勇者「彼は正しく英雄だった」

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302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:45:35.48 ID:kY2YNde0O

戦士「へ〜、あんた中々詳しいじゃねーか」

勇者「いや〜、幼い頃は亡国の傭兵について調べ回ったものだよ。まさか同志がいるとはな」

戦士「世代的にどうなんだろうな? 俺の世代で詳しい奴は多くなかったぜ?」

勇者「俺にも分からないな。話せる人はいなかった。しかし、師の伝説が世代を超えているのは確かだろうな」

戦士「確かにな。ところで、先生に直接聞いたことあるか? 俺、はぐらかされちまってよ」

勇者「残念ながら俺もなんだ。幾ら聞いても駄目だった。だが、どれも本当だと信じてる」

戦士「だよなぁ……疑う奴もいるが、一度戦えば本当だって分かるはずだ」

勇者「俺は特に城門前の一騎打ちの話が好きなんだ。巨漢の敵将を相手に単独で挑み、打ち勝つ」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:46:47.48 ID:kY2YNde0O

戦士「敵将の武器は大槍だろ!?」

勇者「そう!! それがまた格好いいんだ!!」

魔法使い(……男の子って、こういう話が本当に好きなんだなあ。ちょっとは緊張感持って欲しいけど、張り詰めるよりはマシか)

魔法使い(あんまり考え過ぎても滅入るだけだし正直助かるけど、本当に子供だなあ。センセにもこんな時があったのかな?)

戦士「槍を踏み付けて抑えるとかやべえよな」

勇者「実は、何度か真似した……」

戦士「俺も!!」

勇者「だよな!!」

魔法使い「ほら小僧共、そろそろ口を閉じなさい。武器屋に着きましたよ」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:48:25.09 ID:kY2YNde0O

>>>>何処か暗い場所で

錬金術師「お前には此処の守りを頼みたい」

錬金術師「お前の兄姉も一応戦力には入れてあるが、どれも危うい者達ばかりだからな」

▼傭兵は機械的に頷いた。

錬金術師「そうむくれるな。この戦が終われば、お前は自由になる。彼女と共に生きられる」

錬金術師「何も隠す必要はなくなる。父と娘として生きられる。保証しよう」

錬金術師「彼女は此処にはいないが、必ず会わせると約束しよう。見違えたように見えるはずだ」

錬金術師「それに、お前は若返った。娘と同じ時間を生きられるのは嬉しいだろう?」

錬金術師「……」

錬金術師「脅し? いいや? 彼女は自ら望んで私に付いてきた。お前の為、いや、お前の自由の為にな」

▼傭兵は何も話さない。

錬金術師「私の言葉が信じられないか?」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:50:05.24 ID:kY2YNde0O

▼傭兵の肩がびくりと震えた。

錬金術師「お前を創ってから四十年か五十年か、様々な生物を創造したが、唯一、お前だけが、魔術に愛されなかった」

錬金術師「だが皮肉にもそんなお前が、人間の姿を留めたお前が、あの戦乱の中で生み出した生物の中で最も優れた能力を発揮した」

錬金術師「知性を削ってまで創り出した生物は魔物と蔑まれ、人間のお前だけが認められる始末だ。単に私が失敗しただけなのだろうがな」

錬金術師「……」

錬金術師「私が憎いか。ならば憎め。私は憎しみを拒まない。ただ、私から自由になりたいのなら私に従え」

錬金術師「……」

錬金術師「お前の望み通り、お前の生徒達も来るようだな。勇者、戦士、魔法使いだったか」

錬金術師「どれも殺すには惜しい逸材だ。中でも戦士は素晴らしい。お前同様、変異していない」

▼傭兵は拳を握って俯いた。

錬金術師「……お前の最も大切なものが何なのか、それはよく分かっているだろう。さあ、そろそろ軍が来る頃だ。傭兵よ、成すべきを成せ」
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/24(木) 00:51:52.28 ID:kY2YNde0O

第二十二話 間近

終わり
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/24(木) 00:53:19.41 ID:kY2YNde0O
今日はここまでです。ありがとうございました。
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/24(木) 04:11:26.56 ID:afWMfUvDO
乙乙
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/24(木) 05:56:37.76 ID:+FPyPtK8O
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 00:59:20.36 ID:8oN8VcFcO

後編
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:00:31.21 ID:8oN8VcFcO

第一話

円天井のだだっ広い空間、その中央には大きな卵型の物体が置かれている。

明滅するそれは床に根のようなものを張り、壁に幾つも埋め込まれた一回り小さな同型の物体と繋がっている。

その物体の前に女性が一人。女性としては長身で、線がはっきりと分かる服を着ている。

胸や尻が強調されてはいるものの性的ではなく、引き締まった肉体と四肢の美しさが際立つ。

中でも臀部から太股、膝、脹ら脛、足首までの脚線は比率が計算されているかのようである。

無言のまま物体を見つめる彼女の表情は冷淡で無感情だが、瞳の奥には決意めいた光がある。

「……」

一向に物体の前から動こうとしない彼女の背後に、音もなく近付く影があった。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:01:39.59 ID:8oN8VcFcO

武闘家「踊り子ちゃん」

踊り子「貴方でしたか、何でしょう」

武闘家「その格好だと冷えるわ。これを羽織っておきなさい」

踊り子「ありがとうございます。しかし、すぐに冷えるので意味はありません」

武闘家「見ているこっちが寒いのよ。着るだけ着なさいな」

▼踊り子は渡された外套を羽織った。

武闘家「やっぱり綺麗な子は何を着ても似合うわね。羨ましい」

踊り子「……」

▼踊り子は、そっと自分の両脚に触れた。

武闘家「どうしたの? 痛むの?」

踊り子「いえ、痛みはありません。ただ、このように歩けるとは思っていなかったので……」
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:02:39.96 ID:8oN8VcFcO

武闘家「そう……」

踊り子「私の脚を治してくれた方、確か僧侶さんでしたか」

武闘家「ええ、そうよ」

踊り子「彼女はどうなるのですか?」

▼踊り子は卵型の物体を指先でそっと撫でた。

武闘家「さあ、私にも詳しいことは分からないわ。彼女が最適とか言っていたけど」

踊り子「あの魔術師の仲間なのでは?」

武闘家「私の目的と錬金術師の目的は違う。正直、あまり興味はないの」

▼踊り子は卵型の物体を見つめている。

武闘家「踊り子ちゃん、割り切りなさい。何かを得る為には何かを切り捨てなければならないわ」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:04:28.21 ID:8oN8VcFcO

踊り子「……」

武闘家「いい? 余計なことは忘れて、求めるものだけを思いなさい。年長者からの助言よ」

踊り子「……はい、お気遣いありがとうございます」

▼踊り子は深く頭を下げた。

武闘家「あら、綺麗なお辞儀。確か受付嬢をしていたのよね?」

踊り子「はい、そうです」

武闘家「仕事は楽しかった?」

踊り子「そうですね。変わった方が多いので退屈はしませんでした。貴方は傭兵なのですか?」

武闘家「傭兵とはちょっと違うわ。私、こう見えて結構歳行ってるの。色々あったのよ……」

踊り子「だから、そのようにおかしくなってしまったのですか」

武闘家「フフ。そうねえ、人生、おかしなことばかりだもの」

踊り子「そうですね……」
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:06:00.58 ID:8oN8VcFcO

▼その時、大きな揺れが起きた!

