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女「……お兄さん、童貞なんですか?」
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/26(土) 23:58:02.02 ID:tDZM6Xgyo
男「はい、これ」
女「……なんです、これ?」
男「見れば分かるだろ。缶コーヒーだ」
女「くれるんですか?」
男「そういう意味で差し出したつもりだけど」
女「お心遣いどもです。でもわたし、コーヒー飲めないです」
男「そう。じゃあこっち飲めよ」
女「……どもです」
男「……」
女「いただきます」
男「どうぞ」
女「……ひょっとして、わたしがコーヒー苦手だったらお茶を渡そうと思って両方買ってきたとかですか?」
男「そんなに気の回る奴に見えるか?」
女「見えるか見えないかで言ったら、見えませんけど」
男「じゃあ、結果的にそうなっただけだろ」
女「……そ、かもですね。ありがたくいただきます」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1548514681
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/26(土) 23:58:42.53 ID:tDZM6Xgyo
男「……」
女「……あったかいですね」
男「そうかい。よかったな」
女「これが人のぬくもりというやつでしょうか」
男「たぶん違うと思う」
女「やさしさが身にしみます」
男「やさしさじゃない。ついでだ」
女「ついでですか」
男「この寒空の下で俺だけが温かい飲み物を飲んでたら嫌な感じだろう」
女「わたしは気にしないですよ」
男「俺が気にする」
女「誰も見てないのにですか?」
男「まあな」
女「へんなの」
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:00:10.97 ID:miPG4g1qo
女「……さっきは、すみませんでした」
男「さっき?」
女「はい」
男「……ああ、あれか」
女「たいへんもうしわけなく……」
男「気にするな。俺は気にしてない」
女「わたしが気にします」
男「変なやつだな。まあ、いきなり悲鳴をあげられるとは思わなかったけど」
女「てっきり不審者だと思って……」
男「……そんな不審者っぽいかな、俺」
女「あ、いえ。お兄さんがどうこうとかじゃなくてですね」
男「というと?」
女「こんな真冬に、しかも平日の真っ昼間に、こんな寂れた神社の境内に人がいると思わなかったものですから」
男「俺もそう思ってたよ」
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:01:20.81 ID:miPG4g1qo
女「お兄さんはここで何してたんです?」
男「なにって……ぼーっとしてた」
女「こんな寒いとこでですか?」
男「まあ……そうだな」
女「変わってるんですね」
男「そういう気分だっただけだよ」
女「いわゆる……いわゆるひとつの」
男「……いわゆるひとつの?」
女「あんにゅいですか」
男「アンニュイ」
女「あれ、間違えました?」
男「いや、響きがやたら洒落てるよな、アンニュイ」
女「アンニュイアンニュイアンヌ……」
男「……」
女「発音むずかしくないです?」
男「たしかにね」
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:01:55.99 ID:miPG4g1qo
男「きみはなにしてたの」
女「きみ、って初めて言われました」
男「……はあ」
女「あんまり言わなくないです? きみって」
男「まあ……そうかもだけど。ほかになんて呼べばいいのかもわからない」
女「ふむ」
男「『あなた』は仰々しい。『おまえ』は馴れ馴れしい」
女「なるほど」
男「気に入らないならやめるけど」
女「いえ、どちらかというと気に入りました。きみでいいです」
男「そうですか」
女「はい。きみでよろしくおねがいします」
男「……」
女「どうかしました?」
男「いや、まあいいや。それで、きみはなにしてたの」
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:02:26.63 ID:miPG4g1qo
女「わたしはおさんぽです。日課なんです」
男「日課?」
女「はい。毎日ここまで歩いてから帰るんです」
男「じゃ、毎日ここに来てるんだ」
女「ですね」
男「……平日の昼間に?」
女「あ、ええと……はい」
男「学生だよな?」
女「え、と……」
男「……ま、いいや。平日の昼間にぼーっとしてることについては、俺も人のこと言えないしな」
女「あ、お兄さんもニートなんですか?」
男「ニートなのかよ」
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:03:35.16 ID:miPG4g1qo
女「あ、あれ、違いました?」
男「違う。……や、まあ、似たようなもんだけどさ。てっきり不登校かなにかだと思った」
女「当たらずとも遠からずですね。不登校をこじらせてやめちゃいました」
男「なるほど」
女「じゃあお兄さんはニートじゃないわけですか」
男「一応な」
女「仲間を見つけたと思ったのに……残念です」
男「ニートじゃないことにがっかりされたのは初めてだよ」
女「それじゃあ、お兄さんはどうしてこんな時間から神社であんにい……アンニュイしてたんですか?」
男「……べつにそんなつもりじゃないけど……なんか部屋に帰りたくなかったし、晴れてるから散歩でもしようかと」
女「ほうほう。……あれ、どこかに行った帰りってことですか?」
男「夜勤明けだよ」
女「……え、いま何時ですか? お昼すぎですよね。夜勤明けですか?」
男「だからまあ……九時にあがって、そのままぼーっとして……」
女「……」
男「ぼーっとしてたら、きみが来たから」
女「何時間ぼーっとしてたんですか……ニートみたいですね」
男「ニートに言われるとそんな気がするな」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:04:02.76 ID:miPG4g1qo
