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【艦これSS】不器用を、あなたに。
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375 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/23(土) 03:10:45.89 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「アンタなんて大っ嫌い!」
加賀の表情に一瞬動揺が浮かぶ。
飛龍「...もしかして蒼龍話したの?」
蒼龍「何でこうなるのかな...加賀さんも意地張らないで褒めてあげてよ...」
加賀「実際に私は救援に向かうつもり無かったのだから隠しても仕方ないわ」
加賀はまた仏頂面に戻り冷酷にもそう言った。
そして瑞鶴はその場を飛び出しドックへ向かうのだった。
376 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/23(土) 03:15:20.24 ID:LY9D/QEiO
泣きながら全身と心の痛みに喘ぎ走っていると、途中で川内に見つかった。
川内は艦種は違えど親友であり、すぐに心配そうな顔をして何があったのかを聞いてきた。
そこで素直に加賀に言われたことを話した。
川内「救援拒否したってのはどこで聞いたの?」
瑞鶴「帰りに...蒼龍さんから...」
川内「あー、蒼龍さんとなんか喋ってるなぁと思ったら...そうだったのかぁ」
そう納得すると、川内は少しだけ苦笑いをして瑞鶴の方をじっと見た。
377 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/23(土) 03:16:12.41 ID:LY9D/QEiO
川内「ねぇ、瑞鶴。もう少し加賀さんのことを分かってあげな」
川内「多分蒼龍さんや飛龍さんですら全然分かってないと思う。だからこそ、瑞鶴が気づいてあげて。」
川内「今回は加賀さんに問題があると思うけど、やっぱりいつだって瑞鶴に対する加賀さんの姿勢って変わってないよ」
瑞鶴は川内の言ってる意味が分からなかった。
ただ、川内が加賀に寄り添って瑞鶴に妥協を求めているという事は理解できた。
それは、自分を平気で見捨てるような憎い奴を擁護してるようで気に食わなかった。
378 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/23(土) 03:18:01.09 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「かわうちも私を助けたがらない奴の味方なんだ...もういいや...」
そう吐き捨ててその場を後にする。
きっと翔鶴が自分を探し回ってることだろう。
ドックに行って高速修復材で身体を治すだけしたら、あとは姉と甘味処にでも寄って気分転換しようと思った。
姉ならば私の愚痴もきっと聞き流してくれるだろうという考えもあった。
川内「真逆なんだけどね」
川内が呟く声が聞こえた。
真逆?
とてもじゃないが川内が自分の方に味方してくれたようには感じなかったが。
そんな疑問も考えるのがダルくなり、まずはドックへ向かうのだった。
379 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/23(土) 03:18:33.77 ID:LY9D/QEiO
とりあえずここまでです
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/23(土) 12:33:07.29 ID:Uj/aANEFo
乙
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/23(土) 12:41:28.72 ID:WDfjSFe00
乙。
思惑はあったんだろうけど……見捨てられたのは、今回出撃した艦隊全てだよね。
ここの加賀さんは、事情を知らない人から見た山城に匹敵するほど最低だと思う。
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/24(日) 12:09:55.58 ID:lCVJS/bDo
それを容認したんだから提督も最低ですね?
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/25(月) 01:45:10.03 ID:c8pjqtxZ0
提督は提督で余りに何もしなさ過ぎてなあ
384 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:03:34.18 ID:xjPFSqoxO
続き投下します
385 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:04:05.12 ID:xjPFSqoxO
そして身体が完全なものになってから、私を探し回っていた翔鶴と合流し間宮で愚痴っていたというわけである。
那珂「なるほどね...」
那珂「だいたい分かったよ」
瑞鶴の詳しい話を聞き、那珂は「やっぱり」と思った。
瑞鶴「...で、那珂もやっぱ姉と同じ考えなの?」
瑞鶴は不満そうに聞く。
386 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:05:11.74 ID:xjPFSqoxO
那珂「そうなっちゃうけど...川内ちゃんと違ってちゃんと納得はさせるつもりだよ!」
その言葉に瑞鶴は怪訝な顔をしつつも一応聞く体勢を取った。
那珂「あのね、結論から言うとね、多分川内ちゃんの言う通り瑞鶴さんの考えてる事は“逆”だよ」
瑞鶴「かわうちはどう考えてもアイツの味方してるじゃない」
瑞鶴は食い気味に返す。
那珂「そっちの逆じゃなくてね、加賀さんが瑞鶴さんを助けたくないって方が逆ってことだよ」
387 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:07:21.47 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「...いやだって救援拒否したのよ?」
那珂「那珂ちゃんもさっきまでずっと知らなかったし、というか人に教えてもらわなかったら気づかなかったことなんだけどね...」
那珂「加賀さんは行きたくても行けなかったんだよ」
その言葉は瑞鶴の想定を遥かに超えていた。
瑞鶴「...どういうこと?」
388 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:07:51.44 ID:xjPFSqoxO
那珂「...救援部隊がすぐ来なかったらほんとにどうなってたか分からないってのは、瑞鶴さんも今回改めて思い知らされたよね?」
瑞鶴「うん」
那珂「だからあの時の救援部隊編成で1番大事だったのも、練度よりも艦隊の速度だったんだよ」
那珂はそこであえてすぐに言葉を続けることはしなかった。
それにより生じた間で瑞鶴は那珂の言葉の意味を考えた。
389 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:08:45.28 ID:xjPFSqoxO
キーワードを出されてしまえば、不思議なものですぐにある事が思い浮かんだ。
瑞鶴「...速度って...まさか...」
翔鶴「...!」
那珂「気づいたみたいだね...。加賀さんは正規空母で一人だけ普通の戦艦よりちょっと速い程度までしか出せないから...」
那珂「むしろ自分が行くと艦隊速度が低下するから、瑞鶴さん達を助けるために自ら拒否したんだよ」
390 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:10:04.31 ID:xjPFSqoxO
加賀の艦時代について言えば、元々戦艦となる予定のものを無理やり空母に改装したこともあって、どうしても船体が重くなり速度も他と比べ遅いという欠点があった。
艦娘は装備については比較的艦時代の影響を受けない装着が可能なのだが、艤装の推進ユニットについてはもろに艦時代の性能の影響を受けている。
だから加賀に艦時代には存在しなかったはずの烈風を搭載することは出来ても、加賀の速力を他の正規空母と同等にすることは基本的には出来ない。
391 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:10:43.47 ID:xjPFSqoxO
加賀は加賀であり続ける以上、“鈍足空母”から逃れられないのだ。
それは瑞鶴も稀にヒートアップした喧嘩などで罵る材料に使うことでもあるではないか。
瑞鶴「そんな...嘘だよ...」
瑞鶴の心を支配していた悲しみや怒りといった刺々しい感情が瞬時に消え去った。
瑞鶴「だって心配すらしてなかったじゃない...」
だが未だに瑞鶴は信じ切れないようである。
いや、信じる信じないというよりは、今までに抱いた大きな負の感情の行き場に困り果てているといった様子であった。
392 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:12:16.79 ID:xjPFSqoxO
那珂「私もあの場ではそんなこと全く分からなかったけど...今思えば加賀さんは間違いなく瑞鶴さんを心配してたよ」
那珂は瑞鶴の心に残るモヤモヤを払拭してやるためにも、さらに詳しい話を始めた。
那珂「最初に私達を執務室に呼んだ時は、提督もまだ瑞鶴さんから援軍を求めるかもしれないって聞いてただけだったからね」
那珂「だからその時点では戦力重視で加賀さんも呼んでたみたい」
那珂「でも私達が執務室に集まった頃にちょうど瑞鶴さんから2回目の無線がきてね」
393 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:12:51.17 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「航空戦の最中の...」
那珂「そう。その時の加賀さんは明らかに動揺してたよ」
瑞鶴の目が見開かれる。
那珂「だって勝ち気で前向きな瑞鶴さんが必死に救援要請するんだもん。いつも瑞鶴さんを見てる加賀さんからしたら、かなり厳しい状況だって直感的に分かったはずだよ」
瑞鶴「...」
那珂の言い分が正しいとすれば、自分はとんでもない誤解をしてしまったのではないか・・・?
そんな自問自答に苦しんでいるのか、瑞鶴はもう黙りこんでしまっていた。
394 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:14:01.82 ID:xjPFSqoxO
那珂「それで提督が無線の内容も踏まえてすぐに空母中心の救援部隊の編成を決めたの」
那珂「その編成内容が一航戦と二航戦の正規空母4人を基本にするものでみんなそれを当然だと思ったんだけど...」
翔鶴「そこで加賀さんが「私は行かない」と言ったんですか...?」
翔鶴の問いに那珂は頷く。
那珂「最初はそう言ってた。だけど当然みんなは一瞬意味が分からなくて凍りついちゃって...」
那珂「そしたらね、加賀さんが一文字だけ訂正してもう1度呟いたの」
那珂「私は行“け”ない、って」
395 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:14:43.06 ID:xjPFSqoxO
那珂「そしたら少しするとなぜかみんな納得したみたいな顔をしてね、結局加賀さんが代替案を出してそれがそのまま通ったの」
那珂「でも私は、そういえば今朝も瑞鶴さんと加賀さんは喧嘩してたし、それで拗ねてるのかなって思って...」
その時考えたことはまさに蒼龍づてに瑞鶴が聞いたストーリーと同じであった。
那珂「そう考えたら、直接は関係ない私だって許せないって気持ちにはなったんだけど...」
次にそれを打ち消す言葉が続くと察した五航戦姉妹は身を構える。
396 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:15:35.67 ID:xjPFSqoxO
那珂「でもね、あそこに居たメンバー全員と提督が、そんな理由で最高練度の正規空母が出撃拒否するのを認めるわけないって思ったの」
執務室に居たメンバーは自分以外は全員古参勢で、さらに作戦計画を手伝うような者すら多かった。
そんな人達が私情まみれの自己中な行動を容認するとは到底思えない。
・・・本当はそれともう一つ思った事があったのだが、それはここでは言わないでおくことにした。
397 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:16:09.16 ID:xjPFSqoxO
那珂「...その時はまだ、加賀さんが「行けない」って言った意味を考えたりまではしなかったんだけどね...」
那珂「あの時理由を察せなかったのは那珂ちゃんだけだったかも...」
那珂はあざとく苦笑いをした。
一方で那珂の話を聞いていた2人はそれとは全く違う顔をしていた。
翔鶴「「行けない」って言ったということは...やっぱり加賀さんは...!」
398 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:17:09.27 ID:xjPFSqoxO
那珂「自分の速力で到着が遅れることを気にしたから、で間違いないだろうね。多分、自分が行きたい気持ちもあったと思う...」
那珂「だからこそわざわざ二航戦の2人に烈風を自分の手で渡して託したんじゃないかな?」
那珂「蒼龍さんが言ったっていう「気が立ってた」ってのも、瑞鶴さん達が心配で仕方なかったからだと思うよ」
瑞鶴「そんな...じゃあ...私っ...!」
瑞鶴からはついに大粒の涙が零れる。
399 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:17:51.89 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴は完全に理解してしまったのだ。
那珂の話を聞いて、今度は加賀を憎もうとする方が困難になっていた。
瑞鶴「いっぱい...ひどいこと言っちゃった...」
翔鶴が慌てて瑞鶴の肩にそっと手を添えて慰めようとする。
那珂「でもこれを気づけっていうのは無理だよね...」
那珂「川内ちゃんもそこは同意してるわけでしょ?今回は加賀さんに問題がある、って。」
400 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:18:49.15 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「でも...!今まで速度のこと散々馬鹿にしてきちゃったのに...」
瑞鶴「もうどんな顔して会えばいいか分かんないよっ...!」
自分を責めてしまっている瑞鶴を見て、那珂は先ほどある人に言われたことを思い出した。
・・・せっかく瑞鶴は加賀を誤解せずに済んだのだ。
お互い素直になれるチャンスではないか。
那珂「...あのね、瑞鶴さん。みんなが瑞鶴さんと加賀さんを仲良しだって言ってきたのはね、からかってるわけじゃないんだよ」
突然の脈略のない話に驚いてか、涙で濡れた顔のまま瑞鶴はこちらを向く。
401 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:19:26.80 ID:xjPFSqoxO
那珂「瑞鶴さんと加賀さんとはお互いを心の底では信頼しあってる」
那珂「それは川内ちゃんも空母の人達も、そして鎮守府のみんなが思ってることだよ!」
そう言いながら翔鶴の方を向いた。
翔鶴「私も那珂さんの言う通りだと思うわよ」
確認に対し翔鶴も同意して那珂を後押しする。
那珂「だからさ、せっかくそんな関係なんだしお互いもっと素直になろうよ!」
402 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:19:56.04 ID:xjPFSqoxO
那珂「あんな感じじゃ加賀さんから歩み寄るのは難しいだろうから、瑞鶴さんが少しだけ意地張るのをやめて本当の気持ちを伝えてあげて欲しいの」
那珂「そしたら加賀さんともっと仲良くなれるはずだから!」
瑞鶴「私は別に...仲良くなりたいってわけじゃ...」
瑞鶴は俯いている。
那珂「...ただの先輩に見捨てられたと思ったなら、怒りしか湧かないだろうから泣いたりしないと思うなー」
場の雰囲気を明るくする意図も含め、少し軽い口調で言ってみた。
403 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:20:59.12 ID:xjPFSqoxO
翔鶴「私も那珂さんの意見に賛成だわ」
翔鶴「普段加賀さんの話をする瑞鶴は、それが愚痴の時でもどこか楽しそうだもの」
翔鶴「加賀さんは難しい人だから、人付き合いに積極的な瑞鶴の方から距離を縮めてあげないと...」
日頃から瑞鶴を見ている翔鶴も、二人のぎこちないながら深い関係を目の当たりにしていたようだ。
瑞鶴「...分かってるけど...」
那珂「も〜!瑞鶴さん、素直になるのは今からだよっ!!」
404 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:21:39.63 ID:xjPFSqoxO
那珂「まずは仲直りしないと、いつもの喧嘩だってできなくなるよ?」
那珂「それは嫌だよね?」
瑞鶴「......そりゃ...嫌だよ」
小さく呟かれただけだったが、やっと彼女から素直な言葉を引き出せた。
今の瑞鶴なら・・・きっと上手くいくだろう。
那珂はそう確信した。
405 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:22:21.10 ID:xjPFSqoxO
翔鶴「ほら、私も行くところまでは付き添うから。まずは加賀さんとちゃんと話し合いましょ?」
瑞鶴「うん...」
翔鶴「行く前に顔洗ってきなさい、ここで待ってるから」
瑞鶴「ありがと...翔鶴姉」
瑞鶴は手の甲で涙を拭いながら顔を洗いに化粧室へ向かった。
406 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:23:01.65 ID:xjPFSqoxO
翔鶴「...那珂さん、本当にありがとうございます」
那珂「ううん、気にしないで!みんな仲良く、が私のモットーだからねっ!」
アイドル自慢のスマイルで返す。
翔鶴「そういえば那珂さんは誰から聞いて加賀さんの意図に気付いたんですか?」
翔鶴「やっぱり川内さんですか?」
那珂「あー、それはねー...」
那珂「...私のファンの一人だよっ!」
その答えに翔鶴はキョトンとする。
407 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:23:29.87 ID:xjPFSqoxO
那珂「あ〜っ!翔鶴さん那珂ちゃんにファンなんて居ないって思ってるでしょ〜!」
翔鶴「いや、そんなことは...!」
翔鶴は慌てて否定する。
翔鶴「すんなり名前を言うと思ってたから...驚いただけですよ!?」
馬鹿にしてると受け取られたと思い不安になっている翔鶴を、冗談だよ、と言って安心させる。
408 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:23:59.35 ID:xjPFSqoxO
那珂「その人は隠れファンなの...。那珂ちゃんのファンって公言するのは恥ずかしいんだって!」
那珂「だから言えないんだぁ...」
那珂はしょんぼりする。
翔鶴「そう聞くと自虐してるみたいですけど...」
那珂「...もしかしてやっぱり那珂ちゃんのことバカにしてない!?」
その後は瑞鶴が戻ってくるまで、那珂と翔鶴はこんな会話を続けていたのだった。
409 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:24:44.26 ID:xjPFSqoxO
−−−
2時間程前
那珂は例の場所を目指して歩く。
先刻、救援部隊が出撃した。
出撃していた部隊の窮地を救うため、複数の正規空母を基幹とする部隊だったが直ちに編成されたのだった。
・・・だがその部隊に一番に入るべきだった存在であろう加賀は、それを拒否した。
執務室でそれを見ていた那珂は、数ヶ月ほど前に起きた別の騒動を思い浮かべたのだった。
410 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:26:04.23 ID:xjPFSqoxO
那珂「(だいぶ前に、山城さんが時雨ちゃんのいる部隊の救援を拒否したのと似てる...)」
その時救援要請をしたのは、奇しくも加賀が旗艦を務めていた部隊だった。