武闘家「ただの地震じゃないわね……」

踊り子「私の気のせいでなければ上昇しているようです」

武闘家「此処は地下よ。どうやって……」

▼地響きと共に尚も上昇する。

▼長い間上昇し、ようやく制止した頃にはすっかり揺れに慣れていた。

武闘家「きっと錬金術師の仕業ね。あら?」

踊り子「壁が……」

▼壁に張り巡らされていたツタがするすると床に下り、縦に裂けたような窓を幾つも作った。

▼眼下には広大な岩石砂漠が広がり、点在する岩山が粒のように見える。

武闘家「かなり高いわね。こんなものが地下に埋まっていたなんて信じられないわ」

踊り子「この高さからすると元々は塔のような建造物だったのしょう」

武闘家「いつからあったのかしら……」
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:06:36.46 ID:8oN8VcFcO

錬金術師「随分前からだ。随分な」

▼床から声が響いた。

▼根が蠢き、その隙間から錬金術師が現れた。

踊り子「……」

武闘家「始めるのね?」

錬金術師「ああ、そろそろ国軍が来る。これなら迷わずに来られるだろう」

武闘家「わざわざ晒すことはなかったんじゃないの?」

錬金術師「何処から何が現れたのか、それはとても重要なことだ。地の底から現れるのは印象が悪い」

武闘家「……」

錬金術師「さて、あの王のことだ。最初から主力を出撃させ、全力で叩き潰しに来るだろう」
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:07:44.43 ID:8oN8VcFcO

武闘家「どうするの? もう出る?」

錬金術師「いや、最初期の個体を用意してある。あまり頼りにはならないが時間は稼げるだろう」

踊り子「お話の途中に申し訳ありませんが、最初期の個体とは何でしょうか」

錬金術師「君達が特級と呼称している魔物だ。私が創造した。お世辞にも出来が良いとは言えないが数体は私に従う。極めて単純な命令に限ってだがな」

踊り子(創造……)

錬金術師「初期個体が国軍を相手にしている間、武闘家には王子を任せたい」

武闘家「王子? 彼、城を追い出されたはずよね? まさか一人で来たの?」

錬金術師「いや、傭兵達に協力を仰いだようだ。王子が城を離れたのは非常に大きい。王には礼を言わなければな」

武闘家「あらそう。で、部隊の規模は?」

錬金術師「二十名程度の部隊のようだ。戦士と魔法使いもいる。目的は救出だろう」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:08:43.56 ID:8oN8VcFcO

武闘家「言っておくけど私一人では無理よ? やれと言われればやるけどさ」

錬金術師「問題はない。此方にも頼りになる傭兵がいる」

武闘家「彼も来ているの?」

錬金術師「勿論だ」

踊り子「……」

武闘家「一度くらい会わせてあげたら? ちょっと気の毒だわ」

錬金術師「それでは意味がない。再会は王家を排除した後だ。その後は自由にして良い。と言うより、そうしなければ真の自由は掴めない」

踊り子「……」

武闘家「……踊り子ちゃん、彼は強いわ。私もいるし、きっと大丈夫よ。お友達の心配も要らないわ。標的は王子だもの」

▼踊り子は目を閉じて何も答えなかった。

錬金術師「踊り子には私と共に来てもらう」

踊り子「……分かりました。私は何をすれば良いのでしょうか」

錬金術師「戦が始まった後で、王の首を取りに行く」
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:10:13.42 ID:8oN8VcFcO

踊り子「王を? 殺害するのです?」

錬金術師「そうだ。王は魔術師に戦を仕掛け敗北する。王は死に、王子も死に、血は途絶える」

武闘家「この前殺せば良かったじゃないの。亡国の傭兵も一緒だったんでしょう?」

錬金術師「以前はそれで失敗した。私の至らなさが原因で、後の魔術師には多大な迷惑を掛けてしまった。単に殺害するだけでは意味がない」

錬金術師「人々の理解を得る為にも、我々魔術師には王を殺害する正当な理由が必要だ」

踊り子「正当な理由とは?」

錬金術師「我々魔術師は迫害され、利用され、今こうして軍によって滅ぼされようとしている。だから我々は抵抗する。そして今夜、魔術師は勝利する」

錬金術師「夜明けと共に世は大きく変わり、服従するしかなかった魔術師達もこれを機に立ち上がるだろう。今度こそ、優れた魔術師が支配する世が訪れるのだ」

武闘家「それ本気? 呪術師の坊ちゃんは信じてたみたいだけど、どうも話が大きすぎるわ」

錬金術師「無理に信じる必要はない。君には君の望みがある。そうだろう」

武闘家「……そうね、私には関係のない話だったわ」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:11:14.16 ID:8oN8VcFcO

▼遥か下方から激しい音がする。
 
▼どうやら軍と特級の魔物が戦っているようだ。

錬金術師「始まったようだな。しかし、軍の主力を相手に初期個体だけでは流石に無理か。それに一人おかしな男がいるようだが、まあいい」

▼錬金術師は杖を突いた。塔が激しく震え出す。

武闘家「……今のは何?」

錬金術師「階下の扉を開いた。軍を相手に戦う勇敢な魔術師達だ。彼等は理想の為に散る」

踊り子「貴方の思想に共感した者達ですか」

錬金術師「いいや、そんな者は最初からいない。現代の魔術師は理想を求めず、大多数は不満を抱えながらも従属している。嘆かわしいことだ」

武闘家「じゃあ彼等って誰よ。私、呪術師以外に会ったことないわよ? 今まで何処に」
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:12:38.44 ID:8oN8VcFcO

武闘家「今まで何処に」

錬金術師「造った」

踊り子「……」

錬金術師「魔術師達とは言ったが所詮は感情を持たない獣の群れだ。形は人間だがな」

▼武闘家は言葉を失い、凍り付いた。

錬金術師「さあ、そろそろ頃合いだ。武闘家は空から索敵を行い、王子を襲撃しろ。私と踊り子は城へ向かう」

▼錬金術師は再び杖を突いた。

▼杖から伸びたツタが二人を呑み込み、消えた。

武闘家「……」

武闘家「今更だけど、私は頼る人間を間違えたかもしれないわね。本当に、今更だけど……」

▼武闘家は窓から飛び去った。

▼そこには明滅する物体だけが残された。
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 01:14:25.18 ID:8oN8VcFcO

第一話 言い分

終わり
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:15:06.16 ID:8oN8VcFcO

第二話

勇者「……」

戦士「……」

魔法使い「……」

勇者、戦士、魔法使い、そして街で集めた二十名程の傭兵達は軍よりも早く監視所に到着。

彼等は監視者に事情を説明して数台の望遠鏡を設置してもらい、周囲の様子を観察している。

今のところ周囲に変化はなく、静寂に包まれた室内には微かな呼吸音だけがあった。

既に日は落ち、気温は急激に低下したが、室内は押し掛けた人数のお陰か僅かに暖かい。

そんな中、監視者だけが酷く不安そうな顔で座り込んでいる。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:15:40.16 ID:8oN8VcFcO

勇者「来たぞ」

戦士「数は?」

勇者「正確な数は分からないが先頭に立つ男には見覚えがある。あれは確か賢者だ」

戦士「俺達は軍と戦うわけじゃない。指揮官が誰だろうが関係ねーな。で、行くのか?」

勇者「もう少し後で良いだろう。出来れば早く戦闘が始まって欲しいな。その方が」

ガタッ!

監視者「馬鹿を言わないでくれ!! 彼女が巻き込まれたらどうする!!」

魔法使い「ち、ちょっと大声出さないでよ。今のところ軍の進路は縄張りから逸れてるから大丈夫だよ」

監視者「す、すまない……でも、今日はまだ姿を見ていない。こんなことは初めてだ、心配なんだよ」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:16:17.52 ID:8oN8VcFcO

勇者「魔物のことよりも自分の」

監視者「王子、その先を言ったら何をするか分からんぞ。大体、人の命がそんなに上等かね」

勇者「君が魔物に襲われていたら、俺は魔物を倒して君を助ける。それは間違いない」

監視者「ほざくな、民を売った化け物の息子が命を語るな」

勇者「貴様……」

戦士「やめろ、こんな所で熱くなるな。大切なものは人それぞれだ。今はそれで良いだろ」

監視者「フン。綺麗事だな、少年」

戦士「俺、あんたのことは結構好きなんだよ。あんたを嫌いにさせないでくれ」

監視者「私にそんな趣味はない。人間の雄になど抱かれてたまるか」

戦士「そういう意味じゃねえよ。つーか、直ぐさま交尾を連想すんのやめろ」
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:16:44.02 ID:8oN8VcFcO

監視者「……フン」

勇者「監視者」

監視者「何だね」

勇者「先程の発言は君を案じて言っただけなんだ。ただそれだけで、他意はない」

監視者「そんなことは分かってるさ。さっきのはただの八つ当たりだ。悪かったな」

勇者「いいさ、別に気にしてない。本当のことだからな」

監視所「……」

▼その時、大きな揺れが起きた!
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:18:11.72 ID:8oN8VcFcO

戦士「地震か?」

魔法使い「結構大き………ん?」

勇者「どうした、魔法使い」

魔法使い「あれ……」

▼魔法使いは窓の外を指さした。

勇者「地中から生えているのか?」

戦士「でけえ、何だありゃあ……」

▼なんと、地中から塔が現れた!

