【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」

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131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 13:34:38.07 ID:dV8jAGFbo
あぁ…今日の更新ないのか…
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/28(日) 21:20:30.58 ID:cifDZqHuO
平成の終焉をいかに過ごすか
やっぱりなんか食べたいなあ、なんて思ってたら、あれ?柚子みほってありじゃね?という新しい扉が開いた
...来週、楽しみにしてます。

アアッ、令和にイッちゃうううっ
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/04/30(火) 14:51:46.33 ID:SCSd2phU0
連休で時間あるんだから毎日更新してよ。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/04/30(火) 15:20:43.77 ID:wHZIGjvU0
10連休とかファンタジーの話しないでくれませんかね…
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 07:09:03.81 ID:24NRmz3X0
10連休なんてあるわけないじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃないんですから。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 10:42:01.36 ID:kAxkvJ7H0
続編で十連休出てくるフラグじゃねえか
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/01(水) 10:45:31.63 ID:CEG37fc5O
「絶対に令和なんかに負けないッ」

10分後

「令和には勝てなかったよ...」

天ぷら
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 06:05:30.38 ID:1YLac5Q80
そもそも十連休なんて本当に実在するのでしょうか?
都市伝説の類では?
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/02(木) 16:27:26.77 ID:J1KJrsCeO
公務員は10連休ゾ
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/03(金) 11:01:23.08 ID:GrUXEy4QO
ストパンでいうところのよしかちゃんとリーネ
もしくはエイラーニャ
そういえばそんなストパンssはなかったよね

久しぶりにガルパンからストパンに帰省したらえっちいすぎぞ
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 12:01:46.31 ID:/GPm/OvSO
ようやく前スレ読み終わってリアルタイムで追いかけられるようになった
続きが楽しみだ
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/04(土) 22:49:30.53 ID:y1rSdSO4O
さーて今週のさおりんは
143 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/04(土) 23:46:53.35 ID:Ujk9qPiQ0






カーテンを閉め切って、電気も付けていない部屋には明りと呼べるものはカーテンの隙間からわずかに差し込む明りしかなかった。

部屋の主のはずのみほは、まるで虜囚かのように小さく膝を抱えて縮こまっている。

身じろぎ一つせず、時間が過ぎるのをただ待っていた時、チャイムの音が部屋に響き渡った。


その音にみほの肩がびくりと跳ねる。

けれども玄関には向かわず、じっと体育座りのまま動かない。

少しして、今度はノックの音がしてくる。


『西住さん』


それに合わせて聞き知った、なのに懐かしい声が自分を呼ぶ。

みほがぎゅっと目を閉じて震える体を抱きしめるように腕に力を籠める。


『私、武部沙織だよ!今日は練習だからさ、一緒に行こう?』


まるで何も気づいていないかのような明るい声。

そんな彼女の優しさが、みほにとってはどうしようもないぐらい辛く、苦しい。


だから、無造作に床に置いていた携帯を手繰り寄せ、


『ごめんなさい。今日は体調が悪いから休むわ』


震える指でなんとかそう打ち込んで送信する。

もう、『彼女』を保つのは文章ですら精一杯になっていた。


そして、どれほどの時間が過ぎたのか。

恐らく1分も経っていないだろう。

けれども、みほにとっては永遠のように感じた沈黙の末、


『わかった。何かあったら呼んでね?すぐ駆けつけるから!』


やはり、先ほどと同じような明るく、けれども気遣う様な声が聞こえてくる。

そして走り去って行くかのような足音が小さくなり、何も聞こえなくなる。

ようやくみほの震えがおさまる。


「……ごめんなさい」

144 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/04(土) 23:55:05.00 ID:Ujk9qPiQ0


小さく呟いた謝罪はもちろん、伝えたかった相手には届かない、ただの自己満足だった。

そうしてまた、膝を抱いて小さくなる。みほの頭に浮かぶのは何故こうなってしまったのかという疑問だった。

そして、その疑問の答えはすぐに見つかってしまう。


「私は、何も変わってない」


エリカと出会った日から、エリカを失った日から、エリカになった日から。

みほは一歩も進んでいない。

それは当然の事で、何もかもから逃げている自分が変われるわけがないのだから。

そうみほは自嘲して乾いた笑いが口から洩れる。

そしてそっと顔を上げ周囲を見渡す。

瞳に写るのは薄暗い部屋だけで、みほは失望したかのようにまたうつ向く。


「ああ……やっぱり私は……」


大洗に来てから幾度とみほの前に現れていた栗毛の少女の幻は準決勝の時を最後に一度も現れていない。

自分を責め立ててきたその幻影は、まぎれもなくかつてのみほの姿で、その言葉はまぎれもない今のみほの本心だった。

その幻影が見えなくなった。

その理由もみほは理解していた。


「私は……もう……」


結論を口にするのが怖くてみほは口を閉ざす。

そのまま倒れこんでベッドの下に手を伸ばし、そこに隠すように置いてある略帽を被ったボコのぬいぐるみをゆっくりと引っ張り出した。


無造作に置いてあったぬいぐるみは、けれども埃一つ付いてない。

みほはボコをベッドの真ん中に座らせると、自身は床に座ったまま向き合う。


「エリカさん……私、どうすればいいのかな……」


目の前のぬいぐるみはもちろん何も答えない。

それでも、みほは続ける。


「私じゃ、やっぱりダメなのかな……」


そう問いかける事自体が答えなのだと、みほは気づいていた。

なら、それならば、


「私は……どうすればいいのかな」


何も答えないぬいぐるみに救いを求めるように手を伸ばし、その手は届くことが無かった。


145 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:05:27.41 ID:GKT/EkqT0





夕方の刻もだいぶ過ぎ、夕日に陰りが見え始めてきた頃、学園艦の町の中を戦車道チームの面々は必至に走り回っていた。

沙織から届いた『西住さんがいなくなった』というメール。

慌てて学校に集合するも、どういう事かと尋ねる暇もなく杏の指示により捜索が始まった。


大洗の学園艦は他校と比べて小さいが、それでも街一つを内包してる。

財布と携帯を持っていない事から飲食店やカラオケにいない事は想定できたが、それでも捜索範囲は広い。

圧倒的に人手が足りない中、頼れるのは自分たちの足だけだった。


カエサル「いたかっ!?」

エルヴィン「いやいないな……」


カエサル、エルヴィンが合わせて肩を落とす。

ならば残った二人はと、期待を込めておりょうと左衛門座を見つめる。

そんな二人をみておりょうは残念そうに首を振ると、親指で左衛門座を指し示す。


おりょう「さっき左衛門座が白髪のお婆ちゃんと西住さんを間違えていたぜよ」

エルヴィン「節穴!!」

左衛門座「あ、焦ってたんだからしょうがないだろ!?」



おりょうの告げ口にエルヴィンは思わず声を上げてしまう。

ふざけている場合かと左衛門座とおりょうに内心舌打ちをするも、すぐに首を振って苛立ちを追い出す。

今は言い争いをしている場合じゃない。早く西住さんを探さないと。

焦った所でしょうがない。わかっているが、それでも焦りは生まれてしまう。

みほがどこにいるのか、何をしているのかわからない現状は、皆にとって何よりもの不安要素だった。

146 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:12:19.91 ID:GKT/EkqT0





レオポンさんチームは街の中の探索ではなく、学園艦の外周を自動車部の愛車であるソアラで走っていた。

学園艦の外周に点在する広場を捜索するためだ。

いつも飛ばしに飛ばしている道路を今は陸での法定速度で速度で走っている。


スズキ「ナカジマ―見つかったかー?」

ナカジマ「いなーい!!」


助手席の窓から顔を出したナカジマが大声で後部座席のスズキに返事を返す。


ホシノ「ツチヤーやっぱもっとスピード落としてくれ」

ツチヤ「はーい」


ホシノの指示に合わせて運転しているツチヤがスピードを更に緩める。

長い直線にツチヤはついつい癖でアクセルをふかしてしまいそうになるが、一刻の猶予もないからこそ慎重にいかなくてはと、ペダルを踏みこもうとする自身の足を努めて制御していた。


