【艦これSS】不器用を、あなたに。

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602 : ◆eZLHgmSox6/X [sage]:2019/06/26(水) 11:02:20.88 ID:YtYgWYHzO
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やはりそうだ・・・

眠っている彼女は雨に濡れていた。

・・・きっと私は雨を止ませる事は出来ない。
濡れた彼女の顔を拭いてやるくらいしか出来ないのだ。

それでも彼女ならきっと大丈夫だと思いたい。

雨は・・・いつか止むはずなのだから・・・



−−−



山城「時雨...おはよう」

今しがた目を覚ましたルームメイトに声をかける。

時雨「......おはよう、山城!」
603 : ◆eZLHgmSox6/X [sage]:2019/06/26(水) 11:03:14.63 ID:YtYgWYHzO
目を開いた直後も暫し夢現としていた時雨だったが、やがてにこやかに挨拶を返した。

時雨といえば、この笑顔なのである。

山城「...よく眠れた?」

時雨「...うん、ぐっすりさ!今日も訓練頑張れそうだよ」

時雨は明るい表情でそう言うのだった。

山城「そう...良かったわ。それじゃ時間にあまり余裕無いし、支度してすぐに朝食よ」

時雨「うん」

窓からは綺麗に晴れた青空が見える。
そして同時に、海の上に存在を主張する白く大きな入道雲が真夏らしさを強調していた。


時雨が着任して、6日目の朝だった。
604 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:05:03.46 ID:YtYgWYHzO


時雨「今日は山城の予定はどんな感じなんだい?」

時雨「僕の午前の訓練には付き添ってくれるみたいだけど...」

身支度を済ませた2人は朝食を取りに、食堂を目指して廊下を並んで歩いていた。

山城のすぐ隣の場所は、すっかり時雨の定位置になりつつある。

山城「午前はそうよ。午後はまず昼食後に古鷹と一緒に執務室に行くから...その後はアンタの午後の訓練が終わるまで図書室にでも行こうかしらね」

時雨「古鷹さんと執務室か...また作戦会議とかあるのかい?」

山城「...そんなとこよ。これからこの鎮守府もどんどん戦力拡張していくから、運営会議とかも増えていきそうだわ」

時雨「やっぱり山城は凄いなぁ...うちでトップクラスの練度で、提督からも頼られて、艦隊運営に携わるなんて」

時雨は敬愛の眼差しを向けていた。
・・・その眼差しを照れくさくも素直に受け取る、なんて心持ちには到底なれなかった。
605 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:06:18.83 ID:YtYgWYHzO
山城「ねぇ、時雨...」

時雨「何だい?」

山城「鎮守府生活にはそろそろ慣れたかしら?」

山城はすぐ隣を歩く少女に尋ねた。

時雨「うん、みんな優しくしてくれるからね」

時雨「それに山城が指導艦だもん」

時雨は明るい笑顔を見せる。
それは心の底からの、純度100%の喜びだった。

気付けば山城は歩くスピードを落とし、時雨の頭を撫で回していた。

時雨「どうもこれには慣れないけど、嬉しいな...//」

彼女は恥ずかしそうに顔を綻ばせた。
606 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:07:35.35 ID:YtYgWYHzO
山城「それじゃあ...艦娘としてのは自分には慣れたかしら?」

山城はそう言うと同時に、撫で回す手をその頭から離した。

時雨「...うん、ちょっとずつだけどね」

少しだけ彼女の表情が曇る。
2人の歩むスピードはまた一段と遅くなった。

時雨「まだ艤装を上手く使えないけど...早くみんなを守れるくらいになりたいな」

時雨「艦娘になっても...また山城の横に立ちたいんだ」

彼女には明らかに苦悩が垣間見える。

それでも強くあろうとする決意を乗せて、やはり時雨はにこやかな表情をするのであった。

山城「...あまり焦らない事ね。艦娘になってすぐのうちは、どうしても慣れなくて安定しないものだから」

山城「...色々な事でね。」

漠然とした、それでも最適なアドバイスを彼女に贈る。
607 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:08:27.86 ID:YtYgWYHzO
時雨「そう言ってもらえると安心するよ」

