深く、重く、怒りと悲しみを混ぜ合わせた色を二人は感じ取った。

まほが振り返る。

二人に近づき、その眼を見つめる。

視線だけで眼球が押しつぶされるかと思うほどの迫力に、二人はたじろいでしまう。

その姿にまほは興味を失ったのか、あるいは怒りを通り越したのか。見下すように冷たい視線を向けて再びドアノブに手をかけ、扉を開く。


まほ「私の気持ちがわかるやつなんてもう、この世にはいないんだ」


その言葉を最後に扉は閉ざさた。

扉の外からコツコツと床を鳴らす音が聞こえ、段々と小さくなっていき―――聞こえなくなった。

主のいなくなった隊長室に、二人は無言でたたずむ。

そして、


「――――――クソッ!!」


閉まった扉を前に一歩も動けず、そんな自分への苛立ちを込めて短髪の少女は机を殴った。


294 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 01:08:52.94 ID:r9PzCrqV0





まほ「お母様に報告するために家に帰ろうとしたんだが、たまたまこの学園艦が近くにいると知ってな。せっかくだから寄らせてもらったんだ」


大洗女子学園の車庫。

夕陽が窓から入り込む中で、まほは世間話でもするかのようにみほたちにそう語る。

けれどもその雰囲気には一切の喜びも、あるいは気楽さも感じず、

気安い態度から発せられる刺すような緊張感がみほたちを竦ませる。

特に沙織はその空気に耐えきれず、逃げるように後ずさりをした。

その様子にまほは口だけ笑顔を作ると、指でみほを指す。


まほ「おいおい、そんな怖い顔をしないでくれ。別にこいつをどうこうする気は無いさ」

「沙織さん……大丈夫ですから」

沙織「でもっ……」

まほ「……ああ、やっぱりあのふざけた真似事はやめたのか」

「お姉ちゃん……」


みほの態度から自分の推測が正しいと確信すると、まほは蔑むようにみほを見つめる。


まほ「仲間たちの前で嘘を暴かれて、それでも嘘を貫けるような面の皮は持っていなかったようだな?」


みほは何も言い返せず、俯く。

そんなみほを庇おうと、麻子がまほの視線を遮って前に立つ。


麻子「嫌がらせに来たのなら帰ってくれ。私たちは忙しいんだ」

まほ「あなた……確かこいつの友達だったわね。おばあ様の容態はどう?」

麻子「……おかげさまで元気だ」


警戒を解かず睨みつけてくる麻子に対してまほは優しく、嬉しそうにその表情を緩ませる。


まほ「そう、それは良かった。本当に……家族は大事だものね」

麻子「……ああ」


先ほどとは打って変わって気遣う様な素振りをみせるまほを怪訝に思いつつも、麻子はみほをまほの視界に入らないようその小さな体で隠し続ける。

すると、まほの視線は麻子―――その後ろのみほから離れ、今度は隣に並ぶ沙織たちに向けられる。

295 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 01:30:54.43 ID:r9PzCrqV0




