【艦これSS】不器用を、あなたに。

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302 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 09:55:57.60 ID:ipNkQLlXO
提督「...青葉。君は事情を知ってる人については突き止めているのに事情は知らないわけだ」

提督「それは多分、君と特別な絆で結ばれてる古鷹さえも教えてくれなかったってことだろ?」

青葉「特別な絆って...。古鷹さんとはそういうわけじゃないですよ?」

照れ隠しで否定した面もあるが、青葉自身は本当に古鷹とは特別な関係であるとは思っていない。

青葉「(古鷹さんは青葉だけじゃなくみんなに優しくて、青葉の方が特にそれに甘えてばっかってだけなのに...)」
303 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 09:56:38.72 ID:ipNkQLlXO
青葉はそんな自覚を持っていた。
いつも青葉に振り回されながらも笑っていてくれて、そのくせ実は繊細な面も受け入れて寄り添ってくれる・・・

むしろその優しさに甘えてばっかりで迷惑をかけてしまって申し訳ないという気持ちすら青葉にはある程なのだ。

青葉「(...でもやっぱり古鷹さんの1番みたいに思われるのは...嬉しいな)」

そんな事を考えているとは思わず、提督は青葉の否定を打ち消す。
304 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 09:57:16.94 ID:ipNkQLlXO
提督「そうなのか?でも私から見ても青葉と古鷹はお互いを強く想いあっていて素敵な関係だと思うよ」

青葉「うぅ...その...恐縮です///」

青葉は耐えきれず赤面する。
その様子を優しい目で見ながらも提督は話を続けた。

提督「そんな古鷹ですら君には話さない方がいいと判断した、というわけだ」

提督「つまりそこに意味がある」

提督は青葉に力強く言った。
305 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 09:58:48.42 ID:ipNkQLlXO
青葉「...だからその意味を知りたいんですが」

提督「まぁそこに行き着くのは仕方ないよな...」

提督はまた少し黙ってしまった。
青葉も今度は追求するための備えが尽きてしまっていたため、それに合わせて沈黙するしかなかった。

二人とも、気まずさを紛らわすために書類を軽く整理し出す。

この作業を終えたら、もう気を取り直して昼食を取りに行こう。

青葉が落胆しつつもそう思った時だった。
思考が落ち着き始めたことにより、新しい気づきが突如思い浮かんだのである。
306 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 09:59:58.20 ID:ipNkQLlXO
青葉「(...そういえばさっき司令官は山城さんの振る舞いについての理由自体は知らないと言ってましたね)」

青葉「(だとすると、まず司令官も知ってる事情があって、その事情で山城さんが暴言を吐くようになったと思ったけど、確証持っては知らない...ってことですかね?)」

青葉「(では電さんの言ってることが本当だとしたら、司令官は事情を知ってる組にカウントされてるのでしょうか?)」

事情をどうしても聞けないというなら、せめてその点だけははっきりさせておきたい。

青葉はすぐに提督に尋ねる。
307 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:00:45.70 ID:ipNkQLlXO
青葉「...あの、さっき司令官は山城さんの振る舞いの理由については知らないって仰ってましたけど...」

青葉「それは本当なんですよね?」

沈黙を破った青葉に驚きつつも、提督はすぐに力強く返事をした。

提督「 あぁ、嘘偽りなく本当だ」

青葉「ではなぜ司令官の知った事情が山城さんの振る舞いの原因だと思ったのですか?」

提督「登場人物が同じだからな」

青葉「(事情というのが山城さんに関するものという事でしょうか)」
308 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:02:31.55 ID:ipNkQLlXO
提督「それと、彼女からトラブルが起こった前日に釘を刺されてる」

青葉「...!その時何て言われたんですか?」

提督「...まぁ、事情があることは知ってるわけだし、これに関してはいいか...」

それを伝えるか少し迷ってから、提督は山城の言ったことをそのまま呟いた。



提督「今後、私と時雨たちとの関係について何も口出しするな」



提督「こう言われてな。私の知ってる事情が山城の今の振る舞いの理由に関係してて、だから口出しするなって言ってきたんだろうと思うわけだ」
309 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:03:50.36 ID:ipNkQLlXO
たしかに前日に伝えてきた事も踏まえれば提督の推測は正しいように思える。

提督「もちろん単に私が介入して仲直りさせようとするのを嫌ったというのもあるんだろうが」

青葉「そう言われるとますますその事情とやらを聞きたくなりますよぉ...」

提督「そればっかはな」

やんわりと、しかし確固たる意志で提督は青葉の希望を跳ね除けるのだった。

青葉「でもせっかく山城さんへの見方を変えられるチャンスなのに、事情とやらを教えてもらえないなら私は一向に味方できないですよ」

青葉の言ったことはここ1週間の調査での素直な感想でもある。
どうやら山城は本当に擁護される理由を持ってるらしいと信じられるものの、未だ自身の実体験としてそれを見つけられない。
310 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:06:05.04 ID:ipNkQLlXO
そもそも先日の食堂での騒動といい、相変わらず山城の言動はヘイトを集めるものでしかない。
そこにいくら「事情がある」と言われても、それを教えてくれないのだからやはり完全に納得するのは難しい。

そんな半ば不貞腐れるように落胆していた青葉に、提督から思いもよらない言葉が発された。

提督「...それなら事情とは関係ないエピソードを一つ話してやる」

提督「こっちも山城から口止めされてるが、特別にだ」

青葉「本当ですか!?」
311 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:07:01.19 ID:ipNkQLlXO
提督「だからその代わり、あんまり山城の件を暴こうと執着しないでくれ」

提督「近日中に大規模作戦も始まるし、余計な事に気を取られないで欲しい」

青葉「はいはい、分かってますよ!」

青葉はすぐに機嫌が戻った。
そして手元には既にメモを用意していた。

提督「本当にジャーナリストって感じだな」

その様子に苦笑しながら提督は語り出す。

提督「ちょうど山城が私に釘を刺しに来た日、実はそれともう一つ用事があって山城はここに来たんだ」
312 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:08:11.25 ID:ipNkQLlXO
提督「それがこの鎮守府の改装の進言でな」

青葉「あっ!そういえばその日に司令官が急に鎮守府を改装するって発表してましたね」

青葉は早速メモに書き込む。

提督「そうだ。実はあれは山城からの提案だったわけだ」

提督「もちろん部屋割り変更の要望もな」

青葉「全く知りませんでした...」

青葉が着任してから2週間程して、鎮守府はいくつかの設備の改装を行った。
設備の改装とはいえ艤装や装備と同様に妖精の力を利用するため、艦隊運営に影響は出ないものであったが。
313 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:11:34.03 ID:ipNkQLlXO
この際に艦娘寮も改装の対象となり、それに伴って部屋割りも変わったのだ。
最初から古鷹と同室の青葉は違うが、実はその時までは艦種や型に関係ないバラバラな部屋割りだった。
しかしこの改装を機に、基本的には同型艦で分ける部屋割り体制になったといえる。

