【ミリマス】莉緒「それでも君には戻れない」

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1 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:25:55.70 ID:qwW03Ym60


「……お話をいいですか?」

「私で……話せることなら」

「あの……ありがとうございます」

「い、いえ! お礼を言われるようなことは私は……」

「いえ、莉緒さん……お話を……お願いします」

「……えっと……出会ったのは何もない街でしたよ」




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2 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:27:06.96 ID:qwW03Ym60


出会ったのは何も無い街だったんです。
彼は喫茶店の会計で小銭を出すのに手間取った挙句、
財布をひっくり返して小銭を床にばらまいた私を笑わずに手伝ってくれたのが最初でした。

「ありがとうございます」

と言うと「いいんですよ」と返してくれました。
あの時の眩しい笑顔にやられたんだと思います。

私、今でもこの話は惚れっぽいとかを通り越して
馬鹿みたいだと自分でも思う時があります……。


3 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:27:59.77 ID:qwW03Ym60

その彼とまた出会うのは数時間後……。
私、実はこの時、なんというかその……無職でして。
お恥ずかしいことながら。


前の会社は上司のセクハラに耐えられなくて辞めたんです。
そして、私はその日、気が迷ったのか
友人に乗せられてアイドルのオーディションを受けてたんです。


もう結構大人にはなったんですけど、
どうしても子供の夢が忘れられなかったんです。


キラキラのステージに立って可愛い衣装やドレスを着て、
たくさんの声援を浴びる。これも我ながら子供みたいな夢だと思います。

4 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:28:48.47 ID:qwW03Ym60


そんな夢を抱えた中身は子供のままの私は
オーディション会場に来ていました。



「百瀬莉緒です。特技は……セクシーポーズです」

「おお、それじゃあやってみてください」

「えっ!?」



まさか口八丁で言った言葉を真に受け入れられるとは思ってなかったけど、
仕方なく私はそこでテレビの見よう見まねのセクシーポーズを披露してました。
微妙な空気になりましたけど。

私はこの時ばかりは本当に塵になって消えたいとさえ思ってました。
でも……。

5 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:29:49.09 ID:qwW03Ym60


「すみません、遅れました」



と遅れてオーディション会場の扉を開ける人が。
それがさっき喫茶店で小銭を拾ってくれた
私の後ろに並んでいた彼だったんです。



「打ち合わせの電話が長引いてて……」

とオーディションの同席者に言い訳をしている彼は
資料を受け取り、私の顔を見るなりやっと「あっ」という顔をしていました。



私は彼が気がつくまで自分で出来ると言ってやっていた
セクシーポーズを続けていましたけど。

6 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:30:53.47 ID:qwW03Ym60


彼こそが765プロの新しいアイドルプロジェクト、
その名も39プロジェクト。そのプロデューサーでした。


若いのに凄いとも思っていたけど、
童顔なだけで彼は30手前だったんですよね。


オーディションが終わったあと彼のことを私は出待ちのように待ってみたんです。

本当はそんなことするようなタイプではないのだけど、
何故だかお礼がしたかったんです。


たぶん、下心から来るものだったんだと思います。
ここで少しでもアピールを増やしておけば
あるいは合格出来るかもしれないとか、
それ以上に彼に近づけるのではないか、とか。

7 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:31:49.10 ID:qwW03Ym60



「あの……」

「ああ、さっきの百瀬さん」

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、本当はオーディション以外での接触は
 不公平になるので禁止なんですけど、
 まあ、私達は既に会ってしまっていますからね」

「そう、ですよね。あの、小銭拾ってくれたのもありがとうございます」

「いいんですよ」


8 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:32:26.86 ID:qwW03Ym60



彼はあの時と同じように優しく微笑むだけでした。
そのまま小さく「それじゃあこれで」と去ろうとして、
振り向いて言ったんです。



「これからよろしくお願いしますね」と。



9 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:33:35.48 ID:qwW03Ym60


私はその時、
自分がこのオーディションに合格したんだと直ぐに理解しました。


どうして私が合格したのか、結局は今でも分からないままでした。
彼は出待ちをするような私に見込みを感じて合格にした訳では決してないと今では思います。
そんなことではなびかない、そういう人。