まほ「そういえば……そこの3人も前に見たな。お前の戦車の乗員か?」

みほ「……友達、だよ」


麻子をそっと手でどかし、みほが震える声を出す。

まほはまた、先ほどと同じく蔑むようにみほを見つめる。


まほ「へぇ?4人も友達が出来たのか。凄いじゃないか。こっちにいた時よりも随分社交的になったんだな?」


その軽口にみほがなんと答えようかと逡巡するも、答える前に新たな質問がかぶせられてくる。


まほ「それで?次は誰になるんだ?」

みほ「え……?」


自然と喉から漏れた声。

まほが何を言っているのかみほには理解できなかった。


まほ「エリカになれなくなったのなら、今度はそこの中から選ぶんだろう?ルーレットか?くじ引きか?それとも四人一役か?」

みほ「お姉、ちゃん……」

まほ「もっとも……そんな事したってお前はまた逃げ出すのだろうけどな」


まほがみほに近づく。

みほが後ずさると、その後退は先ほどまで整備していたW号によって止められた。

厚く冷たい鉄の感触と、それ以上に冷たい汗が伝うのを背中に感じた。


まほ「まさかお前のようなクズが決勝にまで出られるとは思わなかったよ。実力もだが何よりも心が弱いお前がな」


みほはもちろん、麻子も沙織も優花里も華も、まほの気迫に動けなくなる。


まほ「途中で嫌になって逃げださなかったのを誉めてやろうか?あははっ、それは気が早いか。明日にでも逃げてるかもしれないしな」


嘲りを、侮蔑を、怒りを隠さずまほは笑う。

その姿は、その嘲笑にはみほの知っている姉の姿はどこにもない。

296 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:18:53.69 ID:r9PzCrqV0


まほ「貧弱な戦車と、素人を集めてお山の大将は楽しいか?やりたいようにやって、好き勝手振舞うのはさぞかし楽しいだろうなぁ?」


そう言って隣で震えて縮こまる沙織たちに目を向ける。


まほ「お前たちも災難だな?こんなのにそそのかされて、たまたま運が良かったばかりに大舞台で笑いものにされるんだから」

みほ「お姉ちゃんっ!!」


友達を馬鹿にされ、みほがたまらず叫ぶ。

すると、まほの表情から笑顔が消え不機嫌そうにため息を吐く。


まほ「……今さら正気に戻ったつもりか?なら、もう遅い」

みほ「お姉ちゃんっ……私はっ!!」

まほ「あの時こう言ってたな?『大洗に来て友達がたくさんできた』って。なぁ、みほ。エリカから奪った名前と、エリカから奪った姿と、お前の空っぽの中身で作った友達はどうだった?」

みほ「お姉ちゃんっ……私の友達は、みんなはとても素敵な人たちなのっ!!だからッ」

まほ「黙れッ!!」

みほ「っ!?」


突然、弾けるようにまほの怒りが轟く。

怒りのあまり目元に涙を浮かべ、まほはみほを睨みつける。


まほ「全部全部偽物だっ!!お前もっ!!その友達もっ!!」


空気を薙ぎ払うように腕を振って、弾劾するようにみほたちを指さしていく。


まほ「エリカが亡くなったのは不幸な事故だ……それだけなら皆悲しみを受け入れられた。だがみほっ!!お前は、エリカの全てを奪ったんだっ!!