ナカジマ「……まずいなぁ。そろそろ日が沈む……」


不安げに呟くナカジマの視線の先で、街灯がぱっと明りを灯し始めた。


147 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:19:43.80 ID:GKT/EkqT0




そど子「そっちはどう?」

寄りかかっている自販機で今しがた買った緑茶の缶を持ちながらそど子は尋ねる。

尋ねられたゴモ代はクリップボードに留められた地図に×を付けながら答える。


ゴモ代「それらしき人物は見つからず」

そど子「……了解。そのまま捜索続行で。私ももう行くわ」


飲み干した缶を自販機横のゴミ箱に入れると、そど子はゴモ代が持っているのと同じ、地図が留められているクリップボードを片手に歩き出す。

そんなそど子の向かいから疲れた様子でパゾ美がやってきた。


パゾ美「そど子ー見つからないよー……」

そど子「もうちょっとだけ頑張ってよ。……でも、流石にそろそろ次の事を考えるべきかもね」

パゾ美「やっぱり警察に言った方がいいんじゃ……」


不安げなパゾ美にそど子はため息交じりに答える。


そど子「まだ明るいし、一人暮らししてる子がほとんどの学園艦で今日いなくなりましたーって言っても様子見が関の山でしょ。

    ほら、今は口よりも足を動かしなさい。……今日は門限破りになりそうね」

パゾ美「一人暮らしなのに門限とかあるの?」


パゾ美が首を傾げると、そど子は不満そうな顔をする。


そど子「私が決めたの。規則正しい生活は風紀委員として当然の事なんだから」


本当に真面目だなーとパゾ美が感心半分呆れ半分に思っていると、そど子はため息をついて、キッと前を見つめて歩き出す。


そど子「でも、今は後回しよ」

148 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:30:06.72 ID:GKT/EkqT0




ウサギさんチームの面々はバタバタと手足を振りながら走り回っていた。

探せども探せども、目当ての人物は見つからず、探した場所は地図に印を付けるという指示すら忘れて同じ場所を探してしまう始末であった。

それでもなんとか自分たちの持ち回りの場所を探し終えた一年生チームはあらかじめ決めておいた集合場所に集まってきた。


普段は元気の塊といったような少女たちの表情は随分とくすんでいて、そんな中半分泣きそうな表情であやが情けない声を上げる。


あや「見つかったー?もう疲れたー!!」

桂利奈「全然見つかんないよー!」

優季「私の方もダメだったぁ」

あゆみ「こっちもね」

紗希「……」

桂利奈、優季、あゆみが口々にそう告げて、それを紗希が無言の視線で締める。

声だけは普段の姦しさを残しているものの、自分たちの苦労が徒労にしかなっていない現状はどうしても堪えてしまう。

だからといって、捜索をやめるつもりは毛頭無い。

とりあえず次はどこを探そうかとあゆみがポケットにしまいっぱなしだった地図を広げると、紗希がきょろきょろと周りを見渡していることに気づく。


あゆみ「紗希、どうしたの?」

紗希「……」


紗希が小さく口を開けて何かを言おうとしたとき、隣にいた桂利奈が驚いた様子で声を上げた。


桂利奈「あれ!?梓ちゃんは!?」

あや「え?まだ戻ってないの?」

優季「紗希、梓見てない?」

紗希「……」


紗希が無言で首を振る。


あや「もー!!梓まで行方不明ー!?」


苛立ちを隠しもしないあやの声が薄暗い街中に響いた。


149 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:52:16.10 ID:GKT/EkqT0




ねこにゃー「あ、キャプテン」

典子「猫田か」


大通りから外れた街角で偶然、ねこにゃーと典子は鉢合わせた。


典子「そっちの様子はどうだ」

ねこにゃー「さっきチームのみんなと合流したけどまだみたい……とりあえずまたバラバラに探し回ってるけど……」

典子「こっちもだ。とりあえず会長に報告はしたが……」


典子が腰に手を当てため息を吐く。

いつも元気に満ち溢れている典子のそんな姿にねこにゃーもつられてため息を吐いてしまう。


ねこにゃー「……西住さん、どこ行ったんだろう……」

典子「……それを探してるんだ。口より足を動かそう」

ねこにゃー「うん……あれ?」


その時、ねこにゃーが視線の先に見慣れた影を見つける。

小さく、どこか頼りなさを感じるその影は不安そうな顔で周囲を見渡していた。

ねこにゃー達は顔を見合わせ、その影に近づいていく。


ねこにゃー「澤さん」


ねこにゃーの呼びかけに、梓はびくりと肩を震わせるも声を掛けてきたのがねこにゃーと典子である事に気づくと安心したようにため息を吐いた。


梓「猫田先輩に磯辺先輩……びっくりさせないでください……」

典子「澤、ウサギさんチームの捜索範囲はこっちじゃなかったはずじゃ」


典子の言葉に梓はキョトンと首を傾げる。

そしてすぐに自分がみんなからはぐれてしまった事に気づくと、恥ずかしそうに顔をそむけた。


梓「え?……あ、私いつのまにこんなところにまで」


梓はぺこりと頭を下げる。


梓「ごめんなさい、あっちにいるかも、こっちにいるかもってやってたらいつの間にかみんなからはぐれちゃったみたいです……」

ねこにゃー「あはは……」

典子「熱心なのはありがたいが、ちゃんと周りも見ておこうな」

梓「はい……」

典子「……澤、ちょっといいか?」

梓「え……?」

典子「まだ、隊長の事で怒っているのか」

ねこにゃー「キャプテン、今はそれどころじゃ……」



150 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 00:58:47.38 ID:GKT/EkqT0