だが提督の話を聞いて、この改装の日が重要な意味を持っているように思えてならなかった。
なぜなら提督曰く、改装を進言した日に山城は提督に口止めのような事を言い、翌日にあの事件が起きたからである。

ここで青葉に閃きが生まれる。
314 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:12:59.21 ID:ipNkQLlXO
青葉「...ということは山城さんは時雨さんとの同室を解消するために?」

青葉「翌日にああしようと決めていたからこそ、前日に司令官に釘を刺したり、部屋割りを変更できるようにしたんでしょうか...」

提督「まぁ多分それも兼ねていただろうが、メインは本当に部屋割りの変更が必要だと考えたからだろう」

提督「そこに自分の都合を上手く乗っけた感じだと思う」

どうやら青葉の推測は半分正しいが半分は違うようである。

青葉「では何で部屋割りの変更が必要だったんです?」
315 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:16:12.85 ID:ipNkQLlXO
提督「それが彼女のよく知られない部分でな。簡単に言うと主に駆逐艦のためだったんだ」

青葉「?」

まるで話の筋が見えない。

提督「青葉はまだ当時着任したばっかであんま覚えてないかもしれんが...あの時は部屋が今より小さめで駆逐艦寮は3人部屋だったんだよ」

青葉「そういえば...たしか時雨さんが最初に山城さんと同室になったのもそれが理由の一つですよね」

提督「ああ、あの時白露型が既に3人着任済みでそこの部屋は埋まってたからな」
316 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:17:11.69 ID:ipNkQLlXO
提督「ここで艦娘として実在する駆逐艦がどれだけいるか考えてほしい。今うちに着任してない子達も含めてだ」

青葉「駆逐艦だと他の艦種と比にならないくらい多いですね」

その言葉に提督は頷く。

提督「つまりそれだけで膨大な部屋数を使ってしまう。だから今後の鎮守府の発展に備えて対策が必要だった」

青葉「なるほど...!だから部屋数減らすために今は駆逐艦寮は4人部屋なんですね」

提督「そういうわけだ。ただこれは私の都合を考えてくれただけで、実はもう一つの理由を山城は挙げていたんだ」

青葉「まだ理由が?」
317 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:21:47.35 ID:ipNkQLlXO
提督「それは暁型とか初春型を考えてやればいい」

青葉「...?」

提督「人数の問題なんだ。彼女たちは4人だからな」

青葉「...!まさか山城さんはそれを考慮して...?」

提督「ああ、特に暁型はあの時点で3人が着任していたからな」

提督「まだ未着任の姉妹艦が他にたくさんいる白露型とは違って、彼女らは残り1人だった」

提督「そこで山城は「せっかく姉妹全員揃ったのに部屋事情のせいで一人だけ別部屋なのは不幸でしょ」ってな」

提督「かといって駆逐艦で2人ずつに分けちゃうと、さっき言ったみたいに部屋が足らなくなるし...」
318 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:23:30.56 ID:ipNkQLlXO
青葉「そんなことが...」

提督「実際に改装直後に暁が着任したしなぁ...」

提督は山城の的確な配慮を振り返って思わず感嘆している。

青葉も、艦種も全く違う駆逐艦のために細かい配慮を人知れず−それも鎮守府で最も憎まれ嫌われている者が−していたことに驚きを隠せなかった。

提督「それともう一つ。図書室を改装して一般的な小説や雑誌・マンガなどを置くスペースを作ったのも山城の提案だ」

青葉「えっ...それもですか?」

山城といえば図書室でよく目撃されるも、イメージの通り大衆的な本にまるで興味を示さないため、今の提督の言葉もまた信じ難いものである。
319 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:24:22.82 ID:ipNkQLlXO
提督「これについても、もう少し小さい艦娘達を考えろって言ってたな」

提督「まぁそれも正論だ。青葉は着任時に図書室案内されたか?」

青葉「ええ、古鷹さんにしてもらいましたよ」

青葉「利用までしたことはないですけど、当時のはなんか古くさい資料保管庫って感じでしたよね」

提督「ほんとそんな感じだった。一応ここは軍隊だから、最初から置いてたものは君たちの艦時代についての資料だとかそういうものばっかでね」

提督「大事な資料なのは間違いないんだがそんなの見ても特に駆逐艦達は絶対喜ばないしな」
320 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:26:21.42 ID:ipNkQLlXO
提督「そんなわけで改装後は新設した図書倉庫にそれらを入れて、開架としては読みやすい本を中心にしているってわけだ」

提督「皮肉にも自分の提案で新設した図書倉庫は、今じゃ山城が周りを気にせずに図書室を利用するための隠れ家みたいになってるらしいがな...」

青葉「そうですね...」

提督「こんな感じで、まぁ山城も結構見えないところでみんなを気遣ってるんだ」

提督「つい昨日もある艦娘同士の仲の良さを考慮して部屋割り一緒にしてあげたら?、なんて言われたばかりだしなぁ」
321 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:27:09.91 ID:ipNkQLlXO
普段ならスクープを匂わせるその発言にすぐに食いつくはずだった。
それでも今はそんな気にはなれなかった。

いつまでも真実の核心に迫れないというモヤモヤはあるが、それでも山城の既存の人物像が青葉の中でポロポロと崩れ落ちていく感覚は確かにあった。

那珂の話を聞いた時点でも少し把握はしていたが、やはり山城が見えないところでかなりの配慮を効かせていることは間違いないようである。

青葉「そんなことまでする人が...どうして...」
322 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:28:50.03 ID:ipNkQLlXO
こうなると、提督との約束を早速破るつもりではないが、山城についての真実の欠片を拾うたびに疑問は深まるばかりなのである。

提督「...繰り返すが私も理由をちゃんと知ってるわけじゃない」

提督「知ってる事情から推測して何となく察した気になってるだけだ」

青葉「でも提督もその事情を教えてくれないんですよね...まぁ約束しちゃいましたからもう聞かないですけど」

提督「そうしてもらえると助かるよ」

提督「...あと大規模作戦に集中してしっかり備えてくれよ?」

青葉「分かってますよ、青葉もやる時はやりますからね?」

提督「それならいいが...」
323 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:30:55.03 ID:ipNkQLlXO
提督「最近調子はどうなんだ?」

青葉「...まぁいい感じですよー」

青葉のその返答を聞いて提督は少しだけ何か考え事をする。
そしてすぐにまた口を開いた。

提督「じゃあ大規模作戦で古鷹と同じ艦隊で激戦海域に派遣しても大丈夫か?」

今度は青葉が一瞬だけ動揺で沈黙してしまった。
すぐにそれを誤魔化すかのように慌てて返答する。

青葉「は、はい...!ばっちこいです!」
324 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:32:06.03 ID:ipNkQLlXO
提督「...多分古鷹も中破は当たり前のようにするだろうし、大破撤退も普通に想定されるが」