   エリカの家族からッ!!私からッ!!みんなからッ!!」


慟哭が、激昂が、車庫に響き渡る。

あるいは呪詛のようにみほへと向けられたその言葉は、他でもないみほが実感している事だった。


まほ「お前は……お前がッ!!エリカをもう一度殺したんだッ!!」



実感していた、はずだった。



297 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:31:28.88 ID:r9PzCrqV0


呼吸が乱れ、肩を揺らすまほ。

その眼前でみほは虫の息のようにか細い呼吸しかできなくなっていた。


みほ「お姉……ちゃん……」


それでも何とか声を出す。

その言葉が自らを指し示している事が不快だと言わんばかりにまほは顔をしかめる。


まほ「なんだその顔は?『そんな事思ってもいなかった』とでも言うつもりか?だとしたら、お前は本当に救えないな」

みほ「……ごめ、んなさい」


絞り出すようにそう告げると、その胸倉をまほが掴み上げる。

勢いのままW号に押し付けられ、ただでさえか細かった呼吸が更に小さく、絶え絶えになる。

けれども、まほの激昂は止まらない。


まほ「今さらなんだッ!?それで許してもらうつもりかッ!?それでッ!!エリカに顔向けできると思ってるのかッ!?」


まほを掴むみほの手からどんどん力が抜けていく。

だけど、まほの声はどんどんクリアに、まるで脳内に直接響いてるかのように伝わってくる。

その怒りが、哀しみが、どうしようもないぐらい伝わってくる。

だから、

まほ「エリカの……私の大切なものを奪ったくせにッ!!お前がッ!!全部壊したくせにッ!!なのにお前はッ!!」


もしもまほがこの怒りのまま自分を裁いてくれるのならそれで姉が満足してくれるなら。

みほが諦めではなく、そう望んだ時、


沙織「やめてッ!!」

298 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:55:28.14 ID:r9PzCrqV0


まほの手がみほから引きはがされ、離れていく。

磔のようにされていたみほはそのまま膝から崩れ落ち、意志とは無関係に荒い呼吸を繰り返し酸素を取り込む。


優花里「大丈夫ですか!?」


駆け寄ってきた優花里の気遣いに答えようとするものの、未だ呼吸を繰り返すばかりで満足に声を出す事も出来ずみほは手をあげる事で無事を表現する。

そのみほの前では沙織と華がまほにしがみつき、麻子が先ほどのようにみほの前に立ち両手を広げてまほに立っていた。

まほは沙織たちを振り払おうともがくものの、無理やり引きはがそうとはしない。


まほ「離せッ!!部外者は引っ込んでろ!!」

沙織「部外者じゃないっ!!」


その言葉に、まほの動きが止まる。

今度はゆっくりと沙織たちの手を離していき、みほではなく、沙織を睨みつける。

突き刺さり、体の内側で暴れているのかと思えるほどの視線。

それでも沙織は逃げずに視線をぶつけ、食らいつく。


沙織「私は……私たちは、みほの友達ですッ!!」


その言葉を鼻で笑う。


まほ「……こいつの名前も素性もついこの間知ったばかりなのに友達か?」

沙織「違うっ!!私たちは、みほと出会ってた!!初めて会った時からずっと、私たちが過ごしてきたのは西住みほだよ!!」


恐怖に負けないよう必死で拳を握る。

気圧されないように瞬きすらせず睨みつける。


沙織「名前を知らなくたって、素性を知らなくたって、私たちはっ、今日まで一緒に戦ってきたみほの友達だッ!!」



沙織は喧嘩なんてしたことが無い。あるとすれば精々そこで座り込んでいるみほの頬を叩いたぐらいだ。

だけどもし、まだまほがみほに危害を加えようとするのなら、立ち向かうつもりだった。

そしてそれは他の3人も同じだ。

華も優花里も麻子も。その瞳には先ほどまでの怯えは一切なく、まほへ揺るがぬ視線を突きつける。

みほを守るように周りを囲む沙織たちを見て、まほが目を閉じる。

空気から重さが消え、刺すような緊張感が解けていく。

そして、まほがゆっくりと目を開きみほを見つめる。


299 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 02:56:39.87 ID:r9PzCrqV0