女「……寒くなかったです?」
男「寒かった」
女「よく耐えられましたね。この二月の寒空の下」
男「耐えてたというよりは、動くのも面倒だったって感じだけど」
女「自分に酔ってないとできないですよね」
男「そんな気もするな」
女「自分に酔ってたんですか?」
男「俺が思うに、自分に酔ってないと断言できるやつは断言できる自分に酔ってる」
女「……つまり?」
男「酔ってる部分もあっただろうな」
女「なるほどですねえ」
男「いや、テキトーに言ったんだけどな」
女「テキトーに言わないでください。まじめに考えちゃったじゃないですか」
男「どっちでもいいよ」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:04:29.90 ID:miPG4g1qo
女「夜勤って、たいへんじゃないです?」
男「まあ、慣れれば別に平気なんじゃないか。夜勤って言ってもコンビニバイトだし」
女「つかぬことをお聞きしますが、お兄さんいくつです?」
男「ハタチ」
女「えっ」
男「その『えっ』は何の『えっ』だよ」
女「もっと上だと思ってたのでびっくりしました」
男「そうですか」
女「ちなみにわたしは十七です」
男「……」
女「その沈黙は何の沈黙ですか」
男「……いや」
女「どうせもっと下だと思ったんでしょう」
男「や、まあな」
女「ふん。いいです。慣れてますから」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:04:57.12 ID:miPG4g1qo
女「かたや二十歳フリーター、かたや十七歳ニート……」
男「……」
女「世の底辺ですね」
男「自分で言って悲しくないか?」
女「誰かに言われる前に自分で言った方が傷つかなくていいですよね」
男「こじれてるなあ……わからんでもないけど」
女「素晴らしき理解者の登場です。自虐していきましょう」
男「巻き込むなよ」
女「自分の人生は終わったんだって考えると楽になりますよ」
男「急に重いことを言うなきみは……」
女「えっと、そうでしょうか?」
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:05:24.69 ID:miPG4g1qo
男「ま、べつにいいんじゃないの、高校やめてニートやってるくらい」
女「……そ、ですかね」
男「俺の方がひどい。ハタチ過ぎてコンビニバイトだからな」
女「ええ……。でも働いてるじゃないですか、フリーターって」
男「高校を出る年齢を過ぎてフリーターやってると、人生が重たくてな」
女「……訊いていいかわかんないんですけど、なんで普通に就職しないんです?」
男「……や、まあ」
女「はい」
男「最初に就職したとこが、なかなかにひどいとこでな」
女「ふむ。ブラックですか」
男「……というほどでもなかったのかもしれないけど」
女「……?」
男「なんやかんやあって倒産して……」
女「倒産」
男「まあ、繋ぎでバイトでもやるかって始めたんだよ」
女「な、なるほど……それはまた、それはまたですね……」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:05:56.14 ID:miPG4g1qo
男「楽なバイトって考えてコンビニに入ったけど、給料が足りないから夜勤に回るだろ」
女「はあ」
男「そんで夜勤やってると、なんだかやけに気持ちが暗くなるっていうかな」
女「……そうなんです?」
男「人によるのかもしれないけど。まあ、仕事終わってから買い物に行けたりするのはいいよなとは思う」
女「あー、いいところもあるんですね」
男「夜明け頃にさ、空が明るくなる頃に駐車場の掃除するんだよ」
女「はい」
男「そうすると、近くの電線にカラスがバーって並んでて、朝焼けに映えてさ、ああいう瞬間はまあ好きだな」
女「おー」
男「ま、フリーターって現実を思い出すとつらくなるけど」
女「おー……」
男「あと、掃除が終わって一時間もすると朝のピークタイムだからな」
女「すごそう」
男「自分が何やってんのかよくわかんなくなるよ」
女「や、でも、がんばってて偉いです」
男「……まあ、所詮バイトだし」
女「卑下しないでください。わたしなんてニートですよ」
男「微妙に反応しづらいなそれ……」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 00:07:13.52 ID:miPG4g1qo
つづく
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/27(日) 00:28:01.76 ID:K9LXaNz9o
良い
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/27(日) 02:04:42.20 ID:gU60AmhMO
いいね
乙
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/01/27(日) 04:20:48.22 ID:pxkbB7Z00
続けなさい
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/01/27(日) 15:13:11.65 ID:miPG4g1qo
男「ま、がんばって仕事に慣れようかと思ってるうちに、辞め時を見失ってな」
女「辞め時ですか」
男「俺が抜けたら、他の夜勤の人の休みなくなっちゃうんだよな」
女「……えっと、人のことを気にしてたら、ずっとやめられないのでは?」
男「俺も他人事だったときはそう思ってたんだけど……あとはまあ、惰性もあるな」
女「惰性ですかー」
男「そんなこんなで、ぼんやり過ごしてるうちに一年近く経ってた」
女「分かります。ぼんやりしてると時間ってあっというまですよね」
男「ホントに」
女「わたしも気付いたら学校行かなくなって一年経ってました」
男「ああ、うん、そんな感じ」
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