春香「ボーダーですよっ! ボーダーっっ!」

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118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:37:50.90 ID:E+EL8HOw0


那須「あなたの相手はっ」

ドドドッ

那須「東さん、下がって!」


那須「バイパー!」

奥寺「わっ」

 乱戦に交じる奥寺を取り囲むように迂回しバイパーがあずさへ向かう。あずさはまたしても姿を消した。
 
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:38:41.87 ID:E+EL8HOw0


熊谷「玲、あたしが目になる!」

 那須の背中に、熊谷の背が重なる。

那須「くまちゃん……! おねがい…」

 
熊谷(これで360度……どっから攻撃が来ても見逃さない)

那須(どこ……!?)

 周囲にあずさの姿はない。土煙の中から攻撃が来ることもない。
 だが――
 
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:39:19.20 ID:E+EL8HOw0

ドオッ!

熊谷「なっ…!」

 足元から飛来した巨大な光弾が熊谷の体を大きく砕いた。

玲(地面のなかから……!?)


『トリオン体活動限界。強制脱出』

ドン!

121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:40:19.48 ID:E+EL8HOw0
 
 できあがったトンネルから、あずさがゆっくり歩み出る。

あずさ「ごめんなさい〜、私もこんなところに出ちゃうなんて、思わなくて」ケホッ


美希「あずさは厄介なの。キラキラがふわふわでどこに行くか分かんないの」

小鳥『大丈夫ですよあずささん。ちゃんとマークしてますから』b


 迷子の常習犯、三浦あずさ。移り気な空間認識のずれが、彼女を極めてトリッキーなテレポーターにしていた。

 どこへ飛ぶか分からないテレポート。

 分からないと分かっているからこそあずさは出た先で対処するのみ。
 考えて戦うタイプとの初戦には、滅法強いのだった。
 
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:42:33.85 ID:E+EL8HOw0

 雪歩の機銃掃射が制する戦場では、変化が起きていた。

雪歩「あっ、当たらない……!」

ドドドドド

村上「スラスター、スラスター、スラスター」

 断続的なスラスターの使用による変則軌道で、村上は雪歩のガトリングガンをたくみにかわす。

来馬「っ、とと」

村上「来馬先輩、ムリしないでください。オレが道を拓きます」

来馬「鋼、気をつけて!」
 
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:43:01.15 ID:E+EL8HOw0

村上「スラスター」ボッ

雪歩「ひゃっ」

 大型火器は火力の分取り回しは近接武器に劣る。
 対処が間に合わない――

千早「危ない!」

村上「!」

ギン!

 
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:43:27.10 ID:E+EL8HOw0

 村上の弧月の一撃を、千早の弧月が止める。

来馬「二対一にはさせない…!」ドン!

雪歩「ひうっ」

来馬「東さんお願いします!」


東『位置情報確認。そっちだな』

ドン!

 東の放ったアイビスを避け、来馬と雪歩、千早と村上で別れる。
 
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:44:22.72 ID:E+EL8HOw0

村上「オレは……オレの仕事を……!」

ギン!

千早(強い……!)

 流れるような弧月とレイガストの連撃を、千早はかろうじて弧月でいなす。


村上「使いこなしてるな…」

千早「くぅっ」

 
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:45:24.60 ID:E+EL8HOw0

 弧月の強烈な横なぎを刃で滑らせながら受ける。

 千早はそのまま村上へ向かって飛び込んだ。村上は交差気味に前に出る。


 二人の位置が入れ替わる。素早いターンで村上の背に斬りかかった千早の刀を、村上は振り返らず背に弧月を回し受けた。

千早(不安定な姿勢……押し込める!)

 村上の弧月がぶれる。下がる刃は村上が屈むと地面に突き刺さり――
 
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:46:02.85 ID:E+EL8HOw0
村上「スラスター、ON!」

千早「なっ」


 己の弧月と敵を置き去りに体育館へ向かう。勝つことよりも道を拓くことを優先した判断

 外壁にぶつかる寸前盾モードのレイガストで地面を掘り強引に減速。そのまま盾の横薙ぎで壁を取り除いた。
 守り切れるかという戦いにおいて、軍配は村上に上がった。


来馬「よし、鋼が突破口を開いた!」
 
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:46:56.84 ID:E+EL8HOw0

村上「……!」

 様子をうかがえなかった体育館内部。そこにあったものは――

村上(近界民が、住民を守って、いる)

ピッ

千早「ごめんなさい」

村上「…戦場で迷うとは」
 
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:48:09.51 ID:E+EL8HOw0

ズル

村/上「やっぱり……まだまだ……」

 千早が追いつくのは分かっていた。ただ戦場では一瞬の迷いがすべてを分けることもある。

『トリオン漏出過多、強制脱出』


 村上の体は鈴鳴支部のベッドに沈み込んだ。
 
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:49:20.12 ID:E+EL8HOw0

来馬『鋼!』

村上『……すいません来馬先輩。偉そうに言っておいて…オレ――』

 迷ってしまった。

 自分のせいで仲間を失う羽目になっていてもおかしくはない。

村上『敵は……』

 村上は言いよどんだ。なんと伝えるべきか。
 下手にありのままに伝えれば来馬を迷わせることになるかもしれない。
 
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:50:01.70 ID:E+EL8HOw0

 自分が結果的に、味方より敵を優先してしまったことを伝えるのが怖くもある。
 しかし、口に出す前に来馬が続けた。

来馬『無事ならいいよ。大丈夫?』

村上『え』

 ――ああそうだ。

 きっとこの隊長は迷ってしまったことを話しても責めない。
 それどころか、迷わないほうがおかしいと、笑うだろう。

 そういう人だ。
 
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:50:29.31 ID:E+EL8HOw0

村上『……オレは大丈夫です。気を付けてください。中を見たら、多分、驚きます』

鋼『? ……分かった、後は任せて』

村上『はい。隊長』

 次があればまた迷おう。
 迷いながら守れるようになろう。

 誓いを確かなものにするため、村上は眠りに落ちた。

 
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:53:22.55 ID:E+EL8HOw0
 

 その頃、避難によってできた無人地帯の最外部でも硝煙が立ち上った。


出水「おっと、唯我がやられた」

太刀川「いやー油断しすぎだろー」

https://i.imgur.com/1fBgMO2.jpg


沢村『太刀川隊が近界民の別隊と遭遇! 交戦開始しました!』

忍田『哨戒中のA級部隊、および付近のB級部隊は急行。その他のB級部隊は引き続き担当地区を警戒するように』
 
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:54:49.60 ID:E+EL8HOw0


真「やあっ!」

太刀川「おっと」キン

 真と太刀川、二本の弧月が激しく火花を散らす。

 太刀川の上段。弧月で受けた真がひざをつく。追撃の左袈裟懸けを手元近くへの刺突で止める。手を返し切り上げ。太刀川は一歩飛び退いた。


太刀川「へー…なかなか使いこなしてんなぁ」

真(このひと……強い……!)

太刀川「ん」

真「?」
 
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:55:38.24 ID:E+EL8HOw0

太刀川「その下げ緒……トリガーの弾丸を受け止めてそっから放出! とかすんの?」

真「え……いや……ただのストラップですけど。…武器に飾りつけちゃダメですか?」

太刀川「いやー…いいんじゃない」カワイイ

真「へへっ、ですよね」

出水(また何も考えずにしゃべってんなあの人);
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:57:11.30 ID:E+EL8HOw0


出水「っと、エモノ発見!」キン

出水「アステロイドっ!」

ドドド

貴音「なんと」

 貴音がかわしたアステロイドが、市街の塀を破壊する。

貴音「よろしいのですか? このあたりは避難したとはいえ、住んでいる方々がいるのでは」

出水「……」

貴音「……」


出水『やっぱまずいかなー柚宇さん』;
 
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:57:48.34 ID:E+EL8HOw0

国近『んーとねえ、ある程度は、しょうがないって。でもなるべく被害を出さないように。この前の侵攻のも直りきってないしね』


出水「それじゃあまあ気をつけつつ……そらっ!」

貴音「ではわたくしも」

 無数のバイパーが道に沿うように交差する。数は、出水のほうが多い。

ドドドッ!
 
