勇者「最期だけは綺麗だな」後編

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1 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/29(木) 23:55:51.21 ID:FZAVBiDuO

※※※※※※



人間は天使でもなければ獣でもない。

だが不幸なことに、人間は天使のように振る舞おうと欲しながら、まるで獣のように行動する。



ブレーズ・パスカル




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2 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:00:03.86 ID:ACoeMgAUO

【#1】漣

村娘「ありがとうございました〜!」

「また来るよ〜」

「ご馳走さま〜!!」

バタンッ…

村娘「……ふぅ」

女将「お疲れさま。もう遅いし、今日はこれでお終い。後片付けしましょ?」

村娘「食器洗います!」

女将「うん、お願いね。今夜はお客さんが多かったから片付けも大変だわ……」フキフキ

村娘「遠くから来た人もいたね」カチャカチャ

女将「そうね。遠方から来た旅商人なんて久々に見た気がする。年々魔物は増えてるって言うし、あの人達も大変でしょうね」

村娘「一人は怪我してた。小さい奴に噛まれたって笑ってたけど、大丈夫なのかな……」

女将「きっと慣れているんじゃないの? 辞めるわけにもいかないでしょうから」

村娘「うん、子供が四人いるんだってさ」カチャカチャ

女将「あぁ、言ってたわね。そりゃあ危なくても辞められないわ……」フキフキ

村娘「奥さんも心配してるだろうなぁ。俺が魔物に喰われたら嫁は泣いて喜ぶとか言ってたけど」

女将「あははっ! あれは仲が良い証拠。だって四人も子供がいるんだから」

女将「でも、西側の教皇領から来たって言っていたから帰るまでが大変よ」フキフキ
3 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:05:59.28 ID:ACoeMgAUO

村娘「この街で荷を下ろして、都で次の荷を積んでから帰るんだって話してた」

女将「西側から南側、凄い長旅よね。あれで笑っていられるんだから尊敬するわ」ハァ

村娘「最近は街の雰囲気も暗いから、ああいう人達を見ると元気になる」

女将「そうね。最近は何だか変な感じがする。どんよりしてると言うか、ねえ?」

村娘「うん。別に、街の人達が暗いってわけじゃないのに、何なんだろ……」

村娘「それに、この前は近くの森に星が降ったって聞いた。大したことなかったみたいだけど」

女将「何かの前触れなのかも」ポツリ

村娘「え?」

女将「そんな気がするだけよ? でも、すぐに良くなる。さっきの旅商人の話、聞いたでしょう?」

村娘「勇者が龍を倒したって話? 他のお客さんは全然信じてなかったけど……」

女将「噂話だって本人も言っていたけど、西側ではちょっとした騒ぎになってるって話よ?」

村娘「それが本当なら、何で早く伝えないのかな。なんかこう、正式な?」

女将「色々あるんじゃないの? 報告とか事実確認とか、ご挨拶とか。教皇領にいるのは嘘じゃないと思うけど」

村娘「(勇者ってそんなことまでするのか……)さっきの話、女将さんは信じたの?」

女将「信じたいのよ。でも、魔物は消えていないし、やっぱり噂話なのかもしれないね……」フキフキ
4 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:07:24.34 ID:ACoeMgAUO

村娘「……」

女将「……最近、勇者のことをちょっと話してくれたじゃない?」

村娘「うん……」

女将「本当に、龍なんて怪物を倒せると思う? 龍を倒せるような人だった?」

村娘「分かんない。龍だなんて想像も出来ないし。だけど、何だろ……勇者は、戦うと思う……」

村娘「勝てるかどうか分からなくても、戦ってくれると思う。そんな人だったから……だから」

女将「……」

村娘「あたしも信じたい。そうなるって信じたい」ウン

女将「ふふっ、そうね。龍を倒してこの街にでも来たら、タダでご馳走したいわ」ニコッ

村娘「あははっ! でも、宮廷とかで食べたりするのかも……」

女将「とんでもなく偉い人に囲まれて?」

村娘「そう! お姫様とか貴族とかに囲まれて、こう、豪華絢爛な感じで、こんなお辞儀して」ササッ

女将「はははっ! だけど、本当にそうなるかもしれないね。こんな所には来ないか」
5 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:08:31.70 ID:ACoeMgAUO