魔法使い「あれが、魔術結社の隠れ家?」

勇者「恐らくな、軍もあの塔に向かっているようだ」

戦士「場所が分かれば軍の後を付ける必要はねーな。迂回して塔に入ろうぜ」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:19:17.37 ID:8oN8VcFcO

監視者「……なんてことだ」

▼望遠鏡を覗き込みながら監視者が呟いた。

魔法使い「変態、どしたの?」

監視者「彼女が軍の進行方向にいる。いや、あれはどう考えても待ち構えているように見える。先程までは何処にもいなかったのに」

戦士「特級は怖がりだ。姿が見えれば逃げるさ」

監視者「いいや、そうは見えない。それに彼女の傍には他の特級もいる」

勇者「何!?」

監視者「私にも意味が分からない。群れるのを嫌うはずなのに三体同時に同じ場所に現れるなんて……!!」

▼監視者は突然出口に向かって走り出した!
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:20:02.76 ID:8oN8VcFcO

戦士「お、おいっ!! あんたまさか」

監視者「胸騒ぎがする。行かなくては」

魔法使い「馬鹿言わないで!! 死んじゃうよ!?」

監視者「死? それは君達も同じだろう? 私には私の、君達には君達の、それぞれ大切なものがある」

勇者「本気なのか? 君は本気で魔物の為に」

監視者「王子、君は僧侶とやらを救いたいと言っていたな。確か、友人と言っていたね」

勇者「ああ、大切な友人だ」

監視者「助けたいんだろう?」

勇者「勿論だ」

監視者「私も同じだよ。いや、少し違うかな」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:20:48.52 ID:8oN8VcFcO

勇者「……」

監視者「私はね、愛しているんだよ」

勇者「魔物をか……」

監視者「違う、彼女を愛しているんだ。彼女の為なら死んでもいい。友人を助ける為に死地に赴く君達と何が違う? 命の重さか? 私にとって、彼女の命は私の命より重いんだ」

勇者「……」

監視者「きっと何を言っても理解はされないだろうな。それは分かっている。誰も分かってくれないから、私が行かなくてはならないんだ」

▼監視者は監視所を飛び出した!

魔法使い「変態っ!!」

戦士「よせ、何を言ってもあいつは止まらない。してやれることはないんだ、半端なことはすんな」

魔法使い「でも、一人でなんて……」

戦士「それはあいつが一番良く分かってるさ。それでも行ったんだ。本気なんだよ、あいつも」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:21:29.36 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「……」

戦士「勇者、頼む」

勇者「分かった。三隊編成、俺、戦士、魔法使いを先頭に六名ずつだ。俺の隊が先頭、中間に魔法使い、後方に戦士、一番二番三番だ」

勇者「前進、後退、停止、待機、敵影有り、このように合図を出す。周囲に問題がなければ声で指示する。行けるな?」

魔法使い「うん、大丈夫」

戦士「問題ない。先頭頼むぜ」

勇者「最善を尽くす。皆、宜しく頼む」

▼傭兵達は頷いた。

魔法使い「……」

魔法使いは窓から監視者の姿を捉えた。

彼自身が望んだことだとしても、死地に向かう者の背中を見るのは胸が苦しかった。
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:22:08.01 ID:8oN8VcFcO

勇者「魔法使い」

魔法使い「ん?」

勇者「彼は覚悟していた。俺達もそうだ。ただ、互いに救いたい存在は違う。行くべき場所も違う」

魔法使い「……あの人、変態だけど面白い人だったからさ、いなくなるのが寂しいだけだよ」

勇者「いなくなるのは俺達の方かもしれない」

▼魔法使いはびくりと体を震わせた。

勇者「今から向かうのは戦場だ。それは誰にでも起こり得る。だから魔法使い、気を引き締めろ」

魔法使い「……そうだね、うだうだ言ってごめん。行こう、私達が行くべき場所に」

勇者「ああ、急ごう」

▼勇者達は監視所を立ち去った。
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:22:39.83 ID:8oN8VcFcO

>>>>

「ハァッ、ハァッ」

監視者は走っていた。戦場は目前にあり、魔術の炸裂する爆音が響く。

彼女の姿は確認出来ないが、狐が火球を放ちながら空中を駆け、大猿は岩の拳を兵士達に叩き付けている。

しかし兵士達は翻弄されることなく対処しており、徐々にではあるが確実に魔物の体に傷を増やしている。

楯で円陣を組みながら魔術を防御し、楯の内側から槍で突く、これを堅実に繰り返している。

楯には何やら紋章が彫り込まれており、それによって強力な魔術の防御を可能にしているようだ。

「見えた。彼女だ」

戦場が眼前に迫った瞬間、吠え声が轟いた。

内蔵を振るわす吠え声が兵士達を揺さぶる。魔術ではなく単純な音圧。

近場で聞いた兵士達は膝を突き、視界さえも揺さぶられ、狐と大猿がその隙を逃さず襲い掛かる。
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:23:06.17 ID:8oN8VcFcO

「獣が知恵を使うのか、小賢しい」

しかし、一人の男がそれを防いだ。

その男が杖を振ると、空を駆ける狐は目に見えぬ弾丸に打たれ、大猿の岩拳は分厚い透明の膜に遮られた。

「……水? もしや、あれが賢者なのか?」

監視者の予想通り、それは水だった。兵士達は打ち落とされた狐に槍を構え、拳を遮られ困惑する大猿に突進する。

そこに再び狼が吠え声を響かせ、兵士達に足止めを食わせる。狐と大猿は狼の下に後退した。

「あれから排除しなければならないな」

指揮官と思しき男が再び杖を振るう。すると突如狼が宙に浮き、声なき声を上げた。

(窒息させる気か!!)

監視者は居ても立ってもいられず、何の策も考え付かないまま指揮官に突撃した。
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:23:46.53 ID:8oN8VcFcO

賢者「所詮は獣か、他愛ない」

監視者「彼女に何をする!!」

賢者「何っ!?」

誰一人として反応出来なかった。

突然現れた男は明らかに一般人であり、満足な防具もなく武器も持たない。

そんな一般人が困惑する兵士達を掻き分け、指揮官にその身一つで突っ込んだのだ。

誰もがその男を注視し、戦場は時が止まったかのように静まり返っている。

魔物さえも凝視したまま動けずにいた。彼はそれほどまでに異質な闖入者だった。

(よし、彼女は無事だ)

狼は水の膜から解放されており、酸素を貪っている。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 01:25:17.83 ID:8oN8VcFcO

賢者「魔術師ではないな、ただの気狂いか」

▼賢者は杖を振った!

▼監視者は水の弾丸に打ち抜かれ、その場に倒れ込んでしまった。

賢者「狙いが逸れたか? 何をしている、殺せ」

▼兵士達が監視者に襲い掛かった!

監視者(ああ、これで終わりか。呆気ない……)

死を覚悟した時、再び兵士達の動きが止まった。

兵士達は監視者の後方にいる狼、その更に後方にある塔を見つめている。

監視者が振り向くと、塔の一階部分から魔術師の軍勢が此方に向かって来ている。

賢者「陣形を整えろ!!」

止まっていた時は動き出し、再び戦が始まった。

魔術師達が国軍に突っ込むと、止まっていた三体の魔物も同時に動き出した。
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 01:26:44.61 ID:8oN8VcFcO

第二話 それぞれの戦

終わり
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:27:12.11 ID:8oN8VcFcO

第三話

塔の一階部分から魔術師の軍勢が現れる瞬間を、勇者達は岩陰から確認した。

魔術師の軍勢は雪崩を打って国軍へ突っ込み、後方の魔術師達は仲間が巻き込まれるのも関係無しに魔術を放ち続けている。

兵士達は頭上に楯を構えて防御しながら徐々に前進、楯の間から突き出される槍が突撃する魔術師を次々と貫いている。

魔術師の登場により戦場は一気に広がり、勇者達が身を潜める岩場にさえ接近しつつあった。

(このままでは此処も巻き込まれる。速やかに離れなければ)

勇者は腕を振って追従を促し、主戦場となっている塔東側の裏、塔北西側へと大きく回り込んだ。
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:28:07.23 ID:8oN8VcFcO

勇者「随分遠回りしたが、一先ずは安心していいだろう」

戦士「妙だな」

魔法使い「何が?」

戦士「魔術師と一度目が合った気がしたんだよ。でも、俺には目もくれずに兵士達に突っ込んで行った。あの目、気味が悪かったぜ」

魔法使い「気がしただけじゃないの? 砂煙もあるし、見えてないと思ったけど」

戦士「かもな。まあいい、扉を探そうぜ」

勇者「向こうにあるな。東側の大扉は開かれていたが、此方側は開いていないようだ」

魔法使い「鉄扉だね。時間掛かるけど溶かして穴を空ければ何とか入られると思う」

勇者「いや、上の方に幾つか穴がある。壁にはツタが絡んでいるから……!?」

▼突然、勇者の頭上に何かが落ちた。
 勇者が立っていた場所は抉れ、激しく砂煙が俟った。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:28:42.70 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「けほっ、けほっ、勇者!? 戦士!?」

勇者「大丈夫だ!! それより円陣を組んで仲間に背を預けろ、敵に背を見せるな!!」

戦士「勇者、どこにいる!! 敵もそこにいるのか!!」

勇者「いや、いない!! おそらく移動している!! 魔法使い、存在を感知出来るか!!」

魔法使い「今やってる!!」

戦士(少し掛かりそうだな。だったら……)

▼戦士は剣を構えた。

戦士「全員伏せろ!!」

▼戦士は横一線に振り抜いた!