ねこにゃーが少し焦った様子で止める。

梓がみほの事で動揺を未だに抑えられていないのは心配だが、だからといって当事者であるみほを探している今、その事を梓に尋ねるのは時期早々だと思ったからだ。

しかし、典子は梓を見つめたままキッパリと答える。


典子「いや、今話しておくべきだ」


その言葉に、典子にも考えがあるのだとねこにゃーは察すると、その視線を梓に向ける。

二人の視線に梓は視線を揺らすと、ぎゅっと手を握りしめる。


梓「……私、わかんないです。エリカ先輩が西住みほさんだって急に言われて。エリカ先輩はもう死んでるだなんていわれて」

ねこにゃー「……僕たちもだよ。急にいろんな情報が入りすぎて正直、今も混乱してる」

梓「隊長は……私たちを騙してたんですか?」


梓の声は震えていて、その瞳は否定を求めているかのように潤む。

ねこにゃーは、典子は、何も言わない。


梓「そんなわけない、そんなはずがないって何度も否定しても、心のどこかで思ってしまうんです。私たちに見せた姿は、

  私たちにかけてくれた言葉は、全部嘘だったんじゃって……」

ねこにゃー「……まぁ、そう思うのも無理はないかもね。亡くなった人の名前と姿で生きるって相当だもの」

典子「同感だ」

梓「っ……」


当然といった風に語るねこにゃーたちの言葉に梓は辛そうに顔を背ける。

そんな彼女の様子をねこにゃーは分厚いレンズ越しに優しく見つめると、その肩にそっと手を置く。


ねこにゃー「……だけど、私たちが見てきたあの人が、全部嘘だったかはわからないと思う」


梓にはその言葉の意味がわからず、どういう事かと視線で尋ねる。


ねこにゃー「澤さん、ボクたちはあの人に見つけてもらったんだよ」

梓「……はい」

ねこにゃー「戦車が好きで、だけど戦車道を履修するほどの度胸は無かった僕たちを見つけて、引っ張ってきてくれたんだ」


ついこの間の出来事なのにまるでずっと昔の事のようにねこにゃーは思い出を語る。


ねこにゃー「あの人は確かに僕たちに嘘をついていたんだと思う。それに傷つくのは仕方がないよ」


梓の気持ちが分からないなんて、ねこにゃーは言えなかった。

信頼していた人が嘘をついていたのは間違いなく、その事に傷つくななんてことを言えるわけが無かった。

だけど、


ねこにゃー「でもね、あの人が教えてくれたことに嘘は一つもなかった」


肩を掴むねこにゃーの手に力が籠められる。



151 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:02:30.73 ID:GKT/EkqT0


ねこにゃー「バレー部の特訓を受けさせられて、本当に大変だった。インドア派な僕たちがみんなについていくために必要だってわかっててもね」

典子「お前たちは鍛えがいがあったな!」


楽しそうに笑う典子にねこにゃーは「キャプテンは笑いながらボクたちを地獄に落としてたよね……」と小さく苦笑すると、そっと梓の肩から手を放す。

梓の顔をのぞき込むように屈んで、ゆっくりと、噛んで含めるように、


ねこにゃー「でも、あの人は特訓を乗り越えればもっと戦車を好きになれるって言った。……その言葉に嘘はなかったよ」


真っ直ぐなその言葉に、真っ直ぐなその瞳に、梓は視線をそらしてしまう。

そんな梓の姿にねこにゃーは一瞬悲しそうな顔をするも、今度は典子が口を開く。


典子「澤。私は、一度は八九式を信じられなくなった。足を引っ張るだけで、何も出来ないんじゃ……って。そしてその言葉を隊長は否定しなかった」


梓の頭に想起される聖グロとの練習試合の記憶。

最後の一手を任された自分たちの奮闘は届かず、敗北を喫した事は苦い思い出として今も梓の中にあった。

そして、いつだってやる気に満ちていた典子が自分たち以上にその敗北を気に病んでいたという事に梓は驚きを隠せなかった。

けれども、典子ははっと笑うと少し気まずそうに頬をかく。


典子「でも、結局私たちは八九式に乗ってる。正直、戦車道をやればやるほど性能差を嫌でも実感する。でも……それでも私たちはあの子で戦うって決めたんだ。

   正しさとか合理性とか、そういうのを無視して、それでも私たちは今のままで頑張ることを選んだ。そして、私たちの覚悟も隊長は否定しなかった。

   だから―――私は隊長に感謝しているよ」



典子の言葉に何も言えない梓に、ねこにゃーはそっと語り掛ける。


ねこにゃー「澤さん、逸見さんが西住さんだったとして、僕たちを騙していたとして、何もかも嘘だったってあなたは思える?」

梓「……わからない、わからないよそんなのッ!!」


二人の視線に耐えられなくなった梓が、泣き叫ぶように怒鳴る。


梓「私は、本当の逸見先輩に会ったことがないっ!!西住さんがどんな人かだなんて知らないっ!!なのに、一緒に戦った時間が全部嘘かだなんて、決められない……」


けれども、その声はどんどんと小さくなっていき、梓の瞳から涙が流れだし、最後には嗚咽としゃくりあげるような音だけがあたりに響いた。

ねこにゃーたちはそんな梓が落ち着くまで、何も言わずに待っていた。

152 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:07:39.15 ID:GKT/EkqT0





しばらくしてようやく泣き止んだ梓が、真っ赤な瞳を伏せたままポツリと声を出す。


梓「……ごめんなさい。急に泣き出しちゃって」

ねこにゃー「良いよ。ボクたちこそ、急に色々言っちゃってごめんね」

典子「……澤、隊長に会って何を聞くか決まってるか?」


梓は何も言わず頷く。

その様子に典子は満足そうに笑う。


典子「なら良い。さっさと隊長を見つけよう。それで、お前の気持ちをぶつけてやれ」

ねこにゃー「ちゃんと話して、ちゃんと聞いて、怒りたいなら怒って、それで……許すかどうか決めよう?」

梓「……はい」


今度はちゃんと声を出して、しっかりと二人を見つめて頷く。


典子「なら、捜索再開だなっ!走れっ!!」


典子の号令に、3人はまた走り出した。


153 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/05(日) 01:09:13.09 ID:GKT/EkqT0
ここまでー
この三人の関係性は私の捏造ですけどなんというか結構会話させやすくて扱いやすいですね。

また来週。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 01:16:27.76 ID:d+TfAFjg0
うぉおおこの時を待っていたんだーっ!
更新ありがとうございます!
先が気になりすぎる…
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 02:23:45.12 ID:Uv9fbKNY0
乙です。

来週まで待てない!
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 02:29:53.96 ID:O7lK9e9U0

待ってて良かったです!
来週も楽しみにしてます!!
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 03:04:12.57 ID:TAyV8tIhO
こんなんさおりんが白髪になるわ

お疲れ様でした
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 04:50:18.76 ID:5TF6rN820
西住から逃げ、姉から逃げ、母から逃げ、エリカから逃げ、黒森峰から逃げ、今度は大洗から逃げようとするみぽりん
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga saga]:2019/05/05(日) 15:25:29.23 ID:zIk+tx2S0
それもここまでだ!

>>1−シャ
待ってた! 待ってたぞ!
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 15:45:43.68 ID:GhgZsxd60
sageろゴミカス
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga sage]:2019/05/05(日) 16:10:46.45 ID:zIk+tx2S0
ミスってた
すまんカスゴミ
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/05(日) 23:22:48.01 ID:PLZbuxBNO
梓、典子、ねこにゃーの3人は特に「エリカ」と話をして、それに助けられた人達だからね
あんこうの皆よりも「みほがなりたかったエリカ」を感覚的に理解出来てて、そこから話をしていけるのかもね
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/06(月) 02:34:16.84 ID:PEh0b2qSO
この騒動が小梅ちゃんに知れたら普通に心労で倒れるでコレ
仮に自殺未遂なんぞしよったらカチューシャはいよいよ罪悪感でカミーユだな
結果まほちゃんは最終的には狂ってしほを衝動的に殺害し、このスレは古畑任三郎スレになるだろうな...
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/07(火) 00:31:46.80 ID:4PPOw8SR0
おいww
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/08(水) 19:30:03.72 ID:69/WtYj2O
みほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみほみそみほみそみほみ
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 16:42:13.65 ID:sSBQlVWqO
>>165 みそが混じってますよ
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 08:38:47.36 ID:CpqS2DLbO
みそが混入されていた
国産有機みほ100%使用は嘘だった
やはり日本の未来は闇
汚い大人は恥を知れ
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/10(金) 19:38:38.68 ID:tbpbH7rmO
愛じゃよ、愛、小梅ちゃん
あら治療な強○キスから始めましょう
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/10(金) 19:39:13.67 ID:400E/jcp0
早く更新してよ仕事なんていつでも休めるでしょ
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 00:35:14.59 ID:fEPBUA2eO
ミカ黒幕説(適当
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/11(土) 00:40:41.13 ID:fEPBUA2eO
西住流を潰すため島田流による陰謀説
(実はエリカは島田流のスパイ)
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 00:49:54.74 ID:Pj2QwDqX0
クソほどつまらんそのレスはageてまでするようなものだったの?
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 04:06:59.99 ID:pM4jEoC+O
はいはいミスです
すみませんね
適当かつセンスと内容のないクソレスでしたね
ご指導ありがとうございます
174 : ◆eltIyP8eDQ [sage saga]:2019/05/11(土) 13:52:44.47 ID:1lF84Ij30
ちょっと今日忙しくて投稿難しいと思うので明日投稿します。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:35:19.30 ID:TlRiRq0D0
そろそろ続きかな?
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:36:06.12 ID:TlRiRq0D0
そろそろ続き来る感じかな?
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/11(土) 23:37:11.50 ID:TlRiRq0D0
175、176の連投すまぬ
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/12(日) 04:58:03.79 ID:cnUdrhKzO
みほは一体どこに向かったのだろうな

まるでわからん
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/12(日) 20:22:36.98 ID:vYwGriwDO
どん底かな。どん底だけに。
180 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:31:22.43 ID:NXdKQUru0




同じ頃、あんこうチームと生徒会チームは校門前で合流していた。


沙織「会長!みんなからは!?」


焦りを隠す余裕も残っていない沙織に会長はゆっくりと首を振る。


杏「……まだだって」

沙織「っ……私、また探してくる!!」

杏「待って武部ちゃん」

沙織「そんな時間っ!!」

杏「分かってる。だから、聞いて」


どこか抑揚のない杏の声に引っ張られるように、沙織の中に冷静さが戻ってくる。

大きく息を吸って、吐く。


杏「ん。落ち着いたね」


沙織が落ち着いたのを確認すると、杏はいつものように歯を見せて笑う。

そして、直ぐに表情を引き締めて、額をとんとんと叩きながらフラフラと沙織たちの周囲を歩き出す。


杏「現状、出来る限り捜索はしている。艦内も河嶋の伝手で探してもらってる。……それでも見つからない」


考えながら喋っているのだろう、杏の言葉はどこか独り言のようだ。

そして、その歩みがピタリと止まる。


杏「なら、見落としがあると考えるべきだ」


時間が無いからこそ、現状への疑念を無視しない。

杏は一人一人の目を見て語り掛ける。


杏「みんな。何か、西住ちゃんのいそうな場所に心当たりはない?」

優花里「そう言われましても……」

麻子「そんなのわかっていたら、とっくに言っている」

華「学校は……もう探してますよね」


優花里たちが顔を見合わせて、そう答える。

杏は思わずため息を吐きそうになるも、ふと、沙織に顔を向けると表情が鋭くなる。


杏「……武部ちゃん」

沙織「え……?」

杏「私は、武部ちゃんならなにかわかるんじゃないかと思う」


それは単なる直感で、理屈じゃなかった。

過ごした時間なんて、あんこうチームの面々ならそう変わりはない。

それでも、杏は沙織なら何かわかるかもしれないと感じた。


181 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:44:22.18 ID:NXdKQUru0



杏「何か、何か聞いてない?なんてことない思い出話とか、他愛もない事でいいんだ」


杏の声に焦りが僅かに滲む。

その声に桃も焦りを露わに声を荒げる。


桃「武部!!何か知ってるのなら早く言え!!」

柚子「桃ちゃん落ち着いて……」

桃「っ……」


柚子がそれを抑え、桃は悔しそうに唇を噛みしめる。

自分が何も思いつけない、何も手助けが出来ない現状は桃にとってあまりにも辛く、歯がゆいものだった。

そしてそれはここにいる誰もが、今みほを探している誰もが感じている事だという事も桃は理解している。

焦って逸る自分を恥じ、桃はじっと沙織の答えを待つかのように見つめる。


沙織「……どこか、西住さんが行きそうなところ……私が、知ってる事……」


ぶつぶつと呟きながら必死で頭の中を覗きまわる。

みほと出会った時、一緒に戦車道をすると決めた時。

初めて乗った戦車に困惑した時、そんな自分にみほが落ち着いて指示してくれた時。

訳も分からないまま乗った戦車で、訳も分からないまま戦って、段々と戦車道が分かってきて、

段々と、戦車道が楽しいと思えてきて、

みほの言葉に怒りを覚え、みほの言葉に怒りを覚える自分に怒りを覚え、

仲直り出来て、

そして、みほの真実を知った。

182 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/12(日) 23:58:09.37 ID:NXdKQUru0