10 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:34:28.13 ID:qwW03Ym60

後日、
少し経ってから合格の連絡が改めて来た時、
私は寝ていました。


朝の10時まで惰眠を貪る、
怠惰な生活を送りながら合格通知を待っていたんです。


「今から事務所に来れますか?」


という彼の声を聞いて私は飛び起きました。
それから最小限のメイクだけして急いで家を飛び出しました。

11 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:36:22.25 ID:qwW03Ym60


オーディション会場が事務所とは別だったから、
なんて言い訳をしながら私は道に迷い……
結局事務所に着いたのは12時頃でした。


彼は私に新しいジャージをまず渡してくれました。


「うちの専用のジャージです。
 うちの事務所の子はみんなこれを着てレッスンしてますから。
 百瀬さんもこれでお願いしますね」

「もう?、莉緒でいいわよ。莉緒って呼んで?」

12 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:36:49.69 ID:qwW03Ym60

「は、はぁ……。で、場所がここです。
 行き方はそんなに難しくないと思いますけど……
 うちに来るまでに迷ってるとなると少し心配ですね」

軽くスルーされてました。この時は。


この後、結局、直ぐに仲良くなったこのみ姉さんと出会うんです。
馬場このみさんです。

事務所にたまたま来ていたこのみ姉さんに
連れて行って貰ってそこで一緒にレッスンを受けて。

13 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:37:49.28 ID:qwW03Ym60



私、それからどんどんアイドルとして成長していったんです。
彼の厳しくもあり、優しさのある指導のおかげで……。


仕事で大成功を収めることもあれば、
失敗することもあったし、
その時々の自分の成果が直接跳ね返って
結果や評判に繋がるこの業界にどんどんのめり込んでいきました。

それもきっと彼のサポートがあったおかげだと思います。


14 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:38:32.55 ID:qwW03Ym60


私たちはそれから……。


「百瀬さん、今日も頑張りましょう」
「うん、任せて!」

15 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:39:02.57 ID:qwW03Ym60



「百瀬さん、今日のレッスンはいい感じだったと聞きました」

「ほんとう? ねえ、今度観に来てよ。ね?」


16 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:39:32.01 ID:qwW03Ym60


「百瀬さん、次の曲のデモです」

「ねぇ?、いつになったら莉緒って呼んでくれるの?」

「……ふぅ。百瀬さん、お願いしますね。
 一週間後にこの曲の最初のボーカルレッスン入りますから」

「はーい」

17 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:40:10.39 ID:qwW03Ym60


「プロデューサーくん、今日、夜空いてない?
 このみ姉さん達も一緒なんだけど」

「ありがとうございます、でも遠慮しときますよ。
 百瀬さんや馬場さんも女性同士で話したいこともあると思いますし」

18 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:41:47.95 ID:qwW03Ym60


「ねえねえ! プロデューサーくん!
 今度の写真撮影、クールにって言われてるの!
 でも私これにはセクシーの方が合ってると思うんだけど」


「クライアントの要望は確かにクールですね……。
 でも、このコンテンツとコンセプトなら
 セクシーで攻めてもいけるかもしれませんね。
 少し当たってみます」

19 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:42:42.41 ID:qwW03Ym60


「百瀬さん、この前の……やはりセクシーで行くことに変更になりました。
 クライアントも提案に喜んでくれていました。百瀬さんのおかげです」

「ほんとう!? やった! 撮影はもちろん立ち会うんでしょう?」

「……分かりました。空けておきます」

20 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:43:41.78 ID:qwW03Ym60