勇者「手応えはあったか!?」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:30:37.97 ID:8oN8VcFcO

戦士「いや、躱された!!」

勇者「仕方ない。魔法使いが感知するまで」

▼勇者の声が途切れた。

勇者「うぐっ……」

▼勇者は何者かに首を掴まれた!

▼何者かはそのまま跳躍し、砂煙の中から抜け出した!

勇者「離せ……」

▼勇者は電撃を放った!

▼しかし、何も起こらなかった。

勇者(何!?)

▼勇者は地面に向かって投げ落とされた!

▼しかし、勇者は空中で身を捩り着地した。

勇者(何処にいる……)

勇者(あの力、戦士のように肉体を弄られた者か? 他にも攫われた傭兵がいるとも聞いたが)

▼背後の岩場に何者かが降り立った。

▼勇者はすぐさま振り向き、剣を抜いた。
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:32:24.49 ID:8oN8VcFcO

勇者「貴様、何者だ」

▼何者かは答えない。

勇者(俺と変わらない歳、おそらく魔術師ではないな。まさか、軍の回し者か?)

勇者(いや、しかし、あの若さであれ程の実力者なら知らないはずがない。奴は一体……?)

▼勇者は何かに気付いた。

勇者「……間違いない。その剣は師の物、何故貴様が持っている? 師はどこにいる、答えろ」

▼何者かは無言のまま剣を構えた。

▼勇者は、その構えにとても見覚えがあった。

勇者「まさか、そんなはずは……」

傭兵「……」

勇者「何故、貴方が……」


▼亡国の傭兵が現れた。
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:34:16.36 ID:8oN8VcFcO

傭兵「……」

勇者「っ、師よ、俺達は囚われの者達を救いに来ました。受付嬢のこともです」

傭兵「……」

勇者「剣を納めて下さい、共に行きましょう。戦士と魔法使いも来ています。若い傭兵達も力を貸してくれました。彼女を救うためにです」

傭兵「……」

勇者「目的は同じはず、俺達が戦う必要は」

傭兵「言葉は不要だ」

勇者「何を……」

傭兵「傭兵に、自由はない」

▼勇者の声は届かない!

勇者「師よ、お願いです!! 俺の話を聞いて下さい!! 貴方が戦う必要はないんだ!!」

傭兵「赦しは請わない。ただ恨め、勇者」


▼傭兵は、勇者に襲い掛かった!
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:37:05.40 ID:8oN8VcFcO

>>>>

ようやく砂煙が晴れ、戦士と魔法使いは互いの姿を確認した。しかし、勇者の姿はない。

周りを固める傭兵達にも傷一つなく、勇者が消えた以外に異常はないように思われた。

戦士(敵も消えたのか? 敵は最初から勇者が狙いだったのか? 何処行きやがった)

魔法使い「……」

▼魔法使いは俯き、杖を握り締めている。

戦士「おい、どうした」

魔法使い「何も感じなかった……」

戦士「は? どんだけ微弱でも魔力を持たない奴はいない。この世に魔力を持たない人間なんて」

魔法使い「まだ、気付かないの?」

戦士「…………そうか、そうかよ」

魔法使い「……こうなる可能性はあったし覚悟もしてた。信じたくないけど、さっきの奴は」
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:38:48.80 ID:8oN8VcFcO

▼遠方で雷鳴が轟いた!

戦士「勇者だ、あんなとこまで離れたのか……」

魔法使い「行こう。でも、その前に」

▼魔法使いは鉄扉に超高温の大火球を放った!

▼鉄扉はたちまち溶けていき、数人が楽に通れる穴が空いた。

魔法使い「私達は勇者を助けに行く。皆には塔内に入って囚われてる人達を解放して欲しい。勇者が言ったみたいに六人ずつに別れて行動して」

戦士「悪いが、頼む。どうしてもやらなくちゃならねーんだ。勇者一人じゃ持たねえ、俺達が食い止めてる間に受付サンを見付けて救出してくれ」

▼傭兵達は意を汲んで頷いた。

魔法使い「受付さんを解放出来たら、すぐに雷が落ちた所まで連れて来て欲しい。そうすれば止められる。私達で何とか出来たら、すぐに向かう。だから、お願い」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:39:18.14 ID:8oN8VcFcO

▼傭兵達は強く頷き、塔の中へと向かった。

魔法使い「戦士、急ごう。勇者が待ってる」

戦士「ああ、そうだな」

▼二人は勇者の下へ走りだした!

▼しかし、空から何者かが降り立ち、二人の前に立ちはだかった!

武闘家「向こうに行っちゃ駄目よ」

戦士「……」

武闘家「戦士君と魔法使いちゃんよね?」

戦士「テメエは」

武闘家「私は武闘家、貴方達の足止めをお願いされてるのよ。彼も一人でやるって聞かないし」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:39:53.14 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「っ、ふざけんな!!」

▼魔法使いは幾つも火球を放った!

▼しかし、火球は瞬く間に燃え盛り消失してしまった。

武闘家「苛立つ魔術師は三流よ」

魔法使い(風だ。あのオカマ、かなり使う……)

武闘家「別に塔の中に入るのは構わないわ。子供達を助けるのは大賛成なのよ? でも、向こうに行っちゃ駄目」

戦士「いいから、退け」

▼戦士は間合いを詰めて剣を振り下ろした!

▼しかし、剣の軌道は乱れ空を切った。
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:40:47.84 ID:8oN8VcFcO

戦士「野郎……」

武闘家「二人は助けを求めてないのよ? 彼も彼女も自由の為に戦う道を選んだわ。貴方達がやってることは邪魔なの」

魔法使い「だったら何さ。私達は絶対に勇者を見捨てないし、絶対にセンセと受付さんを連れて帰る。二人が嫌がってても関係ない。一緒に街に帰る」

武闘家「ワガママね……」

魔法使い「私、まだ子供だから」

▼魔法使いは地を這う炎を放った!

▼武闘家はふわりと浮いて炎を躱した。

戦士「待ってたぜ」

武闘家「単純な攻撃ね」

戦士「言ってろ」

▼戦士は腹を狙って突きを繰り出した!

▼武闘家は掌で軽く受け流し、蹴りを繰り出した!
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 01:41:25.82 ID:8oN8VcFcO

戦士「ぐっ……」

▼武闘家の蹴りが腹に直撃した!

武闘家「経験不足ね」

戦士(コイツ、強ぇ……)

魔法使い「戦士!!」

戦士「いいから下がってろ」

武闘家「まるで彼女の騎士ね」

戦士「……」

▼戦士は刃を伸ばし、横一線に振り抜いた!

▼しかし太刀筋は大きく乱され空を切った。
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:42:07.60 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「今」

▼魔法使いは火球を

武闘家「早いけど隙があるわ」

▼武闘家が手をかざすと、火球は魔法使いの手元で激しく燃焼した!

魔法使い「きゃっ!!」

武闘家「大人と子供にはこれだけの差があるの。貴方達はまだ成長途中、死に急ぐのは止めなさい」

戦士(見切り、体術の技量が違う。魔力は魔法使いの方が上だが魔術の理解度が違う。いつも戦法じゃ通用しねえ)

魔法使い「……」

▼魔法使いは目を閉じ、杖をかざした。

戦士(あいつ、何を……)

武闘家「あら?」

▼武闘家の足元から火柱が上がった!

▼武闘家は咄嗟に飛び退いて躱した!
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:42:45.53 ID:8oN8VcFcO

魔法使い「負けないよ、絶対」

武闘家(私から学んだのね。この短時間で遠隔発動させるなんて、子供の成長って怖いわぁ)

▼戦士は隙を見逃さず一気に間合いを詰めた!

▼一撃狙いから切り替え、連続攻撃を仕掛ける!

武闘家「元気いっぱいね」

戦士(こんだけ手数を増やせば、気流操作だけじゃ防げねえはずだ)

武闘家(流石に押されてきたわね。ちょっと距離を取らないとマズいかしら)

▼武闘家は砂を巻き上げて飛び退いた!