たしかあの作戦では、その少し前に既に攻略していた海域を使って艦隊の練度上げをしていたのだ。
その対象に時雨も選ばれていたわけである。
だがその海域では、想定に反したおびただしい航空戦力が待ち構えていた。
出撃部隊は低練度艦の練度向上が目的であったこともあり、敵航空戦力と渡り合えるのは加賀しか居ないのにである。
411 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:28:13.86 ID:xjPFSqoxO
これに加賀は索敵段階で気付きすぐに提督に報告して艦隊を転進させた。
しかし敵哨戒機に気付かれてしまい結局は熾烈な航空攻撃を受けることになったのだ。
偶然にも那珂はこの時はミニライブを行う許可を求めて執務室に来ていたため、騒動の一部始終を知ることとなる。
加賀からの救援要請では「赤城に戦闘機を満載、残りは練度で選んでほしいが撤退しながらの牽制砲撃も行える長距離射程艦を含めてほしい」とのことであった。
これを聞いた提督はすぐに館内放送で赤城、山城、金剛、川内、神通、響の名前を呼んだ。
提督は慌てていて神通が遠征中であることを忘れていた。
そこで近くにいた那珂がそれを教え、神通ではなく最上を再度呼んだ。
412 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:28:55.86 ID:xjPFSqoxO
那珂「(あの時、執務室に放送で呼ばれたメンバーが集結して提督が事情を説明したら...山城さんが艦隊入りを拒否したんだよね)」
「それなら私は行かないわ」
山城から出た言葉はあまりにも冷酷なものであった。
そして山城が時雨を嫌っているが故に援軍入りを拒否したと思うのは妥当であるように思えた。
さらにその日の秘書艦は、不幸にも山城嫌いの筆頭の満潮だった。
さらには最上までもがその場に居るのである。
413 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:29:51.48 ID:xjPFSqoxO
2人は山城の言葉を聞いて、途端に激高し激しく罵った。
口に出さないだけで、赤城や響も明らかに白い目を山城へ向けていた。
中立派の金剛はただ困った顔をして山城を見ていた。
那珂「(さすがに提督も「私情で命令に背くのはただの軍規違反だ」って批難したけど...)」
那珂「(山城さんは何食わぬ顔で「私の代わりに霧島を出して何とかすればいい、それで問題ない」って代案まで出してきた)」
さらには「提督は戦力でしか物事を考えられないのね」と嫌味げに言い残すまでしたのだった。
414 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:31:05.39 ID:xjPFSqoxO
那珂「(そして罵倒に走った満潮ちゃんと最上さんに対しても「感情でしか動けないなら黙ってなさい」って言い返して...)」
最後には、「今あんたらが私を罵ってる無駄な時間に出撃した方がいいわよね」なんて言葉を挑発的にも言ったのだ。
その無駄な時間のきっかけを作った者が言うのだから、ますます周りの怒りの炎を大きくしたのだが・・・
那珂「(...そうして収拾がつかなくなりそうになったところで、川内ちゃんが山城さんに助け舟を出したんだよね)」
「そこまで山城さんが行きたくないならもうそれでいいじゃん」
「山城さんの言う通り、こんなことやってる暇ないよ!ここは山城さんの案で出撃しようよ」
415 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:32:05.09 ID:xjPFSqoxO
結局それが一番妥当な落としどころかであった。
そもそも最上だって山城とともに行動するなど嫌なのであったし 。
そうして山城の代わりに霧島が編成に加わった救援部隊は見事に出撃部隊を無事帰還させたのである。
那珂「(やっぱり似てるよ...。違うのは加賀さんが嫌われてない事と、救援拒否が今回はすんなり納得されたことくらい...)」
那珂「(でもあんな古参メンバー達も認めたってことは、正当な理由があったはず...)」
那珂はおそらく存在するであろう正当な理由を知ろうとしていた。
416 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:32:40.59 ID:xjPFSqoxO
それならば手っ取り早く理由を知っているであろう姉妹艦に聞けば良いのだが、那珂はこれをあることに利用したかった。
あれこれ考えているうちに、気づけば那珂は普段ライブステージに使っている朝礼台を通り過ぎていた。
そこで目線を前方にやれば、やはり期待通りにその人が居たのである。
那珂「...よしっ!」
那珂は深呼吸をすると、その人の所に駆け寄った。
417 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:33:29.85 ID:xjPFSqoxO
那珂「やっましろさーん!那珂ちゃんだよー!!」
山城「...。はぁ...。」
ベンチに座って本を読んでいた山城は、急に背後から大声で話しかけられて困惑している。
那珂「何その反応!ファンサービスだよ!!」
山城「いや...私ファンじゃないんだけど...」
那珂「またまた〜。私がライブやる日は必ずここに来て聴いててくれるのに〜」
那珂「本当はこんな離れたとこじゃなくてステージ前で聞いてほしいけどねっ!」
418 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:34:44.68 ID:xjPFSqoxO
山城「そういうわけじゃ...ここの居心地がいいだけよ」
那珂「素直じゃないなぁ〜」
今那珂が言ったことは事実である。
というよりそれについては、那珂が山城に初めて接触を試みた時に一度認めてる事ですらあるのだ。
山城「...というか私がステージ前行ったら客誰も来なくなるじゃない」
那珂「...山城さんが望むならそれでもいいよ?だってファン1号だもん!」
山城「するつもりないわ...」
那珂のグイグイ来るスタイルに早くも疲れているようだ。
419 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:36:33.92 ID:xjPFSqoxO
山城「そういえば...さっき放送あったし今日はライブ中止にするのかしら」
そう山城が聞いてきた。
那珂はことわりを入れることなく、山城の隣りに座った。
那珂「うん!艦隊のアイドルたるもの、みんなが揃ってて楽しくいられる時にライブしなきゃだからね!」
那珂「...出撃部隊には扶桑さんもいるし...」
山城を見て、ふとその事も思い出した。
那珂はしょっちゅう鎮守府内でライブを行うが、その開催にはポリシーがあった。
それは、皆が平和な日常を過ごせてる時のみに開催する、ということであった。
そう決めているのは今のように、出撃中の部隊の危険を知り不安で仕方ない姉妹艦などのことを考えてである。
420 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:37:19.59 ID:xjPFSqoxO
山城「まぁでも編成考えれば対空も対潜も備わってるし、それで救援まで来るんだから大丈夫でしょ」
山城「それに姉様は強いわ」
持ち前の冷静さと同時に、自身を嫌う姉への信頼を覗かせた。
・・・那珂はこのタイミングで話を誘導することにした。
那珂「...大丈夫だから、か...。じゃあ加賀さんが行かないのもそういう事なのかなぁ...」
山城「...あれ?でも放送で加賀も呼ばれてなかったかしら...まぁ貴方もだけど...」
山城は見事に誘導に乗ってきた。
421 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:38:30.74 ID:xjPFSqoxO
那珂「そうなんだよね...私はまだ練度がそこまで高くないから選ばれなかっただけなんだけど」
那珂「加賀さんは指名されたのに拒否したんだよね...」
那珂はそう言うと山城の表情を見逃すまいと顔を向ける。
普通は、自身の一番敬愛する姉の救援を拒否されたら怒り狂うはずである。
だが・・・
山城「...じゃあ結構まずいのかもね...」
山城は冷静だった。
いや、少し動揺はしてるように見えるのだが、それは少なくても怒りではなく姉の部隊への心配であった。
やはり・・・何か理由があるのだ。
422 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:39:19.77 ID:xjPFSqoxO
那珂「...あれ?てっきり加賀さんに憤ると思ったけど...」
ここで那珂はわざと自然な感じを装ってそう零した。
山城「...?どうして加賀に怒るのよ」
那珂「だって、扶桑さんのいる部隊を助けないってことだから...」
すると山城は納得したような顔をした。
山城「あぁ、そういうことね。まぁ重たい部隊の旗艦や編成考案に携わってないと分からないわよね」
那珂「...?どういうこと?」
423 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:40:18.65 ID:xjPFSqoxO
山城「どうせ加賀の代わりに選ばれたのは、次の放送で呼ばれた二航戦とかでしょ?」
那珂「そうだよ。練度高めな空母ってもう二航戦の人しかいないし...」
山城「それもあるけど、一番の理由は速力よ」
那珂「...速力?」
山城「貴方はあんま空母と関わりないし知らないかもしれないけど、加賀って正規空母の中では鈍足なのよ」
山城「物凄くってわけじゃないけど、一人だけ金剛型にも負けるくらいには遅いわ」
424 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:41:31.90 ID:xjPFSqoxO
那珂「そうなの?」
山城「ええ。それで、至急救援求むって状況で一番大事なのは何かしら?」
那珂「...!」
那珂はようやく気づいた。
那珂「だから加賀さんは...!」
山城「そういうことよ。逆に言えばそれほど艦隊速度を気にしてるってことは...ちょっと心配ね...」
山城は不安そうに俯く。
その様子を脇目に、那珂は山城には申し訳ないがとんでもない発見をして興奮していた。
那珂「(てことは...!あの時山城さんが救援を断ったのも...!)」
425 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:42:05.02 ID:xjPFSqoxO
山城「...はぁ、姉様が大変なのに何も出来ないなんて...不幸だわ...」
山城はブツブツと愚痴っている。
山城「私も高速艦だったら...」
その言葉は那珂な確信を与えたのだ。
那珂「...ねぇ、じゃあもしかして山城さんがあの時時雨ちゃんの部隊を助けに行かなかったのは...」
山城「ん...あの時...?あぁ...そんなこともあったわね...」
山城は遠い目をして懐かしそうに思い返している。
426 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:43:31.63 ID:xjPFSqoxO
那珂「山城さんも...低速だから...?」
山城「まぁ...ね」
その時、山城はこう言ったではないか。
「私の代わりに霧島を出せ」と。
それは「低速艦の代わりに高速艦を出せ」ということだったのだ。
那珂「(提督に対して「戦力しか考えてない」って批判したのも...正論だったんだね...)」
山城「こればっかは仕方ないわ...不幸ね...」
那珂の作戦は大成功だった。
427 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:45:00.35 ID:xjPFSqoxO
加賀の行動の理由をさっき執務室に居たメンバーにではなくあえて山城に聞いたのは、こちらの方についても気になっていたからであった。
あの件は当時、那珂にとっての山城像をいっそう悪くするものであった。
川内から事情の存在を聞いて以来、那珂は山城への見方を変えることになったわけだが、その騒動については“事情”とやらのためにあえてヘイトを集めたかっただけだと強引に納得していた。
だがそれについては違った。
今回の加賀も、山城も、むしろ仲間を助けたい一心で冷酷に見える決断を自らしただけだった。
428 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:45:36.84 ID:xjPFSqoxO
那珂「...どうしてそれを言わないの...?」
那珂は素朴に尋ねる。
山城「私は周りに良い人だって思われたいわけじゃないわ」
山城は冷たく答える。
那珂「でも...!それじゃあみんな誤解したままだよ!」
山城「...それでいいのよ、私は。」
那珂「なんでよ!」
山城は少しの間沈黙し、やがて口を開く。
429 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:46:37.46 ID:xjPFSqoxO
山城「...今回の件で貴方以外に加賀の思惑に気づいていない人はいるのかしら」
山城は那珂の質問には答えず、逆に質問で返してきた。
那珂「今考えれば最初の放送で呼ばれた人達は私以外みんな気付いてそうだった...もちろん提督も...」
振り返ればそのメンバーは皆程度に差はあれ、山城への理解がある者ばかりではないか。
もしかすると旗艦や艦隊運営の経験を積み重ねるうちに、自ずとあの時の山城の真意に気づけたからなのかもしれない。
430 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:47:16.52 ID:xjPFSqoxO
那珂「...でも川内ちゃんをドックで見送る時に、二航戦の人達が同じ事を加賀さんに聞いてたから...」
那珂「もしかしたら蒼龍さんと飛龍さんも分かってないのかも」
山城「そう...」
山城「それじゃあ、もしその件で加賀が責められる事があったなら貴方が説明してあげなさい」
山城「加賀も人付き合いは苦手そうだし、特に今回は出撃部隊に瑞鶴が居るしね」
そう言って山城は立ち上がった。
どうやら山城自身についてはこれ以上は話してくれないらしい。
431 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:48:09.24 ID:xjPFSqoxO
山城「加賀は私みたいになる理由が無いわ」
山城「“みんな仲良く”がモットーのアイドルなんだから、期待してるわよ」
那珂の頭を軽く撫で、山城はこう言い残した。
そしてスタスタと鎮守府内に向け歩いていった。
ベンチに座ったまま那珂は呆然とする。
那珂「あそこからは聞いちゃいけないってことなのかなぁ...」
誰も居なくなった場所で呟く。
それでも、また一つ山城の優しさを発見できた。
432 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:48:50.88 ID:xjPFSqoxO
那珂「(青葉さんや暁型のみんなに教えてあげなきゃ...!)」
先日山城の事情を共に探ることになった青葉、そして同じく青葉が仲間に引き入れた暁型の3人に今聞いた話を共有しようと思った。
そして・・・
那珂「(加賀さんの事に気づいてそうな川内ちゃんや赤城さんも居るから大丈夫だろうけど...)」
那珂「(何か揉め事に発展しちゃったら今度は那珂ちゃんが止めなきゃっ!)」
そう、山城から託されたのだから。
外気で冷えた頭には、僅かな温もりがいつまでも残るのだった。
433 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/25(月) 10:49:25.27 ID:xjPFSqoxO
今回はここまでです
遅筆に付き合って頂いて有難いかぎりです・・・
434 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/25(月) 10:50:12.73 ID:tiPD8geD0
乙
435 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/25(月) 21:26:23.01 ID:m0qsZN+CO
乙。結末まで付き合う。
436 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/25(月) 21:31:07.43 ID:2L+M2TJq0
乙
加賀さんがただの自己中じゃなくてよかった
437 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/26(火) 10:41:12.08 ID:SU02Ofubo
おつ
タイトル効いてきた
438 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/28(木) 01:35:19.57 ID:y99x22Jdo
乙。
一気に読んで追いついた。
439 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:12:22.46 ID:vawIU0ZjO
ちょっとだけ投下します
440 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:13:41.35 ID:vawIU0ZjO
−−−
あの日僕は・・・僕の練度上げが目的の出撃に食らいついてた。
一気に練度を上げるために、当時の僕にとってはかなり高レベルの相手と戦うことになってた。
でも艦隊の半分は最高練度勢だったし、最上と満潮だってその敵と戦うに充分な練度だった。
あれを招いた最初の原因は、たぶん僕がありえないミスをしたのが原因だったんだ。
・・・ほんとの事を言えばミスというより、僕の心が弱くて・・・何も出来なくなっちゃったからだけど。
だから、そんな僕をアイツが責め立てて、そして僕の幸運を憎む事は、当然のことだと思う。
でも・・・
441 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:14:38.65 ID:vawIU0ZjO
−−
−
山城 「ちょっと時雨っ!」
敵を目の前にしているにもかかわらず、思わず怯んで立ちすくんでしまった時雨。
先程は先行していた満潮への集中砲撃を、今度は敵戦艦に重たい1発を当てられた最上を気にしてしまって、思わず動きを止めてしまったのだった。
それを敵が見逃さずに時雨へ一斉砲撃をしてきた所に、山城がまたもや庇ってきて被弾したわけである。
時雨「ごめん...」
山城は落ち込む時雨を尻目に戦闘を再開した。
442 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:16:02.87 ID:vawIU0ZjO
結局敵は山城、川内、電の3人によって片付けられた。
そのレベルの敵ともなると、最上や満潮でもまだ多少不安定な戦闘になってしまうようだった。
だからこそ1番練度が低い時雨が、味方に気を取られて自身を疎かにする事は危険この上ないのだ。
それについては時雨も分かってはいるのだが・・・
山城「今日は特に酷いわね」
戦闘を終え、鎮守府に戻る途上で山城が冷たく言い放った。
時雨「...ほんとにごめん」
山城がそんな態度を取ることは、着任してからのこの2週間は無かった。
時雨は初めて山城に説教をされたことになる。
それゆえショックも大きい。
443 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:17:36.74 ID:vawIU0ZjO
時雨にとって山城は、姉妹艦と同じくらい大切で、尊敬している仲間で、一緒に居て安心するルームメイトでもあった。
だからそう落ち込むのも当然なのである。
・・・だがそれは間違いだったことがすぐに判明するのだ。
山城「...あんたは幸運艦でいいわよね、私は不幸だから沈むってのに」
時雨「えっ...」
全く思いもよらなかった言葉が山城から出てきた。
これには自責の念に駆られていた時雨といえど、驚きを隠せずにいた。
444 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:18:28.60 ID:vawIU0ZjO
最上「え、ちょっ、山城?」
最上を始め、艦隊全員が動揺している。
時雨も山城の言葉によってパニックに陥った思考回路に何とか収拾をつけて、必死に言葉を紡いだ。
時雨「こ、今度こそ、そうはさせないから...!」
だがそれは無情にも跳ね返された。
山城「その結果がこれなの?」
時雨「...っ」
その冷酷な拒絶に時雨は今にも心が折れそうだった。
445 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:20:02.21 ID:vawIU0ZjO
満潮「山城、さっきから何なの?」