沙織「っ……」


想起したみほとの今日までの記憶に涙がこみあげてくる。

それが零れ落ちないように沙織が空を見上げる。

その視線の先には薄っすらと月が浮かんでいた。

……今日は雲が無い。

きっと、月が綺麗に輝くんだろうなと、呑気な事を一瞬考えてしまう。


その瞬間、沙織の脳裏にいつかの記憶が蘇る。




沙織『えりりんっ!』

エリカ『沙織?』

沙織『こんなところで何してるの?』

エリカ『別に。……月がきれいだなって』

沙織『……ホントだ。高地だからいつもより大きく見えるね』

エリカ『……ええ。照らすものすべてが煌めいて見える銀色の光』




ついこの間の事なのに、もうずっと遠くの事のように感じる記憶。

アンツィオ戦後に、月を見上げていたみほ。

その横顔はいつものような張り詰めたような表情ではなく、嬉しそうな懐かしそうなもので、

その声色に宿る感情は、彼女にとって月がとても大きな意味を持つのだと、持っていたのだと、沙織は気づく。


沙織「山……学校の、裏山」


月を見上げながらうわ言のように呟いたその声に、杏が真っ先に反応する。


杏「そこに、西住ちゃんがいるの?」

沙織「わからない……でも、西住さん、月が綺麗って。嬉しそうに、言ってて……このあたりで一番高いところって艦橋か、裏山でしょ……?」


高さだけなら艦橋の方が高い。

しかし学園艦の環境は船舶科でも一部の人間しか入ることが出来ない。

少なくとも、普通科であるみほが入ることは出来ないだろう。

杏は納得したように頷く。


杏「……なるほど、なら」

桃「っ!!」

柚子「桃ちゃんっ!?」


杏が指示を出そうとする前に桃が柚子の制止も聞かずに裏山に向かって走り出す。


優花里「私たちも行きましょうっ!!」


優花里の言葉を合図に、皆桃の後を追いかけていった。


183 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:08:01.46 ID:bVfjB2rg0





日は沈み切り、月が空高く上がっている。

そんな月を、みほは一人裏山の山頂で見上げていた。

別に、何か目的があって山を登ったわけではない。

ただ、あの部屋にいるのが怖くて、飛び出した時最初に目についたのが裏山で、



『だから……少しだけ、少しだけで良いんです。前を向いていきませんか? 』



遠く、色褪せた記憶が後ろ髪を引いたような気がしたから。

けれども、山頂まで来たところで何の感慨もなく、

みほはこうやって膝を抱えて日が沈み、月が昇るのを見つめていた。


「エリカさん、私は…」


結局、自分はまた逃げただけなのだ。

沙織が扉の前で何度も呼びかけてくれた時、みほの脳裏を埋め尽くしたのは、罪悪感よりも恐怖だった。

何者でもない、空っぽな自分を知られて、それでも自分を想って呼びかけてくる沙織が怖くてたまらなかった。

こんな価値のない自分にまだ、優しくしてくれる彼女が、理解できなくて怖かった。

だから、逃げ出した。


そうして制服のまま山を登り、体が悲鳴を上げても無視して、山頂にたどり着いた。

呼吸が落ち着くと、今度は自分を責めだした。

こんな自分に優しくしてくれる人たちを裏切って、恐怖を感じた自分自身が、嫌いでしょうがないと、膝を抱えて俯いていた。

そしていつの間にか日は沈み、月が出ていた。


「エリカさん……やっぱり、私じゃダメだよ。貴女がいてくれなきゃ、私は……何も出来ないよ……」


目元に涙をためながら月に向かってそう呟く。

いっその事あの時のように曇り空ならば月に縋る事すら出来なかったのに。

いつもより大きく見える月は否が応でもみほのエリカへの想いを掘り起こす。

そうやって、何度目かの泣き言を呟こうとしたとき、茂みから音がした。


「何……?」

184 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:17:28.64 ID:bVfjB2rg0



裏山に鳥や小動物以外の野生動物がいるだなんて聞いていないが、まさか……とみほの背中を冷たい汗がつたう。


どうする、逃げられる?流石に熊などはいないだろうが野犬の類ならばあるいは……

みほは周囲を見渡し、手のひらほどの大きさの石を掴む。

無論、これで撃退するなどとは考えてはおらず、一瞬でも隙が作れれば程度のものだ。

立ち上がり、周囲を見渡し退路を探る。

麓へ続く道は音のする茂みの傍にある。

……隙を見て一気に走るしかないか。

みほは覚悟を決め、茂みを注視する。


そして、茂みから黒い影が飛び出してくる。



みほが石を構えた時、その影を月明かりが照らす。

その見知った影に、みほは手の中の石をポトリと落とす。


「桃、ちゃん?」


桃の着ている制服には所々土埃や葉っぱがついていて、裾のあたりは枝でも引っかけたのだろうか、少し裂けていた。

ボロボロという言葉で充分表せる桃の姿に、みほは言葉を失う。

対して桃はみほの姿を認めると呆然とした表情のまま、ポツリと呟く。


桃「……西住」


そしてそのままヨロヨロとみほに近づくと、倒れこむように抱き着いてきた。


「え、ちょっ……」

桃「良かったっ……良かったあああああああああああああっ!!」

「え?え?何、何?」


何で桃がこんなところに。

何で抱き着いてきたのか。

何で登山道ではなく茂みから飛び出してきたのか。


何がどうしてこうなったのか全く分からないみほの胸の中で、桃は声を上げて泣き出す。

わけがわからずオロオロと周囲に視線を彷徨わせるみほの耳に、また別の声が聞こえてきた。


沙織「こっちから桃ちゃん先輩の声が!!」


その声が途切れるやいなや、先ほど桃が飛び出してきた茂みから今度は4つ、いや6つ、見知った影が出てくる。

最初に出てきたのは沙織、その後を優花里、華、麻子が。

更にその後を杏と柚子が続いて出てくる。


桃の事を処理しきれていないみほの頭は今度こそパンクする。


「え?みんな?なんで?」

185 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:23:58.63 ID:bVfjB2rg0


疑問符がとめどなく浮かび続けるみほに対して、先頭の沙織はみほの姿を見るとうっ、と口元をおさえて目を潤ませる。


沙織「西住さんっ……よかった、無事だったんだね……」


優花里たちも同じように目に涙をため、杏と柚子は安堵のため息をもらす。


「みんな……」


一体何事なのだろう。

みほがまわりの反応に全くついていけず、胸の中で泣きじゃくる桃→沙織たちと視線をフラフラと移動させていると、

泣いてばかりで言葉になっていなかった桃がガラガラになった声で喋りだす。


桃「ごめんっ!!ごめんなあ西住いいいいいっ!!」

「あの……え?桃ちゃんなに謝って……」

桃「全部全部っ!!私たちが悪いんだっ!!お前に廃校なんか押し付けて、お前の事情なんか考えもしなくてっ!!」


桃の肩を掴んでいた手がピクリと反応する。


桃「お前に負担をかけていることなんてわかっていたのにっ!!お前がっ……辛い気持ちを隠していた事に気づいていたのにっ!!」