提督「それでも大丈夫そうか?」

青葉「それは...」

青葉は言葉に詰まる。

青葉「けど私だって重巡内では結構な高練度の方ですし...!青葉も出た方が...」

決意を固めて絞り出した言葉は、提督によって阻まれた。

提督「すまない、ちょっと意地悪が過ぎた」
325 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:33:32.88 ID:ipNkQLlXO
提督「私もなるべく余裕を持った戦略を立てたいし、激戦海域にはかなりの高練度勢だけを送るつもりだよ」

提督「青葉には古鷹と別艦隊で前哨戦を担当してもらおうと思ってる」

青葉「でも私も古鷹さんを側で助けたいですし...」

提督「前哨戦といってもかなり攻略難度は高い。青葉くらいの練度がちょうど必要になるんだ」

提督「だからこそ青葉に頼むというのもあるんだぞ?」

青葉「分かりました...その、ありがとうございます...」
326 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:34:40.75 ID:ipNkQLlXO
提督「いいってことさ。君はそういう時こそいつもみたいに気楽で居るべきだよ」

青葉「(哨戒とか遠征ならまだしも、やっぱり私は古鷹さんと同じ艦隊ではまだ戦える気がしません...)」

青葉「(早く自信を持って古鷹さんを守れるようになりたいなぁ...)」

そんな考え事をしている青葉に提督が声をかける。

提督「さぁ青葉、長く話し込み過ぎてしまったし早く昼食に行こう」
327 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:40:16.12 ID:ipNkQLlXO
時計を見れば確かに時間を使いすぎたようだ。
提督のその言葉によってようやく青葉はいつも通りの陽気な青葉に戻る。

青葉「そうですね!それじゃあ食事中は提督のプライベートについて取材しちゃいます!」

そう言って青葉は提督の前を歩き出す。

提督「おいおい、勘弁してくれよ」

いつもの青葉が戻り、提督もまたいつものようにスクープ記者青葉に困った声をあげてみせる。

提督「(きっと青葉に事情を話していいと思えるようになるのは、まだかなり先かもしれないな)」

だがそれと同時に提督は、青葉の後ろ姿を見ながらそんなことを考えるのだった。
328 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:41:11.74 ID:ipNkQLlXO
〜〜〜

2時間程前 廊下



古鷹「あっ...山城さん」

山城「あら、古鷹じゃない」

山城は古鷹と偶然廊下で出くわしていた。

古鷹「これから図書室ですか?」

山城「そこくらいしか行くところないからね」

山城は自嘲気味に言う。
そんな山城を見て古鷹はあることを思い出した。
329 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:42:06.50 ID:ipNkQLlXO
古鷹「...そういえば山城さん、一昨日はまた...」

古鷹自身は出撃でその場に居合わせることなかった一昨日夜の食堂での騒動について言及する。

古鷹「いい加減あんなことはやめて下さいよ...」

山城「だけどそれでも上手くいくんだもの、仕方がないじゃない」

山城「時雨だって昨日今日と元気っぽいし」

古鷹「...結果はそうかもしれないですけど」

山城は一度周囲を見渡す。
他の艦娘は誰も居ない。
安全を確認した上で話を続ける。
330 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:44:54.33 ID:ipNkQLlXO
山城「ところで貴方の方はどうなの?」

古鷹「...ぼちぼちってところです」

山城「やっぱり芳しくないのね」

古鷹「今日は大丈夫みたいですから...多分しばらくは...」

山城「そう。それは良かったわね」

古鷹「...でも最近思うんです。もしかしたらやっぱり山城さんが正解なのかなぁって」

古鷹「私の4ヵ月以上に対して、山城さんはその都度問題を起こすだけですから...」

古鷹「いっそ私も...」
331 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:45:53.22 ID:ipNkQLlXO
山城「...馬鹿言わないでちょうだい」

山城「古鷹には無理だし、似合わないわよ...」

山城「それに貴方がそんなに気弱になってどうするの」

古鷹「それでも...あの日山城さんが言った事通りにしかなってない気がして...」

山城「根本的な解決をしてないのは私だって同じよ。お互い頑張りましょう」

古鷹「...やっぱり山城さんは優しいですよね」

山城「貴方ほどじゃないわ」

古鷹「ふふっ、そういう事にしておきますね」
332 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:46:49.82 ID:ipNkQLlXO
古鷹「そういえば明石さんが嘆いてましたよ?山城さんはどうして意図を汲み取ってくれないのか、って」

山城「あぁ、一昨日の...」

古鷹「わざわざ伝えたのは、心配する程じゃないから何もしないで欲しいという事だったそうです」

古鷹「山城さんだって明石さんがあれを望んでたはずがないことくらい分かるでしょうに...」

山城「決めたことだし、もう今更よ」

そう口にすると古鷹は悲しそうな顔をした。
333 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:48:18.30 ID:ipNkQLlXO
古鷹「...私達は山城さんの味方です。完全に納得はできないですけど、私よりも上手くいってますし...」

山城「あの子達に共通点はあるけど、背景は全く違うわ」

山城「だから私のやり方と比べたって意味無い。ましてやそれは人を不快にするのものだしね」

山城「それに何度も言うけれど私に味方なんてしない方がいいわ」

山城「ここに来てそこそこ長い子なら貴方がお人好しだからって納得するだろうけど、新入りが増えてくるとただの嫌われ者の同調者って思われるわよ?」
334 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:57:21.27 ID:ipNkQLlXO
古鷹「...そんなんで済むくらいなら喜んで。」

山城はその返答に驚くしかなかった。
普段の古鷹からは想像できないような、強い心意気が垣間見えた。

古鷹「山城さんこそ、私の真の仲間なわけですから」

古鷹「山城さんだけが孤独なんて、私は嫌なんです」

そう笑顔で古鷹は付け加えた。

山城「私のエゴでやったようなものなのに...。まぁ、勝手にしなさい」

そう言うと同時に、視界の隅に駆逐艦を捉えた。
あれは陽炎と不知火だ。
335 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:57:55.92 ID:ipNkQLlXO
山城「(白露型や朝潮型よりはマシだけど...まぁ立ち去るのが無難ね)」

山城「じゃあ私はこれで。何か困ったら助けるわ」

古鷹「山城さんこそ、何か困ったらいつでも」

こうして2人は立ち話を終えたのだった。
336 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 10:58:29.67 ID:ipNkQLlXO


陽炎「おはよう、古鷹さん!」

不知火「おはようございます」

古鷹「二人ともおはよう!」

不知火「...さっき話してたのは不幸戦艦ですか?」

陽炎「ほんと古鷹さんはお人好しね。あんなの無視すればいいのに」
337 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 11:01:07.61 ID:ipNkQLlXO
山城は嫌われ者である。
駆逐艦は恐らく暁型以外はみんな嫌悪感を抱いてるであろう。

それはあるべき状態ではない・・・
山城はそんな境遇に陥るべきではない・・・
本当は真実を全員に伝えてしまいたい・・・

そんな湧き上がる思いを捨て去り、今日も古鷹はいつものようにこう言うのであった。

古鷹「...たしかに山城さんは酷いよね...。だけど私は山城さんが本心からあんなこと言ったりするって思えないんだ」

そして古鷹の言葉は、今日も皆には“お人好し”という理由で浸透することなく軽く受け取られるだけなのである。
338 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/17(日) 11:02:12.55 ID:ipNkQLlXO
今回はここまでです

