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【ガルパン】みほ「私は、あなたたちに救われたから」
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1 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 22:18:54.38 ID:cpswsJVq0
夕陽のような暖かさが、月明かりのような美しさが、私を私にしてくれた
雪のように白く、細い指が私の手をとってくれた
海のように深く、空のように澄んだ瞳が、私を繋ぎとめてくれた
貴女がいなくなっても、その記憶がどんどん崩れていっても、それだけは忘れられない
だから、せめて、私の中に残った貴女の残滓を僅かでも良いから世界に遺したかった
生きるに値しない私でも、ただただ虚ろな私でも、そうする事で貴女の願いに応えられると思ったから
だけど、
『お前は………………誰、なんだ…………?』
だけど私には、何もなくて
なのに私は、救いようのない罪を重ね続けて
それでも私は、生きようとして
空っぽの自分を突きつけられた
当たり前だ
だって、私は何も積み重ねてこなかったのだから
それどころか、大切な人の大切なものを奪い、偽り、汚した
その罪が白日の下に晒されたとしてもそんなの自業自得で、私が、全て悪くて、
それなのに私は、真っ白な世界でまだ生きている
沢山の人を裏切り、大切な人達を傷つけたのに
それでも私は
過去に縋り
今を否定し
あるはずのない未来を願ってしまう
つまるところ、私はどこまでも愚かで、無様で、虚ろで
救いようのない人間だった
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1553347133
2 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 22:26:07.66 ID:cpswsJVq0
・
・
・
夕暮れはとうに過ぎ、周囲を照らすのは規則正しく立っている街灯と月明かりだけになっていた。
プラウダ高校との準決勝を終え、傷ついた戦車たちを車庫に収めた大洗女学園の戦車道チームの面々は、学校の校門前に集合していた。
準決勝は過酷だった。寒さに、プラウダの強さに、極限まで追いつめられた。
結果的に勝利できたとはいえ、その疲労は凄まじい。
けれど、立ち並ぶ彼女たちの顔は疲れとはまた違った様相を呈している。
それを一言で表すことは難しく、それでもあえて表すとしたら―――――動揺と困惑だった。
重く、息苦しい空気が辺りを満たしている。
事実、試合会場からここに来るまでの間、何か一言でも発した者はいなかった。
そんな空気を散らそうとするかのように、校門を背に彼女たちの前に立つ小柄な少女―――杏が気の抜けたような声を上げる。
杏「あー、みんな今日はお疲れさーん。いやー寒かったねー」
この場の空気に全くそぐわないその様子は、けれども重い空気に波一つ立てる事はできない。
しかし、杏はそれを気にせず……気にしていないかのように振舞う。
杏「とりあえず、これで次は決勝だよ。試合までまだ時間があるから各自ゆっくりと休んで。みんな、今日はお疲れ様でした!」
杏はそのセリフを解散の号令として言ったつもりだった。
今日はこのまま自分たちの家に戻って、ゆっくり休んで欲しい。
その気持ちは本心だった。そして、そうしてくれと内心懇願していた。
しかし、空気は重いまま、誰一人として帰ろうとはしない。
そもそも、皆の視線は既に杏を見ていなかった。
彼女たちが見ていたのは杏の更に後ろ、校門に寄りかかって腕を組んでいる少女だった。
そこだけ世界から切り離されているかのように真っ白な髪の少女は、皆の視線が自分に向けられている事に気づくと一瞬、逡巡したように視線を揺らす。
そして決意したかのようにゆっくりと杏の隣に歩いてくる。
杏「……じゃ、じゃあ逸見ちゃんからも何か一言もらえる?ほら、決勝にあたっての激励とかさ」
杏は引きつった笑顔で無理やりおどける。
やはり、空気は重いままだった。
3 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 22:37:09.49 ID:cpswsJVq0
そして白い髪の少女、逸見と呼ばれた少女がゆっくりと口を開く。
「……今日の試合は、私のせいで迷惑かけちゃったわね。結果的に勝てたとはいえ、ピンチを招いたのは私よ」