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:58:40.83 ID:E+EL8HOw0

伊織「ちょ、危ないわねぇ! あんたたちのほうが街壊してんじゃないの!?」

歌川(……否定できない)

菊地原「ほんとだよね。さっさと倒しちゃってよ」

歌川「おい…」


歌川『この様子じゃ、ステルスはやめたほうが良さそうですね』

風間『構わない。木崎隊も間もなく着く。着実にやるぞ』

https://i.imgur.com/IpoNDZU.jpg
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 20:59:47.85 ID:E+EL8HOw0

響「ほっ!」

風間「!」キン

 鼠を狙う狐のような跳躍で、風間に斬りかかる響。スコーピオン同士がぶつかり合う。

 そのまま鉤爪状にしたスコーピオンで軽快に襲い掛かる響を風間が受ける。

歌川「風間さん」

真美「おっと、兄ちゃんの相手は亜美がするよん」

 援護に向かいかけた歌川を、響そっくりの動きで真美のスコーピオンが襲う。
 
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:01:06.74 ID:E+EL8HOw0

菊地原「もー…メンドいなぁ…、!」

 駆けつけかけた菊地原が足を止める。

菊地原『下がって』

歌川『!』

 菊地原、歌川、真美が飛び退く。
 そこへ火線が走った。

伊織「へぇ。さすがにやるわね」


歌川「オレたちの突撃銃型とほとんど同じだな」

菊地原「裏切り者とか……サイアクだね」
 
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:02:30.28 ID:E+EL8HOw0
 
 風間と響のほうは、打ち合うこと数十合。互いに枝刃やもぐら爪などのテクニックを高速で繰り出しつつ、まだ双方無傷だ。

風間「……やるな」

風間(獣のような野生的な動き。厄介だ)

響「キミもね! ちっさいのにすごいぞ!」

風間「……」

タッ

響「わっ!?」

 猛然と襲い掛かった風間の連撃に、響の体勢が崩れる。
 
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:04:08.49 ID:E+EL8HOw0
 
響「わわ…なんかまずいこと言っちゃったかな」

 倒れかけた響。風間は響に向かって跳躍すべく、地面を踏む。

響「へへ」ニ

 倒れかけた姿勢からの強烈な後ろ宙返り。足からは、スコーピオン。
 見事なカウンターだ。

 風間が飛び込んでいればだが。

響「えっ…?」

 一回転した響の目に、今度こそ飛び込んでくる風間が映る。
 風間は先程跳躍するように地面を踏み、スコーピオンで自分を一端地面に固定したのだ。

風間「悪いが、些細なことで熱くなる年じゃない」

響「やばっ」
 
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:04:50.62 ID:E+EL8HOw0
 
出水「げっ、ゴメン風間さん!」

風間「!」

 タイミング悪く、光弾を打ち合いながら飛び退いてきた出水が二人の目の前に現れる。
 慌てて、響と風間は反対方向に跳んだ。

国近『ごめ〜んみかみか、指示遅れた〜』

三上『構いません。無人とはいえ市街地の乱戦、連携がとりづらいですね…』

 
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:07:40.36 ID:E+EL8HOw0
 
真「てりゃあっ!」

太刀川「おっと」

トン

太刀川「お?」

歌川「あ…すいません」

 太刀川と歌川が背中合わせになる。
 歌川の前には伊織、太刀川の前には真と亜美がいた。

太刀川「いいよいいよ」

歌川「二対一ですか、こっちと連携して」

太刀川「いいよいいよ」

 太刀川はすぐに眼前の二人に向かって跳んだ。
 それどころじゃないとばかりに。心底楽しそうに。

太刀川「うお、くそぅ」

 二重に思えるほどの並行軌道の弧月の連撃。
 シンクロする敵二人の動きに、太刀川も二本目の弧月を抜かざるをえなかった。
 
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:11:20.30 ID:E+EL8HOw0
 
出水「アステロイド!!」ドドッ


菊地原「じゃまだなぁ……端っこで戦ってくれませんかね」ぶぅぶぅ

出水「おいコラ」

響「おっと、余所見してていいのかな!?」

 菊地原に向かいかけた響を、上空から影が襲う。

響「わっ」キン

緑川「お、止められた」

https://i.imgur.com/pKhCb0I.jpg
 
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:12:58.98 ID:E+EL8HOw0

出水「あれ緑川、草壁隊非番待機じゃなかったか?」

緑川「いやー待機の集合遅れちゃって。ちょうど通りすがったら、参戦してもいーよって」

響「ふ、ふふーん、いいぞ、まとめて相手してあげる!」


律子『まずいわね……だんだん敵の数が』

律子『響! そっちからまた一隊来るわ、気を付けて!』

律子『……後ろからももう一隊……これは……』
 
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:14:05.76 ID:E+EL8HOw0

┣¨┣¨┣¨┣¨ドド!!


出水「あぶねっ」バキン

貴音「これは」バキン

 飛来した多数のトリオン弾を二人のシールドが止める。
 放ったのは、回転式機関砲型のトリガー。
 木崎レイジだ。


木崎『玉狛第一、現着した』
 
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:15:00.97 ID:E+EL8HOw0
 
小南「ほらほら邪魔するとまとめてたたっきるわよ!!」ブォン

出水「なんでこっち!?」

 斧型のトリガー、双月を振り回され、出水はからがら逃げ出した。

太刀川「出水ジャマ」

出水「太刀川さんひでえ!」

 チームメイトにまで切られかけた出水は、次かすったらメテオラで一帯平地にしてやろう、と決心した。
 
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:15:55.85 ID:E+EL8HOw0

 
 どちらかといえば個人技に長けた太刀川隊と異なり、風間隊は自隊の位置取りは常に把握していた。

風間『……敵はどうやら、こっちを隊ごとに戦わせないようにしているな』

歌川『! なるほど……こっちは、隊合同の連携機会はチームに比べれば少ないですからね』

菊地原『裏切り者ほんとサイアク』


風間『乱戦の要は、まそっくりの二人だ。あれをまとめるぞ』

菊地原『了解ー』

歌川『了解!』
 
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:17:42.37 ID:E+EL8HOw0
 
 
響「いくぞ!」タン

緑川「どうぞっ」

 空中ですれ違いざま、響の背から背びれのようにスコーピオンが伸びる。

 緑川は身をひねりスコーピオンで受けた。

 二人が高速ですれ違うたびガリガリとスコーピオンの刃が削り合う音がする。

 空間を立体的に使った高速の近接戦闘。
 これに介入できる攻撃手はそういないだろう。
 
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:19:05.16 ID:E+EL8HOw0
 
 攻撃手、は。

諏訪「あ゛ーっ! ぴょんこぷんこうっぜえ!」

ドウン!

緑川「ええっ!?」バチッ

響「わわっ」バチチッ

 諏訪のショットガン型のトリガーから放たれたアステロイドは見事に広がり、響と緑川はシールドで防がざるをえなかった。

堤「ちょ、諏訪さん」
 
https://i.imgur.com/Dplv9kB.jpg
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:21:16.14 ID:E+EL8HOw0

笹森(諏訪さんかんだな今)


響「な、仲間ごと撃つなんてヒドイぞ!」

緑川「そーだそーだ!」

諏訪「うっせー緑川、ちったぁ周り見やがれ! ショットガンの最高の間合いだってのによぉ」

 B級中堅諏訪隊。到着したはいいが、周囲ではA級を中心とした激しい大乱戦。
 どこへ手を出すこともできず、響への包囲攻撃が可能な位置をとったまましばし手をこまねいて眺めていたのだが、ついに我慢の限界が来たらしい。

緑川「オレが勝てばいいだけじゃん!」

響「仲間なのに信頼してないの!?」
 
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:21:59.78 ID:E+EL8HOw0

緑川「諏訪さんのオニ! 悪魔!」

響「ふらー! ふりむん! ぽってかすー!」

緑川「オヤジくさい! 立方体!」

ピキ

諏訪「ぶっころす!」ガゥン

響・緑川「「うわっ」」バッ

諏訪「おら堤うてっ」

堤「いやいや……」
 
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:25:00.42 ID:E+EL8HOw0


太刀川「お……さすが風間さん」

真(! ……いつのまにか……一対一)

タン

 距離を取る真。しかし、太刀川は逃さず踏み込んだ。

太刀川「旋空弧月」

キンッ

真「うわっ!」

 塀、民家。そんな遮蔽物などないかのように、伸びた刃はあらゆるものを切り裂いた。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:26:35.59 ID:E+EL8HOw0

ズンッ

 切り取られた屋根が無残に落ちる。

太刀川「しまった、見失ったか。仕留めてないよなー…」


真(あ、危なかった…)

 読みの通り、真はすんでのところでかわしていた。

真(プロデューサーのを何度も見てなかったら、今ので確実にやられてたな……)

 旋空弧月は軌道はあくまで刀を振る弧の軌道。遠距離でも姿を捉えていれば予測は不可能ではない。

太刀川「どこいったー。おーい…っと」グラッ

 太刀川の踏んだ屋根の瓦が滑り落ちた。太刀川の体勢が崩れる。

真(!)ピク
 
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:27:36.83 ID:E+EL8HOw0

真(いや……)