「……」


桃がみほの胸元を握りしめる。


桃「だからお前はっ、何にも悪くないんだっ!!廃校の事だって、なんだってみんなみんな、私たちのせいにしていいんだ!!」


涙を拭いもせず、桃はみほを見上げる。


桃「だから、だから……死ぬなんて考えるなっ!!」


額がぶつかりそうなほどの距離で桃はそう叫んだ。



「……そっか」


ようやく、みほはこの状況を理解する。

みんな、自分を心配して探してくれていたのだと。

186 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:27:19.27 ID:bVfjB2rg0


「桃ちゃん、私が変な気を起こしたと思ったの?」

桃「だって、だって……」


慌てている人を見ると冷静になるというが、胸の中で泣きじゃくる桃の姿を見てみほはようやく自分のした事に気づく。


ずっと嘘をついていた人間がその嘘を暴かれ、狼狽した姿を見せた挙句にどこかに消えた。

……勘違いするのも当然だろう。

そんな事すら気づけなかった自分はやっぱり、自分の事しか見ていないのだなと、みほは内心自嘲する。

けれども今、桃に聞きたい事があった。

桃の肩を掴んでいた手を腰に回し、顎を肩に乗せる。

耳元で囁くように、問いかける。


「桃ちゃん、私が死んだら悲しい?」

桃「当たり前だっ!!」


一瞬の躊躇もなく答えた桃に、みほは嬉しそうに口元を緩め、ぎゅっと、先ほどの桃のように強く抱きしめる。


「……そっか。私、私ね。大切な人を助けられなかったの。大好きな人、私を、救ってくれた人を」


耳元で桃が息をのむ音がした。


「だから私が死ねばよかったんだって。私の人生を、エリカさんに生きてほしかった。だから、私がエリカさんになろうと思ったの」


それが、ついこの間までのみほの行動原理だった。

そうすることでしか、みほは生きる事が出来なかったから。


「でも、そんなことできなかった。見た目を変えても、話し方を変えても、考え方を変えようとしても、どうやってもエリカさんになれなかった」


一人の時、そうじゃない時、何でもない言葉選びに、ちょっとした仕草に、みほは『自分』がいる事を感じてしまった。

あの人ならばこうする。あの人ならこう言う。

結局のところそれはみほの主観でしかなく、水が低いところへと向かってしまうように、自分が演じやすい『逸見エリカ』へと変質していっている事に、みほは気づいていた。


「いつだって、私の前に『私』が現れた。私を、嘲笑ってた。……それは、私の本心だったんだ」

187 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:34:43.71 ID:bVfjB2rg0



聖グロとの練習試合、サンダースとの一回戦、プラウダとの準決勝。

目の前に現れた栗毛の少女の幻影は、いつだってみほを蔑んで、嘲笑っていた。

その意味にみほは最初から気づいていた。だから、拒絶し続けた。


「それがもう見えなくなった。私は……もう、エリカさんのフリも出来なくなった」


自分を否定する幻が見えなくなった。それはつまり、もう否定する必要すら無くなってしまったという事だ。

エリカでいられなくなった自分はもう、嘲笑う価値すら無くなったのだと。

なのに、そんな自分をこんなボロボロになってまで探してくれた。

それが、嬉しかった。


「桃ちゃん、あなたは私に廃校を背負わせたっていうけど、私本当に嬉しかったんだよ?戦車道は私の、何にもない私の唯一の取柄で、エリカさんに褒めてもらった事だから」


戦車道が無い学校でも戦車道を続ける。母親にそう吐き捨てたものの、結局みほ自身ではどうしようも出来なかった。

転校して、何もできずただ『エリカ』のフリをし続けてた日々に、確かな光が灯ったように感じた。


「きっと、あなたたちが声をかけてくれなかったら、私は……」


その先は言葉にならなかった。

桃がぎゅっと、胸元を掴む手に力を込めたから。

『その先は言わないでくれ』と、瞳で訴えてきたから。

みほは桃の髪をそっと手で梳く。


「だから、会長もそんな顔しないでください」


そして、辛そうにこちらを見つめる杏に、微笑みかける。

けれども杏の表情が緩むことは無い。

むしろ、先ほどよりも辛そうに顔を歪める。


杏「西住ちゃん、私は……」

「まぁ、確かに最初はムカッとしたけどでも……どのみち、私には戦車道しかなかったんですから」


軽くおどけてみたものの、やっぱり杏は辛そうにしたままで、みほも困ったように笑う。


188 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:35:34.38 ID:bVfjB2rg0



杏「……ごめんね」

「謝らないでください。……覚悟して、やった事なんでしょ?」

杏「……うん」


頷く杏の顔はとても、納得している様にも、気に病んでいないようにも見えず、そんな彼女の様子にみほは自嘲を込めて息を吐く。


「ああ……私は、やっぱり貴女みたいには出来ないや。貴女ならきっと……もっと……」


そうしてまた、月を見上げた時沙織が一歩前に出てくる。


沙織「西住さん」


先ほどまでの嬉しそうな、泣きそうな顔ではない、決意を込めた表情にみほも何かを感じ、

桃をそっと立ち上がらせて、離れる。

果し合いでもするかのように向き合うと、沙織が口を開く。


沙織「私はね、ショックだったよ。あなたがエリカさんじゃないって知って」

「……」

沙織「私だけじゃない、みんなそう。今日まで一緒に戦ってきた人が別人だって言われてショックを受けない人なんていないよ」

「……うん。そうだよね」


当然だ。自分のしたことはそういう事なのだから。

気づかなかった。そうなるとは思わなかったなんて事言えるわけがない。

この事態は全部、自分勝手な自分が招いた事なのだから。

沙織が怒るのならそれは当然の事なのだからと、みほは覚悟していた。

だけど、釣りあがった眉は落ち、沙織の表情に優しさが戻る。


沙織「……でもね、だからって私たちがあなたと過ごしてきた今日までが無くなるわけじゃない」


まるでいつものように、なんてことのない食事時の世間話をするかのように、沙織は微笑む。


沙織「辛かったことも、楽しかったことも、『逸見エリカ』じゃなくて、『あなた』と過ごした時間なんだよ。だから、」


結局、沙織は答えなんて見つけられていない。

みほがエリカを騙る事が間違いだとわかっていても、それを咎めるつもりは沙織には無かった。

大事なのは、助けたいのはみほだから。

だから、みほに伝える。

みほの過ごした大洗での日々は、偽物なんかじゃないと。

『西住みほ』が紡いできた絆なのだと。

189 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:36:32.82 ID:bVfjB2rg0



沙織「西住さん。……ううん、みほ。私は、私たちは、あなたの友達だよ。エリカさんだったあなたと出会った日から、今日までの全部が私たちにとって、あなたとの大切な思い出なんだよ」