その口調は気が強い少女のものだった。
ここにいる誰もが何度も聞いてきた声で、話し方だった。
その姿は強くて、凛々しい姿だった。
「だから、決勝はもっと、ちゃんと……」
けれど、その凛とした姿がまるで油の切れた機械のようにぎこちなく、声が、息が、途切れ途切れになっていく。
鋭く細めていた瞳が怯えたように見開かれ、まるで助けを求めるかのように周囲を見渡す。
そして、何もかも諦めたかのようにうつむくと、
「……さよなら」
呟くようにそう言って、逃げるように走り去っていった。
沙織「ま、待って!!」
その後を沙織、優花里、華、麻子の4人が追いかけていく。
残された生徒たちは走っていく彼女たちの背中をしばし見つめるも、やがて杏の方を振り向く。
杏「……みんな、今日はもう帰ろう」
梓「帰れると、思ってるんですか」
ふるえた声を出したのは梓だった。
その瞳は声とは対照的に真っ直ぐに杏を見据えている。
杏「……やっぱり、ダメだよね」
梓「会長、教えてください。あの人は、誰なんですか。エリカ先輩は……誰なんですか」
4 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 22:49:11.37 ID:cpswsJVq0
『こいつの名前は――――――西住みほ。黒森峰の隊長西住まほの妹にして、去年の敗戦の原因を作った元副隊長よ』
プラウダの隊長であるカチューシャがまるで死刑宣告のように告げたその名前を、梓たちは知らなかった。
そして、『逸見エリカ』という人間が既に亡くなっている事も。
当たり前のことだ、自分たちの目の前にいる人の生死を疑う様な人間はいない。
ましてや、死者の名を騙っているだなんて事を想像しろというほうが無理なのだから。
故に、梓たちは未だにカチューシャの言葉を信じようとはしなかった。
だから、聞かないといけなかった。
何かを知っているのであろう杏に。
杏もそんな梓たちの気持ちを理解しているのだろう、自身の言葉を待っている生徒たちをゆっくりと見渡すと、諦めたような吐息と共に口を開く。
杏「……私たちの知っている逸見ちゃんは、今日まで私たちを導いてくれていた隊長は――――『西住みほ』だよ」
求めていた答えは、けれども最も聞きたくなかった真実となる。
アリクイさんチームの車長であるねこにゃーが呆然と呟く。
ねこにゃー「プラウダの隊長の嘘じゃなかったんだ……」
杏「ごめんね、黙ってて。でも、私が勝手に言う訳にはいかなかったから」
アヒルさんチームの車長である典子が、動揺をぐっとこらえて一歩前に出る。
典子「会長。隊長はなんで、名前を騙っていたんですか」
杏「……私が知ってるのは、本当に上っ面の部分だけだよ。あの子が何を思って、どうしてそうしたのかはきっと理解できないと思う」
典子「それでも。このまま何も知らずにいられるわけないじゃないですか」
本当は叫びたいのだろう。典子の声は低く、震えている。
そしてその気持ちは、ここにいる全員同じだった。
杏「……そうだよね。うん、わかった。話すよ。きっともう、それしか無いんだと思う」
そうして、杏は静かに語り始める。
物語というにはあまりにも断片的で、
事実というのはあまりにも悲劇的な
現実感のない、けれども確かにあった過去を。
常人では理解できない、けれども確かな『結末』として自分たちの前に存在していた『彼女』を。
5 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 22:59:36.76 ID:cpswsJVq0
・
・
・
沙織「ねぇっ!!待ってってば!!」
学校を離れ、住宅街に差し掛かるあたりで、沙織たちは白い髪の少女の背中を捉える事が出来た。
しかし、必死にその背中に呼びかけ、引き留めようとするも、みほは一向に止まる気配が無い。
遠くなっていく影を繋ぎとめるため、沙織は彼女の『名前』を叫ぶ。
沙織「っ……西住さんっ!!」
白い影が、ピタリと止まる。
沙織「ねぇ、西住さん……お願いだから、ちゃんと、話をしよ?」
「……」
振り向かないまま返ってきたのは無言の拒絶。
ならばと、沙織はさらに言葉を重ねる。
沙織「教えて。あなたは誰なの?」
「何度も言わせないで。私は、逸見エリカよ」
その返答を沙織は無視する。
答えは既に出ているのだから。
誤魔化すことは出来ない。それは、みほも理解しているはずなのに。
沙織「去年の決勝で亡くなったのは……えり、エリカさんだったんだね」