真「ここにいますよ」

 真が現れたのは、太刀川の数メートル先。トリオン体なら一歩で詰まる距離。

太刀川「なんだ、こなかったか」

真「やっぱり、わざとですか」

太刀川「隙は隙なんだけどな」


真「……あなた、タチカワさん、ですよね」
 
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:29:16.25 ID:E+EL8HOw0

太刀川「あれ? どっかで会った?」

真「いえ。直接は。プロデューサーが教えてくれた……もしもボーダーと戦うことになった時気をつけなきゃいけない相手。その一人です」

太刀川「…プロデューサー………ふむ」

真「一対一では戦うな。765のメンバーで、あの人相手で十本勝ち越せるやつは、たぶんいない。そう言われました」

太刀川「へぇ」

真「可能性があるとしたら……それはボクだけ、とも」

太刀川「…それでか。ま、飾りにトリオン使う余裕あるくらいだもんな」

真「それは…」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:30:09.37 ID:E+EL8HOw0



P『不謹慎?』

真『はい……ボクらは、アイドルって言っても、軍人なわけですし。命がけでやってるのに……かわいくとか、そんなのやっぱり』

P『いいさ』

真『え』

P『どんな理由だろうとな。真がありたい真であることを、諦めることはないさ』



太刀川「たのしみだ」

真(プロデューサー、ボクは)

 二つの戦闘体が、同時に地を蹴った。
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:31:22.28 ID:E+EL8HOw0
 

風間「……」ザッ

真美「よっ、はっ」キン

菊地原「ほら、こっちもだよ」

 風間の猛攻に下がる真美は、菊地原が加わる前に距離を取った。

歌川「悪いなっ」ドッ

亜美「んっ」

 歌川に蹴り飛ばされた亜美が近くでたたらを踏む。

真美「亜美!」

亜美「大丈夫だ、問題ない♪」
 
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:32:22.09 ID:E+EL8HOw0


真美「お?」

亜美「囲まれちったね」


歌川「しかし、そっくりだな……」

 生身の際は髪留めや髪型で差をつける二人だが、トリオン体は一見してまったく同じだ。

風間「油断するな。まだいるかもしれん」

亜美「ヒトをゴキブリみたくいわないでYO!」
 
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:33:12.47 ID:E+EL8HOw0

真美「ふふーん、ふたりいれば十分っしょ」

菊地原「うわぁ生意気……そっくりな見た目もマネっこも、同じ場所に集めちゃえばたいした意味はないでしょ」

亜美「分かってないなぁ。ねぇ亜美さん」

真美「見せてあげようか亜美さん」


亜美?真美「「亜美たちのホントの戦闘スタイル」」

 
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:35:24.62 ID:E+EL8HOw0
 二人がトリガーを銃型に切り替え、背中合わせになる。

風間『乗せられるな。一人ずつ確実に仕留める。菊地原、右手側だ。歌川、正面の相手を止めろ』

歌川?菊地原『『了解』』

真美「はいっ!」ダンダンッ

 真美が放った弾丸を、風間、歌川のシールドが受ける。
 瞬間――

カッ

風間隊「!?」
 
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:37:28.50 ID:E+EL8HOw0

 強烈な閃光が風間隊を襲う。
 亜美の陰に入った菊地原はかろうじて視力が残ったが、風間と歌川は完全に視界を潰された。

菊地原「なにやってんですかもう」

 風間に向けた亜美真美のアステロイド十字砲火を菊地原が両手シールドで防ぐ。

風間『視覚を一時的にやられた。菊地原、三上』

菊地原『こんなうるさい戦場でやるんですか…あーあ…』

三上『聴覚情報、菊地原くんにリンクします。視覚領域、回復までおよそ十秒』


亜美「それっ」ダッ

歌川「っ」タン

真美「あり、よけられたぁ」

亜美「達人だ! ワザマエ!」
 
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:39:02.16 ID:E+EL8HOw0

菊地原「……」

亜美「おっと、いかせないぜ兄ちゃん!」パチ

 菊地原の耳は弾丸を切り替える音を油断なく捉える。

菊地原「べつに、避ければいいだけでしょ」

 閃光は殺傷力がないからこそシールドをすり抜けるのだ。目で捉えなければ関係ない。
 仕掛けの分、弾丸の弾速はアステロイドに劣る。

 避けた弾丸が背後で破裂する音を聞きながら菊地原は亜美に切りかかった。

亜美「んっふっふ?」ガキ

 菊地原のスコーピオンを止めた亜美が不敵に笑う。
 
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/30(金) 21:39:33.10 ID:E+EL8HOw0
んっふっふ〜
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:42:28.44 ID:E+EL8HOw0
 
 直後、菊地原は背後に風を切る音を聞き、とっさに身をかわした。

ドッ

菊地原「っ」シュゥゥ

 菊地原のわき腹からトリオンが漏れる。

菊地原「今のは……ハウンド?」

亜美「Exactly!(その通りでございます)」

三上『メテオラの発展形…? 片方は破裂後閃光、片方はハウンドの散弾を出すようです』

歌川「シールドで防げない閃光と回避が困難な追尾弾の二択か…! 厄介ですね」
 
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:44:00.05 ID:E+EL8HOw0

風間「……見たところ、銃型の弾丸が二種類以上切りかえられる様子はない」

 銃型は射出する弾丸が強化される代わりに弾丸の細かな調整や切り替えは利かない。

歌川「なるほど、アステロイドと一種ずつですか」

真美「お、やるねえチビ兄ちゃん」

亜美「でもこれならどう?」

亜美・真美「「ろーりんぐ〜ろーりんぐ〜」」

 くるくると位置を入れ替える二人。


亜美・真美「「さぁ行くよっ!」
 
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:47:28.92 ID:E+EL8HOw0

歌川「くっ」

菊地原『今右側が閃光。左がハウンド』

真美「えっ」

 真美の放った閃光弾から迷いなく視線を逃がしつつ、菊地原が斬りかかる。

菊地原『ていうか、聴覚共有してるのになんで分からないの? 全然声音と抑揚が違うじゃん』


真美「むむむ……ファンの兄ちゃんでもなかなか分かんないのに…」ガキン

亜美「喜んでる場合じゃないよ亜美ィ」

歌川『ということは、こっちがハウンドか』
 
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:50:13.03 ID:E+EL8HOw0
 
亜美と真美は瞬間、手を合わせる。

亜美真美「「スイッチ!」」

歌川「?」

ダンッ

 眼前の真美が放った弾丸をシールドで受け止める歌川。だが――

カッ

歌川「なっ!?」

 閃光が歌川の視力を奪う。すかさず風間が前に出て歌川を守った。
 
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:52:27.96 ID:E+EL8HOw0

風間「『トリガーを入れ替えるトリガー』か…」

菊地原「めんどくさ……うちの隊じゃなきゃ、太刀川隊でもきついでしょこれ」



亜美・真美「「スイッチ!スイッチ!スイッチ!スイッチ!」」

 銃を背に隠し、並ぶ二人は楽しそうに繰り返す。

亜美「さて、どっちがどっちでしょー」

真美「もちろん亜美たちのトリガーも声を出さなくても発動できるよ〜」


風間(相討ち覚悟で臨めば攻略できないことはないが……さて、どうするか)
 