もう逆に投下予告宣言はしないようにしよう(戒め)
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/17(日) 11:43:30.40 ID:CSFZJr2GO

いつも楽しみにしてるから自分のペースで書いて
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/17(日) 12:14:28.79 ID:GHdSPWKAO
乙!
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/19(火) 12:24:18.06 ID:9LB/zbNAo
おつー
342 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:24:46.02 ID:LY9D/QEiO
一部投下します
343 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:26:02.45 ID:LY9D/QEiO

12月13日 15:00 間宮



瑞鶴「ほんっと、ありえない!」

本来はそこで出される美味しい甘味に舌鼓を打ち穏やかな時間を過ごす場所であるが、この空母だけは違っていた。

翔鶴「瑞鶴...いい加減に落ち着きなさい」

瑞鶴「そんなの無理だよ!」

瑞鶴「アイツは私のこと、見捨てても平気なんだよ!?」

翔鶴「それは何か誤解があるのかも...」

翔鶴が瑞鶴の興奮を抑えようとする。
344 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:27:12.70 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「あるわけないじゃんっ!心配の言葉なんて一切なかった」

瑞鶴「口に出すのは「もしこれが救援が出せない状況なら沈んでた」とか「今日のに懲りたらもっと精進しろ」とか、全部批判で...!」

瑞鶴「何でもかんでも「慢心」で片付けてっ!赤城さんみたいに過去の反省から使ってるわけじゃない、アイツはただ私へ難癖つけるために使ってるだけじゃん!」

翔鶴「でも加賀さんが言ってること自体は間違ってないじゃない」

困った顔をしつつも翔鶴はなんとか瑞鶴に落としどころを見つけさせたいようである。

瑞鶴「そんなの分かってるよ!危険を招いた責任も感じてるし反省だって言われなくたってやるもん」

瑞鶴「けど、それでも私なりに頑張ってたのに...!」

しかし瑞鶴は酷く激高しており、それをどうにかするというのは無理であった。
345 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:28:36.73 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「あれほどの敵の存在だってもともと作戦段階では想定外で...それでピンチになって救援要請したら心配するどころか説教で」

瑞鶴「挙句に救援艦隊入り拒否して赤城さんと二航戦の先輩に私を押し付けただけなんてね...!」

翔鶴「加賀さんが私情でそんなことするなんて思えないけど...」

瑞鶴「どうせそういうヤツなのよっ!アイツ不幸戦艦のこともちょくちょく味方するみたいだし、案外同じように幸運艦って理由で私のこと疎んでるんじゃない?」

翔鶴「加賀さんは私達に期待してるから厳しいだけで...山城さんとは違うわよ」

瑞鶴「どーだかね、アイツはきっと私達の性能に僻んでるのよ」
346 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:29:46.82 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「古参仲間だからって、ばかわうちもあっちの味方するし...ムカつくムカつくムカつく!!」

翔鶴「ちょっと...」

普段から犬猿の仲で通ってる瑞鶴と加賀。
二人の喧嘩は別に珍しいものではなかった。

それゆえ近しい正規空母の面々や周囲に居合わせた艦娘達は特にそれを気にしないどころか、ある意味で惚気のように解釈しているのだが・・・


瑞鶴「もういい、あんなヤツこっちから願い下げだわ」
347 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:30:44.34 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「援軍に来てくれたのがアイツ除いた正規空母フルメンバーでむしろ嬉しかったしね、焼き鳥なんか顔も見たくないわよ」

瑞鶴「あんな冷酷だなんて思わなかった...認めてもらおうって頑張ってきたのに...!」

翔鶴「瑞鶴...」

しかしそれは普段の喧嘩には、どこか師弟の絆のような愛情がお互いの奥底に垣間見える気がするからである。
お互い罵りあいながらそれでも信頼はしているという、実力差はあれども良き好敵手といった関係だったのだ。

しかし今の瑞鶴の様子は完全にそれとは違う。
348 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:32:19.94 ID:LY9D/QEiO

瑞鶴は涙を浮かべながらもも意地で何とかいつものように罵倒で精神を保っているという感じである。

そしてその涙は、悔し涙などというある種のポジティブさを含んだものなどではなく、明らかにショックや悲しみといったものを隠しきれずに出てきたものであった。

間宮内に点在する艦娘達も、いつものとは違う瑞鶴の様子にやや不安そうな表情を浮かべる。
翔鶴が瑞鶴を慰めようとした時、五航戦のもとに一人の艦娘が話しかけてきた。

那珂「ちょっといいかな?」

翔鶴「那珂さん?」
349 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:32:53.93 ID:LY9D/QEiO

那珂「那珂ちゃんも救援部隊編成決める時に執務室呼ばれてたし、川内ちゃんにも不満があるみたいだから...よければ瑞鶴さんの話聞くよ?」

その那珂の言葉で少しだけ落ち着き、瑞鶴は改めて事のあらましを語ることにした。



・・・発端はいつもの喧嘩からだったと思う。
350 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:34:09.29 ID:LY9D/QEiO

今日も正規空母の日課である朝稽古があった。
そこでこれまたいつも通りに小言ばかりの加賀に苛立ち、瑞鶴もそれに応酬して喧嘩になった。

ここまでは普段と同じである。


今日は午前から瑞鶴が初めて旗艦を担う出撃があった。
その出撃海域は出現する敵も比較的低レベルであり、大して高練度ではない瑞鶴でも充分であった。

くわえて艦隊には比較的古くからのメンバーである龍驤や村雨がおり、瑞鶴の旗艦としての動きをフォローする体勢が整っていた。
351 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:36:01.29 ID:LY9D/QEiO

またこの出撃は瑞鶴の旗艦経験を積ませる事だけが目的でなく、むしろ巡洋艦や戦艦の弾着観測射撃技術向上のための実践的練習の意味が強かった。

ちなみに本日この対象となったのは扶桑、羽黒、球磨であった。

そのため瑞鶴と龍驤は制空権確保を、村雨が対潜を担い、残りで弾着観測射撃を駆使して敵艦を殲滅していくという作戦であった。



作戦は大変順調に進んだ。
352 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:36:52.24 ID:LY9D/QEiO

それもそのはずで、そもそもこの海域では基本的に敵に空母は出てこないか、出てくるとしても1部隊につき1体程度である。
瑞鶴のレベルでも制空権確保は可能であり、これにさらに保険をかけて龍驤まで付き添わせてあるのだ。


さらに潜水艦についてもこの海域での会敵はまだ報告されていなかった。

作戦前のブリーフィングでは提督はこれについて言及しつつも、万が一に備えるという理由で比較的高練度の駆逐艦も編成に加えたのだった。


それは杞憂に終わるかと思えたが・・・
353 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:38:27.79 ID:LY9D/QEiO