「百瀬さん、先日の雑誌、好評みたいで売上伸びてると報告頂きました」

「やった! お祝いいきましょーよ! ね?」

「今日はまだ残業があるので……
 後日、行きましょうか。他の皆さんも一緒に」

「ほんとっ!? よーし! みんなでお祝いするわよ!」

21 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:44:18.08 ID:qwW03Ym60


「みょ、ももせしゃんは……
 もっと……やればできるんですよ……!」


「あ、ありゃあ……やりすぎちゃったかしら……」

22 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:45:33.01 ID:qwW03Ym60


「……き、昨日はすみませんでした」

「いいのよいいのよ!
 みんな珍しいものが見れたって喜んでたわよ?」

「い、いえ……それでも何となく覚えている言動を
 どうしてあんな風にしたのかは分からないんです」

「大丈夫大丈夫! そんな落ち込まないで。
 ほら、とっても楽しそうでしょ?」

「なっ……写真……!? け、消してください……」

「ふふふ、だーめ♪ どうしても消して欲しかったら
 私のことを莉緒(ハート)って呼んで?」

「消してください、り、莉緒……」

23 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:46:10.24 ID:qwW03Ym60


「もっと、愛情込めて呼んでくれなきゃ、嫌?」

「……その写真、変ですから消してくださいよ」

「そ、そんなに嫌なの? 変じゃないわよ?
 全然変じゃない。私を信じて。ね?」

「……ふぅ。分かりました」

「またため息ついちゃって?」

「ですが、人には見せないでくださいね」

「はーい」

24 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:47:08.19 ID:qwW03Ym60


「痛たたた……」

「大丈夫ですか!?」

「うん、挫いただけだから……」

「病院、一応行きましょう。ステージはもう今週末なんですよ」

「うん、ごめんなさい」

「いいんですよ」

「あ、……うん。うん」

「……? どうかしました?」


25 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:48:16.25 ID:qwW03Ym60

「ううん、初めて会った時も……
 そうやってしゃがんで私のこと見てくれたなって……。
 覚えてる? 忘れちゃった?」

「なに、馬鹿なことを言ってるんですか。
 ほら、背中乗ってください。スタジオの1階まで運びますから」

「う、うん……」

「……っと……よ……う……ぐ……」

「だ、大丈夫……!? 重くない!?」

「ぐ、こ、これ……くらい……!! 重くないです! あと……」

「……?」

「……忘れる訳、ないです」



26 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:49:12.95 ID:qwW03Ym60



「……ごめんね、ごめんね……」

「いいんですよ、もう泣かないでください」

「だって、私が無理矢理出たいって……言ったから」

「百瀬さんは最善を尽くしました。
 他のメンバーも全力でバックアップをしてくれました。
 誰も責めませんよ」

「みんなが……せっかく用意してくれたのに
 ……私1人のせいで台無しにしたんだよ!?」
27 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:50:24.46 ID:qwW03Ym60

「百瀬さん、一緒に行きますから、
 百瀬さんが気が済むようにみんなに謝りに行きましょう。
 捻挫している百瀬さんをステージに立たせることを
 決めたのはこっちなんですから」

「どうしよう……私、みんなに言われることが怖い……
 絶対そんなことみんな言わないって、
 みんな優しいから言わないって分かってるのに……でも怖い」

「……最期の時を迎えたとしても味方でいます。ですから、行きましょう」


28 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:52:49.58 ID:qwW03Ym60


「ねえ、プロデューサーくん」

「百瀬さん? 今日は……オフでは?」

「そうなの。でも気がついたら来てて……何か手伝わせて」

「ありがとうございます。
 ですが、百瀬さんに手伝って貰うことはありませんよ。
 これはこっちの仕事なんですから、
 百瀬さんのお手をわずらわせることはありません」