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:54:15.73 ID:E+EL8HOw0
 
 逡巡し足を止めた風間隊。
 そこへ猛烈な勢いで飛び込んでくる一塊の筋肉。

レイジ「下がれ風間隊!」

 スラスターで加速したレイジに、風間隊はとっさに道を開ける。

真美「わぁぁ、亜美ぃ」

亜美「了解!」

カッ

 亜美の放った閃光弾がレイジのシールドで弾ける。
 真っ白な視界のなか、レイジはそのまま真っ直ぐ突っ込み――
 合流した二つの小さな体をはねとばした。

風間「これは…」
 
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:55:24.08 ID:E+EL8HOw0

――時は少しさかのぼる。


貴音「これは…いつのまにやら、こちらが誘導されていたようですね」

 出水と撃ち合いながら移動してきた貴音は、あたりに人影がないことに気付く。
 戦場の端に出てしまったらしい。

出水「なんのことかなー」

貴音「……」キョロ

出水「おっと、余所見してるヒマはないぜ! アステロイド!」

 弾速優先で放たれたアステロイドを貴音のシールドが止める。

貴音「いかせないおつもりですか」

出水「オレら邪魔みたいだし、はしっこでやってよーぜ」
 
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 21:58:46.21 ID:E+EL8HOw0

 大火力の二人が限られたスペースを弾幕で埋めるために連携がままならない。
 そう気付いた国近の進言により、出水は自分たちの戦場を末端に移した。

 邪魔されるのは出水とて本意ではない。

貴音「残念ですが…」

出水「おっと! そら、トリカゴだ」

 離脱しようとした貴音を大きく取り囲むようにバイパーが放たれる。
 時間差で放たれた弾丸で作られる三重の檻。

 逃げ遅れた貴音を出水のアステロイドが襲う。

貴音「く…」バチチッ

 貴音はシールドで防ぎつつ、次弾を放たれる前にと包囲の外へ向かう。
 
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:02:31.10 ID:E+EL8HOw0
 
出水「そう簡単に出さねー」

貴音「! 弾が戻って…!」

 出水の攻撃を両防御で防いでいた貴音はやむなく下がる。
 その隙に出水が放ったのはアステロイドではなく、またもカゴを織り成す不規則な弾丸。

貴音「あくまで……逃がさないおつもりですか」

 豊富なトリオン量を持ち自在に弾丸を操る出水にしかとれない戦術。
 さらに厚みを増した弾丸の網が貴音を閉じ込める。

出水「トリオン比べだ!」

貴音「っ」
 
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:05:30.98 ID:E+EL8HOw0
 
 狭まりつつある包囲を見やり、貴音はリズムを取るように小さく足音を鳴らした。

貴音「わたくし、こう見えてアイドルをしています」

出水「ん?」

貴音「ダンスもけっこう、得意なのですよ」

ダッ

出水「おお!?」

 貴音はバイパーの軌道に飛び込むと、周回し時間差で襲うバイパーを舞うようにかわしていく。

出水「マジか!」
 
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:06:46.26 ID:E+EL8HOw0

 一層目、二層目、三層目。
 紙一重で弾丸の網をくぐり抜ける。
 両攻撃で弾丸を放った直後。出水は追撃を放てない。
 貴音の動きを見ることしかできない。

出水「――でも甘いぜ」

貴音「!」

ドッ

シュウウウ…

貴音「そんな…」

 突如不自然な動きを見せた弾丸に、貴音の肩からトリオンが漏れていく。
 
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:19:56.28 ID:E+EL8HOw0

出水「それはおれの視線誘導」

 包囲網の外殻部の弾丸は、バイパーではなくバイパーをなぞるように動かしたハウンド。
 それだけのことだが、それをアステロイドと同時に貴音に向けずにいられるのが出水だ。


烏丸「うわ出水先輩エロいすね」

出水「エロ!? んだよ京介、混ぜっ返しに来たのか」

小南「え、エロ……サイテー」

出水「な、なんだよお前ら、なんでこっちに…うおっ」

 襲い来る突撃銃の弾丸。出水はとっさに身をかわす。


伊織「貴音、無事!?」

貴音「伊織……助かりました」
 
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:23:23.31 ID:E+EL8HOw0
 
出水「ちゃんと抑えとけよ!」

烏丸「いやーなかなか手強いですよ」

出水(こいつら、もしかして…?)


出水「あーくそッ、乱戦上等! もらうぜ! メテオラ!」

 炸裂弾の群が伊織に向かう。

貴音「あなたの相手は、わたくしです」

 視線は戻した出水は、目を見張った。
 
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:26:31.01 ID:E+EL8HOw0
 
出水「な、んだー? 波状バイパー!?」

 迫りくる蛇行する弾丸。

出水(避けながら反撃――)

出水(ムリだ、軌道が読みづれえ)

出水「シールド!」

 波高をカバーする巨大なシールドで弾丸を防ぐ。

出水「くそ、トリオンがもったいねえ」

 防いだのも束の間、出水の視界に飛び込んできたのは時間差で襲い来る多種多様な波状のバイパーだった。
 
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:27:49.45 ID:E+EL8HOw0

出水「酔いそーだ……そっちも十分やらしいじゃねーか」

貴音「なんと、せくしゃるはらすめんとというものですか」

烏丸「出水先輩…」

小南「……」

出水「なんでだよ!? 虫を見るような目で見んな小南!」


 軽口を叩きつつ更に二発防ぐ。
 目の前で弾けた弾丸が消えたところで出水は異変に気付いた。
 貴音の姿がない。


出水(いない……はずは、カメレオン!?)
 
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:34:09.81 ID:E+EL8HOw0

 水平方向に大きく波打つ遅めの弾丸に臨みながら辺りを見回す。

出水(けどカメレオン使ってちゃシールドも追加の弾丸もなしだ。この一発を受けたらあいつらごと更地にしてやる)

 不穏な決意を秘めつつシールドを張った、ところで――

貴音「ふふっ、ここです」

出水「んなっ!?」

 バイパーの着弾と同時に眼前に貴音が現れた。
 あたればただでは済まないゴム跳びをしてきたのだと、思い当たったときには手遅れだった。

出水「シールぶげっ」

 出水の頭を足蹴に貴音が跳ぶ。
 
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:37:49.92 ID:E+EL8HOw0
 
 勢いをつけて、そのまま校庭に躍り出た。

出水「んなろ…! 後悔させたる」

 遮蔽物のない戦場はトリオン量の差が直に反映される。
 ボーダーでも上位のトリオン量を見せてやろうと校庭を見据える。

国近『あ、ごめーんいずみんストップ』

出水『なんだよ柚宇さん!?』

国近『いずみん禁止令出ちゃった』

出水『ナニソレいぢめ!?』
 
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:40:07.30 ID:E+EL8HOw0

国近『今みんなあのケムの中で戦ってるんだって。民間人も近くて危ないし外しても土煙がすごいから、外からバシバシ打たれるとまずいみたい』

出水「ちぃ」

 出水はなす術なく貴音の後ろ姿を見送る。

出水「そーだ、他はどうなった?」

 振り向いた出水の目に飛び込んで来たのは、空を翔ぶ双子の姿。

出水「……!?」

 そのまま出水の頭上を越え、校庭へと着地する。

 
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:40:37.60 ID:E+EL8HOw0

真美「よしっ!」

亜美「いくよっ!」


出水「おいおい」


諏訪『おい緑川バカふざけんな!』

堤『ポニーテールの近界民が緑川と斬り合いながら校庭へ侵入します! 注意してください!』


出水「まじーだろ、これ」;
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/30(金) 22:47:21.37 ID:E+EL8HOw0


伊織「よし……あとは私と真だけね。一気に…」

迅「おーっと待った」

伊織「!」

迅「よくがんばったけど、この実力派エリートが来たからにはここまでだ。大人しくつかまってくれないかな?」

伊織「……はいどうぞなんて、言うと思う?」

迅「キミはおれには勝てないよ」


迅「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 21:59:49.17 ID:qjCsPmJgo
期待

まさかあれの続きが読めるとは
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/08(土) 23:16:01.75 ID:xR/veSGp0
更新はもうしばしお待ちを……。また忙しくなっちゃった
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 22:08:42.93 ID:eogXu7Apo
待つわ
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 00:23:23.52 ID:ou4QE3nh0
次回月曜更新予定
190 :ぱくり屋 ◆zfDCN0YmXY :2018/12/17(月) 20:12:10.29 ID:2v6yyusw0