山城「何って...ただの指摘でしょ」
満潮「指摘って!アンタ本気で言ってんのっ!?」
最上「どうしちゃったんだよ...山城」
山城「貴方達こそ何なの?時雨との問題に首突っ込まないでもらえるかしら」
満潮「仲間が理不尽に暴言吐かれて黙ってろって?しかも暴言を吐いてるのも仲間だなんてっ!」
山城「暴言って...時雨が幸運艦で私が不幸艦なのは変えられない事実じゃない」
山城「それに仲間...?そんなものになった覚えないわ」
その言葉には威勢の良かった満潮ですら絶句した。
時雨はといえば、もう涙で目がいっぱいになっていた。
446 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:20:58.47 ID:vawIU0ZjO
川内「ちょっ、山城さん...?」
電「ど、どうしちゃったのです...?」
古参の2人ですら山城の冷酷な態度を全く理解できないでいた。
時雨「ねぇお願いだよ...僕のことは嫌いでいいから...西村艦隊では仲良くしようよ」
時雨は涙を流しながら悲痛に訴えた。
もう時雨は限界だった。
まさか山城が嫌っていたなんて・・・
それでも、幸運艦の自分の事は嫌いなままでも良いから、せめて満潮や最上とだけは仲が拗れて欲しくはなかった。
・・・それがかつてあの戦いで生き残った自分に出来る償いならば。
447 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:22:00.44 ID:vawIU0ZjO
山城「時雨、アンタは勘違いしてるわ」
しかしその時雨の限界の叫びは間髪入れずに否定されることになる。
山城「私は貴方の事なんて好きでも嫌いでもないの」
山城「ただ、そのご自慢の幸運パワーを不幸な私に見せつけてくるのは勘弁ね」
時雨「そんなつもりは...!」
山城「それに頼んでもないのに付き纏ってきて変に仲間意識持たれてもねぇ...」
満潮「アンタねぇっ!」
448 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:23:24.89 ID:vawIU0ZjO
山城「これは時雨だけじゃなくて貴方達全員に言える事ね」
山城「あんたらウザったいのよ。仲間ごっこに巻き込まないでくれる?」
最上「ねぇ山城...嘘だよね...?」
山城「嘘じゃないわよ。姉様のことは敬愛してるけど、あんたらなんてたまたま最後が一緒だっただけじゃない」
山城「別に西村艦隊の面々が嫌いとかじゃないの。ただ、艦時代の事わざわざ持ち出して艦娘になってからも縛らないでもらえる?」
満潮「っ!」
満潮が堪らず詰め寄ろうとする。
それを川内が何とか抑える。
449 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:24:28.81 ID:vawIU0ZjO
最上「何なんだよっ!山城はそんなに僕達と仲間なのが嫌なのかっ!」
最上も泣きながら叫んでいる。
電は何も出来ずオロオロするばかりだ。
山城「強くてお互いが窮地を救いあえる程なら仲間として大歓迎だわ」
山城「でも貴方達はまだ強くないのに、昔の関係を持ち出しておままごとして遊んでるだけでしょ」
山城「せっかく艦娘として第二の生を受けたのだし、そんなアンタらの自己満足なんて足枷でしかないわ」
そう嘲笑うかのように言った山城。
その言葉は時雨の感情を変えた。
450 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:25:49.50 ID:vawIU0ZjO
今や悲しみの雨が降り注いでいた心には激しい怒りの炎が灯り、その雨を瞬く間に消し去ったのだ。
時雨「...ねぇ、山城は本当に西村艦隊がおままごとだって言うの?」
時雨「あの時戦いを共にしたメンバーには何も思い入れが無いって言うの?」
時雨の目からは涙が流れ続けていた。
だがその語調は既に湿っぽいものではなくなっていた。
山城「だからそう言ってるじゃない...だって西村艦隊での記憶なんて、自身が沈んだ事くらいよ?まぁ貴方は生き残ったけど...」
451 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:27:02.79 ID:vawIU0ZjO
その事を触れられてまたもや反応してしまう時雨。
その様子に気づいた山城が言葉を続ける。
山城「だけど、あの時私が沈んだのは私の不運のせいこそあっても、貴方の幸運のせいではないわ」
山城「そこを責めてるわけじゃないのは分かって欲しいわね。私は運を憎んでるだけよ」
時雨はそんなフォローが欲しいわけではなかった。
452 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:28:56.06 ID:vawIU0ZjO
時雨「じゃあ...僕達のことなんてどうでもいいんだなっ!」
山城「そう思われたくないならもっと強くなりなさいよ。甘ったれた友情ごっこなんかしてないで。」
これには再び最上や満潮の怒りが爆発したが・・・
川内「...とりあえず、今はまだ作戦途中だよ」
川内「話し合いは帰ってからね」
満潮を抑えていた川内が静止させた。
それから鎮守府に戻るまでは誰も喋らなかった。
いや、正確には川内が冷えきった声で山城に「見損なったよ、山城さん」と聞こえよがしに呟いたきりであった。
453 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:30:02.43 ID:vawIU0ZjO
鎮守府では恒例の帰還部隊の出迎えが待ち構えていた。
そこには提督や時雨の姉妹艦もいた。
そして当然その場で先程の続きが行われた。
今度はさらに多くの者達で山城を糾弾できたが、結局は山城の返す言葉は同じことの繰り返しだった。
これがあの忌まわしき日の出来事であった。
−
−−
454 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:31:05.54 ID:vawIU0ZjO
この時アイツが言ったことはいつだって忘れたことは無い。
「そんなに仲間意識とやらが強いんなら、スリガオでは私じゃなくて貴方が沈んじゃえばよかったわね」
「ま、アンタらはせいぜい好きなだけ仲間ごっこしてなさいよ」
・・・きっとみんなは僕への嫌味の部分に大きく反応したと思う。
だけど僕は正直そんなことはどうだっていいんだ。
実際アイツの言う通りでよかった。
アイツが沈んで僕が生き残ってしまった事については、求められるなら土下座だってしても構わない。
455 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:33:07.61 ID:vawIU0ZjO
それでも・・・
大切な仲間と絆を踏みにじった事だけは許さない・・・
アイツは馬鹿じゃない。
だから僕がどれだけ仲間に置いていかれて辛かったかだって察してたはずなんだ。
つまりアイツは2週間も、僕のことを「仲間ごっこで傷ついてる」と仮面の下で嘲笑っていたわけだ。
僕達の絆を侮辱して喜んでたんだ。
・・・許せない。
たとえアイツが土下座をしてきても、僕は絶対に許さない・・・
456 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/03/30(土) 01:34:16.41 ID:vawIU0ZjO
今回はここまでです
相変わらずの遅筆で申し訳ないです
457 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/03/30(土) 02:39:00.99 ID:Z2/+1BP9o
乙乙
458 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/01(月) 09:29:31.58 ID:MFnmdnx4O
おっつおっつ
459 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:10:19.03 ID:Xg6j+0MOO
だいぶ時間が経ってしまいました
投下します
460 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:12:54.77 ID:Xg6j+0MOO
−−−
12月15日 7:00 執務室
山城「...おはようございます」
提督「おはよう」
かなり久しぶりとなる秘書艦に任命されていた山城は、執務室に来ていた。
提督「酷く眠そうだな...君は朝が苦手なタイプだったか」
山城「元々はそういうわけじゃないですけど...未明頃に目が覚めるのが習慣になっちゃってるのかしら」
山城「それで毎回二度寝することになるから...早朝に起きるのにはどうも慣れないわ」
提督「そうだったのか...」
山城「姉様と同室になった数日間だけは起こしてもらえたから良かったんだけど...」
山城「一人に戻ってからはまた早起きは苦手になったわね」
山城はボヤくように言う。
提督「...それならルームメイトが戻ってくるように手伝おうか?」
すると提督はこちらの反応を窺いながらそう口にした。
461 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:14:05.29 ID:Xg6j+0MOO
山城「...はぁ?...提督の方こそ脳が起きてないんじゃないですか?」
目の前の男から発せられた決して起こり得ない話に対し、山城は呆れたような口調で返す。
提督「私はしっかり起きてるさ」
提督「...そして今言ったことは本当に考えてることだ」
その様子を見るに、どうやらただの冗談ではないようである。
・・・だからこそ、山城もそれには眉をひそめた。
山城「...どういうつもり?」
提督「やっと、君の異常な振る舞いを正すチャンスが来たというだけだ」
462 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:15:03.67 ID:Xg6j+0MOO
山城「今更ね...。まずは詳しい話より先に、私との約束は覚えてるのかしら?」
提督「「今後、私と時雨たちとの関係について何も口出しするな」だろ?」
山城「分かってるじゃない...そういうわけだから変な介入は要らないわ」
提督「だけどその時、君は付け加えてこう言ってた」
提督「「時雨の件は何とかしてみせるから」とな。...私に詳しいことを話さずにだ」
提督はすぐにそう返した。
山城「...それが何か?」
463 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:16:38.02 ID:Xg6j+0MOO
提督「いや、勘違いしないでくれ。今更君を責めるつもりはないんだ」
提督「そもそも山城がこうなったのは、私が最悪のケースまで仄めかして焦らせてしまったからだ」
山城「そんなことはないわ。私もその通りだと危惧してたことだもの」
山城「提督は関係ないわ」
山城は提督に責任が無かった事を強調した。
しかし彼は山城に丸め込まれることを良しとはしなかった。
提督「それでも私の言葉がきっかけを作ってしまったのは事実だろう?」
山城「...まぁ、きっかけのほんの一部ではあるわね」
食い下がる提督に対し、渋々認める。
464 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:17:32.98 ID:Xg6j+0MOO
提督「山城が暴言を吐いた時すぐにとはいかなかったが...少し落ち着いて2、3日前からの君を思い出してみたらな、そんなことくらい簡単に気づいたさ」
提督「...そして当然、君があの件のためにそうしているんだろうともな」
少し息を整えてこちらを見つめながら彼は言った。
提督「だから直後は君に何度も聞いたんだ、どういう考えであんなことをしたのか、と。」
提督「まぁついに君は教えてくれなかったし...事情を聞いてそうな奴すら「言えるもんじゃないから山城本人に聞け」と言い出す始末だったが...。」
山城「...」
山城は沈黙してしまう。
465 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:20:31.49 ID:Xg6j+0MOO
提督「さすがにそこまで徹底されると...罪悪感もあったし、もう触れてはいけない事なんだと思うようにしたよ」
提督には詳しくは話さないでおいた領域に踏み込まれ、山城は少し警戒をする。
・・・山城としては当初から、提督に対しては自身の意図を強引にでも納得させる自信はなかった。
彼はこの鎮守府の責任者であるし、艦娘を指揮する − 言葉は悪いが道具として扱える権利を持つ − 人間なのである。
ネガティブな自分でも、いやむしろネガティブだからこそ、悲観的な事に対する分析にだけは自信があった。
それに、自分では寄り添う事は叶わなかったが、それでも彼女を一番知ろうと努力した事は間違いないと思っている。
自分の考えは、自らに出来る最善であったと確信している。
466 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:22:18.51 ID:Xg6j+0MOO
だから一部の艦娘達には黙認させることが出来たし、というよりその自信があったから事情を打ち明けたのだ。
・・・だがそれは自分と立場が同じ艦娘が相手だから可能であったのだ。
そして付け加えれば、弱みにつけ込めたからという点もある。
提督は艦娘の立場を尊重してくれる人間であるし、良くも悪くも放任的である。
しかしいくらそんな彼でも、提督としての責務を負う以上は、一人が艦隊の和を意図的に乱す事を容認するはずはない。
考えの根拠については提督にも納得してもらえる自信はあった。
それに彼だって、同じように早く解決してやりたいと強く思っていたのは間違いない。
467 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:24:20.21 ID:Xg6j+0MOO
・・・それでも、それがこれから起こす自身の行動を正当化しうるとは、自分ですら到底思えなかった。
何せ古鷹にすら事前に伝えることはとても出来なかった程だ。
提督ともなれば尚更である。
そして何より・・・提督は“実感”できない組なのだ。
だから彼もおそらくは、皆で寄り添えば・・・絆があれば・・・なんて考えしか理解できないのだろうと思えた。
もちろんそれは普通だ。
だがこれはそんな簡単な事ではない。
その程度の対応では、解決しないどころか余計に悪化する一方だ。
そういうレベルで深刻なのだから。
・・・そう考えると提督にも真意は伏せておきたかった。
468 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:25:43.42 ID:Xg6j+0MOO
こうして山城は、提督にはついに事情を話すことはしなかった。
ただ、それでもやはり追及を受ける事は覚悟していた。
何と言っても彼は、事情の最もコアな部分について知っている。
すぐに何かしらを察するとは思っていた。
その時が来たならば、せめて何とか本人にだけは真意が伝わらないように配慮してもらうことだけを絶対条件に、全てを話す覚悟であった。
だから、必要の無い罪悪感から彼が金剛や加賀と同じ立場を貫いてくれたことは、全くの嬉しい誤算だったといえる。
469 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:28:04.84 ID:Xg6j+0MOO
提督「...ちょっと話が脱線してしまったな。とにかく、それで私はついに山城の計画については知れなかったが...」
提督「ただ一つだけ、山城はおそらく焦りを覚えたから、それまでと真逆のアプローチに走ったんだとは確信している。違うか?」
山城「...好きに解釈すればいいわ」
提督「それならばこれが合ってる前提で本題に入ろう」
提督「山城が何を根拠にどこまで計算していたのか知らないが...結果的に君は本当に時雨を“何とかしてしまった”ように思える」
提督「あれから練度は順調に上がって今じゃ不安材料どころか、むしろ駆逐艦の中でトップクラスの戦力源として期待できる」
提督「あと少しで第二次改装も行う予定だ。要求練度が低めとはいえ、古参の響がようやく昨日Верныйになったことを考えれば凄まじい成長速度だ」
山城「ええ。そうね」
470 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:29:21.06 ID:Xg6j+0MOO
提督「ここまで来たのなら、彼女を心配する必要はないように思う」
山城「まぁ...私もそう思うわ」
数日前の件が頭をよぎったが、ひとまず話を合わせることにした。
提督「大規模作戦には改装が間に合うし、是非とも運用する気でいるのだが...」
ここで彼は言い詰まった。
山城の方を少し不安な様子で見ながらである。
しかしやがて勇気を振り絞るかのように一息ついてから言葉を続けた。
提督「そこで、君を旗艦として...西村艦隊を組もうと思う」
山城「...!」
驚きのあまり、思わず言葉に詰まる。
それでも冷静を何とか装う。
山城「...悪い冗談ね」
471 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:30:24.93 ID:Xg6j+0MOO
提督「さっきも言ったが、これは本当に考えてる事だ。西村艦隊メンバー5人と、これに適当な水雷系の艦を加えて編成しようと考えている」
その言葉にはさすがの山城も冷静を保てなかった。
山城「ちょっと!そんなの無いわよ!」
山城の声には怒りも含まれていた。
山城「提督だって分かるでしょう!?そんな事を大規模作戦でやったら...!」
提督「あぁ、そうだな。ちなみに大本営が立案した今回の作戦計画はこうだ」
普段は決して見れない山城の様子に気圧される事なく、提督は机に置いていた書類を山城に手渡す。
山城はそれを受け取ると興奮しながらも書類を見始めた。
472 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:32:37.67 ID:Xg6j+0MOO
提督「秘書艦は普段艦隊運営に関わらない子達から、事務仕事の経験も何回かは積んでもらう目的で選んでるわけだが...」
提督「今日あえて山城を呼んだのは...会議で作戦計画や編成を決める前に、君に決断をして欲しかったからなんだ」
今日はいよいよ1ヵ月後に迫った大規模作戦についてのブリーフィングが予定されている。
それに先駆け、普段から艦隊運営を手伝う古参勢も含めた会議を朝から行い、そこで作戦の詳細を決定してから全艦娘へのブリーフィングが実施される流れである。
473 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:33:24.82 ID:Xg6j+0MOO
だが山城は、そんな提督の言葉などにしっかり耳を傾けている気にはとてもならなかった。
目にした書類の内容が、嫌がらせのようにしか見えないからだ。
山城「(嘘でしょ...。これじゃまるで...)」
山城「作戦内容まで...スリガオと同じじゃない...!」
提督「そうだな...。目的も背景もかつてのとは異なるが...海域への同時突入が肝となる点はな...」
大本営より示された作戦要綱は以下のようなものであった。
474 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:33:56.90 ID:Xg6j+0MOO
一、敵の姫級らで構成される大戦力とその活動拠点の殲滅が今回の目標である。
二、該当拠点の周辺には島が点在し拠点へのルートが自ずと限られる。そのため複数部隊による複数ルートからの同時突入を推奨する。
三、敵に姫級の航空戦力が複数いる事が想定されるため、攻略部隊主力には高練度の空母戦力を含める事が必須となる。
四、三に関連し、練度が中程度の空母も遊撃部隊として編成するなどして不測の事態に十分に備えることを推奨する。
五、各部隊は必ず対潜を厳として行動し、想定外の被害を避けることに努めるべし。
475 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:35:27.42 ID:Xg6j+0MOO
大本営から直々に、あの時と同じ「同時突入」の案が示されている。
・・・提督の言う通り、今回の作戦はレイテ沖海戦とは決して同じではない。
相違点などいくらでもある。
しかし・・・大本営が大々的に計画する作戦、それもこの鎮守府がまだ経験した事のない領域である。
通常の出撃とは重みがまるで違う。
同時突入に失敗して、自身の指揮した艦隊が全滅・・・いや、正確にはあの娘だけは違ったが・・・そんな過去を持つ自分としては、どうしてもスリガオの記憶を重ねずにはいられなかった。
苦々しい、消し去りたい記憶。
それをまた・・・よりにもよってこんな作戦で西村艦隊を再編するなんて・・・
あんな状態なのに、このメンバーでなんて・・・!