▼戦士は砂煙に飲み込まれてしまった!
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:43:25.48 ID:8oN8VcFcO

戦士(逃がすかよ)

▼戦士は刃を伸ばし、砂煙の中から何度も振り抜いた!

武闘家(無茶苦茶だけど、こういう攻撃が一番厄介だわ。もう少し離れましょ)

魔法使い「……」

武闘家「ふぅ」スタッ

魔法使い「今」

▼武闘家が着地した瞬間、足下から火柱が上がった!

▼飛び退いて躱したが、着地するたびに火柱が上がる!

武闘家「か、可愛い顔してえげつない魔術使うわね!?」

魔法使い「アンタのお陰だよ。勉強になった」

武闘家(一度の戦闘で此処まで……才能もあるんでしょうけど、伸びが速過ぎる)
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:44:16.90 ID:8oN8VcFcO

武闘家(上に逃げるしかないわね)

▼武闘家は宙に浮いた。

武闘家(でも、飛んだら飛んだで……)

戦士「……」

武闘家「そうよね〜」

▼戦士は容赦ない連撃を繰り出した!

▼出鱈目な太刀筋が襲い掛かる!

武闘家(これはもう、私じゃ無理ね……)

▼武闘家は胸を切り裂かれ、地に落ちた。

武闘家(血が……でも、当然の報いよね。沢山悪いことしたんだもの)
 
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:45:47.50 ID:8oN8VcFcO

戦士「……」

魔法使い「……」

武闘家「さあ、殺しなさい。殺して、彼の所に行きなさい。まだ、間に合うわ」

魔法使い「殺さないよ。これは仕事じゃないし、殺したってお金にならないし、得るものないし」

武闘家「そう言えば、傭兵だったわね……」

戦士「魔法使い、このままだと死んじまう。傷口を焼いてやれ」

魔法使い「うん。行くよ、オカマ」

武闘家「……彼は貴方達を待ってるわ。私には分かるの。きっと、本当は、そうなることを望んでる。そういう、目をしてたわ」

魔法使い「……」

▼魔法使いは傷口に燃え盛る炎を押し付けた!

▼武闘家は気を失った。

戦士「……行こうぜ」

魔法使い「うん、行こう」

▼二人は走り出した。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:48:54.83 ID:8oN8VcFcO

第三話 講座

終わり
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:55:20.24 ID:8oN8VcFcO

第四話

「ハァッ、ハァッ」

戦場は死に溢れていた。魔術師は今尚も突撃を繰り返し、命を散らし続けている。

恐怖も、戸惑いも、躊躇いもない。軍勢の意思は死に向かっている。

兵士達もその異常性に心を挫かれつつある。無感情に突撃を繰り返す様は、悪夢に違いなかった。

賢者は今や狂ったように魔術を連発し、敵が滅び去ることのみを欲している。

それは勝利の為ではなく、戦を終わらせる為でもなく、この地獄から一刻も早く抜け出す為に藻掻いているようだった。

(酷い、酷過ぎる。この戦には何もない。意志も目的も野望も未来も見えない。ただの殺戮だ)

監視者はその有り様を眺めるしか出来なかった。血止めはしたものの、体は自由に動かない。

霞む目を凝らして辺りを見渡すが、彼女の姿は見当たらない。
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:56:36.70 ID:8oN8VcFcO

軍勢の魔術に巻き込まれてしまったのだろうか、それとも既に逃げ出したのだろうか。

監視者は後者であることを祈りながら戦場を這い回り、何処にも彼女の姿がないことを確認しようとした。

這い回る彼を気にする者は一人もなく、彼だけが戦場にいながら戦場を眺めていた。

軍勢でありながら、まるで一つの意思を持つ生物のように魔術師達は突撃を繰り返す。

命に尊さなどないと、命に価値などないと、それを命を以て証明しているかのようだった。

「君たち、もうやめたまえ。やめたまえよ」

監視者には、最早耐えられなかった。

彼は人間が幾ら死のうと自分の心が動くことはないと、そう思っていた。

どの生物より知性がありながら、どの生物よりも野蛮で愚かな人間が心底嫌いだった。

彼女だけが心の拠り所だった。彼女の自由を尊敬し、羨望し、時には癒されもした。

そんな彼女を脅かし、下らぬ戦にさえも巻き込む人間を、彼は更に嫌った。

だがそれでも、ざまあみろとは思えなかった。何故なら、彼はまだ人間であるからだ。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:57:04.43 ID:8oN8VcFcO

「頼む、やめたまえ……」

最早、戦場に人の声は届かない。命を擲つ獣と、命を奪う獣しか存在しない。

「君たち、もう、死ぬのはやめたまえ」

「命は美しい。それを捨てるなど、あってはならないよ」

「だから君たち、やめたまえよ」

戦場にあって命の尊さを説くなど馬鹿げていると彼自身も思った。しかし、言わずにはいられなかった。

五体を投げ出して懇願を繰り返す彼を、無感情な魔術師達が見ていた。

彼はそれに気付かず懇願し続けたが、耳を傾ける者はない。彼は遂に諦めかけた。

その時だった。

何処からか彼女の声が聞こえた。か細く、弱々しく、今にも息絶えそうな声がした。

監視者は声のする方向へ向かおうとしたが、今や正確な方向など分かるはずもなかった。

視界はぼやけ、音もはっきりとは聞こえない。さっきの声も幻聴である可能性がある。

(あれは確かに彼女の声だった。こっちだ、きっと、こっちから聞こえた)
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 01:59:23.57 ID:8oN8VcFcO

彼女がいるなど信じたくはなかった。

しかし彼は、彼女もこの地獄に囚われ、血肉と骨の海で藻掻いていることを確信した。

(あの声はきっと助けを求めているに違いない)

彼には満足な防具も武器もないが、医療箱ならあった。

中には万が一彼女が傷を負った時の為に作った物が入っている。監視所で日夜作り続けた治療薬。

様々な生物に試したが、彼女に効くかどうかなど分からない。それでも作ったのは、こんな時が来ると分かっていたからかもしれない。

一心不乱に這い続け、彼は遂に彼女の下へ辿り着いた。彼女も彼同様、地に伏している。

「ああ、なんてことだ……」

胸には槍で貫かれたであろう深い傷がある。他にも傷はあるが、これが致命的な一撃だったのだろう。

彼は彼女に寄り添い、体に巻き付けていた医療箱から小瓶を取り出した。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:00:02.78 ID:8oN8VcFcO

「許してくれ」

調合した薬を傷口に垂らすと、体がびくんと跳ねた。彼はそこに、そっと手をかざした。

すると、傷口に垂らした液体は弾力性と粘着性のある膜のようなものに変化した。

それは傷口を被い、血止めの役割も果たしている。彼は他の傷も同様に治療した。

更には新たな薬品を垂らし、膜の成分を変えたりもした。それは彼女の反応を見て下した決断だった。

実際に医療経験はなく勘に頼っただけの治療だったのだが、奇跡的にその全てが的中したようだ。

最後は懐から水筒を取り出し、その全てを彼女に飲ませた。これが、彼の精一杯だった。

彼女は少し楽になったのか、彼の顔を見つめている。彼も、彼女を見つめ返した。

しかし、彼女はふいと目を逸らした。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:01:03.43 ID:8oN8VcFcO

「君よ、どうした?」

彼女はじっと一点を見つめている。視線の先には狐と大猿がいた。

此処から程近い場所に倒れていることから、三体には何か特別なものがあったのだろう。

狐と大猿は彼女同様に深く傷付き、この地獄の更に底へと誘われようとしている。

「酷い……」

彼が気付いたのを見て彼女はもう一度、彼を見つめた。その双眸には強い願いがあった。

「彼等を救えと、君はそう言うのかい?」

彼女は答えない。ただ彼を見つめている。魂に訴え掛けるように。

「……分かった。やってみるよ。君が望むならば、私はそれを叶えよう」

彼は彼女の下を離れ、這って彼等の下へ向かった。満身創痍ではあるが、気力はかつてない程に漲っていた。

彼女に託された願いを叶えんと使命感に燃え、激しい痛みすら気にならなくなった。
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:02:10.00 ID:8oN8VcFcO