「……そう」

「……えっと……今日は早く上がれると思うので、
 どこか晩御飯付き合ってくれませんか? ご馳走しますので」

「えっ!? 行くいく!
 じゃあ、あっちの会議室で大人しく待ってるわね!
 お店は任せて! 何食べたい?
 私今日、イタリアンの気分なのよね?!」

「イタリアン、……任せてください」

29 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:53:54.25 ID:qwW03Ym60


「……私、ミラノ風ドリアで」

「カルボナーラをひとつ」

「ねえ、プロデューサーくん?」

「はい?」

「どうしてサ〇ゼリアなの?」

「えっと……美味しいから、でしょうか?」

「……分かったわ。今日は許してあげる」

「え? ダメでしたか?」

「ううん、いいわ。……でも、次からは私がお店を選ぶわね」

30 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:54:41.68 ID:qwW03Ym60


「いい? プロデューサーくん、
 女性というのはこういう所に連れてきて欲しいものなのよ」

「……なるほど」

31 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:56:50.47 ID:qwW03Ym60



「どうして、プロデューサーくんは私のことを莉緒って呼んでくれないの?」

「どうして……? 百瀬さんの方が仕事の同僚としての呼び方は正しいと思うので」

「……私のことまだそんな風にしか見てないの!?」

「え? えっと……はい」

「……! ばか! 知らない! 私帰る!」

「え、まだコースのメニュー残ってますよ?」

「……っ!」

「……」

「……」

「……」

「……追いかけて来てよ!」

「まだ残ってるのに誰も居なくなったらお店の人が困ると思って……」

「……あー、はい。そうですか」



32 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:58:15.44 ID:qwW03Ym60


「じゃあどうしたら私のことは莉緒って呼んでくれるの?」

「どうしたら……?」

「1回呼んでくれたじゃない? もう1回呼んでよ。ね?」

「り、莉緒……」

「そう、もう1回」

「莉緒……」

「もっと優しく呼んで」

「優しく……? 莉緒」

「もっと」

「莉緒」

「好き」

「好き……。好き……!?」

33 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/01(土) 23:59:31.56 ID:qwW03Ym60

「ふふ、言っちゃった」

「……えっと……」

「ねえ、私のこと……好き?」

「……え、えっと……は、はい」

「ううん、違う」

「え?」

「好き? って聞いてるんだから、好きって答えて。私のこと、好き?」

「は、はい……好き……です」

「もう1回言って」

「好きです」

「誰のことを?」

「百瀬さんのこと」

「今のわざとやった!?」

「えっ!? あっ、り、莉緒のこと……好きです」

「ほんとう?」

「ほんとうです」



34 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:00:24.87 ID:1XyBkUcg0



「お店であんなやり取りしてたって思い出したらちょっと恥ずかしいわね」

「そうですか?」

「あ、そう?」

「り、莉緒のことが好きです。
 これは何も恥ずかしいことじゃないです」

「ふふ、まだ私の名前呼ぶのにどもってるわよ?」

「……練習します」

35 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:00:52.18 ID:1XyBkUcg0


「はぁ……はぁ……! どうだった!? ねえ!」

「ええ、完璧なステージでした。さすがです」

36 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:01:28.48 ID:1XyBkUcg0


「百瀬さん、今日のお渡し会、すごく好評みたいですよ」

「もう、莉緒でしょ? やり直して」

「で、ですが……他のスタッフもいますので」

「ふーん?」

「……り、莉緒。あまりわがままを言わないでください。
 今日のとてもみなさん褒めてくれていますよ」

37 : ◆BAS9sRqc3g [sage saga]:2018/12/02(日) 00:02:20.91 ID:1XyBkUcg0


「莉緒、ほら、もう帰りますよ」

「も、もう一件だけ行きましょう?
 ね? だって最近忙しそうで私も我慢してたのよ? ね?」

「一杯、だけですよ」

「いーっぱい、ね?」

「いいえ、一杯です」

「だめぇ?」

「伊吹さんから教わったんですか?」

「えへへ」

「だめです。一杯だけです」


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