そんな湧き上がる苛立ちは山城から普段の冷静さを消し去ってしまっていた。
476 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:36:19.52 ID:Xg6j+0MOO
山城「アンタは何考えてんの!?大規模作戦は普段の出撃とは比べ物にならないのよ...!」
提督「あぁ、分かってるさ。...でも、だからこそ絶好のチャンスなんだ」
提督「こんなにも重要で危険な任務を他でもない君達で成功させれば...」
提督は少しだけ言い淀んだ。
提督「...西村艦隊は元の絆を取り戻せるだろう」
山城「私は仲良しごっこなんて求めてないわ!リスクを背負ってまで...そんなもの...!」
山城は激しく反発する。
477 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:37:18.15 ID:Xg6j+0MOO
提督「そんなに西村艦隊が嫌いか」
山城「えぇ、そうよ」
提督「いいんだぞ、別に私は。君が編成入りを拒否したって認めよう。他の部隊で活躍してくれるならそれでいい」
提督「だが君以外のメンバーについては深い絆で結ばれているようだしな...せっかくだから彼女達は全員一緒の部隊にするよ」
山城「...っ!」
山城「(こいつは分かってて...!)」
提督「こういう事は言いたくないが...私は提督だからな。編成を決定する権利を持つのはあくまで私だ」
提督「異論は認めるし積極的に取り入れていくが...それは正当な理由がある場合のみだ」
478 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:39:22.03 ID:Xg6j+0MOO
山城「理由?アンタだって知ってるじゃない!」
提督「だが最近は特に不都合はないだろう」
山城「それでも安全策は取るべきでしょう!それに今だって、問題になってないのは私が強引に抑えてるようなもので...」
提督「ほう、そこは認めるんだな」
山城「っ...。まぁ...どうせ察してるんだろうしもう隠すつもりはないわ」
山城「...でも何で貴方は西村艦隊に拘るのかしら」
山城「私のやり方に不満があるのも分かるけど、提督として最優先で心配すべきはあの娘でしょう」
やや強めの口調で問い詰める。
479 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:40:25.38 ID:Xg6j+0MOO
提督「あぁ、もちろん心配してるさ。それに憎み合うメンバーで組むなんて、司令官としては不安で仕方がない」
山城「じゃあ何で...!絆がなんて、そんなの理由にならないわよ」
提督は少しだけため息をした後こう呟いた。
提督「山城と同じだよ」
山城「...どういうことよ」
提督「...それを聞きたいなら交換条件にしよう。山城も話してくれ」
唐突に提案されたら交換条件。
提督「あの日、山城が時雨たちにした事の意味を、理由を。包み隠さずに全てだ」
山城「だからほぼ察してもらってる通りよ...」
提督「全部教えてくれ」
提督はまっすぐと山城の目を見る。
480 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:43:00.50 ID:Xg6j+0MOO
山城「(まぁ...本当に彼にはバレてるだろうし...)」
山城「(隠し続ける必要性は無いわね...)」
彼女としては交換条件に乗ることにデメリットは無かった。
そこで・・・
山城「...分かったわ。その代わり提督にもその編成の意味はちゃんと説明してもらうわ」
山城「私がくだらない理由だと思ったら、即刻その案は中止にしてもらえるかしら」
提督「構わないよ」
こうして山城は提督に、今度は全ての事情を打ち明けることになった。
山城「まずは提督の推測通り...」
〜
481 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:44:00.46 ID:Xg6j+0MOO
〜
提督「そうだったのか...」
少しの間、提督は唸り声や微かな呟きを発するのみで、会話は途切れてしまっていた。
それでもやがて、提督はゆっくりと話し始める。
提督「...色々と思うところはあるが...まずは約束を守ろう」
提督「私の考えというのは...やはり予想通り君と同じだったみたいだ」
苦笑しながら提督は続ける。
まだ提督の言わんとすることが先読みできず、山城の方も黙って彼の話を聞き続ける。
482 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:45:23.12 ID:Xg6j+0MOO
提督「なぁ、山城。君は自分のやっている事が逃げだとは思わないか?」
山城「逃げ、ね...」
提督「だってそうだろう。山城の分析では、これは君が彼女の近くに居すぎてしまった事が原因の一つという」
提督「たしかに私も今の話を聞いてそこは納得したし、その本質をいち早く見抜いたのは流石と讃えるべきだが...」
提督「それは根本的な解決じゃないだろ」
その言葉は、まさに山城が今までに何度も自問自答してきたものだった。
山城「...随分とストレートに言うのね」
提督「気を悪くしたら済まない。でも実際君は、結局は今の立場に甘んじる事で問題から逃げてるだけとも言えないか?」
提督「...たしかにあれは結果的に最善だったと思う。山城のおかげで今まで大事には至らなかった」
提督「それでも...決して解決策なんかではない...」
提督は少し俯く。
483 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:47:07.79 ID:Xg6j+0MOO
山城「...そんなこと、私だって分かってるわ」
そう返した山城に、提督は一瞥して申し訳なさそうな顔をした。
提督「...何もできなかった私に言われたくはないよな」
提督「しかも、山城の言動の理由には早くから薄々気付いていたのに...結局は君の孤独な奮闘に頼ってしまってたんだ」
彼の視線は、自信なく虚ろなものだった。
山城「さっきも言ったけど、むしろそれで良かったのよ」
山城「...怪我した傷が痛む事だけが問題じゃないわ」
山城「ややこしくしているのは...怪我をしてしまう自分を責めている事だもの...」
山城「看護をしてやることが、余計に繊細さに染み込む毒となってしまう......どうしようもなく、不幸だわ」
そう言って山城は提督の自責の念を和らげようとしてやった。
その例えは決して取り繕ったフォローではなく、山城が感じ続けた無力感の表れであった。
484 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:49:01.70 ID:Xg6j+0MOO
提督「それでもな...この、まるで君達の悲劇をなぞるような作戦要綱が届いた時、閃いたんだ」
提督は顔を上げた。
依然として、彼から自信はまるで感じられない。
提督「この鎮守府で私は立場上、唯一の最高権力を持つ」
提督「だから...私が命令して荒療治をするのが...1番手っ取り早いんだ」
山城はようやくピンと来た。
彼は、山城に仲直りを求めているわけではなかったのだ。
提督「山城と同じと言ったのは...私達が突き放すという点だ。そして今回は、あの日よりも遥かに“解決”に近付けるものだと思う」
提督「...その代わりに比べ物にならないリスクがあるがな」
山城「ほんとよ...」
485 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:50:13.46 ID:Xg6j+0MOO
彼の考えを理解した山城にそれ以上の説明は必要なかった。
提督「それでも、試す価値はある」
提督「君の言う通り、最終的には本人が何とかするしかないんだから」
提督「その必要性から、私達までもが逃げてはダメだ...」
山城「でも...大規模作戦の海域ともなると...何かあっても私でもフォローは難しいと思うわ」
山城「あの頃みたいに保護者役に徹する事はできない。そんな余裕を残せる海域じゃないもの」
提督「分かっている。だからこれは山城に決めてもらいたかったんだ」
486 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:51:35.96 ID:Xg6j+0MOO
提督「さっきはあのように言ったが...本当に最初から君に委ねるつもりだった」
山城「(そういえば決断してもらうために秘書艦に呼んだみたいな事言ってたわね)」
提督「大本営からの通達も基本的には“推奨”であって、この通りの作戦を組む義務は無い。現場が状況に応じて合理的な別案を作成・報告しても、間違いなく許可される」
提督「そこは心配しないでほしい」
山城「この時代の司令体系はマトモでありがたいわね」
山城の軽口に提督の表情は、ほんの少しだけ和らいだ。
提督「どのみち、西村艦隊の多くは攻略部隊に編成して出撃させるつもりだ」
提督「扶桑はまだ心許ないが...他は既に充分な練度を持ってたり二次改装を終えて迎えられそうだからな」
487 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:52:38.16 ID:Xg6j+0MOO
提督「しかしあくまで山城の判断に従った編成にする。君が反対と言ったなら、西村艦隊はバラバラにして編成に入れる」
提督「もちろんリスクがあるそれ以外の艦についても考慮する。まぁ、それでも君のおかげでだいぶ編成に苦労はしなくなったがな」
山城「...それは何よりね」
提督「それと一番の要因だった山城は...逆に一緒にした方が安心だな」
提督は苦笑いする。
そしてまた、気まずそうに沈黙した。
山城「ほんとに私が決めていいのね...?」
提督「あぁ...今まで何もできなかった私なりの償いだ」
提督は終始弱気だった。
自分のエゴが、金剛や加賀と同じような立場と思っていた彼をも、実は苦しめていた。
そう山城は申し訳なく思うのだった。
488 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:53:30.94 ID:Xg6j+0MOO
山城「提督は...客観的に見てこの作戦が上手くいくと思うかしら」
ふと山城は尋ねる。
提督は想定外の質問をされ少し戸惑った様子だが、すぐに答えた。
提督「この戦力なら大丈夫だと思っている。もちろん余裕は一切ないが...」
提督「大本営だって各鎮守府の戦力や練度を把握した上で作戦要綱を作成している。この海域を割り当てたのも、私達で攻略できると判断したからだ」
提督「今の大本営はマトモさ、そこは信じていい」
山城「...そうね」
彼は山城の軽口をそのまま引用してみせた。
489 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:57:04.01 ID:Xg6j+0MOO
提督「空母がろくに足りてなかったレイテとは全く違う。今回はミッドウェー組が健在だ」
提督「同時突入だって...今度は指揮体系が一つにまとまっている。私達が普段通りの連携を発揮して部隊の歩調を合わせられれば、必ず上手くいくさ」
提督「少なくとも...一部隊が単独突入をして集中砲火で壊滅するなんて事は...絶対にさせない」
しっかりと断言した提督の顔は、少しだけ自信を取り戻していたように思えた。
提督「...私もだいぶ昔の事に詳しくなったもんだな」
それでもやはりどこか遠い目で、そう付け加えて呟くのだった。
490 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:58:04.54 ID:Xg6j+0MOO
・・・彼の提案は正しい。
それは自分でもいつかは必要と感じていたことでさえある。
それでも、どうしても不安が先行してしまうのだった。
だから避け続けてきた。進みすぎないようにした。
だが・・・
問題の早期解決のために身勝手に動いていた自分が、よりにもよってそのチャンスを不安を理由に拒むなど、そもそもおかしな話ではないか。
きっとこの作戦は、彼の言うように絶好のチャンスなのだ。
・・・私のあの日の決断は、この日のためじゃないか。
逃げてはいけない。
私が打ち勝てないでどうするのだ・・・!
491 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 13:58:47.91 ID:Xg6j+0MOO
山城「...受けるわ」
提督「...えっ?」
山城「だから、提督の提案を受けるわ。私を旗艦にして、西村艦隊を編成してちょうだい」
提督「自分で言っておいては何だが...本当にいいのか?」
山城「提督の言う通りだもの。私の存在が無くても大丈夫になって、初めて解決と言えるのだから」
提督「そうか...。」
自身の提案を認めさせたというのに、提督はちっとも嬉しそうではない。
不安に支配されている。
まるで私を映す鏡だ。
492 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 14:04:22.28 ID:Xg6j+0MOO
山城「...ところで、一つだけお願いがあるのだけど」
提督「...なんだ?」
山城「作戦の実行は1ヶ月後からでしょ?それなら準備期間は私の部隊については、私に完全指導権を与えてほしいの」
提督「...また「口を挟むな」かい?」
山城「...特に憎まれてる相手達だから...強い権限が必要になると思っただけよ」
やましいわけではないのに、些か言い訳のようになってしまった。
提督「心配するな、許可するよ」
提督「山城の分析はいつだって正しいからな。...苦すぎる薬だったのだと、ようやく今日になって答え合わせができた」
山城「随分と高く評価してくれるのね」
提督「そりゃそうさ。結局さっき聞いた話でも、君は正しい分析しかしていなかったように思う」
提督「賛成などしたくはないが...事実として上手くいってるわけだからな」
493 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 14:05:51.01 ID:Xg6j+0MOO
山城「...理解してくれるなら...提督には最初から全部説明しとけば良かったかしら」
提督「そんなことはないな。あの時私がこの話を聞いていても、やはり山城の言う通り断固反対してただろうな」
提督「そこすらも、読まれていたわけだ」
山城「そう...」
提督「今こうして納得できているのだって、もう一方が未だにあの頃から大きく改善してないのを知ってるからな」
山城「提督も把握してるのね」
提督「まぁ、ちょくちょく聞くようにしてる。つい先日、本人からもそれとなく聞いて確認済みだ」
494 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 14:07:09.78 ID:Xg6j+0MOO
山城「改善しないのも仕方ないわ...こればっかは本人次第だもの」
山城「かといって簡単に切り替えられるものじゃないから...」
提督「あぁ、まったくだ」
提督「あっちはいつになるか分からない...まさに君の予想通りだ...」
提督「本当、君の分析能力には恐れ入るばかりだよ...」
提督は困ったような顔をしながらも笑ってみせた。
私の読みでは、大規模作戦では恐れている事は起きないと思う。
・・・もちろんそれは、準備期間中に西村艦隊メンバーで慣れさせる事に成功すればの話だが。
495 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 14:14:01.83 ID:Xg6j+0MOO
それでも、レイテとは全く背景が違う事は大きい。
スリガオの要素など、この鎮守府の総力を以て事前に取り除いてしまえば良い。
単純な戦力も、指揮系統も、レーダーでの備えも、連携も・・・全てがかつてよりも優れているのだ。
・・・何より今の私は・・・ネガティブな忌まわしさではなくポジティブなもののはずだ。
山城は自身に言い聞かせて決心した。
山城「...作戦は必ず成功させるわ」
山城「あとは...目論見通りにそれが本当の幸運をもたらしてくれる事を祈るばかりね」
提督「そうだな...」
執務室の窓からは今日の太陽からの光が射し込んでいる。
提督「それじゃあ...これで会議を始めるよ」
提督は山城の決意を受け取り、放送用のマイクをセットする。
山城は手に持っていた作戦要綱を机に置き、明るく照らされた窓辺に歩みを進めたのだった
496 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/07(日) 14:15:36.39 ID:Xg6j+0MOO
とりあえずここまでです
いやぁ、ほんとペースを上げたいです
497 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/07(日) 14:22:19.56 ID:2bwKg2aZO
おっつおっつ
498 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/07(日) 14:28:25.07 ID:DvzvxC+QO
なんか壮大な話になってきてワクワクしてきたぞ
499 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/08(月) 00:34:55.63 ID:WcwtS8/Zo
乙
この世界の山城が報われて欲しい
500 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/08(月) 23:26:05.12 ID:Zv5jYZZso
乗るな山城鬼より恐いが見れるのか
501 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 13:18:09.35 ID:BuxhNj0mO
気付いたら3週間が経とうとしてましたね...