 また時を遡り、村上が体育館に突入し、切られた直後のこと。
 壊されたのとは別の壁面にある封鎖された出入口が、乱雑に切り払われた。

 飛び込んできたのは、三輪秀次。

遊真「む」

修「三輪先輩…!」

 相対した修と遊真にすぐには応えず、三輪は銃を構え、周囲を油断なく見渡す。

三輪「三雲、敵は何人だ」

修「三輪先輩、待ってください」

三輪「……。何か誤解しているようだな」

修「……?」
 
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:13:16.79 ID:2v6yyusw0

三輪「戦闘が開始した原因はこちらの誤射だそうだ。こちらの意向を改めて伝えたい! 責任者はどこにいる?」

 朗々とした声が体育館に響き渡る。

やよい「あっ、今みんな出はらってて……私がおはなしをききます!」

遊真「まてヤヨイ!」

三輪「そうか、一人か。…それで人質を奪還できないとはな」

修「見てのとおり、彼女たちは人質を傷つける気はありません! むしろ」

 焦りながら早口に伝える修に、三輪は舌を打った。

三輪「所詮玉狛か」
 
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:14:58.28 ID:2v6yyusw0

 三輪がホルスターから何かを取り出し、放った。
 小さな空き缶サイズのそれは、地面に転がるとともに猛烈に白煙を吐き出し始める。

修「トリガーじゃない…!?」

 通常兵器はトリオン体にほとんど効果はない。それでもトリオン体も視覚で認識することには変わりない。
 通気性の悪い体育館が、煙で埋めつくされていく。


やよい「ぅ、どうしよ、どうしよう」
 
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:16:06.88 ID:2v6yyusw0

修「……千佳! シールドで吹き飛ばせるか!?」

千佳「あっ、うん……やってみる!」

 千佳は巨大なシールドを張り、それを振るった。
 動かすと耐久の落ちるシールドだが、風を起こす程度には支障がない。
 外壁に空いた穴から煙が吹き飛んでいく。

三輪「とらえたぞ……! 近界民!」

やよい「えっ…!?」

 煙幕の効果は目くらましだけではない。煙の動きは、やよいの巨大なシールドの上部の開放部の存在を明らかにしていた。

 三輪はすでに、シールドのなか。
 
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:17:17.78 ID:2v6yyusw0

ガッ

やよい「あうっ」

 蹴り飛ばされ、吹き飛んだやよいのシールドが消える。
 手から離れたマイクが転がる。

三輪「玉狛の狙撃手、民間人を守っていろ!」

千佳「えっ、あっ、わたし…」

 三輪は千佳の返事も聞かず、やよいに向けて弾丸を放った

修「待ってください!」

 修のシールドが攻撃を阻む。

三輪「ジャマをするな! 何を考えている!」
 
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:17:47.14 ID:2v6yyusw0
 
 激昂する三輪に対する反論は、予想外の方向から入った。

モブ「あんたこそ何考えてんだ!」

三輪「な、に…?」


二ツ木「そ、そうだよ、危ないじゃない! こんなやり方…」

三好「横暴だー! 嵐山さんや三雲はうまくやってたのに!」

ソウダー

ヒッコメー

三輪「……やはり指令の危惧したとおりか」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:20:09.03 ID:2v6yyusw0
 


城戸『敵のトリガーは、音を用い人を洗脳するものである可能性がある』

城戸『仮に交戦になった場合、敵音響兵器の奪取または破壊に留意するように』



三輪(あれか――)ダッ

 罵声を背後に、三輪はやよいの落としたマイクを拾った。

三輪「きみたちは洗脳されていただけだ! 正気に戻れ、近界民は敵だ!!」

 大音声が響き渡る。体育館中の視線が三輪に集まる。

三輪「近界民を排除するんだ! これ以上奪われないために! 流された血に報いるために…!」
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:22:02.05 ID:2v6yyusw0

 悲痛なほどの訴えが反響し……体育館は静まりかえった。
 しかし誰も三輪の声に応えて同調する者はなく、集まったまなざしはいまや、痛々しいものを見るそれだ。

三輪「くそ……! ならば!」

三輪の弧月がマイクを二分し、アステロイドがスピーカー状のトリガーを次々打ち抜いていく。

三輪「陽介!」

米屋「今いく今いく、がなるなよ」

 壊れた入り口からバックステップで米屋が入り込む。

三輪「中の敵は一人だ、早急に片付けるぞ!」
 
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:22:51.98 ID:2v6yyusw0

奥寺「援護します」

 東隊奥寺も突波に成功したらしく、中へと合流する。

三輪「玉狛と嵐山隊は操られている。まとめて排除しろ」

やよい「っ」

遊真「ヤヨイ、ここはオレたちに任せろ」

やよい「でも」

遊真「みんなを頼むぜ」

やよい「……はいっ」

米屋「んだよ、またこーいう感じ?」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:29:51.04 ID:2v6yyusw0
 
米屋「よっし白チビ、今日こそオレと」

時枝「させないよ」

ガガガッ

三輪が前へ出た一方で、時枝のアステロイドが米屋を下がらせる。

米屋「ちぇー…まぁいいや。やるか、トッキー」

時枝「槍を収めてくれれば話は早いんだけどね」

米屋「秀次を説得できんならな」

200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:32:08.32 ID:2v6yyusw0


ガキン!

修「くっ」

三輪の強烈な斬撃が修のレイガストを揺るがせる。

三輪「奥寺、1…30秒でいい、そいつを止めろ!」

 奥寺は遊真を指さす三輪に頷くと、即座に修に向かって跳んだ。

遊真「!」

修「?!」

すぐに追いすがった遊真に、振り返りざま切り掛かる奥寺。
とっさに受けざるをえない遊真は、スコーピオン二本で弧月を受け、跳ね飛ばされた。

遊真「やるね」
 
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:32:58.38 ID:2v6yyusw0
 
遊真(命令を意味でとって実力差を考えて動いた……普段考えさせてくれるタイプの隊長についてる、かな)

奥寺(彼は実質5桁級……真正面からは当たれない)

 稼ぐ時間が修を倒すためのものなら、遊真は当然それを阻止しようとする。


修(まずい…!)

 鉛弾が修の左手を沈める。弧月がレイガストにヒビを入れる。
 戦術が浮かばない訳ではない。ただ圧倒的な実力差が戦術を行使させない。
 
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:33:35.12 ID:2v6yyusw0

三輪「終わりだ!」

修「っ……!」

 レイガストを潜り抜けた弧月はとっさのシールドをやすやす砕く。

修(防げない――)


ガキッ

三輪「なに…!?」

 刃は、修の眼鏡に当たり止まった。
 
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:37:54.07 ID:2v6yyusw0
 
 横様から差し挟まれた刃が三輪の刀を止めていた。

千早「下がってください。ミクモさん」

三輪「近界民…!」

 千早は至近距離で放たれた鉛玉を素早い足さばきでかわしていく。
 三輪も下がらず、半身になりながら放たれた弾丸を最小限のシールドで止める。
 二本の弧月がぶつかる。

千早「お願い、聞いて。私たちは、戦いたくは」

三輪「近界民は敵だ! 近界民の事情など知ったことか…戦いたくないなら自分の国に引きこもっていろ!!」

 怒りのままに振るわれる刃。
 千早の刀が受け止める。
 
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:39:11.38 ID:2v6yyusw0
 

 一方村上の空けた穴からは、雪歩の弾幕を潜り抜けた加古隊が入りこんでいた。

嵐山「加古さん……退いてくれ」

加古「嵐山くん……これは、どういうこと?」

嵐山「彼女たちに人質を傷つけるつもりはない。俺たちが手を出さなければ、彼女たちが危害を加えることはない。だから」

加古「命令で来ているのよ……無視するわけにはいかないでしょう?」

嵐山「しかし」

加古「いい加減になさい嵐山くん」
 
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:40:11.32 ID:2v6yyusw0
 
 構わず歩を進めようとした加古の前に、嵐山は大きく手を広げて立ちはだかる。

加古「やるなら自分ごとやれ、とても言いたそうな顔ね……」

嵐山「加古さん。ここで戦闘を開始するのを、俺は見過ごせない」

加古「仕方ないわね……」

 ため息をついた加古に表情をゆるめる嵐山。だが――

加古「じゃ、お望みどおりに」

 加古の掌にトリオンキューブが浮かぶ。

加古「アステロイド!」

嵐山「!!」
 
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:41:11.17 ID:2v6yyusw0
 
 今の二人の距離はどちらかといえば射手ではなく攻撃手の間合い。
 オールラウンダーの嵐山がやや有利か。

 だが加古は射手だから接近戦は苦手などというレベルの射手ではない。

 己の周囲にカーテンのように攻撃を降らせる。

 同時に、嵐山にもアステロイドが向かう。
 嵐山が避ければ、やよいと千佳のシールドがあるとはいえ、弾丸は生徒たちのほうへと向かう。

 副と佐補のいるほうへ。

 加古はもっと深く考えるべきだった。
 弟妹を側に置いた嵐山准に攻撃を加えることの意味を――
 
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:42:52.91 ID:2v6yyusw0
 
 嵐山のシールドがすべての弾丸を止める。

加古(攻撃手用トリガーに切り替える隙は与え――!?)ガゴン!

 衝撃。


 右腕がひび割れている。何が起きたのか。

 シールドをそのまま激しく叩きつけたのだと気づいたときには、目の前に嵐山がいた。

加古「っ」

 本当に嵐山なのか? 癖毛が角に見える。形相は間違いなく――
 
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:43:49.85 ID:2v6yyusw0
 
ドゴッ

 凄まじい勢いで蹴り上げられた加古を追いかける突撃銃の弾丸。
 何をする暇もなく。
 最高地点に達する前に追いついた弾丸が加古を蜂の巣にした。

『トリオン漏出過多。伝達脳損傷。トリオン器官破壊。強制脱出』


ドン!
 
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:44:22.11 ID:2v6yyusw0

――


加古(………)

加古(生きてる……?)