「違うわ。言ったでしょ?あの事故で死んだのは西住みほ。生きているのは逸見エリカ」
優花里「違いますっ!!」
沙織を押しのけるように前に出た優花里が涙交じりの声で否定する。
優花里「あの事故で亡くなったのは……逸見、エリカ殿です。私は、あの決勝の会場で、エリカ殿が乗った戦車が流されるのを見ました。それを、助けに行ったあなたも」
みほは振り向かない。
優花里「たとえ被害者の名前が伏せられたって、ちょっと調べればわかります。あなたは……西住、みほ殿です」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/23(土) 23:00:51.99 ID:Z2W7/seEo
知ってたのか。知らないほうがおかしいか
7 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 23:08:09.63 ID:cpswsJVq0
優花里は知っていた。
逸見エリカと名乗る少女が、西住みほだという事に。
あの日、逸見エリカという少女が転校してきたと聞いた時、優花里は同姓同名の別人だと思った。
優花里は見ていたから。
あの日、決勝の会場で起こった悲劇を。
だから、ある日、廊下で真っ白な髪の少女を見た時彼女が『逸見エリカ』だと気づいた。
そして、こう思った。
彼女は、壊れている、と。
優花里「西住殿っ!もうやめましょうよ!?こんなのっ……こんなの辛すぎます……」
だけど優花里にはどうすることも出来なかった。
かつてみほが言ったように優花里は知識だけで、何も知らないから。
そしてどうすることも出来ないまま今日、彼女の真実が明るみに出されてしまった。
優花里の目から涙がとめどなく流れる。
いつか、みほの行いがいつか破綻するだなんてわかっていたのに何もしてこなかった自分の不甲斐なさが情けなくて、
きっと、何かしたところでどうしようも無かった事を理解してしまう事が悔しくて。
感情に任せて泣き叫んだところで、何一つ現状は良くならないのに。
8 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 23:17:51.72 ID:cpswsJVq0
華「……教えてください。あなたはなぜ、そんな事をしたのですか」
泣き崩れそうな優花里を支えながら、今度は華が問いかける。
たとえ理解できないとしても、本人の口から理由を聞かなくてはいけない。
華はそう思った。
「……ねぇ、あなたたちから見て私はどう見えた?」
返答の代わりにみほは逆に問いかける。
「優しかった?カッコよかった?強かった?」
どういう意味かと考えている沙織たちに、更に問いが重ねられる。
その答えに沙織たちが窮していると、みほがそっと振り返る。
その表情からは凛々しさは消え、柔らかく、今にも崩れ去りそうな笑みを浮かべていた。
彼女とは毎日のように会ってきたはずなのに、沙織たちはまるで初めて彼女と会ったかのように感じてしまう。
「私にとってのエリカさんはそんな人だった。どんな時でも凛々しくて美しくて、私を救ってくれた人だった」
みほがそっと月を見つめ、手を伸ばす。
少し欠けた月の輪郭を指先でなぞり、降り注ぐ月明かりをそっと手のひらで受け止めて、その手を閉じる。
そして、胸元に持って来た手をそっと開く。
「……ははっ」
もちろん、そこには何もなく、みほはそれを見て乾いた笑い声を出す。
その行動の意味を理解できない沙織たちは訝し気な表情をする。
やがて、みほは何事も無かったかのように向き直る。
「そんなエリカさんと比べたら、私の価値なんて無いのと同じで、だったら、エリカさんがいたほうが良いでしょ?だから私は――――逸見エリカになったのよ」
みほの表情が凛々しさを取り戻す。
それがつまり、みほにとっての『エリカさん』で、自分たちが見てきた『彼女』の真実なのだと沙織たちは確信を得る。
華「……西住さん。あなたの道は、あなただけのものなのです。誰かの姿を借りて進める物じゃありません」
華の諭すような言葉に、みほは何か思うところがあるかのようにそっと彼女を見つめる。
「華、前に言ったわよね?私は、納得できないことが嫌いだって」
華「……はい」
みほの顔から表情が消え去る。
「私が一番納得できないことはね、私が生きている事。エリカさんが死んだ事」
華「っ……」
「最初から道なんて無かったの。だって……エリカさんのいない世界に納得できることなんて一つもなかったから」
9 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 23:25:48.08 ID:cpswsJVq0