苦そうな笑みで彼女は山城のフォローを受け取る。

山城はもどかしくて仕方がなかった。

だが、他人の悩みに寄り添うという事はそれだけ大変であると気づいたのだ。

私がこの子を、早く他の子達と同じようにしてあげなくてはいけない。
それが自分の役目なのだから・・・。

山城「私はアンタの指導艦なんだから...何でも相談しなさい」

山城「私が出来る範囲でだけど、助けになるわ」

ありきたりな言葉で時雨を励ましてやる。
もどかしくも、それが最適なのだ。
608 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:09:53.72 ID:YtYgWYHzO
時雨「山城は...優しいよね」

山城「...別に普通よ」

山城は目の前の少女の瞳から、霞んだ光を感じ取った。

・・・きっと時雨は私の胸中を察している気なのだ。

時雨「ううん、山城はいつも僕に気を遣ってくれる」

山城「そりゃあ、一応アンタのお世話係みたいなもんだしね」

時雨「...僕の心情を読み取って...いつも寄り添おうとしてくれるじゃないか」

時雨は、困り顔に笑顔を上塗りしたような、そんな顔をしていた。

山城「大袈裟ね、誰だって新人にはこれくらいするわよ」

時雨は物事を重く考えすぎなのだと思う。
それは良くも悪くも彼女の大事な特徴であった。
きっと本能がそうさせているのだろう。
609 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:11:19.46 ID:YtYgWYHzO
時雨「でも金剛さんだって言ってたよ、ほんとに山城は洞察力がすごいって。」

彼女はちゃっかり、山城と同室だった経験を唯一持つ艦娘から色々と話を聞いているようだ。

金剛の事だから、多少オーバー気味な山城像を時雨に吹き込んでいるに違いない。

変に掘り下げられると自分はくすぐったくて堪らなくなってしまうだろうし、そして何より警戒される要素の存在は隠しておきたかったから、とりあえずその話題は受け流す事にした。

山城「はぁ...アンタはね、甘え下手なのよ」

山城「だからこっちは気遣わずにいられないの。私だけが特別気にかけてるとかではないわ」

時雨「そんなにかい...?」

今の時雨の心情が何となく読める。

きっと彼女には複雑な安堵が少しだけもたらされたはずだ。
610 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:12:19.78 ID:YtYgWYHzO
山城「...ええ、そんなになのよ。アンタってすぐに独りで抱え込みそうだからね」

時雨「そんなことは...」

山城「とにかく、甘えられるところでは駆逐艦らしく甘えときなさい。アンタだって所詮はガキなんだから。」

どうにもこういう事は不器用な私には向かない。
それでも、この子のためにも少しでも励ませたらと願う。

時雨「...僕はむしろ甘えてるよ」

時雨「みんなより上達が遅いのに、それを分かってるのに...それでもちっとも良くならないんだ」

時雨「僕は今度こそ昔の仲間達を守るって決心したくせに、結局みんなに助けてもらってばっかで...甘えてるんだ...」

もはやいつもの笑顔も彼女からは消え去りつつあった。
611 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:14:04.10 ID:YtYgWYHzO
山城「あのね...何回か言ってきたけど、時雨は艦時代だとかの今までの事にばっか目を向けすぎなのよ」

山城「それも大事かもしれないけど、それ以上に前を向くべきだわ」

時雨「前を向く...か...」

時雨にはなかなか言葉が浸透しない。

だから必要なのは、彼女の思考を踏襲しながら、こちらのメッセージを染み込ませる事なのだ。

山城「練度って確かに重要よ。これが十分にあれば、自ずと状況把握も連携行動も上手くなる」

山城「精神状態ですら、練度とともに強くなっていく傾向がある」

時雨がピクっと反応する。

山城「でもね、周りのサポートありきでも、ちゃんと練度は少しずつでも上がっていくわ」
612 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:15:56.56 ID:YtYgWYHzO
山城「今のところ進捗が芳しくないってだけで、時雨も行き着くゴールは皆と同じなのだから...そんなに不安にならなくていいのよ」