一向に進まなくて申し訳ないです
今日の夕方頃に続き投下します
502 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/27(土) 13:38:33.19 ID:DtsITkBno
了解
503 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/27(土) 16:39:51.01 ID:0iTtYljTO
まってる
504 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:19:44.82 ID:FvzkVLeNo
22時は個人的にまだ夕方です(毎度ほんとに申し訳ないです)
それでは投下します
505 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:20:51.86 ID:FvzkVLeNo
−−−
那珂「...だから山城さんは...むしろ時雨ちゃんの事は大事に思ってるんじゃないかな」
雷「そんなことが...全く気づかなかったわ...」
Верный「私も...これは驚いたな」
暁「やっぱり、山城さんもほんとは優しい人なのよ!」
青葉「暁さんや私の見聞きした話から考えても...いよいよそれは間違いように思えます」
青葉「でも...それなら何であんな態度を取るようになったんでしょう...」
つい最近結成されたばかりの探偵達は暁型の部屋に集まっていた。
506 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:21:47.93 ID:FvzkVLeNo
普段、このメンバーだけで揃うというのは難しい。
このメンバーに限定したい理由はもちろん、目的が目的なだけに事情を知る組に悟られないようにするためだ。
ストレートに聞いてもある程度は話してくれるが、肝心の点については決して教えてくれない。
だからまずは何とか直接聞く事無しに情報を集め推測し、それに確信を得てから彼女らに −少し怖いが山城本人でも良いのだ− 確かめる方針なのである。
せっかく掴みかけている真実を諦めたくはない。
しかし残念な事に彼女らはそれぞれ、まさにその事情を知る組の姉妹艦(青葉は厳密には違うが似たようなものである)なわけである。
・・・逆に言えばそんな背景が、彼女らに山城が隠す何か重要そうな真実の存在に気づかせたわけであるが。
507 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:23:09.85 ID:FvzkVLeNo
ゆえに尚更これ以上釘を刺されないように慎重に嗅ぎ回らなくてはならない。
こうした理由で下手には集まれないのである。
そんな中やって来たチャンスが、今ちょうど執務室で行われている大規模作戦に向けての会議であった。
この会議には普段の艦隊運営を手伝う者、つまり主には各艦種それぞれの最古参勢が呼ばれる。
ここにごっそりと事情を知る組が招集されているのだ。
また、那珂曰くこちらには引き込むのが難しそうという神通も会議に呼ばれている。
そして逆に神通より着任が早いВерныйが呼ばれなかったのはかなりの幸運かもしれない。
508 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:24:21.36 ID:FvzkVLeNo
とはいえそもそも基本的に、より旗艦を任されやすい艦種が会議に呼ばれやすい事は当然ではある。
また軽巡の方がむしろ普段の駆逐艦の動きを客観的に見ているのだから的確な提言が期待できるし、駆逐艦代表として初期艦の電も招集しているから十分なのだろう。
いずれにせよ放送があって暫くしてから青葉はこのチャンスを無駄にするまいと、暇を持て余していた那珂を軽巡寮で拾って、またもや電のみが居ない暁型を訪ねたのであった。
こうして暁型の部屋で開かれることになった待望の“会議”で、まずは各々がこの1週間ほどで得た情報を共有しあったわけである。
509 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:25:30.20 ID:FvzkVLeNo
Верный「みんなの話から考えると...やっぱり嫌われる事に意味があるみたいだ」
雷「でもそんな事ってあるのかしら...正直周りに迷惑でしかないわよ?」
暁「結局そこよね。山城さんは何がしたいんだろう...」
那珂「那珂ちゃんも山城さんとだいぶ仲良くなれたとは思うのになぁ...そこはどうしても教えてくれないみたい」
探偵達は行き詰まってしまった。
お互いの情報交換によって、今の彼女達の中における山城の人物像は変わりつつあった。
おそらくその事情とやらも、きっと山城の優しさの裏返しであるとすら強く思えるまでになった。
しかしそれが今のところの限界なのである。
そのもどかしさに皆は落ち込んでしまっていた。
510 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:26:30.81 ID:FvzkVLeNo
青葉「この中で1番山城さんに絡んでる那珂さんすら、ですもんねー...。」
探偵団の創設者とも言える青葉もそれは同様であった。
青葉「...そういえば那珂さんはどうやってそこまで山城さんに近づけたんですか?」
青葉「あんな態度取り続けてるわけですし、てっきり歩み寄ってくる人に対しても容赦なく距離を置くんだと思ってましたが...」
那珂「それがね〜、こっちからグイグイ行けば何だかんだ付き合ってくれるんだよ」
雷「へぇー、それは意外ね」
響「グイグイ行く、か...。那珂さんは凄いね」
暁「さすが艦隊のアイドルだわ!」
那珂「暁ちゃんは分かってるね〜!」
アイドルとして認められ、那珂は嬉しそうな顔をする。
511 :
◆eZLHgmSox6/X
:2019/04/27(土) 22:27:48.74 ID:FvzkVLeNo
那珂「ちなみにね、今のアイドルパワー溢れる那珂ちゃんを作ってくれたのも実は山城さんなんだ!」
那珂「それに最初は...むしろ山城さんの方から歩み寄ってくれたようなもんだし」
青葉「...どういう事ですか?」
那珂「あれはね...」
那珂は行き詰まった調査の息抜きに、山城への初めての接触について皆に語るのであった。
512 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:30:21.78 ID:FvzkVLeNo
−−
−
川内から山城の事情の存在を聞かされてから数日後、那珂はまた朝礼台をステージにライブをしていた。
・・・観客は居なかったが。
艦娘達はちらほら足を止めるくらいはするのだが、その場にずっととどまって聞いてくれる人までは居なかった。
そんなわけで多少は落ち込みはするのであるが、もともと那珂はダンスをしながら歌えれば満足であった。
客が居ないからといって、その事実が那珂に絶望を与えるわけではない。
落ち込みといっても、「ちょっとは私の曲聞いてくれてもいいじゃん」くらいの軽いものなのだ。
それに、この状態には慣れっこであるし。
513 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:31:33.61 ID:FvzkVLeNo
こうしていつも通りにパフォーマンス終了後に機材の片付けをする。
だがその日はいつも付き添ってくれる川内も神通も居なかったため1人で黙々と片していたのだった。
そんな時、那珂は思い出したようにあのベンチの方を向いた。
朝礼台から決して近くはないが、そこに座る人物を判別出来るくらいには遠くない・・・そんな絶妙な位置にあるベンチに、またしても山城が座っていたことを那珂はライブの途中に気付いていたのだった。
今や那珂の目に映るその人物は、以前までのその人物とは全く違って見えた。
何か大きな優しさを持っている。
川内がそれを、伝えられる範囲で最大限に教えてくれたのだ。
514 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:32:13.96 ID:FvzkVLeNo
那珂はこの数日間で、川内が伝えてくれなかった部分を一生懸命に考えた。
だが出てくる推測はどれもあまりに強引なもので、とても山城の言動を正当化できるものではなかった。
神通にもそれとなく川内が隠した事情の話を振っても、「姉さんがあそこまで隠すのですし私はもう諦めます」と、まるで興味を示さなかった。
だから今この状況はチャンスだった。
川内も神通も、おそらく川内と同じように事情を知ってそうな人達も、逆に事情の存在を一切知らず山城を憎む人達も・・・皆この場所には居ない。
那珂「(まさか観客が居なくて喜ぶ日が来るなんて思わなかったなぁ)」
そう心の中で自虐しながら那珂はベンチの方へ向かった。
515 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:33:34.99 ID:FvzkVLeNo
近くまで行くと、足音に気づいてか山城は顔を少しだけ横に向けながらこちらを尻目に見た。
那珂「あの...山城さんこんにちはっ!」
山城「...何か用?」
緊張のあまり上擦った那珂の挨拶に、単純に山城は困惑しているようだ。
那珂「いやぁ、そのぉ...用があるわけじゃなくて...世間話でもしようかと...」
突然の思いつきで行動した那珂はちっとも会話の準備をしていなかった。
本当は山城本人から事情について詳しく聞きたかったのだが、それ以前の問題である。
そんな挙動不審な那珂を見て察してくれたのか、山城は自ら口を開いてくれた。
山城「川内が謝ってきたわ。妹達に少しだけ喋っちゃった、って。」
山城「それ関連の世間話ならお断りよ」
516 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:34:40.41 ID:FvzkVLeNo
一瞬で自分の意図を見抜かれ、那珂はビクッとする。
しかしそれと同時に、どうしてそこまで隠したがるのかがやはり気になって仕方がない。
那珂「詳しく教えてくれないのは...私が信用できないからですか...?」
山城「別に貴方だけの事ではないじゃない。しつこく聞いてきた人には面倒臭いから話しただけよ」
那珂「そ、それなら...!私もしつこく聞きます」
山城「何でそこまでしたいのよ」
那珂「だって...!山城さんが本当はやりたくない事で傷ついてるなら...」
那珂「そんなの放っておけないよ...」
山城「私が望んでやった事よ」
那珂「でも...!本心は違うんですよね?」
宣言通り食い下がる那珂に対し、山城は困った顔をした。
しかし沈黙する訳ではなく、那珂にまるで諭すような口調で話し始めた。
517 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:36:10.18 ID:FvzkVLeNo
山城「...貴方に言うメリットがないのよ」
山城「川内には弱みにつけ込めば口出ししなくなる見込みがあったから言っただけ」
山城「でも貴方は...まぁそういう要素も少しはあるけど...そうはいかないと思う」
那珂「弱みって...」
山城「そこは気にしなくていいわ。とにかく貴方に言っても反対されるだけなのは明らかよ」
山城「私は自分が正しいと思ってるから。わざわざ邪魔されにいくような事はしないわ」
那珂「じゃあ山城さんのやる事に反対はしないって約束するから...」
山城「無理でしょ。というか何でそんなに必死になれるんだか」
518 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:37:07.15 ID:FvzkVLeNo
その呆れたような言葉にも那珂はめげなかった。
もし自分が、何らかの事情によって川内や神通に暴言を吐かなくてはならなかったら・・・そんなのは考えたくもない。
だが目の前の人は、持ち前の不幸のせいなのか、きっとそういう状態を強いられているのだ。
川内が言っていた事は、そういう事だ。
ならば、絶対に見捨てることなんてできない。
那珂「山城さんだって...みんなと同じ1人の艦娘だもん...!」
那珂「せっかく艦娘として生まれ変われたのに...仲間たちと心から楽しめないなんて悲しいよ!」
その叫びは1度は忘れかけていた、それでも那珂の心に在り続けた1番大切な想いそのものであった。
519 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:38:42.40 ID:FvzkVLeNo
山城「...そうね」
対する山城はそう呟いて肯定はしたものの、それだけだった。
その口調は乾いたもので、那珂の言葉に感情を動かされたような様子は見受けられない。
− そんなのは分かっている。だけど私は違う −
そう突き放されたように感じた。
2人は少しの間、気まずい沈黙に見舞われた。
それが耐えられず那珂は再び口を開いた。
那珂「でも、とにかく...少なくても山城さんは本当は悪い人じゃないって信じてますから...!」
那珂「だから私は...山城さんの味方です」
那珂「山城さんは拒否すると思うけど...いつか今の状況を変えたいんです!」
520 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:40:48.53 ID:FvzkVLeNo
山城「アンタ、艦隊のアイドルじゃなくて嫌われ者になりたいの?」
山城はすました顔で那珂を軽くあしらう。
那珂「...白露型との仲が拗れないように、って気遣いまでしてくれた人を見捨てるなんて嫌だよ...」
那珂「そうしてまでみんなに好かれるアイドルなんかやりたくないです」
那珂はハッキリと意思表明をする。
山城「アイツに喋るんじゃなかったわね...」
山城はため息混じりにボヤいた。
那珂「お願いです、事情をどうしても教えてくれないなら、せめて味方でいさせてくださいっ!」
那珂「山城さんが孤独な所を見るのは...今は耐えられないんです」
521 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:42:39.80 ID:FvzkVLeNo
山城「...嫌だと言ったら?」
その返しには少し戸惑ってしまう。
しかし那珂は山城をもう1度信じると決意しているのだ。
その決意が勇気を与えてくれる。
那珂「嫌だと言われても...付きまといます。みんなに...嫌われる事になっても...」
そう那珂が言うと山城は「馬鹿ね」とだけ呟いた。
那珂「...馬鹿でいいです」
那珂は強がってそう返すのだった。
正直に言えば、その時の那珂には不安まみれの覚悟しか無かった。
山城擁護を理由にせっかく仲良くなれた人達と関係が拗れる事は怖かった。
山城のように孤独を何とも思わずに過ごすなど、自分には到底出来ないと思っていた。
522 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:44:44.71 ID:FvzkVLeNo
だが、ここで負けてはいけない。
自分の弱い心を見せたら、きっと山城はそれを理由に自身の味方など出来っこないと突き放すのだろう。
もしかしたら山城の言っていた「弱み」とはこの事なのではないか?
山城は皆の心の弱さを指摘することで、自身の味方をさせないのではないか?
そうやって彼女は孤独を維持し、いつまでも事情とやらを隠し続けるつもりではないか?
だとしたら・・・山城の味方をするためにも、孤独を恐れない強さを見せつける必要がある。
そんなことを考えていたのだった。
山城「...アンタ、自分で言うだけあってほんとアイドルに向いてるわよ」
那珂「へっ?」
那珂があれこれ考えていると、今度は山城から唐突に予期せぬ言葉がかけられた。
523 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:46:25.47 ID:FvzkVLeNo
山城「もうちょっと工夫すれば立派な艦隊のアイドルになれるわ」
那珂「え...?本当ですかっ!?」
那珂「...って、何ですか急に..。山城さん絶対そんな事思ってないでしょ...」
今までの話の流れと全く関係ない事を持ち出されて困惑する。
とはいえ少しはお世辞でも褒められて嬉しいという気持ちはあるが。
山城「私がお世辞言うキャラに見えるの?アンタの歌はよくここから聞いてるわ」
那珂「ほ、本当に聞いてくれてるの!?」
山城「まぁね...。歌声も悪くないし、歌自体の出来も良いと思うわ」
那珂「嬉しいっ!そう言ってくれる人なんて川内ちゃんと神通ちゃんだけだったからっ!」
那珂「まさか山城さんに言ってもらえるなんて!!」
524 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:47:45.08 ID:FvzkVLeNo
那珂はすっかり舞い上がり興奮してしまっていた。
自分が先程まで山城の事を案じていた事など忘れたかのようにである。
山城「けれど1番の点はそこじゃないわ」
山城「アンタのその活発さは...艦隊を明るくできる」
山城「そして、周りを動かせるような優しさも持ってる」
山城「まさに艦隊のアイドルに相応しい要素を持ってると思うわ」
那珂「そんな言われると照れちゃうなぁ...//」
山城「まぁ、だから私は応援してるってことよ」
山城はシンプルにそうエールを送ってくれたのだ。
普段の彼女からは想像もできないが、アイドル活動が上手くいっていないともいえる那珂を、なんと直々に励ましたのであった。
そもそも那珂とはろくな接点を持っていないのにである。
525 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:49:28.69 ID:FvzkVLeNo
那珂「じゃあ山城さんはファン1号だねっ!」
山城「いや別にファンってわけじゃないけど...」
那珂「何でよ〜!那珂ちゃんの歌、気に入ってくれたんじゃないの〜?」
那珂「そういえばこの前ライブした時も山城さんここに居たし!やっぱりライブ全通の熱心なファンだよ!!」
山城「調子に乗らないで」
那珂「むぅ〜!いいじゃ〜ん!」
やはり興奮は冷め止まない。
だらしなくも嬉しさで頬が緩んでしまう。
そんな那珂に山城は呆れたような口調で応えたが、その表情もどこか穏やかな気がした。
山城「でもそうね、誰もファンが居ない様子には親近感を覚えるわ」
那珂「ひ、酷い...」
526 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:51:14.50 ID:FvzkVLeNo
口ではそう言いつつも、山城と友達同士のような会話が出来ていることがとても嬉しい。
山城は意外と軽口を言うようだ。
それは勇気を出して話しかけていなければ絶対に気づかなかったであろう点である。
那珂「(まだ不安はあるけど...山城さんとも仲良くなれたらいいな)」
事情について聞き出す事が本来の目的ではあったが、話しているうちに那珂は山城という人物自体への興味も強く持ったのであった。
那珂「よし!決めたっ!」
那珂「山城さんが川内ちゃんに話した事も、今はこれ以上聞かないようにする!」
山城「そうしてもらえると助かるわ」
那珂「でも、その代わり変に気遣って那珂ちゃんの事避けないで欲しいな!」
那珂「そりゃ不安が無いわけじゃないけど...でも山城さんは大事なファン1号だもん!」
527 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:52:20.73 ID:FvzkVLeNo
山城「いやだからファンってわけじゃ...」
那珂「那珂ちゃんルールではファンなの!」
食い気味に返してみせた。
山城は驚きで言葉を失っている。
とても、とても気分が良い。
那珂「だからさ、時間があるなら那珂ちゃんの歌、これからも聞いてよ!」
那珂「ここのベンチからでもいいから!」
そう言うと固まっていた山城がやがて返事をした。
山城「...まぁ、ここにはしょっちゅう来てるからいいわよ」
山城「実際アンタのライブとやらはしょっちゅう聞いてるわけだし...ファンじゃないけど」
那珂「最後は納得したくないけど...嬉しいな!」
528 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:54:46.12 ID:FvzkVLeNo
山城「でもそれなら、貴方はちゃんと艦隊のアイドルを目指しなさいよ」
山城「私が艦隊の雰囲気を悪くする分、貴方がみんなを楽しませてあげて」
山城「どんな根深い闇も明るくさせる、艦隊の光になりなさい」
那珂「うん!」
嬉しさから、返事にも自然と元気が込められる。
那珂「でも今の状態だとそんなアイドルになるまでどれくらいかかるか分からないけどね...」
もっともライブを見届けてくれる客が居ない現実を思い出すと、少しダウナーになってしまうのだが。
山城「まぁ貴方の明るさや活発さも、もう既にこの鎮守府で楽しくやってる子達にとっては騒いでるようにしか聞こえないかもしれないわね」
那珂「辛辣だぁ...」
あざとく落ち込んでみせる那珂に、山城は言葉を続けた。
529 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:55:54.86 ID:FvzkVLeNo
山城「アドバイスよ。貴方はせっかく恵まれたアイドルらしさを持ってるのに活かせてないのよ」
那珂「どういう事?」
山城「どうせ歌う事自体が楽しいからファンが居なくてもアイドル活動を続けてるんでしょう」
山城「でもそれじゃファンは増えないわよ。だって他人の趣味を追っかけるだけなんて面白くもないでしょ」
那珂「確かに...!」
那珂は山城の言葉に驚いていた。
だがその驚きとは、内容についても然ることながら、山城が自分の考えていた事を簡単に言い当てた事である。
− 観察眼が並外れている
山城を唯一褒めるものとして機能してきたその言葉を、今まさに実感したのである。
530 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:57:09.74 ID:FvzkVLeNo
山城「貴方がアイドル活動でファンにしようとするべき対象は、もっと今に不安を抱えている子達だわ」
山城「そういう子達をターゲットに歌を披露したりすればいいのよ。「私が元気づけるから安心しろ」ってね」
那珂「なるほど...!」
山城「まぁ那珂も今は新参な方だけど、これからどんどん艦娘は増えるわ」
山城「貴方は最初から楽しくやれたみたいだけど...そう上手くいかない子だって出てくるはずよ」
山城「そういう子達を救うつもりでアイドル活動をしてれば、きっとファンも増えるでしょう」
その山城のアイデアは、那珂に驚くほど自然に染み込んだ。
自分がありたいと思う姿を、その言葉で山城が具体的に示してくれたように感じた。
531 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 22:57:57.70 ID:FvzkVLeNo
那珂「そっか!そうだよね、艦隊のアイドルってそういう人だよね!」
那珂のアイドルへの憧れが再び燃え上がった。
今度は漠然とした自身の理想形としての艦隊のアイドルではなく、文字通り“艦隊の”アイドルを目指そうと強く思い立ったのである。
山城「せっかく“那珂”って名前なんだし、みんなの“仲”を取り持てるアイドルになればいいと思うわ」
山城「川内の話を聞いてると、貴方にはそういう素質があると思う。自信持ちなさい」
532 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 23:00:00.35 ID:FvzkVLeNo
那珂「“那珂”が“仲”を...。うん...!凄くいい!」
山城がたった今さらっと言った言葉は、那珂にとってはまるで魔法の言葉のように感じられたのだった。
那珂「那珂ちゃんのアイドル活動で艦隊のみんなが仲良くなれたらいいな!」
那珂「(そして私が...山城さんとみんなの事も繋げられたらいいな)」
そう決心する那珂を、山城は優しい眼差しで見ていたのだった。
533 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 23:01:00.17 ID:FvzkVLeNo
−
−−
那珂「って事があって今の那珂ちゃんになれたわけなんだよー」
暁「そんな事があったなんて...」
雷「“みんな仲良く”ってキャッチコピーが山城さんの発想から来てたなんて驚きよ」
話を聞いていた探偵達は驚きを隠せなかった。
青葉「そういう経緯があったから那珂さんはあんなに山城さんと仲良しなんですね」
那珂「うん!あの日以来、山城さんに恐怖とか近付きにくさを感じる事が無くなったからね〜」
534 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 23:02:48.59 ID:FvzkVLeNo
雷「にしても...まさか山城さんが自分から那珂さんの歌を褒めてたなんてね...」
Верный「正直私も...山城さんにまでファンサービスとか言ってる那珂さんは凄いなと思ってたけど...まさか本当の事だったなんて」
青葉「そこですよね。これかなりのスクープですよ、山城さんって物好きなんでしょうか...」
那珂「ちょっとぉ〜!那珂ちゃんへの信用低くない!?青葉さんは特に酷くない!?」
暁「山城さんにまで認められてたなんて、やっぱり那珂さんはさすが艦隊のアイドルね!」
那珂「もうここにいるファンは暁ちゃんだけだよ...」
こうして彼女達は会議が終わる頃まで、山城の事を語り合うのであった。
535 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/04/27(土) 23:06:28.36 ID:FvzkVLeNo
今回の投下はここまでです
当初2〜3ヶ月で終わらせる予定でしたがそれが無理になって今もちんたら書いてるわけですが、実は自分なりにデッドラインは決めてあります
そのデッドラインまであと1ヶ月切ってるのでほんとにGW中に一気に進めてあと1ヶ月以内に終わらせたいと思ってます
毎度遅筆で本当に申し訳ないです
p.s.艦これ6周年おめでとう!