当初は出撃海域にある諸島周辺の敵を殲滅したら帰投する予定であった。

しかし2戦終えて作戦目標完遂を確認した時、前方のそう遠くはない位置にもう1部隊いるのが見えた。


龍驤が偵察機で確認するとその部隊も軽空母1と重巡洋艦3を含むのみにとどまり、セオリー通りに制空権を取れればこちらが優勢を取れる編成だった。
そしてそれは客観的に考えても可能であると思われた。

また残弾薬に関しても余力があることもあり、瑞鶴は艦隊の同意を得たうえでその部隊の殲滅も行うことに決めた。

この際にもちろん状況報告も司令部へしており、提督も瑞鶴の判断に同意している。


・・・こういう経緯があるのだから改めて振り返っても、順調な作戦経過によって緊張が解れていたのは事実かもしれないが、加賀が瑞鶴を罵る時に使った「慢心」という言葉は言い過ぎかもしれない。
354 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:40:01.25 ID:LY9D/QEiO

こうして予定外の戦闘を始めたが、ここでまず最初のトラブルが起こる。
先ほどまでと同様に制空権を取ってから段着観測射撃で圧倒した。

ここまでは良かった。


しかしその砲撃の最中にいきなり扶桑の足元に魚雷が爆発したのだ。
そして自身や他の味方にもさらにいくつかが命中した。

相手方の駆逐艦がたしかに魚雷を発射していたが、肉薄してるわけでもない距離でのそれは牽制用でしかない。
そしてその雷跡は皆読み切って避けていた。

それなのに魚雷が当たったのなら可能性は一つしか無かった。


・・・知らないうちに潜水艦が近くに来ていたのである。
355 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:41:17.87 ID:LY9D/QEiO

ソナーを積んだ村雨が探知できなかった理由は、相手方の精度の低い砲撃がこちらの周辺に飛び散り聴音機能を封殺していたからであった。
その隙に雷撃可能範囲にまで侵入されていたのだ。

とはいえ既に水上の敵部隊には優勢に戦闘を進めていたためこれをまもなく殲滅し、潜水艦についても村雨が壊滅させた。

瑞鶴は幸運にも軽微な損害で済んだが、魚雷の不意打ちをもろに受けた扶桑など数名がこの時点で小破状態になった。


だがこの程度の損害で済んだことはむしろ及第点でもあった。

帰投に際して瑞鶴は、今度は対潜警戒を厳として慎重に進むことにした。
356 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:43:13.89 ID:LY9D/QEiO

そして諸島間を縫うように来た道を戻り、ついにそこを抜け開けた場所に到達した時であった。

次のトラブルに見舞われることになる。

艦隊メンバーの目には右手側遠くからかなり多数の航空機が飛んでくる様子が小さいながら映ったのだ。


瑞鶴「ヤバいっ...!」


すぐに瑞鶴と龍驤は発艦体勢に移り、戦闘機をありったけ発艦した。
357 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:44:10.40 ID:LY9D/QEiO
これまでの戦闘が順調だったとはいえ、航空機の消耗は無視出来ない程にはあった。

更には味方も対空射撃を想定した装備は全くしていない。


全ては自分ら空母で何とかするしかなかった。


幸いにも今回の出撃での役目は制空権を得ることであったので2人とも戦闘機を中心に搭載していた。

だがその距離からでも分かる敵機の多さを考えるに、それでも制空権を確保するどころか五分五分を死守できるかというところであった。


瑞鶴はその状況を第一報として提督に報告し、救援が必要になるかもしれない旨も伝えた。
358 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:45:39.74 ID:LY9D/QEiO
しばらくしてそう遠くない地点で両者の航空機が戦闘を開始した。

やはり読み通り五分五分が精一杯というところであったが、ここで更なる試練が到来することになる。


龍驤「...!戦闘してるとこのもっと後ろから第2陣が来とるで!」


そう伝えた龍驤も、そして味方も一瞬にして顔が真っ青になっていた。

今戦闘中の敵機群が第1陣ならば、そしてもし第2陣が爆撃部隊ならば、一気にこちらが壊滅の危機になる。
そもそも現時点でかなり厳しいのにである。
359 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:47:11.02 ID:LY9D/QEiO

瑞鶴「提督さん!すぐに救援お願いっ!」

瑞鶴「敵本体を見てないから分からないけど...ヲ級3体分の戦力はある...いや、もしかしたら鬼か姫がいるかも...!」

まずは想定できる範囲で敵の編成を推測しそれを無線で伝えた。
そして続けて無意識的にも次のように言った。


瑞鶴「こっちも空母でやり返すしかない!すぐに加賀さんとかを呼んで!」
360 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:48:13.48 ID:LY9D/QEiO

そこで加賀の名前が自然と出たのは、何だかんだで瑞鶴にとって加賀は1番信頼できる先輩であったからであった。


もちろん搭載数といった性能面もそうだが、何より彼女なら性能等に関係なく己の積み上げてきた技術で圧倒してくれるはずという強い確信があったのだ。

やがて提督から救援部隊出撃を伝える無線を聞き、瑞鶴たちはそれが到着するまで撤退しながら懸命に耐えた。
361 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:49:55.85 ID:LY9D/QEiO

救援部隊は赤城と二航戦2人の正規空母3人に、古鷹、川内、五十鈴という編成だった。

非常に強力な航空戦力に加え、鎮守府トップクラスの練度を持つ重巡洋艦1隻と軽巡洋艦を2隻、うち片方は対潜能力が非常に高い艦という、頼もしい編成だった。

その時には既に、甚大な被害を被って速度が落ちた瑞鶴達を追い回すように、敵艦隊は目視できる程には縮まっていた。

そしてやはり推測は当たっており、敵にはヲ級だけでなく装甲空母鬼までが居た。


こちらの損害は艦隊全員が中破以上、扶桑と球磨は大破であった。

・・・救援部隊の到着がもっと遅かったら、敵の巡洋艦がカットイン攻撃を繰り出して自分たちは全滅していたかもしれない。
362 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:51:24.87 ID:LY9D/QEiO
到着した強力な救援部隊は圧巻の航空攻撃であっという間に敵を殲滅した。

こうして今度こそ無事に帰還の途につくことになり、瑞鶴は蒼龍に曳航されることになった。
その間に瑞鶴は蒼龍に詳細な戦闘経過を話した。

蒼龍はその話を聞くと瑞鶴にとある事を伝えた。

蒼龍「それなら瑞鶴は大きなミスをしたわけでもないね...帰還したら加賀さんにもちゃんと説明しといた方がいいよ」

蒼龍「今朝のこともあってか、加賀さんは瑞鶴が慢心してたんだと思ってるみたいだから」
363 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:52:19.34 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「そんなことは...!たしかに少し気が緩んでたのは認めますけど...」