華はもう、何も言い返すことが出来ず、悲しみに目を逸らしてしまう。
先ほどまで支えていた優花里に、今度は支えられるようにその身を預けてしまう。
その様子にみほは満足げに頷くと、沙織たちの知っている『エリカ』のように優しい声を出す。
エリカ「大丈夫よ。決勝さえ勝てれば学園艦は守られるから。みんなだってそれはもう知っている。だからきっと私の事も受け入れてくれる。それで、いいのよ」
これでもう話は終わり。そう言わんばかりにみほはまた沙織たちに背を向ける。
しかし、
沙織「……西住さん。きっと、エリカさんはあなたにそんな事して欲しくないよ。ちゃんと、自分の人生を生きて欲しいって思ってるよ」
沙織の呆れたかのような、吐き捨てるかのような言葉がその背中に突き刺さり、みほが振り返る。
その顔に浮かぶのは、怒りだった。
「……あなたに、あなたに何が分かるの?あなたがエリカさんの、何を知ってるの?」
沙織「……私は、エリカさんと会った事無いよ。顔も知らない」
淡々と、何を分かり切った事をとでも言いたいかのような沙織の言葉にみほは更に苛立つ。
「ならっ……勝手な事言わないでっ!私のほうが、ずっと……ずっとエリカさんを良く知ってるっ!」
沙織「それなのに気づいてないからだよ。……ううん、きっと気づいてるはずなんだ。西住さん、あなたの見てきたエリカさんはホントにそんな人だった?」
「私よりも、エリカさんがいるほうが正しいんだよ」
沙織「そんな話していない。正しいとか、正しくないとか、そんなのどうでもいい。
私は……西住さん、あなたの言葉が聞きたいの。あなたの知っているエリカさんは、あなたがエリカさんのフリをして喜ぶような人だった?
あなたが、そこまでして生きていて欲しかったエリカさんは、本当にそんな人だった?」
「っ……」
沙織がみほに近づく。
鼻先がぶつかりそうなほど顔を寄せて、逃げる事も、誤魔化す事も許さないと言葉に力を籠める。
沙織「答えて」
沈黙が彼女たちの間に流れる。
みほを見つめる沙織の瞳は揺らぐことが無く、耐えきれなくなったみほは目を逸らす。
そして、絞り出すかのようにかすかな声で、
「……それでも、私にはもうこれしか無いんだよ」
そう言って今度こそみほは去って行く。
その背中は何もかも拒絶していた。きっと、他でもない自分自身も。
だから沙織は追わなかった。
今の彼女にこれ以上何を言っても通じないと思ったから。
10 :
◆eltIyP8eDQ
[saga]:2019/03/23(土) 23:43:32.77 ID:cpswsJVq0
沙織「……私たちも帰ろう。それで、ちゃんと考えをまとめて、あと他のチームの人たちとも話し合って……」
沙織が今後の行動を確認も込めてみんなに伝えようとすると、沙織の後ろ、優花里と華の更に後ろから小さな影が出てくる。
優花里「麻子殿……?」
のそりと、まるで足を引きずるかのようにゆっくりと麻子は歩く。
どこか虚ろなその瞳は、沙織の後方、みほが去って行った方を見ていた。
学園艦に戻ってからずっと黙っていた幼馴染のおかしな様子に、沙織が心配そうに声を掛ける。
沙織「麻子、どうしたの?」
沙織はかがんで、麻子の顔をのぞき込むように見る。
麻子はちらりと沙織と視線を合わせると、再びみほが去っていった方向に視線を戻す。
いったい、どうしたのだろうかと沙織たちが心配していると、麻子がぼそりと口を開く。
麻子「……なぁ沙織」
沙織「何?」
麻子「いつっ……西住さんは、大切な人を失ってたんだな」
沙織「……そうだね」
みほにとって、逸見エリカという人間はどれほどの存在だったのだろうか。
それを推し量る事なんて誰にも出来ないだろう。
それでも、計り知れないほどの想いをエリカに持っている事は沙織にもわかる。
それでも、みほのしたことを理解できなかった。
その事に沙織が内心歯噛みすると、目の前で麻子が崩れるように膝をつく。
麻子「……なんで、私は気づけなかったんだろうな」
呆然と呟かれた言葉。大きく見開かれた瞳から涙が静かに流れだす。
麻子「なんで、私は西住さんの気持ちが理解できないんだろうな」
その表情が怒りと悲しみと、悔しさに歪む。
麻子「大切な人を失った気持ちは、一番、私が理解できるはずなのにっ」
その細い手が舗装された道を殴りつける。
麻子「私は……『友達』だって、言ったのに……」
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