536 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/27(土) 23:09:49.67 ID:tOVP6iYio
おつおつ
次も楽しみだ
537 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/28(日) 00:07:45.41 ID:2txToR4ko
おつおつ
期間空いても気長に待つからそんなに気にしなくていいんだぜ
538 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/04/28(日) 06:36:18.17 ID:uDbttJtRO
いつも見てます。がんばれー。
539 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 00:56:58.87 ID:BMm/1y0AO
続きを投下します
p.s.遅れましたが令和おめでとう!
540 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 00:57:44.77 ID:BMm/1y0AO
−−−
同日 22:00 古鷹と青葉の部屋
青葉「あの...古鷹さん」
古鷹「どうしたの青葉?」
就寝の準備を進めていたルームメイトの古鷹に青葉は声をかけた。
青葉「大規模作戦...。上手くいくでしょうか...」
青葉は不安気に言った。
古鷹「...心配?」
青葉「はい...」
その返答に古鷹の表情も少し曇る。
541 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 00:58:37.76 ID:BMm/1y0AO
あぁ、またやってしまった。
彼女にはずっと笑顔でいて欲しいのに・・・
いつもそれを壊してしまう自分が、本当に情けない。
青葉はそう自責する。
古鷹「大丈夫だよ。青葉の練度なら、きっと上手くいくよ」
古鷹「青葉はもっと自信持たなきゃ!」
古鷹は天使のような微笑みで励ましてくれた。
天使はいつだって希望の光を青葉にもたらそうとしてくれる。
だがその光は時に、闇を強調してしまうのである。
542 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:00:09.84 ID:BMm/1y0AO
青葉「いえ、その...私はいいんです。気を抜くわけではないですけど、前哨部隊ですから。」
青葉「でも、古鷹さんは攻略本隊じゃないですか...。危険度がかなり違います」
古鷹「...青葉は心配し過ぎだよ」
古鷹は俯いている青葉に近寄って頭を撫でた。
古鷹「油断はするつもりないけど、私だって練度高いんだよ?」
古鷹は子供を落ち着けるような優しい口調で言う。
古鷹「今回の作戦だって、主力殲滅まで全て任されるっていう事が初めてなだけだよ」
古鷹「厳しい海域に赴く事自体は何回もやってきたんだから。心配しないで」
543 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:01:44.59 ID:BMm/1y0AO
顔を上げれば、古鷹は優しく青葉を見つめていた。
真っ先に彼女の綺麗な左目の光に目を奪われた。
青葉はその輝きに吸い込まれていくのだ。
私がその輝きを受け取る事はできない。
むしろ私がそれに包まれるしかないのである。
青葉「本当は、古鷹さんの隣で戦いたかったんです」
青葉「青葉なりに、少しは強くはなりました」
青葉「それでも、ちっとも古鷹さんの横に並べる気がしないんです」
古鷹「青葉...」
古鷹の表情が再び曇り出す。
それでも彼女の左目は相変わらず輝いている。
その眩しさに涙が出てくる。
544 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:02:29.45 ID:BMm/1y0AO
青葉「古鷹さんを守れるようになりたいのにっ、私は弱いままなんですっ...!」
青葉「今度こそ私が古鷹さんを、って思うのに...!私は自分にすら勝てなくてっ...!」
青葉「こうやって、いつも迷惑しかかけられなくてっ...!!」
耐えきれず泣いてしまった青葉を、古鷹は優しく抱きしめた。
古鷹「大丈夫だよ、青葉。迷惑なんかじゃないよ」
古鷹は優しく背中をさすってくれた。
古鷹「青葉は心配性すぎるだけなんだよね。普段飄々としてる反動が一気に来ちゃうだけなの」
古鷹「それにね、青葉が私をそんなに想ってくれる事はすごい嬉しいんだよ」
天使は微笑む。
545 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:03:39.70 ID:BMm/1y0AO
青葉「でもっ...私は古鷹さんに甘えてばっかで...」
青葉「これじゃいつまで経ってもっ...」
古鷹「気にしないでよ、そんな事」
古鷹が青葉の言葉を遮るように口を開く。
古鷹「私はいつまでも青葉の隣にいるよ」
古鷹「だから、「いつか」でいいじゃない。ずっと待ってるからさ」
彼女は優しく、そう言い切るのだった。
青葉は本音ではそれに従いたくはなかった。
古鷹への依存を正当化したくはない。
彼女の優しさに甘え続けるなど、あってはならない。
罪を背負っているのはこの私なのだから。
546 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:05:05.19 ID:BMm/1y0AO
それでも、結局はそうするしかないのかもしれない。
頭の中にしつこく湧き起こるものを消す事はできないのだ。
それは影のように常に追ってくる。
考えないように意識するほど、それを考えてしまう。
私は罪からは逃れられないし、逃げてはいけないのである。
そして私は...未だにそれらを受容できないでいる。
逆に私がそれらに呑まれてしまっているのである。
青葉「今でも...古鷹さんが中破や大破したりすると息が止まりそうになります」
古鷹「...うん」
青葉「お願いです...無事に作戦を終えてください...」
青葉「私では何も力になれません...行っても逆に迷惑をかけてしまいます...」
青葉「だから祈る事しか出来ないんです」
そう訴えるように言うのだった。
547 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:06:10.42 ID:BMm/1y0AO
古鷹「...青葉達が前哨戦で敵を減らしてくれれば、その分だけ私達攻略部隊も楽になる」
古鷹「だからさ、そんなに卑下しないでよ。青葉の頑張りはちゃんとみんなの役に立つんだから」
優しい言葉が耳に染み渡る。
古鷹「それに何度も言ってるじゃない。私は青葉が居るから頑張れるんだよ」
古鷹「青葉が居てくれるだけで...私は嬉しいから...」
古鷹はそう言って青葉を抱きしめた。
今日も青葉は天使の救いに包み込まれるのである。
古鷹「ほら、青葉。もう寝よう」
青葉を抱きしめたまま、古鷹が優しく言う。
548 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:07:10.33 ID:BMm/1y0AO
古鷹「早速明日から大規模作戦に向けての演習が始まるでしょ?」
古鷹「ちゃんと眠って、明日に備えなきゃ」
青葉「そうですね...」
古鷹「青葉が眠るまで手繋いでであげるからね」
そう言うと古鷹は青葉の後ろに回していた手を解いて、再び微笑みながら青葉を見つめた。
古鷹の綺麗な金色の左目が、涙で濡れた青葉の顔を照らした。
この眼差しはなんて綺麗で残酷なんだろう。
青葉はそう思うのだった。
549 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:08:13.82 ID:BMm/1y0AO
−−−
あぁ、またこれだ・・・
暗闇の中を、僕は仲間達と進んでいた。
しばらく進んでいると、僕達は敵と交戦することになった。
もうこのシーンにはうんざりだ。
「扶桑...!魚雷が来てる!」
結果を知っている僕は、扶桑に向かって叫んだ。
・・・それでもやっぱり魚雷は扶桑に当たってしまう。
扶桑はまた脱落だ。
550 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:10:28.41 ID:BMm/1y0AO
そしてこれだけでは済まない。
「満潮っ!」
「朝雲っ!山雲っ!」
あっという間に敵の熾烈な砲撃で僕以外の駆逐艦仲間は全滅する。
そして次は・・・
お願いだ、沈まないで。
そう言おうとすぐ近くの旗艦を見た。
しかしその艦は、何故か不敵な笑みをこちらに見せていたのだ。
「じゃあ、貴方が沈めば?」
その言葉に僕の思考は固まってしまう。
・・・僕にとっては不思議な事ではないのだが、その場の僕にとってはまるで意味が分からないのである。
551 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:11:32.16 ID:BMm/1y0AO
「私を不幸にさせるこんな艦隊、邪魔でしかないわ」
そう言ったその人は、主砲を最上に向けていた。
・・・は?
まさか・・・やめろっ・・・!
その場の僕の願いは届かず、最上は即座に炎上する。
味方に・・・いや、たった今敵になった者によって、最上は一瞬で沈められた。
・・・思い出した・・・こいつは・・・!
許さない・・・絶対に許さない・・・!
そしてようやく僕が、そこにいる僕に同化するのである。
552 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:14:28.55 ID:BMm/1y0AO
こうして驚きが憎しみに変わった時、既にソイツは僕に主砲を向けていた。
「さようなら、時雨。アンタらとの関係を終わらせられるなんて...幸福だわ」
そう言って、アイツは僕を撃った。
激しい怒りに支配されながら僕は沈んでいく。
それでも僕は不思議とある種の安らぎを得ていた。
・・・むしろこれでいいのだ。
そうとすら思っている。
ただ、絆を引き裂き仲間を捨てて喜ぶお前だけは・・・絶対に許さない。
本当の仲間たちと共に、お前を全否定してみせる・・・!
こうして時雨は目の前の戦艦への憎悪を抱きながら、深淵な世界に優しく包み込まれていくのであった・・・
553 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:16:30.02 ID:BMm/1y0AO
−−−
12月16日 朝
目覚まし時計の音が聞こえる。
目は開いたが意識まではまだ微睡みから離れない。
この心地よい安息とお別れするのはなかなか気が進まない。
夕立「時雨〜!村雨〜!起きるっぽ〜いっ!」
しかし結局は犬みたいにいつも元気な姉妹艦によって強制的に起こされるのである。
時雨「ふわぁ...おはよう...」
村雨「夕立は朝から元気ねー...。一番に起きたみたいだし...」
時雨と共にたった今起きたばかりの村雨もまだ眠そうである。
白露「むむっ、いっちばーんは私!」
既に起きて顔を洗っていた白露が洗面所から顔を覗かせていた。
554 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:18:00.39 ID:BMm/1y0AO
時雨「はは...そんな所まで競わなくても...」
いつも通り姉妹艦は朝から賑やかだ。
ふと、今日はよく眠れたなぁと思う。
昨日の事があったから、尚更それは意外であった。
夢の内容はあまり覚えてないが、嫌な夢では無かったのだろう。
・・・でも何か僕は夢の中で怒ってた気もするのだが。
時雨は嬉しい誤算に安堵しつつ、パジャマから制服に着替える。
村雨「そういえば今日から2人とも...あの艦隊ね...」
村雨が遠慮がちにそう言った。
夕立「...クズ戦艦と同じかぁ」
時雨「提督も酷いよね。まさかわざわざアイツ入れた西村艦隊組むなんて思わなかったよ」
村雨「しかもよりによって旗艦だなんてね」
555 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:19:48.12 ID:BMm/1y0AO
昨日のブリーフィングにてついに大規模作戦の詳細の発表があった。
それによると作戦では前哨部隊と攻略部隊に分け、攻略部隊は3つの部隊で構成するとのことである。
その攻略部隊の第3隊の旗艦が山城で、メンバーが西村艦隊組(扶桑、最上、満潮、時雨)と夕立という構成なのである。
この発表が全艦娘にとてつもない緊張感を与えた事は言うまでもない。
白露「いい?時雨も夕立も、また昨日みたいに何か突っかかってこられたらお姉ちゃんに教えるんだよ?」
いつの間にか顔を洗い終えた白露が会話に参加してきた。
実は昨日のブリーフィング直後に早速、山城とそれ以外のメンバーで口論になっていたのだ。
当然そのような事は容易に想定できたし、誰も驚きはしていなかった。
556 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:20:43.08 ID:BMm/1y0AO
そしてその際に、山城はまたも腹立たしい言葉を執拗に使ってきたのである。
白露が指しているのはこの事であった。
夕立「大丈夫っぽい!逆に西村艦隊には不幸戦艦の味方なんて誰も居ないっぽい!」
時雨「そうだね。提督には悪いけど...アイツには絶対に容赦するもんか...!」
提督は昨日、あまりに危険なこのメンバーを発表した際に、こう付け加えるように説いた。
557 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:21:59.76 ID:BMm/1y0AO
−
提督「私は皆お互い仲良くしろと強制するつもりはない。だから今まで一切口出しをしてこなかった」
提督「だが今やここは、非常に危険な海域の敵を殲滅させる任務まで任されるほどの鎮守府に成長した」
提督「こうなると艦隊全体の雰囲気に関わる不仲は、もはや見過ごせないレベルであると捉えるしかない」
提督「仲良しになれとは言わない。だが艦隊の戦術の幅を広める為にも、作戦を共に遂行するに相応しい仲にはなって欲しい」
提督「それと当事者達が1番よく分かっていると思うが...この作戦でわざわざ西村艦隊を編成する理由はもう1つある。言わずとも伝わるはずだ」
提督「だからどうか、お互い不満はあるだろうが、他でもないこのメンバーで海域攻略に貢献して欲しい」
提督「それがきっと、君達全員が望む結果をもたらすと私は信じている」
−
558 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:23:00.42 ID:BMm/1y0AO
提督の望みはもっともだし、言わんとする事も分かった。
だが、それでもアイツへの嫌悪をどこかに置いておけるわけではない。
そもそも提督が問題に感じている不仲だって、絆を大事にして結束を固めてきた私達を馬鹿にしてぶち壊したアイツのせいなのだ。
アイツが存在しなければ最初からこんな事は起こっていないのに。
今更になって、まるで喧嘩両成敗のような言いぶりをする提督に、時雨は少し不満を感じたのであった。
時雨「まぁ第3隊の編成については...思う事はあるけど...古参勢が会議で認めたって事だし受け入れるよ」
時雨「だけどアイツについてだけは...絶対に許さない...!」
時雨「アイツは仲間じゃない...!クズ戦艦の手なんか借りずに私達で攻略してやる...!」
559 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:24:12.98 ID:BMm/1y0AO
今日は始業の直後から、早速大規模作戦に向けた部隊ごとの集まりがある。
もちろんこういう時も自ずと部隊の旗艦がリーダーのような役割を担うため、時雨はもう既に気分が良くなかった。
あんな奴に指図されたくない。
あんな奴より下の立場でいたくない。
あんな奴が旗艦だなんて、書類上では認めてやるが僕達は絶対に認めない。
そう強く思うのである。
時雨「僕達だけの力で作戦を成功させて...アイツの居場所を無くしてやる...!」
今にも溢れ返りそうな強い憎しみを胸に、時雨は第3隊の初ミーティングを待ち構えるのであった。
560 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:26:06.34 ID:BMm/1y0AO
〜
9:00 中庭
山城「集まってくれて嬉しいわ。昨日あれだけ煽っておいたかいがあったわね」
満潮「......チッ...」
最上「独り言はいいから早く始めてくれない?こっちは顔も見たくないんだからさ」
時雨「全くその通りだね」
攻略部隊第3隊は中庭でミーティングを始めようとしていた。
ボイコットすらありえるこのメンバー構成のため、そもそもこのミィーティングは開催する事すら一苦労である。
561 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:27:15.24 ID:BMm/1y0AO
そういう理由からなのだろう。
山城とメンバー達が昨日口論になった発端も、山城が「あんたら群れるしか能が無い烏合の衆はボイコットとかしちゃうのかしら。勘弁ね」と煽ってきた事だった。
実際それは時雨達も考えていた事であったから、そのような煽りを受けなかったらわざわざミーティングになんて来なかったかもしれない。
挑発に乗るのは癪だが、あえて乗ってこの場で改めて自分達の立場をはっきりさせておこう。
そうメンバー達で決めて、嫌々ながらもきちんと集まる事にしたのであった。
562 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:30:11.19 ID:BMm/1y0AO
山城「じゃあミーティング始めるけど、まず最初に言っておくわ」
山城のその言葉に一同がさらに身構えた。
山城「アンタらが私を旗艦として認めたくないのは分かるけど...残念ながら実力と経験からして私しか無理ね」
山城「そういうわけだから、諦めて私の言う事は絶対聞いてもらうわ」
山城は冷たい口調で宣言した。
夕立「でも旗艦に相応しい人柄じゃないっぽい!」
満潮「......フフッ...夕立...w」
夕立が繰り出した鮮やかな横槍に満潮が噴き出す。
山城「はぁ。作戦の旗艦に人柄もクソもないでしょう。みんなが強いなら人柄で選べばいいけど、アンタらは雑魚なんだから」
対する山城は表情を一切変えずにあしらってみせた。
563 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:31:45.44 ID:BMm/1y0AO
このメンバーの半数はだいぶ昔からいるというのに、その彼女達すら山城は“雑魚”呼ばわり出来てしまうのである。
・・・だがそれは認めたくなくても事実ではある。
最上「...ウザイなぁ...」
早くも皆の表情が怒りに支配された。
山城「まぁだから私の言う事は絶対に守ってもらうわ」
山城「あとそれは作戦時だけじゃなくて、今日からの作戦準備期間中の第3隊に関わること全てについてよ」
山城「訓練メニューとかについてもだから、アンタらがみんなでのんびりできる日は基本来ないと思いなさい」
時雨「は?」
あまりに高飛車な要求に無意識的に声が出た。
564 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:34:39.05 ID:BMm/1y0AO
扶桑「...どうして?...何様のつもりなの?」
山城「姉様に命令するのは心苦しいのですが...生憎と戦力に不安がある者ばかりですので...」
時雨「...ッ!」
時雨は山城を睨みつける。
だが山城はまるで動じない。
山城「アンタらは弱いんだから、大規模作戦までになんとか強くしないと駄目なのよ」
山城「なのに口にするのは仲間だの絆だの...。こんな奴らに訓練委ねてたら成功する作戦も上手くいかないわ」
最上「...っ、仲間がいないお前には分かんないだろうね」