蒼龍「そうだよね...」

蒼龍は顔を曇らせる。

蒼龍「無線で加賀さん来て欲しいって言ったんでしょ?」

瑞鶴「まぁ一番強いから...パッと思い浮かんだだけです」

瑞鶴は内に秘めた強い信頼を隠して答えることにした。

この時はまだ、加賀がその場に来なかった事を気にすることもなかった。


だがそれは蒼龍の次の言葉で変わったのだ。
364 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:53:05.28 ID:LY9D/QEiO
蒼龍「実はみんなも加賀さんが編成に入るもんだと確信してたんだけど...本人が断ってね...」

瑞鶴「えっ...?」

予想通りの瑞鶴の反応に蒼龍は心苦しそうな顔をする。

蒼龍「その、瑞鶴のことを見捨てようとしたわけじゃないと思うの...!私達と赤城さんで助けられると思ったから任せてくれたわけだし...」

蒼龍は慌ててフォローする。

瑞鶴「でも...断ったんですよね...?」

蒼龍「それがさっき言った事に繋がるんだけどね」

そう言って蒼龍はその経緯を語り始めた。
365 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:54:23.28 ID:LY9D/QEiO
蒼龍「最初の放送で一航戦の2人、金剛さんと霧島さん、川内型が呼ばれて」

蒼龍「しばらくしてから今ここに居るメンバーの残りが出撃ドックに来るよう呼ばれたの」

蒼龍「それで私達がドック着いたらそのまま出撃だったんだけど、そこで私と飛龍は加賀さんから烈風を貰ったの」

先程の戦闘で敵機を殲滅してみせた烈風は、どうやら加賀から託されたもののようだ。

蒼龍「その時に飛龍が聞いてね、「加賀さんは行かないの?」って」

蒼龍「提督からの説明を聞いてもかなり強敵そうだったし、私も加賀さんが何で出ないのかは気になってた」
366 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:56:03.83 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「そしたら...何て...?」

蒼龍「...私は行くつもりはない。日頃の注意に反抗してばっかなのだから私の助けなんて要らないでしょう、って言ったの...」

それを聞いた瑞鶴は大きなショックを受けた。

たしかに些細な喧嘩から加賀のことをよく思わない事はある。
むしろそれが平常運転だ。

しかしそのような対立を相手の生存に関わる一大事にまで持ち込む事は、瑞鶴としてはするつもりは無かった。

いくら当日の朝に喧嘩をしたとて、立場が逆だったなら自分が加賀を助けて無事に帰投してから嫌味を言うだろう。
367 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 02:58:31.69 ID:LY9D/QEiO
加賀がしたこと・・・
それは窮地を知っていたうえでの救援拒否でしかない。

要するに加賀の言い分は、気に食わないから瑞鶴は見殺しにする、ということになるのではないか?

瑞鶴「そ、そんな...」

蒼龍「でもさっきも言ったけど、自分が行かなくても助かるって思ってたからそう言っただけで...」

蒼龍「...それに珍しく落ち着きなく気が立ってたし、瑞鶴が慢心してるって決めつけてイライラしてたから咄嗟にそう言っちゃったんじゃないかな?」

蒼龍「加賀さんも大人気ないよね」

蒼龍が再度フォローをする。

しかしそれは瑞鶴の心に染み込むことはなかった。
368 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:01:15.35 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「けど、結局は自分の手では助けたく無かったってことですよね」

瑞鶴は食い気味に、しかし元気の無い声で蒼龍に言葉を返す。

蒼龍「...加賀さんも感情表現が苦手なとこあるからさ、瑞鶴がもう少し加賀さんに寄り添ってあげてほしいんだ」

蒼龍「加賀さんは絶対瑞鶴の事大事に思ってるもん!」

蒼龍「このことを伝えたのも、帰還した後に誰かから変な形で知って余計仲が拗れたりしないようにって思ったからで...」

蒼龍は少し息を整えた。
369 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:01:59.18 ID:LY9D/QEiO
蒼龍「だから帰ったらまずは、加賀さんにも喧嘩腰にならないでさっきの状況を説明してあげて?」

蒼龍「そしたら加賀さんだって瑞鶴が頑張った所褒めてくれるよ!」

そう言われても瑞鶴はやはり納得が行かなかった。
では仮に自分が本当に慢心していたのだとしたら、加賀は容赦なく見捨てるというのか?
それくらい自分は本当に好かれてなかったのか。

瑞鶴の心は悲しみや怒りが混じった複雑な感情で満たされた。

ひとまずは蒼龍の言葉にとりあえず頷くだけして、あとはただひたすら曳航されるのであった。
370 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:04:03.04 ID:LY9D/QEiO
帰還すると提督や出撃メンバーと近しい者達が出迎えに来ていた。
その中に加賀の顔を見つけた瞬間、瑞鶴は逃げ出したくなった。

しかし提督や翔鶴が居る手前、そういうわけにはいかなかった。

加賀「随分とやられたわね」

真っ先に心配して声をかけた翔鶴や、結果的にかなりの危険が伴う作戦を立案してしまったことに対し詫びを入れてきた提督と違い、加賀の台詞は酷く無感情なものに思えた。


提督への状況説明を終えて他の艦隊メンバーは続々と入渠へ向かった。

高速修復材を使うので他の者達の入渠を待つ事はないのだが、どうせ加賀と話さなくてはならないので瑞鶴はその場にとどまっていた。
古鷹や川内、五十鈴もさっさと引き上げたため、港には正規空母6人のみが勢揃いすることになった。

そこで案の定加賀は口を開いた。
371 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:05:01.72 ID:LY9D/QEiO
加賀「...これに懲りたら上手くいってても慢心しないことね。救援が間に合わなかったら貴方は沈んでたわ」

加賀「まだまだ未熟なのだからもっと精進しなさい」

蒼龍「ちょっと、加賀さん...」

加賀はやはり瑞鶴が慢心したと決めつけていた。
先程の提督への報告をまるで聞いていなかったかのようである。

瑞鶴「慢心...?赤城さんのことしか頭に無いからって何でもその言葉で片付けないでもらえる?」

瑞鶴は蒼龍のアドバイスを忘れヒートアップした。
372 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:07:00.52 ID:LY9D/QEiO
赤城「加賀さん、今回瑞鶴は旗艦としてちゃんと動けてたみたいじゃないですか。そこは褒めてあげましょうよ」

赤城も瑞鶴をフォローする。

加賀「ですがこの惨事の発端は、2戦目の後にやや離れた前方の敵を殲滅するのに必死で索敵が疎かになったからでしょう。それは旗艦の責任です」

瑞鶴「そんなの結果論じゃないっ!」

加賀「いいえ。今回の戦闘で貴方が索敵を流れ作業の一環としか考えてないことが分かったわ」

加賀「いつもより深入りしたのに、索敵についてはいつも通りのことしかやらなかったんでしょ?」
373 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:08:38.75 ID:LY9D/QEiO
加賀「だから諸島の入口に戻った時に普段通りの索敵では捉えきれなかった敵が襲来してきて、初めてそこで危険に気づくことになったの」