村娘「でも、そういうの苦手そうだったな……」

女将「庶民的?」

村娘「庶民的って言うか、何となく同じ匂いがしたんだ。気取った感じもなかったし」

女将「田舎生まれってことかい?」

村娘「うん、多分そう。あたし達みたいな暮らしに慣れてるみたいだった」ウン

女将「へえ、会ってみたいね」

村娘「あたしも会いたい。会って、お礼がしたい」ギュッ

女将「……大丈夫よ、きっと会えるから。生きていれば、必ず会える」

村娘「その時は、あたしも料理を作りたいな。何にもお返し出来なかったからさ……」

女将「なら、頑張って覚えないとね。半端な物は出せないよ?」ニコリ

村娘「ふふっ、はいっ!」

女将「ふふっ。料理を食べさせたくなるくらい、いい男だった?」

村娘「うん」カチャカチャ

女将「あら、即答?」

村娘「見た目に反して男らしかったし、体も案外がっしりしてたし、酒も飲まなかったし」
6 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:11:10.68 ID:ACoeMgAUO

女将「カラダ、ねえ」ニヤニヤ

村娘「あっ、違う。全部見たわけじゃなくて、着替えてるのをチラッと見ただけなんだけど……」

女将「(若いわぁ)」

村娘「?」

女将「洗い物は終わった?」

村娘「あ、うん。じゃなくて、はい。洗い物は終わりました」

女将「じゃあ、今日は上がっていいわ。気を付けて帰りなさいよ?」

村娘「はいっ、今日も一日ありがとうございました!」ペコッ

女将「ふふっ、はいはい。また明日ね?」ニコ

村娘「お疲れさまでした!」

ガチャッ…パタンッ…

村娘「(わ、霧で真っ白……って言うか寒いっ。これだと、雪が降るのも近そうだ)」
7 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:12:09.62 ID:ACoeMgAUO

村娘「……行こ」

トコトコ…

村娘「(皆、帰って来てるかな。最近はあんまり忙しくないみたいだけどーーー)」

ピチャッ…

村娘「(水溜まり? 雨なんて降ったっけ? よっと)」タンッ

スタッ

村娘「(帰り道は足が軽くなる。仕事にも慣れてきたし、街にも慣れてきた)」

村娘「(あの狩人って人が来てからは何もないし、妹も前より良くなった。あれから結構経つけど……)」ピタッ

村娘「今頃、どこで何してるんだろ」

シーン……ヒュゥゥ…

村娘「………寒いっ。入ろ」

ガチャッ…

村娘「ただいま〜!!」

パタンッ…
8 : ◆IULkuZ.Noal. [saga]:2018/11/30(金) 00:17:33.29 ID:ACoeMgAUO

【#2】日々

村娘「ただいま〜!」

トテテ

少女「お帰りなさい!」

村娘「ただいま! 皆いる?」

少女「うん、今日はお姉ちゃんが最後だよ?」

村娘「そっか。ご飯はもう食べた?」

少女「ううん、皆で待ってた」ニコッ

村娘「えっ!? 帰りが遅い時は先に食べててって言ったのに……でも、ありがと」ニコリ

少女「うん!」

彼女達の日常は、何かに脅かされることなく緩やかに過ぎていく。

皆、同じ村の出身で気心の知れた仲。境遇もあって、その結束は固い。


「いただきまーす!」


この十代半ばから十代後半、年若い女性のみが住む家は、空き家を買い取ったもの。

彼女達は難民である為、移住などの面倒な手続きや審査はあったが、出すものさえ出せば、普段は顰めっ面の役人達も笑顔で迎えてくれた。

それは決して安い買い物ではなかったが、勇者に半ば強引に手渡された金貨袋に与えた打撃は微々たるものだった。

以来、その金には一切手を付けず、大事に保管してある。いざという時の為に。
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