【シャニマスSS】甜花「シンデレラと」夏葉「サンドリヨン」

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1 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:05:47.17 ID:I+Xf9OEw0
注意
・地の文有り
・Pの経歴に設定追加
・ユニット越境につき、公式の設定が無い呼称が出てきます

また、モブ(演出家・王子役など)が数人出てきますが、しっかりと甜花・夏葉の話として進行しますので、その点ご容赦頂けると幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1543932346
2 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:07:44.36 ID:I+Xf9OEw0
黎明の夢を見る。

祭囃子を思い出す。

まだ小さかった頃の、姉妹で行った縁日の思い出。

射的屋の奥にポツンと置かれた宝物。

二人とも同じように、心惹かれたヌイグルミ。

お小遣いを出し合って、重い銃に四苦八苦して、何度も挑戦して

結局、手に入らずに泣き出した。

取れないことが悲しくて

それ以上に、取ってあげられないことが悔しくて

帰るその時になるまで泣いていた。

それが1つの原風景。

心の奥底にしまい込んだ古い傷。

大崎甜花の、幼き日の挫折の記憶。
3 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:09:31.43 ID:I+Xf9OEw0
「……なさい」

甜花(あれ……? ゆめ……?)

「……きなさい、もう朝よ」

甜花(うーん……まだ、眠い……)

「甜花、起きなさい。甜花」

甜花「ん……待って、なーちゃん……後30分……」

「……」

「私は、妹さんでは無いのだけど」

甜花(……?)

甜花(じゃあママ……でも無いよね。声違うし……)

甜花(えっと……? 夏休みだからお昼まで寝ててもいいはずで……だけど、夏休みだからお仕事もあって……)

甜花(……あ)



昨日までの事に思考が達すると同時に、羽織っていた毛布が宙を舞う。

引っ剥がされたのだ。

そこで完全に眼が覚めた。

甜花「な、な、な、夏葉さん……!」

夏葉「さあ準備しなさい! ランニングに行くわよ、甜花!」

そこにはジャージ姿で、やる気に満ち溢れた御方が立っている。

ここは、夏葉さんの家だった。



時間にして朝の五時半。

太陽は昇り始めたばかりで、空気はまだ涼しさを残している。

土手の傍らでは朝露が光り、見るものを爽快な気分にさせてくれる。

ランニングをするのには、まさにうってつけ。

そんな時間だった。

甜花「あ、あの……! 夏葉、さん……!」

夏葉「何かしら?」

甜花「な、なんで……! ラ、ランニング……? それも、朝から……!」

とはいえ、条件が良い事と、楽しめるかどうかはまた別の話。

早朝からの運動なんて、普段の自分には縁遠い話で、はっきり言ってかなり辛い。

甜花「夏葉さんの家には……その、仕事の……舞台の練習のためで……」

夏葉「だからこそよ。練習の前に、まずはしっかりと体を起こさないと」

こちらは息が切れ始めているが、夏葉さんは平然としている。

つまりそれは、ペースを合わせてくれていると言う事で。

夏葉さんが良い人なのは、よく分かっているんだけど……

夏葉「それとトレーニングよ。体力は必要だわ。演劇にも、それ以外のことにもね」

夏葉「体力、知力、精神力。そして、筋力があれば何だって出来るのよ!」

やっぱり甜花とは正反対の人だな、って思ってしまう。

甜花(……付いていけるように……甜花、頑張らなきゃ……)
4 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:12:03.60 ID:I+Xf9OEw0

