如月千早がブスなワケ

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12 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:27:41.87 ID:mXNAEsvV0

「ご覧、今の自分の顔を」

言われた彼女が押し黙る。

「酷いもんさ、怖い顔だ。自分自身で考えてごらん。
こんな強面の店員が並んでるレジに君は商品を持って行きたいかな?」

それは今日の売り上げについての話だった。

客観的に比べてみると、千早の方が春香より歌も上手く、人の関心だって引けただろう。

これが技術だけを競う大会のような場所だったら、勝っていたのは間違いなく彼女の方だ。


しかしながら、今日、僕らがここに来た理由は通行人に歌を聴かせる為じゃあない。

CDを買ってもらいに来たのだ。

一枚でも多く、一人でも多く、

これから自分を支えてくれるであろうファンを作りに来たのである。
13 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:28:57.53 ID:mXNAEsvV0

「今日、君は春香君に負けた。売り上げの数もそうであるし……
何よりも君は、自分に興味を持ってくれた相手に一度でも笑顔を見せてあげれたのかい?」

「それは……! それは、できてません……けど――」

「けどじゃあない、事実なんだ。ここで披露した君の歌は確かに凄かったよ。でもそれだけ。
パフォーマンスが終わった後の呼び込みが拙いのは仕方がないさ。
でもね、わざわざ興味を持って寄って来た人が君の前には並ばなかった理由」

ここで、千早が春香を見た。

一瞥をくれ、それから少し、悔し気に唇をギュっと閉じて。

「……愛想ですか?」

「分かってるなら直すべきだ。……それに気づいて欲しくて酷な事をしたのは謝るよ」

だが、彼女は顔を上げない。

まだ怒りが収まらないのかも……と僕が春香と目配せした後で、どうもそうでは無い事に気がついた。
14 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:30:27.30 ID:mXNAEsvV0

「でも、そんなこと、言われたって……」

千早が自分の腕を抱く。

吐き出す声が怯えていた。

彼女は顔を伏せたままで、恥じるように肩を震わせて言った。

「やり方だって、分からないのに」


……それは助けを求める声だった。

それでも幸いだったのは、僕らが問題の解決方法を知っていたって事だ。

「プロデューサーさん」と春香が僕の方を向いた。

お節介焼きの眼差しだった。

だから僕の方はと言えば、彼女に頷き返すだけで良かったのだ。
15 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:31:17.02 ID:mXNAEsvV0
===

翌日、事務所で出会った千早は驚くべき変身を遂げていた。

髪はしっかり整えられ、眉も手入れをしたのかスッキリとし、
肌にも何か塗ってあるのか普段よりも瑞々しく生気に溢れて見える。

おまけにやっぱり襟は付いていたが、これまで見たことの無い新しいシャツとベストだった。

そんな彼女が春香と一緒に鏡を見て、前髪を弄っているのである。

……たった一日で凄い進歩、いや、元々やる気はあったのだ。

今までは自分の全力を、歌の為だけに使っていただけで。
16 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:32:28.18 ID:mXNAEsvV0

「おはよう千早君、見違えたな。春香君も協力ありがとう」

挨拶しながら近づくと、二人は同時に顔を上げた。

「おはようございますプロデューサーさん。
でも私、大したことはしてませんよ? だって千早ちゃんって元が美人さんで――」

「そ、そんなことない……。私、容姿を褒められたことなんて、一度も」

「それは、今までお手入れをサボってたからだよ」

プロデューサーさんもそう思いますよね? と訊かれたので潔く頷き返しておいた。

ついでに自分の目がどれ程節穴だったかを説くと、千早はみるみる顔を真っ赤にして。

「そういう冗談、不快ですっ!」

決まりが悪そうに言い返してくる。

……どうやら千早の変わりようは見た目だけとどまらないらしい。
17 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:33:21.10 ID:mXNAEsvV0

「それじゃあ次は、僕がプロデューサーらしい指導をしないとな」

言いながら僕は千早の前に鏡を置いた。
小さく手を叩いた後で、「はい、笑顔!」と声をかける。

「笑顔……?」

不思議そうに訊き返して来た千早に「その練習だよ」と応えてもう一度。

僕の意図を汲み取った春香がすぐさま笑い顔になった。

千早もようやく分かったようで、三度目の拍手に合わせてギュっと頬を上げたけれど。
18 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:34:20.47 ID:mXNAEsvV0

「……不気味ですね」

彼女の自己評価は正しい。

鏡に映る千早はちっとも目の笑っていない、ぎこちない笑顔もどきを浮かべている。

その、ピンと無理して張ったような顔。

それはまるで、そう、まるで――。

「今から慣らしていけばいいさ。笑い方を忘れてるってワケでもないだろうし」

すると千早はちょっとだけ、ちょっとだけ悲しそうな顔になって。

「……いいえ、プロデューサーの仰る通り、忘れているかもしれません」
19 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:35:39.39 ID:mXNAEsvV0

だから、僕はこう返した。「なんだ、だったら大丈夫」と。

「忘れてる事なら思い出せる、知らないなら教わることもできる」

「そうだよ千早ちゃん、笑顔だって私が教えてあげる!」

そうなのだ。ここには二人のお節介がいるのだから。

その事を再確認したのか、千早は観念したように息を吐いて。


「……確かに」

今度は合図が鳴る前に、小さな笑みを浮かべて言った。
20 : ◆Xz5sQ/W/66 [saga]:2019/03/10(日) 00:36:16.69 ID:mXNAEsvV0
===
以上おしまい。

お読みいただきありがとうございました
21 : ◆Xz5sQ/W/66 [sage]:2019/03/10(日) 00:46:36.22 ID:mXNAEsvV0
訂正>>11

〇とはいえ、応援しても二人の実力差は歴然。
×とはいえ、応援しても二人の実力差は歴戦。
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/10(日) 03:12:34.68 ID:JWFREqA30
面白かった
続きが読みたいです
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/12(火) 06:17:43.51 ID:Pay7Xws7o
>>22
これ
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/15(金) 21:24:24.07 ID:Y0foHoPu0
は?千早のことバカにしてんの?ふざけんなks
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