沙織の言葉に皆が頷く。

それを見て、みほが遠くを見るように目を細める。


「……そっか。私達は、友達になれてたんだね」


そして、一人一人を見つめる。


  「麻子さん」

麻子「おう」

  「優花里さん」

優花里「はいっ」

  「華さん」

華「はい」

「沙織さん」

沙織「うんっ」


みほの声に4人が嬉しそうに返事をする。

その音をみほは目を閉じて何度も何度も頭の中で繰り返し、そしてゆっくりと目を開く。


「私、こんなにもたくさんの友達ができたんだ」

沙織「そうだよ、みほ。だから、だからあなたも……自分を、許してあげて。ちゃんと、前を向いて。あなたは……西住みほなんだから」


みほの言葉に、沙織が微笑んで伝える。

『逸見エリカ』のフリをする必要なんて無いのだと。

私たちと一緒に、前に進んでいこうと。

みほに向かって手を差し出す。


その手をみほはじっと見つめ、微笑む。


「……そうだね。私はもう、エリカさんにはなれない。だって、エリカさんはもういないから。そんなエリカさんに、なれるわけがないんだから」


みほが、ゆっくりと沙織に近づく。

優花里たちが涙ぐんでその様子を見つめる。

沙織も、泣き出しそうな自分を必死に抑えて笑顔をみほに向ける。

そして、みほは沙織の差し出す手に手を伸ばすと――――沙織の手を、ゆっくりと下ろさせた。

190 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:37:05.10 ID:bVfjB2rg0


沙織「みほ……?」


どういう事なのかと、沙織が動揺を隠せずに問いかける。

みほは先ほどと同じように微笑みながら、沙織の瞳を見つめる。


「でもね……ううん、だから」


みほの微笑みが、どんどん崩れていく。いや、変質していく。

口元は微笑んだまま、その瞳に喜びではない感情が宿っていくのを沙織は感じる。


「だから、だから」


沙織が感じたその感情は、


「私は、私を許せない」




怒りだった。




191 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:38:30.84 ID:bVfjB2rg0



「私が自分を許しちゃったら、私が、自分の罪を忘れちゃったら、きっとエリカさんの事も忘れちゃう」


先ほどまでの穏やかな空気は消え去り、みほはくしゃりと、自分の髪を荒々しく掴み、瞳孔の開ききった目で、微笑んだままで、怒りを表す。


「優しいあなた達と一緒にいたら、そんな未来を受け入れたら、きっと毎日が楽しくて。エリカさんを失った事が過去になっちゃう」


みほの瞳はどこでもない虚空を、かつてエリカといた過去を見つめ続ける。


「そうなったらもう、私は……私じゃなくなっちゃう」


微笑んだまま、瞳に怒りを宿したまま、今度は涙が流れだす。

ごちゃ混ぜになった感情は、けれどもみほにとっては当たり前の、変わりのない事実を核に纏まっていた。


「エリカさんからたくさんの事を教えてもらったのに、エリカさんが私を形作ってくれたのに、エリカさんに、私は救われたのに」


蘇るのはエリカとの日々。

自分の人生と等価な銀色の時間。

それはもう、永遠に過ぎ去った時間で、それをみほも理解していた。


「エリカさんはもう戻ってこない。私がやってたのはただただ自分を慰めるための馬鹿げた真似事だって、わかってた」


どうなるかなんてわかっていた。

姉を憎悪に狂わせ、母の心を擦り減らし、友達の優しさを裏切り、新しい友達を欺き、裏切る。

結論なんて、結末なんてわかりきっていたのに、それでもみほは選んだ。


「だけど、やっとわかった。私は……エリカさんじゃなくても生きてしまうんだって」



『生きて』



その呪いが、みほを生かし続けている。

その微笑みだけは、未だに色褪せずに残っている。

彼女の声も、姿も、美しさも、全部掠れているのに。


最期の瞬間だけは刻みつけられたかのように思い出せてしまう。

だからみほは今日まで生きてきた。

嘘を暴かれ、空っぽの中身を晒されても、それでも生きてきた。



192 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:39:18.30 ID:bVfjB2rg0



「だけどね、エリカさんのいない世界は真っ白なんだ」


大洗での日々は楽しかった。それは嘘ではない。

確かな絆があった。それを否定するつもりは無い。

ただ、それでも、


「私にとって、エリカさんのいない世界は真っ白で、痛くて、悲しくて。エリカさんを救えなかった私が、憎くて、許せなくて、たまらないんだ」


揺るぎない想いがみほの中にある。

エリカへの想いと、そして――――自らへの憎悪が。



「この悲しみが、怒りが、憎しみだけが、私を証明してくれるの」


193 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:39:57.56 ID:bVfjB2rg0





みほ「私は、西住みほなんだって」





194 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:53:20.24 ID:bVfjB2rg0


誰もが沈黙し、動揺する中最初に口を開いたのは桃だった。


桃「違うだろっ……そんなの、おかしいだろっ!?」


桃が泣き叫ぶように怒鳴る。


桃「お前は、何も悪くないっ!!お前がそんな苦しんで良いはずがないっ!!」


みほの手を掴み振り向かせ、感情をぶつける。


桃「お前はっ!!救われて良いんだっ!!」


涙ながらに訴える桃に、みほは本心からの笑顔と、感謝を向ける。


みほ「……ありがとう、桃ちゃん。やっぱり私、あなたの事が好きだよ」


感謝と、好意を表したその言葉に込められた意味は、拒絶だった。

桃は絶句し、そんな彼女を悲しそうに見つめるとみほは沙織たちに向き直る。


みほ「桃ちゃんだけじゃない。沙織さんたちの事も、みんなみんな、大好きだよ」


みほは今にも泣きそうな笑顔で微笑みかける。

沙織も、優花里も、華も麻子も、何も答える事が出来ない。


みほ「それでも……みんな、ごめんね。私は……今ここにいるあなたたちよりも――――エリカさんとの過去の方が大事なんだ」


大洗での日々は楽しかった。

紡いだ絆は確かにあった。

それでも、みほにとっての『世界』はエリカと共に過ごした日々のままだった。


みほ「エリカさんはもう、いない。全部全部過去で、今も、未来にも、あの人はもういない」


残った記憶さえ崩れていく。それでも、エリカと過ごした日々以上は無いと、みほは断言する。


みほ「だから私は、あの人がいた過去を、あの人を過去にしてしまった自分への怒りを失うわけにはいかないの」


みほが自身の胸元をかきむしるかのように掴む。

そこに宿った怒りは、憎しみは、痛みは、いつだってみほを苛み、みほを生かしている。


みほ「エリカさんを失った『痛み』まで失ったら私は……死ぬことさえできなくなるから」


みほにとってそれは死ぬことよりも怖いものだった。

例え全てを失っても、家族も、友も裏切っても、それでも、守らなければいけない決意だった。


みほ「私は生きるの。生きないといけないの。死ねない代わりに、生き続けるの。それが、エリカさんの望みだから」


大きな月の銀色の光の下、みほの静かな慟哭が響き渡った。


195 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/13(月) 00:59:00.09 ID:bVfjB2rg0
ここまでー。

描写する隙間が無かったので書きませんでしたが、桃ちゃんたちが茂みから現れたのは桃ちゃんが山頂までの最短距離を突っ走った結果です。

凄いですね大洗生。


また来週。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 01:21:03.10 ID:fG+jbbwI0
おつー
来週も楽しみにしてますねー
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 01:27:02.30 ID:rZ+Y+0k30
乙でしたー
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 01:41:32.36 ID:qqgoJXIZO
まほですら見限っているのだからそりゃ無理か
やっぱり病院いこうぜみほちゃん

...でもメンヘラの群れん中に放り込むのもな

可愛いし天才だし上品だしイジメられるなあ
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 01:56:38.89 ID:O+zCottd0
ここで解決してたら既存のガルパンSSと変わらない有象無象になってたと思う
壁を超えた気がする
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 14:30:15.48 ID:70wTwWrqO
この自己嫌悪の波動...どこかで
うーん、思い出せん...
それにしてもガルパンは堕ちの美がよく映える
西住流の闇がそれを全て引き立たせるのかな

やべえぜ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 17:04:17.78 ID:ujPd9U2GO
少し溶けた雪が凍ってもっと滑りやすくなってる状態だな
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 19:14:47.37 ID:GF2S0XbDO
凄いな、「今を共に過ごす大洗の皆よりも、エリカとの過去の方が大切」ってこの一言にみほの絶望と闇が凝縮されている、それをみほに言い切らせる作者さんも凄い
…エリカが生きてみほのこの言葉を聞いたら、涙を流しながらみほに平手打ちするんだろうけどなあ…結局はみほが自分で立ち直る以外に道はないという事か
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 20:23:16.39 ID:uiYfSNlZO
やっぱこの先はなんかエリカ自身の遺品的な、こう、エリカの生前の私物というか、エリカ自身に関する驚愕のドキュメンタリーがあるはず。
しかしまほパンもまたありそうだなあ。
その時には
腐った西住にいる貴様には解るまい!私には義がある!って小梅ちゃんに脱藩してほしいよ。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 22:07:34.47 ID:dykfxLh10
脱糞に見えた
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/13(月) 23:41:42.26 ID:8RneLrc3O
興奮しました
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/14(火) 11:26:14.02 ID:wNPDzIgM0
みほのエリカへの執着心、いいね
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/15(水) 22:06:40.72 ID:G3o57o7Q0
週一更新なの何とかならない?何とかして毎日更新してよ。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 08:13:09.19 ID:iCFHfqbEO
み○「小梅さんには正直ムラムラしますね。なんだかいつもいい匂いがするし、一見とても控えめだけど芯が強くて凄く優しい人なんです。私がまだ黒森峰にいたころにはたまに一緒の組になって練習しましたけど小梅さんはいつも気弱な私の助けになってくれて。それに狭くて暑い戦車の中にいるといろいろと体の接触も多くてそのたびに私はいけない気分になっ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 12:55:48.73 ID:x++xeMmtO
>>208
わっふるわっふる
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 16:32:38.14 ID:0aDtxujGO
お前のみほで押し倒せ!
お前がみほだ!
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 23:02:43.33 ID:eunv0I/10
何でこのスレでみほ梅の話してるのか分からないがみほ梅って何故か説得力ないよな
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 23:03:39.45 ID:JbWWXYjXO
令和に相応しい神スレを誰か作ってくれ
次世代型のガルパンssを頼む
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/17(金) 23:23:25.16 ID:gqlqfWKCO
高級牛肉と高級マグロみたいな
素地が受け受けみたいな
いやしかしうまくだれか調理できないか
おれはそれを待ってるんだ
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/17(金) 23:27:16.21 ID:gqlqfWKCO
あごめん
下げ忘れた
めんごめんご
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/05/18(土) 02:30:42.87 ID:RFrGJuXvO
小ぶりであまり主張しないけど他の果実より明らかに甘く成熟した
それが小梅ちゃんの魅力なんだよ
そんな小梅ちゃんがみほちゃんと狭苦しい戦車の中でカチカチココナッツを鳴らして陸奥見合ってほしいおじさん奴なんだよ。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 02:32:21.62 ID:RFrGJuXvO
あごめん
また下げ忘れた
めんごめんご
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 05:05:37.48 ID:GiOTMbAzO
土曜日ですね
早いものです
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 18:10:14.99 ID:mjeR09m8O
みほ梅は他所に書いたら?
ここに書く意味がよくわからない
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/18(土) 22:12:32.61 ID:WUNuVFbQO
そろそろかな?待機
220 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 00:43:19.67 ID:HjQKnQVP0