千雪「甜花ちゃんに、舞台のお仕事ですか?」

それは、夏休みも終わりに近づいた、ある日の午前の事だった。

P「ちょっと急な話だが、そうだ」

P「二人は、夏葉……放クラの有栖川夏葉は知っているか?」

甜花「夏葉、さん……?」

アルストロメリア以外の、同じ事務所のアイドル。

一通り名前は知っているが、今の所はそれだけだ。

甜花「うん……事務所で見たことは、何度かあるよ……」

千雪「私も同じくです。お話してみたいとは、常々思っているんですけど」

P「その夏葉なんだがな。ある劇団の舞台で、主役の仕事をもらえたんだ」

千雪「まぁ、それは凄いことじゃないですか」

P「本人も大喜びしてたよ。それで、近頃は劇団で稽古に励んでるんだが……」

プロデューサーさんが、顔をしかめる。

P「困ったことが起こってな。何でも共演者の方が、大怪我をしてしまったらしい」

千雪「お、大怪我……」

P「あ、いや、命に別状は無いそうだぞ。交通事故に巻き込まれて、全治半年程との事だが」

甜花「でも、怪我したその人は……」

P「そうだな。気の毒な話だが、舞台には上がる事は出来なくなった」

つまり、自分の仕事は。

千雪「それでは……甜花ちゃんの仕事は、その人の代役という事ですか?」

P「ああ、そういうことになる。劇団としては、舞台の公演を取り止めにする気は無いみたいでな」

P「良ければ283プロから代役を立ててくれないか、と打診されたわけだ」

そこまで話して、プロデューサーさんが二冊の本を机に置いた。

P「それで肝心の舞台の内容だが……これは、見てもらった方が早いか」

P「これが、その台本になる」

置かれた台本を見る。

その表紙の絵から、なんの話なのかを想像するのは簡単だった。

千雪「カボチャの馬車? あ、このお話って……」

タイトルを読み上げる。

甜花「『シンデレラとサンドリヨン』?」
5 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:15:38.97 ID:I+Xf9OEw0

P「題名、『シンデレラとサンドリヨン』。童話の『シンデレラ』をベースにした創作劇だ」

千雪「シンデレラ。それで、サンドリヨンというと……」

千雪「サンドリヨンってアレですよね。あのペローさんの……」

P「お、詳しいな。さすが千雪」

千雪「ぐ、偶然ですよ。童話とか御伽噺とかが好きで。それで、たまたまです」

甜花(ぺろーさん……?)

人名、だろうか。

しかし重要な話ではないようで、解説される事なく話は進む。

P「この創作劇だが、『サンドリヨン』という登場人物が出てきている」

P「本来の『シンデレラ』には登場しない人物だな」

P「この追加の登場人物である彼女が、話のキーパーソンになるわけだが……」

プロデューサーさんが、台本を持ち上げる。

思ったより重量がありそうだ。

P「長々と口で説明してもアレだしな。ともかく、目を通してみて欲しい」

P「二冊あるし、千雪もどうだ? 急ぎの用事があるなら、無理にとは言わないけど」

自分のお仕事の話なので、本来は千雪さんがいる必要はない。

たまたま、居合わせただけだ。

しかし自分としては、居てくれると安心できるので、とても有り難い。

千雪「それじゃあ、折角ですので」

千雪「はい、甜花ちゃん。意外と重いので、気をつけて下さいね」

千雪さんが軽く立ち上がって、二冊とも台本を受け取る。

それから、その片方を自分に渡してくれた。

甜花「ありがとう、千雪さん……」

台本の表紙に手をかける。

ページの1枚1枚は薄くて、まるで辞書みたいだと思った。

甜花(あ……)

薄いページが塊になって、左から右に流れていってしまう。

甜花(……ページ、余計にめくれちゃった……)

甜花(……分厚い本は、これだから……)

開けたのは、最後の方のページだった。

甜花(え……)

その端っこの文章が目に入る。



『たとえ灰被りでも良いのです』

『大切な人の隣で、笑っていられる自分で在りたいのです』

『だから、私は』



甜花「……」

P「どうした、甜花。そんな風に固まって」

甜花「え……?」

甜花「あ、うん……な、なんでも……ないよ……?」

P「……」

P「そうか」
6 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:17:40.54 ID:I+Xf9OEw0