 体がまだ震えている。嫌な汗が頬を這い落ちた。

 加古は体を横たえたまま、弟妹を背にした嵐山とは二度と戦うまいと誓った。

――

 
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:45:37.50 ID:2v6yyusw0


 加古と嵐山が向き合ったのと同時刻、木虎は双葉と対峙していた。

木虎「退いてくれないかしら、双葉ちゃん」

双葉「……正気ですか?」

 間合いは嵐山vs加古と同距離。つまりはこちらは攻撃手の双葉が有利だ。

木虎「ここで攻撃してしまっては、ボーダーの恥になるわ」

ピク

 双葉の表情は、どうみても好意的ではない。

双葉「よく言えますね。そっちこそそれ、裏切りじゃないんですか」

ドッ

加古のアステロイドの砲声を合図に双葉が跳ぶ。
 
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:46:56.21 ID:2v6yyusw0
 
木虎「…仕方ないわね」

 剣戟の音が鳴り響く。

 どちらかといえば攻撃手寄りの万能手である木虎だが、今は自身のトリガーではない。

 幸いにしてスコーピオン、銃型のアステロイドという部分は同じだが、残念ながら得意のスパイダーもセットされていない。

 いつもとまったく同じというわけにはいかない。
 双葉の鋭い連撃に?に小さな傷を作った。

双葉「テレビばっかり出てて……なまったんじゃないですか」

木虎「早いわね、嵐山先輩…」

双葉「?」
 
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:48:19.45 ID:2v6yyusw0
ドン!

双葉「うそ……!? そんな、なんで…!?」

 信頼する隊長の強制脱出。理解しがたい現実が双葉に降りかかる。

木虎「あらためて言うけど、退いてくれないかしら?」

双葉「っ、そんな、ことっ」

 双葉は素早く回り込み、嵐山を木虎の背後に置いた。その上で木虎に打ちかかる。

木虎「仕方ないわね。教えてあげるわ」

双葉「また上から目線」

木虎「嵐山隊はボーダーの顔」

双葉「だからなんです。八百長してくださいですか?」
 
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:49:09.98 ID:2v6yyusw0
 
 双葉はあえて煽るような態度をとった。
 木虎は自分に好意的だ。冷たくあしらうと、いつも残念そうにする。
 わずかでも隙が生まれれば。

 だが――

双葉(あれ?)

 木虎はうすく笑みを浮かべた。

木虎「大勢が見ているなかでふがいない真似はできない」

双葉「!」

 木虎がアステロイドをホルスターに収め、大上段に構える。
 露骨に隙の大きな構え。
 
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:50:11.28 ID:2v6yyusw0

双葉(罠……? それでも!!)

ダン!

 双葉が踏み込む。待てば嵐山との合流を許すことになる。

 低い構えから繰り出されるスコーピオン。木虎の振り下ろしより速い。
 双葉の左手のスコーピオンが木虎の脇腹に刺さる。

双葉(急所をねらうと隙ができる、このままヒット&アウェイで…!?)

 飛び退こうとした双葉の体勢が崩れる。

双葉(抜けない!? そんな、こんなの――)
 
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:51:10.08 ID:2v6yyusw0
 
双葉(筋肉で刃を止めたとでも…そんなマンガみたいなことできるはずがっ)

 仮にそれができるにしても中学生の女性の筋力では無理があるだろう。
 だがそんなことは関係ない。
 トリオン体を動かすのはイメージだ。
 確固たるビジョンとそれを成すトリオン量があれば、イメージは実現する。

木虎「双葉ちゃんのためにもね」

双葉「何がっ」

 束ねた二本の木虎の刃が、双葉をスコーピオンごと切り裂いた
 
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 20:59:52.38 ID:2v6yyusw0
 
『強制脱出』

ドン!

木虎「……ふぅ」シュゥゥ…


嵐山「木虎」

木虎「嵐山先輩」

嵐山「トリオン体を歪めて挟み込んだのか。ムチャしたな、大丈夫か?」
 
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:00:59.19 ID:2v6yyusw0

木虎「はい。あのコがはねまわれば危険ですから」

嵐山「ああ、よくやってくれた!」

木虎「…いえ、当然です」

 ボーダーの顔。
 それは、嵐山隊への評価はそのままボーダーへの評価になるということ。
 ボーダーが負け、市民を守れないなどあってはならない。

 例え相手が、なんであろうと

木虎「そのために私たちはいるんですから」

 
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:03:50.03 ID:2v6yyusw0
 

 嵐山隊の三人目、時枝は、三輪隊米屋と対峙していた。

米屋「この距離援護なしでオレを止められるつもりかー? トッキー」

嵐山と木虎は遠い。遊真と修は三輪、奥寺にかかりきりだ。
砂煙立ち込める校庭とは違い全体も見渡せる。
少なくとも背にした体育館の壁が破られるまでは、米屋は目の前にだけ集中できる。

時枝「さぁ、どうだろう」ガガガッ

米屋「おっと」

 素早い跳躍で初撃をかわすと、米屋はそのまま時枝に迫る。

米屋「そぉら! よっ!」

 米屋の槍の性質をよく知る時枝は大きく槍をかわす。
 かわしながら引き金を引くことも忘れていないが、散発的な攻撃はかわされ、防がれていく。
 
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:07:39.39 ID:2v6yyusw0
 
米屋「決め手に欠くぜトッキー!」

 シールドを張り、低く身構える米屋。

米屋「このままイッキに…」

時枝「それはどうかな」

 時枝の銃から放たれる弾丸が、シールドを迂回するように軌道を変える。

米屋「…と、思うじゃん?」

 シールドを押すように一歩。
 弾丸は、前に出て足を止めた米屋を囲うように迂回してしまう。

時枝「さすがに簡単にはいかないね」

米屋「さすがはトッキー、けどこれで、正面ガラ空き!」
 
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:09:15.76 ID:2v6yyusw0
 
時枝「……と、思うでしょ?」

ビビッ

米屋「んなっ」

 背後から飛来した攻撃が米屋を貫き、床に弾痕を残す。

シュウウウ…


米屋(今のはまさか)

 弾痕は至近に二つ。米屋は知っている、そんな特徴的な攻撃を。
 シールドを張り退きながら、米屋の脳裏に浮かぶのは一人の狙撃手。しかし――

米屋(狙撃? んなバカな、通信もできない、射線なんてもちろん通ってねーぞ?)
 
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:11:53.79 ID:2v6yyusw0

 背後を窺うも、体育館の外壁は小さな覗き穴を増やした他はすべての景色を遮っている。第一、視えているなら今の隙に急所を射抜けるハズだ。

米屋(あんな小さな穴じゃ多少数があって、も――)

米屋「……そか、弾丸は外に出てったんだよな…」

時枝「広報の仕事ってけっこう待ち時間が多くてね。このパターンのバイパーが出たら、その中心を撃って、なんて、合図や連携を考えたりするんだ」

米屋「やってくれんなー…」シュゥゥ…

 被弾した脇腹からトリオンが漏れていく。致命傷ではない。しかし――

 
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:12:49.74 ID:2v6yyusw0

奥寺「すいません、落ちます」ドン!

 双葉、奥寺が相次いで倒され、三輪も千早に止められている。

米屋「まじーなー……」


佐鳥(撃ってよかったんだよね…? 通信できないってこえー)ドキドキ
 
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:13:46.61 ID:2v6yyusw0

 更に三輪の空けた穴から、一人の少女が駆け込んできた。

春香「えーいっ!」

米屋「おわっ!」

 鉛弾を受けたロケットランチャーを鈍器として振り回す春香。
 米屋は時枝の動きに気を配りつつギリギリでかわしていく。

米屋(おいおい、後続に任せたつもりが……まさかみんなやられたのか?)

米屋「秀次ぃ!」

三輪「っ!」

 千早を跳ね飛ばし三輪が大きく退く。
 三輪隊の二人が背中合わせに合流した。
 
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:14:49.81 ID:2v6yyusw0

米屋「この孤立ぶりはおかしくねーか? 敵さんにブラックトリガーでもいたかね」

 笑顔を浮かべつつ聞くが、目は笑っていない。
 三輪は答えるかわりに左手を口元にあてた。

三輪「聞こえますか。こちら三輪」

 電波による通信妨害はトリオン通信には意味がない。
 逆の可能性もあるとみて渡された一部隊員にだけ渡された無線は、果たして機能していた。
 しかし本部の指示を聞いた三輪は、怒りと困惑に目を見開いた。

三輪「撤退…!? そんな――」

 
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:16:41.04 ID:2v6yyusw0

千早「退くのであれば、私たちは追いません。ここで戦うのは、危険すぎる」

 落ち着いた、気遣わしげでさえある千早の声。
 それが罵倒の言葉であったかのように、三輪は口元を歪めた。

三輪「本気でそう思うのなら今すぐ消えろ。ここはオレたちの世界だ。他人の世界を我が物顔で踏み歩いておいて今更――」

千早「今から、では、やり直せないでしょうか?」

三輪「……今からやり直す?」

千早「ええ。私たちはお互い――」
 
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:17:23.45 ID:2v6yyusw0

三輪「はっ、ハハハ……ははははは」

 ひどく乾いた哄笑。絞り出すように。

三輪「やり直すか。それはいい。だったら近界民が殺した人を――姉さんを――」

 そこまで口にして、三輪の表情が消えた。

三輪「退くぞ陽介」


陽介「……おー」

 言うが早いか、踵を返し、周囲へ警戒しつつ飛び退く。
 冷静沈着に、一見平静に。
 しかし最後の一瞥にこめられていたものは、疑いようなく、憎しみだった。


千早「………」
 
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:19:30.45 ID:2v6yyusw0


 にわかに静寂を取り戻した体育館。
 だがすぐに戸惑いのざわめきが広がっていく。

オワッタ…ノカ?