時雨「そうなのかな...」

山城「だってそうでしょ、今は未熟でも...半年くらい経てばきっとそれなりの戦力にはなってるはずだと思えないかしら?」

時雨「そりゃ半年も経てば練度も上がってマシになってるとは思うけど...」

山城「じゃあそれでいいじゃない」

食い気味の返答に時雨は少しだけ驚いた顔をした。

山城「時雨は...そうね、桜が咲く頃になってようやく自分の才能も開花する、とでも思っとけばいいのよ」

山城「その頃にはきっと強くなってるはずだから」
613 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:17:21.29 ID:YtYgWYHzO
時雨「うん...」

山城「ほら、だから前を見なさい。楽しい事を考えるのよ」

山城「私はそういうキャラじゃないけど...アンタにはそっちの方が似合うわ」

そう言って時雨の頭に手を置いた。

山城「皆、去年の桜がどうだったかなんて興味ないでしょ」

山城「ただただ、今年はどう咲くかって事に期待をふくらませてるのだから」

そう言葉を続けて彼女を軽く撫でてやってから、山城は歩き始める。

山城「...さてと、さっさと朝食に行くわよ」

こんな言葉で、彼女の心を完全な快晴に出来るとは思わない。
・・・彼女はそういう子だから。

それでも、少しでも憂鬱な雲を取り除けたならば嬉しい。
614 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:19:40.63 ID:YtYgWYHzO
時雨「...うん。そうだよね...!」

少しの間の後、ついには時雨も早足で歩きだし山城の隣に再び並んだのだった。

時雨「不安はあるけど...きっと桜が満開になる頃には山城を助けれるくらいになっていてみせるよ!」

時雨「その時には山城の横を僕が守ってて...その...山城とお花見してたいな...!」

少し恥ずかしそうな顔をしながら、時雨はそう遠くはない未来を語った。

彼女の輝く顔に、少し希望が見て取れた。

時雨「山城は...紅葉のイメージだったけど...桜も似合いそうだね」

その言葉に思わず照れてしまった私の頬は、紅葉色だろうか、それとも桜色だろうか。
615 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:22:41.86 ID:YtYgWYHzO
こうやって少しでも彼女に寄り添っていければ、と改めて思った。

山城「ふふっ...楽しい未来を考えれば、一見終わりの無さそうな苦境だって克服できそうに思えるでしょ?」

山城「それで実際に克服出来たら、つまらない事で悩んでたんだ、って思えるようにもなるわ」

山城「...お花見、今から楽しみにしておくわね」

時雨「うんっ!」

時雨「約束だからね!忘れないでよ!」

約束のための指切りをしてきた時雨は、これまでで1番子供らしかった。

・・・そしてそれが彼女があるべき姿だと、山城は強く思うのだった。
616 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/06/26(水) 11:24:11.72 ID:YtYgWYHzO
宣言通りの日時に続きを投下できないのは仕様なので許してください

信用されなさそうですがエタる事はしないので気長に待って頂ければと思います
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 13:20:22.97 ID:L9HIss6fo
遅れる位は気にすんな
最後まで頑張ってね
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 14:22:14.44 ID:mx53DbDi0
乙乙
気長に舞ってる
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/06/26(水) 22:45:41.20 ID:a6EzbNFIO
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/01(日) 21:53:38.22 ID:GkAyFSgHo
全裸待機
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/09/30(月) 23:06:40.15 ID:dq6clWtLo
エタったか?
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/16(土) 21:26:23.83 ID:SNtzV3I5o
ダメみたいですね
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/17(日) 09:56:41.91 ID:F3Iv1DXGo
いつまでも待ってる
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/02/12(水) 13:19:30.86 ID:ncNjfrYxO
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