まほ「……ここが、お前の居場所なのか。あの子たちはお前にとって大切なものなのか」


敵意のこもってない声にようやく整った呼吸でみほはたどたどしく返す。


みほ「……私は、何もかも投げ出して、逃げ出してここに来た。嘘をついて、誰かを傷つけて、その先でまた誰かを騙して傷つけた」


許さる事ではない、許されてはいけない事だ。

自分がした事を考えればそれは当然の事だ。

それでも、


みほ「それでも、私が嘘をついてた時から、沙織さんたちは優しくて、強くて……私は、私はずっと憧れてた」


嘘が白日の下にさらされても、彼女たちは自分を案じてくれた。

何一つ真実なんて知らなず、嘘で塗り固められた自分を本気で心配して、それでも友だと言ってくれた。

だから、


みほ「だから、だから……こんな私を見捨てないでくれるのなら、友達だと言ってくれるのなら……私も、それに応えたい」


償いから逃げ罪だけを重ねてきた。

けれども、もう逃げたくない。


みほ「空っぽの私が、それでも皆の為に何かできるのなら……私の全てを尽くしたい」


未だに、大洗を居場所だとは思えていない。

思うつもりもない。

こんな自分に彼女たちがいる『世界』は相応しくないから。

今ここにいる事さえおこがましいから。

だから、みほはせめてもの恩返しをしたいと思った。


みほ「お姉ちゃん……私のした事、許せなくて当然だと思う。あなたは何も悪くないのに、私は自分勝手にあなた達を傷つけた」


姉の気持ちは痛いほどわかる。

己のしたことを考えれば姉の態度はむしろ優しいとまで思えた。


みほ「だけど……決して私は黒森峰に、お姉ちゃんたちに敵対するつもりはないの。ただみんなの為に、出来る事がしたいの」


300 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:00:39.63 ID:r9PzCrqV0


床に手をつき、額を付ける。

差し出せるものなど何もなく、プライドも何もない自分の土下座なんて何の意味も無いとみほはわかっている。

それでも今はこうすることしか出来ないから。

みほは額をこすりつける。


みほ「手加減してとか、許してくれとかじゃなくてただ……決勝が終わるまで待ってください。それさえ終われば……私はどんな報いでも受けます」


まほがじっと自分を見下ろしているのを感じる。

やがて、そっとまほが跪き、みほを起こした。

姉の行動に動揺するみほを立ち上がらせ、その肩を押し沙織たちの下へとやると、ゆっくりと目を閉じる。

何かを考えるかのように天井を見上げ、ゆっくりと目を開く。


まほ「……みほ、訂正するよ。お前の友達は偽物なんかじゃない。本当にお前の事を大切に思ってくれている」


ちらりと瞳だけで沙織たちを見ると、

その口元に微笑みが浮かぶ。

瞳が嬉しそうに潤む。


まほ「そしてお前もまた、ここにきて何かが変わろうとしてるのかもな。自分勝手に生きてきたお前が、皆の為に何かをしたいだなんて……良かった」


感慨深そうにそう頷くと、まほは右手で目を覆う。

手の隙間から零れた涙がコンクリートの床を濡らした。

そして、


みほ「お姉ちゃん……」

まほ「ああ、良かった。本当に……本当に……」


その涙を乱暴に拭う。

隠れていた表情が露わになる。


真っ赤に充血した瞳が、

裂けそうなほど吊り上がった唇が、



まほ「だって……だってこれで、お前に罰を与えられるんだからなッ!!」



どす黒い歓喜を称えていた。



301 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:03:50.53 ID:r9PzCrqV0


憎しみを喜びで包み込んだらこんな表情になるのだと、

こんなにもおぞましいものになるのだと、

みほたちは初めて知った。


まほ「空っぽの偽物を壊したところでなんの報いにもならない。お前が、本当に大切なものを見つけたというのなら。居場所を見つけたというのなら、全部叩き壊してやる」

みほ「お姉、ちゃん……」

まほ「知ってるよみほ。明日の決勝に負けたら、大洗は廃校になるのよね?」


うっとりと、思いを馳せるようにまほの笑顔に艶が入る。

みほたちを見ているのにまるでみほたちを見ていない。

恐らく、まほが見ているのは未来――――決勝の日。その結末。


まほ「くふふっ……その時お前はどんな顔をするんだろうな?今度はどんな言い訳で自分から逃げ出すんだろうな?」


我慢しきれないといった風に口の端から笑い声が漏れる。

その口元をおさえ、粘土細工でもするかのように唇を結ぶと、今度はしっかりみほを見つめる。

その瞳に宿る感情に、みほはようやく理解する。

―――自分の罪が、ここまで姉を変えてしまった、と。


まほ「覚悟しろ。私が、お前から命以外の全部を奪ってやる」


そう言い切ると、再び我慢できなくなりけらけらと笑いだす。


まほ「ふふっ、あぁ……楽しみでしょうがないよ。……みほ。もう一度、全てを失え。それが――――お前への罰だ」



最後通牒。

―――お前を、許さない。


元より姉はそのつもりだったのだとみほは理解した。

夕陽の中呪いのような笑い声をあげながら去って行く背中にみほは、みほたちはただ立ち尽くし、目を逸らす事も出来なくなっていた。、


302 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/09(日) 03:05:40.95 ID:r9PzCrqV0
遅くなりましたがここまでー
次回から決勝に入る予定ですが…来週は別のガルパンSSを投稿したいのでこっちはお休みします。

ちょっとだけ待っててください。

一応内容だけ言うとみほとエリカが友達じゃない話です。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 03:59:35.18 ID:3Kz+urJX0
お姉ちゃん頑張れ!
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 04:24:28.30 ID:demKR+/6O
乙でした
お姉ちゃん荒ぶってるなぁ…誰かお姉ちゃんも救ってあげて
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 04:56:16.75 ID:jPXv/KEh0
乙でした!
最初から最後まで緊張感マックスな展開で胃が擦り切れそう
久しぶりの単発楽しみにしてます!
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 07:40:48.44 ID:ou9CUYTgO
このままではいずれ殺される気がする
気をつけろみぽりん!
もはやお姉ちゃんは修羅ぞ
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 09:17:03.63 ID:04/mPBWi0
おつおつ