沸き起こる怒りを抑えて最上がすかさず嫌味で返す。
565 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:37:14.30 ID:BMm/1y0AO
山城「別に仲間を大切にしている人全員に言ってるわけじゃないわ。金剛とかにこんな事を言ったりしないもの」
山城「ただアンタらは、実力が無いくせにそういう実体の無いものにばかりすがろうとするから言ってるだけ」
山城「この鎮守府の最高戦力組ですらしっかり調整しとかないと危ない海域なのよ?そこんとこ分かってんの?」
満潮「...アンタに言われなくても分かってんだけど!?」
満潮が怒気をはらんで言い返す。
一方の山城はやはり冷静なままだ。
山城「分かってないから「旗艦の人柄が〜」とか言い出すんでしょ。和気藹々と深海棲艦相手に何するの?おままごとかしら?」
夕立「ッ...!」
先程の煽りをまんまと返されて夕立も苛立ちがピークになる。
566 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:39:22.39 ID:BMm/1y0AO
山城「...そうね、アンタも頑張れば改二が間に合うから“使える雑魚”くらいにはなるわ。まずはさっさと改二を目指すことね」
山城は満潮の方を冷酷な目で見つめながら言った。
山城「時雨は改二は間違いないけど練度が問題ね。ただでさえ脆い艦種の3人の中で、アンタが1番練度低くて幸運頼りの雑魚だし」
続いて時雨の方を向き暴言を吐いた。
山城「最上、夕立は...まぁ練度はそこそこだけど...相変わらず周りが見えない雑魚ね。艦隊運動スキルを何とかしなさい」
その次は最上と夕立。
山城の一人一人に対する批評もどきの暴言に、全員の怒りが限界まで到達する。
567 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:41:51.85 ID:BMm/1y0AO
そこで爆発するのを止めるものは、やはり山城に実力では勝てないという事実なのであろうか。
どんなに熾烈に反発してみせても、どうしても負け犬の遠吠えになってしまうのだ。
つくづく山城が最古参勢で最高練度を保持する事が憎たらしい。
山城「姉様は改二に間に合わせるのは難しいかもしれませんが...姉様なら大丈夫です!全力でフォローします!」
扶桑「...不快だから馴れ馴れしく呼ばないでもらえる?」
扶桑の嫌そうな顔をみて、山城はバツが悪そうにすぐに目を逸らした。
だがこうして出来あがった最悪の場の雰囲気を気にする事なく、山城は話を続ける。
568 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:45:14.06 ID:BMm/1y0AO
山城「ちなみにこの事は既に提督に了承を得てるわ。気になるなら確認してみなさい」
満潮「...あのクソっ...!」
山城「彼も渋ったんだけど、それくらいの特権貰わないと統制出来ないと言ったら認めてくれたわ」
山城「そこで意地でも編成を変えないあたり、提督もアンタらみたいに絆とか大事にしてるみたいね」
山城「...まぁそんなものにこだわるなんて馬鹿だとしか思わないけど。」
・・・コイツは分かっててわざと煽ってくる。
本当に腹立たしい。
こんな言動・・・許すものか!
黙っていられるわけがない・・・!
時雨「お前っ...」
時雨にとっての禁句を出され、ついに爆発する。
569 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:46:11.54 ID:BMm/1y0AO
山城「その代わり」
しかし、即座に時雨を遮るように山城が言葉を挟んだ。
山城「...その代わり、アンタらの命だけは保証するわ」
山城「私の言う事を絶対に聞くなら、どんな状況に陥っても必ずアンタら全員を生還させる」
山城「それだけは...約束するわ」
山城は力強くそう言った。
夕立「...こんな奴の力借りなくてもっ!」
夕立は強がるようにそう言う。
570 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:48:59.54 ID:BMm/1y0AO
だが少なくても時雨においては、どうしても不安が拭えなかったのは事実である。
・・・アイツの力を借りるものか、とあれほど強く決意していてもである。
昨日のブリーフィングでも、真っ先に思い浮かんだ事は憎しみではなく不安だったのだ。
夕立は別だが・・・それは他のメンバーも同じではないだろうか。
最上「...」
満潮「.......クソっ...。」
少しの間、今までヒートアップしていた場に静寂がもたらされる。
扶桑「...そんなに自信があるのかしら?」
やがて扶桑が沈黙を破って尋ねた。
571 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:50:27.48 ID:BMm/1y0AO
山城「不幸を散々経験してますから。良くない事が起こりそうな時はたいてい予測できます」
山城「案外、不幸艦だからこそ最悪を避ける能力には恵まれたのかもしれません」
山城は自身を皮肉るように笑ってそう言った。
扶桑はそれを聞いて少し考え込んだ。
そして・・・
扶桑「そう...。分かったわ」
沈黙を維持している他のメンバー達を軽く一瞥して、扶桑はついに決断した。
扶桑「じゃあ私はそれでいいわ。条件は飲みましょう」
夕立「扶桑さん!?」
最上「扶桑...」
572 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:53:00.82 ID:BMm/1y0AO
扶桑「そこまで言うならいいじゃない。それに、指示に従いさえすれば何言ってもいいでしょう?」
山城「ええ、別に文句は気にしません。それに姉様達を奴隷のように扱おうというわけでもありませんし」
扶桑「こう言ってるし、どうかしら。正直私は作戦に不安もあるし、経験のある人の指示通り動く事はどのみち必要になるわ」
満潮「でもっ...!」
明らかな不満そうな満潮の肩にそっと手を置きながら扶桑は話を続ける。
扶桑「それでも、私達の絆は変わらないわ。西村艦隊4人と、そして夕立ちゃんと。」
扶桑「この5人でお互いに助け合って、大事にしあって、この作戦を乗り越えましょう」
573 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:54:43.97 ID:BMm/1y0AO
その言葉は時雨の心にすんなりと入ってきた。
そして他の西村艦隊メンバーや夕立も、それは同じのようだった。
最上「そうだね...確かにボク達が仲間な事は変わらないもんね」
満潮「それもそうね。別に悪口言うなってわけじゃないんだし」
夕立「夕立も仲間に入れてくれて嬉しいっぽい!」
・・・嫌いな相手ともビジネスの都合で交流しなくてはならない場合がある。
今回はまさにそのようなケースだ。
まぁ提督が望む程のレベルでは無理だが、合理的な指示だというならアイツの指示も聞いてやっていいだろう。
それは僕達の絆がアイツに屈する事を意味するわけではないのだから。
574 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 01:58:56.30 ID:BMm/1y0AO
時雨「うん。僕も扶桑やみんながいいなら同意するよ」
扶桑「決まりね...。じゃあそういう事で、指示に従うっていうのは妥協してあげるわ」
山城「姉様は理解が早くて助かります」
扶桑「その代わり...そっちも何言われてもいい覚悟は持っておくことね。まぁ、そんなの慣れっこでしょうけど」
扶桑は山城を睨みつけていた。
山城「...そうですね。慣れっこですから、構わないですよ」
独特な張り詰めた空気が場を支配した。
こうして第3隊は名実ともに山城が指揮をする事が改めて決まった。
憎悪を取り除く事なく結成されたその因縁の艦隊に未来はあるのか。
それは神のみぞ知る事である。
575 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/03(金) 02:00:04.54 ID:BMm/1y0AO
今回はここまでです
令和も頑張っていきたいものです
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/03(金) 02:09:51.63 ID:kG2rGl/fo
おっつおっつ
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/03(金) 16:01:40.56 ID:aqO2/xuFo
乙
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/03(金) 22:12:00.62 ID:a5eMCHjBO
乙
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/04(土) 10:28:56.23 ID:F2FO183fO
今気付いたけど、朝雲と山雲は居ないのか。
580 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/18(土) 23:56:16.04 ID:IEeFCoIvO
時雨お誕生日おめでとう!!!
ちょっとしたら少しだけ投下します
581 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:45:06.56 ID:iboqIv40O
−−−
12月19日 12:30 食堂
陽炎「うわっ...ペイントだらけじゃない...」
山城から昼休憩を貰った第3隊の5人は食堂に来ていた。
そして長机の一角にスペースを見つけ座ると、すぐ横に座っていた陽炎から声をかけられた。
時雨「これでもかなり落としてきた方なんだけどね」
夕立「どうせ午後もまた汚れるっぽい」
陽炎「たしかにそれだとちゃんと洗い落とす気にもならないわね...」
不知火「食堂に来る度に見ますから、この光景も慣れてきましたね」
陽炎の向かいに座る不知火が口を挟む。
満潮「......ほんっと最悪よ...」
夕立「でも夕立は5人で遊んでるみたいな気もして少し楽しいっぽい!」
最上「夕立は元気だなぁ...」
扶桑「そうね...」
582 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:46:28.28 ID:iboqIv40O
第3隊の発足から5日目。
山城が指揮する訓練は過酷なものだっ
た。
まず第3隊は山城の方針で、海域への出撃による連携の確認といった事を一切やっていない。
なぜなら、山城曰く「雑魚同士で連携しても所詮雑魚の次元は越えられない」からである。
その代わりに彼女が行う訓練は、メンバーを1対5に分けてひたすら“1”の方を5人がかりの砲撃でいじめ抜くという、前代未聞のものだった。
ちなみに山城は最高練度を根拠に、自ら“1”をやる事は無い。
訓練ではペイント弾を使うため、轟沈判定以降も物理的には演習を続行できる。
山城はその性質をいわば悪用している。
つまり“1”に選ばれた者は山城が満足するまで残り5人の容赦ない砲撃に曝され続けるしかない。
たとえ全身がペイントで埋めつくされたとしても、それは訓練終了を意味しないのである。
583 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:48:12.04 ID:iboqIv40O
そしてもちろん、諦めて回避運動や反撃を試みなかったり攻撃側が手を少しでも緩めると、必ず山城が口汚く罵ったり煽る。
その度に皆は当然怒りを露わにするが、ありったけの罵倒を吐きながら何とか精神を保つのである。
また他の部隊との演習も毎日、それも相手の都合がつく限り複数回行う。
山城が相手として選ぶのは専ら同じ作戦攻略部隊である第1隊と第2隊である。
両方とも戦力としては第3隊の格上であり、戦っても確実に負ける。
実際にこの4日間はしっかり全敗している。
山城は勝負にならないことを知っていながら演習を組むのだ。
ここで付け加えるべきは、5人は決して負け戦を強いられるのが嫌なわけではない事である。
何が腹立たしいかと言えば山城が、この必然の敗北を引用してやはり散々に罵る事なのだ。
つまり5人からしてみれば山城は自分達を罵倒するためだけに演習を組んでいるように思えて、それが余計に憎悪を深めるのである。
584 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:52:04.95 ID:iboqIv40O
そしてこれらのハードな訓練を1日の活動時間に容赦なく過密に詰め込んでいる。
昼休憩を除けば、毎日朝から晩まで訓練漬けである。
さらに恐ろしい事に、もう少ししたら山城はこのメニューに加えて夜戦訓練も実施するつもりらしい。
「鬼の山城」
まさにその言葉が相応しかった。
だがそんな過酷な訓練を、よりにもよって世界一憎んでいる奴の指示によって受けているにもかかわらず、5人は山城へ一応は従っている。
それには理由があった。
不知火「まぁあの戦艦に指導されるのは私も嫌ですが...正直ここまで練度が上がるなら不知火も参加したいですよ」
陽炎「ペイントまみれは嫌だけど...ちょっと分かるわ」
時雨「...」
時雨はバツが悪そうな顔をして沈黙している。
585 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:53:27.41 ID:iboqIv40O
扶桑「まさか満潮の改二も今月以内に出来そうなんてね...」
満潮「……」
満潮もやはり気まずく沈黙する。
最上「そういう扶桑も...このペースなら改二もありえなくなさそうじゃないか」
扶桑「私も早くみんなに追いつきたいわ」
そう言って彼女は柔和な笑みを見せた。
・・・そうである。山城の鬼の訓練は、信じられない程に第3隊の練度を引き上げていたのだ。
山城の独裁体制が始動した日の夜には早くも時雨の体が光りだした。
即座に2次改装可能の報告を受けた提督も、まさかここまで早いとは思っていなかったようで大変驚いていた。
586 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:54:28.64 ID:iboqIv40O
また当初は作戦にギリギリ間に合うかどうかくらいに見積もられた満潮も、ここ数日での練度の上がり方を見るに、あと1週間程で改二要求練度に到達しそうである。
これ程の過酷な訓練をしているのだから当然であると思う一方で、山城が言うだけの成果を出してみせた点については認めないわけにはいかなかった。
くわえて意外にも山城は、訓練中は扶桑に対して1番容赦なかった。
もちろん扶桑にだけ態度や言動が特別な点は変わらないのだが、訓練の内容で言えば逆に扶桑を徹底的に砲撃し1日に何度も5人で彼女をいじめ抜いている。
それは言うまでもなく、着任が大きく遅れメンバー内で1番練度が低い彼女を大規模作戦レベルに引き上げるためであろう。
587 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:56:53.74 ID:iboqIv40O
山城は私情に左右されず、あくまで練度と戦力の向上という目的に忠実なようだ。
そうなるといよいよ、指導理論においては山城に逆らう妥当性が見つからないのである。
これこそが5人が溢れんばかりの憎しみや怒りを抑えながらも山城の指示を聞く理由に他ならない。
陽炎「でもやっぱりストレスが尋常じゃなさそうね...。訓練内容もそうだけど、アイツに指揮されるってのが。」
夕立「そう!ほんとに嫌過ぎて吐き気がするの!」
露骨に嫌そうな顔をしながら言った陽炎の言葉に、待ってましたと言わんばかりに夕立が激しく肯定する。
最上「特に昨日今日は一段とクズだしね」
満潮「何で機嫌悪いのか知らないけど突っかかってこないでほしいわっ!顔見るだけで腹立つってのに...!」
最上の付け加えた言葉に呼応するように満潮が怒る。
588 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 01:58:49.21 ID:iboqIv40O
不知火「一段とクズ...。それは精神衛生に良くないですね...」
扶桑「あまり相手にしちゃ駄目よ?やり返すだけ無駄なんだから」
夕立「そうは言ってもやられっぱなしはムカつくっぽい...!あのクズ、また時雨を...!」
時雨「...まぁ別にアイツが僕にどうこう言うのは気にしてないさ」
興奮している夕立を制するように時雨が口を開く。
時雨「何度も言うけど、僕が許せないのはアイツが絆を踏み躙る事なんだ」
時雨「アイツは、僕の大切な昔の仲間との記憶全てを馬鹿にしてっ...!」
時雨「そしてまたこうやって出会えた仲間たちとの絆までぶち壊そうとするんだ...!」
時雨「僕達全員、今度は完全な意思を持って生まれた艦娘としての存在を、アイツは嘲笑ってる...!そんなの許さないっ...!!」
満潮「ええ、そうよ!あんな奴っ!」
夕立「練度上がるからって我慢してあげたけど、午後はアイツに何かしといた方がいいかなぁ」
駆逐艦3人は瞬く間に憎しみに支配された。
・・・何か行動として、山城に報復を画策しそうな雰囲気になりつつある。
589 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:00:27.71 ID:iboqIv40O
最上「...みんな、せっかくのお昼が不味くなるよ」
扶桑「とにかく落ち着きなさい。私だって腹は立つけど...せっかくの5人の団欒を壊したくないわ」
危険な雰囲気を2人がひとまず抑えた。
扶桑「他の人にも迷惑だから、ね?」
そう言いながら扶桑は隣を見遣る。
不知火「あ、いえ。お気遣いなく」
陽炎「私だって聞いてるだけで怒りが湧くもの」
最上「ごめんね、2人とも」
最上は苦い顔で陽炎と不知火に謝った。
最上「まぁアイツが機嫌悪くなってやたら暴言吐いてくるのも、いつもだいたい1日か2日で終わるし」
最上「明日にはマシなレベルに戻るでしょ。...嫌味とか罵ってくるってのは変わらないだろうけど」
590 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:02:24.22 ID:iboqIv40O
扶桑「最上の言う通りよ。この間食堂で言った事が守られないのは腹立たしいけど...。わざわざ相手して余計なエネルギーを使うことはないわ」
扶桑「ムカつくのは元からでしょう。だからいつも以上に暴言を吐いてきても、憎むだけに留めて無視しておきなさい」
夕立「むぅぅ...分かったっぽい...」
満潮「扶桑がそう言うならそうするわよ...」
扶桑と最上のおかげで何とか楽しい昼休みの時間を取り戻せそうだ。
最上「...そんなことより楽しい話をしようよ!もうクリスマスまで1週間切ったよね!」
最上が話題を明るい方へ持っていく。
その言葉で皆の顔が和らいだ。
時雨「...ふふっ、そうだね。確かに楽しい事を考えた方がいいな」
時雨「みんなでクリスマスパーティーとかしようか」
夕立「素敵なパーティーしたいっぽい!!」
こうして彼女らの卓は、その後は楽しそうな声で包まれたのであった。
591 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:04:02.09 ID:iboqIv40O
−−−
守らなきゃ・・・
また自分が残ったんだから・・・
傍には空母が居る。
絶対に、護らなきゃ・・・
そう強く思いながら海を走る。
だがその想いも砕かれるのだった。
数本の魚雷の発射音が、脳に大きく響いた気がした。
避けて・・・。お願いだから・・・。
そう願っても、隣の空母は大きな水飛沫を上げながら被弾する。
そして・・・
ついにその空母は沈んでいく。
592 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:05:14.16 ID:iboqIv40O
どうして・・・!