「やはり、酷いな」

辿り着くと、彼女と同様の治療を開始した。

極度に集中している為か戦場の音は消え去り、負傷した彼等以外の者は目に入らない。

彼は治療を終わらせると、直ぐさま彼女の下へと戻った。

「終わったよ。きっと助かる。少し、休ませてくれないか」

触れられる距離にありながら彼女には一切触れず、傍らに横たわった。

彼女の傍らにいられるだけで彼は満足だった。

彼女も何をするわけでもなく、ただ彼の様子を眺めている。

「何だ?」

先程まで治療に集中していたため気が付かなかったが、周囲に魔術師達が集まっていた。

何も言わず、彼と彼女に背を向けながら取り囲むようにしている。

「君たち、私達を守っていてくれたのか?」
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/01/27(日) 02:02:48.13 ID:8oN8VcFcO

答えはない。

魔術師達の輪は幾重にも重なっているようで、兵士達の姿は確認出来ない。

音も止んでいる。どうやら突撃も停止しているようだ。

監視者は不思議に思ったが、もう一度だけ言ってみることにした。

「君たち、もうやめたまえ。命は、こんなにも美しいのだから」

すると、魔術師達が一斉に振り向いた。足音が何重にも重なって聞こえるのは気のせいではない。

彼の言葉に全ての魔術師が振り向いた。彼は心底驚いたが、不思議と怖ろしさはなかった。

「分からないが、終わったのか? であれば、こんな所にはいない方が良い。もう沢山だ」

魔術師達は何も言わず、彼を見つめている。

何かを求めているような目で、彼の言葉をじっと待っている。

「……良ければ、私達を安全な場所に送ってくれないか? 彼女を休ませてやりたいんだ」

すると、数名の魔術師が彼を担ぎ、更に数名が彼女を丁重に持ち上げた。

そして魔術師達は、彼と彼女を担いだまま何処かへと向かって歩き出した。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 02:03:35.92 ID:8oN8VcFcO

第四話 伝導

終わり
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2019/01/27(日) 02:04:06.03 ID:8oN8VcFcO
ここまでです、ありがとうございます。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 03:17:12.47 ID:ZeZyagcDO
乙乙
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 06:35:03.14 ID:VpbOJ85HO

今1番面白いSSだわ
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:04:23.80 ID:IrdoZQX9O

第五話

爆音轟く戦場の反対側、塔の西側では、剣の鳴らす金属音だけが響いていた。

そこは無数の岩石が転がる足場の悪い岩山。

二人は岩から岩へと飛び移り、鮮やかに舞いながら幾度も衝突する。

一人は消極的に避けながら戦っているが、もう一人がそれを猛追し、決して逃がそうとはしない。

回避、追跡、衝突を繰り返す。そのたびに足場の岩は崩れ落ち、狙いの逸れた剣が岩を割った。

一人が再び回避を試みる。しかし、もう一人が回避方向にある巨大な岩の上に降り立った。

両者は向かい合って剣を構えた。その構えは鏡に映したかのように酷似している。

両者の剣を見ると僅かな刃毀れしか確認出来ない。おそらく、特殊な方法を用いて作成されたのだろう。

剣の強度に差は見られないが、その所持者には明確な差が出始めていた。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:06:30.31 ID:IrdoZQX9O

(このままでは……)

幾度の衝突と激しい攻防の中で、勇者は徐々に傷を負い始めていた。

傷は浅いものの、それは防具に助けられた結果であり、胸当てだけを見ても夥しい数の傷跡が刻まれている。

今のところ体力が尽きる心配はないが、一度でも下手を打てば死に直結する逼迫した状況下では、それも時間の問題と言えた。

経験に差はあれど技術面では決して劣っていない。にも拘わらず、ことごとく打ち負けている。

(何故、何も言ってくれないのですか)

その最大の要因は、勇者の迷いにあった。

彼は傭兵を師として信頼し、慕っている。過ごした時は戦士や魔法使いと比べものにならない。

その師が自分と同年齢にまで若返り、言葉なく襲い掛かって来たのだから動揺するのも当然のことだろう。

何を問おうと答えてはくれないが、師が自分を殺そうとしていることだけは否定しようのない事実だった。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:07:27.51 ID:IrdoZQX9O

一方の傭兵には傷一つなく、巨大な岩の上から悠然と勇者を見下ろしている。

ほんの一瞬、何処か遠くを見るように目を細めたが、すぐに視線を戻した。

その表情は冷酷で無慈悲。一見すると心ない人形であるかのように見えるが、瞳の奥には窺い知れない何かがある。

そんな彼を見上げる勇者の姿は、父に突き放された息子のようであった。

悔しさ、歯痒さ、苛立ち、悲しみ、様々な感情が綯い交ぜになって表れている。

その姿は父である国王と決別した時以上に苦悩し、打ち拉がれているようにも見えた。

(師よ、教えて下さい……こうなった理由、戦う意味を……でなければ、俺は……)

父と気軽に話すことの出来なかった彼にとって、傭兵はかけがえのない存在だった。

幼い頃から剣術の師として傍におり、おそらく、父である国王よりも多くの言葉を交わしただろう。

幼かった彼は、父にはない気軽さで接してくれる傭兵を大いに慕った。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:08:58.59 ID:IrdoZQX9O

兄とも父とも呼べない師という存在が、父の愛を求める少年の支えになったのは想像に難くない。

そして年齢を重ね、師は国王によって祖国を滅ぼされた傭兵、亡国の傭兵であることを知った。

素性を知っても師への信頼が揺らぐことはなく、祖国を滅ぼした憎き国王、その息子である自分に笑いかける師を、彼は敬った。

それと同時に、何かを守る為には如何なる屈辱や苦痛にも耐えなければならないと知ったのだ。

(そうだ、どんな痛みにも……)

勇者は遂に迷いを振り払った。自分にも守らなければならないものがあると意を決した。

攫われた僧侶と子供達。狂った国王に生贄として差し出された民を一刻も早く救い出さなければならない。

そして、その狂った王を打倒する為には此処で終わるわけにはいかない。

勇者は逃げ回るのを止め、師に立ち向かうべく駆け出した。
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:13:39.31 ID:IrdoZQX9O

>>>>

戦士「見えるか」

魔法使い「うん、見つけた。今は離れてるっぽい。って言うか、何でセンセは勇者だけを?」

戦士「そうしなけりゃ人質殺すって言われたのかもな」

魔法使い「……受付さん、無事だよね?」

戦士「無事だからこそ先生は従ってる。そう思いたいけどな」

▼二人は双眼鏡で勇者と傭兵の姿を確認した。

▼岩場に身を隠し、飛び出す機会を窺っている。

魔法使い「あのさっ、あれは本当にセンセなのかな? もしかしたら別人かも」

戦士「魔力を欠片も持たない人間が二人もいるかよ。動きを見たろ、あれは先生だ」

魔法使い「でも、勇者と同い年くらいだよ? 勇者は王様が若返ったとか言ってたけど、何でセンセまで……」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:15:53.60 ID:IrdoZQX9O

戦士「分からねえ。つーか、問題はそこじゃねえ」

魔法使い「分かってる。勇者が魔術を使ってないんでしょ?」

戦士「そうだ。勇者が消えた直後の雷鳴以降、音は一度もしなかった。今も使う気配がない。それが引っ掛かる」

魔法使い「確かに不可解だけど勇者は押されてた。単に使えないのかも知れない。戦士、行こう? もう考えてる時間はないよ」

戦士「待て、どう加勢するかが問題だ。判断を間違えると大変なことになる。それに、先生は俺達に気付いてる」

魔法使い「は? なわけないじゃんか、気付かれないようにこうやって離れてるんだよ?」

戦士「さっき大きな岩の上に立った時、こっちを見た。一瞬だけ、ちらっとな」

魔法使い「さすがに考えすぎじゃない?」

戦士「そうだと良いんだけどな……」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:18:08.21 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は思案している。

魔法使い「戦士、勇者が!!」

戦士(勇者、何故向かって行く。あのまま逃げ回ってりゃ……)

▼勇者は振り下ろされた剣を防いだ!

▼しかし、傭兵は剣に体重を掛けて押し込んだ!

▼勇者は何とか耐えているものの、身動きが取れない!

魔法使い「センセは本気だよ!? あのままだと勇者が殺される!!」

戦士(勇者が魔術を使わないのは何故だ。それが分からないままコイツを連れてくのは危険じゃねえのか?)

魔法使い「戦士ってば!!」

戦士「……俺が引き付けて勇者を逃がす。お前は後から来い、様子を見ろ。迂闊に飛び出すな、いいな」
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:19:10.60 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「はあ? 逃がすなら一緒にやった方が」

戦士「勇者が魔術を使わない理由を確かめたい。勢いに任せて出て行くべきじゃない」

魔法使い「でもっ!!」

戦士「魔法使い、頼む。今だけは俺の言うことを聞いてくれ」

魔法使い「……っ、分かったよ」

戦士「ありがとよ……じゃあな」

▼戦士は勇者を救出すべく駆け出した!
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:20:22.44 ID:IrdoZQX9O

>>>>

勇者(剣を、逸らさなければ……)

▼しかし、剣はぴくりとも動かない!