加賀「今までの上手くいってたことしか頭に無くて気が緩んでたのが、どうして慢心じゃないって言えるのかしら?」

瑞鶴「っ...!」

飛龍「でもさ、瑞鶴も艦隊の指揮するのは初めてなんだし...」

加賀「実力で釣り合わない敵と戦わされたならそれは艦娘の責任じゃないわ 」

加賀「だけれど今回、ある程度消耗してる中で鬼級らを相手にしないといけなくなったのは、瑞鶴の旗艦としての甘い見積もりが原因よ」

加賀「旗艦を担うなら全ての結果に責任を負う覚悟を持たなければならないわ。旗艦ってそういうものだもの」
374 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:09:34.74 ID:LY9D/QEiO
加賀の言ったことには反論はできない。
筋が通っていて、それを論理的に覆すほどの主張をできる気がしなかった。


だが、それでも・・・


瑞鶴「はいはい、そうですねっ...!」

瑞鶴「でも救援を拒否するような人でなしに何も言われたくないからっ!」


瑞鶴は嗚咽混じりに叫ぶ。
耐えてきた感情が爆発してしまった。
375 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:10:45.89 ID:LY9D/QEiO

瑞鶴「アンタなんて大っ嫌い!」


加賀の表情に一瞬動揺が浮かぶ。


飛龍「...もしかして蒼龍話したの?」

蒼龍「何でこうなるのかな...加賀さんも意地張らないで褒めてあげてよ...」

加賀「実際に私は救援に向かうつもり無かったのだから隠しても仕方ないわ」


加賀はまた仏頂面に戻り冷酷にもそう言った。

そして瑞鶴はその場を飛び出しドックへ向かうのだった。
376 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:15:20.24 ID:LY9D/QEiO

泣きながら全身と心の痛みに喘ぎ走っていると、途中で川内に見つかった。


川内は艦種は違えど親友であり、すぐに心配そうな顔をして何があったのかを聞いてきた。

そこで素直に加賀に言われたことを話した。

川内「救援拒否したってのはどこで聞いたの?」

瑞鶴「帰りに...蒼龍さんから...」

川内「あー、蒼龍さんとなんか喋ってるなぁと思ったら...そうだったのかぁ」

そう納得すると、川内は少しだけ苦笑いをして瑞鶴の方をじっと見た。
377 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:16:12.41 ID:LY9D/QEiO
川内「ねぇ、瑞鶴。もう少し加賀さんのことを分かってあげな」

川内「多分蒼龍さんや飛龍さんですら全然分かってないと思う。だからこそ、瑞鶴が気づいてあげて。」

川内「今回は加賀さんに問題があると思うけど、やっぱりいつだって瑞鶴に対する加賀さんの姿勢って変わってないよ」

瑞鶴は川内の言ってる意味が分からなかった。
ただ、川内が加賀に寄り添って瑞鶴に妥協を求めているという事は理解できた。

それは、自分を平気で見捨てるような憎い奴を擁護してるようで気に食わなかった。
378 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:18:01.09 ID:LY9D/QEiO
瑞鶴「かわうちも私を助けたがらない奴の味方なんだ...もういいや...」

そう吐き捨ててその場を後にする。
きっと翔鶴が自分を探し回ってることだろう。
ドックに行って高速修復材で身体を治すだけしたら、あとは姉と甘味処にでも寄って気分転換しようと思った。
姉ならば私の愚痴もきっと聞き流してくれるだろうという考えもあった。

川内「真逆なんだけどね」

川内が呟く声が聞こえた。
真逆?
とてもじゃないが川内が自分の方に味方してくれたようには感じなかったが。

そんな疑問も考えるのがダルくなり、まずはドックへ向かうのだった。
379 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/23(土) 03:18:33.77 ID:LY9D/QEiO
とりあえずここまでです
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 12:33:07.29 ID:Uj/aANEFo
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/23(土) 12:41:28.72 ID:WDfjSFe00
乙。
思惑はあったんだろうけど……見捨てられたのは、今回出撃した艦隊全てだよね。
ここの加賀さんは、事情を知らない人から見た山城に匹敵するほど最低だと思う。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/24(日) 12:09:55.58 ID:lCVJS/bDo
それを容認したんだから提督も最低ですね?
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/03/25(月) 01:45:10.03 ID:c8pjqtxZ0
提督は提督で余りに何もしなさ過ぎてなあ
384 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:03:34.18 ID:xjPFSqoxO
続き投下します

385 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:04:05.12 ID:xjPFSqoxO

そして身体が完全なものになってから、私を探し回っていた翔鶴と合流し間宮で愚痴っていたというわけである。


那珂「なるほどね...」

那珂「だいたい分かったよ」

瑞鶴の詳しい話を聞き、那珂は「やっぱり」と思った。

瑞鶴「...で、那珂もやっぱ姉と同じ考えなの?」

瑞鶴は不満そうに聞く。
386 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:05:11.74 ID:xjPFSqoxO
那珂「そうなっちゃうけど...川内ちゃんと違ってちゃんと納得はさせるつもりだよ!」

その言葉に瑞鶴は怪訝な顔をしつつも一応聞く体勢を取った。


那珂「あのね、結論から言うとね、多分川内ちゃんの言う通り瑞鶴さんの考えてる事は“逆”だよ」

瑞鶴「かわうちはどう考えてもアイツの味方してるじゃない」

瑞鶴は食い気味に返す。

那珂「そっちの逆じゃなくてね、加賀さんが瑞鶴さんを助けたくないって方が逆ってことだよ」
387 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:07:21.47 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「...いやだって救援拒否したのよ?」


那珂「那珂ちゃんもさっきまでずっと知らなかったし、というか人に教えてもらわなかったら気づかなかったことなんだけどね...」



那珂「加賀さんは行きたくても行けなかったんだよ」


その言葉は瑞鶴の想定を遥かに超えていた。


瑞鶴「...どういうこと?」
388 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:07:51.44 ID:xjPFSqoxO
那珂「...救援部隊がすぐ来なかったらほんとにどうなってたか分からないってのは、瑞鶴さんも今回改めて思い知らされたよね?」

瑞鶴「うん」

那珂「だからあの時の救援部隊編成で1番大事だったのも、練度よりも艦隊の速度だったんだよ」

那珂はそこであえてすぐに言葉を続けることはしなかった。

それにより生じた間で瑞鶴は那珂の言葉の意味を考えた。
389 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:08:45.28 ID:xjPFSqoxO
キーワードを出されてしまえば、不思議なものですぐにある事が思い浮かんだ。

瑞鶴「...速度って...まさか...」

翔鶴「...!」

那珂「気づいたみたいだね...。加賀さんは正規空母で一人だけ普通の戦艦よりちょっと速い程度までしか出せないから...」

那珂「むしろ自分が行くと艦隊速度が低下するから、瑞鶴さん達を助けるために自ら拒否したんだよ」
390 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:10:04.31 ID:xjPFSqoxO
加賀の艦時代について言えば、元々戦艦となる予定のものを無理やり空母に改装したこともあって、どうしても船体が重くなり速度も他と比べ遅いという欠点があった。