どうしてこんな目に遭わなければならないの・・・?
こんなの理不尽じゃないか・・・!
涙がひたすらに流れる。
これこそが・・・不幸じゃないか・・・!
心の内でそう叫んでいた。
そして自身の運を憎みながら、恨めしく敵潜水艦が逃げたと思われる方へ目をやった。
・・・するとそこに居たのは、どういうわけかアイツだった。
居るはずのない、アイツだったのだ。
彼女は不敵な笑みを浮かべていた。
593 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:06:24.94 ID:iboqIv40O
そうか、コイツのせいなのか・・・
コイツは許してはいけない奴だった・・・!
コイツは仲間なんかじゃないんだった・・・!
何の疑問を持つ事なく、憎しみが瞬く間に湧き起こった。
その憎しみはどこか心地よいものだった。
・・・そんな心地よい闇に呑まれつつ、またいつも通りの深淵な世界に誘われるのであった。
594 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/05/19(日) 02:08:51.52 ID:iboqIv40O
今回はここまでです
昨日が時雨の進水日!
当初の予定ではそもそもとっくに完結してる予定でしたが、終わらないと分かってからはこの日をデッドラインにしてました
そしたら・・・余裕で間に合いませんでした
ほんとに遅筆ですみません
エタる事はしないので気長にお付き合い頂ければと思います
595 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/19(日) 06:31:30.95 ID:vjG60Nv9o
お疲れ様
596 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/19(日) 07:22:53.32 ID:QyAMeh0RO
乙!
597 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/19(日) 11:17:54.73 ID:gXD3UMnpO
乙
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/19(日) 12:41:54.13 ID:GhXqpNM/o
おっつおっつ
599 :
◆eZLHgmSox6/X
[sage]:2019/06/14(金) 23:10:39.74 ID:tBNlJVQdO
長らく更新が出来てなくて申し訳ない次第です
月曜日くらいに続きを投下出来れば...と思ってます
600 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/15(土) 00:18:39.38 ID:L7oPqam9o
待ってた
601 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/25(火) 12:27:16.28 ID:9ckhR7ysO
待ってるぞ
頑張ってくれ
602 :
◆eZLHgmSox6/X
[sage]:2019/06/26(水) 11:02:20.88 ID:YtYgWYHzO
−−−
−−
−
やはりそうだ・・・
眠っている彼女は雨に濡れていた。
・・・きっと私は雨を止ませる事は出来ない。
濡れた彼女の顔を拭いてやるくらいしか出来ないのだ。
それでも彼女ならきっと大丈夫だと思いたい。
雨は・・・いつか止むはずなのだから・・・
−−−
山城「時雨...おはよう」
今しがた目を覚ましたルームメイトに声をかける。
時雨「......おはよう、山城!」
603 :
◆eZLHgmSox6/X
[sage]:2019/06/26(水) 11:03:14.63 ID:YtYgWYHzO
目を開いた直後も暫し夢現としていた時雨だったが、やがてにこやかに挨拶を返した。
時雨といえば、この笑顔なのである。
山城「...よく眠れた?」
時雨「...うん、ぐっすりさ!今日も訓練頑張れそうだよ」
時雨は明るい表情でそう言うのだった。
山城「そう...良かったわ。それじゃ時間にあまり余裕無いし、支度してすぐに朝食よ」
時雨「うん」
窓からは綺麗に晴れた青空が見える。
そして同時に、海の上に存在を主張する白く大きな入道雲が真夏らしさを強調していた。
時雨が着任して、6日目の朝だった。
604 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:05:03.46 ID:YtYgWYHzO
〜
時雨「今日は山城の予定はどんな感じなんだい?」
時雨「僕の午前の訓練には付き添ってくれるみたいだけど...」
身支度を済ませた2人は朝食を取りに、食堂を目指して廊下を並んで歩いていた。
山城のすぐ隣の場所は、すっかり時雨の定位置になりつつある。
山城「午前はそうよ。午後はまず昼食後に古鷹と一緒に執務室に行くから...その後はアンタの午後の訓練が終わるまで図書室にでも行こうかしらね」
時雨「古鷹さんと執務室か...また作戦会議とかあるのかい?」
山城「...そんなとこよ。これからこの鎮守府もどんどん戦力拡張していくから、運営会議とかも増えていきそうだわ」
時雨「やっぱり山城は凄いなぁ...うちでトップクラスの練度で、提督からも頼られて、艦隊運営に携わるなんて」
時雨は敬愛の眼差しを向けていた。
・・・その眼差しを照れくさくも素直に受け取る、なんて心持ちには到底なれなかった。
605 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:06:18.83 ID:YtYgWYHzO
山城「ねぇ、時雨...」
時雨「何だい?」
山城「鎮守府生活にはそろそろ慣れたかしら?」
山城はすぐ隣を歩く少女に尋ねた。
時雨「うん、みんな優しくしてくれるからね」
時雨「それに山城が指導艦だもん」
時雨は明るい笑顔を見せる。
それは心の底からの、純度100%の喜びだった。
気付けば山城は歩くスピードを落とし、時雨の頭を撫で回していた。
時雨「どうもこれには慣れないけど、嬉しいな...//」
彼女は恥ずかしそうに顔を綻ばせた。
606 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:07:35.35 ID:YtYgWYHzO
山城「それじゃあ...艦娘としてのは自分には慣れたかしら?」
山城はそう言うと同時に、撫で回す手をその頭から離した。
時雨「...うん、ちょっとずつだけどね」
少しだけ彼女の表情が曇る。
2人の歩むスピードはまた一段と遅くなった。
時雨「まだ艤装を上手く使えないけど...早くみんなを守れるくらいになりたいな」
時雨「艦娘になっても...また山城の横に立ちたいんだ」
彼女には明らかに苦悩が垣間見える。
それでも強くあろうとする決意を乗せて、やはり時雨はにこやかな表情をするのであった。
山城「...あまり焦らない事ね。艦娘になってすぐのうちは、どうしても慣れなくて安定しないものだから」
山城「...色々な事でね。」
漠然とした、それでも最適なアドバイスを彼女に贈る。
607 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:08:27.86 ID:YtYgWYHzO
時雨「そう言ってもらえると安心するよ」
苦そうな笑みで彼女は山城のフォローを受け取る。
山城はもどかしくて仕方がなかった。
だが、他人の悩みに寄り添うという事はそれだけ大変であると気づいたのだ。
私がこの子を、早く他の子達と同じようにしてあげなくてはいけない。
それが自分の役目なのだから・・・。
山城「私はアンタの指導艦なんだから...何でも相談しなさい」
山城「私が出来る範囲でだけど、助けになるわ」
ありきたりな言葉で時雨を励ましてやる。
もどかしくも、それが最適なのだ。
608 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:09:53.72 ID:YtYgWYHzO
時雨「山城は...優しいよね」
山城「...別に普通よ」
山城は目の前の少女の瞳から、霞んだ光を感じ取った。
・・・きっと時雨は私の胸中を察している気なのだ。
時雨「ううん、山城はいつも僕に気を遣ってくれる」
山城「そりゃあ、一応アンタのお世話係みたいなもんだしね」
時雨「...僕の心情を読み取って...いつも寄り添おうとしてくれるじゃないか」
時雨は、困り顔に笑顔を上塗りしたような、そんな顔をしていた。
山城「大袈裟ね、誰だって新人にはこれくらいするわよ」
時雨は物事を重く考えすぎなのだと思う。
それは良くも悪くも彼女の大事な特徴であった。
きっと本能がそうさせているのだろう。
609 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:11:19.46 ID:YtYgWYHzO
時雨「でも金剛さんだって言ってたよ、ほんとに山城は洞察力がすごいって。」
彼女はちゃっかり、山城と同室だった経験を唯一持つ艦娘から色々と話を聞いているようだ。
金剛の事だから、多少オーバー気味な山城像を時雨に吹き込んでいるに違いない。
変に掘り下げられると自分はくすぐったくて堪らなくなってしまうだろうし、そして何より警戒される要素の存在は隠しておきたかったから、とりあえずその話題は受け流す事にした。
山城「はぁ...アンタはね、甘え下手なのよ」
山城「だからこっちは気遣わずにいられないの。私だけが特別気にかけてるとかではないわ」
時雨「そんなにかい...?」
今の時雨の心情が何となく読める。
きっと彼女には複雑な安堵が少しだけもたらされたはずだ。
610 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:12:19.78 ID:YtYgWYHzO
山城「...ええ、そんなになのよ。アンタってすぐに独りで抱え込みそうだからね」
時雨「そんなことは...」
山城「とにかく、甘えられるところでは駆逐艦らしく甘えときなさい。アンタだって所詮はガキなんだから。」
どうにもこういう事は不器用な私には向かない。
それでも、この子のためにも少しでも励ませたらと願う。
時雨「...僕はむしろ甘えてるよ」
時雨「みんなより上達が遅いのに、それを分かってるのに...それでもちっとも良くならないんだ」
時雨「僕は今度こそ昔の仲間達を守るって決心したくせに、結局みんなに助けてもらってばっかで...甘えてるんだ...」
もはやいつもの笑顔も彼女からは消え去りつつあった。
611 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:14:04.10 ID:YtYgWYHzO
山城「あのね...何回か言ってきたけど、時雨は艦時代だとかの今までの事にばっか目を向けすぎなのよ」
山城「それも大事かもしれないけど、それ以上に前を向くべきだわ」
時雨「前を向く...か...」
時雨にはなかなか言葉が浸透しない。
だから必要なのは、彼女の思考を踏襲しながら、こちらのメッセージを染み込ませる事なのだ。
山城「練度って確かに重要よ。これが十分にあれば、自ずと状況把握も連携行動も上手くなる」
山城「精神状態ですら、練度とともに強くなっていく傾向がある」
時雨がピクっと反応する。
山城「でもね、周りのサポートありきでも、ちゃんと練度は少しずつでも上がっていくわ」
612 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:15:56.56 ID:YtYgWYHzO
山城「今のところ進捗が芳しくないってだけで、時雨も行き着くゴールは皆と同じなのだから...そんなに不安にならなくていいのよ」
時雨「そうなのかな...」
山城「だってそうでしょ、今は未熟でも...半年くらい経てばきっとそれなりの戦力にはなってるはずだと思えないかしら?」
時雨「そりゃ半年も経てば練度も上がってマシになってるとは思うけど...」
山城「じゃあそれでいいじゃない」
食い気味の返答に時雨は少しだけ驚いた顔をした。
山城「時雨は...そうね、桜が咲く頃になってようやく自分の才能も開花する、とでも思っとけばいいのよ」
山城「その頃にはきっと強くなってるはずだから」
613 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:17:21.29 ID:YtYgWYHzO
時雨「うん...」
山城「ほら、だから前を見なさい。楽しい事を考えるのよ」
山城「私はそういうキャラじゃないけど...アンタにはそっちの方が似合うわ」
そう言って時雨の頭に手を置いた。
山城「皆、去年の桜がどうだったかなんて興味ないでしょ」
山城「ただただ、今年はどう咲くかって事に期待をふくらませてるのだから」
そう言葉を続けて彼女を軽く撫でてやってから、山城は歩き始める。
山城「...さてと、さっさと朝食に行くわよ」
こんな言葉で、彼女の心を完全な快晴に出来るとは思わない。
・・・彼女はそういう子だから。
それでも、少しでも憂鬱な雲を取り除けたならば嬉しい。
614 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:19:40.63 ID:YtYgWYHzO
時雨「...うん。そうだよね...!」
少しの間の後、ついには時雨も早足で歩きだし山城の隣に再び並んだのだった。
時雨「不安はあるけど...きっと桜が満開になる頃には山城を助けれるくらいになっていてみせるよ!」
時雨「その時には山城の横を僕が守ってて...その...山城とお花見してたいな...!」
少し恥ずかしそうな顔をしながら、時雨はそう遠くはない未来を語った。
彼女の輝く顔に、少し希望が見て取れた。
時雨「山城は...紅葉のイメージだったけど...桜も似合いそうだね」
その言葉に思わず照れてしまった私の頬は、紅葉色だろうか、それとも桜色だろうか。
615 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:22:41.86 ID:YtYgWYHzO
こうやって少しでも彼女に寄り添っていければ、と改めて思った。
山城「ふふっ...楽しい未来を考えれば、一見終わりの無さそうな苦境だって克服できそうに思えるでしょ?」
山城「それで実際に克服出来たら、つまらない事で悩んでたんだ、って思えるようにもなるわ」
山城「...お花見、今から楽しみにしておくわね」
時雨「うんっ!」
時雨「約束だからね!忘れないでよ!」
約束のための指切りをしてきた時雨は、これまでで1番子供らしかった。
・・・そしてそれが彼女があるべき姿だと、山城は強く思うのだった。
616 :
◆eZLHgmSox6/X
[saga]:2019/06/26(水) 11:24:11.72 ID:YtYgWYHzO
宣言通りの日時に続きを投下できないのは仕様なので許してください
信用されなさそうですがエタる事はしないので気長に待って頂ければと思います
617 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/26(水) 13:20:22.97 ID:L9HIss6fo
遅れる位は気にすんな
最後まで頑張ってね
618 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/26(水) 14:22:14.44 ID:mx53DbDi0
乙乙
気長に舞ってる
619 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/26(水) 22:45:41.20 ID:a6EzbNFIO
乙
620 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/01(日) 21:53:38.22 ID:GkAyFSgHo
全裸待機
621 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/09/30(月) 23:06:40.15 ID:dq6clWtLo
エタったか?
622 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/16(土) 21:26:23.83 ID:SNtzV3I5o
ダメみたいですね
623 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/17(日) 09:56:41.91 ID:F3Iv1DXGo
いつまでも待ってる
624 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/02/12(水) 13:19:30.86 ID:ncNjfrYxO
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