気を取り直して、最初の方から読む。

話の大筋は、よく知る『シンデレラ』とあまり変わらない。

特に基本的な流れは、本の話そのものだった。

継母や義理の姉たちに苛められている少女が、妖女の老婆と出会って助けてもらう話。

大きく異なる点は、やはりサンドリヨンだ。

主人公・シンデレラの、双子の姉であるサンドリヨン。

彼女は、シンデレラと対照的な人物として描かれている。

歌と踊りが得意なサンドリヨンと、それらに自信が持てないシンデレラ。

活動的なサンドリヨンと、引っ込み思案なシンデレラ。

そしてその極め付けに、継母達との関係性。

社交性が豊かで、馴染まず疎まれずの関係を築けるサンドリヨンと、虐められるだけのシンデレラ。

サンドリヨンは、なーちゃんみたいだな、と思った。



甜花「……プロデューサーさん……今更、なんだけど……」

P「なんだ?」

甜花「甜花、何の役をすればいいの……?」

P「ああ……そういえば伝えてなかったな。確かに今更だ、申し訳ない」

甜花「うん……」

甜花(急な代役を立てるくらいだし、そんなに重要な役じゃ無いとは思うけど……)

甜花(一番目立ったとしても、義理の姉くらいの……)

P「サンドリヨンだ」

甜花「え……」

P「主役・有栖川夏葉と、キーパーソン・大崎甜花。そういう風になるな」

甜花「え……それって、本当に……? なーちゃんの、お仕事じゃなくて……?」

P「こんな所で嘘ついてもしょうがないだろ。そもそも、甘奈には日程的に頼めないよ」

そう。

なーちゃんは地方に遠征中で、今は近くに居ない。

P「ま、キーパーソンどうのというのも、甜花が受けてくれればの話だが……」

P「どうだ、やってみないか? 必ずいい経験になると思うぞ」
7 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:20:59.82 ID:I+Xf9OEw0

お芝居と聞いて、以前にやったお仕事の一つを思い出した。

甜花「学園ドラマのエキストラ……覚えてる……?」

甜花「前に、甜花がやった……」

あれは確か、甜花がソロの仕事を始めたばっかりの頃。

全然思うように出来なくて、プロデューサーさんに弱音を吐いた事を、よく覚えている。

P「もちろん忘れてないよ。あの事が、どうかしたのか?」

甜花「その、甜花……エキストラの役すら、ちゃんと出来なかったよね……」

甜花「それなのに……もっと大事な役なんて、出来るのかな……?」

あれ以来、お芝居の仕事はあまりやっていない。

しかしプロデューサーさんは、当然だと言わんばかりに断言した。

P「できるさ。あの時も言ったが、甜花は磨けば光る子だ」

P「あれから、色んな仕事をしただろ? だから、きっと大丈夫だよ」

甜花「でも、お芝居の仕事は……」

P「していなくても、他の経験はちゃんと積めている」

P「問題は、甜花がやりたいかどうかだ」

やりたいかどうか。

そういう話なら、勿論やってみたい。

やってみたいと思うけど……

甜花「……自信ない、です」

正直な気持ちだ。

素直に言葉にして、落胆されると思った。

そう思ってプロデューサーさんの方を見たが、その様子はない。

腕を組んで、考え込む仕草をしている。

その状態のまま、数十秒ほど経った。

P「そう、だな……」

P「やりたくないわけじゃ、無いんだよな」

甜花「うん……」

P「それならこうしよう。今日明日と舞台稽古に参加して、無理そうなら断る」

P「つまり、お試し期間だな。最終的にどうするかは明日の夜に決める」

甜花「そんなこと……できるの……?」

P「普通は絶対に無理だ。提案しただけで、間違いなく先方に怒られる」

P「だが、今回ばかりは何とかするよ。それでどうだ?」
8 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:23:04.69 ID:I+Xf9OEw0