▼ぎりぎりと音を鳴らし、剣が押し込まれる。

▼勇者の左肩に刃が深くめり込み、血が流れた。

勇者「ぐっ……」

傭兵「……」

勇者(これが、亡国の傭兵………!?)

▼傭兵の背後に戦士が現れた!

▼戦士は首を打ち据えようと剣を振った!

▼しかし、傭兵は勇者を蹴り付けて前に飛んだ!
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:21:47.82 ID:IrdoZQX9O

戦士(背中に目玉でも付いてんのかよ)

勇者「戦士、すまない。助かった……」

戦士「遅れちまって悪い。じっとしてろよ」

▼戦士は勇者の左肩に傷薬をかけ、破った布できつく縛った。

戦士「ひとまずは大丈夫だ」

勇者「それより魔法使いは?」

戦士「様子を見るように言ってある。あんたが魔術を使わないのは妙だと思ってな。使わない理由は何だ」

勇者「見せた方が早い」

▼勇者は傭兵に向けて雷撃を放った!

▼しかし、雷撃は傭兵の体を通過した。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:22:41.04 ID:IrdoZQX9O

戦士「冗談だろ……」

勇者「変な表現になるが、魔術が認識していないように思える。そこに何もないかのようにすり抜けるんだ」

戦士「なら魔術は」

勇者「意味を成さない。物質を伴う魔術ならば可能性はあるが、俺と魔法使いの魔術では無理だ。剣で対抗する以外に術はないだろう」

▼傭兵は剣を構えた。

▼徐々に速度を上げて向かって来る。

戦士「行け」

勇者「何?」

戦士「先生の狙いはあんただ。俺が来た以上、あんたが馬鹿正直に戦う必要はない。
   そもそも俺達は救出に来た。先生を倒す為に此処へ来たわけじゃない。だろ?」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:23:16.21 ID:IrdoZQX9O

勇者「それはそうだが……」

戦士「勇者、他の奴等は塔にいる。俺が足止めするから魔法使いを連れて塔へ行け。
   あいつは渋るだろうが、その時は髪を引っ掴んでも連れて行け。いいな」

勇者「戦士、聞いてくれ。師は本気だ。君一人に任せるより、共闘して無力化を狙った方がいい。
   俺は距離を取りながら戦えたが、足止めする以上、君は攻め続けるしかなくなる」

戦士「大丈夫さ、魔術込みならあんたに譲るが剣術だけなら俺に分がある。大体、傷だらけのあんたに何が出来る」

勇者「……」

戦士「迷っちゃ駄目だ。あんたにはこの後もやるべきことがある。そうだろ?」

勇者「…………分かった。だが用心しろ。正直な話、まだ底が見えない」

戦士「俺にも見えねえよ。ほら、さっさと行け。さっさと行って人質を救い出せ。それが馬鹿げた戦を終わらせる近道だ。頼んだぜ」
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:25:00.29 ID:IrdoZQX9O

▼勇者は頷き、走り出した!

▼傭兵は直ぐさま勇者の後を追った!

▼しかし、戦士が立ちはだかった!

傭兵「……」

戦士「させるかよ」

▼傭兵は激しく斬り掛かった!

▼戦士は剣を受け止め、逆に押し込んだ!

傭兵「……」

戦士(……受付さんは幸せ者だな。こんなにも必死になってくれる人がいるんだからよ)

▼傭兵は戦士の剣を弾き、斬り掛かった!

▼戦士は紙一重で躱した!

戦士(半端な攻撃じゃ止まらない、殺す気で行って何とかってとこか)
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:26:08.08 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は斬り掛かった!

▼しかし、傭兵はそれより早く喉元を突いた!

戦士(あ、危ねえ……)

傭兵「……」

戦士(つーか、あんだけ勇者と戦った後だってのに疲弊した様子がねえ。体力どうなってんだ? 若返ったからか?)

▼傭兵は剣を振り下ろした!

▼戦士は身を躱し、なんと剣を踏み付けた!

▼戦士はそのまま横一線に振り抜いた!

▼しかし、傭兵は身を捩って躱した!

傭兵「……」

戦士(何だよ今の動き……でも、嬉しくて笑っちまいそうになるな)
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:29:24.64 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」スッ

戦士(何だ?)

▼傭兵は腰に手を回し、短剣を取り出した。

▼傭兵は左手に短剣を持ち、逆手に構えている。

戦士(もう駄目だ、耐えられねえ。自然と顔がにやけちまう。もう受付サンのことも、何もかもがどうでもよくなっちまってる)

傭兵「……」

戦士(俺の望みは断たれちゃいなかった。もう一度、亡国の傭兵と戦える。戦って死ねる)

▼傭兵が一気に間合いを詰める!

▼傭兵は剣と短剣の連撃を繰り出した!

戦士(余力があるな。まだ、上があるってのかよ)

▼連撃は更に激しさを増す!

▼戦士は攻撃を防ぎきれない!

戦士(……どうせ死ぬなら)
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:31:14.68 ID:IrdoZQX9O

▼戦士は構わず前に出た!

(どうせ死ぬなら、あんたがどれだけ強いのか、最期に教えてくれ)

▼戦士の体がたちまち傷だらけになっていく!

傭兵「……」

戦士(あんたを止める。俺の全てを擲っても)

▼戦士は剣に魔力を篭めた。

▼すると、刃から刃が次々と枝分かれし、爆ぜるように咲き誇った!

戦士(どうだ、これは一度も見せてねえ)

▼傭兵は複数箇所を貫かれた!

▼身を捩り急所を外したようだが、傷は深い。

傭兵「……」

▼しかし、傭兵の動きは止まらなかった!

戦士(ハ、ハハハッ、何だよ、これでも止まらねえのかよ、俺にはもう打つ手がねえんだぞ……)
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:32:53.24 ID:IrdoZQX9O

▼傭兵は刃の華を剣で叩き割った!

▼刃の破片が宙を舞う!

▼傭兵は戦士に斬り掛かった!

戦士「ぐっ……」

▼戦士は右瞼を切り裂かれた!

▼流れる血液が視界を染める。

戦士(あんだけやっても届かねえのかよ、止めるだけなら何とかなると、そう思ったんだけどな……)

▼傭兵は尚も攻め続ける!

▼戦士の体が、瞬く間に血に染まっていく!

戦士(やることはやった。俺にはもう何もない。もう、死に怯える必要もない……)

▼その時、攻撃がぴたりと止んだ。

▼傭兵が何かに気が付いたようだ。

▼戦士は傭兵の視線を追った。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/03(日) 23:34:03.90 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「戦士!!」

戦士「……馬鹿野郎」

▼魔法使いが現れた!

▼魔法使いは傭兵に数多の火球を放った!

▼しかし、火球は傭兵の体を通過した……

魔法使い「センセ、もうやめてよ……戦士が死んじゃう……お願い……」

▼魔法使いは泣いている。

傭兵「……」

▼傭兵は何も答えない。

戦士「ッ、この大馬鹿野郎!! 手を出すな!! 殺されるぞ!! さっさと逃げろアホ!!」

魔法使い「嫌だ!! 絶対に誰も死なせない!!」

▼魔法使いは滅茶苦茶に火球を放った!

▼しかし、傭兵には何も届かない……
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:35:56.61 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」

魔法使い「センセ……もうやめよ? ねえ、こんなの嫌だよ、一緒に帰ろう?」

戦士「いいから逃げろ!! 何もしなけりゃ」

▼傭兵は魔法使いに向かって走り出した!

魔法使い「ひぅっ……」

▼魔法使いは恐怖でへたり込んでしまった!

傭兵「……」

魔法使い「あ、あぁ……」

戦士「やめろ!! おい、ふざけんな!! そいつには何も出来ねえんだ!!」

▼戦士は動けない。

▼魔法使いは震える手でボウガンを構えた!
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:37:09.77 ID:IrdoZQX9O

傭兵「……」

▼傭兵は魔法使いをじっと見ている。

魔法使い「うっ、うぅっ……」

▼魔法使いは意を決して矢を放った!

▼しかし、矢はあらぬ方向に飛んでいった!

▼すると、傭兵は悲しげに魔法使いの首筋に手刀を

魔法使い「今」

傭兵「!?」

勇者(卑怯であることは承知の上。師よ、どうか許して下さい)

▼勇者は傭兵の背中に矢を突き刺した!