ナニガドウナッテルンダ?

嵐山「……油断するな、木虎」

木虎「はい。……! 誰か来ます」
 
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:20:01.56 ID:2v6yyusw0

春香「わわっ、待ってください、私たちの仲間です!」


亜美「はるるん!」

真美「どーなってんの!?」


 続々と、壁に空いた入口からバンナムの面々が入り込む。
 急激に混乱が収束を迎えたため、近場に退く以外の選択肢はなくなっていた。


 
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:20:44.05 ID:2v6yyusw0

響「ふむふむ、そうだったんだ……助けてくれてありがとね!」

木虎「勘違いしないでください。一時的な利害の一致です」

雪歩「四条さん、真ちゃんと伊織ちゃんは…」

貴音「申し訳ありません、合流を優先に動いたので……今現在どこにいるかまでは…」

千早「美希、外はどう?」

美希「んとね狙撃手さんはまだ何人かいるかな。他の人たちは行っちゃったよ?」

千早「まだ、警戒しておいて頂戴」

美希「はーい」
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:21:37.66 ID:2v6yyusw0

あずさ「すこし、ふしぎね〜。まだまだ、あちらのほうが有利だったと思うのだけど〜」

春香「……そう、ですよね」

小鳥「ちょっと待ってね。妨害トリガーは停止させたから、もう間もなく通信が回復するわ」

231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:22:52.58 ID:2v6yyusw0


―――本部


城戸「罠の設置は」

冬島『なんだか派手にやらかしてたようですが、こっちは予定の通りで準備完了』

冬島『燻り出してさえくれりゃ、そうそう脱出はできんと思いますよ』


城戸「……いつでも発動できるようにしておくように」


冬島『りょーかい』

232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:23:26.05 ID:2v6yyusw0

忍田「学校の様子は?」

奈良坂『戦闘収束に伴い、敵はほぼ屋内へ撤退。金髪の近界民は補足しています』

当真『隊長、オイ隊長や』

冬島『なんだぁ当真ぁ』

当真『ダメだわ。当たる気しねー』

冬島『……おまえが言うならそうなんだろうな』
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:30:40.37 ID:2v6yyusw0

――

奈良坂「またあの人は何を……」ジッ


美希「……」ニコッ

ヒラヒラ

奈良坂「馬鹿な!!」バッ


――

奈良坂『気付かれてる! 手を振られた!!』


鬼怒田「なにぃ!?」

忍田「1km近く離れても効果がないか……」
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:31:37.12 ID:2v6yyusw0

当真『奈良坂、奈良坂』

奈良坂(クソ、一体どんな…!? 移動してもムダか…?)タッ

当真『奈良坂オイきのこ!』

奈良坂『っ、なんなんだ当真さん!』


当真『手ぇ振られたって言ったが、目は合わせてもらったか?』

奈良坂『目……?』

奈良坂(目線は……。……!)
 
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:32:16.23 ID:2v6yyusw0

奈良坂『合わせられなかった…!』

当真『そーか』

奈良坂『ということは』


当真『ああ……脈ナシだな。残念、ただのお愛想だ』

奈良坂『』ガク

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:32:52.85 ID:2v6yyusw0

忍田『つまり、金髪の近界民は』


奈良坂『ええ。こちらの向ける意識を感知するようですが、この距離の相手の位置を正確に補足できるものではないようです』


忍田『当真、奈良坂、よくやった』


鬼怒田『意識を捉えるサイドエフェクト……影浦と同系統のもんか』

忍田「となれば伏兵や狙撃よりむしろ誘導弾……バイパー、ハウンドでの集中砲火が効果的だろう」

城戸「目であるその近界民を叩けば、狙撃も可能、か」


城戸「頃合いだな」
 
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:35:13.64 ID:2v6yyusw0
 

――体育館



小鳥「っ、通信来たわよ! 律子さんから!」

律子「……すいません、私のミスです」

小鳥「え?」

 
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:36:10.58 ID:2v6yyusw0



太刀川「いやー……楽しかった」

真「……く……」

太刀川「わるいね。弧月同士で近界民に負けたなんてことになったらお師匠に殺されちまう」




律子「真と伊織が……ボーダーに捕まりました」

小鳥「っ」

律子「ともかく、私は船を動かして――」

?「動くな!」

?「人型近界民だな…!」

律子「なっ」

ガッ

ザザッ

小鳥「律子さん!? 律子さん!?」

嵐山「今の声は、茶野と藤沢かな……」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:37:31.97 ID:2v6yyusw0
 

美希「みんな、誰か来たよ、一人みたい」

春香「ひ、一人?」

嵐山「あれは…」

三雲「迅さん!?」


春香「迅さん……? 迅さんって――」

迅「あー、自己紹介はいらないかな。まぁ、細かい話は後回しにして、要件を言わせてもらおう」
 
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:39:51.45 ID:2v6yyusw0

迅「おでこのコ……伊織ちゃんだっけ。は、おれが捕まえた。そんで、城戸司令に交渉役を任せてもらってね」

三雲「迅さん、聞いてください、彼女たちは交戦がしたいわけじゃなくて…」

迅「さきに言っとくよ。ごめんな、メガネくん」

三雲「っ」

迅「なんとかしてやりたいのは山々なんだけどね」

迅「おれがそっち側についちゃったら、城戸さんは天羽まで使うだろ。こうするほうが、安全だ」

迅「結果的に、こっちは人質作戦に屈しないと示しちゃった。そんでそっちは――悪いね」

迅「キミたちは人質を絶対に傷つけない。分かるんだ。だからもう、学校に立てこもる意味はない」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:42:42.11 ID:2v6yyusw0

迅「一応言っておくけど。キミたちがボーダーの守りを撃破して仲間のところにたどり着くのも無理だよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」

春香「…っ」

遊真「……ふむ。ほんとうみたいだな」

修「そんな――」


迅「こっちの要求は、こっちの人間全員の解放と投降」

迅「あきらめて投降してくれれば少なくとも全員命は助けられる」

迅「相談する時間はくれるそうだ。期限までに投降しろってさ」

 告げるだけのことを告げ、迅は学校に背を向ける。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:43:17.19 ID:2v6yyusw0

修「ま、待ってください!」

迅「メガネくん……おれだって、助けてやれないこともある」

修「でも迅さんなら」

迅「おれの答えは言ったよ。あとは」


迅「キミたちが答えを出す番だ」

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:45:20.24 ID:2v6yyusw0



三好「そんなのって――ないだろ! この人たちが実際なにかしたわけじゃないのに――」

二ツ木「みよっしー、帰りたくないの?」

三好「そりゃ……帰りたいのは確かだけど、それより」

四ツ谷「後味悪いよな……このまま解放されてもさ……」

一之瀬「あの……話し合いはできないのでしょうか…」


唐沢「……何を話し合うのかな。人質を人質にしていないとわかったいま、差し出せるものがないと話し合いにはならない」


春香「あの……、私たちのことはなんでも話します。なにか……できれば、皆さんの知ってることも教えていただけたらその」

嵐山「そうだな、手があるか考えてみよう」
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:51:28.64 ID:2v6yyusw0

亜美「あっそだ、亜美たちが知ってる国とかのこと話すからーってのはどう?」

嵐山「…それは――」

遊真「あー……それだとおれ、こっちにつかないほうが良かったなー」

修「? ……あ、そうか。空閑のサイドエフェクトも頼れないし、すり合わせられる情報も限られるし、信憑性が――」

真美「てかてか、ダイジなハナシ話せないっしょ? 今まで会った人たちの」

亜美「まーね」

貴音「信頼は積み重ねるもの……その前から崩すことになりかねません」

唐沢「どちらにせよ、喫緊で使えるものでないと価値は薄いよ……情報は足がはやいからね」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:52:35.39 ID:2v6yyusw0