甜花「それなら……やってみたい、です」

甜花「あ、あと……その、ごめんなさい……」

P「……? 何で謝ってるんだ?」

甜花「プロデューサーさんに、また迷惑かけちゃったから……」

P「ああ、なるほど。気にしなくていいぞ。迷惑かけられるのも仕事だからな」

P「それでも何か言ってくれるなら……そうだな、こういう時は感謝の言葉の方が嬉しい」

甜花「あ、ありがとう……プロデューサーさん……」

P「どういたしまして、だ」

P「よし、それなら善は急げだ。十五分後には出るぞ」

甜花「う、うん……」

そう言って、プロデューサーさんはそそくさと準備に取り掛かる。

その背中を見ていると、申し訳なさが込み上げて来た。

ああは言ってくれたが、そう思ってしまうのは止められない。

なんというか、性分なのだろう。

それに加えて、これから知らない場所に行くと思うと、段々と緊張もしてきて……

千雪「甜花ちゃん、えい♪」

甜花「……わ……!」

千雪さんに、急に手を掴まれた。

掴まれたというより、包まれたと言った方が正確かもしれない。

手の平から千雪さんの暖かさが、ゆっくりと伝わってくる。

千雪「甜花ちゃん、少しでも『やりたい』って思えたなら……」

千雪「楽しむこと、忘れちゃダメですよ? 千雪さんとのお約束です」

千雪さんが、優しく微笑んだ。

P「千雪ー、ちょっと聞きたいことがあるんだが……」

千雪「あ、はい! 今行きます!」

千雪「それじゃあ甜花ちゃん、頑張って来てくださいね」

手が離される。

それでも両手はまだ、ほんのりと暖かい。

あまりに短い間の事だったのに、気分は不思議と落ち着いていた。

甜花(あ……)

甜花(……お礼、言い忘れちゃった……)
9 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:24:58.48 ID:I+Xf9OEw0
P『俺は、お偉いさん達に挨拶してくるよ。演出家さんには話を通してあるから、稽古に参加していてくれ』

P『代役だから、あんまり気負わずにな。伸び伸びとやってくれていい』

P『あちらさんも、最初から無茶は言ってこないだろうさ』

甜花(……って、言ってたのに)

演出家「大崎ィ! 全然声出てねーぞ! 代役だからって甘えてんじゃねぇッ!」

甜花「ひんっ!」

甜花(プ、プロデューサーさんの、嘘つき……)



演出家「大崎、もう一回やってみろ」

甜花「わ、わかっ……分かり、ました……」

甜花「こ、これで、顔を拭きなさい、シンデレラ。そしたら……」

演出家「やり直し。声に張りがない」

甜花「これで顔を拭きなさい……シンデレラ。そしたら、礼拝に……」

演出家「視線を泳がせるな。やり直し」

甜花「これで顔を拭きなさい、シンデレラ。そしたら、礼拝に」

演出家「棒立ちで演じるつもりか。やり直し」

甜花「これで顔を拭きなさい、シンデレラ……! そしたら、礼拝に……!」

演出家「ここは叫ぶシーンじゃねぇだろ」

甜花「……あぅ……」



プロデューサーさんと別れた後、実力の程を確認する事になった。

台本を読み込む時間として30分を貰って、その後に演出家さん直々の演技指導。

時間内で台本を何度も読み返して、ちゃんと暗記して、自分としては頑張った方……だと思う。

それなのに、セリフの一つも満足に言えなかった。

演出家「……なるほど、な」

演出家「隅っこの方で、もう一回読み込んでこい」

演出家「それと見学だ。個人練をやっている奴らをよく見ておけ」

甜花「……はい……」
10 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:26:52.00 ID:I+Xf9OEw0
言われた通り、他の人の演技を見ている。

王子役『君! そこの麗しの君よ! 名はなんと言うのだ!』

確かに違う。

王子役『明日だ! 明日こそ、私に名前を聞かせて欲しい!』

他の人の演技と自分の演技は、何もかもが違う。

違う所が多すぎて、何処から手をつければいいのか分からない。

甜花「シンデレラ、これで……」

もう一度、演じてみる。

やっぱりダメダメだ。

声も通ってないし、動きもぎこちない。

だけど、どうすればいいんだろう。

夏葉「ちょっといいかしら」

甜花「え……?」

遠くを見ていたせいか、近づいて来る人に気がつかなかった。

舞台の主役、有栖川夏葉さん。

夏葉「失礼するわ」

甜花「な、何……? え……」

夏葉さんは一切の躊躇いなく手を伸ばして、自分のお腹にしっかりと触れた。

というか、強く押した。

甜花「ひんっ……!」

夏葉「さっきのセリフ、もう一回読みなさい」

甜花「あの、でも……! な、なんで……お腹を……」

夏葉「いいから早く。動きの方はいいわ。声だけに集中して」

甜花「は、はい……!」

甜花「え、えっと……シンデレラ、これで顔を拭きなさい。そしたら、礼拝に行きましょう……」

夏葉「やっぱり、そうね。お腹に力が入ってないわ」

甜花「え……?」

夏葉「いい? 基本は腹式呼吸よ。日常の会話とは違う声の出し方をしなくてはいけないわ」
11 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:28:10.39 ID:I+Xf9OEw0
甜花「腹式呼吸、って……」