よろよろと、遭難者のように覚束ない足取りでみほたちはふもとを目指して歩く。

誰からも言葉は出ず、その面持ちはみほの行方を捜し焦っている時よりも沈痛なものだった。

それでも、歩む足取りは止まらず何とかふもとまで下りる事が出来た。

聞こえたため息は誰のものか、あるいは全員のものだったのか。

尋ねるものはいないまま、どうすればいいのかと皆が自問自答を繰り返していた時、ふと沙織が視線の先に人だかりが出来ている事に気づく。


沙織「みんな……」


集まっていたのは戦車道チームの面々。

山頂から下りる時に、沙織は全員にみほを見つけた事。全員帰宅するように。とメールを送っていた。

しかし、今目の前にいる戦車道チームには欠けは無く、皆がどれほどまでにみほを心配していたのか、当人も含めて感じることが出来た。

故に、その皆に何を言えばいいのか。どう答えればいいのか。みほは迷ったまま何かを言おうとしてぎゅっと唇を結ぶ。

そんなみほをねこにゃーが見つけ、駆け寄ってくる。


ねこにゃー「西住さんっ!良かった……無事だったんだね」

みほ「……ごめんなさい」


何はともかく、謝らなくてはと頭を下げるみほにねこにゃーは気にしないでと言うかのように微笑む。


カエサル「ああ、なんだ。謝る事はないさ。私たちが勝手に心配しただけなんだから」

典子「私も夜中にランニングとかよくしますし!」

そど子「いや、こんな夜中に出歩いてた事に関しては風紀委員として注意するわよ」

ナカジマ「園さんそれは後で……でも、本当に無事でよかったよ」


チームリーダーたちが口々にみほが見つかった事への安堵を示し、ほかの生徒たちも同じように喜び、微笑む。

そんな空気を切り裂くように、無言で、張り詰めたような表情の梓が生徒たちの真ん中を突っ切るように、みほの前へと歩いてきた。


梓「……」

みほ「梓、さん……」

梓「……っ!!」


瞬間、梓がみほの頬を叩く。

止める間なんて無く、みほの頬がみるみると赤くなっていくのを月明かりが照らす。



沙織「ちょっ!?」

桃「お前何をっ!?」


驚いた沙織と桃が、梓に詰め寄ろうとしたとき、その行く手をねこにゃーと典子が遮った。


221 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 00:50:22.31 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃー「待って」

沙織「でもっ!」

典子「ちょっとだけ、待ってください」


ねこにゃーと典子の覚悟のこもった表情に沙織と桃は何も言えなくなる。

そんな彼女たちの様子を気にも留めず、梓とみほは向かい合っていた。


みほ「……」

梓「……いきなりぶたれたのに何も言わないんですか」

みほ「……理由は、分かってるし、私が悪いのもわかってるから」

梓「……私は、エリカ先輩が大好きでした」


脈絡のない梓の言葉をみほは黙って聞く。


梓「強くて、凛々しくて、風になびく髪が雪みたいにキラキラしてて、本気で戦車道に臨んでる姿が、本気になれるものが無かった私には輝いて見えて」


強張っていた梓の表情が言葉が紡がれるたびに柔らかくなっていく。


梓「だから、エリカ先輩みたいになりたいって、あの人の力になりたいって。そう思ってました」


口ずさむように思い出を語る梓が今度は唇を噛みしめ、悔しそうに、悲しそうな表情をする。


梓「でも、そうやって憧れた人はもう死んでて、嘘をついてたあなたは、そんな姿で、私……馬鹿みたいですね」

みほ「……ごめんなさい」


力なく肩を落とす梓に、みほが力ない謝罪で返す。

そんなみほを梓は舌打ちでもするかのように鋭く睨む。


梓「ねぇ、ありもしない人に憧れて、もういない人を信じてた私の気持ちは、憧れは、想いはっ…どこに行けば良いんですか……?」


信じていた人に裏切られた。それならまだ良かった。憧れが怒りになるのなら、あるいはあんな人を信じた自分が悪かったと言えるのならば、こんなにも梓の心は乱されなかっただろう。

けれども、梓が信じていた人なんて最初からいなかった。

目の前にいるのは憧れの人を騙っていた偽物で、

何よりも、『本物』なんて知らない事が、梓はたまらなく辛く、歯がゆかった。

握りしめた拳が真っ白になっていく。


梓「なんで、なんであんな嘘ついたんですか。なんで、私にあんな優しい言葉をかけたんですかっ!?なんで私に微笑んだんですかッ!?」



222 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 00:55:13.01 ID:HjQKnQVP0



厳しくも暖かい言葉が、笑顔が、梓の脳裏に蘇る。

それがあったから戦おうと思えた。

それがあったから強くなろうと思えた。

なのに、美しいと思った白い髪が今は忌々しく思えてしまう。


みほ「……嘘ついて、ごめんなさい」


梓を見つめながらやはり、みほが力なく謝罪する。

その言葉に、梓の目が大きく開く。


梓「私が、嘘を吐いたことに怒ってると思ってるんですか……?」


呆然と、信じられないものを見るような目。

その理由が分からず、みほは瞳で疑問を表す。

その瞬間、準決勝の日からずっと燻っていた梓の怒りが爆発した。


梓「違う……違うっ!!私が怒ってるのはっ、許せないのはっ!!」


みほの胸倉を梓が掴む。

鼻先を噛みちぎらんばかりに顔を寄せ、怒りを吐き出す。


梓「あなたがッ!私からエリカ先輩を奪った事だッ!!」


その言葉にみほが色を失い、見開いた目がぐらぐらと揺れる。


梓「信じてたのにっ、大好きだったのにッ!!」


223 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 01:19:09.19 ID:HjQKnQVP0



胸倉を掴む梓の手にギリギリと首を絞めるかのように力が込められていく。

その小さく細い体が放つ怒りは、先ほどまで梓を止めようとしていた沙織たちまでも飲み込むほどだった。


梓「貫き通せない嘘なら最初からつかないでよッ!!」


そう叫ぶと、梓の手からゆっくりと力が抜けていく。

胸元を離れようとした手がトン、とみほの胸を打つ。


梓「……私はっ、大好きな人を失ったっ……あなたが、そうした」


涙交じりで所々掠れているその言葉は、けれども一番強い意味と感情が込められていた。

みほはもう、息をすることすら精一杯になっていた。


梓「勝手に憧れてたのは私で、私に文句を言う権利なんて無いのかもしれない。でもっ……やっぱり、私はあなたのした事が許せない」


胸を打った手をそのまま押し込み、みほを突き放す。

辛うじて倒れなかったみほは、動揺したまま呟くように声を出す。


みほ「……私は、私はあなたに、同じことを……」

梓「同じ……?」


怪訝な顔をする梓をみほはどこか焦点の合ってない瞳で見つめる。


みほ「大切な人を、失わせた。その気持ちがどれだけ辛いのか、私は知ってるのに。空っぽの自分を埋めるために、あなた達を、利用した」

梓「同じなんかじゃないっ!!」


みほの言葉が言い終わるや否や、梓が再び激昂する。


梓「私はっ、あなたとは違うっ!!」

224 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 01:38:28.65 ID:HjQKnQVP0


そう言い切った梓は、浅い呼吸を繰り返す自分を落ち着けるためゆっくりと呼吸をする。

そして、少し落ち着きを取り戻すと真っ赤な瞳のままみほを睨みつける。


梓「私は、エリカ先輩のおかげで本気になれるものを見つけました。負けて悔しいって思えて、勝って嬉しいって思えるものに出会えました」


戦車道の授業が再開すると聞いた時、初心者の自分が大会に出るなんて考えていなかった。

友人たちに流されるように履修することを選んだ。

その戦車道に本気で打ち込んでいる人を見た。

強くて、凛々しくて、美しいその姿に自分も近づきたいと思った。

だから梓は、ここにいる。


梓「例えあなたの全部が嘘でも、私が見つけたその気持ちだけは本当です。どれだけ辛くても、どれだけ大きなものを失ったとしても、私は――――空っぽなんかじゃないっ!!」