千早「向こうは降伏か全滅させれば、トリオン艇二隻に、多数のトリガー、トリオン・情報源である私たちが15人手に入る……それに見合うとなると――」

美希「それか、美希たちを全滅させられないって思う方法……なんかあれば?」

出穂「アタシらが傷つけられた風に見せかけるとかは」

春香「すっごく、ありがたいんですけどそれは……ごめんなさい」

出穂「あー。そっちの人たちつかまっちゃったんでしたね…」

響「それもだけど……やっぱ、フリでも傷つけるのは、それで乗り切っても後がね」

やよい「あのっ、ほんとはもっともっとつよいんだぞーって思ってもらえたらなんとかなりますか?」

嵐山「……ボーダー側の切り札は、この校舎を一瞬でぺしゃんこにできる。それを上回るくらいでないと、難しいかな…」

隊長「さすがに、厳しいね…」

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:53:02.18 ID:2v6yyusw0

あずさ「交渉ではなく、城戸さんという方にお願いしてみる、というのはどうでしょう〜」

修「……それは、難しいと思います」

遊真「おれのときもだいぶモンドームヨーだったぞ。修や迅さんがいなきゃどうなってたやら」

雪歩「うう……」


修(ぼくと空閑のときは……迅さんや林藤支部長、嵐山さんたちが橋渡しをしてくれた)

修(なにかできることはないのか、なにか――)

247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:53:41.18 ID:2v6yyusw0
 
木虎「――ま。全面降伏すれば命まではとられないでしょう」

隊長「命を取られなければいいというものではっ!」

小鳥「隊長!」

隊長「あ、ああ……すまない」

木虎「…いえ」

 
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 21:55:24.37 ID:2v6yyusw0

 バンナムの面々はそれぞれうつむき考えていたようだが、やがてひとり、またひとりと顔を上げる。

春香「私たちの負け……かな」

 春香は弱弱しく笑みを浮かべた。

千早「……………そうね」

 千早は自分の肩を片手で抱き、静かにうなずく。

やよい「あぅぅ……ごめんなさい、みなさんすっごく、なやませてしまって」

 やよいは申し訳なさそうにボーダーや生徒たちに頭を下げる。

美希「……ん。思いつかない……ね」

亜美「んぁー! せっかくヨータロたちとも仲良くなれたのにぃ!」

真美「まー……兄ちゃんを探しに行けなくなりそうなのは――ちょっち、きついけど…。いつかできるかもしれない、よね」
 
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:01:35.61 ID:2v6yyusw0

雪歩「うぅ……プロデューサーに、私たち……。でも、真ちゃんと伊織ちゃんを……」

響「……比べられるものじゃ、ない、もんね。プロデューサーや、いぬ美たちに一生会えないって決まったわけじゃないし」

貴音「今であれば、大切なものは三雲殿たちに預けることもできましょう」

あずさ「いつか、プロデューサーさんの故郷へ行って。日本の皆さんと、ボーダーの皆さんと――まぁ、お会いできましたし。夢は半分、叶ったわ〜」


修「それで、いいんですか……!」

隊長「いい訳がなかろう!!」

修「っ」

隊長「すまない。だが……、無念だよ。前隊長に…従兄(あに)に、顔向けができん」

修「…………すい、ません」

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:02:53.50 ID:2v6yyusw0

美希「――みんな、笑顔、笑顔〜」

やよい「美希さん……」

美希「うん、ボーダーやニホンの他のみんなと仲良くなれなかったのは残念だし」

美希「……どうなるのかなって。ちょっとこわいよ」

美希「でも、ハニー言ってたの。傍目に華やかでも、どんなに理想がきれいでも。うまくいかないことはいっぱいある。でも、だからこそ」


美希「そんなときこそ、笑顔を忘れるなって」

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:06:13.66 ID:2v6yyusw0
 
美希「いっぱいーっぱい、大変だったけど。そうやって、ここまできた。だから」

 すう、はあ、深く呼吸し。美希は顔いっぱいの笑みを浮かべる。

美希「だからミキ、ハニーがいなくても、もう泣かないよ」


貴音「……ええ、美希の言うとおりです」

真美「ん、そ、だった」

亜美「うつむいてちゃアイドルはできませんな!」

嵐山「……すまない」

響「嵐山さんたちのせいじゃないぞ! もっというとボーダーはなーんも悪くない!」

美希「どっちかってーと美希のせい?」

あずさ「まぁまぁ、あのときすぐ捕まるのと今捕まるのなら、今のほうがずっといいわ〜」

嵐山「……きみたちにならべく配慮してくれるようかけ合ってみるよ。迅だってほんとうはきっと…」
 
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:09:01.06 ID:2v6yyusw0
 

 何事もなかった日常に戻るだけのはずの生徒達まで、皆がうつむいていた。
 瞬く間に皆の心をつかんだアイドルたちの笑顔も、今は周囲の顔を明るくはしない。
 誰もが考え込み、そして、答えが出せずにいた。


三雲(これで、いいのか?)

三雲(なにか方法はないのか? こんな、一方的に服従させるようなやり方じゃなくて、この先に繋がるようなやり方が………)

 
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:14:06.71 ID:2v6yyusw0


 修はもう一度周囲を見た。
 修を見ながらやはり考え込む遊真を、千佳を。
 これ以上皆の表情を曇らせまいとするバンナムの面々を。
 やるせない表情で目を伏せる嵐山を、木虎を、時枝を。
 皆を。


 そして

三雲(――!)

https://www.youtube.com/watch?v=kmGMvmXhu7E&t=796s

 
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:14:37.17 ID:2v6yyusw0

三雲(……このメンバーなら、協力が得られるなら、もしかして? でも――)



遊真「――なにか浮かんだみたいだな。どうするんだ、オサム?」

千佳「オサムくん」

嵐山「三雲くん?」


三雲「…………みんなに聞いてほしい、です。普通じゃないやり方だし……それでも、もしかしたら」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:15:41.86 ID:2v6yyusw0



千早「……たしかに、それなら、けれど……」

春香「だ、ダメですよ! 私たちはともかく、そんな、オサムさんたちまで」

嵐山「……………………ほかに思い浮かぶ手も、ない、か」

やよい「あ、あの、いいんですか? えらいひとに怒られちゃうんじゃ…」

修「そうかもしれない。でもぼくは――あ、ぼくたちは」

 ドンと修の腕を叩いた遊真と、そっと腕をとった千佳に、修が言い直す。

修「できることなら、そうしたい」

春香「な、なんでそこまで……私たち、何がお返しできるかも……」

遊真「べつに気をつかうことないぞ。オレたちがそうすべきだと思ってるからだ」

千佳「だよね、修くん」

修「え、あ、ああ」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:16:14.58 ID:2v6yyusw0

春香「ミクモさん……」

修「でも――」

 目を向けられ、嵐山が首肯を返す。

嵐山「借りは返さないと落ち着かないんだ」

木虎「同じく」

時枝「やろうか」

唐沢「若いなぁ……。嫌いじゃないけどね」

 見渡す三雲に、皆が頷く。
 修は、静かにこぶしを握った。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:17:16.20 ID:2v6yyusw0


……


出穂「うー…緊張するー…アタシの役目なにげに超重要じゃないスか!? ホントに万が一なんですよね!?」

千佳「出穂ちゃん」

出穂「チカ子」

千佳「……がんばって」グ

出穂「なーんでこの期に及んでプレッシャーかけてくるかなーアンタは〜〜〜〜〜〜」

グリグリ

イタイイタイ

出穂「ま……アンタと交代なんてできないし。やれることやるしかないか」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:19:31.43 ID:2v6yyusw0

嵐山「うん、おれたちも……みんなの役割が重要だ」

木虎「佐鳥先輩はどうしましょうね……まぁ、べつになんでもいいか」

時枝「申し訳ないけど向こうは向こうに託すしかないね」


隊長「すべての準備完了だ。皆、あとは頼むよ…!」


美希「オサム! 作戦前の一言よろしくなの!」

修「ええっ、ぼくが!? 嵐山さんやそちらの誰かのほうが…」
 
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:21:08.02 ID:2v6yyusw0
 
木虎「早くしてよね」

春香「修さん」

嵐山「みんな、君の言葉を待ってる」

 視線を受け、修はゆっくりと、ツバを飲み込む。

 
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/12/17(月) 22:21:53.37 ID:2v6yyusw0

修「ぼくは……弱いです。一人じゃ、こんな状況どうにもできない。でも」

修「みんなが自分の役割を果たせば多分……いや」

修「みんなの力を合わせれば、きっとうまくいく!」

修「だから……た」


修「やりましょう!!」




「「「おおー!!!」」」



 
261 :ぱくり屋 ◆zfDCN0YmXY :2018/12/17(月) 22:22:57.98 ID:2v6yyusw0
というところで今回はここまで
今週中には終わらせたい…!
突っ込み質問感想はいつでも歓迎
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/15(火) 22:50:54.52 ID:LEJq8Iv30
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