どう考えても修復不可能なんですが…
お姉ちゃんがこのまま過労死したらみほにはお姉ちゃんになってもらおう(提案
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/09(日) 22:49:00.49 ID:RsAP6VmI0
やべえよやべえよ・・・。
命だけは取らないって言ってるけど、正直それも怪しいな。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 01:06:33.13 ID:2z7ozHNDO
乙です
まほはみほが生きて苦しむ様を見続けたいのだから殺しはしないでしょう
まほがさらに精神的に壊れたらその限りでは無くなるだろうけど…
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 04:22:42.61 ID:fyviDJdN0
カチューシャ相手に怒りぶちまけてた頃はまだ、理性も姉妹愛も残ってたろうに
しほさんが子育てセンスなさすぎる所為で… なんとか言えよこの家元(未就任)
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/10(月) 09:45:04.75 ID:tuPqG0GX0
大洗学園絶対潰すマンと化した姉御。
この分だと仮に廃校回避できたとしても、文科省に「大洗を潰せ」って直談判して、辻を逆にドン引きさせそう。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 00:09:28.46 ID:k/f852Bi0
こういう壊れた女の子見ると勃起を抑えられない
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/11(火) 12:19:34.48 ID:J/ntnUCf0
罰も何もエリカが氏ぬ前からずっとみほに嫉妬して奪おうとしてたじゃんお姉ちゃん…
よっぽどからっぽのすっからかんだよ
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/12(水) 04:35:59.52 ID:Q8NA5/340
>>311
大洗を…潰してやる!
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 11:30:53.13 ID:e8LuSTjZO
このまほは小梅ちゃんが倒しそう
鈍器のようなもので
そろそろサスペンス劇場に突入しても違和感ないぜ
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 13:00:01.05 ID:nWqwRRGbo
お姉ちゃんの方が死にそう
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/13(木) 21:46:58.19 ID:oM9HV9CIO
「おやおや、これは気になりますねぇ?」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/06/22(土) 21:51:25.72 ID:FlpKlbLw0
早く更新してくれ。待たせるのもいい加減にしろ
319 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:17:05.10 ID:+nuVNca90





西住邸。その一室でしほはまほ向かい合っていた。

本来ならまほは夕方には来ていたはずだったが用事があったとの事で遅れ、今はもう夜になっていた。


まほ「……お母様、次はいよいよ決勝です」

しほ「ええ」


最初に切り出したのはまほだった。

全国大会の決勝。今までの、今の黒森峰にとってその言葉が示す意味はとても重い。

前年度の優勝を逃し、今年度こそという士気は確かにある。


まほ「まさか、大洗が勝ち進んでくるとは思いませんでしたが所詮は素人集団。黒森峰の敵ではありません」

しほ「……」

まほ「ましてや隊長が逃げ出したやつだなんて……これ以上無様を晒させないためにもしっかりと終わらせます。……もっとも、あいつが決勝に出ない可能性もありますが」


はっ、と鼻で笑うまほ。

侮蔑と嘲りの混じった表情とは対照的にしほの頬は、目じりはピクリともしない。

しかしテーブルの下で握りしめた手には痛いほど力が込められていた。

自分の娘がその妹を嘲笑う。

そんな日が来るだなんて思ってもいなかった。

けれど、そんな現実から目を逸らせるほどしほは弱くは無かった。弱く、なれなかった。

320 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/06/23(日) 00:20:48.96 ID:+nuVNca90



しほ「……まほ」

まほ「なんですか」


なんと言えばいいのか、どの言葉を選べば伝わるのか。

これが、戦車道の事であれば誰よりも的確な言葉が言えるのに。

しほは内心で自嘲しながら、それでも伝えたい事を伝えるために選んだ言葉を告げる。


しほ「……戦車道は、復讐の道具ではありません」

まほ「……」

しほ「ましてや、あなたとみほは姉妹なのですよ」

まほ「それは、西住流の師範としての言葉ですか?」


冷たい問いかけ。

そこには一切の感情は乗ってない。

だから、しほは精一杯の温度を乗せて答える。


しほ「……あなた達の母としての言葉です」


その返事に、まほは興味を失ったように目を逸らす。

娘の拒絶に胸を掴まれたように心臓が跳ねる。

それでも、諦めるつもりはなかった。

もう一度、まほに伝えようと口を開いたとき、ため息をつきながらまほが立ち上がる。


まほ「……お母様、私はそろそろ戻ります。雑魚相手とはいえ、準備を怠るわけにはいきませんから」

しほ「待ちなさい、まだ話は終わってません」


引き留めようと立ち上がるしほを、まほは瞳で押しとめる。


まほ「……黒森峰は優勝します。……これ以上必要ですか?」

しほ「違います。まほ私はあなたの事を心配して……」

まほ「今さら母親面?」

しほ「っ……」


今度は明確な感情――――侮蔑がそれに乗る。

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