みほに、皆に、梓は宣言する。

私は、私だと。

梓はみほの嘘の中で実(まこと)を見出した。


梓「だからっ、勝手に哀れまないでください。あなたなんかに、そんな顔される筋合いは無いっ!!」


その否定が、みほの中に響き渡る。

反響して、より強く心に刻みつけてくる。

みほの唇がゆっくりと弧を描いていく。

その瞳には目の前の後輩への尊敬と、敬意が込められていた。


みほ「……あぁ。あなたは、『強い』んだね」

梓「……私だけじゃないです。ここにいるみんな、同じ気持ちです」


225 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:03:25.13 ID:HjQKnQVP0


そう断言する。

みほが周りを見渡す。

二人の様子を固唾をのんで見守っていた皆の表情はどれも強張っていて、誰もがその瞳に強い意志があった。


空っぽなんかじゃなかった。


みほの表情が月を見つめていた時のように穏やかになっていく。

今まで見ていた『逸見エリカ』とは似ても似つかないその柔らかくどこか頼りなく見えるその姿こそが、『西住みほ』なのだと、皆は理解した。

そして、梓はようやく『本題』に入る。


梓「だから、答えてください。……あなたは、私たちと一緒に戦ってくれますか」


手を差し伸べたりはしない。

梓の瞳は突き放すかのように冷たく、鋭い。


みほ「……私は嘘つきだよ。あなたたちを、裏切ってたよ」

梓「知ってます。絶対に許しません」


欠片も温情を込めていないその言葉に、みほは安心感を覚えてしまう。

だから、もう一度訪ねる。


みほ「私は、エリカさんみたいに強くないよ。無様で、惨めなこの姿が、本当の私なんだよ。私は……あなた達の期待に応えられるような人間じゃないよ」

梓「わかってます。でも、あなたは私たちを本気にさせたんです。その責任を、果たしてください」


その言葉をみほは何度も何度も咀嚼するように頭の中で繰り返す。

ゆっくりと飲み込み、梓の目をまっすぐ見つめる。


みほ「……そうだね。それが、私に出来る事なら」


その答えを聞いた梓は、何も言わず皆の元へと歩いていく。

ねこにゃーと典子が、心配そうにみほを見つめる沙織たちの背中を押して、その中に連れていく。

残されたのは、みほ一人。

31人の視線がが、みほに注がれる。

それに気圧されそうになる心をぐっと抑えて、みほが皆と向き合う。


みほ「皆さん。私は……西住みほです。逸見エリカの名を騙って私は、あなたたちを騙していました。嘘をついていました。

   何を言われても返す言葉もありません。本当に……すみませんでした」


226 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:11:50.21 ID:HjQKnQVP0


そう言って頭を下げる。

罪悪感が胸の内で暴れる。

全部投げだして逃げ出したくなる。

そんな自分の心を、しっかりと抑え込む。


みほ「私にとって大洗(ここ)は、今でも他所です。私の世界は、今でも黒森峰です」


いつか、今日と同じように山頂で見た黒森峰の街並みは、今でもみほの中で輝いている。

数えきれないほどの思い出がそこにはあった。

思い出があった事だけは、覚えていられた。


みほ「この学園艦を守りたいなんて、私は言えない。そんな覚悟も決意も私には無い。だけど……」


きっともう、彼女以上なんてみつからないのだろう。

自身の贖罪の為に今度は大洗の皆を利用するのかと問われれば、否定はできないだろう。

それでも、


みほ「お願いします。私に、力を貸させてください。私に、戦車道をさせてください」


みほは、大洗(ここ)で戦うと決めた。


みほ「私に、何があるかなんてわからない。一番大切な人はもう、どこにもいない。それでも……こんな私が、力になれるのなら。私に、やらせてください」


『逸見エリカ』じゃない『西住みほ』には戦車道への誇りも、喜びも何も持っていない。

そんなものは最初から無かったから。

だからこれは、ただの『手段』だ。

自分にできるただ一つの、誠意の表し方だ。

本気で戦車道を楽しんでいる、本気で戦車道に向き合っている彼女たちと比べれば自分が戦車道をするだなんて、おこがましく、許されない事だとわかっている。

それでも今は、そうする事しか、みほには思いつかなかった。

227 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:21:37.04 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃー「西住さん。それが、キミの本音?」


深々と頭を下げるみほにねこにゃーが最初に声をかける。


みほ「……はい」


顔を上げないまま、みほが答える。


典子「西住さん、私たちじゃ、あなたの心を埋められませんか」


続けて典子が尋ねる。

やはり、みほは顔を上げないまま答える。


みほ「ごめん、なさい」


その様子にねこにゃーと典子は苦笑して顔を見合わせ、後ろを振り返る。


ねこにゃー「……そっか。みんな、どうする?」

カエサル「いや……どうするもなにも、決まってるだろ?」

典子「……これからもお願いします隊長!!」


ねこにゃーの問いにカエサルが答え、典子が勢いよく頭を下げる。

それを音頭に皆が頷いたり、そうだそうだと声を上げ同意を表す。

みほはゆっくりと顔を上げ、どこか信じられないといった面持ちで尋ねる。


みほ「……良いんですか?」

ナカジマ「良いも悪いも無いよ。元より君無しで勝てるとは思ってないし。……でも、ちょーっとだけ怒ってるかも?……ふふっ」


そう冗談めかすナカジマをそど子が肘で突く。


そど子「今さら一抜けたとか許さないわよ。ここまで来たんだから、ちゃんと最後までいなさい」

ねこにゃー「……澤さん」

228 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:22:49.09 ID:HjQKnQVP0


ねこにゃーがじっと、みほを見つめていた梓に声をかける。

梓は一瞬躊躇するかのように地面を見つめると、ため息をついてみほへと向き直る。


梓「……皆はどうか知りませんが、私はあなたを許しません。だから―――今度は、あなたの姿を見せてください。許すかどうかは、その時また考えます」

みほ「梓さん……」


みほに背を向けてつかつかと去って行く梓の手をねこにゃーが掴み、典子が首に手をまわす。

急に引き留められた梓の喉からうぇ、っと詰まったような音が漏れる。


ねこにゃー「頑張ったね、澤さん」

典子「よく言ったぞ!!その根性最高だ!!」

梓「根性とかそういうんじゃなくて……私はただ、言いたい事を言っただけですって」


そう言ってそっぽをむく梓の髪をわしゃわしゃと典子が撫でまわし、ねこにゃーがうんうんと、頷く。

そんな3人の様子を、みほがどこか羨ましそうな目で見つめていると、優花里たちが声を掛けてきた。


優花里「西住殿!!また一緒に戦車道をしてくれるんですねっ!!」

華「今度こそ、あなたの花を咲かせましょう。私たちと共に」

麻子「私も、ちょっと頑張ろうと思う。だから西住さんもあんまり気負いすぎるな」

みほ「皆さん……」


優花里が、華が、麻子が、口々にみほへの想いを口にする。

そんな3人から一歩下がった所で、沙織がぎゅっと胸の前で手を握ったまま、みほへと語り掛けてくる。


沙織「みほ……あなたにとってエリカさんがどれだけ大きいのか、私はきっとちゃんとわかってないんだと思う」


わかるわけがない。わかってもおうだなんて思っていない。

みほは言葉に出さず、瞳でそう伝える。

それを受け取った沙織は、一歩も退かない。目を逸らさない。


沙織「でも、それでも、私たちはあなたの友達だよ。それだけは、忘れないで」

みほ「……はい」


229 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:24:06.81 ID:HjQKnQVP0



みほの力ない返事に沙織は少し悲しそうな表情をする。

二人の間に重たい空気が流れる。

どうしようかと優花里たちが顔を見合わせていると、その間を割って、桃が飛び出してきた。


桃「西住ぃ!!」

みほ「うわっ!?」


突然頭を抱えられ、ぐりぐりと撫でられる。


桃「良いかっ!?辛かったらちゃんと言うんだぞっ!?今度は私が……守っでや゛る゛がら゛!!」


力強い言葉は最後まで持たず、最後はダラダラと泣き出して判別のつかない言葉になってしまう。

けれど、みほには桃の言いたい事が痛いほど伝わった。

いつだって、誰かのために泣いている彼女の姿が、似ても似つかないはずの『彼女』になぜか重なって、

みほの声が優しくなる。


みほ「……うん。お願い、桃ちゃん」

桃「桃ちゃん言うなっ!!」

柚子「そこは譲らないんだね……」


後ろにいた柚子が呆れたように笑い、泣きじゃくる桃の背中をさする。

それを見たウサギさんチームの面々が面白がって桃を慰めに行って、それがどんどんと他のチームにも連鎖していく。

いつの間にか騒ぎの中心から外れたみほとそんな騒ぎを尻目に杏が向き合う。


杏「西住ちゃん」

みほ「会長……?」

230 : ◆eltIyP8eDQ [saga]:2019/05/19(日) 02:32:03.04 ID:HjQKnQVP0



杏は何かを言おうと口を開け、二度三度瞳を揺らす。

何を言うべきか、結局思いつく言葉は一つだった。


杏「……ありがとう」

みほ「……私こそ、無理やり引き込んでくれてありがとうございます」

杏「言い方ちょっと棘がない?」

みほ「……ふっ」


僅かに口から息が漏れる。

反射的なもので、別に大した意味のあるものじゃない。

みほも、自分が笑ったと気づいていない。


けれども確かにみほは笑った。

エリカを失った日から作り笑いしかしてこなかったのに。

それが兆しなのか、一度きりのものなのか、まだわからない。



あや「桃ちゃんせんぱーい、いい加減泣き止んでよー」

桃「うるさいっ!!桃ちゃん言うな!!あと泣いてないっ!!」

おりょう「目ぇ真っ赤にしてそれは無理があるぜよ……」

桃「うるさいうるさい!!」


もうみほの事なんか関係なく好き勝手に騒ぎ出した皆をみほは目を細めて見つめる。

決勝で勝てる見込みがあるかなんてわからない。

彼女たちのために空っぽな自分に何が出来るかなんてわからない。

結局自分に出来る事は昔と変わらず戦車道だけで、

それすら縋りつくには余りにも錆びついて、崩れている。

だけど、それしか無いのだから。それだけは、残されているのだから。



『強さも、戦車が好きって気持ちも持っているあなたなら、戦車道だって好きになれるわよ。……私は、そう思ってる』


いつかの夕焼け色が蘇る。

あの時、彼女はどんな顔をしていたのだろうか。

呆れていたのか、笑っていたのか、怒っていたのか。

結局、思い出せないまま、みほは空を見上げる。

記憶がどれだけ崩れていっても、月明かりの美しさが彼女と似ていた事だけは覚えているから。



見上げた月は大きくて、それが空っぽの自分には随分と眩しいと、みほは目を細めた。


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