艦娘は装備については比較的艦時代の影響を受けない装着が可能なのだが、艤装の推進ユニットについてはもろに艦時代の性能の影響を受けている。

だから加賀に艦時代には存在しなかったはずの烈風を搭載することは出来ても、加賀の速力を他の正規空母と同等にすることは基本的には出来ない。
391 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:10:43.47 ID:xjPFSqoxO
加賀は加賀であり続ける以上、“鈍足空母”から逃れられないのだ。
それは瑞鶴も稀にヒートアップした喧嘩などで罵る材料に使うことでもあるではないか。

瑞鶴「そんな...嘘だよ...」

瑞鶴の心を支配していた悲しみや怒りといった刺々しい感情が瞬時に消え去った。

瑞鶴「だって心配すらしてなかったじゃない...」

だが未だに瑞鶴は信じ切れないようである。
いや、信じる信じないというよりは、今までに抱いた大きな負の感情の行き場に困り果てているといった様子であった。
392 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:12:16.79 ID:xjPFSqoxO
那珂「私もあの場ではそんなこと全く分からなかったけど...今思えば加賀さんは間違いなく瑞鶴さんを心配してたよ」

那珂は瑞鶴の心に残るモヤモヤを払拭してやるためにも、さらに詳しい話を始めた。

那珂「最初に私達を執務室に呼んだ時は、提督もまだ瑞鶴さんから援軍を求めるかもしれないって聞いてただけだったからね」

那珂「だからその時点では戦力重視で加賀さんも呼んでたみたい」

那珂「でも私達が執務室に集まった頃にちょうど瑞鶴さんから2回目の無線がきてね」
393 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:12:51.17 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「航空戦の最中の...」

那珂「そう。その時の加賀さんは明らかに動揺してたよ」

瑞鶴の目が見開かれる。

那珂「だって勝ち気で前向きな瑞鶴さんが必死に救援要請するんだもん。いつも瑞鶴さんを見てる加賀さんからしたら、かなり厳しい状況だって直感的に分かったはずだよ」

瑞鶴「...」

那珂の言い分が正しいとすれば、自分はとんでもない誤解をしてしまったのではないか・・・?
そんな自問自答に苦しんでいるのか、瑞鶴はもう黙りこんでしまっていた。
394 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:14:01.82 ID:xjPFSqoxO
那珂「それで提督が無線の内容も踏まえてすぐに空母中心の救援部隊の編成を決めたの」

那珂「その編成内容が一航戦と二航戦の正規空母4人を基本にするものでみんなそれを当然だと思ったんだけど...」

翔鶴「そこで加賀さんが「私は行かない」と言ったんですか...?」

翔鶴の問いに那珂は頷く。

那珂「最初はそう言ってた。だけど当然みんなは一瞬意味が分からなくて凍りついちゃって...」

那珂「そしたらね、加賀さんが一文字だけ訂正してもう1度呟いたの」


那珂「私は行“け”ない、って」
395 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:14:43.06 ID:xjPFSqoxO
那珂「そしたら少しするとなぜかみんな納得したみたいな顔をしてね、結局加賀さんが代替案を出してそれがそのまま通ったの」

那珂「でも私は、そういえば今朝も瑞鶴さんと加賀さんは喧嘩してたし、それで拗ねてるのかなって思って...」

その時考えたことはまさに蒼龍づてに瑞鶴が聞いたストーリーと同じであった。

那珂「そう考えたら、直接は関係ない私だって許せないって気持ちにはなったんだけど...」

次にそれを打ち消す言葉が続くと察した五航戦姉妹は身を構える。
396 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:15:35.67 ID:xjPFSqoxO
那珂「でもね、あそこに居たメンバー全員と提督が、そんな理由で最高練度の正規空母が出撃拒否するのを認めるわけないって思ったの」

執務室に居たメンバーは自分以外は全員古参勢で、さらに作戦計画を手伝うような者すら多かった。
そんな人達が私情まみれの自己中な行動を容認するとは到底思えない。

・・・本当はそれともう一つ思った事があったのだが、それはここでは言わないでおくことにした。
397 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:16:09.16 ID:xjPFSqoxO
那珂「...その時はまだ、加賀さんが「行けない」って言った意味を考えたりまではしなかったんだけどね...」

那珂「あの時理由を察せなかったのは那珂ちゃんだけだったかも...」

那珂はあざとく苦笑いをした。

一方で那珂の話を聞いていた2人はそれとは全く違う顔をしていた。

翔鶴「「行けない」って言ったということは...やっぱり加賀さんは...!」
398 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:17:09.27 ID:xjPFSqoxO
那珂「自分の速力で到着が遅れることを気にしたから、で間違いないだろうね。多分、自分が行きたい気持ちもあったと思う...」

那珂「だからこそわざわざ二航戦の2人に烈風を自分の手で渡して託したんじゃないかな?」

那珂「蒼龍さんが言ったっていう「気が立ってた」ってのも、瑞鶴さん達が心配で仕方なかったからだと思うよ」

瑞鶴「そんな...じゃあ...私っ...!」

瑞鶴からはついに大粒の涙が零れる。
399 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:17:51.89 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴は完全に理解してしまったのだ。
那珂の話を聞いて、今度は加賀を憎もうとする方が困難になっていた。

瑞鶴「いっぱい...ひどいこと言っちゃった...」

翔鶴が慌てて瑞鶴の肩にそっと手を添えて慰めようとする。

那珂「でもこれを気づけっていうのは無理だよね...」

那珂「川内ちゃんもそこは同意してるわけでしょ?今回は加賀さんに問題がある、って。」
400 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:18:49.15 ID:xjPFSqoxO
瑞鶴「でも...!今まで速度のこと散々馬鹿にしてきちゃったのに...」

瑞鶴「もうどんな顔して会えばいいか分かんないよっ...!」

自分を責めてしまっている瑞鶴を見て、那珂は先ほどある人に言われたことを思い出した。

・・・せっかく瑞鶴は加賀を誤解せずに済んだのだ。
お互い素直になれるチャンスではないか。

那珂「...あのね、瑞鶴さん。みんなが瑞鶴さんと加賀さんを仲良しだって言ってきたのはね、からかってるわけじゃないんだよ」

突然の脈略のない話に驚いてか、涙で濡れた顔のまま瑞鶴はこちらを向く。
401 : ◆eZLHgmSox6/X [saga]:2019/03/25(月) 10:19:26.80 ID:xjPFSqoxO
那珂「瑞鶴さんと加賀さんとはお互いを心の底では信頼しあってる」

那珂「それは川内ちゃんも空母の人達も、そして鎮守府のみんなが思ってることだよ!」

そう言いながら翔鶴の方を向いた。

翔鶴「私も那珂さんの言う通りだと思うわよ」

確認に対し翔鶴も同意して那珂を後押しする。

那珂「だからさ、せっかくそんな関係なんだしお互いもっと素直になろうよ!」
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