傭兵「……」

魔法使い「センセ、ごめんね……」

▼傭兵は蹌踉めき、膝を突き、倒れた。

▼すると、傭兵の呼吸は荒くなり、体は忙しなく震え、多量の汗を吹き出した。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:45:25.87 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「服を破いて!!」

勇者「あ、ああ!!」

▼勇者は急いで傭兵の衣服を破いた!

魔法使い「いくよ、センセ」

▼魔法使いは傭兵の左胸に何かを打ち込んだ!

▼すると体の震えは徐々に治まり、呼吸も少しずつ安定の兆しを見せ始めた。

勇者「どうなんだ?」

魔法使い「かなり早めに解毒薬打てたから大丈夫。でも毒が毒だし、しばらくは目を覚まさないと思う」

勇者「……そうか。しかし魔法使い、いつ解毒薬を?」

魔法使い「街を出る前に買ったの。毒薬を預かった時、必要になる気がしたんだ……上手く言えないけど、何となく、そんな気がした」

勇者(何となく……予感と言うやつか、馬鹿には出来ないな)
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:46:24.36 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「勇者、ごめん……」

勇者「突然どうした?」

魔法使い「だってさ、後ろから刺すなんて嫌な役目を押し付けちゃったし……」

勇者「君が策を授けてくれたから戦士も師も死なずに済んだ。必要なことだったんだ、気にするな」

▼魔法使いは瞼を擦っている。

勇者「……さあ、早く戦士の所に行ってやれ。俺は此処で師の様子を見る。まずは傷を塞がないと」

魔法使い「そ、そうだね。傷口にはこれを貼り付けて縛って、何かあったらすぐに言ってね」

勇者「ああ、任せてくれ」

▼勇者と魔法使いは戦士の下へと駆け出した。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:47:15.91 ID:IrdoZQX9O

魔法使い「戦士!!」

▼戦士は岩に背を預け、空を見上げている。

魔法使い「戦士、生きてる!?」

戦士「……おう、見た目ほど悪くねえ。それより先生は?」

魔法使い「いいから、じっとしてて」

▼魔法使いは治療を開始した。

▼服を切り、傷口を消毒し、瞼には薬を塗り込み、傷口を縫い始めた。

戦士「こんなの、いつ覚えたんだよ」

魔法使い「アンタの見張りをしてた時、センセが教えてくれた。色々勉強したんだ」
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:49:46.80 ID:IrdoZQX9O

戦士「……なあ」

魔法使い「なあに?」

戦士「先生は最初から分かってたのか? だから毒薬を?」

魔法使い「それは本人に聞いてみないと分かんないよ。でも、使って欲しいから渡したんだと思う」

戦士「俺達に殺されたかったのか、だから自分を確実に殺せる術を俺達に授けた……」

魔法使い「さあね……でも、センセは死なない。解毒薬打ったし、死なせないよ」

戦士「……」

魔法使い「どしたの?」

戦士「………さっきの嘘泣きか?」

魔法使い「使えるものは使おうと思ってさ。当たりもしない魔術よりは役に立ったでしょ?」

戦士「女は怖ぇな……」

魔法使い「うっさいな、私はどんなに不様でもセンセを止めようと思っただけだよ。
     あ、でも、女の人って本能的に涙の使い方を分かってるって聞いたことある」
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/03(日) 23:51:18.70 ID:IrdoZQX9O

戦士「それは肝に銘じとく」

魔法使い「……ねえ、戦士」

戦士「あん?」

魔法使い「次に死のうとしたら許さないから。アンタは生きるの。生きなきゃダメ、死のうとしたって私が死なせない」

戦士「どんだけわがままなんだよ、人の気も知らないでよく言うぜ」

魔法使い「死ぬのが怖いなら、私が傍にいる」

▼魔法使いは戦士の目を見て言った。

▼すると、戦士の鼓動がどくんと跳ねた。

戦士「お前は怖ろしい女だな……」

魔法使い「うっさいな。はい、終わったよ」

戦士「ありがとな」

魔法使い「さ、センセのとこに戻ろ? 勇者も待ってるしさ」

▼二人は勇者の下に向かった。
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:23:08.57 ID:LZUBm7yuO

勇者「来たか。戦士、傷はどうだ?」

戦士「あちこち縫われて調子が良くなった。あんたはどうだ?」

勇者「別れてすぐに魔法使いが治療してくれた。さっきよりは随分と楽になったよ」

▼魔法使いは傭兵に寄り添っている。

▼呼吸は先程よりも落ち着いていて、まだ発汗はあるものの出血も抑えられている。

戦士「どうだ?」

魔法使い「今のところ大丈夫そうだけど、こんなに冷えるとこで寝かせてたら悪くなる。傷も深いし、お医者さんに見せた方がいい。戦士」
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:25:05.54 ID:LZUBm7yuO

戦士「何だ?」

魔法使い「センセをお願い」

戦士「でもお前」

魔法使い「次はアンタが言うこと聞く番だよ。そんな体で戦わせるなんて出来ない」

戦士「なのに先生を背負わせんのか、人使い荒いな……」

魔法使い「あ、そうだね。勇者も一緒に行く?」

勇者「いや、そうなると君が……」

戦士「お前が一人になるだろうが……」

魔法使い「私はどっちでも良いよ? 皆が心配だし早く決めよう?」

戦士「……分かった。俺一人でいい。勇者、そいつを頼む」

勇者「分かった。戦士、少し休んでから行くと良い。まずは監視所を目指して、馬に乗るんだ」

戦士「ああ、時間は掛かるだろうが出来るだけ急ぐさ」
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:26:00.07 ID:LZUBm7yuO

勇者「戦士、師を頼む」

戦士「……おう、任せとけ」

魔法使い「んじゃ、もう行くね?」

戦士「早く来いよ? 先に街に行って待ってるからよ」

魔法使い「うん。勇者、行こう」

勇者「そうだな、随分と時間を食ってしまった。急ごう」

▼勇者と魔法使いは塔に向けて駆け出した。

▼戦士は二人の背中を見送った。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:31:26.12 ID:LZUBm7yuO

戦士「……」

戦士「先生、大丈夫さ。きっと上手く行く」

▼傭兵は気を失っている。

戦士「……さてと、行くか」

▼戦士は傭兵を背負って歩き出した。

戦士「……」

戦士「にしても、あいつも頼もしくなったもんだ」

▼その時、塔の頂上から眩い光が溢れた。

▼放出された光の柱は闇夜を切り裂き、天を突き、やがて消え失せた。

戦士「……何だ?」

▼一粒の光だけが残った。

▼塔の上空でたゆたう光は何度か明滅し、消えた。
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/04(月) 08:39:16.32 ID:LZUBm7yuO

第五話 救出

終わり
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 08:56:32.66 ID:/oncBman0
乙!
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/02/04(月) 23:42:53.75 ID:bye2y3JdO

続きが気になって眠れねぇ
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:06:17.75 ID:ltwtokG1O

第六話

錬金術師「んん、着いたな」

踊り子(教会、でしょうか……)

地中から突き出たツタの中から、二人は現れた。

半壊した教会に人影はなく、夜更けということもあり静寂に包まれている。

穴の空いた天井から降り注ぐ月明かりを見て、踊り子は夜が明けていないことを疑問に思った。

砂漠の塔から都までは半日は掛かるはずなのだが、それ程時間が経過している様子はないからだ。

瞬間的に移動する魔術など存在しない、もしあるのならば広く普及しているはずである。

それとも錬金術師のみが可能にした魔術なのだろうか、だとしたら錬金術師とは何者なのか。

あの塔も、明滅する物体も、死をも怖れぬ軍団も、人々が魔物と呼称する生物も、全て彼が作り上げたのだろうか、踊り子の疑問は膨らむ。
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2019/02/07(木) 23:07:51.01 ID:ltwtokG1O

錬金術師「兵の気配でも感じるのか?」

踊り子「いえ、便利な魔術だと思っただけです」

錬金術師「仕組みは実に簡単なものだ。そうだな、動きがあるまで少し話さないか」

▼錬金術師は壊れた椅子に腰掛けた。

▼その表情はとても穏やかで、塔で見せた冷酷非常な顔とは異なっている。

踊り子「動きとは? 他にも仲間がいるのですか?」

錬金術師「私に仲間などいない。すぐに分かる。さあ、君も座れ。待つのは退屈だろう」

踊り子「……」

錬金術師「私と話すのが嫌か?」

踊り子「はい、嫌です」

錬金術師「君は実に正直な子だな。では、これは命令だ。私の話に付き合ってくれ」
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