夏葉「ボーカルレッスンで叩き込まれているはずよね。それを思い出して」

夏葉「ステージ上で歌う時みたいに。それでいて、叫ぶようにしない事を意識するのよ」

夏葉「さぁ、やるわよ。さん、はい……!」

甜花「シ……! 『シンデレラ、これで顔を拭きなさい。そしたら、礼拝に行きましょう』」

甜花「……あ、いい感じ……」

夏葉「悪くなかったわね。それじゃあ次は動きの方ね。こっちはダンスレッスンを思い出しなさい」

甜花「ダンス……?」

甜花「でも……このシーンの動きって、手を差し伸べるだけだよ……?」

甜花「だから、こう……」

特別な動きをせずに、夏葉さんに向かって手を差し伸べる。

夏葉「それだとダメよ。それは普段の動きの模倣であって、演技にはなっていないの」

夏葉「他人の目にどう映っているかを意識しなさい」

夏葉「どういう動きをしているのかを、観る人に伝えなくてはいけないのだから」

甜花「観る人……伝わる、様に……」

他人から見た自分、それは鏡に映った自分とも言えるわけで。

甜花(あ、だから……ダンスレッスンなんだね……)

頭の中での動きと、実際の身体の動きの擦り合わせ。

それを鏡を介して行う作業は、自分にとって慣れ親しんだものになっている。

甜花「こう……かな?」

背筋を伸ばして、腕を少し過剰なくらいピンと張る。

それでいて、指先を開いて柔らかく。

脳内鏡の中の自分が、しっかりとポーズを取って立っている。

夏葉「ええ、いい感じだったわ。少しぎこちない気もするけれど」

夏葉さんが満足げに頷いた。

夏葉「さて、これで発声と動作についての取っ掛かりは掴めたかしら?」

甜花「う、うん……分かりやすかった……です……」

夏葉「それなら良かった。まずは、この二つからしっかりと練習しなさい」

夏葉「なにごとも最初は一つずつ。どんなに複雑に見える問題も、そうすれば必ず解決できるものよ」

そこでようやく、夏葉さんが自分を見てくれていた事に気が付いた。

見兼ねて、助けてくれたのだ。
12 : ◆/rHuADhITI [saga]:2018/12/04(火) 23:29:47.81 ID:I+Xf9OEw0
自分が演じようとしていた場面について、つい考えてしまう。

サンドリヨンが、妹のシンデレラを教会に行こうと誘うシーン。

行きたくないと駄々をこねるシンデレラを、姉のサンドリヨンが励ますシーン。

『シンデレラ、これで顔を拭きなさい。そしたら、礼拝に行きましょう』

『いや。いやよ、サンドリヨン。行きたくないわ』

『どうして? そのために二人掛かりで、すす掃除も終わらせたんじゃない』

『賛美歌を歌いたくないの。だって、サンドリヨンみたいに、上手には出来ないんだもの』

『歌うのは好きなんでしょう?』」

『それは、そうだけど……』

『それなら、行かなくちゃ』

……

それが今の状況と、少しだけ似ていると思った。

手を引こうとするサンドリヨンと、踏み出せないシンデレラ。

教え導いてくれる夏葉さんと、勝手が分からない自分。

ただし、配役は逆さま。

自分に近しいのは、シンデレラの方だ。

なーちゃんがサンドリヨンなら、自分は、この弱いシンデレラだ。

それも、姉妹が逆さまなのだけど。

つくづく思ってしまう。

こんな自分に、サンドリヨンが演じられるのだろうかと。

プロデューサーさんは、代役に立てるべき人を間違えたのではないのかと。

甜花(……あ、プロデューサーさん……)

頭で考えただけであるが、噂をすれば、という奴だろうか。

まさに、というタイミングで、プロデューサーさんが部屋に入ってきた。

P「あ……おーい、甜花!」

プロデューサーさんが近づいてくる。
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