女「……お兄さん、童貞なんですか?」

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102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 21:59:18.09 ID:yaPXPFdJo

女「……おなかすきました」

男「そうだな」

女「いま、何時だろ」

男「さあな」

女「お兄さん、眠くないです?」

男「……まあな」

女「仕事帰りなのに、長々と付き合わせて、ごめんなさい」

男「べつに、付き合わされたと思ってないよ」

女「そ、ですか?」

男「袖振り合うも多少の縁だろ」

女「袖擦り合うも多生の縁です」

男「意味はだいたい同じだろ」

女「お兄さん、情けは人のためならずを『情けは人のためにならないぞ』って意味だと思ってるタイプですね?」

男「違うの?」

女「ちがいます。ばーかばーか」

男「……ここぞとばかりに」

103 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 21:59:53.95 ID:yaPXPFdJo


女「……多生の縁かはわかりませんけど」

男「うん?」

女「散歩してたの、ほんとは、運動不足のせいだけじゃないんです」

男「……」

女「毎日が変わらないから、変えられないから、ずっとどこかで、何かが起きるのを待ってたんです」

女「だれかがどこかに連れ出してくれないかって」

女「なにかが起きて、変われるんじゃないかって」

女「そんなの他力本願だってわかってたけど……でももう、自分じゃなにもわからないから」

男「ホント他力本願だな」

女「……もうちょっと、わたしにやさしくしてくれてもいいじゃないですか」

男「はいはい」

女「……決めてたんです。もしここで誰かに会えたら、そのときは、がんばってお話しようって」

男「……ふうん」

104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:00:22.61 ID:yaPXPFdJo

女「ばかみたいって思いますか? 買い物いくのも怖いくせに、そんな願掛けみたいな……」

男「いや……ああ、どうだろうな。バカみたいかもな」

女「……ひどいー」

男「俺も似たようなもんだって意味だよ」

女「……?」

男「なにか起きてくれないかと思って、家に帰れなかったんだ」

女「……おそろいですね」

男「まあな」

女「ばーか」

男「なんだよ」

105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:00:52.53 ID:yaPXPFdJo

男「で、願掛けの結果はどうだった?」

女「……んん。まあ、悪くはないと思います」

男「それはよかった」

女「……お兄さんは」

男「ん?」

女「お兄さんは、わたしに会えてよかったですか?」

男「んー」

女「ていうかよかったですね、わたしに会えて。ひさしぶりに若い女の子と会話する気分はどうですか?」

男「と、とつぜん自信満々だな……」

女「……や、つい」

男「照れ隠しか」

女「ちがいます、ちがいますー」

106 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:01:18.19 ID:yaPXPFdJo

男「さて」

女「……ほんとに、また来てくれますか?」

男「ん? たぶんな」

女「……来なかったら、恨みますからね」

男「ずいぶん懐かれたな」

女「……まんざらじゃないくせに」

男「悪い気はしないけどさ」

女「……じゃあ、おやすみなさい」

男「なあ、腹減ってないか?」

女「……?」

男「おやつの時間だ。甘いもんでも食いにいこう」

女「……え?」


107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:02:15.28 ID:yaPXPFdJo


男「さっきの子からホットケーキの話聞いてから、ずっと食べたかったんだよ」

女「え、でも……わたし、お金ないです」

男「払わせる気ならニートを誘わないよ」

女「……で、でも、おごられる理由がないです」

男「ついでだよ」

女「ついで?」

男「この寒空の下に女の子を残して、ひとりでホットケーキ食いにいくのも嫌な感じだろう」

女「……わたしは、気にしないですけど」

男「俺が気にする」

女「……へ、へんなの」

108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:03:07.43 ID:yaPXPFdJo

女「喫茶店の場所、知ってるんですか?」

男「バイト先の先輩が言ってたから、なんとなくは」

女「……どのあたりですか?」

男「銀杏並木があるだろう。今時期は葉が落ちきって、枝に雪がつもって、きらきら光ってる」

女「場所の具体性がゼロですね」

男「印象重視だからな。まあ、とにかくその向こうだ」

女「……わたし、風船もらえるかな」

男「さあ? まあ、でも」

女「……?」

男「『風船ください』って言えば、断られることもないだろうと思うよ」

女「……言えるかな」

男「どうだろうな」

女「……」

男「どうする? 行くか?」

女「……えと」

男「うん」

女「ほんとに、いいんですか?」

男「俺が誘ってるんだよ」

女「……へんなの」

109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:07:53.08 ID:yaPXPFdJo


女「……なんで、そこまでしてくれるんですか」

男「ここは神社だしな」

女「……?」

男「こいつはもう、思し召しってやつなんだろうと思うことにした」

女「思し召し、ですか」

男「そう」

女「……ろ、ロマンチスト……似合わない」

男「うるせえよ。願掛けとかしてたやつが」

女「わたしのはシリアスですもん!」

男「どっちでもいいよ。行くか?」

女「……行きます」

男「そう。じゃあ行こう」
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:16:48.06 ID:yaPXPFdJo

男「二月ともなると、昼間はあったかいな」

女「……」

男「春はもうちょっと先か?」

女「……そうですね」

男「……」

女「……お兄さん、詩をひとつ、思い出しました」

男「詩?」

女「はい。吉野弘の、二月の小舟という詩です」

男「……」

女「『冬を運び出すにしては、小さすぎる舟です。春を運びこむにしても、小さすぎる舟です』」

男「……『ですから、時間が掛かるでしょう。冬が春になるまでは』」

女「知ってるんですか?」

男「こないだ本屋に平置きされてたよ」

女「……『川の胸乳がふくらむまでは、まだまだ、時間が掛かるでしょう』」

男「……公衆の場で詩をそらんじるなよ。恥ずかしいやつ」

女「お、お兄さんも乗っかったじゃないですか」

男「生きることは恥を晒すことだからな」

女「それっぽいこと言ってごまかそうとしないでください。それに、どうせ、他には誰もいないんですから、平気です」

男「……ま、たしかにな」

111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/29(火) 22:20:16.69 ID:yaPXPFdJo

男「それにしても……」

女「……」

男「いい天気になったな、いつのまにか」

女「……ふふ」

男「なに気持ち悪い笑い方してんだ」

女「ひどい。なんでもないもん。……ただ、ほんとに、いい天気ですねって」

男「散歩にはうってつけの日」

女「……それにしても」

男「ん?」

女「おなか、すきました」

男「ほんとにな」

女「たくさんたべちゃうかもしれません」

男「……控えめにしてくれよ、こちとらフリーターだからな」

女「しかたないですね。……ひかえめに、しておいてあげます」

112 : ◆1t9LRTPWKRYF [saga]:2019/01/29(火) 22:20:46.70 ID:yaPXPFdJo
おしまい
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/29(火) 23:07:43.46 ID:INwnhptz0
ヤマも無ければオチもない。
でも、ちょっとだけ心が洗われたような気がする。
乙。ありがとう。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/30(水) 00:17:19.76 ID:xWD2yMz3o
なんか、少しだけ救われた気がする
おつおつ
次回も待ってる
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/30(水) 15:33:01.49 ID:/7W0sRHJ0
現実には救いなんてないんやなって
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/30(水) 19:29:12.67 ID:nAgxjmFkO
誰かと思ったら屋上さんか
傘の方クライマックスなのに放置しないでくれ
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/31(木) 14:12:33.92 ID:paV+OWGd0
乙でございます
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/01(金) 10:16:29.73 ID:II+B5/Qd0
おつでした。
こういうのもいい。ちょっと先も見てみたくなる。
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